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第 6 回 フィリピンで貧困に向き合う
第 6 回 フィリピンで貧困に向き合う 日時 会場 講師 パナソニック提供龍谷講座 in 大阪 ∼今、あなたに知ってほしい世界の現実∼ 2010 年度 社会貢献・国際協力入門講座 6 月 30 日(水)午後 7 時∼8 時 30 分 龍谷大学大阪梅田キャンパス研修室 野田 沙良 特定非営利活動法人 アクセス-共生社会をめざす地球市民の会 (URL: http://www.page.sannet.ne.jp/acce/) 理事・事務局員 第 6 回は龍谷大学の卒業生でもある、アクセスの野田さんに講師を 務めていただきました。今回はフィリピンが抱える課題、それに対し てアクセスがどのような活動を行ってきているのかを学び、またワー クシートを使ったディスカッションも行いました。 フィリピンとは フィリピンは 7,000 以上の島からなる国で、100 以上の言語があります。公用語は、フィリピン語と英 語です。民族は主にマレー系で、90%の人々はキリスト教を信仰しています。フィリピンから日本まで、 飛行機で約 3 時間半です。また、日本で売られているバナナの約 90%はフィリピンから輸入されていま す。 格差問題 首都マニラには、たくさんの高層ビルが立ち並んでいます。高層ビル街から、車で 10 分ほど走るとス ラム街があります。現在、マニラに 200∼300 あるといわれています。中でも、ゴミ山(スモーキーマウ ンテン)周辺のスラムは、非常に厳しい生活環境におかれています。そしてスラムで暮らす人々は、ほ んのわずかな収入しか得られないのです。農村でも、大邸宅に暮らす大地主がいる一方で、土地を持た ず、台風で屋根が吹き飛んでしまうような家に暮らす人々がいます。農村部には、十分な収入を得られ る仕事はとても少なく、食べるのにも困難な生活を送る人々が多数存在しています。 フィリピンの貧困層の人々、日収 1 ドル以下の人々は総人口の約 13.5%(国際食糧政策研究所・2007 年 11 月データ参考)を占め、日収 2 ドル以下までに広げると、総人口の約 50%(世界開発銀行・2007 年データ参考)を占めているのです。つまり、学校に通ったり、医療を受けることが困難な状態の人が たくさんいるということです。以上のことから、フィリピンの経済格差はとても深刻な問題であること がわかります。 農村貧困と日本 フィリピンの主要産業は GDP(国内総生産)の 50%を占めるサービス業で、49%の人々が働いていま す。このサービス業には、スラムで暮らす人々の仕事(例:ゴミ拾いや露天商など)も含まれています。 また GDP18%を占める農林漁業で働く人々の割合は、36%です。このことから、農村が貧困状態にあるこ とが分かります。そのため、農村で暮らす人々は、よりよい仕事を求めて都市へ移動します。しかし、 都市へ出たからといって仕事が簡単に見つかるわけではありません。サービス業や製造業に就職するに も、高校又は大学卒業といった条件があります。そのため、多くの人々が物売りやバスの客呼び、ごみ 拾いなど、収入がとても少ない仕事に就かざるをえません。(GDP;フィリピン中央銀行・2009 年、職業 人口比率;日本国土交通省国土計画局ホームページ・2007 年データ参考)また貧困から抜け出す方法の 1 つとして、海外へ出稼ぎに行く人も多いです。現在、873 万人以上の人々が海外に出稼ぎに行っていま す。(Philippine Overseas Employment Administration・2007 年 12 月データ参考) 農村貧困の原因として、大きく 4 つの理由を挙げることができます。 ①大土地所有制 ②プランテーション中心の農業 ③漁業の問題 ④森林伐採による影響 このうち、②、③、④に日本が関係しています。例えば③の場合、外国船(日本も含む)の乱獲によ る収穫量の減少が地元漁師の生活を圧迫しています。④の場合、地すべりが頻発するようになり(日本 など外国が安く木材を手に入れるため、フィリピンの森林を伐採したことが原因の一つともいわれる)、 生活が破壊される村が生まれています。 アクセスの活動 アクセスは、 「貧困を始めとする社会的な課題を、一人一人が主体となって解決し、より良い社会をつ くっていく」ことを目指して活動する国際協力団体です。 アクセスは貧困の中で生きる人々のニーズを知るために、 「住民の生活に密着して真のニーズを知るこ と」が重要であり、「住民の生活から学び、住民と一緒に考える」ことが必要であると考えます。 また、国際協力とは、先進国の人々が途上国の人々に「してあげる」ことではないと考えています。 貧困に苦しむ人(当事者)と、貧困の原因の一端を担う私たち先進国の人が、お互いに学びあい、力を 出しあうことが国際協力です。先進国側の人は持っている知識や経験、資金を提供し、貧困に苦しむ人々 自身が問題を解決していけるよう、人々をエンパワメントしていく必要があります。また、先進国の人々 は、自分たちの豊かさは途上国の貧しさの上に成り立っていることを理解していく必要があります。 フィリピンの現状を変えるためにどのような支援が重要か 下記の9つの支援策があるとしたら、皆さんはどのような優先順位をつけて支援を行いますか?少し 考えてみてください。 (講座では、下記のテーマで受講生の皆さんに順位付けとディスカッションをしていただきました。) 問い:皆さんが NGO を立ち上げ、フィリピンの貧困地区の現状改善としてプロジェクトを行うとしたら、 何を重視して支援を行うべきだと思いますか。 A.貧困地区において、住民の助け合いグループの設立を支援する。 B.住民が就職しやすくなるよう、職業訓練を実施する。 C.日本政府に、フィリピン人労働者の日本受入れを増やすよう働きかける。 D.学校に通えない若者たちを「青年会」として組織し、自主活動ができるよう支援する。 E.雇用対策を行うよう、フィリピン政府に訴える。 F.フェアトレード商品の生産を指導し、商品を日本で販売。生産者グループとして育成する。 G.フィリピンに進出している日本企業に働きかけ、貧しい人々の雇用を促進する。 H.薬が安く買える薬局をつくり、予防知識の普及活動も行う。 I. 子どもが学校に通うための奨学金を提供する。 この問いに答えはありません。さまざまな考え方があり、さまざまな支援のあり方があってよいと思 います。アクセスとしては、貧困の中で生きている人々自身の問題解決能力を引き出していくこと(エ ンパワーメント)を重視しています。エンパワーメントという考え方に基づき、アクセスがもっとも重 視する支援とは、A、D、F です。職業訓練や奨学金などのように個人の能力を高めることももちろん重視 していますが、そうやって力をつけた一人ひとりの貧しい人々が、何らかの形で助け合えるグループ・ 組織を作っていけるようにサポートすることが、何より大切だと考えているからです。 人々の変化 アクセスの事業の 1 つに、都市スラムで行っているフェアトレード商品生産と販売があります。以前 は、生産者は商品生産のみを行い、管理業務はアクセスのスタッフが行っていたのですが、2005 年から 徐々に、管理業務を生産者に移行するようになりました。そうすることで、生産者が「自分も活動を作 っている一員である」といった意識を持ち、主体的に働くようになりました。 同時に私たちアクセスは、貧しい人々が互いに協力し合ってより大きな問題の解決に取り組んでいけ るようにと、 「組織作り」に力をいれてきました。これを私たちは「集団的なエンパワメント」と呼んで います。フェアトレード商品生産においても、 「生産者グループ」をつくり、組織をエンパワメントする ことによって、生産者たちが自主的に、相互扶助のための「生活基金」をつくる案が生まれ、実現しま した。 私たちは、貧困問題を解決するのは、政府や国連などではなく、NGO ですらなく、貧しい人々自身であ り、また先進国に生きる私たち自身であると考えています。その考えに基づきながら、人々のエンパワ メントを通じて、貧困のない社会の実現に向けた活動を続けていこうと思っています。