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黒部川水系 - 新エネルギー財団
Jp.04_黒部川水系 IEA 水力実施協定 ANNEX 11 水力発電設備の更新と増強 第二次事例収集(詳細情報) 事例のカテゴリーとキーポイント Main: 1-c) 水系一貫水資源管理(総合開発計画、水利権等) Sub : 1-a) 国および地方のエネルギー政策 2-c) 土木建築分野の技術革新、適用拡大、新材料 プロジェクト名 :黒部川水系一貫開発 国、地域 :日本、富山県 プロジェクトの実施機関 :関西電力株式会社 プロジェクトの実施期間 :1961 年~2000 年 更新と増強の誘因 :(B)環境劣化、(C) 発電機能向上の必要性、(F)事故・災害 キーワード :水系一貫開発、流況改善、流砂系管理 要旨 水系一貫開発とは、河川最上流部に貯水池を設けて、河川の年間流況を改善し、さらに河川 の落差および流量を余すことなく利用して、水系全体で同時に大きなピーク出力を得ようとす るものである。我が国においては、一河川一事業者開発の思想があり、このことが水系一貫開 発の構想を大きく進歩させた。そのうちの一つである黒部川水系は、国内屈指の多雨地帯かつ 急流河川であることから早くから水力適地として知られていた。黒部川水系における水力開発 は 1927 年の柳河原発電所に始まり、下流から上流へと開発が進められた。戦後、当社は最上 流に大貯水池(黒部ダム)を建設し、水系一貫の要とする計画を立てた。黒部ダムの完成によ り下流流況は著しく改善され、これを有効に活用するべく、当初の開発順位とは逆に上流から 下流に向かって開発が進んだ。 また、流入土砂量が極めて多く、ダムにおいては顕著な堆砂に悩まされてきた経験から、出 し平ダムの建設においては抜本的な堆砂対策として、フラッシング排砂を実施するための排砂 ゲートを設置した。下流の宇奈月ダムと連携したフラッシング排砂を実施することにより、土 砂対策についても水系一体となって対策を実施しているところである。 1. プロジェクト地点の概要(改修前) 黒部川水系は、北アルプスの中央、鷲羽岳(2924m)を源流に立山連峰と後立山連峰を分 断し、渓流を集め日本海へ流れる全長 85kmの流量豊富な河川である(図―1)。黒部川一 帯は国内屈指の多雨地帯(年間降雨量 4000mm)であり、さらに平均河川勾配 1/40 の急流 河川であることから早くから水力適地として知られていた。 黒部川に着目し、調査が開始されたのは 1920 年頃であった。その後、1927 年の柳河原発 電所の完成を皮切りに、上流に向かって黒部川第二発電所(1936 年)、黒部川第三発電所 (1940 年)と順次に開発した。この後、第二次世界大戦を経験し、戦後の電力再編成によ り発足した当社は、我が国の電源構成が新鋭火力ベースに移行し、水力は大貯水池式ピーク 負荷用とする時代になったことに鑑み、最上流に大貯水池(黒部ダム)を建設し、水系一貫 の要とする計画を立てた。 図-1 黒部川水系位置図 2. プロジェクト(更新/増強)の内容 2.1 誘因及び具体的なドライバー ① 状態、性能、リスクの影響度等 (B)-(a) 環境劣化―堆砂の減少 黒部川水系における土砂流出量は年間約 140 万 m3 であり、出し平ダム築造時には、ダ ムへの流入土砂量が貯水容量に対して非常に多いこと、掘削・浚渫を行う場合、峡谷と いう立地上の制約から土砂運搬等が困難なこと、放置すると下流の河床低下、海岸浸食 問題なども発生することから、水系全体を俯瞰した適切な土砂管理が必要であった。 (F)-(a) 事故・災害―修復 1995 年の大出水時に出し平ダムでは推定約 340 万 m3 の土砂が流入した。また、黒部 川第二発電所付近の河床は約 10m 上昇し、放水口が埋没するなど発電支障を来たした。 ② 価値(機能)の向上 (C)-(a) 発電機能向上の必要性―増設、出力・アワー増 水力発電はピーク負荷対応電源として、出力(kW)を重視した上で、水系の落差や流量 を最大限活用するための水力発電所の増強計画が立案された。 ③ 市場における必要性 (該当なし) 2.2 経 緯 1927 柳河原発電所運転開始 1936 愛本発電所運転開始 1936 黒部川第二発電所運転開始 1940 黒部川第三発電所運転開始 1947 黒薙第二発電所運転開始(支流、黒薙川における開発) 1961 黒部川第四発電所運転開始 1963 新黒部川第三発電所運転開始 1966 新黒部川第二発電所運転開始 1985 音沢発電所運転開始 1991 出し平ダム初回排砂実施 1993 新柳河原発電所運転開始(柳河原発電所除却) 1995 黒部川水系大水害(大出水) 、出し平ダム緊急排砂実施 2000 宇奈月発電所運転開始 2001 出し平ダム・宇奈月ダム連携排砂開始 2.3 内 容(詳細) 1- a) 国および地方のエネルギー政策 1956 年から 1959 年までの調査によりまとめられた「発電水力調査書(第4次)通商産 業省公益事業局編 1960.3」において、経済的に開発可能な包蔵水力の算出の仕方として水 系ごとの一貫開発による水力資源の有効活用が示された。 1- c) 水系一貫水資源管理(総合開発計画、水利権等) 1951 年に電力会社は現在の体制に再編されたが、 「一水系の開発を一社に委ね、総合的 な開発を期待する」という考えと「発電された電気が主に消費されている地域の電力会社 に帰属(潮流主義) 」により、関西電力が効率的な開発を推進した。なお愛本発電所以降の 下流においては、愛本新用水土地改良区が1箇所(530kW)、北陸電力が 6 箇所(33,200kW) で河川水有効利用の観点から発電を実施している。 2- c) 土木建築分野の技術革新、適用拡大、新材料 出し平ダムの湛水池は、貯水容量に対し豊富な流入量があることから貯水位の低下操作、 回復操作が容易であり、また狭隘な貯水池で河川勾配が急であることからフラッシング排 砂が効果的である(図―2) 。よって排砂ゲートを用いたフラッシング排砂により洪水時に 土砂を放流している。フラッシング排砂にあたっては下流にある宇奈月ダムとの連携排砂 を実施している。運用のイメージは、図-3に示すとおりである。 CAP: 総貯水容量 year MAR: 年間平均流量 貯水池寿命 (=CAP/MAS) MAS: 年間平均土砂流入量 Unazuki Dashidaira Kurobe Sakuma 1/ 貯水池回転数 (=CAP/MAR) year 図-2 フラッシング排砂の可能性評価 Unazuki Dam Dashidaira Dam Drawdown 水位低下 Dashidaira Dam Unazuki Dam Flushing through a low-level outlet 下部ゲートを用いたフラ ッシング排砂 Dashidaira Dam Unazuki Dam Refill 水位回復 図-3 連携排砂・通砂の仕組み ・点検・保守、止水、流水や土砂のコントロールを目的として、図-4に示すようにスライドゲート、 ラジアルゲート、ローラーゲートを組み合わせた排砂設備を開発した。 排砂路 Flushing channel スライドゲート メンテナンス用 Slide gate For maintenance Radial gate For prevention of seepage ラジアルゲート Flow ローラーゲート Roller gate Moving protection flame For flushing control ゲート脚柱 図-4 出し平ダム排砂設備の概要 ・抜本的な土砂対策として、設備面では放水路トンネル付替えと放水口移設、放水庭改良、防 護壁設置、運用面では毎年湛水池内の土砂移動、洪水時の排砂という数種類を組み合わせ た土砂管理方法を構築した(図-5)。 (放水口を堆砂影響の ない所へ) 発電支障を解消② ①①新黒部川第二発電所 新黒部川第二発電所 放水路トンネル設置 放水路トンネル設置 (延長≒1.4km) (延長≒1.4km) ② 黒部川第二発 電所放水庭改良 新黒部川第二 発電所 ※2 路 黒部川第二 発電所 毎年、現状の河床を維持す る為、土砂移動工事を実施 (※1~※4) ① 【新設】 新黒部川第二発電所放水 口の位置を下流側へ変更し、 発電支障を解消 ② 【既設を改良】 黒部川第二発電所の発電 支障を解消 ③ ④ 【新設】 黒部川第二発電所 猫又合宿所防護壁を設置 出し平ダム・宇奈月ダム の排砂により、ダム下流へ 新柳河原発電所 直結水路 出し平ダム 排砂 毎年1回以上 出し平ダム湛水池 部 川 黒 排砂ケ ゙ート 新柳河原発電所導水路トンネル ※3 猫又駅 猫又合宿 至 ※ 水 放 設 放水口前に 土砂が堆積 (V=4~5万m³/年) ※1 毎年、土砂は 約40万m³ 上流から運ばれ、 4~5万m³が 猫又に堆積する ※4 新設放水路 既 土 砂 が 堆 積 し た こ と に よ り 発 電 支 障 が 発 生 し て い る 発電支障を解消① 発電支障電力量 発電支障電力量 約6,500万kWh/年 約6,500万kWh/年 (約22,000t/年のCO2排出) (約22,000t/年のCO2排出) 欅平 黒部峡谷鉄道 ③ ④猫又地区 ③ ④猫又地区 防護壁設置 防護壁設置 毎年、土砂移動 工事を実施 (V=4~5万m³/年) 30年確率で発生する洪水から 発電所、合宿、黒鉄を守るため 防護壁を設置する。 図-5 総合的な土砂管理方法 音沢発電所導水路トンネル 至 宇 奈 月 3. プロジェクトの特徴 3.1 好事例要素 ・一河川一事業者開発の思想に基づく効率的な開発促進 ・流入量、貯水容量、流入土砂量の関係からみられるフラッシング排砂の優位性 ・下流ダムとの連携排砂、水系全体の総合土砂管理を実施 3.2 成功の理由 黒部川における水系一貫開発成功の要因は、一河川一事業者開発の思想に基づき、かつ、 時代の要請に応じた開発を目指したことにある。電力再編成により発足した当社は、我が国 の電源構成が新鋭火力ベースに移行し、水力は大貯水池式ピーク負荷用とする時代になった ことに鑑み最上流に大貯水池を建設し、これを水系一貫の要とする計画を立てた。大貯水池 を形成する黒部ダム建設は世紀の大工事として注目を集め、当時の土木技術の集大成とも言 うべき工事は 1963 年に完成した。黒部ダムの完成により下流流況は著しく改善され、これ を有効に活用するべく、当初の開発順位とは逆に上流から下流に向かって新黒部川第三発電 所、新黒部川第二発電所を相次いで開発した。 また、流入土砂量が極めて多く、ダムにおいては顕著な堆砂に悩まされてきた経験から、 出し平ダムの建設においては抜本的な堆砂対策として、フラッシング排砂を実施するための 排砂ゲートを設置した。堆砂対策については様々な検討がなされたが、結果、貯水池回転数 が大きく(貯水容量に対して流入量が豊富)、急な河川勾配を利用して効率的な排砂ができる ことからフラッシング排砂が採用されている。出し平ダム竣工以来、総貯水容量に匹敵する 土砂量をフラッシング排砂により放流することができている。 さらに、流入土砂による発電支障の解消、大出水時における洪水被害軽減等を目的として、 費用対効果を勘案しながら水系全体での総合的な土砂管理方法を実現しているところである。 4. 他地点への適用にあたっての留意点 ・水系一貫開発による効率的・効果的な開発思想 ・最上流における大規模貯水池の建設可否 ・フラッシング排砂の長所を生かす特徴 ・費用対効果を考えた水系全体土砂管理方法の構築 5. その他(モニタリング、事後評価等) 1995 年の黒部川水系大出水時において出し平ダムでは推定約 340 万 m3 の土砂が流入した。 これは出し平ダムの総貯水容量の 1/3 を超える量であり、1995 年より 3 ヶ年かけて緊急排砂の 実施に努めた。2000 年に宇奈月ダムが竣工し、2001 年からは出し平ダム・宇奈月ダムの連携 排砂を開始した。出し平ダムの竣工以来、総貯水容量に匹敵する土砂量をフラッシング排砂に より放流することができている(図―6) 。 出し平ダム堆砂量の推移 (万m3) 総貯水量:約900万m3 900 緊急排砂 172万m3 800 平成7年 黒部川水害 700 緊急排砂 80万m3 緊急排砂 46万m3 堆砂量 600 初回排砂 46万m3 400 H10排砂 34万m3 H11排砂 70万m3 300 H22連携排砂 16万m3 H14排砂 6万m3 試験排砂 8万m3 200 H20連携排砂 35万m3 H19連携排砂 12万m3 H13排砂 59万m3 試験的排砂 2万m3 500 H16連携排砂 28万m3 H15排砂 9万m3 H17連携排砂 51万m3 H21連携排砂 37万m3 H23連携排砂 ※ 3 H18連携排砂 (39) 万m 3 ※H23シュミレーション値 24万m 100 7月 11 月 H 8年 H 9 H 年 10 H 年 11 H 年 12 H 年 13 H 年 H 14 15 年 H 年7 16 月 H 年7 17 月 H 年7 18 月 H 年7 19 月 H 年6 20 月 H 年6 21 月 H 年7 22 月 H 年6 23 月 年 6月 S デ ー タ 60 年 S 61 S 年 62 S 年 63 年 H 1年 H 2年 H 3年 H 4年 H 5年 H H 6年 7年 6月 0 図-6 出し平ダムの排砂・通砂実績 6. 参考情報 6.1 参考文献 ・ 「関西電力におけるダムの排砂事例」、会誌「電力土木」2000 年 03 月 ・ 「ダム貯水池のフラッシング排砂における排砂効率」会誌「ダム工学」2000 年 ・ 「黒部川流域の土砂の流れ」 、会誌「電力土木」、2007 年 01 月 ・ 「出し平・宇奈月ダム連携排砂・通砂における環境調査の概要」、会誌「電力土木」 、2008 年 03 月 6.2 問合せ先 会社名: 関西電力株式会社 URL: http://www.kepco.co.jp/