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ドクムギ属

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ドクムギ属
ドクムギ属 Lolium spp.
適切な管理が必要な産業上重要な外来種(産業管理外来種)
定着段階
分布拡大期∼まん延期
選定理由
法規制状況
なし
対策優先度の要件
特に問題となる地域・環境
Ⅳ
河原や自然草原、ボウムギは海岸砂地
基本情報
ネズミムギ
ホソムギ
ボウムギ
東京都江東区 2007.5.19©JWRC
千葉県佐倉市 2007.7.22©JWRC
岡山県倉敷市 2007.4.27©JWRC
名称
別名・流通名:ライグラス類。本リストで対象となるのは、おもに以下の種類。
・ネズミムギ(イタリンライグラス、コネズミムギ)、花序が数本に分岐する型はエ
ダウチネズミムギ。
・ホソムギ(ペレニアルライグラス、ライグラス)
・ネズミホソムギ(ハイブリッドライグラス、インターメディエイトライグラス、シ
ョートローテーションライグラス、ネズミムギ×ホソムギ)
・ボウムギ(トゲシバ、トゲムギ)
別学名:
・ネズミムギ:L. multiflorum(L. perenne ssp. multiflorum、)。L. italicum は
ネズミムギの交配種の一つといわれる。エダウチネズミムギは f. ramosum。
・ホソムギ:L.perenne(L.boucheanum、L. linicolum)
・ネズミホソムギ:L. × hybridum
・ボウムギ:L. rigidum(L. loliaceum、L. perenne ssp. rigidum、L. strictum)。
※ 日本で長く当てられていた L. subulatum は正体不明の種で、ボウムギの変種 ssp.
leptuloides だろうとされる(長田,1989)。
分類
原産地
英名:
・ネズミムギ:Italian ryegrass、annual ryegrass
・ホソムギ:perennial ryegrass、English ryegrass
・ネズミホソムギ:hybrid ryegrass
・ボウムギ:rigid ryegrass、Swiss ryegrass、Wimmera ryegrass
被子植物 イネ科 ドクムギ属
・ドクムギ属は、すべての種の種間交雑がみられ、形態的に区別するのははなはだ困
難である。日本でも純粋のホソムギはめったにない(長田,1989)。
・ネズミムギは地中海地方が原産地で、初めて栽培されたのはイタリア北部とされる
(高野ら,1989)。ネズミムギは、ホソムギから作出されたものともいわれる。
・ホソムギは南ヨーロッパ∼西南アジアが原産地で、17 世紀にはイギリスで栽培の
記録がある(高野ら,1989)。
1
移入分布
日本での分
布
形態的特徴
生態的特性
・ボウムギは地中海地方原産。
・ネズミムギやホソムギは、世界の温帯∼暖帯で広く栽培されるとともに、逸出して
雑草化している(竹松・一前,1997)。ボウムギは、世界各地の温帯に分布する。
・ネズミムギとホソムギは明治時代に導入され、北海道、本州、四国、九州、琉球で
逸出帰化している。ネズミムギの方がホソムギより多い。ネズミムギとホソムギは
容易に交雑し、雑種であるネズミホソムギは稔性があるため、野外ではさまざまな
中間型がみられる。
・ボウムギは 1931 年に横浜で採集、北海道、本州、四国、九州、琉球に分布。
・河川水辺の国勢調査の結果では、ネズミムギはそれぞれ 56/78(平成3∼7年)、
100/119(平成8∼12 年)、108/121(平成 13∼17 年)、ホソムギはそれぞれ 42
/78、66/119、88/121、ネズミホソムギは 8/78、19/119、22/121、エダウチ
ネズミムギは 0/78、0/119、3/121、ボウムギは 3/78、6/119、5/121 である
(河川環境データベース)(「○/○」は「確認河川数/調査河川数」を表す)。
・ネズミムギは高さ 0.8∼1.3mの一∼越生草本。ホソムギは 0.5∼0.9mの2∼5年
の寿命を持つ多年草。自然交雑が容易に起こり、様々な品種があるため、形態的変
異が大きく識別が困難になっている。
・ボウムギは高さ 0.1∼0.6mの一∼二年生草本。
<生育環境>
・ネズミムギとホソムギは、畑地、樹園地、路傍、空地、荒地、牧草地、放牧地、芝
地などで生育する。山間地にも多い。日当たりの良い、肥沃地を好む。一般的には、
ネズミムギは温帯から亜熱帯に分布し、耐寒性や耐雪性が弱いのに対し、ホソムギ
は温帯から暖帯に分布し、耐寒性や耐雪性がある。ただし、利用する地域、栽培期
間、利用目的などに応じて形態や生態が異なる品種が多数育成されている。
・ボウムギは海岸や砂地に多い。
<種子による繁殖>
・ネズミムギとホソムギの開花は5∼7月頃だが、地域や品種によって異なる。風媒
の両性花をつける。ボウムギの開花は6∼8月。
・ネズミムギは出穂性が極めて大きく種子生産力が高いため、逸出しやすく雑草化し
やすい。ネズミムギは越夏能力が乏しく、基本的には種子越夏する。種子は雨や風
でも運ばれるが、家畜に食べられて糞に混入して運ばれることが多い。ホソムギの
種子は、輸入穀物(ルピナス)への混入が確認されている(清水,1998)。乳牛の
糞から回収したネズミムギの発芽種子数は 32%あるが、糞の乾燥によって発芽性
は著しく低下し、発酵(約 60℃で約 10 日間)により発芽性を失うとの報告がある
(伊藤,1994)。
・ホソムギについては土壌中の種子の生存期間が4年に及ぶとの報告がある(竹松・
一前,1997)。自生集団は栽培品種に比べて種子重の割合が多く、弱い休眠性によ
り長期にわたって発芽することが示唆された(山下,2002)。
<その他>
・ホソムギは、アレロパシー作用により、他の雑草の生育が抑えられるとの検討があ
る(竹松・一前,1997)。
侵略性に関する情報
・河原、自然草原、海岸砂地の在来種と競合し、駆逐する。
生態系
<競合>
・ホソムギは、荒地、低木林、河川敷、湿地、海岸砂浜に侵入し、急速に広がって密
生し、草本植物を駆逐して多様性を低下させる(Weber, 2003)。
・ネズミムギは河原・崩壊地の貧栄養砂礫地において脅威を与える外来生物としてあ
げられた(小池ら,2010)。
・ネズミムギは、河川における緑化植物として中国・四国・九州地方で多く使用され、
西南地域では野生化も多く、優占群落を形成している。ホソムギは使用率は高くな
いが、全国的に野生化している(畠瀬ら,2013)。
・日本各地でエンドファイトに感染したホソムギの自生集団が確認されていることか
ら、生育がより旺盛になり、植物群集に影響を及ぼすことが懸念される(山下,
2
経済・産業
その他
人の生命・
身体
2002)。
・青森県、栃木県、埼玉県、愛知県、兵庫県、広島県、奄美地域で、ネズミムギやホ
ソムギは生態系に影響を及ぼす外来植物等とされている(愛知県環境部自然環境
課,2012;青森県,2006;長谷川,2008;兵庫県,2010;環境省九州地方環境事務
所,2010;埼玉県,2005;吉野ら,2007)。
<重要地域>
・支笏洞爺国立公園にある北海道羊蹄山でホソムギが確認された(五十嵐ら,2001)。
・利尻礼文サロベツ国立公園にある利尻島では、ネズミムギが芝生から逸出して各地
の道路沿いなどに生育している(五十嵐,2000)。
・ネズミムギは樹園地で春肥を吸収してしまう雑草の一つでる(草薙ら,1994)。
・ネズミムギ、ホソムギ、ボウムギは世界的に畑地雑草となっている(竹松・一前,
1989)。
・ネズミムギとホソムギは、一部の国で深刻な雑草または重要な雑草となっている
(Holm ら,1991 )。
・ネズミムギやホソムギは、環境省自然環境局、農林水産省農村振興局、国土交通省
道路局が実施した調査において、法面緑化地周辺において逸出が確認された。(環
境省自然環境局,2006;環境省自然環境局ら,2006)。
・ネズミムギなどのイネ科外来草本は、河川における侵略的外来種の一つにあげられ
ている(外来種影響・対策研究会,2008)。
・農業雑草や環境雑草とされている(GCW)。
・ホソムギは、オーストラリアやニュージーランドで侵略的な外来種とされている
(Weber, 2003)。
・ネズミムギやホソムギは花粉症の原因植物である(斎藤ら,2006)。
利用に関する情報
利用状況
<緑化>
・緑化植物として早期緑化(崩壊地やのり面等の緑化)の観点から非常に優れている
ことから、広く利用されており、ペレニアルライグラス、イタリアンライグラスは
市場単価の主体種子として掲載されている。
・東京都では、バミューダグラスとともに校庭芝生化の主要使用種になっている。屋
上緑化など都市部の造園緑化でも多用されている。
・道路土工指針の播種用植物の一覧に掲載されている(ペレニアルライグラス)。
・
「平成 21 年度版治山技術基準解説〔総則・山地治山編〕((社)日本治山治水協会)」
に、実播工に使用されている種の参考例として掲載されている(ペレニアルライグ
ラス、イタリアンライグラス)。
<牧草>
・飼料用として全国で利用されており、関東以西の単年生牧草としては、(おそらく)
最も利用されている草種。北海道・沖縄を除く地域では、基幹となる草種。
・牧草として利用する際は、種子が結実する前に収穫するため、種子が飛散して繁殖
する可能性は通常はない。
・多くの種苗会社から販売されており、公的機関及び民間種苗会社での品種開発も行
われている。日本で育成されたネズミムギ 32 品種、ホソムギ 13 品種、ネズミホソ
ムギ 2 品種が OECD 種子品種証明制度に基づく適格品種リストに掲載されている(家
畜改良センター:日本草地畜産種子協会:高野,1989)。
・ネズミムギやホソムギは、染色体数が2倍体(2n=14)のもの以外に、4倍体品種
(2n=28)を含む様々な品種が利用型(年内利用型、極短期利用型、短期利用型、
長期利用型、極長期利用型)に応じて育成、利用されている。
・多くの県の奨励品種に登録されており、生産が奨励されている(日本草地畜産種子
協会)。
・比較的耐湿性を有することから水田裏作での栽培に適していることや、さらに生産
性・栄養価・嗜好性等非常に優れており、代替となる種はない。
・(独)家畜改良センターの業務(飼料作物の増殖に必要な種苗の生産・配布 家畜
改良センター法第 11 条第 1 項第 3 号)として、増殖を行っている。
3
留意事項
・河川での分布拡大のほか、三省調査でも法面緑化地周辺で逸出が確認されている。
特に、河川敷への侵入が問題となっている。
・国立公園や、特有な希少種等が生育している河川敷周辺では可能な限り利用を控え
るか、このような場所で利用する場合には、種子の逸出を防止する配慮が必要であ
る。
・牧草利用する際には、牧草地外への種子の逸出を防止するために、結実前に刈り取
り、周縁部の草刈りを適切に行うとともに、利用しない種子については放置せずに
適切に処分するよう努める。その他の非意図的な外来種の混入を防ぐ観点から、種
子証明のある種子の利用が望ましい。
・緑化材料としてイネ科植物を選定するに際しては、緑化目的を達成し得る範囲内に
おいて、可能な限り、草丈の低い品種、種子による繁殖力の小さい品種を使用する
ことが望ましい。同時に、施工等を行う際には、上記の特性を持つ種の播種量や配
合比率を小さくすることにより、使用量を抑えるなどの工夫が望まれる。また、や
みくもに種数を多く播種することは控える。
・なお、生物多様性保全上において重要な地域(自然公園区域特別保護地区や特に保
全が必要な希少種等の生育地等)で緑化を行う際は、生物多様性に配慮した緑化工
法を導入することが望ましい。
・法面緑化に利用する場合には、樹木の植栽・導入と併用することで植生遷移を促し、
外来種の衰退を早めることができる。
・早期に遷移を進め木本群落へ移行させるためには使用量を減らすことでは効果がな
いとの知見がある(藤本ら,2001)。侵食のおそれがない場合では、本種を使用せず
に早期に樹林化を検討することも有効。
・なお、北海道で直播きして適性を試験した結果、キツネガヤ、ハマムギ、エゾカモ
ジグサなど数種はトールフェスクに劣らない生育を示し、植生工事へ実際に使用し
始められている(入山ら,2011)。
対策に関する情報
防除方法
対策事例
・本種に特異的な防除方法はない。実生や幼植物は、抜き取るか掘り取る。海外では、
大きな株に対しては除草剤が散布される(Weber,2003)。
・ボウムギの防除方法としては、アトラジン+アラクロールの混用土壌処理が効果的。
ペンディメタリンの土壌処理、ニコスルフロン、ベンタゾンの茎葉処理は効果小(畜
産草地研究所)。
・東京都葛飾区金町の江戸川の堤防沿いにある小学校ではアレルギー症状のある子供
が多く、そのおもな原因は堤防のネズミホソムギとされた。そのため国土交通省関
東地方整備局江戸川河川事務所が、ネズミホソムギの開花直前の5月上旬と、その
約3週間後、特に配慮する区間についてはさらにその3週間後の2∼3回刈り取る
ことで、ネズミホソムギの花粉の飛散や生育を抑制した(外来種影響・対策研究会,
2008)。
参考文献
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4
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