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物流周辺判例 [周辺 3]

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物流周辺判例 [周辺 3]
物流周辺判例 [周辺 3]:平成 21 年以降の判決
2016.12.20
明治・大正・昭和の周辺判決 は
[周辺 1]
平成元年~20 年の周辺判決 は
[周辺 2]
「物流関係法
更新 古田伸一
所要判例 要覧」は
いずれも筆者の HP「UNCITRAL 物品運送条約の研究」
http://www7a.biglobe.ne.jp/~s_furuta に掲載
掲載誌の略記は、
「物流関係法 所要判例要覧」と同じ。
[裁判所・判決日等の表示*]の末尾の *は、この「周辺判例」に掲載している旨の表示である。
[裁判所・判決日等の表示**]の末尾の **は「物流関係法 所要判例要覧」に詳しく掲載して
いることの表示である。
[裁判所・判決日等の表示]に * 印がないものは、「所要判例要覧」に掲載の判決例である。
[最高裁二小 H.21.1.19 判*] H19(受)102 号 損害賠償請求本訴・建物明渡等請求反訴事件
民法 416 条 1 項・606 条 1 項
(破毀差戻・反訴棄却)
店舗の賃借人が賃貸人の修繕義務の不履行により被った営業利益相当の損害について,賃借人
が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降に被った損害のすべ
てが民法 416 条 1 項にいう「通常生ずべき損害」に当たるということはできないとされた事例
― ビルの店舗部分を賃借してカラオケ店を営業していた賃借人が,同店舗部分に発生した浸水
事故に係る賃貸人の修繕義務の不履行により,同店舗部分で営業することができず,営業利益相
当の損害を被った場合において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,遅くとも賃貸人に対し
損害賠償を求める本件訴えが提起された時点においては,賃借人がカラオケ店の営業を別の場所
で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を執ることなく発生する損害のすべてについての
賠償を賃貸人に請求することは条理上認められず,賃借人が上記措置を執ることができたと解さ
れる時期以降における損害のすべてが民法 416 条 1 項にいう通常生ずべき損害に当たるというこ
とはできない。
(1) 賃貸人が上記修繕義務を履行したとしても,上記ビルは,上記浸水事故時において建築か
ら約30年が経過し,老朽化して大規模な改修を必要としており,賃借人が賃貸借契約をそのま
ま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。
(2) 賃貸人は,上記浸水事故の直後に上記ビルの老朽化を理由に賃貸借契約を解除する旨の意
思表示をしており,同事故から約1年7か月が経過して本件訴えが提起された時点では,上記店
舗部分における営業の再開は,実現可能性の乏しいものとなっていた。
(3) 賃借人が上記店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は,それ以外の場所では行うことが
できないものとは考えられないし,上記浸水事故によるカラオケセット等の損傷に対しては保険
金が支払われていた。
民集 63-1-97 判時 2032-45 判タ 1289-85 金法 1862-33 金判 1321-58
浅井弘章・銀行法務 703-51 高橋穣・ジュリ 1399-147 中田裕康・法協 127-7-130
難波譲治・リマークス 40-22 千葉恵美子・判例評論 609-6 田中洋・別冊ジュリ 224-14
潮見佳男・H.21 重要判ジュリ 1398-91
廣峰正子・法律時報 81-12-112
1
原審:名古屋高裁金沢支部 H.18.10.16 判・H15(ネ)243 号
民集 631-1-123
一審:福井地裁敦賀支部 H.15.8.22 判・H10(ワ)37 号等
民集 63-1-109
[最高裁一小 H.21.1.22 判*] H20(受)468 号 不当利得返還等請求事件(上告棄却)
民法 166 条 1 項・404 条・703 条,利息制限法 1 条 1 項
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済に
より発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合にお
ける,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点 ―継続的な金銭消費貸借
取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済
により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその
後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,上記取引により生じた過払金
返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する。
民集 63-1-247 判時 2033-12 判タ 1289-77 金法 1862-28 金判 1310-54/1314-36
石毛和夫・銀法 2153-4-65 中村心・ジュリ 1383-182 香川崇・法律時報 81-11-123
永口学・金判 1323-2 松本克美・判例評論 608-156 小野秀誠・リマークス 40-10
石田剛・速報判例解説 5-87 金山直樹・H21 重要判ジュリ 1398-85
松久三四彦・金判 1336-74
原審:東京高裁 H.19.12.13 判・H19(ネ)3941 号(棄却) 民集 63-1-260 金判 1310-57
一審:東京地裁 H.19.7.4 判・H219(ワ)5666 号(認容) 金判 1310-59
*古田:同時期に最高裁の第二・三小法廷も同旨を判示している:最高裁三小 H.21.3.3 判・
H20(受)543 号・集民 230-167、最高裁二小 H.21.3.6 判・H20(受)1170 号・集民 230-209。
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[東京地裁 H.21.2.12 判*]H20(ワ)17721 号 執行判決請求事件(容認・控訴)
民事執行法 24 条、
民訴法 118 条 1・3 号<H.23 民訴法 2 章 1 節「日本の裁判所の管轄権」改正前の事案>
大韓民国の裁判所の売買代金の支払を命ずる判決について執行判決を認めた事例 ― ①「本件
売買契約は、被告(日本法人)が原告(韓国法人)からロシア産冷凍抱卵ニシンを買付けること
を目的とするものであり、その代金については、ロシアからの積出時の検品結果に基づいて定め
た仮価格による仮払を行った後、受渡地である青島において最終検品を行い、成子の歩留まりに
よって最終価格を決定した上、被告が原告に対して最終価格と仮価格との差額を TT 送金により
支払う旨が合意されていたものであって、原告は、これに基づき、被告に対してインボイスを発
行し、最終価格と仮価格との差額を韓国内の原告代表者名義(原告会社名が付記されている)の
銀行口座に送金するよう指定したというのであるから、本件売買契約においては、最終価格と仮
価格との差額分に係る代金債務の履行地を韓国とする旨の合意があったとみるのが相当である。
そして、前記認定事実によると、原告が被告に対して上記差額分に係る代金の支払を求める訴訟
(本訴)を韓国の釜山地方裁判所に提起したところ、被告は、自らその一審係属中に既払代金の
一部の返還を求める反訴を同裁判所に提起し、4 年 7 カ月以上にわたって本訴及び反訴について
訴賞活動を続けてきたものであり、本訴及び反訴は、同一の実体法上の原因に基づく訴訟で、主
要な争点を共通にするものであるため、統一的な裁判をする必要性が高いものであったというこ
とができる。これらの諸事情に照らすと、本件外国判決に係る訴訟については、民訴法 5 条 1 号
の趣旨に照らし、韓国が国際裁判管轄を有するものとして、本件外国判決を我国で承認するのが、
当事者間の公平、裁判の適正・迅速の理念に合致し、条理にかなうものと云うべきである。」
②被告の「主張の実質は、本件外国判決における認定判断の不当をいうものであるところ、我
国の裁判所としては、執行判決は裁判の当否を調査しないでしなければならない(民事執行法 24
2
条 2 項)から、このような認定判断の当否については判断することができない。
③「執行判決に仮執行宣言を付することができるか否かについては明文の規定がないものの、
執行判決に限ってその確定を待たなければ強制執行に着手できないとすべき合理的な理由は見当
たらない。また、執行判決手続においては裁判の当否を調査できないとされていることからして
も、外国判決に対しては早期に執行力を付与するのが相当であるから、執行判決についても仮執
行宣言を付すことが許されるというべきである。そして、本件においては、前記諸般の事情に鑑
みると、仮執行宣言を付することが相当であると認められる。」
判時 2068-95
山田恒久・ジュリ 1452-139
安達栄司・ リマークス 42-142
*安達評釈:被告(日本法人)の売買代金支払義務の履行地について、原告(韓国法人)からの
インボイスによって指定された振込先の口座が韓国にあるということだけで韓国にその義務履
行地があると判断したことの是非が、その後の改正民訴法 3 条の 3 第 1 号によっても解釈論と
して問われる。 外国判決の承認要件について、あまりにも当事者の主張立証の態様に過度に
寄りかかっているように見える本判決の態度は、本判決が民訴法 118 条 2 号及び 4 号の要件に
ついて当事者間に争いがないという理由から、ほとんど実質的な判断を示していない態度と同
様に、疑問である。執行判決を認容するための各要件が職権調査事項であるならば、当事者へ
の不意打ちを避けながら、応訴管轄によって承認管轄を肯定することもできたはずである。
*山田評釈:他方、山田評釈も疑問を呈されている。 即ち、
「本件判旨では、本訴と反訴との間
の統一的な判断の必要性を根拠に、本訴の間接管轄を肯定することが条理にかなうと判示して
いるように見える。しかし、本件のように本訴及び反訴として、原告・被告間でそれぞれ 1 つ
ずつの請求が相互に存在するという状態は、
(主観的)併合請求のように、複数の請求が別個の
当事者に対してそれぞれ存在するという状態とは異質である。従って、このような異質の状態
である(主観的)併合請求に関する[最高裁三小 H.10.4.28 判*]の判旨をそのまま応用して、
被告の反訴の提起をもって、原告の本訴の管轄を肯定するための根拠とする本件判旨には疑問
が残る。
」と指摘されている。
[最高裁三小 H.21.3.10 判*] H20(受)422 号 車両撤去土地明渡等請求事件(破棄差戻)
民法 206 条・369 条(所有権留保)
・709 条
動産(自動車)の購入代金を立替払し立替金債権の担保として当該動産の所有権を留保した者
は、当該動産が第三者の土地(駐車場)上に存在しその土地所有権の行使を妨害している当該
動産について、その所有権が担保権の性質を有することを理由として、撤去義務や不法行為責
任を免れるか(消極) ― 動産の購入代金を立替払した者が,立替金債務の担保として当該動
産の所有権を留保する場合において,買主との契約上,期限の利益喪失による残債務全額の弁済
期の到来前は当該動産を占有,使用する権原を有せず,その経過後は買主から当該動産の引渡し
を受け,これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができるとされているときは,
所有権を留保した者は,第三者の土地上に存在してその土地所有権の行使を妨害している当該動
産について,上記弁済期が到来するまでは,特段の事情がない限り,撤去義務や不法行為責任を
負うことはないが,上記弁済期が経過した後は,留保された所有権が担保権の性質を有するから
といって撤去義務や不法行為責任を免れることはない。
民集 63-3-385 判時 2054-37 判タ 1306-217 金判 1328-61 金法 1882-78
柴田義明・ジュリ 1443-88 片山直也・金法 1905-37 占部洋之・民商 142-6-31
藤澤治奈・NBL909-9 小山泰史・法律時報 82-9-116 和田勝行・別冊ジュリ 223-202
原審:東京高裁 H.19.12.6 判・H19(ネ)13 号
民集 63-3-420 金判 1314-27
一審:千葉地裁 H.18.11.27 判・H18(ワ)1399 号
民集 63-3-414 金判 1314-29
[大阪地裁 H.21.3.19 判*]H19(ワ)12759 号 退職金請求事件(一部認容・控訴)
旧労働基準法 93 条、労働契約法 9 条・10 条本文
3
就業規則の不利益変更に関する労働者の同意の効力 ― 就業規則に定められた労働条件の基準
より不利益な労働条件については、労働協約を締結するか又は就業規則を変更しない限り、個々
の労働者がその労働条件を内容とする労働契約を締結した場合においても、その不利益部分に於
いて無効であり、就業規則に定める基準による。不利益変更前の規定に基づいての退職金の算定
を判示。
労働判例 989-80
島田裕子・民商 142-4・5-101
本久洋一・法律時報 82-12-140
[最高裁二小 H..21.3.27 判*]H19(受)1280 号供託金還付請求権帰属確認請求事件(破棄自判)
民法 466 条
譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者が、同特約の存在を理由に、譲渡の無効を主張
することの可否(消極) ― 「民法は、原則として債権の譲渡性を認め(466 条 1 項)、当事
者が反対の意思を表示した場合にはこれを認めない旨定めている(同条 2 項本文)ところ、債権
の譲渡性を否定する意志を表示した譲渡禁止の特約は、債務者の利益を保護するために付される
ものと解される。そうすると、譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は、同特約の存在
を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって、債務者に譲渡の無効を主張す
る意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り、その無効を主張することは許さ
れないと解するのが相当である。
」
民集 63-3-449 判時 2042-3 判タ 1295-172 金判 1317-40 金法 1870-44
関武志・判例評論 613-2 四ツ谷有喜・速報判例解説 6-91 中山布紗・法律時報 83-11-90
池田真朗・金法 1905-26(RF-16)
角紀代恵・H.21 重要判ジュリ 1398-93
原審:大阪高裁 H.19.4.27 判・H18(ネ)3290 号 民集 63-3-467 金法 1870-47 金判 1317-44
一審:神戸地裁尼崎支部 H.18.11.17 判・H17(ワ)1011 号ほか 民集 63-3-453
金法 1870-49 金判 1317-45
[最高裁一小 H.21.6.4 判*] H19(受)1987 号・保険金請求事件(破棄自判)
商法 629 条・632 条・633 条、民法 91 条
保険金を支払うべき他の保険契約があるときには同保険契約に基づく保険給付と調整する旨の
条項がある場合における「他の保険」の意義 ― 店舗総合保険契約に適用される普通保険約款
中に、洪水等の水災によって保険の目的が受けた損害に対して支払われる水害保険金の支払額に
つき、上記損害に対して保険金を支払うべき他の保険契約があるときには同保険契約に基づく保
険給付と調整する旨の条項がある場合において、同項にいう「他の保険」とは、上記店舗総合保
険契約と保険の目的を同じくする保険契約を指す。
裁判官 2 名の補足意見あり:別件の保険は 6mの公道を挟んだ店舗であるが、原審は約款に
いう「他の保険」と認定しており、損保業界で「1 構内」として採用されている見解であること
から、上告理由になっていない。補足意見はそれぞれ利用目的を異にし、幅員 6mの公道を隔て
て存するなど、一般人の通常の理解を超えるものであると指摘している。
民集 63-5-982
西田隆裕・ジュリ 1444-96
木下孝治・リマークス 42-90
竹濱修・損保研究 72-1-203
後藤元・民商 141-3-102
原審:名古屋高裁 H.19.9.26 判・H19(ネ)241 号
民集 63-5-1038
一審:津地裁 H.19.1.13 判・H17(ワ)440 号
民集 63-5-1018
*後藤評釈:
「他の保険」の保険法の下での意義ついての判示内容は妥当と評されている。
[東京高裁 H.21.6.4 決定*]H21(ラ)916 号・債権差押命令に対する執行抗告
民事執行法 11 条 1 項・39 条 1 項・145 条、民事保全法 50 条
事件(抗告棄却・確定)
債権に対する仮差押がされても、当該仮差押債務者は、被仮差押債権を請求債権として、その
4
債務者である仮差押の第三債務者が有する債権につき差押命令を申立てることができるとされ
た事例 ― 「仮差押の目的は、債務者の財産の現状を保存して金銭債権の執行を保全すること
にあるから、その効力は、上記目的のために必要な限度において認められ、それ以上に債務者の
行為を制限するものと解すべきではない。これを債権の仮差押についてみると、仮差押の執行に
よって、当該債権につき、第三債務者は支払を差止められ、仮差押債務者は、取立・譲渡等の処
分をすることができなくなるが、このことは、これらの者が上記禁止に反する行為をしても、仮
差押債権者に対抗し得ないことを意味するにとどまり、仮差押債務者は、第三債務者に対し給付
訴訟を提起、遂行して無条件の勝訴判決を得、また、取得した債務名義に基づき第三債務者の財
産に対し強制執行をすることを妨げられないというべきである。従って、仮差押債務者が第三債
務者に対し上記債務名義に基づいて強制執行をしたときには、当該第三債務者は、その強制執行
自体を違法として争うことはできず、二重払いの負担を免れるため、仮差押債務者の第三債務者
に対する当該債権に仮差押がされていることを執行上の障害として執行機関に呈示し、執行手続
が満足的段階に進むことを阻止することができるにとどまるものと解される(最高裁三小
S.48.3.13 判・民集 27-2-344 参照)
。
金法 1896-105&-108 判タ 1339-268
原克也・判タ 1384-32
一審:東京地裁 H.21.5.8 決定・H20(ル)10074 号
金法 1896-105
[東京地裁 H.21.7.6 決定*] H21(ヲ)3382 号・債権差押命令申立事件に対する
執行異議申立事件(異議申立認容・確定)
[東京高裁 H21.6.4 決定*]の棄却決定を踏まえて、当該債権差押命令に基づく執行停止の停
止を求めて、その債務者である仮差押の第三債務者が申立てた執行異議が認められた事例である。
金法 1896-105&-109
*最高裁三小 S.48.3.13 判・S.45(オ)280 号・貸金請求事件(棄却)
・民集 27-2-344 は、債権に対
し仮差押が執行されても、仮差押債務者は、当該債権につき、給付訴訟を提起・追行し、且つ、
無条件の勝訴判決を得ることができると判示している。
[最高裁二小 H.21.7.10 判*] H20(受)1728 号 不当利得返還等請求事件
民法 136 条・137 条・703 条・704 条、
(一部破棄差戻・一部棄却)
貸金業法(H18 改正前)43 条 1 項、利息制限法 1 条 1 項
期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支払の任意性を否定した最
高裁判所の判決の言渡し日以前にされた制限超過部分の支払について,貸金業者が同特約の下
でこれを受領したことのみを理由として当該貸金業者を民法704条の「悪意の受益者」と推
定することの可否 ― 期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支
払の任意性を初めて否定した[最高裁二小 H.18.1.13 判*]の言渡し日以前にされた制限超過部
分の支払について,貸金業者が同特約の下でこれを受領したことのみを理由として当該貸金業者
を民法704条の「悪意の受益者」と推定することはできない。
民集 63-6-1170 判時 2069-22 判タ 1317-117 金法 1896-80 金判 1322-28/1340-35
岡林伸幸・法律時報 82-5-130 尾島茂樹・民商 141-6-58 川角由和・判例評論 620-169
清水元・リマークス 42-30 平田健治・H21 重要判ジュリ 1398-97
加藤正男・ジュリ 1434-128 松岡久和・金判 1336-82
原審:東京高裁 H.20.7.16 判・H20(ネ)1474 号(原判決一部変更・一部棄却)
民集 63-6-1218 金判 1322-35
一審:千葉地裁 H.20.2.8 判・H19(ワ)246 号(一部認容・一部棄却)
民集 63-6-1190 金判 1322-37
*古田:最高裁三小 H.21.7.14 判・H20(受)1729 号・集民 231-357 も同旨を判示している。
5
[東京高裁 H.21.9.30 判*]H21(ネ)419 号 会社分割無効等請求控訴事件(原判決取消・
廃止前の有限会社法 63 条の 7・63 条の 9、
請求一部認容・上告棄却・上告不受理決定)
H17 改正前の商法 374 条の 16・374 条の 28
旧有限会社法および旧商法の下において行われた有限会社を分割会社、株式会社を承継会社と
する吸収分割が無効とされた事例 ― 旧有限会社法および旧商法の下において行われた有限会
社を分割会社、株式会社を承継会社とする吸収分割は、有限会社の営業の全部または一部を株式
会社に承継させるものということができず、単に有限会社の有していた営業許可を株式会社に承
継させる便法として用いられたものであるということができる判示の事実関係のもとにおいては、
脱法行為として、無効である。
金法 1922-109
松元暢子・ジュリ 1438-106
一審:東京地裁 H.20.12.16 判・H16(ワ)29066 号
金法 1992-119
*本件判決は、会社分割の無効が認められたのは脱法行為という特異な理由によってはいるが、
会社分割の無効を認めた嚆矢の裁判例である。
[仙台高裁 H.21.10.28 判*] H21(ネ)299 号 工事代金請求事件(控訴棄却・確定)
民法 99 条・415 条・505 条・709 条
一、債権者 X が債務者 A の第三債務者 Y に対して有する債権を、債務者に代わって取立て、
その支払を受ける旨の代理受領について第三債務者が承諾していた場合における第三債務者の
当該債権を受働債権、債務者に対して有する債権を自働債権とする相殺の可否(積極)
二、債権者 X が債務者 A の第三債務者 Y に対して有する債権を債務者に代わって取立て、そ
の支払を受ける旨の代理受領について第三債務者が承諾していた場合において、第三債務者が
した当該債権を受働債権、債務者 A に対して有する債権を自働債権とする相殺が、前記債権者
X に対する債務不履行責任ないし不法行為責任を生ずるか(消極)― X・A 間の代理受領に
係る合意のみでは、X の代理受領を根拠付け得るにとどまり、Y がその合意を承諾してもそのよ
うな X・A 間の合意を Y が承諾する趣旨は、支払は X に行う趣旨であり、直ちに、Y に対する反
対債権を以てする相殺が制限されることにはならないので、その相殺が Y の X に対する債務不履
行あるいは不法行為になることにはならないと、一審判決を承認し X の請求を棄却。
判時.2077-58
佐久間毅・リマークス 43-30
一審:仙台地裁 H.21.5.28 判・H19(ワ)1250 号
[最高裁二小 H.21.11.9 判*] H21(受)247 号 不当利得金返還請求事件(破棄自判)
民法 704 条後段・709 条
民法 704 条後段の規定の趣旨 ― 「悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不
法行為責任を負うことを注意的に規定したものに過ぎず、悪意の受益者に対して不法行為責任と
は異なる特別の責任を負わせたものではない」
民集 63-9-1987 判タ 1313-112 金判 1335-31 金法 1894-41
円谷峻・金判 1342-7
大久保邦彦・H.22 重要判ジュリ 1420-102
仮屋篤子・速報判例解説 7-83
難波譲治・速報判例解説 8-95 川角由和・民商 142-3-72 藤原正則・金法 1905-71
原審:札幌高裁 H.20.10.16 判・H19(ネ)260 号
民集 63-9-2017 金判 1335-34
一審:札幌地裁 H.19.7.20 判・H18(ワ)2372 号
民集 63-9-1998 金判 1355-39
*円谷評釈:本判決は、不当利得制度と不法行為法制度との制度趣旨の相違を指摘し、民法 704
条後段の規定が注意的規定でしかないことを明らかにした。既に、最高裁二小 H21.9.4 判(金
判 1335-42 )から理解されるように、悪意不当利得者の場合には、704 条前段の問題となり、
更に悪意不当利得者に不法行為の要件が認められるときにのみ、不法行為責任が認められると
6
の本判決の見解は適切と思われる。
[福岡地裁 H.21.11.27 判*]H21(ワ)1617 号 否認決定に対する異議請求事件(請求棄却・
破産法 160 条・173 条・174 条・175 条、
否認決定認可・確定)
会社法 5 編 3 章 2 節 2 款
一、 会社分割に対する否認の請求の可否(積極) ― 破産法においても、会社法におい
ても、否認の対象となる行為から会社分割を除外する規定がなく、その後これらを調整する
旨の規定も置かれていない以上、会社分割後に破算手続が開始された分割会社の破産管財人
は、会社分割に対する否認の請求をすることができる。
二、 会社分割に対する否認の請求に理由がある場合 ― 会社分割後に破算手続が開始さ
れた分割会社の破産管財人の会社分割に対する否認の請求は、当該会社分割により、新設会
社が承継した分割会社の資産および債務のうち、負債については分割会社が重畳的に債務引
受をしているため、資産のみを減少させる結果となっている場合には、分割会社の代表者の
悪意も認定することができる以上、理由がある。 1 億 2,997 万 1,786 円の償還請求権を認
めた原決定を認可。
金法 1911-84
金法 1902-14
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[最高裁二小 H.21.12.4 判*] H21(受)319 号・不当利得等返還請求事件(一部上告棄却、
民法 1 条2・3 項、旧会社更生法 241 条、
一部上告却下)
会社更生法 204 条 1 項
更生会社であった貸金業者において、届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金
返還請求権につき、失権したとしてその責を免れる旨主張することが、信義則に反せず、権利
の濫用にも当たらないとされた事例 ― 更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届
出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することは,
管財人又は更生会社が,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることやその
届出をしないと更正会社がその責めを免れることにつき注意を促さず,保全管理人が上記貸金業
者の発行したカードは従前どおり使用することができる旨の社告を新聞に掲載したなど判示の事
情があったとしても,信義則に反するものではなく,権利の濫用にも当たらない。
集民 232-529 判時 2077-40 金判 1333-26
吉田光硯・リマークス 43-6
高橋譲・金法 1906-18 藤本利一・H22 重要判ジュリ 1420-177 岡正晶・民商 142-2-100
原審:大阪高裁 H.20.11.20 判・H20(ネ)1825 号
金判 1333-32
一審:京都地裁 H.20.6.5 判・H17(ワ)1820 号
金判 1333-35
[東京地裁 H.21.12.9 判*]H20(ワ)25618 号 不動産媒介手数料請求事件(一部認容・
商法 512 条
一部棄却、控訴)
信託銀行が不動産会社のためにホテルの土地建物の売買を媒介した場合において、仲介契約の
成立を認め、商法 512 条の相当報酬として 33 億円の媒介手数料が認められた事例 ― ①原告
ら(信託銀行 3 社)は、訴外 A から依頼を受けて A 所有の不動産の仲介を行うこととし、入札予
定者である被告に入札実施要領書を交付し、同書面には、本件不動産売買契約成約時には A のア
ドバイザリー業務委託先である原告らは買主側の仲介業者としての役割も務めさせてもらう予定
であり、媒介手数料は、国交省告示の報酬額を上限として協議させてもらう旨が記載されており、
被告の入札書には同要領書の内容すべてを了承の上入札する旨が記載されていることから、原告
ら・被告間に本件媒介契約が成立したことを認定。
②「原告らが A からのアドバイザリー業務受任者として行った行為は、売買契約の準備的な事
7
実行為にとどまり、A の代理人として行動していない。その後も原告らは、A との媒介契約及び
本件媒介契約に基づき仲介行為を行っているが、売主及び買主双方の代理人として業務を遂行し
ていない。従って、原告らの行った行為は双方代理に該当しないから、本件媒介契約に民法 108
条の適用はなく、同条の趣旨にも抵触するものでもない」から、
・・・
「本件売買契約の代金額(2,309
億余円)、被告グループにおける被告の負担額、原告らの行った仲介行為の内容及び期間、労力、
難易度、その他諸般の事情を総合考慮すると、原告らの行った仲介行為の相当報酬額は、33 億円
とするのが相当である。
」
・・・
「原告ら主張報酬合意の成立を認めるに足りる証拠はないが、商法
512 条の相当報酬額は 33 億円である。
」 同金額の支払を判決。
判時 2071-118 判タ 1322-137 金判 1331-52
小塚荘一郎・ジュリ 1444-112
[最高裁二小 H.21.12.18 判*]H21(受)440 号 損害賠償請求本訴・同反訴事件
労働基準法 37 条 1 項・3 項(現行 4 項)
・41 条
(一部破棄差戻)
管理監督者に対する深夜割増賃金規制の適用 ― 労働基準法 37 条の深夜労働の割増賃金規制
は、労基法 41 条 2 号の規定によって労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用除外される管理
監督者についても適用除外されることはないが、当該労働者の所定賃金が労働契約、就業規則そ
の他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、そ
の額の限度では当該労働者に深夜労働割増賃金請求権はないと解される。
集民 232-825 判時 2068-159 判タ 1316-129 労働判例 1000-5
梶川敦子・民商 144-3-55
野川忍・ジュリ 1442-113
河津博史・銀行法務 716-57
浅野高宏・速報判例解説 8-331
原審:東京高裁 H.20.11.11 判・H20(ネ)2511 号
労働判例 1000-10
一審:横浜地裁 H.20.3.27 判・H18(ワ)2668 号等
労働判例 1000-17
*梶川評釈:労働基準法 41 条 2.号は、管理監督者につき、同法上の「労働時間、休憩及び休日
に関する規定」が適用除外される旨規定している。このうち「労働時間」に関する規定のなか
に労基法 37 条が定める深夜労働に対する割増賃金規制が含まれるのかが問題となる。本判決は、
最高裁として初めて、管理監督者についても深夜割増賃金規制は適用除外されないと明確に判
断した判決であり、ここに本判決の最大の意義がある。
[大阪高裁 H.21.12.22 判*]H21(ネ)2451 号 詐害行為取消請求事件(控訴棄却・上告)
民法 424 条、会社法 5 編 3 章 2 節 2 款
[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の原審
株式会社を設立する新設分割における新設分割会社の甲から新設分割設立会社の乙に対す
る不動産の承継に係る部分を詐害行為として取消すことができる場合 ― 株式会社を設立
する新設分割における新設分割会社の甲から新設分割設立会社の乙に対する不動産の承継に
係る部分は、当該不動産について設定された根抵当権の被担保債権を控除した範囲で当該処
分の詐害性を認め得るところ、会社分割により甲が取得した乙の株式の換価が困難であって、
会社分割の対価として相当なものではなく、かつ、会社分割の際に甲に詐害意思があったと
認められる場合には、甲の債権者において、これを詐害行為として取消すことができる。
民集 66-10-3350 金法 1916-108 金判 1402-24
日下部真冶・倉賀野伴明・判タ 1369-75
一審:大阪地裁 H.21.8.26 判・H20(ワ)7444 号
金法 1916-113 金判 1402-25
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[福岡地裁 H.22.1.14 判*]H20(ワ)549 号 譲受債権等支払請求事件(請求一部認容一部棄却・
民法 1 条 2 項
[福岡高裁 H.23.10.27 判*]の原審
控訴)
新設会社分割において、新設会社が法人格否認の法理により分割会社と同様の責任を負うとさ
れた事例 ― 1.債務超過状態にある会社が会社分割を実行するに先立ち、特定の債権者と事業
8
再生に向けて継続的に協議するなど特別に密接な関係に入った場合、会社は、当該債権者の利益
や期待を著しく損なうことのないよう合理的な配慮をする信義則上の義務を負う。
2.本件の会社分割は、その後の株式譲渡と増資を含む一連の手続により、上記 1 の義務を負う
債権者との関係で、分割会社の責任財産を不当に逸出させ、債権回収を困難にするものであり、
債権者の利益を著しく損なうものである。
3.このような場合、会社の一連の対応は上記 1 の信義則上の義務に反し、会社分割制度を濫用
的に用いたものであるから、会社分割による新設会社と分割会社が異なる法人格であることを否
認し、新設会社も分割会社と同様の責任を免れない。
金判 1364-42 金法 1910-88
片木晴彦・リマークス 44-82
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント及び[最高裁二小 H.17.7.15 判*]の笠井評
釈参照。
[東京地裁 H.22.1.29 判*] H19(ワ)10395 号 損害賠償請求事件(請求棄却・控訴)
法の適用に関する通則法 17 条・20 条
共同不法行為に基づく損害賠償請求について通則法 17 条・20 条により日本法を準拠法とし事
例 ― 原告が主張する被告らの共同不法行為による結果はいずれも日本国内に於いて生じるも
のであることから、その共同不法行為に基づく損害賠償請求についての準拠法は、通則法 17 条お
よび 20 条により日本法となる。
判タ 1334-223
佐野寛・リマークス 44-150
[大阪地裁 H.22.3.15 判*] ①H21(ワ)11660 号否認請求容認決定に対する異議事件・
② (ワ)13378 号預金払戻請求事件・
(①請求棄却・②容認・確定)
民法 1 条 2 項、民事再生法 93 条 1 項 2 号・127 条の 3 第 1 項 1 号
一、約束手形を目的とする譲渡担保権設定契約の締結に対する民事再生法 127 条の 3 第 1 項 1
号に基づく否認権の行使が認められた事例
二、普通預金口座への預入が「専ら再生債権をもつて相殺に供する目的でされた財産処分契約」
に該当するとして、上記預金債務を受働債権とする相殺が民事再生法 93 条 1 項 2 号により
認められなかった事例
三、否認権の行使および相殺禁止規定の適用が信義則に反しないとされた事例
判時 2090-69 判タ 1327-266 金判 1355-48
水野信次・銀行法務 726-59
[最高裁三小 H.22.3.16 判①*]H20(受)1202 号・破産債権査定異議事件(破棄差戻)
破産法 104 条 2・5 項
債務者の破産手続開始の決定後に、物上保証人が複数の被担保債権のうちの一部の債権につき
その全額を弁済した場合に,債権者が破産手続において上記弁済に係る債権を行使することの
可否 ― 債務者の破産手続開始の決定後に,物上保証人が複数の被担保債権のうちの一部の債
権につきその全額を弁済した場合には,複数の被担保債権の全部が消滅していなくても,上記の
弁済に係る当該債権については,破産法104条5項により準用される同条2項にいう「その債
権の全額が消滅した場合」に該当し,債権者は,破産手続においてその権利を行使することがで
きない。 (補足意見がある。
)
民集 64-2-523 判時 2078-13 判タ 1323-128 金判 1344-19
小林秀之・金法 1905-48
木川裕一郎・リマークス 42-126
青木哲・速報判例解説 7-331
森田修・法協 128-10-246
秋山千恵子・法学新報 118-11・12-143
原審:大阪高裁 H.20.4.17 判・H19(ネ)2032 号 民集 64-2-549 金判 1339-33 金法 1841-45
一審:大阪地裁堺支部 H.19.6.15 判・H18(ワ)1487 号
民集 64-2-537 金判 1339-37
9
[最高裁三小 H.22.3.16 判②*]H20(受)1459 号・破産債権査定異議事件(上告棄却)
民法 488 条
複数の債権の全部を消滅させるに足りない弁済を受けた債権者が,特約に基づく充当指定権を
行使することが許されないとされた事例
― 複数の債権の全部を消滅させるに足りない弁
済を受けた債権者が,上記弁済を受けてから1年以上が経過した時期に初めて,債権者において
任意の時期に弁済充当の指定ができる旨の特約に基づく充当指定権を行使する旨を主張するに至
ったなど判示の事実関係の下においては,上記充当指定権の行使は,法的安定性を著しく害する
ものとして許されない。 (補足意見がある。)
集民 233-205 判時 2078-18
金判 1344-25
高橋眞・リマークス 43-26
小林秀之・金法 1905-48 難波譲治・判例速報解説 8-99 中山和己・民商 143-3-108
原審:大阪高裁 H.20.5.30 判・H19(ネ)2033 号 判タ 1269-103 金判 1298-28 金法 1839-41
一審:大阪地裁堺支部 H.19.6.15 判・H18(ワ)1488 号
金判 1298-42
[最高裁一小 H.22.3.25 判*]H21(受)1168 号 損害賠償請求事件(破棄自判)
民法 709 条
競業避止特約のない退職従業員の競業行為が不法行為に当らないとされた事例 ― 金属工作機
械部分品の製造等を業とするX会社を退職後の競業避止義務に関する特約等の定めなく退職した
従業員において,別会社を事業主体として,X会社と同種の事業を営み,その取引先から継続的
に仕事を受注した行為は,それが上記取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用
して行われたものであり,上記取引先に対する売上高が別会社の売上高の8~9割を占めるよう
になり,X会社における上記取引先からの受注額が減少したとしても,次の(1),(2)など判示の事
情の下では,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものではなく,X会社に対する不法行為に当
たらない。
(1) 上記従業員は,X会社の営業秘密に係る情報を用いたり,その信用をおとしめたりするな
どの不当な方法で営業活動を行ったものではない。
(2) 上記取引先のうち3社との取引は退職から5か月ほど経過した後に始まったものであり,
残りの1社についてはX会社が営業に消極的な面もあったのであって,X会社と上記取引先との
自由な取引が阻害された事情はうかがわれず,上記従業員においてその退職直後にX会社の営業
が弱体化した状況を殊更利用したともいえない。
民集 64-2-562 判時 2084-11 判タ 1327-71 金判 1351-54 労働判例 1005-5
山口成樹・民商 144-1-84
砂田太士・リマークス 43-90
小林宏司・ジュリ 1416-78
中村肇・金判 1364-8
手嶋豊・速報判例解説 8-107
原審:名古屋高裁 H.21.3.5 判・H20(ネ)886 号
金判 1351-57
一審:名古屋地裁一宮支部 H.20.8.28 判・H19(ワ)296 号等
金判 1351-60
*山口評釈:本判決は、会社の従業員が在職中に知り得た顧客情報を、退職後に利用して会社の
顧客と別途取引関係を形成し、会社に売上減少の営業損害を与える行為、すなわち退職後の競
合行為が民法上の不法行為を構成するか否かにつき判断を示した、おそらく初めての最高裁判
決である。なお、顧客が元従業員と取引しても、顧客の会社に対する債務不履行とはならず、
それが顧客の自由な選択に委ねられている場合であることが、ここでの前提である。
もっとも、本判決は退職後の競業行為であっても、
「社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違
法なもの」は、不法行為を構成するとの法命題を、原判決を支持引用するかたちで自明の如く
定立するに過ぎず、その意味で本判決の意義は、当該事実の下で当該競業行為が自由競争の範
囲を逸脱したかどうかを個別具体的に判断したことにあるというべきである。
10
[最高裁三小 H.22.3.30 判*] H21(受)1780 号 損害賠償請求事件(破棄自判)
民法 715 条
使用者責任の要件の一つ:被用者の行為が会社の「事業の執行」についてなされたというため
の要件充足の有無 ― 貸金業を営む株式会社の従業員が会社の貸金の原資に充てると欺罔して
第三者から金員 3,100 万円を詐取した行為が会社の「事業の執行」についてされたものであると
いうためには,貸金の原資の調達が使用者である会社の事業の範囲に属するというだけでなく,
これが客観的,外形的にみて,被用者である当該従業員が担当する職務の範囲に属するものでな
ければならない。
本件についてはその主張立証もなく、本件での貸金原資の調達は、客観的・外形的にみて当該
従業員の担当する職務の範囲に属するとみる余地はないとして、会社の使用者責任を否定。
集民 233-373 判時 2079-40 判タ 1323-111 金判 1352-29 金法 1916-94
河津博史・銀行法務 728-79 和田真一・速報判例解説 8-103
原審:福岡高裁那覇支部 H.21.7.21 判・H21(ネ)20 号 金判 1352-32
一審:那覇地裁 H.21.1.22 判・H20(ワ)895 号 金判 1352-35
*河津評釈:本判決は、民法 715 条 1 項の「事業執行性」の判断には、①当該行為が使用者の事
業の範囲であることに加えて、②使用者が複数の被用者間で職務を分担させている場合には、
客観的・外形的にみて、被用者が担当する職務の範囲に属するものでなければならないとの、
従来の判例では明確には述べられていなかった判断を示したうえで、その主張立証がないこと
から、原判決を破棄し、民法 715 条 1 項による請求を棄却すべきものとした。最高裁が使用者
責任の要件たる「事業執行性」の判断の構造を明示したものとして意義がある。
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
[東京地裁 H.22.4.15 判*] H20(ワ)38667 号 執行判決請求事件(請求棄却・控訴)
民事訴訟法 5 条・118 条、民事執行法 24 条 *[最高裁一小 H.26.4.26 判*]の一審判決
米国カリフォルニア州中部地区合衆国地裁の判決の執行を求める訴えにつき、同判決には同地
裁管内での不法行為であるとの客観的事実の証明が足りないことから、民訴法 118 条 1 号の要
件を具備しないとして米国裁判所の管轄権を認めず執行判決請求の訴が棄却された事例
― ①「どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては、当事者間の公平、裁判
の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当であり、具体的には基
本的に我国の民事訴訟法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体
的事情に即して、当該外国判決を我国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らし
て判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべきものである([最高裁三小 H.10.4.28 判
*]参照)
。
」
②「不法行為に基づく損害賠償等請求訴訟において、判決国の裁判権の行使を正当とするに十
分な法的関連が認められ、かつ、負担が大きい外国における応訴を強いること及び外国判決の結
論を我国においても承認することに相応の合理性が認められるためには、我国において国際裁判
管轄(直接管轄)が認められるか否かを判断する場合に、我国における行為による損害の発生と
いう客観的事実関係の証明が要求されること([最高裁二小 H.13.6.8 判*]参照)に準拠して、
原則として判決国における不法行為の客観的事実関係が証明されることを要するものと解するの
が相当である。
・・・本件においては、・・・不法行為の客観的事実関係の証明は、未だ足りない
ものと言うべきである。
」
③「これに加え、
・・・米国裁判所に対する米国訴訟の提起は、(日本在住の)被告らに過大な
負担を課するもので、十分に防御を尽くすことができず欠席裁判となることが相当程度見込まれ
るというべきであり、原告の迅速な法的救済を図る利益を保護するために、被告らに前記のよう
な負担を受任させるのは公平を失して条理に反する結果になるものと認められる。これらの事情
に鑑みると、本件においては、民事訴訟法 5 条 9 号の規定の趣旨に照らし、原告主張に係る被告
11
らの不法行為の結果発生地の裁判籍がカリフォリニア州に存在することを肯認して米国裁判所の
した米国判決を我国で承認するのは、当事者間の公平、裁判の適正・迅速の理念に合致するもの
とはいえず、条理に適うものとはにわかに認められないというべきである。
・・・従って、米国訴
訟については、米国裁判所が国際裁判管轄を有するものと積極的に認められるということはでき
ないと解するのが相当であり、米国判決は、民事訴訟法 118 条 1 号の要件を充たさないものとい
うべきである。
」
民集 68-4-338 判時 2101-67 判タ 1335-273 金判 1457-47
横溝大・リマークス 44-138
長谷川俊明・国際商事法務 39-3-354
*古田:上記判旨②が参照の[最高裁二小 H.13.6.8 判*]は、我国の裁判所の国際裁判管轄の有
無を判断した事案である。そこで採られている客観的事実関係説では、外国判決への執行判決
に実質的再審査を禁止する民事執行法 24 条 2 項に反するとの批判があることが、上記の長谷川
評釈で指摘されている。横溝評釈は、③の判旨のみで足りた事案であると指摘されている。
[最高裁三.小 H.22.4.20 判*] H21(受)955 号・不当利得返還請求事件(破棄差戻)
利息制限法 1 条1項
一、 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返さ
れ,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合における利息制限法
1条1項にいう「元本」の額 ― 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金
銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる
場合における利息制限法1条1項にいう「元本」の額は,各借入れの時点における従前の借入金
残元本と新たな借入金との合計額をいい,従前の借入金残元本の額は,弁済金のうち制限超過部
分があるときはこれを上記基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算する。
二、 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返さ
れ同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合において,上記取引
の過程におけるある借入れの時点で従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息
制限法1条1項所定の各区分における下限額を下回るに至ったときに,上記取引に適用さ
れる制限利率 ― 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと
弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合において,
上記取引の過程におけるある借入れの時点で,従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が
利息制限法1条1項所定の各区分における下限額を下回るに至ったとしても,上記取引に適用さ
れる制限利率は変更されない。
民集 64-3-921 判時 2084-6
藤田寿夫・判例評論 630-14
大澤彩・法協 131-12-194
原審:福岡高裁那覇支部 H.21.2.10 判・H20(ネ)99 号 民集 64-3-940 金判 1351-42
一審:那覇地裁 H.20.6.19 判・H20(ワ)271 号
民集 64-3-932 金判 1351-46
[大阪高裁 H.22.4.23 判*]H21(ネ)3108 号・H22(ネ)189 号 不当利得金戦艦請求控訴・
民事再生法 39 条 1 項、民事執行法 155 条 2 項
同付帯控訴事件(原判決変更・確定)
民法 703 条・704 条
一、債権差押命令の差押債権者が同命令に基づく取立権を行使する過程で第三債務者から支払
の方法として手形を受領した場合、債務者に対し民事再生手続開始決定による強制執行中止
後にその手形金の支払を受けたときは、法律上許されない支払受領になるから、不当利得に
当る
二、差押債権者は、本件取立にかかる受領金のうち、手形に関するものは、手形の授受により
取立行為が完了していると認識することも全く理由がないとは言えないから、不当利得の悪
意の受益者とまでは言えないが、民事再生手続開始決定後の現金振込に関するものは、不当
利得の悪意の受益者に当る、とされた事例
12
判時 2180-54
一審:大阪地裁 H.21.11.4 判・H21(ワ)6905 号
判時 2180-59
[横浜地裁川崎支部 H.22.4.23 判*]H21(ワ)458 号・財団債権不存在確認請求事件
民法 501 条柱書、破産法 149 条 1 項
(請求棄却・確定)
破産手続開始決定を受けた会社の従業員の未払給与分を立替払した独立行政法人労働者健康福
祉機構(以下、「機構」)が取得した求償権、及び代位取得する原債権は、破産債権ではなく破
産法の財団債権(共益債権)か(肯定) ― 弁済による代位の効果を規定する民法 501 条柱
書の「求償することができる範囲内において」とは、求償権の存在や額を原債権行使の上限とす
ることに異論はないが、弁済による代位の趣旨から、原債権はその性質を保ったまま代位弁済者
に移転すると解するのが相当であり、本件代位債権も労働者の未払給与債権という性質は失わな
い。 そして、破産手続開始前 3 月間の使用人の給料請求権を財団債権とする規定(破産法 149
条 1 項)は、使用人(労働者)の保護という政策的目的によるものであり、被告(機構)は賃金
の立替払をすることが義務付けられ(機構法 12 条 6 号、賃確法 7 条)、被告の立替払による本件代
位債権も、破産法 149 条 1 項により、財団債権とするのが相当である。
判タ 1344-244 金判 1342-14
遠藤元一・金判 1347-2
[熊本地裁人吉支部 H.22.4.27 判*]H21(ワ)32 号 損害賠償請求事件(一部認容・
民法 1 条 2 項・709 条
控訴・控訴棄却・確定)
貸金業者からの過払金返還について、過払金の返還を受ける債権者の代理人である弁護士が同
弁護士の預金口座にその過払金を振込むよう重ねて指示したにもかかわらず、貸金業者がこれ
に従わず、あえて債権者本人の預金口座にこれを振込んだことが義務の履行として信義則に反
するとして、不法行為が成立するとされた事例 ― 「 本件振込みは、義務の履行として信義
則に反するものであり、本件では、原告らについて上記労力及び時間等が費やされたことに係る
精神的損害が発生し、被告会社ではこれを故意に生じさせたものとして、不法行為が成立するも
のと認めるのが相当である。
」 訴での請求額は、原告の X1(依頼者)が 110 万円、X2(被依頼
者弁護士・X1 から同人の債務整理を受任)が 100 万円であるが、判決は、各 5,000 円づつの支払
を命じた。
判タ 1360-173
[大阪地裁 H.22.4.28 決定*] H22(モ)544 号 担保取消決定申立事件(認容・確定)
民訴法 79 条 1 項・405 条 2 項、民法 494 条
仮執行宣言付判決に対する控訴に伴う執行停止の担保につき、強制執行停止決定の効力が控訴
棄却の判決により失われた後に債務者が有効な弁済供託をしたときは、債務者が上告等で不服
を申立て、且つ、仮執行宣言付判決が取消された場合に供託金を取戻す権利を留保していると
はいえ、債権者が供託を受諾しないのであるから担保供与の必要性は消滅し、担保の事由が消
滅するとして、担保の取消が認められた
判時 2109-75 判タ 1331-264
*上記判時の 75 頁コメント:原告は、供託金を受領すれば、後日本案判決が変更された場合に、
民訴法 260 条 2 項により給付の返還及び損害賠償として、受領した金銭に民法所定年五分の割
合による遅延損害金を付して被告に返還しなければならない。本件は、市場金利が法定金利を
大幅に下回る現在の経済社会を反映し、かの執行宣言に基づく弁済の受領を拒絶し、弁済供託
も受諾しないという先例のない事案について判断したものである。
[東京地裁 H.22.5.12 判*]H21(ワ)23521 号 製品代金請求事件(請求棄却・控訴)
13
下請代金支払遅延防止法 4 条 1 項 3 号、民法 505 条・533 条
一、一部上場企業である被告の短期調達金利相当額を上回る金額を下請代金から控除したこと
は、下請代金支払遅延防止法 4 条 1 項 3 号に違反するものの、控除する旨の合意が同号の趣
旨に照らし不当性が強いとまでいうことは出来ず、無効となるものではないとされた事例
―「支払手段として手形払と定めているものを、下請業者からの要請により一時的に現金で支払
う場合、親事業者は、当初の取引条件よりも早い時期に現金を下請業者に渡すことになることか
ら、当初の下請代金の額からその期間分の利息に相当する額を控除することは、下請法の禁止す
る下請代金の減額に当るということは出来ない。しかし、親事業者の短期調達金利相当額を超え
て下請代金から控除する場合には、下請法の禁止する下請代金の減額に当るものと云うべきであ
る。 そして、割引料相当額の控除が下請法 4 条 1 項 3 号に違反した場合、減額に至る経緯、減
額の割合等を考慮して、同号の趣旨に照らして不当性の強いときには、割引料相当額の控除の合
意が公序良俗に違反して無効となることがあり得るが、そうでないときには、同号に抵触すると
いうことだけで直ちに上記合意が無効となるものではないと解するのが相当である。
」
本件合意が公序良俗に反して無効であるかは、
「①被告は、原告からの支援要請を受けて、原告
を支援する目的で手形払から現金払へ変更する取扱をしたこと、②割引料相当額の控除には原被
告間で合意がされたこと、③割引料相当額を計算するに当たり、原告が銀行から割引く際に最も
有利な利率を選んで計算していること、④その利率は年 2.145%であり、それほど高いものではな
いことが認められ、
・・・控除の合意が下請法 4 条 1 項 3 号の趣旨に照らして不当性が強いとまで
いうことは出来ない。
・・・原被告間での割引料相当額の控除の合意は、無効となるものではない。
」
二、約束手形の原因債権を自働債権とする相殺が、約束手形の交付・呈示をせずにされたとこ
ろ、債務者をして二重払をさせる危険があったものとは認められず、特段の事由があるとし
て、その効力が生ずるとされた事例 ― 「本件手形の原因債権を自働債権としてされた本件
相殺は、特段の事由のない限り、本件手形の交付(原因債権の一部が消滅する手形にあっては呈
示)がなければその効力を生じない。
・・・被告が、本件相殺の意思表示をした時点において、本
件手形の振出人である原告について既に再生手続開始決定がされており、被告は、債権届出期間
内に再生債権の届出をし、その届出書に本件相殺に供したものを含め本件手形の写しを添付して
いた上、同届出期間内に他に本件手形に係る債権届出をした者はなかったというのであるから、
原告が本件手形に係る債権について二重払の危険があったものとは認められず、上記特段の事由
があるものと云うべきである。 従って、本件相殺は、本件手形の交付・呈示がなくても効力を
生ずるものと認められる。
」
判タ 1363-127
浅井弘明章・銀行法務 744-59
[大阪高裁 H.22.5.21 判*]H21(ネ)2559 号・前渡金返還請求事件(原判決取消・差戻、
民法 459 条・500 条・501 条、
上告→棄却)
民事再生法 49 条・84 条・121 条、破産法 54 条
民事再生手続上で共益債権として取扱われることになった原債権を弁済による法定代位で取得
した再生債務者の保証人が、再生管財人に対して、民事再生手続外で当該原債権の支払を求め
ることは、弁済によって生ずる求償権が再生債権であることによって、制限を受けるか(消極)
―「民法 501 条柱書は、
『前二条の規定により債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて
求償することができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切
の権利を行使することができる。』と定めている。・・・被控訴人(被告・再生管財人)は、原債
権は当該手続法上の制約のもとで行使し得るに過ぎない旨主張し、控訴人(原告・法定代位者)
は、共益債権として民事再生法外で行使することができる旨主張する。そこでこの点につき検討
するに、民法は手続法ではなく実体法であることに鑑みれば、民法 501 条柱書の『自己の権利に
基づいて求償をすることができる範囲内』とは、求償権が存する場合にその求償できる上限の額
の範囲内(原債権の額が求償権の額を下回っている場合には、原債権の範囲内)
、即ち実体法上の
制約の範囲内を意味していると解すべきであり、それ以上に、上記『範囲内』が手続法上の制約
14
を含むとみることは、実体法の解釈として疑問があるというべきである上、民法 501 条柱書が手
続法上の制約についても規定しているとすれば、債権者が原債権に債務名義を有するときは、代
位者は、承継執行文の付与を受けてこれを行使することができるとされていること(民事執行法
27 条 2 項)と相容れないと解されることなどの点を併せ考慮すれば、民法 501 条柱書の解釈とし
て、債務者が原債権を行使する代位弁済者に対し、求償権の行使に手続上の制約が存することを
もつて対抗できると解するのは相当でない。
従って、本件において、民法 501 条柱書を根拠として、被控訴人が控訴人に対し、本件求償権
に存する手続法上の制約(再生債権として、民事再生手続き開始後は、原則として再生計画の定
めるところによらなければ弁済等が許されない。)をもって対抗することはできないというべきで
ある。
・・・民事再生法の観点からしても、本件求償権に存する手続法上の抗弁をもって本件請求
権の行使に対抗することはできないというべきである。
」
民集 65-8-3258 判時 2096-73 金法 1899-92 金判 1343-12
田頭章一・金法 1929-52
長谷部由起子・リマークス 44-134
杉本純子・判例速報解説 9-199
加藤哲夫・判例評論 632-21
村田利喜弥・NBL961-19
*:本件の上告審[最高裁一小 H.23.11.24 判*]は上告棄却。
一審:大阪地裁 H.21.9.4 判・H20(ワ)11774 号 判時 2056-103 金判 1332-58 民集 65-8-3248
[東京地裁 H.22.5.27 判*]H21(ワ)36384 号 リース料等請求事件(一部認容・一部棄却・
[東京高裁 H.22.10.27 判*]の原審
控訴)
民法 424 条、会社法 2 条 30 号・51 条 1 項・102 条 3・4項・125 条 2 項・803 条 1 項 2 号・
810 条 1 項 2 号・828 条 1 項 10 号・2 項 10 号・832 条 2 号・834 条 19 号・838 条・839 条、
会社法施行規則 205 条 7 号
一、株式会社の新設分割が詐害行為取消権の対象となることが肯定された事例 ― 「新設分割
は、他にこれを否定すべき理由がない限り、その性質上詐害行為取消権の対象になり得るものと
解される」
。
二、新設分割株域会社が新設分割の対価として新設分割設立会社の全株式を取得したとしても
当該新設分割が新設分割株式会社の債権者を害するものとされた事例 ― 本件会社分割は、
分割当時無資力の分割会社 Y1(被告・債務者)が、その保有する無担保の残存資産の殆どを分割
設立会社 Y2(相被告・受益者)に承継させるものであるが、Y1 がその対価として交付を受けた
Y2 の設立時発行の全株式が、Y1 の債権者にとって、保全、財産評価および換価等に著しい困難
を伴うものと認められる本件においては、本件会社分割により、Y1 の一般財産の共同担保として
の価値が毀損され、債権者が自己の有する債権について弁済を受けることがより困難になったと
言えるから、本件会社分割は Y1 の債権者である X(原告)を害するものと認めることができる。」
三、 詐害行為となる新設分割の目的資産が可分であり、当該新設分割を詐害行為として取消
し得る範囲は、債権者の被保全債権の額が限度となるものの、その原状回復の方法として
は逸失した資産の現物返還に代えて価格賠償を請求することができるとされた事例 ― 詐
害行為となる本件会社分割の目的物である資産(金銭債権および固定資産)が、可分であること
は明らかであるから、本件会社分割を詐害行為として取消し得る範囲は、債権者である X の本件
被保全債権の額を限度とするというべきであるが、本件会社分割により承継させた資産は、個別
の権利として特定されておらず、また、上記資産に変動が生じていることは容易に推測できるの
であり、債権者である X にとって、承継された上記資産を特定してこれを返還させることはす著
しく困難であると認められるから、X は、Y2 に対し、詐害行為取消権に基づき、本件会社分割を
本件被保全債権の額の限度で取消した上、その価格賠償を求め得るにとどまる。
判時 2083-148 金判 1345-26 金法 1902-144
河村寛治・NBL976-93
足立格・銀行法務 722-5 内海順太・銀行法務 722-12
伊藤邦彦・金法 1918-101
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
15
[最高裁二小 H.22.6.4 判*]H21(受)284 号 自動車引渡請求事件(破棄自判)
民事再生法 45 条・53 条 1 項・2 項、民法 369 条(所有権留保)
自動車の売買代金の立替払をした者が,販売会社に留保されていた自動車の所有権の移転を受
けたが,購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき所有者としての登録を受け
ていないときに,留保した所有権を別除権として行使することの可否 ― 自動車の購入者
から委託されて販売会社に売買代金の立替払をした者が,購入者及び販売会社との間で,販売会
社に留保されている自動車の所有権につき,これが,上記立替払により自己に移転し,購入者が
立替金及び手数料の支払債務を完済するまで留保される旨の合意をしていた場合に,購入者に係
る再生手続が開始した時点で上記自動車につき上記立替払をした者を所有者とする登録がされて
いない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,上記立替払をした者が上記の合意に
基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。
民集 64-4-1107 判時 2092-93 判タ 1332-60 金法 1910-68
田頭章一・リマークス 43-134
小山泰史・金法 1929-56 佐藤鉄男・民商 143-4・5-49 和田勝行・法学論叢 170-1-120
上江洲純子・H22 重要判ジュリ 1420-175
杉本和士・法学研究(慶大)86-10-90
原審:札幌高裁 H.20.11.13 判・H20(ネ)179 号
民集 64-4-1179 金判 1353-35
一審:札幌地裁 H.20.4.17 判・H19(ワ)1972 号 民集 64-4-1125 金判 1353-40
[最高裁一小 H.22.6.17 判*] H21(受)1742 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 709 条
売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建替えざるを得ない場合に,買主から
の工事施工者等に対する不法行為に基づく建替費用相当額の損害賠償請求において買主が当該
建物に居住していたという利益を損益相殺等の対象として損害額から控除することの可否 ―
売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当
該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるな
ど,社会通念上,建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには,上
記建物の買主がこれに居住していたという利益については,当該買主からの工事施工者等に対す
る不法行為に基づく建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調
整の対象として損害額から控除することはできない。 (補足意見がある。)
民集 64-4-1197 判時 2082-55 判タ 1326-111
新堂明子・法協 129-7-187
根本尚徳・H.22 重要判ジュリ 1420-108
古積健三郎・速報判例解説 8-123
錦織成史・リマークス 43-62
北居功・民商 143-3-76
渡邊力・判例評論 625-20
松本克美・法律時報 83-4-143
原審:名古屋高裁 H.21.6.4 判・H20(ネ)1063 号
民集 64-4-1225
一審:名古屋地裁 H.20.11.6 判・H18(ワ)1554 号
民集 64-4-1204
[大阪高裁 H.22.6.22 決定*] H22(ラ)639 号 強制競売申立についてした決定に対する執行
民事執行法 120 条、民事執行規則 89 条・97 条・174 条 2 項
抗告事件(取消・確定)
・176 条 2 項
自動車の仮差押をした債権者は本執行として当該自動車の強制競売を申立てるに当たって、同
自動車を仮差押後に占有している第三者に対し、執行官に引渡す旨の命令を申立てることがで
きるか(積極) ― 「自動車を登録の方法により仮差押した場合、仮差押にはその登録後の売
買等の処分行為を制限する効力があり、仮差押が本執行に移行したときは、その手続において、
仮差押後の処分行為の効力は否定される。従って、仮差押により制限されていた処分行為により
対象自動車の占有を取得した者は、処分行為の効力を否定されるとともに、自動車の強制競売の
16
ため、その占有確保を担当する執行官に自動車を引渡すべき義務があると解するのが相当である。
そして、このような場合、民事執行規則 176 条 2 項により準用される 174 条 2 項を類推して、占
有者に対してその引渡命令を発することができると解すべきである。上記規則の条項は、もちろ
ん担保権実行(任意競売)における規定であるが、任意競売も強制競売も究極的には公権力によ
る処分禁止(差押)
・換価・配当の実施方法を定めるものであるから、その手続に関する規定を相
互に準用することができないというわけではない。
」
占有している相手方に対し、原審では却下されていた執行官への引渡を命令。
判時 2107-122
西川佳代・判例評論 658-10
一審:大阪地裁 H.22.6.1 決定・H22(ヌ)43 号
[最高裁三小 H.22.6.29 判*] H21(受)1298 号 執行文付与請求事件(上告棄却)
民法 33 条、民訴法 29 条、民事執行法 23 条 3 項・25 条・27 条 2 項・33 条、
民事執行規則 21 条・23 条
権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,当該社団
の構成員全員に総有的に帰属し,当該社団のために第三者がその登記名義人とされている不動
産に対して強制執行をしようとする場合における申立ての方法 ― 当該第三者を債務名義に
表示された者のために請求の目的物を所持する者として当該債務名義に執行文を付与すること
ができるか(消極)
[判示要旨]
「権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が、構成員
の総有不動産に対して強制執行をしようとする場合において、上記不動産につき、当該社団のた
めに第三者がその登記名義人とされているときは、上記債権者は、強制執行の申立書に、当該社
団を債務者とする執行文の付された上記債務名義の正本のほか、上記不動産が当該社団の構成員
全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者と当該社団及び上記登記名義人との間の確定
判決その他これに準ずる文書を添付して、当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすべきも
のと解するのが相当であって、
民事執行法 23 条 3 項の規定を拡張解釈して、
上記債務名義につき、
上記登記名義人を債務者として上記不動産を執行対象財産とする同法 27 条 2 項の執行文の付与を
求めることはできないというべきである。
」・・・
「法 23 条 3 項の規定は、特定物の引渡請求権等についての強制執行の場合を予定したものであ
るし、法 27 条 2 項に規定する執行文付与の手続及び執行文付与の訴えにおいて、強制執行の対象
となる財産が債務名義上の債務者に帰属するか否かを審理することも予定されていないことから
すると、法 23 条 3 項の規定を金銭債権についての強制執行の場合にまで拡張することは許されな
いものというべきである。
」
田原睦夫裁判官の補足意見趣旨:法 23 条 3 項は、法廷意見にて指摘するとおり、特定物の引
渡請求権等についての強制執行の場合に関する規定であって、同項を金銭債権についての強制執
行の場合にも類推適用し得ると解することは、条文の趣旨から大きく外れるものである・・・
法廷意見でのべるとおりの方法により、権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した
債務名義に基づいて、構成員の総有不動産に対する強制執行をなし得る以上、法 23 条 3 項を同条
本来の規定の趣旨を大きく離れて拡張して解釈する有力説の見解(上告人の一審以来の主張)は、
実務上採用すべきではないと考える。
民集 64-4-1235 判時 2082-65 判タ 1326-128 金法 1904-111 金判 1349-16
石毛和夫・銀行法務 719-57 滝澤孝臣・金判 1357-7 榎本光宏・ジュリ 1418-117
青木哲・金法 1918-75 &・別冊ジュリ 208-19 山本克己・金法 1929-44
名津井吉裕・速報判例解説 8-181 &・民商 148-4・5-44 松村和徳・リマークス 43-110
原審:東京高裁 H.21.4.15 判・H20(ネ)6070 号
金判 1349-23
一審:東京地裁 H20.11.17 判・H19(ワ)17935 号
判時 2036-88 金判 1349-24
*榎本評釈:本判決は、権利能力のない社団につき、同社団の構成員全員の総有に属し第三者(当
17
事者以外の意であり、社団の代表者や構成員を含む)を登記名義人とする不動産に対する強制
執行の申立の方法につき、最高裁が初めて判断を示したものであり、理論的にも実務的にも重
要な意義を有する。
*青木評釈:この強制執行を保全する仮差押命令の申立をするについて、所有権の登記がされた
不動産については登記事項証明書の添付が必要であり(民事保全規則 20 条 1 号)、原則として、
債務者が所有者として登記されている必要がある。しかし、この点について
[最高裁二小 H.23.2.9
決定*]は、不動産が社団構成員の総有に属する事実を証する文書を添付して、社団を債務者と
する仮差押命令の申立をすることができ、強制執行の場合とは異なり、添付文書として確定判決
等は要しないことを判示している。
[東京地裁 H.22.6.30 判*]H20(ワ)3538 号 売買代金請求事件(一部認容・確定)
民法 533 条・1 条 2 項・555 条
旧加ト吉への循環取引売買代金請求訴訟:X から冷凍食品を購入し、これを A に売却するとい
う介入取引をしていた Y(被告・旧加ト吉)について、循環取引に係る売買代金請求に対する
同時履行の抗弁権の主張が排斥された事例 ― 原告 X が被告 Y に訴外 A 向けの冷凍食品を継
続的に売却し、これを Y が A に転売するという介入取引において、①Y の担当者が、X の Y に対
する請求書の中に同じ商品名・ロツトナンバー・単価・数量の商品が繰返し登場していることを
認識していたほか、市価と比較して極めて高額の商品が存在することを認識していたこと、②Y
の A に対する与信(極度額)が急速に増加していること、③Y の A に対する請求書には、商品明
細を添付せず、商品の数量・単価については、金額の合計を合せただけのものがあることなどを
併せ考えると、 「被告は、本件介入取引が相当量の循環取引を含むものであることを認識して
いたのであるから、信義則上、原告に対し、同時履行の抗弁権を主張することができないものと
いうべきであり、原告は、被告に対し、
(循環取引に係るものには:古田補筆)引渡の主張立証をす
ることなく、本件循環取引に係る代金及び遅延損害金の即時の支払を求めることができる。
」
判時 2089-82 判タ 1354-158 金判 1350-48
遠藤元一・判タ 1349-69 & 1351-61(RF③A-9)
*介入取引:つけ売買とも言われ、判例によれば「既に成立した売買契約の売主と買主との間に、
主に売主の要請で一流商社が介入し、商品は当初の売買契約通り売主から直接買主に引渡すか、
取引の形態としては、商社が売主から売買の目的となった商品をいったん買上げてこれを買主
に転売する形式をとるものであって、これにより売主としては買主の手形よりも支払期日が早
くしかも割引を受けやすい一流商社の手形を取得して資金繰りの便宜を得、他方商社としては
労せずして口銭を得る等の利益を受けることになることが認められている」(大阪地裁
S.47.3.27 判・S40(ワ)2734 号・判時 684-76)とされている:宮廻美明・別冊ジュリ 194-112。
*循環取引(環状取取引)
:一般に、ある商品について、最初の売主から、中間業者の間を順次転
売され、最終的には最初の売主が最後の買主となる取引形態のことを言うところ、循環取引に
おいては、売買代金が当事者間を移転するのみであり、商品が現実に引渡されることはない:
柏木昇・別冊ジュリ 164-121 頁右欄中程。
本件事案は、Y の介入取引の中に、売主 X が最後の買主となる循環取引が一部含まれていた
事案であり、介入取引の X からの買主である Y が最終的に最後の買主である X の売主となって
いたものである。
買主が、介入取引の中に循環取引が含まれることを認識していた場合には、買主売主間にお
いては当該循環取引について商品の引渡を予定していないものと考えられるから、買主は、信
義則上、売主に対し、同時履行の抗弁権をないし、目的物の引渡がなかったことを契約解除の
理由として主張することは許されないと解される。
類似の裁判例には、
次のものがある。
①大阪地裁 S.59.9.27 判・S56(ワ)522 号等・判時 1174-105、
②東京地裁 H.1.1.30 判・S60(ワ)4784 等・判タ 714-201、③東京地裁 H.2.8.28 判・S60(ワ)4783
号・金判 873-36、④東京地裁 H.5.3.22 判・H3(ワ)70364 号等・判タ 845-260 など。
18
[大阪地裁 H.22.7.7 判*]H21(ワ)10666 号・損害賠償請求事件(一部認容・一部棄却・控訴)
民法 415 条・570 条・650 条、商法 526 条 2 項後段、製造物責任法 2 条
中国企業(天洋食品)製造の食品の販売に関する継続的取引につき、当該中国企業製造の冷凍
餃子に毒物混入が発覚し、買受会社(原告:江崎グリコ)が買受けた食品を使って製造した食
品の回収を余儀なくされ損害を被ったとして、販売会社(被告:テーブルマーク)に対し求め
た右取引契約の債務履行保証、瑕疵担保条項に基づく損害賠償請求が認容された事例 ― 原告
が被告から本件商品の引渡を受けたのは H.19.5.24 と H.19.10.30 であるが、H.20.1.31 に天洋食
品からの輸入冷凍餃子に高濃度の毒物混入がある旨の厚労省の輸入企業の公表が大きく新聞報道
された。 原告の損害賠償請求に、
① :取引契約の約定で被告の責任が厳しく規定されていることから、
「被告が原告に対して納
入した商品が社会通念上食品として市場に流通し得る品質を備えていなかった結果、同商品を原
料として使用した原告の商品に瑕疵、すなわち、社会通念上食品として市場に流通し得る品質を
備えない事態が生じた場合には、被告は、原告に対して損害賠償責任を負うべきである。
」と判示
したが、
②:原告が H.19.5.24 に引渡しを受けた分については、原告が被告に対して本件商品に瑕疵が
ある旨を通知したのが H.20.2.4 であり 6 カ月を超えていることから、
「商法 526 条 2 項後段は、
その瑕疵が直ちに発見し得ないものであるときでも、受領後6カ月以内にその瑕疵を発見して直
ちにその通知をしなければ、契約解除又は損害賠償の請求をすることができない旨を定めた規定
であり(
[最高裁三小 S.47.1.25 判]参照)
、同条によると、買主に通常期待される検査によって
発見できる瑕疵か否かを問題にすることなく、引渡後 6 カ月を経過した後は、買主は売主に対し
て瑕疵を理由とする損害賠償請求は認められないのであるから、原告の化学検査義務はないから
との主張は採用できない。
」と判示し、被告の賠償責任を否認。
判時 2100-97 判タ 1332-193
土田亮・ジュリ 1459-115
*本件の被告は、販売した同製品の購入先である輸入商社に対して[東京地裁 H.22.12.22 判*]
で、本件での賠償額を求償している。
*:商法 526 条の「遅滞なく」「通知」「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、[最
高裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につ
いては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[東京地裁 H.22.7.8 判*]H19(ワ)32843 号 詐害行為取消権等請求事件(請求棄却・確定)
破産法 2 条 11 項(支払不能の定義)
・162 条 1 項 2 号(否認権の対象拡張)
破産法における「支払不能」の意義 ― ①.破産法 2 条 11 項で定義する「
『支払不能』とは、債
務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に
弁済することができない状態をいう。支払不能は、弁済期の到来した債務の支払可能性を問題と
する概念であることから、支払不能であるか否かは、弁済期の到来した債務について判断すべき
であり、弁済期が到来していない債務を将来弁済できないことが確実に予想されても、弁済期の
到来している債務を現在支払っている限り、支払不能ということはできない。
」
②.破産法 162 条 1 項 2 号の基準時である『支払不能』
:
「破産法における『支払不能』は、破産
手続開始の原因になる事情であるとともに、偏波行為(古田注:へんぱ行為=不公平・えこひいき・
片手落ちな行為)の否認における危機時期を画する基準にもなる重要な概念であって、基準として
明確性が強く要請されるものと云うべきところ、特に、破産法 162 条 1 項 2 号の規定は、破産者
の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為について、偏波行為の否認の対象
となる行為を『支払不能になる前 30 日以内にされたもの』にまで拡張しているのであって、同規
定が、支払不能について、必ずしも明確ではない基準を採用したものとは解し難い。むしろ、上
記規定は、支払不能が弁済期の到来した債務の支払可能性を問題とする概念であることを前提と
19
して、その弁済期前に行われた偏波行為(例えば、ある時点では弁済期未到来のため支払不能と
はなっていないが、近々到来する弁済期において支払不能となることが確実であるというような
場合に行われる債権者への担保提供行為)を一定の範囲で否認することをかのうにしたものであ
ると解するのが自然である。
」
③ . 確かに、
『支払不能』について、「債務者が、無理算段をしているような場合や、高利
貸による借入をしながら債務を支払っているような場合には、支払不能に当たるとされることが
あるものというべきであるが、これは、弁済期が到来している債務が存在し、当該債務について
上記のような事情があるとして支払不能に当たると判断されているのであり、
『支払不能』である
か否かは、やはり弁済期の到来した債務について判断されているものと云うべきである。
」
判時 2094-69 判タ 1338-270 金判 1350-36
栗原伸輔・ジュリ 1448-111
山本浩美・判例評論 629-13
水野信次・銀行法務 723-52
*栗原評釈:破産法の支払不能の意義については先行判例は乏しく、先例としては[東京地裁
H.19.3.29 判*]がある。その意味では本判決は重要な意義を有するが、事案の担保設定行為
は、従前から実質的に継続する担保差替のための行為であり、有害性を欠き偏波行為には当た
らないと解されるので、
「支払不能」の意義を論じるまでもなく、162 条 1 項 2 号の否認権行使
を否定できたものと解されると指摘されており、筆者もその通りであると考える。
なお、旧破産法には、
「支払不能」の定義規定が置かれていなかったので、学説では、支払不
能の判断における債務者の支払能力は客観的に判断すべきものであるとして、
「無理算段説」が
説かれていた。本判決も上記判示③で「無理算段説」によっても現行破産法所定の「支払不能」
には該当しないと判示している。
[東京地裁 H.22.7.9 判*]H21(ワ)35786 号 未払金等請求事件(請求一部認容・確定)
会社法 22 条 1 項
フランチャイジー(分割設立会社)によるフランチャイザー(分割会社)の店舗・名称の
継続使用と当該分割会社の責任 ― 分割会社が経営する店舗の名称をその事業主体を表示
するものとして用いた場合において、会社分割に伴い当該店舗の事業が新設会社に承継され、
新設会社が当該店舗の名称を引続き使用しているときは、新設会社は、会社分割後遅滞なく
分割会社の債権者に債務引受をしない旨通知したなど免責を認めるべき特段の事情がない限
り、会社法 22 条 1 項の類推適用により、分割会社が債権者に対して同事業により負担する債
務を弁済する責任を負うと解される。
判時 2086-144 金法 1903-14
愛川環大・金判 1375-2
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[最高裁二小 H.22.7.12 判*]H20(受)1704 号 地位確認請求事件(上告棄却)
H.12 商法等改正法附則 5 条、労働契約承継法 7 条
どちらも H.17 会社法制定前の改正前のもの。本件は H.14 の事案である。
会社分割に伴う労働契約の新設会社への承継手続と手続違反の効力 (日本 IBM 会社分割事
件:承継の効力を是認) ― 「3-(1) 新設分割の方法による会社の分割は,会社がその営業の全
部又は一部を設立する会社に承継させるものである(商法373条。以下,会社の分割を行う会
社を「分割会社」
,新設分割によって設立される会社を「設立会社」という。
)。これは,営業を単
位として行われる設立会社への権利義務の包括承継であるが,個々の労働者の労働契約の承継に
ついては,分割会社が作成する分割計画書への記載の有無によって基本的に定められる(商法3
74条)
。そして,承継対象となる営業に主として従事する労働者が上記記載をされたときには当
然に労働契約承継の効力が生じ(承継法3条)
,当該労働者が上記記載をされないときには異議を
申し出ることによって労働契約承継の効力が生じる(承継法4条)。また,上記営業に主として従
事する労働者以外の労働者が上記記載をされたときには,異議を申し出ることによって労働契約
20
の承継から免れるものとされている(承継法5条)
。
-(2) 法は,労働契約の承継につき以上のように定める一方で,5条協議として,会社の分割に
伴う労働契約の承継に関し,分割計画書等を本店に備え置くべき日までに労働者と協議をするこ
とを分割会社に求めている(商法等改正法附則5条1項)。これは,上記労働契約の承継のいかん
が労働者の地位に重大な変更をもたらし得るものであることから,分割会社が分割計画書を作成
して個々の労働者の労働契約の承継について決定するに先立ち,承継される営業に従事する個々
の労働者との間で協議を行わせ,当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさ
せることによって,労働者の保護を図ろうとする趣旨に出たものと解される。
ところで,承継法3条所定の場合には労働者はその労働契約の承継に係る分割会社の決定に対
して異議を申し出ることができない立場にあるが,上記のような5条協議の趣旨からすると,承
継法3条は適正に5条協議が行われ当該労働者の保護が図られていることを当然の前提としてい
るものと解される。この点に照らすと,上記立場にある特定の労働者との関係において5条協議
が全く行われなかったときには,当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うこ
とができるものと解するのが相当である。
また,5条協議が行われた場合であっても,その際の分割会社からの説明や協議の内容が著し
く不十分であるため,法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には,分割会社に
5条協議義務の違反があったと評価してよく,当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の
効力を争うことができるというべきである。
-(3) 他方,分割会社は,7条措置として,会社の分割に当たり,その雇用する労働者の理解と
協力を得るよう努めるものとされているが(承継法7条)
,これは分割会社に対して努力義務を課
したものと解され,これに違反したこと自体は労働契約承継の効力を左右する事由になるもので
はない。7条措置において十分な情報提供等がされなかったがために5条協議がその実質を欠く
ことになったといった特段の事情がある場合に,5条協議義務違反の有無を判断する一事情とし
て7条措置のいかんが問題になるにとどまるものというべきである。
・・・
・・・ 以上によれば,被上告人の5条協議が不十分であるとはいえず,上告人らのC社への労
働契約承継の効力が生じないということはできない。また,5条協議等の不十分を理由とする不
法行為が成立するともいえない。
5 以上と同旨の原審の判断は是認することができ,論旨は採用できない。よって,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
」 原原審の判断を是認した原審判決を是認し、上告棄却
を判決。
民集 64-5-1333 判時 2096-145 判タ 1335-72
成田史子・ジュリ 1432-112
荒木尚志・H22 重要判ジュリ 1420-263
金久保茂・法協 129-2-204
斉藤真紀・別冊ジュリ 205-190
原審:東京高裁 H.20.6.26 判・H19(ネ)3596 号
判時 2026-150
一審:横浜地裁 H.19.5.29 判・H15(ワ)1833 号
判時 2026-150
*成田評釈:本件は H.17 会社法制定以前の事案であるが、同会社法制定により、会社分割の対
象が営業単位から「事業に関して有する債権債務の全部又は一部(会社法 2 条 29・30 号)」へ
と変更され、有機的一体性のある営業(事業)である必要性がなくなった。更に、会社分割の
事前開示事項とされていた「債務の履行の見込みがあること」は、
「債務の履行の見込みに関す
る事項(会社法施行規則 183 条 6 号等)」と改正され、これまでは、債務の履行の見込みのな
い会社分割は無効とされていたところ、債務超過分割も可能になったと一般に解されている。
学説では、債務超過分割は労働契約承継法の予定する会社分割ではないため、労働契約の承
継については、民法 625 条 1 項が適用され、労働者の同意が必要となる、との見解も存在する
(島田陽一・土田道夫「ディアローグ労働判例この 1 年の争点」日本労働研究雑誌 604-31)
。
*古田:本件事案は、会社分割の労働契約の面が問題となった初めての事案といわれており、一・
二審・最高裁判決を通じて実務や有力な学説を是認した丁寧な法律論の展開と当てはめが行わ
れている。しかし、会社法施行後の会社分割は従来では認められなかった新設会社への債務超
過分割もあるわけであり、上記の島田・土田説を認識しておかなければならない。
21
[東京地裁 H.22.7.22 判*]H21(ワ)40619 号 売掛代金請求事件(請求容認・控訴後和解)
民法 446 条・第 3 編 1 章 4 節、会社法 5 編 3 章 2 節 2 款
新設分割に伴い新設分割設立会社が新設分割会社の債務について免責的債務引受をした場合と
新設分割会社及び同社の保証人の責任の帰趨 ― 新設分割に伴い新設分割設立会社が新設分割
会社の債務について免責的債務引受をした場合であっても、当該新設分割が法人格を濫用するも
のであったときは、新設分割会社は、新設分割設立会社と法人格が異なることを理由に、当該債
務を履行する責任を免れることができず、また、同社の保証人も、そのような会社分割の目的を
熟知していたときは、新設分割会社が当該債務の履行を免れることができない結果として主債務
が存在することとになる以上、保証債務を履行する責任を免れることができない。
金法 1921-117 & -121
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[東京地裁 H.22.7.30 判*]H17(ワ)25703 号・損害賠償請求事件(一部認容・一部棄却・確定)
民法 415 条・709 条
契約期間の定めがない場合の解約権:販売代理店契約の簡易役と予告期間の必要性
外国のワイン会社が損失補償をすることなく予告期間を4カ月と定めて販売代理店との販売代
理店契約を解約したのは、債務不履行に当たるとして、販売代理店の損害賠償請求のうち、1
年から予告期間を差引いた機関の営業利益の喪失分の損害が認容された事例 ― ①.外国のワ
イン会社と販売代理店が、ワインの輸入販売代理店契約に基づき 18 年という長期にわたり取引関
係を継続してきており、その間に販売代理店は日本におけるワインの売上を大幅に伸ばしてきた
等の事実関係の下では、ワイン会社が販売代理店契約を解約するには、1 年の予告期間を設ける
か、その期間に相当する損失を補償すべき義務を負うものと解される。ワイン会社が損失補償す
ることなく予告期間を4カ月と定めて販売代理店契約を解約したのは、販売代理店契約上の上記
義務に違反するもので、債務不履行に当たる。
②.販売代理店の被った損害は、1 年から予
告期間4カ月を差引いた8カ月分のワインの売上に係る総利益から販売直接費および販売管理費
を控除した営業利益の喪失分と解するのが相当である。
判時 2118-45 金判 1352-59
松井秀征・ジュリ 1438-98 河津博史・銀行法務 724-57
長谷川俊明・国際商事法務 39-11-1584
[東京地裁 H.22.9.8 判*]H22(ワ)5104 号動産引渡請求事件(請求棄却→控訴棄却→上告棄却)
民法 178 条、民事再生法 45 条・53 条
売主に所有権を留保する旨の特約が付された動産売買の買主が民事再生手続開始決定を受けた
場合に、民事再生手続開始決定時までに第三者対抗要件を具備していない売主による留保所有
権に基づく当該動産の引渡請求が棄却された事例 ― 判示は、①:原告売主が被告 Y1 に継続
的に販売した家庭用雑貨等の商品(動産)について設定した所有権留保について、原告と被告 Y1
の間での上記商品の売買取引については、商品の転売を制限する定めはなく、被告 Y1 は、原告
から販売を受けた商品について、売買代金の支払の有無を問わず被告 Y2 等に転売する取引を継
続しており、このことは原告も許容するところであったことから、原告と被告 Y1 の間における
所有権留保は、原告の下に商品の所有権を留める趣旨で約されたものではなく、被告 Y1 に所有
権を移転した上で、売買代金を担保するための担保権を取得する趣旨で約されたものであると解
され、被告らについて開始された民事再生手続上、別除権に当たるとした。そして、②:特定の
担保権者が、再生債務者に対し別除権を行使する場合には、別除権者と、個別の権利行使が禁止
される一般債権者との間の衡平を図るなどの趣旨から、再生手続開始の時点で当該特定の担保権
につき第三者対抗要件を具備している必要があると解し、本件において、原告が被告 Y1 に販売
22
した商品は動産であり、第三者対抗要件は「引渡」
(民法 178 条)となるところ、商品は全て被告
Y1 に引渡されており、同被告について民事再生手続が開始されるまでに、原告が、占有改定等の
方法により第三者対抗要件を具備したとは認められないとして、原告が、被告らに対し、所有権
留保を実行し、販売した商品の引渡を求めることはできないとした。
判タ 1350-246 金判 1368-58
印藤弘二・金法 1932-4 下村信江・法律時報 84-12-84 野村剛司・判例速報解説 10-189
[大阪地裁堺支部 H.22.9.13 判*]H21(ワ)2117 号 求償債権請求事件(請求認容・確定)
民法 446 条・第 3 編 1 章 4 節、会社法 5 編 3 章 1 節 2 款
吸収分割に伴い吸収分割承継会社が吸収分割会社の債務について免責的債務引受をした場合と、
吸収分割会社の保証人の責任の帰趨 ― 吸収分割に伴い吸収分割承継会社が吸収分割会社の債
務について免責的債務引受をした場合であっても、債権者が当該債務の免責的引受に同意しない
限り、吸収分割会社の債務が消滅することはなく、付従性により、同社の保証人も、保証債務を
履行する責任を免れることができない。
金法 1921-117 & -125 金判 1352-37
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[福岡地裁 H.22.9.30 判*]H20(ワ)625 号 否認権行使による所有権移転登記抹消登記手続
破産法 160 条・161 条・173 条
、請求事件(請求認容・控訴)
会社法 5 編 3 章 2 節 2 款
一、 会社分割を原因とする分割会社から新設会社に対する分割会社の所有していた土地の所
有権の移転について、否認権を行使することができるか(積極) ― 会社分割を原因とす
る分割会社から新設会社に対する分割会社の所有していた土地の所有権の移転であっても、会社
分割の実質が個別財産の移転を要素とし、分割会社の一般財産を減少させる行為である以上、個々
の財産移転行為であって、会社分割後に破産手続が開始された分割会社の破産管財人は、当該所
有権の移転について否認権を行使することができる。
二、 会社分割を原因とする分割会社から新設会社に対する分割会社の所有していた土地の所
有権の移転について、否認権を行使することができる場合 ― 会社分割を原因とする分割
会社から新設会社に対する分割会社の所有していた土地の所有権の移転であっても、その移転に
よって、分割会社の債権者に対する共同担保が減少し、債権者が自己の有する債権について弁済
を受けることが困難になったと認められる場合には、
「破産債権者を害する」行為として、破産法
160 条 1 項により、また、その移転によって分割会社の純資産に変動がないとしても、当該土地
を新設会社から交付を受ける同社の株式に変更することによって、破産債権者を害する処分をす
るおそれを現に生じさせるものと認められ、かつ、会社分割の当時、分割会社において破産債権
者を害する処分をする意思を有していたこと、新設会社において分割会社が当該意思を有してい
たことを知っていたことが認められる場合には、当該所有権の移転について否認権を行使するこ
とができる。
判タ 1341-200 金法 1911-71
石毛和夫・銀行法務 742-124
*石毛評釈:濫用的会社分割に関する[東京地裁 H.22.5.27 判*]とその控訴審[東京高裁
H.22.10.27 判*]及び[福岡地裁 H.21.11.27 判*]は、いずれも価格償還を求めたものであ
るが、本判決の特徴は、会社分割に基づく個別財産移転行為の否認が認められたことである。
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[大阪地裁 H.22.10.4 判*]H21(ワ)12215 号 貸金等請求事件(請求棄却・
会社法 3 条・22 条・第 5 編 3 章 2 節 2 款
控訴→控訴棄却・確定)
23
一、 会社分割に係る新設会社が分割に伴う承継の対象とされなかった分割会社の債務につい
て、商号続用による責任を定める会社法 22 条の類推適用がないとされた事例 ― 1.「会社法
22 条 1 項は、直接には、営業譲渡を受けた会社が譲渡会社の商号を続用した場合に関する規定で
あるが、同条項の趣旨は、商号続用があったことにより、債権者が、同一の営業主体による営業
が継続している、あるいは、譲受会社により債務又は履行の引受がされたと信頼する場合がある
ことに鑑み、商号続用により生じた当該外観に対する信頼を保護するとの点にある。そうすると、
新設分割の事例においても、新設会社が分割会社の商号を続用している場合には、会社法 22 条 1
項を類推適用する根拠があると解される([最高裁三小 H.20.6.10 判*]参照)。」
2.しかし、本件に付いてみると、分割会社の代表取締役及び税理士は、本件分割の数日前に原
告(信用金庫)等金融機関に対して説明を行った際、被告(分割新設会社)が事業を承継するが
事業用負債(買掛金等)以外の債務は引継がないが、分割会社が分割新設会社の全株式を取得す
ること及び同代表取締役が同新設会社の代表取締役を兼務すること説明している上、原告は、本
件分割の実行後間もなく同税理士から「本件会社分割を実行した旨の説明を受け、分割計画書等
の資料の送付も受けていることに照らせば、原告において、同一の営業主体による営業が継続し
ている、あるいは、譲受会社により債務又は履行の引受がなされたと信頼したと認めるには足り
ないというべきである。
」
「以上によれば、会社法 22 条 1 項の類推適用に関する原告の主張は理由
がない。
」
二、法人格否認の法理の適用も否認された事例 ― 1.「法人格否認の法理(いわゆる『法人格
の濫用』の場合)の適用が肯定されるには、①旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表
取締役、営業目的、従業員等が旧会社のそれと同一の新会社を設立すること(支配の要件)
、②取
引の相手方からの債務履行請求を免れる手段とすること(目的の要件)が具備される必要がある
と解される(
[最高裁二小 S.48.10.26 判*]参照)。」 本件の場合、分割実施前の分割会社代表
取締役の原告らへの説明で、分割会社が分割新設会社の全株式を取得し同新設会社の事業収益か
ら原告らへの債務への対応がなされるのであるから、
「本件分割に関し、法人格否認の要件たる『目
的の要件』の存在を推認するには足りないというべきであり、他にこれを推認するに足りる証拠
もない。
」
金法 1920-118
新津和典・金判 1405-10
弥永真生・ジュリ 1424-54
*本件の控訴審:大阪高裁 H.23.6.9 判・H22(ネ)3181 号(公刊物未登載)では、会社法 22 条 1
項の類推適用による請求を取下げ、法人格否認による契約責任を主位的請求に、予備的請求と
して詐害行為取消権に基づく請求を追加したが、双方とも棄却された:新津評釈 14 頁(注 1)。
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[最高裁一小 H.22.10.14 判*] H21(受)976 号 請負代金請求事件(破毀差戻)
民法 127 条 1 項・135 条 1 項・632 条
数社を介在させて順次発注された工事の最終受注者が約定させられた請負代金の支払条件「入
金リンク」の合意の解釈:期限の約定 ― 本件請負契約が有償双務契約で
あることは明らかであるところ、上記工事が一部事務組合(地方自治法 284 条 2 項により複数の
地方自治体が共同で設置する組織)から発注された公共工事に係るものであって、同組合からの
請負代金の支払は確実であることを疑わせるものはない。
そのような事情の下に、
その一部の最終受注者である原告 X が納品後の請負代金の支払につき、
Y(X への発注者)が請負代金の支払を受けることを停止条件とする旨を定めたものとは云えず、
Y が上記支払を受けた時点又はその見込みがなくなった時点で X の請負代金 3 億 1500 万円の支
払期限が到来する旨を定めたものと解すべきである。
途中介在の業者が破産して代金が Y には支払われなかったが、支払期限到来として Y にその支
払方を判示。
集民 235-21 判時 2097-34 判タ 1336-46 金法 1925-100 金判 1357-13
宗宮英俊・NBL951-39 奈良輝久・金判 1365-10 山本豊・リマークス 44-14
24
田中志津子・法律時報 85-12-119 滝沢昌彦・H22 重要判ジュリ 1420-94
新堂明子・判例評論 633-148
原審:東京高裁 H.21.2.25 判・H20(ネ)4376 号 金判 1357-17
一審:東京地裁 H.20.7.30 判・H18(ワ)16215 号 金判 1357-20
*宗宮評釈:将来生起することが不確実な事実を『条件』といい、将来生起することが確実な事
実を『期限』という。
「既に債務を負担している者が、その弁済について附款をつける場合には、
それだけを切離してみると実現できるかどうか不確実な事実であっても、原則として弁済期限
の猶予とみるべきである。従ってその事実の実現の見込みがなくなったときにも期限は到来す
る。
」
(我妻栄「新訂民法総則」岩波書店 1965 刊 408 頁)。 本判決においても、合意された権
利が確実に実現されなければならないと評価されるので、それは条件ではなく期限と解される
ことになり、本件は、代金支払に関する附款は不確定期限とみるのが相当であると判断された
事例を提供するものである。
[東京高裁 H.22.10.27 判*]H22(ネ)4126 号 リース料金請求控訴事件(控訴棄却・確定)
民法 424 条、会社法5遍3章2節2款
会社分割が詐害行為に当たるとしてその取消を認めた第一審判決が控訴審に於いて是認された
事例 ― 会社分割が詐害行為に当たるとしてその取消を認めた第一審判決は、会社分割が詐害
行為取消権の対象となり得る点からしても、また、当該会社分割が詐害行為に当たると認め得る
点からしても、これを是認することができる。
金判 1355-42 金法 1910-77
伊藤邦彦・金法 1918-101
伊藤靖史・リマークス 43-102
後藤元・金法 1929-75
弥永真生・金法 1910-30
伊藤弘二・金法 1932-4
小出篤・別冊ジュリ 205-188
西岡祐介・銀行法務 742-125
一審:[東京地裁 H.22.5.27 判*]
*西岡評釈:本判決は、会社分割が詐害行為取消の対象となるとした初めての高裁レベルでの公
表裁判例である。判決文においては直接言及されてはいないが、取消の目的物を可分として価
格賠償請求を認めた原判決の班田を維持しており、
[福岡地裁 H.21.11.27 判*]と同様の立場
を採用している。
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[東京地裁 H.22.11.12 判*] H21(ワ)39462 号 否認権行使請求事件(認容・確定)
破産法 162 条 1 項 1 号・3 項
銀行が債務者と締結していた債務者の支払停止等を予約完結権の発生事由とする債権譲渡契約
の予約完結権行使は、破産者となった債務者の支払停止を知って行ったものであることが認定
され否認権の行使が肯定された ― ①.債務者の支払停止等を予約完結権の発生事由とする債
権譲渡契約は、その契約締結行為自体は危機時期前に行われても、契約当事者は、その契約に基
づく債権譲渡の効力の発生を債務者の支払停止等の危機時期の到来に係らしめ、これを予約完結
権の発生事由とすることにより、危機時期に至るまで債務者の責任財産に属していた債権を、債
務者の危機時期が到来するや直ちに当該債権者に帰属させることによって、これを責任財産から
逸脱させることを予め意図し、これを目的として、当該契約を締結しているものである。
②.従って、債務者の支払停止等を予約完結権の発生事由とする債権譲渡契約は、破産法 162 条
1 項 1 号の規定の趣旨に反し、その実効性を失わせるものであって、その契約内容を実質的にみ
れば、債務者に支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり、
同号に基づく否認権行使の対象となると解するのが相当である(旧破産法 72 条 2 号に関する[最
高裁二小 H16.7.16 判]参照)
。 ③.本件債権譲渡予約契約は、債務者甲(その後 H20.9.4 に東京
地裁に破産手続開始申立、翌日開始決定)に支払停止等の期限の利益喪失事由が生じたことが予
約完結権の発生事由とされ、その後被告 M 銀行は、甲に対して予約完結権を行使し、本件担保差
25
入証の交付(H20.6.2)及び債権譲渡登記(H20.6.2、6.16、7.29 の三回)によって本件債権譲渡
をしたこしが認められる。そうすると、被告 M 銀行による予約完結権の行使によって本件債権譲
渡がされた時点において、破産会社となった債務者甲に支払停止等の事由が発生し、被告 M 銀行
がこれを認識していたと認められる場合には、本件債権譲渡予約契約に係る本件債権譲渡を破産
法 162 条 1 項 1 号によつて否認することができる。 ④.ところで、債務者甲による平成 19 年 12
月末ころの各金融機関に対する返済繰延の申入れは、弁済能力の欠乏のために弁済期が到来した
債務を一般的かつ継続的に弁済することができない旨を外部に表示したもので、破産法 162 条 3
項の支払停止に当たることがあきらかであり、同条 1 項の支払不能が推定される。被告 M 銀行は
甲のメインバンクとして、甲から、取引先銀行全部との決済関係等の報告も受けており、被告 M
銀行は、既に平成 19 年 12 月末ころには、前記返済繰延の申入れが支払停止にあたることについ
て悪意であったと認められる。
判時 2109-70 判タ 1346-241 金判 1365-56
木村真也・速報判例解説 10-185
水野信次・銀行法務 732-63
[東京地裁 H.22.11.29 判*①]・H22(ワ)35842 号 独立当事者参加事件(請求容認・確定)
会社法 22 条・第 5 編 3 章 2 節 2 款
会社分割に係る新設会社が分割に伴う承継の対象とされなかった分割会社の債務について責任
を負う場合 ― 会社分割に係る新設会社は、分割会社が使用していたその事業主体を表示する
名称を新設会社の事業主体を表示するものとして用いているほか、会社分割後遅滞なく債権者に
新設会社が債務引受をしない旨の通知をしたことなど免責を認めるべき特段の事情の主張立証も
ないときは、会社法 22 条 1 項の類推適用により、分割に伴う承継の対象とされなかった分割会社
の債務について、これを弁済する責任を負う。
金法 1918-145 判タ 1350-212
山田泰弘・金判 1402-2
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[東京地裁 H.22.11.29 判*②]H21(ワ)44503 号 預金払戻請求事件・
H22(ワ)6640 号 詐害行為取消反訴請求事件(請求棄却・確定)
民法 468 条 2 項、会社法第 5 編 3 章 2 節 2 款
会社分割に伴い設立会社に承継された債権の債務者は当該債権を受働債権とし、分割会社に対
して有する債権を自働債権として相殺することができるか(積極) ― 会社分割に伴い設立会
社に承継された債権の債務者は、民法 468 条 2 項の類推適用により、当該債権を受働債権とし、
分割会社に対して有する債権を自働債権として相殺することができる。
判タ 1352-215 金法 1918-151
鳥山恭一・リマークス 45-78
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[最高裁一小 H.22.12.2 決定*]H22(許)14 号 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に
民法 304 条・369 条(譲渡担保)
対する許可抗告事件(抗告棄却)
流動動産譲渡担保に基づく物上代位 ― 「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲
渡担保権は、譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産(以
下「目的動産」という。
)の価値を担保として把握するものであるから、その効力は、目的動産が
滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に
係る請求権に及ぶと解するのが相当である。
もっとも、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は、譲渡担保権設定
者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるから、譲渡担保権設定者が
通常の営業を継続している場合には、目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても、こ
26
れに対して直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がな
い限り、譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないというべき
である。
」
民集 64-8-1990 判時 2102-8 判タ 1339-52 金判 1356-10 同 1362-25 金法 1917-102
池田雅則・筑波ロ-・ジャーナル 9-209
小山泰史・NBL950-25
古積健三郎・リマークス 44-22 同・速報判例解説 9-83
原審:福岡高裁 H.22.3.17 決定・H22(ラ)48 号
金判 1356-14
*小山評釈:近時、
[最高裁一小 H.18.7.20 判*]は流動動産譲渡担保について、譲渡担保設定者
に、その通常の営業の範囲内で個別動産を処分する権限が付与されていることを認めた。他方
で、
[最高裁二小 H.11.5.17 決定*]は個別動産譲渡担保につき、その転売代金債権に対する物
上代位を肯定している。今回本件の[最高裁一小 H.22.12.2 決定*]は、流動動産譲渡担保に
関して、個別動産の価値変形物に対する物上代位を始めて肯定した事例である。
*古積評釈:保険金債権に対する物上代位が容認される根拠は、譲渡担保権者が従前把握してい
た動産群が滅失して保険金債権がこれに代わる意味を持つに至った点にあるから、集合物が従
前と同じ状態に回復すればかかる物時様代位権の基礎がなくなる。本件の場合は、判決が結論
として保険金債権に対する物上代位権の行使を容認した点には異論がないが、上記判示の後段
で、営業の継続という要素による制限を付したことには疑問がある。
[名古屋高裁金沢支部 H.22.12.15 判*] H22(ネ)35 号・不当利得返還請求事件
民法 703 条、商法 521 条、民事再生法 53 条・85 条
(控訴棄却)
手形に関する銀行の商事留置権と債務者の民事再生手続
[事案要旨] 原告 X(眼鏡部品製造販売業)・被告 Y(銀行)は、H.16 に次の条項を含む銀行
取引約定を締結。①X が Y に対する債務を履行しなかった場合、Y は必ずしも法定の手続によら
ずに担保を取立または処分の上、その取得金を X の債務の弁済に充当できる旨の条項、②Y が占
有する X の動産、手形その他の有価証券についてもこれと同様に扱うことができる旨の条項、③
X につき支払の停止または各種の倒産手続開始の申立があった場合についてのいわゆる期限の利
益喪失条項。 その後 X に民事再生手続の申立/開始決定があり、Y は X への貸付金 5000 万円
回収のために X から割引申込を受けていた手形 680 万円を取立てて商事留置権を行使。X が本件
訴を提起。一審は取立金は Y で特定性を失っていないとして、留置権を認め、貸金債権の残金の
支払と引換に請求を一部認容。X は控訴。
[判示要旨] 「本件のように銀行が自ら占有する手形について商事留置権を有している場合に
は、銀行取引約定により、商事留置権の目的となった手形を手形交換に回し、取立金を被担保債
権である貸金債権の弁済に充当することは民事再生法 85 条 1 項の趣旨ないし目的に反するものと
みることはできず、民事再生法 53 条による別除権の行使として許されるというべきである。」
判タ 1354-242 金法 1914-34
山本和彦・金法 1929-11 内海博敏・ジュリ 1445-109
一審:福井地裁 H.22.1.5 判
金法 1914-44
[東京地裁 H.22.12.20 判*]H19(ワ)26405 号 売買代金請求事件(請求認容、控訴・和解)
民法 541 条・1 条 2 項
売買契約に介入した業者間の売買契約において、売買物件が売主から最終買主に引渡されてい
るにもかかわらず、介入売主(原告)からの売買契約代金の請求に介入買主(被告)が物件引
渡との同時履行の抗弁を主張することは信義則に反する ― 「本件売買契約が介入取引として
行われたことを併せ考慮すれば、
・・・本件売買契約においては、被告から原告に対して本件各製
品の代金名目で金銭を支払うが、原告から被告に対して本件各製品を引渡すことを要しない旨の
合意があったというべきである(既に本来の売主・買主間で引渡されていることが認定されている:古田)
から。従って本件売買契約においては、原告から本件売買代金の支払を求められた被告が、原告
27
に対して、同時履行の抗弁権を主張することは予定されていなかったことが明らかであるから、
本訴における被告による同時履行の抗弁の主張は、信義に反し許されない。
」原告請求の売買契約
代金 5 億 116 万5千円と年 6 分の商事法定金利の支払と、訴訟費用被告負担を判示。
判決文:東京地栽民事第 33 部の合議体判決であるが、公刊は見当たらない。
*本件事案は、訴外 A が同社製品の在庫管理システム等 6 件を訴外 D に売渡す取引の中間に原告
X→被告 Y の売買契約が介入したものである。ところが、D が物品を A から引渡された後に A
について民事再生手続の開始決定があったことから、D は同製品の販売先を見つけることが出
来ず、Y への売買代金の支払をしていない。Y は別訴で D に対し代金支払を訴求し、X・Y 間の
本件訴で Y が敗訴した場合に限り D がその敗訴した代金元本全額を支払う旨の和解が成立して
いる。
Y が控訴した東京高裁 H23(ネ)492 号事件では、H.23.7.7 に、
「Y が X に 3 億 5 千万
円を支払い、訴訟費用は一・二審を通じ各自負担とする」旨の裁判上の和解が成立した。
[東京高裁 H.22.12.22 判*] H22(ネ)5307 号 詐害行為取消等請求事件(控訴棄却・
民事再生法 85 条 1 項・238 条・40 条の 2
確定)
小規模個人再生の手続開始後、再生債権者は再生手続外で詐害行為取消権を行使することはで
きない ―小規模個人再生では、否認権制度適用が除外されている上、詐害行為取消訴訟が再生
手続の開始時に継続していた場合における同訴訟の中断に関する規定も適用が除外されているこ
とから(同法 238 条)
、再生手続が開始された後も、別途、債権者が詐害行為取消権を行使するこ
とが許されると解する余地もないではない。しかしながら、小規模個人再生においては、個人債
務者の簡易迅速な経済的再生を実現するという目的から、最終的な決着までに時間を要する否認
権制度を採用せず、仮に、債務者によって否認に当たる行為が為されていても、再生手続開始前
に判明した場合は、破産による否認権の行使を免れるという不当な目的でなされたものとして、
再生手続開始の申立てを棄却することができ(同法 25 条 4 号)、再生手続開始後に判明した場合
は、否認権の行使によって回復されるべき財産に相当する価額を加算した額以上の弁済を内容と
する再生計画案が再生債務者から提出されない限り、債権者の一般の利益に反するものとして、
再生手続を廃止(同法 191 条 1・2 号)するか、あるいは不認可決定(同法 174 条 2 項 4 号)を
することができるので、否認にあたる行為を排除して債権者の利益を保護するための手続き的保
障があるのであるから、否認権制度の適用が除外されていることをもって、倒産手続の基本原則
である債権の個別的権利行使の禁止を修正して、債権者に詐害行為取消権を行使させる必要性は
認められず、かえって、その行使を認めると、個人債務者の簡易迅速な再生を目指した前記趣旨
を没却することになる。
判タ 1348-243
石毛和夫・銀行法務 734-62
一審:水戸地裁土浦支部 H.22.7.8 判・H21(ワ)189 号
[東京地裁 H.22.12.22 判*] H21(ワ)2330 号 損害賠償請求事件(控訴)
民法 570 条・415 条、製造物責任法 3 条
中国の事業者(訴外天洋食品)が製造した冷凍食品を輸入した事業者(被告・売主:日協食品)
から原告(テーブルマーク)は同食品を転売のため継続的に購入していたところ、中国の事業
者における毒物混入の問題が発覚し、購入した食品の廃棄等を余儀なくされた場合について、
売主の瑕疵担保責任が肯定されたが、債務不履行責任と製造物責任が否定された事例 ―
① .「原告と被告間において、本件商品は、取引観念上、最終的に消費者の消費に供し得る品
質を有し、それに基づいて、他社への販売が可能である商品価値を有することが予定されていた
ものと解される。従って、本件商品については、このような品質(筆者注:安全性の信頼)を有さ
ず、他社への販売が可能である商品価値を有しないことが瑕疵と言うべきである。
」
②
「上記の(筆者注:JT フーズ輸入の冷凍餃子毒物中毒事件が当時広く報道されていた。)本
件中毒事件の公表後の状況に照らせば、天洋食品において製造された本件商品は、消費者の目か
28
ら見れば、有害物質が混入している疑いがあったということができ、これを購入する消費者は皆
無であったとみられるから、本件商品は、取引観念上、最終的に消費者に供し得る品質を有して
おらず、他社への販売が可能な商品価値を有していなかったと認めることができる。
・・・上記瑕
疵は、本件中毒事件の発生と公表を機に顕在化したものであるが、本件商品が、メタミドホスの
検出された冷凍餃子を製造した天洋食品により製造され、同冷凍餃子と同時期に流通していたこ
とにより起因するものであるから、原始的瑕疵であるということができる。
」
原告の購入代金・転売先への損害賠償・処分費用・検査費用等による請求金額 1 億 5673 万 6,226
円から、商法 526 条 2 項による所定期間内の通知がないことにより瑕疵担保責任が否定される金
額 604 万 362 円を差引いた金額の支払を判決。 他方、瑕疵担保責任が否定された分も含めての
債務不履行責任については、被告の責に帰すべき事由は認められないことから、及び、製造物責
任も、製造物責任法 3 条に規定する欠陥は現に有害物の混入を認めるに足る証拠がないことから、
原告の両責任に基づく請求は棄却された。
判時 2118-50
長谷川俊明・国際商事法務 39-10-1420
*本件は[大阪地裁 H.22.7.7 判*]の被告からの、購入先への損害賠償請求である。
[最高裁二小 H.23.1.21 判*]H21(受)729 号 建物収去土地明渡等請求事件(上告棄却)
民法 163 条・601 条・605 条、民事執行法 59 条 1 項・2 項、国税徴収法 124 条 1 項
抵当権設定登記後に賃借権の時効取得期間不動産を占有した者が、時効取得を買受人に対抗す
ることの可否(消極) ― 「抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は、当該抵当権の設
定登記に先立って対抗要件を具備しなければ、当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不
動産を買受けた者(古田注:本件の買受人は財務省が登記した抵当権による公売での買受人)に
対し、賃借権を対抗することができないのが原則である。このことは、抵当権の設定登記後にそ
の目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても、異なるところはないと
いうべきである。従って、不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当
該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,上記登記後,賃借権の
時効取得に必要とされる期間,当該不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により当
該不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗すること
はできないことは明らかである。
」
上告人(被控訴人・被告:賃借権者)は、最高裁一小 S.36.7.20 判・S34(オ)779 号・民集 15-7-1903
(判示要旨:不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ、その後に所有権取得登記を経由した第三者
に対しては時効による権利の取得を対抗しえないが、第三者の右登記後に占有者がなお引続き時効取得に要する
期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記を経由しなくとも時効取得をもつて対抗しうるものと解
すべきである。)を引用するが、同判例は、
「不動産の取得の登記をした者と上記登記後に当該不動
産を時効取得に要する期間占有を継続した者との間における相容れない権利の得喪にかかわるも
のであり、そのような関係にない抵当権者と賃借権者との間の関係に係る本件とは事案を異にす
る。
」 買受人の明渡請求を容認した控訴審判決を認めて、買受人の上告を棄却した。
集民 236-27 判時 2105-9 判タ 1342-96 金判 1365-18 金法 1927-140
松久三四彦。金法 1953-33 古積健三郎・H23 重要判ジュリ 1440-70&速報判例解説 10-57
石田剛・リマークス 44-18 草野元巳・民商 145-4・5-124 香川崇・法律時報 84-12-107
谷本誠司・銀行法務 731-57 阿部裕介・別冊ジュリ 223-190
原審:東京高裁 H.21.1.15 判・H20(ネ)3559 号
金判 1365-21
一審:東京地裁 H.20.6.19 判・H19(ワ)8025 号
金判 1365-26
*古田:本判決が、賃借権はその対抗要件が具備されていない以上、競売や公売によって目的不
動産を買受けた者に対抗できないと判示し、賃借権の優先的効力を認めないのは、賃借権の時
効取得は、
「事実上の権利行使の相手方である所有者に対する債権的権利の取得に過ぎない」と
解しているからである(草野評釈 130 頁)。 不動産の賃借権は登記をすれば対抗要件を備える
ことができ(民法 605 条)
、借地借家法 10 条は借地上の建物に保存登記を有する者に対抗要件
29
の具備を認めている。本件事案では、借地上の建物は保存登記がされておらず、抵当権の登記
に遅れてようやくされている。借地権者としての致命的なミスである。
[東京高裁 H.23.1.26 判*]H22(ネ)5788 号 会社分割無効請求控訴事件(控訴棄却・確定)
会社法 828 条 2 項 10 号・810 条 1 項 2 号
新設分割について異議を述べることができない債権者は会社分割の無効の訴えの原告適格を有
するか(消極)― 新設分割について会社法 810 条 1.項 2 号所定の異議を述べることができな
い債権者は、同法 828 条 2 項 10 号所定の承認をしなかった債権者に該当しない以上、会社分割の
無効の訴えの原告適格を有しない。
金判 1363-30 金法 1920-100
小松卓也・H23 重要判ジュリ 1440-103
中東正文・リマークス 44-98 石毛和夫・銀行法務 742-126 菊田秀雄・金判 1399-2
一審:静岡地裁浜松支部 H.22.7.28 判・H22(ワ)162 号
金判 1363-35
*石毛評釈:会社法による新設分割の無効は、訴をもってのみ主張することができ、その提訴権
者も、会社法 828 条 2 項 10 号に列挙する者に限定されている。これは、新設分割による権利
義務の承継関係の早期確定と安定を考慮しているためである。会社法 828 条 2 項 10 号列挙者
のうち、債権者については「新設分割について承認をしなかった」債権者という限定が付され
ているが、同号の文理解釈からしても、
「承認をしなかった債権者」とは、承認をし得る立場に
あったのに承認をしなかった債権者をいうと解すべきであり、そもそも承認をし得る立場にな
かった債権者がこれに該当することはないと解する本判決および原審の判断は相当であろう。
*小松評釈:本判決が、原告適格をこのように制限する解釈をとる根拠は、上記の早期確定と安
定の要請を考慮する必要があるからであるが、及び判旨は、新設分割会社の債権者は、会社分
割によって新設分割会社の純資産の価値が減少することになれば、
「新設分割無効の訴え以外の
方法で個別に救済を受ける余地があるから、不当な事態は生じない」と述べている。最近の判
例を挙げれば、新設分割会社の債権者は、詐害行為取消権、法人格否認の法理、破産法上の否
認権、
会社法 22 条 1 項の類推適用という救済手段を認めている:
[最高裁二小 H.24.10.12 判*]
の評釈・コメント参照。
[最高裁二小 H.23.2.9 決定*]H22(許)43 号 不動産仮差押命令申立却下決定に対する抗告棄
民法 33 条、民訴法 29 条、民事保全法 20 条・
却決定に対する許可抗告事件(破棄自判)
民事保全法 21 条、民事保全規則 20 条
権利能力なき社団に属する不動産に対する仮差押の方法 ― 権利能力のない社団を債務者とす
る金銭債権を有する債権者が,当該社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産に対して仮差押
えをする場合において,上記不動産につき,当該社団のために第三者がその登記名義人とされて
いるときは,上記債権者は,仮差押命令の申立書に,上記不動産が当該社団の構成員全員の総有
に属する事実を証する書面を添付して,当該社団を債務者とする仮差押命令の申立てをすること
ができ,上記書面は,強制執行の場合とは異なり,上記事実を証明するものであれば足り,必ず
しも上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者と当該社
団及び上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書であることを要しない。
民集 65-2-665 判時 2107-112 判タ 1343-108 金判 1366-36 金法 1942-92
笠井正俊・金法 1953-48 堀野出・民商 145-3-22 杉本和士・法学研究(慶大)87-9-203
佐瀬裕史・法協 129-10-280
河津博史・銀行法務 高部眞規子・金判 1408-8732-62
原審:東京高裁 H.22.11.5 決定・H22(ラ)1724 号
金判 1366-40
一審:東京地裁 H22.9.3 決定・H22(ヨ)2253 号
金判 1366-44
*高部評釈:本決定は、仮差押と強制執行における必要な添付文書の相違を明らかにしたもので
あり、実務に大きな影響を与えるものと思われる。
仮差押ではなく強制執行の場合には、要求される添付文書は確定判決ないしそれに準ずるも
30
のでなければならないからである:
[最高裁三小 H.22.6.29 判*]
。
[福岡高裁 H.23.2.16 判*]H22(ネ)663 号・損害賠償請求事件/878 号・同付帯控訴事件
労働契約法 6 条。民法 623 条・1 条 2 項・709 条
(一部認容・付帯控訴棄却・確定)
採用内々定の取消と損害賠償
一、採用内々定によつて「始期付解約権留保労働契約」が成立したとは認められないとされた
事例 ― 「本件内々定は、内定(労働契約に関する確定的な意思の合致があること)とは明
らかにその性質を異にするのであって、内定までの間、企業が新卒者をできるだけ囲い込んで、
他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないというべきである。
従って、控訴人(被告会社)が確定的な採用の意思表示(被控訴人の申込に対する承諾の意思表
示)をしたと解することはできず、また、被控訴人は、これを十分に認識していたといえるから、
控訴人及び被控訴人が本件内々定によつて労働契約の確定的な拘束関係に入ったとの意識に至っ
ていないことが明らかといえる。本件において、被控訴人主張の始期付解約権留保付労働契約が
成立したとはいえない。
」 控訴人会社の債務不履行を理由とする被控訴人(原告)の損害賠償請
求を否認。
二、採用内定通知書交付予定日の 2 日前にされた採用内々定取消が、労働契約締結過程におけ
る信義則に反し、応募者の期待利益を侵害する不法行為を構成するとして、損害賠償請求の
一部(慰謝料及び弁護士費用)が認められた事例 ― 被控訴人は、H.21.3 に A 大学を卒業す
る予定であったところ、H.60.6.13 に控訴会社の会社説明会に参加し、適性検査や面接試験を経
て、同年 7.3 に最終面接を受け、控訴人は被控訴人の採用内々定を決定し、数日後に同人に採用
内々定通知と入社承諾書用紙を送付し、被控訴人は入社承諾書に記名・押印して控訴人会社に返
送した。同採用内定通知書には、正式な内定通知授与は H.20.10.1 を予定している旨記載されて
いた。一方、控訴会社の取締役会等では H.20.8 頃には新卒者の採用見直を含めた更なる経営改善
策が検討されていたが、経営環境に激変がないことから採用担当者の M はそれを知らず、
H.20.9.25 に被控訴人らに採用内定通知書の交付を 10 月 2 日に行う旨通知した。然るところ、中
期的な事業計画の見直により来年度の新規学卒者の採用計画を取止めることにした旨の採用内々
定取消の書面が同年 9.29 付で被控訴人らに送付された。
内定通知書交付日を被控訴人らに案内した 9 月 25 日当時、「控訴人において、被控訴人らの採
用内定の可否につき検討が行われており、内々定を取消す可能性があることも十分に認識されて
いたものと認められる。このような事情の下、労働契約締結過程の一方当事者である控訴人とし
ては、被控訴人らにつき内々定取消の可能性がある旨を人事担当者である M に伝えて、被控訴人
ら内々定者への対応につき遺漏なきよう期すべきものといえるところ、控訴人は、かかる事情を
M に告知せず、このため同人において従前の計画に基づき本件連絡(9.25 の連絡)をなしたもの
で、かかる控訴人の対応は、労働契約締結過程に於ける信義則に照らし不誠実と言わざるを得な
い。
」信義則違反の不法行為に基づく 22 万円の慰謝料と、弁護士報酬の 3/4 の控訴人負担を判決。
判時 2121-137 判タ 1363-90 労判 1023-82
三井正信・速報判例解説 9-295
一審:福岡地裁 H.22.6.2 判・H21(ワ)1737 号
判時 2121-141 判タ 1363-93
[福岡地裁 H.23.2.17 判*]・H21(ワ)2170 号 譲受債権等返還請求事件(請求認容・控訴)
民法 1 条 2 項、会社法 3 条・5 編 3 章 2 節 2 款
新設会社分割による新設会社について、法人格否認の法理により、承継する対象とされなかっ
た債務についても、分割会社と別法人であることを理由に責任を免れることはできないとされ
た事例 ― 会社分割前の分割会社と会社分割後の新設会社とでその事業態様や支配実態に実質
的変化がなく、法人格が支配者により意のままに道具として支配されていること、特定の債権者
に対する債務支払いを恣意的に免れることを意図して、会社分割制度を形式的に利用あるいは濫
用して再建スキームを実行したもので、違法または不当な目的を有していたことからすれば、新
31
設会社は、信義則上、分割会社と別法人であることを理由として、責任を免れることは出来ない。
金判 1364-31 判タ 1349-177 金法 1923-95
坂本達也・金判 1408-2
高橋英治・H23 重要判ジュリ 1440-105
長畑周史・法学研究(慶大)85-9-55
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント及び[最高裁二小 H.17.7.15 判*]の笠井
評釈参照。
[東京地裁 H.23.2.22 判*]H20(ワ)1050 号・損害賠償請求事件(一部認容・一部棄却・
民法 709 条・715 条
控訴・和解)
港の岸壁に着岸して積荷の陸揚作業中の船舶のクレーンが損傷を受けた事故について、陸上の
クレーンが衝突して発生したものであり、陸上のクレーン作業員の過失があるとして、その使
用者責任が認められた事例 ― 「本件事故は、本件作業員が操作する本件陸上クレーンが、ほ
ぼ左舷正横の方向を向いて停止していた本船クレーンに衝突したものであるから、本件作業員は、
原告に対し、民法 709 条により本件事故により発生した損害を賠償する義務を負い、被告ら(筆
者注:被告山九と山九から本件作業員に作業をさせていた被告山九東日本)はそれぞれ、その使用者
として民法 715 条により、本件作業員と共同して不法行為責任を負うものと解される。」
判時 2142-40
[最高裁三小 H.23.3.1 判*] H22(受)798 号 不当利得返還請求事件(一部破棄自判・
民事再生法 181 条 1 項 1 号
一部棄却)
届出のない再生債権である過払金変換請求権について、届出があった再生債権と同じ条件で弁
済する旨を定める再生計画での上記過払金返還請求権の帰趨 ― 本件再生計画は、届出のない
再生債権である過払金返還請求権について、請求があれば再生債権の確定を行った上で、届出が
あった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定めるが、これは、過払金返還請求権については、届
出のない再生債権についても一律に民事再生法 181 条 1 項 1 号所定の再生債権として扱う趣旨と
解され、上記過払金返還請求権は、本件再生計画認可決定が確定することにより、本件再生計画
による権利の変更の一般的基準に従い変更され、その再生債権者は、訴訟等において過払金返還
請求権を有していたこと及びその額が確定されていること(訴訟等によりその存否・額が確定して
いることを指すと解される:古田)を条件に、上記の通り変更されたところに従って、その支払を
受けられるものというべきである。
集民 236-199 判時 2114-52 判タ 1347-98 金法 1937-119 金判 1369-18
栗田睦雄・判例評論 635-7 木川裕一郎・速報判例解説 10-181 高田賢治・民商 146-1-108
原審:名古屋高裁 H.21.12.25 判・H21(ネ)897 号
金判 1369-22
一審:名古屋地裁 H.21.9.14 判・H21(ワ)2444 号
金判 1369-23
[東京地裁 H.23.3.15 判*]H19(ワ)27074 号・損害賠償請求事件(一部認容・控訴)
民法 709 条・715 条・722 条 2 項
いわゆる環状取引に参加した者が当該環状取引を構築した取引当事者以外の第三者に不法行為
に基づく損害賠償をする場合における損害 ― 被告卸売業者会社 U 洋行 担当役員「一色の不
法行為の内容は、原告(筆者注:吸収合併消滅会社)に損害を与える可能性があるものであるこ
とを説明する信義則上の義務を怠ったというものであるところ、三上(筆者注:原告会社代表取締
役)は、一色から、本件環状つけ売買が実需を伴わない取引を含むものであるとの説明を受けず、
実際にこれを知らないまま、リスクのない取引という認識のもと、本件環状つけ売買に参加した
のであり、一色が上記の説明義務をは果しており、一色の不法行為がなかったとするならば、原
告は、リスクの高い本件環状つけ売買に参加しなかったであろうと認められるのである。
」 「原
告は、本件環状つけ売買に参加したために、F 建商との間で CC プラ管の売買契約を締結するこ
32
とになり、同売買契約に基づいて、F 建商に対して売買代金として合計 8 億 5,681 万 6,800 円を
支払った。一色の上記不法行為がなかったとしたならば、即ち一色が原告に対して本件環状つけ
売買には実需を伴わない取引が含まれていること、その他の本件環状つけ売買への参加に伴うリ
スクについて必要にして十分な説明をしていたとするならば、原告は本件環状つけ売買に参加せ
ず、これに伴う金銭の出損をしなかったと認めるのが相当である。従って、一色の不法行為は原
告の財産権(上記出損に係る金銭についてのもの)を侵害するものであり、上記 F 建商に対する
同金額の支払は、一色の不法行為と相当因果関係のある損害であるということができる。
」
一、 損益相殺ないし損益相殺的な調整 ―「別途同一の不法行為を原因として原告が他に金銭
の支払いを求めることができる請求権を取得するに至ったとしても、
、F 建商に支払った金額から
別途取得した請求権の金額を控除した額についてのみ損害が生じているというのは相当でない。
原告が本件環状つけ売買に参加した買主 3 社に対して別途売買代金請求権を取得した場合におい
て、買主 3 社から現実に原告に支払われた金銭があるときは、これを損益相殺ないし損益相殺的
な調整の対象とすることで、衡平な処理を行うことが可能となるのである。
」
二、 過失相殺と損益相殺ないし損益相殺的な調整の順序 ―「原告が F 建商に売買代金を支
払って損害が生じた時点で過失相殺の基礎となる原告の落ち度を考えることができ、その後口頭
弁論終結時までに買主 3 社から支払を受け、及び K(筆者注:この三社の内の 1 社)の破産手続に
おいて配当を受けた金銭は損益相殺ないし損益相殺的調整の対象とすべきであるから、上記(1)の
ようにまず過失相殺を行い(筆者注:当時の原告会社代表者三上には取引の危険を自ら調査しなかっ
た過失 5 割が認定されている。)、その後に損益相殺ないし損益相殺的調整を行うべきである。
」⇔
過失相殺で原告の F 建商に支払った金額の 5 割が損害と認定され、それから損益相殺をして、2
億 6,732 万 5,053 円の損害賠償支払義務が判決された。
判タ 1360-155
金判 1364-13
[最高裁三小 H.23.3.22 判*]H22(受)1238 号・(オ)1187 号 過払金返還請求等事件
民法 91 条・703 条・三編一章四節(債務引受)
(一部破棄差戻・一部上告却下)
貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合における、借主と
上記債権を譲渡した業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転の有無
― 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合において,上
記債権を譲渡した業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんに
より,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主との間の金銭消費貸借取引に係る契
約上の地位が上記債権を譲り受けた業者に当然に移転すると解することはできない。
本件譲渡契約は、譲受人は本件債務を承継しない旨を明確に定めており、重畳的に引受けてこ
れを承継したと解することはできない。それが営業譲渡の性質を有するときであっても、借主と
譲渡業者との間の金銭消費貸借に係る契約上の地位が譲受業者に移転すると解することはできな
い。
集民 236-225 判時 2118-34 金法 1927-136
遠藤研一郎・判例速報解説 10-61
中田裕康・金法 1929-63
今尾真・判例評論 642
野澤正充・民商 145-1-68
原審:名古屋高裁 H.22.3.25 判・H21(ネ)1069 号
金判 1374-17
一審:名古屋地裁 H.21.10.22 判・H21(ワ)2901 号
金判 1374-19
*今尾評釈:本判決以後の最高裁の全小法廷は同旨の判決をしている:最高裁一小 H.23.7.7.判・
H22(受)1784 号ほか・判時 2137-43、最高裁二小 H.23.7.8.判・H22(受)1405 号・判時 2137-46。
[大阪地裁 H.23.3.25 決定*]H22(仲)3 号 仲裁判断に基づく執行決定申立事件
仲裁法 45 条 1・2 項・46 条 1・2・7・8 項、
(容認・確定)
外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)7 条1項、
日本国と中華人民共和国との間の貿易に関する協定 8 条 4 項
33
中国における仲裁判断に基づく民事執行が許可された事例
[判示要旨] 一、申立人(中国法人)を被申請者とする中国国際経済貿易仲裁委員会第
SG2009117 号事件につき、同委員会が 2010 年 5 月 20 日付けでした別紙記載の「本件仲裁判断
の執行決定に係る準拠法について
(1)本件仲裁判断の承認及び執行については、本件仲裁判断が中国の仲裁判断であることに鑑み、
ニューヨーク条約及び日中貿易協定が適用されると解すべきである。
(2)ところで、ニューヨーク条約 7 条 1 項は『この条約の規定は、締約国が締結する仲裁判断の
承認及び執行に関する多国間又は二国間の合意の効力に影響を及ぼすものではなく、また、仲裁
判断が援用される国の法令又は条約により認められている方法及び限度で関係当事者が仲裁判断
を利用する如何なる権利をも奪うものではない。
』と規定する。これけは、同条約の締約国が仲裁
判断の承認及び執行に関する他の条約を締結している場合には、ニューヨーク条約と当該他の条
約との関係がいわば一般法と特別法の関係にあるものとして、当該他の条約を適用することを規
定しはたものと解される。
(3)すると、本件仲裁判断の執行については日中貿易協定が適用されることになるが、同協定 8
条 4 項は、
『両締約国は、仲裁判断について、その執行が求められる国の法律が定める条件に従い、
関係機関によって、これを執行する義務を負う。』と規定する。従って、『執行が求められる国』
である我国の『法律が定める条件』が適用されることになる。
(4)我が国においては、仲裁判断の執行の条件を定める法律として、仲裁法(第 8 章)が存在し、
同法 45 条 1 項は、仲裁判断の執行には、同法 46 条所定の執行決定を要する旨を定め、同条 7 項・
8 項、同法 45 条 2 項は、失効決定の要件を定めている。結局、本件においては、これらの仲裁法
の規定に基づき、本件仲裁判断の執行決定の要件を判断すべきこととなる。
」
二、
「本件仲裁判断の執行決定の要件
(1)仲裁法 45 条 2 項 1 号から 7 号までに掲げる事由について:仲裁法 46 条 8 項によれば、同法
45 条 2 項各号に掲げる事由のいずれかがあると認められる場合に限り、本件申立を却下すること
ができる。そして、仲裁法 45 条 2 項 1 号から 7 号までに掲げる事由にあっては、被申立人が当
該事由の存在を証明した場合に限り、これを認めることができる(仲裁法 46 条 8 項かっこ書)。
しかしながら、被申立人は、この点につき何らの主張をしない。従って、これらの事由を認める
ことはできない。
(2)仲裁法 45 条 2 項 8 号及び 9 号に掲げる事由について:本件仲裁事件は、単結晶シリコン棒
の売買契約に関する紛争を対象とする事件であり、我国の法令によれば、仲裁合意の対象とする
ことができない紛争に関するもの(仲裁法 13 条 1 項参照)と認めることはできない。また、一件
記録を精査しても、本件仲裁判断の内容が、我国における公序良俗に反するものであると認める
こともできない。
(3)以上によれば、本件申立は理由がある。」 本件 別紙 仲裁判断に基づいて、申立人(中
国法人)が被申立人(日本法人)に対し強制執行することを許可する。
別紙 仲裁判断
1 被申立人は申立人の支払った代金 501,920 米ドルを返還しなければならない。
2 被申立人は申立人に代金金利 76,285.59 米ドルを支払わなければならない。
3 被申立人は申立人に為替差損人民元 345,070 元を支払わなければならない。
4 被申立人は申立人に弁護士費用人民元 5 万元を支払わなければならない。
5 申立人のその他仲裁請求を却下する。
6 本案の仲裁費用人民元 128,605 元の全部は被申立人により負担する。
判時 2122-106 判タ 1355-249 金法 1931-122
中村達也・H.23 重要判ジュリ 1440-319
高杉直・リマークス 45-118
[最高裁二小 H.23.4.22 判①*]H20(受)1940 号 損害賠償請求事件(破棄自判)
民法 1 条 2 項・415 条
34
契約の一方の当事者(信用協同組合への出資勧誘者)が契約の締結に先立ち、信義則上の説明
義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場
合の債務不履行責任の有無(消極)― 事案は、出資勧誘の際の債務者の説明がなく、その後破
たんして出資金の払戻しが受けられなくなった事案。既に不法行為の時効は完成している。
判示要旨:契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当
該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合に
は,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為に
よる賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うこと
はない。 その理由は、
「上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということ
は、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理であると
言わざるを得ないからである。契約締結の準備段階においても、信義則が当事者間の法律関係を
規律し、信義則上の義務が発生するからといって、その義務が当然にその後に締結された契約に
基づくものであるということにならないことは言うまでもない。
(補足意見がある。)
民集 65-3-1405 判時 2116-53 判タ 1348-87 金判 1372-30
中村肇・金判 1379-8
後藤巻則・速報判例解説 12-99
池田清治・重要判ジュリ 1440-74
河津博史・銀行法務 731-58 平野裕之・NBL955-15 市川多美子・ジュリ 1472-91
原審:大阪高裁 H.20.8.28 判・H20(ネ)631 号
民集 65-3-1468 金判 1372-34
一審:大阪地裁 H.20.1.28 判・H18(ワ)9338 号
民集 65-3-1424 金判 1372-44
[最高裁二小 H.23.4.22 判②*]H21(受)131 号・損害賠償請求事件(一部破棄自判・
民法 724 条
一部破棄差戻)
信用協同組合が自らの経営破たんの危険を説明すべき義務に違反して出資の勧誘をしたことを
理由とする出資者の信用組合に対する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効が、遅くとも
同種の集団訴訟が提起された時点から進行するとされた事例 ― 信用協同組合が自らの経営
破綻の危険を説明すべき義務に違反して出資の勧誘をしたことを理由とする出資者の信用協同組
合に対する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は,経営破綻の直後に,上記出資者が上記
勧誘に応じて出資をした結果損害を被った事実を認識していたことに加え,次の(1)~(3)など判示
の事実関係の下においては,上記出資者が上記勧誘当時の信用協同組合の代表者の経営破綻の危
険性についての具体的認識に関する証拠となる資料を得ていなかったとしても,遅くとも上記出
資者と同様の立場にある者らにより信用協同組合に対する集団訴訟が提起された時点から進行す
る。
(1) 上記出資者が出資をしてから信用協同組合が経営破綻に至るまでの期間は9か月に満たな
かった。
(2) 経営破綻の3か月後までには,信用協同組合が経営破綻の前年に実施された監督官庁の検査
で既に債務超過と見込まれていたなどの事情が明らかにされた。
(3) 上記出資者と同様の立場にある者らにより,経営破綻の約半年後から信用協同組合に対する
損害賠償請求訴訟が逐次提起され,経営破綻の約1年後までには集団訴訟も提起された。
集民 236-443 判時 2116-61 金判 1371-32
白石友行・民商 145-3-107
河津博史・銀行法務 734-63
松浦聖子・法学セミナー690-142
原審:大阪高裁 H.20.10.17 判・H20(ネ)1139 号
金判 1371-36
一審:大阪地裁 H.20.3.26 判・H19(ワ)2363 号
金判 1371-49
[東京地裁 H.23.5.12 判*]H21(ワ)24898 号 約束手形金請求事件(請求棄却・控訴)
民法 555 条・95 条、手形法 17 条
いわゆる「循環取引」の一環として締結された売買契約に介入した買主が当該取引では売買の
35
目的物が存在しなかったことを理由に、売主に対して振出・交付した約束手形の支払を拒絶し
得る場合 ― いわゆる「循環取引」の一環として締結された売買契約に介入した被告買主は、
当該取引では売買の目的物が存在しなかったのに、目的物が存在すると誤信して当該取引に介入
したものであって、目的物が存在しないことが分っていれば当該取引に介入しなかったと認めら
れ、そう誤信することについて重大な過失もなかった場合には、当該売買契約の錯誤無効を理由
に、売主に対して振出・交付した約束手形の支払を拒絶することができる。被告買主が錯誤を主
張することは、商法 526 条の規定は買主が売買契約の錯誤を主張することを制限するものではな
いし、しかも、被告買主が錯誤に陥った一因は原告売主が作出していることからも、信義則に反
するということは出来ない。
金判 1371-56
坂本清・NBL956-6
*:
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]の評釈参照。
[東京高裁 H.23.5.16 決定*] H23(ラ)834 号・債権差押命令却下決定に対する
民事執行法 143 条、民事執行規則 133 条 2 項
執行抗告事件(抗告棄却・確定)
支店を一つに特定せず、支店間支店番号順序方式により差押債権である預金債権を表示した差
押命令申立が、差押債権の特定を欠き不適法であるとされた事例 ― ①. 「債権執行における
差押は、差押命令の送達によって差押の目的債権の取立又は換価に備えるために債権を債務者の
他の財産から取り分けるために行われるものであり、その目的を達するためには、差押えられた
債権が債務者に支払われることを避けるために、第三債務者からみて差押えられた債権が明瞭に
にんしきできるように特定することが必要である。そのためには、債権の種類、発生原因、発生
年月日、給付内容、債権の金額等の債権の属性を特定掲記して債権を特定するのが原則である。
」
②. 「支店間支店番号順序により差押債権を表示して預金債権に対する差押命令を発するとすれ
ば、債権者において預金債権の存在の蓋然性の調査を行わないで適宜の銀行を第三債務者として
債権差押の申立をすることが可能となる一方、第三債務者である銀行の支店においては、他の支
店の差押が功を奏しない場合に自らの支店に差押の効力が生ずる等の問題が生じ、公平さ及び適
正さを欠き、第三債務者である銀行の負担のみに頼って解決を図るものとなる。従って、本件の
如く、支店を一つに特定せず、支店間支店番号順序方式によってされた預金債権差押の申立につ
いては、差押債権の性質その他の実情からみて上記緩やかな特定方式を許容するだけの特別な事
情があるものと認めることはできないものというべきである。
本件債権差押命令の申立は、差押えるべき債権の特定を欠く不適法なものであって、却下すべ
きである。
」
判時 2111-38 金法 1923-91
浅生重機・判例評論 633-25 浅井弘章・銀行法務 733-58
一審:東京地裁 H.23.4.18 決定・H23(ル)2148 号
判タ 1347-251
[東京地裁 H.23.6.13 決定*]H21(仲)6 号・仲裁判断取消請求事件(認容・即時抗告)
仲裁法 44 条 1 項 8 号
一、仲裁手続が我国の手続的公序に反すれば、仲裁法 44 条 1 項 8 号の仲裁判断取消事由に
含まれる ― 「かかる手続に基づき下された仲裁判断は、その内容が手続的公序に合致した
手続に担われないものとして、我国における基本的法秩序に反するものとなり、国家による強制
的な紛争解決の効力を肯定し得ず、仲裁法 44 条 1 項 8 号の取消事由に該当するものと解するの
が相当である。
」
二、当事者間に争いのある事実を、争いのない事実として仲裁判断することは、我国の手続的
公序に反する ― 「当事者間に争いのある事実を争いのない事実とすることは、当該事実に
ついて判断をしていないことに帰するのであるから、当該事実が仲裁判断の主文に影響を及ぼす
重要な事項である限り、当事者間に争いのある事実を争いのない事実として仲裁判断することは、
我国の手続的公序に反するものと解するのが相当である。」
36
判時 2128-58
猪股孝史・判例評論 640-15 長谷川俊明・国際商事法務 40-1-133
唐津恵一・ジュリ 1447-107 同・NBL989-34 & 990-96
[大阪高裁 H.23.7.15 判*]H22(ネ)136 号 従業員地位確認等請求控訴事件
労働契約法 16 条
(原判決取消・上告受理申立)
非正規社員導入による正社員の解雇の有効性 ― 「この解雇は、整理解雇と呼ばれるものに
当るところ、整理解雇は、使用者の業務上の都合を理由とするもので、解雇される労働者は、落
度がないのに一方的に収入を得る手段を奪われる自雄大な不利益を受けるものであるから、それ
が有効であるかどうかは、①解雇の必要性があったか、②解雇回避の努力を尽くしたか、③解雇
対象者の選定が合理的であったか、④解雇手続が相当であったか を総合考慮して、これを決す
るのが相当である」
。
・・・
「そもそも、人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇
するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を
削減することは、原則として許されないというべきである。なぜならば、同程度の人件費の削減
を実現するのであれば、人の入れ替えの場合よりも少ない人数の整理解雇で足りると解されるし、
また、このような人を入れ替える整理解雇を認めるときには、賃金引下げに容易に応じない労働
者の解雇を容認し、その結果として労働者に対し賃金引下げを強制するなどその正当な権利を不
当に侵害することになるおそれがあるからである。
」
労働判例 1035-124
島田裕子・民商 147-1-120
一審:大阪地裁堺支部 H.21.12.18 判・H20()1246 号
労働判例 1006-73
*島田評釈:本事案では、原審と控訴審においての判断が正反対となっている。これは、原審が
一審被告の危機的な財務状況を重視して、人員削減人数の計算方法が大雑把であることや、手
続が十分でなかったことをあまり考慮しなかったのに対し、控訴審では、綿密な再建計画なく
教員の人員削減を行い、教科が偏って新規に採用する必要が生じるなど一審被告の計画性のな
さが強調されたこと、人の入替が一般的に許されないと評価したことによるものと思われる。
控訴審が綿密な再建計画の欠如を整理解雇の必要性において考慮したこと、また人件費の高
い労働者を整理解雇して人件費の低い労働者を新規採用することを一般論として禁止すると述
べたことは、これまでの整理解雇法理(上記判示要旨の①~④)にとって新しい問題を提起す
るものと言える。
特に、国際的な企業競争の激化と非正規労働者の増加する状況において、正規労働者を整理
解雇し、そのポストを非正規労働者で補うことが認められるかが、今後より一層問題となり得
るものと思われる。
[最高裁一小 H.23.7.21 判*] H21(受)1019 号 損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 709 条
別府マンション事件(第二次上告審)
:
[最高裁二小 H.19.7.6 判*]にいう「建物としての基本
的な安全性を損なう瑕疵」の意義 ―「第一次上告審判決にいう『建物としての基本的な安全性
を損なう瑕疵』とは、居住者等の生命・身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の
瑕疵が、居住者等の生命・身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、
当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命・身体又は財産に対する危険
が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該
当すると解するのが相当である。
」
集民 237-293 判時 2129-36 判タ 1357-81
野澤正充・H.23 重要判ジュリ 1440-84
笠井修・NBL963-42
松本克美・法律時報 84-6-114
原審(差戻審)
:福岡高裁 H.21.2.6 判・H19(ネ)576 号
判時 2051-74 判タ 1303-205
一審:
[最高裁二小 H.19.7.6 判*]の一審
*:
[最高裁二小 H.19.7.6 判*]の末尾の評釈参照。
37
[名古屋地裁 H.23.7.22 判*]H22(ワ)5431 号 貸金等請求事件(請求一部容認・控訴)
民法 424 条、会社法 5 編 3 章 2 節 2 款
[名古屋高裁 H.24.2.7 判*]の原審
新設分割が詐害行為に当たるとして新設分割会社の債権者が新設分割設立会社に対して当該会
社分割の取消と価格賠償とを求めた請求が容認された事例 ― 新設分割が詐害行為に当たる
として新設分割会社の債権者が新設分割設立会社に対して当該会社分割の取消と価格賠償とを求
めた請求は、当該会社分割自体に詐害性が認められるほか、新設分割設立会社の代表取締役とな
った新設分割会社の代表取締役に詐害の意思も認められる上、新設分割会社から新設分割設立会
社に承継された資産および負債が可分であるとはいえ、新設分割設立会社から新設分割会社
に返還する資産を特定してその返還を命じることが著しく困難であると認められる判示の事実関
係の下においては、会社分割の取消と、その被保全債権の限度で価格賠償とを求める範囲で、こ
れを容認することができる。
判時 2136-70 金判 1375-48 金法 1936-118
石毛和夫・銀行法務 738-63
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[大阪地裁 H.23.8.12 判*]H21(ワ)19009 号 地位確認等請求事件(請求棄却・控訴)
高年齢者雇用安定法 9 条、労働契約法 16 条
高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度の下での再雇用拒否の有効性 ― ①.「高齢者雇用安
定法(高齢法)は、同法の趣旨目的等にかんがみて、定年を 65 歳に引上げ、その効力を事業主と
労働者間に当然に及ぼすものではなく、あくまでも事業主に対して高年齢者の雇用の安定に向け
ての措置を講ずる旨の努力義務を課すものであり、事業主が労働者に対して、64 歳あるいは 65
歳までの雇用継続義務ないし雇用を保障することを義務付けているとは解されない。
」
②.「高齢法 9 条に基づいて制定された本件継続雇用制度(同条 1 項 2 号の措置)において、定
年後の従業員について、高齢法附則 4 条に定められた年齢まで当然に雇用が継続されることを前
提としているとまで認めることはできず、あくまでも個別合意に基づく雇用契約を前提として、
原則として高齢法附則 4 条に定められた年齢に至るまで契約を更新することが予定されていたと
解するのが相当である。
」
③.本件継続雇用制度も含め定年後の継続雇用制度(高齢法 9 条 1 項 2 号)は、定年により一旦
雇用契約が終了(定年退職)したことを前提として、それまでの労働条件とは異なる内容(就業
期間、具体的な就業被、賃金等)で新たに雇用契約を締結するということからすると、事業主が
新たに労働者を雇入れるか否か(採用するか否か)が問題となる関係にあり、事業主と労働者と
の間で労働条件等について合意が成立しなければ、雇用契約が正立しない以上、労働者は事業主
に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあるとは言えないとも考えられる。しかし、Y 社が、
高齢法 9 条に基づいて新たに就業規則 41 条を設け、かつa協定を締結することによって、Y 社の
従業員が定年退職した後においても、一定の具体的、客観的な基準に該当する者については継続
して雇用することを容認している場合、本件継続雇用制度の下において、定年退職した労働者と
しては、自らが継続雇用を希望した場合には、一定の要件を充たせば継続して雇用されるという
合理的な期待があったというべきであることからすると、期間の定めのある雇用契約にうける雇
止めの適否が問題となる利益状況に類似していると言える。そして、仮に、労働者が継続雇用を
希望したにもかかわらず、事業主が、恣意的なあるいは不合理な判断等によって継続雇用を認め
ず、結果として、両者間に労働契約が成立しなかったような場合に関しては、右に記したような
労働者に係る合理的な期待が損なわれ、ひいては、継続雇用制度を設けた趣旨目的が没却される
おそれがある(高齢法の趣旨目的等にかんがみて、この点の労働者の不利益を填補するについて、
労働者の事業主に対する損害賠償請求権を認めるだけでは、必ずしも十分とは言い難い)。
・・・
以上の点に、高齢法の趣旨目的、a 協定及び原告労働者 X ら(X1 と X2)のうち X1 について
の b 協定(Y と労組との協定)の内容をも併せかんがみると、本件の場合においては、解雇権濫
38
用法理を類推適用して、X らが定年後継続雇用を希望し、具体的客観的に定められた要件を充足
するにもかかわらず、Y がこれを拒否あるいはそれまでの労働条件(雇用期間を含む)と異なる
条件を提示した点(以下、
「本件雇止め等」)については、客観的に合理的な理由があり、本件雇
止め等が社会通念上相当であると認められるか否かという観点から判断するのが相当である。そ
して、継続雇用制度の対象者についての労働協定において定められた具体的客観的な基準に合致
する者については、原則として継続雇用を拒否することは許されないというべきであるが、他方、
同基準には合致するものの、その他の事情(経営不振による雇用継続の困難性等)によって、雇
用の継続が困難であると認められる客観的に合理的な理由があり、雇止め等が社会通念上相当で
あると認められる場合には、継続雇用しないことも許されると解するのが相当である。
」
④.「Y においては会社存続に当って人員削減の必要性が高度に認められ、Y は、希望退職の募
集や役員報酬、賃金の減額等の人員削減を回避すべく一定の措置を講じており、団体交渉等にお
いて説明するとともに、一定の児用保安を提案したこと等の事情を総合的に勘案すると、Y が行
った本件雇止め等には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めるのが相当で
ある。そうすると、X らと Y との間には雇用契約が存在するとは言えないから、X らが Y に対し
労働契約の権利を有する地位があるとは言えない。
」 X らの労働契約上の地位確認請求および
定年退職後あるいは継続雇用更新が拒否された後の未払賃金等の支払請求を請求棄却。
労働経済判例速報 2121-3
西村健一郎・民商 147-3-85 濱口桂一郎・ジュリ 1443-114
*西村評釈:高齢法は、9 条で、60 歳以上(65 歳未満)の高年齢者の雇用を確保するため、事業
主は、①定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、または③定年の定めの廃止 のいずれかの措
置を採ることを義務付けられていた。多くの事業主は、③の措置を採っているが、その場合、
原則として希望者全員を対象とした再雇用制度・勤務延長制度の導入が求められる。しかしこ
の場合、従来、事業場の過半数労働者との協定(労使協定)で、継続雇用制度の対象者に係る
基準を策定することで対象者を限定することが可能であった。今回の H.24 の法改正は、この
継続雇用制度の対象者を限定する制度を廃止し、希望者全員を対象とした再雇用制度等の導入
を求めるものである。
このような改正が行われた背景には、言うまでもなく、H.25.4 からの特別支給の更生老齢年
金の年金受給年齢の引上げがある(当初 3 年間は 61 歳に引上げられ、それ以降 3 年毎に 1 年
づつ引揚げられる)
。年金受給年齢は、このように H.25.4 から 3 年刻みで行われ、H37.4.1 以
降は 65 歳に引上げられる。そのため、上記の対象者を限定する仕組の廃止も段階的に行われる
ことになっている。従って、対象者を限定する仕組を労使協定で設けている場合、H.28.3.31
までは 61 歳以上の労働者に対して労使協定で定めるその基準を適用することがなお可能であ
る。 H.24 厚生労働省告示 560 号「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」参照。
[東京地裁 H.23.8.15 決定*] ①事件:H23(モ)75154 号 否認請求事件(請求棄却・確定)
②事件:H23(モ)75158 号 否認請求事件(認容・異議→後取下)
会社更生法 86 条 1 項 1 号・3 項・88 条 1 項・95 条・96 条
倒産法における支払停止の意義
一、事業再生 ADR 手続の申請に向けて行われた支払猶予の申入れ等の行為が、会社更生法 88
条 1 項所定の「支払の停止」に該当せず、同項による否認の請求が不可となった事例(①・
②事件とも)
二、
「支払の停止等」の前に行われ、会社更生法 88 条 1 項が適用されない主債務者の根抵当権
設定に係る対抗要件具備行為につき、86 条 1 項 1 号の適用もないとされた事例(①事件)
三、
「支払の停止等」の前に行われ、会社更生法 88 条 1 項が適用されない物上保証人としての
根抵当権設定に係る対抗要件具備行為につき、86 条 1 項 1 号により否認することができると
され事例(②事件)
[事案の概要]
岡山県内有数の企業であった H グループでの不正経理が、メイン C 銀行と準メイン S 信託銀行
39
に H.22.11 中旬に発覚。H 社および同グループ T 社を含む各社は実質債務超過の解消のために事
業再生 ADR を利用することとし、翌月中旬に、C 銀行と S 信託にこのことを伝えて、借入金債
務の支払の猶予等を要請した。そのうえで、H 社および同グループ各社は同年 12 月 20 日、事業
再生 ADR 手続の利用を申請した。メイン C 銀行は、H 社の借入金債務につき H 社との間で締結
した H.17.11.30 付け根抵当権設定契約に基づき、H.22.12.27 に H 社所有の不動産に根抵当権設
定仮登記をして対抗要件具備行為を行った:①事件分。 準メイン S 信託銀行は、T 社との間で
H 社の S 行に対する銀行取引債務のために H.21.10.30 付で締結した根抵当権設定契約に基づき、
T 社所有の各目的不動産に H.22.12.24 と同月 27 に根抵当権設定の仮登記をして対抗要件具備行
為を行った:②事件分。
その後、H 社および同グループ T 社を含む各社は H23.1.24、事業再生 ADR 手続の正式申込を
行ったが、メイン C 銀行と準メイン S 信託銀行の上記行為が原因で他の金融機関との意見調整が
難航し、同 H グループらは翌月 2 日に ADR の利用申請を取下げ、会社更生手続開始の申立を行
い、H・T とも更生手続の開始決定を受けた。
会社更生管財人は、その様な事情から、上記①・②について、会社更生法 88 条による対抗要件
の否認 及び 86 条 1 項 1 号による詐害行為の否認を訴求。
[判示要旨]
一、①事件と②事件の対抗要件具備行為が行われた時期が支払の停止後であるかについては、
「支払の免除又は猶予を求める行為であっても、合理性のある再建方針や再建計画が主要な債権
者に示され、これが債権者に受入れられる蓋然性があると認められる場合には、一般的かつ継続
的に債務を弁済できない旨を外部に表示する行為とはいえないから、
『支払の停止』ということは
できないと解するのが相当である。 そうすると、本件においては・・・更生会社らは、事業再
生 ADR における事業再建を図ることを前提として専門家に事業再生計画の策定を依頼し、近く
事業再生 ADR の利用申請をすることを予定した上で、相手方にその内容等を説明したものであ
るから、上記説明をもつて『支払の停止』には該当しないというべきである。 したがって、本
件対抗要件具備行為は『支払の停止』後の行為には当らないので、その余の要件を検討するまで
もなく、会社更生法 88 条 1 項に基づく否認請求は理由がない。
」
二、会社更生法 86 条 1 項 1 号による本件対抗要件具備行為を詐害行為としての否認請求につ
いては、①事件の H 社の「担保提供行為は、会社更生法 86 条 1 項柱書において同項の否認の対
象から除外されている担保の提供に当たるというべきであるから、之を原因行為とする本件対抗
要件具備行為を同項 1 号により否認することは許されないというほかない。
」 ①事件での詐害行
為否認請求を棄却。
三、②事件の T 社の担保提供行為である「物上保証行為は、自らの債務に対する担保提供では
なく、更生会社が義務なくして他人のためにその資産を流出させる財産処分行為に当るから、こ
れを原因行為とする本件対抗要件具備行為が、会社更生法 86 条 1 項 1 号所定の要件を充たす場
合には、同号による否認の対象となるものというべきである。」 ところで、H 社及び T 社は
H21.10 以降、相手方 S 信託銀行の求めに応じて所有不動産に根抵当権設定契約を締結したもの
の、H 社および同グループ T 社を含む更生会社らは、従前から金融機関に対して、所有不動産に
は担保権が設定されていないことを説明して無担保で貸付に応じるよう要請してきていたことか
ら、
「更生会社らの信用が下落することを回避するため、根抵当権設定登記の具備を留保し、根抵
当権が設定されていないかのような外観を作出してきたこと、H.22.12.30 の時点において、更生
会社らが融資を受けていた金融機関は約 30 行に及び、その有利子負債総額は 1300 億円を超えて
いたが、このうち更生会社らの所有不動産に担保権を設定して登記留保をしていた金融機関は、
C 銀行、S 信託銀行、N 銀行の 3 行だけであった。これらの諸事情に照らすと、本件対抗要件具
備行為は、相手方 S 信託銀行の協力の下、更生会社らの所有不動産に担保権が設定されていない
かのような外観が作出され、多くの金融機関がこれを信頼して無担保融資に応じてきた中で、こ
れらの金融機関に先んじて順位 1 番の根抵当権を相手方 S 信託に保全させるものであるから、実
質的な危機時期において行われたことにより、更生債権者等を害する行為に当るというべきであ
る。
」そして、T 社および S 信託も債権者を害することを知っていたということができ、
「本件対
40
抗要件具備行為は、会社更生法 86 条 1 項 1 号所定の要件を充たすので、申立人(管財人)は、
同号に基づき本件対抗要件具備行為を否認することができる。」
判タ 1382-349
加瀬野忠吉・銀行法務 759-26
石毛和夫・銀行法務 754-57
*加瀬野評釈:
[最高裁一小 S.60.2.14 判*]は旧破産法 74 条 1 項(現破産法 164 条に相当)に
いう「支払の停止」とは、
「債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えて
その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいう」と判示している。ここに、
「債務の支
払をすることができない」とは「一般的かつ継続的に債務の支払をすることができない」こと
を指すと解されている。ところで、今回の東京地裁でも分かるように、事業再生 ADR 手続で
のように、再建計画が策定され窮境の解消が図られる可能性の高い、制度化された私的整理の
登場により、
「ADR の受任通知=支払の停止」とは一概にはいえず、そのような債務者への対
応には慎重さが求められることになる。
*古田:事業再生 ADR(Alternative Dispute Resolution=裁判外紛争解決手続)とは、2007 年
に産業活力再生法の改正により制度化された制度であり、会社の経営が行き詰まった企業の事
業再生を目指すにあたり、会社更生法や民事再生法(和議)
、破産法などによる裁判所の法的な
手続きによる紛争解決の手続きを使わずに、当事者間の話し合いで解決する手続きのことであ
る。 なお、産業活力再生法は産業強競争力強化法の施行に伴って H.26.1.20 付で廃止され、
事業再生 ADR はこの産業強競争力強化法に引継がれている。
[東京高裁 H.23.8.31 判*]H22(ネ)794 号 配転命令無効確認同請求控訴事件(一部変更・
民法 1 条 3 項・709 条・715 条、労働契約法 3 条 5 項、
上告棄却)
公益通報者保護法 2 条・5 条・6 条
オリンパス事件
会社が設置したコンプライアンス室に内部通報した従業員への配転命令が、内部通報したこと
を動機とする不当なもので人事権の濫用に当るとして、上司の不法行為責任・会社の使用者責
任が肯定された事例 ― 原審の対象であった第一配転命令に加えて、原審の口頭弁論終結後に
第二の配転命令が、そして控訴審の同従業員への本人尋問実施前に第三回配転命令がなされてい
る。
「各配転命令による配置先における控訴人(原告である当該従業員)の担当職務は、第一配転
命令前の控訴人の経歴にそぐわないものであること等を斟酌すると、第二配転命令及び第三配転
命令は、いずれも本来の業務上の必要性や控訴人の適正とは無関係に、第一配転命令の延長とし
てされたものであると推認できる。
・・・第一配転命令及び第二配転命令は、いずれも被控訴人乙
山(原告が所属していた事業部の部長)が人事権を濫用したものであり、第三配転命令もその影
響下で行われたものであって、これらにより、控訴人に・・・昇格・昇給の機会を事実上失わせ、
人格的評価を貶めるという不利益を課すものであるから、被告人乙山の上記行為は、不法行為上
も違法というべきである。
」
判時 2127-124 労判 1035-42
野崎薫子・ジュリ 1456-144 大塚和成・銀行法務 738-65
小宮文人・速報判例解説 11-259
国武英生・法律時報 85-3-136
一審:東京地裁 H.22.1.15 判・H20(ワ)4156 号(請求棄却・控訴) 判時 2073-137
*大塚評釈:会社としては、内部通報の報復目的ではなく、内部通報者の周辺の人間関係が悪化
して、修復不可能であること等を理由として内部通報者を配転したほうが良いと考える場面もあ
り得る。しかし、内部通報直後に、内部通報者を配転することは、内部通報の報復目的と疑われ
るリスクが伴うことに注意しなければならない。-
[最高裁三小 H.23.9.20 決定*] H23(許)34 号 債権差押命令申立却下決定に対する
執行抗告 棄却決定に対する許可抗告事件(抗告棄却)
民事執行法 143 条、民事執行規則 133 条 2 項
一、債権差押命令の申立における差押債権の特定の有無の判断基準
41
二、大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として「店舗ないしセンター
順位付けをする方式」による預貯金債権の差押命令の申立の適否(消極)
[判示要旨] 一、
「民事執行規則 133 条 2 項の求める差押債権の特定とは、債権差押命令の送
達を受けた第三債務者において、直ちにとは言えないまでも、差押の効力が上記送達の時点で生
ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差押えられた債権を識別
することができるものでなければならないと解するのが相当であり、この要請を満たさない債権
差押命令の申立は、差押債権の特定を欠き不適法というべきである。
」
二、
「第三債務者において、一定の時間と手順を経ることによって差押えられた債権を識別する
ことが物理的に可能であるとしても、その識別を・・・速やかに確実に行い得ないような方式に
より差押債権を表示した債権差押命令が発せられると、差押命令の第三債務者に対する送達後そ
の識別作業が完了するまでの間、差押の効力が生じた債権の範囲を的確に把握することができな
いこととなり、第三債務者はもとより、競合する差押債権者等の利害関係人の地位が不安定なも
のとなりかねないから、そのような方式による差押債権の表示を許容することはできない。
」本件
申立は、差押債権の特定を欠き不適法というべきである。裁判官全員一致の判決。但し、裁判官
田原睦夫の補足意見あり。⇔判決理由を敷衍説明する補足意見。
民集 65-6-2710 判時 2129-41 金判 1376-15&1379-16 金法 1934-68
香月裕爾・NBL963-4 堀野出・速報判例解説 11-121 野村秀敏・リマークス 45-114
大橋弘・判例評論 641-22 滝澤孝臣・金判 1390-8 古賀政治・金判 1378-1
渡辺隆生・金法 1953-44 臼井徹・金法 1948-44
石井教文・民商 146-2-50
小原将照・H.23 重要判ジュリ 1440-137
春日偉知郎・法学研究(慶大)85-8-31
浅井弘章・銀行法務 737-60
谷口園恵・ジュリ 1470-73
原審:東京高裁 H.23.6.6 決定・H23(ラ)943 号
民集 65-6-2738 金判 1926-120
一審:東京地裁 H23.4.28 決定・H23(ル)2369 号
民集 65-6-2733 金判 1376-25
*滝澤評釈:今後の裁判実務は、預金債権については、本決定の示すところに従い、店舗間店舗
番号順方式による差押債権の特定を否定する方向で処理されて行くと思われる。
貯金債権についても、貯金事務センターごとに一元的な管理がされているため、本決定で排斥
した取扱センター順位付け方式がそもそも実務的でないため、差押債権の特定が認められている
取扱センター限定方式による申立で処理されて行くはずである。
しかし、貯金債権については、全国で一元的な管理が完成した段階を迎えることが近い将来に
予想されている。その段階になれば、貯金債権については、本決定の判示するところが改めて検
討されることがあろう。
*大橋評釈:本決定は、第三債務者の負担が格別なものか否かといった、従来はややもすれば水
掛け論的になりがちであった差押債権の特定の問題に関して、
「直ちにとはいえないまでも、差
押の効力が第三債務者に送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに」
という一つの時間的な判断基準を示したものである。 以前から最高裁の判断が待たれていたと
ころ、全店一括順位付け方式による債権差押命令の申立を却下すべきものとした東京高裁の決定
に対してなされた許可抗告につきなされた最高裁の決定論旨であり、最高裁としての一つの結論
が示されたものである。その意味では、同種事件の取扱を考える上で大いに参考になるものと思
われる。しかし、他面で抽象的に表現されたこの基準には解釈する上での曖昧さがやや残ること
も否めない。そのためか、本決定後本決定を前提とした上で「預金額最大店舗指定方式」なる方
式で取扱店舗を一つに特定しない債権差押命令の申立を容認した東京高裁 H.23.10.26 決定(判
時 2130-4)が現れた。
「預金額最大店舗指定方式」による申立であっても、全店舗の預金残高を
確認する作業が必要となるから相当な時間を要することが予想され、本最高裁決定が示した基準
に照らせば不適法な申立に当たる疑いがあるが、第三債務者からの抗告の申立はなくそのまま確
定したようである。なお、本最高裁決定は、店舗数が極めて多いメガバンク等が第三債務者とな
った事例の判断であり、金融機関の規模により判断が異なることになるか否かも不明である。
また、本最高裁決定は、債務者の預金がどこにあるか知り得ない債権者の権利はどう実現する
のかにも当然のことながら触れていない。諸外国の財産開示制度を参考にして財産開示制度を改
42
正するといったことも含め、考えて行く必要があろう。⇔古賀評釈は、我国では民事執行法 196
条以下にある財産開示手続について、現状では申立件数も少なく、債務者の財産情報を債権者が
十分に取得できているとは言い難い状況にあると指摘され、開示命令の申立は 2009 年に、韓国
では 134,072 件であるのに、日本では 894 件に過ぎない事実を指摘されている。そして、金銭
給付債務名義の実効性を向上させるためには、財産開示手続不順守に対する制裁として、韓国や
ドイツが採用しているような監置等の処分、金融機関に対する財産照合手続や債務不履行者名簿
登載システムなどの導入、等が検討される必要があるとされている。
*:
[最高裁三小 H.24.7.24 決定*]及びその末尾の山中評釈を参照。
[東京地裁 H.23.9.20 判*] H22(ワ)23977 号・求償金請求事件(棄却・控訴)
民法 166 条・724 条、改正前商法 662 条 1 項、保険法 25 条 1 項
損害保険会社が交通事故の被害者の損害賠償請求権を保険代位した場合、被害者と共に消滅時
効が進行するとし、加害者の消滅時効の援用の効力が認められた事例
[判示要旨] 損害保険の性質を有するものと解せられるから、
「保険金が支払われた時点で、法
律上当然に、被保険者(被害者)から保険会社へ、加害者に対する損害賠償請求権が権利の同一
性を維持しつつ移転するというべきであり、
・・・被害者がその損害及び加害者を知った時から(消
滅時効は)進行するのであって、権利の同一性を維持したまま保険会社に移転した損害賠償請求
権について、被害者側が締結した保険契約に基づく人身障害保険金の支払という加害者が何ら関
与していない事情によつて、その消滅時効の起算点がこれより遅れると解すべき理由は見当たら
ない。
」
-判時 2138-75
金判 1382-67
香川崇・判例評論 644-20 石田清彦・ジュリ 1467-86
[最高裁三小 H.23.10.18 判*]H22(受)722 号 売買代金請求事件(破棄自判)
民法 116 条・560 条
無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合における当該物の所有者の追認の
効果 ― 「無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に、当該物の所有者が、
自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとし
ても、その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。
なぜならば、この場合においても、販売委託契約は、無権利者と受託者との間に有効に成立して
いるのであり、当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても、同契約に基づく契約当事
者の地位が所有権者に移転し、同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由
は無いからである。仮に、上記の追認により、同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至
ると解するならば、上記受託者が無権利者に対して有していた抗弁権を主張することができなく
なるなど、受託者に不足の不利益を与えることになり、相当ではない。」
民集 65-7-2899 判時 2134-58 判タ 1360-93 金法 1944-120
佐々木典子・民商 147-2-70
中村肇・金判 1388-8 中島基至・ジュリ 1446-82
河津博史・銀行法務 743-58 西内祐介・法律時報 86-5-159
藤原正則・北大法学論集 63-3-160
岩藤美智子・別冊ジュリ 223-76
原審:東京高裁 H.21.12.22 判・H21(ネ)2386 号
民集 65-7-2914
一審:長野地裁 H.21.3.27 判・H19(ワ)453 号
民集 65-7-2906
*河津評釈:ある物件につき、無権利者が処分し、権利者が追認したときの効力について、大審
院 S.10.9.10 判・S10(オ)637 号・民集 14-1717 は、無権代理の追認に関する民法 116 条の類推
適用により、処分の時に遡って効力を生ずるものと解するのを相当とすると判示している。そ
して、最高裁二小 S.37.8.10 判・S34(オ)504 号・民集 16-8-1700 は、この大審院判決を引用し
て、無権利者が不動産の所有者に無断で所有権移転登記の手続および抵当権の設定をした事案
において、所有者の追認により、抵当権の設定は所有者のために効力を生じる旨判断している。
43
本件では、追認の効果として、物権的効力とは別に、無権利者を委託者とする物の販売委託
契約が締結された場合における所有者の追認の効果につき、最高裁がこれを否定する明確な判
断を示したものである。
[福岡高裁 H.23.10.27 判*]H22(ネ)179 号 譲受債権等支払請求事件(原判決変更・上告)・
民法 1 条 2 項・424 条、会社法 3 条・第 5 編 3 章 2 節 2 款
同年(ネ)543 号民訴法 260 条 2 項の申立事件(一部容認・上告受理申立)
一、新設分割での新設分割設立法人に対する法人格否認の法理の適用が否定された事例 ―
株式会社を設立する新設分割において新設分割設立会社が新設分割会社の債務を承継しなかった
としても、新設分割会社の債務の返済や当該会社分割に関する交渉を主導的、主体的に行ってい
たのが新設分割会社であって、新設分割設立会社でない等の判示の事実関係の下においては、新
設分割設立会社の法人格を否認して、新設分割設立会社が新設分割会社の債務について責任を負
うとまで解することはできない。
二、新設分割に対する詐害行為取消権の行使が認められた事例 ― 株式会社を設立する新設分
割において新設分割設立会社が新設分割会社の債務を承継しなかったとしても、当該会社分割が
新設分割会社の債権者を害すると認められる判示の事実関係の下においては、新設分割会社の債
権者は、詐害行為取消権の行使により、新設分割設立会社に対し、その承継した新設分割会社の
物件に関する権利義務あるいは資産のみの取消しを求めることができるところ、資産の承継を取
り消しても、逸出した資産を返還させることが著しく困難である場合には、当該資産の全部に相
当する価格の賠償を求めることができる。
金判 1384-49 金法 1936-74
山下眞弘・金判 1403-2
受川環大・速報判例解説 11-115
一審:
[福岡地裁 H.22.1.14 判*]
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[最高裁三小 H.23.11.22 判*] H22(受)78 号 求償債権等請求事件(破棄自判)
民法 501 条、破産法 2 条 5・7 項・100 条 1 項・151 条
求償権が破産債権である場合において財団債権である原債権を破産手続によらないで行使する
ことの可否 ― 弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得し
た求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで上記財団債権を行使する
ことができる。
(補足意見がある。
)
民集 65-8-3165 判時 2134-62 判タ 1361-131 金判 1380-12 &1384-13 金法 1941-124
榎本光宏・ジュリ 1444-92 園田賢治・判例評論 647-11 生熊長幸・民商 146-6-23
千葉恵美子・H24 重要判ジュリ 1453-77 中西正・H24 重要判ジュリ 1453-139
山本和彦・金法 1953-52
富永浩明・NBL967-4 中島弘雅・法学研究 89-4-125
原審:大阪高裁 H.21.10.16 判・H21(ネ)924 号 民集 65-8-3197 金判 1380-19 金法 1897-75
一審:大阪地裁 H.21.3.12 判・H20(ワ)5191 号 民集 65-8-3186 金判 1380-23 金法 1897-83
*:本件及び[最高裁一小 H.23.11.24 判*]についても、待場豊・金法 2012-20 を参照。
[最高裁一小 H.23.11.24 判*] H22(受)1587 号 前渡金返還請求事件(上告棄却)
民法 501 条、民事再生法 85 条 1 項・121 条 1・2 項
求償権が再生債権である場合において共益債権である原債権を再生手続によらないで行使する
ことの可否 ― 弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は、同人が再生債
務者に対して取得した求償権が再生債権に過ぎない場合であっても、再生手続によらないで上記
共益債権を行使することができる。
(補足意見あり。)
民集 65-8-3213 判時 2134-67 判タ 1361-136 金判 1380-27 &1384-13 金法 1941-124
44
榎本光宏・ジュリ 1444-92
園田賢治・判例評論 647-11 生熊長幸・民商 146-6-26
山本和彦・金法 1953-52 中西正・H24 重要判ジュリ 1453-139
河津博史・銀行法務 739-68 富永浩明・NBL967-4 森田修・法協 130-10-199
中島弘雅・法学研究 89-4-125
原審:
[大阪高裁 H.22.5.21 判*]
*:本件及び[最高裁三小 H.23.11.22 判*]についても、待場豊・金法 2012-20 を参照。
[最高裁一小 H.23.12.1 判*]H23(受)307 号 不当利得返還請求事件(破棄自判)
民法 704 条、貸金業の規制等に関する法律(H.18 改正前)17 条 1 項・43 条 1 項,
利息制限法(H.18 改正前)1 条 1 項、貸金業の規制等に関する法律施行規則(H.19 改正前)
13 条 1 項 1 号チ
いわゆるリボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が貸金業の規制等に関する法律(H18
改正前)17 条 1 項に規定する書面として交付する書面に個々の貸付けの時点での残元利金につ
き最低返済額を毎月の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載をしない場合,
当該貸金業者は,最高裁一小 H.17.12.15 判・H17(受)560 号・民集 59-10-2899 の言渡し日以
前であっても,過払金の取得につき民法 704 条の「悪意の受益者」であると推定されるか
[判示要旨]
いわゆるリボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が貸金業の規制等に関する法律(H18
改正前)17 条 1 項に規定する書面として交付する書面に個々の貸付けの時点での残元利金につき
最低返済額を毎月の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載をしない場合は,当
該貸金業者は,同項に規定する書面には上記記載を要する旨を判示した最高裁一小 H.17.12.15
判・H17(受)560 号・民集 59-10-2899 の言渡し日以前であっても,利息制限法所定の制限を超え
て利息として支払われた部分の受領につき貸金業の規制等に関する法律 43 条 1 項の適用があると
の認識を有することについてやむを得ないといえる特段の事情があるとはいえず,過払金の取得
につき民法 704 条の「悪意の受益者」であると推定される。
集民 238-189 判時 2139-7 判タ 1364-72 金法 1958-89 金判 1389-24
水野信次銀法 2156-6-60 丸山愛博・速報判例解説 11-75 川地宏行・民商 146-2-70
大沢彩・判例評論 645-153
原審:東京高裁 H.22.10.27 判・H22(ネ)3784 号(原判決変更) 金判 1389-30
一審:東京地裁 H.22.5.17 判・H22(ワ)3273 号(認容) 金判 1389-34
[福岡高裁 H.24.1.10 判*] H23(ネ)764 号 損害賠償請求事件(原判決変更・拡張請求棄却、
民法 709 条
上告・上告受理申立 → 棄却・不受理決定)
別府マンション事件(再度差戻による第三次控訴審)
:共同住宅・店舗として建築された建物を
建築主から買受けた一審原告らからの、建物に瑕疵があることを理由とする不法行為による損
害賠償請求を、差戻を判示された第二次上告審:[最高裁二小 H.19.7.6 判*]の判示に沿って
一部認容 ― 一審原告らの損害賠償請求額:3 億 5,084 万円余に対し、 ①一審被告ら(設
計・工事監理業者と施工業者)に連帯で 2,848 万円余の、更に、②一審被告のうち設計・工事監
理業者には単独で更に 973 万円余の、各不法行為による損害賠償責任を判旨。
そして、一審原告と一審被告らとの間の訴訟の総費用は、90%を一審原告の負担、7%を一審被
告らの負担、3%を更に一審被告のうち設計・工事監理業者の、各負担を判示。
判時 2158-62 判タ 1387-238
*第三次上告:最高裁三小 H.25.1.29 判・H24(オ)817 号他 (棄却・不受理決定)
*:
[最高裁二小 H.19.7.6 判*]の末尾の評釈参照。
45
[東京高裁 H.24.1.19 判*]H23(ネ)4633 号 保証債務請求控訴事件(原判決取消・請求棄却・
民法 446 条 2 項
上告→棄却・上告不受理)
保証契約が書面でなされたものとは言えず、民法 446 条 2 項の規定によりその効力を有しない
とされた事例 ―保証証契約に関して作成された唯一の書面である電話機のリース契約締結の
契約書のリース料支払連帯保証人としての債務者の妻の署名捺印は保証人本人によってなされた
ものではなく、保証人において第三者が保証人の署名押印を代行して保証契約書を作成すること
を指示しまたは承諾していたとも認められないなど判示の事情のもとでは、債権者の従業員が作
成した電話記録に保証人の保証意思を確認した旨の記載があっても、保証契約が書面によってさ
れたものとは言えず、当該保証契約は、民法 446 条 2 項の規定によりその効力を有しない。
金法 1969-100
河津博史・銀行法務 759-58
一審:東京地裁 H.23.6.6 判・H22(ワ)21600 号
金法 1969-104
*:
[大阪高裁 H.20.12.10 判*]の評釈参照。
[東京地裁 H.24.1.20 判*] H22(ワ)18171 号・建物明渡等請求事件(棄却・控訴)
旧借家法 1 条の 2
サブリース業者を借主とする建物の賃貸借契約の更新拒絶につき、正当事由が否定された事例
― 「本件契約の合意の内容は、原告が被告に対して本件建物部分を賃貸し、被告が原告に対
して賃料を支払うというものであり、建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、本件契
約には借家法 1 条の 2 が適用されるべきものである(いわゆるサブリース契約に借地借家法 32
条 1 項が適用されるとしたものとして、
最高裁 H.15.10.21 第三小法廷判決・民集 57-9-1213 参照)。
従って、本件契約の更新を拒絶するには同条の正当事由が必要である。
・・・被告(転借人を含む。)
には本件建物部分を使用する必要性があるのに対し、原告には、被告における必要性に比して、
本件建物部分を使用する必要性は低いものということができるから、原告の主張するその余の事
情(サブリース契約の契約期間の満了や立退料の申出等)を考慮しても、原告による本件更新拒
絶には正当事由があるとはいえない。
」
判時 2153-49
[東京地裁 H.24.1.27 判*]H22(ワ)5552 号 地位確認請求事件(一部認容・一部棄却、控訴)
労働契約法 16 条
採用面接における自己の不都合な事項に関する告知義務 ― ①.採用を望む応募者が、採用面接
にあたり、雇用契約締結過程に於ける信義則上の義務として、告知すれば採用されないかもしれ
ない事項につき、自発的に告知する法的義務があるとは言えない。
「採用の時点で、応募者がどの
ような人格識見を有するかどうかを審査するのは、採用する側である。それが大学教授の採用で
あっても、本件のように、告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を
求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自
発的に告知する法的義務があるとまで見ることはできない。
」
②.バワハラ・セクハラの問題による社会的評価の低下等は教員に採用以前から存在した可能性
が現実化したものであり、被告学校法人が採用時にそれを看過し、また問題にしなかったのに、
規定所定の解雇事由に該当するとして行った解雇は無効である。
労働判例 1047-5
藤内和公・民商 147-3-97
*藤内評釈:本件は応募者側の不作為の事案であるが、応募者を判断するうえで重要な詐称が事
前に発覚していれば客観的にみて使用者は労働契約を締結しなかったであろうと認められるよ
うな重要な経歴詐称は、正当な懲戒解雇事由に該当するというのが判例の傾向である(神戸地
裁 S.30.4.21 判・S30 (ヨ) 72 号・労民集 6-2-172)
。
[最高裁三小 H.24.2.7 決定*]H23(許)31 号 担保不動産競売手続取り消し決定に対する執行
46
民事執行法 59 条・63 条・188 条・
抗告棄却決定に対する許可抗告事件(抗告棄却)
195 条、民法 258 条 2 項
民法 258 条2項所定(共有物分割)の競売を命ずる判決に基づく不動産競売と民事執行法59
条及び63条の準用の有無 ― 「民法258条2項所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競
売について,民事執行法59条(売却に伴う権利の消滅等)が準用されることを前提として同法
63条(剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)が準用されるものとした原審の判断は,正当
として是認することができる。
」
集民 240-1 判時 2163-3 判タ 1379-104 金判 1393-30 金法 1959-97
徳田和幸・判例評論 653-12 西川佳代・リマークス 47-130 青木哲・金法 1977-44
栗田隆・民商 147-1-100
原審:東京高裁 H.23.3.31 決定・H22(ラ)2289 号
金判 1393-34
一審:前橋地裁高崎支部 H.22.11.22 決定・H22(ケ)127 号
金判 1393-34
*徳田評釈:民法 258 条 2 項によれば、共有物の分割が裁判所に請求された場合に、共有物の現
物を分割することができないとき、または分割によってその価格を著しく減少させるおそれが
あるときは、裁判所は、その競売を命じることができる。その共有物の換価のための競売を命
ずる裁判は、共有物が不動産である場合には、本件事案でもみられるように、
「共有不動産を競
売に付し、その売却代金から執行費用を控除した金額(ないしは売得金)を享有者の持ち分の
割合に応じて分割することを命ずる。
」という形でなされるが、この判決が確定すれば、各共有
者は、民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売、いわゆる狭義の形式競売の申
立をすることになる。しかしながら、民事執行法 195 条は、形式競売については、
「担保権の実
行としての競売の例による」と定めているにとどまり、担保権の実行としての競売に関する規
定が具体的にどのように準用されることになるのかは明らかにされていない。本決定は、共有
物分割のための不動産競売について、民事執行法 59 条が準用されることを前提として同法 63
条が準用されると解することを、最高裁として初めて明らかにしたものであり、執行法上重要
な意義を有すると言えよう。
[名古屋高裁 H.24.2.7 判*]H23(ネ)951 号 貸金等請求事件(控訴棄却、上告・上告受理申立)
民法 424 条、会社法 5 編 3 章 2 節 2 款
企業再生目的の新設分割が詐害行為に当たるとして価格賠償を認容した一審判決を是認 ―
1.債務超過で支払不能状態にあった会社が倒産を回避し事業価値を保存する目的で新設分割を
実行したものであるとしても、残存債権者と設立会社に債務を承継された債権者との間に著しい
不平等が生ずる恣意的な債権の選別をしている場合は、当該会社分割について詐害行為取消権を
行使し、価格賠償を請求することができる。
2.詐害行為取消権の行使により逸失財産の返還請求をすることができる範囲は、当該債権者の
債権額が基準となり、その清算価値相当額が基準となのではない。
判タ 369-231 金判 1394-46 金法 1945-111
森本滋・リマークス 46-90
一審:
[名古屋地裁 H.23.7.22 判*]
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[最高裁一小 H.24.2.23 判*] H23 (受)268 号・配当異議事件(破棄差戻)
民事保全法 20 条、民訴法 143 条 1 項
仮差押命令により保全される債権の範囲:仮差押命令は、当該命令に表示された被保全債権と
異なる債権についても、これが上記被保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば、その
実現を保全する効力を有する
[判示要旨] 「仮差押命令は、当該命令に表示された被保全債権と異なる債権についても、こ
れが上記被保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば、その実現を保全する効力を有する
47
ものと解するのが相当である(最高裁 S.25(オ)63 号・S.26.10.18 第一小法廷判決・民集 5-11-600
参照)
。・・・本件仮差押命令の被保全債権である本件損害賠償債権(不法行為損害賠償請求権)
は、債務者である A が債権者である上告人に無断で担保物件を取壊したことにより、本件貸金債
権の回収が困難になり、本件貸金債権相当額を含む損害を被ったことを理由とするものであるか
ら、本件貸金債権の発生原因事実は、本件損害賠償債権の発生原因に包含されていることが明ら
かである。そうすると、本件貸金債権に基づく請求は、本件損害賠償債権に基づく請求と、請求
の基礎を同一にするものと云うべきである。以上によれば、本件仮差押命令の被保全債権である
本件損害賠償債権に基づく上告人の A に対する請求を棄却する判決が確定しているとしても、上
告人は同訴訟での予備的請求であった本件貸金債権に基づく A に対する請求を容認する確定判決
を取得しているのであるから、本件供託金取戻請求につき被上告人が申立てた強制執行手続にお
いて、本件仮差や冴え命令の債権者としての地位に基づき配当を受領し得る地位を有していると
いうべきである。よつて、上告人は、本件配当表における他の差押債権者である被上告人の配当
額を否定することにより自己の配当額を増価させ得る立場にあり、本件得訴えにつき訴えの利益
がある。
」
民集 66-3-1163 判時 2148-65 判タ 1370-122 金法 1950-107 金判 1387-14 &1394-42
高見進・判例評論 648-2
小原将照・法学研究(慶大)86-2-92 安達栄司・金判 1416-8
萩屋昌志・H24 重要判ジュリ 1453-133 河津博史・銀行法務 745-57
印藤弘二・金法 1977-56
塩崎勤・銀行法務 756-15
酒井一・民商 147-1-77
上田竹志・法学セミナー694-132
川嶋四郎・法学セミナー715-150
市川多美子・ジュリ 1484-96
原審:東京高裁 H.22.10.20 判・H22(ネ)3303 号
民集 66-3-1177 金判 1387-20
一審:東京地裁 H.22.4.13 判・H21(ワ)1113 号
民集 66-3-1171 金判 1387-22
[最高裁一小 H.24.3.8 判*]H21(受)1186 号 損害賠償・残業代支払請求・仮執行による
原状回復請求申立事件(一部破棄差戻・一部上告棄却)
労働基準法 32 条・改正前 37 条 1 項
テックジャパン事件
基本給を月額で定めた上で月間総労働時間が一定の時間を超える場合に1時間当たり一定額を
別途支払うなどの約定のある雇用契約の下において,使用者が,各月の上記一定の時間以内の
労働時間中の時間外労働についても,基本給とは別に,労働基準法(平成20年法律第89号
による改正前のもの)37条1項の規定する割増賃金の支払義務を負うとされた事例 ― 基本
給を月額41万円とした上で月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり一定額を
別途支払い,140時間未満の場合に1時間当たり一定額を減額する旨の約定のある雇用契約の
下において,次の(1),(2)など判示の事情の下では,労働者が時間外労働をした月につき,使用者
は,労働者に対し,月間総労働時間が180時間を超える月の労働時間のうち180時間を超え
ない部分における時間外労働及び月間総労働時間が180時間を超えない月の労働時間における
時間外労働についても,上記の基本給とは別に,労働基準法(平成20年法律第89号による改
正前のもの)37条1項の規定する割増賃金を支払う義務を負う。
(1) 上記の各時間外労働がされても,上記の基本給自体が増額されるものではない。
(2) 上記の基本給の一部が他の部分と区別されて同項の規定する時間外の割増賃金とされて
いたなどの事情はうかがわれない上,上記の割増賃金の対象となる1か月の時間外労働の時間数
は各月の勤務すべき日数の相違等により相当大きく変動し得るものであり,上記の基本給につい
て,通常の労働時間の賃金に当たる部分と上記の割増賃金に当たる部分とを判別することはでき
ない。 (桜井龍子裁判官の補足意見がある。
)
集民 240-121
判時 2160-135
藤原稔弘・判例評論 652-26 小畑史子・民商 147-2-101
山下昇・法学セミナー699-147
原審:東京高裁 H.21.3.25 判・H20(ネ)2995 号ほか
48
一審:横浜地裁 H.20.4.24 判 H19(ワ)2377 号ほか
[最高裁二小 H.24.3.16 判①*] H22(受)336 号・第三者異議事件(上告棄却)
民法 162 条・177 条・397 条
不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から
抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合における,再度の取得時効の完成と上記抵
当権の消長 ― 不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま、第三者
が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において、上記不動産の時効
取得者である占有者が、その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続し、その期間の経過後
に取得時効を授用したときは、上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅
を妨げる特段の事情がない限り、上記占有者が,上記不動産を時効取得する結果,上記抵当権は
消滅する。 (古田祐紀裁判官の補足意見がある。)
民集 66-5-2321 判時 2149-68 判タ 1370-102 金判 1395-22
平野裕之・金法 1977-33
中村肇・金判 1412-2
五十嵐直行・H24 重要判ジュリ 1453-69
松尾宏・法学セミナー694-130 河津博史・銀行法務 746-59 松尾弘・法学セミナー694-130
伊藤栄寿・銀行法務 747-4 大久保邦彦・民商 146-6-73 田中淳子・法律時報 85-3-128
西村曜子・北大法学論集 63-6-22
松岡久和・別冊ジュリ 223-188
原審:福岡高裁宮崎支部 H.21.11.27 判・H21(ネ)116 号
民集 66-5-2341 金判 1391-20
一審:鹿児島地裁名瀬支部 H.21.6.24 判・H20(ワ)287 号 民集 66-5-2329 金判 1391-20
[最高裁二小 H.24.3.16 判②*] H22(受)332 号・生命保険契約存在確認請求事件(破棄差戻)
消費者契約法 10 条、民法 91 条・541 条、
商法(H.14 改正前)3 編 10 章:保険、保険法 3 章:生命保険・4 章:傷害疾病定額保険
保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに生命保険契約が失効する旨を定める約款の
条項の、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の
利益を一方的に害するもの」への該当性(消極)
[判示要旨]
生命保険契約に適用される約款中の保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに保険契
約が失効する旨を定める条項は、 (1).これが,保険料が払込期限内に払い込まれず、かつ、その
後1か月の猶予期間の間にも保険料支払債務の不履行が解消されない場合に、初めて保険契約が
失効する旨を明確に定めるものであり、 (2).多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特
質を踏まえて上記約款に、払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは、自動
的に保険会社が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる旨の条項が
置かれており、 (3).保険会社が、保険契約の締結当時、上記債務の不履行があった場合に契約失
効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う実務上の運用を確実にしているときは、消
費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的
に害するもの」に当たらない。
[須藤裁判官の反対意見要旨]
:
「保険契約者にとって、保険契約が失効することは致命的なこと」
であり、上記(2)の配慮条項があることに加えて実務の運用で督促通知が確実に行われている事
実が認められるとしても、消費者たる保険契約者には、民法 541 条の催告を受けて不履行状態を
解消することができるのと同等の地位が法的に担保されていないことになる。従って、本件失権
条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものにあたり、消費者契約法 10 条前段に
加えて同条後段にも該当し、無効と言うべきである。無催告失権条項を無効と判示した原判決を
相当とされている。
民集 66-5-2216 判時 2149-135 判タ 1370-115 金判 1389-14 金法 1948-75
潮見佳男・H24 重要判ジュリ 1453-67
村田敏一・リマークス 46-106
49
浅井弘章・銀行法務 744-59 後藤巻則・金法 1953-71 土岐孝宏・法学セミナー690-143
中川敏宏・法学セミナー689-126 得津晶・北大法学論集 64-5-170
福本忍・法律時報 87-1-121
原審:東京高裁 H.21.9.30 判・H.21(ネ)207 号(原判決取消・請求容認・上告)
民集 66-5-2300 判タ 1317-72 金判 1327-10 金法 1882-82
神作裕之・別冊ジュリ 202-160
一審:横浜地裁 H.20.12.4 判・H20(ワ)721 号(請求棄却・控訴)
民集 66-5-2279 金判 1327-19
*差戻審:東京高裁 H.24.10.25 判・H24(ネ)2459 号(判タ 1387-266)は、本上告審の判断枠組
をもとに、本件失権条項は消費者契約法 10 条後段の要件に該当しないと判断し、控訴を棄却し
た。
*村田評釈:消費者契約法施行後の保険契約につき、無催告失権条項の有効性が争点となった唯
一の最高裁判例である。判示が指摘するように、保険契約では保険料の不払により反対給付が
停止されないために、契約者に不履行を気付かせる制度としての催告の重要性は重い。そこで、
消費者契約法 10 条後段要件(信義則違反)を判断する核心事項として、実質的に催告に代替す
る措置が整備されているかの判断につき、事実審に差戻された訳である。判旨は、当該事項の
判断に関して「多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質を踏まえ」という表現を
用いているが、その具体的意義は、到達の確実性と、そのコストが保険料にも跳ね返る追加コ
ストの比較考量の必要性を意味するものと理解される。結局のところ、本件で消費者契約法 10
条後段要件該当性を否定するにあたり、主たる考量要因は「履行の催告に代替するものとして
の契約締結時の保険料払込督促態勢整備およびその後の実務運用の確実性」であり、従たる考
量要因は「約款上に規定された保険料払込の猶予期間制度の 1 カ月が妥当か」及び直ちに不履
行としない「約款上に規定されている自動振替貸付条項」と解される。
本件差戻後控訴審は、保険料払込の督促態勢の整備と、その実務上の運用の確実性を認定し、
本件失効条項につき消費者契約法 10 条に反して無効とは言えないとして、控訴を棄却した(東
京高裁 H.24.10.25 判・金判 1404-16)。
*二審・神昨評釈:消費者契約法 10 条は、任意規定から乖離した条項であって信義則に反して消
費者の利益を一方的に害する条項を無効とする。本判決は、同法 10 条に基づき、実務で広く用
いられている生命保険契約約款等における無催告失効条項を無効とした高裁レベルの初めての
公表裁判例である。消費者契約法施行(H.13)前は、無催告失権条項は一般に有効と解されてき
た(
[東京地裁 S.48.12.25 判*]
、東京高裁 H.11.2.3 判・判時 1704-71)
。同法施行後も学説は、
葉書による催告が実務上行われていることから不当条項として無効というべきでないとしてい
た(山下友信・
「保険法」有斐閣 2005.3 刊-343 頁)
。
[東京高裁 H.24.3.19 判*] H23(ネ)7546 号損害賠償請求事件(原判決取消・請求棄却・確定)
H17 改正前商法 629 条・640 条、保険法 21 条、
個人賠償責任保険における地震免責条項の解釈 ― ①.個人財産総合保険契約の個人賠償責任
総合補償特約約款における地震免責条項は、免責の対象となる地震の意義ないし範囲等につき何
ら限定を付しておらず、社会通念上「地震」の意義は明確であり、保険事故の原因となった現象
が地震であるかどうかは紛れがないから、
「地震」につき強度、規模等により限定的に解釈するこ
とはできない。
②.地震と相当因果関係のある損害は地震免責条項の対象になると解それるところ、東北地方太
平洋沖地震の発生直後に、震度 5 強を観測したマンション上階居室の電気温水器の排水管に亀裂
が生じたことから水漏れ事故が発生し、同居室自由人である保険契約者が階下事住人に損害賠償
責任を負担するという形で損害を被った場合、この損害は地震と相当因果関係があると認められ、
地震免責条項が適用される。
判時 2147-118 判タ 1374-197 金法 1958-96 金判 1392-37 自保ジャーナル 1871-13
50
後藤元・損保研究 75-1-179
土岐孝宏・法学セミナー692-129
一審:東京地裁 H.23.10.20 判・H23(ワ)11368 号
金判 1392-45
渡辺雅之・NBL976-8
[最高裁二小 H.24.4.27 判*] H21(受)1923 号・保険金請求事件(一部破棄自判・
民法 91 条、保険法 2 章、商法 514 条
一部棄却)
一、 損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない自動車保険契約の無保険車傷害
条項に基づき支払われるべき保険金の額の算定方法 ― 損害の元本の額から自賠責保険等か
らの支払額の全額を差引くことにより算定すべきであり、上記支払額のうち損害の元本に対する
遅延損害金に充当された額を控除した残額を差引くことにより算定すべきでない。
二、自動車保険契約の無保険車傷害条項に基づく保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率
―「商事法定利率である年 6 分と解すべきである。
」
*無保険車傷害保険金とは、相手自動車が無保険自動車である場合に支払われるものであり、賠
償義務者に代わって損害を填補するという性格を有するものである(最高裁三小 H.18.3.28 判・
民集 60-3-875、判時 1927-142)
。
集民 240-223 判時 2151-112 判タ 1371-133 金判 1396-16 河津博史・銀行法務 750-56
原審:名古屋高裁 H.21.7.9 判・H21(ネ)22 & 425 号
金判 1396-20
一審:名古屋地裁 H.20.12.2 判・H19(ワ)4537 号
金判 1396-24
[東京地裁 H.24.4.27 判*]H23(ワ)14549 号・損害賠償請求事件(一部容認・一部棄却・
民法 709 条・719 条・722 条
控訴)
ミネラルウォーターの製造棟の為に使用されている町当局設置の送水管を、同送水管が設置さ
れていた土地の所有者等がこれを切断して管路断水器等を設置する行為が、許されざる自救行
為として不法行為に当たるとされ、製造業者の営業上の損害が認められた事例 ― 「町が所有
し原告が使用する本件送水管を切断して管路断水器等を設置する行為は、他人の所有物及びこれ
を使用収益する利益を侵害する行為であり、許されざる自救行為として違法であることは明らか
である。
」
判時 2160-47
[東京高裁 H.24.5.24 判*] H23(ネ)2636 号 譲受債権請求控訴事件(原判決取消・
民法 95 条・468 条
請求棄却・確定)
一、物的担保の価値を誤信して締結した保証契約の錯誤無効の成否(積極) ― 保証人におい
て、主たる債務者が融資を受けて購入する物件の担保価値が十分であって、主たる債務者が返済
を怠っても、保証人の責任が追及されることはないと誤信して、保証契約を締結した場合におい
て、融資をする債権者の担当者の当該担保価値に関する発言が事実ではなく、反対に、債権者の
査定基準によれば、当該担保価値が融資額に不足していたのに、担当者の発言を前提に、そのよ
うな誤信をして保証契約を締結したときは、保証人の動機が表示されていたことは明らかである
から、当該保証契約は、保証人の表示した動機に錯誤があった以上、要素の錯誤によって無効と
なる。
二、主債務の債権譲渡を異議なく承諾した場合と譲受人に対する保証債務の錯誤無効主張の可
否(積極) ―債権譲渡の保証人による承諾時において、保証人は、本件連帯保証契約に表示
された動機に錯誤があったことを知らず、同契約が無効であることを主張することは期待できな
かったというべきであるから、同承諾が、債権譲渡に対する異議を留めない承諾にあたると解す
る余地があるとしても、債権譲受人に対して本件連帯保証契約の無効を主張することは妨げられ
ないと解すべきである。
判タ 1385-168 金判 1401-36 金法 1962-94
中舎寛樹・リマークス 47-38
山田希・銀行法務 759-20 谷本誠司・銀行法務 752-55
51
一審:新潟地裁 H.23.3.2 判・H21(ワ)147 号
金判 1401-44
*中舎評釈・山田評釈はいずれも評釈の最後の部分で、善意無過失の債権譲受人に対する「二」
の判示には反対されている。
[最高裁二小 H.24.5.28 判*] H21(受)1567 号・預金返還請求事件(一部破棄差戻・
民法 462 条、破産法 2 条 5 項・67 条 1 項・72 条 1 項 1 号
一部上告棄却)
一、 保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基
づき、同手続開始後に弁済した場合に於いて、保証人が主たる債務者に対して取得する求
償権は、破産債権である ― 「当該求償権の発生の基礎となる保証関係は、その破産手続
開始前に発生しているということができるから、当該債権は『破産手続開始前の原因に基づいて
生じた財産上の請求権』
(破産法 2 条 5 項)に当たるというべきである。」
二、保証人が主たる債務者の破産手続開始前にその委託を受けないで締結した保証契約に基づ
き同手続開始後に弁済した場合において、
「保証人が取得する求償権を自働債権とし、主たる
債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は、破産法 72 条 1
項 1 号の類推適用により許されないと解するのが相当である。」 補足意見がある。
民集 66-7-3123 判時 2156-46 判タ 1375-97 金判 1397-20
松下淳一・金法 1977-26
中島弘雅・H24 重要判ジュリ 1453-137
栗田隆・リマークス 47-134
深川裕佳・法律時報 87-2-118
原審:大阪高裁 H.21.5.27 判・H20(ネ)2971 号 民集 66-7-3220 金判 1393-26 金法 1878-46
一審:大阪地裁 H.20.10.31 判・H19(ワ)6131 号
民集 66-7-3168 判時 2060-114
[大阪高裁 H.24.5.29 判*]H23(ネ)1580 号・損害賠償請求事件(一部取消・一部棄却・上告)
民法 415 条・709 条
運送会社の従業員が石綿粉塵に曝露し中皮腫を発症死亡した事故につき、雇用主である運送会
社の責任を認めたが、委託者アスベスト会社の責任は否定 ― ①運送会社は安全配慮義務違反
による損害賠償責任を免れないが、 ②.石綿原料等の運搬を委託した一審相告アスベスト会社に
は、
「本件期間中(S.44~46)時点では、一審被告同会社は、石綿が粉塵に長時間曝露される従業
員のみならず、工場に出入りする者等に対しても、少量の曝露を防ぐため、徹底した粉塵対策を
要する有害物質であるとは認識していなかったし、また、認識が可能であったとまでは認められ
ない。従って、一審被告同会社が、本件期間当時において、王寺工場に出入りする者に対して、
石綿粉塵に曝露しないように防止する一般的な注意義務を負っていたとまでは認められない。」
同アスベスト会社の一審敗訴部分を取消し、同社に対する請求を棄却した。
判時 2160-24
伊藤浩・リマークス 47-54
一審:大阪地裁 H.23.3.30 判・H20(ワ)1761 号
判時 2133-41
判タ 1366-195
*最高裁判例は、雇用関係がなくとも、指揮監督ないし使用従属の関係があるときには、安全配
慮義務の成立を認めている:最高裁一小 S.55.12.18 判・民集 34-7-888・判時 992-44、最高裁
一小 H.2.11.8 判・判時 1370-52、最高裁一小 H.3.4.11 判・判時 1391-3。
[福岡高裁 H.24.6.18 決定*] H24(ラ)227 号 債権差押命令申立却下決定に対する執行
民事執行法 143 条、民執規則 133 条 2 項 抗告事件(許可抗告と特別抗告は不許可・棄却)
請負代金債権の差押命令の申立につき、契約内容を具体的に特定せず、一定の期間内に施工し
た工事等の請負代金債権という表示では、差押債権の特定を欠き不適法であるとされた事例 ―
① 「上記最高裁決定(
[最高裁三小 H.23.9.20 決定*]
)は、預金債権を差押債権とする債権差押
命令申立事件において、いわゆる預貯金債権の全店一括順位付方式による差押債権の表示は、差
押債権の特定を充たすか否かを判断した事案である。そして、同決定は、民事執行法が定める債
52
権差押命令の効果を検討した上で、差押債権の特定の有無の判断基準を一般的に示しており、預
貯金債権に限定したものではない。そうであれば、本件の請負債権を差押債権とする事案におい
ても、その判断基準は妥当するものである。
」
② 本件差押債権は、債権発生の契約自体が特定されておらず、支払期の早いものから一定の金
額に満つるまでというものである。支払期限が同日のものが複数存在する可能性を否定できない
ので、特定されているとは言えない。また、一次的には、第三債務者が、自ら保管する帳簿等の
資料に基づき書く債権に対する差押の額を判断しなければならず、判断のリスクを第三債務者に
負わせることになり、その詐欺用は第三債務者にとって容易ではない。
「かような観点からすると、債権差押命令の送達が第三債務者になされた場合、差押の効力が
送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差押えら
れた債権を識別することができるように、少なくとも基本契約が締結されているのであれば基本
契約の、基本契約が締結されていないのであれば、一つ一つの契約の、締結時期、契約内容の概
要、請負契約の具体的種類による特定程度はすべきである。
」
判時 2195-32
石毛和夫・銀行法務 766-59
一審:福岡地裁 H.24.4.25 決定・H24(ル)736 号 判時 2159-34
[東京高裁 H.24.6.20 判*]H24(ネ)1331 号 否認権行使請求控訴事件(控訴棄却・確定)
破産法 160 条・168 条 4 項・170 条、会社法 5 編 3 章 2 節 2 款(株式会社新設分割)
濫用的会社分割にかかるコンサルタント業務をしてその業務報酬を受けたコンサルタント業者
に対する否認権の行使に基づく当該報酬の返還請求が是認された事例 ― ①分割会社の破産管
財人の新設会社に対する否認権の行使に基づく価格賠償請求を容認した第 1 審判決は、新設会社
が分割会社の債務について重畳的債務引受をしているとしても、これによって分割会社による弁
済は予定されていないとまでいうことはできず、分割会社が取得した新設会社の株式・社債につ
いて資産性が認められない以上、原判示の事実関係に異なるところはなく、これを是認すること
ができる。
② 分割会社の破産管財人の、会社分割に係るコンサルタント業務の報酬の支払を受けた第三
者(コンサルタント業者)に対する否認権の行使に基づく当該報酬の返還請求を容認した第 1 審
判決は、当該コンサルタント業務契約が当初から詐害性のある会社分割を実施することを目的と
して締結されたものと推認することができ、また、会社分割が詐害行為取消権ないし否認権の対
象とならないという考えが実務上主流であったとは認められない以上、原判示の事実関係に異な
るところはなく、これを是認することができる。
判タ 1388-366 金法 1960-143
一:東京地裁 H.24.1.26 判・H22(ワ)43620 号 金法 1945-120 石毛和夫・銀行法務 745-58
*濫用的会社分割に一例を加えるものであり、[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈参照。
[神戸地裁尼崎支部 H.24.6.28 判*] H21(ワ)121 号・損害賠償請求事件(一部認容・
民法 709 条・415 条・710 条
一部棄却・控訴)
運送会社の運転手らが石綿の運送業務中に石綿粉塵を吸引し悪性中皮腫等に罹患し死亡した事
故につき、会社の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任が認容された事例 ― 被告運送会社
の安全配慮義務等及びその前提たる予見可能性について:
「被告は、本件元従業員らについて、雇
用契約の付随義務として、信義則上、その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安
全配慮義務又はそのような社会的関係に基づく信義則上の注意義務を負っていたものである。
また、被告に対する不法行為上の注意義務及びその違反について、原告らが主張立証すべき事実
は、上記安全配慮義務及びその違反を主張する場合とほとんど変わるところがないため、以下で
は、まとめて検討を加える。 労働者が、使用者の安全配慮義務等の内容を特定し、かつ、義務
違反に該当する事実を主張するにあたって、その前提として使用者が認識すべきであったとする
53
予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑みれば、生命、健康に対する障害の
病名、性質、程度や発生頻度まで具体的に認識しない限りその責任を問うことができないとする
理由は存せず、生命、健康の安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であっても、労働者の
労働環境等を考慮して、その予見義務の内容に対応した安全配慮義務等の内容が特定され、その
違反が認められるときには、使用者は債務不履行または不法行為上の責任を免れ得ないものであ
り、更に、予見義務の内容が高度になったり具体化したりすれば、それに伴って、安全配慮義務
等もより高度なものになり、その義務を尽くして労働環境を改善すべき範囲等も広がっていくも
のと解するのが相当である。
」 5 名の労災死亡につき、請求額 2 億 2,225 万円の訴額につき、慰
謝料と弁護士報酬の合計額 1 億 3,740 万円が認容された。
判時 2160-63
[東京高裁 H.24.7.11 判*] H23(ネ)6129 号 保険金請求控訴事件(原判決取消・被控訴人
消費者契約法 10 条
の請求棄却、上告不受理決定)
保険契約の無催告失効条項が、保険料督促の確実な実務態勢の存在から消費者契約法 10 条に
違反せず有効と認定され、保険契約復活後の自殺免責条項の適用が肯定された事例
[判示要旨]
本件保険契約の締結当時、保険料支払債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に
対して保険料払込の督促を行う態勢を整え、そのような実務上の運用が確実にされていたとすれ
ば、通常、保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができると考えられ
るから、本件失効条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当らないと解さ
れる(
[最高裁二小 H.24.3.16 判*]
)
。
本件免責条項が復活時にも一定の期間を自殺免責期間として再開することとしているのは、当
初の自殺免責期間と同様に、一定の期間内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って、動機・
目的にかかわれなく、一律に保険者を免責することによって生命保険契約が不当な目的に利用さ
れることを防止する考えによるものと解され、個別の保険契約者の動機・目的により、その適用
が左右されることは相当ではない。
金判 1399-8
金法 2018-82
水野信次・銀行法務 788-65
三宅新・ジュリ 1473-55
原審:東京地裁 H.23.8.18 判・H22(ワ)41247 号
金判 1399-16
[京都地裁 H.24.7.13 判*] H21(ワ)5151 号 地位確認等請求事件(一部認容一部棄却・控訴)
民法 623 条、労働基準法 32 条・38 条 1 項、労基法施行規則別表 1 の 2(35 条関係)8 号
マンナ運輸事件
運輸会社従業員(準社員)である大型貨物自動車運転手の兼業不許可の合理性・不法行為性の
有無 ― ①「労働者は、雇用契約の締結によって一日のうち限られた勤務時間のみ使用者に対
して労務提供の義務を負担し、その義務の履行過程においては使用者の支配に服するが、雇用契
約及びこれに基づく労務の提供を離れて使用者の一般的な支配に服するものではない。労働者は、
勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、
労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許さなけれ
ばならない。 もつとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供
が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱
す事態が生じることもあり得るから、このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって
兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。 そして、労働者が提供すべき労
務の内容や企業秘密の機密性等について熟知する使用者が、労働者が行おうとする兼業によって
上記のような事態が生じ得るか否かを判断することには合理性があるから、使用者がその合理的
判断を行うために、労働者に事前に兼業の許可を申請させ、その内容を具体的に検討して使用者
がその許否を判断するという許可制を就業規則で定めることも、許されるものと解するのが相当
である。ただし、兼業を許可するか否かは、上記の兼業を制限する趣旨に従って判断すべきもの
54
であって、使用者の恣意的な判断を許すものではないほか、兼業によっても使用者の経営秩序に
影響がなく、労働者の使用者に対する労務提供に格別支障がないような場合には、当然兼業を許
可すべき義務を負うものと言うべきである。
」
② 原告準社員は、被告使用者会社からアルバイトによる兼業申請が不許可になったことによ
り生活の足しにする収入を得ることができず、慰謝料 30 万円の支払を被告に判示。
労働判例 1058-21
濱口桂一郎・ジュリ 1458-99
中村和雄・労働法律旬報 1778-52
[最高裁三小 H.24.7.24 決定*] H24(許)1 号債権差押命令申立却下決定に対する執行
民事執行法 143 条
抗告棄却決定に対する許可抗告事件(一部破棄自判・一部抗告棄却)
民事執行規則 133 条 2 項
将来預金の差押における差押債権の特定
普通預金債権のうち、①差行押命令送達時 及び ②同送達の日から起算して 1 年が経過する
までの入金で、入金の早いものから差押債権目録記載の金額に充まで、の②の部分が差押債権
の特定を欠き不適法であるとされた事例 ― ②については「債権差押命令における差押債権の
特定は、債権差押命令の送達を受けた第三債務者において、直ちにとはいえないまでも、差押の
効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、
差押えられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当である(
[最
高裁三小 H.23.9.20 決定*]参照)
。
「これを本件についてみると、普通預金債権が差押えられた
場合、預金残高のうち差押債権の額を超える部分については、第三債務者は預金者からの払戻請
求に応ずるべき普通預金契約上の義務を負うものと解されるところ、本件申立は、将来預金の差
押を求めるものであり、この部分については、普通預金の性質上、預金残高を構成する将来の入
出金の時期及び金額をあらかじめ把握することができないのであるから、本件申立が認められた
とするならば、第三債務者である預金銀行において、差押命令送達の日から起算して 1 年の期間
内に入出金が行われるたびに、預金残高のうち差押債権の額を超える部分と超えない部分とを区
別して把握する作業を行わなければ」差押の額を超える額についての払戻請求に応ずる義務を履
行することができない。 しかし、それを可能にする「特定の普通預金口座への入出金を自動的
に監視し、常に預金残高を一定の金額と比較して、これを上回る部分についてのみ払戻に応ずる
ことを可能とするシステムは構築されていないなど判示の事情の下においては、差押債権の特定
を欠き、不適法である。
」 補足意見がある。
集民 241-29 判時 2170-30 判タ 1384-126 金法 1961-94 金判 1397-8 & 1408-26
河野正憲・判例評論 659-18
松村和徳・H24 重要判ジュリ 1453-129
町田余理子・法律時報 85-13-383
山木戸勇一郎・法学研究(慶大)86-1-51
阿多博文・民商 147-4・5-104 石毛和夫・銀行法務 748-55 山中利晃・ジュリ 1476-100
原審:名古屋高裁 H.23.12.8 決定・H23(ラ)402 号
金判 1397-17
一審:名古屋地裁 H.23.11.9 決定・H23(ル)3160 号
金判 1397-17
*山中評釈:本決定は[最高裁三小 H.23.9.20 決定*]に関する事例判断ではあるものの、差押
債権の表示のうち、将来預金に関する部分は差押債権の特定を欠くとの判断を最高裁が初めて
示したものであり、実務上重要な決定である。
[最高裁三小 H.24.9.4 判*] H22(受)1280 号 所有権移転登記抹消登記手続等、賃料債権
民事執行法 145 条・151 条
取立請求事件(一部破棄差戻・一部上告棄却)
賃料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場
合において,その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否(消極) ― 賃貸人
が賃借人に賃貸借契約の目的である建物を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した以上は,そ
の終了が賃料債権の差押えの効力発生後であっても,賃貸人と賃借人との人的関係,当該建物を
譲渡するに至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして,賃借人において賃料債権が発生
55
しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情がない限り,差押債権者は,
第三債務者である賃借人から,当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができ
ない。
集民 241-63 判時 2171-42 判タ 1384-122 金判 1423-46 同 1400-16
我妻学・金判 1433-8 小粥太郎・ジュリ重要判 1453-79
占部洋之・民商 147-6-85
松尾弘・法学セミナー700-130
町田余理子・法律時報 87-3-112
原審:大阪高裁 H.22.3.26 判・H21(ネ)2753 号
金判 1400-22
一審:大阪地裁岸和田支部 H.21.9.29 判・H20(ワ)928 号他
金判 1400-27
[東京高裁 H.24.9.7 決定*]H24(ラ)1423 号・再生手続開始決定に対する抗告事件
民事再生法 25 条
(原決定取消・申立棄却、抗告不許可)
否認権の行使のみを目的とした民事再生手続開始の申立が、民事再生法 25 条 4 号所定の「不
当な目的」でされた場合に該当するとして棄却された事例 ― 再生手続開始の申立が、債務者
がその負担した連帯保証債務を専ら免れる方法として再生手続における否認権行使を利用しよう
としてされたと認められる以上、当該申立は、連帯保証債務の取消のみを目的とした申立であっ
て、本来の目的から逸脱した濫用的な目的でされた申立ということができるから、民事再生法 25
条 4 号所定の「不当な目的で再生手続開始の申立がされたとき」に該当するものとして、これを
棄却すべきである。
金判 1410-57
伊藤尚・金法 1969-6 増市徹・金法 1977-60 谷本誠司・銀行法務 757-69
一審:東京地裁 H.24.6.21 決定 金判 1410-64
*伊藤評釈:民事再生法 25 条 4 号は、真に再生手続を勧める意思がないのに、専ら他の目的の実
現を図るために再生手続開始の申立をする場合など、再生手続本来の目的から逸脱した濫用的
な目的で申立がされた場合をいうものと解される。しかるところ、否認権は、第三者である監
督委員により、法に従い適切に行使されるものであるから、その行使は本来的に再生の目的に
資するものであり、それを目指すことが直ちに不当と解されるわけではない。従って、否認権
の行使のみを目的とし、再生手続を遂行する意思がないような例外的な場合であれば法 25 条 4
号に該当すると解されるが、その様な事例は、本件を含め、極めて例外的な、以上とも言って
いい事案に限られると思われる。他に 1 件のみ、東京高裁 H.24.3.9 決定・H24(ラ)266 号(金
判 1393-46、金法 1954-121)があることを挙げられている。
[東京地裁 H.24.9.12 判*]H23(ワ)19923 号 保険金請求事件(請求棄却・控訴)
消費者契約法 10 条、民法 541 条
生命保険契約の無催告失権条項が消費者契約法 10 条後段に該当しないとされ、同保険契約の
失効を判示 ― [最高裁二小 H.24.3.16 判②*]が、無催告失権条項が消費者契約法 10 条後
段に該当しない要件として判示の三要件中、本件判決は、その一つ自動貸付条項がない事案であ
るが、解約返戻金が小額な定期保険であり、自動貸付条項を定めても貸付の余地が殆どなく、自
動貸付条項がないことに合理的理由があるとして、失権条項は有効と判示。
判タ 1387-336
[東京地裁 H.24.10.4 判*]H23(ワ)10018 号 供託金還付請求権取立権確認請求事件
民法 466 条
(認容・確定)
一、将来債権の譲渡後に当該債権が発生し譲渡禁止特約が付された場合、その特約の存在を知
らないことの基準時は債権譲渡を受けた時であるから、将来債権の譲渡後に譲渡禁止特約が
付された場合、民法 466 条 2 項但書の適用はない。 ― 「本件請負報酬債権は、譲渡禁止
の特約が付されていた。そして、債権の譲渡禁止の特約についての善意(民法 466 条 2 項但書)
56
とは、譲渡禁止の特約の存在を知らないことを意味し、その判断の基準時は、債権の譲渡を受け
た時であるところ、本件請負報酬債権に譲渡禁止の特約を付する合意がされたのは、被告が本件
請負報酬債権を譲受ける契約を締結した後のことであるから、本件請負報酬債権の譲渡当時の被
告の善意について論ずることは不可能であって、無意味というほかない。従って、本件債権譲渡
契約により被告が本件請負報酬債権を取得したとは認められない。」
二、上記将来債権を差押えている債権者は、その債権が譲渡禁止特約が付された後に譲渡され
ても、同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有する。 ― 「原告は、譲
渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者ではなく、同特約の付された債権について差押をし
た債権者であって、同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有するものという
ことができる。従って、原告が本件請負報酬債権の被告への譲渡が無効であると主張することは、
許されるべきである。
」
判時 2180-63 判タ 1387-216
河津博史・銀行法務 760-54
遠藤元一・銀行法務 761-4
石田剛・リマークス 48-26 水津太郎・判例評論 662-21 沖野眞巳・金法 2001-26
*古田:事案は、原告国が租税債権を徴収するため訴外滞納者(工事業者)の有する本件請負報
酬債権を差押えたが、差押に係る債権は、将来発生する債権として被告銀行が譲受けていた。
そこで、差押に係る債権の債務者(工事発注者)は、民法 494 条により、同滞納工事業者又は
同銀行を被供託者として供託をした。原告国は、供託金の還付請求権を差押え、その取立権を
有することの確認を求めて本件訴を提起。
思うに、将来債権は具体的に発生するまでは特定していないのであるから、
「判示要旨一」に
ついては、その後譲渡禁止債権として特定されて発生したのであるから、債権譲渡の対象とな
り得ないのは当然であろう。
[釧路地裁 H.24.10.4 判*] H24(ワ)14 号 預金返還請求事件(請求一部認容・控訴)
民法 478 条
勤務会社からの給料振込に用いられている普通預金を銀行に有する預金者の妻が、同一日に同
銀行の 2 支店の窓口で連続してそれぞれ 199 万円の払戻を受けた場合における、債権の順占有
者に対する弁済を理由とする銀行の免責の成否 ― ①第 1 回目の払戻については、当該払戻が
日時用的に口座への入出金が行われることを予定する普通預金口座であること、銀行の内部規定
として、1 回の払戻額が 200 万円を超えない場合には、本人確認を要しないとする規定があるこ
と、妻の挙動に不審な点が見られなかったことに鑑みると、払戻請求者が口座名義人とは別人で
あることを認識できたからと言って、払戻請求者の正当な受領権限を疑うべき事情があったと認
めるのは困難であるから、債権の準占有者に対する弁済として過失がなく、銀行は免責される。
② 2 回目の払戻については、窓口担当者において、同日中に第 1 回目の払戻がされていること
を認識し得たところ、払戻請求者が別々の支店で本人確認を要しないとされていた 1 回の払戻の
上限額である 200 万円を超えない夫々199 万円ずつの払戻を受けようとするのは、銀行の本人確
認手続を回避しようとするに等しく、正当な払戻権限を有する者ではないのではないかとの疑い
を抱くことができたというべきであるから、窓口担当者としては、払戻請求者に対し、氏名・口
座名義・請求人との関係・第 1 回目の払戻と併せて 2 回に分けて払戻手続を行うに至った理由な
どを尋ねるべきであったのに、これを怠っている以上は、債権の準占有者に対する弁済として過
失がないとは言えないので、銀行は免責されない。
金判 1407-28
池田秀雄・銀行法務 760-36
*池田評釈:民法 478 条(債権の準占有者に対する弁済)の「債権の準占有者」には「債権者の
代理人と称して債権を行使する者についても、同条が適用される」とするのが判例である[最
高裁三小 S.37.8.21 判*]
。 我妻栄・新訂債権総論(民法講義Ⅳ)-[399]も、
「占有の要件たる
「自己のためにする意思」
(民法 180 条・205 条)は、広い概念であって、いわゆる占有代理人
もまたこの意思をもち、その者のために占有が成立し得ることについては、今日の学説・判例
の疑わないところである。債権の準占有についても、同様に、代理欄雄関係を認めるべきであ
57
る。然るときは、債権者の代理人だといって債権を行使する者に対する弁済も準占有者への弁
済とみるべきことはむしろ当然であろう。と述べられている。
次いで同評釈は 39 頁で、H.17「偽造カードと絵および盗難カード等を用いて行われる不正
な機械式預貯金払戻等からの預貯金者の保護等に関する法律」の 5 条 3 項ロ号が「『当該機械式
預貯金払戻が当該預貯金者の配偶者、二親等以内の親族、同居の親族その他の同居人又は家事
使用人によって行われたこと。
』を金融機関が証明した場合には、預貯金者に対して補填を行う
ことを要しない。
」と規定していることに鑑みれば、本件での預金者の配偶者による不正払戻に
おいて銀行の過失が認定されたことに疑問なしとしないと指摘されている。また、41 頁の注 18
で、夫婦間の「婚費分担の原則」
(民法 760 条)からは、預金者の配偶者が預金者の意に反して
不正に払戻し「婚費」に充当したからといつて、当然に預金者を保護すべき「不正払戻」には
当らないであろう。とも指摘されている。
*古田:上記評釈の前段は妥当であるが、後半の指摘は疑問である。預貯金者の保護等に関する
法律」の 5 条 3 項ロ号は、カード機械引出は直接管理が及ばないことから預金者の管理が可能
な配偶者や同居者等に違法引出をさせないようにすることを預金者の責任とする規定であるか
ら、担当者の管理が及ぶ窓口支払には、本人確認等の善管義務が銀行にあることは論を待たな
い。また、民法 761 条(日常の家事に関する債務の連帯責任)は、夫婦が相互に日常の家事に
関して第三者との法律行為につき他方を代理する権限を規定しているに過ぎない(最高裁一小
S.44.12.18 判・S43(オ)971 号・民集 23-12-2476)
。200 万円ないし 400 万円に近い金額の払戻
請求は日常家事とは言えないであろう。大津地裁 H.16.1.9 判(H14(ワ)514 号・金判 1200-55)
は、夫が会社勤務の月額給与 27 円の家庭での夫名義の普通預金の妻による 147 万円の払戻請
求は、日常家事債務の範囲内の行為とは認められないと判示している。
*:
[最高裁三小 S.37.8.21 判*]の末尾の注記も参照。
[最高裁一小 H.24.10.11 判*] H23(受)289 号 自賠責保険金請求事件(破棄自判)
自賠法 15 条・16 条の 3
自動車損害賠償保障法15条(被保険者の保険金請求)所定の保険金の支払を請求する訴訟に
おいて、裁判所が同法16条の3第1項が規定する支払基準(保険会社が従うべき主務大臣が
定めた支払基準)によることなく保険金の額を算定して支払を命じることの可否
[事案概要] H.15.9.18、A 運転の軽四輪自動車が中央線を越えて対向車線を進行し、B 所有 C
運転の普通貨物自動車と正面衝突し A は同日死亡。普通貨物自動車には、Y 損保の自賠責保険と
X 共済の自動車共済契約(任意保険)がされていた。Y 損保は A の相続人らに H.17.3、自賠法
16 条の 3 第 1 項の支払基準により 1,500 万円を支払った(支払基準では、被害者の過失が 9 割以
上 10 割以下であれば保険金額(当時は 3,000 万円)から 5 割減額となっている。)。
A の相続人らは H.18.7、
B・C を被告として本件事故による A の損害金の支払を訴求。H.20.1.29、
A の相続人らと B・C 間で次の通り訴訟上の和解が成立。①.本件事故による A の損害が 7,500 万
円であることを確認 ②.事故の過失割合は A が 6 割、C が 4 割であることを確認 ③B・C は A
の相続人らに過失相殺で 7,500 万円から 6 割減額の 3,000 万円から自賠責既払額を控除した 1,500
万円を支払う。
これに基づき、X 共済が H.20.2.15、自動車共済で 1,500 万円を A の相続人らに支払い、同 X
共済が Y 損保に対して H.20.3.28、自賠法 15 条所定の保険金 1,500 万円を支払うよう請求したが
Y は A には 9 割の重大な過失があり自賠責の支払基準では自賠責金額 3,000 万円から 5 割が減額
されるので、既払の 1,500 万円を超える支払義務はないとして拒否したので、その支払を求めて
提訴したのが本件である。
1 審は、A の過失は 9 割とみるのが相当であるとして、X 共済の請求を棄却。2 審は、A の過失
割合は 8 割が相当とし、自賠法 16 条の 3 第 1 項の支払基準(過失割合が 8 割以上 9 割未満であれ
ば 3 割の減額となっている。)によれば Y 損保は 2,100 万円(3,000 万円×0.7)の自賠責保険金
の支払義務を負うところ、1,500 万円しか支払っていないので、残額 600 万円の限度で X 共済の
58
請求を容認。Y 損保上告。
[判示要旨] 「自賠法 16 条 1 項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請
求する訴訟において、裁判所は、同法 16 条の 3 第 1 項が規定する支払基準によることなく損害
賠償額を算定して支払を命じることが出来るというべきである([最高裁一小 H.18.3.30 判*])。
」
そして、本件の加害者である被保険者が「同法 15 条所定の保険金の支払を請求する訴訟において
も、上記の理は異なるものではないから、裁判所は、上記基準によることなく、自ら相当と認定
判断した損害額及び過失割合に従って保険金の額を算定して支払を命じなければならないと解す
るのが相当である。
」
原判決(2 審)を破棄し、1 審判決を結論において是認し、X の請求を
棄却すべきとした。
集民 241-75 判時 2169-3 判タ 1384-118 金法 1968-82 金判 1406-36 交民集 45-5-1065
自保ジャーナル 1891-1
山下徹哉・損保研究 75-3-379 河津博史・銀行法務 754-58
山野嘉朗・判例評論 653-6 岡田豊基・リマークス 48-98 土岐孝宏・法学セミナー698-133
原審:高松高裁 H.22.11.16 判・H21(ネ)407 号
金判 1406-40
一審:高松地裁丸亀支部 H.21.10.29 判・H20(ワ)207 号
金判 1406-43
*山野評釈:保険会社の支払基準を規定する 16 条の 3 は、H.14 の法改正で設けられたもので、
同条 1 項の法文上は、支払基準による支払義務の主体は自賠責保険会社に限定されているが、
法定化された以上、これは裁判所の判断も拘束するという『拘束説』と、その基準はあくまで
も典型的な事例を前提とした上での判定の「目安」に過ぎないから、硬直的に裁判官を縛るも
のと考えるべきではないとの『非拘束説』が対立していた。
[最高裁一小 H.18.3.30 判*]は、自賠法 16 条 1 項での被害者からの保険会社に対する支払
請求訴訟において、裁判所は、同法 16 条の 3 第 1 項が規定する支払基準によることなく損害
賠償額を算定して支払を命じることが出来ると判示した。この事案では、被害者が上記支払基
準による自賠責保険金 1,809 万 2,496 円受領後に、更に損害額 1,200 万円を訴求した訴訟で、
第 1・2 審とも、同支払基準が被害者や裁判所を拘束すると解することはできないとして、320
万円余の支払を判示したのを最高栽が是認したものである。従ってこの段階の『非拘束説』で
は、被害者救済という自賠法の目的から、上限は拘束しないが下限は支払基準により拘束され
るとする『下限拘束説』も併せ主張されており、その当否にはこの判決はかかわらない。
本件の最高裁 H.24 の事案は、自賠法 15 条での被保険者の請求権を代位行使した任意共済保
険からの請求に、最高裁は H.18 の判決の判決理論を踏襲して支払基準であれば認められた二
審判決を棄却して、
『下限拘束説』を否定した。
最高裁のこの二つ判決により、被害者請求(15 条)
・被保険者請求(16 条)のいずれの場合でも、
裁判所は 16 条の 3 第 1 項の支払基準に完全に拘束されないことが明白になった。
[最高裁二小 H.24.10.12 判*]H22(受)622 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条、会社法 5 編 3 章 2 節 2 款(株式会社を設立する新設分割)
株式会社を設立する新設分割と詐害行為取消権 ― 「会社法その他の法令において、新設分割
が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。また、会社法上、新
設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設
けられているが(同法 810 条)
、一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求で
きる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず、新設分割により新たに設立する株式
会社(以下「新設分割設立株式会社」という。
)にその債権に係る債務が承継されず上記規定によ
る保護の対象ともされていない債権者については、詐害行為取消権によってその保護を図る必要
性がある場合が存するところである。
ところで、会社法上、新設分割の無効を主張する方法
として、法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴え
が規定されているが(同法 828 条 1 項 10 号)
、詐害行為取消権の行使によって新設分割を取消し
たとしても、その取消の効力は、新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすも
のではないというべきである。したがつて、上記のように債権者保護の必要性がある場合におい
59
て、会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって、新設分割が詐害行為取消権行
使の対象にならないと解することはできない。
そうすると、株式会社を設立する新設分割が
された場合において、新設分割設立会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について
異議を述べることもできない新設分割会社の債権者は、民法 424 条の規定により、詐害行為取消
権を行使して新設分割を取消すことができると解される。この場合においては、その債権の保全
に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべき
である。
」
(須藤正彦裁判官の補足意見がある。)
民集 66-10-3311 判時 2184-144 判タ 1388-109 金法 1970-112 金判 1402-16
金判 1417-16
木村真也・速報判例解説 12-179
片山直也・H24 重要判ジュリ 1453-75
清水円香・H24 重要判ジュリ 1453-107 弥永真生・ジュリ 1448-2 同・判例評論 660-24
岡正晶・金判 1450-1
森本滋・民商 147-6-70 伊藤靖史・金法 1977-22
鈴木千佳子・リマークス 48-86 鳥山恭一・法学セミナー697-131 森田修・NBL996-10
原審:
[大阪高裁 H.21.12.22 判*]
*弥永評釈:本判決は、
「その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の
効力を否定する」ことを認めているが、詐害行為取消権に基づく原告の請求が不動産について
の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるものあり、価格賠償を求めていないので、原状回復
の方法として価格賠償が認められるか否かについては判示していない。
次の判決は、価格賠償を認めている。[東京高裁 H.22.10.27 判*]、その原審[東京地裁
H.22.5.27 判・]
、
[名古屋高裁 H.22.2.7 判*]
、その原審[名古屋地裁 H.23.7.22 判*]
。
*木村評釈:一部の債権者を害する態様において実行されるいわゆる濫用的会社分割の事例にお
いて、当該債権者が詐害行為取消権を行使することを認めた重要な最高裁判決である。
会社分割は、H.12 の商法改正で導入されて以降頻繁に利用されてきたが、その典型的な利用
場面の一つとして、経済的窮境にある企業の優良事業部門をその他の部門から切り離すことが
ある。更生手続や再生手続、私的整理手続の中で、あるいはそれらの手続に先立って会社分割
の手続が利用され、円滑に自儀容再生がなされた事例は多い。他方、本件事案にも見られるよ
うに、分割会社が債務超過であって、優良な事業ないし資産と一部の負債だけが新設会社に承
継されるような会社分割がなされると、結果的には新会社に承継されなかった債権者は害され
る場合がある。その様な事態への対処として、本件判決は詐欺行為取消権行使を認めたもので
ある。その他にも、倒産法制上の否認権行使によるもの、会社法 22 条 1 項での譲渡会社の商号
を使用した譲受会社の責任、法人格否認の法理によるもの、等での判決例がある。
*古田:認められた権利行使の種別と判決例
[1]詐害行為取消権行使を認めた判決例:本件[最高裁二小 H.24.10.12 判*]、その原審と原
原審[大阪高裁 H.21.12.22 判*]
・大阪地裁 H.21.8.26 判、
[東京高裁 H.24.6.20 判*]、
[名古
屋高裁 H.24.2.7 判*]とその原審[名古屋地裁 H.23.7.22 判*]
、
[福岡高裁 H.23.10.27 判*]、
[東京高裁 H.22.10.27 判*]とその原審[東京地裁 H.22.5.27 判*]。 [2]倒産法制上の否
認権行使を認めた判決例:
[福岡地裁 H.22.9.30 判*]、[福岡地裁 H.21.11.27 判*]。
[3]会社法 22 条 1 項での責任を認めた判決例:[東京地裁 H.22.11.29 判*①]、大阪地裁
H.22.10.4 判]
、東京地裁 H.22.7.9 判*]、
[最高裁三小 H.20.6.10 判*]
。
[4]法人格否認の法理によるもの:
[福岡地裁 H.23.2.17 判*]、
[東京地裁 H.22.7.22 判*]、
[福岡地裁 H.22.1.14 判*]
、
[最高裁二小 H.17.7.15 判*]
。
なお、
[大阪地裁 H.22.10.4 判*]は[3]・
[4]を認めるべき事実がないとされ、またその
控訴審大阪高裁 H.23.6.9 判でも[4]のみならず[1]も認めるべき事実がないとして否認さ
れている。東京地裁 H.22.9.30 判・H21(ワ)5317 号(判時 2097-77)も[1]の適用を否定し
ている。
労働契約の新設会社への承継 については、
[最高裁二小 H.22.7.12 判*]の評釈を参照。
[宇都宮簡裁 H.24.10.15 判*]
H24(ハ)10407 号
60
賃金請求事件(請求棄却・確定)
民法 145 条・146 条
時効完成後に債務の一部を弁済した債務者について、時効を援用しないと債権者が信頼するに
足りる状況が生じていないとして、時効援用権は喪失していないとされた事例
[判示要旨]
一、債務の承認による時効援用権喪失の有無は、事案の内容、時効完成前の債権者と債務者と
の交渉経過、時効完成後に債務を承認したと認め得る事情の有無、その後の債務者の弁済状況等
を総合し、債権者と債務者との間において、もはや債務者が時効を援用しないであろうと債権者
が信頼することが相当であると認め得る状況が生じたかどうかによって判断することが相当であ
る。
二、時効完成後の原告(貸金業者)の行動は、被告(一般消費者)が時効制度等について無知
であること、一括払の請求に対して多くの多重債務者が分割払の申出をするとともに僅かな金銭
を支払うことによりその場をしのごうとする心理状態になることを利用し、被告がこのような申
出をした場合には、一括払の請求を維持しつつ弁済方法について再考を促して分割弁済の期待を
与えて申出に係る僅かな金銭を受領することにより一部弁済の実績を残すこと、その後被告に分
割弁済の申出をさせることにより残債務の存在を承認したと評価できる実績を残すことを意図し
たものであり、被告は、原告の意図したとおりに反応して原告に 2000 円を支払うと共に分割弁
済の申出をしたにとどまるから、原告と被告間に、もはや被告において時効を援用しないと原告
が信頼することが相当であると認め得る状況が生じたとは言えず、被告が時効を援用しないであ
ろうと原告が信頼したとしても、信義則上、この信頼は保護するに足りないからその後被告が時
効を援用することが否定されることはない。
金法 1968-122
谷本誠司・銀行法務 759-60
*谷本評釈:時効完成後に債務承認行為をした債務者が時効援用権を失う根拠は、信義則を根拠
とする債権者の認識の保護にあるとするのが判例である[最高裁大法廷 S.41.4.20 判*]
。
本件の判決は、この債権者を保護することは信義則上相当でないとの判断事例を加えたもので
ある。
[最高裁二小 H.24.10.19 判*] H23(受)462 号・否認権行使事件(破棄自判)
破産法 162 条 1 項 1 号イ・同条 3 項
債務整理開始通知の送付が破産法上の「支払の停止」に当たるとされた事例
[判示要旨]
債務者が単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという事情の下では、債務者の代
理人である弁護士が、債権者が自らの債務の支払の猶予または減免等についての事務である債務
整理を弁護士らに委任した旨、また、当該弁護士らが債務者一般に宛てて債務者らへの連絡およ
び取立行為の中止を求めるなど債務者の債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨
をうかがわせる記載がある債務整理開始通知を債権者一般に対して送付した行為は、破産法 162
条 1 項 1 号イ及び 3 項にいう「支払の停止」に当たる。
須藤正彦裁判官の補足意見:
「一定規模以上の企業、特に、多額の債務を負い経営難に陥ったが、
有用な経営資源があるなどの理由により、再建計画が策定され窮境の解消が図られるような債務
整理の場合において、金融機関等に『一時停止』の通知等がされたりするときは、
『支払停止』の
肯定には慎重さが要求されよう。このようなときは、合理的で実現可能性が高く、金融機関等と
の間で合意に達する蓋然性が高い再建計画が策定、提示されて、これに基づく弁済が予定され、
従って、一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないとは言えないことも少なくないか
らである。
・・・」
集民 241-199 判時 2169-9 判タ 1384-130 金法 1962-60 金判 1406-26
加瀬野忠吉・銀行法務 759-26 杉本純子・リマークス 48-130 北島典子・民商 150-6-72
61
原審:東京高裁 H.22.11.18 判・H22(ネ)4090 号
金判 1406-30
一審:東京地裁 H.22.5.20 判・H21(ワ)35152 号 金判 1406-33
*加瀬野評釈:破産法にいう「支払の停止」の意義については、
[最高裁一小 S.60.2.14 判*]が
「債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示
的に外部に表示する行為をいう」と判示しており、
「債務の支払をすることができない」とは「一
般的かつ継続的に債務の支払をすることができない」ことを指すと解されている。本件[最高
裁二小 H.24.10.19 判*]は、債務者が個人給与所得者であることから債務整理開始の私的通知
の送付行為を破産法 162 条 1 項 1 号イ及び 3 項にいう「支払の停止」に当ると判示している。
他方、破産法ではなく会社更生法での林原グループの会社更生手続きにおける管財人からの
否認請求等事件の[東京地裁 H.23.8.15 決定*]であるが、更生手続開始の申立前に行われた
メイン銀行等に対する支払猶予の申入等の行為について東京地裁決定は、支払の免除または猶
予を求める行為であっても、合理性のある再建方針や再建計画が主要な債権者に示され、これ
が債権者に受け入れられる蓋然性があると認められる場合には、一般的かつ継続的に債務を弁
済できない旨を外部に表示する行為とは言えないから「支払の停止」ということはできないと
解し、
「支払の停止」を要件とする会社更生法 88 条 1 項による否認請求を否定している。これ
は、本件での須藤裁判官の補足意見と同旨であり、実務では慎重な判断を心がけねばならない。
[東京地裁 H.24.10.26 判*] H22(ワ)10305 号地位確認等請求事件・22948 号損害賠償
労働契約法 15 条、民法 709 条・710 条
請求事件(各請求棄却、確定)
外国会社の日本法人の従業員がマスメディアに対してした情報提供等を理由とする懲戒解雇が
適法であるとされた事例 ― 「原告の情報提供には、目的の公益性が認められず、根幹的な部
分で真実性ないし真実と信ずるにつき相当な理由が認められないと言えるから、その手段・態様
の相当性等、他の要素を検討するまでもなく、それを理由とする本件懲戒解雇を解雇権の濫用と
評価することはできない。
・・・本件懲戒解雇は、『当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様
その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない
場合』
(労働契約法 15 条)に該当しないから、有効である。
」
判時 2223-112
*:内部告発者を懲戒解雇した処分の有効性を認めた判決例はこの他にも相当数ある:①大阪地
裁堺支部 H.15.6.18 判・H12(ワ)377 号・判タ 1136-265、
②大阪地裁 H.17.4.27 判・H14(ワ)12887
号・労判 897-26、
③東京地裁 H18.8.30 判・H17(ワ)10328 号・労判 925-80、
④東京地裁 H.21.6.12
判・H19(ワ)12413 号・判時 2066-135、
⑤東京地裁 H.23.1.28 判・H21(ワ)23314 号・労判 1029-59、
⑥大阪地裁 H.24.8.29 判・H23(行ウ)17 号・労判 1060-37。
[最高裁三小 H.24.11.27 判*] H23(受)1400 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 1 条 2 項・709 条
シンジケート・ローンにおけるアレンジャーの参加金融機関に対する情報提供義務 ― 金融機
関Xらが,Aの委託を受けた金融機関Yから,Yをいわゆるアレンジャーとするシンジケートロ
ーンへの参加の招へいを受けてこれに応じ,Xら及びYのAに対するシンジケートローンが組
成・実行された場合において,上記招へいに際してYからXらに交付された資料の中に,資料に
含まれる情報の正確性・真実性についてYは一切の責任を負わず,招へい先金融機関で独自にA
の信用力等の審査を行う必要がある旨記載されていたものがあるとしても,Aの代表者が,Yの
担当者に対し,シンジケートローンの組成・実行手続の継続に係る判断を委ねる趣旨で,Aのい
わゆるメインバンクがAに対し外部専門業者による最新の決算書の精査を強く指示した上その旨
を上記メインバンクがいわゆるエージェントとなっていたシンジケートローンの参加金融機関に
も周知させたという情報を告げたなど判示の事実関係の下では,Yは,Xらに対し,信義則上,
シンジケートローン組成・実行前に上記情報を提供する義務を負う。
(補足意見がある。)
62
集民 242-1 判時 2175-15 判タ 1384-112 金判 1412-14 金法 1963-88
川口恭弘・民商 148-1-96
大條智子・銀行法務 759-12
奈良輝久・金判 1426-8
道垣内弘人・リマークス 48-6 山中利晃・ジュリ 1468-106 西口博之・国際金融 1256-1
本田正樹・H.25 重要判ジュリ 1466-85
久保田隆・H.25 重要判ジュリ 1466-120
神作裕之・判例評論 666-24
松浦聖子・法学セミナー702-110
中山洋志・法学新報 121-5・6-357
原審:名古屋高裁 H.23.4.14 判・H22(ネ)514 号
判時 2136-45 金判 1367-22
一審:名古屋地裁 H.22.3.26 判・H20(ワ)3224 号
判時 2093-102 金判 1340-18
[東京地裁 H.24.12.5 判*]H23(ワ)18195 号 損害賠償請求事件(訴え却下・確定)
民訴法 4 条(H.23 改正施行民訴法 3 条の 3 については、施行前訴提起につき適用されない)
日本法人による韓国法人に対する売買契約の債務不履行に基づく損害賠償請求及びその代表者
である韓国在住の韓国人に対する不法行為に基づく損害賠償を求める訴えについて、いずれも
我国の国際裁判管轄を欠くとして、訴えが却下された事例 ― ①「我国の裁判所に提起された
訴訟事件について、民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として、
被告を我国の裁判権に服させるのが相当であるが、我国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁
判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我国の国
際裁判管轄を否定すべきである
(
[最高裁二小 S.56.10.16 判]
・
[最高裁三小 H.9.11.11 判*]
参照)。
」
② 「被告会社 Y1 の売買代金の返還債務は、本件売買契約の解除に伴う原状回復義務の一つ
であり、債務不履行に基づく損害賠償債務ともども、本来の引渡債務の価値変形物に過ぎないと
いうべきである。そして、契約当事者は本来の債務(履行地は韓国)を念頭に置いて履行地を予
測するのが通常であるところ、本来の債務の価値変形物に当る債務が持参債務であり、その義務
履行地である原告の本店所在地があることのみを根拠に我国に国際裁判管轄を認めた場合には、
いたずらに国際裁判管轄が認められる範囲が広がり、契約当事者の応訴の負担を過大なものとし
て予測可能性を害する結果を招くというべきである。」
・・・
「被告会社に対する本件訴えへの応訴
を被告会社に強いることは、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反すると
いうべきであり、そうすると、被告会社に対する本件訴えについては、我国の国際裁判管轄を否
定すべき特段の事情があると解するのが相当である。」
③ 「我国に住所等を有しない被告 Y2(代表者個人)に対し提起された不法行為に基づく損害
賠償請求訴訟について、民訴法の裁判籍の規定(5 条 9 号)に依拠して我国の裁判所の国際裁判
管轄を肯定するためには、
・・・
[最高裁二小 H13.6.8 判*]参照。
・・・被告 Y2 の我国において
した行為によって原告に上記損害が生じたこと、又は被告 Y2 の行為によって原告に我国におい
て上記損害が生じたことのいずれについても、客観的事実関係が証明されているとはいえない。
そうすると、本件被告 Y2 に対する訴えについても、我国の国際裁判管轄を否定すべき特段の事
情があるというべきである。
」
判タ 1387-353
長田真理・リマークス 48-142
[最高裁二小 H.24.12.14 判*]H23(受)1833 号 貸金請求事件(上告棄却)
民法 446 条 1 項・465 条の 2 第 1 項・466 条 1 項
根保証契約の主たる債務の範囲に含まれる債務に係る債権の譲渡が元本確定期日前にされた場
合に譲受人が保証債務の履行を求めることの可否 ― 根保証契約(極度額・保証期間を定めた
株式会社間の契約)の主たる債務の範囲に含まれる債務に係る債権を譲り受けた者は,その譲渡
が当該根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合であっても,当該根保証契約の当事者間
において上記債権の譲受人の請求を妨げるような別段の合意がない限り,保証人に対し,保証債
務の履行を求めることができる。 (須藤正彦裁判官の補足意見がある。)
民集 66-12-3559
判時 2187-17 判タ 1387-96 金判 1415-10 金法 1973-103
63
山本宣之・判例評論 660-2 松本恒雄・金判 1422-2 近藤泰彦・銀行法務 760-18
藤原彰吾・金法 1965-4
吉田光碩・リマークス 48-22
下村信江・金法 1977-37
阿部裕介・H.25 重要判ジュリ 1466-77
松尾弘・法学セミナー703-144
斎藤由起・別冊ジュリ 224-54 小峯庸平・法協 132-7-123 辻博明・法律時報 87-9-118
畑佳秀・ジュリ 1494-74
原審:東京高裁 H.23.5.31 判・H22(ネ)8278 号
金判 1408-20
一審:東京地裁 H.22.10.27 判・H21(ワ)42675 号
金判 1408-22
*松本評釈:本件は根保証人が法人であることから民法 465 条の 2 以下の貸金等根保証には当ら
ず、判例法上の世界の問題であるが、本判決の趣旨は、民法上の貸金等根保証契約にも当然に
及ぶと裁判所は考えているものと思われる。
*近藤評釈:民法 465 条の 2~465 条の 5「貸金等根保証契約」の規定は、H.16.12.1「民法の一
部を改正する法律」として新設され、H.17.4.1 から施行されている。特に根保証においては従
来からの「包括根保証」
:極度額の定めも期限の定めもない保証形態は、対個人保証人との関係
においては廃止されるに至った。
[最高裁二小 H.24.12.21 判*]H23(受)1626 号 所有権移転登記手続・持分移転登記抹消
民訴法 135 条
登記手続等・持分権確認等請求事件(一部破棄自判・一部上告棄却)
将来給付の訴えの請求適格(消極) ― 共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益に
つき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口
頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求
としての適格を有しない。 (補足意見がある。)
集民 242-117 判時 2175-20 判タ 1386-179 金法 1965-123
堀野出・速報判例解説 13-135
名津井吉裕・リマークス 47-110
日渡紀夫・H.25 重要判ジュリ 1466-131
今津綾子・民商 148-2-86
原審:名古屋高裁 H.23.5.12 判・H22(ネ)530 号
一審:名古屋地裁 H.22.3.18 判・H19(ワ)1176 号
*堀野評釈:本判決の意義:被告の給付義務がその判断の基準時である口頭弁論終結時までに現
実化しながら果たされていない場合に提起される給付の訴えは現在給付の訴えであり、訴えの
利益が認められることに特に理由は必要ない。これに対して、口頭弁論終結時に於いて現実化
していない請求(将来給付請求)は、現実のものとなった後に請求すれば足るのであるから、
「予めその請求をする必要がある場合に限り」訴えが許される旨が定められている(民訴法 135
条)
。係る場合に該当する例として、期限付給付や条件付給付など将来における一回的給付を求
める請求が挙げられる。単純併合の例として引合いに出される、目的物引渡を求めつつ目的物
の滅失の場合に備えて立てられる代償請求などが典型例である。また、債務者がすでに義務の
存在ないし態様を争っている場合、履行遅滞による損害が大きい扶養料支払い請求、履行が少
しでも遅れると債務の本旨に従った履行とはならない定期行為を求める請求にかかる訴えにつ
いても、訴えの利益が認められる。
これに対し、継続的給付を求める請求は、継続的不法行為に基づく損害賠償請求にみられる
ように訴えの利益が認められるかには議論があり、本判決は、このような継続的給付のうち、
共有地の持分割合を超えて得る(将来継続する)賃料収入につき不当利得として返還を求める
請求に関し、将来給付の訴えの利益が否定される場合を示したものである。
[最高裁一小 H.25.1.17 決定*]H24(ク)1341 & (許)46 号・債権差押命令及び転付命令申立
却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する特別抗告及び許可抗告事件(抗告棄却)
民事執行法 143 条、民事執行規則 133 条 2 項
大規模な金融機関の具体的な店舗を特定することなく、預金債権額合計の最も大きな店舗の預
64
金債権を対象とする、いわゆる「預金額最大店舗指定方式」による預金債権の差押命令の申立
の適否(消極) ― 「原審の判断は、正当として是認することができる。」と判示し、抗告人(債
権者)の抗告を棄却した。
[原審の判断の要旨] ― ①.大規模な金融機関の具体的な店舗を特定することなく「複数の店
舗に預金債権があるときは、預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とする。なお、
預金債権額合計の最も大きな店舗が複数あるときは、そのうち支店番号の最も若い店舗の預金債
権を対象とする。
」としてされた預金債権の差押命令の申立を、[最高裁三小 H.23.9.20 決定*]
の判断を援用して、民事執行規則 133 条 2 項の求める差押債権の特定を欠き不適法と判示。
② そして、本件申立による差押を認めた場合、大規模な金融機関である第三債務者は、全て
の店舗の中から預金最大店舗を抽出する作業が必要となるが、その際、第三債務者において、全
ての店舗のすべての預金口座について、まず該当顧客の有無を検索した上、該当顧客を有する店
舗における差押命令送達時点での口座ごとの預金残高及びその合計額等を調査して、当該店舗が
最大店舗に該当するかを判定する作業が間利用しない限り、差押の効力が生ずる預金債権の範囲
が判明しないことになる。従って、本件申立における差押債権の表示は、送達を受けた第三債務
者において前記①の程度に(古田:
[最高裁三小 H.23.9.20 決定*]が必要として示している程度に)
速やかに確実に差押えられた債権を識別することができるものであるということはできない。」と
判断を示している。
判時 2176-29 判タ 1386-182 金判 1412-8 金法 1966-110
滝澤孝臣・金判 1424-18
下村眞美・金法 1977-11
内山衛次・H.25 重要判ジュリ 1466-140
原審:東京高裁 H.24.10.24 決定・H24(ラ)1972 号 判タ 1384-351 金判 1412-9 金法 1959-109
一審:東京地裁 H24.8.15 決定・H24(ル)3185 号
判タ 1384-355 金判 1412-11
金法 1959-114
*金判 1412-8~9 のコメントから:
[最高裁三小 H.23.9.20 決定*]は、
「全店一括順位付け方式」
による事案について、①債権差押命令の申立における差押債権の特定は、債権差押命令の送達
を受けた第三債務者において、直ちにとはいえないまでも、差押の効力が上記送達の時点で生
ずるにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差押えられた債権を識別す
ることができるものであるところ、②大規模な金融機関の全ての店舗または貯金事務センター
を対象として順位付けする方式による預貯金債権の差押命令の申立は、差押債権の特定を欠き
不適法であることを述べて、当該事案における申立を不適法としている。
その後、本件のような「預金額最大店舗指定方式」によれば差押債権の表示が許されるかに
ついて、高裁段階の決定が分かれていた。 A..差押債権が特定されておらず申立を却下すべき
とする高裁決定:東京高裁 H.24.10.10 決定・H.24(ラ)2074 号・金判 1405-27、判タ 1383-374。
この高裁決定は、
「民事執行規則 133 条 2 項の求める差押債権の特定がなされているか否かは、
差押債権目録の表示自体に基づいて判断すべきであるから、上記照会に対する回答拒絶があっ
たとしても、そのことのみによって差押債権の特定についての基準が異なってくるものではな
い。
」と判示している。
B.差押債権の特定がされているとして差押を認めた高裁決定:東京高裁 H.23.10.26 決定・
H.23(ラ)1876 号・金判 1380-52、金法 1933-9、判時 2130-4。この東京高裁決定は、
「預金額最
大店舗指定方式は、全店一括順位付方式による場合と比較すると、事柄の性質上、第三債務者
の負担が格段に小さいものであることは明らかと解される。
」ことを理由としている。名古屋高
裁 H.24.9.20 決定・H.24(ラ)337 号・金判 1405-24。この名古屋高裁決定は、差押債権者が差押
命令申立に先立ち申立代理人を通じて第三債務者に対して、弁護士法 23 条の 2 に基づく照会の
手続を執ったが第三債務者から回答が得られなかった上記 A の東京高裁 H.24 決定と同種の事
案であるが、この名古屋高裁決定は、その第三債務者から回答が得られなかったことを、B の
東京高裁 H.23 決定と同様の理由付で差押を認める理由付の補強理由としている。
今回の最高裁の決定は、A・B と高裁での判断が分かれていた点について最高裁が判断を示
したものとして、実務に大きな影響を与えることとなろう。
65
[最高裁三小 H.25.1.22 判*]H23(受)2229 号 賃料減額請求本訴・地代等支払請求反訴事件
借地借家法 11 条
(破棄自判)
ゴルフ場経営を目的とする地上権設定契約及び土地賃貸借契約につき借地借家法11条の類推
適用をする余地はないとされた事例 ― 地上権設定契約及び土地賃貸借契約において,ゴルフ
場経営を目的とすることが定められているにすぎず,当該土地が建物の所有と関連するような態
様で使用されていることもうかがわれないという事実関係の下においては,借地借家法11条の
類推適用をする余地はない。
集民 243-1 判時 2184-38 判タ 1388-105 金法 1976-85
四ツ谷有喜・速報判例解説 15-71 中村肇・判例評論 661-11 河津博史・銀行法務 761-71
田中淳子・法律時報 86-2-128
中川敏宏・法学セミナー713-114
原審:福岡高裁宮崎支部 H.23.8.31 判・H23(ネ)122 号 判時 2184-38
一審:宮崎地裁 H.23.3.22 判・H21(ワ)221 号ほか
[東京地裁 H.25.2.19 判*] H22(ワ)28813 号 特許権移転登録請求権不存在確認請求
民訴法 118 条・134 条・338 条、民事執行法 22 条・24 条
事件(訴え却下・確定)
消極的確認の訴提起の可否:国際競合する外国給付訴訟の判決の執行判決を求める訴えとの関
係 ― 外国の確定した給付判決の執行判決を求める訴えが我国の裁判所に現に係属している状
況下において、当該給付判決の基礎とされた同一の請求権又は実質的に同一の請求権が存在しな
いことの確認を求める本件訴えは、当事者間の紛争の解決のために必要かつ適切なものであると
は言えないから、確認の利益を欠く不適法なものであるとして却下。
判タ 1391-341
長谷川俊明・国際商事法務 41-11-1608
高杉直・リマークス 49-138
上田竹志・法学セミナー708-122
駒田泰士・速報判例解説 16-261
岡成玄太・ジュリ 1486-91
[最高裁一小 H.25.2.28 判*] H23(受)2094 号 根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴・
民法 505 条 1 項・136 条・
貸金請求反訴事件(一部破棄自判。一部破棄差戻)
145 条・508 条
一、既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというため
の要件 ― 既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にある
というためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期
限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要する。
二、時効によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするために消滅時効が援用された自働
債権がその消滅時効期間経過以前に受働債権と相殺適状にあったことの要否 ― 時効によ
って消滅した債権を自働債権とする相殺をするためには,消滅時効が援用された自働債権は,そ
の消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要する。
民集 67-2-343 判時 2182-55 判タ 1388-101 金判 1418-28 金法 1972-89
前田太朗・速報判例解説 13-81 谷本誠司・銀行法務 770-57 山地修・ジュリ 1462-94
日下部真冶・金判 1434-8
久保宏之・リマークス 48-30 石垣茂光・判例評論 661-6
藤澤冶奈・H.25 重要判ジュリ 1466-79 北井功・民商 148-3-76 中原利明・金法 2001-14
深谷格・法律時報 86-8-122 瀬戸口祐基・法協 131-10-233 加毛明・別冊ジュリ 224-88
原審:札幌高裁 H.23.7.8 判・H22(ネ)592 号・同 23(ネ)212 号
金判 1418-32
一審:札幌地裁室蘭支部 H.22.11.30 判。H22(ワ)230 号
金判 1418-35
[東京高裁 H.25.3.27 決定*] H25(ラ)550 号 債権差押命令に対する執行抗告事件
民事執行法 39 条 1 項・145 条
(抗告棄却・確定)
66
仮執行宣言付判決に基づき仮差押命令が発せられた後、同差押命令正本を第三債務者に発送す
る前に、被告債務者(抗告人)は上記判決に対し控訴を提起して強制執行停止決定正本を得て
これを原審に提出したが、差押命令正本は第三債務者に発送して送達された。その送達手続に
違法はないとされた事例 ― 「原審は、民事執行法 25 条本文、145 条 1 項・2 項に従い、執
行文の附された本件判決(債務名義)に基づいて債権差押命令である原決定を発し、その後に同
法 39 条 1 項 7 号所定の執行停止文書(本件執行停止決定の正本)が提出されたことから、第三
債務者らに対し、原決定及び執行停止の通知書を同時に発送して送達したものであり、これらの
手続等に何ら違法な点はない。
・・・執行停止文書の提出をもっていわゆる執行障害事由(強制執
行の開始又は続行を妨げるべき債務者の破産及び債務者のための他の倒産手続の開始、執行債権
の差押又は仮差押などの事由)又はこれに準ずる事由があるということもできない。
・・・民事執
行法 39 条 1 項 7 号所定の執行停止文書の提出による強制執行の停止は、その後において停止が
解除されて強制執行が続行されることも予想されるのであるから、あらかじめ処分制限のための
差押をしておく実益があり、執行停止文書が提出されたことにより差押自体が行い得なくなると
解することはできず(執行停止文書が提出されたときは、差押の後の手続を停止すれば必要かつ
十分である。
)、発令された差押命令を第三債務者に送達することが違法執行となる余地はない。
また、差押命令の送達が違法であることにより遡って差押命令自体が違法となるものではないし、
同命令を求める申立自体を却下しなければならないことになるものでもない。」原決定は相当であ
り、本件抗告は理由がないから棄却する。
判タ 1393-356 金法 1979-120
一審:東京地裁 H.25.2.28 決定・H25(ル)1532 号
[福岡高裁 H.25.3.28 判*] H23(ネ)960 号 損害賠償請求事件(被控訴人原告の請求棄却、
民法 1 条・415 条・709 条、
上告受理申立)
独占禁止法(H.21 改正前)2 条 9 項 4 号・19 条
H.21 の法改正前の H.21 公取告示 18 号(不公正な取引方法)12 項
セブン-イレブン値引制限訴訟 ― コンビニェンス・ストアのフランチャイザー(被告・控
訴人)がフランチャイジー(原告・被控訴人)に対してデイリー商品の見切販売による値引をし
ないよう求めた言動は、フランチャイザーの「推奨価格以外の価格で商品を販売しょうとする加
盟店に対し、その販売による影響や長年の経験に照らして店舗経営上の不利益があると判断して
いることを伝え、これを中止するように求めたとしても、それが直ちに販売価格の強制であると
か自由な意思決定の妨害であるとみるのは相当でなく、
・・・一審被告の担当者らは、本件契約の
指導助言義務に基づき、一審原告に対し、デイリー商品の見切販売によって、本件店舗の経営状
態が改善しているか否か、一審原告にとって経営状態の改善のための最良な方法は何かという観
点から、必要なデーターを示すなどして、発注量の見直し、デイリー商品の見切販売の方法や程
度の見直しについての助言・指導を行ったもので、これが強制や自由な意思決定の妨害になった
ことを認めることはできない。
」 公取委告示違反の再販売価格拘束に当らないとして、一審被告
の敗訴部分(200 万円の損害賠償義務)を取消して、原告の請求を棄却した。
判時 2209-34
長谷川貞之・リマークス 50-26-②
一審:福岡地裁 H.23.9.15 判・H20(ワ)1917 号
判時 2133-80
中出孝典・H.23 重要判ジュリ 1440-269
*:
[東京高裁 H.25.8.30 判*]は、同じくセブン-イレブンの値引制限による損害賠償請求事件
で、公取委から本事件の被告フランチャイザーが独禁法違反による排除命令を受けている事案
であるが、同高裁は請求されている民事責任の損害賠償請求額については公取委からの意見は
採用せず、各原告フランチャイジーの請求額のそれぞれ 1 割前後の額を是認。
[最高裁三小 H.25.4.9 判*]H24(受)2280 号 建物明渡等請求事件(破棄自判)
67
民法 1 条 3 項、借地借家法 31 条 1 項
建物の地下 1 階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾のもとに 1 階部分の外壁等
に看板等を設置していた場合において、建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求
めることが権利の濫用に当るとされた事例 ― 繁華街に位置する建物の地下1階部分を賃借し
て店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合にお
いて,建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることは,次の(1)~(4)など判示の
事情の下においては,権利の濫用に当たる。
(1) 上記看板等は,上記店舗の営業の用に供されており,建物の地下1階部分と社会通念上一
体のものとして利用されてきた。
(2) 賃借人において上記看板等を撤去せざるを得ないこととなると,建物周辺の通行人らに対
し建物の地下1階部分で上記店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われ,その営業の継続
は著しく困難となる。
(3) 上記看板等の設置が建物の所有者の承諾を得たものであることは,譲受人において十分知
り得たものである。
(4) 譲受人に上記看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも,上記看板
等が存在することにより譲受人の建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。
集民 243-291 判時 2187-26 判タ 1390-142 金法 1985-155
高橋眞・H.25 重要判ジュリ 1466-69 笠井修・リマークス 49-6
石上啓子・法律時報 88-9-132
原審:東京高裁 H.24.6.28 判・H24(ネ)1041 号
一審:東京地裁 H.24.1.19 判・H22(ワ)31947 号
[最高裁一小 H.25.4.11 判*] H22(受)1983 号 不当利得返還請求事件(破棄差戻)
民法 488 条・704 条前段、利息制限法(H.18 改正前)1 条 1 項)
継続的な金銭消費貸借取引に係る基本契約が過払金充当合意を含む場合における,過払金につ
いて発生した民法 704 条前段所定の利息を新たな借入金債務に充当することの可否及びその充
当方法 ― 継続的な金銭消費貸借取引に係る基本契約が過払金充当合意(過払金発生当時他
の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合
意)を含む場合には,別段の合意があると評価できるような特段の事情がない限り,まず過払金
について発生した民法 704 条前段所定の利息を新たな借入金債務に充当し,次いで過払金を新た
な借入金債務の残額に充当すべきである。
集民 243-303 判時 2195-16 判タ 1392-61 金法 1986-120 金判 1426-26
下村信江・民商 148-4・5-102 中村肇・リマークス 49-18 大島一悟・法律時報 87-13-372
原審:大阪高裁 H.22.7.23 判・H22(ネ)974・1530 号 金判 1426-28
一審:神戸地裁姫路支部 H.22.2.25 判・H21(ワ)540 号 金判 1426-31
[東京高裁 H.25.4.18 判*] H25(ネ)340 号 差押債権取立請求控訴事件
民法 147 条 2 号、会計法 30 条・31 条 2 項
(控訴棄却・上告受理申立)
仮差押は被差押債権の消滅時効を中断する効力を有しない ― 「債権に対する仮差押え(民法
147 条 2 号)は、被保全権利である債権について時効中断事由となるにとどまり、被差押債権に
ついての時効中断事由とはならないと解するのが相当である(大審院 T.10.1.26 判・民録 27-108
参照)
。 このように解しても、仮差押債務者は、被差押債権について第三債務者に対し給付訴訟
を提起・追行する権限を失うものではなく(最高裁 S.48.3.13 判・民集 27-2-344 参照)、同債権
につき時効中断の必要があるときは、第三債務者に対して債務の承認を求め、それが得られなけ
れば、自ら裁判上の請求その他時効を中断するための適切な権利行使手段をとることができ、ま
た、仮差押債務者が被仮差債権を除くと無資力であるなど仮差押債権者がその有する債権を保全
68
するため特に必要がある場合には、仮差押債権者が仮差押債務者に代位して自ら第三債務者に対
し訴えを提起するなどの措置を講ずることもできることなどからすれば、実質的に不当な結果を
招くものとは言えない。
」
金判 1425-33
佐々木修・銀行法務 764-36
河津博史・銀行法務 765-66
一審:さいたま地裁川越支部 H.24.12.13 判・H23(ワ)1315 号 金判 1425-39
*古田:本件は上告受理申立中であるが、本件での判旨は、判示で引用の大審院 T.10 判決と最高
裁 S.48 判決とも同旨であり、東京高裁は S.51 と H.16 にも同旨の判決をしている(S.51.6.29
判・S50 (ネ)2128 号・判時 831-44、H.16.6.23 判・H16 (ネ)451 号・金判 1195-6)
。ただ 1 件、
本件控訴を棄却され上告した原告が主張で援用した東京高裁 S.51.3.13 判・S50(ツ)94 号(判時
816-55)のみが、仮差押債務者は時効中断のための権利行使ができないと誤解して、仮差押は
仮差押債権についても時効中断事由となると判示しているが、誤判であろう。
仮差押の債権者・債務者いずれにとっても、差押債権が時効消滅しないように措置すべき必要
を認識しておかねばならない。
[最高裁二小 H.25.4.26:決定*]H24(許)15 号 担保取消決定に対する抗告棄却決定に対する
民訴法 76 条・77 条・259 条・403 条 1 項・405 条 2 項
許可抗告事件(破棄自判)
民事執行法 39 条 1 項、会社更生法 2 条 8・10 項・203 条 2 項・204 条 1 項、
供託法 8 条 1 項
一、仮執行宣言付判決に対する上訴に伴い金銭を供託する方法により担保を立てさせて強制執
行の停止がされた後に債務者につき更生手続開始の決定がされた場合における上記担保の被
担保債権の性質 ― その被担保債権である損害賠償請求権は,更生担保権ではなく,更生
債権に当たる。
二、仮執行宣言付判決に対する上訴に伴う強制執行の停止に当たって金銭を供託する方法によ
り担保が立てられた場合において債務者につき更生計画認可の決定がされた後であっても供
託金の還付請求権を行使することの可否 ― 被供託者は,債務者につき更生計画認可の決定
がされても,会社更生法203条2項にいう「更生会社と共に債務を負担する者に対して有する
権利」として,供託金の還付請求権を行使することができる。
民集 67-4-1150 判時 2186-36 判タ 1389-102 金判 1420-8 金法 1972-78
野村秀敏・金判 1441-2 深山雅也・金法 2001-44 小原将照・法学研究(慶大)87-8-111
原審:札幌高裁 H.24.4.12 決定・H24(ラ)39 号
金判 1420-17 金法 1972-87
一審:札幌地裁小樽支部 H.24.1.11 決定・H23(モ)42 号
金判 1420-18
[東京地裁 H.25.4.26 判*] H23(ワ)19406 号 執行判決請求事件(請求容認)
民訴法 118 条 3 号・142 条、民執法 24 条 2 項、法適用通則法附則 2 条 4 項、法例 11 条
外国判決の執行判決請求における相殺抗弁の可否とその準拠法 ― ①.「Y(被告)による本件
訴訟上の相殺の主張は、本件外国判決の既判時効の権威(フランス民訴法 480 条)が生じた後の
事情としての、相殺の抗弁を含む主張である。実態を伴わない債務名義の作出は望ましくなく、
執行判決をした後に改めて請求異議の訴えによることは訴訟経済にも反することから、外国裁判
所の判決の基準時後の事情(請求異議事由)は、執行判決を求める訴えの中で抗弁として主張す
ることができると解するのが相当である。」
②.「民訴法上、相殺の抗弁が主張され、その自
働債権の存在又は不存在の判断がされた場合、相殺をもって対抗した額について既判力を有する
とされており・・・、係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟
において相殺の抗弁を主張することは許されない・・・。しかし、民訴法 142 条の『裁判所』と
は、我国の裁判所を意味し、外国の裁判所は含まれないから、特段の事情がない限り、Y による
相殺の主張が重複起訴に当り又はその趣旨に反するものとはいえない。
」 ③.本件外国判決での
事案である X(原告)
・Y 間の「本件代理店契約において、同契約及びこれに伴う合意事項にはフ
69
ランス法が適用される旨が合意されており・・・、自働債権である本件損害賠償債権のうち債務
不履行に基づく損害賠償債権及び受働債権である本件代金債権の準拠法はフランス法である。ま
た、本件損害賠償債権のうち不法行為に基づく損害賠償債権も、原因たる事実の発生した地の法
律であるフランス法が準拠法となる(法適用通則法附則 2 条 4 項、法例 11 条)。従って、本件訴
訟上の相殺が有効であるためには、フランス法上の相殺の要件を充たすことが必要となる。
・・・
Y の主張する本件損害賠償債権は債権の確実性があるということはできず、これを自動債権とす
る相殺は、フランス民法において要求される相殺の要件を充たさないから許されない。」
判決文未公刊
嶋拓哉・ジュリ 1465-123
神前禎・H.25 重要判ジュリ 1466-306
*神前評釈:法定相殺の準拠法について判断した公表裁判例はまだ存在しないが、学説は、自働
債権の準拠法と受働債権の準拠法を累積的に適用する見解「累積適用説」が従来は多数説であ
ったが、近年は、受働債権の準拠法を適用する見解「受働債権準拠法説」が多数説のようであ
る。本判決はそのいずれとも解され得る。
本件で相殺の準拠法とされたフランス法においては、相殺の要件が満たされた場合には当事
者の意思表示を待たずに、当然に相殺の効力が生じるとされている(フランス民法 1290 条)。
フランス民法 1290 条(当然の相殺):「相殺は、債務者が知らない場合であっても、法律上
当然に法律の地からのみによって行われる。二つの負債は、同時に存在している時は直ちに、
それぞれの分量を限度として相互に消滅する。」
*:現在のフランス民法の理解では、この自動相殺主義(当然の相殺)というのは、当事者によ
って一旦相殺が援用された場合には、当事者の意思にも裁判官の評価にもかかわらず、法律の
力によって相殺の効力を生ずるという構造であるということのようであり、即ち、当事者によ
って相殺が援用(主張)されると、その援用された日ではなくて、法定の要件が満たされた日
に、当事者あるいは裁判官の意思ではなく、法律の力のみによって相殺の効力が「生じる」と
いうことである (2013.2・金融法務研究会「相殺および相殺的取引をめぐる金融法務上の現
代的課題」
・第 2 章フランス法における相殺と金融取引(野村豊弘)16 頁)
。
[東京地裁 H.25.5.30 判*]H23(ワ)35452 号 清算金請求事件(請求棄却・控訴)
民事再生法 92 条・93 条の 2 第 1 項 1 号
[東京高裁 H.26.1.29 判*]の原審である。
再生手続が開始された甲に対して債務を負担する乙が、同手続開始前に甲に対して債権を有す
る丙から当該債権を相殺に供する権限を与えられる停止条件が同手続開始後に成就した場合に、
乙が当該債権を自働債権、甲に負担する債務を受働債権としてした相殺の民事再生法上の許否
(積極) ― 本件において、被告乙は、再生手続開始時点において再生債権者が再生債務者に
対して債務を負担している場合と同視できる程度に、乙の親子会社訴外丙が原告に対して有する
債権を用いた相殺の合理的期待を有していたと認められるというべきである。なお、相殺を行う
権限を付与されて相殺に供する場合は、他人から譲受けた債権を相殺に供する場合と同様に、債
務者対抗要件を具備する必要があると解されるところ(民法 467 条 1 項)
、原告側甲は本件相殺
条項を含む本件基本契約を丙と締結していたことにより実質的には被告の「関係会社」から被告
への相殺権限の付与を承諾していたとみることができる(なお、本件丙清算金請求権の債権譲渡
を第三者に対抗できるかが問題となる場面ではないので、第三者対抗要件の具備は不要である。)
。
以上の通り、本件において、被告は、再生手続開始時点において再生債権者が再生債務者に対
して債務を負担しているのと同視できる程度に、本件相殺条項による相殺について合理的期待を
有していたと認められるので、乙が当該債権を自働債権、甲に負担する債務を受働債権としてし
た相殺は、民事再生法 93 条の 2 第 1 項 1 号によって相殺が禁止される場合には当らず、同法 92
条によって許される。
判時 2198-96 金判 1421-16
長谷川俊明・国際商事法務 42-1-96
神島智宏/飯尾誠太郎・NBL1021-41
70
[最高裁一小 H.25.6.6 判①*] H24(受)349 号 未収金請求事件(上告棄却)
民法 147 条条 1 号・149 条・153 条、民訴法 147 条
一、明示的一部請求の訴えに係る訴訟において,債権の一部消滅の抗弁に理由があると判断さ
れたため判決において上記債権の総額の認定がされた場合における,残部についての消滅時
効の中断(消極) ― 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示した訴
えに係る訴訟において,債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断されたため,判
決において上記債権の総額の認定がされたとしても,当該訴えの提起は,残部について,裁判上
の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。
二、いわゆる明示的一部請求の訴えの提起と残部についての裁判上の催告としての消滅時効の
中断(方途あり) ― 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して
訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにし
ているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のな
い限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じ,
債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることによ
り,残部について消滅時効を確定的に中断することができる。
三、消滅時効期間の経過後,その経過前にした催告から6箇月以内にした催告と消滅時効の中
断 ― 消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をして
も,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告か
ら6箇月を経過することにより,消滅時効が完成し,この理は,第2の催告が数量的に可分な債
権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起されたことによる裁判上の催告であ
っても異ならない。
民集 67-5-1208 判時 2190-22 判タ 1390-136 金判 1422-8 金法 1985-140
谷本誠司・銀行法務 764-57 川島四郎・法学セミナー705-112 坂田宏・リマークス 48-110
松久三四彦・H.25 重要判ジュリ 1466-71
越山和広・H.25 重要判ジュリ 1466-129
武藤貴明・ジュリ 1468-84
松本克美・判例評論 662-12
武藤貴明・ジュリ 1468-84
川嶋四郎・法学セミナー705-112
山本和彦・金法 2001-18
原審:大阪高裁 H.23.11.24 判・H23(ネ)1492 号
金判 1422-14 金法 1985-147
一審:大阪地裁 H.23.3.24 判・H21(ワ)9595 号
金判 1422-15 金法 1985-149
*武藤評釈:本判決は、最高裁が裁判上の催告説に立つことを初めて明らかにしたものである。
[最高裁一小 H.25.6.6 判②*] H23(受)2183 号 年次有給休暇請求権存在確認等請求事件
労働基準法 39 条 1 項・2 項・8 項
(上告棄却)
八千代交通事件:無効な解雇により就労を許否された日が存在する労働者の、労働基準法 39
条 1 項及び 2 項における年次有給休暇の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定の方法
[判示要旨]
「無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労す
ることができなかった日は,労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり,
このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点
から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから,法 39
条 1 項及び 2 項における出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日
に含まれるものというべきである。
」
民集 67-5-1187 判時 2192-135 判タ 1392-57 労判 1075-21 労働判例速報 2186-3
市原義孝・ジュリ 1467-75 岩出誠・ジュリ 1470-95 佐々木達也・法律時報 86-13-383
岩永昌晃・民商 149-3-45
池田悠・H25 重要判ジュリ 1466-230
水島侑子・判例評論 663-37
高橋奈々・法協 132-11-167
原審:東京高裁 H.23.7.28 判・H23(ネ)3147 号 民集 67-5-1204 労判 1075-25
一審:さいたま地裁 H.23.3.23 判・H22(ワ)1116 号 民集 67-5-1195 労判 1075-27
71
[東京地裁 H.25.8.6 判*] ①H23(ワ)28819 号 ②H24(ワ)34508 号損害賠償請求事件
民法 715 条 1 項
(①事件一部容認・一部棄却、②事件棄却・確定)
自転車便の請負人が出勤途上に起こした交通事故について、注文者である自転車便業者の使用
者責任が認められた事例 ― 「民法 715 条における使用者責任は、契約形態を問わず、実質的
な指揮監督関係があれば足りると解され、
・・・本件事故は、訴外戊田が、自転車便の運転手とし
て稼働を開始するに当り、業務に必要不可欠な無線機を借受けるため、被告の事務所に赴く途中
で発生したものであるところ、被告は訴外戊田が同訴外者の自転車を使用して自転車の運転手と
して稼働することを容認し、被告の事務所との往復に際して同訴外者の自転車を使用することを
黙認していたことが認められる。
・・・民法 715 条における事業執行性の認定については、被用者
の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察してあたかも被用者の職務の
範囲内の行為に属すると認められる場合を包含するものと解すべきであるから、
『通勤』途上の事
故であったからといって、それだけで、一律に事業執行性が否定されるものではない。
・・・被告
は、自転車便を業とする株式会社であるところ、訴外戊田の同訴外人の自転車の使用により、利
益を得ていたという特別な事情があるのであるから、本件に於いて事業執行性を肯定したとして
も、会社が被用者の自転車通勤一般について使用者責任を負うことを肯定することにはならない
し、被告に対して過大な負担を負わせるものともいえない。
」
判時 2220-59
交民集 46-4-1051
自保ジャーナル 1908-11
[東京高裁 H.25.8.30 判*] H21(ワ)5 号 損害賠償請求事件(請求一部認容・一部棄却、
独占禁止法(H.21 改正前)20 条 1 項・19 条・25 条・84 条、
上告受理申立)
H.21 の法改正前の H.21 公取告示 18 号(不公正な取引方法)9 項 4 号、民訴法 248 条
セブン―イレブンが強制した値引制限に対する損害賠償請求事件:優越的地位濫用を理由とす
る公正取引委員会の排除命令を受けた被告につき、東京高裁が一審裁判所として損害賠償責任
を一部認めた独禁法 25 条事件 ― ①.コンビニエンス・ストアのフランチャイザーがフランチ
ャイジーに対してデイリー商品の見切販売による値引をしないよう求めたり、見切販売が禁止さ
れている旨を言明したり、同販売をしたときには加盟店契約の更新に影響があるとか、更新され
ない旨の言動などをした場合は、フランチャイズ契約に定められた経営指導・助言の域を超える
ものであって、見切販売妨害行為として独禁法の禁止する優越的地位の乱用に当り、公正取引委
員会の本件排除命令の決定した違法行為に含まれるとみるのが相当である。
②.同見切販売妨害行為による独禁法 25 条に基づく損害賠償請求の損害額につき、
「損害の性質
上、その額を立証することが極めて困難であるから、民訴法 248 条に基づき、口頭弁論の全趣旨
及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害を認定すべきものである。」と判示し、「損害額の算定
が困難であるにもかかわらず、被告に対し損害賠償義務を負わせる以上、当該損害算定に当たっ
てはある程度謙抑的かつ控え目に認定することを避けられない。
」として、裁判所が独禁法 84 条
により公正取引委員会から提出させた公取委の損害額についての意見、及び原告フランチャイザ
ーらの損害額算定方法に関する主張を採用せず、民訴法 248 条に基づき謙抑的かつ控え目に裁量
認定した。
原告フランチャイジー5名の各請求額 3,689.6 万円・3,590.3 万円・5,342.1 万円・1,357.3
万円につき、各 280 万円・100 万円・600 万円・160 万円を損害額と認定した。
判時 2209-12
小田勇一・ジュリ 1461-4
和久井理子・H.25 重要判ジュリ 1466-266
斎藤高広・ジュリ 1464-108
山本裕子・ジュリ 1474-123
大槻文俊・NBL1028-79
長谷川貞之・リマークス 50-26-②
[最高裁二小 H.25.9.13 判*] H23(受)2543 号 求償金請求事件(破棄自判)
民法 147 条 3 号・446 条
72
保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合における主たる債
務の消滅時効の中断 ― 「債務の弁済が、債務の承認を表示するものにほかならな
いことからすれば、主たる債務者兼保証人の地位にある者が主たる債務を相続したことを知りな
がらした弁済は、これが保証債務の弁済であっても、債権者に対し、併せて負担している主たる
債務の承認を表示することを包含するものといえる。
・・・したがって、保証人が主たる債務を相
続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合、当該弁済は、特段の事情のない限り、主た
る債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当
である。
」
民集 67-6-1356 判時 2209-102 判タ 1397-92
金判 1426-14 & 1435-16
武川幸嗣・金判 1435-2 石毛和夫・銀行法務 765-64 草野元己・リマークス 49-22
森永淑子・H.25 重要判ジュリ 1466-73
中川敏宏・法学セミナー710-108
塩崎勤・銀行法務 770-15 下村信江・金法 2001-22
畑佳秀・ジュリ 1473-81
今尾真・判例評論 669-10
加賀山茂・法律時報 87-12-113
近藤優子・法学新報 121-5・6-333
原審:東京高裁 H.23.9.15 判・H23(ネ)3153 号 金判 1426-19
一審:千葉地裁佐倉支部 H.23.3.29 判・H22(ワ)65 号 金判 1426-21
*石毛評釈:本判決は、保証人が主たる債務を相続し、保証債務を履行した場合の主債務に係る
時効中断について最高裁が初めて判示したものである。
*武川評釈:主たる債務と保証債務は別個独立であり、保証債務の承認は原則として主たる債務
の時効援用を妨げるものではないと解するのが従来の判例法理であるが、本判決はこれを前提
としつつ、例外的に保証債務の承認が主たる債務のそれを含むと解すべき場合を新たに提示し
たものとして異議を有しよう。債権者の側からみれば、本件のような同一人帰属型においては、
原則として保証人と主たる債務者それぞれに分けて時効管理を行う必要がない旨が明らかとな
った。
問題は「特段の事情」が如何に認定されるかにかかっているが、本判決は、債務承
認を行った保証人の意思解釈に根拠を求める構成を採用したものと目される。
[東京地裁 H.25.9.26 判*] H23(ワ)35576 号 地位確認等請求事件(棄却・控訴棄却
労基法 9 条、労働契約法 2 条 1 項・16 条、労組法 7 条
・上告不受理)
ソクハイ事件: 自転車等による書類等の配送事業を展開していた会社との間で運送請負契約
等を締結し、その配送を行う配送員(バイクメツセンジャー)が、その自由度から、労働基準
法上の労働者に当るとは云えず、その契約の打切りに解雇権濫用法理の適用があるとは云えず、
不当労働行為の成立も否定された事例 ― 「本件業務委託契約書の規定内容は、被告の配送
業務の請負に関する約定であると認められるところ、その使用従属性については、メッセンジャ
ーが稼働日・稼働時間を自ら決定することができ、配送依頼を拒否することも妨げられておらず、
その自由度は比較的高いこと、被告がメッセンジャーに対し、一定の指示をしていることは認め
られるが、これらは受託業務の性質によるところが大きく、使用従属関係を肯認する事情として
積極的に評価すべきものがあるとは言えないこと、拘束性の程度も強いものとは云えないことを
指摘することができ、
・・・労基法上の労働者に該当すると評価することは相当でないというべき
である」
。なお、被告のメッセンジャーについて、労組法 3 条・7 条所定の労働者に当るとした当
裁判所の判断があるが(東京地裁 H.24.11.15 判・H22 (行ウ)433 号・判時 2176-101)、これは「原
告らメッセンジャーは被告の事業組織に組込まれ、個々の業務依頼を基本的には引受けるべきこ
とが想定されていたこと、時間・場所・態様の各面につき、一定程度の拘束性があったことが否
定されるものでもないこと等を指摘することができるところであり、この点に照らせば、本件業
務委託契約締結後においても、原告らメッセンジャーが労組法 3 条・7 条所定の労働者に当るこ
とまでは否定されないと解される。しかし、
・・・原告らメッセンジャーが労組法 3 条・7 条所定
の労働者に当るからといって直ちに労基法上の労働者に該当するということにはならない。
」
判時 2212-97
労働経済判例速報 2198-3
吉田肇・民商 151-2-82
73
*吉田評釈:現実の個人請負型就業者の労務提供に労基法上の労働者性が認められるためには、
使用従属性の主要な判断要素である諾否の事由、業務遂行上の指揮監督や時間的場所的拘束に
ついては、その自由度が低く、拘束性の強いこと、報酬の労務対償性については、それが強い
ことをいずれも要すると解する(典型的な労働者との類似性が強い場合に、初めて労働者性を
肯定する立場である)
。 本件では争点となっていないので判断の対象とはなっていないが、労
働契約に「雇止め法理:労働契約法 19 条」を適用する趣旨に鑑みれば、使用従属性の要素のう
ち、特に諾否の自由の制限の程度、時間的場所的拘束の強さ、また補強要素の専属性の有無に
よっては、雇止め法理の類推適用の基礎が認められると考える。本件では、稼働日・稼働時間
を自ら決定することができ、配送依頼を拒否することも妨げられていなかったと認定されてお
り、専属性もなかったとされていることから、この認定を前提にすれば、雇止め法理類推の基
礎は認めがたいと考えられよう。
[東京高裁 H.25.10.31 判*] H25(ネ)3595 号 損害賠償請求控訴事件(控訴棄却・確定)
民法 167 条 1 項、商法 522 条本文、民法 724 条
目的物の引渡後 20 年以上が経過してから判明した建築瑕疵の存在を理由とする施主の施工業
者らに対する損害賠償請求の、債務不履行による請求権の消滅時効/不法行為による請求権の
除斥期間の 起算点
[事案概要]
原告 X 信託銀行(控訴人)は X が信託を受けている土地上に、鉄屋根付屋内プールを付設する
地上 5 階・地下 1 階の鉄筋鉄骨ビル建築の設計・施工管理を 1978-7-31 被告 Y3 設計事務所(被
控訴人)に依頼した。そしてその建築を X は被告 Y1 商社(被控訴人)に 1978-10-28 発注し、
Y1 はそれを大手ゼネコンの被告 Y3(被控訴人)に下請させた。X は、Y1 からこれら建築の引渡
を 1988-7-27 に受け、その翌日から居住部分であるビルの四・五階を除き A スポーツクラブに賃
貸した。ところが、それから 22 年を経た 2010-11-1 屋内プールの天井に新たに点検口を設けてプ
ール天井裏を点検したところ、天井裏の母屋全般に錆が進行し梁や屋根が何時落下しても不思議
ではない状態であった。そこで X は大手ゼネコンの B 建設会社に調査を依頼したところ、その原
因は、プール室内の塩素を含んだ湿潤空気を吸引して屋外に排出するダクトには、その内側に、
塩素による腐食に対する耐食性がある塩ビライニング・塩ビコーティングを施す必要があり、そ
の旨設計図にも記載されていたにもかかわらず、ダクトの一部について耐食性のない部材が使用
されたため、当該部分が内側から浸食により開孔し、そこから塩素を含む湿潤空気がプール室天
井裏に漏れたことにあることが判明した。
X は、まず Y1・Y3 に対してその改修工事費用相当額の支払を 2011-8-26 頃に催告し、次いで、
その損害である A スポーツクラブのプール営業中止による賃貸収入減及びプール天井裏の改修工
事等による損害約 2 億円を、施工業者 Y1・Y2 および施工管理人 Y3 の三者に対し、不法行為責
任として 2014-10-9 に訴求。
そして民法 724 条後段所定の 20 年の除斥期間については、X は[最高裁三小 H.16-4-27 判*]
を引用して「塩素による腐食という本件の損害は、少なくとも原告 X が本件建物の引渡を受けて
から 5 年以上経過してから生じたと考えられ、損害が発生したのは、早くとも原告が本件建物の
引渡をうけた 5 年後の応当日である H-5-7-27(1993 年)である。」から除斥期間 20 年は経過し
ていないと主張。
一審判決は、このような「損害は、引渡時に生じていた施工上の瑕疵に起因して拡大した損害
にすぎず、
・・・引渡から 20 年以内に建物の点検をする機会すらないことは通常考えにくく、」
[最
高裁三小 H.16-4-27 判*]とは事案を異にすると判示して 20 年の除斥期間の完了を認め、原告 X
の損害賠償請求を棄却。 ⇒控訴:X は一審での不法行為による損害賠償請求を予備的請求に改
め、新たに主位的請求として、施工業者 Y1 及び施工管理人 Y3 に対する債務不履行による損害賠
償を訴求し、時効の起算点を「権利行使が現実に期待できることも必要」と判示している[最高
74
裁大法廷 S-45-7-15 判]を援用主張して控訴。
[判示要旨]
一、債務不履行責任の訴求について:
[最高裁大法廷 S-45-7-15 判]はその消滅時効の起算点時
である「権利を行使することができるとは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないとい
うだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待できるものであることをも必
要と解するのが相当であるとしたものである。 しかして、控訴人の主張する事由は、全く事実
上の障害であって、
『権利の性質上』
、その権利の行使が現実に期待できるものではないなどとは、
およそいうことのできないもの」であると判示し、請求棄却。
二、不法行為責任の訴求について:除斥期間の起算日を遅らせるべきと控訴人が援用主張する
[最高裁三小 H-16-4-27 判*]
・
[最高裁二小 H-16-10-15 判*]
・[最高裁二小 H-18-6-16 判*]
は、
「いずれも健康被害に関する判断であり、これを一般化して、通常の不法行為全般に及ぶと解
することはできない。
・・・しかも、本件において不法行為と主張されている行為は、通常であれ
ば、加害行為の後、日をおかずに損害を発生させる行為であり、『損害の性質上』、加害行為が終
了してから相当の期間が経過したした後に損害が発生することが当然に想定されるものとは云い
難い。
」と判示し、これも請求棄却。
判時 2264-52
松本克美・判例評論 687-9
一審:東京地裁 H.25-5-21 判・H24(ワ)28591 号
判時 2264-55
*古田①:排気ダクトを設けているとはいえ、塩素を含んだ湿潤空気で満たされた広大な室内の
プールの天井裏はそれに容易に腐食される鋼材で構成されている以上は、X はそれへの点検口
のない建物の引渡を受けても疑問を感じなかったこと及び、四半世紀も点検口を設けず点検し
ようとしなかった X は異常としか言えないであろう。
原告 X 請求の債務不履行責任による損害賠償請求権の消滅時効は商事債権であるから 5 年で
あるが、松本評釈は「本来の債務の履行期である本件建物の引渡時にそのような損害に対する
賠償請求権の行使が可能であったとは到底評価できない事案である。本件事案における権利行
使をできる時とは、原告が主張するようにプール天井裏の腐蝕が判明した時点と解す方が時効
制度の趣旨に適った合理的な解釈であろう。
」と指摘されている(12 頁中段)。
また、原告 X 請求の不法行為に基づく損害賠償請求権の除斥期間の起算点についても、松本
評釈は「この損害の発生時は建物引渡時という形式的解釈は、補修を請求できるためには損害
が顕在化しなければ請求しようがないという当然の前提をまるで無視しているのである。筑豊
人肺最判(
[最高裁三小 H.16.4.27 判*]
)の肝である『被害者にとって酷 ― 加害者は予見
すべき』という解釈の根本姿勢とは程遠い解釈である。 結局、本判決における『不法行為の
時』も原告主張のように賠償請求の対象としている損害が顕在化した時、すなわち、本件建物
の鉄骨等の腐蝕によるプール屋根の崩落の危険性のあることが判明した時と解すべきである。
と指摘されている(13 頁上・中段)
。
しかしながら、債務不履行・不法行為いずれの損害賠償請求権も、原因は欠陥のある排気ダ
クトで引渡したことであり、法的にもその時点で損害賠償請求権は生じているし、現実に X に
よる請求が遅れたのは、その欠陥を知らなかった事実はあっても、四半世紀も点検をしようと
しなかった怠惰を救う必要はないであろう。
なお、本件事案では用いられるに至らなかったが、民法 638 条はコンクリートや金属造等の
強固な工作物の受注請負人には引渡から 10 年間の瑕疵担保責任を課している。 しかしこれは
任意規定であるから、例えば中央建設業審議会平成 22 年決定の「民間工事標準請負契約約款
(甲)
」の 29 条 2 項はこれを 2 年とし、その瑕疵が受注者の故意又は重大な過失によって生じ
たものであるときのみ 10 年としている。また、その後の法律である住宅新築に関する「住宅の
品質確保の促進等に関する法律(平成 11 年法律 81 号)
」87 条は、住宅の主要部分についての
請負人の瑕疵担保責任を 10 年とする強行規定を定めている。
いずれにせよ注文者は、万一瑕疵もあり得る以上は点検を怠らないのが常識である。
*古田②:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例:1)[最高裁三小 S.35.11.1 判*]商事
契約の解除に基づく原状回復の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効起算点は、本来の債
75
務の履行を請求し得る時。2)[最高裁大法廷 S.45.7.15 判]弁済供託における供託金取戻請求
権の消滅時効の起算点及び時効期間。3)[最高裁二小 S.55.5.30 判*]手形裏書人に支払猶予の
特約をした所持人の同裏書人に対する手形上の請求権の消滅時効の起算点。4)[最高裁一小
H.1.12.21 判*]民法 724 条後段の 20 年は除斥期間である。5)[最高裁三小 H.6.2.22 判*]
じん肺に罹患した事実はその旨の行政上の決定がなければ通常認め難いから、じん肺に罹患し
たことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、最終の行政上の決定を受けた時から進行す
る。6)[最高裁三小 H.8.3.5 判*]自賠法 72 条 1 項前段に規定する政府の保障事業に対する消
滅時効の起算点は、加害自動車につき自賠法 3 条による損害賠償請求権が存在しないことが確
定した時である。7)[最高裁二小 H.10.4.24 判]債務者の責に帰すべき債務の不履行によって
生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行を開始する。
8)[最高裁三小 H.13.11.27 判①]瑕疵担保権の行使については除斥期間の定めがあるが(民法
570 条・566 条 3 項、637 条~639 条)
、瑕疵担保により既行った請求権には当該請求権の消滅
時効規定が適用される。9) [最高裁三小 H.13.11.27 判②]弁済供託における供託物の取戻請
求権の消滅時効の起算点は、過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする
弁済供託の場合を含め、供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど、供託者が
免責の効果を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である。
10)[最高裁一小 H.15.12.11 判*]被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効
の起算点とする旨を定めている保険約款で、その被保険者が行方不明・生死不明 3 年経過後に
遺体で発見された事案で、その消滅時効は被保険者の遺体が発見されるまでの間は進行しない
と判示。11)[最高裁三小 H.16.4.27 判*]石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安
法上の保安規則の権限を行使しなかったことによるじん肺罹災者の国家賠償請求事件において、
「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や,一定の潜伏期間が経
過した後に症状が現れる損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為
が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部
が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである。
」と判示。
12)[最高裁二小 H.16.10.15 判*]水俣病関西訴訟:
「水俣病による健康被害につき,患者が
水俣湾周辺地域から転居した時点が加害行為の終了時であること,水俣病患者の中には潜伏期
間のあるいわゆる遅発性水俣病が存在すること,遅発性水俣病の患者においては水俣病の原因
となる魚介類の摂取を中止してから4年以内にその症状が客観的に現れることなど判示の事情
の下では,上記転居から4年を経過した時が民法 724 条後段所定の除斥期間の起算点となる。」
と判示。13)[最高裁二小 H.18.6.16 判*]B 型肝炎訴訟:「経験則上,本件集団予防接種等と
原告らの感染との間の因果関係を肯定するのが相当である。
・・・当該不法行為により発生する
損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生する場合には,当
該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである([最高裁三小
H.16.4.27 判*]
・
[最高裁二小 H.16.10.15 判*]参照)。」14)[最高裁一小 H.21.1.22 判*]継
続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制
限を超える利息の弁済により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しな
ければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,同
取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,同継続的取引が終
了した時から進行する←過払金返還訴訟が急増している。
[最高裁一小 H.25.11.21 判*] H24(受)105 号 求償債権等請求事件(上告棄却)
民事再生法 85 条 1 項・94 条 1 項・95 条・121 条 1 項・同条 2 項・154 条 1 項・169 条、
民亊再生規則 31 条
民事再生法上の共益債権に当たる債権につき、これが本来共益債権である旨の付記をすること
もなく再生債権として届出がされ、この届出を前提として作成された再生計画案を決議に付す
る旨の決定がされた場合において、当該債権を再生手続によらずに行使することの許否
76
― 「 民事再生法上の共益債権に当たる債権を有する者は、当該債権につき再生債権として
届出がされただけで、本来共益債権であるものを予備的に再生債権であるとして届出をする旨の
付記もされず、この届出を前提として作成された再生計画案を決議に付する旨の決定がされた場
合には、当該債権が共益債権であることを主張して再生手続によらずにこれを行使することは許
されないと解するのが相当である。
」
民集 67-8-1618 判時 2229-11 金法 2009-11 金判 1431-32 & 1449-26
石毛和夫・銀行法務 767-61 中森亘・金法 2001-56 田頭章一・リマークス 50-134
増田勝久・飯田幸子・銀行法務 790-30
原審:大阪高裁 H.23.10.18 判・H23(ネ)1323 号 金判 1379-22 石毛和夫・銀行法務 741-62
一審:大阪地裁 H.23.3.25 判・H21(ワ)7490 号
金判 1366-54
*古田:
[最高裁一小 H23.11.24 判*]は、共益債権であれば再生手続外での行使を認めている。
本件も「予備的再生債権届出」である旨を明確にしておけば、争いは避けられた事例。
[大阪高裁 H.25.11.22 判*] H25(ネ)2227 号 建物明渡等請求事件(控訴棄却、
民法 601 条・620 条
上告不受理)
建物の賃貸借の保証会社が賃料を代位弁済しても、賃借人の賃料不払の事実に消長を来たすこ
とはないとして賃料不払による賃貸借契約の解除が認められた事例 ― 「本件保証委託契約のよ
うな賃貸借保証委託契約は、保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し、賃借人
が賃料の支払を怠った場合に、保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするもの
であり、これにより、賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし、賃借人にとっても容易
に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。しかし、賃貸借保証委託契
約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借
契約の債務不履行の有無を判断するに当り、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相
当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、
これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来たすものではなく、ひいてはこれによる
賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。
」
判時 2234-40
一審:神戸地裁尼崎支部 H.25.5.29 判・H24(ワ)942 号 (請求認容、控訴)
[東京地栽 H.26.1.23 判*] H23(ワ)32060 号 損害賠償請求事件(一部認容・
民法 415 条
一部棄却、確定)
ウェブサイトによる商品の受注システムを利用した顧客のクレジツトカード情報が流出した事
故につき、当該システムの設計・製作・保守等を委託した原告業者の利用顧客への謝罪・問合
せ等の顧客対応費用・売上損失等の損害につき、そのシステム受託業者の「当時の基準に沿っ
た適切なセキュリティ対策が採られたアプリケーションを提供すべき債務の不履行」に基づく
損害賠償責任が肯定された事例 ― 受託業者である「被告は、H.21.2.4 に本件システム発注契
約を締結して本件システムの発注を受けたのであるから、その当時の技術水準に沿ったセキュリ
ティ対策を施したプログラムを提供することが黙示的に合意されていたと認められる。そして、
本件システムでは、金種指定詳細化以前にも、顧客の個人情報を本件デーダベースに保存する設
定となっていることからすれば、被告は、当該個人情報の漏洩を防ぐために必要なセキュリティ
対策を施したプログラムを提供すべき債務を負っていたと解すべきである。・・・経済産業省は、
H.17.2.20、
『個人情報保護法に基づく個人データの安全管理措置の徹底に係る注意喚起』と題す
る文書において、SQL インジェクション攻撃によってデータベース内の大量の個人データが流出
する事案が相次いで発生していることから、独立行政法人情報処理推進機構(以下「IPA」)が紹
介する SQL インジェクション対策の措置を重点的に実施することを求める旨の注意喚起をして
いたこと、IPA は、H.19.4.『大企業・中堅企業の情報システムのセキュリティ対策~脅威と対策』
77
と題する文書において、ウェブアプリケーションに対す目代表的な攻撃方法として SQL インジェ
クション攻撃を挙げ、SQL 文の組立にバインド機構を使用し、又は SQL 文を構成する全ての変
数に対しウスケープ処理を行うこと等により、SQL インジェクション対策をすることが必要であ
る旨を明示していたことが認められ、これらの事実に照らすと、被告は、H.21.2.4.の本件システ
ム発注契約締結時点において、本件データベースから顧客の個人情報が漏洩することを防止する
為に、SQL インジェクション対策として、バインド機構の使用又はエスケープ処理を施したプロ
グラムを提供すべき債務を負っていたということができる。そうすると、本件ウェブアプリケー
ションにおいて、バインド機構の使用又はエスケープ処理のいずれも行われていなかった部分が
あることは前記・・・のとおりであるから、被告は上記債務を履行しなかったのであり、債務不
履行(適切なセキュリティ対策が採られたアプリケーションを提供すべき債務の不履行)の責任
を負うと認められる。
」
判時 2221-71
浅井弘章・銀行法務 776-61
上山浩・NBL1055-34
[最高裁二小 H.26.1.24 判*] H24(受)1475 号 残業代等請求事件(上告棄却)
労基法 38 条の 2 第 1 項
募集型の企画旅行における添乗員の業務につき、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時
間を算定し難いとき」に当たらないとされた事例 ― 募集型の企画旅行における添乗員の業務
については、 (1) 当該業務は、旅行日程がその日時や目的地等を明らかにして定められること
によって、その内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲
及びその決定に係る選択の幅は限られている。 (2) 当該業務について、上記企画旅行を主催す
る旅行業者は、添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を
行うべきことを具体的に指示した上で、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が
生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確
認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされている。
「以上のような業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に
関する指示及び報告の方法、内容やその実際の態様、状況等に鑑みると、本件添乗業務について
は、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、
労働基準法 38 条の 2 第 1 項にいう『労働時間を算定し難いとき』に当るとは言えないと解する
のが相当である。
」 と判示し、各添乗業務の実態毎に当該業務の労働時間を判定して支払義務を
判示した原審の判断を是認して上告を棄却した。
集民 242-1 判時 2220-126 判タ 1400-101
水野圭子・法律時報 85-4-137
上田絵里・速報判例解説 16-283 河津博史・銀行法務 775-64 緒方佳子・民商 150-3-119
高橋賢司・判例評論 673-37 浜村彰・H26 重要判ジュリ 1479-227
原審:東京高裁 H.24.3.7 判・H22(ネ)4760 号
労判 1048-6
一審:東京地裁 H.22.7.2 判・H20(ワ)20502 号
労判 1011-5
*水野評釈:
(株)阪急トラベルサポートに対しての登録型派遣添乗員達からの残業代金等請求事
件は、本件の原審の他にも、東京高裁 H.23.9.14 判・H22(ネ)3851 号(労判 1036-14)、東京高
裁 H.24.3.7 判・H22(ネ)7078 号(労判 1048-26)があり、いずれも同旨が判示され、各添乗業
務の実態毎に当該業務の労働時間を判定して支払義務が判示されている。
[東京高裁 H.26.1.29 判*] H25(ネ)3891 号 清算金請求控訴事件(控訴棄却・上告受理申立)
民事再生法 92 条・93 条の 2 第 1 項 1 号
再生手続が開始された甲に対して債務を負担する乙が、同手続開始前に甲に対して債権を有す
る丙から当該債権を相殺に供する権限を与えられる停止条件が同手続開始後に成就した場合に、
乙が当該債権を自働債権、甲に負担する債務を受働債権としてした相殺の民事再生法上の効力
を認めた第一審判決が控訴審において是認された事例 ― この第一審判決は、同手続開始の時
78
点において再生債権者が再生債務者に対して債務を負担していた場合と同視し得る程度に、乙に
相殺の合理的期待が認められる原判示ないし本判示の事実関係の下においては、当該相殺が民事
再生法 93 条の 2 第 1 項 1 号によって相殺が禁止される場合には当らず、同法 92 条によって許さ
れる以上、これを是認することができる。
金判 1437-42
小野傑・金法 2001-48
遠藤元一・金判 1444-2
宇野瑛人・ジュリ 1491-111
柴崎暁・金判 1482-16
一審:
[東京地裁 H.25.5.30 判*]
[最高裁一小 H.26.1.30 判*] H24(受)1600 号 損害賠償請求事件
(一部破棄差戻・一部上告棄却)
商法(H.17 改正前)266 条 1 項 5 号・514 条、会社法 423 条 1 項、民法 404 条・412 条
一、商法(H.17 改正前)266 条 1 項 5 号に基づき取締役が会社に対して支払う損害賠償金に付
すべき遅延損害金の利率 ―商法(H.17 改正前)226 条 1 項 5 号に基づき取締役が会社に対
して支払う損害賠償金に付すべき遅延損害金の利率は,民法所定の年5分である。
二、商法(H.17 改正前)266 条 1 項 5 号に基づく取締役の会社に対する損害賠償債務が履行遅
滞となる時期 ―商法(H.17 改正前)226 条 1 項 5 号に基づく取締役の会社に対する損害賠
償債務は,履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。
集民 246-69 判時 2213-123 判タ 1398-87 金法 1993-84 金判 1435-10 & 1439-32
弥永真生・ジュリ 1465-2 鳥山恭一・法学セミナー713-115 大塚和成・銀行法務 771-58
土岐孝宏・法学セミナー714-131 南健悟・北大法学論集 65-4-136 早川徹・民商 150-2-168
原審:福岡高裁 H.24.4.13 判・H23(ネ)255 号 金判 1399-24
一審:福岡地裁 H.23.1.26 判・H17(ワ)3004 号 金判 1367-41
[大阪高裁 H.26.2.20 判*] H25(ネ)1031 号 出資金返還等請求事件(原判決取消・差戻、
民事訴訟法 3 条の 7・3 条の 9、民法 90 条
上告不受理)
タイ王国の裁判所を専属管轄裁判所とする国際的専属的裁判管轄の合意が、甚だしく不合理で
公序法に違反するとして無効とされた事例 ― 「本件管轄合意のような、ある訴訟事件につい
て特定の外国の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意は、
①.当該事件が日本の裁判権に専属的に服するものではなく、②指定された外国の裁判所が、そ
の外国法上、当該事件につき管轄権を有する場合は、上記管轄の合意が甚だしく不合理で公序法
に違反するとき等を除き、原則として有効であると解される(
[最高裁三小 S.50.11.28 判])
。 本
件は日本の裁判権に専属的に服するものではないと解されるが、タイ王国の裁判所が同国の法律
上、本件につき管轄権を有するか、また、仮に有するとしても、本件管轄合意が甚だしく不合理
で公序法に違反するものであるかが当事者間で争われているので、以下、これ等の点につき検討
する。
」
・・・本件管轄合意は、専属的裁判管轄の合意として適式なものとは認められる。しかし、
「本件各契約の当事者は、いずれも日本人又は日本法人であり、契約が締結された地も日本であ
る。また、本件各契約において、控訴人(原告)らの出資金支払義務、被控訴人の分配金支払義
務の履行地も日本(日本法人である銀行の日本に所在する支店の口座)である。これらの契約当
事者、契約締結地、義務履行地のいずれの観点からみても、関係を有するのは日本のみであり、
タイ王国とは何らの関係も見出し得ない。・・・
以上によれば、契約当事者、契約締結地、義務履行地、投資対象のいずれの点からも、本件各
契約に関する紛争について日本の裁判所の管轄を排除し、タイ王国の裁判所のみを管轄裁判所と
すべき合理的理由は何ら見出し得ない。これに加えて、本件管轄合意の効力を認めた場合、タイ
王国の裁判所での訴訟の提起・遂行を余儀なくされることによる控訴人らの負担が非常に大きい
ものであることは容易に推認することができる。従って、タイ王国の裁判所を国際的専属的合意
管轄裁判所とする本件管轄合意は、甚だしく不合理であり、公序法に違反し、無効と解するのが
79
相当である。
」
判時 2225-77 判タ 1402-370
長谷川俊明・国際商事法務 42-10-1538
中野俊一郎・H26 重要判ジュリ 1479-302
植松真生・リマークス 51-148
一審:大阪地裁 H.25.2.27 判・H23(ワ)9590 号(管轄合意の有効性を認め訴却下、控訴)
判決文未公刊
[最高裁三小 H.26.2.25 判*] H23(受)2250 号 共有物分割請求事件(破毀差戻)
民法 898 条・899 条、投資信託及び投資法人に関する法律 6 条 3 項
個人向国債の発行等に関する省令 3 条
一、共同相続された委託者指図型投資信託の受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応
じて分割されるか ― 「この投資信託受益権は、口数を単位とするものであって、その内容
として、法令上、償還金請求権及び収益分配請求権という金銭支払い請求権のほか、信託財産に
関する帳簿書類の閲覧又は当社の請求権等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定され
ており、可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権
に含まれている権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された上記投資信託受益権は、相続開
始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
」
二、共同相続された個人向国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるか ―
「個人向国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1 単位未満での権利行使が予
定されていないものというべきであり(法定相続人は 4 人で、国債の単位は 4 で割り切れない)、
このような個人向国債の内容及び性質に照らせば、共同相続された個人向国債は、相続開始と同
時に当然に相続分に応じて分割されることはないものと謂うべきである。
」
民集 68-2-173 判時 2222-53 判タ 1401-153 金判 1438-10 & 1446-22 金法 2004-98
浅井弘章・銀行法務 771-54 奈良輝久・銀行法務 771-4 潮見佳男・金法 2001-7
原審:福岡高裁 H.23.8.26 判・H22(ネ)1160 号・H23(ネ)572 号
金判 1438-15
一審:熊本地裁 H.22.10.26 判・H22(ワ)558 号
金判 1438-17
*:本判決は最高裁として、共同相続された投資信託受益権および個人向国債について相続によ
る当然分割を否定した初めての判決である。
[東京高裁 H.26.2.25 決定*] H26(ラ)331 号債権差押命令に対する執行抗告事件
民事執行法 35 条・36 条、破産法 253 条
(抗告棄却・確定)
債務者の本件債務が破産手続で免責許可決定が確定していても、直ちに強制執行手続の開始を
妨げる事由にはならない ― 「債権者は、債務者の破産免責手続の終了後は、破産債権を自由
に行使でき、債務名義を取得しているときは、それに基づく強制執行をすることができる。そし
て、債務者の免責許可決定が確定していても、破産債権が非免責債権に該当するか否かは執行裁
判所が判断すべき事項でなく、債務者が責任の消滅を理由として請求異議の訴え(民事執行法 35
条)を提起し、また強制執行停止(同 36 条)を申立てることはできるものの、免責許可決定の確
定が直ちに執行手続の開始を妨げる事由にはならない。
」
判タ 1401-370 金法 1995-110 河津博史・銀行法務 776-58 西川佳代・速報判例解説 17-153
一審:東京地裁 H.25.12.18 決定・H25(ル)10598 号
[最高裁一小 H.26.2.27 判*] H23(受)2196 号 所有権移転登記手続等請求事件(上告棄却)
民法 33 条、民訴法 29 条、不動産登記法 63 条 1 項
権利能力のない社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産につき所有権の登記名義人に対し
当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟と当該社団の原告
適格 ― 権利能力のない社団は,構成員全員に総有的に帰属する不動産について,その所有権
80
の登記名義人に対し,当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴
訟の社団自身も原告適格を有する。
民集 68-2-192 判時 2215-94 判タ 1399-84 金判 1439-14 金判 1444-25 金法 1998-140
石毛和夫・銀行法務 773-59
西村康人・H26 重要判ジュリ 1479-67
川嶋隆憲・法学研究(慶大)88-3-58
田邊誠・別冊ジュリ 226-24
原審:仙台高裁 H.23.7.14 判・H22(ネ)365 号
民集 68-2-206 金判 1439-21
一審:盛岡地裁 H.22.5.10 判・H21(ワ)542 号
民集 68-2-197 金判 1439-28
*石毛評釈:権利能力のない社団には法人格がないため、代表者の個人名義または規約等に定め
られた手続により認められた構成員の個人名義をもって登記することになる([最高裁一小
S.39.10.15 判*]
、最高裁三小 H.6.5.31 判・H3(オ)1724 号・民集 48-4-1065)。このような登
記名義を持つ代表者が後退した場合には、新代表者が原告となって、旧代表者に対し、当該不
動産につき自己の個人名義に所有権移転登記をすることを求めることが認められている(最高
裁二小 S.47.6.2 判・S45(オ)232 号・民集 26-5-957)。本判決は、この様な請求について、新代
表者のみならず社団自身も原告適格が認められることを最高裁として初めて明らかにした点に
意義がある。
[東京高裁 H.26.2.28 決定*] H25(ラ)2377 号 不動産引渡命令に対する執行抗告事件
民法 295 条 1 項・301 条・588 条、民事執行法 83 条 1 項
(抗告棄却・確定)
不動産売買契約により成立した留置権が、当該売買契約の残代金について準消費貸借契約が締
結されたことにより消滅したとして、担保不動産競売の目的不動産を占有する者に対する競落
人への引渡命令が認められた事例
[決定要旨]
本件不動産売買契約によって、その残代金債権を担保するための留置権が売主甲が占有を続け
ている本件土地建物に発生したということができるが、売主(抗告人)甲と買主丙は本件売買契
約に際し、
①:買主丙は、売買代金の資金を調達するため、Z 銀行から 5000 万円を借入れ、その担保とし
て本件土地建物全部に根抵当権を設定すること、
②:Z 銀行への根抵当権設定のため。売主甲は買主丙に対し、本件売買契約代金の一部(4300
万円)を受領した段階で本件土地建物全部の所有権移転登記をすること(所有権留保の登記手続
はしない)
、
③:売主甲は残代金債権(3000 万円)につき買主丙との間で準消費貸借契約を締結し、その貸
金債務を担保するため、本件土地建物に Z 銀行の根抵当権に劣後する抵当権を設定すること、
に合意している。
そして、そのとおり実行されたのであるから、上記準消費貸借契約の締結により旧債務である
本件売買契約の残代金債務は消滅し、留置権も消滅したものと解される(上記③の抵当権設定は、
実質的に留置権に代わる代り担保の提供ともいえる。)。
従って、抗告人(売主甲)は、競売により本件土地建物の所有権を取得した本件執行抗告事件
の相手方(本件不動産引渡命令の申立人)に対して留置権を主張することができず、
『買受人に対
抗することができる権原により占有していると認められる者(民事執行法 83 条 1 項但書)』には
当らないから、相手方の不動産引渡命令の申立には理由がある。 原審の引渡命令を是認し、抗
告人の本件抗告を棄却。
⇔ 抗告人(売主甲)の Z 銀行の根抵当権に劣後する抵当権への
競売代金配当額は 1566 万円(届出債権額 3000 万円)であった。
判タ 1402-123 金法 1998-154
谷本誠司・銀行法務 778-62 梶山玉香・金法 2025-33
原審:東京地裁 H.25.10.28 決定・H25(ヲ)11239 号 引渡命令を発令・抗告
*梶山評釈:準消費貸借契約が成立した場合、既存債務を消滅させるのか否かは当事者の意思に
より、当事者の意思が不明である場合には、既存債務と同一性を維持しつつ、単に消費貸借の
規定に従うこととされるにすぎないものと推定される、とするのが判例である:[最高裁一小
81
S.50.7.17 判*]参照。
本件の東京高裁決定は、裁判所が指摘するとおり「代担保」的な要
素は否定できないとしても、留置権によれば事実上満額弁済が保障されているにもかかわらず、
あえて、2 番抵当権を設定することには違和感があり、それによって、留置権を消滅させる意
思があったとまでみることができるかは疑問である。
しかし、本件では買主に代金を調達させなければ売先が見当たらないのであるから、その代
金調達の目的での銀行の抵当権設定が予定され、売主が売却のためにそれに協力していた事情
がある場合には、留置権が否定されても可であろう。
[最高裁一小 H.26.4.24 判①*] H23(受)1781 号 執行判決請求事件(破毀差戻)
民訴法 3 条の 3 第 8 号・118 条 1 号、民事執行法 22 条 6 号・24 条
日本国内での侵害行為の差止を命じた外国判決の日本での執行
一、人事に関する訴え以外の訴えにおける民訴法118条1号のいわゆる間接管轄の有無の判
断基準 ― 人事に関する訴え以外の訴えにおける民訴法118条1号のいわゆる間接管轄
の有無については,基本的に我が国の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定に準拠しつつ,
個々の事案における具体的事情に即して、外国裁判所の判決を我が国が承認するのが適当か否か
という観点から、条理に照らして判断すべきである。
二、違法行為により権利利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に
関する訴えと民訴法3条の3第8号の「不法行為に関する訴え」 ―
民訴法3条の3第8
号の「不法行為に関する訴え」は、違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれ
がある者が提起する差止請求に関する訴えをも含む。
三、違法行為により権利利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に
関する訴えにおける民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」の意義 ― 違法行為
により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に関する訴えに
ついては、民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」は、違法行為が行われるおそれのあ
る地や、権利利益を侵害されるおそれのある地をも含む。
四、違法行為により権利利益を侵害され又は侵害されるおそれがあるとして差止請求を認めた
外国裁判所の判決について民訴法118条1号のいわゆる間接管轄の有無を判断する場合に
おいて、民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」が当該外国裁判所の属する国にあ
るというために証明すべき事項 ―
違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害され
るおそれがあるとして差止請求を認めた外国裁判所の判決について民訴法118条1号のいわゆ
る間接管轄の有無を判断する場合において、民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」が
当該外国裁判所の属する国にあるというためには、被告が原告の権利利益を侵害する行為を同国
内で行うおそれがあるか、原告の権利利益が同国内で侵害されるおそれがあるとの客観的事実関
係が証明されれば足りる。
民集 68-4-329 判時 2221-35 判タ 1401-157 金法 2006-76 金判 1457-31
高部眞規子・金判 1458-8 高杉直・NBL1032-18 長谷川俊明・国際商事法務 42-11-1684
金彦叔・法協 132-9-181
中野俊一郎・判例評論 672-182
高田寛・NBL1037-88
渡辺惺之・リマークス 51-144
山木戸勇一郎・法学研究 88-4-83
長田真理・JCA ジャーナル 62-4-10
原審:東京高裁 H.23.5.11 判・H22(ネ)3571 号(控訴棄却) 民集 68-4-356 金判 1457-39
渡辺惺之・JCA ジャーナル 59-7-25 & 59-8-14
一審:
[東京地裁 H.22.4.15 判*]
(請求棄却)
*高杉評釈:本最高裁判決は、外国で権利利益が侵害されるおそれがある場合には、日本国内で
の侵害行為の差止を命ずる当該外国の判決(本件では米国連邦地裁判決)が、日本で執行され
82
る余地があると判示した。外国裁判所の国際裁判管轄(いわゆる「間接管轄」)を、H.23 民訴
法改正により新設された国際裁判管轄(いわゆる「直接管轄」)規定に準拠して判断することを
前提としており、逆に、日本国内で権利利益が侵害されるおそれがある場合には、日本の裁判
所で、外国での侵害行為に対する差止訴訟を提起することも可能となる。裁判実務上も、事業
活動上も大きな意義を有することになろう。
[最高裁一小 H.26.4.24 判②*] H25(受)419 号 執行文付与請求事件(上告棄却)
民亊執行法 26 条・27 条 1~2 項・33 条 1 項、破産法 221 条・253 条 1&3 項、
破産手続終結の決定がされ免責許可の決定が確定した債務者に対し、その確定した破産債権を
有する債権者が、当該破産債権が破産法 253 条 1 項 2 号(「破産者が悪意で加えた不法行為に
基づく損害賠償請求権」
)の非免責債権に該当することを理由として、当該破産債権が記載され
た破産債権者表について執行文付与の訴えを提起することの可否(消極)
[判示要旨]
一、執行文付与の訴え提起を認める「民事執行法 33 条 1 項は、その規定の文言に照らすと、執
行文付与の訴えにおける審理の対象を、請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合におけ
るその事実の到来の有無又は債務名義に表示された当事者以外の者に対し、若しくはその者のた
めに強制執行をすることの可否に限っており、破産債権者表に記載された確定した破産債権が非
免責債権に該当するか否かを審理することを予定していないものと解される(最高裁一小
S.52.11.24 判・S51(オ)1202 号・民集 31-6-943 参照)。」
二、
「このように解しても、破産事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官は、破産債権者表に
免責許可の決定が確定した旨の記載がされている場合であっても、破産債権者表に記載された確
定した破産債権がその記載内容から非免責債権に該当すると認められるときには、民事執行法 26
条の規定により執行文を付与することができるのであるから、上記破産債権を有する債権者には
殊更支障が生ずることはないといえる。
」
三、本件訴は民事執行法 33 条 1 項による執行文付与の請求であるから、上記「一」のとおり、
「免責許可の決定が確定した債務者に対し確定した破産債権を有する債権者が、当該破産債権が
非免責債権に該当することを理由として、当該破産債権が記載された破産債権者表について執行
文付与の訴えを提起することは許されないと解するのが相当である。
」
民集 68-4-380 判時 2225-68 判タ 1402-61 金法 2008-66
永石一郎・金判 1453-8 岡田好弘・速報判例解説 16-137 山本浩美・判例評論 673-32
成田晋司・ジュリ 1482-75 越山和広・民商 150-3-97 松村和徳・金法 2025-40
山本研・リマークス 51-132
小原将照・法学研究 88-9-82
原審:名古屋高裁 H.24.11.27 判・H24(ネ)1010 号
民集 68-4-400
一審:名古屋地裁 H.24.9.6 判・H24(ワ)2726 号
民集 68-4-395
*山本評釈:破産債権者表に記載された確定した破産債権がその記載内容から非免責債権に該当
すると認められるときには、民事執行法 26 条の規定により、破産事件の記録の存する裁判所の
裁判所書記官は執行文を付与することができる(上記判示要旨「二」)と、傍論ではあるが判示
した初めての最高裁判決である。
破産法における「免責」とは、破産者が個人の場合は破産解散となる法人とは異なり破産後
も生活が残るので、破産手続終結後は個人である破産者に破産手続での配当によって弁済され
なかった債務の責任を一般的に免除する制度であるが、破産法は、政策的理由から 253 条 1 項
但書で一定の債権には免責の効果が及ばない旨を規定している。即ち、非免責債権であり、標
記の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」もその一つである。
この非免責債権の債権者が上記判示要旨「二」により行った執行文付与の申立を却下する書
記官の処分があったときは、その所属裁判所に異議申立ができる(民事執行法 32 条 1 項)が、
その裁判でも認められなかったときには不服申立はできない(同条 4 項)。 その場合は別に給
付請求訴訟を提起するなどして、新たに債務名義を取得する必要がある。
83
[横浜地裁相模原支部 H.26.4.24 判*] H22(ワ)682 号 未払賃金等請求事件
労働基準法 32 条・37 条 1 項・114 条
(一部容認・一部棄却、控訴)
一、保冷荷物を配送するトラツク運転手の待機時間が管理者の指揮命令下にあったと評価され、
労働基準法上の労働時間に当るとされた事例 ― 原告らトラック運転手の労働実態に照ら
すと、出荷場や配送先における待機時間は、何時にても相手方からの連絡あり次第直ちに作業に
応じなければならず、加えて、トラックの冷凍機等の温度管理を常時厳格に行うことが要求され
ており、いずれも待ち時間が実作業時間に当り、使用者である被告の指揮命令下に置かれたもの
と評価することができるのであり、その待機時間中に原告らがトイレに行ったり、コンビニエン
ス・ストアに買い物に行くなどしてトラックを離れる時間があったとしても、これをもって休憩
時間であると評価するのは相当ではない。
二、割増賃金を業績給で支払っても、これを通常の労働時間に相当する部分と明確に区別でき
ないことから、時間外割増賃金の請求が認められた ― 法定外の時間外労働等を日常的に行
っていたと主張し割増賃金等を求める労働者の請求に、会社は割増賃金を業績給で支払っている
と主張。 しかし、一定額の手当を割増賃金に代えて支払うことが適法とされるためには、通常
の労働時間に相当する部分と割増賃金に当る部分を明確に判別できることが必要であると解され
るところ、会社が残業手当としている業績給のうちの職能給及び職別給は、必ずしも時間外労働
等を行なうことによって発生するものではなく、通常の労働時間内の労働によっても発生するも
のといえるから、労働者が残業手当として受領している給与には、通常の労働時間に相当する部
分が含まれており、仮に割増賃金に当る部分が存在するとしても、これを通常の労働時間に相当
する部分と明確に区別することはできない。割増賃金の支払を判示。
判時 2233-141 労働法律旬報 1820-77
[東京高裁 H.26.5.28 判*] H26(ネ)786 号 保険金請求控訴事件(控訴棄却・確定)
商法(H20 改正前)第 2 編 10 章:保険、保険法 2 章:損害保険、民法 91 条
自動車保険契約の人身傷害条項に基づく保険金請求における事故の偶然性要件の主張立証
― ①.自動車保険契約の被保険者が工場内で自ら運転・操作していたトラックに轢過され死亡し
た事故について、同保険の人身傷害条項に基づき保険金を請求する者は、
「急激かつ偶然な外来の
事故」であることについて主張・立証責任を負う。 ②.自動車保険契約の人身傷害条項に基づく
保険金請求において、被保険者が工場内で運転・操作していたトラックに轢過され死亡した事故
について、被保険者にとって予測できない原因から傷害の結果が発生したという偶然性の要件の
主張立証ができていないとして、保険金請求が否定された。
金判 1447-34
判時 2231-106
土岐孝宏・法学セミナー718-103
一審:静岡地裁 H.26.1.8 判・H23(ワ)1235 号 金判 1447-42
*古田:エンジンを稼働させたまました本人の全く常軌を逸した無理な行為が原因となっている。
[東京高裁 H.26.6.3 決定*] H26(ラ)708 号 債権差押命令申立却下決定に対する執行抗告
民事執行法 143 条、民事執行規則 133 条
事件(抗告棄却・確定)
大規模な金融機関である第三債務者の具体的な店舗を特定することなく、債務者がその第三債
務者に対して差押命令送達の日の 7 日後に、有する預金債権のうち複数の店舗に預金債権があ
るときは、差押命令送達の時点で預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とする債
権差押命令の申立が、差押債権の特定を欠き不適法であるとされた事例
[決定要旨]
「本件申立に係る差押の場合であっても、差押の効力自体は、第三債務者に対する債権差押命
令の送達の時点で直ちに生ずべきものであるから(民事執行法 145 条 4 項参照)
、相手方が第三
84
債務者に対して有する預金債権のうちどの預金債権が差押えられたのか(換言すれば、処分禁止
や弁済禁止の効力が及び、あるいは、差押の競合の有無の判断を要することとなるのはどの預金
債権か)を識別するためには、この送達の時点において、相手方の預金債権が第三債務者の複数
の店舗にあるか否か及び複数の店舗がある場合にはどの店舗が預金額最大店舗に該当することに
なるかを特定する必要があることになる。そうすると、大規模な金融機関である第三債務者にお
いて、すべての店舗のすべての預金口座を対象に、相手方の預金口座の有無を検索した上、該当
店舗及び預金口座ごとに債権差押命令の送達の時点における預金残高の有無及び複数の預金口座
があるときはその合計額を調査・把握し、相手方の預金債権がある店舗のエム及びどの店舗が預
金額最大店舗に該当するかを判定しなければならず、この作業が完了しない限り、差押の効力が
及ぶ預金債権が確定しないことになるが、第三債務者においてこのような作業を直ちに完了する
ことが可能であるとは認められない。
従って、本件申立における差押債権の表示によっては、債権差押命令の送達を受けた第三債務
者において、差押の効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速や
かに、かつ、確実に、差押えられた債権を識別することができるものでなければならないという
要請を満たすものということはできないから、本件申立は、差押債権の特定を欠き不適法という
べきである(なお、
[最高裁一小 H.25.1.17 決定*]参照)。
判タ 1410-88
金法 2014-113
原審:東京地裁 H.26.3.11 決定・ H26(ル)604 号
[最高裁一小 H.26.6.5 判*] H24(受)880 号等 配当異議事件(破棄自判)
民事再生法 41 条 1 項 9 号・53 条・88 条・188 条 2 項・190 条 1 項・194 条・250 条 1 項、
民法 127 条 2 項
再生債務者と別除権者との間で締結された別除権の行使等に関する協定における同協定の解除
条件に関する合意が,再生債務者がその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに
破産手続開始の決定を受けた時から同協定が効力を失う旨の内容をも含むものとされた事例
[判示要旨]
別除権の行使等に関する協定(別除権の目的である不動産につきその被担保債権の額よりも減
額された受戻しの価格を定めて再生債務者が別除権者に対しこれを分割弁済することとし,再生
債務者がその分割弁済を完了したときは別除権者の担保権が消滅する旨を再生債務者と別除権者
との間で定めたもの) 中にある再生手続廃止の決定がされること等を同協定の解除条件とする
旨の合意は,再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定がされる
ことが解除条件として明記されていなくても,これを解除条件から除外する趣旨であると解すべ
き事情がうかがわれないなど判示の事情の下では,再生債務者が上記破産手続開始の決定を受け
た時から同協定はその効力を失う旨の内容をも含むものと解すべきである。
民集 68-5-403 判時 2230-26 判タ 1404-88 金法 2007-60 金判 1445-14 & 1456-10
野村秀敏・金判 1454-8
中井康之・民商 150-4・5-131
卯藤弘二・金法 2024-6
小林信明・金法 2025-44
原審:高松高裁 H.24.1.20 判・H23(ネ)153 号(原判決取消・請求認容、上告)
民集 68-5-454 判タ 1375-236 金判 1398-50
一審:松山地裁 H.23.3.1 判・H21(ワ)731 号 配当異議事件(請求棄却・控訴)
民集 68-5-427 判タ 1375-240 金判 1398-60
*古田:本件は、別除権協定において広く用いられている解除条件条項の解釈について、最高裁
が初めて判断を示したものである。
即ち、別除権協定によって担保不動産の被担保債権の額が(債務者再生の為ための受戻に資
するために)合意された受戻価格まで減額された後、再生債務者が再生計画の履行完了前に再
生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた場合、その別除権協定の解除条件条項
がその様な場合に言及していなくても、当該別除権協定は失効し、被担保債権の額が元に服す
85
ると判断した最高裁の判示である。
[大阪高裁 H.26.7.11 決定*] H26(ラ)626 号 債権差押命令申立却下決定に対する執行抗告
民法 372 条・304 条、民事執行法 143 条・180 条
事件(抗告棄却→最高裁特別抗告棄却)
民事執行規則 170 条 1 項 4 号
根抵当権の被担保債権の一部を請求債権とする「一部実行」の申立によって開始された担保不
動産競売手続において余剰金が生じた場合と、当該余剰金交付請求権に対する当該根抵当権に
基づく物上代位権の行使に係る債権差押命令申立の許否(消極)
[決定要旨]
根抵当権の被担保債権の一部を請求債権とする「一部実行」の申立によって開始された担保不
動産競売手続において余剰金が生じた場合でも、請求債権に対する売却代金の納付によって根抵
当権が消滅する以上(最高裁一小 H15.7.3 判・H14(受)1873 号・集民 210-217 参照)
、物上代位
権を行使し得る前提がなく、当該余剰金交付請求権に対する当該根抵当権に基づく物上代位権の
行使に係る債権差押命令の申立は許されない。
判時 2255-80 金判 1476-8
曽我幸男・リマークス 52-30
原審:大阪地裁 H.26.5.20 決定・H26(ナ)33 号
金判 1476-13
[最高裁一小 H.26.7.24 判*]H24(受)2832 号 不当利得返還請求事件(破棄差戻)
民法 488 条
元利均等分割払方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において、
借主から約定の毎月の返済額を超過する支払がされたときの充当関係
[判示要旨]
「元利均等分割返済方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合にお
いて、借主(原告・被控訴人・被上告人)から約定分割返済額を超過する額の支払がされたとき
には、 当該超過額を将来発生する債務に充当する旨の当事者間の合意があるなど特段の事情のな
い限り、当該超過額は、その支払時点での残債務に充当され、将来発生する 債務に充当されるこ
とはないと解するのが相当である。また、借主から利息制限法 1条1項の制限を超えて利息とし
て支払われた部分は、当然にその支払時点での残債務に充当される([最高裁大法廷 S.39.11.18
判*]参照)
。
しかるに、原審は、上記特段の事情の有無について審理判断しないまま、被上告人(借主)の
支払のうち約定分割返済額を超過する部分や利息制限法 1 条 1 項の制限を超えて利息として支払
われた部分について、将来発生する債務(筆者注:上記支払時点では未発生の利息債務)、すなわ
ち本件各期日における元本だけでなく利息にも充当される旨判断したものである。この原審の判
断 には、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。」
集民 247-113 判時 2241-63 判タ 1408-57 金法 2009-120
森永淑子・民商 150-6-94
工藤祐巌・H26 重要判ジュリ 1479-75
水野信次・銀行法務 783-66 中川敏宏・法学セミナー728-126 田中壮太・NBL1048-68
原審:仙台高裁 H.24.10.10 判・H24(ネ)164 号
一審:福島地裁会津若松支部 H.24.3.7 判・H22(ワ)329 号
*:本件と同一の貸金業者の事案で、
[最高裁三小 H.26.7.29 判*]も、上記の[判示要旨]のア
ンダーライン部分と同文の判示をしている。
[東京高裁 H.26.7.24 決定*] H24(ラ)1396 号 債権差押及び転付命令申立却下決定に対す
民事執行法 143 条、民執規則 133 条 2 項
る執行抗告申立事件(抗告棄却・確定)
第三債務者とする大規模な金融機関に存する債務者の預金につき、その口座所在店舗が不詳で
86
あるため、
「送達場所である本店に差押命令が送達された時から 1 時間後において、東京都内
の本店及び全支店のうち最も預金合計残高が多額である店舗が有する預金債権について、先行
の差押の有無や預金の種類等による順位を付して差押債権額に満つるまでの差押および券面額
債権者に転付する旨の転付命令の申立」― 差押債権の特定を欠き不適法であるとされた事例
[決定要旨]
金融機関である第三債務者に対して、送達場所である本店に差押命令が送達された時から 1 時
間後において、東京都内の本店及び全支店のうち最も預金合計残高が多額である店舗が有する預
金債権について、先行の差押の有無や預金の種類等による順位を付して、差押債権額に満つるま
での差押および券面額で債権者に添付する旨の転付命令の申立は、
①.第三債務者において東京都内の本店及び全支店の全ての預金口座について当該顧客の有無
や口座ごとの預金残高を調査し、その残高を比較して預金額最大店舗を把握することを要し、更
に、必然的に送達時から 1 時間内には預金額最大店舗が判明しないこととなる上、
②.この間に預金額が刻々と変動する可能性にかんがみると送達時から 1 時間が経過した後も差
押債権の範囲の把握のために更に時間を要する可能性もあることからすれば、
このような申立にあっては、差押の効力が送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならな
い程度に速やかに、且つ、確実に、差押えられた債権を識別することができないから、本件申立
は差押債権の特定を欠き不適法である。
判タ 1412-137
原審:東京地裁 H.26.6.17 決定・H26(ル)4418 号/(ヲ)3233 号
*古田:本決定は、
[最高裁三小 H.23.9.20 決定*]が示した判断基準に即し、本件申立は差押
債権の特定を欠き不適法であるとして抗告を棄却した。
[東京地裁 H.26.7.28 判*]H24(ワ)32166 号 譲受債権請求事件(認容・確定)
民法 174 条の 2 第 1 項・457 条 1 項、商法 522 条、民事再生法 180 条 1・2 項
主債務が再生債権として異議なく確定し、再生計画認可の決定が確定して再生債権者表に記載
された場合に、その連帯保証債務の消滅時効期間も 10 年に延長されると判断した事例
[判示要旨]
「主たる債務について生じた事由による時効の中断が保証人に対してもその効力を生ずること
を規定した民法 457 条 1 項は、主たる債務が時効によって消滅する前に保証債務が時効によって
消滅することを防ぐための規定であり、もっぱら主たる債務の履行を担保することを目的とする
保証債務の附従性に基づくものであると解されるところ、民法 174 条の 2 の規定によって主たる
債務の短期消滅時効期間が 10 年に延長せられるときは、これに応じて保証人の債務の消滅時効期
間も同じく 10 年に変ずるものと解するのが相当である。そして、このことは連帯保証債務につい
ても異なるところはない(最高裁一小 S.43.10.17 判・S43(オ)519 号・集民 92-601、最高裁二小
S.46.7.23 判・S45(オ)622 号・集民 103-457 参照)
。
・・・本件においては、
・・・主債務である本
件貸金債権の消滅時効は再生手続参加により中断した後、再生計画認可決定の確定により 10 年と
なったので、その保証債務である本件保証債務の消滅時効期間も、附従性により中断した後(民
法 457 条 1 項)
、同手続きにおける再生計画認可決定が確定した H19.1.24 から進行し、その消滅
時効期間は 10 年となると解するのが相当である。
判タ 1415-277
石毛和夫・銀行法務 798-66
[最高裁三小 H.26.7.29 判*]H25(受)78 号 不当利得返還請求事件(破棄差戻)
民法 488 条
元利均等分割払方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において、
借主から約定の毎月の返済額を超過する支払がされたときの充当関係(
[最高裁一小 H.26.7.24
判*]と同一の貸金業者) ― [最高裁一小 H.26.7.24 判*]の[判示要旨]のアンダーライ
87
ン部分と同文の判示。 なお、裁判官木内道祥の補足意見あり。
集民 247-127 判時 2241-65 判タ 1408-60 金法 2009-123
森永淑子・民商 150-6-94
北居功・リマークス 52-34
小山泰史・法律時報 88-5-138
原審:名古屋高裁 H.24.10.25 判
一審:名古屋地裁半田支部 H.24.3.6 判
[最高裁一小 H.26.9.25 判*] H25(受)1649 号 建物賃料増額確認請求事件(破棄差戻)
借地借家法 32 条 1 項、民訴法 114 条 1 項・134 条
借地借家法 32 条 1 項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴
訟の確定判決の既判力
[判示要旨]
「借地借家法32条1項所定の賃料増減請求権は形成権であり,その要件を 満たす権利の行使
がされると当然に効果が生ずるが,その効果は,将来に向かって,増減請求の範囲内かつ客観的
に相当な額について生ずるものである(最高裁三小 S.32.9.3 判・S30(オ)460 号・民集 11-9-1467
等参照)
。
また,この効果は,賃料増減請求があって初めて生ずるものであ るから,賃料増減請求により
増減された賃料額の確認を求める訴訟(以下「賃料増 減額確認請求訴訟」という。)の係属中に
賃料増減を相当とする事由が生じたとしても,新たな賃料増減請求がされない限り,上記事由に
基づく賃料の増減が生ずることはない(最高裁三小 S.44.4.15 判・S43(オ)1270 号・集民 95-97
等参照)
。
さらに,賃料増減額確認請求訴訟においては,その前提である賃料増減請求の当否及び相当賃
料額について審理判断がされることとなり,これらを審理判断するに当たっては,賃貸借契約の
当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近の賃料の変動が賃料増減請求による場合に
は それによる賃料)を基にして,その合意等がされた日から当該賃料増減額確認請求訴訟に係る
賃料増減請求の日までの間の経済事情の変動等を総合的に考慮すべきも のである(最高裁二小
H.20.2.29 判・H18(受)192 号・集民 227-383 参照)
。
したがって,賃料増減額確認請求訴訟においては,その前提である賃料増減請求の効果が生ず
る時点より後の事情は,新たな 賃料増減請求がされるといった特段の事情のない限り,直接的に
は結論に影響する余地はないものといえる。 ・・・賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力
は,原告が 特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,
前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずると解するのが相
当である。
」
裁判官金築誠志の補足意見がある
民集 68-7-661 判時 2238-14 判タ 1407-69 金法 2020-73
越山和広・速報判例解説 16-153
石毛和夫・銀行法務 779-66
林紘司・金判 1469-8
三木浩一・法学研究 88-10-90
中村肇・判例評論 677-9
山本克己・金法 2025-67
池田愛・熊本法学 134-121
原審:東京高裁 H.25.4.11 判・H23(ネ)5264 号
民集 68-7-714
一審:東京地裁 H.23.6.27 判・H21(ワ)21656 号
民集 68-7-680
*中村評釈:従来、期間説(既判力の標準時が口頭弁論終結時(民事執行法 35 条 2 項)であるこ
とから、賃料増額請求権行使時点から口頭弁論終結時までの期間を訴訟物とする説)を支持する
見解が多かった問題について、最高裁が多数説とは異なる見解を示した判例である。最高裁の判
断として重要であるだけではなく、その影響は大きいと考えられる。また、最高裁は、従来の本
問題の取扱われ方では、十分検討されていなかった賃料増減請求権の法的性質やその請求訴訟の
実態を検討しており、従来の通説や判例に照らしても支持できると考える。
[福岡高裁 H.26.11.7 判*]・H25(ネ)460 号 損害賠償請求事件(一部変更・一部控訴棄却、
88
民法 709 条・715 条
上告・上告受理申立)
セブン―イレブン値引制限事件・ 加盟者の価格決定権の行使を違法かつ現実に妨害したか ―
①.「一審被告と加盟店オーナーとの間で締結する加盟店契約においては、セブン-イレブン店に
おける販売商品について、加盟店オーナーにその価格決定権があるから(加盟店契約 30 条・31
条)
、一審被告が、加盟店オーナーに対し、商品の値下げを制限したり禁止することなどにより価
格決定権を侵害することは、加盟店契約に違反する債務不履行に当り、また、加盟店オーナーに
対する不法行為に当る。
」
・・・加盟店に対し、値下げ販売を制限・禁止するような一審被告 Y 側
の言動については、
「それが加盟店への本件運営方針に基づく助言・指導の範囲にとどまる限りは
価格決定権の侵害ということはできず、本件運営方針に基づく助言・指導を超える言動について、
価格決定権の侵害として債務不履行・不法行為を問うべきこととなる。
」
②.一審では、原告 X1 に 220 万円・X3 に 220 万円・X4 に 165 万円(各請求訴額は、2,469 万
7,336 円・2,027 万 6,317 円・3,693 万 4,665 円)の請求権を是認判示したが、本件控訴審では、
X2 についてのみ Y の不法行為に対応する損害を 110 万円に限って是認。他方、X1 の価格決定権
に対する Y の侵害事実の存在は是認されず、また X4 主張の損害である商品の廃棄ロス原価が営
業費として X4 の負担となることの説明は Y により尽くされていたことが認定され、X2・X4 は
全部敗訴となった。
判時 2244-28
一審:福岡地裁 H.25.3.28 判・H21(ワ)5110 号 ほか
判時 2209-49
長谷川貞之・リマークス 50-26 の③
*:上記②について、セブン-イレブン加盟店契約での「廃棄した商品の原価等が売上高から控
除されないとする計算方法の妥当性は、
[最高裁二小 H.19.6.11 判*]でも認められている。
なお、
[福岡高裁 H.25.3.28 判*]
・
[東京高裁 H.25.8.30 判*]も同じく最近の値引制限事件
である。
[東京高裁 H.26.11.17 判*]H26(ネ)623 号 出資金返還請求事件(原判決取消
民訴法 3 条の 7・3 条の 9
・差戻、上告受理申立)
一、アメリカ合衆国ネヴァダ州裁判所を専属的合意管轄裁判所とする国際的専属的裁判管轄の
合意が、公序法に違反するとして無効とされた事例
二、特別の事情に依る訴えの却下の主張が認められなかった事例
[事案概要] 米国ネヴァダ州の会社 Y は日本の支店を通じて、日本国内で投資家から集めた資
金を原資として米国内における診療報酬請求債権(MARS)の購入や、同債権の回収事業から生じる
利益の一部を配当し、約定の満期到来後に出資金を返還する内容の金融商品をそれら日本国内の
投資家を対象に販売した。その投資家である X ら 9 名は日本国内に居住する個人であり、Y から
本金融商品を購入し、約定の満期が到来したので出資金の返還を求めて訴えを東京地裁に提起し
た。Y は、本件金融商品取引契約書には日本語で「本契約から生じる一切の紛争については、米
国ネヴァダ州裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」旨の管轄合意が記載されていたことを理由
に訴えの却下を求め、原審は之を認め訴えを却下。
X ら原告 9 名は之を不服として控訴し、選択的に下記不法行為に基づく損害賠償請求を追加し
た。即ち、Y(被告・被控訴人)が X ら(原告・控訴人)に本件の出資を募った頃には、既に出
資金の大部分を他の投資家の配当金の支払に流用している状況であったにもかかわらず、Y は X
らに対して、本件出資金は MARS の購入資金のみに用いられ、米国ネヴァダ州に登録された入出
金管理業者が管理するため資金流用などの危険性がないなどと説明して、出資を募った不法行為。
[判示要旨]
一、
「被控訴人が平成 19 年に用いていた契約書には本件管轄合意の定めはないことが認められ
る。控訴人 X7 は、平成 19 年 12 月 14 日に本件契約を締結しており、
・・・本件管轄合意をした
とは認められない。
」
・・・他方、X7 を除く「控訴人ら 8 名は、平成 20 年以降に被控訴人と本件
契約を締結しており、その当時、被控訴人が用いていた本件契約書には本件管轄合意の定めがあ
89
ったから、控訴人ら 8 名と被控訴人の間で本件管轄合意がされたものと認められる。」
・・・しか
しこの「①.控訴人ら 8 名の本件契約中、最も契約締結日が早い平成 20 年の時点で、本件金融商
品の運用が行き詰まっていたにもかかわらず、被控訴人は、本件金融商品の勧誘を続ける一方、
本件管轄合意の定めを置いたこと、②.被控訴人は、関東財務局からの命令にもかかわらず、本件
金融商品の購入者に対し、出資した財産の運用・管理の状況その他必要な事項の滅名を怠ってい
ること、③.被控訴人は、本件訴訟及び米国訴訟でそれぞれ管轄の存在を争っていること(筆者注:
本件金融商品を Y から購入した別の日本人顧客からのネバダ州での訴求には、Y は米国には管轄
権がないと争っている。
)
、④.控訴人ら 8 名の請求を判断するのに必要な証拠がアメリカ合衆国に
偏在しているとは言えないこと、⑤.日本の裁判所で審理することが、被控訴人に不合理で過大な
負担を強いるものでないのに対し、アメリカ合衆国の裁判所で審理することは、控訴人ら 8 名に
とって大きな負担となることの各事情が認められ、これらに加えて、控訴人 X7 については本件管
轄合意が認められないことなどを併せ考えると、本件管轄合意に基づいて控訴人ら 8 名に日本の
裁判所での審理の途を絶つことは、甚だしく不合理であり、公序法に違反するから許されないと
いうべきである。
」
二、
「被控訴人は、控訴人 X7 との間で本件管轄合意が認められないとしても、民事訴訟法 3 条
の 9 で定める特別の事情があると主張する。たしかに、
・・・本件金融商品は、MARS の購入及
び回収事業から利益を配分するものであり、その契約の準拠法についてはアメリカ合衆国法及び
ネヴァダ州法とする旨が定められているものの、被控訴人は、日本に支店を置き、専ら日本国内
で日本国内に居住する者のみを対象に本件金融商品の勧誘及び販売を行っており、控訴人 X7 も、
日本において、被控訴人の日本の支店から勧誘を受け、本件契約を締結したことが認められる。
これらの事実によれば、被控訴人の応訴の負担等を考慮しても、本件について、日本の裁判所が
審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げること
となる特別の事情があると認めることはできない。
」 X7 の請求に対して特別の事情による訴え
の却下を求める Y の主張を却下。
判時 2243-28 判タ 1409-200 長谷川俊明・国際商事法務 43-5-648 西口博之 NBL1040-11
渡部美由紀・JCA ジャーナル 62-7-18 小田司・判例評論 680-35
加藤紫帆・ジュリ 1484-143 山田恒久・リマークス 52-142
山木戸勇一郎・法学研究 89-9-107
一審:東京地地裁 H.26.1.14 判・H25(ワ)15015 号 (訴却下・控訴)
判時 2217-68 判タ 1407-340 長谷川俊明・国際商事法務 42-8-1218
山田恒久・速報判例解説 15-345 安達栄司・リマークス 50-146
*古田:本件事案は、日本の裁判所の管轄権を規定する民訴法 3 条の 2 ~ 3 条の 12 の新設を
含む平成 23 年法律 36 号の民訴法改正
(平成 24.4.1 から施行)
の施行前の契約事案であるから、
消費者契約に関する紛争を対象とする国際的裁判管轄の合意の効力を厳しく規定している民訴
法の上記 3 条の 7 第 5 項は、X ら 8 名の契約はそれ以前であるから適用なく、控訴審でも一旦
はその合意の効力は認めたが、公序法に違反するとしてその管轄合意の効力を否定判示した。
[最高裁三小 S.50.11.28 判]のチダサネ号事件判決は、この公序法による判断の先例である。
他方、特別の事情による訴えの却下を規定する民訴法の上記 3 条の 9 は、訴の提起が同規定
の施行後の平成 25 年であるから審理の対象となり得、X7 の訴に控訴審が日本の裁判所の管轄
権を認めたことにつき、Y は同条による日本での裁判管轄の否定を主張したが、同控訴審は日
本での訴を却下すべき特別の事情があるとは認められないと判示し Y の主張を却下した。
[大阪高裁 H.26.12.19 判*] H26(ネ)2090 号 損害賠償請求事件(原判決取消・自判・確定)
会社法 429 条 1 項
経営状態が極めて悪化した会社が商品を購入してその代金が支払不能となった場合、会社の代
表取締役の任務懈怠につき重大な過失があったとして、その損害賠償責任が認められた事例
― 株式会社の代表取締役であった身国が、会社の業績悪化などから債務超過、支払不能状態
90
にあることを認識し、又は容易に認識できたにもかかわらず、会社の代表取締役として、取引の
停止や倒産処理等を検討し、選択すべきであったのにその任務を懈怠して、原告会社から商品を
購入して納品させた後、会社が破産手続開始決定に至ったため、代金を回収できなくなったとし
て、原告会社が被告に対し、損害賠償を求めた件につき、任務懈怠を認めなかった一審判決が取
消され、原告会社の請求額 479,8,598 円が認容された。
判時 2250-80
石毛和夫・銀行法務 787-67
吉田正之・金判 1484-2
一審:神戸地裁 H.26.6.27 判・H24(ワ)2565 号
*:
[最高裁大法廷 S.44.11.26 判*]の末尾コメント参照。
[大阪高裁 H.27.1.29 判*]H26(ネ)2227 号 損害賠償請求事件(控訴棄却、確定)
民法 709 条・715 条・719 条
暴力団の下部組織の組合員の恐喝行為等について、上位組織の暴力団の長の使用者責任が認め
られた事例
[事案概要] X は H.23.4.4 に、暴力団丙山連合の構成員である A から 2,000 万円を恐喝・喝取
された。その暴力団丙山連合はトップの指定暴力団甲山組の三次組織であり、直上の二次組織は
乙野会であるから、X は各組の長である、甲山会の会長 Y1 及び乙野会の組長 Y2 並びに丙山連合
の Y3 に対して使用者責任に基づく訴提起の準備を進めていた。 X の訴提起の意向を知った乙
野会の組員 B は H.24.9.21、X に対して「和解書」を示してこれに署名・押印するよう強要した。
その和解書には、Y2 が X に解決金を支払った上は Y2 は勿論同人以外の関係者についても一切が
解決し債権債務関係も存在しないことが印字され、Y2 の署名捺印も既にされていた。畏怖させら
れた X は、B の要求と指示に従って、同「和解書」の解決金額欄に 200 万円と記載し署名捺印、
200 万円を B から交付された。X は委任していた代理人弁護士を H.24.10.5 に一旦解任したが、
再度委任して、同年 117 に訴提起。一審大阪地裁は、①.2,000 万円の恐喝・喝取について Y3・
Y2・Y1 に使用者責任を認め、X の慰謝料 100 万円と弁護士報酬 200 万円も認め、一部弁済を受
けた 460 万円を差引き 1,904 万 6,303 円の損害金の共同不法行為としての連帯支払義務を判示す
るとともに、②.和解の強要により交付を受けた 200 万円は不法原因給付であるから返還義務はな
いが、X の精神的苦痛の慰謝料として 100 万円の支払義務を同じく使用者責任に基づき共同不法
行為として Y2・Y1 に連帯支払義務を判示。被告 Y らは控訴。
[判示要旨]
一、
「暴力団の共通した性格が、その団体の威力を利用して暴力団員に資金獲得活動を行わせて
利益の獲得を追求することにあることに照らせば、その擬制的血縁関係やピラミッド型の段階的
組織の形成は、組織内又は上下組織間の強固な結び付きや服従統制関係の維持を目的とするほか、
そのような資金獲得活動の一環であると言うべきであって、甲山組やその下部組織の構成員は、
それらを通じて控訴人 Y1 を頂点とする包括的な服従統制下に置かれており、控訴人らは、表面
上や名目はともかく、実質的には自らの組織又はその下部組織の構成員が甲山組の威力を利用し
て資金獲得活動をすることを容認しており、その収益が控訴人 Y1 に取り込まれる体制が採られ
ていたものと認めることができ、これを動かすにたりる証拠はない。」 原審の①の判示を是認。
二、
「本件和解契約の締結は、被控訴人 X の本意によるものではなく、B や Y2 に畏怖したため
にやむを得ずにしたものと推認することができ」る と判示し、原審の②の判示を是認。
判時 2251-53
一審:大阪地裁 H.26.7.16 判・H24(ワ)12044 号(一部容認・一部棄却、控訴)判時 2241-112
*古田:最高裁として、暴力団組長の使用者責任を肯定してその法律構成を明かにした判決には
[最高裁二小 H.16.11.12 判*]がある。本件での判決は、その判例理論を前提として Y らの使
用者責任及び共同不法行為責任を認めている。
[最高裁三小 H.27.2.17 判*]H24(受)1831 号 求償金等請求事件(上告棄却)
91
民法 147 条 2 号・154 条・459 条 1 項・460 条
事前求償権を被保全債権とする仮差押は、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有する
[判示要旨]
「事前求償権を被保全債権とする仮差押は、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有する
ものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
事前求償権は、事後求償権と別個の権利ではあるものの(最高裁三小 S.60.2.12 判・S59(オ)885
号・民集 39-1-89 参照)
、事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるか
ら、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押をすれば、事後求償権について
も権利を行使しているのと同等のものとして評価することができる。また、上記のような事前求
償権と事後求償権との関係に鑑みれば、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮
差押をした場合であっても民法 459 条 1 項後段所定の行為をした後に改めて事後求償権について
消滅時効の中断の措置を執らなければならないとすることは、当事者の合理的な意思ないし期待
に反し相当でない。
」
民集 69-1-1 判時 2254-24 判タ 142-129 金法 2021-100 金判 1463-22 金判 1466-54
水野信次・銀行法務 786-58 村田利喜弥・銀行法務 787-30 山地修・ジュリ 1487-68
大澤慎太郎・速報判例解説 17-83 下村信江・金法 2025-29 渡邊力・リマークス 52-22
斎藤由紀・判例評論 685-2 加藤新太郎・H.27 重要判ジュリ 1492-133 &金判 1492-8
米倉暢大・H.27 重要判ジュリ 1492-75
原審:大阪高裁 H.24.5.24 判・H23(ネ)3120 号/H24(ネ)504 号(いずれも控訴棄却・上告)
金判 1463-27 金法 1981-112
一審:大津地裁 H.23.9.14&H.24.1.13 判・H23(ワ)412 号 金判 1463-30 金法 1981-119
*本判決の重要性:本判決は、事前求償権を被保全債権とする仮差押が、事後求償権の消滅時効
をも中断する効力を有するかについて、最高裁が初めて判断を示したものである。
*加藤評釈:本判決の射程は、判文からして請求・承諾等による時効中断の場合には及ぶもので
はないと解される。
[名古屋地裁 H.27.2.17 判*] H23(ワ)2833 号 否認権行使請求事件(請求棄却・確定)
破産法 162 条 1 項、民法 182 条・183 条
自動車(軽自動車)のクレジツト販売契約において、当該契約上占有改定による引渡があり、
所有権留保を売主は破産管財人に対抗できるとして、当該自動車買主の破産開始決定前に自動
車の引上げを行った売主クレジット会社に対する破産管財人の否認権行使が否定された事例
[判示要旨]
「当事者間の契約における合意内容の確定については、契約書上の各文言を当該契約時の事情
のもとで当事者が達成しようとしたと考えられる経済的・社会的目的と適合するように解釈して
行うべきであり、占有改定の合意があったか否かについても、総合的に考察して判断すべきもの
というべきである[なお、最高裁判所も、譲渡担保(売渡担保)設定の合意後も設定者が引き続
き当該担保動産を占有している場合に於いて、当該事実関係においては担保権者のために占有改
定がされたものとして担保権者に第三者に対する対抗要件を認める判断をしている(最高裁一小
S.30.6.2 判・S28(オ)952 号・民集 9-7-855)
]。」 占有改定による占有の発生を基礎づける外形的
事実の存在を認定。 「本件契約において、買主(破産会社)による本件自動車の占有は占有改
定による被告の占有に当ると認められるから、被告は、本件自動車につき所有権留保を原告に対
抗できるというべきである。」
金法 2028-89
[最高裁二小 H.27.6.1 判①*] H26(受)1817 号 不当利得返還請求事件(破棄差戻)
民法 468 条 1 項
92
異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした債務者が、譲渡人に対抗することができた事由
をもって譲受人に対抗することができる場合
[判示要旨]
一、
「民法 468 条 1 項前段は、債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をしたときは、
譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない
とするところ、その趣旨は、譲受人の利益を保護し、一般債権取引の安全を保障することにある
(最高裁二小 S.42.10.27 判・S42(オ)186 号・民集 21-8-2161 参照)
。 そうすると、譲受人にお
いて上記事由の存在を知らなかったとしても、このことに過失がある場合には、譲受人の利益を
保護しなければならない必要性は低いというべきである。実質的にみても、同項前段は、債務者
の単なる承諾のみによって、譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗すること
ができなくなるという重大な効果を生じさせるものであり、譲受人が通常の注意を払えば上記事
由の存在を知り得たという場合にまで上記効果を生じさせるというのは、両当事者の均衡を欠く
ものといわざるを得ない。
」
二、
「したがって、債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において、譲渡
人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても、このことについて譲受
人に過失があるときには、債務者は、当該事由をもって譲受人に対抗することができると解する
のが相当である。
」 *[最高裁二小 H.27.6.1 判②*]も同旨。
民集 69-4-672 判時 2266-49 判タ 1415-63 金法 2029-63 金判 1473-16
河津博史・銀行法務 788-64 広瀬孝・ジュリ 1488-100 藤井徳展・判例評論 688-11
山下純司・H.27 重要判ジュリ 1492-77 池田真朗・リマークス 53-14
石田剛・民商 152-4・5-54
原審:名古屋高裁 H.26.6.13 判・H26(ネ)146 号 民集 69-4-692 金法 2029-69 金判 1473-21
一審:名古屋地裁 H.26.1.17 判・H25(ワ)2673 号 民集 69-4-681 金法 2029-72 金判 1473-23
*河津評釈:民法 468 条 1 項前段は「債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲
渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない」
と規定し、条文の文言では異議をとどめない承諾により対抗できなくなる「譲受人」の範囲は
限定されていない。 しかし、この文言の解釈につき、上記の最高裁二小 S.42 判は「悪意の譲
受人に対してはこのような保護を与えることを要しない」と判示し、更に、今回の最高裁二小
H.27 判は、譲受人が不知であることに同人の過失がある場合にも同人の保護を認めないとして
いる。 両最高裁判決は、民法 468 条 1 項前段により保護されるべき譲受人の主観的要件を判
示したものであり、理論上及び実務上重要な異議を有する(広瀬及び池田評釈も同旨)。
[最高裁二小 H.27.6.1 判②*] H26(受)2344 号 不当利得返還請求事件(棄却)
民法 468 条 1 項
異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした債務者が、譲渡人に対抗することができた事由
をもって譲受人に対抗することができる場合 ― [最高裁二小 H.27.6.1 判①*]と同旨。
裁判所ウエブサイト掲載
原審:大阪高裁 H.26.8.21 判・H26(ネ)1117 号
[最高裁二小 H.27.6.8 判*] H25(受)2430 号 地位確認等請求反訴事件(破棄差戻)
労災保険法 12 条の 8-1 項 1 号・-2 項、労基法 19 条 1 項・75 条・81 条
労働者災害補償保険法による療養補償給付を受ける労働者につき、使用者が労働基準法 81 条
所定の打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法 19 条 1 項但書の
適用を受けることの可否
[判示要旨]
「労災保険法 12 条の 8 第 1 項 1 号の療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後 3 年を経過
しても疾病等が治らない場合には,労働基準法 75 条による療養補償を受ける労働者が上記の状況
93
にある場合と同様に,使用者は,当 該労働者につき,同法 81 条の規定による打切補償の支払を
することにより,解雇制限の除外事由を定める同法 19 条 1 項但書の適用を受けることができるも
のと解するのが相当である。 これを本件についてみると,上告人は,労災保険法 12 条の 8 第 1
項 1 号の 療養補償給付を受けている被上告人が療養開始後3年を経過してもその疾病が治ら な
いことから,平均賃金の 1200 日分相当額の支払をしたものであり,労働基準法 81 条にいう同法
75 条の規定によって補償を受ける労働者に含まれる者に対して同法 81 条の規定による打切補償
を行ったものとして,同法 19 条 1 項但書の規定により本件について同項本文の解雇制限の適用は
なく,本件解雇は同項に違反するものではないというべきである。
」
民集 69-4-1047
判時 2271-142 判タ 1416-56
労働法律旬報 1847-46
須賀康太郎・ジュリ 1491-90 浅井弘章・銀行法務 798-124
原審:東京高裁 H.25.7.10 判・H24(ネ)7172 号
民集 69-4-1113 労働法律旬報 1812-46
鈴木俊晴・法律時報 85-13-391
岩永昌晃・民商 149-3-109
一審:東京地裁 H.24.9.28 判・H24(ワ)5958 号 民集 69-4-1082 労働法律旬報 1812-50
原昌登・ジュリ 1468-110
[最高裁一小 H.27.11.19 判*] H25(受)2001 号 求償権等請求事件(上告棄却)
民法 147 条・442 条・465 条
保証人の主たる債務者に対する求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても、共同保証
人間の求償権について消滅時効の中断の効力は生じない
[判示要旨]
民法 465 条は、共同保証人の一人が、保証債務の全額又は自己の負担部分を超える額を弁済し
たときに他の共同保証人に対して求償することを認めているが、同「465 条に規定する共同保証
人間の求償権は、主たる債務者の資力が不十分な場合に、弁済をした保証人のみが損失を負担し
なければならないとすると共同保証人間の公平に反することから、共同保証人間の負担を最終的
に調整するためのものであり、保証人が主たる債務者に対して取得した求償権を担保するもので
はないと解される」ので、
「保証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由
がある場合であっても、共同保証人間の求償権について消滅時効の中断の効力は生じないものと
解するのが相当である」
。
民集 69-7-1988 判時 2282-63 判タ 1421-108 金判 1481-16 金判 1485-16
河津博史・銀行法務 796-61 奈良輝久・銀行法務 797-14 斎藤毅・ジュリ 1495-96
亀井隆太・速報判例解説 18-79 渡辺力・民商 152-3-41 松久三四郎・判例評論 694-21
原審:大阪高裁 H.25.7.9 判・H25(ネ)1018 号(原判決取消) 民集 69-7-2006 金判 1481-20
一審:大津地裁 H.25.2.28 判・H24(ワ)453 号
民集 69-7-1994 金判 1481-24
*斎藤評釈:本判決は、保証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効中断事由が、
共同保証人間の求償権の消滅時効の中断にもなるか否かという点について、最高裁が初めて判
断を示したものである。
[最高裁一小 H.27.12.14 判*]H25(オ)918 号 不当利得返還請求本訴・貸金請求反訴事件
民法 505 条・508 条、民事訴訟法 114 条 2 項・142 条・146 条 (一部破棄差戻・一部棄却)
本訴請求債権が時効消滅したと判断されることを条件とする、反訴における当該債権を自働債
権とする相殺の抗弁の許否 ― 本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効
に因り消滅したと判断されることを条件として、反訴において、当該債権のうち時効により消滅
した部分を自動債権として相殺の抗弁を主張することは許される。
民集 69-8-2295
金判 1484-8
我妻学・リマークス 53-110
原審:東京高裁 H.25.1.31 判・H24(ネ)6356 号 金判 1484-14
一審:東京地裁 H.24.9.4 判・H23(ワ)24826 号/H24(ワ)17795 号
金判 1484-19
94
*我妻評釈:係属中の別訴において訴訟物となつている債権を自働債権としてする他の訴訟にお
いての相殺の抗弁の主張を認めなかった[最高裁三小 H.3.12.17判*]の射程距離に関し、
本判決は、本訴および反訴が係属中に時効消滅している本訴請求の債権を自働債権として反訴
請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の主張を許容した最高裁の初めての判決である。
反訴請求債権を自働債権として本訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の主張を許容して
いる[最高裁二小 H.18.4.14 判*]とは、反対の事案であり、相殺の抗弁を不適法とする下級
審判例の立場を一部修正したものとして重要な判例である。
[山形地裁 H.27.12.22 判*] H27(ワ)150 号 損害賠償請求事件(一部認容/棄却・確定)
自賠法 3 条、民法 722 条 2 項
一、自己が所有する自動車の助手席に同乗していた者が自賠法 3 条の「他人」に当らないとは
れた事例
二、不法行為に基づく損害賠償請求につき、その同乗者には運行支配があり、事故防止に中心
的責任を負っていたとして、過失相殺が認められた事例
[判示要旨]
一、自賠法 3 条の「他人」とは、運行供与者及び運転者以外の者を云うところ([最高裁三小
S.47.5.30 判*]参照)
、自動車の所有者は、第三者に対して運転の交代を命じ、あるいは運転に
つき具体的に指示することができる立場にあるのであるから、同第三者が所有者の運行支配に服
さず同人の指示を守らなかった等の特段の事情のない限り、同第三者に対する関係において、自
賠法 3 条の「他人」に当らないものと解すべきである(
[最高裁二小 S.57.11.26 判*]参照)。
本件車両の所有者 D と運転者はとなった被告は、同僚との忘年会の隣同士の席で 6 時間以上に
亘って普段と変わらないペースで飲酒していたが、両人とも、ふらついたり、立てない、ろれつ
が回らないなどの状況にはなかった。 D は同忘年会からの帰路、被告が運転する本件車両に同
乗していた際に最高制限時速 60km のカーブ゛を 90km の高速で路脇の電柱等に衝突する本件事
故に遭い、死亡するに至っている。D が本件事故当時も一定の判断能力を維持していたことが窺
われることからすると、前記特段の事情があったものとは認め難い。そうすると、D は自賠法 3
条の「他人」には当らないというべきである。
二、本件訴は、D の妻を原告とする訴であるが、D は本件事故当時も一定の判断能力を有して
いたことが窺われ、被告が飲酒していることを認識していたといえる。本件車両の所有者であっ
た D は、本件車両の運行を支配していたものであり、事故防止につき中心的な責任を負っていた
ものであって、本件事故についての過失は相当に大きいものと言わざるを得ない。また D は、事
故当時シートベルトを着用しておらず、仮にシートベルトを着用していたとすれば、死亡という
重大な結果を避けられた可能性は十分に考えられる。一方、本件事故を発生させた被告の過失の
態様は悪質と言わざるを得ず、被告自身も大けがを負うほどの重大な事故であることを踏まえる
と、被告にも相応の責任があるものとみるのが相当であって、本件事故及び D の死亡結果の発生
については、D には、60%の責任があるものとするのが相当である。60%の過失相殺を判示。
判時 2288-86 自保ジャーナル 1966-163
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
[最高裁一小 H.28.3.31 判*]H27(行ヒ)374 号 供託金払渡認可義務等請求事件(破棄自判)
民法 166 条 1 項・167 条 1 項、宅地建物取引業法 27 条・30 条
宅地建物取引業法 30 条 1 項前段所定の事由(宅建業廃業等)が発生した場合において、同条 2
項本文所定の公告(供託営業保証金取戻公告)がされなかったときにおける営業保証金の取戻
請求権の消滅時効の起算点
[判示要旨]
「宅建業法に基づく営業保証金の供託は,民法上の寄託契約の性質を有するものであることから,
95
その取戻請求権の消滅時効は,同法 166 条 1 項により『権利を行使することができる時』から進
行し,同法 167 条 1 項により 10 年をもって完成するものと解される([最高裁大法廷 S.45.7.15
判]参照)
。そして,宅建業法 30 条 1 項前段所定の取戻事由(宅建業廃業等)が発生した場合に
おいて取戻公告がされなかったときは,宅建業者であった者等は,同条 2 項(供託営業保証金取
戻公告をした場合)の定めによれば,取戻事由が発生した時から 10 年を経過するまでの間,上記
取戻請求権を行使することはできないこととなるのであるから,上記の間,上記取戻請求権の行
使について法律上の障害があることは明らかである。」・・・・同条 2 項但書所定の場合に取戻公
告をしないで取戻請求ができることとされているのは,取戻事由の発生時から 10 年を経過した後
は,その還付請求権を行使する機会を特に確保するまでの必要性がないことによるものと解され
る。
以上のような営業保証金及び取戻公告の制度趣旨等に照らすと,宅建業法 30 条 2 項の規定は,
取戻請求をするに当たり,同項本文所定の取戻公告をすることを義務的なもの又は原則的なもの
とする趣旨ではなく,取戻公告をして取戻請求をするか,取戻公告をすることなく同項但書所定
の期間の経過後に取戻請求をするかの選択を,宅建業者であった者等の自由な判断に委ねる趣旨
であると解するのが相当である。
」
・・・そうすると、原審判示のように、
「取戻公告をすることな
く取戻請求をする場合に,宅建業者であった者等は取戻事由が発生すれば直ちに公告期間を最短
の 6 か月と定めて取戻公告をすることができることを理由として,取戻事由の発生時から6か月
を経過した時から取戻請求権の消滅時効が進行すると解することは,上記の選択を宅建業者であ
った者等の自由な判断に委ねた宅建業法 30 条 2 項の趣旨に反するといわざるを得ない(最高裁三
小 H.19.4.24 判・H17(受)844 号・民集 61-3-1074、最高裁一小 H.21.1.22 判・H20(受)468 号・
民集 63-1-247 等参照)
。 このことは,原審が前提とする上記のような解釈によれば,宅建業者
であった者等が取戻公告をすることなく取戻請求をすることとした場合,取戻請求権を行使し得
る期間は同項但書所定の期間経過後の僅か6か月間に限定され,その取戻請求権の行使につき重
大な制約が課され得ることになることからも明らかである。
・・・以上によれば,宅建業法 30 条
1 項前段所定の取戻事由が発生した場合において,取戻公告がされなかったときは,営業保証金
の取戻請求権の消滅時効は,当該取戻事由が発生した時から 10 年を経過した時から進行するもの
と解するのが相当である。
」
民集 70-3-969 判タ 1425-116
徳地淳・ジュリ 1499-92
原審:東京高裁 H.27.6.17 判・H27(行コ)76 号
一審:東京地裁 H.27.1.29 判・H25(行ウ)712 号
*徳地評釈:本判決は、営業保証金の取戻請求権に係る消滅時効の起算点に関し、最高裁が初め
て判断を示したものである。 宅建業法以外の法令で、営業保証金等の取戻請求権の消滅時効
の起算点について、本件の宅建業法 30 条 2 項と同様の規定が設けられているものには、旅行業
法 9 条 8 項、家畜商に関する家畜商法 10 条の 7 第 4 項、割賦販売業に関する割賦販売法 18 条
の 2 第 2 項・29 条 2 項 があり、基本的に本判決の論理及び結論が妥当する。 しかし、営業
保証金等の取戻請求に要する手続等に関してこれとは異なる規定が設けられているものについ
ては、どの時点において民法 166 条 1 項にいう『権利を行使することができる時』に該当する
と言えるかにつき、それぞれの規定の文言・内容・趣旨・目的等に照らして、個別に検討する
必要がある。
[最高裁二小 H.28.7.8 判*] H26(受)865 号 清算金請求事件(破棄自判)
民事再生法 92 条 1 項・93 条の 2
再生債務者に対して債務を負担する者が自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が有する
再生債権を自働債権としてする相殺は,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に
該当しない
[判示要旨]
「相殺の担保的機能に対する再生債 権者の期待を保護することは,通常,再生債権についての再
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生債権者間の公平,平 等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨に反するものではないことから,
民事再 生法 92 条は,原則として,再生手続開始時において再生債務者に対して債務を負担する
再生債権者による相殺を認め,再生債権者が再生計画の定めるところによらずに一般の再生債権
者に優先して債権の回収を図り得ることとし,この点において,相殺権を別除権と同様に取り扱
うこととしたものと解される(
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判*]、
[最高裁二小 H.24.5.28 判*]参
照)
。
このように,民事再生法 92 条は,再生債権者が再生計画の定めるところによらずに相殺をする
ことができる場合を定めているところ,同条 1 項は『再生債務者に対して債務を負担する』こと
を要件とし,民法 505 条 1 項本文に規定する 2 人が互いに債務を負担するとの相殺の要件を,再
生債権者がする相殺においても採用しているものと解される。そして,再生債務者に対して債務
を負担する者が他人の有する再生債権をもって相殺することができるものとすることは,互いに
債務を負担する関係にない者の間における相殺を許すものにほかならず,民事再生法 92 条 1 項
の上記文言に反し,再生債権者間の公平,平等な扱いという上記の基本原則を没却するものとい
うべきであり,相当ではない。
このことは,完全親会社を同じくする複数の株式会社がそれぞれ再生債務者に対して債権を有し,
又は債務を負担するときには,これらの当事者間において当該債権及び債務をもって相殺するこ
とがで きる旨の合意があらかじめされていた場合であっても,異なるものではない。 したがっ
て,再生債務者に対して債務を負担する者が,当該債務に係る債権を受働債権とし,自らと完全
親会社を同じくする他の株式会社が有する再生債権を自働債権としてする相殺は,これをするこ
とができる旨の合意が予めされていた場合であっても,民事再生法 92 条 1 項によりすることがで
きる相殺に該当しないものと解するのが相当である。 これを本件についてみると,本件相殺は,
再生債務者である上告人に対して本件清算金債権に係る債務を負担する被上告人が,上記債権を
受働債権とし,自らと完全親会社を同じくするBが有する再生債権であるB清算金債権を自働債
権として相殺するものであるから,民事再生法 92 条 1 項によりすることができる相殺に該当しな
いものというべきである。
」 裁判官千葉勝美の詳細な補足意見あり。
民集 70-6-1611
金判 1500-4
谷本誠司・銀行法務 806-69
原審:東京高裁 H.26.1.29 判・H25(ネ)3891 号 民集 70-6-1710 金判 1437-42
柴崎暁・金判 1482-16 宇野瑛人・ジュリ 1491-111
一審:東京地裁 H.25.5.30 判・H23(ワ)35452 号 民集 70-6-1640 判時 2198-96
金判 1421-16
*古田:千葉裁判官補足意見では、グループ「関係会社」をより限定的に規定した契約書を作成
することによって 92 条への該当性を得ようとする等の努力が進むであろうことが示唆されて
いる。
97
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