Comments
Description
Transcript
導水トンネル調査における AMT 法電磁探査の適用例
全地連「技術 e-フォーラム 2004」福岡 【114】 導水トンネル調査における AMT 法電磁探査の適用例 日鉄鉱コンサルタント㈱ 1. はじめに 古生代二畳紀の三郡変成岩類と中生代の花崗閃緑岩 ○牧野 隆吾 横井 浩一 松尾 公一 する電気抵抗を測定することにより,地下深部から浅 部までの比抵抗構造を推定することができる。 が基盤岩を形成する九州中北部に計画されている導水 今回の調査では,自然界に発生する 1Hz~10,000Hz トンネル区間において,基盤岩の水理地質構造を把握 間の周波数のうちの 54 の周波数について,電場と磁 することを目的とし,地下数 100m~1,000m程度の深 場の観測を行った。 度のデータ取得が可能な AMT 法電磁探査を実施した。 観測は原則として人工ノイズの少ない午後 8 時から その結果,構成地質の違いによる大局的な地質及び水 午前 5 時までのうちの 3 時間以上とし,測点位置は GPS 理構造を把握することができたので報告する。 で特定した。また,各測点におけるローカルノイズを 除去することを目的として,調査区域から約 5km 離れ 2. 地形地質概要 調査地は,筑後平野の東側に連なる甘木-朝倉山系 た地点にリモート・リファレンス点を設定し,各測点 と同じ方法で,全測定期間のデータを取得した(図-1)。 に位置し,標高 300~700m程度の山岳地である。 地質は,苦鉄質片岩,砂質片岩および泥質片岩で構 成される三郡変成岩類と,中生代後期白亜紀の花崗岩 電極 水平コイル 電極 水平コイル GPS 電極 を基盤とし,それらを被覆して新第三紀の火山岩類, GPS 電極 MTU-5A 電極 MTU-5A 水平コイル 水平コイル 電極 第四紀の段丘堆積物,および沖積層が分布している。 電極 電極 電極 水平コイル GPS 三郡変成岩類は調査区域北部に分布し,概ね北東- 電極 MTU-5A 南西方向の伸長方向を示し,同方向を軸とする緩い背 電極 水平コイル 電極 斜構造を形成している。花崗閃緑岩類は,調査区域の 調査地域 調査地域 南域に,三郡変成岩類の片理走向にほぼ並行して併入 GPS による同期測定 している。 G P Sによる同期測定 3. 測定方法 電極 水平コイル (1) AMT 法の適用と測点設定 GPS 当該区間は山岳地であり,導水ルートはルート前後 電極 MTU-5A の地形条件から標高 50~250m 付近を通過するように計 電極 水平コイル 電極 画されているが,詳細ルートは決定されていない。 リモート点 リモート点 これらのことより,地下数 100m 以上の探査が可能で, 2次元平面的な解析が可能な,AMT 電磁探査法を適用し 図-1 測定方法 た。 測点設定にあたっては,事前に実施した地表踏査と, (3) データ処理および解析 空中写真判読によるリニアメント解析結果をもとに, データ処理解析は,以下の手順で行った。 概略計画ルート付近の断面解析・リニアメント位置・ ①リモート・リファレンス処理:リモート・リファ 花崗閃緑岩と変成岩類の接触部・平面解析のための補 レンス地点(人工ノイズが混入しない地域に設定 間を考慮し,101 地点を抽出し設定した(図-3)。 した参照点)で得られた良好な磁場データと各測 点における磁場データを比較し,相関の無い信号 (2) 観測 AMT 法電磁探査は,太陽の黒点活動や赤道地方の雷放 (ローカルノイズ)を除去した。 ②データ編集:リモート・リファレンス処理結果か 電によって地球磁気圏に発生する電場と磁場を測定し, ら,測点周辺での自動車・電車などの通行や電線・ 地下における比抵抗構造を推定するために利用されて 電話線などの影響によるローカルノイズを除去し, いる。電磁波には地磁気変動といわれる長周期波から 最適な見掛比抵抗・位相などのパラメータを求め 電波といわれる高周波までの様々な電磁波が含まれて た。 いる。これらの高周波から長周期波までの電磁波に対 ③スムージング処理:リモート・リファレンス処理 全地連「技術 e-フォーラム 2004」福岡 およびデータ編集作業で除去しきれなかった不 連続部ノイズを排除し,周波数の内挿を行った。 測点 ④スタティック補正:測定電極を埋設した地点の局 所的な地形・比抵抗構造により生じる,測定値の 三郡変成岩類 実際の見掛け比抵抗値とのずれを,隣接測点のデ ータや地表地質分布が同じ測点でのデータを基に 断層? 補正した。 ⑤測定パラメータ解析:スタティック補正を終えた 各測点の見掛比抵抗を用い,想定される導水ルー 比抵抗値 ト沿いに設定した測線ごとの見掛比抵抗断面図と, 周波数毎の見掛比抵抗平面図を作成した。 ⑥2次元解析:解析測線に沿って地下を長方形ブロ ックに分割した解析モデルを作成し,モデルの各 ブロックに初期値として任意の比抵抗を与えた。 次に,そのモデルから各測点における解析見掛比 抵抗と解析位相を算出し,実際の測定結果との残 差が小さくなるように自動的に比抵抗モデルを更 花崗閃緑岩類 新し,再度計算を行った。このルーチンを繰り返 し,測定値と適合する最適なモデルを推定した。 4. 調査結果 今回の探査では,人工的なノイズを効果的に除去す 図-3 解析比抵抗平面図(標高 50m レベル) ることができ,非常に信頼度の高いデータを取得する 5. 考察 ことができた。 図-2 に示す,想定導水ルートにおける2次元解析断 今回行った探査結果は,地表で確認された地質分布 面では,ルート終点側(断面図右側)においてはおよそ と調和的であり,三郡変成岩分布域では低比抵抗を, 100Ω-m 以下の低比抵抗領域が認められ,起点側(断面 花崗閃緑岩分布域では高比抵抗を示すことが判明した。 図左側)においてはおおよそ 100Ω-m 以上の高比抵抗領 標高-1000m 付近に至る取得データ解析により,花崗閃 域が認められる。この高比抵抗域はルート中央部の標 緑岩と思われる高比抵抗領域が地下深部に広がってお 高 0m 以下の深部にまで伸びている。ルート終点側にお り,潜頭性の分布形態を予見させる比抵抗分布構造を いても一部に高比抵抗領域が分布し,最終端の標高 見いだすことができたと考える。 -800m 以下の深部まで伸びている。また,起点部では標 また,花崗閃緑岩分布域では多量の地下水の存在を 高-200m 以深において低比抵抗領域が認められる。さら 示すような水理地質構造は認められないが,変成岩分 に、断層の可能性も考えられる比抵抗値の急激な変移 布地域では,断層の可能性も考えられる比抵抗値の直 部も複数箇所において認められる。 線的な変移部が複数箇所見られ,地下水が賦存する可 能性も考えられる。今後は,ボーリング調査などの他 導水トンネル計画位置 比抵抗値 の手法を用い,これらの比抵抗構造を検証していく必 標高(m) 要があると考えている。 6. おわりに 今回の探査は地域全体の地下構造の把握を目的とし たため、測点間隔が数 100m と広く,詳細な土木設計・ 距離程(m) 0 1 2km 図-2 2次元解析断面図 施工に有効な数m程度の解析精度を得るには至らなか ったが, AMT 法電磁探査を適用することで,数 100~1000 mに至る地下深部の比抵抗構造を把握することができ 図-3 に示す,標高 50m レベルでの解析比抵抗平面図 た。自然界に存在する電磁波を利用するため,大深度 では,地域北西側におおよそ 100Ω-m 以上の高比抵抗 にわたる大局的な地下構造を把握するには非常に安全 領域,南東側におおよそ 100Ω-m 以上の高比抵抗領域 で有効な手段と考えており,今後地下水賦存状況等を が広がり,地域中央部付近にはスポット的な数 10Ω-m 定量的に評価できる可能性を探っていきたいと考えて 以下の低比抵抗領域が認められる。 いる。