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平成25年度福島県議会議員海外行政調査報告書(最終版)
平成25年度福島県議会議員 海外行政調査報告書 【アメリカ合衆国】 平成25年12月 福島県議会議員海外行政調査団 - 1- 平成25年度福島県議会議員海外行政調査報告書 目 次 はじめに(団長) 第1章 1 2 3 調査概要等 ページ 調査目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 調査団員の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 調査日程及び行程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2章 5 5 6 調査結果 1 共通調査 (1)スリーマイル島原子力発電所・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)市民団体「スルーマイル・アイランド・アラート」との意見交換・・・ A班調査【廃炉・除染関係調査】 (1)ペンシルベニア州緊急事態管理庁・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)国土安全保障省・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)アメリカ原子力規制委員会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (4)戦略国際問題研究所・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (5)ポートランド電力会社 元原発担当責任者との懇談・・・・・・・・・ (6)サクラメント電力公社・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 11 2 13 15 17 19 21 23 3 B班調査【エネルギー政策関係調査】 (1)ダビューク市・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)国立再生可能エネルギー研究所・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)フォートコリンズ市・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (4)ニュー・ベルジャン工場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (5)ルカ・インターナショナル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 29 32 35 37 第3章 本県行政等への提言 1 廃炉・除染対策関係 (1)廃炉工程の監視及び危機管理対策について・・・・・・・・・・・・・ (2)廃炉技術等の確立について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)健康管理(ストレス)対策について・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 41 43 2 エネルギー政策関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 編集後記(副団長) - 2- 44 【資料編】 ページ 1 2 調査団の持参資料(英訳) 「ふくしま復興のあゆみ」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 調査先からの供与資料(英語を日本語に翻訳) 「アメリカ原子力規制委員会(NRC)訪問時資料」・・・・・・・・ 「サクラメント電力公社(SMUD)訪問時資料」・・・・・・・・・ 「国立再生可能エネルギー研究所訪問時資料」・・・・・・・・・・・ 「ルカ・インターナショナル訪問時資料」・・・・・・・・・・・・・ 15 29 39 44 - 3- はじめに 我々、海外行政調査団一行16名は、平成25年10月15日から21日までの日 程で、廃炉・除染関係及び、エネルギー政策関係の調査のため、アメリカ合衆国を訪 問してまいりました。 連日早朝から夜遅くまで、また、たびたびバスで数百キロの移動をこなすなど大変 なハードスケジュールの中、アメリカ政府の新年度予算不成立に伴う政府機関の閉鎖 による影響で、予定していた調査ができなくなるといった予期せぬこともありました が、団員各位は精力的に調査を実施し、私としましても非常に実り多き調査となった と考えております。 さて、本県は、東日本大震災による地震、津波の自然災害に加え、日本では誰も経 験したことのない、いわゆる原発の過酷事故という特異性があり、まさに、県民の生 活や日常は180度変わってしまいました。 こうした中、県議会としましても、一日も早い復旧・復興に向け、同様な過酷事故 に見舞われたスリーマイル原発事故の対応等を検証するとともに、廃炉工程やエネル ギー政策関係の調査を実施し、国や県等に提言していくことが必要との声が高まり、 昨年度に引き続き、複数会派参加のもと、今回の調査が実施されました。今回の調査 においても、インターネット等では知ることのできない現地での生の声を聞くことが でき、大変参考になりました。 この報告書は、今後の復旧・復興の一助になればとの思いでまとめたものでありま すが、何より、参加した団員一人一人が、今後、議会活動等を通じ積極的に提言・発 信していくことが、県議会を代表して参加した者の責務であり、県民の付託にお応え するものであると考えております。 おわりに、貴重なお時間を割いていただきました各調査先の皆様をはじめ、調査に 際し多大なるご指導、ご支援をいただきました外務省、現地大使館の皆様など、関係 者の皆様に厚く御礼申し上げます。 平成25年12月20日 平成25年度福島県議会議員海外行政調査団 団長 渡辺 義信 - 4- 第1章 調査概要等 平成25年度福島県議会議員海外行政調査 1 調査目的 東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、未曾有の危機にある本県の最大の課題は原 発事故対応である。そこで、今後、長期間にわたると思われる事故対応における様々な課題 の解決にあたり、県執行部への政策提言に資するため、関係機関等における現地調査を行っ た。 また、本県が「福島県復興計画」において目指している「原子力に依存しない、安全・安 心で持続的に発展可能な社会づくり」の実現に向け、再生可能エネルギーを含めたエネルギ ー政策について、県執行部への政策提言に資するため、先進事例等の現地調査を行った。 2 調査団員の構成 【A班:廃炉・除染関係調査班】 団長 渡辺 丹治 矢吹 佐藤 渡部 星 宮川 安部 【B班:エネルギー政策関係調査班】 義信 (自由民主党) 副団長 宗方 保 (民主・県民連合) 智幸 (自由民主党) 立原 龍一 (民主・県民連合) 貢一 (自由民主党) 佐藤 政隆 (民主・県民連合) 雅裕 (自由民主党) 長尾 トモ子(自由民主党) 譲 (民主・県民連合) 西山 尚利 (自由民主党) 公正 (ふくしま未来ネット) 阿部 廣 (自由民主党) えみ子(日本共産党) 遊佐 久男 (自由民主党) 泰男 (公明党) 川田 昌成 (ふくしま未来ネット) -5- 3 調査日程及び行程 平成25年度福島県議会議員海外行政調査行程 A班【廃炉・除染関係調査班】 *行程のうち、1日目(10月15日)は共通調査 日時 1 月 日 10月15日(火) 【A・B班共通】 地 名 交通機関 行 程 千葉(成田)発 航空機 (ワシントンD.C.経由) (日付変更線通過) 2 10月16日(水) ハリスバーグ着 専用車 ・スリーマイル島原子力発電所【PM 】 ・市民団体「スリーマイル・アイランド・アラート」と の意見交換【 P M 】 《ハリスバーグ 泊》 ハリスバーグ 専用車 ・ペンシルベニア州緊急事態管 庁【AM】 ・国土安全保障省【PM】 ワシントンD.C. ロックビル 3 10月17日(木) 《ロックビル 泊》 ロックビル 専用車 ワシントンD.C. 10月18日(金) 10月19日(土) リッチランド ポートランド 専用車 サクラメント 7 10月20日(日) 10月21日(月) サンフランシスコ発 千葉(成田)着 - 6 - (ハンフォード核施設 車窓) 航空機 ・ポートランド電力会社 元原 発 担当責任者との懇談 【PM】 《サンフランシスコ 泊》 専用車 ・サクラメント電力公社 【AM】 《サンフランシスコ 泊》 サンフランシスコ 6 【 《リッチランド 泊》 サンフランシスコ 5 ・アメリカ原子力規制委員会 AM】 ・戦略国際問題研究所【PM】 航空機 専用車 ポートランド リッチランド 4 理 専用車 航空機 《機中 泊》 (日付変更線通過) 平成25年度福島県議会議員海外行政調査行程 B班【エネルギー政策関係調査班】 *行程のうち、1日目(10月15日)は共通調査 日時 1 月 日 10月15日(火) 【A・B班共通】 地 名 行 交通機関 程 千葉(成田)発 航空機 (ワシントンD.C.経由) (日付変更線通過) 2 10月16日(水) ハリスバーグ着 専用車 ・スリーマイル島原子力発電所【PM 】 ・市民団体「スリーマイル・アイランド・アラート」と の意見交換【 P M 】 《ハリスバーグ 泊》 ハリスバーグ 専用車 航空機 専用車 【AM シカゴ ダビューク 3 10月17日(木) ・ダビューク市【PM】 《ダビューク 泊》 ダビューク シカゴ 専用車 移動】 ・国立再生可能エネルギー研究 所 【PM】 ・大野デンバー総領事との懇談 【 PM】 《リッチランド 泊》 デンバー 10月18日(金) 【AM 航空機 専用車 デンバー ゴールデン 4 移動】 デンバー フォートコリンズ 専用車 ・フォートコリンズ市【AM】 ・ニュー・ベルジャン工場 【AM】 デンバー サンフランシスコ 航空機 専用車 5 10月19日(土) サンフランシスコ 専用車 6 10月20日(日) サンフランシスコ発 専用車 航空機 7 10月21日(月) 千葉(成田)着 - 7 - 《サンフランシスコ 泊》 ・ルカ・インターナショナル 【 AM】 (アルタモント風力発電 車窓) 《サンフランシスコ 泊》 《機中 泊》 (日付変更線通過) 第2章 調査結果 1 共通調査 (1)スリーマイル島原子力発電所【ペンシルベニア州 ○日 時 ○対応者 ハリスバーグ】 平成25年10月15日(火) 14:00~19:00 ロイ・ブロッシー氏、ドクター・ラスグリーン氏、マイケル・ケーシー氏、 ギル・ライト氏、ジェリー・ボイド氏、ジェニファー・ヤング氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 スリーマイル島原子力発電所(以下、「スリーマイル原発」という。)は、1号機が19 74年9月に、2号機が1978年12月にそれぞれ営業運転を開始。原子炉はいずれも加 圧水型(PWR)。 1979年3月28日に2号機において炉心溶融を伴う事故が発生。 現在、1号機は運転中、事故を起こした2号機は保管状態に置かれている(2号機の廃炉 は1号機の運転認可期間が終了した後、併せて行う予定とのこと。)。 今回、原発事故への対応と現状等について調査するため訪問。 2.調査等結果 ○ 廃炉について、アメリカでは原発の運転ライセンスが失効してから60年以内に廃炉 を完了しなければならないと法律で定められている。スリーマイル原発の場合は、今後 2034年に1号機のライセンスが失効する。1993年にライセンスが失効した2号 機は2052年までに廃炉にすることを求められるが、1号機の廃炉と併せて最終的な 廃炉を目指す。 ○ 福島とは圧力容器の形状や発電方式の違いはあるものの、スリーマイル原発でメルト ダウンした核燃料は全体の30%程度であり、圧力容器、格納容器から放射性物質が敷 地外に拡散することはほとんどなく、周辺地域の除染の必要はなかったので、プラント 外の除染はしていない。 ○ プラント外へ放射能の微量の漏洩があったことは事実。それが人体に与える影響を調 査したものが12以上あったが、結果として人体に影響があったことを示す調査結果は ない。ただし、周辺住民のストレスレベルが事故後、4~6年ぐらい上がったまま続い ていたということを示す調査もあった。 スリーマイル島原子力発電所 (写真右:1号機【稼働中】写真左:2号機【事故炉:保管状態】) - 8 - ○ 事故収束においては、汚染の把握や溶融燃料の状態の把握などの調査が非常に重要 である。ちなみに、スリーマイル原発の場合、燃料の取り出し作業は、圧力容器を真水 で密閉(放射性物質から隔離)し、冷温停止状態にした上で、自動ロボットの開発に6 年間を費やし、モックアップ(実物大の模型)などのシミュレーションを何度も経たう えで、さらに4年間を費やし溶融燃料をすべて取り出すことができた。 スリーマイル原発においては、燃料取り出しに約10年かかったが、福島の場合は非 常に長い時間が必要と思われる。放射線量が低い原子炉から作業を始め、知見を蓄える ことが必要。 ○ スリーマイル原発事故でクリーニングした汚染水の量は福島とは比べにならないほど 少量であったが、トリチウムを含む汚染水の川への放流は、関係者の理解を得られず断 念。そのため汚染水を蒸発させ、残った堆積物(残渣)をアイダホにある最終処分場で 処理した。福島で現在行われている汚染水のタンク貯蔵方式は、タンクの耐久性の問題 や汚染水が増え続けている現状をみると限度があると思われる。 ○ 人的ミス防止のための訓練、知識の習得に努めている。人材育成、緊急オペレーター 手順の作成、シフトテクニカルアドバイザー(特別の重篤な事故対策の特別訓練を受け た者)の設置を行っている。 また、プラントシミュレーター(実際の原発と全く同一のデザインで全く同じように 動くシミュレーター)を設置し、日常において人的エラーが起きないよう、およそ5週 間ごとに1週間は自分が作業をしているプラントと全く同じシミュレーターを使った訓 練を行うことができるようになっている。 ○ 福島第一原発の廃炉は日進月歩の技術革新により必ずできると思うが、そう簡単なも のではなく、比較的容易なところから順を追ってやっていくことが経験を積み上げる意 味においても大事なことである。 ○ 一度失った信頼を取り戻すのは難しい。事故後、我々は、地域の方々をサイトに招待 して、実際に我々の行っている作業を見てもらったり、要請に応じて、ボランティアと して、エンジニア・作業員等を学校や集会に派遣して情報提供するなど、情報を常にオ ープンに開示するようにしている。 メディア対応として、「ジョイントインフォメーションセンター」というものを作り、 政府・会社側がバラバラに違うことを言うのではなく、シングルの情報源となって情報 を提供している。 また、実際に事故が起こった際に、どのような広報活動をするのかということを実際 に練習する「広報練習会」のようなものを年4回行い、信頼の醸成に努めている。 3.主な質疑応答 Q1.モックアップ(実物大の模型)は最終的にどうしたのか A1.最終的に解体して処分した。 Q2.運転中の1号機及び保管状態の2号機の廃炉計画について A2.運転中の1号機については、2034年に原子炉のライセンスが切れるので、そこか ら60年以内に廃炉にする必要がある。一方、保管状態の2号機については、1993 年にライセンスが切れているので、2052年までに廃炉にしなければならないことに なっている。 今のところ、1号機及び2号機を一緒に廃炉にする計画なので、2052年頃までに 両方とも廃炉にすることを考えているが、計画が変わる可能性はある。 Q3.電力会社と政府及び地方自治体の関わりについて A3.現在のところ、燃料取り出しまで行っているが、その実施主体は電力会社である。な お、費用についてはかなりの部分を連邦政府が出している。 今後、本格的な廃炉作業に入ることとなるが、そうなれば、政府、地方自治体等を含 めたすべてのコミュニティの関与が出てくると思われる。 - 9 - 例えば、こちら側(電力会社)からの情報提供はもちろん、モニタリングについても、 政府や地方自治体側でも行うなどといったことである。 Q4.事故を起こした電力会社が発電事業と廃炉作業を並行して行うことは可能か A4.原則から言えば、事故を起こした会社が廃炉について責任を持って行うということは 当然のことだと考える。 ただ、事故を起こした電力会社が他の発電所で発電を続けていくことの是非というこ とになれば、その会社がきちんと安全な発電活動をするだけの技術的な能力を持ち得て いるのかという技術判断に基づく判定によって決めなければならないものと考える。 スリーマイル原発施設内部 スリーマイル原発2号機コントロールルーム(制御室) - 10 - (2)市民団体「スリーマイル・アイランド・アラート」との意見交換 【ペンシルベニア州 ハリスバーグ】 ○日 時 ○対応者 平成25年10月15日(火)20:00~21:30 エリック・エプスタイン氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 事故前の1974年から原発の監視活動を続けるハリスバーグの市民団体「スリーマイル アイランド・アラート(TMIA)」(スリーマイル島からの警告)代表のエリック・エプ スタイン氏と意見交換を行った。 2.調査結果 ○ 自分たちは、この地域コミュニティに対して、非常に誇りを持っている。そして、自 分たちの立場というのは、反核でもないし、原子力支持でもどちらでもない。この地域 を愛し、コミュニティが第一であることを主眼に活動を続けている。周囲がどう考えよ うとこの原則を基に活動をしている。 ○ 自分たちは犠牲者のままではなく、前向きに取り組むことをモットーとし、コミュニ ティを守るために、独自の放射能モニターシステムを構築し、独自の判断をできる体制 を築いたり、ポタシウムヨードという安定ヨウ素剤を地域に無償で配布できる体制など を整えている。また、スリーマイル原発事故の記録保存活動等も行っている。 ○ 政府や電力会社に対する信頼は失われたが、一度失われた信頼を取り戻すことはでき ない。自分たちの35年間の活動は信頼に基づいており、事実に基づいた情報を提供す ることで信頼を得ている。なお、団体の活動内容はWEBサイト(www.efmr.org)でも 公開している。 ○ 事故2日後、ペンシルベニア州知事は女性と子供の自主避難を勧告し、20万人が一 時避難した。その後、事故の12日後に避難勧告が解かれ、被曝死者もなく、アメリカ 政府は「住民の健康被害はなかった」との見解を示した。 ○ 電力会社幹部は「住民のストレスが事故後4年~6年くらい、高い状態が続いていた ことは認めるが、放射線障害はなかった」と、被曝による健康被害を否定した。 ○ 放射性物質の値は季節や機器による変動があるので、データの蓄積が大切である。そ のことにより、通常の変動とは別の変化があった時に、電力会社や州政府に警告できる し、事業者や政府に緊張感を持たせることにつながると思う。 ○ 株主からの視点で運動することにしている。例えば、株主には「安全を確保しないと 配当が減りますよ」と言い、電力会社には「危険な運転、住民への不理解があって出資 者が増えますか?」と助言した方が、安全の目的が達成されやすい。 3.主な質疑応答 Q1.独自に行っているモニタリングについて A1.現在、スリーマイル原発以外に、ピーチボトム原発とサスケハナ原発という3つの原 発周辺の放射能のモニタリングを行っている。そして、これらモニタリングの数値を発 表しているが、それ以外に自分たちが行ったリサーチの結果等についても発表を行って いる。 したがって、自分たちの団体は、単なる反原発市民団体というような位置づけではな く、リサーチを行っている情報提供グループである。 なお、モニタリングに当たっては、ベースラインという基準線を作らなければならな いが、その基準が季節によって変わるので、基準線を作るには何年もかかってしまう。 さらに、天候や(燃料の積み込み等といった)原発サイト内での作業等によってもモ ニタリングの数値は変化するので、単にモニタリングの数値のみを見ているだけではダ メである。 - 11 - Q2.どのような団体か A2.自分たちは、この地域コミュニティに対して非常に誇りを持っている。自分たちの立 場は反核でもないし、原子力支持でもどちらでもないので、コミュニティの人たちが原 発で働いている作業員であろうが、原発による被害者であろうが、どちらに対してもコ ミュニティを守っていくという気持ちでやっている。すなわち、全員を平等に守って保 護していくということである。 また、自分たちは犠牲者ではないのだということで、活動を行っており、例えば、モ ニタリングにしても、政府や会社の測った数字をそのまま鵜呑みにするのではなく、自 分たちでモニタリングシステムを作り、自分たちでモニタリングをし、独自の決定をす ることができるようにしている。 「スリーマイル・アイランド・アラート」代表 - 12 - エリック・エプスタイン氏 2 A班調査(廃炉・除染関係調査) (1)ペンシルベニア州緊急事態管理庁【ペンシルベニア州 ○日 時 ○対応者 ハリスバーグ】 平成25年10月16日(水) 9:00~11:00 ヘンリー・タマニーニ氏、ジェナーティ氏、ビースン・チェトナビツ氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 原子力緊急事態が発生した際の対応等について調査するため、ペンシルベニア州緊急事態 管理庁(PEMA)を訪問。 2.調査結果 ○ ペンシルベニア州には、67郡、2,600以上の市町村があり、州内に5つの原発、 原子炉の数でいうと9基が存在しており、アメリカ全体で2番目に原子炉の数が多い。 万一、事故が発生した場合、通常は半径10マイル(約16km)圏内の緊急対応を 取ることにしているが、重篤な事故の場合は、50マイル(約80km)までの範囲で 緊急対策を取るようになっている。 ○ 原子力規制委員会(NRC)の責任管轄は原発の柵の中(敷地内)という規定になっ ており、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の責任管轄は原発の柵の外(原 発敷地外、すなわち一般市民)ということになっている。PEMAはFEMAに対して 緊急対応準備はきちんとできていることを証明しなければならない責任を負っている。 なお、ペンシルベニア州には「緊急管理サービス法」と呼ばれる州法があり、災害に 対する危険性が迫った時、それに対する責任は州知事が負うことになっている。 ○ PEMAは州知事の下で仕事をしており、事故時における連邦政府、州の他の官庁及 び州機関、地元の市町村などの災害対策担当部署等、関係機関すべてとのコーディネー ションを行う役割がある。 ○ アメリカでは州政府が主導力を持っていて、連邦政府は州政府に任せるという体制で あり、緊急時の判断も州政府の判断が優先される(日本における国と都道府県の関係と は異なる。)。 ペンシルベニア州緊急事態管理庁での説明 - 13 - ○ 福島の事故の経験を踏まえ、「ビヨンド・デザイン・ベイシス・エクスターナル・イ ベント(BDBEE)」【設計基盤の範囲を超えた外的事象の意】への対策を強化した。 さらに、業界との協力で「FLEX(フレックス)」と呼ばれる特別なプログラムを 構築した。これは、プラント内及び原発の敷地内(オンサイト)に発電機等の緊急時に 必要な機器類を備えておくだけでなく、国内の全原発サイトに対しフェニックス、メン フィスの2拠点から、緊急時に使用される緊急電源等と装置を24時間以内に空輸、陸 送できる体制を整えておくものである。このため、機器仕様の共通化も進めている。 ○ 州には放射能保護局(BRP)という組織がある。ここでは、州内9基の原発の制御 室につながる専用電話を敷いており、原発の制御室と直接話をすることができるように なっているだけでなく、リアルタイムで各プラントの様々な状態を示す数値等を見るこ とができるようになっている。また、モニタリングチームや専用車両も持っているので、 現場へ行ってそこで検査をして分析することができる体制になっている。 3.主な質疑応答 Q1.州独自の原発監視にかかる予算等について A1.ペンシルベニア州においては、「放射能保護法」という法律によって、州内で運転す る原発1基当たり「55万ドル/年」を電力会社は州に支払わなければならないことに なっている。州内には9基の原発があるので、9基分の金額が毎年州に入ってくる。そ れを原発監視費用等に充てている。 なお、州職員についても、大学での専攻が原子力工学や物理、化学といった分野の、 いわゆる理工系のバックグラウンドを持った人物を雇用している。 Q2.当該地域での地震について A2.ペンシルベニア州においては、地震が全くないわけではないが、福島であったような 規模の地震はこれまで発生したことがない。ただし、福島の震災後、しばらくしてから、 ワシントンD.C.の近く、すなわち、東海岸の地区で地震が発生したことがあったが、 それによる大きな被害はなかった。また、その地震の時は州内の原発は停止した。 リアルタイムで各プラントの状態を示す数値等を見ることが可能 - 14 - (2)国土安全保障省【ワシントンD.C.】 ○日 時 ○対応者 平成25年10月16日(水)15:00~17:00 ティーム・グレートン氏、ハリー・シャーウッド氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 原発事故対策等に関する調査のため、国土安全保障省(DHS)を訪問。この組織は、2 002年11月に設立されたアメリカ合衆国連邦政府の組織で、各州においてはDHS相当 の機関としてOHS(国土安全保障局)が設けられている。 なお、国土安全保障省の中に「アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)」という 組織がある。このFEMAは、原子力災害を含む災害に際して、連邦機関、州政府、その他 の地元機関業務の調整等を行っている。 2.調査結果 ○ FEMAには放射能緊急事態に対応するプログラムとして、レディオロジカル・エマ ージェンシー・プリペアドネス・プログラム(放射能に関する緊急事態に対する準備プ ログラム【REPP】)があり、これは、あらゆるタイプの放射能緊急事態に備えるた めのもので、オフサイト(原発敷地外)の緊急準備対応の体制を構築し、確保すること で、原発周辺の住民の健康や安全を守っていくことを目的としている。 また、国民に対して、放射能緊急事態の対応措置についての教育や情報提供をするこ とも目的の一つである。 ○ アメリカにおいては、基本的に、緊急事態が発生した際の地域住民に対する直接的な コミュニケーションを行うのは州政府を始めとする地方政府である。FEMAの緊急計 画及び緊急コミュニケーションというのは、あくまでもローカルレベルである。すなわ ち、地域のことを最も理解している地域の専門性が重要であり、連邦政府は地方政府に 対する補完的な役割を果たすということが基本であるので、主体的にコミュニケーショ ン(様々な指示を出したり、行動の勧告をするなど)を取ることはない。ただし、地方 政府の発するメッセージの内容については、注意深く見ており、状況に応じて援助を行 っている。 ○ 食糧や水といったようなものに対する放射能の長期的な影響から国民を守っていくた めに、食品、農産物、水系などに対して、事故のポイントから50マイル(約80㎞) 以内についてはモニタリングを行っている。 ○ 福島においても、環境モニタリングは優先項目として続けていってもらいたい。そし て、その内容をきちんと分析し、性格付けをしていくことが第一であると考える。 ○ 事故後の対応及び回復計画においては、コミュニティ全体の関与も重要になってくる。 このコミュニティ全体の関与というのは、政府、地方自治体、民間事業体(事故に関与 した、また、関わった民間会社だけではなく、回復の活動において関与してくる民間企 業や市民など含む。)といったところの全メンバーの参加であり、このようなホールコ ミュニティという概念で進めて行くということが鍵になる。 ○ 重要なこととして、国民の教育も挙げられる。きちんとしたリスクの情報をみんなが 知るようにしなければならない。 3.主な質疑応答 Q1.現在の福島原発事故の状況について(アンダーコントロールと言えるか) A1.事故がアンダーコントロール(管理下にあるという意)の状態にあるかどうかという ことに関して、我々は、継続的な放射能の漏洩があるか否かということを判断材料とし ている。 - 15 - その意味からすれば、福島においては、少しずつ放射能の汚染物質が流れていると聞 いているので、まだ、アンダーコントロールとは呼べないという判断になる。 また、普通に運転されている原発であっても、少量の放射能が漏洩したということで あれば、アンダーコントロールとは呼べないという立場である。 Q2.福島における放射能の影響に関して(何をすべきか) A2.まず、優先項目としなければならないのは、引き続きモニタリングを続けていくとい うことである。 なお、モニタリングの数値については、季節や天候等によっても変化するので、そう いうことを考慮に入れてモニタリングを継続し、その内容をきちんと分析して、性格付 けをしていくことが重要であると考える。 また、モニタリングの分析結果を踏まえ、国民の意識を高めて教育をしていくという ことも、重要になってくる。すなわち、きちんとしたリスクの情報をみんなが知るよう にしなければならないということである。 Q3.福島の事故後、様々な学者から放射線量の見解が出された結果、県民(国民)が何を 信用したら良いのかわからないという状況に陥ったが、これに対する良い方法はあるか A3.自分たちも同様の状況に陥ったことがある。特に原発事故と放射能ということになる と、同じ意見はなかなか出てこないというのが現実である。 そのために、我々が使っているのは、環境保護庁の「EPA400」という保護行動 ガイドである。これが権限のある情報源であると我々は考えている。この中にはこのく らいの線量であればこのくらいの保護措置が必要であるとか、こういった核種は危険で ある、といったようなことが記載されている。 どの情報も完全なものではない以上、単一情報に基づく発言を行うということが、少 なくとも政府側ではしなければならないことであると考えているので、この「EPA4 00」に基づいて情報を発信するようにしている。 国土安全保障省での説明 - 16 - (3)アメリカ原子力規制委員会【メリーランド州 ○日 時 ○対応者 ロックビル】 平成25年10月17日(木) 9:00~11:00 ビル・ゴット氏、カーク・フォギー氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 原発事故対策等に関する調査のため、アメリカ原子力規制委員会(NRC)を訪問。 NRCは、独立した安全規制機関として、原子炉(研究炉・試験炉などを含む)や医学 ・医療用に使用する放射性機器等の許認可等の業務を行っているだけでなく、万一、原子 力事故が発生した場合、その対応に当たる機関である。 今回、緊急時対応センター(エマージェンシー・オペレーションセンター)を調査。 2.調査結果 ○ オペレーションセンターにおいて、原発事故発生時には2つの主要なチームである原 子炉分析チーム、保護措置チームを始めとする4つのチームで対応にあたることとなっ ている。 ○ 原子炉分析チームは、原発のコントロールルームから直接、様々な情報データ(リア ルタイムのデータ)を受け取り、原子炉の分析を行い、事故が発生した原子炉がどのよ うな状態にあるのかや、漏洩したものがどういう方向でどのように流れていくのかなど について分析を行う。 ○ 保護措置チームは、炉心の破損度の情報を基にして、「ラスカル」というプログラム を用いて、放射性物質等のレリース(放出)の道筋のモデルを作り、原発の外のどうい うコミュニティの方向にどのようなものが流れていくのか、また、どのような影響を与 えるようになるのかということの分析を行う。 ○ オペレーションセンターに集められた情報は、まとめられてエグゼクティブチーム(執 行チーム)に提供される。このチームにはNRCの委員長をはじめとした上級レベルの 人間がいて、電力会社に対して特定の行動を取るよう指示・命令を発することになって いる。 ○ さらに、リエゾン(仲介・橋渡しの意)チームと呼ばれるチームがあり、ここでは、 他のチームが集めたり、分析したりした情報を各関係者に伝えてシェア(共有)する活 動を行っている。その情報のシェア先というのは、州・市町村・警察・消防といった緊 急対策活動をする部署を始め、連邦政府や他の連邦省庁、IAEA(国際原子力機関)、 米国議会といった関係機関等だけでなく、隣国のカナダ、メキシコにも情報提供を行う。 このチームは、すべての関連する諸機関に対して情報提供を行い、それら諸機関が効 率の良い活動ができるようにしてもらうことを主な目的としている。したがって、専門 的な内容の情報を専門家でない方たちに伝え、理解してもらう必要があることから、普 通の言葉で説明することを重視している。 ○ 緊急時においては、NRCの委員長は他の委員と相談することなく、独自に決定をす るという権限を持っている。また、連邦政府の行政部門内にある独立規制機関としての NRCの立場は、大統領もその規制上の決定を通常の方法で指示することはできず、完 全に独立性が保たれている。 ○ 実際の住民の安全を守るための具体的な意思決定は地方(政府等)が行う。NRCは こうした地方が迅速な判断をするために、必要な、また、追加的な情報の提供を行うこ とで、地方をサポートしている。 - 17 - 3.主な質疑応答 Q1.緊急時対応センターにおける緊急時対応について A1.普段はこのセンターには誰も人がいないが、緊急事態が発生した場合の連絡体制が構 築されており、対応チームがすぐにここに駆けつけるようになっているだけでなく、N RCの他の部署に詰めている職員もボランティアスタッフとしてこのセンターに来るこ とになっている。 そして、年に4~6回程度、緊急時の対応演習を行っており、対応チームが計画どお り、きちんとした対応活動ができるかどうかの検証を行っている。 ちなみに、ここのスタッフについては、シフト制になっており、各シフトに70人く らいのスタッフを配置している。 なお、福島の事故後、主にコミュニケーションを行うスタッフの人数を増やして、他 の連邦政府機関に対して情報をより的確に提供できる体制を整えた。 Q2.NRCと州政府との関係について A2.NRCは原発敷地内に関することに責任を持つが、州政府は原発敷地外に関すること に責任を持つことになっている。もちろん、州政府のサポートは行うが、あくまでも原 発敷地外に関することについては、州政府が責任を負っている。 - 18 - (4)戦略国際問題研究所【ワシントンD.C.】 ○日 時 ○対応者 平成25年10月17日(木)13:00~14:30 ジェイン・ナカノ氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 シェールガスを含む、アメリカ国内のエネルギー事情調査のため、戦略国際問題研究所(C SIS)を訪問。CSISはアメリカのいわゆるシンクタンクであり、エネルギー問題を始 めとして様々な政策提言を行っている機関。政治的には中立性を保っている。 2.調査結果 ○ CSISはアメリカのシンクタンクで、政治的には中立性を保った政策提言を発表し ている。現在、約200名の常任の研究員が働いており、エネルギー部門や人口パター ン部門、ヘルスケア部門など、12~15くらいの部門が常時ある。また、年間300 本以上のレポート等を出版し、約1,600件のセミナー等を開催している。 ○ アメリカのシェールガスの埋蔵量は、中国、ロシアに次いで世界第3位。ちなみに、 シェールオイルの方も高い埋蔵量となっている。シェールガスの存在は、1960年代 頃からわかっていたが、採取技術の進歩や、既存エネルギーの価格上昇により、既存エ ネルギーと比較してもビジネス的に採算性が出てきたことから生産量が高まり、いわゆ る「シェール革命」が起こり、シェール(ガス)オイルの需要が高まっている。生産量 はこの10年間で60倍となっていて、米国内においての天然ガスの生産量に対するシ ェールガスの生産量の割合は、5~6年前まで5%だったのが、現在は30%で、20 30年には50%位まで高まっていくとみている。 ○ シェールガス(天然ガス)の価格が低くなったことで、発電事業者が天然ガスをベー スとした発電にシフトしていったことにより、アメリカでは老朽化した石炭発電所等の 廃止はもちろん、30年位しか稼働していない原発(アメリカの場合、一般的には60 年まで稼働許可される)でも天然ガスのコストに比べて競争力が劣るということで、原 発を閉鎖(廃炉)するという判断をした電力会社が何件かある。 ○ 今のところ、原子力発電のシェアはあまり下がっていないが、2050年位までに、 多くのアメリカの原発が、稼働許可期間である60年を経過することから、原子力発電 のシェアが急降下するのではないかとみている。 ○ オバマ政権は、30年ぶりに(スリーマイル原発事故以来)新規の原発の建設許可を 出したが、原子力発電がゼロカーボン(二酸化炭素を出さない)であるということから であり、方向としては原発推進ではなく、原発以外の再生可能エネルギー(太陽光・風 力等)にかなり力を入れている。 ○ アメリカでは小型モジュラー式(発電量で30メガワット~300メガワット程度) の原子炉の開発を官民共同で進めている。これは、原子力潜水艦の技術を応用している もので、2022年頃までの実用化を目指している。モジュラー式であれば、ある程度 のパーツを画一化して工場で生産し、それを現場に持っていって組み立てるということ で、初期投資額をかなり抑えられるのではないかということで、支持を受け始めている。 ○ 原発から出る使用済み燃料という課題は、原発を運転しているすべての国の課題であ り、アメリカでも解決していない。ネバダ州にユッカマウンテン(放射性廃棄物処分場) という施設があるが、これについて、行政府だけでなく、議会や司法の場でも様々な問 題が問われている。 ○ 福島の事故は世界中にかなりのインパクトを与えたとは思うが、原子力発電技術への 興味というのは、福島原発事故以降であっても、新興国や発展途上国にとってはまだ強 いと見ている。すなわち、経済的に成熟した国々から新興国等へシフトしていると言え るので、(原子力発電への興味は)衰えてはいないと考える。 - 19 - 3.主な質疑応答 Q1.福島原発事故後における世界での原発建設の流れについて A1.福島原発事故後の原発建設の流れであるが、事故後であっても、いわゆる新興国や発 展途上国においては、原発への興味は強く、そうでない国においては、国民の原発に対 する考え方も変わってきていると見ている。 したがって、今までと同じような国で原発の建設が伸びるということではなく、場所 がシフトしてきているということが言える。 ちなみに、中国では現在、30基ほどの原発を建設中であるし、中東のアラブ首長国 連邦では4基ほどの原発が建設されていることから見ても、世界的に原子力に対する興 味は薄れていないのではないか。ただ、興味を持っている国自体はシフトし出している と見ることができる。 Q2.シェールガス革命の日本に与える影響について A2.日本のようにLNG(液化天然ガス)に頼っている経済にとっては、かなりの強みに なると思う。特に価格交渉の面においてはプラスになる。 ちなみに、福島原発事故直後に原発停止の影響で(火力発電のため)必要になった天 然ガスは、かなりの量がカタールからのものだった。なぜ、カタールにそれだけの量が ストックされていたかというと、シェールガスの影響で、アメリカのカタールからの天 然ガス輸入量が減っていたことが大きい。 - 20 - (5)ポートランド電力会社 ○日 時 ○対応者 元原発担当責任者との懇談【オレゴン州 ポートランド】 平成25年10月18日(金)16:00~17:00 ジョン・フリューイング氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 オレゴン州ポートランド近郊にあり、既に廃炉処理が完了しているトロージャン原子力発 電所(ポートランド電力会社が運営)において、原子力発電所の許認可関係に従事していた、 ポートランド電力会社のジョン・フリューイング氏と懇談。 原子力発電所の廃炉等に関する意見交換等を行った。 2.調査結果 ○ トロージャン原発で原発運転等に関するライセンス取得の仕事に従事してきた。また、 東日本大震災の際には、9月に石巻など東北へボランティア80人とともに行き、ガレ キ処理の手伝いをした。自分のキャリアは、海軍での原子力潜水艦などの仕事から始ま った。 ○ トロージャン原発は、1,000メガワット級の原子力発電所で1974年に稼働し たものの、稼働後に、建築上の欠陥が発覚し大幅な補強が必要となった。しかし、その 後、蒸気発電機の腐食による水漏れが起こったことがきっかけで、1993年に廃炉が 決定され、決定から15年後までに廃炉の措置を取らなければならなくなった。廃炉作 業には約200人が従事し、建設費の約2倍の廃炉費用がかかった。現在、使用済み燃 料は乾式貯蔵(ドライキャスク)で自然換気により空冷されて原発敷地内に保管されて いる。それ以外の放射性廃棄物はハンフォードに持っていき、地下処分(埋却)している。 ○ 使用済み燃料の処分コスト等、廃炉にかかる費用は電力料金には含まれておらず、廃 炉が決定された後、オレゴン州の許可を得て、電力料金に廃炉にかかる費用を上乗せし て賄うことができた。 ○ 連邦政府はかなり前から、原発から出る使用済み燃料については、連邦政府の方で面 倒をみるということを電力会社に言っていたが、国として処分場というものをいまだに 確保することができていない状況である。 ○ トロージャン原発においての事故対応計画の中では、19の具体的な事故の事象をも とにした事故シナリオを立てていた。具体的には、原発内部のパイプの破損とか、小型 飛行機が原発に突っ込んできたなどといったものであったが、福島の事故を踏まえて考 えると、実際にはもっと多くの事故の事象が存在すること、また、それらの事象のいく つかが複合的に絡まって起きる事故のことまで、想定しなければならない。 ○ オレゴン州においては、トロージャン原発が廃炉になったことで、原発は無くなって しまった。福島においても(廃炉等はこれからだが)事実上、原発は無くなったと言っ て良いのではないか。それを踏まえれば、地元の原子力以外のいろいろな資源(風力と か地熱等)を利用して、自分たちの発電をすることを考えてみるべきではないか。 3.主な質疑応答 Q1.乾式キャスクによる使用済み燃料保管について A1.廃炉に伴う使用済み燃料については、ドライ化してキャスクで保管している。このキ ャスクはNRCが承認したもので、キャスクのまま輸送・保存ができるというもの。現 在、キャスクに入れた状態で原発敷地内(土の上)に置いてある。キャスクの大きさは 横3m、縦6m程度である。 なお、不活性ガス(窒素ガス)で圧縮し、数枚の溶接したケースで囲まれたキャスク に保管していることから、キャスクから放射能が漏れるということはない。 また、キャスクを保管している周囲には、フェンスが張り巡らされ、そこに警備員を 20名くらい配置して常時監視を行っている。 - 21 - Q2.廃炉作業時の放射線防護について A2.廃炉の際の作業員の放射線防護については、実際の原発の運転中に適用される線量規 制と同じ規制が適用され、その値は1年間に5レム(50ミリシーベルト)であった。 ジョン・フリューイング氏(写真中央) - 22 - (6)サクラメント電力公社【カリフォルニア州 ○日 時 ○対応者 サクラメント】 平成25年10月19日(土)10:30~12:30 ジェネビーブ・シュロマ氏、スコット・フレーク氏、ジェム・シェルター氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 原子力発電所の廃炉行程等に関する調査のため、サクラメント電力公社(SMUD)を訪 問。 SMUDはかつて、ランチョセコ原子力発電所を運営していたが、1989年に住民投票 により当該原発の廃炉が決定された。1997年から2008年にかけて実質的な廃炉作業 は完了しているが、低レベル放射性廃棄物の処理が残っており、2014年頃までにそれら も完了の予定である。 2.調査結果 ○ SMUDは顧客によって所有されている。7人の理事がいるが、理事は市民によって 選ばれることになっている。また、現在約60万戸以上の顧客に対してサービスを提供 している。 ○ 1960年代の電化製品の普及により電力需要が増えたことから、SMUDは900 メガワットの原発建設を決定、1974年に稼働した。 ○ 運転開始後間もなく、スリーマイル原発事故が発生し(1979年)、その結果、サ クラメントの世論に変化が生じ、会社の理事会でさえ、賛否両論に意見が分かれるほど だった。そして、市民の原子力に対する不安感が続いている中、(スリーマイル原発事 故後)10年くらいの間にいくつかの運転トラブルが発生し、それらの修理費用等を捻 出するために、電気料金を約300%引き上げることとなった。それに伴い、顧客満足 度が低下し、原発反対の気運が高まり、1989年に住民投票により原発を閉鎖すると いう判断がなされた(会社は市民により所有されていることから、住民投票による原発 閉鎖となった。ちなみに、この時点で原発の寿命【ライセンス】が20~40年ほど残 っていた。)。 ○ 廃炉への準備作業は、住民投票が行われた次の日から着手。原発停止に伴い、不足す る電力は隣接の「南カリフォルニアエジソン」という電力会社から原発の発電量の90 0メガワット分を購入してしのいだ。ただ、このままでは急場しのぎにしかならないの で、電力の発電計画を変革し、天然ガスを使用した発電所の建設や、水力や再生可能エ ネルギーによるノンカーボン発電にも力を入れ、現時点で供給する電力の半分以上はノ ンカーボン発電によるものとなっている。 ○ 本格的な廃炉作業は1997年から開始。2008年に廃炉作業は完了。現在、建物 としては、2つの冷却塔を残すのみで、汚染除去等の処理は完了し、サイト内に燃料を 乾式貯蔵で保管している。また、サイトの一部をレクリェーション用に開放するなどの 土地利用も進めている。 ○ 廃炉作業はすべて終了し、NRCの認定も受けているが、使用済み燃料については、 乾式貯蔵でサイト敷地内に保管されているなど、高レベル放射性廃棄物がサイト内に残 っている。低レベル放射性廃棄物については「クラスA」のものはユタ州にある処分場 で処分されることになっている。また、「クラスB」、「クラスC」のものについては、 2014年にサイトから処分場へ搬出されることになっている。 (アメリカにおいては、低レベル放射性廃棄物を放射能レベルが低い方から、クラスA、 B、Cと分類している。) - 23 - ○ 廃炉コストであるが、建設する以上に廃炉費用がかかる。ちなみに、ランチョセコ原 発の場合、建設費用が約3億8,000万ドルであったのに対し、廃炉費用は5億ドル かかっている。したがって、原発にかかった総コストはざっと9億ドル近いものになる。 なお、廃炉作業には多い時で900人が働いた。平均すると200人位。現在では4 名が監視業務に従事している。 ○ 汚染水の処理であるが、濾過装置を使って濾過すると、最終的にトリチウムのみを含 有している水が残る。このトリチウムはいくら濾過しても無くならない。そこで、少し ずつ希釈して安全なレベルに達したら、少しずつ(川に)放流している。放流について はNRCの承認が必要である。もちろん、放流に当たっては、事前に市民との話し合い の場を設けて、NRCから承認を受けていることや、詳細な内容、例えば、ずっと安全 なレベルのもの(水)を放流するということを説明し、市民からオーケーをもらってや っている。 ○ SMUDは非営利団体であり、利益を追求するものではなく、顧客のためにサービス を提供するということでやっているので、普通の電力会社のように株主に対して利益を もたらさなければならないということはないので、そういったプレッシャーはない。 3.主な質疑応答 Q1.福島原発事故における海洋汚染について、不安のようなものはあるか A1.西海岸にいる者としての視点で言えば、確かに海は続いているということはあるが、 海洋のモニタリングをきちんとやっていくということが重要ではないか。非常に巨大な 海で、汚染水が流れてもかなりの大きな希釈力によって薄くなるということもあるので、 直接の恐れは持っていない。 ただ、出来る限り早く原発事故の環境インパクトというものを軽減する、解決するた めの試みというものをすべてやって、そういった影響をなくすような努力をすべきであ る。 サクラメント電力公社での説明 - 24 - サクラメント電力公社での説明 - 25 - 3 B班調査(エネルギー政策関係調査) (1)ダビューク市【アイオア州 ○日 時 ○対応者 ダビューク】 平成25年10月16日(水) 15:30~17:00 コリー・バーバック氏、ラキ・ギアナコース氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 スマートシティ先進都市であるダビューク市における取り組み等の調査のため訪問。 ダビューク市はアイオア州最古の都市で、人口は約5万8000人。市議会は市長と議員 6名から構成されている。「持続可能な環境づくり」のプログラムを2006年からスター トさせている。 2.調査結果 ○ ダビューク市においてのサスティナビリティ(日本語では「持続的発展性」などと訳 される)、いわゆる「持続可能な環境づくり」というプログラムは2006年からスタ ートした。「環境の保護」、「経済発展」、「住民生活の向上」という大きく分けて3 つの目標を掲げ、プログラムをスタートさせた。その3つを軸にして、それを12のカ テゴリーに細分化している。そして、市を始め、市のビジネスリーダーの方々や、学校、 非営利団体など、それぞれのレベルでサポートしてもらっている。 ○ 2009年にIBMがダビューク市に来て、新しいサービスセンターを設立し、スマ ートシティのサポートを開始。IBMとしては独自にある特定のカテゴリーで試験的に スマートシティの取り組みを行っていたようであるが、比較的小さいコミュニティで、 単体ではなくすべてのものにおいてのスマートシティの取り組みができるような場所を 探していたようである。ダビューク市が人口6万人という適当な規模であり、総体的な 結果が得られるということでパイロット事業として採用された。 ○ 市としては、このプログラムを選択肢の1つとして市民に提供した。したがって、市 の条例等で強制するようなことはせずに、プログラムを推進していった。 ○ 様々な分野でのスマートシティの取り組みということで、いろいろなものに挑戦して いる。水、電気、ゴミ、交通機関など多岐にわたって推進している。 ○ その中で電気と水については、各家庭にスマートメーターというものを取り付けて、 15分ごとにその家のデータを収集するような形にした。電気については、ダビューク 市を管轄にしている「アライアント」という電力会社と協力して約1,000軒の家に スマートメーターを、水については、水を供給しているのが市なので、すべての家にス マートメーターを設置した。水に関しては約300軒がこのプログラムに参加した。 なお、プライバシー保護の関係から、電気については、市は総体的な情報を管理する ことができるが、各家庭における電気使用量等の個人データは使用家庭でしか見られな いようにした。 ○ 水に関しては、参加した世帯の約7%で水の使用量が減った。また、3/4の世帯が 水についての理解が深まり、水の使い方が変わってきたと答えている。 ○ 電気に関しては、参加した世帯の電気使用量が、約3%~11%減った。また、ピー クタイムの電気使用量を抑制するといったような、電気の使用習慣といったものにも変 化がみられた。この結果を基にダビューク市全体でこのプログラムを実施した場合、年 間で約350万ドルのエネルギーの節約につながるのではないかという試算をした。 しかし、現実的には、このプログラムに参加した人はエネルギーに関しての興味があ る人たちであり、全市民ということになると、エネルギーに関して興味のない人たちも 含まれるため、試算ほどの効果は期待できないと思われる。 - 26 - ○ 電気に関して言えば、「エネルギーに関して非常に興味を示した人」、「最初は興味 を示したが、慣れてくるとそれほど興味を示さなくなった人」、「最初からあまり興味 を示さなかった人」がそれぞれ1/3ずつとなった。今後、このプログラムを推進して いくにあたっては、「最初は興味を示したが、慣れてくるとそれほど興味を示さなくな った人」の層をうまく取り込んで、展開させていきたい。 ○ このプログラムを成功させることができた1つの大きな要因は、ダビューク市にある 「グリーンダビューク」という非営利団体の協力が大きかった。市とは全く関係のない 別の団体であるが、市と協力をしてやっていくことで、さらに効果があがるということ で、今では市と組んで様々なプログラムを行っている。 3.主な質疑応答 Q1.プログラム実施にあたっての財政負担について A1.水に関しては、市が全面的に投資し、その金額が800万ドル。電気のメーターにつ いては、「アライアント」電力会社が投資しているが、これにはアイオア州のエネルギ ーの補助金が出ている。また、収集したデータを分析するためにIBMが投資をしてい るが、その額については不明である。 Q2.教育現場での環境教育について A2.「グリーン・ビジョン・スクール」というプログラムがあって、幼稚園から12年生 までの間に「持続可能な環境づくり」について教えている。 これは、学校のカリキュラムに含まれているだけでなく、学校の環境にも取り入れて、 学校自体が持続可能な、いわゆるグリーンな環境で子供たちが学校に行けるという実践 も含めた形での教育である。 ちなみに、ダビューク市では2006年からこのカリキュラムをスタートさせている が、現在では、国レベルでも「持続可能なプログラム」の教育が行われている。 Q3.再生可能エネルギー導入の方向性について A3.再生可能エネルギーを使用するに当たって重要なのは、使用する側がいかに効率よく エネルギーを使っているかと、いかに効率よくエネルギーを必要な時に供給できるかと いうことである。 当初、それが目的ではなかったが、電気のパイロット事業を実施した結果、様々なデ ータが出てきたので、それは今後の再生可能エネルギーの使用ということに関連して、 非常に参考になっており、それは当然、将来の再生可能エネルギーの使用につながって いくものと考えている。 ダビューク市での説明 - 27 - ダビューク市での説明 - 28 - (2)国立再生可能エネルギー研究所【コロラド州 ○日 時 ○対応者 ゴールデン】 平成25年10月17日(木) 15:30~17:00 ダン・アルヴィズ所長、オート・バンギー氏、ケン・ケリー氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 再生可能エネルギーの研究成果の概要等を調査するため訪問。 国立再生可能エネルギー研究所 (NREL)は、エネルギー省に属する再生可能エネルギー とエネルギー効率に関する研究開発を行う基礎研究所である。 2.調査結果 ○ 施設全体で3,600㎡の太陽光パネルが設置されていて、基本的には、施設で使用 するすべての電力を太陽光発電で賄えるだけの出力があり、余剰電力については電力会 社に売電している。ただし、夜間等太陽光発電で電気が賄えない場合や、冬期間など、 電気が不足する場合には、電力会社から購入している。日中発電した電気を蓄えるとい う方法もあるが、今のところ、コスト面で割高になるので、導入はしていない。ただし、 (蓄電の)研究は行っている。建物も断熱効果の高い複層ガラスや銀色の鏡式ブライン ドを使用、細長い建物に大きな窓を設置するなどして、自然光を有効に活用できる設計 になっている。 ○ 研究所の中に、「エナジー・システム・インテグレーション・ファシリティ(ESI F)」という研究施設があり、そこには、世界第20位程度の早さの演算能力を持つコ ンピューターが設置されている。そこでは、どういうパターンで再生可能エネルギーを 使用したら最も効率が良くなるか、すなわち、どうすれば再生可能エネルギーと火力や 原子力などのエネルギーをより効率的に使用できるようになるのかを、様々な条件のも と、シミュレーションして研究している。 ○ 現在、我々が利用しているエネルギーには、非常に無駄の多い部分があることから、 それを、持続可能で無駄のない、そして、環境にやさしいエネルギーに移行していくと いうことがNRELの役割である。 ○ NRELは、サイエンス、テクノロジーの施設として知られているが、実際にこの技 術を使用することを決定するのは政府である。ここでの技術を実際に認識させて、変更 に対するビジョンを作り、経済的にサポートしていけるのは、各地域のガバメント、い わゆる政治に携わっている方々である。 ○ NRELでは、現在、システムエンジニア、電気エンジニア等様々な分野の研究者が 200人位いて、国(エネルギー省の指示による)としての研究や、企業との共同研究 など様々な形での研究が行われている。 ○ 研究の方法については、エネルギー省が補助金を出し、研究の指示を出す場合、お互 いにその研究課題に興味があり、お互いの経費で共同研究するという場合、研究のパー トナーがいて、そのパートナーが資金提供をして研究を行う場合、の3つがある。 ○ NRELには、ここで持っている知的財産にはどういうものがあるのかを把握してい る部署があり、その知的財産が私企業のどのようなところで役立てられるかをコーディ ネートしている。そして、研究をさらに継続することで、研究成果を企業の利益に還元 可能かどうかを模索しながら、パートナーシップによる技術提供を行ったり、また、ク リーンエネルギーに対して興味を持っている投資家たちを研究所に招待し、話し合いを しながら、興味があるものに投資してもらうことなども行っている。 - 29 - 3.主な質疑応答 Q1.研究テーマの設定について A1.大きく分けて2つの研究のカテゴリーがあり、1つは、エネルギー省のための研究で あり、基本的にはエネルギー省との協議で行われるが、政治的な問題も関わってくる。 もう1つは、エネルギー省以外からの研究で、これについては、ここの研究者が誰に アプローチしても良いので、こういう研究をしましょうというようなプロポーザル(企 画提案)を出して、研究課題を決めるということが可能となってくる。ただし、これら の研究を行うに当たっては、エネルギー省の許可を受ける必要がある。 Q2.太陽光を取り入れるために施設の建物にガラスが多く使用されているが、冬期間の寒 さ対策について A2.建物の設計の際にモニタリングを行い、どれくらいのガラスの量、どういう種類のガ ラスを使用するかというような、また、どのような空調を使用するかということをすべ て計算して作られているので、冬期間において寒いというようなことはない。なお、ガ ラスは断熱効果の高い、複層ガラスを使用している。 Q3.研究者について A3.研究者は約200名で、電気エンジニア、システムエンジニア、コンピューターモデ リングなどを専門にしている研究者が多い。また、電気自動車との関わりで、自動車メ ーカーで仕事をした経験のある方や、エネルギーの蓄電の研究者など様々なバックグラ ウンドを持っている研究者が在籍している。 Q4.研究者の採用について A4.この研究所には様々なセクション(部門)があるが、そのセクションごとに担当マネ ージャーがいて、そのマネージャーが雇い入れの権限を持っている。 太陽光を最大限取り入れて利用するため、「細長く、南向き」に建てられた施設建物 駐車場の屋根の上にもソーラーパネルを設置 - 30 - 照明の利用を減らし、自然光が活用されている施設内部(上記2枚) 国立再生可能エネルギー研究所 (NREL)での説明 - 31 - (3)フォートコリンズ市【コロラド州 ○日 時 ○対応者 フォートコリンズ】 平成25年10月18日(金) 9:00~11:00 ダン・ビーン氏、デニス・サマー氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 スマートグリッドの実証試験都市であるフォートコリンズ市における取り組み等を調査す るため訪問。 フォートコリンズ市の人口は約13万1000人。エネルギー省の支援を受け、スマート ・コミュニティ構築のためのプロジェクトを推進している。 2.調査結果 ○ フォートコリンズ市では、水道の他に電力事業も市が運営をしており、約99%が地 下送電となっている。市では、2015年までに二酸化炭素排出量を20%、2050 年までに80%削減すること、また、ピーク時のエネルギー使用量を2015年までに 5%、2020年までに10%減らすことを目標にしている。 ○ スマートグリッドプロジェクトの一環として、スマートメーターを2012年から2 013年の2ヶ年にかけて、すべての世帯に設置することとしている。このメーターは 電気だけでなく、水道も入っているので、電気・水道については、スマートメーターで 計測するようになる。ちなみに、スマートメーターの設置費用は約3,600万ドルで、 そのうち、1,600万ドルはエネルギー省からの補助金で賄われている。残りの 2,000万ドルは市の負担である。 ○ 電力や水道の利用状況はファイバー線で電力会社等につなぎ、各個人は自分自身の情 報をWEBサイト等で15分に1回のインターバルで確認できるようにし、家庭内で何 に電気をいつ使ったかわかるようにしている。また、時間帯で料金設定が異なるので、 市民の意識を高めながら電力供給の平準化(ピークカットコントロール)にも取り組んで いる。 ○ スマートメーターを取り付けるにあたって、利用者負担は無し。国からの補助金と市 の負担で賄っている。ちなみに、市の負担は市債を利用しているが、これについては、 約11年で元が取れる予定である。また、プライバシーの問題については、非常に詳細 な「サイバー・セキュリティプラン」を構築し、関連する法律や規制に則って実施して いる。さらに、機器から出る電磁波の問題については、具体的に携帯電話等と比較して、 極めて低いレベルであることを説明し、理解に努めている。 ○ スマートメーターを取り付けた世帯には、3つのオプションを提供している。 オプション1として、通常のスマートメーターのオペレーションで、スマートメータ ーから15分ごとにデータを収集する方法。 オプション2として、スマートメーターのプログラムを変更して、データの収集は1 日1回のみというような頻度にする方法で、プライバシーを重視する人たちのために設 定している。 オプション3として、スマートメーターでないものを取り付けて、通常の使用料計測 を行う方法。ただし、これは、スマートメーターと異なり自動で使用料のデータ収集が できないので、人が計測に行く必要がある。したがって、このプランのみ、毎月約11 ドルの追加負担(人件費分)が生じる。 ○ 現在、約7万の顧客がいるが、ほとんど(約95%)が「オプション1」を選択して おり、それ以外のオプションを選択しているのは数%にすぎない。 - 32 - 3.主な質疑応答 Q1.スマートメーターの価格と寿命について A1.スマートメーターの寿命については、20年~30年くらいではないかと考えている。 メーターの価格については、1個約80ドルである。ちなみに、メーターの価格につい ては、当初の計画では1個200ドル以上と見ていたが、メーターの生産が多くなった ことから、1個80ドルまで価格が下がった。これからもっと価格は下がっていくもの と思われる。 Q2.スマートメーターの普及率について A2.約97%の世帯で取り付けが完了している。取り付けには約2年間かかっており、メ ーターの取り付けに当たっての個人負担はない。 なお、ここまで普及したのは、電気事業と水道事業を市で運営していることが大きい。 電気も水道も別々の事業者が運営している場合であったら、事業者の事情もあるので、 ここまで普及していないと思われる。 Q3.利用状況のWEBサイトでの確認が可能になる時期について A3.WEBサイトの開発やソフトウェアの開発などに時間がかかり、当初の予定より約1 年遅れて、来年(2014年)の3月頃からWEBサイトでの利用状況の確認が可能に なる予定である。 フォートコリンズ市内(電気自動車の充電ステーション) - 33 - スマートメーター フォートコリンズ市での説明 - 34 - (4)ニュー・ベルジャン工場【コロラド州 ○日 時 ○対応者 平成25年10月18日(金) ジム・スペンサー氏 フォートコリンズ】 11:00~12:00 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 スマートグリッドの実証試験都市であるフォートコリンズ市において、環境問題に力を入 れており、再生可能エネルギーの導入や自家発電を行うなどエネルギー効率の良い工場を運 営しているニュー・ベルジャン工場を訪問。実際にスマートグリッドを導入している現場の 調査を行った。ちなみに、当該工場は地ビールを製造している工場である。 2.調査結果 ○ ビールの製造にはかなりのエネルギーを必要とする。そこで、この工場では、どのよ うにしたら効率よく、節約してエネルギーを使用できるのかを重視した。アメリカでは 時間帯によって電気料金が異なり、特に電力使用のピーク時が一番料金が高くなること から、ピーク時の電力使用量をいかに軽減させることができるかが1つの大きな課題で あった。 ○ スマートグリッドの技術を使い、この工場内だけのマイクログリッドを作った。 それにより、工場のどの分野でどれだけの電力が消費されているのか、また、ピーク 時にどれだけの電力が必要で、それを軽減させていくためにはどのようにコントロール していけば良いか、そして、それに合わせて、ピーク時に再生可能エネルギーを導入す ることによって、電力会社から購入する電気量を軽減させるという管理(電気マネジメ ント)を行っている。 ○ この工場では太陽光発電と、ビール製造過程の際に出るカス(廃ホップ)を発酵させ てメタンガスを作り、それで発電機を動かし電気を作っている。つまり、この工場では、 太陽光を利用してのソーラー発電、メタンガスを利用して発電機を動かし発電するメタ ンガス発電の2つの再生可能エネルギーを利用して、(電力会社から購入する)電気の 節約をしている。 ○ 再生可能エネルギーの利用だけでなく、工場に太陽光を多く取り入れることで、照明 電力の削減も図っている。 ○ この工場と同じように、マイクログリッドをやっている会社がいくつかあるが、それ らの会社と調整しながら、例えば、ピーク時に電力会社で発電されている電気の使用量 をできるだけ軽減できるように、マイクログリッドを運営している会社同士で話し合い、 協力して、ピーク時に(工場で)使用する電力使用量を極力下げるといった体制の構築 なども考えている。 3.主な質疑応答 Q1.太陽光発電とメタンガス発電の関係について A1.太陽光とメタンガス発電、どちらがメインということではなく、両方をピーク時に使 っている。太陽光は制御できないので、あれば使うということでやっている。アメリカ では時間帯によって電気料金が異なり、ピーク時の電気料金が高いので、ピーク時の電 気使用量(電力会社からの購入分)を減らそうということが目的である。 Q2.電気料金の削減効果について A2.電気料金の請求書が月に1度送られてくるが、その内訳というのが、半分くらいが通 常時の電気代で、残りの半分はピーク時の電気代である。太陽光とメタンガスの自家発 電をすることにより、ピーク時の電気代を50%~70%程度削減できている。 - 35 - 電力使用量を示す表示板 太陽光を多く取り入れた工場内部 - 36 - (5)ルカ・インターナショナル【カリフォルニア州 ○日 時 ○対応者 サンフランシスコ】 平成25年10月19日(土) 10:00~12:00 ビン・ヤン氏、アロン・ボール氏、ベン・ウォング氏 1.調査先(相手方)概要・調査目的等 シェールガス採掘の現状や、発電エネルギーとしての将来性等についての調査のため、採 掘会社の一つであるルカ・インターナショナルを訪問。 ルカ・インターナショナルは、石油、天然ガスの採掘権獲得、探査や掘削を専門に、テキ サス州、モンタナ州、ルイジアナ州など米国各地で事業を展開している。 2.調査結果 ○ ルカ・インターナショナルは、2006年に設立。資金を集めてテキサスで石油・ガ スの発掘に成功した会社であり、製油所や小売りチャンネルを持っていない会社として は、アメリカでは非常に珍しいケースであった。LLC(リミティッド・ライアビリテ ィ・カンパニー【有限責任会社】)で立ち上げた会社組織で、現在、10の油田に投資 をしている。 ○ 日本は、元々世界で一番LNG(液化天然ガス)を購入している国である。それが、 福島第一原発事故により、原発が止まっている現在では、特に発電エネルギーとしての 天然ガスに注目が集まり、今後さらに輸入量は増えていくと考える。 ○ シェールガスの開発が始まるまでは、アメリカは天然ガスをほとんど輸入に依存して いたが、この開発により、これからは国内で自給自足ができるようになっただけではな く、輸出していく時代に入った。 ○ 世界各国でシェールガスの開発が始まっているが、まだまだ開発技術に乏しく、進ま ぬ現状もある。そのような中で、アメリカとカナダが先行して生産を始めている。また、 埋蔵量の多いアルゼンチンやメキシコにおいてもアメリカの大手石油会社が入り開発・ 生産を急いでいる。 ○ 現時点でシェールガスを輸出できる国はアメリカとカナダであると思われるが、カナ ダと比較してアメリカの方が(輸出の)優位性があると思われる。それは、アメリカの 方が、税金が安い、人件費が安い、技術を確立した労働者を見つけやすい、世界でも有 数のパイプラインを保持している、採掘技術が優れている、といったことなどからであ る。また、カナダと比べて、全世界的に大規模の石油会社等があるので、リスクの回避 がしやすい点も有利な点と思われる。 ○ シェールガスの輸出にあたっては、太平洋にパイプラインを建設するのは現実的では ないので、液体にしてタンカーで運搬することが検討されているが、これについては、 ガスの液体化とタンカー運搬の優れた技術を持つ日本に期待がかかるものと思われる。 ルカ・インターナショナル本社の入るビル - 37 - ○ 日本が他の輸入国と比較して有利な点は、アメリカ政府との良好の関係が既に築き上 げられていること、また、過去からずっと培ってきた船での運搬と造船技術等を持って いることなどがあげられる。 ○ 現在、中国が世界中で資源確保に躍起になっていて、(シェールガスなどの)アメリ カの資源に対しても投資をしたいと考えているが、国家安全保障の問題があるので、ア メリカ政府は制限をかけている。それに対して、日本とアメリカの関係は非常に良いの で、日本に対しては、アメリカは制限を付けていない。したがって、今が日本にとって 資源確保の良いチャンスであると言える。 ○ 再生可能エネルギーは、天候等に左右される部分が大きく、不安定であるという欠点 がある。その不安定さを補う、いわゆる調整電源としては、天然ガス発電が有効である。 なぜなら、他の化石燃料(石炭・石油)に比べて二酸化炭素(CO2)排出量がずっと 少ない(石炭・石油の4割~5割ほど)からである。したがって、今後、発電エネルギ ーとしての天然ガスへの注目が高まってくると思われる。 3.主な質疑応答 Q1.アメリカ国内でのシェールガスの埋蔵量について A1.EIA(アメリカエネルギー情報局)の予測でもはっきりとした数字は出ていないが、 現在わかっている状況で、アメリカ国内だけの消費を考えた時、100年~150年分 の資源があると言われている。この数字にはまだ開発されていない、モントレー油田な どといったものは含まれていない。また、メタンハイドレード(化石燃料の一種)も含 まれていない。 Q2.日本からの資源に対する投資について A2.日本の場合、中国と比べて、米国内における資源に対する投資の制限が無いにも関わ らず、投資額が少ないが、これは、日本の企業が、今後どれだけ原発が再稼働するのか を見ているからだと思われる。 しかし、今後、原発の再稼働があったとしても、エネルギー供給の分散化を図るとい うことは、今後の政策として非常に重要になってくる。すなわち、ある特定のエネルギ ーに依存するということは、それだけリスクが高いということにつながるので、エネル ギーの分散化・多元化を図る必要がある。 - 38 - ルカ・インターナショナルでの説明 (下段写真の左端の女性がCEOのビン・ヤン氏) - 39 - 第3章 本県行政等への提言 1 廃炉・除染対策関係 (1)廃炉工程の監視及び危機管理対策について スリーマイル原発が立地するペンシルベニア州政府においては、州民の健 康と安全を確保し、あらゆる災害に対応する「ペンシルベニア州緊急事態管 理庁(PEMA)」が設置されていた。ここでは、危機管理を行う上で連邦 政府機関やその他の団体から寄せられる情報の他に独自の情報収集能力を 保持し、それを独自に分析して評価する対策を取っていた。 特に、事故を起こしたスリーマイル原発を始め、州内に9基もの原発が存 在している同州においては、州内すべての原発の制御室と専用電話でつなが っているだけでなく、各プラントの各種数値をリアルタイムで監視できる体 制が構築されていた。 本県においては、原発事故以来、東電からの報告遅れ等が相次ぎ、廃炉作 業における県民の不安の払拭にはほど遠い状況となっている。今後、廃炉に は長期の年月を要すると思われるが、県民の不安を取り除き、早期に廃炉作 業を進めていくためには、徹底した情報公開の基で作業が行われることが大 前提であることから、以下のとおり提言する。 ① 情報収集能力の確立 我が国とアメリカでは行政組織体制が異なることから、PEMAと同じ 情報収集体制を構築することは難しいと思われるが、本県独自の情報収集 能力を高めるために、福島第一・第二原発敷地内へのモニタリングポスト 等の測定機器の設置、また、サイト内の状況や原子炉建屋内などを随時監 視できるモニター等を設置すること。 ② 専門的知識を有する人材の活用 原発に関する様々なデータを解析し、廃炉作業等の管理や評価を本県独 自で行えるよう、原子力工学や廃炉作業などに精通している内外の専門家 の積極的な採用や育成を行うこと。 ③ 廃炉作業にかかる専門的組織の構築 本県における事故原発の廃炉は、相当長期にわたり、かつ、これまでに 経験のない作業となることが予想されることから、廃炉費用を含め、国の 責任において、安全・確実な作業を行うことができるよう、世界の技術者 と英知を集めた専門的な組織の構築を関係機関に要請すること。 - 40 - ④ 「危機管理対応組織」の構築 本県では、関係13市町村と学識経験者で構成する「福島県原子力発電 所の廃炉に関する安全監視協議会」が設置され、福島第一原発1~4号機 の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ等に基づく国及び東電の取り 組み状況について、多角的、継続的な安全監視を行っていることから、ま ずは、当該組織の権限強化を行い、原発の廃止措置等に万全を期しながら、 将来的に当該組織を発展充実させ、あらゆる災害に対応できる「危機管理 対応組織」を構築すべきである。 ⑤ 事故収束・廃炉作業における情報提供 事故収束・廃炉過程において、県内外住民との十分なコミュニケーショ ンは不可欠である。今回の調査先で廃炉等を経験した電力事業者は地域と の対話を重視してきた。 福島原発の現状把握や廃炉に関する情報については、事業者等から正確 ・迅速な情報の提供がなされるべきであるが、それらの提供を待つだけで はなく、事業者である東電や国と連携し、県自らが情報を収集するなどし て、県民をはじめ、県外・海外の人々に対しても事故収束対応や廃炉過程 における様々な情報を積極的に発信すること。 さらに、情報発信に当たっては、アメリカ原子力規制委員会で情報発信 の際に行われている、専門的な状況説明を極力平易な一般的に理解しやす い説明に置き換える方法を参考にするとともに、情報発信の窓口を極力一 元化するなどして、無用な不安や理解不足による風評などのリスクを抑え ること。 (2)廃炉技術等の確立について 事故を起こしたスリーマイル原発はもちろんであるが、老朽化等の理由か ら廃炉となったトロージャン原発(オレゴン州 ポートランド)やランチョ セコ原発(カリフォルニア州 サクラメント)においても、廃炉作業の過程 において様々な問題が発生し、その対応に苦慮してきたとのことであった。 また、廃炉技術の習得や、機器の開発等にも相当の年月を費やしたとのこ とであり、廃炉に向けては事故を起こしていない原発でさえ、相当の期間と 費用がかかることが改めて浮き彫りとなった。 本県の状況を見てみると、いわゆる過酷事故における相当のダメージを負 った原発4基を含めた廃炉作業を今後行っていかなければならず、スリーマ イル原発とは比べものにならない困難な状況に直面していると言える。そこ で、廃炉技術の確立等について、以下のとおり提言する。 - 41 - ① 廃炉に向けた新技術等の開発 スリーマイル原発事故では、燃料を取り出すための道具やロボットの開 発、作業員の技術習得等に約6年、実際の作業に約4年を費やしたという。 これに対し、福島原発事故はスリーマイル原発事故より過酷で難易度が高 く、経験の無い作業が続くことが想定される。 特に、メルトスルーした燃料デブリ(溶け落ちた燃料)の取り出しは、 困難が予想される。まずは、冷却循環している淡水化装置の性能向上によ る真水化を急ぐことはもちろん、取り出しのための水中ロボット等の開発 も必要となってくる。これら開発にあたっては、原寸大のモックアップ(模 型)を利用することとなるが、原寸大のモックアップ(模型)を利用した ロボット開発や作業を行う技術者の養成には、相当の時間が必要となる。 このため、比較的廃炉が容易とみられる5号機、6号機の廃炉作業を先 行して行い、それらをモックアップ(模型)の一つとして利活用するなど して、新技術の開発及び技術者の養成を図るべきである。 ② 二次災害の防止 福島第一原発の廃炉については4号機の使用済み燃料棒の取り出しが始 まったところであるが、使用済み燃料棒の落下など不測の事態が発生し、 それによる放射性物質の拡散を防ぐため、鉛板などによる現場の隔離対策 を十分に行うべきである。 また、圧力容器や格納容器内の放射性物質を隔離するため真水による密 閉作業が必要となるが、その場合、格納容器等が全密閉水量の重さに耐え られるかどうかのシミュレーションを行い、その密閉度を公開すべきであ る。 ③ 汚染水処理 スリーマイル原発事故でクリーニングした汚染水の量は、福島とは比べ ものにならないほど少量であったが、トリチウムを含む汚染水の川への放 流は、関係者の理解を得られず断念した経緯がある。そのため、汚染水を 蒸発させ、残った堆積物(残渣)を最終処分場で処理する方法を採用した。 現在、本県で行われている、汚染水のタンク貯蔵方式は、タンクの耐久 性の問題や汚染水が増え続けている現状から考えると、限度があると思わ れる。したがって、汚染水を増やさない対策を早急に講じることはもちろ んのこと、その処理にあたっては、スリーマイル原発等で採用された蒸発 方式の検討など、汚染水の減量化を図るよう関係機関に要請すること。 - 42 - ④ 放射性廃棄物の処分 アメリカにおいても、高レベル放射性廃棄物の最終処分については、解 決できていないという現状はあるものの、中低レベルの放射性廃棄物の最 終処分については、政府が処分場を設置・管理し、処分を行っている。 一方、我が国においては、放射性廃棄物の最終処分場について、全く決 まっておらず、白紙の状態が続いているが、国は本県以外に最終処分場を 設置するとしている。本県原発の廃炉作業や県土の除染を迅速に進めるた めにも、最終処分場の設置は喫緊の課題である。そこで、放射性廃棄物の 最終処分に関して、国の責任において処分場を早急に整備するよう関係機 関に引き続き要請すること。 (3)健康管理(ストレス)対策について スリーマイル原発事故の場合は、原発敷地外への放射性物質の漏洩が微量 であったため、周辺住民への直接的健康被害はなかったというが、それでも、 近隣に住む人々のストレスのレベルが4年から6年間くらい上がったまま 続いていたとの調査結果もあったようである。 スリーマイル原発事故と異なり、福島原発事故では、原発敷地外へかなり の量の放射性物質が漏洩しており、特に、低線量被曝の健康に対する影響に ついて、県民の不安を完全に払拭できるような状況にはない。 今後、数十年、数世代にわたり県民の健康を守り、県民の不安を払拭する ためには、現在行われているホールボディカウンターなどによる健康管理対 策を充実させることはもちろんであるが、ストレスへの対策も重要となって くるものと思われる。そこで、以下のとおり提言する。 ① 原発事故を起因とするストレス対策 平成25年8月現在、震災関連死が地震や津波による直接死者数と同程 度となっていることや、長期避難者が宮城県と同程度でありながら震災関 連死が約2倍となっていることなどから、長期避難や風評被害など原発事 故の影響による県民のストレスレベルが上がっていると思われる。そこ で、ケアを必要とする人の掘り起こしや見守り事業などの対策を、長期的 対策として措置すること。 - 43 - 2 エネルギー政策関係 アメリカ国内におけるスマートシティ先進都市であるダビューク市、スマー トグリッド先進都市であるフォートコリンズ市、再生可能エネルギー研究施設 である国立再生可能エネルギー研究所等を訪問調査したが、再生可能エネルギ ーを促進するためには、国と地方自治体が一体となり、住民参加型の取り組み が必要であることを再認識した。 また、とかく不安定さが指摘される再生可能エネルギーを補完するための調 整電源としては、原子力ではなく、火力発電等をメインに考える必要があるが、 この調整電源の燃料としては、従来の石炭・石油等に代わって、安価でCO2 の発生が他の化石燃料に比べて低いシェールガスを利用することも選択肢の 1つとなってくるものと思われる。 原発事故に苦しんでいる本県は、県内すべての原発の廃炉を議決し、「原子 力に依存しない、安全・安心で、持続的に発展可能な社会づくり」を目指して いることから、今回の調査結果を踏まえ、以下のとおり提言する。 ① 持続的に発展可能な社会づくりに向けての取り組み ダビューク市は、「持続可能な環境づくり」という視点からスマートシテ ィの取り組みを始め、「環境の保護」、「経済発展」、「住民生活の向上」 という大きく分けて3つの目標を掲げ、プログラムをスタートさせた。その 中で、グリーン・ビジョン・スクールという幼稚園から12年生までの間に 「持続可能な環境づくり」に関するカリキュラムがあり、また、学校の環境 にも取り入れて実践との両面から子供たちを教育している。本県が再生可能 エネルギーを導入する上でも、子供たちの身近な場所でカリキュラムと実践 の両面から教育し、持続可能な環境づくりの相対的効果として再生可能エネ ルギー導入の重要性の教育を行うこと。 また、本県においても、ダビューク市の取り組みを参考に、持続的に発展 可能な社会づくりを創造するため、「環境の保護」、「経済発展」、「住民 生活の向上」という視点からそれぞれの部署による協働の取り組みを図るこ と。 ② スマートメーターの普及とスマートグリッド ダビューク市やフォートコリンズ市の例を参考に、電力使用量や水道使用 量とその料金を個人で見て、各個人が電気や水への意識と理解を深めること ができるよう、スマートメーターを各家庭に設置すること。 また、将来的には、スマートメーターの管理は市町村ごとに行い、市町村 のデータを県(マネジメントセンター)が一括管理し、電力及び水道の需要の - 44 - ピークを見つけ出し、時間帯で料金設定を変えるなどして、県民に「お得な 使い方」を情報提供するとともに、スマートグリッドと組み合わせて、供給 の平準化(ピークコントロール)を図る施策を実施すること。 ③ 再生可能エネルギーコントロールセンターの設置と調整電源の充実 再生可能エネルギーによる発電は季節や天候に左右され不安定であり、安 定性が求められる電力供給の主軸とするには課題が多く、発送電分離などの 対策だけでは不十分である。 そこで、電力需要と供給を時間的にマッチングさせるため、電力需要のシ ミュレーションに気象現象による再生可能エネルギーの発電効率の予測を 加え、電力の平準化を瞬時に調整することができる「コントロールセンター」 の設置を図ること。 また、不安定な再生可能エネルギーによる発電を補完するため、揚水式水 力発電や天然ガスコンバインド発電などCO2排出の少ない安定した調整 電力としてのバックアップ発電所の設置を図ること。 加えて、従来の石炭火力発電に比べ温室効果ガスの排出が少なく世界最高 水準の技術レベルにある県内のIGCC(石炭ガス化複合発電)についても 調整電力としての役割を検討すること。 ④ シェールガス革命により役割が増す天然ガス シェールガス革命により天然ガスの調達先の多様化や石油準拠の価格で はない市場競争価格による安価な天然ガスの普及により、将来的に原子力 から再生可能エネルギーへシフトする段階においての調整電源の燃料と して、天然ガスの役割がこれまで以上に増すことが予想される。そのため、 天然ガスコンバインド発電の設置を進めるためにも燃料となる液化され たシェールガス、すなわち液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地となる 港湾の整備を図ること。 ⑤ 実証実験の推進 国立再生可能エネルギー研究所におけるスマートグリッドの実証研究 や、フォートコリンズ市におけるスマートグリッドの導入実態の視察調査 を通じて、本県が再生可能エネルギーを導入する上では、本県の自然・地 理的特性を生かした様々な再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、 小水力発電、バイオマス発電など)により発電された電力を、地域の配電 網で調整して使用電力量に見合った発電が可能となるような仕組みを構 築しなければならない。そこで、スマートメーターの普及、再生可能エネ ルギーコントロールセンターの設置、調整電源の充実などの検証も視野に 入れて、地域単位、市町村レベル、広域生活圏のレベル、県のレベルなど 様々なエリアでの実証実験を早期に行うこと。 - 45 - ⑥ 太陽光発電の普及 本県の7割は中山間地域であり、大規模な太陽光発電に適した土地の確保 が容易ではないことから、遊休農地や減反政策の廃止に伴い、耕作しなくな った農地を活用して、農家が自ら太陽光発電事業等を展開できるよう施策を 構築すること。 ⑦ 再生可能エネルギー関連産業 本県は、「再生可能エネルギーの先駆けの地」を目指している。 そこで、スマートグリッド等の技術導入はもちろんのこと、これら関連産 業の集積を図り、再生可能エネルギー関係の技術者等の人材育成を促進する こと。 ⑧ 再生可能エネルギー開発支援 様々な再生可能エネルギー開発等を行う団体等に対して、既存の補助制度 の拡充や新たな補助制度を創設するなどして、財政的な支援を行い、再生可 能エネルギー推進を図ること。 ⑨ 発送電の分離 発送電分離の早期実施及び、電力事業を自治体で運営しているフォートコ リンズ市の例を参考に、電力会社の管理している送電網を本県で管理すると いったようなモデル事業(特区)が実施できるよう関係機関に要請すること。 - 46 - 編集後記 この度、7日間のアメリカ合衆国での海外行政調査を終え、11月に提出した報告 書(速報版)、そして今回の報告書(最終版)と、二段構えでの編集の機会を与えら れました。 県議会を代表して派遣されたことを受け、一刻も早く報告書を提出すべく、団員一 同、何度も打ち合わせを重ねたところでありますが、余りにも急ぎ足ゆえ、一部、粗 々(あらあら)に書き記した部分があるものと気をもんでおります。どうか、大所高 所から見ていただければ幸いと存じます。 調査団員一同は、見て、聴いて、率直な意見交換等を開陳する中から、極力、真正 面から捉えた真実をレポート化させていただきました。見て、読んでいただいた感想 を県民の皆さんの記憶に留めていただければ、大変有り難いと受け止めております。 どうかこの報告書が、原発事故の一刻も早い完全収束や廃炉、「原子力に依存しな い、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」等に向けた取り組みの一助になり、 本県の復旧・復興に弾みがつくことを願ってやみません。 平成25年度福島県議会議員海外行政調査団 副団長 宗方 保 - 47 -