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オ ウィデ ィウス『 名高き女 たちの手紙』第 9歌 におけるデ ーイアネイ ラ -― ヘ ー ラク レースの 「名誉」 と 「不名誉」―一 1 西井 奨 1.序 論 :第 9歌 「デーイアネイ ラか らヘ ー ラク レースヘ の手紙」 の問題 αθ s)第 9歌 (以 下、ル ′.9)は 、ヘ ー ラク オ ウィデ ィウス『名高 き女たちの手紙』 (H∽ ′ レースの妻デ ーイアネイ ラが夫ヘ ー ラク レースに宛 てた手紙 とい う形 の作品である。 これ はエ レゲイ ア詩形で全 168行 か らなる。 この作品の背景 となる物語は、以下のよ うなもの 2。 として知 られ る ヘー ラク レース は、いわゆる 「12の 功業」 の最後 の仕事 として、冥界 の番犬ケルベ ロス を捕獲す るため冥界に行 く。そ こで 、オイネ ウスの子 メ レア グ ロスの亡霊に出会 い、彼 の ヘ 妹デーイアネイラを妻 に要 ることを約束す る。「12の 功業」を果 た し終 えた ー ラク レース は、デーイアネイラに求婚 し、同 じく求婚者 として対 立 していた河神 アケ ローオ ス を組み エ エー ノス河 を 伏 せて、彼女 を妻 とす る。 さて、ヘ ー ラク レース は彼女 との旅 の途 中、 ウ 渡 るため、渡 し守をしていたケンタ ウロスのネ ッソス にデーイアネイラを運 ぶのを任せ る。 そこでネ ッソスは彼女 を犯そ うとした ので、ヘ ー ラク レースは ヒュ ドラーの毒 を塗 り付 け た矢でネ ッソス を射殺す。 一方ネ ッソスは死の間際、デ ーイアネイ ラに毒 の混 ざつた 自分 の血を、「夫ヘ ー ラク レースの心を繋 ぎ止める媚薬 である」 と称 して彼女に渡す。 しば らく して、オイカ リアー に遠征 していたヘ ー ラク レースか ら、オイカ リアーの王女イオ レー が 捕虜 としてデ ー イアネイ ラの下に連れ て こられ る。デー イアネイラは、イ オ レー に夫 の愛 が移 るの を恐れて、媚薬 だ と問いていたネ ッソスの血 を塗 り付 けた衣 をヘ ー ラク レースに 送 る。その血に混 ざつていた毒 のため、その衣を着 たヘ ー ラク レースは瀕死 の状態 に陥る。 己が送 つた衣 のせいで夫 が死にかか つてい るとの知 らせ を受 けたデー イアネイ ラは、過 ち 3火 を悔 いて 自害す る。また一方、瀕死 のヘ ー ラク レースは、 自分 自身をオイテー 山にて 葬 に附す。 πθ r.9は その 内容か ら、デ ーイアネイラの下にイ オ レーが連れて来 られ、そ してデーイア ネイ ラが 「媚薬」 を塗 り付けた衣 をヘ ー ラク レース に送 つた後に、彼女 が書 いた手紙であ ると判断できる。 ここで、Lθ ′ 9の 全体を、便宜上 、大きく 5つ のパ ラグラフに分ける と、 1本 稿は、ギ リシア・ローマ神話学研究会第 8回 研究発表会 (2013年 2月 16日 、於大阪大学)で 発表 した 内容を、大幅に修正 。発展 させたものである。発表 に際 してご意見を下さつた方 々に、この場を借 りて謝 意を表 したい。 ・ 2以 下に示す ∬θ ′9の 背景 は、バ ッキュ リデース『 祝勝歌』第 5歌・ ソポクレース『 トラーキーニアイ』 の 1-272で ス 9巻 ・ ― アポ ロ ドーロス『 ギ リシア神話』第 2巻 第 5章 第 7章 オウィディウ 『変身物語』第 叙述から再構成 したものである。 3へ _ラ ク レースがオイテー山で焼死するとい う伝承には、い くつか問題がある。 これについては、内田 ゴ ズ 次信 「ヘ ラク レスの死」2011年 度大阪大学大学院文学研究科共同研究成果報告書『神話表象のアレ リ ム研究一一文学・哲学・ レ トリックに即 して』2012,1-7参 照。 63 次 の よ うにま とめ るこ とがで きる。 [1]ヘ ー ラク レー ス がイオ レー ヘ の恋 の虜 にな った と伝 え問いた こ とにつ いて (1-26) [2]ヘ ー ラク レー スの妻 としての苦悩 と、夫 の身 の危 険 につい ての心配 (27-46) [3]ヘ ー ラク レースの女性 関係 と、オ ンパ レー に仕 えて い た時 の こ とについ て (47-118) [4]眼 前 に連れ て来 られ たイ オ レー の存在 につ いて (119-142) [5]ヘ ー ラク レー ス瀕 死 の報 が届 いてか ら (143-168) さて、L`′ 9の 大 きな特徴 として挙 げ られ るの は次 の二つ で ある。 第 一 に、 1-142を 中 心 に、「12の 功業」や そ の他 の功業 (パ レル ガ)を 含 めヘ ー ラク レー スの 「功業」 につ いて か な り多 く記述 が割 かれ てい る とい うこ とで ある。 これ は、 と りわ け第 3パ ラグラフ (47 -118)に お いて著 しい。 そ して第 二 に、 143以 降で 、デ ー イ アネ イ ラ 自身 が送 つた衣 の毒 でヘ ー ラク レー ス が瀕 死 に陥 つた とい う報告 を受 けた こ とが述 べ られ 、 143-168は それ ま で の叙述 と一転 して 、デ ー イ アネ イ ラが 自らの死 の決 意 へ と向か つて 己に問い か けを繰 り 返す もの にな る とい うこ とで あ る。 第 一 の特徴 につ いて は、「冗長す ぎ る」 と して 、 また第 二 の特徴 につ い ては 、「唐 突 で あ 「稚拙 で あ る」 と して 、両特徴 とも 鳳%9の 作 品 としての質 を低 く評価す るた めの要 る」。 素 としてみ な され る こ とが多 い 4。 しか し果 た して本 当に これ らの特徴 はそ の よ うな もの と 9の 二つ の特徴 につ いて 、改 めてテ `″ “ クス トに即 して検討す る こ とで、これ らの特徴 が Лセκ9と い う作 品全体 の統 一性 の観 点か ら、 しか考 え られ ない ので あろ うか。本稿 で は、 この む しろ作 品 の主題 に沿 つ た もの と して機 能 してい る こ とを示 したい。 また本 稿 で は、 この よ うな検討 に よ り、詩人 オ ウィデ ィ ウス が 蘭 9で 描 こ うとしたデ ー イ アネイ ラの様相 を `″ 明確 な ものに したい。 2。 手紙 の導入 にお けるデ ー イ アネイ ラの執筆 姿勢 巌7′.9を 検討す るにあた り、まず確認 してお きた いのが 、手紙 冒頭 の一 節 で あ る。 ここで ′9全 体 に通底 す る執 筆 姿勢 が現れ てい る と考 え られ は手紙 の書 き手デ ー イ アネイ ラの 、日θ る。 4こ の よ うな評価 に つ いて は、D W T C Vessey,Notc on Ovid,H∽ ガθ s 9 Ctttsた α′0ク ″た′ /1y,63(1969),349 -361,esp.350-355参 照。 一 方 、 これ ら両特徴 をあ る程 度 肯 定 的 に評価 しよ うとす る もの もあ る。 そ の よ s P ncetcll1 1974,esp 229,238-241、 M CBo■ on,In Dcfcncc うな評価 につ い て は、H JacObson,0″ ζH"麟 θ ′9の コ メ ン of巌 笏 力い 9″ レι ″οッ″′,50(1997),424-435,csp 429-432,434参 照。 ま た、近年 の 浩物 な ん¢ ハ猛 ο″おル Ю励 お″″χ D′ ″″j″ Lο κ″″ FireILZe 1995が 挙 げ られ る。 た タ リと して S Casali,26ル 励 ブ "勲 だ し JacObsOnに お いて も Bo■ o■ にお い て も Casaliに お いて も、本稿 にお け る よ うな、「ヘ ー ラク レー ス の 「名 誉 」 と 「不名 誉 Jの 対置 Jを 、〃に 9仝 体 を見通 す視 ′ 点とす る検討 はな され てい ない。 64 Gratulor Oechaliam titulis accedcrc nostns, victOrcm victac succubuissc qucro■ fama Pclasgiadas subito pcrvenit in llrbcs dccolor et factis initianda tuis, quenl numquam luno scricsquc illlmensa laborum 5 Oυ ′ 9.1-6) tcgcrlt,huic 101cn imposuissc iugum. オイ カ リアー が私 た ちの名 誉 にカロわ る こ とを祝福 します が 、勝利者 で あ るあなた が敗者 の女 に屈 した の を私 は嘆 い てい ます 。 噂 が突然 ペ ラス ゴスの都 市 に達 しま した。 あなた の功 業 に よって否 定 され るべ き、恥ず べ き噂 です。 ユ ー ノー も、数 えきれ な い ほ ど続 い た苦難 も、決 してヘ ー ラク レー ス を打 ち砕 く こ とがで きなか った の に 、イ オ レー がそ の ヘ ー ラク レー ス に くび きをか けた とい うのです。 5 この手紙 冒頭 の 1-2で は、「ヘ ー ラク レー ス に よるオイ カ リア ー の攻 略」 に 「イ オ レー に よるヘ ー ラク レー スの攻 略」が対置 され てい る。 また 、5-6で は、「ユ ー ノー も数 え切れ な い 苦難 もヘ ー ラク レー ス を屈服 させ 得 なか った こ と」 に 「イ オ レー がヘ ー ラク レー ス を 屈服 させ た こ と」が対置 され てい る。ここで、│ヘ ー ラク レー ス に よるオイカ リア ーの攻 略」 と 「ユ ー ノー も数 え切 れ な い 苦難 もヘ ー ラク レー ス を屈服 させ 得 なか った こ と」 は 、それ らの内容 を普遍 化 してい うな らば、 ヘ ー ラク レー スの 「武 勇 に よる名 誉 」 で あ る とい うこ とがで きる。 また 、「イオ レー に よるヘ ー ラク レー スの攻 略」 も 「イ オ レー がヘ ー ラク レー ス を屈服 させ た こ と」 も、イ オ レー とい う要素 を捨象 して 普遍化 す るな らば 、ヘ ー ラク レ ー ス が 「女 に屈 月 艮す るこ とに よる不名誉 」 で あ る とい うこ とがで き る。 これ らの よ うな、「武勇 に よる名誉 」 と 「女 に屈服す る こ とに よる不 名 誉 Jを 対置す るデ ー イ アネイ ラの意 図 は、3-4の fama.… decolor… facis initianda tuis「 あなた の功業 に よって 否 定 され るべ き、恥ず べ き噂 です 。」 とい う表現 が象徴 的 に提示 してい る と解釈 で きる。 こ こでの fama dcc010r uき ず べ き噂」 は、ヘ ー ラク レー スの 「不名 誉」 を伝 える もので あ り、 facta tua「 あなた の功業」 はヘ ー ラク レー スの 「名 誉」 た る功業 で あ る。す なわ ち、 この 3 -4で は、「ヘ ー ラク レー スの 「不名 誉」 はヘ ー ラク レー スの 「名 誉」 に よって否 定 され る べ きで あ る」 とい うこ とが述 べ られ てい るので あ る。 これ こそが πθ ′ .9の 主題 で あ り、 ヘ ー ラク レー ス に宛 てた手 紙 の執筆 に際す るデ ー イ ア ネイ ラの根本 的 な姿勢 で あ る とい える。 また 引 き続 き第 1パ ラグラフ (1-26)で イオ レー につ いての こ とを述 べ るにあた って 、 ー デ イ アネ イ ラはヘ ー ラク レー ス に、地上 ・ 海 ・ 天 空 と、世 界 を構成 す る全 ての場 に関 し て果 た して きた功業 につ いて 思 い 出す よ う促 した後 (13-186)、 次 の よ うに述 べ る。 5以 下、本稿で引用す る Lθ ′9の 邦訳 は、筆者 による訳である。底本 には G Rosati,0滋 ο:Z`能 ″ ″ Milan 20085(lst cd 1989)を 使用 した。 6〃 θ ′913-18:「 `″ ″′ , 思 い 出 して くだ さい。世界が平定 されたのは、解放者であるあなたの力 によるものだ と い うことを一―紺碧 のネ ー レウスが広大な大地を取 り囲む この世界 の ことです。大地 の平和はあなたのお かげです し、海 が安全なの もあなた のおかげです。 あなたは 日の出 と日没 の太陽 の家 を両方 とも功績 で満 65 quid nisi notitia cst miscro quacsita pudo si culnulas turDi faCta D , ora nota? 簾 r.9.19-20) しか し、あなたが これまでな した功 業を、恥ずべ き印を積んで完成 させ るの な ら、あな たは惨めな恥 のために周知 され ることを求めたに過 ぎないのではないですか。 ここで、仙Ⅲ s nota「 恥ずべ き印」 とは 「不名誉」であ り、facta p ora「 これまでな した功 業」 とは 「名誉」であるとい える。すなわち ここでは、「ヘ ー ラク レースの 「不名誉」はヘ ニラク レースの 「名誉Jを 台無 しにしてしま う」 とい うことを述 べ ていると解釈 できる。 そ して これは、先に述べ た 「ヘ ー ラク レースの 「不名誉」はヘ ー ラク レースの 「名誉」に よって否定 され るべ きである」 とい う主題 を、パ ラフレーズ した もので あるとい うことが できよ う。 .9に おいては、ヘ ー ラク レースの 「名誉」 と 「不名誉」が作 以上で確認 したよ うに、ル ′ 品理解 の上で重要な鍵 をな している。そ こで本稿での カウ 9の 検討 においては、ヘ ー ラク レースの 「名誉」 と 「不名誉」が、手紙の書き手デー イアネイ ラによって どのよ うな形で 言及 されているかを中心に、テクス トの解釈 を進 めてい くことにす る。 3.夫 ヘ ー ラク レースヘ の二種類 の危惧 第 2ノ くラグラフ (27-46)で は、デーイアネイラは自分 がヘー ラク レースの妻であるこ とに苦労を感 じていることについて述 べ (27-32)、 次 のよ うに述べ る。 vir mihi sempcr abcst,et coniugc notior hospcs monstraquc tcrribiles pcrscquiturqlle feras. ipsa domo vidua vo■ s operata pudicis torqucoち 35 oυ r.9.33-36) festo ne vtt ab hoste cadat; 私 の夫はいつ も側にお らず、夫 としてよりも客人 として有名で、怪物や恐ろ しい獣 ども を追 いか けてい ます。私 自身は、夫 のい ない家 で、貞淑な祈 りに励み、害意ある敵によ つて夫が倒れは しまいか と、心を悩ませています。 ここでのデ ーイアネイラの危惧は、第 1パ ラグラフ (1-26)で イオ レー に関 して述べ て いたよ うな 「女に屈服す ること」ではなく、intstus hosis「 害意ある敵」によって 「身体的 に打ち負 か され ること」である。続 く 37-38で は、そのよ うなヘ ー ラク レース を身体的に た したのです 。 あなたを支 えることになる天 を、それ よ り先 にあなた 自らが支 えま した。そ してヘ ー ラク レース に代わって、 ア トラースが星 々 を担いだのです 。J 66 7。 打 ち負 か し うる存在 と して蛇 。猪 ・獅子・ ケル ベ ロス を挙 げ る この 27-46で は、明確 な 形 で ヘ ー ラク レー ス の 「不名 誉 」 につ い て述 べ てい るわ けで はな い が 、 も しもヘ ー ラク レ ー ス が 「身 体 的 に打 ち負 か され る こ と」 力`あ る とすれ ば、それ は 「武勇 に よる名 誉 」 を誇 8。 るヘ ー ラク レー ス に とつて最 大 の 「不名 誉 」 にな りえ る とい え よ う デ _ィ ァネ イ ラが、 ヘ ー ラク レー スが 「身 体 的 に打 ち負 か され る こ と」 を危惧 す るの は、夫 の 身体 の危 険 を案 じて こそ の こ とで あ る と考 え られ るが、 ヘ ー ラク レー ス の 「名 誉 」 と 「不名 誉 」 とい う視 点 か ら改 めて このパ ラグラ フ を検討 す る と、ヘ ー ラク レー ス が 「身体 的 に打 ち負 か され る こ と」には、ヘ ー ラク レースの 「不名誉 」 とい う要素 がその表 現 の背後 にあ る と思 われ る。 ただ し、ヘ ー ラク レー ス は これ まで どの よ うな相 手 か らも 「身体 的 に打 ち負 か され る こ と」 はなか った。 27-46に 続 き、第 3パ ラグラ フ 冒頭 でデ ー イアネイ ラは、 haec hi fcrrc parunl:pcregrmos addis amores, ′ 9.47) │りθ しか しこれ らを耐 える こ とはたい した こ とで はあ りませ ん。 あなた は、異 国 の愛人 た ち を加 えたか らです。 と、 ヘ ー ラ ク レー ス が 「身体 的 に打 ち負 か され る こ とJよ りもず つ とヘ ー ラク レー スの女 性 関係 を危惧 してい る。 これ は、ヘ ー ラク レー ス が 「身体 的 に打 ち負 か され る こ と」 がそ もそ もなか っ たか らで あろ う。 一 方 、 この女性 関係 へ の危惧 は、先 に第 1パ ラグラフで も イ オ レー に関 して述 べ ていた よ うな、ヘ ー ラク レー ス が 「女 に屈月 及す る こ とに よる不名 誉 」 につい て述 べ るた めの前 置 きで あ る とい え る。とい うの も、この第 3パ ラグラフ (47-118) で は、 ま さにヘ ー ラク レー ス が 「オ ンパ レー に屈服 した こ とに よる不名 誉 」 が 中心的 に述 べ られ るか らで あ る。 ヘ ー ラク レー ス には 「身体 的 に打 ち負 か され る こ と」 よ りも 「女 に 屈服 す る こ と」 の方 が起 こ り得 る、 としてデ ー イ アネ イ ラは危惧 してい る とい え る。 こ こで は、 まず これ までの ヘ ー ラ ク レー スの 女性 関係 の うちア ウゲ ー・ ア ス テ ュ ダ メイ ア (オ ル メ ノスの孫 の ニ ンフ)。 テ ス ピオ スの 50人 の娘 た ち (テ ウ トラー スの孫 の群れ な す姉妹 た ち)を 挙 げ るが (49-529)、 特 に c mcn(53)「 罪 」た る存在 として、オ ンパ レー を 挙 げ る (53-54)。 そ して続 いて 、64行 に も渡 リオ ンパ レー の 下 にい たヘ ー ラク レー スの「不 名 誉」た る様 子 につ いて述 べ るので ある。この箇所 では、本 稿 第 一 章 で も提 起 した よ うに、 ヘ ー ラク レー スの 「功業 」 につい て 多 くの記述 が な され てお り、「冗長す ぎる」 との批判 が あ る。 この 55-108で は、ヘ ー ラ ク レー ス が 「オ ンパ レー に屈服 した こ とに よる不名 誉 Jが 、 7∬ θ r 9 37-38:「 蛇や猪や貪欲 なall子 や、二つの頭 で食 らいつ こ うとす る犬の ことばか り考 えて私 は翻弄 されています。」 8後 述す るよ うに、 この ことが 143以 降の 、ヘ ー ラク レース瀕死 の報 が届いてか らの手紙 の 内容 に関連す ることになる。 9〃 σ ′949-52:「 私はパルテニオスの谷 で犯 されたア ウゲーの ことや、オル メノスの孫 のニ ンフよ、お前 の 出産 の ことを言 うつ も りはあ りませ ん。 テ ウ トラースの孫 である、群れなす姉妹たち―― そ の群れか ら 誰ひ とりあなた と交わ らず に取 り残 された ものはいませ んで したが一一 も、あなた の罪 ではあ りません。J 67 大 き く三つ に分 けて述 べ られ る。 それ はす なわ ち、 ヘ ー ラク レー ス が 「女性 の装 い を して 糸紡 ぎに従事 した こと」 (55-80)。 「女性 の装 い を してい るの に己の功 業 につい て語 つた こ と」 (83-102)お よび 、「オ ンパ レー がヘ ー ラク レー スの装 い を した こ と」 (103-118)で あ る。 ここで 注 目す べ きな のは 、 これ らの よ うなヘ ー ラク レー ス が 「女 に屈服す る不名 誉 」 に、 ヘ ー ラク レー スの 「武勇 に よる名 誉 」 が対 置 され る こ とで あ る。 具体 的 には、次 の よ うに対置 され てい る。ヘ ー ラク レー ス が 「女性 の装 い を して糸紡 ぎに従事 した こ と」には、 女性 の装 身具 が身 に付 け られ る部位 と関連 させ た り、 ヘ ー ラク レー スが倒 した相 手 が そ の 「腕 でネ メアの獅 子 様子 を 目に した らど うな るか、 とい った形 で 、「首で天 を支 えた こ と」。 「デ ィオ メー デ ー ス・ ブ ー シー 「手 で数 多 くの難 業 を達成 した こ と」。 を絞 め殺 した こ と」。 リス・ ア ンタイ オ ス とい つた悪漢 を倒 した こ と」 が対置 され てい る。 また、「女性 の装 い を してい るの に己の功業 につ い て語 つた こ と」 には、そ の よ うな装 いで語 るにはふ さわ しく ない こ とで あ る と して 、ヘ ー ラク レー スが倒 した相手 た ちの こ とが対置 され る。ここで は 、 赤子 の 時 に締 め倒 した二 匹 の蛇・ エ リュマ ン トス の猪 ・ デ ィオ メー デ ー ス・ ゲ ー リュオネ ース・ ケル ベ ロス・ レル ネ ー の ヒュ ドラー 。ア ンタイ オ ス・ ケ ンタ ウ ロス た ち、 が 挙 げ ら れ る。 また 、「オ ンパ レー がヘ ー ラク レースの装 い を した こ と」 には、そのオ ンパ レー が奪 つた 「名 誉」10と 関連す る装備 品 と して 、「ネ メア ・ (も しくはキ タイ ロー ン)の 獅子 の毛 皮 」 「レル ネ ー の ヒュ ドラー の 毒 で黒 く染 ま った 矢 」。 「獣 どもを圧倒 す る根棒 」 が 、対置 され てい る。 と りわ け、 この 「オ ンパ レーがヘ ー ラク レー スの装 い を した こ と」 において は、 sc quoquc nympha tuis omavit lardanis armis et tulit e captO nOta tropaca v缶 o. qua tanto minor cs,quanto tc,rnaximc rcm, quam quos cisti,vinccre maius cr誠 r.9.103-108) 鰤θ . イアルダノスの娘 のニ ンフは、あなたの武具で 自分 を飾 りもしま した。囚 えた男か ら誉 れ高い戦勝品を取 り上げた とい うことです。 (… 中略 …)万 物最強 の勇者 よ、あなたが打 ち負か した者 たちよ りもあなたを打ち負かす ことの方が偉大だ ったの だか ら、その分 だ けあなた は彼 女 よ り劣 るのです 。 「ヘ ー ラク レー ス を打 ち負 かす こ とJに なぞ らえる形 でヘ ー ラク レー ス が「オ とい うよ うに、 ンパ レー に屈服 した こ とに よる不名 誉」 を表 現 してお り、デ ー イ アネイ ラは明確 にオ ンパ レー を 「女 に屈服す るこ とに よる不 名 誉」 と位 置付 けて い る とい える。 この よ うに、 55-118で は、ヘ ー ラク レー スが オ ンパ レー とい う 「女 に屈服す る不名 誉」 に対 し、ヘ ー ラク レー スの 「武勇 に よる名 誉」 が 、事細 かに挙 げ られ てい く。 これ 自体 は、 10 ci∬ θ ′9.109-■ 0:「 あなたの功績 を計 る尺度 は、彼女 に移 つているのです。財産 を彼女に譲 りな さい。 その愛人があなたの誉れの相続人 なのです か ら。J 68 「ヘ ー ラク レー スの 1不 名 誉 」 はヘ ー ラク レー ス の 1名 誉 Jを 台無 しに して しま う」 とい うことを述 べ てい る とい え よ う。 そ して これ は、「ヘ ー ラク レー スの 1不 名 誉」 はヘ ー ラク レー スの 「名 誉」 に よって否 定 され るべ きで ある」 とい う 乃レ .9の 主題 を、間接 的 に表 明 した もの で あ る と解釈 で き る。 ただ し、 この よ うな言述 が 64行 に も渡 つてい るの は、確 かに冗長 で あ る と映 るか も しれ ない。 しか し、本稿 次章で さらに検討 す るよ うに、 この 64行 に渡 る言述 は、続 く第 4パ ラ グラフ (119-142)と の 内容 との関連 にお いて 、特 に意 味 を帯びて くる と考 え られ るので あ る。 4.眼 前 のイオ レー の存在 につい て 続 く第 4パ ラグラフ (119-142)で は、デ ー イ アネイ ラは改 めてイオ レー に話 題 を戻す 。 第 1パ ラグラフで は、falma(3)「 噂」 を通 じて知 った こ ととしてイォ レー につ い て述 べ てい たが 、 一 方 この第 4パ ラグラフでは 、デ ー イ アネイ ラがイオ レー をま さに 目の 当た りに し て得 た 印象 につい て述 べ る。 ここで デ ー イ アネ イ ラは、 haec tamell audieraml licuit nOn credcrc famac, et vcnit ad scnsus mollis ab aure dolo■ 120 ante mcos ocu10S adducitur advcna paclcx, 9.103-108) nec inihi,quac patioち くssiinularc licct けれ ど、 これ らは耳 に しただ け の こ とです。 噂 は信"″ じな くて も済 み ま した。 それ に耳か ら心 にや って 来 る苦 しみ は、穏 や か な ものです。 しか し、異 国 の 妾女 が連れ て こ られ た の は私 の 目の前 です。耐 え るの は私 な の だ か ら、知 らないふ りをす る こ とな どで きませ ス ノ 。 と、 これ まで述 べ ていた 「ヘ ー ラク レー ス がオ ンパ レー に屈 服 した こ と」 を 「信 じな くて も済 む もの 」 と して片付 け、眼前 のイ オ レー につ い て は、 現在 自分 に 関わ つて くる こ と と して 、オ ンパ レー 以 上 の 「脅威 」 とみ な してい る。 イオ レー につ い ては さらに、 dat、 ultum pOpulo stlblimis ut Hcrculc ctO: Oechaliam vivO stare parcnte putcs. 130 forsttan ct pulSa Aetolidc Deianira nomine dcposito paclicis uxor c 鰭 ′ 9.129-132) t, 彼 女 はヘ ー ラク レー ス を打 ち負 か したかの よ うに、騎 って群衆 に顔 を向 けて い ま した。 両親 が生 きてお り、オイ カ リア ー も健 在 で あ るか と思 うほ どです 。 おそ らく彼 女 は 、 ア イ トー リア ー 女 のデ ー イ アネ イ ラを追 い 出 して 、 正 妻 に落 ち着 いて 妾女 の名 を捨 て るつ 69 もりなのでしょう。 と、「ヘ ー ラク レー ス を打 ち負 かす こ と」 になぞ らえる形 で彼 女 の様 子 を表現す る。 ここで は第 3パ ラグラ フの 103-108で オ ンパ レー につ いて述 べ て い た の と同 じ形 で 、イ オ レー を ヘ ー ラ ク レー スの 「女 に屈服 す る不名 誉」 と して位 置 づ けて い る ので あ る。 そ して 、イ オ レー が 「デ ー イ アネイ ラを追 い 出 して正妻 にな ろ うと してい る」 とい うこ とはま さに、「全 ― ラク レー スの 「不名 誉 Jは ヘ ー ラク レー スの 「名 誉 」 を台無 しに して しま う」 とい う主 張 で あ る と解 釈 で き る と考 え られ る。 とい うの も、 これ に続 く me quoquc c― rnulus,scd mc sine crinllnc amasti: nc pigcat,pugnac bis ibi causa mi comua flcns legit■ is Achclousin uds 血 caque limosa tcmpora rncrsit aqua; 140 scnlivir occubuit in letifero Eveno 鰭 ′.9137-142) Ncssus,ct infccit sanguis equhus aquas. 私 も多 くの女達 と共にあなたが愛 した女たちの一人ですが、私へ の愛に罪はあ りません で した。私 があなたに とつて三度、戦いの原因 になつたことを後悔なさる ことにな りま せんよ うに。 アケ ローオ ス は湿気た川岸で、泣 きなが ら自らの角を拾 い 、角 の切 り落 と された額を泥だ らけの水 に沈めま した。半人半獣 のネ ッソスはエ ウエー ノス河で倒れて 死に、馬 の血で川 の水を染めま した。 とい うデーイアネイラ本人についての言及 は、 自分 自身がヘ ー ラク レース にとって pugnac bis causa「 二つの戦 いの原因Jと な つたこと、すなわち自分 自身 が 「ヘ ー ラク レースがアケ ロー オ ス とネ ッソスを倒 した こと」 の原因 とな つた とい うことを述 べ てお り、デ ーイアネ イラの存在その 1)の をヘ ー ラク レースの 「武勇 による名誉」 として提示 していると解釈 で きるか らである。 この 137-142で も、ヘ ー ラク レースの 「女に屈服す る不名誉」に 「武勇による名誉」 が 対置 されてい ると解釈できる。すなわち、イ オ レー とい う 「女 に屈服す る不名誉」には、 デーイアネイ ラとい う 「武勇による名誉」 が対置 されてい るのである。 また さらに別 の側面か ら付け加 えるなら、イオ レー には paelex「 妾女J(121,132)と い う 表現がな されてい ることか ら 「不名誉」 とい う特性が付 されてお り、 これに対 してデ ーイ アネイラには uxor「 正妻 」(132)。 shc C mme「 罪なく」 (137)11と い う表現 か ら 「名誉」 とい う特性 が付 されてい るといえるだろ う。そ してこの 137-142で は、まさに 「ヘ ー ラク レースの 「不名誉 │は ヘ ー ラク レースの 「名誉 Jに よつて否定 され るべ きである」 とい う ことが述べ られているといえる。すなわち、「妾イオ レー とい う不名誉は、正妻デーイアネ 1l crimcn(53)「 罪 Jと して言及 されていたのが、「不名誉 Jた るオ ンパ レーで ある。 70 イ ラ とい う名 誉 に よって否 定 され るべ きで あ る」 とい うこ とをデ ー イ アネ イ ラは主 張 して い るので あ る。 この よ うに第 4パ ラグラフでの 、「女 に屈服す る不名 誉 Jた るイ オ レー を否 定す るべ き も の と して 「武勇 に よる名誉 」 た るデ ー イ アネイ ラを提示 す る こ とは 、直前 の 第 3パ ラグラ フか らの 、 オ ンパ レー とい う 「女 に屈服 す る不名 誉 」 に 「武 勇 に よる名 誉」 を対置 る と す い う文脈 に沿 つた言述 であ る とい え る。 そ してデ ー イ アネイ ラは、 第 3パ ラグ ラフで 64行 に渡 り述 べ たオ ンパ レー とい う 「不名 誉 」 を凌 ぐ 「不名 誉 」 と してイ オ レー を、そ してそ の よ うなイ オ レー に対 置 され る 「名 誉」 としてデ ー イ ア ネイ ラ 自身 を提 示 してい るので あ る。 つ ま り、第 3パ ラグラフでの 64行 に渡 る 「不名 誉 」 と 「名 誉」 を対 置す る文 脈 が あつ たか らこそ 、それ 以上 の 問題 と して 、第 4ノ くラグラフでの 「不名 誉」 た るイ オ レー と 「 名 誉 」 た るデ ー イ アネイ ラが際立つ こ とにな るので あ る。 この こ とか ら、第 の 内容 は第 3パ ラグラフで 4パ ラグラフに連 な る もの として効果 的 な機 能 を果 た してい るので あ り、そ の 点 か ら決 して 冗長 な もので はないので あ る。 5。 ヘ ー ラク レー ス瀕死 の報 が届 い てか ら さて、143以 降 (第 5パ ラグ ラフ)で は 、デ ー イ アネイ ラは次 の よ うに夫 ヘ ー ラク レース が瀕 死 に陥 った との報 が来 た こ とにつ いて述 べ 、 己に死 を決意す るよ う問 いか けてい く。 sed quid ego hacc rcferO?sc falna,vlrllm tllnicac tabc pe bcnti nuntia vcnit rc mcac ci nuhi!quid feci?quo lnc ltror cgit amantcm? ilmpia quid dubitas I)eianlra mo 145 ? an tuus in incda coniunx lacerabitur Octa, tu scelcns tそ mti causa supcrstes cns? ecquid adhuc habeo facti,cur IIcrculis uxor cre&r?co ugii mors mea pignus c 陛 t. r.9.143-150) しか しど うして私はこんなことを述 べ ているので しょ う。書い ている私に、夫が私 の送 つた衣 の毒で死にかか っているとの報告 が来ま した。 ああ、私は何 とい うことを して し まったので しょ う。狂気は私 の愛をどこへ駆 り立てたので しょ う。不実なデーイアネイ ラよ、何 故お前は死 をため らうのです か。それ とも、お前 の夫はオイテーの 山中で引き 裂 かれ よ うとしてい るのに、 これほ どの災難 の原因であ りなが らお前は生 き残 ろ うとい うのですか。私 がヘ ー ラク レースの妻 と信 じられ るために、今なお一体何 を私はなす べ きで しょ うか一―妻の証 となるのは、私 が死ぬことなのです。 71 デ ー イ アネ イ ラにヘ ー ラク レー ス が瀕 死 に陥 った との知 らせ が来 る の は、背 景 とな る物 語 の展 開 の通 りで あ る。 しか し、 この よ うに手紙 の 執筆 中にヘ ー ラク レー ス瀕 死 の知 らせ が届 い た と述 べ るのは確 か に唐 突 で あ る。 しか しこの唐 突 さは さてお き、む しろ ここで 注 目した い のは 143以 降でデ ー イ アネイ ラが述 べ る内容 で あ る。 以後 、本 章 で検討 す るよ う に、この第 5パ ラグラフは第 1∼ 第 4パ ラグラ フで の文脈 の流れ を引 き継 い だ もの となって お り、決 して 「143以 降で、それ までの 1-142と デ ー イアネ イ ラの執筆 姿勢 が断絶 して一 変 してい る」 とい うわ けで はない ので ある。 1-142ま で 、手紙 の書 き手デ ー イ アネイ ラは、ヘ ー ラク レー ス に とっての 「不名 誉 」 と 「名 誉 」 を対 置 させ て きた。 そ して最終的 にヘ ー ラク レー ス に とって 最 も 「不名 誉」 た る 存在 として眼前 の妾 (paclex)イ オ レー を、そ してそ の「不名 誉」に対抗 す る もの ととして 、 正 妻 (uxOr)の 自分 が 、戦 い を経 て得 られ守 られ た「名 誉」た る存在 で あ るこ とを提示 した。 しか し 143以 降でデ ー イ アネ イ ラは、それ まで とは逆 転 して今度 は 自分 が 、ヘ ー ラク レー ス を瀕 死 に至 らしめた こ とでヘ ー ラク レー ス に とって 「不名 誉 」た る存在 になった こ とを 強 く自覚す るので ある。 この よ うなデ ー イ アネ イ ラの 自覚 は、143以 前 では 自分 の こ とを pugnac bis causa(138)「 二 度 の戦 いの原 因 Jと い うよ うに 「武 勇 に よる名 誉」 として表 現 してい たのに対 して 、 143以 降で は 自分 を scele s tanti causa(148)「 これ ほ ど大 きな災難 の原 因」とい うよ うに「不名 誉」 た る存在 と して表現 してい る ところか らも うかが える。 この 「不名 誉」 は、ヘ ー ラク レー ス が 「身体的 に打 ち負 か され る こ と」 とい う不名 誉 で ある。 デ ー イ アネ イ ラは、第 2パ ラ グラフ (27-46)に お い て、ヘ ー ラク レース が infcstus hostis(36)「 害意 あ る敵」に よって 「身 体 的 に打 ち負 か され るこ とJを 危惧 してい た。 そ して ここで は皮 肉に も、デ ー イ アネ イ ラ 自身 がその よ うな存在 になって しまった と自覚す るので あ る。この こ とは 、143以 降 でデ ー イ アネ イ ラが 自身 を、impia Deianira(146,152,158,164)「 不実 なデ ー イ アネ イ ラJと 表現す るこ とに反 映 され てい る と解釈 で き る。 ここでデ ー イ アネイ ラは、完全 な る故意 ではない に しろ、「身体的 に打 ち負 か され た こ と」 の ない ヘ ー ラク レー ス を 「身体 的 に打 ち負 か した こ と」 に よつて 、 自分 自身 をオ ンパ レーやイ オ レー 以上 に、 ヘ ー ラク レー ス に とって 「不 名 誉」 な存在 で あ る とみ な してい るのであ る。 そ してその よ うなヘ ー ラク レー ス に とっての 「不名 誉 」には、第 1∼ 第 4パ ラグラフでの 文脈 に則 り、「名 誉」 が対置 され る。 そ の対置 され る 「名 誉 Jと はす なわ ち、ヘ ー ラク レー スの 「武 勇 に よる名誉 」た る正妻 (uxOr)デ ー イ アネイ ラで あ る。つ ま り、ccquid adhuc habeo facti12,cur Hcrclllis uxor/crcdar?oOniug mors mca pignus er■ .(149-150)「 私 がヘ ー ラク レー スの妻 と信 じられ るた めに、今 なお 一 体何 を私 はなす べ きで しょ うか―― 妻 の証 とな るの は、私 が死 ぬ こ となのです。Jと 述 べ るの は、 自分 がヘ ー ラク レー スの 「不名 誉」 となった ° ここでの ねctum(149)は 、「デーイアネイ ラの行為」 とい う、 この文脈での意味の他 に、4,20,84,105で 「ヘ ー ラク レースの功業Jと い う意味 も含意 されていると思われ る。そ して この facml も述 べ られた よ うな、 「 「 (149)の 含意 によ り、 正妻デ ーイアネイ ラ」が 「不名誉」に対置 され る 「名誉」 」である ことを暗に示 して い る と思われ る。 72 の を 自覚 しなが らも、その一方 で 「名 誉 Jた る正妻 と して そ の 「不名 誉」 に対処 しよ うと す るもの なので あ る。 これ は、 143ま で において 、否 定 され るべ き 「不名 誉 Jに 、そ の否 定 の原動力 とな る 「名 誉」 を対 置 して きたか らこそ、な され る思考過 程 で ある とい える。 す なわ ち 142ま でで 、「ヘ ー ラク レー スの 1不 名 誉」 はヘ ー ラク レー 不 の 1名 誉」 を台無 しに 「ヘ ー ラク レー スの 1不 名 誉」 はヘ ー ラク レー スの 1名 誉 に よって して しま う」。 」 否定 さ べ れ る きで あ る」 とい う言述 を積 み重 ねて きたか らこそ、143以 降で 自分 自身 がヘ ー ラク レ ースの最 大 の 「不名 誉」 になって しま った と自覚す る と、そ の 「不名 誉 た る 自分 を名 誉た る 自分 が否 定す る」一一 す なわ ち 自害 の決 意 に至 る一一 ので あ る。 この よ うに、た とえ、 夫 ヘ ー ラク レース の瀕 死 の知 らせ が来 た こ とにつ いて述 べ る こ と自体 が唐 突 な もので ある として も、そ の知 らせ 以前 と以後 の言述 。文脈 は密 接 に結 び つい てお り、知 らせ 以前 に積 み重ね た言述 が あ るか らこそ 、そ の言述 の思考過 程 に則 つて 、デ ー イ アネイ ラは死 を決 意 す る とい うこ とにな るので あ る13。 この こ とか ら、 143以 降 は、その導入 が 「唐 突」 では あ つて も、それ に続 く内容 は決 して 「稚拙 Jで はないので あ るИ。 6.結 論 :オ ウィデ ィ ウス が 贔飢 9で 描 こ うとしたデ ー イ アネ イ ラ の様 相 以上 の検討 に よ り、πθ ′9に お い て、ヘ ー ラク レー スの功 業 につい て の多 くの言述 は決 し て冗 長 で はな く、 また夫瀕 死 の報 を受 けての後 の言述 につ い て も決 して稚拙 で はな く、そ れ ぞれ πθ ″ 9と い う作 品 の主題 に沿 つた もの と して機 能 してい る こ とを示す こ とがで きた と思 われ る。 また本 稿 での検討 をま とめ る と、オ ウィデ ィ ウス が ヵゥ .9で 描 こ うと した の は次 の よ うなデ ー イ アネイ ラの様 相 で ある とい えるだ ろ う。 ル″ .9に お い て手紙 の書 き手デ ー イ アネイ ラは、オ ンパ レー・イ オ レー をヘ ー ラク レー ス に とって不 名 誉 な存在 で あ る と して非難 し、そ の不名 誉 は否 定 され るべ きで あ る と して 、 そ の 不名 誉 に対 置す る形 でヘ ー ラク レー スの武勇 に よる名 誉 を想 起 させ よ うとして い く。 そ して最 も不名 誉 た るイオ レー には 、そ の不名 誉 た るイ オ レー を否 定す るた めに、 自分 こ そ がヘ ー ラク レー ス の名 誉 の証 た る こ とを想起 させ よ うとす るので あ る。 一 方 、ヘ ー ラク レー ス瀕 死 の報 を受 けた後 には 、逆 に 自分 こそ がヘ ー ラク レー ス に とって最 も不名 誉 な存 在 にな って しま った と自覚 す る こ とにな る。 そ して不 名 誉 にはそれ を否 定す べ き もの と し て名 誉 を対 置す るのがデ ー イ アネ イ ラの執筆 姿勢 で あ る。 それ ゆ え、不 名 誉 た る 自分 をヘ ー ラク レー スの名 誉 の証 た る 自分 が否 定す る とい う思考 の結果 と して 、デ ー イ アネ イ ラは 自害 の決 意 に至 るので あ る。 この よ うに、 己の積 み重 ね た言 述 ゆ えに皮 肉 に も 自害 の決意 13な お、ソポク レース『 トラーキーニアイ』では、デーイアネイラは 719-722で 、「しか し、もしあの方 が倒れることになるならば、同じ衝撃 と共に、同時に私も一緒に死ぬ と決心 しています。 とい うの も、悪 しき'性 質でないことを気にかけている女は、悪 く言われて生き続けるのは耐えられないことだからです。」 (拙 訳)と 、予め死を決意 していることを述べている。 “ 143以 降において、146,152,158,164で 4度 用い られる油Ⅲa quld dubitas Deianira mo ?と い う表現は、リ フレインとしてその効果を検討する必要がある。 これについてはまた稿を改めたい。 73 ″ .9で描いているのである。 に至るとい うデーイアネイラの様相を、オウィディウスはπσ (に 74 しい 。しょ う 文学研 究科非常勤講 師 )