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Title イネ転移因子mPing挿入を利用した環境ストレス応答性 の改変

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Title イネ転移因子mPing挿入を利用した環境ストレス応答性 の改変
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イネ転移因子mPing挿入を利用した環境ストレス応答性
の改変( Dissertation_全文 )
安田, 加奈子
Kyoto University (京都大学)
2015-03-23
URL
https://doi.org/10.14989/doctor.k19030
Right
許諾条件により本文は2016/03/31に公開
Type
Thesis or Dissertation
Textversion
ETD
Kyoto University
イネ転移因子 mPing 挿入を利用した
環境ストレス応答性の改変
2015
安田 加奈子
目次
第 1 章 緒論
・・・1
第 2 章 mPing 挿入がストレス応答性遺伝子に及ぼす影響
・・・4
2.1. はじめに
・・・4
2.2. 材料および方法
・・・7
2.2.1. 供試材料
・・・7
2.2.2. DNA および種子プールの作製
・・・7
2.2.3. mPing::対立遺伝子のスクリーニング
・・・7
2.2.4. 転写調節領域のデータベース解析
・・・14
2.2.5. 塩および低温ストレス処理
・・・14
2.2.6. Real-time PCR 解析
・・・15
2.3. 結果
・・・17
2.3.1. mPing::対立遺伝子の選抜
・・・17
2.3.2. 転写調節領域のデータベース解析
・・・17
2.3.3. mPing::対立遺伝子のストレス応答性
・・・21
2.4. 考察
・・・26
第 3 章 次世代シークエンスを利用した mPing::対立遺伝子の検索
・・・28
3.1. はじめに
・・・28
3.2. 材料および方法
・・・29
3.2.1. 供試材料
・・・29
3.2.2. mPing 隣接配列の大規模シークエンス
・・・29
I
3.2.3. Nested-PCR 法による mPing 挿入のスクリーニング
・・・36
3.2.4. 塩ストレス応答性の評価
・・・40
3.2.5. ABA 応答性の評価
・・・41
3.3. 結果
・・・42
3.3.1. mPing 挿入部位の特徴
・・・42
3.3.2. mPing 挿入データベース作製に向けた課題
・・・44
3.4. 考察
・・・53
第 4 章 STAmP (Spontaneous Transposition of an Active transposable element mPing)データベ
ースの構築
・・・58
4.1. はじめに
・・・58
4.2. 材料および方法
・・・60
4.2.1. 供試材料
・・・60
4.2.2. DNA および種子プールの作製
・・・60
4.2.3. シークエンスライブラリー調製法
・・・60
4.2.4. シークエンスおよびアライメント
・・・69
4.2.5. mPing 挿入の選抜
・・・69
4.3. 結果
・・・71
4.3.1. シークエンスライブラリー調製法の評価
・・・71
4.3.2. STAmP DB を利用した mPing 挿入の選抜効率
・・・76
4.4. 考察
・・・77
第 5 章 総合考察
・・・80
謝辞
・・・82
II
引用文献
・・・83
摘要
・・・93
III
第 1 章 緒論
転移因子は染色体上を動くことができる DNA 断片であり、その大きさは数百から数千
bp と様々である。真核生物のゲノムに占める転移因子の割合は極めて高く(Kazazian 2004)、
ヒトゲノムの 60 %(de Koning et al. 2011)、イネゲノムの 35 %(Turcotte et al. 2001)、トウ
モロコシゲノムの 85 %以上(Schnable et al. 2009)は転移因子由来の配列である。ゲノム中
に散在する転移因子由来の配列は、1960 年代から 1990 年代にかけて、機能をもたない「Junk
DNA」と考えられてきた。しかし、その後の研究において、転移因子がゲノム進化や遺伝
的多様性の拡大に寄与してきたことが明らかになってきた(Lisch 2013; Levin and Moran
2011)。例えば、転移因子を介した、遺伝子重複やエキソンシャッフリングによる新規遺伝
子の創出が報告されている(Jiang et al. 2004a; Morgante et al. 2005)。また、転移因子は遺伝
的あるいはエピジェネティックに近傍遺伝子の発現制御を改変しており(Butelli et al. 2012;
Fujimoto et al. 2008)、遺伝子のプロモーター領域への転移因子の挿入は、DNA 配列レベル
でのシス因子の破壊やエピゲネティックなサイレンシングを介して、既存のシス因子とト
ランス因子の相互作用を阻害する(Corces and Geyer 1991; Martin et al. 2009)。さらに、転移
因子自身のプロモーター活性による近傍の遺伝子間領域の転写(Bièche et al. 2003; Romanish
et al. 2007)、転移因子上のシス因子による近傍遺伝子の組織特異的発現や環境応答性への影
響が報告されている(Butelli et al. 2012; Kloeckener-Gruissem et al. 1992)。このような転移因
子の挿入による遺伝子破壊や発現制御の改変は、宿主の表現型を改変し、有用な農業形質
をもたらしてきた(Liu et al. 2008; Kanazawa et al. 2009; Kobayashi et al. 2004)。例えば、ブラ
ッドオレンジにおいて低温で誘導されるアントシアニンの蓄積は生合成関連遺伝子 Ruby の
転写調節領域に挿入している転移因子 Rider に起因する(Butelli et al. 2012)。
Miniature Inverted-repeat Transposable Elements(MITEs)は非自律性の DNA 型転移因子の
1
総称であり、その長さは一般的に 600 bp 以下である。MITEs は他の転移因子に比べ植物ゲ
ノムに存在するコピー数が多く、イネゲノムには 90,000 コピーを超える MITEs が存在する
(Jiang et al. 2004b)。転移因子は通常、宿主ゲノムによるエピジェネティクな制御により転
移活性が抑制されている(Slotkin and Martienssen 2007)。しかし、系統発生学的観点から、
MITEs は進化のある時点で急速かつ劇的にコピーを増加させたと考えられている(Lu et al.
2012)。さらに、MITEs の多くはユークロマチン領域に分布しており(Feng et al. 2002)、遺
伝子の発現制御に関与してきたことが知られている(Zhang et al. 2000)。
イネの Miniature Ping (mPing)は動植物を通じて初めて発見された活性型 MITE である
(Jiang et al. 2003; Kikuchi et al. 2003; Nakazaki et al. 2003)。mPing は全長 430 bp で、両端に
15 bp の末端逆方向反復配列(terminal inverted repeat)、挿入部位に TAA あるいは TTA の標
的部位配列重複(target site duplication)をもつ、典型的な tourist 様 MITE ファミリーの因子
である。mPing の自律性因子である Ping および Pong はそれぞれ 2 つの ORF(ORF1 および
2)を有しており、ORF1 は myb 転写因子の DNA 結合ドメインと類似したタンパク質を、
ORF2 は転移酵素をコードしている(Jiang et al. 2003; Yang et al. 2007)。mPing は Ping の内
部配列欠損により生じたと考えられており、ORF1 のプロモーター領域を含む。
mPing は品種‘銀坊主’において、特異的に転移活性が高く、一世代一個体あたり約 40
コピーの新規挿入が生じると推定されている(Naito et al. 2006)。mPing の新規挿入部位を
解析した結果、遺伝子の転写開始点上流 500 bp 以内への挿入割合が高く、新規挿入全体の
9.4 %を占めた(Naito et al. 2009)。さらに、mPing 配列上のストレス応答性シス因子によっ
て、近傍遺伝子の塩および低温に対する応答性を付与する例が報告されている(Naito et al.
2009)。
このような mPing の特徴から、‘銀坊主’集団内には、mPing 挿入によって発現プロフ
2
ァイルが変化した多数の遺伝子が潜在しているはずである。したがって、適切な選抜系を
構築できれば、目的遺伝子の発現改変に効率的に mPing を利用できると期待される。
現在、様々な生物種で挿入突然変異系統が作製され、遺伝学的解析がおこなわれている。
センチュウの Mos1 挿入突然変異系統(Granger et al. 2004)やショウジョウバエの P 因子お
よび piggyBac 挿入突然変異系統(Thibault et al. 2004)などがあり、様々な遺伝子が単離さ
れてきた。イネでは、内在性のレトロトランスポゾンである Tos17(Miyao et al. 2003)、外
来遺伝子 Ac/Ds(Kolesnik et al. 2004)、En/Spm-dSpm(Kumar et al. 2005)および T-DNA(Jeon
et al. 2000)挿入突然変異系統が作出されており、これらの系統は、遺伝子の機能欠損を目
的としている(Miyao et al. 2003; Tsugane et al. 2006; Takagi et al. 2007; Terada et al. 2007)。こ
れに対して、mPing を利用すれば遺伝子破壊だけではなく、遺伝子発現の部位や時期を調整
することが可能となる。したがって、mPing を用いた転写レベルの遺伝的多様性の創出は、
イネ育種における従来にはない遺伝資源の開拓に繋がる。
本研究では、mPing に内在するシス因子のストレス耐性育種への応用を検証するために、
まず、mPing 挿入を転写調節領域にもつ対立遺伝子(mPing::対立遺伝子)のストレス応答
性を解析した(第 2 章)。つぎに、mPing 隣接配列(Flanking sequence tags: FSTs)のデータ
ベース(DB)を利用した mPing::対立遺伝子の選抜系の効率を評価した(第 3 章)。さらに、
効率的な FSTs DB 構築法を開発して、STAmP(Spontaneous Transposition of Active transposable
element mPing)DB 構築を目指した(第 4 章)。最後に、mPing 挿入遺伝子を利用したスト
レス耐性育種について考察した(第 5 章)。
3
第 2 章 mPing 挿入がストレス応答性遺伝子に及ぼす影響
2.1. はじめに
自律性転移因子の配列には自身の ORF を転写するためのプロモーター領域が含まれる。
このプロモーター活性により、転移因子の ORF だけでなく、近傍の遺伝子領域あるいは遺
伝子間領域が転写される場合がある(Bièche et al. 2003; Romanish et al. 2007)。ORF をコード
しない非自律性因子の挿入であっても、自律性因子由来のプロモーター領域を含めば近傍
の遺伝子領域や遺伝子間領域の転写ならびに、近傍遺伝子への新規シス因子の供給に繋が
る(Sun et al. 2013)。
植物シス因子データベース PLACE の検索では、mPing のセンス鎖およびアンチセンス
鎖にはそれぞれ 10 および 12 個のストレス応答性シス因子が認められ(Fig. 2.1.および Table
2.1.)、mPing は挿入方向によらず、シス因子として機能する可能性がある。また、イネ品種
‘銀坊主’において本来は塩および低温応答性をもたない遺伝子の mPing::対立遺伝子が塩
および低温応答性を示した(Naito et al. 2009)ことから、mPing の内部のシス因子は近傍の
遺伝子に塩および低温応答性を付与すると考えられた。
‘銀坊主’における mPing の転移活
性は極めて高く、一世代一個体あたり約 40 コピーの挿入が新たに生じ(Naito et al. 2006)、
その約 10 %は遺伝子の転写開始点上流 500 bp 以内に分布する(Naito et al. 2009)。したがっ
て、‘銀坊主’集団内には、mPing の新規挿入により新たなシス因子が供給された多数の
mPing::対立遺伝子が潜在している。このことから、mPing 挿入により塩および低温応答性
が改変された遺伝子の供給源として‘銀坊主’を利用すれば、全く新しい育種素材の開発
に繋がると期待できる。
植物はストレス環境に曝されても移動による回避ができないため、多数の遺伝子発現を
大きく変化させてストレス環境に対応する。多くのストレス耐性関連遺伝子は、転写調節
4
Fig. 2.1. Stress responsive cis-elements and core promoter elements on mPing sequence. The
function of it is indicated in Table 2.1. The numbers correspond to the numbers in Table 2.1.
Table 2.1. The list of the stress responsive cis-elements and the core promoter elements on
mPing sequence.
No.
1
2
3
4
5
6
7
7
8
9
10
11
12
13
14
Element name
ACGTATERD1
ARR1AT
ASF1MOTIFCAMV
CGACGOSAMY3
CURECORECR
DPBFCOREDCDC3
EBOXBNNAPA
MYCCONSENSUSAT
EECCRCAH1
HEXMOTIFTAH3H4
MYB2CONSENSUSAT
MYBCORE
WBOXATNPR1
WBOXNTERF3
GA element
15
16
TATA box
Y Patch
Position (nt) (strand)
316 (+), 112(-)
180(+), 253(+), 344(+), 359(+)
110(-), 299(-)
293(-)
262(+), 166(-)
409(+), 24(-)
265(+), 365(+), 61(-), 161(-)
265(+), 365(+), 61(-), 161(-)
107(+), 303(-)
316(+)
256(-)
170(+), 272(-)
109(-)
422(+, -)
93(+)
128(-)
72(+)
53(-), 329(-)
5
Motif
ACGT
NGATT
TGACG
CGACG
GTAC
ACACNNG
CANNTG
CANNTG
GANTTNC
ACGTCA
YAACKG
CNGTTR
TTGAC
TGACY
GAGAGAGA
GCAAAGCA
TTATTT
CTTCTCTCTC
Function
responsive to dehydration
response regulator
responsive to auxin, salicylic
acid, and
light
sugar
starvation
responsive to copper, hypoxic
responsive to ABA
responsive to ABA
responsive to ABA, stress
low-CO2
response to cold
responsive to ABA, stress
responsive to dehydration;
responsive to salicylic acid
responsive to wounding
core promoter element
core promoter element
core promoter element
領域にストレス応答性のシス因子を有し、ストレス条件に応答して発現が誘導される。こ
れらストレス耐性関連遺伝子のストレス応答性を向上させることでストレス耐性が向上し
た例(Ito et al. 2006)や、逆にストレス応答性を低下させたことによるストレス耐性が向上
した例(Zhang et al. 2009a)が報告されている。したがって、mPing 挿入によってストレス
耐性関連遺伝子のストレス応答性に多様性を付与することは、ストレス耐性育種に有用な
遺伝資源となり得ると考えられた。本章では、まず mPing::対立遺伝子の選抜系を構築し、
mPing の新規挿入がストレス応答性遺伝子のストレス応答に及ぼす影響を明らかにした。
6
2.2. 材料および方法
2.2.1. 供試材料
Oryza sativa ssp. japonica の品種‘銀坊主’を供試した。2010 年度に京都大学大学院農学
研究科附属農場において 11,520 個体の‘銀坊主’を栽培し、DNA プールおよび種子プール
を作製した(Fig. 2.2.)。
2.2.2. DNA および種子プールの作製
幼苗の葉身約 2 cm を 8 個体まとめて(バルク)サンプリングした後、圃場に移植した。
計 1,440 のバルクサンプルに抽出バッファー(100 mM Tris-HCl pH 8.0、1 M KCl および 10
mM EDTA;Yamamoto et al. 2007a)を 400 µl ずつ添加し、マルチビーズショッカー(安井
器械、大阪、日本)で破砕した。遠心後に上清を回収し、等量のイソプロピルアルコール
を添加して DNA を析出させた。遠心により沈殿した DNA を 75 %エタノールで洗浄・乾燥
後、RNase 添加 1/10 TE(10 mM Tris-HCl pH 8.0 および 1 mM EDTA)中で 37 °C で1時間処
理し、RNA を分解した。NanoDrop 2000(Thermo SIENTIFIC、MA、USA)で DNA 濃度を
測定後、1/10 TE で各 25 ng/µl に希釈した。希釈した DNA バルクサンプルを 15 枚の 96 穴
プレートに分注した DNA プールを作製し、PCR 解析に用いた。ただし、全 1,440 個の DNA
バルクサンプルのうち DNA の質が低かった 17 個は PCR 解析から除外した。
登熟期に、全個体から 1 穂ずつ収穫し、DNA バルクサンプルと対応した 8 個体分の穂毎
に分けて収納して種子プールとした(Fig. 2.2.)。
2.2.3. mPing::対立遺伝子のスクリーニング
Table 2.2.に示したスクリーニング対象遺伝子は全てストレス応答性遺伝子であり、salT
および wsi18 以外は、過剰発現によるストレス耐性の向上が報告されている。対象遺伝子の
転写開始点上流 500 bp 以内への mPing 挿入を選抜するため、遺伝子毎に上流領域を増幅す
7
Fig. 2.2. Screening scheme of mPing-inserted alleles. A total of 11,520 Gimbozu plants were
cultivated and self-fertilized. A single DNA bulked sample and a single seed bag were compiled
from eight plants. A set of DNA bulked samples (DNA pool) was used for the primary screening by
PCR. PCR was performed using target-specific primers (see Fig. 2.2.A, B). Progenies of eight plants
in a seed bag corresponding to a DNA bulked sample with mPing insertion were cultivated, and
DNA was then extracted for the secondary screening with target-specific PCR (see Fig. 2.2C)
8
Table 2.2. Target genes
Gene
Gene function
Acquired abiotic stress tolerance
by overexpression
Reference
OsDREB1A
Transcription factor
salt-, drought-, and cold-tolerance
Ito (2006)
DREB1D
Transcription factor
salt- and cold-tolerance
Zhang (2009b)
OsDREB1F
Transcription factor
salt-, drought-, and cold-tolerance
Wang (2008)
ZFP252
Zinc finger, C2H2-type domain containing protein
salt- and drought-tolerance
Xu (2008)
ZFP182
Zinc finger, C2H2-type domain containing protein
salt-tolerance
Huang (2007)
SNAC1
Transcription factor
salt- and drought-tolerance
Hu (2006)
OsNAC6
Transcription factor
salt- and drought-tolerance
Nakashima (2007)
ONAC045
Transcription factor
salt- and drought-tolerance
Zheng (2009)
OsLEA3-1
Late embryogenesis abundant protein
drought-tolerance
Xiao (2007)
MYBS3
Transcription factor
cold-tolerance
Su (2010)
OsNHX1
Na+/H+ antiporter
salt-tolerance
Fukuda (2004)
OsGS2
Glutamine synthetase
salt-tolerance
Hoshida (2000)
OsCDPK7
Calcium-dependent protein kinase
salt-, drought-, and cold-tolerance
Saijo (2000)
SalT
Salt-induced protein
no data
wsi18
Late embryogenesis abundant protein
no data
OsWRKY11
Transcription factor
drought- and heat-tolerance
Wu (2009)
OsbZIP
Transcription factor
salt- and drought-tolerance
Xiang (2008)
9
るプライマーを設計した(Table 2.3.)。PCR 解析は、2x GoTaq®Green Master Mix(Promega、
WI、USA)、DNA 25ng、2.5 µM プライマー各 0.5 µl およびジメチルスルホキサイド 0.25 µl
を含む 5 µl 中でおこなった。温度条件は、94 °C 3 分の後、94 °C 30 秒、57 °C 45 秒、72 °C 90
秒を 40 サイクル、そして 72 °C 3 分とした。増幅領域に mPing が挿入している DNA バルク
サンプルを特定するため、PCR 産物を 0.8 %アガロースゲルで電気泳動により分離した。
mPing が挿入している DNA バルクサンプルでは本来の PCR 産物よりも約 430 bp 長い PCR
産物が検出される(Fig. 2.3.)。DNA プールの PCR により検出できた mPing::対立遺伝子が
含まれる DNA バルクサンプルと対応する種子プール各 8 個体/穂から得られる計 64 個体
の幼苗の葉身 DNA を鋳型に PCR をおこない、mPing::対立遺伝子をもつ個体を特定した。
Table 2.4.のように、mPing::対立遺伝子(mPing::遺伝子名で表記)ホモ個体と mPing 挿入を
もたない個体から自殖種子を収穫し、mPing 挿入系統(GP+)および mPing 非挿入系統(GP-)
とした。同一個体に由来する mPing 挿入系統および mPing 非挿入系統との比較から、対象
遺伝子への mPing 挿入効果を解析できる。
‘銀坊主’ゲノムにおいて、mPing の新規挿入は一世代一個体あたり約 40 コピーと推定
されており(Naito et al. 2006)、その約 10 %は遺伝子の転写開始点上流 500 bp 以内への挿入
である(Naito et al. 2009)。イネのタンパク質をコードする遺伝子が 30,000 であること(Itoh
et al. 2007)から、
‘銀坊主’一世代一個体あたり任意の遺伝子が挿入する確率は 4/30,000 で
あり、
‘銀坊主’11,384 個体中、任意の遺伝子の転写開始点上流 500 bp 以内に mPing が挿入
しない確率は、(1 − 4 /30,000)11,384 ≈ 0.22 と推定できる。したがって、11,384 個体の‘銀坊主’
集団内には、全遺伝子の 78 %が転写開始点上流 500 bp 以内への mPing::対立遺伝子を少な
€
くとも一つもつと期待される。
10
Table 2.3. Primer pairs for screening of mPing-inserted promoters
Gene
Name of primer
Primer sequence
Amplified site*
(Product size) (bp)
OsDREB1A
DRE_2up_F
TTCTGCTTGCTCCTGATTCC
-674 ~ +46
(Os09t0522200-01)
DRE_2up_R
ACTTCCAGGCGAAAAATGAC
(720)
DREB1D
DRE_4up_F
GTGGCTAGGACTTGAAGATGCTG
-895 ~ +154
(Os06t0165600-01)
DRE_4up_R
GCACCCCACGGAACACTAGGTGC
(1049)
OsDREB1F
DRE_8up_F
CACAACTAATGCTCGATGTCCAAA
-519 ~ +81
(Os01t0968800-00)
DRE_8up_R
CTCGGTGTCCATGGTCGAA
(600)
ZFP252
ZFP_1up_F
GGGAAAGAGAAGTGCACAAGAAA
-523 ~ +71
(Os12t0583700-00)
ZFP_1up_R
CAATTAGCTCCTCTACACCAACACA
(594)
ZFP182
ZFP_2up_F
CCGCGATCATAGACACAATCC
-462 ~ +95
(Os03t0820300-01)
ZFP_2up_R
TGCCTCGGGTGCTTCATCT
(557)
SNAC1
NAC_1up_F
TTTCCCCTTTTCGCTCCAC
-529 ~ +87
(Os03t0815100-01)
NAC_1up_R
ATCCCCATCGCTTCTTGCT
(616)
OsNAC6
NAC_2up_F
CGAGCTCGCTACTACTACTGCTCT
-440 ~ +72
(Os01t0884300-01)
NAC_2up_R
CGCATCCTTATCCCACCAC
(512)
ONAC045
NAC_3up_F
GAATAGACAAGCGCCTAGCTGAA
-540 ~ +52
(Os11t0127600-01)
NAC_3up_R
AAGCAACAAAGGTGGAGACGA
(592)
OsLEA3-1
LEA_1up_F
AGCGAAAGGTAGCAGAACACATC
-531 ~ +121
(Os05t0542500-01)
LEA_1up_R
GTCCTGGTGGGAAGCCATT
(652)
MYBS3
MYB_1up_F
TGGAGACGGAGATGGTGGT
-485 ~ +64
(Os10t0561400-02)
MYB_1up_R
GTTCACCCGTGGCACATTAG
(549)
OsNHX1
NHX_1up_F
AAACTGCCTTTGAACCCTAGCA
-420 ~ +138
(Os07t0666900-1)
NHX_1up_R
ACGAACAGATTGAAACGAGGAAC
(558)
OsGS2
GS_1up_F
AGGCATTGCACGGACTCAC
-476 ~ +64
(Os04t0659100-01)
GS_1up_R
ACGTTTCTAAACCGCTAATCTCCTC
(540)
OsCDPK7
CDPK_1up_F
GGGGCAACGAGACGAAA
-324 ~ +132
(Os04t0584600-02)
CDPK_1up_R
CGAGAGGGAACTGAACTGGA
(456)
SalT1
SalT_1up_F
GCAGAGCTAGCTAGAACAACATCAA
-390 ~ +114
(Os01t0348900-01)
SalT_1up_R
GTCCCTAAATCGCCAGAAGATAAG
(504)
wsi18
wsi_1up_F
GAATCACTCACCAACACACGAA
-442 ~ +115
(Os01t0705200-01)
wsi_1up_R
AAGCAAAGAAAGCACAGCACA
(557)
OsWRKY11
WRKY_1up_F
GCATGCTATGCCCAATATATACCA
-488 ~ +132
(Os01t0626400-01)
WRKY_1up_R
TGTACACGTAATCAGCGCCTTC
(620)
OsbZIP
ZIP_1up_F
ATGTGGAGCTCTGGCGTTG
-507 ~ +67
(Os02t0766700-01)
ZIP_1up_R
GATTGCCTGGTTGGTGGTG
(574)
* The position is indicated in relative to the TSS.
11
Fig. 2.3. Detection of mPing-inserted alleles by PCR. A) Schematic view of the positions of
designed primer pairs. Arrows position of site-specific primers. B) An example of the primary
screening by PCR. mPing insertion was detected in the No. 5 DNA bulked sample. Filled arrowhead,
open arrowhead original amplicon and the mPing-inserted amplicon, respectively. C) Example of
the secondary screening by PCR. Segregation of the mPing insertion allele in the selfed progeny of
the No. 1 panicle of the No. 5 seed bag (5–1 plant). M 100 bp DNA ladder, P Nipponbare, N,
standard D.W
12
Table 2.4. Five paired lines originated from a single Gimbozu plant that differ in mPing
insertion compared to the upstream region of five targeted genes
Line name Allele
GP1+
mPing::OsDREB1A-1
GP1-
OsDREB1A
GP3+
mPing::OsDREB1A-2
GP3-
OsDREB1A
GP4+
mPing::ZFP252-1
GP4-
ZFP252
GP5+
mPing::ONAC045-1
GP5-
ONAC045
GP6+
mPing::OsCDPK7-1
GP6-
OsCDPK7
Insertion site of mPing Orientation of
from TSS (bp)
mPing insertion*
-224
reverse
-
-
-224
forward
-
-
-446
forward
-
-
-263
reverse
-
-
-17
reverse
-
-
* “Forward” means that the sense strand of Ping’s promoter sequence on mPing is forward relative
to the target gene. “Reverse” means that the sense strand of Ping’s promoter sequence on mPing is
reverse relative to the target gene.
13
2.2.4. 転写調節領域のデータベース解析
遺伝子の発現に必須なコアプロモーター因子[TATA box、pyrimidine patch(Y Patch)、
GA element および CA element]および発現時期を制御するシス因子[regulatory element group
(REG)]を探索するために、Plant Promoter Database(PPDB; Yamamoto and Obokata 2008)
で、OsDREB1A、ZFP252、ONAC045 および OsCDPK7 の転写調節領域を解析した。REG の
機能的特徴は、Plant cis-acting Regulatory DNA Elements database(PLACE; Higo et al. 1999)
によって検索した。TATA box および Y Patch は方向性をもつ因子であるが、REG は方向性
がなく、TATA box の上流-20 ~ -400 bp に存在する(Yamamoto et al. 2007b)。対象遺伝子の
転写開始点上流 400 bp 以内にストレス応答性の REG が存在しない場合は、転写開始点上流
1 kbp までを解析対象とした。
2.2.5. 塩および低温ストレス処理
供試種子は 1,000 倍希釈した 25 °C の殺菌剤(ベンレート®;住友化学株式会社、東京、
日本)で 24 時間殺菌した。25 °C で 72 時間催芽処理した種子を、木村氏 B 液で温室にて自
然日長で栽培した。3 葉期の幼苗を 25 °C、14 時間明期 10 時間暗期のインキュベーターで 2
日間順化させた後にストレス処理をした。低温ストレス処理は、4 °C 2 時間とした。塩スト
レス処理には 250 mM の NaCl を添加した水耕液中で 24 時間生育させた。播種後 56、84 お
よび 111 日目におけるストレス応答性の解析には、催芽後、粒状培土で 4~5 葉期まで生育
させた後、水田土壌を充填したポットに 1 個体/ポットで移植し、自然日長の温室内で生
育させた植物体を用いた。低温ストレス処理は、4 °C 2 時間とした。塩ストレス処理には、
250 mM NaCl 溶液で満たした水槽内に植物体のポットを浸し、24 時間生育させた。ストレ
ス処理後の植物体を液体窒素で速やかに凍結させ、RNA 抽出まで-80 °C で保存した。
14
2.2.6. Real-time PCR 解析
TriPure Isolation Regent(Roche Diagnostics、IN、USA)を用い、ストレス処理した幼苗
の葉身から total RNA を抽出した。抽出した RNA を Deoxyribonuclease (RT Grade) for Heat
Stop(ニッポンジーン、東京、日本)で DNase 処理した後、Transcriptor First Strand cDNA
Synthesis Kit(Roche Diagnostics)で逆転写した。Real-time PCR は、LightCycler® FastStart DNA
MasterPLUS SYBR Green I(Roche Diagnostics)で反応液を調製し、LightCycler® 1.5 real-time
instrument(Roche Diagnostics)を用いた。プライマーは Table 2.5.を用い、温度条件は、95 °C
10 分の後、95 °C 5 秒、60°C 8 秒(RUBQ は 65 °C)、72 °C 12 秒を 55 サイクルとした。内部
標準には RUBQ(GenBank Accession No. AK121590)を用い、生物学的反復は 3 反復とした。
対象遺伝子の mRNA 発現量は、対照区の mPing 非挿入系統を 1 として相対量を求めた。
15
Table 2.5. Primers for real-time PCR
Gene
Name of primer
Primer sequence
OsDREB1A
DRE_2RT_F
GGACCTGTACTACGCGAGCTT
DRE_2RT_R
GGCAAAATTGTACAGTTGATTGA
ZFP_1RT_F
TCACCACTCCTCTTCTCCATTTC
ZFP_1RT_R
CGCCTCCTCCTCACTACTACTTCT
NAC_3RT_F
TTGCCAATCGGCGAGGT
NAC_3RT_R
TTGGTGGCTCGGTTGGTT
CDPK_1RT_F
GGGACCTCAAGCCAGAAAAC
CDPK_1RT_R
CGTAATATGGGCTTCCGACAA
RUBQ
RUBQ_F
GCTGCTGTTCTTGGGTTCACA
(Os06t0681400-01)
RUBQ_R
CGTTTCAGACACCATCAAACCA
ZFP252
ONAC045
OsCDPK7
16
Product size
(bp)
80
194
143
136
150
2.3. 結果
2.3.1. mPing::対立遺伝子のスクリーニング
mPing::対立遺伝子の効果を解析するために、17 個の環境ストレス応答性遺伝子を解析対
象とした。salT および wsi18 を除き、これらの遺伝子の過剰発現体におけるストレス耐性の
向上が報告されている(Table 2.2.)。DNA プールおよび種子プールを用いたスクリーニング
の結果、OsDREB1A、ZFP252、ONAC045 および OsCDPK7(Fig. 2.3.)に mPing::対立遺伝子
をもつ個体を特定できた。OsDREB1A および ZFP252 については、それぞれ、異なる DNA
バルクサンプルから独立に、2 個の mPing::対立遺伝子が見出された。mPing::OsDREB1A-1
および-2 は mPing の挿入方向が異なり(Table 2.4.)、独立に生じたものである。したがって、
mPing::OsDREB1A の mPing 挿入部位は mPing 挿入のホットスポットと考えられる。ZFP252
の 2 個 の mPing:: 対 立 遺 伝 子 は 挿 入 部 位 お よ び 挿 入 方 向 が 同 じ で あ っ た 。 2 個 の
mPing::ZFP252 は異なる DNA バルクサンプルに由来しているため、両対立遺伝子は独立に
生じた可能性が高く、mPing::ZFP252 の mPing 挿入部位もホットスポットであると考えられ
た。また、mPing::ZFP252 については、一方のみを以降の実験に用いた。mPing::OsDREB1A-1、
mPing::OsDREB1A-2、mPing::ZFP252、mPing::ONAC045 および mPing::OsCDPK7 ホモ個体の
後代をそれぞれ GP1+、GP3+、GP4+、GP5+および GP6+系統とし、各非挿入ホモ個体の後
代を GP1-、GP3-、GP4-、GP5-および GP6-系統とした。
2.3.2. 転写調節領域のデータベース解析
シス因子は転写因子と相互作用して遺伝子の発現を制御する重要な DNA 上の配列であ
る。mPing 挿入が遺伝子のストレス応答性に与える影響を評価するために、mPing 挿入後の
シス配列を挿入前のシス配列と比較した。PPDB(Yamamoto and Obokata 2008)を用い、
OsDREB1A、ZFP252、ONAC045 および OsCDPK7 の転写開始点上流 1 kbp について解析し、
17
コアプロモーター因子である TATA box、Y Patch および GA element、および、シス因子に
相当する REG を抽出した。REG については PLACE(Higo et al. 1999)を用いて、機能を検
索した(Fig. 2.4.および Table 2.6.)。
OsDREB1A の上流域には、TATA box、Y Patch および REG が、それぞれ、転写開始点上
流 38、10 および 486 bp に認められた。REG には、2 個の黄化応答性シス因子(ABRELATERD1
および ACGTATERD1)、カルシウム応答性シス因子(ABRERATCAL)および 3 個の ABA
応答性シス因子(CACGGTGMOTIF、EBOXNNAPA および MYCCONSENSUSAT)が認め
られた。GP1+(mPing::OsDREB1A-1)および GP3+(mPing::OsDREB1A-2)では、mPing が
TATA box と REG の間に挿入されていた。TATA box および Y Patch と転写開始点の距離は
mPing 挿入で変化しないため、GP+および GP-間で、通常の発現量に差はないと考えられる。
しかし、REG と転写開始点の距離は mPing 挿入で増加するため、mPing 上のシス因子が機
能しない場合、REG によって誘導される応答性は低下すると考えられる。
ZFP252 の上流域には、TATA box および REG が転写開始点上流 31 および 701 bp に、 Y
Patch が転写開始点上流 17 および 39 bp に認められた。REG には、ジベレリン応答性シス
因子(WRKY71OS)、2 個の黄化応答性シス因子(ABRELATERD1 および ACGTATERD1)
および 2 個のオーキシンおよびサリチル酸応答性シス因子(ASD1MOTIFCAMV および
HEXMOTIFTAH3H4)が認められた。GP4+(mPing::ZFP252)では、mPing が TATA box と
REG の間に挿入されていた。TATA box および Y Patch と転写開始点の距離は mPing 挿入で
変化しないため、GP+および GP-間で、通常の発現量に差はないと考えられる。しかし、REG
と転写開始点の距離は mPing 挿入で増加するため、mPing 上のシス因子が機能しない場合、
REG によって誘導される応答性は低下すると考えられる。
ONAC045 の上流域には、TATA box、Y Patch および光合成関連シス因子(SITEIIATCYTC)
18
Fig. 2.4. Distribution of putative core promoters in upstream regions of target genes. Y Patch
Pyrimidine patch, REG regulatory element group ABA abscisic acid
19
Table 2.6. Results of database search of promoter region
Gene
OsDREB1A
(AK105599)
Core promoter
Site from
TSS (bp)
Name of cis-elements
in PLACE
Sequence
Function
TATA box
-27 to -38
Y Patch
-1 to -10
REG (CCCACGTG)
-479 to -485
ABRELATERD1
ACGTG
response to etiolation
ABRERATCAL
MACGYGB
response to calcium
ACGTATERD1
ACGT
response to etiolation
CACGTGMOTIF
CACGTG
G-box
EBOXBNNAPA
CANNTG
E-box
MYCCONSENSUSAT
CANNTG
response to ABA and cold
WRKY71OS
TGAC
response to gibberellic acid
ABRELATERD1
ACGTG
response to etiolation
ASF1MOTIFCAMV
TGACG
response to auxin and salicylic acid
GTGANTG10
GTGA
pollen-specific
ACGTATERD1
ACGT
response to etiolation
HEXMOTIFTAH3H4
ACGTCA
Rice OBF1-homodimer-binding site
TATA box
-23 to -31
Y Patch
-8 to -17
-32 to -39
ZFP252
(AY219847)
ONAC045
(AK067922)
OsCDPK7
(AK061881)
REG (CACGTCAC)
-694 to -701
TATA
-25 to -33
Y Patch
-7 to -15
REG (TTGTGGGCTTC)
-75 to -85
SITEIIATCYTC
TGGGCY
relative to cytochrome, oxidative phosphorylation
GA
-10 to -17
REG (CAAGCCCATCA)
-212 to -222
CIACADIANLELHC
CAANNNNATC
relative to circadian and response to light
SITEIIATCYTC
TGGGCY
relative to cytochrome, oxidative phosphorylation
REG (CTCGCGCGC)
-452 to -460
CGCGBOXAT
VCGCGB
response to calmodulin
20
を含む REG が、それぞれ、転写開始点上流 33、15 および 85 bp に認められた。GP5+
(mPing::ONAC045)では、mPing は転写開始点上流 263 bp に挿入されていた。TATA box、
Y Patch および REG と転写開始点の距離は mPing 挿入で変化しないため、GP+および GP間で、通常の発現量および REG によって誘導される応答性に差はないと考えられる。
OsCDPK7 の上流域では、GA element が転写開始点上流 17 bp に、REG が転写開始点上
流 222 bp および 460 bp に認められた。2 個の REG には、それぞれ、光応答性シス因子
( CIACADIANLELHC お よ び SITEIIATCYTC ) お よ び カ ル モ ジ ュ リ ン 関 連 シ ス 因 子
(CGCGBOXAT)が認められた。GP6+(mPing::OsCDPK7)では、mPing が GA element の
1 bp 下流に挿入されていた。GA element と転写開始点の距離は mPing 挿入で変化しないた
め、GP+および GP-間で、通常の発現量に差はないと考えられる。しかし、REG と転写開始
点の距離は mPing 挿入で増加するため、mPing 上のシス因子が機能しない場合、REG によ
って誘導される応答性は低下すると考えられる。
2.3.3. mPing::対立遺伝子のストレス応答性
mPing 挿入が遺伝子のストレス応答性におよぼす影響を明らかにするために、塩および
低温ストレス下における対象遺伝子の発現量を GP+系統および GP-系統で比較した(Fig.
2.5.)。
GP1+(mPing::OsDREB1A-1)および GP3+(mPing::OsDREB1A-2)における OsDREB1A
の発現量は、無処理区において、挿入方向に関わらず mPing 挿入による影響を受けなかっ
た(Fig. 2.5A, B)。塩処理区での OsDREB1A の発現量は通常条件下と同程度であり、挿入に
よる変化は認められなかった。低温処理区での OsDREB1A の発現量は通常条件下と比較し
て、GP1-(OsDREB1A)で有意に上昇したが、GP1+では発現が上昇せず、mPing 挿入によ
って OsDREB1A の塩応答性が抑制された。この結果は、2.3.2.のシス配列のデータベース解
21
Fig. 2.5. Real-time PCR analysis of OsDREB1A (A, B), ZFP252 (C), ONAC045 (D), and
OsCDPK7 (E). Total RNA was extracted from mPing-inserted lines and non-inserted lines with no
treatment (Control), 4 °C for 2 h (Cold), and 250 mM NaCl for 24 h (Salt). The expression levels of
target genes were exhibited as relative values to those of non-inserted lines under the control
condition. Data are shown as a mean ± standard error of three replications. Asterisks represent
significant differences between the GP- and GP+ (P <0.01, Student’s t test). Different letters in each
graph indicate significant differences at 5% probability, by Tukey’s test.
22
析の結果と一致し、mPing 挿入による OsDREB1A の低温応答性シス因子の効果の低下は、
mPing 上のシス因子では十分に回復しなかったと考えられる。一方、GP3-および GP3+では
低温処理による発現上昇が認められなかった。また、mPing 上のシス因子は OsDREB1A に
塩応答性を付与しなかった。
GP4+(mPing::ZFP252)および GP4-(ZFP252)における ZFP252 の発現量は、無処理区
および低温処理区では、ほぼ等しく、mPing 挿入による影響を受けなかった(Fig. 2.5C)。
ZFP252 の発現量は塩処理区において有意に増加し、GP4+では GP4-に比べ応答性がわずか
に向上していた。ZFP252 の REG にはオーキシンおよびサリチル酸応答性のシス因子
ASF1MOTIFCAMV が含まれる。オーキシンおよびサリチル酸応答性遺伝子のなかには塩応
答性のものが報告されており、その関連性が示唆されている(Shim et al. 2003; Jain and
Khurana 2009)。mPing 挿入により、GP4+における REG の転写開始点からの距離は上流 694
bp から上流 1,124 bp に増大した。しかし、mPing に内在する ASF1MOTIFXAMV が新たな
シス因子として供給されることで、GP4+の塩応答性が維持・向上したと考えられる。
GP5-(ONAC045)における ONAC045 の発現量は、無処理区、低温処理区および塩処理
区でほぼ等しかった(Fig. 2.5D)。GP5+(mPing::ONAC045)での ONAC045 の発現量は、無
処理区および塩処理区では GP5-と等しいが、低温処理区では有意に低下していた。Tukey’s
test では、低温処理区の GP5-および GP5+における ONAC045 の発現量に有意な差は認めら
れなかった。これは、生物学的反復が 3 反復と少なかったためと考えられる。
GP6+(mPing::OsCDPK7)および GP6-(OsCDPK7)における OsCDPK7 の発現は、無処
理区および低温処理区では、ほぼ等しく、mPing 挿入による影響を受けなかった(Fig. 2.5E)。
塩処理区では GP6-では発現上昇する傾向が認められたが、GP6+では発現上昇がみられず、
mPing 挿入により OsCDPK7 の塩応答性が抑制された。GP6+(mPing::OsCDPK7)では、mPing
23
が転写開始点の直前に挿入している。通常条件下での発現量が mPing 挿入の影響を受けな
いかったことは、データベース解析の結果と一致する。OsCDPK7 の上流域には塩応答性の
シス因子が認められなかったが、未検出のシス因子が存在し、mPing 挿入はその機能を阻害
したと考えられる。また、mPing::OsCDPK7 における mPing 上の低温応答性シス因子の方向
は転写開始点に対して逆方向であったため、低温応答性の付与効果に至らなかったと考え
られる。
GP4+で認められた mPing 挿入による塩応答性の増強効果を、生育ステージを通じて確認
するために、播種後 56、84 および 111 日目の mPing::ZFP252 の塩および低温応答性を解析
した(Fig. 2.6.)。生育ステージを通じて、ストレス条件下における ZFP252 の発現量に GP4と GP4+との間に差異はなく、mPing 挿入による塩応答性の向上効果は認められなかった。
24
Fig. 2.6. Real-time PCR analysis of ZFP252. Total RNA was extracted from mPing-inserted
lines and non-inserted lines with no treatment (Control), 4 °C for 2 h (Cold), and 250 mM
NaCl for 24 h (Salt). The expression levels of target genes were exhibited as relative values to those
of non-inserted lines under the control condition. Data are shown as a mean ± standard error of three
replications. The same capital letter indicates there is no significant difference at 5% probability, by
Tukey’s test. DAS day after seeding
25
2.4. 考察
イネゲノムにおける遺伝子数と‘銀坊主’における mPing の新規挿入数(40 コピー/個
体/世代)から、11,384 個体の‘銀坊主’集団内には、約 78 %の遺伝子に少なくともひと
つの mPing::対立遺伝子が新たに生じていると推定された。本研究で対象とした 17 個の遺伝
子座のうち mPing::対立遺伝子が見出されたのは 4 個(23 %)であった。検出できた遺伝子
数が予想の 1/3 以下であったことから、PCR 法による検出では mPing::対立遺伝子を見落と
す可能性が高いと考えられた。OsDREB1A および ZFP252 において、同一の部位への独立し
た mPing 挿入が認められたことは、mPing 挿入のホットスポットの存在を示唆している。
対象とした遺伝子上流領域がホットスポットとは逆に挿入頻度の極めて低いコールドスポ
ットであったため、mPing::対立遺伝子が検出できなかった可能性もある。mPing 挿入のコ
ールドスポットの有無を明らかにするためには、更なる研究が必要である。
本研究では、mPing 挿入が近傍のストレス耐性関連遺伝子に塩および低温応答性シス因
子を供給することにより、遺伝子のストレス応答性が向上することを想定していた。しか
し mPing::ZFP252 以外はストレス条件下での応答性が mPing 挿入によって向上することは
なく、むしろ、本来のストレス応答性が阻害された。このことから、mPing 挿入によるシス
因子の再配置は本来のシスおよびトランス因子の相互作用による転写の促進効果を低下さ
せる場合が多いと考えられた。また、mPing::ZFP252 におけるストレス応答性の向上効果は、
分蘖期(56 日目)、幼穂分化期(84 日目)や出穂期(111 日目)の植物体では認められなか
った。したがって、mPing 上のストレス応答性シス因子の供給で遺伝子のストレス応答性が
常に向上するわけではないと考えられた。
今回供試した材料の mPing::対立遺伝子には、mPing 挿入がコアプロモーター因子である
TATA box、Y Patch や GA element を破壊する例は観察されなかった。一方、Naito et al.(2009)
26
において mPing 挿入によるストレス応答性の付与が観察された遺伝子の転写調節領域をデ
ータベース解析したところ、mPing 挿入で TATA box が破壊されている遺伝子が 2 個
(Os01g0178500 および Os02g0582900)認められた。mPing のプラス鎖には TATA box およ
び GA element が、マイナス鎖には Y Patch および CA element があることから(Fig. 2.1.)、
mPing が本来の TATA box を破壊しても、mPing 配列自体がコアプロモーターとして機能す
ると考えられた。
遺伝子上流への mPing 挿入はストレス応答性遺伝子の応答性を改変する場合が多いこと
が明らかになった。GP4+において、mPing 挿入は 3 葉期の幼苗において塩ストレス条件下
での ZFP252 の発現量を増強した。ZFP252 の過剰発現体は野生型に比べ塩耐性が向上する
(Xu et al. 2008)ことから、mPing::ZFP252 自体も塩耐性育種における有用な素材と考えら
れる。一方、ストレス応答性遺伝子の中には、ストレス耐性を負に制御しているものがあ
る(Magnani et al. 2004; Jeon et al. 2010)。したがって、mPing::対立遺伝子の中にはストレス
応答性の阻害によってストレス耐性が向上するものがあると考えられる。ストレス耐性遺
伝子を恒常的に過剰発現させた組換え植物では、ストレス耐性が向上する一方で、通常条
件下での生育は阻害される例が知られている(Kasuga et al. 1999; Hsieh et al. 2002)。このよ
うな場合は、耐性遺伝子の発現にストレス誘導性プロモーターが用いられる(Nakashima et
al. 2007)。mPing::対立遺伝子は通常条件下における遺伝子発現への影響は小さいので、
mPing::対立遺伝子による発現制御は、通常条件下での生育を大きく変えることなくストレ
ス耐性を改変できる。また、
‘銀坊主’集団から得られる mPing::対立遺伝子は全て自然突然
変異であるから、得られた mPing::対立遺伝子は、直接、育種素材に組み入れられる。mPing
配列上には塩や低温以外のストレス応答性シス因子があることから、mPing::対立遺伝子は
種々の環境ストレスに対応した新規育種素材の開拓に極めて有用と考えられた。
27
第 3 章 次世代シークエンスを利用した mPing::対立遺伝子の検索
3.1. はじめに
転移因子によって機能を喪失した挿入変異遺伝子は、様々な生物において、遺伝子の機
能解析のために利用されてきた(Ivics et al. 2009; Ryder & Russell 2003; Kumar 2008)。イネで
は内在性レトロトランスポゾンである Tos17、外来性遺伝子である Ac/Ds、T-DNA、dSpm
をもちいた大規模なタギングラインが作製・利用されている(Jeon et al. 2000; Kolesnik et al.
2004; Kumar et al. 2005; Miyao et al. 2003)。タギングラインから目的とする遺伝子の挿入変異
体を特定するため、当初は、転移因子の隣接配列(flanking sequence tags: FSTs)を特異的に
増幅後、増幅産物のシークエンス解析によって挿入部位を決定していた。次世代シークエ
ンサー(NGS)の普及により、多数のサンプルを短時間・低コストで解析できるようにな
った。2008 年には Petunia の DNA 型トランスポゾン dTph1 挿入変異集団 1000 個体につい
て、挿入座の網羅的解析が 454 シークエンサーを用いておこなわれた(Vandenbussche et al.
2008)。その後、さまざまな動植物で NGS による FSTs 解析により、挿入座の情報および種
子が公開されている。イネの挿入変異ラインについても NGS による FSTs 情報が RiceGE
(http://signal.salk.edu/cgi-bin/RiceGE)および OrygenesDB(http://orygenesdb.cirad.fr)で検索
できる。2015 年 1 月現在で RiceGE には 370,179 個、OrygenesDB には 245,508 個の FSTs が
登録されており、データベース上で対象遺伝子の挿入変異体を選び出すことができる。
mPing においても NGS を使用すれば、
‘銀坊主’集団内に存在する mPing FSTs を網羅的
に解析でき、極めて効率的に環境ストレス耐性関連遺伝子の mPing::対立遺伝子を検索・利
用できる。本章では NGS を利用した mPing 隣接配列のデータベース(FSTs DB)を構築し、
得られた FSTs DB の mPing::対立遺伝子の検出効率および選抜効率を評価した。
28
3.2. 材料および方法
3.2.1. 供試材料
第 2 章で作製した‘銀坊主’11,520 個体を 8 個体ずつバルクにした 1,440 バルクの DNA
プールおよび種子プールを供試した。
3.2.2. mPing 隣接配列の大規模シークエンス
11,520 個体の‘銀坊主’集団における mPing 挿入部位のデータベースを作製するため、
Illumina の Genome Analyzer platform で FSTs を解析した。mPing の 3’隣接領域を hemi-specific
PCR 法(Ewing et al. 2010)で特異的に増幅し、シークエンス用ライブラリーとした(Fig. 3.1.)。
ライブラリー調製は‘銀坊主’96 個体分に相当する 12 バルクを 1 サンプルとした。使用し
たプライマーの配列は Table 3.1.の通りである。
最初に、mPing 特異的プライマーSQ1_mPing Primer を用いて、ゲノム DNA を鋳型とし
た伸長反応を 5 サイクルおこない、mPing の 3’隣接領域を一本鎖で増幅した。反応は、1×
PCR buffer、DNA 200 ng、プライマー 0.04 pmol、dNTPs 200 pmol、KOD FX Neo(東洋紡株
式会社、大阪、日本)1 unit を含む溶液 46µl 中でおこなった。温度条件は、94 °C 2 分の加
熱の後、98 °C 10 秒、58 °C 30 秒、68 °C 10 秒のサイクルを 5 回繰り返した。その後、反応
を 58 °C で一時停止し、反応液に 5 µM の SQ1_random Primer を 4 µl 加えたて、Hemi-specific
PCR をおこなった。反応条件は、98 °C 10 秒、55 °C 30 秒、68 °C 10 秒のサイクルを 15 回
の後、68 °C 3 分とした。SQ1_random Primer は 3’末端に 8 塩基のランダム配列、5’末端にイ
ンデックス配列シークエンス用プライマーの結合配列をもつ。得られた PCR 産物を
FastGene Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス株式会社、東京、日本)で精製し、25
µl の GP3 buffer で溶出した。精製した hemi-specific PCR 産物を鋳型に nested PCR をおこな
い、mPing の 3’隣接配列を特異的に増幅した。反応は、1×PCR buffer、精製産物 8µl、
29
Fig. 3.1. Schematic representation of large-scale identification of mPing insertion sites. The first
five cycles of primer extension were carried out with mPing specific primer in order to enrich the 3’
flanking regions of mPing. After enrichment of mPing flanking sequence, a random primer is added
that has eight degenerate bases (NNNNNNNN) and target sequences of index sequencing primer.
The nested PCR, then, enriches the 3’ flanking sequence with another primer complementary to the
3’ terminal of mPing and adds the necessary adapter sequences for the Illumina sequencing system
via primer overhangs. The DNA fragments of sequencing library finally contained 5 bp random
bases, 20 bp mPing 3’ terminal, 3’ flanks of mPing and adapter sequences in both terminal. They
were mixed and sequenced on the Illumina Genome Analyzer platform. The random bases and
mPing region were trimmed from sequenced reads and 45 bp proceeded reads were aligned to the
rice reference genome (IRGSP-1.0). The candidates of insertion sites that distributed within 10 bp
were integrated in single site. Gray arrows show the primer binding sites.
30
Table 3.1. Primers for preparation of Illumina sequencing
Name of primer
Primer sequence
SQ1_mPing Primer
TATTTTGGGTAGCCGTGCAA
SQ1_Random Primer
GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCNNNNNNNN
SQ2_mPing Primer
AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGAC
GCTCTTCCGATCTNNNNNACTAGCCATTGTGACTGGC*C
SQ2_index Primer
CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATXXXXXXGTGACTGGAGTTCA
GACGTGTGCTCTTCCGAT*C
*: phosphorothioate bond, XXXXXX: index sequence (Table 3.2.)
31
Table 3.2. Index sequence in SQ2_index Primer for preparation of Illumina sequencing
Index ID
Index sequence
01
CGTGAT
02
GCCTAA
03
TCAAGT
04
CTGATC
05
AAGCTA
06
GTAGCC
07
GGCCAC
08
CGAAAC
09
CGTACG
10
CCACTC
11
ATCAGT
12
AGGAAT
32
SQ2_mPing Primer および SQ2_index Primer 各 300 pM、400µM dNTPs および KOD FX Neo
1unit を含む 50µl 溶液中でおこなった。温度条件は、はじめに 94 °C 2 分、続いて 98 °C 10
秒、62 °C 30 秒、68 °C 10 秒のサイクル 26 回の後に、68 °C 3 分とした。SQ2_mPing Primer
は 5’末端から Illumina adapter sequence、Read1 シークエンス用プライマー結合配列、5 塩基
のランダム配列および mPing の 3’末端配列が 20 塩基で構成されている。SQ2_index Primer
は 5’末端から Illumina adapter sequence、6 塩基のインデックス配列(Table 3.2.)およびイン
デックス配列シークエンス用プライマーの結合配列で構成されている。12 種類のインデッ
クス配列を用いることで、11,520 個体の‘銀坊主’集団を 12 グループに分け、それぞれの
グループの mPing 挿入部位を区別した。Nested PCR 産物を Midori Green DNA Stain(日本ジ
ェネティクス株式会社)で染色した 2 % TAE アガロースゲルで電気泳動し、分離した。サ
ンプルと伴に泳動したラダー(Gene Ladder 100 (0.1-2 kbp)、株式会社ニッポンジーン、東
京、日本)のバンドを目安とし、300 から 500 bp の画分を切り出した。FastGene Gel/PCR
Extraction Kit を用い、切り出したゲルから DNA を精製した。精製した DNA 濃度を NanoDrop
2000 で測定し、各サンプルから等量の DNA を混合した。混合液を FastGene Gel/PCR
Extraction Kit で精製し、ddH2O 50µl に溶出した。
調製したライブラリーを奈良先端大学院大学の Genome Analyzer IIx(Illumina、CA、USA)
で解析した。解析条件は、70 サイクル、シングルエンドとした。得られたリードのインデ
ックス配列に基づき、各リードを 12 バルクに分割した。リードは、5’末端からランダム配
列 5 塩基、mPing3’末端配列 20 塩基および mPing の 3’隣接配列 45 塩基で構成されている。
mPing の 3’FSTs を抽出するために、以下の方法でリードから不要な配列をトリミングした
(Fig. 3.2.および 3.3.)。はじめに、リードの 5’末端からランダム塩基に相当する 5 塩基を除
いた。Cutadapt v1.2.1(http://www.cutadapt/)を用い、パラメーターを
33
Fig. 3.2. Schematic representation of the read processing.
34
#Trimming random bases (5 bases) from 5ʼ’ ends of reads gunzip -‐‑‒c [input.fastq.gz] | fastx_̲trimmer -‐‑‒f 6 -‐‑‒l 70 -‐‑‒Q 33 | gzip > [output.fastq.gz] #Trimming mPing sequences and removing reads which are shorter than 42 bases or longer than 48 bases after trimming with “cutadapt” cutadapt -‐‑‒g ACTAGCCATTGTGACTGGCC -‐‑‒e 0.1 -‐‑‒m 42 -‐‑‒M 48 -‐‑‒o [output.fastq.gz] [input.fastq.gz] #Trimming low quality bases from 3ʼ’ ends of reads with “FASTX” gunzip -‐‑‒c [input.fastq.gz] | fastq_̲quality_̲trimmer -‐‑‒t 20 -‐‑‒Q 33 -‐‑‒z -‐‑‒o [ouput.fastq.gz] #Removing reads which are shorter than 20 bases with “PRINSEQ” gunzip -‐‑‒dc [input.fastq.gz] | prinseq-‐‑‒lite.pl -‐‑‒fastq stdin -‐‑‒min_̲len 20 -‐‑‒out_̲good [output] ; gzip [output.fastq] #Removing reads which have low quality bases over 80 % of their reads with ”FASTX” gunzip -‐‑‒c [input.fastq.gz] | fastq_̲quality_̲filter -‐‑‒q 20 -‐‑‒p 80 -‐‑‒Q 33 -‐‑‒z -‐‑‒o [ouput].fastq.gz #Alignment of reads with “bowtie” mkfifo file1.fifo gunzip -‐‑‒c $file > file1.fifo & bowtie -‐‑‒n 3 -‐‑‒m 1 -‐‑‒a -‐‑‒-‐‑‒best -‐‑‒-‐‑‒strata -‐‑‒p 1 [reference genome] file1.fifo > [output.txt] Fig. 3.3. Script of the read processing.
35
-g ACTAGCCATTGTGACTGGCC に設定し、mPing 配列を除いた。同時に、パラメーター
を-m 42 –M 48 に設定し、mPing を除去後の配列長が 42 塩基以下および 48 塩基以上のリー
ドを除去した。ここまでのトリミングで、リードは mPing 隣接配列のみで構成される。続
いて、リードの 3’末端から低品質の塩基(Phred score < 20)をトリミングし、トリミング後
のリード長が 20 塩基以下になったリードを除去した。さらに、fastq quality filter 0.0.13.2
(http://hannonlab.cshl.edu/fastx_toolkit/)を用い、Phred score < 20 の塩基がリードの 20 %以
上を占めるリードを除去した。これらのトリミングおよびフィルタリング除去で残ったリ
ー ド を 、 bowtie ( http://bowtie-bio.sourceforge.net/index.shtml ) で イ ネ ゲ ノ ム
(Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0)にアライメントし、マップされたリードの 5’末端を
mPing 挿入部位とした。検出される隣接配列は、実際の挿入部位から数塩基ずれる可能性が
あるため、10 bp 以内に検出された挿入部位のクラスターは同一の挿入部位とした。mPing
の挿入部位および該当する DNA・種子バルクの情報を統合した FSTs DB を構築した。
mPing 挿入部位の遺伝子からの距離を解析するために、Rice Annotation Project Database
(Sakai et al. 2013)から FL-cDNA、EST およびタンパク質で裏付けされた、2013 年 1 月 19
日現在で最新の遺伝子データセットを取得した。
3.2.3. Nested-PCR 法による mPing 挿入のスクリーニング
FSTs DB で得られた挿入部位の情報をもとに、33 個の mPing 挿入を選抜した(Table 3.3.)。
目的とする領域を増幅するプライマーセットを作製し(Table 3.4.)、挿入が検出されたグル
ープに関して nested PCR 法により mPing の有無を確認した。1st PCR は 10µl の反応液中に
DNA 25 ng、各プライマー0.25 µM、0.5 µl ジメチルスルホキサイド、2× GoTaq® Green Master
Mix 5 µl を含んだものを用いた。反応条件は、94 °C 3 分の後に、94 °C 30 秒、63 °C 30 秒(-1 °C
/サイクル)、72 °C 1 分のサイクルを 6 回、94 °C 30 秒、57 °C 30 秒、72 °C 1 分のサイクル
36
Table 3.3. Insertions targeted in screening and results of screening
Primer
pair for
1st
PCR
Primer
pair for
2nd PCR
Gene
DNA
pool
Seed
pool
Rachis
Reads
F1/R1
F1/mP1
Stress
(Os01g0968800)
+
-
-
18
KG_02_1
F/R
F/mR
Random
+
+
+
140
02.fa15697226F
KG_02_4
F2/R1
F2/mP1
+
+
+
22
02.fa29800539R
KG_02_6
F1/R1
F1/mP3
+
-
-
4
03.fa10969746R
KG_03_2
F1/R1
F1/mP3
+
+
+
80
03.fa29541085F
KG_03_5
F3/R2
F3/mP1
+
+
+
180
03.fa29541215F
KG_03_5
F4/R2
R2/mF
+
+
+
137
03.fa33955261F
KG_03_6
F1/R2
F1/mR
+
+
+
55
03.fa20250000R
KG_03_7
F2/R1
F2/mF
+
-
-
2
04.fa33640696F
KG_04_2
F1/R1
F1/mP1
+
+
+
1
04.fa33641072F
KG_04_2
F2/R2
R2/mP3
+
-
-
6
04.fa33640782R
KG_04_2
F1/R1
F1/mP3
Stress
(Os02g0466400)
Chlorophyll
(Os02g0717900)
Chlorophyll
(Os03g0308100)
Stress
(Os03g0726200)
Stress
(Os03g0726200)
Chlorophyll
(Os03g0811100)
Chlorophyll
(Os03g0563300)
Stress
(Os04g0659300)
Stress
(Os04g0659300)
Stress
(Os04g0659300)
+
-
-
11
04.fa28304736F
KG_04_3
F1/R1
F1/mP1
Random
+
+
+
1588
04.fa28304736R
KG_04_3
F1/R1
F1/mP3
Random
+
+
+
1807
04.fa14865058R
KG_04_4
F3/R2
F3/mP3
Random
+
+
+
8
05.fa1062063R
KG_05_1
F/R
F/mF
Random
+
-
-
11
05.fa24063496R
KG_05_2
F1/R2
R2/mP1
-
-
-
1
06.fa5677251R
KG_06_3
F1/R1
F1/mF
+
+
+
21
06.fa11689170R
KG_06_6
F3/R2
F3/mF
Stress
(Os05g0489700)
Stress
(Os06g0211200)
Stress
(Os06g0308100)
+
+
+
2
07.fa23013045F
KG_07_2
F1/R1
F1/mP1
Random
+
+
-
946
08.fa10719480F
KG_08_4
F1/R2
F1/mP1
+
+
+
6
08.fa10719374F
KG_08_4
F1/R2
F1/mR
+
-
-
44
08.fa10719385F
KG_08_4
F1/R2
F1/mR
+
-
-
12
08.fa21512600F
KG_08_5
F1/R1
R1/mR
+
+
+
3571
08.fa26534064R
KG_08_6
F1/R1
F1/mF
Chlorophyll
(Os08g0277200)
Chlorophyll
(Os08g0277200)
Chlorophyll
(Os08g0277200)
Chlorophyll
(Os08g0441500)
Chlorophyll
(Os08g0532200)
+
-
-
87
10.fa22045462F
KG_10_1
F/R2
F/mR
Random
+
-
-
1
Insertion ID
Primer ID
01.fa42727150F
KG_01_5
02.fa11741885F
37
Table 3.3. (Continued)
Insertion ID
Primer ID
Primer pair
for 1st PCR
Primer pair
for 2nd PCR
Gene
DNA
pool
Seed
pool
Rachis
Reads
10.fa18900305F
KG_10_2
F1/R1
R1/mF
+
+
-
186
10.fa22486910R
KG_10_3
F1/R2
F1/mP3
+
+
+
1
10.fa22486913F
KG_10_3
F1/R2
R2/mP3
+
+
+
9
10.fa22486966F
KG_10_3
F1/R2
R2/mP3
+
-
-
1
10.fa20682005R
KG_10_4
F1/R1
F1/mF
+
+
+
1
10.fa20682131F
KG_10_4
F1/R1
F1/mP1
Chlorophyll
(Os10g0496900)
Chlorophyll
(Os10g0567400)
Chlorophyll
(Os10g0567400)
Chlorophyll
(Os10g0567400)
Chlorophyll
(Os10g0532100)
Chlorophyll
(Os10g0532100)
+
+
+
34
12.fa25020062R
KG_12_1
F/R
F/mF
Random
+
+
+
23
32
19
21
Total (33)
* “+” means detected and “-“ means undetected.
38
Table 3.4. Primer sequences
Name of primer
Primer sequence
Name of primer
Primer sequence
KG_01_5_F1
GCGACTTGTGCCTCTTTTGG
KG_05_2_F1
GAGGCAAGGGTCGCTGTATG
KG_01_5_R1
AGGTGTGGGTGTTGGGTTTG
KG_05_2_R2
AAAGCCTGCTGGTGATACTGCT
KG_02_1_F
GGGGATGATTTGGCCTGT
KG_06_3_F1
AACGTATGTAAGAGAGACCCCAAAA
KG_02_1_R
GCGTGAGTGCTGGAGAAAAC
KG_06_3_R1
TCTCCTCTCCCACCTCAAAATC
KG_02_4_F2
GTCATTAGTTTGTGCGGTGAAATG
KG_06_6_F3
TGTTCAGTTACGGTGCTCGTCT
KG_02_4_R1
CTTCGTTTTCTCTCTCGTGTGTGT
KG_06_6_R2
TTCTTCAATTCCCACACCACTCT
KG_02_6_F1
GGCGAGGGTTTGAGTTTGCT
KG_07_2_F1
GCCCGTGTGTTCTCTGGTTT
KG_02_6_R1
GTCAAGCCGAAGGCGTAATC
KG_07_2_R1
CGAAACCGCTGAAAACAAAG
KG_03_2_F1
CAGTTAGGGTAGAGCGAGTGGA
KG_08_4_F1
AGGCAACGATCAACTATCACAATC
KG_03_2_R1
AACGGGTGTGTGTCTGGTG
KG_08_4_R2
GCGTTCTTGGCAGCGTCATC
KG_03_5_F3
CCCCTCTGTTTCTATTCACTATTCC
KG_08_5_F1
CCAAACTTAATCTCACCATGTCCTT
KG_03_5_F4
GCCAACTAATGTTCTTCCATATTCC
KG_08_5_R1
TCCAACCACACAACCTCACC
KG_03_5_R2
CGATCTCTTGTCCCATGCTCT
KG_08_6_F1
CATCTCCACGCAACAAGGAG
KG_03_6_F1
CAGTGCCAGACCAGGACAAC
KG_08_6_R1
GGCTGAGTACCAATCGTAGC
KG_03_6_R2
GCAACACCAATGCAGGAGAA
KG_10_1_F
GCTAGGCAGCTACTGTGTATTGTGT
KG_03_7_F2
GGAAAAGCGGAGAGGGAGAG
KG_10_1_R2
CGATTCCTTCCTTTTCTTGCTC
KG_03_7_R1
CTTTCGGGACTTGTGCTGTG
KG_10_2_F1
GTATAAAACGCCCGCCTAATCTC
KG_04_2_F1
GACGGAGGAGAGGGTAGGAAA
KG_10_2_R1
GAGCAAACCACAGAGCCACA
KG_04_2_F2
CCGTGCGTGGTTCTCTCATT
KG_10_3_F1
AACCGAGGGTGGTTTTGTCT
KG_04_2_R1
ATCCAGCCAATGAGAGAACCA
KG_10_3_R2
GGGAGTACCGCCAAACGTAA
KG_04_2_R2
TTGCCGATAACTAAACACACAGTTC
KG_10_4_F1
GAAAGTTGGCACCTCCTTGC
KG_04_3_F1
CGACGTCAACCTAAATTCTTATCC
KG_10_4_R1
CTTGCCATGGGAACAACCTG
KG_04_3_R1
GCCACCTCTCGTTTTCTTCCT
KG_12_1_F
CGGCGAGGGATGCTACTTT
KG_04_4_F3
CGATAACGCACCCATCTGGC
KG_12_1_R
CCACTCACCTACACCGCTTG
KG_04_4_R2
AACAGCTTCTGCCAGAAACC
mP1
AATGTGCATGACACACCAG
KG_05_1_F
GTCATTTGAGACCGTTTACCTTTTG
mP3
TATTTTGGGTAGCCGTGCAA
KG_05_1_R
GCCTACACCAACTGCCCAAC
mF
TCGTCAGCGTCGTTTCCAAGT
mR
TGGAGGGGTTTCACTTTGACG
39
を 24 回、最後は 72 °C 5 分とした。1st PCR 産物を 1/10 TE buffer で 10 倍希釈し、2nd PCR
の鋳型とした。2nd PCR は 10 µl の反応液中に 1st PCR 産物希釈液 1 µl、各プライマー0.25 µM、
0.5 µl ジメチルスルホキサイド、2× GoTaq® Green Master Mix 5 µl を含んだものを用いた。
プライマーは、1st PCR の片方およびそれと対になる mPing 内部プライマーを用いた(Table
3.3.)。反応条件は、1st PCR と同じとした。2nd PCR 産物をエチジウムブロマイドで染色し
た 1 % TAE アガロースゲルで電気泳動することにより分離した。mPing 挿入を示すバンド
が検出される DNA バルクを選抜し、対応する種子バルクから個体(1 穂)あたり 8 粒の種
子を播種し、計 64 個体の幼苗から、個体別に DNA を抽出して mPing 挿入個体を確認した。
挿入ホモ個体および非挿入ホモ個体を自殖により種子増殖し、SP+および SP-系統とした。
3.2.4. 塩ストレス応答性の評価
2013 年度、FSTs 情報をもとに選抜・収穫した OsRMC (Os04g0659300)の転写開始点上流
602 bp に mPing (04.fa33640696F)が挿入している SP1+(mPing::OsRMC ホモ)および非挿入ホ
モの姉妹系統 SP1-を実験に供試した。OsRMC は塩ストレス耐性を負に制御する遺伝子であ
ると報告した Zhang ら(2009a)の塩ストレス耐性評価法を参考に、塩ストレス条件下にお
ける初期成長を観察した。はじめに、55 °C で 4 日間休眠打破し、登熟不良種子を排除する
ため水選した後、200 倍希釈したベンレート®T 水和剤 20(北興産業株式会社、東京、日本)
溶液中で 4 °C、24 時間で種子消毒した。9 cm シャーレに濾紙(No.2)を 2 枚重ねて敷き、
対照区では水道水を、塩処理区では 300 mM NaCl を 8 ml 分注した。濾紙の上に殺菌種子を
置床し、明期 14 時間 30 °C/暗期 10 時間 25 °C のサイクルでインキュベートした。濾紙、
水道水および 300 mM NaCl は毎日新しいものに交換した。鞘葉あるいは第 1 葉が種子長の
半分以上になった個体の割合を成長割合として求めた。
40
3.2.5. ABA 応答性の評価
2013 年度、FSTs DB をもとに選抜・収穫した OsChlD (Os03g0811100)の転写開始点上流
32 bp に mPing (03.fa33955261F)が挿入した SP12+(mPing::OsChlD ホモ)およびその非挿入
ホモの姉妹系統 SP12-を供試した。OsChlD はクロロフィル合成関連遺伝子である(Zhang et
al. 2006)。はじめに、200 倍希釈したベンレート®T 水和剤 20 で 24 時間処理した。その後、
1×Hoagland 水耕液を用い、明期 14 時間 30 °C/暗期 10 時間 25 °C のサイクルの人工気象
器内で栽培した。播種後 14 日目の第 4 葉期の幼苗を 100 µM ABA を含む水耕液に移し、5
日間栽培した。その後、ABA を含まない水耕液に戻し、6 日間栽培した。処理前および回
復処理後の幼苗の第 4 葉を約 2 cm サンプリングしてクロロフィル含量を測定した。
クロロフィル含量の測定は、ジメチルホルムアミド抽出法を用いた。サンプリングした
植物体の生体重を測定し、ジメチルホルムアミド 3 ml に浸した。4 °C で一晩静置した。ク
ロロフィルが溶出されたジメチルホルムアミドの 646.8 nm および 663.8 nm における吸光度
を測定した後、吸光度からクロロフィル a および b の含量を算出し(以下の式)、生体重当
たりのクロロフィル a および b の含量を求めた。
Chlorophyll a (µM) = 13.43 A663.8 – 3.47 A646.8
Chlorophyll b (µM) = 22.9 A646.8 – 5.38 A663.8
41
3.3. 結果
3.3.1. mPing 挿入部位の特徴
第 2 章で作製した‘銀坊主’11,384 個体の集団内に存在する mPing の挿入座を NGS で
網羅的に検出し、mPing の FSTs DB を作製した。まず、hemi-specific nested PCR 法(Ewing and
Kazazian 2010 を改良)によりシークエンス用ライブラリーを作製した(Fig. 3.1.)。全 1,423
個の DNA バルクサンプルを 12 グループに分け、それぞれのグループに特異的な 6 塩基の
index 配列を含むプライマーを用い、各グループを区別した。作製したライブラリーは mPing
の 3’隣接領域、index 配列および Illumina adapter 配列を含み、本ライブラリーを Illumina
Genome Analyzer IIx でシングルエンド 76 塩基シークエンスした。demultiplex したのち、リ
ードを mPing の 3’隣接領域のみにトリミングし、イネゲノムにアライメントした。
アライメントの結果、222,086,314 リード(全リードの 96 %)がイネゲノムのユニーク
なサイトにマップされ、60,080 個の挿入部位が検出された(Table 3.5.)。アライメントソフ
トの性質上 FSTs の末端が実際の挿入部位から数塩基ずれてマップされ得るため、10 bp 以
内に検出された挿入は同一の挿入部位とみなした。この結果、51,666 個の mPing 挿入部位
を特定できた。挿入部位あたりのリード数の中央値は 11 であった。得られた全ての挿入部
位について検出されたバルクを対応させ、Gbrowser で可視化できる BED フォーマットにま
とめた FSTs DB を構築した。第 2 章で特定した 5 個の mPing 挿入部位のうち、FSTs DB 上
で確認できたのは 1 個であり、4 個は確認できなかった。また、第 2 章のスクリーニングで
mPing::対立遺伝子が確認されなかった 13 個の遺伝子について転写開始点上流 500 bp 以内へ
の挿入を FSTs DB で検索した結果、8 個の遺伝子座について 13 個の mPing::対立遺伝子が検
出された。
検出された全ての mPing 挿入部位は、ゲノム全体に分布していること、mPing の挿入数
42
Table 3.5. Classification of reads and flanking sequence tags (FSTs)
Category
Number of reads
FSTs
Total reads
230,537,026
-
Mapped
222,086,314
51,666
Multi-hit
3,703,409
-
Unmapped
4,747,303
-
Shared
-
1,737
De novo
-
35,814
Identified within gene
-
9,095*
Exon
-
4,822*
CDS
-
1,074*
5’UTR
-
1,566*
3’UTR
-
1,967*
Intron
-
4,273*
Promoter (-1 to -500)
-
9,309*
* includes the insertions into the same gene.
43
が多い領域や少ない領域が存在し、とりわけ第 4 および第 9 染色体の短腕への挿入頻度が
低い傾向が認められた(Fig. 3.4.)。各挿入部位について、最近傍の挿入部位までの距離を調
べたところ、1 kbp 以内に隣接して存在するものが最も多く、5 割以上の挿入が 200 bp 以内
に近接して分布していた(Fig.3.5.)。
51,666 個の挿入部位は、タイプ I:12 グループのうち 1 グループのみで検出されたもの、
タイプ II:2 ~ 3 グループで検出されたもの、およびタイプ III:12 グループ全てで検出され
たものに分類できた。タイプ I の挿入は特定の個体だけがもつ新規挿入、タイプ II の挿入
は集団内で固定していない比較的新しい挿入、およびタイプ III の挿入は集団内で既に固定
した古い時期の挿入と考えられる。タイプ I、II および III に分類された挿入部位はそれぞ
れ 35,814、9,786 および 1,737 個あった(Table 3.5.)。タイプ I の挿入部位と最近傍の mPing
との距離を調べた結果、5 割以上が既存挿入の 3 kbp 以内に分布し(Fig. 3.6A)、新規挿入は
既存の挿入部位の近くに集中する傾向が認められた。mPing 挿入部位を詳細に確認すると、
タイプ I の挿入がタイプ II および III の挿入部位の周辺にクラスターを形成していた(Fig.
3.6B)。
全挿入部位を転写調節領域(遺伝子の転写開始点上流 500 bp)、5’UTR、CDS、イントロ
ン、3’UTR および遺伝子間領域の 6 群に分類した(Table 3.5.)。mPing は転写調節領域に最
も多く存在し、9,309 個(全挿入部位の 18 %)であった。また、遺伝子内への挿入部位は
9,095 個であった。ひとつの遺伝子に対し複数の挿入部位が認められたケースもあり、重複
をはぶくと、転写調節領域および遺伝子内部に挿入をもつ遺伝子は、5,826 および 5,288 個
であった。
3.3.2. mPing 挿入データベース作製に向けた課題
作製した FSTs DB の実用性を評価するために、mPing::対立遺伝子を含む 33 個の mPing
44
Fig. 3.4. (Continued)
45
Fig. 3.4. Distribution of mPing insertions in all chromosomes. The x axis indicates the distance
along the chromosome and the y axes indicate the number of mPing insertions per 500 kbp.
46
Fig. 3.5. Histogram of interval length between neighboring insertions. An enlarged graph
represents data in which the interval length was shorter than 1,000 bp. The average and median of
the interval length are indicated with arrows.
47
Fig. 3.6. Distribution of new mPing insertions in STAmP database. A) Closer look of insertions.
Arrows show the mPing insertion sites. B) Histogram of distance of new insertions from the nearest
shared insertions. Right-pointing arrows indicates the forward insertions and Left-pointing arrows
indicates the reverse insertions. The darker color indicates the older insertions considering from
shared level among 12 groups.
48
を選抜した。mPing::対立遺伝子の選抜対象は、mPing 挿入によるストレス耐性の向上が期
待できるストレス耐性を負に制御する遺伝子、ならびに、mPing がもつシス因子の効果を葉
色で簡便に評価できるクロロフィル合成関連遺伝子である。FSTs DB を用いた in silico 解析
の結果、ストレス耐性遺伝子およびクロロフィル合成関連遺伝子についてそれぞれ 10 およ
び 15 個の mPing 挿入が確認でき、それぞれ 5 および 4 個の mPing::対立遺伝子が確認でき
た。これら 25 個の挿入に加えて、無作為に選んだ 8 個の挿入部位について DNA プールか
ら nested PCR 法で該当箇所を増幅した結果、33 個の挿入部位のうち 32 個を確認できた。
mPing 挿入が確認された DNA バルクサンプルに対応する種子プールから 8 個体/穂で育成
した計 64 個体を調査した結果、32 個中 21 個について挿入をもつ個体を特定できた(Table
3.3.)。新規挿入に関してヘテロの個体から採種した 8 個体中、挿入をもつ個体が 1 個体も
含まれない確率は、0.0015 %と非常に低い。つまり、DNA バルクサンプルで検出された mPing
挿入が種子のサンプリングエラーで認められない可能性は低い。DNA プール作製には各個
体の葉身から抽出した DNA を用いている。したがって、DNA プールのみで検出された挿
入は葉身特異的な挿入であったと考えられる。種子プールとして保存している穂の穂軸か
ら抽出した DNA サンプルでは、種子プールで確認された mPing 挿入の全てが検出されたが、
種子プールで確認できなかった 13 個のうち 11 個は検出されなかったかったことからも、
FSTs DB には葉身特異的な挿入が多く含まれると考えられた。
FSTs DB をもとに選んだストレス耐性を負に制御する遺伝子座の mPing::対立遺伝子の
ストレス応答性を観察した。OsRMC の転写開始点上流(-602 bp)に mPing 挿入をもつ SP1+
および非挿入姉妹系統 SP1-の塩ストレス応答性を比較した(Fig.3.7.)。SP1+は SP1-に比べ、
塩条件下における初期成長が速くなった。また、クロロフィル合成関連遺伝子である OsChlD
の転写開始点上流(-32 bp)に mPing 挿入をもつ SP12+およびその非挿入姉妹系統 SP12-の
49
Fig. 3.7. mPing insertions found in salt tolerance related gene (OsRMC). A) The mPing insertion
site in STAmP database. The size of the insertion is not proportional to the size of the gene.
Numbers indicate the distance from transcription start site. Boxes represent exons. B) Seed
germination of mPing insertion line with OsRMC under 300 mM NaCl condition.
50
ABA 応答性を比較した(Fig. 3.8.)。通常条件下において SP12+は SP12-に比べ薄い緑色を呈
し(Fig. 3.8B)、SP12+のクロロフィル a および b の含量は、どちらも SP12-の約半分であっ
た(Fig. 3.8C)。これに対して、5 日間の ABA 処理後、6 日間の回復処理をした植物体では
クロロフィル含量に関して、両系統に差異がなく、SP12+の緑色程度は SP12-と同程度であ
った(Fig. 3.8C)。
51
Fig. 3.8. mPing insertions found in chlorophyll synthesis related gene (OsChlD). A) The mPing
insertion site in STAmP database. The size of the insertion is not proportional to the size of the gene.
Numbers indicate the distance from transcription start site. Boxes represent exons. B) The
segregation of leaf color in the next generation. The leaves were peal green with mPing insertion
allele. Minus means the no mPing insertion and plus means the mPing inserted allele in OsChlD. C)
The chlorophyll contain under control and ABA treatment (treated with 100μM ABA for 5 days
following normal condition for 6 days).
52
3.4. 考察
NGS を用いて検出された‘銀坊主’集団内に存在する mPnig 挿入部位 51,666 個の挿入
部位情報(FSTs DB)を検出効率および選抜効率から評価した。第 2 章においてスクリーニ
ングした 17 個の遺伝子の mPing::対立遺伝子を FSTs DB を用いて再検索した結果、PCR に
よる検索では検出できなかった 13 個の mPing::対立遺伝子を検出できた。したがって、PCR
法による mPing 挿入の検出感度は低く、多くの mPing 挿入が見落とされていることが明ら
かになった。解析に用いた‘銀坊主’は 11,384 個体であり、新規挿入数が 1 個体 1 世代あた
り約 40 コピー(Naito et al. 2006)であれば、集団内には約 46 万の新規挿入が存在すること
になる。新規挿入と考えられる挿入は 35,814 個しか検出されておらず、推定される新規挿
入の数と大きく異なった。NGS によって得られたリード数自体は十分であり、集団内に 46
万の新規挿入が存在する場合、各新規挿入に割当てられるリード数は平均 10 リードである。
しかし、リード数が最も多かった挿入部位(第 3 染色体 31,364,757 bp)だけで全リード数
の 11 %を占め、上位 10 ヶ所の累計リード数は全リード数の 25 %を超えていた(Table 3.6.)。
特定の挿入部位にリードが集中したことから、調製したシークエンスライブラリーに大き
な偏りがあると考えられる。偏りの原因のひとつとして SQ1_mPing Primer による特異的な
PCR 増幅が考えられる。挿入方向が異なる mPing が近接している場合、SQ1_mPing Primer
を用いた mPing3’隣接領域の一本鎖増幅の際に、mPing 間領域が増幅されることになる。こ
の点に関しては、ゲノム DNA を鋳型とした SQ1_mPing Primer による PCR 反応でバンドが
検出され、mPing 間領域の増幅が確認できた(Fig. 3.9.)。また、ランダムプライマーのラン
ダ ム 塩 基 数 が 10 塩 基 以 下 に な る と ゲ ノ ム の ラ ン ダ ム 増 幅 が 偏 る と 報 告 さ れ て い る
(Kawasaki and Inagaki, 2001)。したがって、ランダム塩基が 8 塩基であったことが、
hemi-specific PCR によるランダム増幅時に偏りが生じた原因である可能性が高い。mPing 新
53
Table. 3.6. The top ten FSTs about read number
Chromosome
Position (bp)
Reads (Rate)
chr. 3
31,364,757
25,483,359 (11%)
chr. 1
4,076,464
5,320,262 (2%)
chr. 6
27,840,591
5,143,220 (2%)
chr. 1
8,080,399
4,960,049 (2%)
chr. 4
20,249,932
4,049,242 (2%)
chr. 3
26,028,786
3,337,571 (2%)
chr. 4
21,673,101
3,303,636 (1%)
chr. 3
9,014,023
3,122,343 (1%)
chr. 5
15,488,460
3,014,031 (1%)
chr. 8
20,628,372
2,820,575 (1%)
54
Fig. 3.9. PCR amplification with SQ1_mPing Primer. Left lane is 100 bp DNA ladder and right
lane is PCR product amplified with genomic DNA and SQ1_mPing Primer.
55
規挿入の検出率が高く、シークエンスライブラリーの偏りを小さくすることが実用的な
FSTs DB 作製には不可欠と考えられた。
mPing 挿入の分布は、特に第 4 および第 9 染色体の短腕で少なく、ユークロマチン領域
に多くなる傾向が認められた。ヘテロクロマチン領域は反復配列やサテライト配列が多く
分布するため、ヘテロクロマチン領域の mPing 挿入は 3’隣接配列が複数の部位にマップさ
れ、挿入部位を特定できないので FSTs DB には含まれない。しかし、複数の部位にマップ
されたリードは全リードの 5 %以下と非常少なく、これらが全てヘテロクロマチン領域に分
布したとしてもヘテロクロマチン領域の挿入が大きく増えることはない。挿入頻度が特異
的に高いホットスポットの存在は、他の転移因子において報告されている(Urbański et al.
2012、Minaya et al. 2013)。特に、DNA 型転移因子では、本来の挿入部位の周辺への再挿入
が生じ易い(Parinov and Sundaresan 2000)。mPing 新規挿入が既存挿入の周辺にクラスター
を形成していたことから、mPing でも既存の挿入部位の周辺に再挿入される割合が高いと考
えられた。
FSTs DB の情報をもとに 33 個の mPing について DNA プールを用いた nested PCR をお
こなった結果、32 個の挿入を検出できた。検出できなかった 1 個の挿入は FSTs DB の擬陽
性と考えられる。検出できた 32 個の挿入のうち 13 個は種子プールで認められず、このう
ち、11 個については穂軸から抽出した DNA でも検出されなかった。イネの地上部は茎長分
裂組織から分化し形成される。穂は茎長分裂組織に由来する花序分裂組織から分化する。
茎長分裂組織で生じた新規挿入は、切り出されない限り分化した細胞においても存在する。
活性型転移因子の場合、穂に分化する直前の細胞にある mPing 挿入が次世代の種子に伝達
される。種子が分化する直前の組織である穂軸において検出できた mPing 挿入の 90 %はそ
の穂に着生した種子で確認できた。
‘銀坊主’において mPing が最も活発に転移するのは受
56
精後 3~5 日であるが葉身特異的な挿入も少なからず存在し、葉身特異的な挿入は後代に遺
伝しない(Teramoto et al. 2013)。このことから、葉身特異的な挿入を含まない FSTs DB を
作製するには、穂軸から抽出した DNA を用いるべきであると考えられた。
SP1+(mPing::OsRMC)および SP1-における塩ストレス応答性を解析した結果、SP1+で
は SP1-に比べ塩ストレス条件下における初期成長速度が上昇していた。OsRMC は塩応答性
の遺伝子であり、ノックダウン体では塩条件下の初期成長速度が上昇すると報告されてい
る(Zhang et al. 2009a)。mPing::対立遺伝子では、本来のストレス応答性が阻害される傾向
があるため、mPing::OsRMC では mPing 挿入による塩応答性の低下によって、塩ストレス下
における初期成長が改善された可能性が高い。したがって、mPing::OsRMC は塩ストレス耐
性育種に有用な遺伝資源となり得る。
SP12+(mPing::OsChlD)は、通常条件下においてクロロフィル a および b の含量が低下
していた。OsChlD のノックアウト体でクロロフィル含量が低下していることから(Zhang et
al. 2006)、SP12+におけるクロロフィル含量の低下は OsChlD の発現量の低下を示している
と考えられる。mPing 上には ABA 応答性シス因子が存在することから、mPing 上の ABA 応
答性シス因子が ABA 処理に応答して OsChlD の発現量を促進し、SP12+のクロロフィル含
量が回復したと考えられる。このことから、mPing::対立遺伝子には ABA 応答性が付与され
る可能性も認められた。また、SP12+を用いれば、mPing::対立遺伝子が応答する環境因子の
スクリーニングにも利用できると考えられた。
57
第 4 章 STAmP (Spontaneous Transposition of an Active transposable element mPing) DB の構築
4.1. はじめに
植物遺伝子の多くは転写調節領域に転移因子由来の配列を含み、転移因子の種類や挿入
部位によって遺伝子の発現様式が異なる(White et al. 1994)。数百万年におよぶ進化の過程
で、転移因子の増殖と淘汰が繰り返され、挿入された転移因子の多くが遺伝子の発現改変
を介して宿主の適応性向上に関わったと考えられる。しかし、転移因子の新規挿入が宿主
の適応性に及ぼす影響が正負どちらになるかは偶然に支配されている。Saccharomyces
cerevisiae のレトロトランスポゾン Ty1 挿入変異集団で適応性を評価した実験では、一部の
挿入は宿主の適応性向上に関与したが、多くの挿入はむしろ宿主の適応性を低下させた
(Wilke and Adams 1992)。このように、少数の新規挿入の中から宿主の適応性向上に関わ
る挿入を見つけるのは困難である。このため、転移因子による発現制御の変異を植物改良
に利用できるとしても、少数の挿入変異から有用変異を見出すのは実用的ではないと考え
られる。
‘銀坊主’集団内には毎世代極めて多くの mPing::対立遺伝子が創出されており、そ
の中には mPing::OsRMC のようにイネのストレス耐性を向上させる変異も含まれている。し
たがって、
‘銀坊主’集団内に蓄積される膨大な mPing 挿入部位を効率的に特定することは、
mPing 新規挿入を育種素材として利用する上で極めて重要である。
第 3 章で作製した mPing FSTs DB の検出・選抜効率を検証した結果、シークエンスライ
ブラリー作製時の偏りおよび葉身特異的な挿入の存在が問題となった。シークエンスライ
ブラリーの偏りの原因として、1)mPing 内部に設計したプライマーで mPing 隣接領域を増
幅する際に、近接するふたつの mPing 間領域の選択的な増幅および 2)random primer の選
択的なアニーリングが挙げられた。
本研究では、新たな DNA プールを種子プールに用いる穂の穂軸から抽出した DNA で作
58
製することにより、葉身特異的挿入の混入を避けることとした。また、個体間で共通する
新規挿入を減らしてリードが重複することを避けるため、個体別採種を 2 世代繰り返した
後に混合採種して育成した‘銀坊主’集団を新たに育成して用いた。シークエンスライブ
ラリーの偏りについては、1)mPing 特異的なプライマーの塩基長を長くすることにより、
mPing 間領域が増幅された場合に両端の mPing 配列同士の自己会合により PCR 増幅が抑制
される suppression PCR 法を適用した。また、2)random primer のランダム塩基を長くする
(Kawasaki and Inagaki, 2001)と同時にアニーリング温度を低温にすることで、ランダムな
伸長反応を促進した(Miura et al. 2012)。これらの点を考慮して、新たに作製した DNA プ
ールに対して 6 種類の調製法でシークエンスライブラリーを作製し、ライブラリーの偏り、
再現性および新規挿入検出数を比較した。
59
4.2. 材料および方法
4.2.1. 供試材料
2009 年に収穫した‘銀坊主’
(G0)1 個体から得られた自殖種子を用いて、2011 年に 120
個体(G1)を栽培し自殖種子を採種した。2012 年に個体別系統法により 120 系統(G2)を
栽培した(Fig. 4.1.)。G0〜G2 までの 3 回の自殖により G2 各個体には G0 個体にはない約
80 コピーの mPing 挿入を互いに独立にもつことが期待される。
4.2.2 DNA および種子プールの作製
2013 年、120 系統(G2)の各1個体から 1 穂ずつ採種した種子を混合して、10,560 個体
を栽培した(Fig. 4.1.)。全個体から 1 穂ずつ、8 個体 1 バルクで収穫し、全ての穂の軸を約
1 cm ずつ 2 ml チューブにサンプリングし、液体窒素で凍結させた。その後、マルチビーズ
ショッカーで破砕し、2.2.2.と同様の手順で DNA を抽出し、DNA プールを作製した。また、
収穫した種子は 1 バルクずつ袋詰めし、種子プールとした。
4.2.3. シークエンスライブラリー調製法
ライブラリー調製方法を検討するため、A〜F の調製法を比較した(Fig. 4.2.)。suppression
PCR による mPing 間領域の増幅の抑制には SQ1_mPing Primer を 5’側に 20 塩基追加して 40
塩基にした SQ1_mPing Primer_2 を用い(Fig. 4.3.)、また、ランダムプライミング時の偏り
をなくすため、ランダム塩基数を 8 塩基から 15 塩基に増やした(調製法 A および B)。こ
の他に、mPing の 3’隣接配列の濃縮過程の省略(調製法 C)、mPing 隣接配列の増幅前にラ
ンダムプライミングの実施(調製法 D および E)および制限酵素による断片化(調製法 F)
を試みた。プライマーおよびインデックス配列は Table 4.1.および 4.2.に示した。
調製法 A
1)3’隣接領域の濃縮:mPing 特異的プライマーSQ1_mPing Primer_2 を用いて、ゲノム DNA
60
Fig. 4.1. Outline of new Gimbozu population.
61
Fig. 4.2. Schematics of new NGS library for identification of mPing insertion sites.
62
Fig. 4.3. The effect of suppression PCR. PCR were done with genomic DNA using the mPing
specific primer. M 100 bp DNA ladder, 20 base PCR product amplified by 20 base mPing specific
primer, 40 base PCR product amplified by 40 base mPing specific primer
63
Table 4.1. Primers for preparation of Illumina sequencing
Name of primer
Primer sequence
SQ1_mPing Primer
TATTTTGGGTAGCCGTGCAA
SQ1_mPing Primer_2
TTTGAGAGAAGATGGTATAATATTTTGGGTAGCCGTGCAA
SQ1_Random Primer_2
GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCNNNNNNNNNNNN
NNN
SQ2_mPing Primer_2
AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACG
CTCTTCCGATCTNNNNNATGACACTAGCCATTGTGAC
SQ2_index Primer
CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATXXXXXXGTGACTGGAGTTCA
GACGTGTGCTCTTCCGATC
Adapter A
GTAATACGACTCACTATAGGGCACGCGTGGGTGCTTGATGCTTGA
AAA
Adapter B
TATTTTCAAGCATCAA
SQ1_TD_MseI Primer
GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCGTGCTTGATGCTT
GAAAATAA
XXXXXX: index sequence (Table 4.2.).
64
Table 4.2. Index sequence in SQ2_index Primer for preparation of Illumina sequencing
Index ID
Index sequence
01
CGTGAT
02
GCCTAA
03
TCAAGT
04
CTGATC
05
AAGCTA
06
GTAGCC
07
GGCCAC
08
CGAAAC
09
CGTACG
10
CCACTC
11
ATCAGT
12
AGGAAT
13
CACGTT
14
ACCACT
15
TTGATG
16
CTACAG
17
AACTGG
18
CTTCGG
65
を鋳型とした伸長反応を 5 サイクルおこない、mPing の 3’隣接領域を一本鎖で増幅し
た。反応は、1×PCR buffer、DNA サンプル 1 µl、プライマー 0.04 pmol、dNTPs 200 pmol、
KOD FX Neo 1 unit を含む溶液 46µl 中でおこなった。温度条件は、94 °C 2 分の加熱の
後、98 °C 10 秒、58 °C 30 秒、68 °C 10 秒を 5 回繰り返した。
2)ランダムプライミング:58 ℃で一時停止し、5 µM の SQ1_random Primer_2 を 2 µl 加え、
98 °C 10 秒、55 °C 30 秒、68 °C 10 秒を 15 回繰り返した後、68 °C 3 分とした。反応産
物は FastGene Gel/PCR Extraction Kit で精製し、25 µl の GP3 buffer に溶出した。
3)3’隣接領域の増幅:精製した PCR 産物を鋳型に nested PCR をおこなった。反応は、1×
PCR buffer、精製産物 8µl、SQ2_mPing Primer_2 および SQ2_index Primer 各 300 pM、
400µM dNTPs および KOD FX Neo 1unit を含む 50µl 溶液中でおこなった。温度条件は、
はじめに 94 °C 2 分、続いて 98 °C 10 秒、アニーリング 30 秒(68 ℃から 1 サイクル毎
に−1 ℃)、68 °C 10 秒を 10 回繰り返し、98 °C 10 秒、58 °C 30 秒、68 °C 10 秒を 20 回
繰り返した。
調製法 B
1)3’隣接領域の濃縮:調製法 A と同じ反応液組成で温度条件を変えて PCR をおこなった。
はじめに 94 °C 2 分、続いて 98 °C 10 秒、58 °C 30 秒、68 °C 10 秒を 5 回繰り返した。
2)ランダムプライミング:58 ℃で一時停止し、5 µM の SQ1_random Primer_2 を 2 µl 加え、
98 °C 10 秒、40 °C 5 分、68 °C 10 秒を 15 回繰り返した後、68 °C 3 分とした。反応産物
は FastGene Gel/PCR Extraction Kit で精製し、25 µl の GP3 buffer で溶出した。3)3’隣接
領域の増幅:精製産物を鋳型とし、調製法 A と同様の条件で Nested PCR をおこなった。
調製法 C
1)ランダムプライミング:PCR は、1×PCR buffer、DNA 4 µl、SQ1_mPing Primer_2 および
66
SQ1_random Primer_2 各 250 pM、dNTPs 400µM、KOD FX Neo 0.5 unit を含む 25 µl 中で
おこなった。温度条件は、94 °C 2 分の加熱の後、続いて 98 °C 10 秒、40 °C 5 分、68 °C
10 秒を 30 回繰り返した。反応産物は FastGene Gel/PCR Extraction Kit で精製し、25 µl
の GP3 buffer で溶出した。2)3’隣接領域の増幅:精製産物を鋳型とし、調製法 A と同
様の条件で Nested PCR をおこなった。
調製法 D
1)ランダムプライミング:PCR は、1×PCR buffer、DNA 2 µl、SQ1_random Primer_2 4 µM、
dNTPs 400µM、KOD FX Neo 0.5 unit を含む 25 µl 中でおこなった。温度条件は、94 °C 2
分の加熱の後、続いて 98 °C 10 秒、40 °C 5 分、68 °C 10 秒を 2 回繰り返した。反応産
物は FastGene Gel/PCR Extraction Kit で精製し、25 µl の GP3 buffer で溶出した。
2)3’隣接領域の濃縮:精製産物 2 µl を鋳型とし、1×PCR buffer、SQ1_mPing Primer_2 およ
び SQ1_random_withoutN Primer 各 250 pM、dNTPs 400µM、KOD FX Neo 0.5 unit を含む
25 µl 中で hemi-specific PCR をおこなった。温度条件は調製法 A の Nested PCR と同じ
とした。反応産物は FastGene Gel/PCR Extraction Kit で精製し、25 µl の GP3 buffer で溶
出した。
3)3’隣接領域の増幅:精製産物を鋳型とし、調製法 A と同様の条件で Nested PCR をおこ
なった。
調製法 E
1)ランダムプライミング:PCR は 1×NEB buffer 2、DNA 4 µl、SQ1_random Primer_2 8 µM 、
dNTPs 250 µM を含む 50 µl 中でおこなった。94 ℃5 分の加熱後、4 ℃で 20 分処理し、
50 U /µl DNA Polymerase I Klenow Fragment(New England BioLabs, MA, USA)を 1.5 µl
加えた。+1 ℃/分で 4 ℃から 37 ℃でアニーリングさせ、37 ℃で 1.5 時間伸長反応
67
をおこない、70 ℃10 分で Klenow Fragment を失活させた。反応産物は FastGene Gel/PCR
Extraction Kit で精製し、25 µl の GP3 buffer で溶出した。
2)3’隣接領域の濃縮:精製産物 2 µl を鋳型とし、1×PCR buffer、SQ1_mPing Primer_2 およ
び SQ1_random_withoutN Primer 各 250 pM、dNTPs 400µM、KOD FX Neo 0.5 unit 含む
25 µl 中で hemi-specific PCR をおこなった。温度条件は調製法 A の Nested PCR と同じ
とした。反応産物は FastGene Gel/PCR Extraction Kit で精製し、25 µl の GP3 buffer で溶
出した。
3)3’隣接領域の増幅:精製産物を鋳型とし、調製法 A と同様の条件で Nested PCR をおこ
なった。
調製法 F
1)制限酵素処理およびアダプターライゲーション:DNA 100 ng、1×CutSmartTM buffer およ
び MseI 0.5 unit(NEB)を含む 10 µl 中で 37 ℃16 時間反応させゲノム DNA を断片化し
た。Adapter A および B をアニーリングさせ、アダプターとした。MseI 切断産物 10 µl、
1×buffer、T4 DNA Ligase、アダプター2 µM を含む 12.5 µl を、16 ℃ 1 時間でアダプタ
ーを結合させ、70 ℃ 10 分で Ligase を失活させた。反応産物に 1/10 TE buffer を加え 5
倍希釈した。
2)3’隣接領域の濃縮:希釈産物 1 µl、1× PCR buffer、dNTPs 2mM、DMSO 0.5 ul、Takara Ex
Taq® 0.25 unit、SQ1_mPing Primer 30 µM、SQ1_TD_MseI Primer 3 µM を含む 10 µl 中で
PCR 反応をおこなった。温度条件は、94 °C 3 分の加熱後、続いて 94 °C 30 秒、アニー
リング 30 秒(67 ℃から 1 サイクル毎に−1 ℃)、72 °C 45 秒を 10 回繰り返し、94 °C 30
秒、58 °C 30 秒、72 °C 45 秒を 20 回繰り返した。反応産物を 1/10 TE buffer で 10 倍希
釈した。
68
3)3’隣接領域の増幅:希釈産物を鋳型に、調製法 A と同様の条件で Nested PCR をおこな
った。
調製法 A〜F で得られた 3’隣接領域の増幅産物を Midori Green DNA Stain で染色した 2 %
TAE アガロースゲルで電気泳動・分離した。サンプルと伴に泳動したラダー(Gene Ladder
100(0.1-2kbp))のバンドを目安とし、300 から 500 bp の画分を切り出した。FastGene Gel/PCR
Extraction Kit を用い、切り出したゲルから DNA を精製した。精製した DNA 濃度を Qubit®
dsDNA BR Assay Kit(Life Technologies、California、USA)で測定し、各サンプルから等量
の DNA を混合した。混合液を FastGene Gel/PCR Extraction Kit で精製し、ddH2O 50µl に溶出
した。
4.2.4. シークエンスおよびアライメント
各調製法で 8 個体バルクの DNA バルクサンプル×3 サンプル(Sample1、2 および 3)の
シークエンスライブラリーを作製し、シークエンス解析(Illumina Hiseq 2000、シングルエ
ンド、150 塩基)を北海道システムサイエンス株式会社に委託した。得られたリードを 3.2.3.
と同様の方法でトリミング・フィルタリングし、イネゲノムにアライメントした。
4.2.5. mPing 挿入の選抜
調製法 F で検出された挿入部位を無作為に 14 個選び、各挿入部位を含む領域を増幅す
るプライマーを設計した(Table 4.3.)。3.2.3.と同様の nested PCR 法で DNA プールおよび種
子プールで mPing 挿入の有無を確認した。
69
Table 4.3. Insertions targeted in screening and results of screening
Insertion ID
Forward primer
DNA
Seed
pool
pool
Reverse primer
02.fa2882479F
TTCGGTGATGGGTCCCGACT
TCCAACCCTAGATCCACCGCA
+
+
02.fa30922964F
TAGAGGGAATCCGCGGCGAT
ACCAACCAACCGAGCCCCAT
+
+
03.fa2295186R
TCGTCCGTTAGCCTTTCCGC
TGATTGATGCAATGCGCCAA
+
+
03.fa23792925R
GCTGCCACAACCGACCCATT
TCATGTCCATGAAACGCCGC
+
+
03.fa28363057F
ATTGGTGGCGGGTCGGATCT
TGGGGACGGAAGAATGGCAA
+
+
03.fa31938253F
TTGCATGTGTACGCAACCCG
TTCCTCTCCCAAAGCGTTTGC
+
+
03.fa8687662F
CGAGACGGGGTTTGGCTTTG
TGCCACGCCATTGACCAAAA
+
+
05.fa21321180R
CCGGTTTGAATTTCAACCGGG
TCACATCGCACACAGATCAA
+
+
06.fa2734690R
ACGCAGACCACTTTGGCCGT
TGGGAGTATTGATTCTGGCGCA
+
+
07.fa22606340R
TCCGTTTGTCACGCTCGCAC
CCGATCGATGGCAGGATTGG
+
+
10.fa159735R
ACGGCGAGACTGCATGCATG
GCTGCGCTGCCACATTAGCA
+
+
10.fa19638086R
GCATGGACTGCGTGCATTGTT
TGTTCAGCGCCATTTGCACA
+
+
10.fa22071018F
GAAATGAGAACCGGCGCTGG
TGGGGCCTGATGGAGTTCGT
+
-
11.fa3444162F
CTTTGCTTGGTCGCCATCGC
TTTCTAACCACCCGGACCCA
+
+
* “+” means detected and “-“ means undetected.
70
4.3. 結果
4.3.1. シークエンスライブラリー調製法の評価
各調製法で作製したライブラリーにおいて 2〜55 万のリードが得られた(Table 4.4.)。
アライメントの結果、全ライブラリーにおいて約 9 割のリードをイネゲノムにマップでき
た。検出された mPing 挿入部位は、同一調製法の 3 サンプル間で大きな差異はなく、調製
法 A、B、C、D、E および F での平均値は、それぞれ 803、1092、1082、565、1366 および
1113 個であった。調製法 E で最も多く、調製法 D で最も少なかった。
シークエンスライブラリーの偏りを評価するために、マップされたリード数の上位 10
ヶ所の累計値が全リード数に占める割合を算出した(Fig. 4.4.)。第 3 章の FSTs DB と比較
して、上位 10 ヶ所の累積リード数の占有割合が減少したのは、調製法 E および F であった。
したがって、調製法 E および F では偏りを小さくできたと考えられた。
調製法 A〜F のいずれかの方法で検出された挿入部位は、Sample1、2 および 3 でそれぞ
れ 1,591、1,487 および 1,389 個であった。このうち、3 サンプルで共通して検出された挿入
部位は 619 個であった。調製法の再現性を評価するために、619 個の共通挿入について各調
製法の検出数を調査した(Fig. 4.5.)。調製法 A〜F について 3 サンプル全てで検出された共
通挿入の数はそれぞれ 441、493、499、218、506 および 369 個であり、調製法 E の再現性
が最も良かった。
新規挿入の検出感度について評価するために、Sample1、2 および 3 のうち、ひとつのサ
ンプルのみで検出された挿入を新規挿入とみなし、各調製法の新規挿入数を調査した(Table
4.5.)。3 サンプルで検出された新規挿入の合計は、調製法 A〜F それぞれで 418、1,028、949、
98、1,541 および 803 個であった。調製法 E で検出された新規挿入数が最も多かった。調製
法 E は、シークセンスライブラリーの均一性、再現性および新規挿入の検出の全てにおい
71
3
1
2
3
1
2
3
E
E
E
F
F
F
2
C
D
1
C
2
3
B
D
2
B
1
1
B
D
3
A
3
2
A
C
1
A
72
398,135
419,899
280,494
201,354
284,288
223,456
286,197
303,539
293,732
217,677
227,686
233,549
241,196
249,284
265,708
24,575
556,123
31,496
296,407
324,903
225,751
153,132
197,755
172,374
241,292
263,419
256,999
191,149
210,098
211,373
207,150
208,704
231,395
22,166
462,101
27,787
268,173
294,365
205,167
134,606
171,750
152,706
230,088
247,737
243,505
181,859
199,365
200,982
198,712
199,583
222,196
21,362
440,495
26,710
(90)
(91)
(91)
(88)
(87)
(89)
(95)
(94)
(95)
(95)
(95)
(95)
(96)
(96)
(96)
(96)
(95)
(96)
Method Sample Total reads Used for mapping Uniquely mapped (%)
15,240
15,850
10,591
4,542
6,240
4,969
2,839
4,688
4,086
2,954
2,870
3,038
2,788
2,826
3,008
274
7,640
334
(5)
(5)
(5)
(3)
(3)
(3)
(1)
(2)
(2)
(2)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(2)
(1)
Multiply mapped (%)
12,994
14,688
9,993
13,984
19,765
14,699
8,365
10,994
9,408
6,336
7,863
7,353
5,650
6,295
6,191
530
13,966
743
(4)
(5)
(4)
(9)
(10)
(9)
(3)
(4)
(4)
(3)
(4)
(3)
(3)
(3)
(3)
(2)
(3)
(3)
1,094
1,165
1,081
1,298
1,348
1,453
492
449
753
1,039
1,077
1,131
1,071
1,067
1,137
697
913
800
Unmapped (%) Number of mPing sites
Table 4.4. Classification of reads and flanking sequence tags (FSTs)
Fig. 4.4. The bias of libraries
73
Fig. 4.5. The detection rate of shared mPing sites in each method. Total number of position is
619 sites.
74
Table 4.5. The number of de novo mPing insertion detected in each method
Total
A
B
C
D
E
F
Sample 1
708
147
384
376
56
619
276
Sample 2
567
183
344
290
13
487
270
Sample 3
531
88
300
283
29
435
257
75
て最も優れていた。したがって、調製法 E 全ての DNA バルクサンプルから得られる mPing
の挿入部位の情報を STAmP (Spontaneous Transposition of an Active transposable element
mPing)DB と呼ぶこととした。
4.3.2. STAmP DB の mPing 挿入の選抜効率
STAmP DB で検出された Sample1 特異的な新規挿入 14 個について、nested PCR 法で DNA
プールおよび種子プールにおける mPing 挿入の有無を調査した(Table 4.3.)。DNA プール
で検出された 14 個の挿入のうち、13 個は種子プールにおいても確認できた。
76
4.4. 考察
調製法 E および F においてライブラリーの偏りを低減できた。調製法 E は、調製法 D
と同様に、SQ1_Random Primer_2 で全ゲノムを無作為にタグ付けし、その後 SQ1_Random
Primer_2 特異的プライマーおよび mPing 特異的プライマーで mPing 隣接配列を増幅した。
mPing 隣接配列の増幅過程は調製法 D および E で同一であるので、調製法 E の SQ1_Random
Primer_2 を用いたタグ付け時の条件がランダム塩基の非選択的アニーリングに適していた
と考えられる。調製法 E では、ポリメラーゼ活性の至適温度が 37 °C である Klenow Fragment
を用い、アニーリング温度も 4〜37 °C と低温に設定した。アニーリング温度を低温にした
調製法 B では調製法 A よりも均一性が低下していた。KOD polymerase の活性は、75 °C に
おける活性を 100 %とした時、温度の低下とともに直線的に低下していき、55 °C で 30 %以
下となる(Takagi et al. 1997)。40 °C でアニーリングしたランダムプライマーに対してポリ
メラーゼによる伸長はほとんどなく、伸長反応温度の 68 °C へ上昇する間に解離する。した
がって、ランダム塩基の非選択的なアニーリングの抑制には低温でのアニーリングに加え
て、低温でのポリメラーゼ伸長が必要と考えられた。調製法 F では、制限酵素処理後に付
加したアダプター配列特異的プライマーで mPing 隣接配列を増幅するため、ランダム塩基
のアニーリング部位の選択性の問題を回避でき、均一性の高いライブラリーの作製に繋が
ったと考えられる。
共通挿入の再現性に関して、調製法 D 以外は、6〜8 割の挿入部位が 3 サンプルで検出
されていた。調製法 D および E ではライブラリーの均一性に関連するアニーリング温度お
よび伸長反応温度の他、ポリメラーゼ濃度が大きく異なり、調製法 D のポリメラーゼ濃度
は調製法 E の 1%程度であった。ライブラリーの偏りが調製法 D と同程度の調製法 B にお
いても再現性は高く、ライブラリーの均一性と再現性との関連は低いと考えられる。した
77
がって、調製法 D では、ゲノムワイドにタグ付けするにはポリメラーゼ濃度が不十分で、
タグ付けされていない挿入部位が増加したと考えられた。
新規挿入数は、均一なライブラリーが作製できた調製法 E で最も多かった。調製法 F で
は均一なライブラリーが作製できたが、検出できた新規挿入数は中程度であった。調製法 F
では、挿入部位と制限酵素の切断部位間の塩基長に応じてライブラリーに含まれる mPing
隣接配列の塩基長が決まり、隣接配列長が短い挿入部位についてはアライメントできない
ため、切断部位に近接する挿入部位が検出できなかったと考えられる。調製法 D では、共
通挿入の検出感度と同様に、ポリメラーゼ量の不足が原因で検出できない新規挿入部位が
多数生じたと考えられる。調製法 B および C では、調製法 A の倍以上の新規挿入部位が検
出できており、低温でのアニーリングはライブラリーの偏りを解消するには不十分であっ
たが、ランダム塩基の非選択的アニーリングは一定の効果が認められた。
以上のことから、調製法 E がシークエンスライブラリーの均一性、共通挿入の再現性お
よび新規挿入数において優れていると結論した。これは、低温でのアニーリングおよび低
温かつ高濃度のポリメラーゼ反応の効果と考えられる。
本実験に供試した‘銀坊主’集団は、2 回の個体別採種と 1 回の混合採種を経ているた
め、1 世代 1 個体あたりの新規挿入数が 40 個であれば、1 個体あたり G0 植物にはない 120
個の新規挿入が期待できる。つまり 8 個体バルク(1個の Sample)あたり約 960 個の新規
挿入である。1個の Sample に検出された挿入部位は調製法 E で平均 514 個であり、STAmP
DB には集団中の 5 割以上の挿入部位が含まれると推定された。Sample1 のみで検出された
挿入を、種子プールで確認したところ、複数の個体で検出された挿入も含まれた。このよ
うな挿入部位をもつ個体は、DNA および種子プールの作製に供試した同一の G1 個体もし
くは G1 個体別 G2 系統のに由来すると考えられる。同一 G2 系統に由来する個体では 1 あ
78
るいは 2 世代分の新規挿入は共通している。同一バルク内に共通祖先をもつ個体が含まれ
る場合、実際のバルク特異的な挿入部位は推定値よりも少なくなるため、STAmP DB の新
規挿入検出効率がやや過小評価された可能性もある。また、STAmP DB は DNA プールと種
子プールにおける mPing 挿入部位の相違が少なく、in silico で選んだ mPing::対立遺伝子を
もつ個体を確実に得ることができる。今後は、残りの 129 バルクについても NGS 解析をお
こない、STAmP DB を完成させる。同一個体別系統に由来する挿入を考慮すると、集団内
に含まれる推定新規挿入部位は、系統特異的挿入 80 個 120 系統分(9,600 個)および個体
特異的挿入 40 個 10,560 個体分(422,400 個)の計 432,000 個と推定される。集団全体の FSTs
を解析すれば、この内の 5 割、22 万個以上の挿入部位が STAmP DB に含まれることになり、
RiceGE および OrygenesDB に登録されている FSTs に匹敵する数となる。
79
第 5 章 総合考察
本研究の目的は‘銀坊主’集団に生じた新規の mPing::対立遺伝子を、環境ストレス耐性
育種に利用することにある。mPing::ZFP252 で認められた幼苗における塩ストレス応答性の
増強効果や、mPing::OsRMC で認められた塩ストレス耐性の向上は、ストレス耐性育種に有
用な mPing::対立遺伝子が‘銀坊主’集団に潜在していることを明らかにした。転移因子挿
入変異は、機能欠損型もしくは機能獲得型に分類される。Tos17、Ac/Ds や T-DNA などの転
移因子は機能欠損型であり、遺伝子内部への挿入による遺伝子の機能破壊が表現型に及ぼ
す効果を遺伝子の機能解析に利用している。35S プロモーターを内部に配した T-DNA を利
用したアクチベーションタギングでは、転移因子の挿入により発現量が増加した遺伝子が
表現型に及ぼす効果を遺伝子の機能解析に利用している。これに対して、
‘銀坊主’集団か
ら得られる mPing::対立遺伝子は、機能喪失型にも機能獲得型にも該当しない。mPing 挿入
によって新たな環境応答性を獲得した対立遺伝子を効率的に獲得できる。
植物はストレスに曝されると、ストレス耐性関連遺伝子の発現が促進されストレス条件
下で生存するための多様な対応をする。発現上昇によってストレス耐性が向上する遺伝子
が多数報告されており、これらの遺伝子を同定することがストレス耐性育種を進める上で
重要であった。一方で、低温条件下で花粉の発育が良好な低温耐性品種では、低温条件下
で花粉の発育不良が認められる品種に比べ、低温条件下でのゲノム全体の遺伝子発現が非
ストレス条件と類似しており、耐性品種は低温ストレスに対し鈍感であることが示された
(Ishiguro et al. 2013)。mPing::対立遺伝子はストレス応答性遺伝子のストレス応答性を低下
させることから、ストレス耐性遺伝子の mPing::対立遺伝子を集積させることで、低温スト
レスに鈍感な育種素材に繋げることも可能である。
シス因子をもつ転移因子が転移・増殖すると、同じシス因子を共有する遺伝子群が形成
80
されることになる。したがって、異なる発現プロファイルをもつ複数の遺伝子の転写調節
領域に転移因子が挿入すると、転移因子を介して複数の遺伝子の発現が同じタイミングで
制御され、発現ネットワークが形成される(Feschotte 2008)。ストレス応答性をもたない遺
伝子の mPing::対立遺伝子を人為的に集積することで、複数の遺伝子のストレス応答性を、
mPing を介して制御することも可能である。STAmP DB を利用して得られる数千個の
mPing::対立遺伝子情報を利用すれば、単独の遺伝子の発現改変だけでなく、多数の遺伝子
が関与する遺伝子発現ネットワークを特定の個体に導入できると考えられる。
以上のように mPing::対立遺伝子に認められるストレス応答性の改変はストレス耐性育
種において全く新しい素材になり得る。STAmP DB は‘銀坊主’集団に生じた mPing::対立
遺伝子を利用するうえで非常に有用なツールであり、
‘銀坊主’はイネの遺伝的多様性を生
み出す重要な遺伝資源であるといえる。
81
謝辞
本研究を遂行し学位論文を取りまとめるにあたって、ご指導ならびにご閲覧頂きました、
京都大学大学院農学研究科育種学研究室教授 奥本裕博士に深く感謝しております。本研究
を遂行するに当たり、日々の研究において多くのご指導を頂いた京都大学大学院農学研究
科育種学研究室助教 築山拓司博士に感謝申し上げます。
京都大学大学院農学研究科農学専攻植物生産管理学研究室助教 齊藤大樹博士ならび
に農業生物資源研究所遺伝資源センター多様性活用研究ユニット 内藤健博士には、数多
くの貴重なご助言と激励を賜り、研究をすすめるうえでの原動力となりました。心より感
謝申し上げます。
次世代シークエンス解析において多大なるご助力を頂いた奈良先端科学技術大学院大
学バイオサイエンス研究科植物機能解析学研究室倉田哲也准教授ならびに坂本智昭博士に
深く感謝申し上げます。
大学学部生時代から現在にわたり温かく見守って頂くとともに、多くのご支援ご指導を
賜りました、京都大学名誉教授で現吉備国際大学地域創成農学部教授 谷坂隆俊博士に深
く感謝いたします。また、育種学研究室のスタッフ、卒業生ならびに在学生の方々には、
研究生活の様々な面でご助力頂き、大きな励みとなったことを記すとともに、心より感謝
申し上げます。
最後に、時に厳しく時に温かく、これまで支援し続けてくださった両親、家族に対し深
い感謝の意を示し謝辞と致します。
82
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摘要
イネ(Oryza sativa L.)の転移因子 mPing は一部の日本型品種で転移活性が高く、品種‘銀
坊主’では 1 世代 1 個体あたり約 40 コピーの新規挿入が生じる。mPing の新規挿入の約 10 %
は遺伝子の転写開始点上流 500 bp 以内に分布する。さらに、mPing 配列上には複数のスト
レス応答性シス因子があり、mPing 挿入が下流の遺伝子に塩および低温応答性を付与する例
もある。したがって、
‘銀坊主’集団中には、転写調節領域への mPing 挿入によって環境ス
トレス応答性が変化した対立遺伝子(mPing::対立遺伝子)が潜在すると考えられる。mPing::
対立遺伝子の中から環境ストレスに関して有用な変異を効率的に選抜できれば、環境スト
レス耐性育種に全く新しい素材を提供できる。本研究では、mPing::対立遺伝子のストレス
応答性を解析するとともに、mPing 隣接配列(Flanking sequence tags: FSTs)のデータベースを
利用した mPing::対立遺伝子の選抜系を構築し、選抜効率を検証した。
環境ストレス応答性遺伝子に関して mPing::対立遺伝子を選抜するために、‘銀坊主’
11,520 個体から 8 個体を 1 バルクとする DNA プールおよび種子プールを作製した。DNA
プールは葉身から抽出した DNA とし、種子プールは 1 個体から 1 穂ずつとした。PCR 法に
より、17 個の環境ストレス耐性関連遺伝子について、転写開始点上流 500 bp 以内への mPing
挿入を調査した。その結果、OsDREB1A、ZFP252、ONAC045 および OsCDPK7 について mPing::
対立遺伝子が認められた。mPing 挿入の影響を検証するために、種子プールの種子の自殖後
代から得られた挿入ホモ系統および非挿入ホモ系統を用いて、塩および低温条件下におけ
る該当遺伝子の発現量を解析した。ZFP252 を除き、mPing::対立遺伝子は野生型に比べ塩お
よび低温応答性が低下した。これは、mPing 挿入が転写調節領域にある本来のストレス応答
性シス因子と転写開始点の距離を遠ざけた結果、本来の応答性への阻害効果が mPing 内部
のシス因子による応答性付与効果を上回ったためと考えられた。
93
PCR 法による mPing::対立遺伝子の選抜は、目的遺伝子ごとに DNA プール全体を調査す
る必要があり、また検出効率も高くない。そこで、mPing FSTs データベース(DB)を利用
した mPing::対立遺伝子の選抜効率を検証した。前述の DNA プールを 12 群に分け、群ごと
に FSTs のシークエンスライブラリーを調製し、Genome AnalyzerII(Illumina)で配列解析
を行った。得られた FSTs をイネゲノムにアライメントした結果、51,666 個の mPing 挿入部
位が検出された。遺伝子内部および転写開始点上流 500 bp への挿入はそれぞれ 9,095 およ
び 9,309 個であった。FSTs DB で検索して得られた塩耐性を負に制御する OsRMC の mPing::
対立遺伝子ホモ系統では、野生型ホモ系統よりも塩ストレス条件下での初期成長速度が速
くなった。mPing::OsRMC ではストレス応答性が低下した結果、ストレス耐性が向上したと
考えられた。また、mPing 挿入の影響を葉色で簡便に評価するために、クロロフィル合成関
連遺伝子の mPing::対立遺伝子を DB で検索した。その結果、黄緑色を呈する mPing::OsChlD
のホモ系統(SP12+)が得られた。SP12+にアブシジン酸(ABA)処理を処理した結果、クロロフ
ィル含量が増加した。mPing 配列上には ABA 応答性シス因子があることから、mPing::対立
遺伝子は ABA 応答性が付与される可能性が示唆された。一方、FSTs DB で検出した 33 個
の mPing 挿入のうち、DNA プールで検出された挿入は 32 個であったが、種子プールで検
出された挿入は僅か 19 個であった。これは、DNA プールの作製に葉身を用いたため、デー
タベースに葉身特異的な挿入が多く含まれたことが原因であると考えられた。また、検出
された新規挿入が予想される数の約 3 分の 1 であったことから、シークエンスライブラリ
ー作製時の増幅で FSTs 間に偏りが生じている、あるいは、従来の推定新規挿入数が過大で
あると考えられた。
mPing::対立遺伝子の選抜効率を改善するために、新たな‘銀坊主’集団(10,560 個体)
を育成した。まず、葉身特異的な挿入を排除するために、種子プール作製に用いる穂の穂
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軸から DNA プールを作製した。シークエンスライブラリーの偏りの原因として、mPing 特
異的プライマーによる mPing 間領域の増幅、および、ランダムプライマーの選択的アニー
リングが考えられた。suppression PCR で mPing 間領域の増幅を抑制するとともに、ランダ
ム塩基数を 8 から 15 に増やした。その上で、低温でのアニーリング、mPing 特異的プライ
マーでの予備的伸長反応の省略、ゲノムへの非選択的タグ付け、低温で伸長可能なポリメ
ラーゼ Klenow fragment の使用の効果を比較・検証した。suppression PCR により、mPing 間
領域の増幅は抑制された。ランダム塩基の長鎖化および低温でのアニーリングだけでは、
ライブラリーの偏りを低減できなかったが、Klenow fragment による低温伸長によって偏り
の少ないシークエンスライブラリーを作製できた。改善したライブラリーで検出された
mPing 数は、mPing 新規挿入数の推定値(40 コピー/世代/個体)とほぼ一致した。新し
い集団で最適化した FSTs DB を STAmP(Spontaneous Transposition of Active transposable
element mPing)DB と名付けた。
本研究で構築した STAmP DB は mPing の転移によって‘銀坊主’集団に生み出された
遺伝的多様性を利用する上で非常に有用なツールである。選抜した mPing::対立遺伝子のな
かにはストレス耐性育種に有用な遺伝資源もあり、mPing::対立遺伝子は環境ストレス耐性
育種の新しい素材になり得ることが示された。
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