...

学生情報の 把握と活用 - Kei-Net

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

学生情報の 把握と活用 - Kei-Net
朝日新聞×河合塾 共同調査
ひらく日本の大学
CONTENTS
第13回
p45
概 説 同志社大学 山田礼子教授
p48
調査結果 2014年度
「ひらく 日本の大学」より
p50
事例1 山形大学
IR( Institutional Research )
学生情報の
把握と活用
エンロールメント・マネジメント
p52
事例2 長岡技術科学大学
機関型ポートフォリオ
中退予防
p54
事例3 大妻女子大学
授業に関するアンケート
授業外学修の推進
p56
事例4 関西学院大学
カレッジコミュニティ調査
大学 IR コンソーシアム
朝日新聞社と河合塾教育研究開発
大学入学者選抜への転換、国際化の
ら学生の主体的な学修の支援方策を
本部は、2011 年度から共同調査
「ひ
推進などによって大学進学者の学習
模索する大妻女子大学、1976 年度
らく 日本の大学」を実施しており、
経験がこれまで以上に多様になると
から継続する「カレッジコミュニティ
『Guideline』で調査結果の統計情報
ともに、高校教育や大学教育の方法
調査」に加えて「大学 IR コンソーシア
や、大学の取り組みなどを報告して
も変わっていく中で、学生のことを知
ム」の学生調査を実施し教育改革を
いる。
り、一人ひとりの学生の状況、学内
進める関西学院大学の、4大学の取
今回のテーマは
「学生情報の把握と
の状況に応じた教育を提供すること
り組みを紹介する。
活用」である。
は、ますます重要になるだろう。つ
近年、学生への支援を充実させた
まり大学には、学生の情報を把握し
り、教育改善を進めたりするために、
活用できる体制を構築することが求
学生の「生活状況」
「学修行動」
「学修
められているのだ。
成果」を把握することの重要性が強
そこで概説では、学生に関する多
調されている。そこで、大学ではア
様な情報を把握し、学生支援や教育
ンケートやポートフォリオ、面談など
改善に活用する取り組みである「IR」
を通じて、学生についてさまざまな
(Institutional Research)と、その
調査を行っているが、学内の予算不
際に実施することの多い「学生調査」
足・人員不足により調査の実施が困
について、IR 研究の第一人者である
難、それぞれの調査の担当部署が異
同志社大学・山田礼子教授に解説い
なるために結果を関連付けて分析で
ただいた。さらに、
「エンロールメン
きない、
「学修行動」
を把握する方法
ト・マネジメント」の先進校である山
が確立されていないなどの理由から、
形大学、
「機関型ポートフォリオ」の
効果的に実施できていない大学もあ
活用により中退予防などの学生支援
るようだ。
の充実に取り組む長岡技術科学大学、
しかし、今後は多面的・総合的な
44 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
「授業に関するアンケート」の結果か
Keyword
IR…Institutional Research の略。大学
内のさまざまな情報を収集・分析し、教
育・研究、学生支援、大学経営などに活
用すること。
学生調査…学生を対象としたアンケート
調査。大学での学修経験や学修時間、大
学教育への満足度、高校までの学習経験
などの調査項目から、学生の学びの過
程を把握することが目的。学生調査と、
GPA、試験やレポートの成績などを組み
合わせることで、大学での学修成果を把
握することが可能になる。
エンロールメント・マネジメント
…データに基づいて大学マネジメント・
サイクルを回すこと。学生募集や寄付募
集などを中心とし、入学前のマッチング
のほか、在学中の教育や学生支援の充実、
卒業後の継続的な支援などを行う。
概説
調査結果
事例 1
事例 2
事例 3
事例 4
概説
IRの目的と活用法、今後の課題
山田礼子教授
近年、日本の大学では学内に存在する多様な情報を収集して分析し、
教育改善に役立てるIRが活発化している。
また、IRの一環として学生調査を実施する大学も増えている。
では、そもそもIRとは、学生調査とは何か。なぜ今、必要になってきたのか。
具体的にどのように行い、どう改善に役立てることが望まれるのか。
基本的な概念を、IR研究の第一人者である
同志社大学の山田礼子教授に解説していただいた。
(本文中、敬称略)
教育の質保証、教育情報の公開
認証評価などが IR 活発化の要因
が課題となりました。そのためには、教育に関する客観
的なデータを収集し、学生の学習成果や大学教育の効果
を測定・評価し、教育改善に生かしていく、大学の内部
──まず、IR の定義を教えてください。
質保証のシステムを整備することが必要となり、そうし
山田 IR とは、Institutional Research の略語です。日
た活動を行う IR に注目が集まっているのです。
本語では「機関研究」などの訳語が当てられることもあ
2011 年に教育情報の公表が義務化されたことも要因
りますが、英語のまま「IR」と呼ぶ大学関係者が大半で
の一つです。教育に関するさまざまなデータを収集して
す。日本では近年になって注目されていますが、アメリ
加工し、外部にわかりやすく公開することがこれまで以
カでは以前から取り組まれてきました。1924 年にミネソ
上に求められるようになっています。
タ大学でカリキュラム、学生の在籍率、試験の達成度を
また、私立大学を中心に「エンロールメント・マネジ
研究する調査研究部門として設置されたのが現在の IR の
(注1)
メント」
を行うために IR に注目する大学も多いよう
モデルと言われ、1960 年代以降には、多くの大学で IR
です。例えば、中退が問題となっている大学であれば、IR
を専門に扱う部署を設置するようになりました。
の一環として、どのような学生が中退したのか、高校時
IR の活動内容は非常に幅広く、一義的な定義はありま
代の学習歴などのデータを収集し、大学での学びにス
せんが、私は「エビデンスデータに基づくマネジメント
ムーズに適応できない原因を分析し、中退の予防、学生
の手法」と定義しています。つまり、大学内のさまざま
確保につなげているようです。
な情報を収集し、数値化・可視化して、大学運営や教育
改革の効果を検証し、その分析結果を「教育・研究」「学
生支援」
「大学経営」などに活用する活動が IR なのです。
持続的に学生調査を実施し、データを蓄積
長期的な視点で教育改善につなげることが大切
このように本来の IR は極めて幅広い分野に及びますが、
──教学 IR ではどのような情報を収集するのですか。
私は教学部門に焦点を当てた IR を「教学 IR」と名づけ
山田 教学に関する非常に幅広い情報です。大学入学者
て、専門的に研究を進めています。
選抜の方法や入学試験の成績などの入学に関する情報や、
履修状況、単位取得状況といった教務関連の情報などは
──近年、日本でも IR が注目されるようになってきたの
以前から大学内に蓄積されてきました。また、試験、レ
はなぜでしょうか。
ポート、卒業研究や卒業論文などを通じて学習成果を直
山田 背景の一つには、大学教育の質保証が求められる
接的に把握することも試みられてきました。近年ではさ
ようになってきたことがあります。2004 年以降、全ての
らに、学生が大学でどのような経験をしたか、学生がど
大学が認証評価を、国立大学はそれに加えて国立大学法
のように自己認識しているか、といった情報から学生の
人評価を受けることが義務化され、第三者評価への対応
学習プロセスを把握し学習成果を間接的に評価すること
(注1)エンロールメント・マネジメント
データに基づいて大学マネジメント・サイクルを回すこと。学生募集や寄付募集などを中心とし、入学前のマッチングのほか、在学中の教育や学生支援の充実、
卒業後も含めた総合的な支援をマネジメントする。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 45
が、教育改善を進める上で重要で
<図>アウトカム・アセスメントの方法 あることがわかってきたことなど
から、大学での学習経験などにつ
いて学生にアンケート調査する
「学生調査」に取り組む大学が増
えています<図>。
直接評価
間接評価
学習成果の評価
学習プロセスの評価
内容=科目試験、レポート、プロジェクト、
ポートフォリオ、卒業試験、
卒業研究や卒業論文、標準試験
分野=一般教育、専門分野別
具体的指標= GPA、テスト得点
──学生調査では、具体的にはど
のような項目を調査するのですか。
調査項目は大学によって異なり
内容=自己評価による学生調査
分野=学習行動、生活行動、自己認識、
大学の教育プログラムへの
満足度等成果にいたるまでの過程
具体的指標=信頼性・妥当性の高い質問
項目
・JCIRP
・CEFR
時期=入学時、1 年次終了時、上級学年
時、卒業後
ますが、経験した授業形態、学習行
動、受講態度、学習時間、知識・能
力の獲得状況、大学生活・大学教
育に対する満足度、大学卒業後の
直接評価と間接評価の組み合わせ
標準性の検証
キャリアに関する希望といった項
目を調査する大学が多いようです。
個別性による特色の充実
この中でも重要なのが、学習行
動です。学習行動とは、どのよう
(大学 IR コンソーシアム事業紹介リーフレットより)
に学習に取り組んだか、というこ
とです。
「アクティブラーニング型の授業を経験した」と
すし、入学年度によっても気質などに傾向がありますか
いった授業経験を聞くだけでなく、
「授業に関連してどれ
ら、単年度の学生調査だけではカリキュラム改革などの
だけ主体的に学んだか」
「どれだけ自分で課題を発見して
成果を正確に測定することができない場合があります。
学びを深めたか」といった学生自身の学習への関わり方
また、教育の効果が表れるには時間がかかるため、改革
を聞くことが重要なのです。
したからといって、学生調査の結果がすぐに変わるとは
高校時代の学習経験を調査することも有意義です。今
限りません。数年間にわたってデータを蓄積し、長期的
後、高校教育、大学教育、大学入学者選抜の改革を一体
な視点で教育改革を推進する姿勢が大切なのです。
的に進めることとなっており、高大接続はこれまで以上
に重要になるでしょう。例えば学生調査に「高校時代に
難しい課題に取り組んだか」といった設問を設けて入学
共同学生調査で他大学との比較を通じて
自大学の特徴や課題を明確化
者の傾向を把握し、大学入学者選抜の方法を再考したり、
──近年、複数の大学が協力して実施する共同学生調査
大学での指導方法を改善したりすることが求められます。
も見られるようになっていますね。
また、「孤独であると感じる」
「退学を考えている」と
山田 私は2つの共同学生調査に関わっています。1つ
いった心理的な状態や、教員や友人との関係性など学生
は「大学 IR コンソーシアム」です。このコンソーシア
生活の状況についても質問項目に含めると効果的です。
ムの基盤になったのが、2009 年度の文部科学省戦略的大
近年は大学に適応できない学生が増えていますが、そう
学連携支援事業に採択された「相互評価に基づく学士課
した項目で把握して、支援方法を工夫することで、中退
程教育質保証システムの創出-国公私立4大学 IR ネッ
防止などにつなげることができるからです。
トワーク」です。同志社大学、北海道大学、大阪府立大
学、甲南大学の4大学が共同で、「新入生調査」「上級生
──学生調査で明らかになった課題に対応して、カリ
調査」の2種類の学生調査を実施し、相互評価を生かし
キュラム改革などが進むことも期待されますね。
た教育の質保証システムの整備に取り組んできました。
山田 もちろんです。ただし、そのためには継続的に学
その成果をもとに、全国からより多くの大学が参加でき
生調査を行うことが重要です。学生は毎年入れ替わりま
るようにコンソーシアムを形成し、2015 年1月現在、参
46 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
「ひらく 日本の大学」第13 回 学生情報の把握と活用
加大学は 40 校に上っています。
人情報保護の観点から、個人を特定するデータに関して
もう1つは、
「JSAAP(Joint Student Achievement As-
は自大学しか見ることができないようにしています。
sessing Project)
」です。
「新入生調査(JFS)
」と「大学
調査項目は似たものもありますが、IR コンソーシアム
生調査(JCSS)
」の2種類の調査から成っています。
では、英語運用能力に関する設問を入れているところに
2004 年から研究開発を行い、2013 年末までに 476 大学、
特色があります。ヨーロッパの外国語教育のガイドライ
8 万 2,000 名以上の学生が参加しました。以前は科学研
ンである CEFR(注2)の尺度を用いて、学生の英語運用能
究費補助金を得て実施していましたが、2015 年4月から
力を測定し、大学入学後の伸長状況や、GPA との関連性
事業化し、参加校から参加費を集めて実施・運営するこ
などを分析できるようにすることで、参加大学が国際化
ととしました。
を推進する方策を検討するための材料にできると考えて
います。
──各大学単独の学生調査と比較して、共同学生調査へ
一方、JSAAP は、全大学に共通の設問のほか、各大学
の参加にはどのようなメリットがあるのですか。
が設問を追加できる点が大きな特徴です。大学によって
山田 最大のメリットは、ベンチマーク、つまり他大学
学生の実態や教育内容などの状況は異なり、学生調査を
や日本の大学全体の傾向とデータを比較できることです。
通じて改善したい課題もさまざまですから、それに応じ
大学独自の調査では、経年データの比較で特徴が見られ
た調査を可能にしています。
ても、それがどのような意味を持つのか、客観的に判断
することは困難です。他大学と比較することによって、
自大学の特徴をより客観的に捉えることができ、課題も
高等教育の理論に精通し
統計技術も備えたIR 人材の育成が不可欠
発見しやすくなるのです。
──今後、より充実した IR 活動にしていくために、課題
JSAAPの場合は国際比較も可能です。JSAAPの前身であ
になる点はありますか。
る JCIRP(Japanese Cooperative Institutional Research
山田 IR を充実させるためには、学内に専門の部署を組
Program)はカリフォルニア大学ロサンゼルス校が開発
織して、IR の専門家を常駐させる必要があります。けれ
した全米規模の学生調査を基に開発したほか、韓国の大
ども、日本の大学はそうした体制の構築や、人材の育成
学とも協力することで、日本とアメリカや韓国の学生の
が遅れています。高等教育の理論に通じていなければ適
状 況 を比 較 できるように設 計 しました。2015 年 から
切な調査項目を設定することはできませんし、統計技術
JSAAP を実施するにあたり、調査票を日本の大学の実態
が不足していたのではデータを分析することができず、さ
に合わせて大幅に変更しましたが、学習時間や授業の出
らに学内の事情にも通じていなければ、実際に教育改善
席時間、学習成果など、学生の学習行動等を調べるため
につなげることは難しいでしょう。この点は大きな課題
に重要となる項目については残し、国際比較ができるよ
であり、昨年、日本高等教育学会が初めて IR 人材のため
うにしています。
のワークショップを開催しました。IR コンソーシアムで
も同様のワークショップを実施し、専門家の育成に努め
──2つの共同学生調査には、それぞれどのような特色
ています。
がありますか。
もう1つの課題になるのが、大学執行部の理解です。IR
山田 最も大きな違いは、JSAAP が無記名での調査であ
が充実していても、それを教育改善に活用しようという
るのに対し、IR コンソーシアムの調査は任意で学籍番号
意識がなければ、単なる情報収集に終始してしまうから
を記入させていることです。そうすることで、個々の学
です。大学内で IR の重要性を意識してもらうためにも、
生の成長過程を経年比較できるほか、各大学が個別に持
報告書をわかりやすく作成し、IR で得られた情報の価値
つ情報(例えば各学生の成績や授業への出席状況など)
をきちんと説明・交渉できる IR 人材を育成することが急
と関連付けて分析できるようになっています。ただし、個
務になるでしょう。
(注2)CEFR
Common European Framework of Reference for Languages の略称。「読む」
「書く」
「聞く」
「話す」などの語学のコミュニケーション能力別のレベルを示す
国際標準規格として、世界各国で幅広く導入されている。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 47
概説
調査結果
事例 1
事例 2
事例 3
事例 4
2014 年度「ひらく 日本の大学」より
(注)
2014 年度「ひらく 日本の大学」
では、
「学生に関する情報」として、
「生活状況」
「学修行動」
「学修成果」の把握の状況を聞いた。
ここでは、個々の学生への支援の充実や大学教育改革を進める上で重要となる「学修行動」について、
どのような情報をどのような方法で把握しているのか、統計情報や大学の具体的な取り組みを紹介する。
実施している。学生の生活費、奨学金の受給、居住形態、
学修行動の把握は進んでいない
アルバイト、通学時間など、学生の生活状況を把握する
概説の同志社大学・山田礼子教授のインタビューでも
ことを主な目的とする「学生生活調査」に学修行動に関
紹介したように、近年、学生が大学でどのように学んで
する項目を加えた「学生生活調査」の付帯質問項目は半
いるか、どのような経験をしているか、といった学修行
数程度の大学が実施している。学修過程ならびに各種の
動を把握することが大学教育の課題の一つとなっている。
学修成果(例えば、学修目標・学修計画表、レポート、成
しかし、2014 年度「ひらく 日本の大学」によると、学
績表など)を長期にわたって収集し、学生や教員が参照
修行動は「全学で把握」
「学部・学科ごとに把握」の割合
できるようにした学修ポートフォリオ等の活用は、あま
が低く、生活状況、学修成果に比べると、把握に向けた
り進んでいない。
取り組みが進んでいない<図表1>。
各項目の「全学で実施」の割合を設置者別に見ると、
その理由を探ると、
「学部、大学院
により、めざす学生像が異なるため、
学修行動については調査項目の設定
が難しい(公立大)
」
「学修行動で特
に大学外の行動を把握することが難
しいと感じている(国立大)
」
「学修
成果は試験結果で把握できるが、生
<図表1>生活状況・学修行動・学修成果の把握状況(n = 607)
生活状況
60%
学修行動
52%
学修成果
0
が見られ、学修行動として把握する
内容や、把握の際に用いることの多
いアンケート調査の実施について課
32%
20
40
60
80
100
■全学で把握している ■学部・学科ごとに把握している ■把握していない ■わからない ■その他 ■無回答
ことが困難である。アンケートが多
ている(国立大)
」といったコメント
31%
57%
活状況および学修行動の把握をする
く、教員も学生も協力的でなくなっ
24%
生活状況:居住形態、生活費、奨学金受給状況、アルバイトの状況、サークル・クラブ活動へ
の参加状況など
学修行動:学修時間、学修経験、学修への取り組みの姿勢、大学教育への満足度など
学修成果:専門的な知識・技能、汎用的技能(例:コミュニケーション力や論理的思考力)など、
大学が設定した教育目標の達成度
<図表2>学修行動の把握方法(n = 607)
題を感じる大学もあるようだ。
多くの大学がアンケートで
学修行動を把握
学生アンケート調査
面談
どのような方法で学生の学修行動
「学生生活調査」の
付帯質問項目
を把握しているか聞いたところ、
「全
学修ポートフォリオ等の活用
学で実施」の割合が最も高いのは学
生アンケート調査(74%)である<
図表2>。面談は「全学で実施」は
半数程度だが、
「一部の学部で実施」
まで含めると 77%と、多くの大学で
8%
74%
26%
51%
6%
45%
22%
22%
4%
その他
1%
0
20
40
60
80
■全学で実施 ■一部の学部で実施 ■検討中 ■検討していない ■その他 ■無回答
(図表1〜4とも 2014 年度「ひらく 日本の大学」調査より)
(注)2014 年4月~7月に、国公私立大学 745 校(4年制または6年制の大学、大学院大学は除く)を対象に実施。回答校数 609 校(回答率 82%)。
※7月 25 日までに回答した 607 校で集計・分析
48 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
100
「ひらく 日本の大学」第13 回 学生情報の把握と活用
<図表3>学修成果の把握内容(n = 607)
授業への出席時間
53%
授業に関連する学修時間
30%
27%
授業とは直接関係のない学修時間
36%
11%
授業での学修経験
23%
16%
授業外での学修経験
37%
23%
学修への取り組みの姿勢
53%
14%
大学教育を通じて身についた能力や知識
・大学の教育活動への満足度
35%
38%
42%
1%
その他
1%
0
20%
40%
60%
80%
100%
■把握している ■一部把握している ■あまり把握していない ■把握していない ■その他 ■無回答
全体的に国立大の実施率が高い。特に、
「学生生活調査」
学の教育活動への満足度については「把握」の割合が
の付帯質問項目は公立大・私立大が 40%程度であるのに
38%と高い。
対し、国立大では 70%と、多くの大学で実施している。
その他には、
「図書館の利用状況」
「資格取得状況」
「学
規 模 別 に見 ると、 面 談 は入 学 定 員 3,000 人 以 上 で
修内容、学修時間などの目標」などが挙がった。
22 %、1,000 人 ~ 2,999 人 で 44 %、300 人 ~ 999 人 で
こうして把握した学修行動は、学生の生活状況や学修
49%、300 人未満で 62%と、入学定員が少ない大学ほど
成果とともに、多くの大学が教育改善に活用している。
「全学で実施」の割合が高い。
授業外学修時間や学修経験については
あまり把握が進んでいない
学修行動の把握内容を聞いたところ、把握すべき内容
が学部などによっても大きく異なるためか、全体的に
「一部把握」の割合が高い<図表3>。
把握の必要性が強調されている学修時間については、
半数以上の大学が授業への出席時間を全学で把握してい
る。一方、授業に関連する学修時間、授業とは直接関係
のない学修時間といった授業外学修時間については、
「把
握していない」割合が高く、把握している場合も学部ご
とに行っている大学が多いようだ。授業外学修時間につ
いては、国立大で「把握」の割合が高い。
授業での学修経験、授業外での学修経験、学修への取
り組みの姿勢など、学生がどのような方法で学んでいる
か、学生がどう学びに関わっているかについては、「把
握」の割合が低い。ただし、授業外での学修経験につい
ては、
「一部把握」の割合が 53%と比較的高い。
学生自身が大学での経験をどのように自己認識してい
るかを聞く大学教育を通じて身についた能力や知識・大
以下、具体的な活用方法を紹介する。
<図表4>
「学修行動」の把握結果の教育改善への活用(例)
◆学生の学修時間把握の結果から、学生の主体的な学修を促すことを
目的に、シラバス項目に「授業時間外の課題等」を独立した事項
として記載することを追加した。
(上越教育大学)
◆学生アンケート結果から、学生の不安に思っていること(修学、留
学等)について、説明会や個別指導などの対応を取った。また、修
学に関する学生の要望も考慮し、専任教員の雇用や、新たに授業科
目を開設するなど、カリキュラム改正も必要に応じて行っている。
(高知大学)
◆「学生調査と教務情報による教学IR」
:学生調査(行動調査・達成
度調査)を1年生・3年生(毎年)
、4年生・修士2年生(隔年)
で学籍番号を記入する形式での全数調査を実施し、成績情報等の教
務情報と組みあわせて、学修成果と正課での学びとの関係につい
て分析しカリキュラムの改善等に結びつけている。
(大阪府立大学)
◆学生意識調査にもとづいて、各学部学科は学生の特徴、満足度等を
認識し、カリキュラム改革やその方向性を考える資料としている。
(青山学院大学)
◆「授業外の学修時間が多くない」という調査結果を受けて、アクティ
ブラーニングの導入なども含め、個々の授業での工夫をしている。
それらの工夫を支援するため、FD講演会やFDサロンを開催して
いる。
(昭和女子大学)
◆学修時間調査の実施により、事前事後学修の実施を学生に対して徹
底を図っている。一方、在学生満足度調査、卒業・修了生満足度調
査を毎年実施している中で、学生の意識として課題が重なり荷重と
なっているという指摘がある。そのため、学修時間調査結果および
満足度調査の結果を把握し、各学部・学科で、課題が過重とならな
いように教員間の連携を検討している。
(聖隷クリストファー大学)
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 49
概説
調査結果
事例 1
事例 2
事例 3
事例 4
山形大学
IRを活用して、学生価値創造に組織一体で
取り組む「エンロールメント・マネジメント」
山形大学は、2006 年 7月、エンロールメント・マネジメントの専門部署を発足させた。
2010 年からは、入学前から卒業後まで実施するさまざまな調査の情報を一貫して収集し、
分析するための「総合的学生情報データ分析システム」を構築している。
データの分析結果は各学部の教育や学生支援の改善に役立てられている。
接触情報」を収集。実際に出願・受
科学的マーケティング手法で
大学マネジメント・サイクルを
永続させる
入学前から卒業後までの
情報を結びつけ
相関関係を分析する
エンロールメント・マネジメント
EMを実現するために欠かせない
位」「満足度」「併願校」など約 30
(EM)とはどのような概念なのか。
のが「大学調査(IR)」である。
項目をアンケート調査する。在学中
山形大学EM部の福島真司教授は次
「EM部の方針は、学生の『ため』
は、半期に1回、満足度・達成感調
のように解説する。
に考えるのではなく、学生の『立場
査を実施するほか、成績(GPA)
、
「EMとは、データに基づいた科
になって』考える姿勢を貫くことで
学部によっては授業評価、就職先な
学的なマーケティング手法によって、
す。そのためには、科学的な視点で
どの情報を加えていく。さらに、約
大学マネジメント・サイクルを永続
学生を知り抜くことが重要であり、
5年に1回、卒業後3~ 10 年の卒
させることです。マーケティングと
定量的なデータに加え、満足度など
業生を対象に、社会経験を経た上で
いうと学生募集や寄付募集などをイ
の調査・分析を行っています」
(福島
の大学教育を振り返っての満足度な
メージするかもしれませんが、EM
教授)
どを調査する。この卒業生への調査
ではもっと広い視野で学生を見てい
そこで、2010 年度から「総合的
は、次々回(約 10 年後)から、
「総
きます。入学前のマッチングのほか、
学生情報データ分析システム」の構
合的学生情報データ分析システム」
在学中の教育や学生支援の充実、卒
築に着手し、さまざまな情報を関連
に入学前からのデータが入力されて
業後も含めた総合的な支援をマネジ
付けて分析できるようにした。同時
いる卒業生が対象になる。そうなれ
メントすることなのです。日本とア
期に、無記名だった調査を、できる
ば、どのような経験を積んで現在に
メリカとでは大学制度なども異なり
だけ記名式で実施するようにした。
至ったのか、より詳細な分析が可能
ますが、学生の満足度を高めること
そして、学生個々人のさまざまな情
になるだろう。
が重要であることは共通です。満足
報をシステムに収集し、さらに学生
なお、このシステムを導入したこ
度が高まれば休学・退学の防止に
をID(学生番号)でつなぎ、入学
とに伴って、EM部で実施する調査
もつながります。 そこで、 本 学 で
前から卒業後までのすべての情報を
はすべてウェブ調査に移行している。
は 2006 年 7 月にEMの専門部署を
結び付けられるようにしたのである。
「授業終了後などに、紙で一斉に
発足させました。大学におけるマー
その結果、学生のタイプ別にどのよ
配布して集める方が、回収率は高い
ケティングを、学生の価値を創造し、
うな傾向があるのかを分析すること
傾向があります。例えば、入学時の
その最大化を図るための組織一体と
が可能になった。
調査は紙で実施した頃は9割程度の
なった取り組みと位置づけ、そのた
収集する情報は<図>の通り。ま
回答率でしたが、ウェブ調査に変え
めのデータ分析やマネジメントを支
ずEM部で、オープンキャンパスな
てからは7割程度に下がっています。
援する機能をEM部が担っていま
どに訪れた受験生や、進学雑誌で資
課題ともいえますが、その方が有効
す」
料請求した受験生を対象に「入学前
な意見が収集できるという感触も得
50 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
験・合格・入学したか、入試での成
績はどうだったかなどを追跡調査す
る。次いで入学直後には、「志望順
「ひらく 日本の大学」第13 回 学生情報の把握と活用
<図>山形大学の IR に関する取り組み 福島真司教授
の教員の方が、課題解決につながる
改善案は経験上豊富に出せます」
また、福島教授は、EMやIRを
大学と受験生のマッチングに役立て
ることも視野に入れている。
「現実問題として、全学生の満足
度を向上させるのは困難であり、本
ています。成績を閲覧できるウェブ
が増すとともに、学生の学修意欲を
学の価値を高めるためには、強みと
サイトにアンケートのリンクを張っ
高めることができます。また、第一
なる部分を強化するといった戦略が
て、回答は自主性に任せているので
志望の企業に採用された学生が、ど
必要です。アドミッションポリシー
すが、それだけの手間をかけて回答
の回の就職ガイダンスに参加したの
とすり合わせて、本学が育成を得意
してくる学生は、大学に帰属意識を
か分析することで、どのようなガイ
とする人材像を確立し、それにマッ
強く持って、大学で熱心に学んで成
ダンスが必要なのか、有効性が見え
チした学生の獲得に注力することが
果をあげたいと考えているからです。
てきます。このように、IRの最大
重要なポイントになります。本学の
そのため、こちらが驚くほど自由記
の目的は、各学部の教育や学生支援
場合は、2006 年からEMとIRを
述欄への書き込みが多く、しかも建
の改善に資するものにすることなの
推進してきたことで、本学で成功す
設的な意見が中心なのです。調査を
です」
(福島教授)
るのはどのようなタイプの学生なの
教育改善に生かすには、全学生を合
また、福島教授は、EM部と各学
かを議論し、把握するための情報基
算した統計情報を算出するだけでは
部の教員が連携して調査の設計や分
盤ができつつあります。各大学でそ
意味がなく、こうした意欲的な学生
析を進めることが重要だと指摘する。
うした分析をしっかりと行い、結果
生活を送っている学生の声を拾うこ
「教育や学生支援の改善につなが
を公表していけば、入学者選抜の在
とこそが重要だと考えています」
(福
る調査をするためは、現場の教員と
り方も変わっていくと思います。こ
島教授)
コミュニケーションを図り、解決し
れまでの入学者選抜では、各大学が
たい課題のニーズをくみ取ることが
魅力を伝えて、それに興味を持った
大切ですから、学生情報を分析する
受験生を受け入れていました。けれ
ワーキンググループには全学部の教
ども、どのタイプの高校で、部活動、
員が参加しています。データを分析
生徒会活動も含めてどんな活動をし
では、調査結果は、どのように役
する際にも、必ず現場の教員と一緒
てきて、どのように学んできた人が
立てられるのだろうか。
に議論するようにしています。ある
本学で成功したのかを分析すること
「一部の学部で、過去の資格取得
課題を解決する際の判断材料の1つ
で、大学も獲得したい学生を明確に
者の学期ごとの取得単位やGPAな
として調査データを活用できること
できます。高校にとっても、本学に
ど、学びの過程を追う調査も開始し
は間違いありませんが、データの解
向いている生徒を判断する材料にな
ています。その資格をめざす学生に、
釈や改善策の提案は、システムでは
るはずです。それによって、偏差値
どのような学びが求められるのか、
できません。データさえ把握できれ
だけではないマッチングが可能にな
データで示すことで、指導に説得力
ば、当然ながら、EM部よりも現場
ると考えています」
教育改革の指標のほか
大学と受験生の
マッチングにも役立つ
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 51
概説
調査結果
事例 1
事例 2
事例 3
事例 4
長岡技術科学大学
収集・分析した情報を教育戦略に活用する
「機関型学習ポートフォリオ」を導入
長岡技術科学大学は1976 年に開学した国立大学で、
入学者の約8割を高等専門学校(以下、高専)からの3年次編入生が占めるという特色を持つ。
教育関連情報を蓄積・活用するため、2014 年度から「機関型学習ポートフォリオシステム」を導入。
入学前・在学中・卒業後の情報を収集し、その分析結果を教育戦略の策定に役立てている。
アドミッションポリシーの立案
カリキュラム改善
途中脱落者予防などに活用
報(氏名、学年、学部名、指導教員、
入試種別など)」「履修情報」「成績」
などのデータは「教務システム」か
ら取っている。そこに新たに、
「入学
2015 年度から
「出欠管理システム」がスタート
退学等の情報との関連を分析
長岡技術科学大学では、2011 年
前科目ごと成績」「入試成績」「特待
ポートフォリオのデータを分析す
度に「中長期成長戦略」を策定した。
生種別」
「プレースメントテスト得
ることで、教育支援の効果を測定し
その中で、合理的な教育プログラム
点」
「大学院推薦順位偏差値」「大学
たり、新たな支援方策を検討したり
のマネジメントの一環として、長期
院入試成績」「論文審査評点」「実務
することもできる。
的な教育関連情報を蓄積・活用する
訓練先企業名」「課題研究」「修士論
例えば、2006 年度から取り組ん
方 針 が打 ち出 された。 それを受 け
文テーマ」「教育目標の達成度」「学
でいる、数学や理科などの基礎学力
て、2014 年度に「機関型学習ポー
習サポート室の出席状況」「教職科
に不安を持つ学部1・2年生を対象
トフォリオシステム」を導入した。
目の種別」などの情報も収集・蓄積
に、先輩の大学院生が学修支援を行
ポートフォリオといえば、授業計
し、
「学生カルテ」として教職員が
う「学習サポーター制度」の活用状
画表、レポート、作品、成績表など、
パソコンで見られるようにしている。
況もポートフォリオに記録している。
学びのプロセスを蓄積し、学生が振
さらに、それらの情報の相関性を
「先ごろ、学生の成績と、学習サ
り返りに活用するのが一般的である。
散布図に表し、相関関係を分析でき
ポーター制度の利用状況との関連性
そうした「学生型」ではなく、
「機関
る機能をつけている<図>。例えば、
を分析したところ、制度を活用した
型」と名づけたのは、機関すなわち
「入学時プレースメントテストの成
学生の成績が着実に上昇していると
大学が活用することを主目的とする
績」と「大学院推薦順位(つまり卒業
いう傾向が見られました。こうした
システムだからである。
時の成績)」を比較することで、学士
成果を目に見えるデータとして示す
「入学前・在学中・卒業後の学生の
課程を通じた成長の傾向を把握でき
ことで、弱点を自覚している学生に
多様な情報を収集し、分析するため
る。
「成績評価」と「論文審査評点」
制度の活用を促していこうと考えて
のポートフォリオです。分析結果は、
の散布図を見れば、科目の成績と研
います」(福村教授)
アドミッションポリシーの立案、カ
究する力の相関関係を分析できる。
2015 年度からはさらに「出欠管
リキュラム改善、新たな授業科目の
散布図上の点をクリックすれば当該
理システム」を開始し、ポートフォ
開発、学修支援対策、退学予防など、
学生の個人情報が表示される「ドリ
リオと連動させる予定である。全学
本学のさまざまな教育戦略に活用し
ルスルー」の機能もついている。例
生にICカードを配布し、ICカー
ます」と、eラーニング研究実践セン
えば「入試の成績が良いのに入学後
ドリーダで出席を管理する。
ター長を務める福村好美教授は語る。
の成績が低い」など、全体的な傾向
「それぞれの学生が、いつ欠席した
「 機 関 型 学 習 ポ ー ト フ ォ リ オ シ
から離れた学生がいたときに、その
のかを記録し、3回連続で欠席した
ステム」は、以前から運用してい
学生の状況を確認し、個別の支援が
場合は、その学生に注意を喚起する
た「教務システム」とオンラインで
できるようになっている。
データ連携して開発され、
「学籍情
52 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
『メンタリングメール』を自動送信し
ます。さらに、担当、指導教員が『高
「ひらく 日本の大学」第13 回 学生情報の把握と活用
<図>成績分布の表示イメージ
学生氏名
学生詳細情報
福村好美教授
頻度欠席者リスト』を参照し、早期
相談の内容には成績などに関するも
必要性も感じている
に対応できるようにしています。運
のもあり、低年次はクラス担当教員、
「1年次からの入学者の中には、普
用はこれからですが、データを蓄積
高学年次では研究室の教員が中心と
通科だけでなく、商業高校出身の学
し、例えば『退学者はどの時期から
なって対応している。ポートフォリ
生などもいますから、数学などの履
授業を欠席し始めることが多いか』
オで収集したデータに基づいて相談
修歴はさまざまです。また、高専か
など、出欠状況と成績・退学・休学・
に応じることで、よりきめ細かな対
らの編入者は同様の科目を履修して
留年などとの関連性を分析すること
応が可能になるという。
いるように思われるかもしれません
で、離学防止のための支援方法を検
討していく予定です」
(福村教授)
入学後の学生の様子を
データで示すことで
入学者募集資料として活用可能
近い将来、
「学生型」の
機能も付加することで
全体と比較し課題を発見
が、必ずしもそうではありません。
高専での専門とは異なる学科に進学
する学生もいます。入学前の学習歴
を詳細に調べて、それを踏まえたカ
「機関型学習ポートフォリオシス
リキュラム構築や学生支援を行うこ
テム」は 2014 年度に導入されたば
とが大切になるでしょう。また、卒
ポートフォリオに情報を蓄積する
かりだが、教育改善に役立つという
業後の状況調査も充実させたいと考
ことで、高校・高専の教員や保護者
手応えを得ていることから、次なる
えています。各学生が目標とする業
に提供できるデータも幅広くなった。
構想も進行している。
種・職種に進んだ社会人の在学中の
「入学者募集のため、毎年、全国に
その1つが、冒頭に述べた一般的
履修科目や成績などをモデルケース
51 校設置されている国立高専を全て
な「学生型」の学習ポートフォリオ
として示すことで、卒業後のキャリ
訪問しています。ポートフォリオで、
の機能も付加することであり、2017
アについて明確な目標を持って学ぶ
入学した学生の学びの実態や、成長
年度頃からの導入をめざしている。
ことを期待しています」(福村教授)
のプロセスを示すデータを出身校別
「大学にとっては、各学生のすべて
さらに、2014 年度に文部科学省
に提供することが容易となり、どの
の情報を集約できるメリットがあり
の「スーパーグローバル大学創成支
ようなタイプの学生が入学後伸びる
ます。学生にとっても、自分の学修
援」に採択されたことから、今後は
のかを知ることができ、進路指導の
履歴を確認することで、進路決定を
外国人留学生の受け入れとともに、
参考として、高校・高専の先生方の
見据えた履修計画が立てられ、目的
長岡技術科学大学の学生の海外留学
関心は高くなると考えています」
(福
意識が芽生え、学修意欲が喚起され
も増加すると考えられる。そこで、
村教授)
ることを期待しています」
(福村教授)
学生の海外渡航歴などもポートフォ
また、以前から年1回、オープン
また、福村教授は、入学前の学習
リオに記録し、各学生への支援や今
キャンパスの際に、在学生の保護者
歴や、卒業後の状況などの調査をよ
後の教育改善に活用していく予定で
を対象とした懇談会も実施している。
り充実させて、教育改善に役立てる
ある。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 53
概説
調査結果
事例 1
事例 2
事例 3
事例 4
大妻女子大学
「授業に関するアンケート」の分析結果をもとに
カリキュラムを改革し、学習支援システムを導入
大妻女子大学では、10 年以上前から「授業に関するアンケート」を実施している。
アンケートの集計・分析結果から、学生の自主的な学習時間が不足している実態が明らかになった。
その課題を解決するために、2014 年度から、カリキュラム改革や、
新しい学習支援システムの導入など、さまざまな教育改善を進めている。
「授業の進め方」
「授業の内容」
「授業への取り組みと成果」を
5段階で評価
学長は語る。
が増え、授業改善に役立てられるよ
実施時期は、前期は 6 月下旬から
うになっています」(栗原副学長)
7 月上旬、後期は 11 月下旬から 12
月上旬。全科目で実施する学部もあ
大妻女子大学では、各学部のFD
るが、基本的には対象科目は学部で
委員会が中心となって「授業に関す
選定しており、全学の平均では約 7
るアンケート」を実施している。
割の科目が対象だ。
「早い時期から、学部ごとに類似
質問項目は大別して3分野から成
予習・復習時間を増加させるため
科目を精選し
段階的な履修も促進
「授業に関するアンケート」を集
(注)
で評
計・分析する中で、いくつかの課題
の調査を実施していました。ほとん
り、学生は各項目を5段階
が浮上してきた。
どの学部が導入するようになったこ
価する<表>。
「『教員の授業の進め方』『授業の
とから、2007 年度から全学的な取
そのほかに、『総合的な印象』を
内容』に関しては、全ての項目が5
り組みに発展させ、アンケートの書
評価する項目と、学部で質問を設定
段階で平均が4点台と、高い評価を
式や質問項目なども共通にしました。
できる自由設定欄、また裏面には良
得ているのですが、
『授業への取り組
学生の意見・要望を踏まえた授業改
かったと思う点、改善した方が良い
みとその成果』に評価が低い項目が
善に役立てるとともに、全学的な学
と思う点、その他の意見や要望など
集中していたのです。特に評価が低
生の実態把握が可能になり、教育改
3件の自由記述欄を設けている。
かったのは “ この授業のために予習
革の貴重な資料になっています」と、
「自由記述欄は、このアンケート
または復習を欠かさなかった ”“ 授業
大学教育推進機構長である栗原裕副
が定着するにつれて、建設的な意見
中質問したり、考えを述べたりして
<表>「授業に関するアンケート」質問項目例
1 先生のこの授業の進め方について 2 この授業の内容について
3 この授業への取り組みと
その成果について
1 先生の話し方は明瞭で聞きやすかった
2 教材資料提示
(板書、プリント、パワーポイント・
ビデオ等)は授業の理解に役立った
3 私語等の授業を妨げる行為に対して先生は
適切な措置をした
4 授業は学生の理解度を考慮しながら進めら
れた
5 質問や意見を引き出し、学生の積極的な参
加を促した
6 先生の学生に対する接し方は公平だった
7 授業は先生の十分な準備と熱意をもって行わ
れた
14 この授業にどの程度出席しましたか
15 この授業のために毎回予習・復習合わせて
どの程度自習しましたか
16 授業中質問したり、考えを述べたりして積
極的に参加した
17 この授業を受けて、さらに発展的に学びた
いと思った
18 この授業によって、新しいものの見方がで
きるようになった
8 授業は、学習の目標がはっきり示された
9 授業の構成は体系的で把握しやすくまとまっ
ていた
10 授業の内容は興味深いものだった
11 授業の内容はよく理解できるものだった
12 授業は自分の将来にとって意味があると思
う
13 「授業内容」
(シラバス)は科目の選択や学習
の参考になった
(2013 年度「授業に関するアンケート」から一部抜粋)
(注)
「そう思う」
「ややそう思う」
「どちらともいえない」
「あまりそう思わない」
「そう思わない」の5段階。
質問 15 については、(5 = 3 時間以上、4 = 2 時間以上、3 = 1 時間以上、2= 1 時間未満、1=していない)の5段階。
54 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
「ひらく 日本の大学」第13 回 学生情報の把握と活用
積極的に参加した ”“ 授業科目の選
導入されたのが学習支援システム
択や学習時に『授業内容』
(シラバ
「manaba」 である。 ウ ェ ブ 上 で講
ス)は役立った ” の3項目です。そ
義資料の配布やレポート提出、小テ
こで、最も平均値の低かった授業の
ストによる理解度チェックなどの機
ための予復習について、より具体的
能がある。インターネット掲示板の
な実態を調査するために、2013 年
機能もあり、教員に質問したり、学
度に質問項目を変更し、予習・復習
生同士の議論の場にもなっている。
い取り組みが少なくありません。他
の時間を問う項目にしました。する
中には、授業に役立つ動画・音声な
方で、学部学科相互の連携と全学的
と、平均点は約 2.00 点(前期 1.98
どを配信して、それを見てから授業
な組織活動が十分でなかったという
点、後期 2.01 点)と、予習・復習を
に臨むように指示することで予習を
自覚があって、2013 年度に大学教
していないか、1 時間未満の学生が
促す教員もいる。
育推進機構という機関を設けまし
多いことがわかったのです。ある程
「2014 年度に改革が始まったばか
た。全学的な視点で本学の教育の点
度予測はしていたものの、こうして
りですから、成果の検証はこれから
検、研究、立案、改善、推進という
数値で示されると、教育改善の必要
ですが、一定の手応えを感じていま
任務を負っています。全学の意思を
性を強く感じざるをえませんでした」
す。将来的には、授業の枠を越えて、
結集して、一つひとつ改善を積み重
自分なりの課題を見つけ、追究する
ねていくこと、これが最大の課題で
そこで、FDの研修会や講演会な
姿勢を養うことが目標です」
(栗原副
す。学生を対象とした組織的調査に
どを重ねた上で、2014 年度から、多
学長)
は、 すでに触 れた『 授 業 に関 する
(栗原副学長)
様な取り組みを導入している。最た
るものはカリキュラムの改革だ。
「荻上紘一学長が単位の実質化の
大学教育推進機構を発足させ
全学的な取り組みを強化
栗原裕副学長
アンケート』と『学生生活実態調査』
があり、主要な学内IRとして毎年
実施されて蓄積もあるので、総合的
方針を打ち出したこともあり、さま
調査結果を反映した教育改善を行
に活用しなければなりません」と、
ざまな改革を進めています。まず、
う一方で、栗原副学長は、いくつか
栗原副学長は語る。
開講科目数を精選しました。それに
の課題も感じている。
すでに、同機構の主導で、2014 年
よって、先生方が一つひとつの科目
「目下、個人的な見解ですが、現在
度から「新入学生の意識調査」が始
の準備に注力できるようにし、双方
の『授業に関するアンケート』の調
まった。高校時代の学習経験や学生
向型授業の導入や学修成果の確認を
査項目には、授業に責任を持つのは
の気質に関する質問など、全 66 項目
密に行うなど、実りある学びを実現
教員であり、自分は受け身の存在だ
を調査している。入学前の学生の実
し、学生の1科目あたりの学習量を
という印象を学生に与えてしまうよ
態を把握した上で、適切な初年次教
増やすことが狙いです。また、幅広
うな項目もあります。けれども、授
育をはじめとする大学教育を提供す
い年次で履修可能だった科目は、最
業は教員と学生が一体となって作り
ることが目的である。
も適した標準履修年次を定めるなど
上げるものであるはずです。特に学
今後の目標は「授業に関するアン
しています。大学側からある程度の
生の主体的な学びの重要性が指摘さ
ケート」や「新入学生の意識調査」
目安を示すことで、より体系的な学
れており、大学でも、双方向型のア
を、学生の学修成果と結びつけなが
びの実現を期待しています」
(栗原副
クティブラーニングがより一層活発
ら、より効果的な教育改善を行うこ
学長)
化していくと考えられます。そうし
とだ。2015 年度から、英語につい
さらに、授業時間外の自主的な学
た大学教育の変化を反映させた調査
ては、大半の学部で入学時にプレー
びを促進するために、シラバスへの
項目を考える必要があるでしょう」
スメントテストを実施して、習熟度
予習・復習の具体的な方法の記載も
最大の課題は、全学的な取り組み
別のクラスを編成する。学力成績を
定着しつつある。
を充実させることである。
既存の学生調査と関連付けることで、
そうした自主的な学習を支援す
「本学は5学部1短大を擁してお
さらなる教育改善につながることだ
る目 的 で、 同 じく 2014 年 度 から
り、学部単位の個性的で独立性の高
ろう。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 55
概説
調査結果
事例 1
事例 2
事例 3
事例 4
関西学院大学
「カレッジ・コミュニティ調査」を継続して実施
大学IRコンソーシアムの共通学生調査にも参加
関西学院大学では、学生調査を実施する大学が増加する以前の 1976 年度から、
学生の実態を把握するために「カレッジ・コミュニティ調査」を実施している。
2010 年度からは、大学IRコンソーシアムの共通学生調査にも参加している。
さまざまな調査を教員、職員の協働体制で取り組んでいるところに特色がある。
きたことで、時系列的な変化を見ら
から課題を把握し、教育改善のため
れることが本学の調査の特徴の一つ
に、学内の施策提言に生かしていく
です。2014 年 12 月には、調査の成
ことが重視されるようになってきま
果をまとめ『学生たちの日々 1976–
した。そこで 2010 年度から定例的
関西学院大学は学生の大学生活の
2010』
(関西学院大学出版会)を刊
に開催している『カレッジ・コミュ
実態や、目的意識・価値観、心理的
行しました」
(教務機構事務部・中村
ニティ調査』を作成・実施するワー
適応を把握することを目的に、1976
洋右氏)
キンググループに、調査を主導する
年度から「カレッジ・コミュニティ
ただし、質問項目は少しずつ見直
高等教育推進センターだけでなく、
しや追加を行っている。その狙いを、
多様な部署の職員にも参加してもら
「入学動機」
「大学生活の実態」
「目
高等教育推進センターの江原昭博准
うようにしました。それによって、
的意識・価値観および適応」
「大学施
教授は次のように語る。
教育現場の問題意識に合わせて質問
設」
「大学生活の充実度・評価」の5
「調査開始時には、『カレッジ・コ
項目を見直し・追加することが可能
つの調査項目については、1976 年度
ミュニティ調査』は、学生の生活実
になっています。多くの大学の学生
の調査開始時からほぼ共通している。
態を研究することをめざしていまし
調査では、教育学分野の教員が主導
「長年、同じ項目で調査を継続して
た。しかし、近年は学生調査の結果
して質問項目を作成していると思わ
「教職協働」の組織で
現場に即した質問項目を
設定し改善につなげる
(注)
調査」
を実施している。
<図>第 17 回(2012 年)
「カレッジ・コミュニティ調査」調査内容(抜粋)
1. 入学動機
(1)大学への進学動機
(2)関西学院大学への進学理由など
2. 大学生活の実態
(1)履修登録と出席状況
(2)生活時間
(3)諸活動の重視度
(4)大学教員との接触
(5)留学生や外国人教員との接触
(6)親しい友人
(4)海外留学の経験・期間
(5)重視する暮し方
(6)大学生活への心理的不適応
4. 大学施設
(1)アメニティ
(2)通学手段
れますが、そこに大きな違いがある
のです。職員が自発的に提案した質
問項目ですから、調査結果を改善に
つなげていこうという意欲も高まり
ます。学生調査を教育改善に生かす
ためには、こうした体制をいかに構
(3)大学での昼食
築するかが、成功の鍵を握るのです」
(4)喫煙
実際に、
「授業、予復習・宿題、課
(5)図書館サービス
5. 大学生活の充実度・評価
外活動、アルバイト、交友に費やす
(7)大切だと感じている人々
(1)学生生活の充実度
時間」や「海外留学の経験」などの
(8)情報収集の手段
(2)周囲に関学への入学を勧めるか
(9)コミュニケーション手段
(3)関学での生活が役立つか
質問項目は、職員からの提案で追
3. 目的意識・価値観および適応
6. 大学環境の認知
(1)スクールモットー・使命の認知・理解度
(1)大学環境調査について
(2)在学中に身につけたい知識や能力
(2)全体的な所見
(3)在学中にしておきたいこと
(3)属性別に見た特徴
加・修正された。
2012 年度調査では、調査項目に
「入試種別(一般入試・センター入
試・推薦入試など、どの選抜方法で
(注)カレッジ・コミュニティ調査
1976 年度から隔年で実施。2012 年度調査は全学部学生から系統抽出法により5分の1を抽出し、留学中の学生などを除いた 4,472 名を対象とした。
郵送による質問紙調査で、回収率は 24.6%。例年、回収率は 20 ~ 25%程度と、郵送による調査では標準的な回収率である。
56 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
「ひらく 日本の大学」第13 回 学生情報の把握と活用
入学したのか)
」と「GPA」を盛り込
み、既存の項目との関連性を分析し
た。GPA については、
「GPA が低い
学生ほど、履修登録講時数が多い」
江原昭博准教授
「すべての履修科目に出席する割合
永井良二課長補佐
中村洋右氏
は、GPA3.00 以 上 の学 生 は 95.1 %
だが、1.00 未 満 の学 生 は 33.3 %」
あります。1つはベンチマーキング、
シアムの共通学生調査は、他大学と
などの特徴的な結果が出た。学習効
つまり調査結果を他大学と比較して、
の比較だけでなく、学内の他学部と
果を高めるには、むやみに多くの科
自大学の強みや課題などを明らかに
の比較もできます。教育改善の進む
目を受講するよりも、ある程度科目
することができる点です。もう1つ
他学部の様子を知ることで、調査結
を絞り込んで集中的に学ぶことが重
は、学籍番号を記入させるため、学
果に関する勉強会を開催するなどの
要ということがデータで示されると
生個人の変化・推移を分析できる点
動きも見られます」(江原准教授)
ともに、履修単位数の上限を定める
です。本学では『カレッジ・コミュ
このように、教員、職員が協働し、
だけでなく GPA ごとに履修モデルを
ニティ調査』や卒業生調査を実施し
全学部が一体となった取り組みに
提示する必要があるなど、履修指導
ていますが、いずれも基本的には無
なっているところが、関西学院大学
の再検討のきっかけともなっている。
記名です。しかし、例えば卒業生調
の大きな強みといえるだろう。
さらに、調査の結果は学内に公開
査でも学籍番号を書いてもらえば、
「カレッジ・コミュニティ調査」と
され、教育改善以外の用途でも活用
コンソーシアムの共通学生調査と連
コンソーシアムの共通学生調査には
されている。
動させることもできるようになり、
重複する質問項目もあることなどか
「本学の大学案内『空の翼』に、
在学中の学びと、卒業後のキャリア
ら、統合すべきという意見もあるが、
にどのような関係性があるのかなど、
当面は2つを併存させる予定である。
フは将来に役に立つ』といった調査
多様な分析が可能になると考えてい
というのも、それぞれの調査ならで
結果を掲載しています。受験生に本
ます」
(江原准教授)
はのメリットがあるからだ。
『大学生活は充実している』
『関学ライ
学の魅力や、学生の特性をアピール
する資料にもなっているのです」
(教
務機構事務部・永井良二課長補佐)
学部の協力のもとに
実施することで
教員に当事者意識が生まれる
「生活費、保護者の職業などは、無
記名ならば聞きやすい項目ですが、
学籍番号を記入するとなると、抵抗
感を示す学生もいるでしょう。また、
共通学生調査により
他大学との比較が可能に
コンソーシアムの共通学生調査は、
例えば駐輪場の整備を検討するため
学部の協力のもとで実施している。
に駐輪場所の実態を調べる場合、回
もう一つ、関西学院大学は 2010
現在、1年生は全員が対象だが、2
答者が特定されるのであれば、指定
年度から、大学IRコンソーシアム
~4年生については、対象学生の選
の場所以外に駐輪していることを正
(46 ページ参照、以下、コンソーシ
定は学部の裁量に委ねており、各学
直に書くはずもありません。施策立
アム)の共通学生調査にも参加して
部が適切と考える授業の中で調査を
案に生かすための質問項目の中には、
いる。調査には「一年生調査」と2
実施している。
無記名の方が適している場合も少な
年生以上を対象とした「上級生調
「手間はかかりますが、この方法を
くないのです。本学の学生調査は教
査」があり、参加校がそれぞれの状
とることで、教員が当事者意識を持
育や施策の改善に役立てることを最
況に応じて、実施する調査や実施方
つ意 義 が大 きいと考 えています。
大の目的にしていますから、それぞ
法(全学生を対象とするか抽出調査
トップダウンで指示されて動くので
れに合った調査を残す意義は大きい
か、アンケート用紙を配布するか
はなく、学部の教員が調査に主体的
のです。もちろん、必要な部分につ
ウェブ調査か、など)を選択できる。
に関与しているという意識が生まれ
いては整理統合して、より充実した
「コンソーシアムの共通学生調査
ることで、調査結果を活用しようと
調査内容にしていきたいと考えてい
に参加するメリットは、大きく2つ
いう気運が高まるのです。コンソー
ます」(江原准教授)
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 57
Fly UP