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海洋科学技術センター試験研究報告 第44号
海洋科学技術センター試験研究報告 第44号 JAMSTECR, 44(October 2001) フロートデータ自動処理・品質管理システムの構築 高槻 靖*1 市川 泰子*2 小林 大洋*2 水野 恵介*1 竹内 謙介*2 ARGO計画により平成12年度より展開を開始したプロファイリングフロートのデータを自動処理・提供・品質管理するため,デー タ処理システムを構築した。リアルタイム処理は自動で行われ,フロートが送信を終えてから平均約20時間でデータベースに格納 され,World Wide Webを通じて全世界に公開される。また,遅延品質管理を行うための歴史的データベース及び時空間近傍 データベースを整備し,フロートデータとともに表示させてフロートデータの品質評価を行うことができるようにした。 キーワード:ARGO計画,自動処理,品質管理,データベース,WWW Construction of the automated data processing and delayed-mode quality control system for profiling floats Yasushi TAKATSUKI*3 Yasuko ICHIKAWA*4 Taiyo KOBAYASHI*4 Keisuke MIZUNO*3 Kensuke TAKEUCHI*4 An automated data processing and quality management system for profiling floats of the ARGO project has been constructed. The system automatically processes profiling float data after about 20 hours from its descent, and stores data in the database system. The float data is publicized through World Wide Web. For the quality control of float data, we prepared historical database such as WOA98 and Hydrobase, and collect spatially/temporally neighboring ocean data in geographical/time on GTS via NEAR-GOOS Regional Real-Time Data Base. The system enables us to quality management using such as overlay plot of the float data and historical/neighboring data and so on. Keywords : ARGO project, Automated data processing, quality control, database, WWW *1 *2 *3 *4 海洋観測研究部 地球観測フロンティア研究システム Ocean Observation and Research Department Frontier Observational Research System for Global Change 17 1. はじめに 海面から2,000m深までの水温/塩分の鉛直プロファイルを 測定する中層フロート (プロファイリングフロート) を地球規模 で展開して新しい海洋観測システムを構築する国際的な計 画が2000年から開始した。この計画で用いられるフロートは 機構的にALACEフロート1)と同じタイプであって,設定され た深度(通常2,000m) を漂い,一定期間(通常 10日間)毎に 浮上する。浮上する間に圧力/水温/塩分を観測し,海面に おいて衛星経由でデータを送信する。このようなフロートを 全球で約3,000個運用することで,年間10万点に及ぶ水温/ 塩分データを取得しようとするものがArgo(アルゴ)計画であ る2)。Argo計画は,世界海洋観測システム (GOOS)計画の一 部をなすものであり,気候変動と予測に関する研究計画 (CLIVAR) や国際海洋データ同化実験(GODAE) に寄与す るものであって,国連の世界気象機関(WMO) ,政府間海洋 学委員会(IOC) も支持を表明している。 日本では2000年度からミレニアム・プロジェクトの一つとし て「高度海洋監視システム (ARGO計画) の構築」が5年計画 で開始されている3)。これは我が国独自の計画であるが,国 際的なArgo計画に対する我が国の具体的な取り組みとなる ものである。この計画における観測データ処理・管理に関 して,海洋科学技術センター海洋観測研究部及び地球観測 フロンティア研究システムでは展開したフロートデータの格 納,遅延モード品質管理,データの提供を行う 「データベー スシステム」を担当することとなった。ここでは,この「データ ベースシステム」 として平成12年度に整備したフロートデータ 自動処理・品質管理システムについて紹介する。 2. システムの概要 Argo計画では,データ品質管理はデータ取得後1∼2日間 以内になされる自動品質管理とデータ取得後3ヵ月以内にな される遅延データ品質管理の2段階で行われる。本システ ムではサーバ上でデータ取得から自動品質管理までを行う リアルタイム処理と,PC上の品質管理用プログラムによって 歴史的データや他の現場データと比較し,フロートデータの 品質フラグやデータの補正を行う遅延データ品質管理処理 の両方を行う。本システムの概要を図1に示す。本システム は海洋科学技術センターの内部ネットワークで稼動させるた め,外部からのデータ取得には海洋科学技術センターのメー ルサーバ経由のE-mail及び firewallを通じたtelnet/ftpを用 いている。また,外部へのデータ提供はセキュリティの問題 があるため,現段階ではhttpプロトコルを使用したWorld Wide Webによることとした。データはデータベースシステムに よって管理することとし,SQLによって操作する。 3. システムの構築 システムの構築にあたっては,以下の点を念頭において 設計をおこなった。一つはフロートデータの受信から自動品 POP3(E-mail) telnet ftp JAMSTEC Firewall データベースサーバ ・フロートデータデコード、 データベース登録 ・データベース フロート情報管理 フロートデータ 品質管理用データ (WOA, HydroBase, NEAR-GOOSデータ) データ取得・更新(フロート情報) Webサーバ ・Webページ自動生成 ・httpサーバ 外部ネットワーク » Japan ARGO Delayed-mode Data Base (http://w3.jamstec.go.jp/ARGO/) » Japan ARGO project (http://w3.jamstec.go.jp/J-ARGO/) http http SQLによる問い合わせ/更新 品質管理PC ・フロートデータと品質管理用データの比較 ・データ品質フラグの更新 ・データの補正 » フロート情報管理システムWeb (http://floatdb2.hq.jamstec.go.jp:28080/) システム管理PC ・フロート情報登録・確認 ・サーバ管理用コンソール 図1 フロートデータ処理システムの概要 Fig. 1 Conceptual drawing of the data processing system for profiling floats. 18 JAMSTECR, 44(2001) 質管理, Webページによる提供までを原則として自動で行い, システムに障害があった場合でも可能な限り稼動を続ける システムとすること。もう一つは品質管理作業を行う際に,で きるだけデータベース等の知識を必要としないで操作できる ようにすることである。プログラム作成にあたっては,メンテ ナンスの容易性を重視してスクリプト言語であるperlを主に 用い,グラフィックツールとしてIDLを用いた。 3.1. システムの対障害性向上 サーバ部のハードウェア構成を図2に示す。システムが ハードウェア障害等によってサービスを停止しないように,同 じ構成のサーバマシン2台を用意し,クラスターソフト (VERITAS Cluster Server) を双方のサーバマシンに導入した。クラ スターソフトは直結したEthernetによって双方のサーバマシン の動作状況を監視するとともに,管理下のソフトウェアの稼動 状況を定期的に監視している。管理下のサービス機能毎に 仮想的なホスト名 (データベースサーバ機能に対してfloatdb1, Webサーバ機能に対してfloatdb2) とIPアドレスが与えられて おり,仮想的なホストにアクセスすることによって,ユーザーは そのサービスが実際にどちらのサーバマシンで実行されてい るかによらず,機能に対するホスト名でサービスにアクセスす ることが可能となる。本システムでは,通常マシンfloat1adm 上でデータベースサーバ(floatdb1),マシンfloat2adm上で Webサーバ (floatdb2)が起動しているが,どちらかのサーバ 機能に障害が生じた場合には,障害が生じたマシンのサー ビスを停止させ,他方のサーバマシンからそのサービスが提 供されるようになっている。 また,データベースファイルに障害が生じた場合にデータ の復旧を容易に行えるよう,自動バックアップソフト (VERITAS NetBackup)及びDLTテープチェンジャーを用いて,毎 日データベースのバックアップを行っている。現在は,最低7 日間はテープ上にバックアップデータが保存されるように設 定している。 システム全体は不慮の停電等からシステムを保護するた めに無停電電源装置に接続されており,停電が10分間以上 続いた場合にシステムを自動停止させるようにしている。停 電から復旧した際には,自動でシステムが再起動する。 3.2. フロートデータの自動処理 本システムではフロートデータを一定時間間隔で自動処理 している。自動データ処理フローを図3に示す。以下,各段 階に分けて詳述する。なお,3.2.1∼3.2.4節の処理はデータ ベースサーバで,3.2.5節の処理はWebサーバで行われる。 3.2.1. データの取得・仕分け フロートからのデータ通信はARGOSシステムを利用して いる。2001年7月現在,5つの極軌道衛星がARGOSシステム に使用されている。ARGOS用衛星は高度830km,周期102 分,軌道面速度毎時西向き25° の太陽同期の極軌道を航行 しているため,低緯度では二つの衛星の場合1日に6-7回, 極付近では1日に28回飛来し,飛来毎に8∼15分間程度通信 可能となる4)。ARGOSシステムでは通常2衛星が受信した データだけが処理されるが,multi-satellite Serviceを利用す ることによって運用中の全ての衛星が受信したデータを取得 センター内ネットワークへ float1adm SUN Enterprise 220R 2CPU, 2GBメモリ 18GB HD x 2 (RAID 1) データベース サーバ機能 (floatdb1) システム コンソール (CRT, キーボード) SUN StorEdge A1000 36GB HD x 6 (RAID 5) システム監視 SUN Enterprise 220R 2CPU, 2GBメモリ 18GB HD x 2 (RAID 1) Webサーバ機能 (floatdb2) float2adm :通常時 :システム障害時 SUN StorEdge L280 DLT tape autoloader (Drive:1, Slot:8) SUN StorEdge A1000 36GB HD x 6 (RAID 5) RAID 1構成 (ミラーリング) センター内ネットワークへ UltraWide SCSI Ethernet 図2 サーバ部のハードウェア構成 Fig. 2 Hardware components of Database server and Web server. JAMSTECR, 44(2001) 19 1. データ取得・仕分け 2. データデコード デコードプログラム 90 40 仕分けプログラム ARGOS ID別の ファイルに追加 ARGOS ID別 作業ファイル (一時ファイル) ・データ重複チェック ・CRCエラーチェック ・データブロック毎の最頻出現パターンの検出 ・フロートタイプ別にフロート内部情報及び 1時間毎にファイル監視 12時間更新がなかった プロファイルデータへの変換 3. 自動品質管理 70 2001/ 4/ 1 - 2001/ 6/29 N= 1776 30 60 50 20 40 30 20 10 場合にデコード処理、 作業ファイル消去 0 0 0 ・観測値範囲チェック ・深度逆転チェック ・傾きチェック ・スパイクデータチェック ・位置データチェック 5 10 15 20 25 Delivery time after transmission (hour) 図4 4. データベース登録 データベース登録プログラム 80 10 自動QCプログラム ・統計情報の更新 ・データの登録 100 Receive Ratio (%) JAMSTEC E-mail取得 POPサーバー プログラム E-mail(POP3)[1時間毎] 50 Frequency (%) telnet [6時間毎] ARGOS telnet取得 システム プログラム フロートデータ データベース 5. Webページ更新 衛星における受信からE-mailに配信までに要する時間の頻 度分布とデータ受信率の時間経過。配信時刻とは,衛星に おける受信時刻からE-mailの配信時刻までの時間である。 2001年4月1日から6月29日までにフロートデータを受信した衛 星の通過全1776回について示した。 Fig. 4 Histogram and cumulative receive rate as a function of the delivery time after transmission. Webページ作成プログラム ・海盆規模地図ページの更新 ・12度格子地図ページの更新 ・フロート別軌跡ページの更新 ・プロファイル図ページの作成更新 ・プロファイル別T-S図ページの作成更新 ・フロート別T-S図ページの作成更新 ・断面図ページの作成更新 ・データファイルの更新 ・検索ページの更新 3時間毎にDB監視 新規登録更新のあった フロートのページ更新 1日1回全ページを更新 図3 自動データ処理のフローチャート Fig. 3 Flowchart of automatic float data processing. している。ARGOSシステムで1度に送信できるデータ量は最 大32バイトであり,フロートが1回の浮上毎に送信するデータ (フロートの内部情報及び約60層において測定した圧力,水 温,塩分データ) は約400バイトになるため,フロートは通常12 から14個のブロックにデータを分割して順に送信している。 ARGOSシステムの制約上,現時点までに投入したフロートに 搭載しているARGOS送信機(Platform Transmitter Terminal; PTTと呼ばれる) の送信周期は44秒ないし90秒であるため, 衛星1回の飛来の間に全データの通信を終えることは難し く,また浮上中の位置がARGOSシステムによって得られるた め,フロートが海面に浮上している間の全てのデータを集め ることが必要となる。ARGOS衛星が受信したデータは地上 局を経由してE-mailによって送付される。なお,現在のEmail配信設定では受信処理した全てのメッセージが配信され ることになっているが,月単位で送られてくるフロッピーディス クの内容と比較するとE-mailでは送付されていなかったデー 20 タが時々見られたこと,また,E-mail配信途上におけるトラブ ルの影響を避けるために,6時間毎にtelnetによってARGOS サービスにアクセスし,これによってもデータを取得している。 E-mail及びtelnetで取得されたデータはARGOSのID毎に データを仕分け,後の処理のためにそれぞれ作業ファイルに 保存する。仕分けの際,ARGOSデータの形式でないE-mail はエラーメールとして処理される。 ARGOSシステムにおいてE-mailによる配信までに要する 時間の頻度分布を図4に示す。この所要時間には衛星が地 上局の上空へ移動するまでに要する時間も含まれる。40% 以上のデータが1時間以内に配信されており,98%以上の データは受信から12時間以内に配信されていた。最も時間 を要したものは約22時間であった。衛星の飛来間隔が2∼3 時間毎であること,衛星での受信から配信まで20時間以上 要するものもあること,さらに,ARGOSシステム側で位置デー タが再計算されることがあるため,現在はE-mail及びtelnet によって新たなデータが12時間以上追加されなかった場合 にデコードを開始するように設定している。E-mailとtelnetで 並行してデータを取得しているため,通常の運用ではデコー ド処理が実行されたあと新たにデータを取得したことはな い。万一新たにデータを取得することがあった場合でも, データにプロファイル番号情報が含まれていればデータ登録 時にデータベース側で重複データとしてエラー処理される。 しかし,プロファイル番号が含まれていない場合は新規デー タとして登録されてしまうため,確認の上データベースから削 除する必要がある。全ての処理はジョブレポートに記録され JAMSTECR, 44(2001) ているため,デコード状況とフロートのスケジュールとの照合 確認は重要である。 3.2.2. データのデコード 受信されたデータには通信途上でのエラーが含まれてい る可能性がある。このため,32bytesの通信データには始め の1byteに残りの31bytesから計算される8bitsのCRC(Cyclic Redundancy Check, 巡回冗長検査) が含まれている。CRCは 通信上おこりやすいバースト誤り (連続したビット誤り) を検出 するのに効果的で,このCRCによって受信したデータの約 20%にエラーが検出されている5)。1回の浮上ごとに平均 120個のデータが受信されるが,CRCエラーのものを除くと平 均90個程度となる。フロートデータは12∼14個に分割されて いるので全てのブロックが揃わないとフロートデータ全体を デコードすることができないが,2001年7月までのブロック毎 25 N: 3135 Average: 5.4 Median: 5 Frequency (%) 20 15 10 5 0 0 5 10 15 Number of Recieve Message 図5 データブロック毎のエラー無し受信数の頻度分布 Fig. 5 Histogram of duplicate number for each data message block. の受信個数(図5) を見ると,受信がなかったブロックが約 1%あった。これは10本のフロートがそれぞれ1回浮上する 毎に不完全なプロファイルが1組生じるほどの確率である。 実際には受信個数が0であるブロックが特定のプロファイル に片寄っているため,これまでに得られた235個のプロファイ ルのうち,不完全なプロファイルは10個と,5%以下である。 8bitsのCRCの場合,1/2 8の確率で検出できないビットエ ラーがおこりうる。実際にフロートから送られてきたデータで もCRCでエラーを検出できなかったエラーが生じた例が幾 つかある (図6) 。しかし,このようなエラーが複数含まれる確 率はかなり低いため,処理の際に出現頻度の高いパターン を用いることでエラーデータを除いている。出現頻度に差が ない場合や1つしか該当ブロックのデータがなかった場合 は,誤ったデータである可能性があるため,ジョブレポートに 記録している。 3.2.3. 自動品質管理 Argo計画では,自動品質管理については全世界共通とす ることで合意している。現在その具体的な内容について討 議が進められており,2001年9月に開催予定のArgo Data Management Team Meetingにおいて決定される見込みであ る。自動品質管理の内容が決定次第,それに従った処理を 行う予定であるが,それまで自動品質管理を行わないことと すると,誤ったデータがWWWを通じて公開される危険性が ある。そのため,現在はGTSPP(全球水温塩分プロファイル 計画)Real-time Quality control Manual6)を参考にして,以下 の自動品質管理を行っている。 1)位置のチェック: ARGOS衛星での受信周波数のドップ ラーシフト量から位置が計算されている。このようにし て決定される位置はフロートの浮上中に平均して10点 程得られているが,これらの位置と時刻から計算され るフロートの漂流速度が5kt以上,かつ浮上期間中の平 均漂流速度の2.5倍以上でないかどうかチェックする。 2)水温,塩分,深度の全球レンジチェック: 外洋において 通常観測しうる水温−2∼35度,塩分0∼40,深度0∼ 10,000mのレンジを外れていないかチェックする。 図6 CRCでエラーを検出できなかったエラーデータの例 Fig. 6 Example of error data that passed CRC check. JAMSTECR, 44(2001) 21 3)海底深度チェック: フロートの浮上位置に最も近い深度 とフロートデータの最深層とを比較 データ (ETOPO5 7)) して,深度の方が浅くないかチェックする。 4)圧力値逆転チェック: 圧力値が順に増加しているか チェックする。 5)深度別レンジチェック: 深度毎に表1に示した水温/塩 分のレンジを外れていないかチェックする。 6)氷点チェック: 水温が次の式8)によって計算される結氷 温度以下になっていないかチェックする。 T=−0.0575 S+1.710523 E−3 S3/2−2.154996E−4 S2 −7.53E−4 P ここで,S; 実用塩分,P; 圧力(dbar) である。 7)スパイクチェック: 温度,塩分の鉛直分布に次の式で 計算される値がしきい値(水温は2.0度,塩分は0.3) よ り大きなスパイクがないかチェックする。 Vtest=|V2− (V3+V1)/2|−|V1−V3 |/2 ここで,V2がテストする層の値,V1とV3はテストする層 の直上と直下の層の値である。 8)勾配チェック: 温度,塩分の鉛直分布に次の式で計算 される値がしきい値(水温は10度,塩分は5) より大きな 勾配がないかチェックする。 Vtest=|V2− (V3+V1)/2 | ここで,V2がテストする層の値,V1とV3はテストする層 の直上と直下の層の値である。 9)密度逆転チェック: 温度,塩分から計算される密度に 逆転がないかチェックする。 以上のチェックで該当した場合に,データフラグを3(疑わ しい値) としている。 3.2.4. データベース登録 デコードの結果得られた圧力/水温/塩分値,フロートの内 部情報,ARGOSによって得られた全ての位置情報,品質管 理後のデータフラグに加えて,ARGOSが受信したメッセージ 数,最終更新日時等の管理情報をデータベースに登録する。 後の品質管理において観測値の補正やデータフラグの変更 がなされる場合には,全ての変更履歴と変更前の値がデー タベースに記録される。 3.2.5. Webページの自動更新 Webページの構造は現在図7のようになっている。このう ち,自動更新されるページについては,3時間毎に新規登録/ 更新データの有無をチェックし,該当するフロートデータに関 連するページが自動作成/更新される。また,24時間毎に全 ページの更新を行っている。 3.3. フロート情報管理 フロートのタイプやシリアル番号,フロートの投入情報,漂 流時間/浮上時間の設定等のメタデータはフロートによる観 測データと同様にデータベースに登録している。データベー スへの登録/更新は操作を容易にするためにWebブラウザ を通じて行う(図8)。これらのページは内部ネットワークだ けで使用するものであるので,フロート情報管理専用に別途 httpサーバを稼動させている。 3.4. フロートデータの品質管理 Argo計画では水温0.005度,実用塩分0.01を目標精度とし ているが,電気伝導度センサーは微妙な物理的変形や表面 / 表1 自動品質管理の深度別レンジチェックに用いるしきい値 Table 1 Range check value of temperature and salinity for each depth range used for automatic quality control. Depth Range Temperature (meters) (degree C) Salinity (PSS78) –2.0 to 37 –2.0 to 36 –2.0 to 36 –2.0 to 34 –2.0 to 33 –2.0 to 29 –2.0 to 27 –2.0 to 27 –1.5 to 18 0 to 40 0 to 40 1 to 40 3 to 40 3 to 40 3 to 40 3 to 40 10 to 40 22 to 38 0 to 25 >25 to 50 >50 to 100 >100 to 150 >150 to 200 >200 to 300 >300 to 400 >400 to 1100 >1100 to 3000 22 J_ARGOj.html (日本語ページトップ) J_ARGOe.html (英語ページトップ) images/ (ボタンなどのイメージファイル) WHATs_ARGO/ (ARGO計画についての解説等) search.html,search-e.html(検索ページ) argo/ search-nj.html,search-e-nj.html image/ (ボタンなどのイメージファイル) java/ (JAVAクラスファイル) map/ (海域毎/12度格子の地図ページ) float/ 29032/ 29033/ (WMO番号毎の フロートデータ) 29054/ map/(フロート毎の軌跡図) profile/(プロファイル図) t-s/(T-S図) danmen/(時間-深度断面図) data/(データファイル) : プログラムによる自動作成/更新ページ 図7 アルゴ計画高品質データベース (Japan ARGO Delayed-mode Data base)のWebページの構造。アドレスはhttp://w3.jamstec.go.jp/ARGO/ である。 Fig. 7 World Wide Web Site structure of the "Japan ARGO Delayed-mode Data base" (http://w3.jamstec.go.jp/ARGO/). JAMSTECR, 44(2001) の汚れによって大きな精度低下がおこる可能性が高いた め,長期にわたって精度を保つのは困難である。安定度を 高めた電気伝導度センサーの開発が現在も進められている が,投入されたセンサーのデータ品質管理も重要である。こ れまでにもFreeland 9)やBacon et al. 10)によってフロートによって 得られた塩分を歴史的データや時空間近傍データを用いて補 正することが試みられてきた。海洋科学技術センターにおいて もARGO計画の中で品質管理手法の検討を進めている11)。 本システムでは,フロートデータと歴史的データとの比較 (図9) ,フロートデータ相互の比較,時空間近傍データとの比 較をPC上で行い,画面上でフラグを変更し,データベースを 更 新 で きるようにして い る 。 歴 史 的 デ ータとして , NODC/NOAA(アメリカ海洋大気庁海洋データセンター) によ るWorld Ocean Atlas 1998 12)とARGO品質管理用に準備した Hydrobase 13)データをデータベースに登録している。なお,時 空間近傍データはNEAR-GOOS(北東アジア地域GOOS) RRTDB(地域リアルタイムデータベース)14)が扱っているGTS を経由して得られた全球の表層水温/塩分データを毎日自動 でftpによって取得し,比較用データベースに登録している。 4. 考察 本システムは2001年4月1日よりWWWを通じたデータの公 開を開始した。これまでに,スクリプトの設定ミスのために ファイルシステムが一杯になってしまい,データベースサーバ が止まってしまったことがあったが,それ以外には大きな問 題もなく自動処理が行われている。今後Argo計画がさらに 進められていく中で検討している点を以下に掲げる。 4.1. 全Argoフロートへの対応 現在のシステムでは,海洋科学技術センターが投入したプ ロファイリングフロートのみを対象としてシステムが構築されて いる。2000年10月に開催されたInternational Argo Data Management Group meetingでは,統一したフォーマットでフ ロートデータを取り扱うことと,全てのデータは二つのグローバ ルセンターを通じて交換することが合意された。統一フォー マットは2001年9月に開催予定のArgo Data Management Team Meetingにおいて決定される予定である。フォーマット が決定し,グローバルセンターが稼動開始したときには,海洋 科学技術センターのデータベースにも全てのフロートデータを 格納し,海洋科学技術センターにおいても全球のフロートデー タを提供できるように,システムを改良する予定である。 50 図8 フロート情報管理システムのトップページ Fig. 8 Top page of the "Float information management system." 100 90 Frequency (%) 40 80 N: 152 Average: 19.7 Median: 19.3 32.2 Max: Min: 12.3 30 20 70 60 50 40 30 10 20 10 0 Ratio of Processed profile (%) 4.2. リアルタイム処理の所要時間 現在,フロートが送信を終えて沈降してから自動処理に よって全てのリアルタイム処理が終了するまでに要する時間 は12∼32時間である (図10) 。平均の処理時間は約20時間 であり,90%以上については24時間以内に処理を終えてい 0 10 15 20 25 30 35 Decode delay time after float descent (hour) 図9 フロートデータ品質管理プログラムの表示例:フロートデータと 歴史的データ (WOA98) との比較画面 Fig. 9 Sample screen shot of the "Float data quality control program." Comparison graph of Float data and historical data (WOA98). JAMSTECR, 44(2001) 図10 フロートデータの自動処理に要する時間の頻度分布 自動処理によってデータベースに登録されたプロファイルについ て,フロートが送信を終えて沈降してからデータをデコードして データベースに収めるまでに要した時間の頻度分布を示した。 Fig.10 Histogram of demand time between the float descent time after transmission and decode time of the float data. 23 る。ミレニアム・プロジェクトの目標である長期予報精度の向 上のためには,リアルタイムデータをすみやかにモデルに同 化することが望ましい。フロートデータのリアルタイム処理に 要する時間を短縮するには,最も時間を要しているデータ取 得に要する時間の短縮と,現在一律に12時間と設定してい るデコード処理前の待機時間の検討が必要である。データ 取得時間の短縮には,ARGOSシステム以外の衛星通信シス テムの導入も候補の一つとなる。 5. まとめ ミレニアム・プロジェクトの一つである 「高度海洋監視シス テム (ARGO計画) の構築」における観測データ処理・管理の ために,展開したフロートデータの格納,遅延モード品質管 理,データの提供を行う 「データベースシステム」 としてフロー トデータ自動処理・品質管理システムを構築した。本システ 4.3. エラーデータの復元 すでに3.2.2節で触れたように現在の通信システムではエ ラー率が高く,配信されたブロックのデータ全てにCRCエラー が 検 出されることが おこりうる。S h e r m a n 1 5 )が 実 施した ARGOSのパフォーマンステストの結果によると,1の連続と1と 0の繰返しの二つのパターンにおいてエラーの性質に差がな いため,ARGOSで生じるエラーは単純なビット落ちというより はノイズバーストのために幾つかのビットが連続してエラーを 生じていることが多いとしている。図11はCRCエラーが生じ たデータのみ受信された一例であるが,バーストエラーのた めに多くのビットが反転してしまっているものもあれば,ほんの 数個のエラーだけのものもある。しかし,たとえエラーが含ま れていても,複数個受信できていればビット毎に比較すること によって最も確からしいデータ列を再構成し,CRCを計算す ることによって復元できる可能性がある。図11のデータをこの ようにして復元した例を図12に示す。デコード結果を検討し ながらこのような作業を行うことにより,データを少しでも復元 することが望ましいため,品質管理用PC上でエラーデータの 復元を手軽に行えるよう検討を進めている。 0 5 20 40 60 80 100 120 15 20 25 0 500 1000 1500 2000 34.0 4.4. 遅延品質管理の効率化 海洋科学技術センターにおける遅延品質管理は原則として海 洋科学技術センターが投入したフロートについて行うが,計画の 進展に伴い品質管理を行う対象のフロートが増加するため,品 質管理作業を支援するデータ品質評価プログラムを定期的に実 行させ,そのレポートをもとに効率良く品質管理作業を進めてい く必要がある。どのようなレポートを作成することが品質管理作 業に役立つか検討し,システムに組み込む必要がある。 10 34.5 23 24 25 35.0 26 27 28 図12 図11のビットエラーを補正することにより得られたデータ (図中★) Fig.12 Example of recovery data from bit error shown in Fig. 11. 140 160 180 200 220 240 Error# #1 8 #2 7 #3 92 #4 1 #5 96 Good Error 図11 ARGOSデータに見られるビットエラーの発生例 Fig.11 Example of bit error in ARGOS message. 24 JAMSTECR, 44(2001) ムはフロートデータの自動リアルタイム処理と遅延高度品質管 理の二つの側面をもっている。自動リアルタイム処理によりフ ロートの浮上から1∼2日間でデータをWWWを通じて公開し て いる。また ,品 質 管 理 作 業 の た めに 歴 史 的 デ ータ (WOA98, Hydrobase)及び時空間近傍データを用意し,フ ロートデータと画面上で比較できるようにした。 2001年度には全Argoフロートへの対応, エラーデータの復元, 遅延品質管理の効率化を念頭においた改良を計画している。 謝辞 ワシントン大学のD. Swift氏には,ワシントン大で運用して いるプロファイリングフロートのデータ処理システムについて, また,アメリカ海洋大気庁(NOAA)大西洋海洋・気象研究所 (AOML) のR. Molinari氏をはじめとするGOOSセンターの 方々にはGOOSセンターにおける品質管理処理に関して御 教授いただいた。ここに深く感謝いたします。 参考文献 1)Davis, R. E., Webb, D. C., Regier, L. A. and Dufour, J., "The Autonomous Lagrangian Circulation Explorer (ALACE)", J. Atm. and Oceanic Technol., 9 (3), 264-285 (1992). 2)Roemmich, D. and W. B. Owens, "The Argo project: global ocean observations for understanding and prediction of climate variability", Oceanography, 13, 45-50 (2000) 3)水野恵介, "高度海洋監視システム (ARGO計画) 構想に ついて", 日本造船学会誌, 854, 485-490(2000). 4)CLS/Service Argos, Users Manual 1.0. (CLS/Service Argos, Inc., January 1996). 5)中島宏幸, 高槻靖, 水野恵介, 竹内謙介, 四竃信行, "アルゴフロートの通信状況", 海洋科学技術センター試 験研究報告, 44, 153-161 (2001). JAMSTECR, 44(2001) 6)IOC, Manuals and Guides #22 "GTSPP Real-time Quality control manual" (1990). 7)NOAA, Data Announcement 88-MGG-02, Digital relief of the Surface of the Earth. (NOAA, National Geophysical Data Center, Boulder, Colorado, 1988). 8)UNESCO, "Algorithms for Computation of Fundamental Properties of Seawater." UNESCO Technical Papers in marine science, 44 (1983). 9)Freeland, H., "Calibration of the Conductivity Cells on PALACE Floats", 1997 U.S. WOCE Report, 37-38 (1997). 10)Bacon, S., L. R. Centurioni and W. J. Gould, "The Evaluation of Salinity Measurements from PALACE Floats", J. Atm. and Oceanic Technol., 18(7), 1258-1266 (2001). 11)小林大洋, 市川泰子, 高槻靖, 須賀利雄, 岩坂直人, 安藤 健太郎, 水野恵介, 四竃信行, 竹内謙介, "高品質気候学 データセット (HydroBase) を用いたアルゴデータの品質管 理 I ", 海洋科学技術センター試験研究報告, 44, 101-114 (2001). 12)NOAA, World Ocean Atlas 1998 (WOA98), (NOAA, National Oceanographic Data Center, Ocean Climate Laboratory, April 1999). 13)Macdonald, A. M., T. Suga and R. G. Curry, "An isopycnally averaged North Pacific climatology", J. Atm. and Oceanic Technol., 18 (3), 394-420 (2001). 14)吉田隆, 豊嶋茂, "NEAR-GOOSにおけるデータ管理の 現状と展望", 月刊海洋, 33(5), 311-316(2001). 15)Sherman, "Observations of Argos Performance", J. Atm. and Oceanic Technol., 9 (6), 323-328 (1992). (原稿受理:2001年7月31日) 25 付録:プロファイリングフロートのデータフォーマット 現在までに海洋科学技術センター/地球観測フロンティア 研究システムによって投入されたフロートは,ARGOSシステ ムを用いてデータを転送している。データは32bytesの16進 数表記で転送される (図A1) 。データフォーマットには現在2 種類あり,図A2にそれを示す。水温(T) ,塩分(S) ,圧力(P) への変換は次の式で行う。ここで,BHは上位バイト,BLは下 位バイトの値(それぞれ0x00-0xFF[10進数で0-255]の範囲 を取る) を示す。 [タイプA1] T=(BH*256+BL)/1000 S=(BH*256+BL)/10000+30 P=(BH*256+BL)/10 (℃) (in PSS78) (dbar) [タイプA2] T=(BH*256+BL)/1000 (℃,但し0≦(BH*256+BL)≦62536の場合) T=(BH*256+BL-65536)/1000 (℃,但し (BH*256+BL)>62535の場合) S=(BH*256+BL)/1000 (in PSS78) P=(BH*256+BL)/10 (dbar) また,電源電圧値(V) ,フロート内の圧力値(p) ,ピストン モーターの駆動時間(t) は次の式による。ここで,Bは該当バ イトの値,BH/BLはそれぞれ上位/下位バイトの値である。 V=B/10+0.6 p=B*-0.376+29.15 t=(BH*256+BL)*2 (V) (inHg) (sec ※タイプA2のみ) なお, 「前回の沈降直前における海面での圧力」にはエン コードの際に5dbarが加えられているので,上の式で変換し た後に5dbar差し引く必要がある。 これら以外の項目は該当バイトの値そのままがその項目 の値となる。 26 図A1 ARGOSシステムより送付されるデータの例 青で示した第1行目はARGOSシステムによる位置等の情報 である。緑で示すように,各メッセージには送信日時と繰り返 し受信数が付加されている。データは4bytesずつの8文字に 区切られて送られる。冒頭の0は省略されていることに注意 が必要である。赤で示したメッセージは図A2(a) に示すタイ プA1の第1メッセージである。 Fig. A1 Sample messages from ARGOS system. 表A1 プロファイル終了フラグ (16進表記) Table A1 Data table of "Profile termination flag byte" in hexadecimal notation. 値 内容 00 海面値まで圧力値が到達(正常終了) 02 圧力値が0になった 04 圧力値が25分以上変化しない 08 海面到達前にピストンが伸び切った 10 海面到達前に上昇時間が過ぎてしまった (タイプA1のみ) JAMSTECR, 44(2001) JAMSTECR, 44(2001) (a) (b) 図A2 (c) 現在運用中のプロファイリングフロートのデータフォーマット (a)タイプA1の第1メッセージ(b)タイプA2の第1メッセージ(c)第2メッセージ以降 Fig.A2 Data format arrangement of profiling floats in operation. (a)First message of type A1(b)First message of type A2(c)Other messages 27