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欧州における債券電子取引の現状 - Nomura Research Institute

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欧州における債券電子取引の現状 - Nomura Research Institute
2007 年 5 月
欧州における債券電子取引の現状
∼効果的な債券電子取引の活用∼
本邦ではまだまだ普及していない債券電子取引だが、欧米では債券の電子取引が定着してお
り、現在、約 70 の電子取引プラットフォームが存在している。各社独自の機能を打ち出し、顧客の
取り込みや流動性の向上を図っている。
本稿では、欧州における債券電子取引の浸透状況やその利用方法について、主にバイサイド
の視点から俯瞰し、セルサイド・バイサイド双方にとって効果的な債券電子取引の活用の可能性
について触れてみたい。
欧州投資家の債券電子取引に対する意識変化
元来、相対を中心としてきた債券取引では、特定の債券について、電話で複数社へ問い合わ
せる必要があり、情報収集に手間のかかるものであった。このような引合い時の負担を減らし、複
数価格の同時比較から価格の透明性が向上することが電子取引のメリットの一つとされている。
欧米での電子取引の利用拡大は業者間での取引にとどまらず、対顧客、つまり資産運用会社な
どバイサイドとの取引においても利用が拡大・定着してきている(主な債券電子取引プラットフォー
ムは図表 1 参照)。
図表1:主な債券電子取引プラットフォームベンダー(マルチディーラー型1)
ベンダー/サービス名
Thomson TradeWeb
MarketAxess
Bloomberg BondTrader
特徴
主な対象商品
米国トレジャリー市場大手。36 のディーラーと
2200 のバイサイドを結ぶ。一日当たり取引平均額
は 2000 億ドル。
コーポレート債などのクレジット市場に強い。26 のディー
ラーと 690 のバイサイドが参加。一日あたりの取
引平均額は 140 万ドル
デスクトップターミナルの普及、認知度を強みに展
開。マネーマーケットでのシェアが大きい。また、欧州コー
ポレート債の取扱も多い。
ソブリン債、政府機関債、高
格付事業債、CP、金利スワッ
プ等
エマージング債、ハイイールド債、
高格付事業債、クレジットデリ
バティブ等
ソブリン債、ハイイールド債、高格
付事業債、マネーマーケット、クレ
ジットデリバティブ、先物等
出所:SIFMA、TowerGroup 資料より、野村総合研究所作成
SIFMA2では、2006 年における欧州の債券電子取引に対するアンケート調査を行い、主に欧州
で活動するバイサイド3の回答結果から電子取引動向をまとめている4。
これによると、電子取引の評価については、バイサイドの約 51%が電子取引を『非常に重要』と
認識しており、『重要』と認識するバイサイドも合わせると全体の約 87%を占める結果となる。
1
投資家が希望する銘柄の売買情報を入力すると、複数のディーラーが買値・売値を提示し、投資家は提示され
た複数の価格の中から、より良い提示価格を選択することで取引が執行される仕組み。
2 SIA(米国証券業者協会)と TBMA(債券市場協会)は 2006 年 7 月に統合し、新団体 SIFMA(Securities
Industry and Financial Markets Association、証券業・金融市場協会)となった。
3 バイサイドの割合として、もっとも多いのが運用会社の 43%、次にリテール・コマーシャルバンク(12%)、プライマ
リディーラー(9%)と続く。地域別では英国の 26%がもっとも多く、次に米国(12%)、イタリア、フランス(共に 9%)。
4 “2nd Annual European FIXED Income e-Trading Survey”, SIFMA ,6th February 2007
本レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
Copyright (c) 2007 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
1
2007 年 5 月
また取引額の 60%以上を電子取引で行っているバイサイドは全体の 55%を占める。前年の
2005 年の調査結果と比較するとバイサイドが、電子取引を徐々に取り入れてきており、全体的に
電子取引の割合が増えていることが見て取れる(図表 2 参照)。
図表 3 は、電子取引がバイサイド・セルサイド間の関係に及ぼす影響について、バイサイドがど
のように認識しているのかを示している。これを見ると、「非常にポジティブ」、「ポジティブ」と回答
した割合は全体の 56%に上る。2005 年に行った同様のアンケート結果では、全体の 52%が「中立」
の立場をとっており、「非常にポジティブ」、「ポジティブ」と答えたバイサイドはわずか 18%であった。
このように 2005 年から 2006 年にかけて起きたバイサイドの電子取引に対する急速な意識の変化
は、従来の取引形態に加えて電子取引が重要な選択肢となってきていることを伺わせる。
図表2: 電子取引割合別のバイサイドの分布
35
図表3: 電子取引が取引関係に及ぼすインパクト(バイサイドの認識)
(%)
(%)
60
2005
2006
30
2005
2006
50
25
40
20
30
15
20
10
10
5
0
0
85%以上
60-85%
40-60%
25-40%
10-25%
1-10%
0%
非常にポジティブ
ポジティブ
出所) 2nd Annual European FIXED Income e-Trading
中立
ネガティブ
非常にネガティブ
出所) 2nd Annual European FIXED Income e-Trading Survey
電子取引利用状況
欧州で電話による引合いが、今でも重要なマーケットであることには変わりがない。特に、ABS
や CDS など価格算出に様々なファクターが必要な商品や、CP のような短期商品などは、現在でも
電話を中心に取引が行われている。また取引額面が大きい場合はマーケットインパクトの観点か
ら相対による取引を利用するのが一般的である。このように売買時の状況や商品性が複雑な場
合は、今でも電話での引合いが主要手段として利用される傾向にある。先のアンケートでも、相対
(%)
80
図表4: 欧州における電子取引利用状況(商品別)
2006年
2007(見込み)
70
60
50
40
30
20
10
0
債
国
州
欧
等
リー
債
ド 債
格
シー
ジ ャ
レ
ール
適
ェン
ト
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イ
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ソフ
エ
゙
ンク
ジ
ー
マ
゚
ッフ
スワ
物
先
利
金
※取引の 60%以上が電子取引のバイサイドの割合
出所)
SIFMA 資料より野村総合研究所作成
本レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
Copyright (c) 2007 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
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2007 年 5 月
取引を選択する理由にプライシングの整合性や商品のカバレッジが挙げられており、多様な商品
特性が存在する債券取引において電話を利用した従来の取引形態は重要な役割を占めている。
一方、電子取引は、比較的流動性が高く、コモディティ化された商品である国債や先物を中心
に利用されている(図表 4)。既に確立されたロジックで取引が活発に行われている商品では、複
数の価格を一度に参照できるという利便性が電子取引を利用する一番のメリットとなっている。ま
た、比較的、小額の取引を行うバイサイドを中心に、流動性や即時性といった点から電子取引が
利用されているようである。
このように海外のバイサイドは、取引額面や商品タイプ等の条件に応じて電話での引合いと電
子取引を選択・利用していることが見受けられる。
本邦の動向
日本では、2003 年より国債の振替制度が開始され、業者間取引の約 35%は電子取引で行わ
れている。一方、バイサイドとの取引では、電話での引合いが未だ大半を占め、電子取引は約
1.1%に過ぎない5。
日本における債券取引で、バイサイドに電子取引が普及しないのはなぜなのか。この理由の一
つには、バイサイドからの様々な要求をセルサイドが受け入れている現状が関係しているようだ。
たとえばシステム投資に厳しいバイサイドは、ポートフォリオ管理のために必要な価格データな
どを、指定したフォーマットでセルサイドに送付するよう要望することが多いと言う。セルサイドはこ
のようなバイサイドからの要求を相対取引の副次的サービスとして受けて入れており、営業活動
の一環として各トレーダーが日々対応に追われている。バイサイドにとってはこのようなサービス
を受けられる相対取引への満足度が高く、わざわざ電子取引を行うモチベーションが見当たらな
い状況にある。
このような中、一部のセルサイドでは全てのバイサイド顧客に対して上述のような包括的なサー
ビスを行うことにコスト面で懸念を持ち始めており、解決方法を模索する動きも出てきているようで
ある。電子取引はこのような問題に対する有効な解決策となり得るのではないだろうか。国債のよ
うな流動性の高い商品や取引額が比較的小さい取引について、電子取引の利用を進めることは、
バイサイド・セルサイド双方にとってコスト効率の向上につながると思われる。欧州でのバイサイド
による取引手段の使い分けは、問題解決に向けたヒントとなろう。
先月、Thomson TradeWeb が、アジアの取引時間帯で電子取引を開始した6。当初は米国債の
取引に限定されるようであるが、外資系証券会社 11 社がこの取引に対応すると発表されており、
24 時間体制による電子取引が可能になる。今後は状況を見て銘柄種類を拡大するとのことであ
る。こうした海外サービスの進出が、バイサイドの意識を変化させ、日本でも債券電子取引が定着
するきっかけとなるかもしれない。
本レポートは、日本証券業協会証券決済制度改革推進センターからの委託に基づき、㈱野村総合研究所
金融 IT イノベーション研究部が作成したものである。
5
6
“eJGBs:日本国債の電子取引動向”, CELENT, 2006 年 6 月。
2007 年 3 月 6 日プレスリリースより。
本レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
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