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ズマ政権と COSATU の対立(南アフリカ) ~最近の政治動向~

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ズマ政権と COSATU の対立(南アフリカ) ~最近の政治動向~
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
2010 年 10 月 27 日
株式会社日本政策金融公庫
国際協力銀行
ロンドン駐在員事務所
ズマ政権と COSATU の対立(南アフリカ)
~最近の政治動向~
09 年 5 月 6 日に召集された国民議会で、与党 ANC1のズマ総裁が大統領に選出された。ズマ大
統領就任以前も、ムベキ元大統領との政争がみられたが、就任後も党内の勢力争いは続いている。
他方、野党第一党の民主連合(以下、DA2)は独立民主党(以下、ID)との統合を打ち出した。また、
ムベキ元大統領辞任後に、ズマ派とムベキ派の対立の中から誕生した COPE3が再度分裂の危機に
直面している。
以下では、ズマ大統領就任以降の①ANC 党内における政争、②支持基盤である COSATU との
対立、③野党連合の動向、④COPE の分裂危機、について、市場関係者、政府関係者からヒアリン
グした情報と報道を含む公表資料等をもとに報告する。
1. 各党の勢力図
まず、09 年 4 月に実施された国政選挙の結果から、各党の勢力についてみてみる。09 年 4 月 22
日、第 4 回総選挙が実施された。選挙の結果、ANC の得票率は前回(69.7%)を下回る 65.9%と、3
分の 2 には届かなかったものの、264 議席を確保し第一党となった。他方、野党第一党の DA は、
16.7%と前回(12.4%)を上回る得票率で 67 議席を獲得した。ANC から分裂した COPE は、選挙の
準備期間が短かったこともあり、得票率は 7.4%、30 議席の確保にとどまった。
南アフリカの国民議会議員は、全国区 200 名、および全国 9 州からなる地方区 200 名の合計 400
名が比例代表選挙によって選出される。なお、9 州とは、東ケープ州、自由州、ハウテン州、クワズー
ルー・ナタール州、リンポポ州(旧北部州)、ムプマランガ州、北ケープ州、ノースウエスト州、西ケー
プ州からなる。
1
2
3
アフリカ民族会議(ANC)は 1912 年に発足した南アフリカ原住民民族会議を母体として 1923 年に設立された。アパルトヘイト制度の下
で弾圧を受けて 60 年に非合法化され、指導者であったマンデラ氏は国家反逆罪で終身刑を受けた。その後、ANC は 90 年に合法化さ
れた。政治的スタンスは革新であり、南アフリカ労働組合会議(COSATU)、南アフリカ共産党(SACP)といった左派勢力と「3 者連合」を
組んでいる。07 年 12 月の ANC 党大会で、ズマ氏が党総裁に就任した。
民主連合(DA)は白人に支持者の多い革新系の政党である。アパルトヘイト政策には反対の立場をとり続けてきた。09 年 4 月の州議会
選挙で、DA が西ケープ州の第一党になったことから、党首のツィレ女史が、西ケープ州の州知事に就任した。
08 年 12 月、ムベキ氏の大統領辞任に対して不満を募らせたムベキ派議員が ANC を離党し、COPE(Congress of the People)を結成し
た。
1
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
〔図表 1〕 国民議会選挙結果
(単位:%、人)
94年4月
政党名
99年6月
04年4月
09年4月
議席数
得票率
議席数
得票率
議席数
得票率
議席数
得票率
252
62.6
266
66.4
279
69.7
264
65.9
7
1.7
38
9.6
50
12.4
67
16.7
NA
NA
NA
NA
NA
NA
30
7.4
インカタ自由党(IFP)
43
10.5
34
8.6
28
7
18
4.6
統一民主運動(UDM)
NA
NA
14
3.4
9
2.3
4
0.9
独立民主党(ID)
NA
NA
NA
NA
7
1.7
4
0.9
新国民党(NNP)(旧国民党)
82
20.4
28
6.9
7
1.7
NA
NA
アフリカ民族会議(ANC)
民主連合(DA)(旧民主党)
国民会議(COPE)
アフリカキリスト教民主党(ACDP)
2
0.5
6
1.4
6
1.6
3
0.8
自由戦線プラス(旧自由戦線)
9
2.2
3
0.8
4
0.9
4
0.4
その他
5
2.1
11
2.9
10
2.7
6
2.4
合計
400
100
400
100
400
100
400
100
有効投票数
19,533,498
15,977,142
15,612,667
17,919,966
(注)各党の名称は 09 年選挙時のもの。新国民党は 05 年に ANC に合流した。
(出所)独立選挙委員会
国民議会議員とは別に、各州に州議会、州知事が存在する。州議会議員は比例代表選挙にて選
出され、州知事は州議会が選定する。任期はそれぞれ 5 年である。
09 年の選挙では、西ケープ州において最多議席を獲得した DA のツィレ党首が州知事に就任し
た。他の 8 州では、ANC が州知事職を獲得した。
〔図表 2〕 州議会議席数
東ケープ
自由
ハウテン
クワズールー・ナタール
リンポポ(旧北部)
ムプマランガ
北ケープ
ノースウエスト
西ケープ
合計
(単位:人)
ANC
44
22
47
51
43
27
19
25
14
292
DA
6
3
16
7
2
2
4
3
22
65
COPE
9
4
6
1
4
1
5
3
3
36
IFP
0
0
1
18
0
0
0
0
0
19
ACDP
1
0
1
1
0
0
0
0
1
4
UDM
3
0
0
0
0
0
0
0
0
3
VF Plus その他 議席数 有効投票数
0
1
1
0
0
0
0
0
0
2
1
0
0
2
0
0
2
2
2
9
64
30
72
80
49
30
30
33
42
430
2,288,387
1,049,066
4,199,863
3,526,700
1,513,621
1,316,894
410,608
1,096,330
1,987,777
17,389,246
(注)選挙結果・議席数は 09 年選挙時点。
(出所)独立選挙委員会
2. ズマ政権の発足と党内外での対立
(1)ズマ政権発足前
07 年 12 月、ANC 党内で派閥抗争を繰り広げてきたムベキ大統領(当時)とズマ氏の両名は ANC
総裁選挙に出馬した。選挙の結果、ズマ氏が勝利し新総裁に就任した。その後、ムベキ大統領は、
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ズマ氏の 90 年代末の収賄容疑に関する裁判に政治的圧力をかけたとの疑いをかけられた。これに
より、ANC 党内でムベキ大統領の辞任を求める声が高まり、08 年 9 月に同大統領は辞任した。
三者連合の一翼を担う COSATU はムベキ大統領の政策に批判的であった。これは一部の黒人富
裕層がさらに富める経済社会システムを構築したからだといわれている。このため、この党内抗争に
おいては、庶民派といわれたズマ氏に加担したといわれている。
(2)ズマ政権発足後の COSATU との対立
09 年 5 月 6 日に召集された国民議会で、与党 ANC のズマ総裁が大統領に選出された。COSATU
と摩擦を起こしていたマニュエル前財務大臣は、新設の国家計画委員会委員長に就任し、当初は
大統領府内から経済政策全般を指揮するとみられた。財務大臣にはゴーダン前歳入庁長官が就任
した。また、このほかの閣僚人事では、南アフリカ共産党(SACP)書記長のヌジマンデ氏が高等教
育・訓練大臣、衣料繊維労働組合総書記長のパテル氏が経済開発大臣に任命された。このように、
ズマ大統領は左派勢力を取り込んだ内閣を組んだため、政権発足当初から、政権内の意見調整に
手間取るのではないかとの懸念があった。
COSATU は景気後退を理由に、インフレターゲティングの設定を止め、大胆な金融緩和策を実施
することを求め、インフレ抑制派で金融緩和に慎重なムボウェニ南アフリカ準備銀行総裁と対立して
きた。これに対し、ズマ大統領はムボウェニ総裁の後任に、市場や ANC のみならず、COSATU にも
信認の厚いマーカス元副総裁を充てる人事を決定、09 年 11 月 9 日に就任した。
COSATU は、9 月 16 日、経済政策運営におけるマニュエル国家計画委員会委員長への権限集
中を批判し、労働組合出身のパテル経済開発大臣の権限拡大を要求した。また、国内輸出企業の
競争力を増すための為替介入(ランド売り介入)の実施や企業収益に連動した賃金制度の導入など
を求めた。
こうした動きがある中、10 月 19 日、ズマ大統領は、マニュエル国家計画委員会委員長の権限をイ
ンフラ整備などの開発計画に集約することを決定した。この結果、パテル経済開発大臣の権限が相
対的に強まることとなった。この決定は COSATU への配慮とみられた。さらに 10 月 20 日には
COSATU と距離のあったネチテンゼ ANC 政策部長が辞任した。このように、政権内における
COSATU の勢力伸張を窺わせる一連の動きがみられることから、同政権が左傾化し、財政支出の肥
大化などがもたらされるのではないかとの懸念が広がった。
11 月 25 日、COSATU のヴァヴィ書記長は、構造的な危機状態にある経済を立て直すためには、
為替管理、金利政策、物価安定を経済政策の手段として用いるべきだと主張した。これは、「ある程
度の物価上昇を許容し、利下げするべき」という従来の COSATU の見解を改めて強調したものであ
った。また、COSATU の主張を受け入れない準備銀行の権限縮小も求めた。これに対し、ゴーダン
財務大臣は翌 26 日、「インフレターゲティングは物価上昇を抑制する唯一の手段」とし、準備銀行を
擁護した。しかし、COSATU のマリカネ政策局長は、「低金利とランド安に誘導するために、準備銀
行は紙幣増刷に踏み切るべき」と反論した。さらに、パテル経済開発大臣は、12 月 3 日、産業政策の
観点から、為替介入すべきだと発言したものの、マーカス総裁は「準備銀行は、ランドの価値に影響
を与えるような為替介入をするべきではない」と明確に否定した。
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(3)10 年入り後 COSATU の政権批判は先鋭化
10 年 1 月 27 日、ズマ大統領は 09 年 6 月に掲げた雇用目標(09 年中に 50 万人の雇用創出)を
達成できなかったことを正式に認めた。COSATU は雇用目標が達成されなかったことに批判を強め
た。2 月 10 日に、COSATU はズマ大統領に対し、ズマ政権の閣僚や上級官僚の資産公開を要求す
るなど、政府関係者と一般国民の間の不平等を糾そうとした。
ズマ大統領は、2 月 11 日、施政方針演説を行った。これに対し、COSATU は、政府部門での雇用
拡大、社会給付金の拡充などの政策を評価する一方で、深刻化する雇用環境などに対する対策が
不十分と批判した。
5 月 7 日に開催された世界経済フォーラムにおいて、デイビス貿易産業大臣が「変動幅が小さく、
国際競争力のあるランド相場になるようなメカニズムを追求するべき」と固定相場制への移行を窺わ
せる発言をした。これに続き、週が明けた 5 月 10 日、主要な労働組合が、「国際競争力のある安定し
たランド相場にするための為替介入」を求める共同声明を発表した。COSATU のヴァヴィ書記長は、
「国内製造業が海外の同業他社と対等に競争するためには、競争力のある為替水準でなければな
らない。また、積極的な設備投資を誘発するために、さらなる利下げが必要とされている」とし、政府・
準備銀行の姿勢を批判した。
ゴーダン財務大臣は 7 月 12 日、インフレターゲティングの継続の必要性に関する書簡を国会に提
出した。ゴーダン財務大臣は「インフレターゲティングは、市場の信用維持に貢献しており、世界的
な金融危機時においても投資家から信頼を得、準備銀行はその金融危機に柔軟に対応することが
できた」とした。また、変動相場制についても、「変動相場制は経済ショックに対するバッファーとして
の役割を果たすとともに、金利変動のボラティリティの軽減にも寄与する」として、固定相場制移行の
期待を一蹴した。
他方、マーカス準備銀行総裁は、COSATU の「インフレターゲティングを廃止し、物価を上昇させ
るべき」との主張に対し、物価上昇は低所得者層には厳しいとした。また、固定相場制への移行につ
いては「準備銀行は変動相場制を支持し、特定の水準へのランド誘導はしない」と強調した。
準備銀行、財務省とも従来から、COSATU の要求する為替介入には否定的だが、ランドのボラテ
ィリティが大きいことについては懸念を表明している。これに関連し、8 月 2 日、トービン税の導入も含
めて、ランドのボラティリティを抑制する手法を検討していく必要性がある旨の発言が財務省からあっ
た。しかし、こうした為替政策はメリット・デメリットがあること、とくに貯蓄率の低い南アフリカにおいて
急に資本流入規制を導入することは市場の信用を失うとの懸念もあわせて表明していることに、市場
関係者の間では安心感が広がった。9 月 7 日、クガニャゴ財務次官は「トービン税には経済的センス
を感じない」として、トービン税導入について否定的なコメントをした。
他方、COSATU のヴァヴィ書記長は、従来の政府・準備銀行の政策に対する批判に加え、シセカ
協調統治・伝統業務大臣の経歴詐称やニヤンダ通信大臣の公費乱用を厳しく追及するなど政府批
判を強めており、ANC からはヴァヴィ書記長に対する非難や懲罰を求める声が高まった。こうした
ANC の姿勢に対する COSATU の反発が強かったこともあり、8 月初旬にはヴァヴィ書記長に対する
懲罰を求める声は沈静化した。9 月に入ると、COSATU は、インフレターゲティングの廃止やランド安
誘導など、従来の COSATU の見解を一層声高に改めて主張するようになった。
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9 月 14 日、COSATU は経済政策に関するディスカッションペーパー4を公表した。この中には、①
インフレターゲティングの撤廃、②富裕層に対する課税強化、③国内上位 10%の企業の利益に対
するキャップ制の導入と下位 10%の企業を支援するための連帯税の導入、④金融政策の目的に通
貨統制を盛り込むこと、⑤鉱業など有力産業の国有化、⑥雇用ターゲットの新設、などが盛り込まれ
た。市場関係者の間では、これらの主張は全て COSATU が従来から繰り返しているものばかりであり、
このような反マーケット・フレンドリーな政策を当局が採用することはないとの安心感から材料視され
なかった。
9 月 16 日、モトランテ副大統領は、「通貨ランドの上昇を抑えるために、海外からの資金流入に対
して何らかの税金をかけることはない」と、資本規制導入を求める声を一蹴した。また、同日、ゴーダ
ン財務大臣も、「財務省は、投機目的の短期的な通貨取引を抑制するための税制を導入した国の
現況を注視している。しかし、ブラジルのトービン税に効果があったとは考えていない」とし、トービン
税の導入について否定した。
9 月 20 日、ANC はダーバンで党大会を開催した。オープニング・スピーチで、ズマ大統領は「財政
政策も金融政策も適切に実施されている」と評価し、「物価を統制するために経済政策運営が実施さ
れれば、経済における効率性が向上する」、「ランドは(経済活動が効率化すれば、)国際競争力の
ある安定的な通貨になる」と強調した。また、ANC 党大会の直前に COSATU がディスカッション・ペ
ーパーを公表したことについて、「今回の党大会は新しい政策について議論する場ではなく、これま
での ANC の実績を検証する場だ」と発言し、COSATU に冷や水を浴びせた。
10 月 14 日、半年に一度開催される金融政策フォーラムにおいて、マーカス準備銀行総裁は「足
許のランド高は、莫大な資本流入だけが原因ではなく、米ドルの弱さにも起因している。また、通貨
高は南アフリカに限ったものではなく、新興国共通の問題である」とした。また、「ランド高であったが
ゆえに、これまで政策金利の引下げを断行できた」とし、「準備銀行は特定のランド水準を目指した
金融政策運営を実施しておらず、準備銀行の裁量はインフレターゲティングに集約される」と改めて
強調した。さらに、「準備銀行の目標は、常に経済成長を達成しうるマクロ経済環境を作り出すことに
ある」、「金融政策の枠組み、手法、インフレターゲティングのレンジは財務省や政府に委ねられてお
り、準備銀行が決めるものではない」、「国民は、経済問題の解決や経済成長促進のツールとして、
金融政策のみを頼るべきではない。それらの目的のためには他の手段・政策が用意されるべきであ
る」とした。これは、COSATU などが、金融政策や為替政策について、準備銀行の責任を問うことに
対する反論と受け止められた。
10 月 15 日、クガニャゴ財務次官は、資本流入規制によるランド安誘導について、「そのような政策
は、資本の海外逃避を防止するという、これまでの政策の歴史と相容れない」、「ブラジルで導入され
た税制は限られた成功に終わった」として、改めて資本流入規制の導入を否定した。さらに、「究極
的に言えば、輸出の国際競争力強化をランド相場だけに頼るのではなく、生産性の向上に寄与する
幅広い政策に見出すべきだ」とした。
週が明けた 10 月 18 日には、準備銀行のムニヤンデ・チーフエコノミストも、金融政策の万能論を
否定し、マーカス総裁の説く「金融政策は経済問題の特効薬(Silver bullet)ではない」という論調に
同意した。また、マーカス総裁は 10 月 19 日に、「ランド高の解決策は明白ではなく、ブラジルの資本
4
当該ディスカッションペーパーは、9 月 20 日から 24 日に開催された与党 ANC の党大会を意識したものであった、といわれている。
5
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流入規制の効果も短期間でなくなるだろう」とし、15 日のクガニャゴ財務次官の発言を肯定した。
(4)マレマの暴走
マレマ氏は ANC 青年同盟(Youth League)の総裁で、35 歳以下の ANC サポーターを代表してい
る。そのマレマ総裁の言動が党内確執や SACP との同盟関係に亀裂を生じさせた。1 月 9 日、マレマ
総裁が、SACP 代表でもあるヌジマンデ高等教育・訓練大臣に対する批判を強めていることが報じら
れた。その後もゴーダン財務大臣、マンタシェ ANC 幹事長に対する批判を繰り返し、ゴーダン財務
大臣の罷免を要求するまでにいたった。
3 月 12 日から開催された ANC の全国執行役員会では、マレマ総裁ほか公人の公の場での暴言、
個人への侮蔑に対する規律についても議論された。マレマ総裁が白人差別発言や白人の殺人を促
す歌を公の場で歌った行為が「マレマ・モノローグ」と報じられた。3 月 26 日、同行為に対して高等裁
判所は違憲判決を下した。こうした動きがある中、4 月 3 日、白人至上主義者でアフリカーナー抵抗
運動党(AWB)のテレブランシュ党首が黒人青年によって撲殺された。この事件は、マレマ・モノロー
グとの関係で報じられ、ズマ大統領自らが、人種間対立の沈静化に乗り出す事態となった。マレマ総
裁はその後も閣僚批判、白人差別発言を繰り返したため、4 月 15 日、ANC 懲罰委員会が発足した。
5 月 11 日に懲罰委員会はマレマ総裁に対し、11,000 ランドの罰金の支払い等を命じた。
他方、ANC 青年同盟の内部においても、マレマ総裁支持派と反マレマ派の間で勢力争いが勃発
した。8 月 3 日にマンタシェ幹事長が党として事態の沈静化に努めると発表し、モトランテ副大統領が
仲裁することになった。
そもそもマレマ総裁は 29 歳と若く、奇抜な発言をして注目を集めることで ANC 青年同盟の発言力
を高めようとしているといわれている。マレマ総裁の奇行・暴言に対して、当地有識者の一人は、「マ
レマ総裁は極貧層や教育を受けていない層に対して、過激なことを訴えることで存在感を高めてい
る。結果として、一部の急進的な黒人勢力の白人に対する敵対心を煽っている」と懸念していた。
しかし、最近ではマレマ総裁に対する評価も二分してきている。マレマ総裁の主張が、一部の黒
人富裕層に対する強烈な批判である点に注目し、「よく聞いてみると、白人差別だけではなく、ムベ
キ大統領時代から続く、黒人富裕層と黒人低所得者層、貧困層の二極化を批判するものもあり、最
近ではマレマ総裁の理解者が増加している」との指摘もある。また、全国で発生しているストライキが
外国企業等に深刻な影響を与えているものの、国内政治には全く影響を与えていないことから、こう
したストライキよりも、マレマ総裁の奇行を賞賛する声も出始めている。とくに、ダーバンでの ANC 党
大会において、マレマ総裁以外に異を唱える政治家がいなかったことで、国内政治を憂える声も出
ている。
3. 野党の動向
(1)COPE の内部対立
08 年 12 月、ムベキ大統領の辞任、すなわちズマ派が党内抗争に勝利したことに対して不満を募
らせたムベキ派議員が ANC を離党し、新党 COPE を結成した。党首にはレコタ元国防大臣が就任し
た。しかし、結党後最初の選挙となった 09 年 4 月の国政選挙では先述のように十分な議席を獲得で
6
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きず、惨敗した。
党内抗争をきっかけとして誕生した政党であったためか、少数政党であるにもかかわらず、COPE
内の勢力争いが日増しに強くなっていった。10 年 5 月 28 日から 3 日間にわたり、COPE 結成後初の
党大会が実施された。レコタ党首とシロワ副党首の対立は、党大会で沸点に達し、シロワ派はレコタ
党首の不信任決議案を提出・可決した。6 月 6 日、ヨハネスブルグ高等裁判所は、レコタ党首に対す
る不信任決議そのものが違法であるとの判決を下した。こうした党内抗争に辟易したダンダラ COPE
議員会長は 7 月 15 日に当職を辞任した。これを受け、レコタ党首が議員会長を兼務することとなっ
た。しかし、これがシロワ派を刺激し、党内抗争が再燃しており、再度分裂の危機に直面している。
(2) DA と ID の統合と選挙協力の失敗
10 年 7 月 25 日、DA の党大会が開かれ、ID のリル党首が招待された。ここでリル党首が ID と DA
の統合を示唆した。8 月 14 日、ID のリル党首と DA のツィレ党首が 14 年までに両党が統合すること
で合意した旨を発表した。将来的には、与党 ANC に対抗できる野党連合とするため、COPE などに
も統合を呼びかけるのではないかといわれている。
こうした動きがある中、10 月 6 日に西ケープ州で、両党の統合発表後初の地方選挙が実施された。
前述のように西ケープ州は DA が州議会で過半数を占め、州知事も DA のツィレ女史が務めている。
これに ID の組織票が加わるため、DA の候補者が圧倒的に有利とみられていた。しかし、結果は、
Freddie Hintza 氏(DA)が 988 票に対し、Gordon April 氏(ANC)が 1,161 票で ANC の勝利に終わ
った。もう一方の選挙区においても、Jacobus Piedt 氏(DA)が 719 票に対し、Jurie Harmse 氏(ANC)
が 810 票で ANC が勝利し、ID と DA の選挙協力は失敗に終わった5。
このように、DA と ID の統合が票の統合に結びついておらず、組織内の権力争いが ANC を利する
ケースもあり、今後に課題を残した。
4. 今後の政治動向
(1)ズマ大統領の評価
ズマ大統領には狂信的な支持者が多く、強姦や汚職、婚外子の存在など反道徳的なことが発覚
しても支持を失っていない。「ズマ大統領自身が政策通でないことは周知の事実である。人気はあっ
ても、政策を期待されていないため、政策の失敗による失脚はありえない」、「マンデラ大統領は黒人
を解放した。ムベキ大統領は経済成長をもたらした。ズマ大統領は白人との協調路線を他国にアピ
ールできれば大統領一期目の役割は十分果たしたことになる」ともいわれていた。有力な後継者が
いないこともあり、政権発足から1年半にして早くもズマ大統領は 2 期続けるとの声が出ていた(制度
上 3 期目はない)。
(2) ズマ ANC 総裁の後継問題と今後
ズマ大統領は最近、「大統領 2 期目に対する関心はない」と発言したといわれている。そのため、
党内において勢力争いが勃発するとの懸念がある。今のところ ANC 党内には、マレマ青年同盟総
5
ただし、この結果について、DA と ANC の政党間争いというよりも、ANC 候補者の知名度が高かったが故の勝利との分析もある。
7
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裁以外に、表立ってズマ政権を批判する声はあがっていない。市場関係者等にズマ ANC 総裁の後
継について尋ねてみたところ、トーキョー・セクワレ氏とシリル・ラマポーザ氏、マニュエル国家計画委
員会委員長、モトランテ副大統領の名前が挙がった。
トーキョー・セクワレ氏は BEE 政策で富裕層の仲間入りをしたといわれ、貧困層からの評判が悪い
ものの、その財力を活かした総裁選を展開できるといわれている。シリル・ラマポーザ氏は ANC 政策
部長を務め、10 年 4 月に大統領府国家計画委員会の委員に就任している。しかし、マニュエル委員
長とともに、「時代の波に乗っただけで無策」といわれており、支持は知識層に限られているともいわ
れている。他方、モトランテ副大統領は党内穏健派として調整能力に長けており、権力欲もないとい
われている。最近は青年同盟の混乱の仲裁に入るなど存在感を高めている。
とはいえ、どの候補者も決め手に欠いているといわれており、党内抗争の激化による第二の
COPE 誕生を避けたいとの声もある。そのため、一部にはラミーニ・ズマ女史(現内務大臣)を総裁に
するという案もあるという。これは野党第一党 DA の党首であるツィレ女史による女性票獲得に対抗す
るとの意図もあるらしい。いずれにせよ、決め手の無いズマ総裁後継問題も含めて、与党 ANC の動
向に注目が集まっている。なお、ANC 総裁選挙は 12 年に予定されており、大統領の任期は 14 年ま
でであることから、ズマ大統領が総裁選挙出馬を辞退した場合、総裁・大統領分離という事態にな
る。
ズマ政権は発足当初から、政権運営において左派勢力との政策調整に懸念があった。ワールド
カップが成功裏に終わり、経済に回復の兆しがみえ始めた現在も、COSATU の政権批判や党内抗
争が続いており、ズマ大統領は引き続き厳しい政策運営を迫られている。
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