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1 学習カード『子どもに経験させたい運動の世界 20
69
69
No.
[企画]みんなの体育編集委員会
学習カード『子どもに経験させたい運動の世界 20』の活用
岡野 昇,加納 岳拓,矢戸 幹也
シリーズ 21 基本の運動で使える楽しい運動遊び
体つくり運動に生かせる運動遊びについて考える⑴
信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明
学習カード『子どもに経験させたい運動の世界 20』の活用
三重大学教育学部教授 岡野 昇
四日市市立内部東小学校教諭 加納 岳拓
四日市市立三重北小学校教諭 矢戸 幹也
1
されている「体力を高める運動」の 4 つの行動体力の
はじめに
観点とのつながり,③他者とのかかわりを重視した学
本稿では,三重大学教育学部保健体育科教育学研
習形態とのつながりを重視しており,この 3 点が一体
究室から発行しました『子どもが夢中になる運動の世
となった運動を,私たちが「子どもに経験させたい運
界づくりカードシリーズ2 子どもに経験させたい運
動の世界」と位置づけています。
動の世界 20(2011.10.10 初版発行)
』
(下図)につい
①の運動領域とのつながりは,体つくり運動・器械
て紹介します。本カードは,
『子どもが夢中になる運
運動系・陸上運動系・ボール運動系・表現運動系領域
動の世界づくりカードシリーズ1 体力を高める運動
とリンクする「身体さばき(身のこなし)
」を育みたい
(2009.7.25 初版発行)
』の続編で,主として小学校の
という意図があります。また,②の行動体力とのつな
先生方に,体育の授業で活用してもらうことを目的と
がりは,体の柔らかさを高めるための運動・巧みな動
した学習カード(A6 版,全 48 ページ)です。
きを高めるための運動・動きを持続する能力を高める
本カードで取り上げた運動は 20 種類あり,三重大
ための運動・力強い動きを高めるための運動とのつな
学教育学部で開講されている「小学校専門体育Ⅰ」の
がりを考慮した運動を取り上げることで,子どもたち
授業で行われた 200 以上の運動の中から精選し,カー
の体力を向上させたいという意図があります(カード
ドの表面に運動をイラストで示し,裏面ではその運動
にイラストで表示:図1)
。そして,③の学習形態との
のねらいや行い方,留意点などについて解説してあり
つながりは,個人・個別学習から 図 1
ます。
ペア学習へ,一斉型学習から円形
型学習へ,班別学習からグループ
学習へと,一人では成り立たない
運動を組織することにより,協同
的な学びを推進したいという意図
があります。
▲カード例 No.11(表)
▲カード例 No.11(裏)
運動の選定規準は,①学習指導要領に明示されて
いる各運動領域とのつながり,②学習指導要領に明示
次からは,20 の運動の中から5
つを取り上げて,詳しく紹介して
いきます。
2
運動の紹介
(1)体つくり運動(No.1 ペアストレッチ)
(2)器械運動系(No.6 丸太転がり)
【ねらい】
【ねらい】
2 人組になって行うストレッチ
●体の柔らかさを高め
るための運動
下の子は上下軸の回転感覚を,
で,相手の体に応じて,相手の気持
上の子は左右軸の回転感覚を,仲
ちのよさや痛みを感じ取りながら,
間と一緒に遊びながら身につけて
体をほぐし合うと同時に,心もほぐ
いくことを大切にする運動です。
し合うことを大切にする運動です。
【行い方】
【行い方】
1 人が,4 人に対して垂直にバ
たり,両手を上にゆっくりと引っ張ったりゆすっ
ンザイをして仰向けで寝転びま
たりしながら肩甲骨や背中を伸ばします。
す。
関節を回します。また,足の裏を押し,アキレス
腱やふくらはぎを伸ばします。
③背中合わせに立ち,真横に伸ばした両腕を肩の高
さまで上げ,相手と肘を交差させ手のひらを合わ
せます。肘が下になっている人が腕を前に閉じる
ことで相手の肩甲骨の周りをほぐします。
【解説】
るための運動
●力強い動きを高める
ための運動
① 4 人が並んで寝転び,その上に
①座った人の後ろに立って,首筋をゆっくり伸ばし
②仰向けに寝ている人の足元に立ち,膝を閉じて股
●体の柔らかさを高め
②上の子の頭の方向に向かって,下の 4 人が丸太の
ように転がり,上の子を運びます。
③上の子は首あたりまでマットに落ちたら,バンザ
イをしたまま後転をします。
【解説】
上の子は,後転をする直前まで全身の力を抜いて
寝転がり運んでもらいましょう。首がマットに着く
ときぐらいに,運んでもらっている勢いを利用す
ペアストレッチを行うときは,お互いに声を掛け
るとともに,腹筋にフッと力を入れて膝を頭の奥に
合ったり,一つの運動を 10 秒ほど続けたりしなが
持っていくとスムーズに後転できます。転がろうと
ら,相手の体の様子や調子を聴くことを大切にしま
するとき,首に力が入っていたり,手をマットにしっ
しょう。また,ペアを毎時間変えて行うことで,人
かりと着いたりしてしまうと回転が止まってしまい
によって体の硬さが違うことに気づき,相手に合わ
ます。自然な転がりになるためには,首を横に傾け
せた力加減を考えた運動の仕方を経験することがで
て肩越しに転がったり,力を抜いてバンザイをした
きます。
まま手の甲を着いて回転するとよいでしょう。
柔軟性を高めると同時に,相手からの働きかけを
自分の力だけで体を操作し無理に転がろうとする
積極的に受け容れ,対応するといった,すべての運
のではなく,体の力を抜くことを意識しましょう。
動の基礎となる「身体つかい」を経験することがで
力を抜き,体の重さや勢いなどを回転に利用するこ
きます。
とで,滑らかで自然な転がりになるというマット運
■このほかに,「ペアコミュニケーション」「円形コ
動で大切な身のこなしを経験することができます。
ミュニケーション」「背中合わせ立ち」の運動が
■このほかに,「ペア転がり」「跳び乗り遊び」「鉄
あります。
棒遊び」の運動があります。
(3)陸上運動系(No.9 玉取り遊び)
(4)ボール運動系(No.13 10 秒おにごっこ)
【ねらい】
【ねらい】
玉(玉入れ用の玉)をどちらが
●巧みな動きを高める
ための運動
鬼役(攻め役)と逃げ役(守り役)
先に取ることができるかという遊
に分かれて,10 秒間でどちらが
びを通して,脱力した体の状態か
勝利するかを競い合うことで,相
ら,合図と同時に力を入れる体へ
手や状況に応じた位置取りをする
切り替えることを大切にする運動
ことを大切にする運動です。
です。
【行い方】
①ペアを組み,置いた玉から同距離(約 50㎝)の
●巧みな動きを高める
ための運動
●動きを持続する能力
を高めるための運動
【行い方】
「3人組鬼ごっこ」(※)の場合:
頭(鬼役)
・胴体・しっぽ(逃げ役)
位置にお互いに背中を向けて自然体(軽く足を開
の役に分かれる。
き,力を抜いた状態)で立ちます。
①頭・胴体・しっぽの順に横一列で手をつなぎます。
②目を閉じて,静かに合図を待ちます。
②頭はしっぽにタッチするか,胴体としっぽが離れ
③合図と同時に目を開けて振り返り,置いてある玉
を相手よりも先に取ります。
【解説】
てしまったら,頭の勝ちです。
※ 2 人組,4 人組,5 人組の鬼ごっこもあります。
【解説】
相手を変えたり,玉までの距離を変えたりして行
鬼から逃げ切れるか,逃げ切れないかのギリギリ
うこともできます。また,
距離を変えるときにスター
の局面が常に味わえる運動です。時間が短く,追い
トの姿勢なども変えると,様々な身のこなしを経験
かける(逃げる)相手が明確なため,単に走るので
させることができます。合図を出す側が,合図を出
はなく,小刻みなステップや切り返し,上半身を使っ
すまでの時間に変化をつけることで,子どもたちは
たフェイントなどの機敏な身のこなしが生まれてき
スタートの音に耳を澄ませ,スタートを切る集中力
ます。また,役割を変えて何度も繰り返したり,行
を高めることもできます。
う時間を変化させたりすることによって,巧みな動
玉までの距離やスタートの方法,合図のタイミン
きだけではなく,持久力も身につきます。
グなどの変化をつけたときに,合図の前から体に力
相手に向かっていく,立ち止まる,待つ,膝を曲
が入っていると,変化に対応できずにスタートが遅
げて重心を落とすなどの「身体つかい」,鬼やつな
れます。様々な変化を与えることで,より体の力を
がっている仲間との間隔(間合い)をつかむなど
抜いた自然体で待つ方が,音への反応や動き出しが
の動きは,ボールゲームにつながる身体経験です。
速くなることを実感することができます。陸上運動
相手や状況に応じた体さばきやポジショニングは,
の短距離走におけるスタートのように,止まった状
ボール運動の中でも,学習指導要領で取り上げられ
態から一気に力を入れる動きを行うときに必要な身
ている「ボールを持たないときの動き」に主につな
のこなしを経験することができます。
がる経験となります。
■このほかに,「玉置き遊び」「なわ跳びリズム走」
■このほかに,「フリードッジボール」「ハート入り
「ホップ・ステップ・ジャンプ」の運動があります。
キャッチボール」「円陣ボール遊び」の運動があ
ります。
(5)表現運動系(No.20 なりきり遊び)
3
おわりに −効果的な活用法−
紹介してきたカードは,主として三重県内を中心
とした学校現場や学びの共同体を展開している学校
で活用され,主な活用場面として,体育授業やレク
リエーション・キャンプ活動,親子活動,縦割り班
遊びなどがあげられます。体育授業における本カー
ドの効果的な活用法として,「各運動領域の単元学
習の導入場面として取り上げる」「体つくり運動の
【ねらい】
●巧みな動きを高め
るための運動
内容(運動)を毎時間の準備運動として取り入れる」
新聞紙の形や動き,新聞紙から
「紹介された運動の条件を難しくすることで,質の
伝わってくる様子を感じながら,
高い学習課題を設定する」「取り上げたい内容(運
自由に思いのままに即興的に表現
することを大切にする運動です。
●動きを持続する能力
を高めるための運動
動)のカードを用途に応じたサイズで複写し,学習
資料(掲示用,学習カード用など)として子どもに
提示する」などがあげられます。
【行い方】
①ペアになり,新聞紙を「操る役」と,新聞紙の動
きのまねをして「操られる役」を決めます。
②「操る役」は,新聞紙を揺らしたり,丸めたり,
投げたり,破ったりします。
③「操られる役」は,新聞紙の様子(イメージ)を
まねします。
【解説】
また,本カードは「『全国体力・運動能力等調査』
に基づく子どもの体力向上学校支援事業(文部科学
省)」を推進する三重県教育委員会事務局スポーツ
振興室(現在は三重県教育委員会事務局保健体育課)
からの委託を受けて編集したものです。そのため,
今年度初めに三重県内すべての小学校にカードが配
布され,県内三地区においてカードに基づいた小学
校体育担当者研究協議会(体育実技研修)が開催さ
まずは「操る役」を教師が行い,新聞紙を揺らし
れました。カードを活用される際は,闇雲に運動を
たり,傾けたり,折ったり,丸めたり,広げたり,
子どもたちに提示するのではなく,背景にある意味
投げたり,破いたりするとよいでしょう。子どもた
を吟味・理解しながら,その意味が立ち上がるよう
ちがペアになって活動するときには,新聞紙の様子
な学習指導を心がけたいものです。そのためにも,
をより感じられるように,
「操る役」は新聞紙を大
まずは先生方自身がカードを活用した校内研修を企
きく動かしたり,「操る役」自身も大きく動いたり
画・実践するなど,子どもが堪能する運動の世界を
すると,「操られる役」が表現しやすくなります。
感じてほしいと思います。そして,子どもたちと共
活動に慣れてきたら,新聞紙を操作するスピードや
に運動し,笑い,汗を流すことを願っています。
大きさに変化を加えたり,ペアを変えたりグループ
を組んだりして,両方の役が経験できるようにしま
しょう。
表現運動(遊び)の中でも「非定型−即興型」の
活動であるため,自分なりの新聞紙のイメージを膨
らませ,
新聞紙になりきることを大切にしましょう。
《本稿で紹介したカード》
子どもが夢中になる運動の世界づくりカードシリーズ2
子どもに経験させたい運動の世界 20
三重大学教育学部保健体育科教育学研究室,2011 年
そうすることで,他者の動きに合わせて即興的に表
現するおもしろさを経験することができます。
■このほかに,
「リズムダンス」
「フォークダンス」
「の
りのり遊び」の運動があります。
編者:
山本 俊彦 岡野 昇
伊藤 暢浩 加納 岳拓
篠原 充 矢戸 幹也
柳瀬 慶子 植野 このみ
シリーズ 21
基本の運動で使える楽しい運動遊び
体つくり運動に生かせる運動遊びについて考える⑴
体育館
でも
行えます !
信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明
1
はじめに
今号では,
「体つくり運動」に生かせる運動遊び
3
体つくり運動に生かせる
運動遊びの紹介
体つくり運動では,何となく目新しい運動や,特
を取り上げて,その学習指導について考えていくこ
別な運動を教材化してみたくなるものです。しかし,
とにします。
生涯スポーツに向けた学習内容である「身体運動へ
体つくり運動の内容には,
「体ほぐしの運動」と,
のなじみ」を大切にする授業では,子どもが取り組
高学年の「体力を高める運動」
,低・中学年の「多
みやすい運動や身近なものを使った教材づくりから
様な動きをつくる運動
(遊び)」
が位置づいています。
授業を展開したほうがよいと考えられます。
特に「多様な動きをつくる運動(遊び)
」では,「バ
(1)2人組で行う運動遊び(2人組で遊ぼう!)
ランス・移動・用具操作・力試し・動きの組み合わ
容易に達成できる「原型となる運動遊び」からス
せ」といったカテゴリーから,将来の体力向上につ
タートして,スモールステップで運動を変化(メタ
ながっていく基本的な動きを総合的に身につける学
モルフォーゼ)させて動き方を難しくしていく教材
習が目指されています。
づくりです。中核となる「動ける感じ」を崩さない
すでに多くの授業実践や教材の情報が紹介されて
いますから,それらを参考にしながら子どもの実情
に合わせた教材づくりを考えていくことは,教師と
ことが教材化へのポイントです。
①なべなべ底抜け(手をつないだ2人組から集団へ)
①
②
③
しての腕(専門性)の見せどころといえるでしょう。
2
体つくり運動の教材のポイント
現代っ子の多くは,体を動かすことや,動きを学
習することにあまり「なじみ」がありません。その
ここを
抜けて!
発展
❶
❷
ため,誰もが容易に取り組めて達成できるやさしい
運動(課題)から教材づくりを始めることが重要に
なってくるのです。そのうえで,学習指導要領をよ
りよく具現化するための情報(解説・指導資料・パ
ンフレット)に示されている運動例にアレンジを加
えて活用する工夫や,他の運動を教材として取り上
げる視点を持ちながら,もっと自由な発想から構想
していくことで,教材を単調化させないことが大切
になります(教材づくりのモノトニー現象)
。
実際の授業においても,子どもを発展的・意欲的
に学習活動に取り組ませてあげるには,「スモール
ステップで動き方を難しくする」「挑戦する課題を
集団化する」
「対戦や競争のしかたを変化させる(相
手を変える・ジャンケン・リレー形式等)
」「記録(時
間・距離・回数)に挑戦する」
「動き(課題)を組み
合わせる」
といった工夫が求められてくるでしょう。
(注):シリーズ名の「基本の運動」は,旧学習指導要領における運動領域名です。
【基本の遊び方】①2人組で向かい合い,手をつなぐ。「なべなべ
底抜け」のコールに合わせて,つないだ腕を振る。②「底が抜け
たらかえりましょ」のコールに合わせて,お互いに体を回転させ
て,外側を向いた背中合わせになる。③背中合わせでもう一度,
「な
べなべ底抜け」のコールに合わせて,つないだ腕を振る。「底が
抜けたらかえりましょ」で,お互いに体を回転させて,向かい合
わせになる。これを繰り返す。
【発展的な遊び方❶】「片足」で行う。片足で立っているのでひね
りの局面が難しくなる。上げている側の足でバランスをとりなが
ら行う。
【発展的な遊び方❷】①他のペアと一緒になり,グループをつくる。
全員で手をつないで内側を向いた輪をつくる。②基本の遊び方と
同様に,コールに合わせて,つないだ腕を振った後,先頭となる
1人が誰かの腕の下をくぐり,全員が順番に輪の外側に出て,外
側を向いた輪をつくる。③外側を向いた輪でもう一度,同様にコー
ルに合わせて,全員が順番に輪の内側に入って,内側を向いた輪
をつくる。2グループずつ一緒になって,4 人→ 8 人→ 16 人と
グループの人数を増やして繰り返し行う。
③ジャンケン足開きゲーム
②またいでくるりん戻し
トンネルくぐり
① A
B
②
A
B
➡
④
③
B
A
➡
【行い方】①2人組で両足を閉じて向かい合う(気をつけの姿勢)。
②ジャンケンをして,負けたほうが,足を開いていく。開き方は,
かかとを支点につま先を開き,次に負けたらつま先を支点にか
かとを開くことを繰り返す。③足が開けなくなったり,バラン
スを崩して倒れてしまった人の負け。
B
A
④バランス崩しゲーム
しゃがんでピョンピョンバランス崩し
【行い方】①2人組で向かい合い,
しゃがむ。②ぴょんぴょん跳ねな
がら,「両手」で押し合って相手
のバランスを崩す。押してよいの
はお互いの手のひらだけ。③手を
着いたり,転んでしまった人の負
け。初めは,足を閉じて行い,慣
れてきたら足を開いて行う。
【行い方】①2人組で向かい合い,手をつなぐ。②BさんがA
さんとつないだ腕の上をまたぐ。③手をつないだまま,Aさん
はBさんの「足のトンネル」をくぐり抜ける。④立ち上がって,
くるりんと回って元の体勢に戻る。動き方のパートを交代して
行う。慣れてきたら,
相手の体に触れずに行うことを目標にする。
手をつないでバランス崩し
手の輪くぐり ⇨ 図A
人間知恵の輪 ⇨ 図B
【行い方】①2人組で,お互い
の右足外側を着けてライン上に
立ち,足を開いてラインを踏む。
②右手をつないで,前後左右に
バランスを崩し合う。ラインか
ら足が離れたり,転んでしまっ
た人の負け。
この運動遊びは,発達段階(手足の長さ)の関係で低
学年の子どもには難しいため,中・高学年で取り組むと
よいでしょう。つないだ手は握り替えたり,離したりし
なくても知恵の輪をほどくことができます。初めの段階
では,
「体の柔らかさ」や「巧みな動き」に関心を持たせ
て,スムーズに人間知恵の輪を行うことを目標にします。
慣れてきたら,イラストで示した以外のほどき方を発見
するよう促します。
※上記2つとも,対戦相手を変えたり,個人やチームでの対戦や勝ち
抜き戦を行ってもよい。
図A 手の輪くぐり
①
②
③
④
➡
【行い方】①2人組で向かい合い,手をつなぐ。お互いにつない
でいる腕を「輪」に見立てて,その輪を縦にする。②初めに,1
人ずつ,自分の出している腕と反対側の足から輪をまたぐ(例:
左腕を右足でまたぐ)。③次に,もう片方の足でも輪をまたぎ越
して,輪の中に入る(背中合わせになる)
。④最後に,お互いに
体をひねりながら片方の腕を上げて回転し,元の向かい合わせの
体勢に戻る。慣れてきたら,またぐ足の順序を変えたり,相手の
体に触れずに行うことを目標にする。
図B 人間知恵の輪
②手をつないだまま,姿勢を
低くする。初めに,1人が
自分の右腕を「右足・左足」
の順にまたいで,両足を外
側に出す。続いて,もう一
人も同様に行う。
★知恵の輪になるまで
①2人組で,向
かい合い,手
をつなぐ。
★知恵の輪をほどくまで
④Aさんが頭を下げ
おじぎの姿勢をと
る。このまま,へ
そを中心に時計回
りに回転する。
A
⑤Aさんはおじぎの
姿勢のままで,つ
ないでいる子(B)
の左腕の下を通り A
抜けるまで,時計
回りに回転する。
B
➡
⑥通り抜けた
ら,体を起
こして背中
合わせにな
る。
③2人とも両足
を外側に出し
たら,手をつ
ないだまま,
腰を抜いて立
ち上がる。
➡
⑦最後に,お互
いに体をひね
りながら片側
の腕を上げて
回転し,元の
体勢に戻る。
《レジ袋》
片足ケンケンバランス崩し
レジ風船でポンポン
両手 片手
ケン
ケン!
ケン
ケン!
ケン
ケン!
ケン
ケン!
【両手での行い方】2人組で向かい合い,片足ケンケンで跳ね
ながら「両手」で押し合って相手のバランスを崩す。
【片手での行い方】①2人組で向かい合い,上げた側の足を片
手で持った片足立ちになる。②片足ケンケンで跳ねながら,
「片
手」で押し合って相手のバランスを崩す。
※押してよいのはお互いの手のひらだけ。上げていた足を地面
に着いたり,転んでしまった人の負け。対戦相手を変えたり,
個人やチームでの対戦や勝ち抜き戦を行ってもよい。
(2)身近なものを使った運動遊び(新聞紙でチャレンジ!)
身近にある新聞紙をモチーフにした教材づくりで
レジ袋を上下に
振って,空気を
入れ,口を結ん
で「 レ ジ 風 船 」
を作る。
【行い方】①初めは手のひらや甲で打ち上げ,慣れてきたら頭
や膝など,いろいろな体の部位を使って落とさないよう打ち上
げる。②強く扱うと空気が抜けてしまうため,ソフトタッチで
レジ風船(用具)を扱うことが大切になる。打ち上げる回数を
競ったり,友達の周りを回って移動したりする。
※「ぱーんち」や「しっぽとり」で新聞紙ごみが出るので,ご
みをレジ袋に詰めて“ゴミゴミボール”を作る。その流れで
レジ袋でも運動遊びを行う。
す。個々の運動遊び(課題)ができるようになると,
記録に挑戦したり,それを集団化したり,いろいろ
なゲーム(対戦・リレー・競争など)へと発展的に
《新聞紙とレジ袋》
ゴミゴミボールの作り方 (小学校体育ジャーナル 51 号,55 号参照)
①レジ袋に新聞紙4∼5枚を入れて
ボールを作る。②ふわっとさせたら
入り口を結んででき上がり。ボール
の機能を単純化しているため,持ち
やすい,当たっても痛くない,落と
しても転がらないなどの特徴がある。
変化させることができます。そのため「バランス・
移動・用具操作・力試し・動きの組み合わせ」といっ
たカテゴリーからみても,あるいは「体ほぐしの運
動」
「体力を高める運動」といった視点からみても,
有効な運動(プログラム)となっています。
《新聞紙》
①投げ上げキャッチのバリエーション
投げ上げキャッチ
①まほうのじゅうたん
【 行 い 方 】 両 手 で 投 げ 上 げ て,
両手でキャッチする運動遊び
(課題)
。バリエーションの原型
となるため,その場から動かず
に行うことを目指す。慣れてき
たら,できるだけ高くボールを
投げ上げることを目指す。
【行い方】2人組で新聞紙を使って行う運動遊び。1人が新聞紙
の上に立ち,もう一人が新聞紙の端を持つ。2人で息を合わせて,
1人がジャンプ,もう1人が新聞紙を着地点まで移動する。ジャ
ンプする人は,新聞紙が破れないように柔らかく着地する。
②落とさず走ろう
【行い方】新聞紙を胸に当てて
落とさないように,10 ∼ 20
秒程度走る。直線的に走るだ
けではなく,友達とぶつから
ないよう気をつけながら,い
ろいろなコースで走る。
③ぱーんち
【行い方】友達の持っている新聞紙に,
握り拳でタイミングよくパンチを当
てて破る。一点に集中して力を発揮
できることが大切になる。
④しっぽとり
【行い方】「ぱーんち」の後,破
れた新聞紙でしっぽを作って付
け る(30 ㎝ 程 度 の 長 さ )
。2人
組で,狭い空間で「しっぽとり」
を行う。人数を増やして四角形
に区切られたコートで行う「しっ
ぽとり鬼」に発展させてもよい。
手たたきキャッチ
【行い方】両手で投げ上げて,両手でキャッチす
るまでの間に手をたたく。最初は3回,慣れて
きたら 5 回以上を目標にして行う。
「投げ上げ・
手たたき・キャッチ」と,次に行う運動を先取
りしながら動くことが大切になる。
地面にタッチして立ち上がりキャッチ
【行い方】両手で投げ上げて,地面にタッチし
てから,立ち上がって両手でキャッチする。慣
れてきたら,ボールからいったん視線を離して
から,再び落ちてくるボールを見つけてキャッ
チすることを目標に行う。あらかじめボールの
軌道を描き出す力が芽生える。
地面におなかを着けて立ち上がりキャッチ
【行い方】両手で投げ上げて,地面におなかを
着けてから,立ち上がって両手でキャッチする。
低学年では体力的に難しいチャレンジだが,中・
高学年においては体力を高める挑戦的課題とし
て有用な運動遊び(課題)である。一瞬で体を
支える力を発揮できることが大切になる。
背中でキャッチ
②スタートの合図で,全員が同時に,中心に置いてあるボールを
取りに行き,自分の陣地まで持って来る。運んだボールはフー
プの中に置く。その後は,他の2チームの陣地のどちらからで
もよいのでボールを取って自分の陣地へ運ぶ。ボールを取りに
来た相手チームの
B
邪魔(ディフェン
ス)はできない。
1人が一度に運べ
るボールは1個。
ボールは投げて置
いてはいけない。
【行い方】キャッチ方法の変化として,両
手で投げ上げたボールを背中側に回した
両手でキャッチする。慣れてきたら,ボー
ルを目で追わず,カンを働かせてキャッ
チすることを目指す。あらかじめボール
の軌道を描き出すことが大切になる。
またの間から投げ上げキャッチ
【行い方】投げ上げ方の変
化として,またの間から投
げ上げて,頭越しに落ちて
くるボールをキャッチする。
柔 ら か く 体 を 使 う 要 領 や,
あらかじめボールの軌道を
描き出すことが大切になる。
A
②仲間と一緒に投げ上げキャッチ(課題を集団化)
サークルキャッチ
①各自がゴミゴミボールを持ち,サーク
ル(円形)を作って立つ。
②息を合わせて(タイミングよく)ボー
ルを投げ上げたら,全員が同じ方向に
移動して,隣の友達の投げ上げたボー
ルをキャッチする(例:時計回り)。
③慣れてきたら,サークルの径を大きく
して挑戦することを目指す。
C
③相手チームと上手にすれ違いながら,自分の陣地(フープ)へ
ボールを運び,
ボールを3個集めることができたチームの勝ち!
(身体能力の高い
チームには,距離
B
を少し長くした二
等辺三角形の頂点
に陣取らせること
で,互いの競争力
を調整する。)
A
ラインキャッチ
①各自がゴミゴミボールを持ち,
ライン上(直線)に並び立つ。
②息を合わせて(タイミングよ
く)ボールを投げ上げたら,全員が同じ方向に移動して,隣の
友達の投げ上げたボールをキャッチする。
③移動で押し出された子(端の子)は,並んだ友達の後ろを素早
く移動して,ラインの反対側の端でボールをキャッチする。慣
れてきたら,ラインの人数を増やして挑戦することを目指す。
4
C
まとめにかえて
優れた教材はたくさんありますが,やはり目の前に
いる子どもたちの実情に合わせてアレンジを加えて
あげることが,教材づくりのおもしろさだと思います。
本稿では,一つの運動例やモチーフからさまざま
な変化を生み出していく観点とともに教材づくりを
③三角ボール集め競争
紹介しました。それらを,体つくり運動の教材を考
①6人で行う。1辺が3∼
5m の三角形になるよう
にフープを置く。2人1
組で3チームを作り,そ
れぞれのフープ(自分の
陣地)に立つ。人数分の
ゴミゴミボール(6個)
を中心に置いて準備完了。
えていくための「入り口(たたき台)」として,もっ
と自由な発想で子どもたちに身体運動の楽しさを伝
えていただきたいと考えています。
【参考文献】
B
A
小学校体育ジャーナル 69号
●企 画 みんなの体育編集委員会
●発行人 石津 正文
●編集人 近藤 茂
●発行所 株式会社 学研教育みらい
平成24(2012)年10月発行 ※この冊子は,環境に配慮した紙,インキ,CTP方式で製作しています。
C
1)髙橋健夫・林恒明・藤井喜一・大貫耕
一編著『体育科教育別冊⑧ 基本の運動
の授業』大修館書店,1992
2)木村真知子「体育は何を育てる教科か」
『体育科教育』大修館書店,1997.11
3)文部省『学校体育実技指導資料第 7 集
体つくり運動 - 授業の考え方と進め方 -』
東洋館出版社,2000
4)髙橋健夫・三木四郎・松本富子・藤井喜一・
長谷川聖修編著『体育科教育別冊⑱ 体
ほぐしの運動』大修館書店,2000
5)村田芳子他編『
「体ほぐしの運動」活動
アイデア集』教育出版,2001
6)金子明友『わざの伝承』明和出版,2002
7)三木四郎『新しい体育授業の運動学』
明和出版,2005
8)文部科学省『小学校学習指導要領』東
京書籍,2008
9)文部科学省『小学校学習指導要領解説
体育編』東洋館出版社,2008
10)文部科学省『多様な動きをつくる運動(遊
び)
パンフレット』
,2009
11)髙橋健夫・小澤治夫・松本格之祐・長
谷川聖修編著『体育科教育別冊 新し
い体つくり運動の授業づくり』大修館書
店,2009
12)髙橋健夫監修『小学校体育科教師用指
導書 1 ∼ 6 年』学研教育みらい,2010
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9300003634
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