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常滑は生活空間のたたずまいが美しいまち ニューズレター

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常滑は生活空間のたたずまいが美しいまち ニューズレター
ニューズレター vol. 27
CONTENTS
Interview 文化政策の風景 第 22回
常滑は生活空間のたたずまいが美しいまち
―「常滑屋」は、まちの魅力を発見し、語り合い、発信する。
伊藤 悦子
「常滑屋」代表
文化政策プロフェッショナルセミナー
「文化によるまちづくりの継承と発展
―文化政策の展開と産・公・民・学・際の協力体制」
を開催
京都橘大学 現代マネジメントフォーラム
「医療マネジメントの課題」を開催
第 6 回「個性が輝くひと・まち・文化」コンテスト審査結果報告
イギリス観てある記 第 6 回
天気予報士がタレントの国、イギリス
杉山 泰
本学文化政策学部教授
Information
27
Interview
もっと豊かなコミュニケーションのために
―こだわりのコーヒーを
文化政策の風景
とこなめ
第 22 回
〈愛知県常滑市〉
Kyoto
Tokoname
ゲスト
伊藤 悦子
Ito, Etsuko
伝えしたかったんです。日本六古窯
には、焼き物のかけらが張り付け
登り窯やレンガ煙突など、絵にな
井口 「常滑屋」はギャラリーも備えた「もてなしの場」
や俳句やスケッチを楽しむ人たち
として大変な人気です。
まち」として、よく知られた存在で
伊藤 おかげさまでたくさんの方々が来てくださいます。
はもっと幅広い人たちに常滑を知
でも 10 年前にオープンした時は、地元の人たちから「半
んです。
年ももたんだろう」と言われていたんですよ。駅前から
井口 店は、個性的なメンバーに
は少し離れているし、「朝、コーヒーを注文したら目玉
伊藤 造り酒屋の社長の澤田研一、
焼き・サラダ・トーストぐらいはついて当たり前」とい
私の義姉の杉江恵子、それに私です
う愛知県の喫茶店の「常識」からも外れているし、コーヒー
たしかに 3 人は個性的(笑)。杉江
の値段も、この辺では 250 ∼ 280 円が一般的だった頃に、
の焼き物屋の奥さんですが、生まれ
うちでは 350 円でしたから。
く愛し、明日の常滑を考える市民
井口 ところが、いまや「常滑屋」はコミュニティ・ビ
こねっと」の会長を務めています。
ジネスの成功例だと言われています。
披露を、自分の蔵ではなく、わざわ
伊藤 成功なんてとんでもありません(笑)。でも私た
そのために半端ではない掃除をす
ちなりのこだわりはあります。たとえばコーヒーが高い
窯の掃除人」。渡辺敬一郎は、手製
のは、京都のイノダコーヒーだから。イノダコーヒーは、
動をやって、コンサートや CD で常
もちろん味もおいしいのですが、京都の本店ではミルク
みんな、まちづくりの仲間たちです
とお砂糖があらかじめ入った状態で出てきます。それで、
井口
うちではお客様に「ミルクとお砂糖はどうなさいますか ?」
が決まる時期でした。
とお尋ねするんです。そうすると、「なんでそんなこと、
伊藤 あの頃は「もし空港ができ
いちいち聞くの ?」というふうに会話が始まって、そこ
ションや店が増えたら、この風景が
から「常滑でどこかお薦めのところはない ?」
「実はこん
そうなる前に、まちの人たち自身
なところがあるんですよ」と話が弾むこともある。そう
解してもらって、まちの魅力を発信
やって、
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
と思っていました。
以上のコミュニケーションができたらと思っています。
私は結婚してこの土地に入った
オープンした頃は、ちょう
ヨソモノの目から見ると、食べもの
「常滑屋」代表
常滑の良さを発掘する「ヨソモノ」の目
聞き手
とても美しいんです。でも、地元の
気づいていないし、宣伝もとても下
井口 貢
Iguchi, Mitsugu
本学文化政策学部教授
井口 なぜ「常滑屋」を始めたのですか。
常茶飯に食べているお魚もとびき
伊藤 常滑のまちの良さを、外から来られた人たちにお
をもてなす時には「この辺には何も
とこなめ
常滑は生活空間のたたずまいが 美しいまち
―「常滑屋」は、まちの魅力を発見し、語り合い、発信する。
02 03
Institute for Cultural Policy Studies
News Letter 27
伊藤 悦子
愛知県生ま
1995 年、共
常滑の魅力
「常滑屋」は
ギャラリー
伝えしたかったんです。日本六古窯のひとつである常滑
には、焼き物のかけらが張り付けられた小路や土管坂、
登り窯やレンガ煙突など、絵になる風景が多くて、写真
」
や俳句やスケッチを楽しむ人たちには「隠れ家のような
まち」として、よく知られた存在でした。でも、私たち
す。
はもっと幅広い人たちに常滑を知ってもらいたかった
半
んです。
井口 店は、個性的なメンバーによる共同出資だとか。
玉
伊藤 造り酒屋の社長の澤田研一、陶芸家の渡辺敬一郎、
い
私の義姉の杉江恵子、それに私です。私は別としても、
土管坂
ー
たしかに 3 人は個性的(笑)。杉江恵子は、常滑の大手
から、隣町のお店で何か食べましょう」となってしまうし、
に、
の焼き物屋の奥さんですが、生まれ育った常滑をこよな
朽ちかけた土管工場も、地元の人たちに言わせると「こ
く愛し、明日の常滑を考える市民ネットワーク「あすと
んな汚いもん、早う片付けんといかん」となってしまう。
こねっと」の会長を務めています。澤田研一は、新酒の
井口 むしろ外から来た人のほうが常滑の良さに敏感
披露を、自分の蔵ではなく、わざわざ古い窯でやるんです。
だった。
ビ
た
そのために半端ではない掃除をする。だから別名「必殺
伊藤 そう。だから私が感じた常滑の魅力を、この風景
い
窯の掃除人」。渡辺敬一郎は、手製の陶器の笛で音楽活
や味がいいんだよと、まるで通訳するように、まちの人
は、
動をやって、コンサートや CD で常滑を宣伝しています。
たちに話し続けました。そうすると、地元の人たちもま
みんな、まちづくりの仲間たちです。
ちの良さを再認識したり、まちの情報を教えてくれるよ
井口
うになって、「だったら常滑を外に向けて発信できる場
で、
」
ん
」
オープンした頃は、ちょうど中部国際空港の建設
が決まる時期でした。
所がほしいね」ということで、「常滑屋」のオープンに
伊藤 あの頃は「もし空港ができて新しい住民やマン
つながりました。
ションや店が増えたら、この風景が壊されるのではないか。
それに、当時は観光を終えたお客様がゆっくり一休み
そうなる前に、まちの人たち自身に常滑の良さをよく理
する場所もなかったので、おもてなしの場が必要だった
解してもらって、まちの魅力を発信できるようにしたい」
んです。
と思っていました。
私は結婚してこの土地に入った「ヨソモノ」ですが、
ヨソモノの目から見ると、食べものは新鮮だし、景観も
日常の風景のなかに常滑の魅力がある
―「世間遺産」
とても美しいんです。でも、地元の人たちはその魅力に
お
気づいていないし、宣伝もとても下手。海が近いから日
井口 伊藤さんは NPO 法人「タウンキーピングの会」
常茶飯に食べているお魚もとびきりおいしいのに、お客
でも活動していますね。
をもてなす時には「この辺には何もおいしいものがない
伊藤 あの会は、いろんな人が私利私欲を離れてまちづ
伊藤 悦子
愛知県生まれ。
1995 年、共同経営者の一人として、
常滑の魅力を発信すべく「常滑屋」を立ち上げる。
「常滑屋」は「やきもの散歩道」の途上にあり、飲食喫茶コーナー、
ギャラリー、イベントスペース等の利用が可能である。
くりを考える会、要するに「バカモノ」の会です(笑)。
くて、大勢で押しかけるのは似合わない。しっとり歩い
然環境の美しさや人と自然が織りな
メンバーのなかにはまちづくりの専門家もいるので、ま
ていただくのにちょうどいい。常滑のまちには、椿と、
てもらうまち。普通とは違う観光
ずは市民から提案しようと、「まちづくり憲章」のたた
それに、ゆっくり歩いていただくのが似合うということ
のだと位置づけて、それをこちら
き台をつくりました。景観調査など、行政でも民間でも
を知っていただきたかったんです。
思っています。
やりにくい仕事を上手にフォローできるのが、この会だ
お年寄りの思い出や地元の人たちの意見をきちんと汲
もちろんパーク & ライド方式を
ろうと思います。
み取れば、自然にそういう方向が見えてきたという感
で大勢がいっせいに回るのではな
じです。
とか、おいしいものを食べたいとか
かめ
常滑は、もともと土管や甕を焼いていた窯業地帯で、
いまも従業者が住んでいるわけですから、住民と共存し
て初めて、観光地として成り立つことができます。そこ
で会としては、観光客の立場のみを考えるのではなく、
など、お一人おひとりの希望に合わ
提案型の観光へ
―「したい観光」から「してほしい観光」へ
地元の人たちの意見をきちんと話せる機会をつくること
づくりも必要ですね。
井口 そうなると行政との共同も欠
伊藤 行政に対してもちゃんと通訳
が特に大切だと考えています。
井口 空港が開港して、今後ますます観光客の増加が予
ですが、まだうまくできているとは
井口 そう言えば、常滑市の地域イベント「一木橋あっ
想されますが、常滑の良さを発信する方向性は見えてき
課題ですね。でも、通訳という点で
ちべたこっちべたフェスタ」でも、お年寄りの聴き取り
ましたか。
んにもお願いしたいんですよ。常滑
調査を受けたシンポジウムが開かれました。
伊藤 観光のお客様は毎年増え続けていますが、それに
にしてこそ人を惹きつけるのだとい
伊藤 あの聴き取り調査は、常滑の人びとが親しんでき
流され、迎合するようになったら怖いですね。
的な立場から発信していただける
た日常風景を再発見しようという動きの一環です。お年
先ほどお話ししたように、やきもの散歩道は、同時に
できたらと思っています。
寄りは、若い頃から常滑で焼き物づくりを支えてきた人
生活空間です。ですが、その日常の生活空間の良さが、
たちですから、お年寄りの思い出を掘り起こし、それを
来てくださる方々の心を打つのだと思います。だとしたら、
若者が活躍できる環境をつく
若い人たちに伝えて、常滑の無形の遺産にしていこうと
それを私たちが意識的に伝えていく必要がある。たとえ
取り組んだんです。
ば観光地では普通、おもしろいお店を探して歩きますが、
井口 まちづくりの後継者はでき
井口 それを最近は「世間遺産」と言いますが、さしず
常滑にはおもしろい情景があります。路面にも壁面にも、
伊藤 この頃、大学の学生たちに
めお年寄りは「生きた世間遺産」ですね。
焼き物のかけらがたくさん埋め込まれ、その間から植物
市外の人がショップを開くケース
伊藤 本当にそうですね。たとえば「あの坂の土管のか
がひょんと顔を出している。そのかわいさ、おもしろさ。
体もこの周辺で約 50 軒になりまし
けらは、嫁いでくるお嫁さんが滑って転んだらあかんか
その花や葉っぱは、そこにあるからかわいいのであって、
ができることで、お客様の年齢層
らと、おばあちゃんが埋め込んだんだ」とか、「おばあ
摘んで持ち帰っても再現できない。ここはそういうおも
ながら「オシャレなスポット」とい
ちゃんはあの路地でラブレターをもらったんだよ。昔は
しろさを味わうまちなんだ、ということを発信すること
もう少し先を見据えた場合は、常
椿がうっそうと繁っていてね、なかなか素敵な雰囲気
が大事だと思っています。
にかけてきた情熱やプライドを、子
だったんだ」といったエピソードが語られて、私たちも
井口 単に物を見て、買って、通り過ぎるだけの観光地
伝えられるかが大事だろうと思い
「へぇーっ、そうだったのか」とびっくりしました(笑)。 にはしない。
きちんと伝えることも大切ですし、
それで、先日の「タウンキーピングの会」の講演会では、
伊藤 ただ「来てください」ではなくて、「常滑は心に残
たとえば「常滑屋」の前は小学生の
参加者に椿の苗をお配りしたんです。椿が咲く頃は肌寒
る情景を持ち帰ることができるまち。物質ではなく、自
くなったら、あそこで働いている
常滑
営業
定休
毎週
愛知
Tel
Interview
常滑は生活空間のたたずまいが 美しいまち
―「常滑屋」は、まちの魅力を発見し、語り合い、発信する。
04 05
Institute for Cultural Policy Studies
News Letter 27
然環境の美しさや人と自然が織りなしてきた歴史を感じ
やお姉ちゃんたちみたいになりたい」と思われるように、
てもらうまち。普通とは違う観光をしてもらう場所」な
若者たちが生き生きと働けることが大事でしょう。私た
のだと位置づけて、それをこちらから提案すべきだと
ちの世代は、そういう環境づくりをしたり、これから中
思っています。
心になる人たちが気持ちよく動けるように、下でしっか
汲
もちろんパーク & ライド方式を導入して、観光バス
り支えたり、「大丈夫だよ」と言葉をかけてあげねばと
感
で大勢がいっせいに回るのではなく、焼き物を探したい
思っています。
とか、おいしいものを食べたいとか、静かに散策したい
など、お一人おひとりの希望に合わせて動けるシステム
失敗は恐れる必要なし ! 自分の力と周りの力を信じること
い
づくりも必要ですね。
井口 そうなると行政との共同も欠かせません。
予
に
に
、
伊藤 行政に対してもちゃんと通訳しないといけないの
井口 伊藤さんに憧れる女性も多いでしょう。
ですが、まだうまくできているとは言えません。今後の
伊藤 たしかに「こんなふうに趣味と実益が兼ねた素敵
課題ですね。でも、通訳という点では、研究者のみなさ
なお店をしたい」と相談に来られる人がいて、そうなる
んにもお願いしたいんですよ。常滑の固有の価値を大切
とお店用のニコニコ顔で話すわけにもいかず、「楽しい
にしてこそ人を惹きつけるのだということを、ぜひ専門
のは 1 割、残り 9 割はとても大変ですよ」とお話しする
的な立場から発信していただけるよう、共同関係を構築
ことになります。
できたらと思っています。
実際、何度やめようと思ったかわからない。でも、そ
のたびに共同出資者の澤田研一が「やめてもいいですよ。
若者が活躍できる環境をつくる
でも、これを乗り越えたら無敵。そこから先は楽ですよ」
え
と背中をポンとたたいてくれました。もし「やめないで」
が、
、
井口 まちづくりの後継者はできましたか。
と説得されていたら、本当にやめていたかもしれませんが、
伊藤 この頃、大学の学生たちによる工房ができたり、
「やめてもいいですよ。でも…」という言葉につられて、
市外の人がショップを開くケースも増えていて、お店自
いつの間にかまた立ち上がっている(笑)。それの繰り
。
体もこの周辺で約 50 軒になりました。若い人向けの店
返しでした。
て、
ができることで、お客様の年齢層も広がって、土日はさ
そうやって一つひとつ困難をクリアしていくと、次に
ながら「オシャレなスポット」という感じです。
大変な事態にも遭遇しても、「また来たか。さて、今度
もう少し先を見据えた場合は、常滑市民がものづくり
はどう乗り越えようかな」と受けとめられるようになって、
にかけてきた情熱やプライドを、子どもたちにどれだけ
精神的にも肉体的にも、だんだん鍛えられていくんです。
伝えられるかが大事だろうと思います。「世間遺産」を
それに、いざとなれば周りにいる応援団が助けてくれ
物
地
きちんと伝えることも大切ですし、いま現在の話で言えば、 るという心強さもあって、ここまで走り抜けてきた感じ
残
たとえば「常滑屋」の前は小学生の通学路なので、「大き
ですね。
くなったら、あそこで働いているカッコいいお兄ちゃん
井口 次の走者に手渡したいメッセージは ?
常滑屋
営業時間 10:00 a.m.– 4:00 p.m.(夜間は予約のみ)
定休日 毎週月曜日
毎週金曜日は夜間営業あり 6:00 p.m.–10:00 p.m.
愛知県常滑市栄町 3 –111
Tel. 0569 – 35 – 0470
伊藤 まちづくりに試行錯誤はつきものなので、失敗を
てくれる人がいるなら助けてもらうこと。その代わり、
恐れないこと。成功したらそれでおしまいだけど、失敗
自分もどんどん役立ててもらえるように、自分にできる
したら、それを克服するために努力することで、さらに
ことは積極的にやること。そうすることでコミュニケー
高い水準に行ける。だから、失敗は必要だし、許される
ションがどんどん生まれていきます。「失敗することと、
ものだと思います。
人とかかわることは、絶対に恐れないで !」と言いたい
それと、全部を自分でやろうと思わずに、周りに助け
ですね。
文化政策プロフェッショナル
「文化によるまちづ
― 文化政策の展開
日程:2005 年 8 月 29 日(月)∼ 8
会場:湘南国際村センター(神奈川
Opinion Edition
常在の光薫るまち、常滑。∼目的としての観光から、結果としての観光へ∼
主催:京都橘大学
後援:文化庁・(社)企業メセナ協議
A: シンポジウム
「地域における文化政策と教
伊藤 裕夫 氏 静岡文化芸術大学文化
地域の観光文化は、常在の(所与の)文化資源のなか
木橋あっちべたこっちべたフェスタ∼常滑産業観光まつ
片山 泰輔 氏 跡見学園女子大学マネ
に光を見出し、それを観光資源として認識し、そこに住
り∼」を、ゼミの学生たちとともにお手伝いさせていた
野田 邦弘 氏 鳥取大学地域学部教授
む人々が誇りをもって観光対象としていくことで醸成され、
だいた。伊藤さんも指摘しておられる坂の多いまちなら
端 信行 本学文化政策学部長/本学大
発酵していく。それはかつて、大量生産・大量消費そし
ではのエピソードを、私たちもひとりのおばあちゃんか
て大量廃棄を基調とする旋律によって奏でられていた社
ら実聞した。「世間遺産」としての「土管坂」が形成され
B : 「文化政策と地域」
会のなかで生まれ育まれた観光戦略(あえていうならば“目
る発端ともなった逸話で、興味深い。
加藤 種男 氏 アサヒビール芸術文化
的として”の観光商品のマス的な生産)とは一線を画す
嫁いでくるお嫁さんに配慮して、滑り止めのために土
横浜市芸術文化振興財
るもうひとつの観光(オールタナティブ・ツーリズム)
管を埋めたという事実を多くの観光客は知らないままに、
植田 和弘 氏 京都大学大学院経済学
の在り方に向けてのひとつの提言でもある。
この坂を下りるのであろう。しかしそれ以上に感慨深く
織田 直文 本学文化政策学部教授
象徴的な表現を採れば、露地の片隅や賑やかな商店街
思うことがある。それは、新しく家族に仲間入りする人
の一角にあるお気に入りの店にそっと檸檬を置いてみた
への配慮から、坂に土管を埋めた舅や姑たちは、何十年
くなる、そんなまちを復権することができるかどうかと
かの後にこの坂道たちが、“ 結果として ” 来訪者を魅了
枝川 明敬 氏 東京芸術大学音楽学部
いうことが、わが国が本当の意味での観光立国になれる
してやまない場所になるということを想像すらしていなかっ
大谷 圭介 氏 文化庁長官官房政策課
か否かの試金石であるような気がしてならない。
たことであろうし、ましてや集客を目論んだ彼らの打算
吉田 忠 本学文化政策学部教授
今、私は常滑というまちをかなり気に入っている。予
に満ちた労苦ではなかったということである。
想を超える盛況裡に終幕した愛知万博の影響や中部国際
「世界遺産」ではなく「世間遺産」とこのまちの人たち
空港(セントレア)の開港で少しばかり注目を集めはじ
はいう。
「世間遺産」とは、いわば現代の柳田的常民が、日々
出口 正之 氏 国立民族学博物館教授
めているまちでもある。通称「土管坂」はこのまちに住
日常の営為のなかで積み上げ大切に継承してきたまちの
後藤 和子 氏 埼玉大学経済学部教授
まい日々生業に励む人々にとって、喜怒哀楽が生活文化
記憶を具象化したものである。
中谷 武雄 本学文化政策学部教授
の記憶とともに凝縮されたランドマークである。最近で
記録を象徴するようなセントレアの片隅で、記憶を守
は晴れた休日に多くの観光客で賑わう。坂や塀に埋め込
ることを誇りとする小さなまちのこの試みは、いわゆる
E : 「文化政策の波が社会を変
まれ再生利用されている廃品となった土管や焼酎瓶が、
「ジャパニーズ・クール」を埋めることができる一条の
植木 浩 氏 財団法人ポーラ美術振興財
C: 「文化政策と社会」
D: 「文化政策と文化経済」
独特の詩情を醸し出している。
光ともいうべき示唆を与えてくれているような気がする。
福原 義春 氏 株式会社資生堂名誉会
昨年( 2005 年)10 月下旬に開催された「第 2 回 一
(井口 貢)
池上 惇 本学文化政策学部教授
06 07
Institute for Cultural Policy Studies
News Letter 27
文化政策プロフェッショナルセミナー
ー
、
い
「文化によるまちづくりの継承と発展
― 文化政策の展開と産・公・民・学・際の協力体制」を開催
日程:2005 年 8 月 29 日(月)∼ 8 月 31 日(水)
文化政策プロフェッショナルセミナーも 3 回目の開催
会場:湘南国際村センター(神奈川県三浦郡葉山町)
となりました。
主催:京都橘大学
メインテーマは「文化によるまちづくりの継承と発展:
後援:文化庁・(社)企業メセナ協議会
文化政策の展開と産・公・民・学・際の協力体制」とし、
文化政策学部と大学院研究科博士前期課程の完成を終えて、
A: シンポジウム
「地域における文化政策と教育・研究機関」
これまでの総括と今後の展望を探ることを課題としました。
今回は 2 つの特徴があります。1 つ目は、A セッショ
伊藤 裕夫 氏 静岡文化芸術大学文化政策学部教授
ンを「シンポジウム:地域における文化政策と教育・研
つ
片山 泰輔 氏 跡見学園女子大学マネジメント学部助教授
究機関」として、本学の端信行研究科長から問題提議を
た
野田 邦弘 氏 鳥取大学地域学部教授
行い、静岡文化芸術大学、跡見学園女子大学と鳥取大学
端 信行 本学文化政策学部長/本学大学院文化政策学研究科長
からコメントをいただき、
「まちづくりとしての文化政策」
か
や「文化(資源・施設)によるまちづくり」の考え方を深
れ
B : 「文化政策と地域」
めるとともに、同じ系統の学部や研究科の交流も今後盛
加藤 種男 氏 アサヒビール芸術文化財団事務局長/
んにしようとしたことです。
土
横浜市芸術文化振興財団専務理事
2 つ目は、各セッション毎に、本学の専任スタッフが
に、
植田 和弘 氏 京都大学大学院経済学研究科教授
報告の一端を受け持ち、本学での実績と経験を広く紹介
織田 直文 本学文化政策学部教授
したことです。その中で最先端で活躍されている講師の
人
方とのコラボレーションを追求しました。
年
C : 「文化政策と社会」
了
枝川 明敬 氏 東京芸術大学音楽学部教授
化庁をはじめ後援をいただきました関係機関、そして何
大谷 圭介 氏 文化庁長官官房政策課企画調整官
よりも参加していただきました皆様にお礼を申し上げます。
吉田 忠 本学文化政策学部教授
(中谷 武雄)
算
セミナーを盛り上げていただきました講師の方々、文
D : 「文化政策と文化経済」
出口 正之 氏 国立民族学博物館教授
の
後藤 和子 氏 埼玉大学経済学部教授
中谷 武雄 本学文化政策学部教授
守
SEMINAR
E : 「文化政策の波が社会を変える」
の
植木 浩 氏 財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館館長
。
福原 義春 氏 株式会社資生堂名誉会長
池上 惇 本学文化政策学部教授
京都橘大学 現代マネジメントフォーラム
「医療マネジメントの課題」を開催
日程:2005 年 11 月 5 日(土) 13: 00 –17: 00
本学文化政策学部現代マネジメント学科の 2005 年度
次に真野俊樹氏は、ご自身がこ
会場:コープイン京都
地域貢献活動の一貫として、「医療マネジメントの課題」
ケート調査も交えて、患者満足度に
主催:京都橘大学
をテーマにフォーラムを開催しました。
現行の患者調査については、標本の
後援:京都府・京都市・(財)大学コンソーシアム京都
フォーラムではまず、京都大学大学院経済学研究科長・
較の困難といった問題があるとして
経済学部長西村周三氏が「医療マネジメントの課題」と
究所が開発した患者調査手法を紹
いうテーマで基調講演をされました。西村氏は医療経済
ニーズをきちんと把握することの重
学の第一人者として国内外でひろく知られ、日本経済政
松村理司氏は、病院長としての立
策学会理事、保険医療行動学会評議員、厚生労働省社会
成について具体的なお話をされま
保障審議会医療保険部会特別委員なども歴任されてお
問診や観察を重視する検査前確率の
ります。
た重層的に先輩が後輩を指導する屋
西村氏の講演は、最近の医療費をめぐる議論を医療マ
いて紹介されました。
ネジメントと関連付ける内容でした。財源面からみた国
小林啓治氏は、地域医療福祉の取
民医療費の厳しい状態と財務省からの医療費抑制圧力が
介護施設の連携について報告され
一層強まっていることを述べられた上で、しかし厚生労
ループで完結するのではなく、地域
働省も財務省も曖昧な将来予測をしており、こうした議
て地域完結型の日常診療圏を構築す
論に惑わされないこと、医療従事者・医療機関の側は、
指摘は、大変に貴重な知見です。
適正な財源を確保するためにも、いかに国民を味方につ
最後に河野充央は、病院の経営効
けるか知恵を絞らねばならないことを示されました。特
いて、医療付加価値会計と医療マー
基調講演
「医療マネジメントの課題」
西村 周三 氏 京都大学大学院経済学研究科長・経済学部長
シンポジウム
FORUM
「リスクマネジメント」
戸塚 規子 氏 静岡県立静岡がんセンター副院長
「患者満足度」
真野 俊樹 氏 多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授
「医療人の育成」
松村 理司 氏 洛和会音羽病院長
に印象深かったのは、患者確保の観点から、病人の治療
う 2 つのコンセプトから問題提起
だけにとどまらず、健康な人の保健・予防サービスも提
歩的概念について説明した上で、顧
供することが医療機関の事業戦略として今後重要になる
者分配価値の向上を図ることが会
こと、そして厚生労働省や地方自治体も医療費適正化の
医療経営の課題であるとの示唆に富
一環として保健・予防活動に本腰を入れるであろうと強
シンポジウムは、内容面で少し欲
調されたことでした。
制約がきつくなり、討論の時間が十
コーディネーター
シンポジウムでは、戸塚規子氏、真野俊樹氏、松村理
ませんでした。とはいえ、基調講演
闍山 一夫 本学文化政策学部現代マネジメント学科助教授
司氏、小林啓治氏、河野充央の 5 名のパネリストが、そ
三氏から「ネットワークの利益」と
れぞれの立場から今日の医療マネジメントの課題につい
療マネジメントにおいて重要であ
てお話されました。
を頂くことができ、参加者の高い関
まず戸塚規子氏は、病院における質向上とリスクマネ
フォーラムには現場関係者を中
ジメントの取り組み事例について報告し、安全を確保す
聴衆の参加があり、盛況の下に閉幕
るためには、組織体制と職員の意識、そして患者・家族
「地域医療福祉」
小林 啓治 氏 武田病院グループ本部福祉事業部長
「経営効率」
河野 充央 本学文化政策学部現代マネジメント学科教授
の参加が不可欠であると結ばれました。
08 09
Institute for Cultural Policy Studies
News Letter 27
FORUM
度
」
次に真野俊樹氏は、ご自身がこれまで行われたアン
ケート調査も交えて、患者満足度について報告されました。
現行の患者調査については、標本の偏りや他病院との比
較の困難といった問題があるとして、米国のピッカー研
究所が開発した患者調査手法を紹介し、患者の期待や
済
ニーズをきちんと把握することの重要性を強調されました。
政
松村理司氏は、病院長としての立場から、医療人の養
会
成について具体的なお話をされました。とくに、患者の
お
問診や観察を重視する検査前確率の考察という指摘、ま
シンポジウム風景
た重層的に先輩が後輩を指導する屋根瓦方式の実践につ
マ
いて紹介されました。
国
小林啓治氏は、地域医療福祉の取り組みとして、医療・
が
介護施設の連携について報告されました。各医療法人グ
労
ループで完結するのではなく、地域の医療機関が連携し
議
て地域完結型の日常診療圏を構築する方向に進むとのご
指摘は、大変に貴重な知見です。
つ
最後に河野充央は、病院の経営効率と会計の役割につ
特
いて、医療付加価値会計と医療マーケティング会計とい
療
う 2 つのコンセプトから問題提起をしました。会計の初
提
歩的概念について説明した上で、顧客分配価値ないし患
会場風景
者分配価値の向上を図ることが会計面から見た今後の
の
医療経営の課題であるとの示唆に富む見解を示しました。
強
シンポジウムは、内容面で少し欲張ったために時間の
制約がきつくなり、討論の時間が十分にとることができ
理
ませんでした。とはいえ、基調講演をお願いした西村周
そ
三氏から「ネットワークの利益」という視点が今後の医
い
療マネジメントにおいて重要であるとの総括的コメント
を頂くことができ、参加者の高い関心を呼びました。
フォーラムには現場関係者を中心に 200 名を超える
す
聴衆の参加があり、盛況の下に閉幕しました。
族
(闍山一夫)
講演中の西村周三氏
第 6 回「個性が輝くひと・まち・文化」コンテスト
審査結果報告
主催:京都橘大学・京都橘大学文化政策研究センター
●審査員
後援:文化庁/社団法人全国高等学校文化連盟/全国高等学校国語教育研究連合会/高校生新聞社
田端 泰子 本学学長
C
大歳 昌彦 (株)生活文化研究所代表取
未来の文化の担い手を育成すること。それは大学に託された大事な使命のひとつです。
小島 冨佐江 特定非営利活動法人 京
感性溢れる高校生世代の皆さんから、多様な文化や豊かな地域と社会の創造をめざして、
端 信行 本学文化政策学部長
積極的な提案・提言・創作を募ります。
中谷 武雄 本学文化政策研究センター
京都橘大学は、皆さんの提案・提言・創作を顕彰することにより、
未来文化の創造に貢献したいと考えています。
第 6 回「個性が輝くひと
【テーマ】
1 個性ある地域文化とまちづくり
○
田端 泰子 京都橘大学学長
2 地域を元気にする仕事おこし
○
CONTEST
京都橘大学・京都橘大学文化政策
3 まちかどで詩を感じるとき
○
「個性が輝くひと・まち・文化」コ
今回は、全国各地の高校生世代(15 ∼ 19 才)の男女から、
まをもちまして、今回で 6 回目を迎
創意あふれた提言・提案・創作が集まり、317 名(25 校)の方々のご応募をいただきました。
今回はイラスト部門を統合し、提言
ご参加いただいた皆様、作品を取りまとめていただいたご担当の先生方に、この場を借りて御礼申し上げます。
一本化しましたが、全国から 317
ここでは、審査結果をご報告するとともに、入賞作品の一部を紹介します。
昨年以上に盛況裏に審査会を催す
校別では、25 校からご応募いただ
(すべての受賞作品を掲載する『審査結果報告書』は 2006 年 3 月に発行予定です。)
対象(5 名以上の応募)となるのは
の場を借りまして、力作をお寄せ
お世話をいただきましたご担当の先
第 6 回「個性が輝くひと・まち・文化」コンテスト入賞者発表
皆様にも心よりお礼を申し上げます
優秀賞(1 名)教育奨励金 10 万円
奨励賞
今年のテーマは「個性ある地域文
林 智美さん 群馬県立勢多農林高等学校 1 年生
本年度は該当作品なし
域を元気にする仕事おこし」
、
「まちか
学校賞(1 校)陶製トロフィー (清水焼団地
化によるまちづくりを目標に掲げ、
の 3 つとしました。本学文化政策学
タイトル:「村おこしカンパニー」
陶芸作家 市川 博一 氏作)
愛知県立岡崎商業高等学校 (ご担当:上沼 善雪 先生)
佳作(1 名)教育奨励金 5 万円
り組んでいますが、今年度より、文
斉藤 美穂さん 東京都立目黒高等学校 2 年生
新たに現代マネジメント学科を開設
タイトル:「ふれあいの我がまち」
アルされた学部にふさわしく、幅広
いただきたいとの私どもの思いが、
められています。
10 11
Institute for Cultural Policy Studies
News Letter 27
●審査員
CONTEST
田端 泰子 本学学長
大歳 昌彦 (株)生活文化研究所代表取締役・作家
小島 冨佐江 特定非営利活動法人 京町家再生研究会
端 信行 本学文化政策学部長
中谷 武雄 本学文化政策研究センター所長
第 6 回「個性が輝くひと・まち・文化」コンテスト選考を振り返って
田端 泰子 京都橘大学学長
京都橘大学・京都橘大学文化政策研究センターによる、
「個性が輝くひと・まち・文化」コンテストもおかげさ
その中で、優秀賞を受賞された林智美さんの「村おこ
2 )は、審査員一同から高い評価
しカンパニー」
(テーマ○
まをもちまして、今回で 6 回目を迎えることが出来ました。
を受けました。ふるさとの特産品を中心にして観光や伝
今回はイラスト部門を統合し、提言・提案・創作部門に
統工芸の開発につなげる構想が、身近な場所で、手軽な
一本化しましたが、全国から 317 名の応募をいただき、
方法で実現できることが説得的に展開されています。また、
昨年以上に盛況裏に審査会を催すことができました。高
佳作を受賞された斉藤美穂さんの「ふれあいの我がまち」
校別では、25 校からご応募いただき、そのうち学校賞
1 )は、自立と連帯による若者(学生)と高齢者
(テーマ○
対象(5 名以上の応募)となるのは 7 校ありました。こ
の交流など、ネットワークを通じて経験を交流し、「人
の場を借りまして、力作をお寄せくださいました皆様、
に優しい」システム作りを目指そうという提案であり、
お世話をいただきましたご担当の先生方、また審査員の
さわやかな印象を与えました。学校賞は、授業および課
皆様にも心よりお礼を申し上げます。
外活動として、高校生による地域商店街の活性化を目指
したチャレンジショップである「OKASHOP」の経験の
今年のテーマは「個性ある地域文化とまちづくり」
、
「地
報告と感想を寄せていただきました、岡崎商業高等学校
域を元気にする仕事おこし」
、
「まちかどで詩を感じるとき」
に決まりました。受賞された皆様にあらためてお祝いを
の 3 つとしました。本学文化政策学部は、従来より、文
申し上げます。
化によるまちづくりを目標に掲げ、教育・研究活動に取
り組んでいますが、今年度より、文化政策学科に加え、
今回のコンテストを契機にして、若い皆さんが地域に
新たに現代マネジメント学科を開設しました。リニュー
もう一度目を配り、将来のことを真剣に考えていただく
アルされた学部にふさわしく、幅広い内容でのご応募を
ことができるならば、未来文化の創造を目指す私たちも、
いただきたいとの私どもの思いが、これらのテーマに込
ここから元気をいただけるものと確信しています。
められています。
優秀賞
「村おこしカンパニー」
林 智美さん 群馬県/群馬県立勢多農林高等学校 1 年生
優秀賞受賞作品を全文掲載します。
「あなたの街をプロデュースします。」みなさんは自分
ハクサイが 7 位という結果でした。
の住んでいる街を元気にしたいとは思いませんか ? 私が
が第 3 位の小麦粉です。群馬は粉
通学している群馬県前橋市は県庁所在地であるにもかか
ほどです。
わらず商店街に活気がありません。なんとかして活気の
小麦粉を使った料理を上げてみ
ある街にしたい。そこで、私の立てた構想は街を活性化
パスタ、お好み焼き、うどん、た
させる会社「村おこしカンパニー」を創設し街や村を活
した。この中で群馬の農産物を比較
性化させることです。
物のおいしさを引き出せ、しかも観
この「村おこしカンパニー」は三つの開発グループか
お好み焼きしかないと考え、さっそ
ら構成されています。
品を作成しました。
一つ目は、極ありふれたものを活用し、食から街や村
生地は石臼で挽いた全粒紛小麦
を活性化へと導く特産品開発グループです。地域の伝統
尾島町のヤマトイモ。そして、嬬恋
食材や特産物を用いた商品開発等を手がけます。
田ネギ、原木シイタケ、上州ポー
二つ目は、非日常を大切にし夢を売り、人々を呼び込
りの食材ばかりを選びました。そ
む観光開発グループです。観光地の活性化や新たな観光
うどんを使用した焼きうどんです。
地の開発を手がけます。 おいしいを小麦粉で包んでみました
三つ目は、お年寄りの力を借り、伝統を商品化する伝
もらいましたが、味もボリューム
統工芸開発グループです。失われつつある伝統工芸品を
しかし、このようなアイディアが
復活させ、新たな命を吹き込みます。
場や機会がなければ、全て意味のな
各開発グループでは依頼者のニーズにあったアイディ
います。それを改善するためには、
アを提供し、街の活性化を促す手助けをします。
設の協力と宣伝力です。定期的に商
私はこの 3 つの開発グループの中で実際に形に出来る
アイディア提供の紹介場所を設け
ものはないかと考えました。そこで料理をするのが好き
でしょうか。宣伝も兼ねて自分の意
な私は群馬の農産物を使った特産品が作りたいと思い、
いチャンスとなるはずです。第二
さっそく制作活動に入りました。
貴重さを理解し、お年寄りの大切
まず私が取り組んだのは、全国の中でも生産量の多い
古いものが本来持つ良さを損なう
群馬県の農産物や特産物の調査です。調査はインターネッ
り良いものへと変化させる技術と、
トを活用しました。群馬県は、ウド・コンニャクの生産
り入れていける強い心意気と協力性
量が第 1 位、続いてキャベツ・キュウリ・ウメが第 2 位、
私のように自分の住む所を元気に
コムギ・ホウレンソウ・シュンギクが 3 位、ナス・ヤマ
少なくないと思います。しかし、心
トイモ・エダマメが 4 位、豚肉・生乳が 5 位、ゴボウ・
イディアを形にする機会と場がな
スイートコーン・ニラが 6 位、ネギ・トマト・レタス・
しまう人が多いことが残念でなり
CONTEST
12 13
Institute for Cultural Policy Studies
News Letter 27
分
ハクサイが 7 位という結果でした。そこで目を付けたの
取り入れる場所は実際に必要なのです。そこに住む私達
が
が第 3 位の小麦粉です。群馬は粉もの王国とも言われる
の手で街を活性化へと導くのです。私にチャンスあった
か
ほどです。
ように自分の意見を形にする機会はあるはずです。
の
小麦粉を使った料理を上げてみたところ、ラーメン、
そのすばらしいアイディアを埋もれさせてはいけない
化
パスタ、お好み焼き、うどん、たこ焼き、などがありま
と思うのです。チャンスを逃さず提案を明確にすること
活
した。この中で群馬の農産物を比較的多く利用し、農産
であなたの街が蘇えるかもしれません。あなたの街の自
物のおいしさを引き出せ、しかも観光の目玉になるのは
慢はなんですか?それは時に食品だったりお年よりの知
お好み焼きしかないと考え、さっそく実行に移し、試作
恵だったりします。元気な街へつながる糸口はどこにで
品を作成しました。
もあり、そして、それを発見することができるのはそこ
村
生地は石臼で挽いた全粒紛小麦を使用し、つなぎには
に住む人自身でしかいないのです。地元民しか知らない
統
尾島町のヤマトイモ。そして、嬬恋高原キャベツ、下仁
ような穴場スポットや、伝統、極日常のありふれたもの
田ネギ、原木シイタケ、上州ポーク、どれも群馬こだわ
が大切な財産であったりするのです。自分たちの街を活
込
りの食材ばかりを選びました。そして、極めつけが水沢
性化させたい。そう思ったなら行動することです。ちょっ
光
うどんを使用した焼きうどんです。これらのこだわりの
としたアイディアで地域が活性化すると思うのです。
か
おいしいを小麦粉で包んでみました。友人にも試食して
伝
もらいましたが、味もボリュームも抜群です。
しかし、このようなアイディアがあっても、発表する
場や機会がなければ、全て意味のないものになってしま
います。それを改善するためには、第一に身近な公共施
設の協力と宣伝力です。定期的に商店街の人々を集めて、
アイディア提供の紹介場所を設けることが必要ではない
でしょうか。宣伝も兼ねて自分の意見を形にする数少な
いチャンスとなるはずです。第二に極ありふれたものの
貴重さを理解し、お年寄りの大切さを考え直すことです。
い
古いものが本来持つ良さを損なうことなく形を変えてよ
り良いものへと変化させる技術と、より新しい意見を取
産
り入れていける強い心意気と協力性が重要です。
位、
私のように自分の住む所を元気にしたいと考える人は
マ
少なくないと思います。しかし、心意気はあるもののア
イディアを形にする機会と場がなくそのままで終わって
しまう人が多いことが残念でなりません。人々の意見を
村おこしカンパニー
イギリス観てある記 第 6 回
のように比較級を教えるときに役に
など学生に、 sunshine が単数で、
天気予報士がタレントの国、
イギリス
杉山 泰
はなぜか、とすぐ聞いてみたくなる
Sugiyama, Yasushi
本学文化政策学部教授
もみぢ
秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてそしのふ われ
青きをば 置きてそ歎く そこし恨めし 秋山我は (額田王、『万葉集』巻 1・16)
Looking at the leaves of the tree / on the autumn hillsides, / I pick the yellowed ones /
and admire them, / leaving the green ones / there with a sigh. /
That is my regret. / But the autumn hills are for me. (リービ英雄 訳)
天気予報が、Mild and windy な
blustery となるともうお手上げで
重要なのは Bright and sunny であ
ヒルにしても、「館と庭まで 500 ヤ
で 1 0 分 」と 注 意 書 き が あ る し 、
Fountains Abbey などは、入り口か
見えない。5 分ほど歩いてようや
けだし、さらに 20 分ほど歩かない
辿りつかない。
とにかく芝生の上を歩くので、雨
びしょだし、日本人はその濡れた靴
詰めた館の中に入ることに抵抗を感
あった Charles Paget Wade が収集した 22,000 点のコ
1 週間のうち、Bright and sunny の
レクションが置かれていることで有名である。ジョンス
ない。開館日と天気がぴたりと一
トンは南アフリカや中国まで行って、新しい植物を探し
巡りはできないというわけである。
わが前庭の馬栗、いやマロニエの葉が色づいてきて、
てきた plant hunter であり、ウェイドは西インド諸島で
さて、その日の天気はテレビの天
焦りだしたことがある。1 年滞在してもナショナル・ト
砂糖の生産をやりながら、日本の鎧冑にいたるまで世界
のだが、これがあっと驚く。朝 6
ラスト(以下 NT と略す)の 10 分の 1 も回れないという
中の美術工芸品を収集した、美術工芸家でもあった。2
Cotswolds のナショナル・トラスト
—Hidcote Manor Garden と Snowshill Manor
焦りだ。もちろん、500 もある NT を全部見ることなど
人ともヴィクトリア時代が終わった後、20 世紀初頭に
不可能なことは分かっている。コッツウォルズに山とあ
広大な敷地と館を所有した大金持ちだが、実は、その館
る N T を 1 日 2 つ回ることが可能なのか。ヒドコウト・
のほとんどは、中世に建てられた修道院であり、 1536
マナー・ガーデンとスノウズヒル・マナーの 2 か所なら
年から 40 年にかけてのヘンリー 8 世の修道院解散令によっ
可能性がある。前者は 10 時 30 分からオープンしてい
て破壊されていたものなのだ。
Snowshill Manor の庭園
るし、後者は館が 12 時オープンなのでぴったりだ、と
誰でも思う。ところが、前者は木、金が休みで、後者は月、
タレントというべきイギリスの天気予報士
火、(水)が休みなのだ。結局、土、日にしか行けない
ことが分かる。 NT の館はそのほとんどが 12 時にしか
NT になった館の歴史が分かると、ますますその館へ
オープンせず、2 時にオープンというところすらあるので、
の愛着がわいてくる。もっと多くの館を見たいと誰でも
1 日に 1 か所も回れない、という私の焦りが分かっても
が思うのだが、そうは問屋がおろさない。イギリスの天
らえると思う。
気にその原因がある。Sunshine and showers という天
ただ、 30 ほどの NT を回って、まず気づいたことが
気予報がしばしばある。「晴れのち雨」ではない。「晴れ
ある。それは、「歴史の中で大きく目立つ事実がある、
ていたのに通り雨がある」のであり、また「晴れ」てくる。
すなわち、歴史の大部分は犯罪行為に見える、という点だ」
要するに、この国の天気予報士は「曇り時々晴れ、たま
という W・E・アーノルドの指摘である。
に雨」という気まぐれな天気を巧みな話術で煙に巻いて
ヒドコウトは園芸家 Lawrence Johnston によって造ら
くれるのだ。ただ、毎回の天気予報を知らせる英語はな
れた 29 の部屋に分かれた庭が有名であり、スノウズヒ
かなか味がある。Bright and breezy とか Cloudy and
cool のように頭韻を踏ませたり、Cooler, but less windy
ルはエヴェシャムの谷を見下ろす古い館に、建築家でも
14 15
Institute for Cultural Policy Studies
News Letter 27
Fountains Abbey 遺跡群
のように比較級を教えるときに役に立つ表現が多い。私
など学生に、 sunshine が単数で、 showers が複数なの
はなぜか、とすぐ聞いてみたくなる。
天気予報が、Mild and windy ならまだしも、Wet and
blustery となるともうお手上げである。NT 巡りで一番
重要なのは Bright and sunny であることだ。スノウズ
ヒルにしても、「館と庭まで 500 ヤードあります、徒歩
で 1 0 分 」と 注 意 書 き が あ る し 、 ヨ ー ク シ ャ に あ る
Fountains Abbey などは、入り口から修道院跡など全く
見えない。5 分ほど歩いてようやく一部が見えてくるだ
けだし、さらに 20 分ほど歩かないと water garden まで
Studley Royal Water Garden から
Fountains Abbey を望む
(筆者撮影)
辿りつかない。
Breakfast という BBC1 のニュース番組がある。15 分と
45 分に天気予報士が登場して、全国の天気を何と 2 分
とにかく芝生の上を歩くので、雨の日だと靴はびしょ
以上もしゃべり続ける。タレント以上にうまく全国の天
びしょだし、日本人はその濡れた靴でカーペットを敷き
気を語る天気予報士は、イギリスではなかなかなれない
詰めた館の中に入ることに抵抗を感じてしまう。しかし、
ようで、あれほどニュースキャスターに多くのインド・パ
1 週間のうち、Bright and sunny の日は 1 日か 2 日しか
ない。開館日と天気がぴたりと一致したときにしか NT
キスタン系やアフリカ系の人を登用しているのに、この
し
巡りはできないというわけである。
書いて原稿を送ろうとした 11 月 27 日の Breakfast にア
で
さて、その日の天気はテレビの天気予報を見ればいい
フリカ系の天気予報士がさっそうと登場した。この番組
界
のだが、これがあっと驚く。朝 6 時から 9 時 15 分まで
はさらに、60 分の間に 2 度、地方の天気予報(Midlands
Snowshill Manor の庭園
館
Today)が入るので、15 分に 1 回は天気予報士の顔を見
ることになる。 Wimbledon Lawn Tennis にしても、
cricket にしても、football にしてもイギリス人は天気が
6
気になる。これほど天気を話題にするイギリス人なら、
2
に
(筆者撮影)
天気予報士にはほとんどそうした人たちが登場しない。と、
冒頭の『万葉集』の英訳を読めば、日本人以上に季節の
移り行きが理解できると私は思うのだが、実際はどうな
のだろうか。イギリス人に感想を聞いてみたい。
Hidcote Manor Garden
Hidcote Bartrim, nr Chipping Campden,
Gloucestershire, GL55 6LR
http://www.nationaltrust.org.uk/main/w-vh/w-visits/
w-findaplace/w-hidcotemanorgarden.htm
へ
天
天
れ
Fountains Abbey 遺跡群
。
(筆者撮影)
Snowshill Manor
Snowshill, nr Broadway, Gloucestershire, WR12 7JU
http://www.nationaltrust.org.uk/main/w-vh/w-visits/
w-findaplace/w-snowshillmanor.htm
な
Fountains Abbey & Studley Royal Water Garden
Fountains, Ripon, North Yorkshire, HG4 3DY
http://www.fountainsabbey.org.uk/
d
y
2005 年 4 月より1年間の予定で英国に滞在中です。
て
※筆者は学内研修制度を利用し、
文部科学省「現代 GP」採択
「『臨地まちづくり』による地域活性化の取組」
本学文化政策学部のプロジェクト『「臨地まちづくり」による地域活性化の取組』が、
文部科学省の平成 17 年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代 GP )」に採択されました。
News Letter 第 27 号(2006 年 1月 31日)
発行:京都橘大学 文化政策研究センター
〒607– 8175 京都市山科区大宅山田町 34
Telephone: 075 – 574 – 4186
Facsimile: 075 – 574 – 4149
E-mail: [email protected]
Institute for Cultural Policy Studies
「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代 GP)
」とは、 【今後のプロジェクト概要】
文部科学省が推進する、全国の大学における教育改革の支
1 地域資源の掘り起こし
援事業です。社会的要請の高い教育テーマに取り組む大学
○
これまでに蓄積された地域資源情報や古い写真等の情報
などを選定し、重点的に財政支援をすることによって、こ
を編集し、ホームページやメールニュース等を制作するこ
れからの時代を担う優れた人材を養成することを目的とし
とで、地域活性化のためのネットワークの構築をめざす。
ています。本年度の「現代 GP 」には、全国の国公私立大
学から 509 件の申請があり、84 件が採択されました。本
2 商業・観光振興と歴史的商店街活性化の取組
学が採択されたテーマ・概要は以下の通りです。
○
山科駅周辺の商店街における詳細調査を行い、活性化提
「産公民学際」
情報技術の急速な発展や経営環境の激しい変化のもとで、 案や情報誌の発刊、イベント企画などを行う。
の連携・協働方式で、山科地域の商業・観光振興の研究に
現代社会では知識の陳腐化が速まり、氾濫する情報のなか
取り組む。
から価値ある情報を選択し、社会が求める新しいものを創
造することが重要になっています。そのため、大学教育に
3 清水焼をはじめとする伝統産業の振興
○
は、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に
清水焼をはじめとする京都における伝統産業の振興策お
判断し、行動し問題を解決する力をもった人材の育成が求
よび、山科区内にある伝統産業関連団地(清水焼団地・仏
められています。そのような人材育成を進める上で、地域
壇仏具団地・扇子団地)の活性化のあり方等を研究。
と大学が協力し、地域を教育のフィールドとして、地域文
化や地域産業の活性化を進めるなかで、学生が地域固有の
4 地域の文化創造の環境づくり
○
問題を発見し、問題を解決していく能力を身につけること
山科地域を舞台として、地域の人々や諸団体との協働に
が重要になっています。
より、様々な文化活動を展開。文化創造の環境づくりに取
り組む。
本学文化政策学部では、2001 年 4 月の開設当初より、
地域の教育力に着目してきました。産業、行政、住民、大
学、地域外機関という「産公民学際」連携・協働のもとで、 キーワード 1 臨地まちづくり
地域に生きる人々が主体的に地域を調査し、課題を発見
臨床医学にならう「臨地まちづくりの研究と教育」の方法
し、様々な資源を再評価・活用する実践的な手法が「臨地
に基づき、地域資源の再評価や歴史的商店街・伝統産業の
まちづくりの研究と教育」です。まちづくりの現場では学
振興に学生が関わることで、地域の活性化を促し、社会や
生や研究者が立ちあい、共に学び、刺激しあいながら、地
地域の要請に応えうる人材育成に取り組んでいます。
域課題の対処療法を模索し、根治治療をめざします。
今後 3 年間のプロジェクトでは、山科区域を教育のフィー
ルドとして、地域資源の掘り起こし、商業・観光振興と商
キーワード 2 産公民学際
産業界を「産」、行政を「公」と呼び、住民による活動や
店街活性化の取組、山科地域を舞台とした文化の創造環境
市民団体、NPO などを含めて「民」、大学をはじめとする
づくり、清水焼などの伝統産業の振興と地域の活性化など
教育機関を「学」、地域外において関係する様々な機関や
を推進していきます。
個人を「際」と表し、「産公民学際」と呼んでいます。今回
のプロジェクトでは、「産公民学際」が連携し、それぞれ
の機関などの有する教育面での特性を活かしながら、学生
の課題追求・課題解決能力を養うことを目的の一つとして
います。
News Letter 27
今後の企画についてお知らせします。
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