Comments
Description
Transcript
実際の飲食代金と 請求金額が違っていたら?
山村 行弘 Yamamura Yukihiro 弁護士。第一東京弁護士会所属 一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談などを手がける。 協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所) 第 38 回 実際の飲食代金と 請求金額が違っていたら? 相談者の 気持ち 飲食店で食事をし、支払いを済ませたところ、実際に注文したメニューより安 い金額でした。店が代金の間違いに気づき、不足分を請求してきた場合、支払 わなければならないでしょうか? 一般的に契約は、 「申込み」 と ただけでは債務全額は消滅しておらず、200 円 それに対する 「承諾」 によって成 の債務が残っている状態となります。仮に、店 側がサービスで 1,000 円のところを 800 円にお 立すると考えられています。 これを飲食店におけるやり取りに当てはめる まけしてくれたのであれば、残りの 200 円は免 と、客が食べ物や飲み物を注文することが 「申 除されたものとして、債務全額が消滅すること 込み」に当たり、店側がその注文を受けること になりますが、店側が誤って 800 円を請求した が「承諾」に当たります。この 「申込み」 と 「承諾」 に過ぎず、 明確な免除の意思表意がない場合は、 により、飲食物を提供する契約が成立すること この 200 円の債務は残ったままとなります。 になります。より具体的にみると、例えば客が したがって、後に店側が請求代金が間違ってい 1,000 円のA定食を注文して、店側がその注文 たことに気づき、不足分の 200 円を請求された を受けると、客と店側との間には、店側が客に ときは、 客はこれを支払わなければなりません。 対しA定食を提供し、客は店側に対しその対価 では、客が少なく請求されたことに気づいて として 1,000 円を支払う債務を負うこととなり いながら、店側がそれに気づく前に黙って店を ます。 立ち去ってしまったような場合、客は民事上の 債務不履行のほかに何らかの刑事上の責任を負 では、客が 1,000 円のA定食を注文し、店側 うのでしょうか。 も客に対してA定食を提供したにもかかわらず、 このような場合、客は、請求が少ないことに 店側が誤って 800 円しか請求しなかった場合、 法的にはどのような状態にあるのでしょうか。 気づいた時点で、そのことを店側に申告すべき この場合、前述のように、客は店側に対してA 義務があると考えられています。そして、その 定食の対価として1,000円を支払う債務を負っ 義務に反し、店側に請求が少ないことを申告せ ています。そして、この債務を消滅させるため ずにそのまま店を立ち去った場合は、 「不作為 には 1,000 円を支払うか、店側から免除を受け による欺く行為」があったものとして、詐欺罪 (刑法 246 条) が成立する可能性があります。 ることが必要です。したがって、800 円を払っ 2015.7 国民生活 33