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新しい誤接続防止経腸栄養ラインシステムの開発と臨床成績
Akita University ( 4 0 ) 原著 :秋田大学医学部保健学科紀要1 3(1):4 0-4 4 ,2 0 0 5 新 しい誤接続防止経腸栄養 ライ ンシステムの開発 と臨床成績 * * * 子 悟 倭 門 山 大 本 * * ** * 子子 博 〓 リ ノ光 義 浦 藤 沼 三佐 浅 守 屋 陽 小 川 純 子* 一* * 要 秋田大学医学部附属病院では,中央材料部が中心 となり,A社 と共同 して,経腸栄養剤の静脈内誤注入の防止に取 り組んできた.1 9 9 1 年 には,通常の注射器か ら,押 し子をブルーに色付けした注射器を採用 した.1 9 9 6 年には,側注 用三方活栓全体を青色 とし,視認性をさらに高めた.そ して1 9 9 8 年には, 1)注射器先端を従来のルアーチ ップか ら 0 0 0 年4 カテーテルチップに変更, 2)三方活栓のメス部 と接続口をカテーテルチップ用に設計 した. この製品は,2 月に厚生省か ら製造承認を受けた.最近 5年間の秋田大学医学部附属病院食道外科におけるこの誤接続防止経腸栄養 ラインシステムの使用状況をみると,2 0 0 0 年4 7 症例,2 0 0 1 年3 8 症例,2 0 0 2 年3 2 症例,2 0 0 3 年4 3 症例,2 0 0 4 年4 0 症例で 0 0 症例において,経腸栄養剤の静脈内誤注入は皆無である. あった. これ ら2 Ⅰ. は じめに 経腸栄養法 は,経静脈栄 養法 に比 べ て安全 であ る, いて述 べ てみ たい. Ⅱ.誤接続防止経腸栄養 ライ ンシステムへの取 り組 み 簡便 である,生理 的であ る等多 くの利点 を備 えてお り, 何 らか の手 段 で経腸栄養 が可能 で あれば これ を用 い る 当院 で は, 中央材料 部 が中心 とな り, A社 と共 同 し べ きで あ る1・2). しか し経 腸 栄 養 法 に も, 投 与法 や栄 て,経腸栄養患者 にお ける経腸栄養剤 や腸管用薬剤 の 養 チ ュー ブに起 因す る非代謝性合併症,高血糖 や必 須 静脈 内誤 注入 の防止 に取 り組 んで きた. まず 1 9 91 年に 脂肪 酸 欠乏 症 な どの代 謝 性 合併症 が発生 しうる3).特 は,通常 の注射器 か ら,押 し子 を ブル ーに色付 け した 3m1 , 5m1 ,1 0 m1 ,2 0 に,経腸栄 養剤 を誤 って静脈 内 に注入 した場 合 には致 注射器 を採用 した. 規格 は, 死 的であ り,絶対 に避 けな ければな らない行為であ る. ml の 4種 で あ った. これ に よ り, 小児 の麻 酔 前 経 口 杉谷4) は, 平 成 5- 7年 にお きた全 国 1 1 7 病 院 にお け 与薬 や経鼻 チ ュー ブか らの与薬 な どに際 し,静脈 内誤 る事故 事例 の うち, 「今後 の ため重要 とか んが え られ 注入 はみ られ なか った. しか し, 1 9 9 4-1 9 9 5 年 にか け る事 例 」3 42 症例 を報告 して い るが, そ の なか に, 荏 て,食道癌術後 の 2症例 で,以下 の ごとき事故 を経験 した. 管栄養食 を血 管 内へ注入 した 1例 ( 生存例) と内服薬 を点滴 に注入 した 1例 ( 死亡例) を呈示 して い る. うな経腸栄養剤 の静脈 内誤 注入 を起 こさない システ ム ( 症例 1:6 6 歳 男) 1 9 9*年 *月 食道癌 に対 し 3領域郭清 を伴 う食道切 を開発 し臨床使 用 して い るので, その経過 と成果 につ 除再建 術施行 , その後,頚部 リンパ節 秋 田大学 医学部 附属病 院 ( 以下 当院) で は, この よ *秋田大学医学部附属病院看護部 **秋田大学医学部外科学講座 ***秋田大学医学部保健学科看護学専攻 Ke yWor ds : 経腸栄養 ラインシステム 静脈内誤注入 三方活栓 ルアーチ ップ カテーテルチップ 4 0 秋 田大学医学部保健学科紀要 `第 1 3 巻 第 1号 Akita University 三浦 ノ リ子/新 しい誤接続 防止#_ 腸栄養 ライ ンシステムの開発 と臨床成績 転移 に対 し計 8 9 Gy照射 , また肝転 移 ( 1 0 c m X 8c m) に エ タ ノール注 入 し ( 41 ) 新しいタイプの軽易栄養用シリンジと三方活栓 た. 1 9 9*年 *月 術後 1 1ケ月 に誤喋性肺炎 のため入院 し, 腸癌か らエ ンシュア 5缶/ 日投与. 1 7:5 5 息子が腸管用薬剤 を誤 って左手静脈 ラ イ ンよ り注入 しショック,呼吸停止 と なる. 1 8:0 0 気管挿 管 し人工 呼 吸器 装 着, I C U管 理 とな る 21:0 0 血祭交換 ( 2. 7 L)施行後意識改善 *月 *日 ショックか ら 4日後 に人工呼吸器離脱, 一般病棟 で管理 *月 *日 5日後 に MRSA 肺炎 の シ ョックか ら1 ため永眠 ( 症例 2 :5 7 歳 男) 1 9 9*年 *月 食道癌 に対 し 3領域郭清 を伴 う食道切 5. 8 除再建術施行, その後,頚部 に計 5 2 0 0*年 *月 Gy照射 手術後 2年 8ケ月,脱水症状 あ、 り入院 加療 とな る. 8:4 5 自分で腸管用薬剤 を誤 って左手静脈 ラ 5 ml 中 4ml を注 イ ンよ り注入 した. 1 図 1 新 しいタイプの経腸栄養用シリンジと三方活栓 入 した時点 で 自分で気付 き中止 し,香 1)注射器 の先端 を従来 のルアーチ ップか らカテー 護師 に報告 した. 9:4 0 悪寒戦懐 出現 9:5 5 発熱 39. 5度, 堰吐, 脈 拍数 1 7 0, 呼吸 数4 0 1 1:00 悪 寒 戦 懐 消失 , 発 熱 37. 2度, 脈 拍 数 2 0 0*年 *月 テルチ ップに変 え, さ らに三方活栓 のメス部 と接 続 口を ともにカテーテルチ ップ用 に設計 した ( 図 1) . 1 1 0,呼吸数 2 2 2)注入用器具の接続部 ( 経腸栄養 ライ ン,注射器, . 三方活栓) を黄色 と し色彩感覚 を高 めた ( 図 1) 誤注入か ら 3週間後 に退 院 こう して,腸管用薬剤 を注射器 につめ る段階で色彩 感覚 に訴え注意 を喚起す るとともに,経腸栄養 ライ ン なお, この時の腸管用薬剤 は,症例 1ではラシック を接続 あるいは側注す る段階で カテーテルチ ップ は従 ス 5mg, フェロ ミア1 0 0 mg, ロキ ソニ ン1 T, ナイキ 来 の静脈用三方活栓 と接続で きないので,静脈へ の誤 T, エ クセ ラーゼ 1. 0 g, エ ンテ ロノ ン RO . 4g, サ ン1 注入 はお こりえない. T,大建 中湯 1包,塩酸 モル ヒネ1 8 mgを2 0 ml リーゼ1 で溶解 し全量注入,症例 2で は ミヤ BM2 . 0 g, エクセ . 0 g, SM 散 3. 9 g, ピソル ボ ン1 2 mg, 補 中益 ラーゼ2 Ⅲ.誤接続防止 タイプ経腸栄養 ライ ンシステムの関連 製品 . 5 gを 1 5 ml で溶解 しその うち 4ml が注入 された. 気湯 7 9 9 6 年 には側注用三方活栓 この事故 を契機 と して, 1 全体 を青色 と し,視認性 をさ らに高 めた製品を採用 し た. しか しい くら色彩 で注意 を喚起 して も経腸栄養 ラ イ ンや腸管用薬剤 を注入す る注射器 の先端規格が従来 と同 じであれば,静脈 ライ ンと接続可能 であるため, 前述 したよ うな事故が発生 しうるのは明 白である. そ 第1 3 巻 1) カテーテル タイプ シ リンジ :3m1 , 5m1 ,1 0 m1 ,2 0 m1 ,3 0 m1 ,5 0 ml の 6種類 2)採液針 :カテーテル タイプ シ リンジに接続 し, バ イアルか ら薬液 を採取す るもの 3)栄養 ボ トル 9 9 8 年 に以下 の工夫 57)を した. こで 1 秋 田大学 医学部保健学科紀要 現在われわれが使用 している経腸栄養 ライ ンシステ . ムを示す ( 図 2) 第 1号 41 Akita University ( 4 2 ) 三浦 ノ リ子/新 しい誤接続 防止経腸栄養 ライ ンシステムの開発 と臨床成績 潅腸栄養ラインシステム ( 秋田大学医学部附属病蘇 中央材料部) イエローで接続部がカテーテルタイプの誤接続防止用 品に新製品が加わりました。 輸液ラインには絶対つながらない。 これらの材料を利用して誤接続 ・ 誤注入を防ぎましょう。 図 2 誤接続防止タイプ経腸栄養ラインシステムの関連製品 例 静脈内誤注入例 数 0 0 0 0 0 7 8 3 2 3 3 4 0 4 7) 三方活栓 :メス部 も接続 口 もともにカテーテル 症 4 ライ ンには使 って はい けない もの. O0 12 4 0 03 00 0 0 02 0 0 2 2 2 2 いないカテーテルの接続 に使用す る.絶対 に輸液 表 1 食道切除再建術後の経腸栄養ライン使用例 年 4)EDバ ッ グ 5)経腸栄養 カテーテル 6) カテーテル ジ ョイ ン ト :カテーテル先 にな って チ ップ仕様 とな って い る.従 って,静脈 ライ ンあ 0 合計 2 0 0 例 るいは通常 の注射器先端 とは接続不可. 8)T型 コネ クター :通常 の注射器先端 (ルアー タ ( 秋田大学医学部食道外科) イプ) か らカテーテル タイプの接続 口 とな って い ∼1 2 月 に,食道癌 に対 す る食道切除再建手術時 に,術 る 後 の栄養補助 目的 に腸療 を造設 し経腸栄養 ライ ンシス Ⅳ.誤接続防止 タイプ経腸栄養 ライ ンシステムの臨床 テムを使用 したのは4 0 例で あ る.一般 に経腸栄養法 に 伴 う合併症 は,投与法 や栄養 チ ュー ブに起 因す る非代 使用の成果 謝 性 合 併 症 と高血 糖 な どの代 謝 性 合併 症 に分 類 され この製 品 は, 2 0 0 0 年 けた 4月 に厚生省 か ら製造承認 を受 る3-9). この うち, 胃癌 ・腸 療 用栄 養 チ ュー ブによ る 合併症 と して城谷 らは,腹膜炎,腸管 の閉鎖, チ ュ・ - 8). 当院食道外科 で食道癌 に対 す る食道切除再建術後 の ブの腸管外-の脱 出,創部 の出血,創 し開 な どを挙 げ 栄 養補 助 目的 にて経腸 栄 養 ライ ンを使 用 したの は, て い る. 自験例 につ いてみ ると, 1例で別 の患者 の薬 2 0 0 0 年4 7 症例, 2 0 0 1 年3 8 症例, 2 0 0 2 年3 2 症例,2 0 0 3 年 4 3 症例, 2 0 0 4 年4 0 症例 で あ る. これ ら2 0 0 症例 にお い 剤 を当該患者 の腸管 内 に注入 したイ ンシデ ン トを経験 て経腸栄養剤 の静脈 内誤注入 は皆無 であ った ( 表 1) . の静脈 内誤注入 は皆無 で あ る ( 表 2).腸壕 を使 った また,最近 の食道癌症例 に限 ってみ ると, 2 0 0 4 年 栄養管理 につ いて は,食道癌術 直後 は全身状態 も十分 42 1月 した. しか し前述 の ごと く,経腸栄養剤 や腸管用薬剤 秋 田大学 医学部保健学科紀要 第1 3 巻 第 1号 Akita University 三浦ノリ子/新 しい誤接続防止経暢栄養ラインシステムの開発と臨床成績 表 2 胃療 ・腸療用栄養チ ューブによる合併症 ・事故 内 1 0 0 炎 0 膜 献 例 容 経腸栄養剤や腸管用薬剤 の静脈内誤注入 別の患者 の薬剤を注入 腹 文 ( 4 3) 0 腸管の閉鎖 チューブの腸管外への脱 出 創部の出血 創 口 多 聞 0 0 ( 2 0 0 4 年 1-1 2 月,食道切除再建術4 0 例 食道外科) 秋 田大学医学部 1 )岡田正 :輸液 ・栄養管理の歴史 ・現状 ・展望.外科治 療8 8( 3 ): 2 5 7 2 6 1 ,2 0 0 3 2 )田代亜彦,佐野渉,山森秀夫 :経腸栄養法の有用性 と 経腸栄養剤の特徴.臨外5 8( 5 ): 6 3 5 6 4 1 ,2 0 0 3 3 ) 田部井功,山崎洋次 :経腸栄養法の合併症 と対策.外 科6 6( 1 0 ): 1 1 3 0 1 1 3 6 ,2 0 0 4 4 )杉谷藤子 :病院内の看護事故の実態.「看護事故」防 止の手引き,杉谷藤子著, 日本看護協会出版会,東京, 2 0 0 0 ,p p 5 1 7 7 に は改善 して お らず, ま た点 滴 ライ ン, ドレー ンな ど 5 ) 三浦 ノ リ子,浅沼義博,榊綾子,三浦博,三浦亮 :荏 が腸 療 チ ュー ブ とと もに体 内 に留 置 され て い るため, 腸栄養における誤接続防止の工夫. 日本輸血学会雑誌 医 師,看 護 師 が管理 す るが, 退 院一 週 間前 に は 自己管 理 が で きるよ うに指導 して い る. この点 を考慮 して も, 静脈 内誤 注 入 が起 こ り得 な い シス テ ムの導 入 は極 めて 4 5: 8 7 5 8 7 6 ,1 9 9 9 6)村滞利春 :経腸栄養 ライン誤接続防止製品の開発. 冒 本輸血学会雑誌4 5: 8 7 7 8 7 8 ,1 9 9 9 7 ) 三浦 ノ リ子,榊綾子,佐藤京子,鈴木節子 :血液 ライ 有用である. ンへの誤接続を防止する ED システムを導入 して.月 Ⅴ.おわ りに 刊ナ-シング2 2 ( 1 ): 5 0 5 2 ,2 0 0 2 8) 消 化管投 与 系器 具 の血 管 系 へ の誤 ■ 接 -続 防止製 品. 当院 にお け る経 腸 栄 養 ライ ン誤 接 続 防止 へ の これ ま で の取 り組 み と成 果 を述 べ た.今 後 も安 全 ,安 心 の医 療 を提供 す べ く,工 夫 して い きた い. 秋 田大学医学部保健学科紀要 第1 3 巻 第 1号 (オ ンライ ン), 入手 先 ( ht t p: //www. ni pr o. c o. j p/ ) c onc e r n/s af e t y/S t andar dO1 _0 2 . ht ml 9 )城谷典保,亀岡信悟 :経腸栄養法 における合併症 とそ の対策.臨外5 2 ( 7 ): 8 7 1 8 7 7 ,1 9 9 7 43 Akita University ( 4 4 ) 三浦 ノ リ子/新 しい誤接続防止経腸栄養 ライ ンシステムの開発 と臨床成績 De v e l o pme nto faNe w Sys t e mt oPr e v e ntMi s i nj e c t i o no fEnt e r a l Nut r i e nt si nt ot heVe no usLi ne ,a ndi t sCl i ni c a lRe s ul t s Nori ko MI URA*Yuko DAI MONN*Yoko MoRI YA* Mi t suko SATO*Sat oru MoTOYAMA * 辛 duni c hiOGAWA * Yoshi hi ro AsANUMA*** *Di v i s i onofNur s i ng,Aki t aUni ve r s i t yHos pi t al **DepartmehtofSurgery,AkitaUniversitySchoolofMedicine ***CourseofNursing,SchoolofHealthSciences,AkitaUniversity TheAki t aUni ve r s i t yHos pi t alCe nt r alSuppl yi ngDi v i s i onhasbe e nwo r ki ngt owar ds,i nc oope r at i on hede v e l opme ntofas ys t e m t opr e v e ntmi s i nj e c t i on ofe nt e r alnut r i e nt si nt ot he wi t h" Company A",t r.I n1 9 9 6,t het hr e e way s t opc oc k was v e nousl i ne .I n1 9 91 ,Weado pt e dt hes yr i ngewi t h abl uepl unge )t het i poft hes yr i ngewasal t e r e df r o mt hel ue r t i pt ype c ol or e dbl uef ori mpr ov e dv i s i bi l i t ′ y.I n1 9 9 8,1 t ot hec at he t e r t i pt ype ,2 )t het hr e ec onne c t i ng par t soft het hr e e way s t o pc oc k we r ea l t e r e dt ot he c at he t e r t i pt ype .Thi spr oduc twas gr a nt e d manuf ac t ur i ng appr o va lby t heJapane s e De par t me ntof He al t han dHumanSe r v i c e si nApr i l2 0 0 0.1 nt hel as tf i v eye ar satt heDi v i s i o nofEs ophage alSur ge r yi n i l Aki t aUni v e r s i t yHos pi t al ,wehav eut i l i z e dt hi spr oduc tf o r47c as e si n2 0 0 0,3 8c as e si n2 0 01 ,3 2c as e si n 2 0 0 2,43c as e si n2 0 0 3,and4 0c as e si n2 0 0 4af t e re s o phage alr e s e c t i o n.Fort he s e2 0 0c as e si nt ot al ,nomi s - i nj e c t i onofe nt e r alnut r i e nt si nt ot hev e nousl i nehast ake npl ac e . 4 4 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 3 巻 第 1号