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問題解決能力を養う指導例 臼田 尚之(PDFファイル)

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問題解決能力を養う指導例 臼田 尚之(PDFファイル)
問題解決能力を養う指導例
−
電池の指導を通じて
−
郡上北高等学校
臼田
尚之
1 はじめに
問題解決能力を養う化学の授業の実践例ということで、身近な教材である「電池」を中
心に授業実践を行った。授業を行ったクラスは、受験で化学を選択する生徒がいないクラ
スで比較的時間に余裕を持って、授業がおこなえるクラスである。
2 指導者の意図
「酸化還元反応」の中の、金属のイオン化傾向と電池を中心に取り上げ、特に、我々に
とって身近な物質である電池について、構造や原理について生徒自らが考え、理解できる
授業を目指した。また、科学技術がこれからも、よりよいものを目指して進歩するんだと
いう観点から 、「21世紀の電池」というテーマで生徒に課題を与え、今の電池の問題点
を考えさせ、そこから未来の電池の姿をイメージさせた。
マクロの視点から見れば、地球の環境問題を生徒が考え、日常使用している「もの」に
ついても環境を守るという観点からも考えるようになってほしい。
3 単元案
時 授業内容
限
金属のイ
1 オン化傾
向
自然の事物・
現象の観察
硝酸銀水溶液に銅板を
浸すと表面に銀が析出
し、溶液が銅(Ⅱ)イオ
ンにより青くなる。
酸 化 還 元 なぜ、電気がついたり
2 反 応 と 電 プロペラが回るのか。
池
3 ボルタ電
池
ダニエル
4 電池
ボルタ電池を用いた演
示実験
ダニエル電池を用いた
演示実験
問題の発見
解決への取り組み
なぜ、銀イオンが銀にな 金属がイオンになると
り析出し、銅が銅(Ⅱ)イ はどういうことか。イ
オンになるのか。
オン化傾向について考
える。
電子を中心に酸化還元反 実験により、イオン化
応と電池の関係、及びイ 傾向と電池の正極と負
オン化傾向と電池の正極 極の関係を実験により
と負極の関係を考える。 考える。
どんな仕組みで電流が流 分極について考え、理
れるのか 。
問題点は何か。解する。
どんなしくみで電流が流 気体が発生しないこと
れるのか。なぜ、分極し で、分極しないことの
ないのか。
確認。
実用電池の変遷により、 環境への配慮について
さまざまな実用電池の開 自分なりの考えを持つ。
発の理由などを考える。
実用電池 いろいろな実用電池の
5 (マンガン乾 長所や短所を考える。
電池、蓄
電池)
まとめ(プ 電池について考えよ 現在の電池の問題点から 授業で得た知識を基に
リ ン ト 使 う!
これからの電池に求めら 自分なりの考えを持つ。
6 用)
電池について考えよ れることは何か。
う!(PART2)
燃料電池について理解
する。
4 授業の展開及び生徒の活動
(1) 金属のイオン化傾向
<授業の展開>
①硝酸銀水溶液に銅板を浸し、結果について確認する 。
(演示実験)
②知識として「金属にはイオン化傾向」があるということ、また、イオン化傾向には
「イオン化列」という順序があることを説明する。
また、金属がイオンになるときは 、
「電子を放出する」ことを確認する。
③演示実験の結果を「イオン化傾向」という知識をもとに生徒に考えさせる。
④問題演習をおこなう。(まとめ)
Ⅰ 硫酸銅(Ⅱ)水溶液に亜鉛板を入れるとどんな変化が起こるか。
Ⅱ 酢酸鉛(Ⅱ)水溶液に亜鉛を入れるとどんな変化が起こるか。
⑤自分の答えが正しいかどうか、実験で生徒自らが確認をする。
(2) 酸化還元反応と電池
<授業の展開>
①電池の定義「酸化還元反応が起こると、一般にエネルギーが放出される。このエネ
ルギーを電気エネルギーとして取り出す装置。」
②還元剤の出した電子が導線を経て酸化剤へ移るので、電流が流れる。
[発問]2つの金属から電池をつくるとき、イオン化傾向の大きい方の金属は正極
かそれとも負極になるか。だだし、電子は負極から正極へ流れ、電流は正
極から負極へ向かって流れる。
③電子の流れる方向から、電池はイオン化傾向が大きい方が常に負極になり、イオン
化傾向が小さい方が常に正極になる 。
(まとめ)
(3) ボルタ電池
<授業の展開>
①ボルタ電池による演示実験(プロペラモーター使用。電圧DC 0.4∼1.5V
電流 22∼40mA)
②生徒からの質問「発生している気体は何か?」
③ボルタ電池の正極と負極の反応の説明。
正極:2H + + 2e− → H2
2+
−
負極:Zn → Zn
+ 2e
④一定時間過ぎるとプロペラの回るスピードが落ちることから、電池の起電力が弱く
なる。この現象を分極ということを説明する。生徒は、確かに電池の起電力が弱くな
ったことを実感する。また、減極剤(過酸化水素水)を加えれば、起電力が復活する
ことも演示実験で生徒に確認させる。
19世紀の世界で初めての電池が、こんなにも簡単に作れることに生徒は驚いてい
る。そして、ボルタ電池の欠点が分極を起こすことであり、具体的な方法(解決策)
までは思いつかないが、水素の発生をなくすことで分極は防げることまでは考えるこ
とができるようである。
(4) ダニエル電池
<授業の展開>
①ダニエル電池による演示実験(プロペラモーターはボルタ電池と同じものを使用)
②ダニエル電池に使用している金属である亜鉛と銅のイオン化傾向の大きさの順序を
確認し、既習の知識からダニエル電池の正極と負極でどんな反応が起きているか考え
させる。生徒は、正極がイオン化傾向が小さい銅、負極がイオン化傾向が大きい亜鉛
であることは思いつくがイオン反応式をつくることはかなり難しいようである。
③発問「なぜ、ダニエル電池では分極が起こらないのか」
ダニエル電池の正極の反応と負極の反応を板書し、両極とも気体(水素)が発生し
ていないことを確認する。ほとんどの生徒は、水素が発生しないからとか的を得た答
えを思いつくようである。このことから、ボルタ電池の欠点が「分極」であり、その
改良したものがダニエル電池でいろいろな試行錯誤により、よりよい電池がつくられ
てきたことを生徒に知らせ、今、使っている電池が最良のものではないかも知れない
ことを伝える。
(5) 実用電池(マンガン乾電池、蓄電池)
<授業の展開>
①生徒が比較的よく知っているマンガン乾電池について説明する。生徒は乾電池とま
では答えてもマンガン乾電池やアルカリ乾電池と答える生徒は半分程度である。中に
は単三や単二を電池の大きさだと知らない生徒もいる。
②マンガン乾電池の断面図を見せ質問する。
・正極、負極は何か。
・電解液は何か。また、減極剤は何か。
負極については、ボルタ電池と同じもので亜鉛と答える生徒が多いが、その他の質
問の答えはなかなか返ってこない。教師側から答えを教える。構造が複雑なため、ボ
ルタ電池と同じで亜鉛が負極となり、イオンに変わるときに電子を出してそれが電流
になっている。基本的な原理は今使っている電池でも、変わらないことを説明する。
④次に、車に使ってある電池は何かと聞くと、名前は余り知らないが何人かの生徒が
鉛蓄電池(バッテリー)と答える。古いものを教室に持ってゆき生徒に見せる。初め
て見る生徒がほとんどであるが、興味があるらしく熱心に見ている生徒が多い。
⑤鉛畜電池の構造を説明し、電解液に希硫酸が使ってあることを教える。
2−
−
負極:Pb + SO4 = PbSO4 + 2e
−
2−
−
正極:PbO2 + 4e + SO4 + 2e = PbSO4 + 2H2O
また、上記の式を参考に放電したときに硫酸の量(密度)は増えると思うか減ると
思うかと聞くと、なかなか考えがまとまらない生徒が多い。将来、車を運転していて
バッテリーが弱くなってきたら硫酸(バッテリー液)を補充すればいいことを生徒に
教える。
そして、鉛蓄電池の特徴として充電すればある程度は繰り返し使うことができる二
次電池であることを説明する。生徒に、他の電池で、充電できる電池を知っているか
と聞くと、携帯電話を持っている生徒が多いせいか、名前は知らなくても携帯電話に
使ってある電池と答える生徒が多い。
宿題として 、
「自分が今使っている電気製品の中でどんな電池を使っているか調べ
てきなさい。できれば、実物を持ってくるように」と生徒に伝える。
(6) まとめ
プリントを使用し、これまで学習した「電池」の授業のまとめを行う。
化学プリント
電池について考えよう!(PART1)
①電池はなぜ、電流が流れるの?
[生徒の解答例]
・電流は電子の流れ、金属がイオンになるときに電子を出すから。
②どんな電池を使っている?
[生徒の解答例]
・乾電池、アルカリ乾電池、太陽電池、リチウム電池、ボタン電池
③世界で初めて作られた電池は?また、その構造は?
[生徒の解答例]
・ボルタ電池
正極:銅板、負極:亜鉛板、電解液:硫酸
④車に使ってある電池は?また、その構造は?
[生徒の解答例]
・バッテリー(鉛蓄電池)
正極:酸化鉛、負極:鉛、電解液:硫酸
⑤電池についてわかったことを書こう!
[生徒の感想例]
・電池はけっこう多くの種類があることが分かった。
・電池には電解液があることを初めて知った。
・自分が使っている電池のことが少し分かった。
化学プリント
電池について考えよう!(PART2)
①正極、負極って何?
[生徒の解答例]
・負極:電子をつくる場所
正極:電子を受け取る場所
②自分の知っている電池の正極と負極を調べよう?
[生徒の解答例]
・マンガン乾電池:酸化マンガン(Ⅳ)(正極)
亜鉛(負極)
塩化亜鉛水溶液(電解液)
・アルカリ乾電池:酸化マンガン(Ⅳ)(正極)
亜鉛(負極)
水酸化カリウム水溶液(電解液)
・リチウム電池:酸化マンガン(Ⅳ)(正極)
リチウム(負極)
フッ素の化合物(電解液)
③21世紀の電池は?
[生徒の解答例]
・環境に優しい電池がいい。
・長持ちする電池。
・充電しなくてもいい電池。
・小さい電池。
④燃料電池ってどんな電池?
[生徒の解答例]
・車に使ってある。ガソリンや軽油を使わないため、二酸化炭素をほとんど発
生しない。
・酸素と水素を使う。電気分解の逆の反応が起こる。
・電解液にはリン酸水溶液や水酸化カリウム水溶液が使ってある。
⑤自分が考える未来の電池は?
[生徒の解答例]
・長い時間使える電池。
・環境に優しい電池(二酸化炭素を出さない )
。
⑥授業の感想
・電池について詳しく分かった。
・電池の種類によって正極、負極、電解液が違うことも分かった。
・21世紀には、今の電池よりもいい電池ができるので楽しみです。
「電池について考えよう PART1」と「電池について考えよう PART2」の2
枚のプリントを使って電池についてのまとめをおこなった。普段の授業では、自分たち
の生活や自分たちの興味や関心とは別の話が多いようで、「電池」のように自分たちと
近いテーマの授業にはほとんどの生徒が関心を示してくれた。
電池の原理や実用電池への流れの中で、ボルタ電池の改良型がダニエル電池であり、
この場合は分極を起こしやすいという欠点をなくすための改良が行われた。現在のいわ
ゆる乾電池や鉛蓄電池などの実用電池も今が最良のものではなく、これからの科学技術
の進歩によりさらに良い電池が誕生する。直接、生徒が電池や様々な科学技術の最先端
の現場で開発に携わるわけではないが 、
「課題や問題点」を見付けてそれをなくしてい
く作業はどんな仕事においても共通することだと思う。
今回のプリントの中で、車に使用してある鉛蓄電池(バッテリー)を例に取り地球の
温暖化を防ぐために「二酸化炭素を出す」ことを課題(欠点)として未来の電池につい
て生徒に考えさせた。現在、実用化されつつある電池も含めて、二酸化炭素やその他の
汚染物質を出さないこと、すなわち「地球に優しい」ことがこれらの21世紀の電池の
最も大切なコンセプトであることには、生徒は気がついたようである。また 、「携帯電
話に使用してある電池は何か」とか、電池について興味を持った生徒が質問をしてきた
りこれまでの授業ではあまりなかった現象が起きた。このことからも 、「生徒にとって
身近な教材」を準備し 、
「生徒自らが考える課題」を与えれば能動的に生徒は動くと思
う。
そして、最後に「二酸化炭素を出す」という問題を解決する未来の電池ということで
燃料電池について取り上げた。
燃料電池についての生徒への説明
私たちの生活において必要不可欠な存在である電力。この電力を得るために、様
々な方法で発電が行われている。しかし、この発電方法は、大量な燃料を消費したり、
原子力を利用しても決して無公害とはいえない。そのため、現在無公害な発電方式に
注目が集まっている。その発電方式に太陽電池と並んで「燃料電池」がある。
燃料電池は、水素やアルコールなどの燃料を用いて、絶え間なく電気エネルギー
を得ることが可能で、生成物も水など無公害な物質である。すでに、実用化が始まっ
ており、将来この分野の注目はますます高くなると思われる。
説明の後、PEM燃料電池
(高分子電解質膜を使用して
いるタイプの燃料電池。高分
子電解質膜燃料電池とは、電
解質としてプロトン伝導性高
分子膜を使用している)を使
って演示実験を行った。比較
的使いやすく、値段も手頃な
燃料電池だと思う。生徒の反
応も、ロケットにも積んであ
るとか、いろいろな知識はあ
るが実物は見たことがない生
徒が多く、燃料電池興味を持
燃料電池の種類と特徴
ったようである。
《燃料電池のメリット》
①燃料電池は、直接化学エネルギー
を燃焼過程を通らず電気エネルギー
に変換している。
この際の損出は、燃料電池の各種
分極による発電ロスなどで大体40
%∼60%くら いとなる。エネル
ギーの約半分を電気エネルギーに変
換できる点から非常に高効率な発電
である。その他の発電は20%程度
のものが多い。
②燃料電池の主な燃料としては、陽
燃料電池の基本概念
極は、酸素や空気、陰極は水素やメ
タノール、炭化水素などを利用している。陽極の酸素や空気は、大気が存在する限り無
限にあるといえる。また、酸素も空気に20%含まれている。
③振動、騒音が少なく、NOX や煤塵の排出がほとんどないため非常に環境によい。
④必要な設備が少ないため、小型化ができる。また、大きさによって数キロワットから
数千キロワットまで出力が出せるため、非常に汎用的で使いやすい電源として期待でき
る。
5
考察
生徒にとって比較的身近に感じている「電池」を中心とした単元で、問題解決能力を高
めるための指導を行った。生徒の感想を読んでも 、「いつもの授業より関心があった」と
か 、「分かりやすかった」というものが多かった。自分の興味・関心があることを自分の
頭で考えれば生徒は授業に乗ってくるような気がする。今回の実践では、電池の原理から
どのような電池が発明され、どんな欠点を持ち、どんな改良がなされたか。そして、現在
使われている乾電池やボタン電池、鉛蓄電池など生徒自身が使っている電池についての理
解。また、その実用電池の改良すべき点まで、できるだけヒントを与えながら生徒自らに
考えさせた。生徒の取り組みとしては、自分の持っている知識を使い 、
「未来の電池」に
思いを巡らせていたようである。電池という物質に興味がより深まったことも事実なよう
である。
6
おわりに(まとめ)
「生きる力を培う理科指導の在り方」という研究主題で授業実践を行った。生きる力を
の欠如した生徒が昨今少なからずいることは、社会の事件などを見ても事実だと思う。自
分の生きる力が持てず、他人の生きる力を奪っているような事件が起きている。その一つ
の原因として、自分と社会(日常の生活)との関係が希薄になっていると思う。学校の授
業に限定すれば、学ぶことが自分とは関係のない世界になりつつあるような気がする。そ
こで、今回の実践は 、生徒自身がパソコンや携帯電話などで使っている「電池」を中心に 、
電池の原理や改良すべき点やこれからの電池について考えさせることで 、
自分の頭で考え、
問題解決能力を育成することをねらった授業実践を行った。ある面では、成果はあったと
思う。しかし、短い時間のなかで十分な実践ができなかったと反省をしている。
これからも、この授業実践で得たことを活かして、「生徒の力」になるような理科の授
業を行いたいと思う。
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