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Title 英語の聞き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察

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Title 英語の聞き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
Title
英語の聞き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
Author(s)
數見, 由紀子
Citation
外国語教育フォーラム = Forum of Language Instructors, 8: 91-99
Issue Date
2014-03
Type
Departmental Bulletin Paper
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/2297/37591
Right
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,各著作権等管理事業者に確認してください。
http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
English Learners Transcription Patterns as a
Measure of Proficiency
數見 由紀子
Kazumi, Yukiko
Abstract
This preliminary study focuses on English learners ability to hear phonetically weak
sections of a sentence, especially function words.
Based on an examination of students
transcriptions and test scores, this study suggests that the ability to hear specific words
reflects the students overall proficiency levels.
1.
はじめに
本稿では、日本語を母語とする英語学習者の聴き取りについて、主に機能語や弱音節
の捉え方に着目し、その傾向と習熟度との相関について考察する。筆者は、これまでの
授業をとおした経験から、聴き取りにおける特定の傾向・パターンと習熟度には一定の
相関性があると考えている。それらの傾向・パターンは、聴き取り結果にばらつきの生
じやすい、文中の相対的に弱い部分に現れることが多い。そこで、筆者が担当した授業
の試験結果について、文中の相対的に弱い部分を中心に分析し、異なる聴き取りの傾向・
パターンごとに該当者の平均得点を算出した。試行段階のため、データ数はそれほど多
くないが、分析の結果から、聴き取りの成否と平均得点には一定の相関が見られた。
以下、2 節で授業と試験の概要、3 節で分析の方法とデータについて簡単に述べた後、
4 節で分析の結果を詳しく見ていく。5 節では、分析の結果を基に、今後の可能性を展望
する。
2.
授業と試験の概要
はじめに、分析の対象とした試験とその試験を行った授業について、概要を述べる。
2-1.
授業の重点
授業ではまず、リスニングのイメージの切り替えを図った。「音を正確に聴き取る」
から「音以外の情報を活用して聴く」ために、音声のみに依存しない統合的なリスニン
グと、そのために必要な語彙・文法の知識や想像力・推理力などの重要性を強調した。
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Forum of Language Instructors, Volume 8, 2014
とりわけ、文中で相対的に弱く短くなることの多い機能語については、音声面の情報不
足を補う対策を具体的に示した。そのうえで、音声面で日本語母語話者に共通する傾向
を取り上げ、必要な知識と実践的な対策を提示した。
筆者は、統合的なリスニングには、時間や回数に制限を設けず、一語一句を書き取る
練習が適していると考えている。これは、時間をかけて丁寧に聴くことにより、習熟度
にかかわらず、学習者が語彙・文法の潜在的な知識や能力を発揮しやすく、文脈や文構
造をふまえた語の推測もしやすくなるからである。後述する書き取り課題では、正確さ
よりも、統合的な聴き方を実践するプロセスに重点をおいた。
2-2.
教材と授業の進
め方
テキストには、BBC のニュースが収録された BBC - Understanding the News in English 10
(Sakae Onoda & Lucy Cooker 編著、金星堂)を使用した。授業では毎回ニュースを一つ
取り上げ、時間外学習(予習)として、冒頭の音声(約 15 秒)の書き取りと全体(2〜3
分)の概要の推測を課した。書き取りにニュースの冒頭を用いる理由は、原稿があるた
めに文の形が整っており、言い直しや言いよどみが少ないこと、発音が明瞭なことであ
る。書き取り課題は、テキスト付属の DVD で、できるだけ抜けのないように音声を記
録する作業が中心となる。細部まで丁寧に聴くことで、文中の弱い部分にも自然に注意
が向き、トランスクリプトとの照合・見直しによって、受講者が自分の傾向を把握でき
るようにした。また、小テストにも聴き取り問題を含め、日本語母語話者に共通する傾
向や聴き取りにくい要素を取り上げた。小テストを行う前に重要なポイントを解説し、
同じ条件を含む音声を出題した。書き取り課題・小テストとも、翌週にフィードバック
を行った。
2-3.
試験の概要
試験は中間・学期末の2回実施し、総合点(200 点満点)のうち、それぞれ 25%(各
50 点)の配点とした。中間・学期末試験とも、BBC のニュースから、一般的な話題で試
験前に授業で扱っていないものを選び、普段の書き取り課題と同様に、ニュースの冒頭
部分を使用した。学期末試験で用いた音声のトランスクリプトは以下のとおりである。
The number of people out of work in the UK has risen to its highest level since 1994.
It went up by 27,000 in the three months to the end of January to 2.53 million.
And a new
report suggests that the rate of growth in the economy will slow during the rest of this year.
But new jobs are being created and most of them are being taken by men, er, over the age of
fifty, as our economics editor, Stephanie Flanders, explains now.
(2011 年 3 月 16 日放送の BBC のニュースより)
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英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
答案用紙にはトランスクリプトの下線部以外を印字し、下線部のみ聴き取ってもらった。
聴き取り箇所は大きく二つに分かれ、それぞれ、連続する 12 語と連続する 15 語とした。
試験の配点は 50 点であるが、2 語分の余裕をもたせ、計 27 語(1 語 2 点)に設定してい
る。したがって、すべての語を正しく書き取った場合の得点は 54 点となる。
試験の形式は、基本的に予習の書き取り課題と同じである。初聴のニュースを用いる
ため、辞書の使用を認め、音形を基に語を推理する聴き方を促した。書き取り課題では
DVD を用いるが、機器準備の都合により、試験ではカセットテープを用い、簡易プレー
ヤーを人数分用意して個別に聴く形をとった。連続して聴き続けることによる身体的負
担を考慮し、試験時間は 60 分とした。学期末試験の受験者は 24 名で、満点 54 点に対し
平均得点は 31.6 点、最高得点は 51 点であった。
3.
分析の方法と対象としたデータ
はじめに、聴き取り結果にばらつきが生じやすい要素を抽出するため、書き取り課題
や中間試験を基に予備分析を行った。予備分析の結果、機能語や弱音節など、文中で相
対的に弱い部分にばらつきが出やすいことがわかり、その点を考慮して学期末試験の問
題を作成した。解答のばらつきが重要となる理由は、以下に述べる分析方法による。
分析では、文中の相対的に弱い部分を主な対象とした。具体的な手順としては、まず、
特定の語(要素)について、同じ聴き取り結果ごとに答案を分類し、それぞれのグルー
プの平均得点を算出した。次に、正しく書き取った学生の平均得点とそれ以外の形で書
き取った学生の平均得点を比較し、その差を見た。もし特定の語の聴き取りに成功した
学生の平均得点が、そうでない学生の平均得点を大きく上回れば、当該語の聴き取りの
成否と試験全体の得点が連動している可能性が高い。また、試験結果が受験者の習熟度
を反映しているとすれば、当該語の聴き取りの成否と習熟度との相関が示唆される。
なお、この方法が適用できるのは、解答にある程度ばらつきがある場合に限られる。
全員が正解した語や全員が不正解の語については、該当者の平均得点がクラス全体の平
均得点と一致し、比較が成り立たない。ごく単純に言えば、そうした語は、試験の他の
要素にかかわらず、誰もが聴き取れる語(もしくは聴き取れない語)ということになる。
また、正解者や不正解者がごく少数の場合もデータ数に偏りが生じ、比較自体が可能で
もその意味は小さくなる。
対象としたデータは、筆者が 2013 年度後期に担当した金沢大学共通教育科目「英語 I
(リスニング)」の学期末試験で得られたものである。学期末試験を選んだ理由には、
授業時の学習内容や時間外学習の成果がより反映されやすいことのほか、予備分析が十
分に行えることが挙げられる。このほか、中間・学期末の形式が同じで、同じ機器を用
いるため、形式や機器操作によるストレスが少なく、受験者の実力が反映されやすいと
も考えた。
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4.
着目した要素・現象とその分析結果
学期中の書き取り課題を用いた予備調査から、習熟度との相関が予想された要素・現
象は、機能語の脱落・短い音形への置換、語頭の弱音節の脱落であった。そこで、試験
答案のうち、これらの要素・現象の書き取り結果を中心に分析を行った。
英語では、文中で内容語が相対的に強いのに対し、機能語は相対的に弱く、時間配分
も短い場合が多い。また、機能語には音声的に短い(語を構成する音が少ない)ものも
多く、その場合、音声から得られる情報はさらに少なくなる。語頭の弱音節についても、
音声面の情報が少ない点が共通している。こうした音声情報の不足を補うためには、統
合的な聴き方ができていることが重要であり、このことがより高い習熟度につながって
いると考えられる。
以下、機能語(助動詞、代名詞、冠詞、前置詞)に関わる現象、語頭の弱音節の脱落、
その他の順で取り上げ、詳細を見ていくことにする。
4-1.
助動詞(has)
助動詞の has は文中で[h]が聞こえにくく、母音が弱い[ə]となるため、似た音形の is に
置き換わりやすくなる。今回の試験でも、is と書き取った学生がもっとも多く、当該学
生 9 名の平均得点(31.6 点)はクラス全体の平均得点と一致した。細かな数値の一致は
偶然であるが、has を is で置換した学生のグループは、このクラスの受講者の標準的な
習熟度を示していると考えられる。
以下、has と書き取った者、is と書き取った者、当該箇所が脱落した者を中心に、グ
ループごとの平均得点を示す。カッコ内には、得点分布を「最少得点〜最多得点」の形
で示し、該当者の人数を付す。なお、該当する個人の得点が 27 点(満点の 50%)未満
の場合は*で代える(以下同様)。
has
is
38.0 点(*〜51、データ数:6)
31.6 点(*〜39、データ数:9)
is the
29.5 点(28〜31、データ数:2)
the
28.0 点(28、データ数:1)
脱落
27.3 点(*〜33、データ数:4)
(このほか、後の risen と一体化した present、increased が各 1 名、平均得点:25.5 点)
平均得点を見ると、has と書き取ったグループがもっとも高く、is と書き取ったグルー
プを 6 点あまり上回っている。has が完全に脱落した学生の平均得点はもっとも低く、
正しく書き取った学生の得点と 10 点あまりの開きがあった。
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英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
4-2.
代名詞(its)
代名詞は短い音形のものが多く、なかでも[h]で始まる語(his、her など)や母音で始
まる語(it、its など)は聴き取りが難しい。今回の試験では、its が最上級の前に現れる
ため、the への置換が予想された。実際に、the と書き取った学生が約6割で、もっとも
多かった。
its
41.8 点(34〜51、データ数:4)
the
31.1 点(*〜44、データ数:14)
is
28.0 点(28、データ数:1)
a
*点(*、データ数:1)
27.7 点(*〜33、データ数:3)
脱落
(このほか、前の語と一体化した形が 1 名、28 点)
the と書き取ったグループの平均得点は、クラス全体の平均(31.6 点)と近い値を示して
いる。該当者数が多くなるほど全体の平均に近づくとはいえ、クラスの標準的な習熟度
は、ほぼこのグループ(最上級の前に定冠詞を置くという知識を運用できるレベル)に
相当すると考えられる。また、its と書き取った学生は、構造的に the を選択しても問題
がない環境で its を選択していることから、習熟度がかなり高い学習者であると言える。
実際に、このグループの平均得点は the を選択したグループを 10 点あまり上回っている。
4-3.
冠詞(the)
冠詞は音の情報が少なく聴き取りが難しいため、授業では、用法上の知識を身につけ
る(定冠詞を伴う表現を覚える)ことによって、音が聴き取れなくても知識で補うこと
を促してきた。今回の試験には定冠詞が3箇所現れるが、そのうち、the UK は繰り返し
取り上げたものの一つである。結果を見る限り、残念ながら、対策自体の浸透は十分で
はなかったようだ。UK の同定には 24 名全員が成功しているが、そのうち定冠詞を書き
取った学生は 14 名、冠詞が脱落した学生は 6 名であった。
in the UK
the
34.5 点(*〜51、データ数:14)
a
34.0 点(34、データ数:1)
脱落
30.5 点(28〜34、データ数:6)
(このほか、前の work と一体化した working が 3 名、平均得点:19.7 点)
平均得点では、定冠詞を書き取った学生と脱落した学生には 4 点の差が見られた。この
4 点の差が大きいか小さいかの判断は難しいが、以下に示すように、同じ in の後に定冠
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Forum of Language Instructors, Volume 8, 2014
詞が現れる in the economy についても、よく似た結果が出ている。
in the economy
the
33.0 点(*〜51、データ数:13)
be
34.0 点(34、データ数:1)
脱落
29.1 点(*〜33、データ数:9)
(このほか、前の in と一体化した and が 1 名、34 点)
この the についても、正しく書き取った学生と脱落した学生の平均得点の差はおよそ 4
点であった。これら二つの the に共通して見られる傾向から、定冠詞の聴き取りの成否
と習熟度には何らかの相関性があると推測できる。
なお、今回の試験に含まれるもう一つの the は直後に that が続いている。そのため、
the と書き取られたものが、the 自体を書き取ったものか、that が置換されたものかにつ
いての判断が難しく、今回は分析対象としなかった。
4-4.
前置詞(of)
前置詞も聴き取りが難しい場合が多いが、とくに母音で始まるものは、前の語と一体
化し、脱落しやすい。授業では、前置詞の聴き取りの対策として、動詞に着目して共起
する前置詞を探る方法と、名詞句の連続に着目してその関係を示す前置詞を探る方法を
提示した。今回の試験には名詞句をつなぐ of が2箇所現れるが、どちらも聴き取り結果
にばらつきが見られる。上の二つの定冠詞と同様に、二つの of でよく似た結果が得られ
た。以下で順に見ていくことにする。
the rest of this year
of
36.5 点(28〜51、データ数:12)
脱落
25.9 点(*〜34、データ数:9)
(このほか、to、in、and が各 1 名、平均得点:29.3 点)
データ数を見ると、of を正しく聴き取った学生と脱落した学生に大きな偏りがなく、傾
向を見るのに適していると言える。これら二つのグループの平均得点には 10 点あまりの
開きがあり、of と聴き取った学生の得点はすべて 27 点(満点の 50%)を上回っている。
また、二つのグループの得点分布は、完全に相補的とは言えないが、重なる範囲は 6 点
と狭くなっている。なお、別の語で書き取った 3 名のうち、2 名は前置詞、1 名はつなぐ
機能をもつ and を選択しており、平均得点は of が脱落した学生より高くなっている。
続いて、もう一つの of についても、同様の結果が得られた。
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英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
the rate of growth
of
35.9 点(*〜51、データ数:10)
-ive
35.0 点(28〜39、データ数:3、うち relative が 2、durative が 1)
-ed
29.0 点(27〜31、データ数:2、うち delated が 1、dreaded が 1)
is
*(*、データ数:1)
-ly
33.0 点(33、データ数:1)
to
33.0 点(33、データ数:1)
脱落
25.2 点(*〜29、データ数:6)
こちらの of でも、正しく書き取った学生と脱落した学生には、平均得点で 10 点あまり
の開きがあった。前者の得点分布は最少得点が 27 点未満でやや開きが大きいが、後者で
は最多得点がクラス全体の平均(31.6 点)を下回っている。上の of の結果と考え合わせ
ると、名詞句をつなぐ of の聴き取りの成否と習熟度には一定の相関があると考えてよさ
そうである。
なお、ここでは of が前の語と一体化した形が 6 例見られた。そのうち、-ive と書き取
った学生は、of の音形をほぼ正確に捉えており、3 名の平均得点は 35.0 点と高くなって
いる。同じく母音で始まる-ed と書き取った学生も of の音形をある程度捉えており、2
名の平均得点(29.0 点)は、of が完全に脱落した学生の得点より高い。データ数は十分
とは言えないが、今回の結果では、of、-ive、-ed、脱落の順で平均得点が低くなってお
り、習熟度との相関が伺える。
4-5.
弱音節で始まる語(suggests)
日本語を母語とする学習者にとって語頭の弱音節は聴き取りにくく、強勢が第2音節
にある語では、第1音節の弱音節が脱落しやすい。これをふまえて、授業では、[ə]など
の弱い母音で始まる語(across、emission、official など)を中心に取り上げ、対策として、
英語が思い当たらない音形について、語頭に母音を補った語が実在するかどうかを確認
するよう推奨した。また、弱い re-で始まる語(recession、動詞の research など)も取り
上げ、「弱強」の強勢パターンをもつ語について注意を促した。
試験で用いたニュースには「弱強」の強勢パターンを持つ suggests が含まれ、次のよ
うな結果が得られた。
suggests
37.0 点(28〜51、データ数:10)
suggest
31.0 点(29〜33、データ数:3)
suggested
28.5 点(*〜34、データ数:4)
just
26.0 点(*〜33、データ数:7)
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Forum of Language Instructors, Volume 8, 2014
活用語尾の違いにかかわらず、動詞の suggest を同定している学生は 17 名で、全体の約
7割を占めた。一方、語頭の弱音節が脱落し、just として聴き取った学生は 7 名であっ
た。なお、答案用紙には、この文の主部(a new report)があらかじめ印字されているこ
とから、suggests の第1音節が前の語に取り込まれて「消失」した可能性は排除される。
suggests 以外の形の活用形については、ごく単純に考えれば、リズム面が優先された
場合が suggest、文法面が重視された場合が suggested と言えるかもしれない。ただし、
直後に続く that によって、suggests と1音節分長い suggested との識別は難しくなってい
ることが考えられる。こうした活用語尾の違いによらず、suggest を同定した学生全体と、
just として聴き取った学生の平均得点を比較すると、前者の 33.9 点に対し、後者は 26.0
点で、8 点近い開きがある。また、正しい活用語尾の suggests を書き取った学生の得点
はすべて 27 点(満点の 50%)より上に分布している。以上の結果から、語頭の弱音節
の聴き取りの成否についても、習熟度との一定の相関があると考えられる。
4-6.
不規則動詞の活用形(risen)
上で見た機能語や語頭の弱音節のほか、不規則動詞の活用形 risen の聴き取りでも興味
深い結果が得られた。以下で詳細を報告したい。
不規則動詞の活用形には、語形自体の定着が悪いものが多い。なかでも risen は、筆者
の経験から見て、大学生の聴き取りが芳しくない語である。そのため、risen を含むこと
が今回の試験の素材選択の一つの理由にもなった。受験者の書き取り結果は以下のとお
りである。
risen
37.3 点(27〜51、データ数:9)
listened
39.0 点(39、データ数:1)
present
28.3 点(*〜31、データ数:4)
reason
25.0 点(*〜34、データ数:3)
recent(ly)
28.0 点(28〜28、データ数:2)
increasing
33.0 点(33、データ数:1)
(このほか、risen の音形と大きく異なる raised、regiment、increased、been が各 1 名)
※present や recent の語末の[t]と listened の-ed は、risen の直後の to の音声を取り込んで
いると考えられる。
risen を正しく書き取った学生は 9 名で全体の約4割を占め、その平均得点はもっとも高
くなっている。書き取られた形にかなりばらつきがあるが、母音の質・長さに着目する
と、risen、listened、present については、risen の最初の母音が短母音で聴き取られている。
一方、下の三つの形では、当該母音が長母音で聴き取られている。こうした観点から、
上の三つを合わせた 14 名と下の三つを合わせた 6 名の平均得点を算出すると、前者が
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英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察
34.9 点、後者が 27.3 点で、7 点ほどの違いが見られる。筆者のこれまでの経験から、母
音の質・長さの識別と習熟度には相関があると思われるが、この点については今後さら
に検討していきたい。
5.
分析結果の考察と今後の展望
以上で見たように、文中の弱い部分(機能語や弱音節)の聴き取りが、聴き取り全体
の結果と連動していることが示唆された。機能語については、とくに前置詞、接続詞、
関係詞は文構造を示す役割をもつことが多く、その聴き取りの成否が文全体の聴き取り
の鍵を握ることは、直観的に見ても自然である。また、機能語は音声面の情報が乏しい
ことも多いため、その聴き取りには音声以外の情報を活用した統合的な聴き方が重要と
なる。こうした聴き方ができるかどうかは、習熟度と密接に関係していると思われる。
現時点ではまだ推測段階のため、今後この点について継続的に考察していきたい。
機能語と同様に、語頭の弱音節についても、物理的な情報の不足を他の面から補うこ
とができれば、聴き取りが成功する可能性が高くなる。この点で、語頭の弱音節の聴き
取りの成否にも習熟度との相関が推測される。今回取り上げたのは語頭の弱音節のみで
あるが、今後、語末の弱音節についても見ていきたい。また、不規則動詞の risen では、
語形・音形の定着が不十分なことが同定しにくい主な原因と考えられるが、他の不規則
動詞でも同じことが当てはまるかどうか、調査が必要である。母音の聴き取りの傾向と
習熟度についても、さらに探っていきたい。
このほか、今回の試験には含めることができなかったが、語境界を挟んだ子音の連続
や、[p]、[t]、[k]などの無声閉鎖音(voiceless stop)で終わる語など、習熟度との相関性
が予想される要素は少なくない。今後、これらの要素・現象について分析を行い、習熟
度とより高い相関性を示す聴き取りの傾向・パターンを特定できれば、習熟度の基準と
しての活用や、習熟度に応じたリスニングの学習法・教材の開発につながっていくもの
と考える。
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