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2人の子と室内で遊ぶ場合の母親による共同注意の配分に 子の月齢の
2人の子と室内で遊ぶ場合の母親による共同注意の配分に 子の月齢の与える影響 岸本健 (聖心女子大学) キーワード:共同注意、母子関係、きょうだい Do the ages of infants affect the joint attention in mother-infant-sibling triad? Takeshi KISHIMOTO (University of the Sacred Heart) Key Words: joint attention, mother-child relationship, sibling 目 的 室内遊び場面における乳幼児と母親との共同注意の量は、 乳幼児の年上のきょうだいが同室する場合に減少する (Benigno et al., 2007)。これは、2 人の子どもと室内で遊ぶ際、 2 人の子どもが機嫌を損ねないよう、母親が各々の子どもと 共同注意を形成するため、子ども 1 人と室内で遊ぶ際と比較 して子ども 1 人当たりと共同注意を形成する量が減少するた めかもしれない。それでは、2 人の子どもとの室内遊びの際、 母親はどのように共同注意の量を年長児と年少児に配分して いるであろうか?本研究では、2 人の子どもとの室内遊び場 面において母親がどこへ視線を向けるかに影響する要因とし て、2 人の子ども各々の月齢に着目し、分析を行った。 方 法 参加者:2 人の子どもの母親 10 名 (平均年齢 34.1 歳; 標準偏 差 2.5) とその 2 人の子ども。 2 人の子どものうち、年少児 は男児 6 名、女児 4 名 (平均月齢 13.4; 月齢の最小値は 7、最 大値は 24) であり、年長児は男児 3 名、女児 7 名 (平均月齢: 41.5; 月齢の最小値は 17、最大値は 60) であった。 観察方法:12 種類の玩具が付置されていた東京都内にある観 察室において、母親と 2 人の子どもの 3 人がおもちゃを用い て自由に遊ぶ様子を 20 分間、ビデオで記録した。 コーディング:映像記録の冒頭 15 分間を分析に用いた。5 秒 毎のサンプル点における母親の視線方向、および母親と 2 人 の子どもとの距離を記録した。母親の視線方向は、 「年少児」、 「年少児の見ている物」 、 「年長児」 、 「年長児の見ている物」 、 「その他」の 5 つに分類された。なお、母親と年少児、年長 児の 3 人が同時に同じ物への共同注意を形成しているサンプ ル点は分析から除外された。母親の視線方向のうち、 「年少児 の見ている物」へ母親が視線を向けているとき、母親と年少 児とが共同注意を形成しているとした。また「年長児の見て いる物」へ母親が視線を向けているとき、母親と年長児とが 共同注意を形成しているとした。 分析:母親がどのように年長児と年少児に共同注意の量を配 分しているかを表す指標として、 「共同注意の偏り指標」を以 下の式で算出した。 ・母親と年少児とが共同注意を形成したサンプル点の数を a ・母親と年長児とが共同注意を形成したサンプル点の数を b とすると、 (共同注意の偏り指標) = (a-b)/(a+b) 共同注意の偏り指標は-1 から 1 までの値をとり、母親が年 少児と比較して年長児との間で多く共同注意を形成すればす るほど、共同注意の偏り指標は-1 に近づく。逆に、母親が年 長児と比較して年少児との間で多く共同注意を形成すればす るほど、共同注意の偏り指標は 1 に近づく。この指標を 10 名 の母親に関して算出し、年長児の月齢、および年少児の月齢 との関連性をスピアマンの順位相関係数を算出することによ り検討した。 結 果 共同注意の偏り指標の平均値は-0.21 であり、 最大値は 0.42、 最小値は-0.61 であった。 年長児の月齢との間に有意な相関関係は見られなかった (n =10, ρ = 0.47, n.s.)。一方、共同注意の偏り指標と、年少 児の月齢との間に有意な正の相関関係が見られた (n =10, ρ = 0.63, p < 0.05)。このことから、2人の子と室内で遊ぶ場合、 年少児の月齢が小さいほど、母親による共同注意は年少児と 比較して年長児との間に偏って形成されることが分かった。 そして、年少児の月齢が大きいほど、母親の共同注意が年長 児との間で偏って形成される度合いが小さくなり、年少児と の間で共同注意の形成される比重が大きくなっていくことが 分かった。 考 察 本研究の結果から、2 人の子と室内で遊ぶ場合、母親が年 少児と年長児のどちらとの間に共同注意をより多く形成する かには、年少児の月齢が関連していることが明らかとなった。 年少児の月齢が低ければ、母親は年長児との間でより多く共 同注意を形成する一方、年少児の月齢が高くなるにつれ、母 親は年少児との間でより共同注意を形成していた。 生後 11 ヵ月齢ごろから、乳幼児は指さしを開始し、養育者 の注意を自分の関心を向けている対象へ誘導できるようにな る (Liszkowski & Tomasello, 2011)。本研究の参加者のうち、年 長児は全員の月齢が 17 ヵ月齢以上であり、指さしをはじめと する、母親の注意を誘導する行動を行うことができたと考え られる。一方、年少児の中には 12 ヵ月未満の者もおり、注意 を自分の関心を向ける対象へ誘導する能力において年長児と 比較して未熟だったと考えられる。その結果として、年少児 の月齢が小さいとき、母親との共同注意は、自分の関心を向 けている対象へ母親の注意を向けることに長けた年長児との 間に形成されることが多く、年少児の月齢が上昇し、指さし など自分の関心を向けている対象へ母親の注意を向けるため の行動が発達するにつれ、母親は年少児との間でも共同注意 を形成するようになると考えられる。