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平成11年度(PDF:64.7KB)

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平成11年度(PDF:64.7KB)
Ⅲ-2 生活環 境中の汚染 物 質の暴 露 量の把 握 に関 す る 研究
代表者:内 山 巌雄
Ⅲ-2-(1) 粒子状物質の 健 康影 響評価 モデルの作 成 に 関する研 究
1 研究従事者
○小林 隆弘(国 立環境 研 究所 環境健 康部), 平野 靖史 郎 (国 立環境研 究 所 地 域環境 研究
グループ),樺 島 麻里子( 筑 波大学 バイ オシステ ム 科)
2 平成 11 年度の研究目 的
大気中に は窒素酸 化物, 粒 子状物 質,有 害大気汚 染 物質, 生物由 来の物質 な ど多数 の物質 が含
まれている .特定地 域の大 気 環境全 体が気 管支喘息 , 花粉症 などの アレルギ ー 疾患や 気管支 炎等
の発症・増 悪にどの ような 影 響を及 ぼすか を総合的 に 評価す ること が求めら れ ている .この ため,
一定の精度 を持ち, 簡便か つ 迅速な 影響評 価手法と そ れを用 いたモ ニタリン グ システ ムの開 発と
包括的な影 響指標の 開発が 必 要とさ れる. 本研究は 粒 子状物 質を中 心にこれ ら の発症 および 症状
への影響を 予測,評 価する た めのモ デルを どのよう に 作成し ,健康 影響モニ タ リング システ ムに
導入するか について 検討す る .
気道の炎症 は気道過 敏性, 抗 体産生 の亢進 ,アレル ギ ー反応 の増悪 など,気 道 の疾患 の重要 な要
因である. 本研究は この気 道 の炎症 に焦点 を当 て, 粒 子状物 質 が気 道の炎症 を 起こす かいな かを
どのような 手法を用 いると 簡 便ある いは包 括的に評 価 できる か検討 すること を 目的と する.
主 に 東 京 の 中 心 部 で 捕 集 さ れ た 都 市 大 気 粒 子 の影 響 に つ い て 以 下 の 2 項目 に つ い て , 平 成 11
年度は(2 )に重点 をおい た 研究を 行った 。
(1)簡便 な影響評 価方法 と しては 東京の 中心部で 捕 集され た都市 大気粒子 の 皮内お よび気 道に
おける血管 透過性の 亢進に つ いて検 討しこ れまで行 っ てきた 粒子状 物質の皮 内 および 気道に おけ
る血管透過 性の亢進 と関係 に ついて 検討し た.
(2)前年 度、繊維 状粒子 状 物質に 暴露し た肺胞マ クロフ ァ ー ジに おいて特 異 的に krox-20/egr-2
の遺伝子発 現量が増 加する こ とを、デファ レンシャ ル-デス プ レ イ法を用 いて 見 いだして いるが、
今年度は東 京の中心 部で捕 集 された 都市大 気粒子や ア スベス トに暴 露した肺 胞 マクロ ファー ジに
おける krox-20/egr-2 の遺 伝子の発 現につ いて検討 し た.
3 平成 11 年度の研究の 対 象及 び方法
動物
6 週から 8 週令の雄性 SD ラ ット(日 本ク レア)を血 管 透 過性 および炎 症細胞 の 浸潤と 肺胞マク ロ
ファージの 遺伝子発 現の検 討 に用い た.
細胞
8 週令の雄性 SD ラット から 得た肺胞 マク ロ ファー ジ を、遺 伝子発現 の実験 に 用いた .ネンブ タ
ール麻酔下 にラット を脱血 死 せしめ ,気管 支肺胞洗 滌 を行う ことに より肺胞 マ クロフ ァージ を取
り出した. 10% の非働 化 牛胎児 血清を 添加した RPMI1640 培地 で マク ロフ ァ ージを洗 浄した後,
同じ組成の 培地に1 x106 cells/ml と なるよ うに懸 濁 し、実 験に用い た.
試薬および 粒子状物 質
皮内および 気管内投 与の血 管 透過性 の検討 に用いた 硫 酸銅は 和光純 薬製を使 用 した. また粒 子状
物質は東京 目黒区に ある国 立 公衆衛 生院の 屋上にお い て電気 集塵器 で捕集し た もの( 後藤純 雄先
生より供与 )を使用 した. 肺 胞マク ロファ ージを用 い た遺伝 子発現 レベルの 検 討は陰 性対照 用と
してチタン 工業社か ら頂い た 微小酸 化チタ ン粒子(STT-65C, 平均 粒 径 0.059 µm, S-TiO2),なら
びに繊維状 物質研究 会(JFM)か ら提供 された繊維 状 酸 化チタン 粒子(TO1, 平均繊 維 長 2.1 µm, 平
均幅 0.14 µm, F-TiO2) を摂氏 250 度で 2時間 加熱 し, エンドト キシン を除 去し た後用い た.都
市大気粒子 は、前述 の国立 公 衆衛生 院屋上 において 電 気集塵 器で捕 集したも の をオー トクレ ーブ
で滅菌した 後用いた . ま た ,陽性 対照用 として UICC のア ス ベ スト標品 であ る クロシド ライトを
同様に乾熱 処理した 後用い た .これ らの粒 子状物質 は 、培地 に懸濁 し、使用 前 には超 音波に より
良く分散さ せた後、 細胞に 添 加した 。
実験-1. 血管透過 性
皮内反応
ラットを ネンブタ ール麻 酔 下背部 の毛を 刈り,10, 3, 1, 0.3 mg/ml になる よ う 0.9%NaCl 水溶
液に懸濁さ せた都市 大気粒 子 を皮内 に 100ml 投 与 し た .投与 後大腿 静脈より ,3%エバン ズ ブ ル 生理食塩水 溶液を投 与し,30 分 後腹部 大動静 脈より 放 血致死 後,皮を 採取し ,各スポ ットに分 割
後ホルムア ミド 5ml に皮膚 片を浸し ,60°C に て 48 時間 放 置 し ,色素 を抽出 し た.620 nm におけ
る吸光度を 測定し血 管透過 性 の指標 とした .
気管内投 与
ラットを ネンブタ ール麻 酔 下,気 管に挿 管し,10mg/ml にな る よ う生理食 塩 水に 懸濁させ た 都
市大気粒子 を気管内 に 200ml/250g 体 重と なるよう に 投与 した.投 与後,人 工 呼吸 器に接続 し 1.5ml
/ 回,70 回 / 分となるよ う に換 気を行っ た.人工 呼 吸器 に接続後 ただちに 2%エバン ズ -ブルー を
大腿静脈よ り投与し 、投与 1 時間後 に腹部 大動静脈 よ りラットを 放 血 致死さ せ た.肺 は還流 後採
取した. 肺をホルムアミ ド 5ml に浸し ,60°C にて 48 時間 放 置 し , 色素を 抽 出し た.620 nm に
おける吸光 度を測定 し気管 の 血管透 過性の 指標とし た .
実験-2. 粒子状物 質に暴 露 した肺 胞マク ロファー ジ の krox-20/egr-2 遺伝子 発 現
無処理ラ ットから 得た肺 胞 マクロ ファー ジを RPMI1640 培地 で 20 時間 培養 し ,100 mg/ml の濃
度の S-TiO2,都市大 気粒 子、F-TiO2、あるい はクロ シ ドライ ト存在下 ,ある い は非存 在下でさ ら
に 3 時間培養した後 ,RNA を 抽出 した. 抽 出した RNA を, ホ ルマ リン変性 ア ガロ ースゲル 電気
泳動で RNA を分離した後ナ イ ロンメ ンブレ ンに転写 し ,[32P] dCTP を用 いて 放 射化ラ ベルした 遺
伝子(krox 20/egr-2)を プ ロー ブとし てノ ーザン ハ イ ブリ ダイ ゼーショ ンを 行 った.cDNA プロ
ーブは krox 20/egr-2 をク ローニン グした pBluescript ベク タ ーを 、XhoI 制限酵 素 で 限 定分解 し、
得られたフ ラグメン トをア ガ ロース ゲルか ら精製し て 用いた 。ナイ ロンメン ブ レンを 洗浄し ,ラ
ジオアイソ トープの 非特異 的 吸着を 除去し た後,バ イ オイメ ージアナラ イザ ーBAS2000 でマク ロ
ファージに おける krox-20/egr-2 の 遺伝子 発現を解 析 した. ナイ ロンメン ブ レンよ りスト リッ
ピングバッ ファーを 用いて 放 射ラベ ルされ たプロー ブ を除去 した後 ,同様に 放 射化し たラッ トの
アクチン cDNA をプローブ として リハイ ブリダイゼ ー シ ョンを行 い,アク チン の 遺伝子発 現量をイ
メジアナラ イザーで 解析し た .krox-20/egr-2 の遺 伝 子発 現量をア クチンの 遺 伝子 発現量で 除 す
ることによ り,krox-20/egr-2 の 発現量を 規格化し た . また 、200、500、1000、2000 µg/ml の
濃度の都市 大気粒子 に暴露 し た肺胞 マクロ ファージ か ら、RNA を抽 出 して同 様 の実 験を行っ た。
統計処理
S-TiO2, 都 市 大 気 粒 子 、 F-TiO2、 あ る い は ク ロ シ ド ラ イ ト に 暴 露 し た 群 、 あ る い は 対 照 群 と の
krox-20/egr-2 発 現 量 の 変 化 に つ い て は 一 元 分 散 分 析 を 行 い 、 各 群 間 に お け る 統 計 的 有 意 差 は
Bonferroni のポスト ホッ ク処 理を行い 求めた 。
4 平成 11 年度の研究成 果
実験-1.血管透過性
皮内反応
ラットの 皮内への 都市大 気 粒子の 投与(100ml)によ る 血 管透過 性(色素 の漏 出 )は投与濃度 と の
間によい直 線関係が 見られ た (図1 ).
皮内反応 と気管内 投与に よ る血管 透過性 誘起の相 関
皮内反応 と気管内 投与に よ る血管 透過性 誘起の相 関 をこれ までに 行われた の 結果も 併せて 検討
した.皮内 反応と気 管内投 与 による 血管透 過性誘起 の 間に高 い正の 相関が見 い 出され た(図 2).
実験-2.肺胞マクロ ファー ジ におけ る krox-20/egr-2 の遺 伝 子 発現
図3に、100 mg/ml の濃 度の S-TiO2,都 市大気粒 子 、F-TiO2、あ る いはク ロ シドラ イトに 3 時
間暴露した 肺胞マク ロファ ー ジにお ける krox-20/egr-2 の発 現 量 ( アクチン の 遺伝子 発現量 で規
格化)を示 した。都 市大気 粒 子を暴 露した 群では、対 照群や S-TiO2 暴露 群に 比 べやや上 昇してい
たものの有 意な変化 は見ら れ なかっ た.こ れに対し 、繊維状 の酸化 チタン粒 子 である F-TiO2 を暴
露した肺胞 マクロフ ァージ に おいて は、他 のすべて の 群に対 し有意 に krox-20/egr-2 の発現 量 が
上昇してい た.クロ シドラ イ トを暴 露した 肺胞マク ロ ファー ジにお ける krox-20/egr-2 の発現 量
も対照群や S-TiO2 暴露群 に比べ 有意に 上昇してい た が 、クロシ ドライト より 細 胞毒性が低い FTiO2 に比べると krox-20/egr-2 の 発現 量は有 意に低 下 してい た.図4 に、200、500、100 0、2000
µg/ml の濃度の都市大気 粒 子に 暴露した 肺胞マ クロ ファ ージにお ける krox-20/egr-2 の発現 量 を
示した。高 濃度粒子 の暴露 で はある が、都 市大気粒 子 の用量 依存的 に krox-20/egr-2 の発現 量 が
上昇してい た。
5 考察
東京で集 められた 粒子状 物 質の皮 内反応 における 血 管透過 性を検 討し,濃 度 に依存 し直線 的に
血管透過性 を上げる ことが 見 いださ れた. 同じ都市 大 気粒子 を気管 内に投与した 場 合 も 血管 透過
性をあげる ことが見 いださ れ た.皮 内反応 と気管内 投 与によ る反応 の相関は 高 い濃度 におい ては
非常に良い 相関が観 察され た .この ことは ,皮内反 応 で気管 内投与 における 血 管透過 性を予 測し
うる可能性 が示唆さ れる. ま た,都 市大気 粒子の血 管 透過性 惹起は ディーゼ ル 粒子よ りも低 いこ
とが観察さ れた.
今回の実験 で,繊維 状の酸 化 チタン である F-TiO2 を暴 露 した肺 胞マクロ ファ ー ジでは,他の粒子
を貪食した 肺胞マク ロファ ー ジ比べ 、krox-20/egr-2 の発 現 量 が有 意に高い こ とが 分かった . こ
れらの粒子 の中でも 細胞毒 性が 最も 高いク ロシドラ イ トを暴 露した 肺胞マク ロ ファー ジにお いて
は、やはり 他の微小 粒子に 比 べ krox-20/egr-2 の発 現 量 が高 いもの の、F-TiO2 に比べ る と krox20/egr-2 の発現量は 低下 して いた.こ れらの ことは 、肺胞マ クロファ ージに お ける krox-20/egr-2
は細胞毒性 よりも、 むしろ 粒 子状物 質の形 状に依存 し て発現 してい ると推定 さ れ、繊 維状粒 子状
物質の暴露 指標とし て有用 で あるも のと考 えられる . 東京 の都心 部で採取 さ れた粒 子状物 質を
暴露した肺胞マクロファージと、他の粒子状物質を暴露した肺胞マクロファー ジとにおいて
krox-20/egr-2 の発現の比 較 した ところ、陰性対照 と して 用いた S-TiO2 より高 い 発 現 が見られ 、
また陽性対 照として 行った ク ロシド ライト や F-TiO2 より 低 いと いう、予 想通 り の結果が 得られた.
また、都市 大気粒子 を暴露 し た肺胞 マクロ ファージ で は、用 量依存 的に krox-20/egr-2 の発現 量
の上昇が観 察され、 粒子状 物 質の暴 露指標 として用 い ること が可能 であると 考 えられ る。
6 今後の 課題
簡便な影 響評価方 法とし て の皮内 反応に おける血 管 透過性 が気管 内投与の 指 標にな りうる こと
が示唆され た.さら に鋭敏 な 指標や 機構の 検討をす る 必要が ある. また,今 回 ,実際 の都市 大気
中で捕集し た粒子状 物質を 用 いた検 討を行 ったが, 粒 子状物 質の粒 径による 成 分の違 いと影 響の
関係などに ついても 検討を し ていく ことが 必要.
粒子状物 質に暴露 した肺 胞 マクロ ファー ジにおい て ,krox-20/egr-2 の遺伝 子 発 現 が粒子 の 形
状を反映し た毒性指 標とし て 用いる ことが 可能であ る ことを 示した .近年、炎 症等に 関する cDNA
アレーが開 発され、 遺伝子 の 発現パ ターン を一度に 解 析する ことが 可能とな っ た.こ の方法 では
新しい遺伝 子の発現 を調べ る ことは で きな いものの 、ゲノム が次々 と明らか に されて ゆく過 程で、
ほとんどの 遺伝子に ついて 発 現量を 調べる ことが可 能 になる ものと 期待され る 。今後 は、cDNA ア
レーを用い て、粒子 状物質 に 暴露し た肺胞 マクロフ ァ ージや 肺の上 皮細胞に お ける、 他の遺 伝子
の発現パタ ーンも合 わせて 明 らかに してゆ く必要が あ る。
7 社会的 貢献
都市の微 小粒子の 健康影 響 につい て,粒 子の性状 の 違いに より分 類するこ と は毒性 評価の 観点
から重要な 課題であ る.簡 便 かつ迅 速な影 響評価手 法 の可能 性を追 求するこ と により ,大気 環境
の汚染の危 険性をい ち早く 知 ることが 可 能 になるこ と は予防 的観点 からも重 要 と考え られる .さ
らに簡便か つ鋭敏な 手法の 開 発が求 められ ていると 考 えられ る.米 国が微小 粒 子(PM2.5)に関 す
る環境基準 を定めた ことか ら 、これ まで浮 遊粒子状 物 質の環 境基準 しか定め て いなか ったわ が国
においても 、微小粒 子状物 質 の生体 影響に 関する研 究 の必要 性が強 調されて い る.し かし、 アス
ベストやア スベスト の代替 品 として 用いら れている チ タンウ ィスカ ーなど粒 子 の形状 に関す る研
究報告に関 しては希 薄であ る といえ る。本 研究課題 に おいて は、前 年度まで に 、微小 酸化チ タン
と繊維状酸 化チタン に暴露 し た肺胞 マクロ ファージ に おいて 、発現 量の差の 大 きい遺 伝子を スク
リーニング して krox-20/egr-2 が 粒 子の形 状、特に 繊 維状粒 子を認 識して強 く 発現す ること を見
いだしてい る。本年 度は、 こ の krox-20/egr-2 の遺 伝 子 発現 量を指 標として 、 実際都 市大気 中に
存在する粒 子状物質 の評価 を 行った .本遺 伝子の発 現 が生理 学的、 あるいは 病 理学的 にどの よう
な意味があ るか今のところ定かではないが 、この遺 伝子産物が転写因子として働くことから 、
krox-20/egr-2 の遺伝子発 現 量の 増大は、その後の 細 胞の 機能に影 響してく るものと 考 え ら れる.
ここで示し たように 、krox-20/egr-2 の 遺 伝子発現 量 は、 都市大気 粒子に対 し 用量 依存的に 上 昇
することか ら、粒子 状物質 の 影響指 標とし て用いる こ とが可 能であ る。
8 3 年間のまと め
簡便な影 響評価手 法では , 各種の 粒子状 物質(デ ィ ーゼル 粒子, 酸化チタ ン ,硫酸 アンモ ニウ
ム等)およ び刺激性 物質( ホ ルムア ルデヒ ド)によ る 皮内, および 気道にお け る血管 透過性 の亢
進とそれら の相関の 検討を 行 い,投 与濃度 と血管透 過 性の間 によい 直線関係 が 見られ た.ま た,
皮内反応と 気管内投 与によ る 血管透 過性誘 起の相関 を検討 し た .皮 内反応と 気 管内投 与によ る血
管透過性の 反応は高 い濃度 に おいて は良い 相関が観 察 された .この ことは, 多 くの試 料を一 度に
試験するこ とが可能 な皮内 反 応で気 管内投 与におけ る 血管透 過性を 予測しう る 可能性 が示唆 され
た.このよ うな簡便 な影響 評 価手法 の開発 や限界を 明 らかに するこ とにより 迅 速な影 響の一 次ス
クリーニン グが可能 になる も のと考 えられ る.
包括的な 影響指標 の開発 で は、ラ ット肺 胞マクロ フ ァージ におい て粒子状 物 質を作 用させ たと
きの反応に 関わる遺 伝子の メ ッセー ジ全体 の解析を 例 に検討 した.繊維状 TiO2 を暴露 し た 際に特
異的に強く 発現する mRNA が ある ことを 見いだした .ま た,強く 発現する mRNA をクロ ー ニ ン グし、
これが krox-20/egr-2 であ ることを 明らか にした. ま た、ノ ーザン ハイブリ ダ イゼイ ション 法を
用いて本遺 伝子発現 の経時 変 化を調 べたと ころ,肺 胞 マクロ ファー ジにおけ る krox-20/egr-2 の
発現量は,繊維状 TiO2 暴露開始 8 時 間 後まで増加 し て いること が観察さ れた .また、krox-20/egr-2
の発現は都 市大気粒 子を暴 露 した群 では繊 維状 TiO2 ほど の 上昇 が見られ なか っ たが、用 量依存的
に発現上昇 が見られ ること を 明らか にした .このよ う に遺伝 子のメ ッセージ 全 体を解 析する こと
によりどの ような反 応がど の ような 時点で 発現する か などが 明らか になるも の と思わ れる。
Ⅲ-2-(2) 汚染物質の肺 内 沈着 ・吸収 量と曝露量 と の 関連に関 する研究
1.研究 従事者
○ 嵐谷 奎一 、保利 一、ニ 渡 了、 吉川 正博、石 松 維世 、石田 尾 徹
(産業医 科大学産 業保健 学 部)
加藤 貴彦 (宮崎 医 科大学 公衆衛 生学)
西村 正治 、辻野 一三( 北海道 大学医学 部 第一内 科)
2.目的
近年、先 進諸国に おいて 、 呼吸器系 疾 患 の発症の 増 加は社 会的に も強い関 心 が示さ れて来 てい
る。呼吸器 系疾患発 病は、浮 遊粒子 状物質・揮発性 有 機化合 物・NOx・SOx などの 物 質 が 複雑に 係
り、また呼 吸器系へ のこれ ら の物質 の侵入 、蓄積に 深 く関係 すると 考えられ る 。そこ で、本 研究
は①ヒト肺 内の元素 含量と そ の他の 沈着成 分量との 関 係、② ヒト肺 内の沈着 成 分量と 生活習 慣、
疾患との関 係、③NO2・揮 発性有 機化合 物の個人曝 露 濃 度の把握 、④大気 中の 浮 遊粒状物 質の粒径
特性と濃度 、種々の ガス状 大 気汚染 物質の 気道 ・肺 内 動態を 確立し た数学的シュミ レ ー シ ョ ン法
を用いて解 析を行う ことを 目 的とす る。
3.対象 および方 法
3ー1 ヒト肺内 の元素 測 定
ホルマリ ン液に固 定され た 右肺上 葉の非 病変部を 出 来るだ け細く 刻み乾燥 後 、約 1g を用い 、硫
酸・硝酸溶 液を用い 、湿式 分 解後、 誘導結 合プラズ マ 原子吸 光度法 (ICP-AES)にて各 元 素 の 測定
を行った。
3ー2 個 人曝露濃 度測定
1999 年 2 月、北九州 市在 住の 13 人 と札幌 市在住の 20 人の ボ ラ ン テイ アによ る NO2 と揮発 性 有
機化合物(VOCs)の個人曝 露濃度 を測定 した。NO2 はパ ッ シブ ガスサン プラー〈 東洋濾 紙社製)で
捕集後、吸 光度法に て定量 し た。VOCs はパッ シブガ ス チュー ブ〈柴田 科学社 製 )で捕 集し、GC/MS
法にし定量 した。
3−3 浮遊粒子 状物質 の 測定
浮遊粒子 状物質の 粒子特 性 を調べ るため 、8 段に 分 級で きるアン ダ ーセン サ ンプ ラ、粒径 2.5
μm以下、粒径 2.5-10μmに 分級捕集 できる サンプ ラ ー(PM10/2.5 DICHTOMOUS)、また 、粒 径 2.5
μm を分級させる サンプラ ー(PM2.5)を 用いて 浮遊粒 子 状物質 を捕集し た。こ れ らの装 置はすべ て
柴田科学社 製である 。分級 し た粒子 に吸着 している 多 環芳香 族炭化 水素は超 音 波抽出-高速液 体 ク
ロマトグラ フィーを 用いて 分 離・定 量した 。
3−4
質量保存 の法則に 基づくシ ュ ミレ ーショ ンの 基本 式 とヒト 及び動 物の解剖 学 的・生 理学的 デー
タとを用い 吸入され たガス 状 大気汚 染物質 (O3、NO2、He)の気 動 内 濃度を解 析 する。
4.結果
4−1 ヒト肺内 元素成 分
ヒト剖検 肺 24 例(男 16 例 、女 8 例 )の 肺内元素 成 分を測 定した 。その結 果 、肺内 より 18 種の
元 素 を 検 出 し 、 17 元 素 を 定 量 し た 。 乾 燥 肺 1 g 中 の 元 素 の 算 術 平 均 値 は
Ca>Fe>Mg>Al>Zn>Sn>Si>Ti>Cu>Cd>Ni>Cr≒Mn>Pb>V>Mo>Co であ り 、元素 により 測 定値の 範囲〈最 高
/最低)は異な り、Si が最 も大き く、約 900 倍、Mn が約 80 倍、Cd が約 40 倍、Ca が約 30 倍、そ
れ以外は 15 倍以下である こ とが 認めら れた。鉄鋼 関 連 職場従事 者と主婦 につ い て肺内元 素成の分
算術平均濃 度を比較 した(図 1)。 そ の結果 、Cr、Ni、は 鉄 鋼 関 連職 場従事者 が 主婦 に比べ高 い 傾
向が示され た。タバ コ喫煙 量 と元素 間には 、関連が 認 められ なかっ た(図 2)。また 、 鉄 と ス ズ の
間では、有 意の相関(p<0.01)が認め られたが、そ れ 以外の多 くの元素 間、他 の汚染物 質間との
間には、関 連が認め られな か った。
4−2 個人曝露 濃度
1999 年冬期に北九州 市、札幌 市での NO2 の個 人曝露 濃 度、室 内及び屋 外の気 中 濃度を 測定した
(図 3)。北九州市 の冬期の NO2 個 人曝露濃 度は 34.8ppb で、 室 内濃 度と同レ ベ ルで あり、屋 外よ
り 2 倍高く、北九州 市の夏 期 に比べ 3.4 倍 、札幌市 の 冬期に 比べ 1.3 倍それ ぞ れ 高値 を示し た。
札幌市の冬 期の NO2 個人曝 露濃度は 25.5ppb で、室 内,屋外 の 濃 度レベル と同 じ であり、北九州市
冬期の傾向 とは違っ ていた 。 なお、 北九州 市冬期の 個 人曝露 濃度及 び室内濃 度 の約 1/4 が大気 環
境基準の上 限値(60ppb)を上廻 った。北九州市で は 、札幌市に 比べ、冬 期石 油 系暖房器 具使用時
間と NO2 個人曝露濃 度で高 い 相関を 示した 。北九州 市 では室 内排気 であるが 、 札幌市 では室 外排
気であり、この排気 の方法 の 違いが 大きく 個人曝露 濃 度に影 響して いると考 え られる 。VOCs の測
定では室内 空気環境 中より 20 種 以上を 検出し、ベ ン ゼ ン、トル エン、p-キシレ ン 、エチ ルベンゼ
ン、デカン 、ドデカ ン、メ チ ルイソ ブチル ケト(MIBK)の 7 種類 を 定 量 した。 冬 期の両 市では ベン
ゼン、MIBK、エチルベンゼ ン 、トル エンが 比較的高 い 濃度で あった(図 4、図 5)。北九 州 市 の 夏 期
のベンゼン は、検出 限界以 下 であっ たが、両市とも 冬 期のベ ンゼン 濃度は大 気 環境基 準(3μg/m3
≒1ppb)を上廻っていた。北 九州 市冬期 の TVOCs 濃度 は 、85.1ppb で、こ れも 室 内・屋 外濃度と 同
レベルと同 じであり 、夏期 に 比べる と若干 高いレベ ル であっ た。
札幌市冬期 の TVOCs 濃度は 、96.4ppb で、 屋外の濃 度 レベ ルと同じ で、室内 濃 度の 1.5 倍の高 値
を示した。
4−3 浮 遊粒子状 物質濃 度 と特性
アンダー センサン プラー を 用いて 粒径分 布を測定 し 、1μm 以 下 の濃度 が最 も 高く、2μm程 度
を境にして 二峰性分 布傾向 を 示した(図 6)。 ま た、 分 級捕 集された 粒子に含 有 され ている多 環 芳
香族炭水素 含量は 0.43∼0.65μ m粒子 に最も 多く含 ま れ、粒 径 2.1μm 以下 に 約 90%以上 が 含 有
している。1998 年 9 月∼1999 年 9 月 ま で の PM2.5μm 以 下(PM2.5)と PM10μm以 下 (PM10)の
濃度推移を 測定した 結果、PM2.5 の 濃度範 囲は 6.0∼54.4μg/m3、PM10 のそれ は 8.4∼117.3μg
/m3 で、PM10 の濃度に占め る PM2.5 濃度の 割合は 41.0%∼97.8%で 、道 路近 停 での含 有率が若 干
高い傾向を 示した(図 7)。 捕集し た浮遊粉 じんの PM2.5 及び PM10 中の BaP の濃度範 囲 は 、PM2.5
では、0.04∼0.68ng/m3、PM10 で は 0.05∼0.75ng/m3 であ り 、ほと んど PM2.5 中に含 有 さ れ てい
ることが認 められた 。
4−4 ガス状大 気汚染 物 質の生 体内動 態
δM/δt = u's'C' - u s C - γ( γ=Ab(α・D・Q・A・SP /{(X・Q+D・A)・760})の基 本シュミ レ
ーション式 を用いて 、O3、NO2、He、SO2(初期濃度 10、100、1000ppm)の生体 内 濃 度 を 求めた。3
種のガス(O3、NO2、He)の 生体内濃 度は呼 吸周期に 一 致し(図 7)、末 梢 ほど 低 いこ とが認め ら れ
た。動物間 の比較で は種が 異 なると 気道内 濃度が異 な り、平 均濃度 では上・ 下 気道で は逆に ヒト
の方がラッ ト、イヌ より高 い 傾向が あり、肺胞では 逆 にヒト が低か った 。一方 、SO2 は大部 分 が
上気道で吸 収され、上記道 内 濃度は 3 種 ガ ス(O3、NO2、He)と 同 様 。ヒ トで 高 く、肺胞 領域では
いずれの動 物とも濃 度はゼ ロ になっ た。初 期濃度を 100ppm、1000ppm に設定 す る と、 得られ た値
は 10ppm の結果のそ れぞれ 10 倍 、1000 倍 となり気 道 内濃 度分布の パターン に は変 化がなか った。
5.考察
呼吸器系 癌発症に は、空 気 環境中 の発癌 関連物質 の 生体内 侵入量 に関係し 、 また慢 性閉塞 性肺
疾患には、 揮発性有 機性物 質 、微量 元素な どが、複 雑 に係り あって いる。従 っ て、予 防対策 上、
ヒト生涯で の有害成 分の生 体 内侵入 量、有 害化学物 質 の個人 曝露濃 度、発生 機 序、発 生源を 明ら
かにする必 要がある 。また 、 最近米 国での 疫学調査 の 結果か ら、微 粒子(PM2.5)が健康 障 害 に 大
きく係って いること が明ら か にされ た。我 が国にお い ても微 粒子に よる健康 障害の実 態 、 粒 子の
特性・濃度 、発生源 などを 明 らかに する必 要がある 。 また、 ヒト曝 露濃度と 環 境因子 との係 りの
他、ガス状 大気汚染 物質、 粒 子状物 質の生 体影響を 評 価する 上には 、どうし て も実験 動物に よら
なければな らない。 そのた め には、 適正な 吸入濃度 に より正 しい結 果の評価 を 行う必 要があ る。
本研究では 、ヒト肺 内の元 素 分析、NO2・VOCs 個人曝 露 濃度、浮遊粒子 状物質 の 特性・濃度及び コ
ンピュータ ーシミュ レーシ ョ ンの手 法を用 いて、吸 入 された ガス状 大気汚染 物 質の気 道内濃 度が
解剖学的・ 呼吸生理 学的種 差 による 違いに ついて検 討 した。
その結果 、ヒト生 体内侵 入 量とし て17 元素の測 定 を実施 し、こ れまでに 測 定した 総粉じ ん、
炭素成分、 灰成分、 多環芳 香 族炭化 水素と あわせて 、 ヒト生 体内侵 入成分濃 度 、生活 習慣と の関
係などにつ いての知 見が得 ら れつつ ある。
NO2・VOCs の個人曝 露濃 度の 程度、環 境影響 因子に つ いての 多くの知 見が得 ら れた。北九州市 で
の浮遊粒子 状物質の 粒径特 性 、濃度 分布を 1年間に 渡 って計 測し、多くの知 見 を得ら れつつ ある。
一方、吸 入された ガス状 大 気汚染 物質の 気道・肺 内 動態の 数学的 なシミュ レ ーショ ン法を 確立
し、これを 、複数の 吸入物 質 と動物に お い て適用す る ことを 目的と して、呼 吸 器のモ デル作 成・
基本的解析 方法の確 立と、対 象動物 の解剖 学的・呼 吸 生理学 的デー タの収集 を 行い、SO2・NO2・O3・
He が人の動物 の生体 内濃 度分 布を算出 し、多 くの有 益 な知見 を得た。
6.今後 の課題
本研究は ①有 害成 分の個 人 曝露濃 度、生 体内侵入 量 の 評価 、②数 学 的シュミ レ ー シ ョンによる
ガス状物質 の生体内 挙動の 基 本式の 確立と 生体内濃 度 を目的 として 行った。 前 者の研 究につ いて
はヒト剖検 肺の例数 をより 多 くし、 また、 元素、多 環 芳香族 炭化水 素以外の 化 学物質 の分析 も加
え、電子顕 微鏡によ る形態 学 な研究 を新し く取り入 れ るなど して、 より詳細 な 研究が 行われ るこ
とが望まれ る。
NO2、VOCs の個人曝露濃 度 に関 しては、 今後も継 続 した 測定を実 施すると 共 に呼 吸器系疾 患 及
び化学物質 過敏症の 発生と の 関連に ついて 、より詳 細 な調査 、研究 がなされ 、 呼吸器 系疾患 の発
症への外因 性と内因 性の原 因 の解明 がなさ れること が 望まれ る。
粒子状物 質の個人 曝露濃 度 測定で はガス 状物質の 測 定に用 いられ るような 超 軽量で 小型の サン
プラーの開 発と生体 内変化 を 用いる モニタ リングの 手 法の開 発、粒 子状物質 の 個人曝 露濃度 の長
期的な計測 と影響因 子との 関 連の調 査がな され るこ と が必要 である 。数学的シュミ レ ー シ ョ ン法
によるガス 状大気汚 染物質 の 生体内 濃度分 布の算出 を 行い知 見を得 たが、実 際 の実験 動物で の実
測値、複合 曝露した ときの 濃 度分布 、粒子 状物質で の シュミ レーシ ョンなど の 研究が 今後な され
る必要があ る。
7.社会 的貢献
先進諸国 で、呼吸 器系疾 患 の発症 の増加 は、社会 的 に強い 関心が なされて 、 我々を とりま く環
境因子のヒ ト健康障 害につ い て注目 がなさ れてきて い る。従 って、有害化学 物 質のヒ ト曝露 濃度、
生体内侵入 量の実態 を把握 す ること が強く 望まれて い る。一 方、実験 動 物と ヒ トは解 剖学的 ・生
理学的にも 様々な点 で異な り 、実験 動物で のデータ を ヒトに 外挿す るには多 く の問題 がある 。
本研究はこ の様な観 点から 、 生体内 侵入量 (粉じん 、 炭素粒 子、灰 成分、多 環 芳香族 炭化水 素、
元素)の測 定を実施 し、生 体 内の汚 染物質 の種数、 含 量、ま た、相 互関係や 死 亡原因 を含む 生活
歴との関連 について 検討し 、多くの 知見が 得られつ つ ある。また、ベンゼン を 含む VOCs の個人 曝
露濃度測定 は、年間 を通し て 調査し 、個人 曝露濃度 及 び環境 濃度の 実態を知 る 上で重 要なデ ータ
となってい ると考え られる 。粒子の 粒径特 性と化学 物 質濃度 と の関 連、PM2.5 と PM10 の濃度 推 移
の調査も年 間を通し て実施 さ れ多く の有益 な情報を 得 た。新 しく確 立した数 学 的シュミ レ ー シ ョ
ンは、ヒト を含めて 若干の 動 物での ガス状 大気汚染 物 質の生 体内濃 度分布が 算 出され 、今後 の動
物実験での 曝露濃度 の設定 や 、ヒト への外 挿への評 価 が有用 になる ことが考 え られる 。
Ⅲ−2−( 3)生物 学的曝 露 マーカ ーを用 いた汚染 物 質の曝 露量把 握に関す る 研究
1.研究従 事者
○内山 巌雄 (国 立 公 衆衛 生 院 労働 衛生 学 部 )、川 本俊 弘( 産業 医科 大学 医学 部 ),松 野康 二 ( 産
業医科大学 共同利用 研究セ ン ター),永 倉俊和 (永倉 ク リ ニ ック),小幡 徹(東京慈 恵 医 科大 学DNA
医学研究所 ),荒川はつ子 ,村山 留美子(国立公衆 衛 生 院労働衛 生学部),後 藤 純雄、渡辺征 夫(国
立公衆衛生 院地域環 境衛生 学 部),荒記 俊一,酒井 亮 二 (東京大 学医学部 )
2 平成11年度の研究目的
本小課 題 で は、 生 活 環境 中 の 有害 大気 汚 染 物質へ の 生物 学 的 暴露 マー カー と し て、 尿や 血 液 等
の生体 試料 中に おけ るピレ ン やナ フ タ レン 等の 代謝 物 等を 測 定 する 方法 を開 発 し 、ま たオ キ シ ダ
ントス トレ スに より プロス タ グラ ン デ ィン から 非酵 素 的酸 化 作 用に より 誘導 さ れ るイ ソプ ラ ス タ
ンの測定法 を開発し 、これ を 用いて 有害大 気汚染物 質 の個人 暴露量 を把握す る ことを 目的と する。
また微小粒 子に付着 した多 環 芳香族 炭化水 素とPM2.5の個人 曝 露 量の把握の可能性 を 試 み た 。
とくに平 成11年度は、冬 季 暖房器 具使用時 の尿中 1-pyrenol およ び 2-naphthol 濃度を 測 定 し、
2-naphthol の 生 物 学 的 暴露 マ ー カ ー と し て の 有 用性 に つ い て 1-pyrenol と比較 検 討 し た 。 具 体 的
には 平 成 10年 度 に 引 き続き 、 モデ ル ル ー ム を 使 った 室 内 暖 房 器具 の 使 用によ る PAH曝露の 実 験 と
学生を対象 とした冬 季の断 面 調査の 2つを 行い、暖 房 器具の 使用と 尿中 2-naphthol 濃度と の 関 係
を調べ、尿 中 1-pyrenol および 2-naphthol と の関係 に つい て検討 した。
浮遊粒 子 状 物質 の う ち、 粒 径 の小 さい 微 小 粒子状 物 質の 健 康 影響 が注 目さ れ て きて いる が 、 そ
のメカ ニズ ムは まだ 明らか で はな い 。 最近 スイ スで 燃 焼時 に 発 生す る微 小粒 子 に 付着 した 多 環 芳
香族炭化水 素(Particles-bounded Polycyclic Aromatic Hydrocarbon,PPAH)濃度を 測 定 す る個人 サンプ
ラーが開発 された。本年度 はPPAHとP M2.5を同時 に 走行 中自家用 車、道路 後 背地 、屋内等 で測定
し、
個人サンプ ラーとし ての有 用 性を検 討した 。また個 人 の1日 のPPAH暴露 量を 推 計し、尿 中の各種
バイオマー カーと関 連があ る か否か を検討 する予備 調 査を行 った。
3 平成11年度の研究の対 象 及び方 法
モデル ル ー ムに て 反 射式 石 油 スト ーブ を 8 時間燃 焼 させ 、 そ の間 ボラ ンテ ィ ア に室 内で デ ス ク
ワ ー ク を し て も ら い 、 ピ レ ン の 代 謝 物 で あ る 1-pyrenol お よ び ナ フ タ レ ン の 代 謝 物 で あ る 2naphthol の尿中濃度 の変化 を 経時的 に観察し た。 曝露 は 5 名の ボランテ ィア( 非喫煙者 )が、一
人づつ 3日 間連 続で 曝露し た 。採尿 は曝 露 開 始前( 午 前9 時 頃 )、曝 露中 (午 後 1 2時 頃 )、曝 露
終了時 (午 後5 時頃 )の3 回 行っ た 。 また 、対 照は 同 じ部 屋 で 、石 油ス トー ブ を 使わ ずに 同 様 に
3日間連続 で過ごし た時の 尿 を用い た。
また、 喫 煙 習慣 の な い大 学 生59名 を対 象 と し、試 験 期間 に あ たる 冬季 暖房 時 期 (1 月∼ 2 月 )
に昼食 前の 尿を 採取 した。 ま た、 同 時 に使 用し てい る 暖房 器 具 の種 類( クリ ー ン ヒー ター 、 石 油
ファ ンヒ ー ター お よ び 石油 ス ト ーブ )と 採 尿前24時間 に おけ る 使用 時間 につ い て 質問 票 を用いて
調べた 。ま た、 クリ ーンヒ ー ターを 使用 し て いる喫 煙 習慣 の あ る大 学 生 13名に つ い て も 、 同 様
に尿を採取 し、暖房 器具使 用 、喫煙 の尿中 1-pyrenol およ び 2-naphthol 濃度に 及 ぼ す 影響 につい
て調べた。
尿中 1-pyrenol の測定は 、尿 200 μl を 酢 酸ナト リ ウム緩衝 液(pH 5.0)下で 、 β − グルク ロ
ニダーゼ処 理したの ち、ア セ トニト リルを 加え、遠 心 後上清 を蛍光 検出器付 き HPLC (カラ ム :
TOSOH TSKgel ODS 80Tm、移 動 相:60%
ア セトニ ト リル 、1.0 ml/min、測定 波 長:Ex = 242 nm, Em
= 388 nm)に より行 った。尿 中 2-naphthol の測 定は 、尿 3.0 ml を酢 酸 ナト リウ ム緩衝 液(pH 5.0)
下で、 β− グル クロ ニダー ゼ 処理 ( 約 16 時 間 )し た のち 、 ア セト ニト リル を 加 え、 遠心 後 上 清
を蛍光検出 器付き HPLC ( カラム :TOSOH TSKgel ODS 80Tm、移 動 相:38%
アセト ニ ト リル、
1.2 ml/min、測定波長:Ex = 227 nm, Em = 355 nm)に よ り 行った 。なお、尿 中 ク レアチニ ン濃度 は
Ogata and Taguchi (1986) の 方法によ り測定し 、尿の 濃 淡の補 正に用 いた。
PPAH個人モ ニターはPAS2000CE(EcoChem Analytics社製 、米 国)を購 入し た。測定原 理は、ポ
ンプ(1l/min)で 吸引 したPAHの 付着 し た 粒子 に 紫外 線 を照 射す ると 、陰 イオ ン が 放出 さ れ 粒子 自
体はプラス に荷電す る。こ れ らの粒 子は粒 径1μm以下 の 微 粒 子が主で ある が個 数濃度 はPM2.5の
中に 占 め る 割 合 は 多 い ので 、 重要 と 考 え ら れ て いる 。 こ の 荷 電率 を 計 算 し、 モ デ ル 式 か らPAH濃
度を 推 計 す る 。 こ の モ デル 式 か ら 求 め た エ ア ロ ゾル か ら の 放 出 電 子 の 測 定値 と 、 実 際 のPAHの化
学分析によ る値は良 く相関 す ること が確か められて い る。
本体は大 きさ68×175×124mm、 重 さ1.5kgで10∼120秒毎 の 連 続測 定が 可能 であ り、記 憶容量 は
8000デー タで ある が 、 バッ テ リ ー容 量が 約 5 時間と い う制 約 が あり 、そ れ以 上 の 測定 を行 う 場 合
にはAC電 源 を用い なけれ ば ならな い欠 点 がある。 今 回は60秒毎 の 値 を測定 し た 。P M2.5はDust
Trak Model 8520(カノマッ ク ス社製 、米国) を用い て 測定し た。
測定は平 成11年10月4日( 火)か ら11日( 月)、及び平 成12年4 月12日(金 )か ら17日(月 )で
国立公衆衛 生院の屋 上(目 黒 通りよ り約100m)で 行 っ た。また 個人モニ ター と して、国 立公衆衛
生院院内居 室ー通勤(自家 用 車)ー 自宅ー 通勤(自 家 用車)ー国立 公衆衛生 院 院内居 室のPPAH濃
度を測定し た。また 、その 後PPAHモニ ターが雨 天の 測 定によっ て水を吸 い込 ん でしまい 、故障し、
修理に 時間 がか かっ てしま っ た結 果 、 その 後の 個人 暴 露量 が 測 定で きず 、尿 中 の バイ オマ ー カ ー
の測定は継 続実施中 である 。
4 平成11年度の研究成果
4− 1 ) モ デ ル ル ー ムを使 っ た室 内 暖 房 器 具 の 使用 に よ るPAH曝露 の 実 験 石 油 ス トー ブ を 使 わ
なかった場 合の尿中 1-pyrenol濃度 は、幾何 平均で 約 0.1μg/g creat. であ った 。石油スト ーブ使 用
した 場 合、 第 一日 目 の12:00、17:00の 尿 で は 1-pyrenol 濃度 が や や上 昇す る 傾 向が 認 めら れ た
ものの 、石 油ス トー ブ非使 用 時の 濃 度 との 間に 差は 認 めら れ な かっ た。 曝露 2 日 目、 3日 目 の ス
トーブ使用 前にあた る9:00の 尿 ではと くに 1-pyrenol 濃度 の 上昇 は認められ な かっ たが、12:00、
17:00と曝 露 時間 が 長くな ると と も に 尿 中 1-pyrenol 濃度 は 上 昇 し 、と くに 2 日 目お よ び3 日 目
の 17:00 の尿 では 石油ス ト ーブ 非 使 用時 の尿 と比 較 し、 幾 何 平均 で約 2倍 と な り、 統計 学 的 に
有意に上昇 していた 。一方 、尿中 2-naphthol 濃 度の 変 化は石油 ストーブ を使 わ なかった 場合は 、
幾何平均で 約 1.3 μg/g creat. であ った。石 油スト ー ブ使用 した場合 、第一日 目 の12:00、17:00
の尿 の お い て 、 統 計 学的に 有 為 でな い も の の幾 何平 均 で 2 倍 近 くの2-naphthol 濃度上 昇 を み と め
た。曝露2 日目、3 日目の ス トーブ 使用前 に あたる9:00の尿 で は と くに2-naphthol 濃度の 上 昇 は
認められ
なかっ たが 、12:00、17:00の 尿 で は 幾何 平均 で約 2 ∼3 倍 と なり 、統 計学 的 に 有意 に上 昇 し て
いた。
4−2)学 生を対象 とした 冬 季の断 面調査
石油 ス ト ー ブ 使用 し てい る 学生 の 尿中 1-pyrenol 濃度 は クリ ー ンヒ ー ター を 使用 し て い る 学 生
と比較 し、 濃度 幾何 平均で 2 倍弱 と 統 計学 的に 有意 に 高い 値 を 示し た。 石油 フ ァ ンヒ ータ ー を 使
用している 学生の尿 は両者 の 中間的 な値を 示した。尿 中 2-naphthol 濃度 も同 様 に石油ス トーブ 使
用して いる 学生 の尿 中濃度 は クリ ー ン ヒー ター を使 用 して い る 学生 と比 較し 、 濃 度幾 何平 均 で 約
2倍と 統計 学的 に有 意に高 い 値を 示 し 、石 油フ ァン ヒ ータ ー を 使用 して いる 学 生 の尿 は両 者 の 中
間的 な 値を 示 した 。 一方、 喫 煙 者 で は 尿 中 1-pyrenol 濃度 が 非 喫 煙 者で クリ ー ン ヒー タ ーを 使 用
している学 生の尿の 2倍程 度の上 昇 し たの に対して 、尿中 2-naphthol 濃度は 約10倍の高 値 を 示 し
た。
4−3)PPAHおよびPM2.5の測定
平日の10月6日(水)、7日( 木)は 朝6:30頃から10時頃 ま で のラ ッシュア ワ ーの 時間帯にPPAH
濃度は 上昇 し、最 高50∼100ng/m3に 達 し たが夕 方の ラ ッ シュア ワー はそ れほ ど 目立っ た 上 昇は な
く、20∼30ng/m3であった 。また、5日( 火)は目 立 ったピ ークの 時間帯はな く 、終 日ほぼ10∼30ng/m3
の値 を示 し て い た。 一方 9 日 の土 曜日 は 朝 の ラッ シ ュ 時の ピ ーク は見 られ る もの の 、 午後12時
以降はほぼ10ng/m3推移し 、特に夜10時以 降は5ng/m3以下 で あっ た。また10日(日 )は 終 日PPAH
濃度は低く 日中もほ ぼ15ng/m3以下 であっ た。また11日( 月 )は 振り 替え休日 で あり 、朝の8 時頃
を除いて20ng/m3以下であ っ た。
図 1 は 4 月14日 ( 金 )の 0 時 か ら 正 午 ま で のPM2.5とPPAHの同 時 測 定 の結 果 で あ る 。PM2.5濃
度 は 夜 間 の 1 時 頃 か ら ほ ぼ0.13mg/m3で あ り 、 朝の ラ ッ シ ュ じ に 上 昇 し 、 その 後 減 少 し た 。 一 方
PPAH濃 度 は 、 夜 間 は 低 値 で あ り 、 ラ ッ シ ュ 時 に 上 昇 す る 平 日 の 典 型 的 パ タ ー ン を 示 し 、 夜 間 は
PM2.5とPPAH濃度が乖離し た 。
これらの 結果から は道路 後 背地で はPPAHの暴 露濃 度 の平均は 約15ng/m3であり 、呼 吸 量を15m3/
日とすると PAHの 1日平 均 暴露量 は225ng/と 推計 され た。
一方、 1日 約1 時 間 の自 家 用 車通 勤で は 、 走行中 の 車中 の P PA H濃 度は 朝 の ラッ シュ 時 の 目
黒通りでは 約300∼400ng/m3、高速 道路で は500∼1000ng/m3、前 方 をト ラック や バスが 走って いる
と 急 増 し 、 1000 ∼ 2000ng/m3 に も 達 し た 。 ま 夕 方 の ラ ッ シ ュ を 過 ぎ た 7:30 以 降 の 一 般 道 で は
200ng/m3 前 後 。 高 速 道 路 で は 400ng/m3で あ っ た が 、 や は り バ ス 、 ト ラ ッ ク の 工 法 で は 、 1000 ∼
1300ng/m3にまで 上昇した 。
図2は夜 間の帰 宅 時、図 3 は朝のラ ッ シ ュ時の車内のPM 2.5とPPAH濃度の ト レ ン ドである 。 屋
内 のPM2.5濃 度 は ほ ぼ 0.05mg/m3で あ っ た が 、 夜 間 の 路 上 で は 0.75mg/m3であっ た 。 19時30頃高速
道路工事渋 滞中は0.3mg/m3に 上昇し た。一方PPAH濃度 は 良 くPM2.5濃度 の パ タ ーン に一致 して 上
下し、渋滞 時は最高1600ng/m3にま で上昇 した。ま た 朝のラ ッシュ 時はPM2.5、PPAH濃度は 高 く 、
特に前方を ディーゼ ル車が 走 行して いる場 合は両者 と も高濃 度にな ることが 確 認され た。
今回 の走 行 で はPPAH濃度 の 平 均 値 は約60ng/m3であ り 、 1日 約 3 時 間の 自動 車 の 運 転に より 、 1
日暴露量は900ng/日と道路 後背 地の約4 倍に達 した 。
5 考察
非排 気型 暖 房 器 具( 石油ス トー ブや 石油 フ ァン ヒー タ ー) の 使 用に よ り、ピ レ ン およ びナ フ タ
レ ン の 代 謝 物 で あ 1-pyrenol お よ び 2-naphthol の尿 中 濃 度 が 上 昇 し た こ と か ら 、 尿 中 1-pyreno
および 2-naphthol はPAH( と くにピ レンお よびナフ タ レン)の生物 学的暴露 マ ーカー として 非常
に有用 であ ると 考え られた 。 これ ら の マー カー は室 内 汚染 レ ベ ルで 有意 に上 昇 す るこ とか ら 、 大
気汚染レベ ルの曝露 指標と し ても有 効であ ると考え ら れた。しかし な がら、1-pyr enol は食事 か ら
のPAH摂 取 の 影 響 を 受 け、2-naphthol は 食 事 に よる 影 響 は 少 な い も の の 喫煙 者 で 高 値 を 示 す な ど
大気汚染
以外の影響 因子の存 在も判 っ た。
PPAHおよび PM2.5濃度の 測定で は、十 分個人曝露 量 測 定 として 利用で きる 可 能 性 が示 唆 され た
が、前 述し たよ うに 重量の 軽 減化 、 電 源が より 長時 間 連続 使 用 でき るよ うに す る など の改 良 が 加
えられる こ とが望 ま れる。 両 者の 関 係は 、PPAHの発 生 源 とPM2.5の発 生 源が ほ ぼ車 と考 え られ る
走行中車内 や、道路 沿道で は よく相 関し、特にディ ー ゼル排気ガ ス の 中に含 ま れるPPAHの割合 が
高いことが 確認され た。し か し、道 路後背 地ではPM2.5とPPAH濃度 は 特に夜 間 に乖 離が見 られた。
これはPM2.5の発生源が他 にあ る場合 、夜間に 2次 生成 粒子の 寄与が高 くな る 場合、風 向の変化 な
どの要因 が 考えら れ 、さら に デー タ の集 積 が必要で あ る と考 えら れ た。 また 、PM2.5またはPPAH
の曝露 は自 動車 の運 転や乗 車 中の 曝 露 が無 視で きな い こと 、 道 路沿 道の 曝露 濃 度 が高 くな る こ と
が予想 され 、ラ イフ スタイ ル 等を 考 慮 した 場合 に個 人 差が 大 き いこ とが 予想 さ れ た。 従っ て 、 今
後この よう にリ アル タイム に 曝露 ト レ ンド が記 録で き れば 、 曝 露濃 度の 変化 に よ る呼 吸機 能 の 変
化、心 電図 変化 など を同時 に 測定 す る こと によ り、 現 在問 題 に なっ てい る死 亡 率 と関 連す る 比 較
的急性の影 響のメカ ニズム 解 明に役 立つこ とが期待 さ れる。
6 今後の 課題
バイオ マ ー カー を 用 いて 曝 露 評価 をを 行 う ためは 、 個人 曝 露 量( 今回 の研 究 で は粒 子状 物 質 お
よび PAH 曝露 ) と バ イオ マ ー カ ー と の 間 に成 り立 つ 関 係 を 把 握 す る こ とが 不 可 欠 であ る 。 そ こ
で 今 後 の 課 題 と し て は 、 ボ ラ ン テ ィ ア を 対 象 と し て 個 人 曝 露 量 と 尿 中 1-pyrenol お よ び 2naphthol の関 係に つ いて検 討 し、曝 露量 と尿 中 代謝 物 と の間 の 回帰 式 を求め る ことが 必要 と 考 え
る。ま た、 この 関係 に影響 を 及ぼ す 季 節変 化、 地理 的 差異 、 ラ イフ スタ イル な ど の把 握も 必 要 で
ある。した がって、大気汚 染 のレベ ルの異 なる地域 で の集団 を対象 とし、PAH の気中 濃 度 と 尿中
1-pyrenol お よ び 2-naphthol の 関 係 に つ い て 検 討が 必 要 と 考 え る 。 さ ら に尿 中 1-pyrenol および
2-naphthol との関 係につい て 、比較 検討を 行うとと も に、DNA 付加 体 や ヘモ グロ ビン付 加体など
の新しいバ イオマー カーの 開 発も 必 要であ る。
PPAH個人モ ニターが、使 用 可能とな ったので 、今 後 はさらにPM2.5とPPAH濃度の 関 連 を様々 な
場所で 検討 し、 デー タを集 積 する と と もに 、喘 息患 者 に装 着 し ても らい 、自 覚 症 状の 変化 、 ピ ー
クフロー値 の変化と 、PPAH曝 露 量の変 化の相 関の有無 を 検 討す る。また 、こ れ らの患者 から採取
した尿 中の バイ オマ ーカー の 変化 を 分 析し て、 より 長 期間 の 曝 露マ ーカ ーと な り うる か否 か を 検
討する 必要 があ る。 さらに 喘 息と の 関 連の みで はな く 、現 在 問 題に なっ てい る ハ イリ スク グ ル ー
プと考 えら れる 心疾 患、脳 血 管疾 患 患 者の 生理 学的 変 化との 関 連を 明ら かに す る こと が重 要 で あ
ると思われ る。
7 社会的 貢献
尿を採 取す るこ とに より比 較 的簡 単 に 個人 個人 の有 害 大気 汚 染 物質 への 曝露 量 を 把握 する こ と が
でき、 疫学 調査 にお ける有 用 な手 段 と なる 。ま た、 曝 露量 が 個 人毎 にわ かる た め 、リ スク 評 価 に
必要な 量・ 影響 関係 、量・ 反 応関 係 を より 正確 に求 め るこ と が でき る。 また 、 遺 伝子 多型 の 分 析
と組み合わ せること により 、 大気汚 染に関 する遺伝 的 高感受 性群を 見いだす こ とも可 能であ る。
また現在 問題にな ってい るPM2.5の 健康影響 のう ち、特に発 がん性に 関し て はその粒 子に付着 し
てい るPAHによ る も の と考 え ら れ る の で 、 その 曝露 量 を 個 人 モ ニ タ ー に よっ て 把 握 し、 発 が ん 以
外の様 々な 臨床 症状 や疫学 調 査に 生 か すこ とが でき る こと を 確 認し た意 味で 社 会 的貢 献は 大 き い
と思われる 。
8 3年間 のまとめ
有害 大 気 汚染 物 質 への 生 物学 的 暴 露マ ーカ ーと し て、 ピ レ ンや ナフ タレ ン 等の 代 謝 物で あ る
1-pyrenol 、 1-naphthol お よ び 2-naphthol が 有 用 で あ る か ど う か に つ い て の 検 討 を 行 っ た 。 1pyrenol お よび 2-naphthol は HPLC に て簡 便 に測 定 が で き、 疫 学 調 査など の多数の サ ン プ ル の
分析も可能 であった 。1-naphthol は 分析が 煩雑であ り 、2-naphthol とほ ぼ相 関 して いること から、
必 ず し も 有 用 で は な い と 考 え た 。 モ デ ル ル ー ム にて 石 油 ス ト ー ブ を 燃 焼 さ せ 、 在 室 者 の 尿 中 1pyrenol および 2-naphthol 濃度 を調べ たところ 、1-pyrenol 濃度 は 曝露 2、3 日 目の17:00の尿で
有意に高値 を示した 。一方 、尿中 2-naphthol は 曝露 2 、3日目 の12;00、17;00の尿で 非 曝 露 時
の2倍に上 昇してい た。学 生 を対象 に冬季 の使用暖 房 器具と 尿中1-naphthol および 2-naphthol 濃
度との 関係 を調 べた ところ 、 石油 ス ト ーブ 使用 して い る学 生 の 尿中 濃度 はク リ ー ンヒ ータ ー を 使
用して いる 学生 と比 較し、 濃 度幾 何 平 均で 約2 倍と 統 計学 的 に 有意 に高 い値 を 示 した 。石 油 フ ァ
ンヒーター を使用し ている 学 生の尿 は両者 の中間的 な 値を示 した。以上の結 果 から、1-pyrenol お
よび 2-naphthol ともに暖 房器 具使用レ ベルの室 内汚 染 でその尿 中濃度が 上昇 し 、大気汚 染レベ ル
の生物学的 暴露マー カーと し ての有 用であ ると考え た 。しか し、尿 中 1-pyrenol
は食事 の影響を
受けること 、2-naphthol は 喫煙者で 非常に 高くなる こ となど も判っ た。
オキシ ダ ン トス ト レ スの 指 標 とし て尿 中 の イソプ ラ スタ ン 量 の測 定手 法を 確 立 し、 どの 様 な 場
合に上 昇す るか を確 認した 。 特に 喫 煙 者で は非 喫煙 者 に比 較 し て有 意に 尿中 イ ソ プラ スタ ン 量 が
高いこ とを 初め て確 認でき た 。ま た 、 その 要因 を分 析 した と こ ろ、 喫煙 行為 そ の もの のみ が イ ソ
プラス タン 量に 関与 してい る こと が わ かっ た。 現在 は 生活 環 境 中に 存在 する オ キ シダ ント ス ト レ
スに よっ て 尿 中イ ソ プ ラス タ ン 量が 変化 す る か 、ま た こ れが バイ オ マ ーカー と して 使 用 する 可能
性があるか 検討中で ある。
最 近 問 題 に な っ て い る PM2.5の 中 で 主 に 粒 径 1 μ m以下 の 粒 子 に 付 着 し て い る PAH濃度を 測 定
することが 可能なPPAH個 人モ ニターが 開発され たの で 、それを 用いて、基礎 的 な調査を 行った。
その結果、都内及び 近郊のPPAHの濃度 は、屋外 では 道 路沿道、高速道路 渋滞 時 、高速道 路トンネ
ル内で 高く 、屋内 で は 喫煙 に より 上 昇し 、 屋 外では 最 高 2000ng/m3程度 に 上 昇 するこ と も あっ た
が、屋内の 喫煙室で は平均94∼112ng/m3であり 、自 動車 由来の 曝露の方 が圧 倒的 に高か った。
従ってPPAHは自動車内で の 曝 露量が非 常に高く 、短 時 間であっ ても無視 でき な いことが 確認され
た。ま たリ アル タイ ムに曝 露 量が 記 録 でき るこ のよ う な個 人 モ ニタ ーを 用い れ ば 、比 較的 短 期 間
の呼吸 機能 、心 電図 変化と の 関連 を 検 討す るこ とが で き、 健 康 影響 のメ カニ ズ ム を解 明す る 有 力
な手段とな ることが 期待さ れ た。
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