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22. The Rehabilitation of Younger Stroke Patients 若年脳卒中患者の

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22. The Rehabilitation of Younger Stroke Patients 若年脳卒中患者の
22. The Rehabilitation of Younger Stroke Patients
若年脳卒中患者のリハビリテーション
J. Ross Graham BA, Hannah Mahon BSc, Elizabeth Staines BSc, Robert Teasell MD,
Norine Foley MSc, Katherine Salter BA
Key Points
若年で脳卒中を発症するものは稀である.
若年患者の病因についての多くはあまり知られていない.
若年で出血性脳卒中を発症した者は,共通して動脈奇形,破裂性大動脈瘤,高血圧が病因であった.
これらの疾患は相互に関連しあっていた.
若年で虚血性脳卒中を発症した者は,共通して心原性塞栓症や高度なアテローム性動脈硬化症が病
因であった.これらの疾患は相互に関連しあっていた.
修正できるものと修正できないものの両方の因子が若年発症のリスクとして重要であった.最も共
通して見られたものは高血圧,喫煙,アルコール,人種,片頭痛,高脂血症であった.
稀な危険因子として僧帽弁逸脱,中等度のアルコール摂取,脳卒中の既往,薬物使用であった.
若年患者は神経学的な回復をしやすい.
若年者のリハビリテーションは神経学的な回復をしやすく,特有の社会問題があるという視点を持
って進められる.
若年患者はリハビリテーションに対して特別なニードを持っている.
機能回復は医療チームの中でストレスなく提供される
施設入所は若年患者の場合,頻度は尐ない.
職業上の問題は若年患者の場合,なおざりにされる事が多い.
若年患者の職業上の問題は教育,職業,重症度により影響を受ける
1
若年で脳卒中を発症した後,特定の健康上の問題よりも,特有の社会心理的,援助的な必要性が発
生する.
2
Table of Contents
22.1 Incidence of Stroke in Young Patients................................................................ 4
22.2 Stroke Etiology ............................................................................................ 8
22.2.1 Unknown Etiology ................................................................................................ 17
22.2.2 Hemorrhagic Etiology ........................................................................................... 17
22.2.3 Ischemic Etiology ................................................................................................ 18
22.2.4 Uncommon Etiologies ........................................................................................... 19
22.2.5 Summary .......................................................................................................... 19
22.3 Risk Factors............................................................................................... 20
22.3.1 Modifiable Risk Factors ......................................................................................... 22
22.3.2 Summary .......................................................................................................... 28
22.3.3 Non-Modifiable Risk Factors ................................................................................... 28
22.3.4 Summary .......................................................................................................... 33
22.4 Recovery and Prognosis .............................................................................. 34
22.5 Rehabilitation of Younger Stroke Patients......................................................... 41
22.5.1 Perceptions of Care ............................................................................................. 41
22.6 Family Stress ............................................................................................. 46
22.7 Institutionalization ...................................................................................... 50
22.8 Return to Work ........................................................................................... 52
22.9 Future Needs.............................................................................................. 60
Summary ........................................................................................................ 64
References....................................................................................................... 66
3
22. The Rehabilitation of Younger Stroke Patient
若年脳卒中患者に対するリハビリテーション
脳卒中は一般的に高齢になると発症すると考えられている(Teasell et al. 2000).先進国において脳卒中を発
症するのは平均で75歳である.しかし,100,000人に6から20人の割合で若年者にも発症する(Leys et al. 2002).
Johanssonら(2000)は75歳以下の脳卒中患者が増加傾向にあるとしている.脳卒中患者の5人に1人は65歳以下
で,脳卒中患者の5%が45歳以下であると言われている.これは特有のリハビリテーションに対するニーズを
持っている症例の数を表している(Dixon et al.2007, Stone 2007).
身体的,認知的能力の両方が若年者のQOLに影響を与える脳卒中により影響を受ける(Keppel and Crowe
2000,O’Conner et al. 2005,Roding et al.2009).若年患者は職業が生活の重要な部分を占めている.同様に子育
てに関わる必要がある.従って,高齢者のリハビリテーションは若年者にそのまま適用できるとは限らない
(Stone 2005).Lowら(2003)は若年患者の特定のニーズを検討すべきであるといういくつかの論文を発表して
いる.そして若年患者の回復過程についての視点を欠いている(Stone 2005,Dixon et al. 2007).Rodingら(2003)
とStone(2005)は,若年患者のニーズは,高齢の脳卒中患者において重視される傾向がある入院のリハビリテ
ーションに焦点を向けていないと結論付けた.
若年患者は主な社会経済的な問題になる(Mehndiratta et al. 2004, Bjorkdahl and Sunnerhagen 2007).若く
して脳卒中になった者は長年機能障害を抱えて生活しなければならない.若年者の場合,高齢で発症した者に
比べ生産性の損失や社会心理的な混乱が生じるため経済的な負担が大きくなる.これらの混乱は家族のストレ
ス,施設入所,職場復帰,多くの将来に対するニーズを含んでいる(Teasell et al. 2000).若年患者に対するリ
ハビリテーションは最も可能性の高いものを目標に行われなければならない.
22.1 Incidence of Stroke in Young Patients 若年者の脳卒中発生率
若年者における脳卒中の発生率は高齢者と比較して明らかに尐ない(Ghandehari and Izadi Moud 2006).し
かしながら,若年者の発生率は年齢区分,人種や地域,宗教により異なると報告されている.50歳以下での脳
卒中の発症は稀である(Mayo 1993).このグループでの年齢の範囲の発病率は3/100,000から44.3/100,000と報
告されている(Bonita et al. 1984,Corso et al. 2009,Marini et al. 2001,Jacobs et al. 2002,Rasura et al.
2006,Ghandehari and Izadimoud 2006,Cabrel et al. 2009,Harmsen et al. 2009,Corso et al. 2009).
Mariniら(2011)による最近のレビューでは,若年者の脳卒中発病率は2000年のヨーロッパの人口において,一
年に6.14/100 00から48.51/100 00または8.7/100 00から21.10/10 00の範囲に標準化した.
同様に,50歳から64歳では1,000人に3人,65歳から74歳では1,000人に12人,80歳以上では2倍の1,000人
に25人の割合で発症する(Abu-Zeid et al. 1975, Bonita et al. 1984, Bonita 1992,Mayo et al. 1991, Robins and
Baum 1981, Shah and Bain 1989).全ての脳卒中患者の25.9%が45歳から65歳までの間で発症し,45歳以下
は全体の3.7%にすぎない(Weinfeld 1981).同様に脳卒中患者の3から4%が40歳以下で発症している(Adunsky
et al. 1992, Gresham et al.1975, Ostfeld1980).Table 22.1に若年患者の発症率に対する調査の要約を示す.
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Conclusions Regarding Incidence of Stroke for Younger Individuals
若年者における脳卒中の発生率について述べた.
若年者の発生は高齢者より明らかに尐なかった.
若年者の発生率は異なる年齢層,人種や民族,宗教により異なっていた.
若年の脳卒中はまれである
22.2 Stroke Etiology 脳卒中の病因
脳卒中の若年発症は,高齢になって発症するよりも様々な病因により起こる傾向にある.若年患者に特有な
ものは不確定原因により発症した脳卒中患者の中で高い割合を占めている(Guercini et al. 2008).55歳以下の
若年で発症した者の内,35歳未満で発症した者は稀な病因を持っていたが,35歳から55歳までに発症した者
は高齢発症者とほぼ同じ疾患を有する傾向にあった(Jacobs et al. 2002).同様に出血性脳卒中は若年者に多く
8
発症していた(Ruiz-Sandoval et al. 2006).男性と女性の脳卒中患者ではいくつかの病因の類似性を持つ傾向に
あるが,病因は同一のものではない(Martinez-Sanchez et al. 2011,Zhang et al. 2011).
若年発症の病因について報告されたいくつかの論文の要約をTable 22.2に示す.
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22.2.1 Unknown Etiology
未知の病因
先行研究によると脳卒中の若年患者の3分の1以上で病因を確定できなかったとされている(Rasura et al.
2006; Chancellor et al.1989; Kittner et al. 1998; Adams et al.1995; Kittner et al. 1999; Wityk et al.2000).しか
し,未知の病因に定義付けと分類のバリエーションを与える事でこの数値に影響を与える可能性がある.例え
ば,Varonaら(2007)はしっかり評価されているものとされていないものに不確定な病因を分類し,Awada
(1994)は不確定な症例から未知の症例を分類した.Laiら(2005)は未知の病因の中に評価をされる前のものが含
まれていたと報告し,危険因子のない症例は突発性の病因であるとされた.Varonaら(2007)は1974年から1988
年までの間と比較し1989年から2002年までの間で不確定な病因は19%減尐し,同様に不十分な評価により不
確定病因とされたものの数は38%減尐した.これらの減尐は診断をするための機器や方法の改良によるためで
ある.Balciら(2011)は,文献と比較した際の不確定な病因の頻度の減尐といった,同様の調査結果を示してい
る.Balciらは,それは診断評価の範囲における相違に起因していると考えている.
Conclusions Regarding Unknown Etiology
脳卒中の若年患者の3分の1以上の人の病因が未知であったが,診断技術の発展により減尐傾向にある.
22.2.2 Hemorrhagic Etiology
出血性疾患の病因
若年患者の出血性脳卒中の中で多くを占める病因がある.脳内出血(ICH)とくも膜下出血(SAH)は50歳以下で
発症した人の30から35%を占めている(Awada 1994,Teasell et al.2000, Jacobs et al. 2002).これは50歳以上
の人の病因が15から20%であるのと比較すると有意に高い割合となっている(Abu-Zeid et al. 1975,Awada
1994).さらに,出血性脳卒中を発症した者の多くは30から50歳の間で発症している(Mehndiratta et al. 2004,
Lai et al. 2005,Ruiz-Sandoval et al. 2006).Meyer(1994)は若年者が出血性脳卒中を発症する要因として動静脈
奇形(AVM),動脈瘤,高血圧(HTN),血液疾患,脳腫瘍,血管炎を挙げている.特定の病因の発症率の数値は
報告により異なっている(Table 22.2.1).
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若年患者でICHの病因である高血圧が原因であったものを調査すると,人種が要因である事が報告されてい
る(Chong and Sacco 2005).Qureshiら(1995)は黒人の若年患者の64%で高血圧がICHの原因であったと報告
している.一方,Ruiz-Sandovalら (1999)はメキシコ人の若年患者のうち,ICHの病因として高血圧によるも
のであったものは11%に過ぎなかったと報告している(22.3.3 Non-Modifiable Risk Factors: Race参照).高血
圧はICHを発症した45歳以下の若年患者に多く見られる(Chong and Sacco 2005,Ruiz-Sandoval et al. 2006).
この傾向は35歳から45歳の間でより強くなる(Lai et al. 2005).高血圧と同様に,AVMもICHの病因としてよく
見られる.
若年でSAHを発症したものとICHを発症したものの病因は重なる部分が多い.さらに考えられる病因として
外傷や女性における子癇があるとMeyer (1994)は報告している.Mehndirattaら(2004)は最も多く見られるSAH
の原因として66.6%に破裂性大動脈瘤が見られ,次に33.3%にAVMが見られたとしている.Bevanら(1990)は
SAHを若年で発症したもののうち41%で破裂性大動脈瘤が病因であったと報告している.
Conclusions Regarding Hemorrhagic Etiology
若年患者の出血性脳卒中の原因として最も多く見られるのは高血圧,動静脈奇形,破裂性大動脈瘤もしくはそ
れらの組み合わせであった.
22.2.3 Ischemic Etiology
虚血性疾患の病因
45歳以下の虚血性脳卒中患者は全虚血性梗塞を生じた患者のうち5%以下であったとされている(Kristensen
et al. 1997).しかしながら虚血性脳梗塞は若年患者の中でいくつかのグループに分類される.若年患者の47%
から85%は虚血性疾患であったと認識されている(Meyer et al. 1994, Awada 1994, Mehndiratta et al. 2004).
40から49歳の間で脳卒中を発症する症例が劇的に増加している.高度な動脈硬化の増加がこれに関与している
ものと考えられる(Ferro and Crespo 1988;Kristensen et al. 1990; Neto et al. 1996;Williams et al. 1997).
Barinagarrementeriaら (1996)は300名の40歳以下で発症した脳梗塞患者において早期に動脈硬化症を発症し
ていたものは3%にすぎなかったと報告している.しかしながら,LoveとBiller (1990)は15から45歳の間に脳
梗塞を発症した286名における前向き研究において動脈硬化が病因であったものは26.9%であったと報告して
いる.FerroとCrespo (1988)による50歳以下で発症した254名における後向き研究において動脈硬化を呈して
いたものは35%いたと報告している.後ろ2つの研究は40歳以上を対象としている.40歳以下の患者では,心
原性塞栓症が虚血性脳卒中の原因として共通して見られる(Hart and Miller 1983; Ferro and Crespo1988).
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若年で虚血性脳卒中を発症した病因には多様性がある.心原性塞栓症,高度な動脈硬化,頸動脈,椎骨動脈の
切開,凝固能亢進状態,脈管炎,片頭痛,脳動脈解離,非アテローム性血管障害,血漿中ホモシステインレベ
ル,薬物,アルコール依存,血液疾患,分娩と関連した脳卒中,L-アスパラギナーゼ,感染性髄膜炎が原因と
して考えられる(Hart and Miller 1983;Kristensen et al. 1997; Bendixen et al.2001, Mehndiratta et al. 2004, Bos
et al.2005; Hillbom et al. 1995; Kittner et al.1999; Witynk et al. 2000; Westover et al.2007,Samiullah et al.
2010).
Conclusions Regarding Ischemic Stroke
若年で発症する脳卒中の主なものは虚血性のものである.心原性塞栓症が40歳以下の症例で病因として多く
見られ,40から49歳では高度な動脈硬化が多く見られる.
22.2.4 Uncommon Etiologies
未知の病因
脳卒中を45歳以下で発症することは稀であり,30歳以下で発症するものはさらに稀である.30歳以下で発
症するものの病因はあまり知られておらず,通常発症しない.血液疾患,心臓発達障害,全身の慢性的な炎症
と過剰凝固状態(Bevan et al. 1990; You et al.1997,Ha et al. 2009)と動脈解離(Kristensenet al. 1997; Bendixen
et al. 2001) による症例が報告されている.若年患者における稀な病因の危険因子が報告されている.片頭痛,
非アテローム性血管障害,血漿中ホモシステインレベル,薬物,アルコール依存,僧帽弁逸脱,経口ピル,分
娩性血栓症が稀な病因と危険因子として挙げられている(Bendixen et al. 2001; Bos et al. 2005; Hillbom et
al.1995; Kittner et al. 1999; Kristensen et al. 1997; Witynk et al. 2000; Westover et al. 2007). See also section
22.3 (Risk Factors).
Conclusions Regarding Uncommon Etiologies
稀な病因は30歳以下で発症した症例に多く見られる.多くの稀な病因は若年患者の危険因子として認識され
ている.
22.2.5 Summary
要約
若年成人で脳卒中を発症するものは稀である(Mayo 1993).しかしながら,そのような患者は未知もしくは
突発性の病因を有している事が多い(Jacobs et al. 2002).不確定な原因による疾患を有しているものは45歳以
下で発症したものの3分の1以上に見られた(Awada 1994; Rasura et al. 2006).
脳内出血,くも膜下出血を含む出血性脳卒中を発症したものは50歳以下に多く見られた(Mehndiratta et
al.2004, Lai et al. 2005, Ruiz-Sandoval et al. 2006) .出血性脳卒中の病因として動静脈奇形,破裂性大動脈瘤,
高血圧,それらの組み合わせが見られた.
若年患者の多くが脳梗塞であった(Meyer et al.1994, Awada 1994, Mehndiratta et al.2004).心原性塞栓症は,
40歳以下で脳梗塞を発症したものの主な病因であった(Hart and Miller 1983;Ferro and Crespo 1988).高度な
動脈硬化が40から49歳で発症した脳梗塞の病因として多く見られた(Ferro and Crespo 1988; Kristensen et al.
1990; Neto et al. 1996; Williams et al.1997).
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未知の病因は30歳以下の患者に見られた (Bendixen et al. 2001;Varona et al. 2007) .しかし,多くの病因と
危険因子が存在している.
若年の脳卒中患者は高い確率で未知の病因を有している.
共通している若年の脳出血の病因は動脈瘤破裂もしくは高血圧を引き起こす AVM である.
共通している若年の脳梗塞の病因は心臓の塞栓もしくは進行したアテローム性動脈硬化である.
22.3 Risk Factors
危険因子
若年者で脳卒中を発症するものは稀であるが,患者の中では脳卒中を発症するような危険因子が増加してき
ている.危険因子は修正出来るものと出来ないものに分類される.修正できるものとして喫煙,アルコール,
薬物使用,コカイン,経口ピル,高脂血症,血漿中ホモシステイン濃度,片頭痛,糖尿病,クラミジア肺炎菌,
高血圧が挙げられる.修正できないものとしては家族歴,脳卒中の既往,僧帽弁逸脱,卵円孔開存,妊娠,産
後 , 性 別 ,人 種 が 挙げ られ る . 若 年患 者 の 有病 率と 危 険 因 子に つ い て報 告さ れ た 論 文の 要 約 を Table
22.3.1-22.3.9に示す.これらの報告は性別や人種が合わさっており(もしほかの方法で説明されていなければ),
著者が危険因子を明確に分別している.危険因子を有していた若年患者の割合は掲載してある.
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22.3.1 Modifiable Risk Factors
修正できる危険因子
喫煙
喫 煙 は 若 年 者 に お い て 脳 卒 中 を 発 症 す る 重 要 な 危 険 因 子 で あ る と 報 告 さ れ て い る (You et al.
1997;Ruiz-Sandoval et al. 1998; Rasura et al.2006,Lu et al. 2008,Spengos and Vemmos 2010).西欧において
喫煙は男性,女性とも同程度の危険因子に成りうると報告されている (Kristensen et al. 1997;Ruiz-Sandoval
etal. 1998) .対照的にLeeら(2002)とKwonら(2000)はアジアに住んでいる若年女性の脳卒中患者より男性の方
が劇的に喫煙率が高かった(>50%)としている.それに加えて,Frommらは,高齢者と比較した場合,危険因
子として若年の脳卒中患者が喫煙している傾向が有意に高い割合を発見した.
同様の内容はchapter 8 (Secondary Prevention of Stroke: 8.7.3 Smoking)にも記載している.
アルコール
若年者での脳卒中の発症とアルコールは消費量と関連がある.軽度から中等度に摂取するものは脳卒中のリ
スクを減尐させるが,過度な消費やアルコール依存者はリスクを増大させる(Hillbom et al. 1995, Bruno 2003,
Lu 2008).若年患者とアルコール消費量との関連性を示した報告(Bruno 2003)では,虚血性脳卒中の発症率は
1日に1,2杯の摂取であれば40%以下に減尐する.出血性脳卒中の発症率は1日に1杯(40g)以上摂取していれば
1.9から4.6倍になるとしている.重度の飲酒は血圧の増加と関連している可能性がある(Gillman et al. 1995).
60歳以下の女性45,499人を対象とした後向き的コホート研究において,Luら(2008)は飲酒を全くしないものと
比較し飲酒するものの発症率は減尐した.これはどの様な種類の酒を摂取するかに関わらず同様であったとし
ている.
22
薬物使用
薬物使用と脳卒中の関連については,他の病因が稀なのに対してよく見られる(Bruno
2003).これは若年者の中でも性別や薬物の種類により異なる.Pettitiら(1998)は若い女性でカテコーラミンの
使用は発症率を3.8倍にするとしている.Bruno (2003)は若い女性でフェニルプロパノールアミン(PPA)の使用
は2倍出血性脳卒中の発症率を高めるとしている.さらにPPAを摂取している拒食者は出血性脳卒中の発症率
を16.6倍にする.男性のPPA使用者は尐なく,出血性脳卒中の発症率との関連性はない.
Westoverら (2007)はアンフェタミンの乱用は出血性脳卒中の発症率を2倍にし,コカインの乱用による死亡
率と同等であったとしている.対照的にアンフェタミンの乱用と虚血性脳卒中との関連はみられない.大麻の
使用は出血性,虚血性脳卒中の発症率を1.36,1.76倍(95% CI,0.90-2.71)にするとしいている.エクスタシー(メ
チレンジオキシメタンフェタミン)を使用している若年者は脳血流が低下する事が報告されている.これは脳
卒中を引き起こす血管収縮が起こっている事を示している(Bruno 2003).同様に,Wolff (2011)らは大麻の使
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用と多病巣性の頭蓋内の狭搾に重大な関連があると示した.若年者で人種と薬物使用の脳卒中の発病率との関
連については報告されていない(Westover et al.2007).
コカイン
コカインの使用は若年者特有の危険因子である.他の周知の血管リスクがない患者ではコカインの使用は脳
卒中の発生率が6.5倍となる (Petitti et al. 1998; Broderick et al. 2003;Bruno 2003) .コカインの使用と脳卒中
の関連性を調査した報告では出血性脳卒中と虚血性脳卒中の発生率は同等であるとされている (Bruno
2003) .コカインの使用が脳卒中を発生させる要因として,血管攣縮,脳血管収縮,過度な血小板凝集,心原
性塞栓症,脳自己調節能と脳血流量と関連した血圧の急な上昇が挙げられる(Treadwell and Robinson 2007).
性差に関しては男性の方が使用率は高いが,女性の方が依存的になりやすい (O’Brien 1998) .Petittiら(1998)
は青年期の男性の4.7%がコカインに依存的だったのに対し,女性は17.5%が依存的になったとしている.し
かしながら,このような結果が脳卒中の発生と関連があるかどうか調査した報告はない.
経口ピル
経口ピルの使用が脳卒中の発生と関連があるかは一定の見解を得ていない(Kristensen et al. 1997).Hillbom
ら(1995)は28名の虚血性脳卒中を発症した若年女性と50名の同年代の女性を比較し,経口ピルの使用は発症率
を11%高くした.Fredericoら(1990)は18名の虚血性脳卒中発症したもののうち,4名が経口ピルを使用してい
たが直接発症要因となったものは1名であったと報告している.Camerlingoら(2000)は経口ピルは病因ではな
かったものの,若年患者の26%の危険因子であると考えた.Mehndirattaら(2004)は経口ピルによる脳卒中の
発症は稀で,経口ピルにより脳卒中を発症したものは109名中1名のみであったとしている.同様に,Rasura
ら(2006)の研究では38%の女性が経口ピルを使用していたが,脳卒中の発生と関連していたものはいなかった.
経口ピルに関しては相反する報告がなされている.古い報告では80-100mgのエストロゲンが使用された経
口ピルが使用されたが,最近の報告では50mg以下のものが使用されているとされている(Petitti et al. 1996).
295名の若年女性の脳卒中患者を対象にしたPetittiら (1996)の研究では,1回量が減った経口ピルの使用は脳卒
中の発生率を増加させないとしている.しかし,喫煙をしていると発生率を大きく高めることになる(Buring
1996).結論付けると,経口ピルの使用は脳卒中の発生率を高める要因とはなりにくいが,他の因子と合わさ
る事で発生率を高める可能性がある.
高脂血症
高脂血症と高コレステロール血症は若年者で脳卒中の発生率を高める.35から50歳の男性の多くが有してい
るが(Barinagarrementeria et al. 1996, Rasura et al. 2006, Dharmasaroja et al.2011)),Carod-Artal ら(2005)は
50歳以上の脳卒中患者で高脂血症を有していたのは19%のみであったとしている.若年者を対象とした調査で
は,高脂血症と高コレステロール血症は脳卒中の危険因子としては4番目,5番目であった
(Barinagarrementeria et al. 1996; You et al. 1997; Carod-Artal et al. 2005; Rasura et al. 2006) .例外として,
20から50歳の若年患者で80.7%と最も多く見られた危険因子であったと報告したTanら(2002)の報告がある.
この数値を不可解に考えられるかもしれない.高脂血症は多くの人に見られる危険因子である.
24
血漿中ホモシステイン濃度
血漿中ホモシステイン濃度の上昇は脳卒中発症のリスクを増大させる.Bosら(2005)は血漿中ホモシステイ
ン濃度が再発性の血管障害を引き起こす事を調査した.彼らはさらに脳梗塞患者とTIA患者において,血漿中
ホモシステイン濃度と再発性の血管障害の関連性を報告した.Tanら (2002)は高ホモシステイン血症が脳梗塞
のリスクを増大させる事を発見した.また,脳卒中のリスクはホモシステインと大動脈に発生した脳卒中の間
の関連性に基づいたアテローム生成の前段階の効果の結果増大すると報告した.
片頭痛
片頭痛は若年での脳卒中発症の危険因子にも病因にもなるとされている.Kristensen ら(1997)は107名の虚
血性脳卒中患者のうち片頭痛を有していたのは1名のみであったとしている.Federicoら(1990)は同様に若年
患者の18%の人が片頭痛を有していたが,そのうち脳卒中の発症原因になったものは2名であったとしている.
300名の若年の虚血性脳卒中患者を対象にした大研究で,Barinagarrementeriaら(1996)は片頭痛が病因となっ
たものは10名(3%),危険因子となったものは27名(12%)であったと報告している.Schwaagら(2003)は若年患
者で2.11倍(CI 1.16-3.82)のリスクと関連があったとしている.最終的に,Rasuraら (2006)は片頭痛は若年患
者の26%の危険因子となったが,脳卒中の原因になったものはいなかった.これらの報告は片頭痛は危険因子
となり得るが病因となることは稀であることを示している.また共通して片頭痛は多くの場合,女性に見られ
た.
MacClellanら(2007)は片頭痛に関連した脳卒中の発症における性差の検討をした.15から49歳で386名の女
性の虚血性脳卒中患者を調査し,614名のコントロール群と比較した結果,片頭痛の有病率に差は見られなか
ったとしている.しかしながら,片頭痛の前兆があったものが脳卒中のリスクが1.5倍(95% CI, 1.1-2.0)増加し
25
たのと関連して9%存在したとしている.53%が男性であった男女が混在した報告で,Schwaagら(2003)は片
頭痛の前兆に関して患者群とコントロール群に差がなかったとしている.これらの結果にかかわらず,著者は
若年女性にとって片頭痛は重要なだけでなく危険因子に単独でなり得るとしている.
Camerlingo(2010)らによるさらに最近の研究では,片頭痛は16から44歳の患者において脳卒中と関連があるこ
とが示されたが,この関連は,男性においては統計学的に重要ではなかった.最大の危険性は,前兆を伴う片
頭痛を経験したことのある女性に対するものである.前兆のない片頭痛は脳卒中患者とコントロール群におい
て有意な差はなかった.
対照的に,前兆のある偏頭痛を経験した若年患者は偏頭痛のない患者と比べて虚血性脳卒中になる危険性が2
倍であると示されているにもかかわらず,Pezzini(2011)らは偏頭痛自体は危険因子ではないと述べている.彼
らは,偏頭痛は他のアテローム性動脈硬化ではない因子と相乗的に働く時,唯一危険因子となりうるという考
えを推奨している.
糖尿病
若年患者で糖尿病を有していたものは稀である.30歳以下の患者では脳卒中の危険因子としてはあまり重要
ではない(Mehndiratta et al.2004).高齢者と比較したとき,Awadaら(1994)は45歳以下の脳卒中患者で糖尿病
を有していたのは29%だったとしている.Ruiz-Sandovalら(2006)は40歳以下の患者で糖尿病を有していたの
は16%だったとしている.最終的に,Mehndirattaら(2004)は若年患者で30から40歳の間で糖尿病を有してい
たのは13%であったのに対して,15から30歳の患者では4.2%であったとしている.このデータは糖尿病は若
年患者の危険因子とは言い難く,初期高齢者の危険因子である事を示している.しかしながら,Chen(2009)
らは,65歳より若い糖尿病の男女は,同じ年齢層のコントロール群と比較した時にそう卒中の危険性が高くな
ると示した.同様の内容はchapter 8 (Secondary Prevention of Stroke: 8.6 Managing Diabetes )にも記載して
いる.
クラミジア肺炎
アテローム性動脈硬化と動脈狭窄症は慢性,亜急性のクラミジア菌の感染と関連がある.若年者で,クラミ
ジア肺炎は脳卒中の危険因子となり得るかもしれない(Anzini et al. 2004, Piechowski-Jozwiak et al.2007).141
名の虚血性若年患者を対象とした報告で,Anziniら(2004)はクラミジア肺炎が危険因子となるオッズ比は8.8倍
(95% CI 3.9-19.1)であるとした.Piechowski-Jozwiakら (2007)はわずかに高く8.95倍 (4.44-18.07: P <0.002)
とした.同様にBandaru(2009)らは虚血性脳卒中とクラミジア肺炎抗体,特にIgGの関連を示した.対照的に,
Voorendら (2004)はアテローム性動脈硬化が病院であった若年患者とコントロール群ではクラミジア肺炎の
有無に違いがなかったとしている.全ての著者(Anzini et al. 2004; Voorend et al. 2004;Piechowski-Jozwiak et
al. 2007,Bandaru et al.2009)は前向き研究でクラミジア肺炎が若年患者で危険因子となるか確認する必要性を
訴えている.
高血圧
高血圧(HTN)は若年患者で原因にも危険因子にもなる(Lai et al. 2005).若年脳卒中者の中で30から45歳の男
性は高確率でHTNを有している(Barinagarrementeria et al. 1996;Nayak et al. 1997; Lai et al. 2005;Varona et al.
2007)これは特にアジア人男性に言える(You et al. 1997; Lee et al. 2002; Lai et al. 2005).加えて,若年患者は
26
い つ も 高 血 圧 の 治 療 に 従 わ な い こ と が あ る . ま た は 高 血 圧 の 危 険 性 を 十 分 に 承 知 し て い な い (Bi et
al.2010,Spengos and Vemmos 2010) . 同 様 の 内 容 は chapter 8 (Secondary Prevention of Stroke: 8.3
Hypertension )にも記載している.
27
22.3.2 Summary
要約
若年患者に多く共通して見られる危険因子は修正可能なものであった(Broderick et al. 2003).高血圧と喫煙
は若年者の虚血性,出血性脳卒中の主な危険因子であった(Awada 1994;Mehndiratta et al. 2004; Varona et
al.2007; Waje-Andreassen et al. 2007).稀な危険因子としてクラミジア肺炎と経口ピルの摂取があった(Petitti
et al. 1996,Piechowski-Jozwiak et al. 2007).糖尿病,高コレステロール血症,高脂血症,ホモシステイン濃度
の上昇は35歳以下よりも35から50歳の脳卒中患者で主に見られた(Barinagarrementeria et al. 1996; Bos etal.
2005; Rasura et al. 2006; Ruiz-Sandoval et al. 2006).若年者特有の修正できる危険因子は経口ピル,薬物,
コカインの使用であった(Broderick et al.2003; Bruno 2003; Hillbom et al. 1995).
Conclusions Regarding Modifiable Risk Factors
喫煙は若年者にとって脳卒中発症の重要な危険因子となる.
若年患者でアルコール摂取量と脳卒中発症に関連がある.日に1,2杯の摂取は虚血性脳卒中の発症のリスク
を減尐させる
薬物使用は若年者の脳卒中発症の稀な危険因子であった.薬物の誤用とコカインは若年者の虚血性,出血性脳
卒中発症の原因となる.
経口ピルは他の因子と合わさる事で脳卒中発症の稀な危険因子となる.低用量ピルは単独で若年者の脳卒中発
症の危険因子とは成り得ない.
高脂血症,糖尿病,血漿ホモシステイン濃度は35歳以上で脳卒中発症の危険因子となる.
片頭痛は若年患者にとって危険因子となる.特に若い女性にとってはリスクを上昇させる.
若年者にとってクラミジア肺炎が危険因子となるかどうかはさらに調査する必要がある.
高血圧は若年患者に共通して見られた.
22.3.3 Non-Modifiable Risk Factors
修正できない危険因子
家族歴
若年患者にとって家族歴が危険因子になるかどうかの妥当性は更に検討される必要がある(Schwaag et al.
2003).数尐ないデータから結論を出せないでいる.Mehndirattaら(2004)は若年患者で家族に有病者がいたも
のは2.7%のみであった.対照的に,Rasuraら(2006)とPatella(2011)は最も多く見られた(若年患者の63%と
28
74.5%)危険因子であったとしている.Schwaag ら(2003)は若年患者とコントロール群の両方に同程度の家族
歴があったとしている.Bor(2008)らは,くも膜下出血の家族歴を持つ14から49歳の患者のオッズ比は1.92で
あり,リスクは年齢のグループ間で有意差はなかった.この報告の違いは家族歴の定義の違いによると考えら
れる.Laiら (2005)は明らかな危険因子のない患者の脳卒中の家族歴のみを見ている一方,Rasuraら(2006)は
1親等で心臓,脳血管病変があったものを調査しており,同様にPattela(2011)も行った.
脳卒中の既往歴
脳卒中の既往歴は若年患者にとって稀であり,報告も尐ない(Barinagarrementeria et al. 1996).
Ruiz-Sandovalら (2006)は40歳以上の若年患者を対象に脳卒中の既往があったものは同年代のものと比較し
4%多かったにすぎなかった.これに反して,Jovanovic(2008)らはTIAまたは脳卒中の既往は,若年患者にお
いてそれぞれ23%であったことを示した.しかしながら,そのような高いパーセンテージはおそらく“脳卒中
の既往歴”として昔のTIAを含めている結果である.
29
僧帽弁逸脱
僧帽弁逸脱(MVP)は若年成人の3から6%に見られる.MVPが脳卒中の原因となるか否かは議論の余地がある.
若年患者にとって,危険因子としては尐なく,稀な病因であると報告されている(Adams et al. 1986; Bevan et
al. 1990;Giron et al. 1999; Mehndiratta et al.2004).対照的に,BogousslavskyとRegli (1987)は40歳以下の脳
卒中患者41名を対象にし,30%がMVPが病因であったと報告した.彼らの報告は評価に心エコーを用いて行
われたものである.しかしながら,心エコーはAdams et al. 1986; Bevan et al.1990; Giron et al. 1999;
Mehndiratta et al. 2004の報告でも用いられている.これらの矛盾を報告したGilonら(1999)は診断基準の変化
やMVPに付随する危険因子の範囲によるかもしれないとしている.
卵円孔開存
卵円孔開存(PFO)や心房中隔欠損症(ASD)は循環器異常としてよく見られる(Guercini et al.2008).若年患者
では,潜原性の病因としてPFOの頻度が増加している(Cramer 2005).Cramerら (2000)によるメタ分析によ
ると,PFOは55歳以下の患者において虚血性脳卒中発症と関連が強いと報告している.オッズ比は6.00倍(95%
CI, 3.72-9.68)となっている.しかしながら,Cramer (2005)は高頻度で若年患者に見られたのに関わらず,PFO
が脳卒中発症にどのようなメカニズムで関与するかはあまり知られていない.この事はPFOを有する若年患者
の再発予防を困難にする.Rodes-Cabau(2009)らは原因不明の脳卒中の診断がついた55歳以下の患者に対し前
向き研究を行った.そしてPFOの患者はPFOのないものと比べ,低いアテローム性動脈硬化の負荷があると述
べた.ことのことから,アテローム性動脈硬化の媒体のメカニズムは,PFOが存在する脳卒中において関係し
そうにないと結論付けた.同様の内容はchapter 8 (Secondary Prevention of Stroke: 8. 10 Cardiac
Abnormalities)にも記載している.
妊娠,産後と脳卒中
妊娠と脳卒中発症の関連と発生率を正確に報告したものはないが ,後向き的研究(Feske 2007, Davie
30
andO’Brien 2008)で疫学,病因,危険因子,予後と関連が報告されている.妊娠と脳卒中発症のおおよその比
として100,000人に11から34人の割合で発症するとされている(Davie &O’Brien, 2008; Egido and Alonso de
Lecinana, 2007).これは90%の人が妊娠後期に起こっており,35歳以上で2回目の場合によく起こる (Pathan
and Kittner 2003;Egido and Alonso de Lecinana 2007;Feske 2007; Davie & O’Brien 2008) .妊娠中に脳卒中を
発症した場合のおおよその致死率は10~17.8%である(Feske 2007; Davie & O’Brien 2008).
妊娠,産後の脳卒中を発症させる危険因子として,高血圧,糖尿病,鎌状赤血球病,静脈血栓症,喫煙,心
臓病,飲酒と薬物使用,過労,多産,帝王切開,高齢出産,高齢妊娠,子癇前症,子癇,偏頭痛の病歴,動脈
瘤破裂がある(Davie and O’Brien 2008, Feske 2007, James et al.2005).子癇前後は妊娠脳卒中患者の25から
45%に見られる(Davieand O’Brien 2008, Feske 2007).Feske (2007)は子癇前症の既往がある患者は妊娠して
いない患者より脳卒中発症のリスクが60%増加するとしている.さらに加えて,Kajantie(2009)らは子癇前症
のあった女性から生まれた子供は正常血圧の母親から生まれた子供より脳卒中を起こしやすいだろうと述べ
ている.妊娠中に脳卒中の再発が1から2%の患者に起こる(Pathan and Kittner 2003).
性別
研究は若年男性と若年女性の発病率について矛盾している結果を報告しており,どっちの性別が若い間に脳
卒中を経験するかがTable 22.3.8に記載されている.結果が変化しているにもかかわらず,Towfighi(2011)らに
よる最近の研究では,35-64歳の女性は男性と比べて脳梗塞の既往があることが報告されている.これは同様
に,30歳以下の脳卒中患者は男性より女性に多いという事実に起因する(Rozenthul-Sorokin et al.1996,Putaala
et al.2009b).同様にSpengos and Vemmos(2010)は,30歳以下では男性より女性が多数だが,一方30歳以上
のこのパターンは逆転し,男性が女性の数を上回ったと報告した.非常に若い多くの女性脳卒中患者は,その
年齢や性別と経口ピルの使用や偏頭痛のようなほかの危険因子との関連が原因であることが示唆された
31
(Kwon et al.2000,Carolei et al.1993).これらの発見にも関わらず,他の研究では,女性の脳卒中患者は減尐し
ていると示している(Naess et al.2011).Martinez-Sanchez(2011)らは,男性と女性の脳卒中患者の数に差はな
かったが,男性より女性はより重度の脳卒中を経験したことを示した.
32
民族性
人種は脳卒中発症の重要な危険因子となる.Kittnerら(1993)は15から44歳までの脳卒中患者を調査し,白人
と比較し黒人は虚血性脳卒中,出血性脳卒中を発症する確率が高かったとしている.Qureshiら(1995)はアト
ランタにある病院の15から94歳までの脳卒中患者を4.5年間調査した.248人の若年患者のうち219人が黒人で
あった.高血圧が黒人の場合,それ以外の人と比較して脳卒中発症と強く関連があった(55% vs. 24%,p=0.03).
高血圧性脳出血が黒人に多く見られた(64%).Rohrら(1996)は黒人,
白人の18から44歳までの虚血性脳卒中296
名とコントロール群1220名と比較検討した.それによると糖尿病,高血圧,喫煙,が危険因子となり,その傾
向は黒人でより強かったとしている.
22.3.4 Summary
要約
若年者は慣習的で特有の修正できない危険因子を有している(Ning and Furie 2004).家族歴や人種のような
因子は高齢患者においても同様である.家族歴に関するデータは矛盾しているものの,いくつかの報告による
と重要な因子であるとされている(Rasura et al. 2006; Lee et al. 2002;Schwaag et al. 2003).人種は脳卒中の
リスク,病因としては重要な要素である.これは若年黒人患者に高血圧性脳出血が多いことと関連している
(Kittner et al.1993).
若年女性特有の修正できない危険因子として妊娠,産後があった.この時期の脳卒中発症は稀であり,子癇前
後の時期に起こりやすい(Feske 2007).
Conclusions Regarding Non-Modifiable Risk Factors
家族歴は脳卒中発症の危険因子として重要であり,若年者にとってPFOとの関連は不明確である.
若年者で脳卒中の既往歴の存在は高齢者より稀である.
MVPは危険因子としては尐なく,病因となる頻度も尐ない.
妊娠,産後の時期は若年女性特有に脳卒中発症のリスクを高くする.これは血圧上昇と関連している.
若年脳卒中患者において性別の重要性はさらに調査する必要がある.しかしながら,若年脳卒中患者の発病率
は女性において,より高い.
人種は若年者にとって脳卒中発症の重要な危険因子となる.黒人はリスクが増大する.
33
修正可能な因子も修正不可能な因子も若年脳卒中リスクには重要である.
最も一般的なのは高血圧,喫煙,アルコール中毒,人種(黒人),性別(30 歳以上の女性),片頭痛(女性),
脂質異常症(35 歳以上)である.
あまり一般的でない危険因子は僧帽弁逸脱,中等度のアルコール消費,脳卒中の既往,薬の使用である.
22.4 Recovery and Prognosis
回復と予後
若年患者が神経学的,機能的によく回復し,予後がいいことは周知の通りである(Hindfelt
and Nillson 1977; Adunsky et al. 1992;Marini et al. 2001; Nedeltchev et al.2005).しかしながら,脳卒中のタ
イプや重症度が機能回復にどの程度影響するか示すデータはない (Black-Schaffer and Winston 2004).
Falconerら(1994)は一般的に高齢者にとって,リハビリテーション帰結は年齢が高くなると低くなるとしてい
る.50歳以下と50歳以上の患者において静脈注射によるtPAを用いた治療を受けた脳卒中患者間での差を調査
している一方で,Poppeら(2009)は,おそらく,年齢ではなく若い脳卒中患者に良い結果をもたらす重大な併
存疾患の欠乏があると報告した.
高齢患者の回復を阻害するものは病理学的に回復が遅い,神経の再編成の機会が尐ない,認知症など様々な
障害を有するなどが挙げられる(Feigenson et al. 1977, Lind 1982,Schuman et al. 1981; Falconer et al.1994).
979人の脳卒中患者を対象にした調査でBlack-SchafferとWinston (2004,see Table 22.4.1)は年齢と機能帰
結の関連性を報告している.これは全年齢と虚血性,出血性脳卒中が含まれる.患者は入院時,退院時の
Functional Independence Measure (FIM)の点数と入院期間を用いて検討された.さらに入院中のFIMの点数と
年齢に負の相関がある事を発見した.FIMの点数が高い若年患者は30%以上が在宅復帰した.しかしながら,
若年患者の入院は平均23日長かった.これは高齢者がナーシングホームへ入所する人が多いからかもしれない
(Falconer et al. 1994, Black-Schaffer & Winston2004).同様にFIMの点数がたかった患者は年齢との関連がな
かった.これは脳卒中が中等度でFIMの点数が40から80点の場合,若年患者は高齢患者より回復に有利である
34
ことを示しているかもしれない(Black-Schaffer & Winston 2004).他の報告でも年齢と機能回復について調査
されている.
若年患者の機能回復と予後について調査されたいくつかの報告をTable 22.4.2に示す.
35
36
37
38
39
Discussion
考察
若年患者は高齢患者より,予後が良好であろうという根拠がある.(Nedeltchev ら.2005)Black-Schaffer と
Winston(2004)は,若年患者は発症後,在宅復帰がより見込まれ,そして,入院時 FIM の点数が 40 から 80
点の時,在宅復帰と機能回復の可能性が最も高くなるとした.Adunsky ら(1992)によると,6 年間,35 人の若
年患者の経過を調査し,高齢者と比較してかなりの改善を示していたと報告している.若年者はまた,機能的
能力について比較的高い得点を示した(ADL と自立歩行の測定).Nedeltchev ら(2005)によると若年患者(16-
40
45 歳)の 68%で重度の能力障害がなく,最発のリスクは 6%であった.全般的に,神経可塑性は年齢と関連し
ており,若年発症の予後と回復にかなり重要な影響がある.
Conclusions Regarding Recovery and Prognosis for Young Stroke Patients
若年患者は能力障害が尐なく神経学的な回復がある
若い脳卒中患者は良い神経学的な回復を示す.
22.5 Rehabilitation of Younger Stroke Patients 若年患者のリハビリテーション
若年患者の伝統的なリハビリテーションは高齢者に対して行う場合と一般的には同様である(Teasell et al.
2000).若年者と高齢者のリハビリテーションの主たる違いは神経学的な回復と社会的な問題に本質的な違い
がある.家族のサポートや若い被扶養者の存在,夫婦間ストレスと職場復帰は若年患者のリハビリテーション
に関連してくる問題である(Dixon et al. 2007).一般的なリハビリテーションは理学療法や言語聴覚療法,作業
療法,薬物療法の何らかの組み合わせがある(Stein 2004,Young and Forster, 2007).若年患者において機能回
復を促す近年の戦略として,抑制を誘発する動作の治療,ロボット支援によるリハビリテーション,バーチャ
ルリアリティートレーニング,EMGバイオフィードバック,機能的電気刺激,運動強度の増加,そして鍼療
法がある(Stein 2004).詳細な情報に関しては,chapter 6 (The Elements of Stroke Rehabilitation)を参照とす
る.
若年患者のリハビリテーションの主たる違いは多くの場合,能力障害を持った状態で長く生活することであ
る(O’Connor et al. 2005).適切なリハビリテーションを受ける事なしに,この能力障害を持った状態でいる長
い期間は大きな費用を引き起こす.O’Connor(2011)らは,壮年の労働者に対するリハビリテーションの経済上
の効果に目を向けた.この研究において,費用を埋め合わせるために21週間の入院患者のリハビリテーション
を必要とする事がわかった.
そのうえ彼らは又,認知や心理面の低下が年齢と比較して低く見えることである.Terent(2009)らは,若年
脳卒中患者は高齢の患者に比べ,脳卒中ユニットケアからの相対的な高い効果を受ける事を報告した.年齢と
比較したリハビリテーションの結果の情報に関しては,chapter 4 (Managing the Stroke Rehabilitation Triage
Process:4.4.2 Younger Stroke Patients)を参照とする.
22.5.1 Perceptions of Care
ケアの認識
若年患者はしばしば高齢者と比較した時,生活状況の違いがある(Stone 2005).彼らのニーズは高齢者とは異
なる場合が考えられ,このことはリハビリテーションの過程に関する予後予測に影響するかもしれない(Dixon
et al. 2007).神経学的に障害がある若い成人(n=24) の研究でDixonら(2007)は,患者(8人の脳卒中患者を含む)
はリハビリテーションの回復と適合の2つの見解を持っていたと報告した(Table 22.5.1).
41
回復モデルは,彼らの発症前の状態に戻るためのリハビリテーションを過程すると定義した.適合モデルは
適応する移行期であり,人の能力の大部分を形成するリハビリテーションと定義した.HartkeとBrashler
(1994)はリハビリテーションについてのアンケートで回答を得た,100人の若年患者の生存率に関する報告を
した.彼らは患者に「リハビリテーションで入院中,最も役立ったと感じたこと」について質問した.結果は
Table 22.5.2に示している.
患者のなかで,高い機能を有している者は,レクリエーションや社会的なプログラムとして,職業カウンセ
リングが優先された.重要なこととして特定した他のプログラムは,家族のカウンセリング,サポートグルー
42
プ,そして性の適応を目的としたカウンセリングが含まれる.そしてもっとも,一般的に重要な関わりは,患
者は医師よりもエクササイズやフィットネスを評価したことである.医師は患者以上に性に関するカウンセリ
ングを優先させた(Hartke and Brashler 1994).
“最も頻繁に評価されるプログラムは,必ず若年患者に対して適切に開発されたものは必要ではない.職業
カウンセリングだけは,高い機能を有している患者に頻繁に選択する.性的な機能に関する介入,子育て,デ
ート/個人的な関係は比較的低い頻度で選択され,それらは,若年者に突起して開発するべきだと考えられる
(Hartke and Brashler 1994).”その最も高く評価されるプログラムは年齢に特定しないこととして見るかも知
れない(Hartke and Brashler 1994).
同じ著者は“機能別な対応として,職業カウンセリングの評価はより頻繁に高い機能を有している患者に,
そして低い機能を有している患者には家族カウンセリングを優先的に行うことに異論はない.高い機能を有し
ている患者群は職場復帰を目標としているかもしれない.対照的に,低い機能を有している患者群は彼らに介
助を要するため家族の負担が増える事に対して不安を持っているかもしれない.”としている(Hartke and
Brashler 1994).
脳卒中患者に不可欠なこととして,フォローをするための情報がより必要であった(Low et al. 2003; Roding
et al.2003; Dixon et al. 2007).彼らは病気や予後について情報不足にストレスを感じていた.また彼らについ
て理解してくれるか心配しており,そこには他の認知機能や疲労具合についても含まれていた(Stone 2007).
患者の認知機能障害とそれらがどう障害に影響するかについてはあまり注目されていない(Malm et al. 1998).
脳卒中の結果としてのこの認知機能障害は若年脳卒中患者が地域社会の再建や仕事復帰を困難にする可能性
がありうる.Hommel(2009a)らは,若年脳卒中患者の70%が
尐なくとも仕事における重大な能力障害や脳
卒中後の認知機能障害による社会的機能についての不平を言っていると述べた.他の研究では,
Hommel(2009b)は68%の人が脳卒中による社会的機能における重大な機能不全と戦っていると述べた.
若年脳卒中患者のリハビリテーションについて調査されたいくつかの報告をTable 22.5.3に示す.
43
44
45
Discussion
考察
若年患者のリハビリテーションは高齢者のリハビリテーションと類似するが,若年患者は発症後,独自の多
くの問題をみせる(Teasell et al. 2000).彼らの生活状況と神経学的な回復は高齢者よりもしばしば異なってい
る.若年者特有の葛藤について考慮すべきで,心理社会的な問題に強い焦点を与えるべきである(Teasell et al.
2000).Roding ら(2003)は医師とリハビリテーション療法士はしばしば若い患者の認知機能障害を無視し,機
能的な能力が多尐回復することに注目する.若年患者のほぼ半数は,脳卒中のリハビリテーションのフォロー
をする際に悪影響を及ぼす(Neau et al. 1998)うつを有していると診断した(Kappelle et al. 1994, Neau et al.
1998).よって,認知機能障害の理解が,より効果的なリハビリテーションプログラムに必要とされる.(Roding
et al. 2003). Roding ら(2003)はまた,若年患者への年齢に適応したリハビリテーションプログラムの必要性
を報告した.若年患者は同様の経験をした同年代の他の脳卒中患者とのコミュニケーションの必要性を訴えた
(Roding et al.2003, Dixon et al. 2007).しかしながら,全般的に若年患者は伝統的な脳卒中リハビリテーショ
ンプログラムを一般的に好んでいると報告されている(Kappelle et al. 1994, Dixon et al. 2007).
Conclusions Regarding the Rehabilitation of Young Stroke Patients
若年患者のリハビリテーションは,神経学的な自然回復や社会的な問題の違いを有する高齢者のリハビリテー
ションに類似している.
脳卒中リハビリテーションプログラムは年齢に応じたプログラムが必要性であることを意識すべきである.
若年の脳卒中のリハビリテーションは神経学的な回復の可能性が大きいことや特有の社会問題という点
で異なる.
若い脳卒中患者は特別なリハビリテーションの必要性がある.
22.6 Family Stress 家族のストレス
脳卒中は家族全員に影響を与える.特に,配偶者,子供,そして患者の両親はしばしば彼らに関連する能力
障害に合わせて生活していかなければならない(Visser-Meily et al. 2005b).若年患者は神経学的な機能回復を
するため介護者が必要なことが予測されることは尐ない(Hindfelt と Nilsson 1992).しかしながら,フルタイ
ムの介護者が必要であるかどうかにかかわらず,家族はしばしば脳卒中患者の能力障害に対応するために新し
い義務が発生するのではないかと考える(Teasell et al.2000).全ての脳卒中患者について,主介護者は別とし
て,他の家族が一般的に小さい役割だけ行なっている(Horowitz 1985, Tobin と Kulys 1981).若年患者にとっ
て主介護者はまた,よく助けになる.配偶者或いは両親はともに生活し,介助をすることができるだろう.
46
彼ら自身の適応障害に直面した脳卒中患者にケアを提供している家族は,脳卒中患者の必要性に合わせて自
らをしばしば犠牲にする.Visser-Meily ら(2005a)は若年発症者の配偶者の多大な負担と鬱のレベルは相関関
係にあると述べている.パートナーの負担は,対処することがしばしば困難な子供の情緒的な苦悩によること
が多い.同じ著者は,発症1年後の配偶者の鬱と夫婦関係の質は,発症直後の状態と関連していると報告して
いる.Teasell ら(2000)は若年患者の38%は入院患者のリハビリテーションの配偶者(病院職員によって報告
された)と衝突していることを経験している.加えて7組のうち1組が発症後3ヶ月中に離婚している(Teasell et
al. 2000).配偶者の性はそれらの傾向との関連がない(Visser-Meily et al. 2005b).
Buschefild(2009)らは,介護者はパートナーの脳卒中により,肯定的,否定的両方の影響を受けると述べた.
介護者は生活の変化の結果として起こった調節や,彼ら自身の影響を発見した.彼らは,感情を管理すること,
過去の経験を引き出すこと,彼ら自身と他者を比較すること,社会的援助に頼る,または見つけることによっ
て対処した(Buschenfeld et al.2009).
若年脳卒中患者とパートナーまたは配偶者の経験と比較した研究において,Banks and Pearson(2010)は,
病気になった時とその後の,患者と介護者の向上を議論した.患者と介護者ともに, 治療と調整と同様に理解
という最初の危機を経験する.しかし彼らはこれらのステージでそれぞれ異なったタイプの違いを経験してい
る(Table22.6.1).
発症1年後の子供の行動帰結は,リハビリテーション過程の初期の彼らの行動によって予測可能である
(Visser-Meily et al.2005b).若年患者の両親の22%は入院患者のリハビリテーションの中で子供と衝突する経
験があるとされている(Teasell ら. 2000).子供と配偶者の健康状態は脳卒中の重症度に影響しなかった
(Visser-Meily et al.2005b).しかしながらVisser-Meily ら(2005a)は脳卒中の重症度により病院のリハビリテー
ションスタッフのサポートが家族にたいして効果を持っていると推測している.長期入院により,リハビリテ
ーションスタッフが若年発症の子供に与えるたくさんの注意力に相関している事がわかる.入院患者のリハビ
リテーションスタッフは,適応障害をもった子供については,注意を多く払わない(Visser-Meily et al. 2005a).
47
重症な脳卒中患者についてSilverstone とHorowitz (1987)は,家族は療法士からの指導を受けておらず,経
験のない専門的な介護知識を供給しなければならない場合があることがあるとしている.彼らにとって選択肢
は無く,実際に挑戦しながら失敗しながら課題を学ぶ.高齢患者の場合,家族はしばしば他の家族の人たちが
空いた時間ができないよう努力して入れ替わる事がある(Teasell et al. 2000)..若年患者のケースで役割の変更
は明らかに尐ない.対照的に,古い役割は時に再び取られ,特に両親は,重要な脳卒中の回復を支援している
自立前の子供に再びケアをしなければならない(Teasell et al. 2000).Chapter 19 (Community Reintegration:
19.2 Family and Stroke)を参照とする.Table 22.6.2は脳卒中が家族のストレスに対する影響についての評価の
いくつかの報告の結果が記載している.
48
49
Discussion
考察
脳卒中患者の介護者は鬱になりやすく,彼ら自身の健康状態が悪化する可能性があることを知っている
(Kinsella and Duffy 1979) .若年患者の場合,主たる介護者が配偶者の場合,しばしば子供を保護する付加義
務がある(Visser-Meily et al.2005b).鬱の進行の高いリスクを有する介護者は,若い配偶者で家計の収入が低
く,より重症患者で,彼らの周りの社会的なネットワークの頻度はより小さく,そして,未来が楽観的で期待
できるレベルが低い(Tompkins ea al. 1988).幸い,先に述べたように,若年患者は高齢者より機能的な回復と
自立度のレベルがより高く達成される傾向があるために配偶者のストレスが尐ない (Adunsky et al. 1992) .
Hindfelt とNilsson (1992)は16から40歳の若年患者の調査で,家族関係は多くの場合社会的に複雑でないと報
告している.17年間の経過である.脳卒中の結果,離婚した患者は1例だけであった.
Conclusions Regarding Family Stress
若年患者は高齢者と比べて機能的な回復と自立度のレベルは高く達成する傾向がある.一般的な改善の結果は
介護者へのストレスが低く,離別する事も尐ない.
子供の発症前の行動により,脳卒中による適応障害よりもむしろ,脳卒中後の適応障害の予測がより可能とな
る.
回復は介護者のストレスを軽減する.
22.7 Institutionalization
施設入所
重度な障害と社会的なサポートが不十分である脳卒中患者にとって,施設入所は重要な課題である.慢性期
ケア施設では重度脳卒中のための介護者のサポートが不足している (Teasell et al.2000) .介護者が健康状態
の悪化やケアによるストレスの増加を起こさないよう施設入所が必要である(Boxall and McKercher 1990,
Churchill 1993,Colerick and George 1986, Horowitz 1985).幸い,施設入所は若年患者とってあまり必要でな
い.
50
Black-Schaffer と Winston (2004)は重度な若年患者は,高齢者より長く入院していることがわかった.彼ら
は,重度の高齢患者は機能的な回復の機会が尐ないために,即座に老健か施設に入所するとした.そしてそこ
で,若年患者は長期入院で多くのリハビリテーションを得る結果となり,在宅復帰の見通しをえる.加えて,
老健は成人を受け入れることを好まない(Black-Schaffer と Winston 2004).Table 22.7は若年患者の施設入所
について報告を示している.
51
Discussion
考察
Teasell ら.(2000)は施設入所により50歳以下の83人の脳卒中患者のうち4人が正式なリハビリテーションを
受けたと報告している.それらの4人のケースの一般的な特徴は,低い社会的なサポートに関連して起こった
重度な脳卒中患者であった(Teasell et al . 2000).Adunskyら(1992)は40歳以下の脳卒中患者の100%はリハビ
リテーションで在宅復帰でき,平均的なリハビリテーションで在宅生活ができる期間は長かった.これらの発
見は,Black-SchafferとWinston (2004)によって支持された.Adunsky ら (1992)はそれらの患者は高齢者と比
較して機能的な自立のレベルが比較的高かったと報告した.これは既往歴が尐ないこと,合併症がすくないこ
とと関連し,そして,知的な障害がないことによる(Adunsky et al.1992).
Conclusions Regarding Institutionalization
施設入所は良好な予後や介護者の存在の結果,若年患者にはあまり必要でない.
施設入所は若い脳卒中患者にはあまり必要でない.
22.8 Return to Work
職場復帰
職業上の問題として若年患者特有のリハビリテーションの側面がある.55歳以下の患者で職場復帰はほぼ可
能である(Howard et al.1985).高齢患者は発症前より就業していることが稀なため作業的な再教育は必要ない.
しかしながら,若年患者はリハビリテーションに職業上の問題に対する視点がある(Teasell ら2000).残念な
がら脳卒中後の職場復帰の調査の研究は決定的に尐ない(Rodriguez et al.2004, Barker 2006).また,有用性の
あるデータは‘仕事’と言う用語で表す課題の種類を的確に表現していないかもしれない.このトピックは
Monga (1997)が述べている.
“リハビリテーションは職場復帰することを意味し,職業に必要な機能の評価を開発するために患者の人数
をそれらの測定をするのに適用し,リハビリテーションの結果の測定として職場復帰を追跡するために,定義
している課題の取り組みにのみ限定されるようにした.公表された研究では,調査者は‘仕事’は全て同じ事の
意味でなく,例えば家事を含み,そして,研究は他の競争力のかかる雇用や,以前と同じ職場への復帰が困難
な場合などがある.グループの年齢の幅は広く異なって研究され,いくつかの研究は65歳,高齢者,他には30
から45歳より若い患者を含んでいる.加えて,サンプルサイズは大きく異なり,いくつかの大規模コホート研
究に関わっている.”
この変化に関わらず,他の有用な報告は,一般に尐しの若年患者は脳卒中による機能障害が最小限でも1年
の間に発症前と同じか,他のフルタイムの雇用に戻ることができるとしている(Glozier et al. 2008).片頭痛,
認知の問題や記憶の問題,や心配,そして苛立ちは仕事のスケジュールを想定することが難しくする(Malm et
52
al.1998).Chapter 19 (Community Reintegration: 19.6 Return to Work)を参照とする.Table 22.8.1に若年発症
の職場復帰に関する調査を示す.
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57
Discussion
考察
“以上の結果に表されたリハビリテーション後に職場復帰した患者は,発症後職業活動のペースが落ちてい
る症例であった(Black-Schaffer and Osber 1990).” 一貫して,仕事に関する若年患者の変化は,その数の減
尐や,実行された課題の複雑さに関与している.年齢は職場復帰の決定に重要な要因である(Black-Schaffer
and Osber 1990).
Glozier ら (2008)は発症前に雇用があったことや精神疾患が無いことは,職業復帰の可能性と関連したと報
告した.
高い教育レベルや事務職の患者は,尐ない訓練を受けた患者や肉体労働者よりも発症後,仕事に復帰できる
可能性が高い(Bergmann et al. 1991, Black-Schaffer and Lemieux 1994, Howard et al. 1985, Smolkin and
Cohen 1974).Black-Schaffer と Lemieux (1994)は,職場復帰をした脳卒中後の35人の若年患者は,15人が
秘書や事務職,もしくは17人が専門家や技術職のポジションへ復帰したことがわかった.ホワイトカラーの位
置の職場復帰の成功率の高さは,良い訓練や労働条件,有給そして物理的な要求課題が尐ないための結果と考
えられる.同じ著者はまた,それらの仕事はより魅力的であり,より仕事は自治的であり,職場の仲間は仕事
で能力障害を持った人をより受け入れる可能性が高いと述べている.Howard ら (1985)は年齢や,職業,能
力障害の程度,人種,そして病変部位は職場復帰の可能性に影響する重要な要因であると報告した.それらは
また,管理職では最も職場復帰しやすい要因であるとわかった.同様に,Saeki ら(1993)は,発症により筋力
低下や失行が残存しないこと,そしてホワイトカラーの職業であればより職場復帰しやすいと報告した.
片麻痺もしくは弱化が左右どちらにあるかについては,若年発症の職場復帰への能力との関連は一貫してい
ない(Black-Schaffer and Osber 1990, Heinemann et al. 1987, Howard et al. 1985, Kotila et al. 1984, Weisbroth
et al. 1971).Weisbroth ら (1971)は左片麻痺の中で上肢機能,歩行,状況判断能力が高いことが職場復帰の
しやすさと関連が見られたとした.軽度のコミュニケーションや認知機能の障害を持った右片麻痺は,よい職
場復帰後の成績がよかった.失語症と職場復帰の負の相関関係が示されていた(Black-Schaffer and Osber
1990).脳卒中後の認知機能障害は職場復帰を決定している重要な要因としてますます認識されている.残念
ながら,認知機能障害の職場復帰への多くの要因は,微妙であり,一般的な評価として,あまり明らかにされ
ていない(Black- Schaffer and Lemieux 1994).そのようなケースの中で,神経心理学的テストは,認知機能の
58
問題の程度を正確に図示するために必要で,職場復帰する際に影響を与えるかもしれない(Lindberg et al. 1992,
Ljunggren et al. 1985).記憶障害,無関心さ,病態失認,うつ,そして,情緒不安定を有するものは職場復帰
の可能性が低かった(Kotila et al 1984).Mercier ら(1991)によると,神経心理学的テストは職場復帰の可否の
予測をするのに有用である事がわかった.
他の研究では,脳卒中患者は,発症前の職に戻らない傾向があることを示している(Brooks et al.1987,
Coughlan and Humphrey 1982,Howard et al. 1985, Isaacs et al. 1976).Brooks ら (1987)によると,脳卒中患
者で発症から7年後,職場復帰していたものはわずか29%であることは報告した.Issacs ら (1976)の報告で
は,29人の脳卒中患者を対象とし,11人はフルタイムでの職場復帰をし,8人は家庭復帰であった.その後1
人の患者は家庭復帰し,2人は部分的に家庭復帰し,職場に戻らなかった.Sjogren (1982)によると,51人の
脳卒中患者のうち47人は発症直前まで仕事をしていたことがわかった.しかしながら脳卒中患者のわずか17%
が仕事に戻り,それらの全てはパートタイムの仕事であった.最近では,Glozier ら (2008)によると53%の若
年患者は発症後フルタイムの仕事に戻っていることがわかった.発症前の雇用や精神疾患の有無が,職場復帰
への可能性と関連していた.
職場復帰の困難さは脳卒中患者自身やその家族の情緒や財政を苦境に立たせる(Churchill 1993).この問題を
調査するために,The Stroke Association & Different Strokesが刊行されている(Barker 2006).若年患者の職場
復帰の支援に関する報告はTable22.8.2を参照とする.
59
Conclusions Regarding Return to Work for Young Stroke Patients
職業復帰の問題は若年患者にとって重要である.
職場復帰は,発症後の訓練レベル,片麻痺,認知機能障害,機能的な状態に影響される.
職業上の問題は若い脳卒中患者のリハビリテーションにおいてしばしば軽視される.
若い脳卒中患者の職業問題は教育や仕事の種類,脳卒中の重症度によって影響を受ける.
22.9 Future Needs
将来の必要性
重度の若年患者の稀なニーズはそのまま達成されないことがある(Dixon et al 2007) .若年患者と高齢者の
違いは,より大きい焦点を心理社会的な問題に当てることが想定されることである(Teasell 2000).Stone
(2005)は,若年患者は自分とその周囲で何が起こったかを理解するのには困難で,一般的に気付いていないと
している.この目に見えない能力障害は微妙であるが主たる社会問題をもたらし,患者自身の能力障害の正当
性に疑いを持たせる(Stone 2005).社会中の雇い主と専門家は,脳卒中患者やその家族が社会への参加や独立
を促していくために彼らと話し合いの場を持つべきである(Kersten ら 2002).Table 22.9に若年患者の将来の
必要性についての報告を示す.
60
61
Discussion
考察
若年患者における帰結の改善は,継続した初期医療の必要性の減尐を反映している.しかしながら,再発の
防止はしばしば必要であり,そして治療は高齢者と類似している(Hindfelt and Nilsson, 1977).長期経過の研
究でHindfelt と Nilsson (1992)は発症後13から26年間の74人の成人を長期観察した.一般的な健康状態では発
症後,てんかん12.9%,鬱11.3%で,筋肉痛9.6%,背痛8.1%,HTN8.1%を有していた.この結果は若年患者
が発症後,健康状態を悪くすることが尐ないことを示している(Hindfelt and Nilsson 1992).しかしながら,
Naess(2004)は,長期間での研究のフォローアップを行った後,若年脳卒中患者は修正可能な危険因子が多数
であることを示し,二次的な予防方法の改善を述べた.chapter 8(Secondary Prevention of Stroke)を参照とす
る.
脳卒中後の疲労(PSF)は,高い死亡率,鬱,高齢者の低い機能改善に関係していることが知られている(Naess
et al 2005).若年患者のPSFは比較的知られていない.Naess ら(2005)は,若年患者のPSFは学校や職場,社
会的活動にいい影響を及ぼさないことを提案している.著者たちによると,若年患者の51.3%と31.6%のコン
トロール群において,慢性期に疲労を経験したことがわかった(p<0.001).PSFを有する患者は6年間の追跡調
査で,機能帰結に不利で,非雇用と関連していた.Rodingら(2003) は5人の脳卒中患者(うち女性2人)に質
的インタビューをし,そして結論づけた.
“この調査の中で最も衝撃的な特徴は,疲労をほとんどの患者が経験していたことである.” この疲労は
彼らの生活につきまとい,脳卒中による避けがたい症状の一つである.その事により,フルタイムの仕事がで
きなくなり,彼らの家族に影響を与え,そして否定的な社会生活を送る(Roding et al 2003).疲労に加えて,
鬱も発症後起こる.Naessら(2005)によると,脳卒中後のうつ(PSD)は,15~44歳の患者の26.9%に起こる事が
わかった.慢性期高齢者と比較して,鬱の発生に違いがないことがわかった.むしろ重症度で違いが見られた.
軽度の鬱は,高齢患者は15%であったのに対し,若年患者の25%の患者にみられた.アルコール中毒,発症前
の鬱の症状,入院中の重症度はPSD発症の危険性を高くする.性差,年齢差はPSDに関連していなかった.ま
た, Naessら (2005)に よると , PSDと失業は関連していないことがわかった. chapter 18 (Post-Stroke
Depression)を参照とする.
脳卒中とリハビリテーションの過程は衝撃的な出来事であると認める(Roding 2003; Stone 2005; Dixon et
al. 2007).リハビリテーション後,若年患者は,同様の経験をした他の患者とのつながりを求める(Stone 2007).
一連の質的研究では,n=22 (2005) と n=83 (2007)で,Stoneは若年患者によって表現された一般的なテーマ
を明らかにした.男性と女性の両方とも同様の問題を議論し,女性はより援助をし,感情表現をするようであ
った.患者は脳卒中発症したことに関して受け入れるのに時間を要した.彼らは,身体能力,仕事,家族,社
会生活に対応するのに時間を要した.
Conclusions Regarding Future Needs of Younger Stroke Patients
若年患者の将来の健康的な不安は,幸いにも最小限である.若年患者は可能な限り長期的に健康を保つことの
重要性に気付く必要がある.
脳卒中後の鬱と疲労は若年患者で起こる.若年患者は年齢と治療と関連したステージを利用する必要がある.
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若年患者にとっては組織的な支援と同様の経験を有した人との関わりが必要である.
若い脳卒中患者は具体的な健康への懸念よりもむしろ特有の心理社会的・対症的なニードがある.
63
Summary 要約
1.若年者の発生は高齢者より明らかに尐なかった.
2. 若年者の発生率は異なる年齢層,人種や民族,宗教により異なっていた.
3. 脳卒中の若年患者の 3 分の 1 以上の人の病因が未知であったが,診断技術の発展により減尐傾向にある.
4. 若年患者の出血性脳卒中の原因として最も多く見られるのは高血圧,動静脈奇形,破裂性大動脈瘤もしく
はそれらの組み合わせであった.
5. 若年で発症する脳卒中の主なものは虚血性のものである.心原性塞栓症が40歳以下の症例で病因として多
く見られ,40から49歳では高度な動脈硬化が多く見られる.
6. 稀な病因は30歳以下で発症した症例に多く見られる.多くの稀な病因は若年患者の危険因子として認識さ
れている.
7. 喫煙は若年者にとって脳卒中発症の重要な危険因子となる.
8.若年患者でアルコール摂取量と脳卒中発症に関連がある.日に1,2杯の摂取は虚血性脳卒中の発症のリスク
を減尐させる
9.薬物使用は若年者の脳卒中発症の稀な危険因子であった.薬物の誤用とコカインは若年者の虚血性,出血性
脳卒中発症の原因となる.
10.経口ピルは他の因子と合わさる事で脳卒中発症の稀な危険因子となる.低用量ピルは単独で若年者の脳卒
中発症の危険因子とは成り得ない.
11.高脂血症,糖尿病,血漿ホモシステイン濃度は35歳以上で脳卒中発症の危険因子となる.
12.片頭痛は若年患者にとって危険因子となる.特に若い女性にとってはリスクを上昇させる.
13.若年者にとってクラミジア肺炎が危険因子となるかどうかはさらに調査する必要がある.
14.高血圧は若年患者に共通して見られた.
15.家族歴は脳卒中発症の危険因子として重要であり,若年者にとってPFOとの関連は不明確である.
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16.若年者で脳卒中の既往歴の存在は高齢者より稀である.
17.MVPは危険因子としては尐なく,病因となる頻度も尐ない.
18.妊娠,産後の時期は若年女性特有に脳卒中発症のリスクを高くする.これは血圧上昇と関連している.
19. 人種は若年者にとって脳卒中発症の重要な危険因子となる.黒人はリスクが増大する.
20. 若年患者は能力障害が尐なく神経学的な回復がある
21. 若年患者のリハビリテーションは,神経学的な自然回復や社会的な問題の違いを有する高齢者のリハビリ
テーションに類似している.
22. 脳卒中リハビリテーションプログラムは年齢に応じたプログラムが必要性であることを意識すべきであ
る.
23. 若年患者は高齢者と比べて機能的な回復と自立度のレベルは高く達成する傾向がある.一般的な改善の結
果は介護者へのストレスが低く,離別する事も尐ない.
24. 子供の発症前の行動により,脳卒中による適応障害よりもむしろ,脳卒中後の適応障害の予測がより可能
となる.
25. 施設入所は良好な予後や介護者の存在の結果,若年患者にはあまり必要でない.
26. 職業復帰の問題は若年患者にとって重要である.
27. 職場復帰は,発症後の訓練レベル,片麻痺,認知機能障害,機能的な状態に影響される.
28. 若年患者の将来の健康的な不安は,幸いにも最小限である.若年患者は可能な限り長期的に健康を保つこ
との重要性に気付く必要がある.
29. 脳卒中後の鬱と疲労は若年患者で起こる.若年患者は年齢と治療と関連したステージを利用する必要があ
る.
30. 若年患者にとっては組織的な支援と同様の経験を有した人との関わりが必要である.
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