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国 語 科 - 福岡市教育センター

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国 語 科 - 福岡市教育センター
平成 27 年度
研究紀要
(第 975 号)
G1-02
思考力を育てる文学的な文章の学習指導
―関係付けて読む・関連付けて読む場の設定を通して―
「21 世紀型学力」が提案され,その中核を担う思考力の育成は,喫緊の
教育課題である。そこで,本研究室では,思考力の育成をめざし,文学的な
文章の学習指導において,関係付けた読み・関連付けた読みに視点をあてて,
研究実践を行った。
具体的には,目的をもって読むための単元を貫く言語活動の設定,目的を
達成するための読書活動の位置付け,関係付ける・関連付ける活動の工夫の
3点から,授業実践を積み重ねた。
その結果,考えや感想を表出させる単元を貫く言語活動の設定,意図的な
選書に基づく並行読書の位置付け,関係付けて読む・関連付けて読むための
視点を明確にした書く活動,土台グループを生かした全体交流の在り方が明
らかになった。
福岡市教育センター 国語科研究室
国-0
目
次
第Ⅰ章 研究の基本的な考え方
1 研究主題について ·················································· 国‐1
(1)主題設定の理由
(2)主題および副主題の意味
2 研究の目標 ························································ 国‐3
3 研究の仮説 ························································ 国‐3
4 研究の構想 ························································ 国‐3
5 研究構想図 ························································ 国‐4
第Ⅱ章 研究の実際と考察
1 関係付けて読む・関連付けて読む場を設定した小学校第2学年の指導
「ふたりは友だちブック」を作って,友だちについて考えよう
「お手紙」 ······················································ 国‐5
2 関係付けて読む場を設定した小学校第4学年の指導
あなたはどう感じた!?新美南吉作品を比べて読み,
感じたことや考えたことを読書会で話し合おう
「ごんぎつね」 ·················································· 国‐9
3 関連付けて読む場を設定した小学校第4学年の指導
あなたとわたしのちがいに注目!同年代の登場人物が出てくる
作品を読んで,読書感想マンションで心に響いたことを交流しよう
「プラタナスの木」 ·············································· 国‐13
4 関係付けて読む場を設定した小学校第6学年の指導
「朗読マスター」になって,宮沢賢治作品についての
自分の思いや考えを朗読で表現しよう
「イーハトーヴの夢」「やまなし」 ································ 国‐17
第Ⅲ章 研究のまとめ
1 研究の成果と課題 ·················································· 国‐23
2 研究の意義と課題 ·················································· 国‐24
資料等 ································································ 国‐27
国-1
第Ⅰ章
1
研究の基本的な考え方
研究主題について
(1) 主題設定の理由
ア 教育の動向から
平成 25 年3月に国立教育政策研究所が公表した「教育課程の編成に関する基礎的研究報告書
5」において,
「21 世紀型能力」が提案されている。この「21 世紀型能力」は,
「基礎力」
「思
考力」
「実践力」の三つの層で構成されており,中でも「思考力」は三つの層の中核として位置
付けられている。
さらに,報告書の中では,
「21 世紀型能力」と教育基本法に示された学力の三要素との関係
について,次のように述べられている。
「学力の三要素は,『基本的な知識および技能』,
『課題
を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力』,
『主体的に学習に取り組む態
度』を指す。この三要素は,(中略)『知識』,
『能力』,『態度(資質)』で構成されている。とり
わけ,
『思考力,判断力,表現力その他の能力』は,知識・技能を活用して『課題を解決するた
めの』能力であり,21 世紀型能力における『思考力』がめざすものと一致している。
」
これらの報告から,児童の思考力を育成していくことは,喫緊の教育課題であると考える。
では,このような教育の動向の中,本市児童の思考力に関する実態はどうであろうか。
イ
福岡市の児童の実態から
資料-1は,平成 26 年度全国学力・学習状況調
査において,正答率が低かった設問の概要と正答
率である。福岡市の正答率は全国平均と比べて
1.9 ポイント低く,分かったことや疑問に思った
ことを整理し関連付けながらまとめる力に課題が
あることが分かる。
資料-1 平成 26 年全国学力・学習状況調査
小6国語の正答率
正答率(%)
設問の概要
(領域・問題形式)
福岡市
全国
(「読むこと」
・記述式)
国 ・分かったことや疑問に
語
思ったことを整理し,
25.0
26.9
B
それらを関連付けな
がらまとめて書く。
資料-2は,同調査において,無解答率が高か
った設問の概要と無解答率である。
「比べて読み,
考えを書く」設問では,福岡市の無解答率は全国
平均と比べて5ポイント以上高く,約3人に1人
が無解答となっている。
資料-3は,福岡市教育委員会が公表した同調
査の質問紙調査の結果である。児童に対する質問
紙の回答からは,
「目的に応じて資料を読み,自分
の考えをもつ」
「考えの理由が分かるように書く」
回答が全国平均を下回っていることが分かる。
これらの実態から,児童が目的に応じて様々な
資料を読み,自分の課題解決に必要な情報を整理
したり,それらを比べ,関連付けたりしながら自
分の考えをつくることができる指導が不十分なの
ではないかと考える。
国-1
資料-2 平成 26 年全国学力・学習状況調査
小6国語の無解答率
無解答率(%)
設問の概要
(領域・問題形式)
福岡市
全国
(「読むこと」
・記述式)
国
・二つの詩を比べて読
語
31.8
26.0
み,自分の考えを書
B
く。
資料-3 平成 26 年全国学力・学習状況調査
質問紙調査結果
回答率(%)
設問
[全国比]
「国語の授業で目的に応じて資
料を読み,自分の考えを話した
り,書いたりしているか。
」
「国語の授業で自分の考えを書
くとき,考えの理由が分かるよう
に気を付けながら書いている
か。
」
57.6
[-3.1]
66.3
[-4.4]
ウ
昨年度の研究の成果と課題から
昨年度は,研究主題を「思考力を育てる文学的な文章の学習指導」として研究実践に取り組
んだ。その成果として,単元を貫く言語活動を位置付けた学習指導を通して,読書活動の位置
付け,登場人物や作者の思考を追求する教材文の読み,思考を可視化する交流活動の設定の有
効性が明らかになった。
一方,課題としては,昨年度研究に取り入れた関西大学初等部が提唱している6項目の「思
考スキル」
(比較する・分類する・多面的に見る・関連付ける・構造化する・評価する)につい
て,学習指導要領に照応した整理ができなかった点や,当該単元で育成したい「思考スキル」
の重点化ができなかった点が挙げられる。さらに,授業実践においては,グループ交流を生か
した全体交流の在り方にも課題が見られた。
そこで,先述した本市の児童の実態と学習指導要領の目標及び内容を基に,
「思考スキル」に
ついて再検討したところ,
「関係付ける」
「関連付ける」思考スキルに重点を置いて指導するこ
とが思考力の育成につながるのではないかと考えた。
したがって,今年度は,昨年度の研究を基盤にしながら,文学的な文章を「読むこと」の学
習指導の中で,
「関係付ける」
「関連付ける」読みの具現化を図ることにした。
以上ア,イ,ウの理由から,思考力の育成をめざし,文学的な文章の学習指導において,関
係付けて読む・関連付けて読む場を設定することとし,本研究主題及び副主題を設定した。
(2) 主題および副主題の意味
ア 「思考力」とは
「思考力」とは,課題解決に向かう過程において,
「関係付ける」
「関連付ける」といった「思
考スキル」を働かせながら,自分のものの見方・考え方を広げたり深めたりしていく能力のこ
とである。
イ
関係付けて読むとは
関係付けて読むとは,文章(作品)と文章(作品)をつないだり比べたりして読むことであ
る。
文学的な文章を「読むこと」の学習においては,具体的に以下のような読みのことである。
○ 教材文と同じシリーズの作品を関係付ける
○ 教材文と同じ作者の作品を関係付ける
○ 教材文と同じ特徴をもつ作品を関係付ける
○ 教材文と作者の考え方や生き方が分かる作品を関係付ける
ウ 関連付けて読むとは
関連付けて読むとは,文章(作品)と自己をつないだり比べたりして読むことである。
文学的な文章を「読むこと」の学習においては,具体的に以下のような読みのことである。
○ 教材文や作品の中の出来事と自分の知識・経験を関連付ける
○ 教材文や作品の中の登場人物の言動と自分の知識・経験を関連付ける
エ
関係付けて読む・関連付けて読む場の設定とは
関係付けて読む・関連付けて読む場の設定とは,児童が目的をもって課題解決に向かうため
の単元を構成し,課題解決に向かう過程に「関係付ける」
「関連付ける」活動を位置付けること
である。
国-2
2
研究の目標
関係付けて読む・関連付けて読む場の設定を通して,思考力を育てる文学的な文章の学習指導の
在り方を明らかにする。
3
研究の仮説
文学的な文章の学習指導において,以下の3点から関係付けて読む・関連付けて読む場の設定を
工夫すれば,児童の思考力を育てることができるであろう。
○
目的をもって読むための単元を貫く言語活動の設定
○
目的を達成するための読書活動の位置付け
○
関係付ける・関連付ける活動の工夫
4
研究の構想
(1) 目的をもって読むための単元を貫く言語活動の設定
ア 「読むこと」の力を身に付けることができる単元を貫く言語活動の設定
※ 検証の方法… 学習プリントの分析
表現物の分析
(2) 目的を達成するための読書活動の位置付け
ア 並行読書の位置付け
○ 教材文と同じシリーズの作品
○ 教材文と同じ作者の作品
○ 教材文と同じ特徴をもつ作品
○ 作者の考え方や生き方が分かる作品
※ 検証の方法… 学習プリントの分析
表現物の分析
(3) 関係付ける・関連付ける活動の工夫
ア 考えや感想を形成する活動の工夫
イ 考えや感想を交流する活動の工夫
○ 付箋やボードを活用したグループ交流
○ グループ交流を生かした全体交流
※ 検証の方法… 付箋に書かれた内容とボードに表された内容の分析
学習プリントの分析
児童の発言の分析
国-3
5
研究構想図
思考力の育った児童
学習過程
単
元
を
貫
く
言
語
活
動
関係付けて読む
関連付けて読む
場の設定
ものの見方・考え方の
広がり深まり
第3次
考えや感想を形成する活動
考えや感想を交流する活動
学習課題追究2
【読む目的の達成】
第2次
学習課題追究1
【教材文の読み】
関
係
付
関係付ける・
関連付ける活動の工夫
目的を達成するための
読書活動の位置付け
け
関
連
並行読書の位置付け
付
け
第1次
学習課題設定
【読む目的の明確化】
る
目的をもって読むための
単元を貫く言語活動の
設定
教育の動向
本市の児童の実態
国-4
・付箋やボードを活用した
グループ交流
・グループ交流を生かした
全体交流
る
・教材文と同じシリーズの作品
・教材文と同じ作者の作品
・教材文と同じ特徴をもつ作品
・作者の考え方や生き方が分かる
作品
「読むこと」の力を身に
付けることができる
単元を貫く言語活動の設定
昨年度の研究の成果と課題
第Ⅱ章 研究の実際と考察
1 関係付けて読む・関連付けて読む場を設定した小学校第2学年の指導
「ふたりは友だちブック」を作って,友だちについて考えよう
教材文「お手紙」 並行読書「がまくんとかえるくんシリーズ」
(1) 単元目標
○ かえるくんとがまくんの会話や行動を基に,お話の筋を順序よくとらえ,「お手紙」とシリーズの
話を関係付けたり,登場人物と自分の経験を関連付けたりしながら,場面の様子について想像を
広げながら読むことができる。(「C読むこと」ウ)
○ がまくんとかえるくんシリーズの話を読んだり,紹介し合ったりして,友達(親友)について
の見方・考え方を広げたり深めたりすることができる。(「C読むこと」オ)
○ 友達(親友)という視点でシリーズの話を選んで読み,楽しんで読書することができる。
(「C読むこと」カ)
(2) 単元についての考え方
○ 設定した言語活動とその特徴
本単元を貫く言語活動として,
「ふたりは友だちブック」
(資料-4)を作り,ふたりが友達(親
友)だと言えるところを見付け,自分の生活に生かしていくことを位置付けた。
「ふたりは友だち
ブック」とは,シリーズの話の中に出てくるかえるくんとがまくんが友達(親友)だと言えると
ころをハート型の付箋に書いて本を作り,ふたりが友達(親友)であるということを視覚的にと
らえる表現物である。
○ 関係付けて読む・関連付けて読む場の設定
本単元においては,
「お手紙」とシリーズの話を関係付けて読んだり,自分と登場人物を関連付
けたりして読む場を設定している。そのことによって,友達(親友)に対する見方・考え方を広
げたり深めたりすることができると考える。
資料-4「ふたりは友だちブック」
「ふたりは友だちブック」を作って,友だちについて考えよう
第一次
第二次
第三次
○「お手紙」を読む。
○自分にとって
○「ひとりきり」を読む。 友達とはどん
○シリーズの中で自分で
な人のことな
選んだ話を読む。
のか,本を読む
前と比べて考
「ふたりは友だち」ブックを作る
えさせる。
○単元の
めあて
○学習計画
表紙
本の中「お手紙1の場面」
並行読書(がまくんとかえるくんシリーズ)
読む目的の
明確化
図-1
読む目的の
達成
教材文・並行
読書作品の読み
単元を貫く言語活動を位置付けた単元構想図
本の中「ひとりきりの場面」
(3) 評価規準
国語への関心・意欲・態度
友達とはどんな人なの
か考えるために,友達(親
友)探しをするという目的
をもって,シリーズの話を
読もうとしている。
②
シリーズの話を友達(親
友)という視点で読み,楽
しんで読書しようとして
いる。
①
読む能力
言語についての知識・理解・技能
登場人物の会話や行動を中心 ⑤
友達(親友)だと言える
に,ふたりが友達だと言えるとこ
ところを見付ける際に,文
ろを探し,理由を書いている。
章中の大事な言葉や文に
④
「お手紙」とシリーズの話を関
気付いている。
係付けたり,自分の経験と関連付 ⑥
登場人物の会話や行動
けたりしながら読み,友達(親友)
を表す言葉には,人物が考
についての見方・考え方を広げた
えたことや思ったことを
り深めたりして,発表している。
表す働きがあることに気
付いている。
③
国-5
(4) 学習指導計画(全 12 時間)
次
主な学習活動と内容
関係付けて読む・関連付けて読む活動
時
1
第
一
次
○指導上の留意点
※交流活動の工夫
評価
規準
1
①
単元のめあてをつくる。
(1) 友達とはどんな人のことなのか話し合う。
(2) シリーズの話の読み聞かせを聞き,単元の ○ 自分のこれまでの生活経験と
めあてをつくる。
つないで,友達とはどんな人の
ことなのか考えさせる。
○ シリーズの話の表紙を見せ
【単元のめあて】
(かえるくんとがまくんシリーズの本を読んで「ふたりは友だ
て,ふたりが友達であることに
ちブック」を作り,友だちについて考えよう。
気付かせ,
「ふたりは友だちブッ
ク」を作り,友達だと言えると
【学習計画】
①「お手紙」を読んで,「ふたりは友だちブック」を作る。
ころを探すという見通しをもた
②「お手紙」と他の話を関係付けて読み,
「ふたりは友だちブック」
せる。
を作る。
③「ふたりは友だちブック」を作って,自分にとって友達(親友)
とはどんな人のことなのか考える。
2
3
4
5
6
7
8
第
二
次
9
10
11
第
三
次
12
2
「お手紙」を読んで,「ふたりは友だちブッ ○ 「お手紙」を5つの場面に分
ク」を作る。
け,ふたりが友達だと言えると
(1) ふたりの会話や行動,挿絵を手がかりに,
ころをたくさん探したいという
あらすじを書く。
意欲をもたせ,
「ふたりは友だち
ブック」を作らせる。
(2) ふたりが友達だと言える叙述を探し,その ※ ふたりの会話や行動を中心に
理由を書いて交流し,「ふたりは友だちブッ
想像を広げさせ,自分の経験と
ク」を作る。
関連付けながら,友達だと言え
る叙述を探させる。
③
⑤
⑥
3 「お手紙」と「ひとりきり」を関係付けて読 ○ 「お手紙」で,がまくんとか
えるくんは親友だと言えること
み,
「ふたりは友だちブック」を作る。
を確かめたため,親友探しをし
(1)「ひとりきり」で,ふたりが親友だと言え
ようという目的へ高め「ひとり
るところを探し,その理由や考えを交流し,
「友だちブック」を作る。
きり」を読ませる。
○がまくんが,かえるくんを喜ばせてあげよ ※ ふたりの会話や行動を基に,
うとアイスティーやサンドイッチを作っ
「お手紙」と関係付けたり,自
分の経験と関連付けて読んだり
てあげたところ
○がまくんが,かえるくんを早く元気づけよ
しながら,ふたりが親友だと言
えるところを探させる。
うと急いだところ
〇 互いのことを思いやっている
○ふたりきりでずっと島ですごしたところ
ことや,一緒にいるだけで楽し
さを感じていることなど,親友
とはどんな人のことなのかを感
じ取らせる。
4 シリーズの話の中から一つ選んで,「ふたり 〇 「お手紙」や「ひとりきり」
で身に付けた力を活用して,自
は友だちブック」を作る。
分が選んだ話で親友探しをさせ
る。
②
③
④
⑤
⑥
5 自分にとって友達(親友)とはどんな人のこ
となのか考え,交流する。
④
国-6
○
自分にとって友達(親友)と
はどんな人のことなのか,本を
読む前と比べて考えさせる。
②
③
④
⑤
(5) 指導の実際(関係付けて読む・関連付けて読む 10/12)
〇
本時は,
「ひとりきり」でのふたりの会話や行動を中心に想像を広げながら読み,
「お手紙」と
関係付けたり,自分の経験と関連付けたりしながら,親友についての見方・考え方を広げたり深
めたりすることをねらいとした。
〇
前時までに児童は,
「お手紙」でふたりの会話や行動を基に,ふたりが友達だと言えるところを
探して,
「友だちブック」を作ってきた。ここでは,並行読書をしてきたため,他の話とも関係付
けて読むことができた。さらに,
「お手紙」でふたりが親友で
あることを知り,他の話でふたりが親友であるところを探そ
資料-5
付箋の書き方(掲示用)
うという読む目的へ高めることができたため,「お手紙」と
「ひとりきり」を関係付けて読む必要感と「ふたりは友だち
ブック」を作る意欲をもつことができた。
前時では,「ひとりきり」を「お手紙」と関係付けたり,
自分の経験と関連付けて読んだりしながら,ふたりが親友だ
と言えるところを探させた。その際,ハートの付箋の書き方
を掲示し,
「叙述・理由(お手紙と比べて,自分だったら~)」
を必ず書かせるようにした(資料-5)。また,かえるくん
資料-6
前時の書きこみ
とがまくんのハートの色を分けることで,誰のどんなところ
が親友だと言えるのかを,視覚的に分かるようにした。「お
手紙」でも同じような書き方で書いたので,どの児童もスム
ーズに書くことができた(資料-6)。
○
本時のめあては,「『ひとりきり』を読んでふたりが親友
であるところをさがして,『友だちブック』を作ろう。」で
資料-7
ある。
グループ交流の様子
まず,前時に書いていた個人の考えをグループで交流させ
た。資料-7のようにボードを使ってそれぞれの考えを可視
化しながら,互いの考えの共通点を見付け出し,整理させた。
その結果,児童は,同じ考え同士をまとめ,大きなハートで
囲むことができ,グループでどんな考えがあるのかをまとめ
ることができた。
次に,まとめた考えの中から,特に親友であると言えると
資料-8 グループ交流で使ったボード
ころを一つ決めさせた(資料-8)。決める際には,「お手
紙」と関係付けたり,自分の経験と関連付けたりしながら選
ぶようにさせた。その結果,どのグループも,整理した中か
ら特に親友だと言えるところを,決めることができていた。
全体交流では,まず,がまくんが急いでかえるくんを探し
ていたところを選んだグループから発表させた。次に,がま
くんがサンドイッチを作ったりアイスティーを入れたりしたところを選んだグループを発表させ
た。ここでは,がまくんがかえるくんのことを心配して一生懸命に色々な場所を探しているから
親友である,
「お手紙」でかえるくんががまくんのために急いだところと似ている,などと,「ふ
国-7
たりきり」と「お手紙」を関係付けながら発言
資料-9 本時の板書
する姿が見られた。そこから,お互いが思いや
っていることを理解させることができた。さら
に,
ふたりで島でずっと過ごしているところを選ん
だグループに発表させた。
「お手紙」の中の,げ
んかんの前で4日間も待ち続けた場面と似てい
ることから,一緒にいるだけで幸せを感じる,などと発言する姿が見られた。
最後に,前時に書いた自分の考えの中から,特に親友だと言えるところに☆印を付けさせ,
「友だちブック」に書き込ませた。グループ交流や全体交流を通して,自分が一番親友だと言
えるところを選ばせたことで,本時の学習で親友に対する見方・考え方の広がりや深まりが見ら
れた。
(6) 考察
ア 単元を貫く言語活動の設定
○ 単元を貫く言語活動として,
「友だちブックを作ろう」という活動を設定したことにより,
児童は,
かえるくんとがまくんのハートの付箋をたくさん増やしたいという意欲をもって「お
手紙」や「がまくんとかえるくんシリーズ」の話を読み進めることができた。
○ 導入でシリーズの話を紹介し,並行読書を位置付けたことは,作品の共通点から学習課題
を生み出したり,教材文の読みの視点を明確にしたりする上で有効であった。
「お手紙」を読
んだ後,他の話を一緒に読み,その後は自分で選んだ話を読むというように,導入で示した
複数の話と「お手紙」を関係付けながら読むことができた。シリーズの話に興味をもち,図
書室にあるシリーズの本を手にする児童がたくさん見られた。
イ 読書活動の位置付け
○ 「お手紙」では,友達だと言えるところを探して「友だちブックを作る」という目的をも
って読み,他の話でふたりが親友だと言えるところを探そうという目的へ高めたため,
「お手
紙」と「ひとりきり」を関係付けて読む姿が見られた。
● 2年生の児童の実態では,まだかえるくんとがまくんのような親友には出会っていない児
童が多く,自分の経験と関連付けて読むことがやや難しいようだった。児童の実態と教材の
特質から関連付ける読みを工夫していく必要がある。
ウ 関係付ける・関連付ける活動の工夫
○ かえるくんとがまくんの色を分けてハートの付箋に書かせたことで,誰のどんなところが
友達だと言えるのか,視覚的にとらえやすかった。
○ グループ交流では,個人やグループの考えを可視化するために,各自が根拠とした叙述や
その理由を付箋に書き,ホワイトボード上で整理させた。その際,同じ考え同士をまとめさ
せ,その中でも特に親友だと言えるところに印を付けさせた。児童は,友達と自分の考えを
比べながら,共通点を見付けることができた。特に親友だと言えるところを一つ決める際に
は,
「お手紙」と関係付けたり,自分の経験と関連付けたりしながら,決めようとする姿が見
られた。
国-8
2
関係付けて読む場を設定した小学校第4学年の指導
あなたはどう感じた!?新美南吉作品を比べて読み,感じたことや考えたことを
読書会で話し合おう
教材文「ごんぎつね」
並行読書「巨男の話」など自分が選んだ新美南吉作品
(1) 単元目標
○ 「ごんぎつね」や「巨男の話」など自分が選んだ新美南吉作品を読み,場面の移り変わりに
注意しながら,登場人物の気持ちの変化や人物像をとらえることができる。(「C読むこと」ウ)
○
新美南吉作品を関係付けて読み,登場人物の気持ちの変化や作品の結末について感じたこと
や考えたことを交流し,一人一人の感じ方の違いに気付くことができる。(「C読むこと」オ)
(2) 単元についての考え方
○
設定した言語活動とその特徴
本単元を貫く言語活動として,
「新美南吉読書会」という活動を仕組み,新美南吉作品に対し
てどのように感じたのか交流する活動を位置付けた。この「新美南吉読書会」とは,新美南吉
作品を読み,登場人物の気持ちの変化や作品の結末について疑問に思ったことをテーマとして
読書会で話し合う活動である。
○ 関係付けて読む場の設定
本単元においては,読書会が内容の読み取りにとどまらず,作品の結末を評価しながら,作
品同士を関係付けて読む場を設定している。そのことによって, 登場人物の気持ちの変化や作
品の結末について感じたことや考えたことを交流しながら,一人一人の感じ方の違いに気付く
ことができると考える。
資料-10 読書会の様子
あなたはどう感じた!?新美南吉作品を比べて読み,
感じたことや考えたことを読書会で話し合おう
第一次
第二次
第三次
○試しの読書会
○単元のめあて
○学習計画
○「ごんぎつね読書会」を行
う。
○「巨男の話読書会」を
行う。
○「新美南吉
読書会」を
行う。
並行読書(「巨男の話」など自分が選んだ新美南吉作品)
読む目的の
明確化
図-2
教材文・並行
読書作品の読み
読む目的の
達成
単元を貫く言語活動を位置付けた単元構想図
(3) 評価規準
国語への関心・意欲・態度
読む能力
① 新美南吉作品について感じ
たことや考えたことを話し合
うという目的をもって,「ごん
ぎつね」,「巨男の話」など自分
が選んだ新美南吉作品を読も
うとしている。
② 新美南吉作品を関係付けて読み,登場人物の気持
ちの変化や作品の結末について感じたことや考えた
ことを話し合い,一人一人の感じ方の違いに気付い
ている。
③ 場面の移り変わりに注意しながら,新美南吉作品
の登場人物の気持ちの変化を読み取っている。
国-9
言語についての知識・理解・技能
④
作品を読んで感じたこ
とや考えたことを話し合
う中で,言葉には考えた
ことや思ったことを表す
働きがあることに気付い
ている。
(4) 学習指導計画(全 14 時間)
次
時
1
主な学習活動と内容
関係付けて読む
1 単元のめあてと学習計画をつくる。
(1) 新美南吉の生涯について教師の説明を聞く。
(2) 「手ぶくろを買いに」をアニメで鑑賞する。
(3) 試しの読書会を行い,単元のめあてと学習計画につい
て話し合う。
○指導上の留意点
※交流活動の工夫
○ 作品について心に残ったこと
を出し合わせ,登場人物の気持
ちの変化や作品の結末に目を向
けていることに気付かせる。
○ 読書会をするために,作品を
読んでいく必要感をもたせる。
評価
規準
①
【単元のめあて】
新美南吉の作品を読み,感じたことや考えたことを新美南吉読書会で話し合おう。
第
一
次
【学習計画】
☆ 教材文「ごんぎつね」の読書会名人ノートをつくり,
「ごんぎつね読書会」を行う。
① 場面設定や文章構成をとらえ,登場人物の気持ちについて書きまとめる。
② 作品についての感想を書き,読書会のテーマを決める。
③ テーマに沿って,
「ごんぎつね読書会」を行う。
☆ 並行読書「巨男の話」の読書会名人ノートをつくり,
「巨男の話読書会」を行う。
① 場面設定や文章構成をとらえ,登場人物の気持ちについて書きまとめる。
② 作品についての感想を書き,読書会のテーマを決める。
③ テーマに沿って,
「巨男の話読書会」を行う。
☆ 読書会名人ノートをまとめ,
「新美南吉読書会」を行う。
① 「新美南吉読書会」を行い,新美南吉作品について感じたことや考えたことを交流する。
2
3
4
第
二
次
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
第
三
次
2 教材文「ごんぎつね」の読書会名人ノートをまとめ,
「ご
んぎつね読書会」を行う。
(1) 場面設定や文章構成を読み取る。
(2) ごんの行動や気持ちを読み取る。
(3) 自分が感じたことや考えたことを感想として書きま
とめ,読書会のテーマについて話し合う。
(4) 「ごんぎつね読書会」を行う。
○ なぜいたずらばかりしたのか。
○ なぜつぐないをしたのか。
○ なぜくりや松たけを持って行き続けたのか。
○ この終わり方でよかったのか。
3 並行読書「巨男の話」の読書会名人ノートをまとめ,
「巨
男の話読書会」を行う。
(1) 並行読書「巨男の話」を読み,場面設定や文章構成を
読み取る。
(2) 巨男やお姫様の行動や気持ちを読み取る。
(3) 自分が感じたことや考えたことを感想として書きま
とめ,読書会のテーマについて話し合う。
(4) 「巨男の話読書会」を行う。
○ この終わり方でよかったのか。
4 読書会名人ノートをまとめ,
「新美南吉読書会」を行う。
(1) 新美南吉作品を読み,読書ノートにまとめる。
(2) 教材文「ごんぎつね」と並行読書「巨男の話」,自分
が選んだ並行読書作品を関係付けながら,「新美南吉
読書会」を行う。
国-10
○
登場人物の行動や気持ちを表
す叙述などを視点に,主人公の
行動や気持ちを読ませていく。
○
登場人物の気持ちの変化や作
品の結末について疑問に思った
ことをテーマとして設定する。
※ 読書会では,テーマについて
の考えと根拠となる叙述を付箋
に書き出させ,グループで共通
点について話し合わせた後に,
考えをまとめさせる。
※ 結末に関するテーマの読書会
では,自分の考えと根拠となる
叙述を書き出させる。
※ 「ごんぎつね」と「巨男の話」
を関係付けて読んで共通点を明
らかにし,関係付けて読むよさ
に気付かせる。
○
新美南吉作品を読んだ感想を
書きまとめさせ,それぞれの作
品の結末に目を向けさせる。
※ 全体交流では,
「ごんぎつね」
,
「巨男の話」
,自分が選んだ新美
南吉作品の結末の共通点や相違
点について話し合わせる。
○ 結末について,どのようなと
ころが共通しているのか互いの
考えを話し合わせ,一人一人の
感じ方の違いに気付かせる。
③④
①②
③④
①②
③④
②③
④
③④
①②
③④
⑤
①②
③④
⑤
(5) 指導の実際(関係付けて読む 12/14)
○ 本時は,
「巨男の話」の結末についてこれでよかったのか交流する時間であり,
「巨男の話」
と「ごんぎつね」の結末を関係付けて読み,一人一人の感じ方の違いに気付くことをねらいと
した。
○
資料-11 本時の学習プリント
前時までに,児童は,まず,教
自
分
の
考
え
と
根
拠
を
記
し
た
付
箋
材文「ごんぎつね」を読んで「ご
んぎつね読書会」を行っている。
次に,
「巨男の話」を読んで,
「ご
んぎつね読書会」と同様に,
「巨男
の話」の終わり方がこれでよかっ
たのかという結末に着目した読書
会のテーマを設定している。
○
本時のめあては,
「
『巨男の話』
の終わり方はこれでよかったのか,
感じたことや考えたことを『巨男
テ
ー
マ
に
つ
い
て
の
は
じ
め
の
考
え
資料-12 互いの考えを可視化したグループ交流
の話読書会』で話し合おう。
」とした。
まず,自分の考えをもって読書会に
臨ませるために,テーマについての自
分の考えとその根拠となる叙述を付
箋に書き出させた。児童は,資料-11
のように,書き出した付箋を基に,
「こ
の終わり方でよかったのか」,はじめ
の自分の考えを書きまとめることが
できた。
次に付箋とボードを用いて互いの
考えを可視化しながら,グループ交流
をさせた。その際,それぞれ書き出し
2つの視点に分けて考えている。
た考えと根拠とする叙述を発表させ
た。児童は,互いの考えの共通点と相
違点を意識しながら,ボード上で付箋
お互いの考えの共通点
分類した考え同士のつ
を操作したり,小見出しを書いたりし
を見付け,小見出しを
ながりを見付け,線で
ながら,グループの考えを視覚的に分
付けている。
結んでいる。
かりやすく分類することができた(資料-12)。
全体交流では,土台グループと自分達のグループの考えを比較し,土台グループの考えに読
書会で話し合った自分達の考えを付加・修正させた。その結果,
「巨男の話」の結末について,
主人公の死を理由によくなかったという考えが出された一方,主人公の願いが叶うとともに,
主人公に対する周囲の登場人物への見方が変化したことを理由によかったという考えが出さ
れた。
ここで,再度「ごんぎつね」の結末に
戻り,「ごんぎつね」と「巨男の話」の結末を関係
国-11
付けて,その共通点について考えさせた。 資料-13 関係付けて読んだ後の,考えの分析(28 人中)
周囲の人々の登場人物に対する見方が
ごんぎつねの結末についての考え
考えが変容した児童
根拠に深まりがみられた児童
変わっていると気付いていった。
考えが変わらない児童
児童は,二つの作品では主人公の死後,
人数
15人
5人
8人
これにより,
「ごんぎつね読書会」で話し合っていた結末についての考えが変わったと答え
た児童もいた。「巨男の話」と同様に,主人公は死んでしまったものの登場人物を想い続けて
行動していたのでよかったという考えに変わった児童や,「巨男の話」とは違って主人公の本
当の願いが叶わなかったのでよくなかったという考えに変わった児童が見られた。
このように,作品同士の結末を関係付けながら全体交流を展開していったことで,同じ作者
の他作品との共通点を視点に,一作品のみで考えていた結末を再度評価しながら読むことがで
き,互いの感じ方や考え方の違いに気付くことができた。資料-13,14 のように,
「巨男の話」
読書会後の「ごんぎつね」の結末についての考えを分析したところ,70%近くの児童の考えが
変容している。
資料-14 関係付けて読む前と後の「ごんぎつね」の結末についての考えの変容
ごんは,兵十にくりなどを持っていったのが
終わり方はよかったという考えに変わりま
神様ではなく自分だったと気付いてくれた
した。理由は,巨男が王女のために身を投げ
のでうれしかったと思います。でも,兵十が
たのと同じように,ごんぎつねも兵十にうた
うってしまった後に気付いたので,この終わ
れたけれど,どちらも相手を思ってやってい
り方ではよくないと思いました。
たことに気付いたからです。
(6) 考察
ア 単元を貫く言語活動の設定
○
登場人物の気持ちの変化や作品の結末に目を向けた読書会を設定したことで,読書会に向け,
場面に沿って登場人物の行動と気持ちの変化を追求していく必要感をもたせることができた。
○
導入で「手ぶくろを買いに」についての試しの読書会を行ったことは,登場人物の気持ちの
変化と作品の結末に関心をもつことにつながった。
●
登場人物の気持ちの変化や作品の結末について,児童が疑問に思ったことを生かしながら読
書会のテーマを設定したが,個々の疑問を生かすには難しさもあった。テーマ設定の在り方に
ついて検討する必要がある。
イ 読書活動の位置付け
○
結末が似ている「ごんぎつね」と「巨男の話」を関係付けて読んだことで,結末の共通点に
目を向けることができ,再度「ごんぎつね」の結末について考えることができた。
○ 「巨男の話」読書会を行ったことで,
「ごんぎつね読書会」で考えた結末について改めて評価
しながら読むことにつながり,はじめの考えをさらに深めることにつながった。
ウ 関係付ける活動の工夫
○
付箋の色を分けて,ボード上で付箋を操作させたことにより,互いの考えの共通点や相違点
に目を向けさせることができ,一人一人の感じ方の違いに気付かせることができた。
国-12
3
関連付けて読む場を設定した小学校第4学年の指導
あなたとわたしのちがいに注目!同年代の登場人物が出てくる作品を読んで,
読書感想マンションで心に響いたことを交流しよう。
教材文「プラタナスの木」
並行読書「ピトゥスの動物園」
「雨ふる本屋」
「雨やどりはすべり台の下で」
「百まいのドレス」
(1) 単元目標
○ 読書感想マンションで心に響いたことを交流するために,登場人物の気持ちの変化に着目し
て同年代の登場人物が出てくる作品を読むことができる。(
「C読むこと」ウ)
○
読書感想マンションで心に響いたことを交流し,登場人物の会話や行動と自分の経験を関連
付け,一人一人の作品に対する感想の違いに気付くことができる。(「C読むこと」オ)
(2) 単元についての考え方
○ 設定した言語活動とその特徴
本単元を貫く言語活動として,
「読書感想マンション」(資料-15)で心に響いたことを交流する
ことを位置付けた。この「読書感想マンション」とは,一人一人の感想の違いを比べて読める
ようにした,読書感想が書かれた表現物である。窓には,起承転結に沿ってあらすじを絵と文
章で書き込む。窓の中には,読書感想を書き込む。読書感想は,心に響いたこと,根拠の叙述,
自分の経験との関連,作品を読んでの感想の4つで構成する。
○
関連付けて読む場の設定
本単元においては,同年代の登場人物の会話や行動と自分の経験を関連付ける場を設定して
いる。そのことによって,読書感想を交流しながら,一人一人の経験の違いが感想の違いを生む
資料-15 読書感想マンションのモデル
ことに気付くことができると考える。
あなたとわたしのちがいに注目!同年代の登場人物が出てくる作品を読んで,
読書感想マンションで心に響いたことを交流しよう。
第一次
第二次
○アンケート結果を
聞く。
○ モデルの読書感想を
読む。
○「プラタナスの木」,
並行読書作品を読ん
で,読書感想をまとめ
る。
あらすじ(窓に書かれた絵と文章)
第三次
○「プラタナスの木」
,
並行読書作品の読
書感想交流会をす
る。
○単元のめあて
○学習計画
並行読書「ピトゥスの動物園」
「雨宿りはすべり台の下で」
「雨ふる本屋」
「百まいのドレス」
読む目的の明確化
図-3
教材文・並行読書作品の読み
読む目的の達成
単元を貫く言語活動を位置付けた単元構想図
読書感想(窓の中)
・心に響いたこと・根拠の叙述
・自分の経験との関連・作品を読んでの感想
(3) 評価規準
国語への関心・意欲・態度
①
言語についての
知識・理解・技能
読む能力
読書感想マンショ ② 読書感想マンションを書くために,自分の経験と
ンで読 書感想を交 流
関連付け,登場人物の気持ちの変化を読んでいる。
する目的をもって,教 ③ 感想の異なる友達と自分の感想との相違点を明ら
材文や 並行読書作 品
かにしながら交流し, 一人一人の感想の違いに気付
を読もうとしている。
いている。
国-13
④
登場人物の会話や
行動には考えたこと
や思ったことを表す
働きがあることに気
付いている。
(4) 学習指導計画(全 12 時間)
次
時
1
2
主な学習活動と内容
関連付けて読む活動
1 単元の構えについて話し合う。
(1) 読書感想を読み,読みの視点をつかむ。
(2) 同年代の登場人物が出てくる作品のブックトーク
を聞き,単元のめあてをつくる。
○指導上の留意点
※交流活動の工夫
○
本を読んで感想を述べることが好きか,ま
た得意かということについてのアンケート
結果のグラフを提示する。
○ 読書マンションを紹介し,一人一人の感想
の違いを基に読んでいくという方向性を確
認し,学習計画を立てる。
評価
規準
①
【単元のめあて】
あなたとわたしのちがいに注目!同年代の登場人物が出てくる作品を読んで,読書感想マンショ
ンで心に響いたことを交流しよう。
第
一
次
【学習計画】
①「プラタナスの木」を読む。
④並行読書作品で読書感想マンションをつくりあげる。
○ あらすじ(構成を含む)を書く。
○ 心に響いたこと,根拠の叙述,自分の経験との
○ 心に響いたこととその根拠をウェビングマップ
関連,作品を読んでの感想の構成で書く。
にまとめる。
⑤「プラタナスの木」で感想交流をする。
○ ウェビングマップ上に根拠の叙述と関連付けて
○ グループで違いをボードにまとめる。
自分の経験を書き込む。
○ 感想の違いを生む経験について全体交流をする。
②同年代の登場人物が出てくる作品を読む。
⑥並行読書作品で感想交流をする。
○ あらすじ(構成を含む)を書く。
○ 同じ本を読んでいるグループで違いをボードに
○ 心に響いたこととその根拠をウェビングマッ
まとめる。
プにまとめる。
○ 感想の違いを生む経験について全体交流をする。
○ ウェビングマップ上に根拠の叙述と関連付け
て自分の経験を書き込む。
③「プラタナスの木」を読んで,読書感想マンションを
つくりあげる。
○ 心に響いたこと,根拠の叙述,自分の経験と
の関連,作品を読んでの感想の構成で書く。
3
4
5
6
第
二
次
7
8
9
10
11
第
三
次
12
2 「プラタナスの木」を読んで,読書感想を書く。
(1) 出来事の順序を基にあらすじを書きまとめる。
(2) 自分の心に響いたことを書きまとめる。
。
(3) マーちんの気持ちの変化と自分の経験を関連付け
て,心に響いたことの根拠を書きまとめる。
(4) 心に響いたこと,根拠の叙述,自分の経験との関連,
作品を読んでの感想の構成で書きまとめる。
3 「プラタナスの木」を読んでとらえた視点を基に ,
同年代の登場人物が出てくる作品を読んで読書感想を
書く。
(1) 出来事の順序を基にあらすじを書きまとめる。
(2) 自分の心に響いたことを書きまとめる。
(3) 「雨ふる本屋」
,
「雨やどりはすべり台の下で」
,
「ピ
トゥスの動物園」,「百枚のドレス」の登場人物の気
持ちの変化と自分の経験を関連付けて ,読書感想を
書きまとめる。
(4) 心に響いたこと,根拠の叙述,自分の経験との関連,
作品を読んでの感想の構成で書きまとめる。
○
4 「プラタナスの木」の読書感想交流会を行う。
(1) グループで読書感想を読み合う。
(2) 作品と自分の経験との関連から,友達との感想の違
いの根拠をボードにまとめる。
(3) 自分の読書感想を付加・修正・強化する。
5 同年代の登場人物が出てくる作品の読書感想交流会
を行う。
(1) 同じ作品を読んでいる友達と読書感想を読み合う。
(2) 作品と自分の経験を関連付け,友達との感想の違い
の根拠をボードにまとめる。
(3) 自分の読書感想を付加・修正・強化する。
(4) 単元を通して学んだことをふりかえる。
※
国-14
いつ・どこで・だれが・なにをする
話なのか(4W)を書きまとめさせる。
※ ギャラリーウォークで一人一人の感
想の違いに気付かせ,よさを共有する。 ①②
※ 登場人物の気持ちの変化をウェビン
グマップにまとめ,自分の経験と関連 ① ②
付けて,マップに付加・修正させる。
④
○ 並行読書作品を一人一冊ずつ選ば
せ,自分の経験との関連には桃色の付
箋,根拠となる叙述には青色の付箋を
貼らせながら読書させる。
○ 「使いたい感想言葉」を参考にさせ,
豊かな語彙で読書感想を書きまとめさ
せる。
①②
○ 付箋を取捨選択させ,ワークシート
に分類・整理させる。
①②
④
読書感想を比較させ,付箋を使って,
それぞれの経験の違いや根拠の叙述の
違いをボード上に整理させる。
※ 質疑応答や意見交流を行う際,登場
人物の気持ちの変化と自分の経験との
関連を視点に述べ合わせる。
※ 取り入れたいことに赤,新たなに気
付いたことに青,自分の経験を引き出
した考えに緑のシールを貼らせ,読書
感想を付加・修正・強化させる。
○ 読書感想交流会をふりかえり,友達
との感想の違いを基に,今後の読書に
どのように生かしていくかについて,
学習のまとめを書かせる。
①②
③
①②
③
(5) 指導の実際(関連付けて読む 12/12)
○ 本時は,読書感想交流会を行い,心に響いたことやその根拠を話し合い,一人一人の感想の
違いを基に,自分の読書感想を付加・修正・強化することをねらいとした。
○ 前時までに児童は,同年代の登場人物が出てくる作品を読んで読書感想をまとめている。そ
の中で,読書感想交流会で伝えようとしている読書感想の根拠の叙述には,自分の経験を関連
付けて付箋に整理している(資料-16)。しかし,自分の経験と作品を関連付けて感想をまとめら
れていない児童が8人いた。一人一人の感想の違いに気付く交流をするには,一人一人が作品
にどのような経験を関連付けて読んでいるかを明らかにする必要がある。そこで,同じ作品を
読んでいる児童同士で感想を交流する必要感を生み出し,本時学習につないだ。
○ 本時のめあては,
「読書感想交流会をして,自分と友達の
資料-16 叙述と自分の経験を関連付けた付箋
違いを基に,読書感想をよりよく書き換えよう。
」である。
自 分 の読書
まず,前時に行った「プラタナスの木」の読書感想交流会
感 想 の根拠
の中で,自分の経験と関連付けて交流を行っていた児童2
の叙述
名にモデル発表をさせた。モデル発表の目的は,作品と
自分の経験を関連付けられていない児童への支援である。
全文掲示を使い,叙述に自分の経験を関連付けた発表の仕
方をさせ,そのよさをとらえさせた。
自分の経験
次に,同じ並行読書作品を読んでいる児童同士でグルー
プ交流をさせた。グループ交流では,資料-17 のように,
ボードの中心に心に響いたこと,外側に根拠の叙述や自分
を関連付け
た書き込み
資料-17
一人一人の感想の違いに気付くボード交流
の経験の付箋を貼りながら,一人ずつ感想を発表させた。
その際,一人一人の感想の違いに気付くことができるよ
根拠の叙述
うに,ボード上に広がる友達の根拠の叙述や経験と,自分
の根拠の叙述や経験を比べさせながら,どこが違うか,な
ぜ違うかについて交流させた。そうすることで,児童は,
自分の
経験と
の関連
根拠や経験を意識した意見交流と叙述の読み直しを繰り返
し,自分の考えをまとめることができた。
全体交流(資料-18)では,土台グループとして,心に響い
たことが全員異なるグループ,次に心に響いたことが似て
心に響いたこと
いるグループに読書感想の違いについて発表させた。その
上で何が感想の違いを生むのかについて話し合わせた。す
ると,児童は,
「一人一人違った経験をしているから,感
想やその根拠も違うと思う。
」等,経験の違いが感想の違い
を生むことに気付く発表をすることができた。
その後,再度ボードを見直させ,取り入れたいことに赤
シール,新たな気付きに青シール,自分の経験を引き出し
た考えに緑シールを貼らせた。終末には,それらを基に自
分の読書感想を付加・修正・強化させた(資料-19,20)
。
国-15
資料-18 全体交流の様子
資料-20 第 12 時における評価基準と事例
資料-19 第 11~12 時における児童の記述の変容
わたしたちみたいな小さい子どもには不思議なことが起こる
という思いが心に響きました。その理由は,雨森さんの話の中
で,アパートのドアを開けてみると見たこともない浜辺があっ
て,そこで男の子と出会い仲良くなっていく不思議なことがあ
ったからです。
・ 心に響いたことと根拠は書けているが,自分の経験と関
連付けて読むことはできていない。
・ 友達との感想の違いに気付いた記述がない。
わたしは,「雨宿りはすべり台の下で」を読んで,わた
したちみたいな小さな子どもには不思議なことが起こ
るという思いが心に響きました。これは班のどの人とも
違っています。優しい心をもっている人だけに不思議な
ことが起こることを読むには,人それぞれ経験が違うの
で,読んでいるところが変わっていくからです。
わたしが読んだのは,アパートのドアを開けてみると
見たこともない浜辺があって,そこで男の子と出会い仲
良くなっていくところです。もし,わたしがそこにいた
ら,不思議な世界から戻って来れなかったらいやなので
入りません。でも,雨森さんのことをすべり台の下で話
す友達関係っていいなと思いました。登場人物の気持ち
を考えることも大事だけど,自分の気持ちや経験したこ
とと比べながら人物の行動の意味にも注目して読んで
いきたいです。
・ ボードを用いたグループ交流をしたことで,作品と自
分の経験を関連付け,一人一人の経験の違いを基に読書感
想を付加・修正できている。
・ 登場人物の言動と自分の経験を比べながら読むよさ
を,今後の自分の読書に生かそうとしている。
評価
評価基準
A
B基準に加え,一人一人の感想の
違いが経験の違いや根拠の叙述の
違いによることに気付き,自分の
読書感想に付加・修正・強化をし
ている。
B
一人一人の感じ方の違いに気付く
ため,自分との相違点を明らかに
しながら交流し,自分の読書感想
に付加・修正・強化をしている。
C
B基準を満たしていない。
人数
(30人中)
6人
23人
1人
Aの例
わたしは,「百枚のドレス」を読んで,いじめがあっても美
しい絵で見返したところが心に響きました。わたしにも体の
ことで傷つくことを言われた経験があります。ワンダがいじ
めに負けなかったように,わたしも,自分ががんばることで
気にしないようにしたり見返したりしようと思ってがんば
ってきました。だから,とても共感できたのです。
同じ作品を読んでいる友達と比べると,一人一人経験が違う
ので,いじめられたところだけではなくて,努力を続けてい
るところなど,読んでいるところも違うと分かりました。こ
れからも自分の経験と比べて本を読んでいきたいです。
Bの例
「ピトゥスの動物園」を読んで,Aさんと,心に響いたとこ
ろは似ています。大事な友達を守りたいというタネットの気
持ちです。理由は,病気のピトゥスの治療費のために動物園
を開こうと提案しているからです。特に,動物園の園長や動
物学者にお願いをしに行って本当に動物園を開くのが友達
思いだと思いました。でも,Aさんとは経験が違って,ぼく
は,入院している友達に,みんなでお小遣いを出して本をプ
レゼントして喜ばれたことがあります。この本を読んで,そ
の友達のことを思い出して会いたくなりました。
(6) 考察
ア
単元を貫く言語活動の設定
○
読書感想マンションで感想を交流する活動を位置付けたことで,児童は,常に友達の読書感
想と比較ができ,一人一人の感想の違いに気付くことにつながった。
イ
読書活動の位置付け
○ 「同年代の登場人物が出てくる」
「自分と関連付けやすいテーマ」「気持ちの変化がとらえや
すい」の3点から,並行読書を位置付けたことで,自分の経験と関連付けた読書感想をまとめ
させることができた。
ウ
○
関連付ける活動の工夫
並行読書する際,感想の根拠を青色,自分の経験との関連を桃色の付箋で叙述に貼らせた。
そうすることで,感想交流の際,文章を読み返し,根拠として叙述を示したり,登場人物の言
動と自分の経験を関連付けながら感想を述べたりする姿が見られた。
○
ボードを活用したグループ交流では,相違点に着目させたことで,児童は,感想の違いが経
験の違いから生まれることに気付き,読書感想を付加・修正・強化する姿や自分の経験を関連
付けて読書するよさを今後の読書活動に生かそうとする姿が見られた。
●
どの児童も作品と自分の経験を関連付けることができるように,読書経験や生活経験の個人
差を補う支援を検討していく必要がある。
国-16
4
関係付けて読む場を設定した小学校第6学年の指導
「朗読マスター」になって,宮沢賢治作品についての自分の思いや考えを朗読で表現しよう
教材文「イーハトーヴの夢」
「やまなし」 並行読書「注文の多い料理店」「どんぐりと山猫」
(1) 単元目標
○ 宮沢賢治作品の登場人物の心情や場面についての描写をとらえ,自分の思いや考えが伝わる
ように朗読することができる。
(
「C読むこと」ア)
○ 朗読で表現するために,
「イーハトーヴの夢」に描かれた宮沢賢治の考え方や生き方と「やま
なし」や他の宮沢賢治作品を関係付けて読むことができる。
(
「C読むこと」イ)
○
登場人物の心情や場面について描写を基に,それぞれの宮沢賢治作品がどんな世界を表して
いるのかについて,自分の思いや考えをまとめることができる。
(
「C読むこと」エ)
(2) 単元についての考え方
○ 設定した言語活動とその特徴
本単元を貫く言語活動として「朗読マスターへの道」という活動を仕組み,自分の思いや考
えが伝わるように朗読で表現することを位置付けた。この「朗読マスターへの道」とは,
「イー
ハトーヴの夢」から分かる宮沢賢治データ,
「やまなし」に描かれている二枚の幻灯の世界観,
他の宮沢賢治作品の世界観,自分の朗読の工夫とで構成されたプリントを使って進めていく活
動である。
○ 関係付けて読む場の設定
本単元においては,
「イーハトーヴの夢」に描かれた宮沢賢治の考え方や生き方と「やまなし」
や他の宮沢賢治作品を関係付けて読む場を設定している。そのことによって,宮沢賢治作品に
ついての自分の思いや考えをまとめることができると考える。
「朗読マスター」になって,宮沢賢治作品についての自分の思いや考えを朗読で表現しよう
第一次
第二次
○モデルの朗読を
聞く。
○単元のめあて
○学習計画
資料-21 ペアで朗読している様子
第三次
○「イーハトーヴの夢」を読んで, ○宮沢賢治
宮沢賢治データをまとめる。
作品を読
○「やまなし」を読んで,朗読す
んで,朗読
る。
する。
並行読書(「注文の多い料理店」「どんぐりと山猫」など)
読む目的の明確化
図-4
教材文の読み
読む目的の達成
単元を貫く言語活動を位置付けた単元構想図
(3) 評価規準
国語への関心・意欲・態度
①
朗読マスターになって自
分の思いや考えを朗読で伝
えるという目的をもって,教
材文や他の宮沢賢治作品を
読もうとしている。
読む能力
②
「やまなし」や他の宮沢賢治作品についての
自分の思いや考えが伝わるように朗読してい
る。
③ 「イーハトーヴの夢」と「やまなし」を関係
付けたり,
「やまなし」と他の宮沢賢治作品を関
係付けたりしながら読み,共通点や相違点に気
付いている。
④ 「イーハトーヴの夢」と「やまなし」の二枚
の幻灯を関係付けながら読み,登場人物の心情
や場面についての描写をとらえている。
国-17
言語についての知識・理解・技能
⑤ 宮沢賢治作品における比喩
などの表現の工夫に気付き,
本や文章を読んでいる。
(4) 学習指導計画(全8時間)
次
時
1
主な学習活動と内容
関係付けて読む活動
1 「音読」と「朗読」の違いを話し合い,単元のめあて
をつくる。
(1) 「やまなし」の朗読をする。
(2) 「やまなし」の朗読のモデルを聞いて,単元のめあ
てをつくる。
○指導上の留意点
評価
※交流活動の工夫
規準
○ 今までの学習を想起しながら ①
「音読」と「朗読」の違いを考
えさせる。
○ 朗読モデルのよさを感じ取ら
せ,学習への必要感をもたせる。
【単元のめあて】
宮沢賢治作品を読んで,自分の思いや考えを表現できる朗読マスターになり,朗読をしよう。
2
第
一
次
【学習計画】
①
「イーハトーヴの夢」を読んで,宮沢賢治データをまとめる。
○ 宮沢賢治の人物像が分かる叙述に線を引き,ウェビングマップにまとめる。
○ 宮沢賢治の人物像を交流する。
② 宮沢賢治データを基に「やまなし」がどんな世界を表しているのかを読み取り,朗読する。
○ あらすじをまとめ,文章構成をとらえる。
○ 「五月」のかにの親子の心情や場面についての描写を読み,朗読の仕方を工夫する。
○ 「十二月」のかにの親子の心情や場面についての描写を読み,朗読の仕方を工夫する。
③ 宮沢賢治データや「やまなし」の朗読の工夫を基に,他の宮沢賢治作品の朗読をする。
○ 宮沢賢治作品の朗読の仕方を工夫する。
○ 朗読を交流する。
2
3
第
二
次
学習計画を立てる。
4
5
3
「イーハトーヴの夢」を読んで,宮沢賢治データをま
とめる。
(1) 「イーハトーヴの夢」を読んで,宮沢賢治の人物像が
表れている叙述を書きまとめる。
(2) 宮沢賢治の人物像をウェビングマップにまとめる。
(3) ウェビングマップを交流する。
4 宮沢賢治データを基に,
「やまなし」がどんな世界を表
しているかを読み取り,朗読する。
(1) あらすじをまとめ,文章構成をとらえる。
ウェビングマップの交流で
は,どの叙述からどんな人物像
が読み取れたのかを発表させ,
考えを比較・分類させることで
共通点・相違点をまとめ,自分
のマップを付加・修正させる。
○ いつ・どこで・だれが・何を
する話なのか(4W)を考えさ
せ,前書きと後書きにはさまれ
た「五月」と「十二月」がある
という文章構成をつかませる。
(2) 「五月」の世界観が一番表れていると思った部分の
※ 「五月」の交流の際には,
「イ
朗読の工夫をする。
ーハトーヴの夢」と「五月」を
○ 「五月」がどんな世界を表しているのかを読み取る。
関係付けさせ,共通点を小見出
○ 「五月」の読みを基に,朗読を工夫する。
しにまとめ,小見出しから考え
をつくりあげるようにする。
※ 「十二月」の交流の際には,
「イ
(3) 「十二月」の世界観が一番表れていると思った部分の
ーハトーヴの夢」と「五月」と
朗読の工夫をする。
「十二月」を関係付けさせ,共
○ 「十二月」がどんな世界を表しているのかを読み取
通点を小見出しにまとめ,小見
る。
出しから考えをつくりあげるよ
○ 「十二月」の読みを基に,朗読を工夫する。
うにする。
5
6
7
第
三
次
8
宮沢賢治データや「やまなし」の朗読の工夫を基に,
自分が選択した宮沢賢治作品の朗読をする。
(1) 自分が選択した宮沢賢治作品の登場人物の心情や場
面についての描写からどんな世界が表されているのか
を読み取り,その世界観が一番表れていると思った部分
の朗読の工夫をする。
(2) 朗読をビデオに録画し,他小学校の6年生と
交流する。
【単元後】
○ 朗読交流を行い,その朗読のよさを伝え合う。
国-18
※
※
選んだ宮沢賢治作品と「イー
ハトーヴの夢」や「やまなし」
を関係付けさせ,作品がどんな
世界を表しているのか,共通点
を小見出しにまとめ,小見出し
から考えをつくりあげるように
する。
○ 朗読の工夫では,どの部分か
らどんな考えが生まれ,それを
どのように表現しようと思った
かを述べさせるようにする。
①
①
② ③
④ ⑤
② ③
④ ⑤
① ②
⑤
(5) 指導の実際
①
○
第二次(関係付けて読む 5/8)
本時は,
「十二月」がどんな世界を表しているのかについて「イーハトーヴの夢」や「五月」
と関係付けて読み取り,自分の思いや考えを朗読で表現することをねらいとした。
○
前時までに,
「五月」と「十二月」のどちらを朗読で表現し
たいかという問いに対して,児童はそのどちらかを選択して
資料-22 関係付けた根拠の付箋
次
いる。しかし,
「理由はよく分からない」というように考えの
根拠をもてていない児童が 34%にのぼった。朗読するために
は,自分の思いや考えをもたなければ朗読できない。ここか
ら,自分の思いや考えを明確にするために「五月」と「十二
月」がどんな世界を表しているのかを読み取る必要感をもた
せた。
○
本時のめあては,
「
『十二月』がどんな世界を表しているの
かを読み取り,朗読で表現しよう。
」である。
まず,付箋に自分の考えを書き込ませた。その際,考えを
つくるために用意した学習プリントは,根拠として「イーハ
トーヴの夢」や「五月」と関係付けやすいような構成にし,
学習プリントと板書の構成も揃えた。その結果,資料-22 の
ように 67%の児童が「イーハトーヴの夢」と「五月」を関係
「十二月」と「イーハトーヴの夢」
を関係付けながら自分の考えを
生み出している。
付けて自分の考えを書きまとめることができた。
次に,それぞれの考えをグループで交流させた。ここでは,資料-23 のように,ボードを使
ってそれぞれの考えを可視化した。その結果,児童は,互いの考えを比較し,共通点から小見
出しをつくることができた。さらに,小見出しを基にグループの考えをつくらせることによっ
て,個人の考えは「楽しみを見つける世界」から「恐怖をのりこえて幸せに変えていく世界」
といったように変容していった。
その後の全体交流では,グループ
交流でできた一つのグループの考え
資料-23 思考を可視化したグループ交流のボード
次
を土台として取り上げ,全体に向け
て発表させた。他のグループは自分
たちのグループの考えと比較し,違
いを見付け,土台のグループの考え
小見出しを基に,
「十二月」はどん
な世界かについ
てグループの考
えをつくりあげ
ている。
互いの付箋を比
較し,共通点を
基に分類し,小
見出しをつけて
いる。
に対して付加・修正していった。資
料-24 は,全体交流後の板書である。
全体交流の中で,他のグループの付
加・修正によって,一つのグループの考えには出されなかった「イーハトーヴの夢」や「五月」
が,考えの根拠に付け加えられた。
最後に,本時で深めた考えを朗読で表現する活動を行わせた。その際,学習プリントには「十
二月」がどんな世界でそれをどんな朗読の工夫につなげたいかを書かせるようにした。資料-
25 は,A児の本時前と本時後の考えの変容である。
国-19
資料-24 「十二月」がどんな世界を表しているのかを話し合った第5時の板書
次
資料-25 A児の本時前と本時後の「十二月」に対する考えの変容
私は,十二月が読みたいです。どんな
私は,十二月が読みたいと思いました。十二月は五月に起きた恐怖があ
世界かは分からないけど,かにの兄弟
ってもその中から幸せを見付け,賢治がめざした希望をもつ世界を描い
の話が楽しそうだからです。だから,
ていると思えたからです。朗読では,
「三匹はぼかぼか流れていく~」の
朗読では楽しく読もうと思います。
部分を幸せそうに優しくゆっくり読みたいと思います。
「十二月」の世界観について自分の考えはもて
「五月」と「イーハトーヴの夢」の叙述を関係付けて自分の考え
ていない。朗読の工夫は「楽しそうだから」と
をまとめることができている。朗読も「幸せ」を表現するために
いう理由から「楽しく」読むにつなげている。
「優しくゆっくり」読むという工夫につなげている。
A児は,はじめ,
「十二月」がどんな世界か自分の考えをもつことができなかった。朗読の工
夫についても,
「かにの兄弟の話が楽しそうだから」というように,
「イーハトーヴの夢」や「五
月」と関係付けることはできていなかった。しかし,付箋を用いたグループ交流,全体交流を
通して,互いの考えを可視化し,
「イーハトーヴの夢」と「五月」を関係付けて,
「十二月」の
読みや朗読の工夫を書きまとめることができた。クラス全体でも,付箋の書き込みの際には,
「イーハトーヴの夢」と「五月」を関係付けながら考えをまとめていた児童が 67%であったの
に対し,全体交流後には 96%の児童が「イーハトーヴの夢」と「五月」を関係付けながら「十
二月」の世界観を読み,その読みを基に朗読を工夫することができた。
②
第二次(関係付けて読む 6/8)
○
資料-26 本時(6/8)のワークシート
本時は,宮沢賢治作品「どん
・
ど
ん
な
世
界
か
ぐりと山猫」がどんな世界を表
しているのか,
「イーハトーヴの
夢」と関係付けて読み取り,自
青
色
の
付
せ
ん
・黄
叙 根色
述 拠の
と付
なせ
るん
分の思いや考えを朗読で表現す
ることをねらいとした。
○ 本時のめあては,
「
『どんぐり
と山猫』がどんな世界を表して
いるのか読み取り,朗読で表現
しよう。
」である。
「
や
ま
な
し
」
で
と
ら
え
た
世
界
と
朗
読
の
仕
方
「イーハトーヴの夢」の叙述
まず,「どんぐりと山猫」がどん
な世界を表しているのか自分の考えをつくり,付箋に書かせた。青色の付箋にはどんな世界を
表しているかを,黄色の付箋にはその根拠となる叙述を,
「どんぐりと山猫」と「イーハトーヴ
国-20
の夢」から探して書かせた。その際,学習プリントには,
「イーハトーヴの夢」の叙述を位置付
け,関係付けて読むことができるようにした(資料-26)。その結果,児童は,これまでの学習
を踏まえ,叙述を基に作品の表す世界観を考えることができた。しかし,この時点で,「どんぐ
りと山猫」と「イーハトー
資料-27 グループ交流のボード
ヴの夢」の両方から自分
小見出しを基に,優先
順位を決め,
「どんぐり
の考えをつくっていた児
と山猫」がどんな世界
童は 25%だった。
を表しているか考えを
グループ交流では,そ
つくり上げている。
れぞれの考えの共通点と
相違点から,どんな世界
互いの付箋を比較し,
を表しているか,叙述を
共通点を基に分類し,
根拠に話し合わせ,グル
小見出しを付けてい
ープの考えをつくらせた。
る。
その際,ボード上で付箋
を動かすことで,それぞれの考えを分類したり優先順位をつけたりするなど,個人やグループ
の考えを可視化した(資料-27)
。その結果,児童は,それぞれの考えを比較し,共通点から小
見出しを付けることができた。さらに,小見出しを基にグループの考えをつくりあげる際に,
「どんぐりと山猫」と「イーハトーヴの夢」を関係付けた考えを聞くことによって,個人の考
えは「ふしぎな世界」
「うれしい世界」から「
『やまなし』よりも平和で人間,動物,植物が平
等に協力し合っている世界」というように変容していった。この時点で,
「どんぐりと山猫」と
「イーハトーヴの夢」を関係付けて読んでいたグループは5つで,全体の 63%である。
全体交流では,グループ交流を生かしながら「
『どんぐりと山猫』がどんな世界を表している
のか」考えを深めることができるように,「どんぐりと山猫」
「イーハトーヴの夢」の両方の叙
述を根拠としているグループを土台として発表させた。そして,自分のグループの考えと比較
し,質問・意見・付け加えを行うようにした(資料-28)
。
資料-28 全体交流の TC 記録(一部)
C1:(土台班)6班の考えは,「生き物が助け合っている世界」です。理由は,1ページの5行目の「栗の木,栗
の木,
・・・」栗の木に助けを求めているところとか,宮沢賢治の「イーハトーヴの夢」に,
「人間も動物も植物
も互いに心が通い合う世界が賢治の夢だった」と書いてあったからです。
(質問・意見・付け加えに向けての相談タイム)
T:6班の考えに質問や意見,付け加えやアドバイスはありますか。
C2(アドバイス)6班は「生き物が助け合っている世界」と言っていましたが,ぼくたちは「心を通わす」の方
がいいと思います。理由は生き物たちが心を通わせないと助け合うこともできないし,「イーハトーヴの夢」でも
「心を通わせる世界」と書いてあるので,そう考えました。
C3:C2に付け加えで,一郎がキノコとかの植物にどこに行ったのか聞いて,キノコはそれに返事をしています。
一郎は植物と心が通い合っているから話ができると思います。
C4:ぼくたちの班では,「平和」ということが出てきたんですけど,「やまなし」も「イーハトーヴの夢」も平和じ
ゃないところがありました。でも,これ(
「どんぐりと山猫」
)はけんかぐらいで裁判を起こせる,そんなちっぽ
けなことで裁判が起きるってことは,大きな事件などがないということなので,「平和」を付け足したらいいと
思います(資料3のグループの発言)
。
実線:グループの考え,波線:教材文と作品を関係付けた発言,二重線:関係付けた上での解釈
その結果,全体交流を通してそれぞれのグループの考えの共通点や相違点から意見や付け加
えが出され,
「イーハトーヴの夢」
「やまなし」
「どんぐりと山猫」を関係付けて読み,
「どんぐ
国-21
りと山猫」がどんな世界を表しているかについて自分の考えを深めることができた。
最後に,本時で深めた考えを朗読で表現する活動を行った。その際,学習プリントには「ど
んぐりと山猫」がどんな世界を表していて,それをどんな朗読の工夫につなげたいかを書かせ
るようにした。資料-29 は,B児の本時のはじめの考えと全体交流後の考えの変容である。
資料-29 B 児の本時のはじめと全体交流後の考えの変容
どんな世界か:不思議な世界
その根拠:ふつうはしゃべらない生き物
などがしゃべっているから。
ぼくは,
「どんぐりと山猫」は,人間・動物・植物が心を通わせ
ている世界を表していると思いました。朗読では,一郎がリスや
滝,きのこなどに道を尋ねている部分を,心が通じ合っているこ
とが分かるように,明るくはっきりと読みたいと思います。
B児は,はじめ「どんぐりと山猫」は「不思議な世界」を表していると考えていて,
「イーハ
トーヴの夢」と関係付けて読んでいなかった。しかし,グループ交流や全体交流で互いの考え
を可視化したことで「イーハトーヴの夢」と「どんぐりと山猫」を関係付けて読み,自分の考
えを深め,その考えを基に朗読を工夫することができた。
(6) 考察
ア 単元を貫く言語活動の設定
○
児童は,自分の朗読とモデルの朗読を聞き比べることによって朗読の工夫に気付き,自分の
思いや考えを朗読で表現したいという目的をもつことができた。そして目的達成のために,意
欲的に教材文を読み,宮沢賢治作品に対する自分の思いや考えを朗読の工夫につなげることが
できた。
イ 読書活動の位置付け
○
「イーハトーヴの夢」と「やまなし」の学習と並行して,「どんぐりと山猫」
「注文の多い料
理店」の読書活動を位置付けたことによって,
「イーハトーヴの夢」から読み取った宮沢賢治の
考え方や生き方を「やまなし」
「どんぐりと山猫」
「注文の多い料理店」の読みにつなげること
ができた。また,
「やまなし」の場面描写に関する読みを「どんぐりと山猫」
「注文の多い料理
店」の読みにつなげることもできた。
ウ 関係付ける活動の工夫
○
「やまなし」と2つの並行読書作品について,自分の考えを形成する際,どちらの学習プリ
ントにも「イーハトーヴの夢」から分かる宮沢賢治の考え方や生き方と「やまなし」から読み
取った内容を配置し,作者の考え方や生き方と作品を関係付けたり,作品と作品を関係付けた
りして読むようにしたことで,児童の考えの広がりや深まりが見られた。
○
全体交流では,土台グループの考えと自分たちのグループの考えを比較し,土台グループの
考えに付加・修正させることで,
さらに自分の考えを広げたり深めたりすることにつながった。
● 付箋に考えと根拠の叙述を書かせたため,解釈が不十分な児童が見られた。叙述を基に,ど
のように解釈して自分の考えをつくったのかを明確にさせる手立てが必要であった。
国-22
第Ⅲ章 研究のまとめ
1
研究の成果と課題
(1) 研究の成果
ア
○
単元を貫く言語活動の設定
単元を貫く言語活動を設定するにあたって,読む力の習得・活用や,考えや感想の表出を考
慮した上で,
「友だちブックを作る」
「読書会をする」「読書感想交流会をする」「朗読をする」
といった単元を貫く言語活動を設定した。そのことにより,児童が目的をもって主体的に本や
文章を読み進め,考えや感想を交流する姿が見られた。
イ
○
読書活動の位置付け
教材文と読書作品を関係付けて読んだり,自分の知識や経験と関連付けて読んだりすること
ができるように,意図的に選書を行い,並行読書を位置付けた。そのことにより,教材文と読
書作品をつないだり比べたりして読む姿や,自分の知識や経験とつないだり比べたりして読む
姿,考えや感想を広げたり深めたりしながら読む目的を達成する姿が見られた。
ウ
○
関係付ける・関連付ける活動の工夫
考えや感想を形成する活動の工夫
関係付けて読む・関連付けて読む視点を明確にした上で,付箋の書き方を掲示したり,学習
プリントを工夫したりして書く活動を取り入れたことにより,一人一人が自分の考えや感想を
形成することができた。
○
考えや感想を交流する活動の工夫
グループ交流の際に,付箋やボードを活用して,互いの考えや感想を比較・分類させたこと
により,児童が互いの考えや感想の違いに気付いたり,違いを基に自分の考えや感想を深めた
りすることができた。また,グループ交流から全体交流へと展開する際に,意図的に土台とな
るグループを選び,そのグループの発表を基に全体交流を行った。その中で,児童は,土台と
なったグループの発表に質問したり付け加えをしたりしながら,自分の考えや感想を付加・修
正・強化することができた。
(2) 今後の課題
●
関連付けて読む活動を行う際に,登場人物の言動や出来事と関連付ける知識や経験が十分で
ない児童の姿が見られた。児童の知識や経験の実態に応じた関連付ける読みの在り方について
検討していく必要がある。
国-23
2
研究の意義と課題
(研究指導者 河野 智文)
学習指導要領「読むこと」の,「文学的な文章の解釈に関する指導事項」における,「場面の様子」
(1・2学年)
「場面の移り変わり」
(3・4学年)
「登場人物の相互関係」
(5・6学年)や,
「説明的
な文章の解釈に関する指導事項」における,
「段落相互の関係」「事実と意見との関係」
(3・4学年)
にみられるように,部分から全体へと視野を広げることや,全体を俯瞰する視点から個々の要素の関
係をとらえることは,学習者の発達の指標のひとつとなる。これは,
「脱中心化」
(ピアジェ)などの,
発達心理学が明らかにしてきたこととも符合する。
『教育課程企画特別部会
論点整理』
(中央教育審議会・初等中等教育分科会・教育課程部会・教育
課程企画特別部会 平成 27 年 8 月 26 日)では,
「個々の事実に関する知識を習得することだけが学
習の最終的な目的ではなく,新たに獲得した知識が既存の知識と関連付けられたり組み合わされたり
していく過程で,様々な場面で活用される基本的な概念等として体系化されながら身に付いていくと
いうことが重要である。技能についても同様に,獲得した個別の技能が関連付けられ,様々な場面で
活用される複雑な方法として身に付き熟達していくということが重要であり,
こうした視点に立てば,
長期的な視野で学習を組み立てていくことが極めて重要となる」
(8 ページ)と述べられている。
また,同資料では「学習への深いアプローチと浅いアプローチの特徴」が示され(195 ページ)
,
「浅
いアプローチ」が「コースを知識と関連づけないこと」であるのに対して,
「これまで持っていた知識
や経験に考えを関連づけること」が「深いアプローチ」であるとされている。
さらに「特定の課題に関する調査(論理的な思考)」(国立教育政策研究所が高等学校第2年次を対
象として平成 24 年 2 月に実施)で設定された6つの「論理的に思考する過程での活動」のひとつは,
「事象の関係性について洞察する(資料に提示されている事象が,論理的にどのような関係にあるの
かを見極める)
」であった(196 ページ)
。
このように,
「関係付ける・関連付ける」力の育成は,発達の特性に即した普遍的な意義をもち,か
つ,これから求められる学習のあり方や育成すべき思考力へも,直接に関わっていく課題である。
(1)観点を明確に
AとBを関係付けるとき,その両者がただ結び付けられるのではなく,
「AはBと『どのような点で』
関係している」のかが,はっきりと意識されていなければならない。
(これは,本研究室が取り組んだ
「比較(平成 22 年度)
」や「分類(平成 23 年度)
」の研究においても明らかになったことである)
たとえば並行読書の場合,関係付けの観点が「同じ作者だから」
「同じシリーズだから」のようなも
のでは漠然としすぎている。内容や表現に即して具体化された観点での関係付けが求められる。
そのためには,内容理解が的確になされている必要がある。作者やシリーズ,概括的な題材のレベ
ルだと,内容をよく読まなくてもすんでしまう関係付けしかできない。この教材でこそ可能になる,
そして細部まで読み深めないと設定できないような関係付けの観点を考え,学習者にも意識させるよ
うにしたい。
(とくに「端的」にするために,人物像や状況を「短く」表現させることには,一定の有
効性が認められた)
(2)関係付ける必然性
関係付けることは,思考力の育成にとって必要なことではあるが,学習者から自然な要求として起
国-24
こってくるものとはいいがたい。そのため,はじめは教師が促すことになるが,次第に学習者から,
「関係付けてみてはどうか」と声があがるようにしていきたい。
そのためには,まず,関係付けることが必然性をもつ学習場面をつくることである。関係付けなけ
れば,すなわち,単一のものを対象としているだけでは学習が進まない,深まらない,という状況に
学習者が置かれるような仕掛けをする,ということである。学習のゴールを明確にして,そこに至る
学習活動・言語活動に必然性をもたせる,いわゆる「単元を貫く言語活動」の考え方をふまえて学習
を構成していくことが,有効な方法のひとつとなる。
つぎに,関係付けると深まった,おもしろく読めたという肯定的な体験を重ねていくことである。
たとえば,作者の生き方や考え方について述べられた資料と関係付けると理解が深まった,というも
のや,設定や構成が対比的・類比的な作品と関係付けると,それぞれの特徴が明確になった,という
ようなものである。そうした感想をもたせるためには,関係付けたことの意義や意味を自覚させるこ
とが必要になるわけで,この点においても学習の振り返りが重要になる。
(3)往復する指導過程
関係付けてよかった,と感じられるのは,関係付ける前は理解できなかったことが,関係付けてみ
ると解決した,という場面である。それは,まず教材Aを読み,難解であったり漠然としていたりす
る点が問題として自覚され,その解決のために,資料Bとの関係付けが有効に機能した(問題が解決
した)ということである。そのときの学習の流れは,教材Aから資料Bへ,そしてもういちど教材A
へ,という往復の線をたどることになる。現状では,第二次(共通教材)から第三次(個別の資料)
への展開が「AからBへ」の一方通行になっているものが少なくなく,そのため,教材Aをしっかり
とすみずみまで,疑問を残さないようにして学習しないと,Bとの関係付けには進めない,というよ
うな学習展開になってしまうことがある。
教材Aを読んで意識された問題は,Aだけを読む時間の中で解決される必要はない。資料Bから得
られたことを生かして,Aで生じた問題が解きほぐされる,ということ,つまり,AからBへ,そし
てもういちどAへという学習の流れをとることで,関係付けることの意味や意義を,学習者に実感さ
せるのである。
(4)他者との協働
他の学習者の「読み」との関係付けも重要である。これまでも「読み」を広げるための交流は活用
されてきたが,それに加えて,論理的思考力育成の観点からも,学習者相互の交流は意義深い。
関係付け,さらには論理的思考力すべての基礎となるのが比較で,具体的には,自分と他者の共通
点と相違点を明らかにするところから始まる。付箋やカードを用いて,それぞれの考えが端的に把握
され,移動などの操作可能な状態にあることが望ましい。関係付けを目的にする場合は,付箋の記述
はあまり長すぎない方が,接点が明確に把握されやすい。ボードや付箋を用いた交流は,はじめは煩
雑だが,いちど定着すれば他教科等でも活用できるものとなる。操作方法は固定しておき,繰り返し
によって,次第に迷わず取り組めるようにしたい。
(一般的には,学習内容は多様に設定し,学習方法
は固定したものを繰り返すのがよいと思われる)
ボード上での付箋操作は,口頭のみの話し合いよりも交流のスピードは遅くなるが,各自の「読み」
が関係付けられる過程が可視化されることで,思考の過程が「外化」されることになる。交流に限ら
国-25
ず,学習の進め方や思考の筋道を可視化して「外化」することで,理解や定着が深まるだけでなく,
他の学習場面への活用も容易になる。
交流による学習には,協働性の伸長も期待される。知恵を出し合うことのよさが実感されやすいの
は,全員で目的(解決すべき問題)を共有している場面であろう。この点からも,学習のゴールを明
確にし,主体的・自律的・協働的に学習が進められていくことが望ましい。
(5)自己省察
教材文と自己とのつながりを意識することを,本研究では「関連付け」としている。
「他人の話だと思って読み始めたら,いつの間にか自分のことを考えていた」というのが,文学の
読みの特長のひとつで,
「自己省察」は,教材文の「仕掛け」に沿って読み進めることで,自然に起き
ることだともいえる。この点が不十分な場合は,問いや活動を教師が設定し,はたらきかけていくこ
とで,関連付けを促していくことになる。
関連付けの課題はむしろ,読みの行為としては自然に,内的に起きている自己省察を,学習者に意
識化・自覚化させるところにある。話す,書くなどの表現活動によって,内的なものが引き出されて
自身にも対象化される。それは,終末段階の感想(文)によってなされることが多いが,読み深めの
過程でも,読みの根拠として,叙述をふまえることのみにとどまらず,関連付けが活用されるように
して,各自の経験や価値観が投じられた深い読みとその交流を実現させていきたい。ただし,教訓を
引き出すような読みのまとめや,単なる反省にとどまらないように留意しておく必要がある。
個人のレベルでの関連付けの豊かさは,本人の知識や経験の量によるところが大きい(しかし,当
然ながら,教材文や「読み」の形成のすべてが学習者の生活経験や既有知識の範囲内でなされるので
はなく,そこを超えるものにふれさせることも学習の重要な意義である)。さまざまな体験や読書によ
って,関連付けの根拠となる自身のものの見方・考え方を豊かなものにしておくことと,それを根拠
として活用できるように記憶・定着・言語化させておくことも大切にしていきたい。
(このことは,学
習に先行して,あるいは導入の段階で関連図書を読んでおくことの有効性も示唆している)
(6)客観視と相対化
関係付けにせよ,関連付けにせよ,その特徴のひとつは,対象を複数にすることにある。複数にな
ると,今まで唯一の対象として読んでいた教材や自分の読みが相対化される。これしかない,と思っ
ていたものが客観視され,その偏りや浅さに気づくことになる。正誤や優劣というよりは,より広い
読みや,より豊かなイメージの可能性を知ることにつながるだろう。
そして,それまで絶対だと思っていた自分の考えが,多様なもののひとつとして再認識され,自分
の考えと同じように他者の考えを尊重し,他者の考えを,異論としてではなく,未知の魅力あるもの
として肯定的に受け入れられるようになる。それが,異質な考えをもつ他者への寛容さと,自分の考
えに対する謙虚さを生み出すことになることを期待している。
実際には,
「関係付け『ない』
」で学習指導が展開されていることは,ほぼないといってよい。つま
り「関係付け」は,授業の至るところで,すでにおこなわれている。問題はそれが気づかずになされ
ている点にある。だとすれば,本研究の意義は,関係付け・関連付けによって伸ばすことのできる力
を教師が的確に把握しつつ,意図的・計画的に学習指導の文脈に設定し,学習者にもその方法や価値
を自覚させるところにあるといえる。
国-26
資料等
引用文献
1
国立教育政策研究所 教育課程の編成に関する基礎的研究報告書5 P85
2
福岡市教育委員会
(平成 25 年)
平成 26 年度 全国学力・学習状況調査の結果について(概要)P10,11
(平成 26 年)
3
関西大学初等部
思考ツール 関大初等部式思考力育成法実践編
さくら社(平成 25 年)
4
田村学 黒上晴夫
教育技術 MOOK 考えるってこういうことか!「思考ツール」の授業
小学館(平成 25 年)
参考文献・参考資料
1
文部科学省
小学校学習指導要領解説
国語編
東洋館出版社(平成 20 年)
2
文部科学省
言語活動の充実に関する指導事例集 小学校版
3
吉田新一郎
「読む力」はこうしてつける
4
国立教育政策研究所 評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料 (平成 23 年)
5
国立教育政策研究所教育課程センター
教育出版(平成 22 年)
新評論(平成 22 年)
平成 26 年度 全国学力・学習状況調査 解説資料 小学校国語
(平成 26 年)
6
国立教育政策研究所教育課程センター
平成 27 年度 全国学力・学習状況調査 解説資料 小学校国語
(平成 27 年)
研修員
志 方 納 子
(七隈小学校教諭)
東
大 村 拓 也
(月隈小学校教諭)
楢
久 門 誠 治
(当仁小学校教諭)
研究指導者
河 野 智 文
(福岡教育大学教授)
楢 尾 好 民
(研修・研究係長)
国-27
真
史
(平 尾 小 学 校 教 諭)
﨑 公美子
(愛宕浜小学校教諭)
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