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ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価

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ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
Corporate Finance
グローバル
クロスセクター
格付基準
ハイブリッド証券およびその他の資
本証券の資本性評価
アナリスト
要約
Gerry Rawcliffe, London (Banks)
+44 20 7682 7419
[email protected]
Ellen Lapson, New York (Corporates)
+1 212 908 0504
[email protected]
Martha Butler, Chicago (Insurance)
+1 312 368 3191
[email protected]
Sharon Haas, New York (Banks)
+1 212 908 0362
[email protected]
Michelle De Angelis, London (Corporates)
+44 20 7417 3499
[email protected]
Andrew Murray, London (Insurance)
+44 20 7417 4303
[email protected]
ハイブリッド証券およびその他の資本証券とは、広範囲にわたる資本市場商品を指
し、その厳密な定義はセクターや国によって異なる。フィッチ・レーティングス
(フィッチ)では、明瞭化を図るため、当該用語を相互に代替可能なものとして使
い、普通株にも一般の有利子負債にも該当しないすべての資本市場商品と定義する。
具体的には、優先株、信託型優先証券、繰延条項付証券、各種転換証券などが含ま
れる。
本レポートはハイブリッドおよびその他の資本証券の資本性評価に関するフィッチ
の基準をまとめたものである。具体的には
• 事業会社セクターと金融セクターのハイブリッド証券およびその他の資本証券に
対する資本性評価に関して、フィッチの一貫した包括的手法を概説する。
• 2006 年 9 月 27 日付で公表された、前回の基準に代わるものである。
• 本文または別添のいずれかに、ルックバック条項やリプレイスメント条項に関す
る説明資料を含む。
修正
• 過去 12 ヵ月間に問い合わせが多かった内容について明確化している。
本レポートは、2008 年 6 月 25 日付で当初
公表されたものであり、以下の変更に伴い
更新された。
• 過去に公表されていない格付基準の重大な変更については含まれていない。2008
年 5 月 13 日、フィッチは転換前のステータスが一般債務となる強制転換証券また
は金利繰延メカニズムを備えていない強制転換証券について、転換前の資本性評
価の基準となる年数を変更すると発表した(17 ページ参照)。当該変更による影
響を受けた証券は極めて限定的で、既存の資本性評価を変更の適用対象外とする
ことはなく、またこの変更に伴う格付の変更もなかった。
本レポートの別添 5 で説明していたハイブ
リッド証券の格付に関して、2009 年 12 月
29 日付で公表された格付基準レポート「ハ
イブリッド証券の格付」で更新されたため
削除された。当該レポートは、フィッチの
ウェブサイト www.fitchratings.co.jp から
入手可能となっている。
目次
ハイブリッド証券およびその他の資本証券
の資本性評価 ................................. 1
要約 ............................................ 1
セクション 1 - 資本性評価の根拠 .... 2
セクション 2 - ハイブリッド証券および
他の資本証券の評価 ......................... 3
セクション 3 - トラック A-非転換型証
券 ............................................... 5
セクション 4:トラック B - 転換証券15
別添 1 - ルックバック制約 ............ 21
別添 2 - リプレイスメント条項 ....... 26
別添 3 - 代替利息決済メカニズム .... 28
別添 4 - フィッチの格付分析における負
債と資本の連続性の適用.................... 30
別添 5 - ハイブリッド証券の格付とノッ
チング ......................................... 33
別添 6 - 一般的な種類のハイブリッド証
券の分析例 .................................... 34
目次 ............................................ 36
今後、フィッチはすべての市場参加者が、極めて専門性の高い分野におけるフィッ
チの手法について、明確かつ包括的な理解が得られるよう、ベースとなる基準、続
いて公表される説明資料および詳細なコメントを定期的にまとめるつもりである。
全体として、フィッチは原則に基づくアプローチを採用しており、当該原則は、経
験的な証拠により、可能な限り公開される。フィッチは、企業が危機的状況に陥っ
た際、ハイブリッド商品が企業の債務履行能力と他の債務保有者に与える影響につ
いて検証する機会を求める。(例として、2007 年 5 月 11 日付のスペシャルレポート
「Hybrid Securities: An Empirical View」を参照されたい。このレポートはフィッチ
のウエッブサイト www.fitchratings.com で閲覧可能である。
範囲
本ガイドラインは、利用可能なすべての救済手段を行使することが想定される非関
連会社の投資家が投資したハイブリッド商品について評価するためのものである。
関連会社に資本注入する企業では、投資の税効率の観点から、一般的なハイブリッ
ド・ストラクチャーを利用するケースが頻繁に見られる。こうした場合、フィッチ
の格付委員会では異なる基準を適用する可能性がある。本格付基準レポートの一部
がこうした場合における一般的な指針となる可能性はあるが、フィッチのアナリス
トはグループ内部の全体的な戦略、財務上の方針および慣行も考慮し、資本構成に
おけるハイブリッド証券の上限を柔軟に解釈する可能性や、本ガイドラインとは異
なる対応を取る可能性がある。
www.fitchratings.com / www.fitchratings.co.jp
2009 年 12 月 29 日
Corporate Finance
• ハイブリッド証券やその他
資本証券に関するフィッチ
の調査資料はウエッブサイ
ト www.fitchratings.com/
hybrids で閲覧可能
フィッチの資本性評価の手法は、すべての格付水準、すなわち投資適格および非投
資適格の発行体双方に適用される。しかし、特定の状況においては、非投資適格の
発行体のハイブリッド商品に異なる対応が取られる可能性もある。当該ケースにつ
いては、本格付基準レポートの関連するセクションで明確にする。
セクション 1 - 資本性評価の根拠
• 1.1 資本性評価とは
• 1.2 負債と資本の連続性
• 1.3 資本構成におけるハイブリッド証券の上限
1.1
資本性評価とは
資本性評価とは、発行体の資本構成および財務レバレッジに関するリスク調整後の
評価において、証券がどの程度の負債性または資本性を有しているかについて、フ
ィッチの見解を示す分析上の概念である。この資本に関するリスク調整後の評価は、
フィッチの発行体デフォルト格付(IDR)の裏付けとして利用される。IDR は、ある
発行体が破綻し、債務不履行に陥る可能性について示す指標である。
資本証券やハイブリッドは、財務的困難、支払不能および破産が生じた場合に(そ
の発生可能性にかかわらず)、当該商品が発行体の存続可能性や一般債務に与えう
る影響に関して評価される。
ハイブリッド商品の一部または全部を資本に配分するフィッチの判断の決め手とな
るのは会計基準ではない。財務報告基準がフィッチの分析評価を決定づけることは
ないが、会計基準の変更により、フィッチが財務諸表から得たデータに対する調整
を修正する可能性はある。
1.2
負債と資本の連続性
下の表 1 は、個別証券の資本類型の特性をフィッチが分類し、その概要を示すもの
である。
表 1:負債と資本の連続性
クラス(%)
クラス E-資本性が非常に高い
クラス D-資本性が高い
クラス C-資本性が中程度
クラス B-資本性が低い
クラス A-負債(資本性なし)
資本性
100
75
50
25
0
負債性
0
25
50
75
100
出所:フィッチ
たとえば、ある資本証券がクラス D に分類された場合、元本額の 75%が資本に、
25%が負債に配分されたうえで、フィッチの資本性調整後財務レバレッジおよび資
本比率として計算される。ただし、金利カバレッジ比率が計算されるセクターでは、
ハイブリッド証券に対して、パーセンテージで示される当該配分を適用せず、代わ
りに、まず予定されているすべての支払いを対象にカバレッジ比率を計算し、次に
繰延不可能な支払いだけでカバレッジ比率を計算する。
1.3
資本構成におけるハイブリッド証券の上限
フィッチは、ハイブリッド証券から導き出される資本性のうち、発行体の調整後資
本に算入する額について、全業種で一律の上限を設定する。上限は、連結グループ
または非連結の企業単体の適格資本の 30%とする。この上限を超えるハイブリッド
証券は、負債として扱う。適格資本に関するフィッチの正確な定義はセクターによ
って異なるが、通常、コア株主資本に各種分析上の調整を加え(特定のセクターに
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
おける営業権の控除など)、そこに適格ハイブリッド資本の金額を加えたものとな
る。
• ハイブリッド証券の最大適
格資本=30%×(コア株主
資本/70%)
調整後資本総額の源泉としてのハイブリッド証券と資本証券に上限を設定すること
には、いくつかの理由がある。第一に、大半のハイブリッド証券は、発行体の財務
状態が健全な場合や、悪化していても困窮するには至っていない場合、負債に近い
性質を持つことである。具体的には、流動性危機に繋がる事態を回避するため、ま
たは債務リストラクチャリング前後に金融市場からの資金を確保するために、経営
陣としては、繰延条項があっても、ハイブリッド証券について予定通りの定期的な
利払いを継続せざるを得なくなる。また、経営陣がハイブリッド証券の配当停止条
項の発動を回避しようとする可能性もある。加えて、償還を要求または期待する権
利がない普通株式と異なり、ハイブリッド証券には通常、契約により定められた満
期または実質的な満期がある。さらに、ハイブリッド証券の多くは、税制を利用し
た仕組みとなっているため、税制に変更があれば、発行体は何らかの経済的な打撃
を受ける可能性がある。この種の証券は、限定的な額で利用すれば、柔軟性を高め
ることができるが、財務構造がこれに大きく依存すれば、上記のような状況におい
て、発行体の柔軟性が低下することになるであろう。
分析上、技術的な資本指標よりも、企業の手元流動性が大きな意味を持つセクター
である事業会社が発行体の場合、ハイブリッド証券や資本証券に適格資本の一定割
合としての、硬直的な上限を厳格に適用する必要はない。たとえば、過去の評価損
により、帳簿上の株主資本が極度に少ない、またはマイナスとなっている発行体の
場合、公式にこだわるあまりにハイブリッド資本のメリットを制限することは妥当
ではないであろう。このような場合、格付委員会は個々の事情に応じて、ハイブリ
ッド証券などにより多くの資本性を容認することができる。たとえば、アナリスト
が株主資本の簿価の代わりに標準化価値を使う場合や、資本注入計画の実施がもた
らす効果を考慮する場合がある。
資本性評価が持つ分析上の意味合いに関する詳細は別添 4「フィッチの格付分析に
おける負債と資本の連続性の適用」を参照されたい。
セクション 2 - ハイブリッド証券および他の資本証券の評価
• 2.1 中核的な分析項目
•
2.1.1 損失吸収能力
•
2.1.2 財務上の柔軟性
•
2.1.3 転換性
• 2.2 ウィークリンク・アプローチ
• 2.3 規制の影響
2.1
中核的な分析項目
フィッチでは、資本性は次の 2 つの分析項目から導かれると考えている。
• 損失吸収能力
• 財務上の柔軟性
ハイブリッド証券に対してフィッチが資本性を配分するのは、この 2 つの中核的項
目を兼ね備えている場合である。資本証券がこれ以外のいかなる優位性を備えてい
ようと、この 2 つの特性を備えていない場合、フィッチは当該証券を純粋な負債と
判断し、資本性を認めない。たとえば、100 年満期の普通債や、利払い繰延条項のな
い優先順位の極めて低い普通債には資本性が認められない。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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ハイブリッド証券の大半は、様々な方法でこの 2 つの特性を満たしており、その分
析に用いられるのがフィッチの「トラック A」アプローチである。特記すべき点とし
て、こうした特性を実現するもう 1 つの方法がある。それは強制転換性または資本
証券の先売りと購入により実現されるものであり、これに対応するのが、フィッチ
の「トラック B」アプローチである。
2.1.1 損失吸収能力
破綻や債務リストラクチャリングの前後に損失を吸収するハイブリッド証券の特性
と、その結果として、ハイブリッド証券が一般無担保債権者などの回収にどの程度、
寄与できるかによって、資本性が導出される。
2.1.2 財務の柔軟性
財務的困難な状況において、ハイブリッド証券により発行体が確保できる財務上の
柔軟性からも、資本性が導出される。通常、こうした柔軟性はデフォルトを発生さ
せることなく、金利の支払いを回避または繰延べできる能力や、デフォルトを引き
起こす可能性のある、負債で見られるようなコベナンツ条項(制限条項)がないこ
と、永続性の強さによりもたらされる。欧州の銀行監督当局と異なり、フィッチは
永続性が財務上の柔軟性を高める一つの要素であり、それ自体は中核的要件ではな
いと考えている。
2.1.3 転換性
既述のとおり、株式への強制転換や、事前支払いによる先売りと購入も損失吸収と
財務の柔軟性に寄与する。これに対応するのが「トラック B」アプローチであり、セ
クション 4 で詳述する。この点に関して、転換が損失吸収の一形態として認識され、
「トラック A」で分析されるのは、ストレス・シナリオか清算の場合だけであること
に留意すべきである。トラック B で分析されるのは、基本的には、投資家が将来、
発行体の普通株や優先株を購入することを確約し、事前に支払いを行う純粋な強制
転換の場合に限られる。
2.2
ウィークリンク・アプローチ
損失吸収能力と財務上の柔軟性という 2 つの中核的要素は絶対的なものではなく、
その有効性に応じて(すなわち、どの程度株式に近いかにより)、ある程度の妥協
が可能である。したがって、各中核的特性は複数の二次的特性の影響を受ける。こ
うした二次的特性の詳細については、本レポートの後項で取り上げ、必要な場合に
は別添でさらに詳述する。しかし、「トラック A」での、こうした二次的特性の適用
は多くの場合、ウィークリンク・アプローチを基にしたものであり、配分される資
本性の大きさは、ハイブリッド証券が有する最も強い負債特性によって制約を受け
ることになる。これにより、「トラック A」の証券では、ある点では過剰な柔軟性が
認められ、他の点では非柔軟性から企業がデフォルトする恐れがある場合、高い資
本性を達成することができなくなる。しかし、ウィークリンク・アプローチはフィ
ッチが用いる 1 つの手法であって中核的原則ではない。本ガイドラインではウィー
クリンク・アプローチが適用されない分析のいくつかの段階についてセクション
3.2.1 で説明している。
2.3
規制の影響
資本性に対するフィッチの見解は、証券自体の特性に加えて外生的要因の影響も受
ける。このうち、最も重要なものは、ハイブリッド証券の基礎的な契約条項と比較
して、発行体がハイブリッド証券の特性から得られる柔軟性に対して、規制が及ぼ
しうる影響である。たとえば、規制当局がクーポンの繰延べを強いる可能性、繰上
償還オプション行使の許可を与えない可能性または発行体に対して最終満期におけ
る証券の償還を認めない可能性すらある。
そのため、ハイブリッド証券に与えられる資本性の程度は、業種によって大きく異
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
なる可能性がある。この規制効果は、銀行(および銀行持株会社)、証券会社・ブ
ローカー、一部法域の金融会社で最も顕著にみられ、次いで保険会社でも見受けら
れる。一方、事業会社には、通常、規制上の影響が及ぶことはない。銀行または保
険業界内であっても、当該規制による影響は国によって異なる可能性があり、重大
な影響を及ぼす場合もある。
損失吸収
主な手順の概要
• ステップ 1:発行体が高度
に規制されている業種か
否かを判断
• ステップ 2:清算時の優先
順位を判断
セクション 3 - トラック A-非転換型証券
•
•
•
•
•
• ステップ 3:破綻前の損失
吸収の有無を判断
•
•
3.1 損失吸収
3.1.1 破綻後の劣後性
3.1.2 破綻前の損失吸収特性
3.2 財務の柔軟性
3.2.1 利払いの繰延べ
o 累積型および非累積型繰延べ
o 繰延特性
o 強制繰延特性
o 財務ストレスとの関連性
o 適時性
o 信頼に足る算出
o 制約がないこと
o 任意繰延特性
o 繰延べの制約
o 繰延期間の制限
o ルックバック条項
o 代替利息決済メカニズム
3.2.2 実質償還期日
o 実質償還期日の定義
o ステップアップのしきい値
o 基本的リプレイスメント特性
o 支配権の移動とコールまたはプットの権利
3.2.3 債権者/投資家保護の欠如-制限条項
3.1
損失吸収
非転換型ハイブリッド証券の損失吸収能力は次の二次的特性によって決まる。
• 破綻後の劣後性
• 破綻前の損失吸収特性
3.1.1 破綻後の劣後性
損失吸収の最も一般的な形態は、破綻後における損失吸収である。これは、ハイブ
リッド証券が後順位であること(すなわち劣後性)および破綻時の回収能力が限定
的であることから生じるものである。したがって、こうした証券は、破綻後におけ
る一般無担保債務(または同等のもの)の回収分をより多くする役割を果たしてい
る。
表 2 は破綻後の損失吸収特性により、各クラスで通常得られる最大の資本性につい
てまとめたものである。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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表 2:損失後の劣後性
資本性評価の上限(%)
劣後性の水準
クラス E-100
クラス D-75
クラス C-50
クラス B-25
クラス A-0
優先株、銀行(および銀行持株会社)と高度に規制された保険会社の下位劣後債
事業会社および規制が少ない保険会社の劣後債および下位劣後債
該当なし
該当なし
一般無担保債
出所:フィッチ
大半の事業会社セクターと地域では、劣後債と下位劣後債の上限をクラス D とする。
これは真の優先資本では見られない特定の限定的な債権者保護や制限条項が存在す
るためである(セクション 3.2.3 を参照)。銀行セクターでは、劣後債より下位の債
券をクラス E として取り扱う可能性がある。これは、当該証券が通常、損失を完全
に吸収する機能を持ち、債務リストラ計画で評価が切り下げられるように、銀行の
規制当局が通常、監視するであろうというフィッチの見解によるものである。こう
した措置は主に、資本市場および短期金融市場からの継続的な資本調達を支援し、
救済を円滑にすることを目的としたものであり、この場合、銀行の下位劣後債は実
質的に優先株と同等になりうる。規制当局にこうした権限がなく行使されることも
ないであろうとフィッチが判断する場合には、当該証券は他の事業会社セクターと
同様に取り扱われ、クラス D に分類されることになる。保険会社が銀行と同様の規
制を受ける場合、すなわち、規制当局の措置により、引き起こされうる債務リスト
ラクチャリングまたは破綻の損失を、下位劣後債が完全に吸収することになる場合、
下位劣後債はクラス E に分類されるであろう。それ以外の場合には、クラス D が上
限となる。
稀に、発行体がデフォルトした場合または発行体の財務状況が逼迫する事態となっ
た場合、ハイブリッド証券の優先順位が変更されるケースがある。たとえば、一般
債として発行されたハイブリッド証券が、破綻や清算時に優先株や普通株に転換さ
れる場合がある。反対に、下位劣後債や劣後債として発行された証券が、格下げに
より一般債に転換されるケースも一部見られる。いずれの場合も、フィッチでは通
常、デフォルト後の証券の優先順位を基に、損失吸収能力を評価している。しかし、
留意すべき点として、破綻後の劣後性が高くなると損失吸収能力も高くなるが、こ
れにより、財務の柔軟性が向上するわけではなく、財務の柔軟性評価は破綻前の各
種特性を基に評価されることになる。これは発行体が継続企業であり続ける一方で、
ストレスの発生を契機に、劣後性が高まる状況とは異なるものである(次のセクシ
ョン 3.1.2 を参照)。
3.1.2 破綻前の損失吸収特性
破綻前の損失吸収は主に、以下の 2 つによって実現される。
• ストレス・イベントの発生を契機として、より優先順位が下位の劣後証券に転換
(偶発的転換)
• ハイブリッドの元本価値の評価切り下げ
上述のとおり、企業が事業を継続している状況、すなわち破綻前であっても、一部
のハイブリッド証券は、(普通株への転換を含め)より低い優先順位への転換メカ
ニズムを有する。これは損失吸収水準を引き上げるだけでなく、財務の柔軟性を高
める可能性がある。たとえば、あるストレス・イベントにより、普通株または優先
株への転換が生じる場合、転換後は資本となり、資本であることにより得られる財
務上の柔軟性がすべて享受できる。これを評価する別の方法は、繰延可能性の例外
的な形態と捉える方法である。結果として、フィッチは利払い繰延メカニズムと同
じ基準を使い、偶発的転換メカニズムが財務上の柔軟性に与える影響を評価する
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
6
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(次のセクション 3.2.1 を参照)。
資産価値が損なわれると元本価額が減少する条項の付いたハイブリッド証券もある。
これにより、ハイブリッド証券に損失を強制的に吸収させる一方、会社は破綻やリ
ストラクチャリングを行うことなく、継続企業として事業を継続する。この評価切
り下げにより、貸借対照表上のハイブリッド証券発行残高は減少して、損失認識か
ら生じる普通株主資本の減少が相殺され、テクニカルな破綻が回避される。
評価減を許容する条件次第であるが、証券が他にある程度の制約を含む繰延条項を
有する場合、こうした条項により、当該証券の資本性が高まる可能性がある。その
場合、フィッチではこうした証券の破綻前の損失吸収が特別な繰延べにあたると見
なす。偶発的転換の場合と同じように、評価切り下げのトリガーは、通常の利払い
繰延メカニズムと同じ基準を満たす必要がある(次のセクション 3.2.1 参照)。この
基準を満たす場合、資本性評価は最大で 1 ノッチ引き上げられ、クラス B からクラ
ス C、クラス C からクラス D に変更される場合がある。しかし、この特性自体のた
めに、ある証券がクラス A ではなくなる、またはクラス E に変更されることはない。
3.2
財務の柔軟性
すべての非転換型ハイブリッド証券が備える必要のある第二の中核的特性は財務の
柔軟性である。財務の柔軟性の程度は次の二次的要素によって決まる。
• 利払いの繰延べ
• 永続性/長期の満期
• 債権者保護や制限条項がないこと
利払いの繰延べ
主な手順の概要
• ステップ 1:ACSM の影響
を含め、繰延べが非累積型
か、累積型かを判断
• ステップ 2:繰延トリガー
の有効性を評価
• ステップ 3:繰延べに制約
がある場合、その影響を評
価
• ステップ 4:強制的繰延べ
と任意繰延べ双方の可能性
がある場合、どちらがより
効果的かを判断
3.2.1 利払いの繰延べ
財務が悪化している局面でも、普通株に高水準の配当を支払う発行体もあるが、普
通株の配当支払いは発行体の契約上の義務ではない。さらに、普通株式の配当はい
つでも引き下げや停止が可能である。普通株について減配や無配を決定する意思は
経営陣や取締役会によって異なりうるが(その後のマイナス評価を懸念するため)、
配当の支払いが契約上義務でないことは多大な柔軟性をもたらす。したがって、ハ
イブリッド証券の重要な資本性は、財務ストレス時に、発行体による現金の支払い
を回避できることにある。
利払い繰延メカニズムはこの目的を達成するために組み込まれているものである。
但し、ハイブリッド証券および資本証券の利払い回避または繰延条項の種類や内容
は、実に多様である。たとえば、利息や配当の支払い義務がない資本証券は、継続
的な現金の支払いに関して、最大の柔軟性が得られる。だが、多くの資本証券は金
利や配当が固定されているか、変動金利や変動配当を固定的な数式により算定する
負債に近い性質を有している。クーポンのステップアップ条項など、利率が上昇す
る特性を備えた証券はさらに負債性が強くなる。
非累積型および累積型繰延べ
厳密に言うと、「繰延べ」というのは誤解を招きやすい用語であり、一部の証券で
は、利払いが繰延べ、すなわち先送りされるのではなく、「排除」すなわち回避さ
れる。しかしながら、フィッチでは市場慣行に合わせて、定期的支払いが完全に排
除されるものと、一時的に先送りされるもの双方をまとめて「繰延べ」と呼ぶ。利
払いの排除と単に先送りの違いは、「非累積型」か「累積型」かによって捕捉され
る。フィッチでは、クーポンの支払い義務が完全に消滅するわけではなく、将来に
先延ばしされるにとどまる累積型繰延べの方が非累積型オプションよりも負債性が
強いと考えている。通常、累積型繰延べの資本性評価は 1 クラス低くなり、クラス D
が上限となる。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
繰延特性
基本的に、繰延べには強制繰延べと任意繰延べの 2 種類がある。強制繰延べの中に、
規制対象の業種、特に銀行および保険セクターのみを対象とした形態がある。裁量
の大きさに違いがあっても、規制当局に利払いの繰延べを命じる権限のあるセクタ
ーであり、フィッチはこれを「規制上の繰延べ」と呼んでいる。
フィッチは強制繰延べと任意繰延べに優先順位をつけておらず、一部の証券はこの
双方の特性を兼ね備えるであろう。フィッチの評価で重要な要素は、利払いの繰延
べがどの程度の制約を受けるかを踏まえた上で、どの繰延メカニズムが最も効果的
かを明確にすることであり、繰延メカニズムが効果的であるほど、資本性が高く評
価されることになる。
強制繰延特性
一部のハイブリッド証券には、財務比率や収入指標など他の基準とリンクした強制
繰延条項が規定されている。規制対象の金融機関の場合、規制当局の命令や、規制
で定められる自己資本比率を下回ることがトリガーとして考えられるが、後者の場
合は、通常、極めて強力な強制繰延べとなる(下記参照)。うまく設計された強制
繰延条項の最大の利点は、財務悪化時に繰延べを実施し流動性を維持することを発
行体に強制するという点、そして任意繰延特性に見られるような、繰延べに対して
経営陣の意思が反映されることで生じる不確実性による影響を受けない点である。
強制繰延特性が資本性を有するためには、規定された繰延トリガーが以下の特徴を
備える必要がある。
• 財務ストレスと密接に連動していること。
• タイムリーであること。
• その尺度が信頼できるものであり、可能な限り客観的であること
• 強制トリガーの運用が制約されないこと
財務ストレスとの関連性
規定される繰延トリガーは財務困難の状況と密接に関連していなければならない。
つまり、企業の財務状況が悪化した場合、それが財務比率に反映され、それをトリ
ガーとして本当に繰延べが発生し、支払不能とならないように、現金を社内に留め
られる十分な効果を得られる水準に財務比率やトリガー水準が定められる必要があ
る。これが最も容易に実現できるのが、銀行や保険のように規制を受ける業種であ
り、トリガーを規制対象の自己資本比率と結び付ければよい。一方、規制を受けな
い業種では、規制を受ける業種ほど財務困難な状況と密接に関連した財務比率を厳
密に特定することが困難であり、実現はより難しくなる場合がある。非金融企業の
場合、利益や収益性の指標ではなく、レバレッジや金利カバレッジに関するキャッ
シュ・フロー指標を基にトリガー比率を定めることが望ましい。たとえば、コモデ
ィティ価格の個別の変動など、繰延トリガーが外部の要因と連動している場合、当
該発行体に対して発生しうる合理的に予見可能なあらゆるストレス・シナリオと当
該要因に十分な関連性があることを、フィッチが確信できなくてはならない。トリ
ガーが考えうるストレス・シナリオの一部分のみ関連している場合、それが資本性
を認めるに十分であると判断される可能性は低いであろう。
適時性
さらに、強制的繰延トリガーの算出と報告はタイムリーでなければならない。たと
えば、トリガーが年 1 回の財務報告だけで定義される場合、定期的な支払い時期と
繰延べのトリガーとなる比率の発表時期が、大幅に乖離する可能性がある。このタ
イムラグが大きいほど、強制繰延べの資本性評価に対する寄与度は低くなる。適時
性の観点から、資本性が最も高く評価されるのは、規制上の自己資本比率が定期的
に発表されている場合、銀行になるであろう。但し、発表頻度が低くても、年 1 回
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
または半年に 1 回の算出時期が、ハイブリッド証券の年 1 回または半年に 1 回の利
払い時期とうまく関連していれば、タイムリー性を容認することができる。
信頼に足る算出
繰延トリガーの算出も信頼に足るものでなくてはならない。規制対象の発行体の場
合、トリガーは通常、十分な実績のある規制上の指標に連動したものとなるであろ
うことから(通常は規制上の自己資本)、算出の信頼性に問題が生じるのは、発行
体が事業会社の場合である。たとえば、企業の期間キャッシュ・フローに連動して
いるトリガーは、そのグループの既存の会計原則に従って算定される明確に定義さ
れたキャッシュ・フローを基準としていることが必要である。ただし、これを独立
した監査法人による監査済みの数字に限定することは、トリガーの適時性を損なう
可能性があるため、会計原則に則って算出されていることが明記された中間財務諸
表に基づく算出でも許容されるであろう。
制約がないこと
強制トリガーが完全に機能するためには、その運用の障害となる制約があってはな
らない。この最も一般的な形態がルックバックである。制約の大きさに応じて、フ
ィッチは強制繰延メカニズムに対して与えられる資本性を上限から割り引くことに
なる。
まとめると、フィッチはトリガーの特性に関する分析を基に、強制繰延メカニズム
を以下のように分類する。
• 極めて強力:通常、財務面が深刻な状況になる前に十分な資金を確保できる財務
比率を指しており、トリガーの発表が極めて頻繁か(少なくとも四半期毎)、規
制当局によるトリガーの監視が頻繁に行われる。これが最も多く見られるのが厳
格に規制された銀行である。
• 強力:財務比率の水準を基準としており、比率算出のタイミングと証券の利払い
タイミングのタイムラグが 6 ヵ月未満の場合。
• 中程度:財務比率の水準を基準としており、比率算出のタイミングと証券の利払
いタイミングのタイムラグが 6 ヵ月以上、12 ヵ月未満の場合。
• 緩やか:深刻な財務状況が既に発生した場合や差し迫っている場合にのみ有効に
なる特性を基準としており、トリガーの報告のタイミングと証券の利払いのタイ
ミングに大幅なタイムラグが存在する場合(テスト日と支払日が 12 ヵ月以上離れ
ている場合)。「緩やか」と判断されるもう 1 つの例として、間隔の空いた報告
期間に関連した複数の条件付事由が考えられる。以下の表 3 では、強制繰延べの
分類別に初期の資本性評価の影響を示している。
表 3:強制繰延べの分類別資本分類およびその上限
強制繰延べ
資本分類の
上限(%)
非累積型
クラス E-100
クラス D-75
クラス C-50
クラス B-25
クラス A-0
極めて強力
強力
中程度
緩やか
累積型
極めて強力
強力
中程度
緩やか
出所:フィッチ
初期の分類の後、フィッチは繰延べに対する何らかの制約によりクラスを引き下げ
る必要があるか否かを判断する(下記参照)。
任意繰延特性
任意繰延特性は、ハイブリッド証券によって多種多様である。フィッチは、経営陣
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
の完全な裁量により、非累積ベースで、無期限に、いかなるタイミングでも行使で
きる繰延特性に最も高い資本性を認めており、この場合、クラス E に分類される可
能性がある。任意繰延特性の初期の分類は通常、繰延べが累積型か非累積型かによ
って直接的に判断されることとなろう。上述のとおり、累積型繰延べの資本性評価
はクラス D が上限となる。
繰延べの制約
任意繰延べと強制繰延べはいずれも様々な形で制約を受ける場合があり、こうした
制約がある場合、その大きさに応じて、配分される資本性は低下することになる。
基本的に、フィッチは制約を「僅少な制約」「軽微な制約」「重大な制約」「最大
の制約」に分類している。以下の表 4 は、資本性に対する影響をまとめたものであ
る。
表 4:繰延べに対する制約
制約の分類
資本性評価における影響
僅少な制約
軽微な制約
重大な制約
最大の制約
資本性の引き下げなし
制約により、資本分類の上限を 1 クラス引き下げ
制約により、資本分類の上限を 2 クラス引き下げ
資本性を完全に認めない
出所:フィッチ
繰延べに対する制約条件が複数存在する状況では、大抵の場合でその影響は合算さ
れ、資本性は数段階引き下げられ、完全に資本性が認められない可能性もある。主
な制約条件は以下のとおりである。
• 繰延期間の制限
• ルックバック
• 代替決済メカニズム
繰延期間の制限
繰延期間(利払いが再開されるまでの期間または延滞総額が支払われるまでの期
間)が長いほど、資本性は高くなる。フィッチでは、5 年以上の繰延期間が好ましい
と考えており、この場合は通常、繰延メカニズムの種類の中で最も高い資本分類と
なるであろう。これに対して、繰延期間が 3 年未満の場合には、資本性が認められ
ないであろう(クラス A)。繰延期間が 3 年から 5 年の間となる場合、中間的な取り
扱いとなる(資本分類を 1 段階引き下げる)。しかし、繰延期間が 5 年を超えても、
資本性の点で追加的なメリットはない。当該特性がもたらす潜在的なメリットが十
分に大きいとは見做されないためである。その理由として、フィッチの実証的研究
によって、経営状態が厳しい企業は 5 年以内に経営状態が改善されるか(または救
済されるか)破綻する可能性が高いことが明らかになっていることがある。
ルックバック条項
繰延べに対する最も一般的な制約がルックバックである。当該規定では多くの場合、
経営陣に対して、繰延べを実施するために必要となる事前の計画を求めることにな
るが、財務が急激に悪化する局面になると、こうした事前計画のための時間が確保
できない可能性がある。ルックバックは初回の繰延期間を制限するだけであるが、
深刻な経営状況にある企業にとって、初回の繰延べを実行できるかが極めて重要に
なる場合があると、フィッチでは考えている。
ルックバック条項がある場合、発行体はハイブリッド証券の支払い日前の一定期間
内に特定の参照事由が発生した場合、ハイブリッド証券の投資家に対する支払いの
繰延オプションを行使できない。参照事由として最も一般的なものが、普通株の株
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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主に対する配当の決定または支払いである。また、自社株買いを始め、普通株主に
対する別の形での配分も参照事由とされることが多い。一部のケースでは、ルック
バックが単に普通株だけでなく、同格の証券や他の劣後証券(すなわち他のハイブ
リッド証券)に対する事前の支払い停止を繰延べの条件としている。この場合、発
行体の繰延べする能力が事実上、排除されるため、ルックバックにより、クラス A
が適用されることになる。
ルックバックに対するフィッチのアプローチは別添 1 で詳述する。
ルックバックとは対照的に、配当停止条項の組み入れは資本性評価に影響を与えな
い。発行体はハイブリッド証券または優先株保有者に対する分配を停止または繰延
べた後、ハイブリッド証券に対する支払いを再開するか、支払いを期日通りに行わ
ない限り、通常、普通株やそれよりも下位の資本証券に対する分配金や配当の支払
いが禁止される。この場合、繰延べを実行するために経営陣による事前の計画は必
要ない。
表 5 は様々な繰延特性による、フィッチのハイブリッド証券の分類の上限をまとめ
たものである。最終的な非転換型(すなわち「トラック A」)ハイブリッド証券また
は資本証券に対する資本性評価は、いずれかの中核的特性の負債に近いパフォーマ
ンスにより、引き下げられる可能性があることに留意されたい。
表 5:各種制約の資本性評価への影響
制約の種類
繰延期間
ルックバック
制約の詳細
5 年以上
3 年~5 年
3 年未満
3 ヵ月未満
3 ヵ月以上 6 ヵ月未満
6 ヵ月以上 12 ヵ月未満
12 ヵ月以上
制約の分類
僅少
軽微
最大
僅少
軽微
重大
最大
資本性評価への影響
変更なし
1 クラス引き下げ
クラス A に引き下げ
変更なし
1 クラス引き下げ
2 クラス引き下げ
クラス A に引き下げ
出所:フィッチ
代替利息決済メカニズム
様々な法域で代替決済メカニズムまたは代替利息決済(弁済)メカニズム(ACSM)
と呼ばれている仕組みでは、不払いとなった利息に関して、発行体が証券(普通株、
優先株、ワラントまたは本レポートにおいて資本性証券と呼ぶ劣後ハイブリッド証
券など)の発行を通じて得た資金により、またはハイブリッド証券の保有者に対し
て、「PIK」(現物)決済に近い形で、資本性証券を直接交付することにより、決済
を可能にするまたは義務づけている。初期の例を見ると、代替決済メカニズムは、
利払いを停止しうる強制トリガーが規定されている場合に組み込まれていたが、最
近では、任意繰延べの決済手段としても用いられるようになった。
ACSM には様々な形態があり、多様な市場参加者に対応できるように設計されている。
ACSM により発行体は繰延べを行うことなく決済することや、利息の不払いによる汚
名を回避できる場合がある。一部法域の税務当局は、ハイブリッド証券を有利子負
債に分類し、正常な現金の支払いを税控除が可能な費用として分類するために、累
積配当を義務付けている。このため、法域次第では、現金による非累積型で、累積
株式決済が要求される証券(すなわち英国のイノバティブ・ティア 1 証券)は税務上
の観点(累積株式決済の特性)や規制上の自己資本比率の観点(現金による非累積
型特性)から見たメリットが最大化される。
決済方法の詳細とそれによって修正される繰延べの形態によって、ACSM ストラクチ
ャーの違いが、証券の資本性分類に対してプラス、中立的またはマイナスの影響を
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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及ぼす可能性があると、フィッチでは考えている。
各種代替決済メカニズムに対するフィッチの対応については、別添 3 で詳述す
る。
3.2.2 実質償還期日
実質償還期日
主な手順の概要
• ステップ 1:可能性のある
最も長い償還期間を判断
(償還の規定がない場合を
含む)
• ステップ 2:繰上償還特性
を特定
• ステップ 3:繰上償還イン
センティブを評価
• ステップ 4:繰上償還や償
還を行うために当局の許可
が必要かどうかを判定
• ステップ 5:代替規定の評
価
ハイブリッド資本の永続性はそれ自体が資本性をもたらすものではないが、永続性
と満期はハイブリッド証券に対する資本性評価の水準に影響を与える。基本的に、
永続性と満期は発行体がハイブリッド証券から得ることができる財務上の柔軟性の
全般的な水準に寄与するものである。永続性について考えた場合、普通株には満期
がなく、財務が逼迫する局面でも発行体にリファイナンス・リスクをもたらさない。
さらに、普通株は買い戻しが可能であり、そのために理論上の永続性は低下する可
能性があるが、こうした買い戻しはいずれも完全に任意で行われるものである。
実質償還期日の定義
永続性や満期がハイブリッド証券の資本性評価にどの程度、寄与するかを判断する
にあたり、フィッチでは「実質償還期日」という概念を用いている。これは、証券
(またはそれと同等の代替商品)が発行体の資本構成に存続するであろう最も蓋然
性の高い期間について、フィッチの見解を表象するものである。実質償還期日は複
数の要因によって左右される。すなわち、予定最終償還期日(またはその欠如)、
コール・オプションおよびコールするインセンティブ、リプレイスメント文言(リ
プレイスメント条項を含む)、規制を受ける業種の場合、繰上償還や最終償還を実
行するにあたっての規制当局による事前の許可である。時間経過による実効償還期
間の短縮に伴い、フィッチは次の表 6 に従って割り当てた資本性の水準を漸進的に
引き下げる。
表 6:永続性に対する資本性評価の上限
資本性評価の上限(%)
実質償還期日
クラス E-100
クラス D-75
クラス C-50
クラス B-25
クラス A-0
償還なし、20 年以上
10 年~20 年
8 年~9 年
6 年~7 年
5 年以下
したがって、10 年のコールは 1 年間、クラス D となる。これは 9 年と 365 日から 9 年と 1 日までの 365 日間が 10 年に該当するた
めである。
出所:フィッチ
一部のハイブリッド証券は普通株と同様に償還がなく、当該証券の資本性は決めら
れた満期または償還がないことにより上昇する可能性がある。リファイナンス・リ
スクがないことは特記すべき条件であると、フィッチでは考える。
定まった満期がないまたは名目満期が極めて長い多くのハイブリッド証券に共通す
る特性として、発行体が保有するコール・オプションがある。オプションとしての
コール条項は発行体のオプションであり、発行体にハイブリッド証券をコールして、
リファイナンスを行う契約上の義務を負わせるものではない。このため、財務困難
の状況では、発行体はリファイナンス・リスクを回避し、満期の長さがもたらすメ
リットを享受することができる。この点でコール条項は普通株の買い戻しに関する
任意の意思決定に近いものと見なすことができる。
しかし、コール・オプションに関連する特性によって、財務状況が悪化している局
面でも、発行体はハイブリッド証券のコールとリファイナンスを迫る経済的または
評判面での圧力を受ける可能性がある。多くの場合、ハイブリッド証券は、コール
されなかった場合、さらに高い金利が適用されることになる。(いわゆるステップ
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
アップ条項)。さらに、ハイブリッド証券は発行時、コールされることを前提にプ
ライシングされる場合が多い。このため、リファイナンスより資本構造の弱体化や
将来の財務上の柔軟性低下を招くとしても、ハイブリッド証券の投資家を満足させ
るために発行体は、可能であればコールの権利を行使すべきという義務を感じるこ
とが多い。
(大幅か否かを問わず)金利のステップアップ条項が存在しない場合や、ステップ
アップ条項があっても、それがフィッチの規定するしきい値の範囲内であり、既存
のハイブリッド証券に代わる類似のハイブリッド証券が発行できる場合に限ってコ
ールを実行するという経営陣の趣意書がある場合、コール・オプションの影響は最も
少なくなると、フィッチは考える。フィッチでは、当該趣意書が法的拘束力のある
リプレイスメント条項(RCC)の形を取る必要はないと考える。リプレイスメントに
関する趣意書(statement of intent)がない場合や、ステップアップがフィッチの規
定するしきい値を超える場合(下記参照)、フィッチはステップアップ・オプショ
ン期日を証券の実質償還期日と看做す可能性が高く、規定の最終償還期日に基づい
て、当該ハイブリッド証券に本来与えられるべき資本性評価を低下させることにな
る。
RCC の詳細については、別添 2 を参照されたい。
「実質償還期日」に関する上記の見解は(概要は表 7 に示す)、規制上の慣行や過
去の経営慣行、経営陣の意思に対する懸念といった要因に関するフィッチの見解に
応じて、セクターまたは個々の発行体により、変化することがある。一例として、
証券をコールするのに規制当局の許可が必要であり、当該証券と同等の資本性を有
する証券に置き換えられる場合のみ、許可される業界がある(すなわち、大半の銀
行ティア 1 証券)。こうしたセクターに関しては、同等のリファイナンスを行うこ
とが前提となるため、フィッチはハイブリッド証券の予定されている契約上の満期
に注目することになるであろう。また、ストレス・シナリオでは、予定されている
契約上の満期よりも、規制当局による決定が優先される場合がある。この場合、ハ
イブリッド証券は永久債と見なされることになろう。
表 7:実質償還期日のガイドライン
条項
実質償還期日
コールなし
コールのみ
ステップアップのみを伴うコール
しきい値の範囲内にあるステップアップとフィッチが容認するリプレイスメント条
項のあるコール a
ステップアップを備えるが、経営陣の意思に関してフィッチの懸念を払拭するリ
プレイスメント文言がないコール a
永久/予定満期
永久/予定満期
コール日
永久/予定満期
コール日
a
フィッチの格付委員会が、資本基盤に関する経営陣の意思や発行体の市場アクセスに関して明確な懸念を抱かない限り、容認
可能なリプレイスメント条項の形態は問わない(すなわち、規制上の要請、契約上の強制力を持つ経営意思など)。
出所:フィッチ
ステップアップのしきい値
フィッチは証券が発行された市場環境と慣行の双方を基に、しきい値を随時規定す
る。この方法を採用することにより、フィッチは(1)発行体に対して、コールを実
行する過大な経済的インセンティブが発生しない水準または(2)財務面の厳しい圧
力や規制当局の動向により、発行体がコールできなくなり、資金調達コストの大幅
な上昇の吸収を余儀なくされる厳しい状況に陥ることがない水準にしきい値を設定
することを目標とする。現在、欧州と米国における標準的水準は投資適格の発行体
の場合で 100bp、非投資適格格付の発行体で 200bp であり、オーストラリアではす
べての発行体が 200~250bp である。ステップアップが固定金利から変動金利への転
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
換を伴う場合、フィッチはファイナンスが実行された段階におけるインデックス金
利に対する推定スプレッドと比較した変動インデックスに対するスプレッドの実質
的変動を検証し、これをステップアップのしきい値と比較することにする。
クーポンおよびスプレッド水準の絶対的変動の代わりとして、フィッチは初期のク
レジット・スプレッドの 50%の上昇を容認可能なしきい値として見做す。一般的に、
2 つの選択肢、すなわち絶対的変動と相対的変動のうち、大きい方をしきい値として
適用することにする。
基本的リプレイスメント条項
事前に十分な利益が内部留保される場合に限って償還が認められるといった、基本
的リプレイスメント条項は、ケース・バイ・ケースで検証される。通常、こうした
条項のあるハイブリッド証券では、実質償還期日に関する決め事からは免除されな
いが、蓄積された裏付け準備金や引当金が、純粋に支払不能の際の損失吸収に資す
るものであれば、資本性を付与されるであろう。
支配権の移動とコールまたはプットの権利
支配権が移動した場合、すなわち発行体が新たな所有者によって買収された場合に
例外的なコールを実行する権利を発行体が持つケースがある。通常、発行体がコー
ルしなければ、金利が大幅にステップアップする。仕組み上にこうした要素を加え
る理由は、買収される状況下で、発行体の資本構成が不利にならないように、ハイ
ブリッド証券の投資家を保護することにある。
フィッチは、買収の発生をイベント・リスクと捉えている。これは発行体の選択に
よる例外的なコールについても当てはまるであろう。そのため、当該条項が規定さ
れていても、フィッチがハイブリッド証券の実質償還期日を短縮することはない。
対照的に、支配権の移動に伴い、投資家に証券をプットする権利が与えられる場合
または買収により発行体に証券の償還義務が発生する場合、その条項が存在するこ
とにより、こうした状況下で永続性と損失吸収能力が低下するため、証券の負債性
が高まり、資本性が低下する。しかし、フィッチは経営危機にある企業にとって、
これが唯一の潜在的シナリオであることを認める。この結果、フィッチの全般的な
アプローチとしては、支配権の移動に伴うプットの規定のある証券について、(他
のあらゆる評価を行った後の)最終資本性評価を 1 クラス低下させる。
3.2.3 債権者/投資家保護の欠如‐制限条項
普通株には、制限条項や明確に定義されたデフォルト事由もない。また、株主が発
行体に対して、いかなる場合でも意図しない破産や解散を発動させられるという保
護は、普通株主に与えられていないであろう。一方で、一部のハイブリッド証券や
資本証券には、契約書類に、制限条項や明確に定義されたデフォルト事由が組み込
まれている。
従来の優先株には通常、制限条項やデフォルト事由の定めがないが、特定の事象に
より、当該証券保有者の権利が強化される場合がある。優先株保有者への配当が支
払われなかった場合、普通株主に対する配当やその他の分配の支払いが禁止される
ケースがある。予定償還日に優先株を償還しなかった場合や、長期(例えば 5 年
間)にわたって配当を支払わなかった場合、優先株保有者に対して、取締役会に一
定数の取締役を選出する権利が与えられることもある。当該事由は、いずれも破産
または清算の引き金となるものではないが、普通株主と取締役会に対して、優先株
保有者に予定どおりの支払いを行わせるための行動面での圧力をかけることになる。
しかし、フィッチは当該条項が、普通株主に対する優先株保有者の相対的地位を維
持するための合理的な保護となり、その存在により、従来の優先株に適用されうる
制限条項による資本性評価の上限が適用されることはないと考えている。しかし、
名目上の優先株に負債のような保護が与えられている場合、フィッチは、当該保護
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
が規定された負債と同様の扱いをすることになる。
ハイブリッドが劣後債務または下位劣後債務の場合、優先株とは違い、その契約書
には通常、一定の制限条項や明確に定義されたデフォルト事由が規定されており、
違反が生じた場合、保有者には発行体に対する法的救済手段が与えられる。こうし
た権利には、発行体に対して訴訟を起こして支払いを請求する権利や、支払いを受
けられない場合に、発行体を破産させる権利が含まれる。こうした権利を行使でき
るのは、次に挙げる限られた状況のみであるため、当該条項が規定されたハイブリ
ッド証券に対しては、最大でクラス D の資本性まで与えられうる。
認められるデフォルト事由は以下のとおりである。
• 破産および清算
• 基本ストラクチャーが無効になった後、証券を償還できない場合。無効になる例
としては、証券が特別目的会社により発行され、その信用補完として、親会社か
ら劣後保証を付与された優先株としての仕組みを持つ場合に生じうる。裏付けと
なる劣後保証が無効になると、当該証券の基本ストラクチャーは有効性を失うこ
とになる
• 許容されたすべての繰延べが行われた後でも、支払うべき金額の支払いが履行で
きない場合。
反対に、一般債や普通劣後債に、様々な形のポジティブおよびネガティブ制限条項
が組み込まれている場合がある。例えば、一定期日までに財務諸表を提出するとい
う制限条項、財産を正常な状態に維持するという制限条項および保険を継続すると
いう制限条項などである。また、一定の財務指標や財務比率の維持に関する財務制
限条項が規定される場合もある。フィッチが資本性の点で問題があると考える典型
的なデフォルト事由としては、(是正期間後の)制限条項遵守違反または発行体の
他の債務との間の期限の利益喪失条項やクロスデフォルト条項などがある。こうし
た制限条項やデフォルト事由が規定されている場合、他にどのような特性があった
としても、当該証券は完全に負債(クラス A)とみなされ、強制転換証券の資本性評
価は著しく限定されることになる。
セクション 4:トラック B - 転換証券
転換証券
主な手順の概要
• ステップ 1:転換が強制か
任意かを判断
• ステップ 2:転換の経済的
条件が希薄化に繋がるかど
うかを判断
• ステップ 3:転換前のステ
ータスを確認
• ステップ 4:転換までの期
間を確認
• ステップ 5:転換後のステ
ータスを確認
•
•
•
•
•
•
•
•
•
4.1 転換性が重要な理由
4.2 転換証券の形態
4.2.1 強制転換証券
4.2.2 任意転換証券
4.3 強制転換証券の資本性
4.3.1 転換後の証券の順位
4.3.2 転換価格または比率
4.3.3 転換までの期間
4.3.4 転換前の証券の特性
資本証券が損失吸収という中核的要件を満たすことができるもう 1 つの方法は、普
通株式への転換性である。本セクションでは、株式への転換が資本性を認められる
代替的方法になる理由を示すと共に、様々な種類の転換特性を紹介し、こうした特
性が負債と資本の連続性の中における当該証券の位置に及ぼす影響に関するフィッ
チの見解を示す。フィッチのトラック B に基づき、資本性が認められる転換証券は、
それ自体が資本性証券(普通株または優先株)への交換対象となるものと、いわゆ
る「シンセティック転換証券」、すなわち、投資家が資本性証券を購入することを
約束する先物買受契約と、投資家によるこの先物買受の義務を担保化するメカニズ
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
ムを組み合わせた形態がある。
トラック A(非転換証券)アプローチとトラック B(転換証券)アプローチの間には、
特に、転換証券の転換前のステータスの分野においてある程度の重複が認められる。
すべてではないが、多くの強制転換証券は、転換前でもトラック A アプローチの下、
資本性が認められる特性を有し、トラック A または B のうちより高い資本分類に基
づいて、資本性が割り当てられることになる。この場合、フィッチはウィークリン
グ・アプローチを適用しない。
4.1
転換性が重要な理由
普通株であれ優先株であれ、証券がいずれ株式に転換されるのであれば、転換性は
証券に資本性をもたらしうる。これは IDR を支える発行体の資本構造にとって、非常
に有利である。転換証券は、通常、2 つの形態のうちのいずれかとなる。すなわち、
強制的な転換または任意での転換である。以下で検討するとおり、財務困難の状況
で、任意転換証券の保有者が最終的に転換することを選択する可能性は非常に低い
ため、トラック B に基づく資本性評価にあたり、フィッチの中核的要件を満たすの
は強制転換証券だけになる。また、強制転換が発行体の破綻を含むトリガー・イベ
ントを条件とする一方で、それ以外の場合には、事前に規定された期日に強制転換
が起こらない証券について、フィッチではトラック B アプローチを適用しないこと
にも留意されたい。転換が損失吸収の一形態、繰延メカニズムに近いものまたはそ
の双方の性格を兼ね備えていると判断されうる場合、当該特性はトラック A で対応
される。
4.2
転換証券の形態
4.2.1 強制転換証券
強制転換特性は事実上、事前に払い込みが行われる投資家の株式購入予約であるた
め、資本性を支える材料となりうる。また、こうした証券の大半は、発行後 3 年~5
年という比較的短い期間内に、株式への転換または投資家による株式購入予約の実
行が必要になる。一部には、転換前、下位劣後証券または優先証券として組成され
た段階で、分配金の繰延オプションが付いているものもある。節税の目的から、将
来のある期日に、特定の価格で普通株または優先株を購入する将来の契約と負債
(「ホスト商品」)と組み合わせたシンセティック商品として、強制転換の主要な
特性が付与された多くの資本証券が組成されている。投資家による購入予約契約に
対して、等価以上の担保が確保されている場合、当該証券は類似した転換証券と同
様に扱われる。
4.2.2 任意転換証券
投資家の裁量で選択的に実行可能な転換には通常、資本性が認められない。任意転
換が組み込まれた多くの証券は、株式決済ではなく、現金決済を求めているが、こ
れは資本性に対して全く寄与しない。たとえ、株式決済が規定されている場合であ
っても、当該オプションは財務面に強いストレスのかかるシナリオでは、アウト・
オブ・ザ・マネーとなる可能性が極めて高いことから、投資家はこれを行使しない
であろう。しかし、現金決済の規定のない任意転換証券において、現在の株価と転
換日に予想される株価に対して行使価格が比較的低いために、1 年未満で株式に転換
される可能性が極めて高いと思われる場合、フィッチの格付委員会は想定されるプ
ロフォーマのバランスシートと関連財務比率を用いて、想定される転換を有効とす
る可能性がある。この場合、本レポートで解説した資本性評価は必ずしも適用され
ない。
稀なケースとして、任意転換証券に、転換またはオプションの権利行使前に、トラ
ック A に基づく資本性が認められる場合がある(劣後順位や繰延クーポン、弱い投
資家保護など)。この場合、トラック B またはトラック A のうち、より株式に近い
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
16
Corporate Finance
とされる資本性が付与されることになるであろう。
4.3
強制転換証券の資本性
強制転換ハイブリッド証券の場合、資本性を決定づける主な要因は以下の 4 つであ
る。
• 転換後の証券の優先順位(最も多い形態は普通株だが、優先株の場合もある)
• 転換価格または比率
• 転換までの期間
• 転換前の証券の特性
4.3.1 転換後の証券の順位
転換後の証券がフィッチのクラス E に該当する場合(すなわち、普通株、永久非累
積型優先株)、ハイブリッド証券の資本性評価の上限は、クラス E となる。転換後
の証券がフィッチのクラス D に該当する場合、ハイブリッド証券の資本性評価の上
限はクラス D となる。
4.3.2 転換価格または比率
資本性が認められるのは、証券が発行された段階で、転換比率または転換価格が適
度に狭い幅で定められている場合に限られる。反対に、転換比率が転換時の株価に
よって決まる場合やハイブリッド証券と普通株の転換比率が名目元本金額を株価で
割ることにより、求められることになる場合、当該ハイブリッド証券に資本性は認
められない。後者の場合、発行体が財務困難の状況では、株価が下落し、著しい希
薄化が生じる可能性が高まることを、フィッチでは懸念している。フィッチの経験
では、このような場合、経営状態の悪化した発行体であっても、ハイブリッド証券
のリファイナンスためにコア資産の売却または一般債の発行など、転換を回避する
ための行動を取ることが想定される。ハイブリッド証券の投資家は確定的な数量の
転換証券の購入を確約した訳ではなく、これにより強制転換証券の潜在的メリット
は減少するか、完全に打ち消される。
4.3.3 転換までの期間
転換日または権利行使日が 5 年以上先の場合、潜在的な資本注入の効果は、発行体
が行使日までに直面する可能性のあるストレスによって大きく損なわれることから、
資本性は付与されない。転換が 5 年以内の場合は、表 8 の規定に従い、資本性が付
与される。以下で説明するとおり、転換までの期間は、転換前に優先的な順位にあ
る転換ハイブリッド証券または繰延メカニズムが組み込まれていない転換ハイブリ
ッド証券に対して付与される資本性の強さを判定する際に一層重要になる。
4.3.4 転換前の証券の特性
強制転換証券が優先順位である場合または繰延メカニズムやゼロ・クーポンが組み
込まれていない場合、転換までの期間が 1 年未満であれば、資本性が付与される
(表 8 の右列を参照)。一般債務で転換までの期間が短いことは、フィッチがガイ
ドラインで重視する発行体企業の経営困難な状況における柔軟性および損失吸収特
性と合致するものである。発行体企業が転換前に債務不履行や破綻となり、負債部
分が優先的順位を維持している場合、当該証券によって他の優先債権者の回収額が
低下する可能性があることを、過去の例が示している。同様に、転換前に繰延べで
きない場合は、柔軟性に関するフィッチの基準を満たさない。一方、信用面のスト
レスに関連したトリガー・イベントの発生を契機に、転換が前倒しされる規定があ
る場合、柔軟性が著しく高まることから、繰延べまたは PIK 決済のオプションがない
ことを補うことができる可能性がある。
しかしながら、転換日前における継続企業の前提に疑問があると考えるに足る理由
がある場合、表 8 に示すように、転換前の順位が一般債務である転換ハイブリッド
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
証券に対しては、格付委員会で資本性を全く配分しない。格付が非投資適格の中で
も低位の発行体では、ハイブリッドが劣後債で、繰延可能かつ転換前に負債性を強
める投資家保護が組み込まれていない限り、資本性は付与されない。
表 8 は、強制転換証券または将来の普通株への転換に関して、転換前の証券の特性
と転換までの期間による影響をまとめたものである。尚、転換価格または転換率は、
固定またはハイブリッド証券の発行時に限定的な範囲で定められていることを想定
している。
表 8:強制転換ハイブリッド証券
資本性評価の上限
(%)
転換前の証券:優先株または劣後順位で、繰延べ 転換前の証券:一般債務で、繰延べま
または PIK のオプションを持つ場合
たは PIK のオプションを持たない場合
クラス E-100
クラス D-75
クラス C-50
クラス B-25
クラス A-0
転換まで 3 年未満
転換まで 3 年~5 年
n.a.
n.a.
転換まで 5 年以上
n.a.
n.a.
転換まで 1 年未満
n.a.
転換まで 1 年以上
PIK-償還まで利息が累積される形態。n.a.-該当なし
注:転換までの期間が 5 年を超える場合、いかなる転換の要素も資本性に寄与しない。このため、資本性が認められる場合に
は、転換前の証券の基礎的特性から導出される。
出所:フィッチ
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
Structure Diagram
Track A
Loss Absorption
Financial Flexibility
Coupon Deferral
Permanence
Covenants and Other Features
Assign Equity Class
Based on Permanence
Characteristics
(See Section 3.2.2)
Covenants
(Such as Investor
Protection Features,
Change of Control
and Call or Put Rights)
May Decrease Final
Equity Class
(See Section 3.2.3)
Maximum Class Derived from
Permanence
Maximum Class Allowing for
Covenants, etc
Determine if Deferrals are Cumulative
(Including any ACSM Adjustments)
(See Section 3.2.1)
Assign Equity Class
for Subordination
Characteristics
(See Section 3.1.1)
Assign Equity Class for Optional
Deferral Characteristics
(See Table 5)
Assign Equity Class for
Mandatory Deferral
Characteristics
(Including Contingent Conversions)
(See Table 3 & 5)
Determine Equity Class Limit, Based on Most
Effective Deferral Mechanism
No
Pre-Bankruptcy Write-down, AND Equity Class is not A, D
or E? (See Section 3.1.2)
No
Change
Maximum Class Derived from
Loss Absorption
Yes
Increase Equity
Class from Coupon Deferral by One
Maximum Class Derived from Financial
Flexibility
Derive Overall Equity Class, Based on the
‘Weakest Link’ Approach
Source: Fitch
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
Structure Diagram
Track B
(See Section 4)
Forward Purchase Contract or Convertible
Security?
Purchase
Adequate
Collateral?
No
Yes
Convertible
No
Exercise Price or Exchange Ratio Fixed in
Advance, not Dilutive?
Track A
Yes
No
Exercise Automatic no Later Than a Date
Certain Within 5 Years?
Yes
Terms of the Pre-Exercise Instrument
(See Table 8)
Preferred, Preference, or Subordinated
Ranking, With Option to Defer or PIK
PostExercise
Senior Ranking or Without Option to
Defer or PIK
Date Certain of
Exercise = 3 Years?
Date Certain of
Exercise > 3 Years
and = 5 Years?
Post-Exercise
Ranking of Security?
Post-Exercise
Ranking of Security?
Common
Shares
Preferred or
Preference
Common
Shares
Preferred or
Preference
Non
Cumulative
Cumulative
Non
Cumulative
Cumulative
Maximum
Equity
Class E
Maximum
Equity
Class D
Maximum
Equity
Class D
Maximum
Equity
Class C
Date Certain of
Exercise = 1 Year?
Date Certain of
Exercise > 1 Year?
Maximum
Equity
Class C
Maximum
Equity
Class A
Source: Fitch
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
別添 1 - ルックバック制約
本表の内容は、2007 年 4 月 10 日付のスペシャルレポート『Hybrid Securities
Subject to a look-back Constraint』で初めて公表されたものである。
ルックバック条項は年次株主総会(AGM)で配当が決まる一部の欧州、アジア、中南
米諸国で一般的に見られる。取締役会は AGM に対して配当を提案するに過ぎず、最
終的な判断は AGM が下す。英国やオーストラリア、米国などの法域では、状況が異
なる。当該法域およびそれに類する法域では、取締役会は、AGM に配当を提案する
選択肢を有するだけでなく、自社の財務状況から見て取締役会が妥当と判断した場
合には、その裁量により、配当を決定することができる。
米国、英国またはオーストラリアのハイブリッド証券には配当停止条項が組み込ま
れるが、ルックバック制約は組み込まれないことが一般的である。累積型ハイブリ
ッドの場合、配当停止条項により、ハイブリッド証券に対する繰延クーポンが支払
われない間、発行体が普通株主やその他の劣後する証券の保有者に対して配当を支
払うことができなくなる。配当を再開するには、その前にハイブリッド証券に対す
るすべての繰延クーポンが支払われる必要がある。非累積型の場合、配当停止条項
により、発行体がハイブリッド証券保有者に対する支払いを停止している間、配当
の支払いは行われない。当該規定により、ハイブリッド証券保有者は取締役会が配
当を決めることから、事実上、普通株主に対して劣後しないように保護される。こ
の会社が配当を支払うには、繰り延べているハイブリッド証券のクーポンをまず支
払わなくてはならない。
企業ガバナンス法の違い、すなわち最終的な配当の決定権を持つ機関が異なること
は、AGM が配当を決定する地域の場合、有効な配当停止条項を組み込むことが難し
いことを意味する。取締役会は配当を決定する権限を持たず、それゆえ配当を支払
わないことを決める契約を締結することができないであろう。こうした地域でルッ
クバック条項がない場合、取締役会はハイブリッド証券の支払いの停止や繰延べを
決めることが可能であるが、AGM は依然として普通株主に対する配当の支払いを議
決することが可能であり、ハイブリッド証券の投資家はこれに対抗する手段を持ち
得ないことになるであろう。
欧州では、配当停止条項に類似した概念の導入に向けて、取り組みが進められてい
る。たとえば、その 1 つの形態として、取締役会が「ハイブリッド証券のクーポン
の未払いがある間、配当の支払いを提案しない」意思を明確にすることが考えられ
る。しかし、最終的な決定機関が AGM であることからすると、こうした規定が導入
されても、その有効性と強制力には疑問が残るであろう。
ルックバック条項の実効期間
ルックバック条項の分析には 2 つの要素がある。1 つは期間で、もう 1 つはその期間
内における特定のイベント(「参照イベント」)の発生である。フィッチはその方
法論の目的に照らして、前者(期間)をルックバックの「名目期間」とし、後者
(参照イベントまでの期間)をルックバックの「実効期間」と考えることが有益だ
と考えている。フィッチがルックバックをどの程度の制約と考えるか、その判断材
料となるのが実効期間である。実効期間が長くなるほど、当該期間中に発行体の財
務面が圧迫される可能性が高まる。そして、フィッチの判断において、財務面の柔
軟性に対する制約が強いと考えられるほど、その結果として付与される資本性は低
くなる。
留意すべき点として、ハイブリッド証券の実効期間の形態には(1)名目期間よりも
短いと判断される場合(2)名目期間と等しいと判断される場合、そして重要なこと
には(3)特定の状況で名目期間よりも長いと判断される場合がある。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
こうしたケースを以下で説明する。
実効期間が名目期間よりも短い場合
最も単純なケースでは、企業がハイブリッド証券の利払い日前、事前に規定された
月数(通常は 12 ヵ月)内に、株主に対して配当を支払っていない場合、ハイブリッ
ド証券のクーポンを繰り延べるオプションの行使が可能になることが、通常、契約
書上で規定される。または「事業年度」を基準とする場合もある。
この場合、実効期間は 12 ヵ月よりも大幅に短くなる可能性がある。たとえば、発行
体が毎年 4 月の AGM で普通株に対する配当を決定し、その 30 日後に支払うとした場
合、ハイブリッド証券の年 1 回の利払い日が 6 月下旬だとすると、この制約の実効
期間は 3 ヵ月よりも短くなる。しかし、ハイブリッドの利払い日が 2 月下旬だとす
ると、この制約の実効期間は 11 ヵ月になる。
したがって、ハイブリッド証券が 1 年のうち、どの時期に発行されたかに関わりな
く、ハイブリッド証券や同様に劣後する証券の利払い日を AGM 直後に設定すること
により、ルックバックの実効期間は短くなりうる。AGM から遠く離れた日に発行さ
れたハイブリッド証券は、第 1 回目の利払い日を発行から 1 年に満たない期日とし、
その後の年 1 回の利払い日を自社の AGM 開催が見込まれる期日の直後にする可能性
がある。
ルックバックが直近の AGM を基準とする場合、フィッチは AGM の実際の日付(過去
の日付または明らかにされている予定日)に注目し、ルックバックの実効期間を推
計するため利払い日と AGM の日付との期間を算出する。
フィッチでは、企業が複数の重要な方針に基づき、AGM の日付を設定しており、ル
ックバック条件に対する配慮により、AGM 日付の設定が左右される可能性は低いと
想定している。また、フィッチでは、企業が AGM の日付設定する柔軟性に関して制
約するつもりはない。したがって、AGM がハイブリッド証券の利払い日に近い日付
に設定されている場合、フィッチはルックバック条項の制約が重要ではない、すな
わち制約がないに等しいものとして分類する。このように判定されるには、実効ル
ックバックが 3 ヵ月以内となることが必要であり、短いほど理想的である。一方、
発行体が AGM の予定を大幅に変更し、実効ルックバック期間が延伸する場合、フィ
ッチはこの証券の資本性評価を引き下げる可能性がある。
実効期間が名目期間と等しい場合
多くのハイブリッド証券にはルックバック条項が規定されており、普通株に対する
配当の支払いに加え、それ以外の方法による普通株への配分についても、ルックバ
ックの参照対象である。その最も代表的なものが自社株買いである。多くの企業は
定常的な自社株買いプログラムを設定しているが、この種のイベントは AGM と連動
しておらず、時期を問わず常に起きる可能性がある。ルックバックが名目ルックバ
ック期間中にいつでも発生する可能性のあるこうした予期できないイベントを参照
している場合、フィッチは名目ルックバック期間を実効期間と見なし、公表されて
いる方法に則り、これを制約として取り扱う。すなわち、12 ヵ月間以内の自社株買
い(または類似した予期できないイベント)を参照している場合、それを重大な制
約と見做すことになる。
直近の AGM 以降の期間に限定した自社株買い(または類似イベント)の発生を参照
イベントとし、上記のように、AGM に比較的近い期日に利払い日を設定することに
より、当該影響を軽減することができる。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
ハイブリッド契約書類の実例
ルックバック条項なし:
「発行体はその裁量により、かかる利払い日直前の金利期間の当該期日まで経過
利息の発生している債券について、利息を支払わないと決める可能性がある」。
12 ヵ月のルックバック条項:
「発行体は利払い日までの 1 年間に、(a)配当の支払い決定や、(b)劣後証券
への支払い、(c)自社株買いを行った場合、利払い日に利息を支払うものとす
る」。
3 ヵ月未満の実効ルックバック条項:
「発行体は利払い日の直前に行われる年次株主総会において、あらゆるクラスの
株式に関して、配当の支払いやその他分配金の払いを決議していない場合、当該
利払い日に支払われる利息を繰り延べることができる」。
イベントによるルックバック期間の差別化:
「利払い日の利息の支払いは(i)発行体が利払い日直前の年次株主総会において
または(ii)かかる利払い日直前の 6 ヵ月間に、資本証券の償還、買い戻し、返済
またはその他の方法による購入を行っていない場合、発行体の裁量による選択の
対象となる」。
名目期間よりも実効期間が長い場合:
パリティ証券を参照するルックバック
上記のルックバックの実効期間に関する記述は、普通株式に対する分配を参照する
比較的単純なケースに限られていた。パリティ証券を追加的に参照する場合、状況
は一層複雑になる。同一の発行体が複数のパリティ証券(ハイブリッド証券、優先
株、下位劣後債)を発行しており、その利払い日が異なる場合、実効ルックバック
期間はパリティ証券の銘柄数とその利払いタイミングにより、最大で 2 年になる可
能性があり、ワースト・ケースのシナリオでは、繰延特性が事実上無効となる可能
性がある(下図参照)。
フィッチでは、こうした制約が「中核原則」を完全に侵害する重大なものと見做し、
資本性評価をゼロに引き下げることにする。
Look-Backs that Reference Parity Securities
Hyrbid A Coupon Date
Hyrbid A Coupon Date
Hyrbid A Coupon Date
12 months look-back Hybrid A
12 months look-back Hybrid A
Hybrid B Blocks Hybrid A Deferral
Hybrid B Blocks Hybrid A Deferral
Time
Hybrid A Blocks Hybrid B Deferral
Hybrid A Blocks Hybrid B Deferral
12 months look-back Hybrid B
12 months look-back Hybrid B
Hybrid B Coupon Date
Hybrid B Coupon Date
Hybrid B Coupon Date
Source: Fitch
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
資本性評価への影響
資本性評価に関して、軽微な制約がある場合、非累積型証券の上限は 75%になり
(クラス D 証券)、重大な制約がある場合、非累積型証券の上限は 50%になる(ク
ラス C 証券)。累積型証券については、軽微な制約がある場合、資本性評価の上限
が 50%となり(クラス C 証券)、重大な制約があれば、上限は 25%に引き下げられ
る(クラス B 証券)。
差別化されたルックバック
ハイブリッド証券の契約書に複数の異なるルックバック参照時点が記載されている
場合、フィッチはそれぞれの実効期間を判定し、「ウィークリンク・アプローチ」
に沿った形で、最も長期の潜在的実効期間を決定的制約として採用する。
ルックバック条項と強制および規制上の繰延特性との関連
ハイブリッド証券の契約書に強制または規制上の繰延メカニズムを組み込むことに
より、ルックバック条項の影響を最小化することが可能である。基本的に、ルック
バックは「支払い義務」特性であり、これを「先送り義務」特性により相殺するこ
とができる。銀行などの規制を受ける業種の場合、これは規制上の自己資本比率の
遵守または規制上の正式なトリガー違反がない場合でも、単に介入して繰延べを命
じる規制当局の重大な裁量権限の形となることが多い。規制を受けない業種の場合、
強制繰延べは個別の基準と連動する可能性が高く、フィッチはこうした繰延メカニ
ズムの効力を判断するための一般的なガイドラインを規定している。
しかし、特定のシナリオにおいて、「支払い義務」を課すルックバックが「先送り
義務」を課す繰延メカニズムと直接矛盾する場合に、問題が発生する可能性がある。
こうした状況では、その 2 つのどちらを優先するかを判断するため、ハイブリッド
証券の契約書を注意深く参照する必要がある。フィッチでは、銀行監督当局の足枷
になると思われるものの、契約書上でルックバックが選好されている事実を認識し
ている(次ページの例 1 を参照)。
この場合、フィッチは当該特性の強制力に関して、法的な説明や監督局からの見解
を求めることにする。ルックバックが実際に優先される場合、既述の実効期間基準
を踏まえて、ルックバックは制約と見なされることになる。
発行体やストラクチャラーはルックバックよりも強制繰延べを優先することを明確
にすることにより、この問題を回避することができる(次のページのボックスに示
した例 2 を参照)。
潜在的な軽減要因
以下が発生することにより、ルックバックに関連する制約は軽減または排除される
可能性がある。
• ルックバックの「実効」期間が短縮され、可能であれば 3 ヵ月未満になること。
名目期間の短縮。
• ルックバックから、自社株買いの参照を撤回(または直近の AGM 以降の自社株買
いに対する参照を制限)。
• ルックバックからパリティ証券の参照を撤回。
• ルックバックの制約受けない有効な強制繰延メカニズムを含む。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
例 1:強制または規制上の繰延べに優先されるルックバック
配当の支払いの制限
次に示す義務的配当の支払いが必要な場合を除き、以下に該当する場合、発行体
は配当を支払うことができない(したがって、信託優先証券に対する配当も支払
われない)。
1. 単独財務諸表上、銀行が配当支払いの原資となる純利益を上げていない場合
2. 銀行が適用対象となる銀行法や規則により、株式資本のいかなるクラスに対し
ても、配当の公表や、分配が禁じられている場合。
3. シフト・イベントが発生した場合(すなわち、規制上の自己資本比率違反また
は違反の可能性が著しく高まった場合)
義務的配当
上記(1)から(3)の制約にもかかわらず、発行体は以下に該当する場合、配当
の公表し、支払い日にそれを全額支払う必要が生じる。
配当支払い日を含む直近の 12 ヵ月間に、年 1 回の配当やその他の分配金の支払い
を行う劣後証券が存在する場合に、当該証券に対して銀行が配当や分配金支払い
の決定や支払いまたはその他の支払いを行った場合。
例 2:ルックバックに優先される強制的繰延べ
「強制金利支払日」とは、(1)任意の金利支払日でなく、(2)強制的不払いが
行われていない、金利支払日を指す。
強制的不払い
金利支払日の 12 営業日前にキャッシュ・フロー・イベントが存在する場合、発行
体はかかる金利支払日に支払うべき金利の支払いを行わないこととする。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
別添 2 - リプレイスメント条項
本表の内容は 2007 年 7 月 18 日付のスペシャルレポート『More Equity-Like Than
Equity: The Fallacy of Replacement Capital Covenants』で初めて公表されたもので
ある。
発行体が保有する証券の繰上償還オプションがその証券の事実上の償還日となるか
否かを検討するにあたり、フィッチでは繰上償還に関する経営陣の意思およびそれ
を履行する見込みについて、考慮している。フィッチは潜在的なリプレイスメント
条項について、それが法的な拘束力を持つか否かに関わりなく、その法的形態を重
視しておらず、コミットメントと意思に関する契約上の表明でなくても多くの場合
は容認する。フィッチは次の理由から法的拘束力のあるリプレイスメント条項
(RCC)を求めない。
• 当該要求は、幅広い分野における経営陣のコミットメントと保証に依拠する企業
格付に対するフィッチの総合的な分析アプローチとは相容れない
• RCC は事実上、ハイブリッド資本を自社株買いが行われることも多い普通株以上
に「恒久化」させることを義務づけるものである。
• 当該条項の法的な有効性に関して、疑問が残る
• RCC は非効率的であり、コストが高く、取り扱いが難しい。
法的拘束力のある正式な RCC は、格付機関が他の方法によって企業格付に取り組む
ための強引なソリューションであると思える。企業は動的な組織であり、時として
資本の取り崩しや、財務レバレッジの拡大といった行動に出ることがある。企業が
賢明ではない買収を行う可能性や、反対に他社の買収対象になる可能性がある。ま
た、十分な理解がないまま新市場に参入する可能性や、リスクの高い新事業開発に
投資する可能性、過剰な配当を支払う可能性、普通株を買い戻す可能性もある。フ
ィッチでは、こうした潜在的に悪影響のあるクレジット・シナリオを契約上拘束力
のある取り組みによって回避するのではなく、当該イベントの発生が高い確率で予
想される場合または実際に発生した時に対応する。フィッチでは、固定的アプロー
チのためにハイブリッド証券を選び出すことは妥当性がないと考える一方、企業が
広範囲の裁量権を持って、資本構成に影響のある他のすべての判断を下すことがで
きるようにしている。
実体よりも形式
発行体の追加的コストおよび管理上の負担と比較すれば、参照優先証券の保有者に
対して渡される法的拘束力のある RCC によって、発行体の信用状況に寄与する追加
的利点や保証は、皆無か極めて少ない。
• 発行体が RCC と共に格付機関に送付した法律意見書について、フィッチでは、ど
んなに好意的に判断しても、参照証券の保有者が制限条項に基づき、ハイブリッ
ド証券の発行体に対して法的拘束力や強制執行力を持つとする法律家側の緩い保
証に過ぎないと考えている。ドイツなどの法域では、こうした契約の適法性に対
してかなり懐疑的である。
• 通常、RCC の発行体は RCC の受け皿として、以前には存在しなかった一般債務を
発行することが必要であり、さらには、かなりのコストと労力をかけて、RCC の
有効性について、法律意見書を法律家から得ることが必要である。
経営意思とコミットメントの表明
代替資本条項には、それが経営意思のコミットメントであれ、法的な拘束力のある
制限条項であれ、通常は「発行体はハイブリッド証券に関して、同格の資本性を有
する証券またはより資本性の強い証券により調達された資金を使う場合を除き、ハ
イブリッド証券のコール期日に繰上償還を実施しない」ことを表明する文言が組み
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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Corporate Finance
込まれる。規制を受ける金融機関の場合、当局による事前の繰上償還の承認がその
適切な代替となる。
コール日以前に発行体の資本の健全性に重大な変化が生じたうえ、現在のハイブリ
ッド証券をコール期日以降も維持すること、または同等の資本性を有する証券に置
き換えることに経済的合理性がないシナリオの場合、フィッチは当然、当初意図し
ていたとおりに代替が履行されることを想定しない。たとえば、発行体が資産や事
業の大幅な縮小またはその他の方法で、リスク・プロファイルを著しく低下させる
場合、発行体はそれにより、格付と比較して過大な資本を保有することになる。こ
の分析はリプレイスメント時点で行われるであろうものであり、当該ハイブリッド
証券の発行時に行われるものではない。さらに、リプレイスメントを行わなかった
こと自体が、当該発行体の趣意書の将来における使用に関して、フィッチに先入観
を与えることはないであろう。
発行体の意思の開示
フィッチは経営陣の意思表明に厳密な形式またはフォーラムを求めているわけでは
ないが、任意繰上償還条項のあるハイブリッド証券では、発行体がハイブリッド証
券の買い手に渡す目論見書の中で、経営意思を開示することが慣例になっている。
こうした意思表明は通常、当該証券の買い手にとって、投資リスクの 1 つと考えら
れ、経営陣はコール期日に証券をコールする義務を負わず、一定の条件が満たされ
た場合にのみ、コールされることを投資家に注意喚起するものである。
フィッチの見解では、ハイブリッド証券の目論見書に当該文言を盛り込む理由は 2
つある。第一に、ハイブリッド証券の投資家から、発行体が証券をコールすること
を前提に証券を購入したと抗議が後から出ないよう、事前に注意喚起することであ
る。第二に、フィッチでは、発行体が通常、公表する意思表示と債券契約書や目論
見書に盛り込む文言について、極めて慎重であることを理解しているためである。
フィッチは法的拘束力のある RCC についても意思を示す証拠として受け入れる一方、
投資家に対して、契約書上で直接的に表明された意思は同様に有益であり、より有
効であると考える。経営陣の行動が表明された意思と異なる場合、フィッチではこ
れを格付事由と判断し、発行体の格付を適切に変更する可能性がある。
フィッチは以上の理由から、経営意思を開示することが非常に望ましいと考えてい
るが、フィッチはリプレイスメントまたは資本を一定水準に維持するという非公開
の意思表示についても許容する可能性がある。フィッチでは、こうした意思表示の
履行に関する経営陣のコミットメントに懸念を抱く場合、コール期日に立ち戻って、
実効満期を確定することにする。留意すべき点として、新規のハイブリッド証券の
発行に対する格付付与に関するフィッチの方針では、付与される資本性とその根拠
が開示される。フィッチはこの根拠の 1 つとして経営陣の意思表示に依拠している
場合、それを公表することにする。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
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Corporate Finance
別添 3 - 代替利息決済メカニズム
代替利息決済メカニズム(ACSM、一部市場では ASM とも称される)は利払い(また
は稀に元本返済)の繰延べと関連している。ストラクチャーの違いにより、以下で
説明するとおり、繰延べによって、負債性が強化される場合、資本性が強化される
場合または中立の場合がある。
非現金 ACSM
発行体は繰延べまたは不払いとなった配当を普通株で決済する。任意繰延べまたは
強制繰延べが累積型の場合、非現金株式決済は非累積型の繰延べと同じものになる
効果を持ち、より高い資本性評価がふさわしくなる(評価を制約する別の要因がな
い場合)。繰延べが非累積型の場合、株式決済は中立的であり、資本性評価に変更
はない。資本性評価の観点からすると、こうした特性は魅力的に思えるが、投資家
にとっては、相対的に見て魅力的でなく、米国では税務上、資本として分類されて
いるため、実際にこうした形の ACSM を目にする機会はめったにない。非現金決済が
PIK 決済に近い形で、劣後証券で実施される場合、PIK 累計額を最終的に現金で支払
う必要が生じるため、フィッチはこれを累積型特性と認識する。また、ハイブリッ
ド証券について、経営陣が普通株、優先株、ハイブリッド類似証券、オプションな
ど、多様な証券を利用して決済する裁量を与えられている場合、フィッチは発行体
が普通株ではなく、ハイブリッド証券を使った決済を選択する可能性が高いと考え
る。したがって、これは累積的繰延べとして取り扱われることになる。
市場発行による現金 ACSM
大抵の ACSM には、発行体が新規の劣後証券または株式の市場発行を試み(1 回また
は繰り返し)、その発行代わり金を使い、ハイブリッド証券の不払いとなっている
利息を決済すると約束する条項が組み込まれている。このような決済は外部から調
達された新規資金によってのみ、支払いを行うものであるため、キャッシュ中立で
ある、とする見方ができるかもしれないが、フィッチは、この仕組みが財務困難時
に発行体の財務面の柔軟性を制約するものと考える。こうした条項は有利子負債に
似た保護をハイブリッド証券の保有者に与えるものであり、証券の資本性を低下さ
せるものである。
現金決済メカニズムが発行体のみが行使できるオプションである場合、通常、資本
性評価には中立となる。
利払いや普通株式の配当を再開する前に、発行体が名目的に非累積的強制繰延べま
たは任意繰延べに関連して現金決済を行わなくてはならない場合、そうした特性は
事実上、ハイブリッド証券の繰延べを非累積的性質から累積的性質へと変化させる
ものであり、したがって、資本性評価の上限が 1 クラス、引き下げられることにな
る。同 ACSM が累積的繰延べに付随している場合、資本性評価に対する影響は中立と
なる。経営難に陥った場面で予想されるシナリオであるが、発行体が利息を支払う
ための資本性証券の売り出しに失敗した場合、その後の展開は多岐に亘る可能性が
ある。発行体は成功するまで、資本性証券の発行に向けた相応の努力を継続するこ
とが必要になる場合がある。それができない場合、未払いの利息が累積され、発行
体がその後、資本性証券を売り出すか、普通配当を支払う場合には未払いのクーポ
ンを現金で決済しなければならない。いずれの場合も、フィッチはこうした要素を
累積的繰延べと同等と見做す。ただし、ACSM が成立せず、未払いのクーポンが(非
累積のように)消滅することもある。そうした特性については、フィッチは非累積
的繰延べと判断する。
ACSM の希薄化効果
ACSM メカニズムによって所有権の大幅な希薄化が生じる場合、フィッチは ACSM が
資本性を消失させるものであると考えるであろう。発行体が希薄化につながる取引
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
28
Corporate Finance
(未払いのクーポンを支払う目的で無制限に普通株を発行)を実行せざるを得なく
なる場合、フィッチでは、経営陣が株式の希薄化を回避するための措置を講じ、そ
れにより、発行体の財務ストレスが一段と強くなる可能性を懸念する。ACSM に従っ
て 1 年間にハイブリッド証券に対して発行される株式が発行済み株式の 2%以内に留
まっており、さらに、いかなる年度にも、発行総額が発行済株式数の 10%を超えな
い場合、フィッチは ACSM の希薄化効果を過剰とはみなさない。PIK 証券について、
フィッチは支払い義務を履行するために利用可能な類似証券の価値に対し、一切制
限を設けていない。当該特性は累積的繰延べと同等と考えられる。
ACSM による発行に関連した制限条項
一部のハイブリッド証券には、ACSM の要件を満たすために発行された株式を買い戻
すことを目的とした有利子負債の発行を禁止する制限条項が規定されている。フィ
ッチでは、資本性評価の観点からはそうした制限条項に関心がない。発行体が自社
株買いプログラムを遂行するために、レバレッジ水準を引き上げることは、より広
範な格付分析において重要な部分となる。
表 9 は ACSM に関するフィッチの対応をまとめたものである。
表 9:ACSM の資本性評価への影響
名目上累積
名目上非累積
非現金決済
普通株により決済された場合、取り扱い 変更なし
は非累積型に変更。すなわち資本性評
価を 1 クラス引き上げ。その他の場合に
は変更なし
任意の市場発行による現金決 変更なし
変更なし
済
「相応の努力」を伴う市場発行 変更なし
市場発行が失敗した後も、発行体が繰
による現金決済
り返し発行を試みるよう義務付けられて
いる場合、将来の資本性証券の発行調
達資金を従前の未払いの ACSM の決
済に充てるよう義務付けられている場
合、または従前の未払いの ACSM を決
済することなく普通株の配当を再開する
ことができない場合、フィッチは、こうし
た規定を累積的繰延べと解釈し、資本
性評価を 1 クラス引き下げる。
出所:フィッチ
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
29
Corporate Finance
別添 4 - フィッチの格付分析における負債と資本の連続性の
適用
フィッチは負債・資本の連続性を適用して、発行体の財務レバレッジや自己資本比
率にプロフォーマの調整を加える。金利カバレッジ比率に関しては、資本性の配分
に基づくプロラタ調整ではなく、繰延可能な利払いと繰延不可能な利払いという観
点から調整を行う。フィッチはこうした調整を加えた後の比率を発行体のファンダ
メンタル分析で使用する。そのため、こうした指標は発行体に関するフィッチの格
付評価と、負債およびハイブリッドの許容度の判断における重要な基盤となってい
る。
フィッチは財務レバレッジと自己資本比率の調整において、発行体の資本に含まれ
る各ハイブリッド証券の資本性と負債性に基づいて調整した資本額と負債額を用い
る。バランスシート上でハイブリッド証券が負債として計上されている場合、フィ
ッチは負債額を引き下げ、ガイドラインを踏まえた形で、元本の一部を調整済み資
本に配分する。バランスシート上で優先株を独立した優先株区分に計上している場
合、元本は全額、その商品の分類に従い、調整済み資本と調整済み負債とに振り分
けられる。この調整はフィッチが定める 30%の許容限度内で行う。この点について
は、後ほど詳しく取り上げる。
表 10:比率調整の例
背景となる情報
有利子負債
300
コア株主資本
EBITDAR
営業活動からの資金(FFO)
税引前利益
クラス C ハイブリッド証券の発行
推定資本性割合(%)
推定負債性割合(%)
500
200
150
140
200
50
50
調整後レバレッジ数値
有利子負債
ハイブリッド証券の負債性
調整後有利子負債合計額
コア株主資本
ハイブリッド証券の資本性
調整後資本総額
総資本(有利子負債+資本)
調整後レバレッジ指標
調整後有利子負債/資本(%)
調整後有利子負債/EBITDAR(倍)
調整後有利子負債/FFO(FFO レバレッジ)
調整後カバレッジ指標
有利子負債利息(5%の非繰延利息と仮定)
有利子負債利息(10%の繰延可能利息と仮定)
利息総額
カバレッジ(倍)
EBITDAR/利息総額(固定金融費用カバレッジ)
(FFO+利息)/(合計利息+優先株配当)
代替ケース・カバレッジ(倍)
EBITDAR/非繰延利息
(FFO+利息)/(非繰延利息+優先株配当)
300
100
400
500
100
600
1,000
40
2.0
2.7
15
20
35
5.7
5.2
13.3
12.3
EBITDAR –利払い、税金、減価償却、賃料、リース料控除前利益、FFO –営業活動からの資金
出所:フィッチ
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
30
Corporate Finance
事業会社セクターと保険セクターの信用比率分析では、金利と金融費用カバレッジ
比率が重要な要素になるが、銀行セクターの分析における重要性は比較的低い。事
業会社セクターでは 2 種類の金利または金融費用カバレッジ比率が使用される。ま
ず、利息と優先配当をすべて予定通りに支払うことを想定し、完全負荷状態の金利
費用に対する営業活動からの EBITDA(または EBITDAR)の比率を測定する。ハイブ
リッド証券と優先株について、繰延可能または回避可能な定期的支払いを行わない
と想定して、同様の比率を算出する。
また、営業活動からのキャッシュ・フローまたは営業活動からの資金を分子に使い、
1 対の比率を算出する。1 つは予定されている利息と優先配当の全額を分母とするも
のであり、もう 1 つは、繰延不可能な利息と優先配当のみを分母とするものである
(通常、優先配当は繰延べまたは支払い回避が可能)。アナリストはこのような対
となった比率を見ることで、経営陣が繰延べを選択した場合または強制トリガーが
発動された場合に潜在的に軽減されるカバレッジ比率を感覚的に把握することがで
き、当該比率は財務の柔軟性の構成要素と考えられる。将来の予想のために使用さ
れる場合、この繰延シナリオにおける比率は、予測期間に繰延べが必要になる可能
性のある、経営不振の発行体の場合に、適合性および重要性が最も高くなる。
資本構成におけるハイブリッド証券の上限
資本構成におけるハイブリッド証券許容限度の計算例
普通株と内部留保利益=コア株主資本
ハイブリッド証券からの適格資本の上限=30%×(コア株主資本/70%)
例:
企業 A のコア株主資本=1,000
1,000/70%=1.429
したがって、1,000 のコア株主資本に対する適格総資本の上限は 1,429 となり、こ
のコア株主資本の金額が許容できるハイブリッドの資本性の上限額は 429 とな
る。
1,429-1,000=429
この例における 429 という額は、フィッチが資本調整後比率において、資本に算
入する全ハイブリッド証券からの「資本要素」総額の上限であり、ハイブリッド
証券の額面価額の上限ではない。
上記ボックスの例は企業がハイブリッド証券から導出できる資本額に対して、フィ
ッチが規定する上限を算定する標準的な方法を示したものである。しかし、フィッ
チの格付委員会は、特殊な状況に対して、別のアプローチをケース・バイ・ケース
で適用する裁量を有している。以下に示すとおり、一部には、30%のガイドライン
を超える資本性を認め、それを継続している例もある。
• 新会計基準の適用により、企業の帳簿上の株主資本が資産の減損費用により減少
した。償却前に発行されたハイブリッドはガイドラインを満たしていたが、減損
費用が適格資産の 30%を上回った後、フィッチの格付委員会は、それまでハイブ
リッドに適用していた資本性の上限を適用しないことを決めた。
• 法的な破産を伴わない企業再生により、帳簿上の株主資本が極めて低水準となっ
た。再生後、この企業は帳簿上の株主資本が極めて低い水準であるにもかかわら
ず、営業キャッシュ・フローの水準は良好であった。分析チームは以下の指標を
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
31
Corporate Finance
基に、この企業の企業価値(EV)のレンジを算出した。
o
EV 1=(平均セクターEBITDA 倍率)×予想 EBITDA
o
EV 2=(最低セクターEBITDA 倍率)×過去 12 ヵ月間の EBITDA
EV から有利子負債額面価額を差し引くことにより、調整後株主資本に対するバリュ
エーションのレンジが得られたが、これが株主資本の簿価を大幅に上回っていた。
また、このアナリストは普通株の時価との比較も行ったが、これは EV1 から EV2 の
レンジと一致していた。格付委員会は新規発行されるハイブリッド証券の発行代わ
り金の想定される使途についても検討した。この資金は生産能力の拡大に利用され
る見込みであり、このプロジェクトにより、向こう 2 年~3 年間でキャッシュ・フロ
ーの上積みが期待される。この代替的バリュエーション指標と発行体の長期的見通
しを改善させる可能性の高い発行代わり金の使途を踏まえ、提案されたハイブリッ
ド証券の資本性評価には上限が設定されなかった。
グループ内における発行機関の立場による資本性評価への影響
フィッチでは通常、資本性評価の分類という観点では、ハイブリッド証券の発行体
が事業活動を行う会社か持株会社であるか否かを重視しない。資本性評価の分類は
第一に、発行体の性質よりも証券の特性によって判断される。
投資家にとってのリスクは、発行体が事業活動を行う会社か持株会社かによって異
なるであろうが、こうした可変的リスク水準は、発行体の種類によって異なる可能
性のある、ハイブリッド証券の格付によって捕捉される。これが特に該当するのが、
保険会社であり、保険会社は異なる規制により、持株会社が発行する社債の方が、
事業活動を行う会社が発行する社債に比べて、デフォルト・リスクが大幅に高くな
る可能性がある。
親会社である持株会社の傘下にある事業子会社が、ハイブリッド証券の発行体であ
る場合、資本分類の判断は発行体(子会社)の資本とレバレッジの評価に加え、連
結アプローチが使用したグループ分析が行われる。しかし、フィッチは、親会社で
ある持株会社に関する非連結ベースでの分析上、子会社のハイブリッド証券に関連
した資本性要素を加味するための親会社のレベルでの資本性調整は行わない。また、
持株会社のキャッシュ・フロー分析において、アナリストは子会社から親会社に対
する配当や分配金の支払いが、子会社のハイブリッド証券の配当停止条項によって
差し止められる可能性を考慮する場合がある。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
32
Corporate Finance
別添 5 - ハイブリッド証券の格付とノッチング
本表は、2009 年 12 月 29 日付で公表された格付基準レポート「ハイブリッド証券の
格付」で変更された。当該レポートは、フィッチのウェブサイト
www.fitchratings.co.jp から入手可能となっている。
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
33
Corporate Finance
別添 6 - 一般的な種類のハイブリッド証券の分析例
トラック A:典型的なハイブリッド証券の資本性分類
主な地域
商品
事業会社
優先株
銀行優先株
イノベーティブ・ティア 1
証券(銀行)
信託優先証券
税優遇ハイブリッド証券
欧州または米国
優先株
欧州または米国
優先株
欧州
下位劣後証券
欧州または米国
下位劣後証券
米国
下位劣後証券
米国
米国
劣後、法定財務諸表では、負 優先株
債とみなされず
永久、10 年後に 100bp
のステップアップを伴う
コール。規制当局の許
可があったときのみ早
期償還
非累積、現金、ACSM 株
式決済が可能な場合も
当初 30 年で 21 年の残
存期間。コールなしまた
はステップアップなしで
の任意のコール
30[40、50、60]年満期、5 年目
または 10 年目にコール(100bp
のステップアップ)、リプレイスメ
ント文言または RCC
規定は 10 年、ただし、規制当 永久
局による書面での承認がある
場合にのみ支払いが可能(事
実上、永久)
非累積、規制自己資本
が不十分であれば配当
なし
制限条項またはデフ 制限条項またはデフォル 制限条項またはデフォ
ォルト事由なし
ト事由なし
ルト事由なし
累積、5 年以上の繰延
オプション
非累積、規制当局による書面 非累積
での承認がある場合に、利益
からのみ支払いが可能
容認可能な(弱い)
制限条項またはデフ
投資家保護
ォルト事由なし
ACSM を条件に、任意での
繰延べに制約なし(累積)
容認可能な(弱い)
投資家保護
累積、5 年間の繰延オプション
に加え、ACSM を条件にさらに 5
年間
容認可能な(弱い)
投資家保護
なし、トラック A
クラス E が上限
なし、トラック A
クラス E が上限
なし、トラック A
クラス E が上限
なし、トラック A
クラス D が上限
なし、トラック A
クラス D が上限
なし、トラック A
クラス D が上限
なし、トラック A
クラス E が上限
強制、トラック B
クラス D が上限
クラス D が上限
残存期間が 9 年とな
るまで制約なし
上限なし
クラス D
クラス E が上限
上限なし
クラス E が上限
上限なし
クラス E が上限
上限なし
クラス D が上限
上限なし
上限なし
クラス E が上限、ACSM
が事実上、累積型の場
合、クラスは D が上限
クラス D が上限
残存期間が 9 年となるまで制約
なし
上限なし
クラス D
クラス E が上限
事実上、永久。上限なし
上限なし
クラス E
クラス D が上限
残存期間が 9 年となる
まで制約なし
上限なし
クラス D
上限なし
クラス D
上限なし
クラス E
上限なし
トラック A、当初 2 年~4
年はクラス D、その後、ト
ラック B(契約上、最後の
3 年間)、クラス E
償還あり、残存期間 永久
30 年
累積配当繰延べ
分析
転換
損失吸収
柔軟性
継続的支払い
永続性
制限条項
最終資本性評価
サープラス・ノート
(保険)
銀行 REIT 優先株
出資証券、強制 III
米国
劣後または下位劣後、こ
れに永久優先株を購入す
る契約を付加
最終満期 30[40、50、60]
年
容認可能な(弱い)
投資家保護
注:ACSM-代替利息決済メカニズム、累積-配当や利払いの累積的繰延べが可能、下位劣後-下位劣後証券、非累積-将来の返済義務を負うことなく、利息や配当の排除が可能。
RCC-リプレイスメント条項、劣後-劣後証券
出所: フィッチ
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
34
Corporate Finance
トラック B:典型的なハイブリッド証券の資本性分類
主要な地域
商品
分析
強制的行使
発行時に価格、もしくはレン
ジを決定
期限前償還、もしくは行使の
ための担保
行使までの期間
行使時の商品
行使前のホスト証券
最終資本性評価
強制転換証券 I
強制転換証券 II
米国
普通株式購入予約契約付の
劣後または下位劣後債券
米国
普通株式購入予約契約付の
劣後または下位劣後債券
強制転換証券 III
強制転換証券 IV
強制転換証券 V
任意転換債
米国
永久優先株式購入予約契約付
の劣後または下位劣後債券
(WITS、ITS、MCAP)
3 年契約
5 年契約
5 年契約、最長 7 年まで延長可
能
5 年物債券(または 5 年で交換 3 年物債券(または 3 年で交換 30 年以上物の債券
される 7 年物債券)
される 5 年物債券)
少なくとも 3 年間の任意繰延べ 5 年間の任意繰延べ
代替的な利息決済の仕組みを
条件に、任意繰延べに制限なし
米国
米国
欧州または米国
普通株式購入予約契約付の一般 普通株式購入予約付の劣後また 一般債
債
は下位劣後債券
3 年契約
3 年契約
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
あり
なし
あり
あり
あり
あり
あり
あり
なし、行使比率は行使日の市場
価格
あり
3 年以下
普通株(クラス E)
任意繰延べが可能な劣後債ま
たは下位劣後債
クラス E
5年
普通株(クラス E)
任意繰延べが可能な劣後債ま
たは下位劣後債
当初 2 年間はクラス D、その後
3 年間はクラス E
5年
非累積永久優先株(クラス E)
任意累積繰延べが可能な劣後
債または下位劣後債
当初 4 年間はクラス Da、その後
3 年間はクラス E
3 年以下
普通株(クラス E)
一般債、繰延べなし
3 年以下
普通株(クラス E)
行使は不確定(任意)
普通株(クラス E)
任意で普通株に転換可能、現金
決済または現物決済
3 年物債券(または 3 年で交換さ 3 年物債券(または 3 年で交換さ 期間 10 年未満の転換証券
れる 5 年物債券
れる 5 年の債券)
繰延べなし
3 年間の任意繰延べ
繰延べなし
当初 2 年間はクラス A、3 年目は トラック B は非適格、クラス A
クラス C
あり
トラック B は非適格、クラス A
注:累積-配当や利払いの累積的繰延べが可能、下位劣後-下位劣後証券、非累積-将来の返済義務を負うことなく、利息や配当の排除が可能、劣後-劣後証券
a
当初の 2 年間はトラック A 経由でクラス D、延伸が発生した場合、そのあと 2 年間はトラック A または B を経由してクラス D、契約上、最後の 3 年間はトラック B を経由して、クラス E。同じ商品を前ページの表でも示している(トラック A)
出所:フィッチ
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
35
Corporate Finance
目次
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価 ..............................................................................1
要約 .............................................................................................................................................1
範囲 ..........................................................................................................................................1
セクション 1 - 資本性評価の根拠.....................................................................................................2
1.1
資本性評価とは ....................................................................................................................2
1.2
負債と資本の連続性 ...............................................................................................................2
1.3
資本構成におけるハイブリッド証券の上限....................................................................................2
セクション 2 - ハイブリッド証券および他の資本証券の評価 ....................................................................3
2.1
中核的な分析項目..................................................................................................................3
2.1.1
損失吸収能力..................................................................................................................4
2.1.2
財務の柔軟性..................................................................................................................4
2.1.3
転換性 ..........................................................................................................................4
2.2
ウィークリンク・アプローチ ....................................................................................................4
2.3
規制の影響 ..........................................................................................................................4
セクション 3 - トラック A-非転換型証券 ..........................................................................................5
3.1
損失吸収.............................................................................................................................5
3.1.1
破綻後の劣後性 ...............................................................................................................5
3.1.2
破綻前の損失吸収特性 .......................................................................................................6
3.2
財務の柔軟性 .......................................................................................................................7
3.2.1 利払いの繰延べ ...................................................................................................................7
非累積型および累積型繰延べ..........................................................................................................7
繰延特性 ..................................................................................................................................8
強制繰延特性.............................................................................................................................8
財務ストレスとの関連性 ...............................................................................................................8
適時性 .....................................................................................................................................8
信頼に足る算出 ..........................................................................................................................9
制約がないこと ..........................................................................................................................9
任意繰延特性.............................................................................................................................9
繰延べの制約........................................................................................................................... 10
繰延期間の制限 ........................................................................................................................ 10
ルックバック条項 ..................................................................................................................... 10
代替利息決済メカニズム ............................................................................................................. 11
3.2.2
実質償還期日................................................................................................................ 12
実質償還期日の定義 .................................................................................................................. 12
ステップアップのしきい値 .......................................................................................................... 13
基本的リプレイスメント条項........................................................................................................ 14
支配権の移動とコールまたはプットの権利 ....................................................................................... 14
3.2.3
債権者/投資家保護の欠如‐制限条項.................................................................................. 14
セクション 4:トラック B - 転換証券.............................................................................................. 15
4.1
転換性が重要な理由 ............................................................................................................. 16
4.2
転換証券の形態 .................................................................................................................. 16
4.2.1
強制転換証券................................................................................................................ 16
4.2.2
任意転換証券................................................................................................................ 16
4.3
強制転換証券の資本性 .......................................................................................................... 17
4.3.1
転換後の証券の順位........................................................................................................ 17
4.3.2
転換価格または比率........................................................................................................ 17
4.3.3
転換までの期間 ............................................................................................................. 17
4.3.4
転換前の証券の特性........................................................................................................ 17
別添 1 - ルックバック制約 ........................................................................................................... 21
ルックバック条項の実効期間 .......................................................................................................... 21
ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
36
Corporate Finance
実効期間が名目期間よりも短い場合 ............................................................................................... 22
実効期間が名目期間と等しい場合 .................................................................................................. 22
ハイブリッド契約書類の実例 .......................................................................................................... 23
ルックバック条項なし: ............................................................................................................. 23
12 ヵ月のルックバック条項: ....................................................................................................... 23
3 ヵ月未満の実効ルックバック条項: ............................................................................................. 23
イベントによるルックバック期間の差別化: .................................................................................... 23
名目期間よりも実効期間が長い場合:............................................................................................. 23
パリティ証券を参照するルックバック............................................................................................. 23
資本性評価への影響 .................................................................................................................. 24
差別化されたルックバック .......................................................................................................... 24
ルックバック条項と強制および規制上の繰延特性との関連....................................................................... 24
潜在的な軽減要因 ..................................................................................................................... 24
例 1:強制または規制上の繰延べに優先されるルックバック..................................................................... 25
配当の支払いの制限 .................................................................................................................. 25
義務的配当 ............................................................................................................................. 25
例 2:ルックバックに優先される強制的繰延べ ..................................................................................... 25
強制的不払い........................................................................................................................... 25
別添 2 - リプレイスメント条項 ..................................................................................................... 26
実体よりも形式........................................................................................................................... 26
経営意思とコミットメントの表明 ..................................................................................................... 26
発行体の意思の開示 ..................................................................................................................... 27
別添 3 - 代替利息決済メカニズム................................................................................................... 28
非現金 ACSM .............................................................................................................................. 28
市場発行による現金 ACSM .............................................................................................................. 28
ACSM の希薄化効果 ...................................................................................................................... 28
ACSM による発行に関連した制限条項 ................................................................................................ 29
別添 4 - フィッチの格付分析における負債と資本の連続性の適用 ............................................................ 30
資本構成におけるハイブリッド証券の上限 .......................................................................................... 31
グループ内における発行機関の立場による資本性評価への影響 ................................................................. 32
別添 5 - ハイブリッド証券の格付とノッチング .................................................................................. 33
別添 6 - 一般的な種類のハイブリッド証券の分析例 ............................................................................. 34
目次 ........................................................................................................................................... 36
(本レポートは英語原文「Equity Credit for Hybrids & Other Capital Securities」を
翻訳したものです。内容に関するご質問・ご不明の点は、上記の担当アナリストに
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ハイブリッド証券およびその他の資本証券の資本性評価
2009 年 12 月
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