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微生物管理と バリデーション

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微生物管理と バリデーション
1
第Ⅰ編:総 論
1
第
章
微生物管理と
バリデーション
1-1 GMP と微生物管理
1. 医薬品の微生物汚染管理の意義
医薬品の品質保証,GMP のうえで微生物管理は極めて大きな意義を持っている。医薬品は,
他の工業製品や商品と違った特質を持っており,無菌医薬品はもちろん,非無菌の製品におい
ても製造の管理には微生物学の手法が大きな役割を果たしている.
医薬品の特質として,次に掲げるような点があげられる.
① 医薬品はヒトの生命に関係する物質であり,疾病,健康および生命に深く結びついてい
る
② 医薬品は人体にとって本質的に異物である
③ 医薬品は疾病などにより体の抵抗力が落ちている人に使用されることが多い
④ 医薬品は専門家により注意深く,間違いなく取り扱われなければならない
⑤ 医薬品の品質特性は外観からは判断できにくいものが多い
しかも,これらの生命・健康に関係する特性は,外観や事後の検査によっては判断すること
ができず,開発・製造の全過程に関係している.
これらの特性を考えるとき,医薬品は開発,製造,保管,流通,使用の全過程を通して,高
度な技術と高い倫理感をもって品質確保が行われなければならない.特に,医薬品の品質保証
のためには,その品質設計,設備の設計,製造の全過程において不良品が発生しないよう,あ
らゆる角度から組織的・技術的に管理を行っていかなければならない.このような製品設計,
製造と品質管理の方式を定めたのが GMP である.
特に,注射剤等の無菌医薬品および医療機器のうち,その用途,性質から見て,無菌性が要
求される製品については,製造のプロセスおよび製品自体について厳しい管理を行わなければ
ならない.また,一般の医薬品についても微生物による汚染を極力防止するよう,製造衛生管
理基準を定めて製造管理を行わなければならない.
医薬品あるいは医療機器について微生物試験を行う目的は次の点にある.すなわち,
① 無菌医薬品の無菌性の確保とその証明
無菌製品に対しては「製造工程の無菌管理」および「無菌試験」は,製品の無菌性を
証明する手段として極めて重要であり,このためには,種々な面で微生物試験法が重要
な役割を果たしている.
② 医薬品の製造環境管理の一環として「空気」
,
「水」および「機械設備」に関する微生物
18 第 1 章 微生物管理とバリデーション
・オーバーキル・アプローチ
‒
菌数の減少が 12 log となる滅菌条件,すなわち,10 6 以上の菌数を 10 6 以下まで減少させる
ような滅菌条件をオーバーキルという.
オーバーキル・アプローチ(オーバーキルによる滅菌条件)をとるときは,初期菌数(バイ
オバーデン)についての詳細な調査は不要とされている.
前に述べたように,無菌試験による無菌性の保証精度は,たかだか,100 mL 中に 1 個存在
する微生物を検出できる程度であるが,滅菌法による無菌性の保証は,温度と時間を適切に定
‒
‒
めることにより,SAL < 10 6,すなわち,被滅菌物中での生存微生物の確率は 10 6 以下を保
証することができる.工程を精密に設計し管理することによって,無菌試験による保証精度を
はるかに超えた保証を,理論上も,実際にも達成することが可能になるのである.
5. バリデーションの方法 ─ バリデーションのステップ ─
今まで述べてきたように,バリデーションは 1 つの設備,プロセス,方法が所期の目的を果
たしていることを検証・確認するための科学的システムである.
まず,バリデートしようとする製品の設備,プロセス,方法について,次の手順に従って進
められる.
(1)
「目標とする品質」を設定する(Design validation)
(2)次いで,
「目標とする品質」を達成するための,設備,プロセス,方法を設定し,実際
に設計どおりの設備,プロセス,方法ができ上がっていることを確認する(「据付け時
適格性確認」:Installation Qualification)
(3)次いで,この設備,プロセス,方法で所期の目的が達成できることをテストする.
(「稼
働性能適格性確認」
:Performance Qualification,Operation Qualification)
(4)テストには,予想される最悪の条件を設定し,また,機器の限界条件での作動を確認す
る.必要によりチャレンジテストの方法がとられる.バイオロジカルインディケータを
用いて殺菌条件を確認することなどもその 1 つである.
(5)次いでテストを実施し,その結果を記録,解析して,対象とするシステムが所期の目的
どおりのものであり,かつ,諸条件の変動,予想される最悪の条件においても十分に機
能することを確認する.
(6)最終的に,これらの一連の手順を踏んだ結果を総合的に判断,評価することにより,満
足する結果が得られれば,当該システムはバリデートされたものと判断される.
何か不備な事項が見つかったときは再度計画を立て直すこととなるが,場合によっては,製
造を行いながら注意深くモニターしていくこともある.すなわち,バリデーションは次のス
テップを経て行われることになる.
① 目標品質の設定(quality level)
② 設備,プロセスの仕様の確認,設計内容との照合(quality)
③ テスト・稼働状況の確認(test)
④ チャレンジ─最悪条件,限界条件での確認(challenge)
⑤ 試験,調査の結果の解析(analysis)
⑥ 総合評価(assessment)
ここで,対象となるのは当然製造のプロセス全般であるが,これを分類するならば,
9 - 4 生薬に対する微生物限度試験 237
①
③
②
試料 10 g を量り,乳糖ブ
イヨン 90 mL に加え,振
り混ぜて分散する.
9 mL の EC 培地を入れた
醗酵試発酵試験管にとる.
この液 1 mL を分取する.
44. 5±0. 2 ℃の恒温水槽中
で 24±2 時間培養する.
陰性
ガスの発生が認められない
場合は大腸菌陰性と判定する.
ガスの発生が
認められた場合
④
⑥
⑤
30∼35 ℃,18∼24 時間
培養する.
ガス発生の発酵試験管から,
1 白金耳を EMB カンテン培
地上に塗抹する.
(肺炎球菌)
⑦
⑧
30∼35 ℃,
SCDA で純培養
金属光沢または透過光下
で青黒色を帯びた集落.
⑨
IMViC 試験
グラム染色
発色酵素基質入
培地等の利用
グラム陰性桿菌
インドール試験
VP およびメチル
レッド反応試験
⑩
a
b
c
a:大腸菌
b:サルモネラ
c:黄色ブドウ球菌
図 9 . 20 大腸菌の定性試験
クエン酸利用試験
⑪
a
b
a:陽性
b:陰性
⑫
a
b
a:ブランク
b:陰性(大腸菌)
446 第 17 章 最終滅菌工程の微生物管理試験法
17.2-2 低 F0 滅菌製剤の製造管理システムの設計
1. 低 F0 滅菌製剤の微生物管理の要点
過去に米国などで発生した最終滅菌輸液製剤での微生物汚染事故から明らかなように,最終
滅菌製剤は単に滅菌温度・滅菌時間といった最終滅菌条件を遵守すれば達成できるものではな
く,未滅菌品での微生物汚染リスク,最終滅菌済みの容器の密封性,気密性などを含めたトー
タルの微生物汚染リスクを最小限とする製造管理・品質管理システム設計が必要である.その
ため,特に低 F 0 滅菌製剤の微生物管理の要点は,その滅菌条件設定の根拠とした指標菌以上
の耐熱性を示す菌を検出しない製造管理・品質管理を行うことである.
一般的に,耐熱性を示す微生物は芽胞であり,その芽胞菌の制御が重要となるが,通例,耐
熱性の低いグラム陽性球菌やグラム陰性桿菌などと耐熱性の高い芽胞菌を区別して管理・制御
することは不可能である.そのため,低 F 0 滅菌製剤の微生物管理で重要なことは,芽胞菌の
混入を防止する目的で未滅菌品に混入する微生物数をゼロベース*で管理することである.
なお,2012 年 11 月発出の「最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針」1)の A 2. 輸
液剤等の大容量製剤の無菌性保証の項には,
「滅菌前製品のバイオバーデンは< 1 CFU/製品
を目標値とする.」と記述されており,この要求基準とゼロベース管理とは同じ意味である.
*
ゼロベースとは,未滅菌品のバイオバーデンモニタリングで得られる結果が,通例 0 CFU/製品(容器)で管
理できていることと定義する.なお,0 CFU/容器での管理は,無菌操作法で製造する無菌医薬品の無菌性保
証水準と同等という意味ではない.
2. 低 F0 滅菌製剤の製造管理システムの設計
本項では,上述した未滅菌品に混入する微生物数をゼロベースで管理するための製造管理シ
ステムの設計について述べる.
製造システムの構築にあたっては,品質リスクマネジメント 4)の概念から,いかに未滅菌
品のバイオバーデンをゼロベースで管理するか,という観点で製造システムを設計すべきであ
る.これは安易な製造システムの構築によって,患者に微生物汚染リスクのある医薬品を投与
するといったことがあってはならないためである.また,現在すでに稼働中の製造システムに
ついても,あらためて品質リスクマネジメントを用いて見直すことは ICH Q 10 5)の継続的改
善の概念からも有効である.
図 17. 12 として未滅菌品のバイオバーデンにクリティカルに影響する重要管理項目につい
て要因を示し,品質リスクマネジメントの観点から,これらの製造システムについて考察する.
図 17 . 12 中の重要管理項目に対して一般的に考えられる管理手法について列挙し,それぞれ
の微生物汚染リスクを表 17. 8 および表 17. 9 に示す.
未滅菌品は,これら重要管理項目の管理手法の組み合わせにより製造システムが構築され,
その製造システムにより微生物汚染リスクはほぼ決定される.それぞれの管理項目について,
より詳細に記述する.
1)薬 液
薬液に関してバイオバーデンをゼロベースで管理するための手法として,無菌操作法におけ
17. 2 - 2 低 F 0 滅菌製剤の製造管理システムの設計 447
環境の除染
作業員の介入
ろ過フィルター
境
薬液
送液ラインの管理
塞環
ん閉
充て
空調設備
未滅菌品の
バイオバーデン
容器
体
搬送ライン
/栓
滅菌 or 殺菌方法
図 17 . 12 未滅菌品のバイオバーデンにクリティカルに影響する重要管理項目
表 17 . 8 薬液の管理手法と微生物汚染リスク
代表的な管理手法
重要管理項目
ろ過フィルターの孔径
① 孔径≦ 0. 2μm のフィルターでろ過
(完全性試験実施)
薬 液
② 孔径≦ 0. 2μm のフィルターでろ過
(完全性試験実施せず)
送液ラインの管理
a)毎ロット CIP/SIP 実施
b)毎ロット CIP+定期的 SIP
c)毎ロット CIP+定期的殺菌(除染)
③ 孔径> 0. 2μm のフィルターでろ過
微生物汚染
リスク
低
↓
↓
↓
高
表 17 . 9 容器/栓体および充てん・閉塞環境の管理手法と微生物汚染リスク
重要管理項目
代表的な管理手法
① 無菌性保証された容器/栓体
容器/栓体
② 殺菌(除染)された容器/栓体
③ 微生物管理された容器/栓体
④ 微生物管理されていない容器/栓体
充てん・閉塞環境
① Grade A
② Grade C
微生物汚染
リスク
低
↓
↓
高
低
高
る無菌ろ過工程の管理手法(無菌ろ過システム:表 17. 8 中の①と a)の組み合わせ)がある.
この場合,無菌ろ過フィルター以降,充てん機の充てんノズルまでの送液ラインの SIP を適切
な頻度で実施する必要がある.この無菌ろ過システムを採用すれば,原料由来および秤量・調
製工程由来のバイオバーデンの無菌性への影響を無視することができ,モニタリングでカバー
できない汚染の可能性も排除できる.
無菌ろ過システムを採用しない場合には,採用した管理手法に応じて微生物汚染リスクを分
析し,原料,薬液および送液ラインの高頻度のバイオバーデンモニタリングが必要となる.そ
のモニタリングにより,滅菌条件設定の根拠とした指標菌以上の耐熱性を示す菌が検出されな
いことを確認する必要がある.
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