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放牧の環境影響,多面的機能,家畜福祉及び経済的評価

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放牧の環境影響,多面的機能,家畜福祉及び経済的評価
放牧の展開に向けて-都府県で放牧を推進するための提言畜産草地研究所資料(平 16-11) 2005 年 3 月 (抜粋)
(注)本報告書は第二期の中期計画(2006年∼)に向けて、今後の放牧研究のあり方について旧放
牧管理部、旧山地畜産研究部、旧草地生態部が検討した結果をまとめたものです。その内の草地の多面
的機能研究にかかわる部分を抜粋して掲載しました。
第Ⅳ章 放牧の環境影響,多面的機能,家畜福祉及び経済的評価
1.放牧を支える研究
2)環境影響評価と多面的機能に係わる研究
近年企業の社会的責任(CSR, Corporate Social Responsibility)が重視されるようになり,利潤追
求だけでなく,環境対策などの社会的貢献もその企業や製品に対する消費者の評価や選択基準になって
きている。農業またその一員である畜産業も環境に対する配慮なしに生産を行うことは出来ない時代に
なっている。2004 年 11 月には家畜排泄物の適正管理や利用促進に関する法律をはじめとして,いわゆ
る環境三法が施行されている。新しい食料・農業・農村基本法でも環境・資源保全は,担い手育成,経
営安定政策と並んで政策の主要な柱の一つに据えられている(農林水産省 2005)
。農業としての放牧は
草地生態系を利用しているため,環境に対する負荷や汚染と言った負の面を持つだけでなく,景観や自
然を保全するという正の面も併せ持っている(環境に対する二面性)
。放牧は環境に対して窒素やリン
の負荷を与えたり,病原菌で水を汚染したり,病害虫の発生源になる可能性がある。これらの負の要因
は「汚染者負担の原則」や環境意識の浸透により放牧の継続を困難にする。一方放牧を行うことにより,
美しい農村景観・草地景観の提供(Ⅳ-3.-1)参照)
,生物や生態系の保全(Ⅳ-3.-2)参照)
,土壌
や水の保全(Ⅳ-3.-3)と4)参照)
,さらに炭素やメタンの吸収源として温暖化防止(Ⅳ-3.-5)
参照)にも貢献できる(農業・農村の公益的機能)
。一般国民や消費者も農業に対してこうした公益的
機能,とりわけ生物・生態系・景観保全機能や水資源保全機能を重視している(図1,吉田 1998)
。こ
れからの放牧にはこうした環境に対する負の効果を回避し,一方多面的機能で代表される正の効果を向
上させることが求められ,これに関する研究が必要である。
日本の草地は以前は国土面積の1割程度を占めていたと言われるが,有畜農業の衰退や農村の近代化
などにより里山を構成していた草地などが消失し,現在では3%程度にまで減少している。また火入れ
や放牧の衰退で管理の行き届かない草地も増えている。これらの草地には草地に依存した固有の生物が
多数生息しているが(高橋・中越 1999;井村・時 2004;時・井村 2004:Tsukada et al.2004)
,草地の
衰退と共に多くの草原性の植物や動物が減少や絶滅の道を歩んでいる。放牧はこれらの生物種を保全す
ることにも貢献出来るはずだが,家畜の生産と多様性保全の整合性のある放牧管理手法についての具体
的な研究はほとんど未着手である(井村・時 2004;時・井村 2004:Tsukada et al.2004)
。
温暖化防止の枠組みを決める京都議定書が発効し,我が国は温室効果ガス排出量を 2008∼2012 年の間
に 1990 年比で 6%削減することが義務付けられている。世界の草地生態系の土壌炭素蓄積量は 200∼300
ギガトンと推定され,その量は森林生態系に匹敵すると言われる(小泉ら 2000)
。地球温暖化防止のた
めにも草地を維持することは欠かせない。我が国の放牧草地における温室効果ガス(二酸化炭素,メタ
ン,亜酸化窒素など)の収支を科学的に明らかにする研究が必要である。草地の収支がマイナスと評価
されれば次期枠組みで削減率に貢献することも可能であろう。
我が国では,サルモネラ菌,O-157,BSE,無認可添加物,鳥インフルエンザなど畜産物をめぐる
問題が続発し,消費者の畜産物に対する安全性の要求が高まっている。世界的にも安全な食品と環境に
優しい農業を求める動きとして有機食品の市場規模が拡大している(松木・松永 2004)
。EU の共通農
業政策では,生物多様性の保全や環境保護と食の安全性を重視する方向を明確に打ち出すようになった
(嘉田 1990)
。米国も 1990 年農業法以来,有機農業への政策転換が進んでいる(中村 1992)
。こうした
動きから,2001 年の FAO/WHO の合同食品規格部会(CODEX)による有機畜産のガイドラインでは,生物
多様性の保全や家畜福祉(Ⅳ-4.)参照)は有機畜産において考慮すべき要件となっている(FAO/WHO
2001)。
0.2
重要度
0.15
0.1
0.05
他
の
そ
防
止
浄
化
壌
浸
食
土
大
気
浄
化
水
質
涵
養
水
保
全
景
観
生
物
・生
態
系
保
全
0
図1 一般市民アンケートによる農業・農村の公益機能別重要度(吉田 1998 より作成)
中山間地の衰退の要因の一つに獣害が挙げられる。獣害を防ぐために耕作放棄地に家畜を放して荒れ
地をなくすことが提案されており(江口 2001)
,獣害防除からの放牧研究が必要である(Ⅳ-3.-2)
参照)
。
3)総合的評価
国産の畜産物は価格だけから見ると輸入畜産物に対して割高であることは否めない(図2)
。品質や
安全性は価格に反映出来るが,放牧の持つ生物・環境・水資源・景観保全などの多面的機能(環境便益)
は価格には直接反映されない(外部経済)
。これらの農業の公益的機能を直接支払い制度で補填する政
策が新農政で実施されるが,財政支援のためには放牧の持つ多面的機能と環境に与える負の効果(外部
不経済)を総合的に評価する研究が求められる(Ⅳ-5.参照)
。環境を経済的に評価する様々な方法が
これまでに開発されている(ジョン・ディクソンら 1991)
。
600
通常価格
500
特売価格
円/100g
400
300
200
100
0
国産(和牛)
国産(その他)
豪州
米国
図2. 牛かた肉の国産および輸入肉の価格比較(平 9 年∼13 年平均).
放牧は環境を保全しながら持続的に人類に食料を供給する未来産業である。それには放牧が環境に貢
献するための研究を蓄積していく必要がある。
引用文献
江口祐輔(2001)イノシシの行動と能力を知る. 高橋春成編. イノシシと人間. 古今書院, 東京,
p 171-199
井村 治・時 坤(2004)草原性チョウ類から見た草地の生物多様性保全の問題点. 農業および園芸
79:352-357.
Joint FAO/WHO Food Standards Programme Codex Alimentarius Commission (2001) Guidelines for the
production,
processing,
labeling
and
marketing
of
organically
produced
foods.
<http://www.codexalimentarius.net/standard_list.asp>
ジョン-ディクソン・リチャード-カーペンター・ルイーズ-ファロン・ポール-シャーマン・スパチット
-マノピモク(長谷川弘訳)
(1991)環境はいくらか. 築地書館,東京,p 1-142
嘉田良平(1990)環境保全と持続的農業. 家の光協会,東京,p 1-262
小泉 博・大黒俊哉・鞠子 茂(2000)草原・砂漠の生態. 共立出版,東京,p 1-250
松木洋一・松永美希(編著)
(2004)日本とEUの有機畜産. 農文協,東京,p 1-305
中村耕三(1992)アメリカの有機農業. 家の光協会,東京,p 1-231
農 林 水 産 省 ( 2005 ) 新 た な 食 料 ・ 農 業 ・ 農 村 基 本 計 画 策 定 に 向 け て .
<
http://www.maff.go.jp/keikaku/index.html>
時 坤・井村 治(2004)草地における鳥類の多様性保全. 畜産の研究 58:457-461
高橋佳孝・中越信和(1999)ヒトがつくりあげた日本の草地. 遺伝 53(10)
:16-17
Tsukada, H., T. Imura, M. Sutoh, T. Kosako and M. Fukasawa (2004) Small mammal fauna of public
pastures in northern Tochigi, Japan. Grassland Science 50: 329-335
吉田謙太郎(1998)農山村の保健休養機能の経済的評価. 農林水産省,国土庁,環境庁,日本学術会
議関係研究連絡委員会(監修). 農業・農村と環境. 養賢堂,東京,p 74-79
(井村 治)
3.放牧の多面的機能の評価
1)景観の保全,保健休養機能
(1)これまでの取り組み
広々とした草地で家畜がゆったりと草を噛む景観は,多くの牧場来訪者がその来訪目的とする重要な
要素であると考えられ,近年のふれあい牧場の増加は,このことを如実に示している(日本草地畜産協
会 1997)。ふれあい牧場としての機能を付加するかしないかに関わらず,草地とくに放牧地をもつ牧場
のほとんどには,都市住民にとって価値のある草地資源をはじめからもっているといっても過言ではな
い。それを利用するかしないかは,経営者の判断にゆだねられるが,潜在的な景観資源は公共の資源と
して生かすべきであるという意識も重要であろう。
草地景観によって来訪者の気分が爽快になることが,牧場や周辺地域の活性化にどれほど役に立つの
かは,正確な数値に直すことができない(日本草地畜産協会 1999)が,夏の暑い日に家族や知人とど
こかに行こうと思った時に,その候補地として想起されれば,それだけで社会的な価値が1つ認められ
たことになり,ある程度の経済効果も期待できる。
以上のような潜在的な草地資源の中から,来訪者にとっても意味のある,魅力的な景観資源としてそ
の機能を十分に発揮させるためには,あらかじめ十分に調査および評価する必要がある。そこで,どの
ような方法が適用できるかについて,まず拠点となる領域の選定基準について,次に個別の景観の改善
方策について以下に述べる。
・拠点領域の設定
草地景観を来訪者に効果的に提供するためには,来訪者の移動経路を結ぶ動線と,草地に存在する景
観資源を有機的に結びつける必要がある。来訪者は多くの場合,自家用車やバスを利用して来訪するの
で,外部道路から場内道路を経由して駐車場で下車することになる。下車するまでに,ある程度の草地
景観を提供できれば,来訪者の期待に添うことになる可能性が高い。したがって,来訪者を迎え入れる
ために牧場の全体を変更する必要はない。実際に,長期滞在する場合を除けば,広大な牧場のすべての
機能を来訪者が享受することは不可能に近い。牧場全体としてふれあい牧場である場合でも,売店や食
堂などの拠点となるゾーンが必要であり,そのゾーンの選定基準として草地景観の質は重要な意味を持
つ。したがって駐車スペースや広場など,最初に立ち寄る場所が拠点となり,その場所周辺で良好な草
地景観を眺望できるようにする必要がある。そのための指標として,草地の広がりと奥行き(菅野ら
1998),見晴らし(山本ら 1996; 佐々木ら 1998),景観内草地面積・景観内土地利用多様性・景観内地形
多様性(佐々木ら 1999)などが利用できる。放牧による遠景(山)−中景(草地)−近景(家畜)の組み
合わせが重要である。
・景観の改善
草地景観を提供するための拠点が定まっても,周辺に既存の施設がある場合には,景観シミュレーシ
ョン画像と実際に見える景観が異なる。このような場合には,特定の地点からの景観が問題となること
が多いので,景観を部分的に改善するためにフォトモンタージュによる事前評価を用いることができる
(堀ら 1997; 佐々木 2000)。この手法は,近年ではパーソナルコンピュータによって容易になったため広
く用いられているが,そもそもは加納ら(1988)による事前評価が先駆的事例である。この事例では,建
物や牧柵の好まれる形状や色を決定する際に,他の景観構成要素の条件を同一にする必要があったため,
フォトモンタージュにより評価対象物だけを入れ替えて評価した。本稿で扱うのは,現状の写真を用い,
これをどのように変更するとどのような景観となるかを事前に確認する目的で用いる。基本的には「雑
然」を「整然」に変えることを考え,悪い印象を与える物に対しては,移動できる場合には片付け,で
きない場合には色を変えてみるとか,樹木等で隠すことで対処できる。全体を隠せない場合には,人工
構造物の縦の直線を樹木に置き換えるようにする。
(2)研究の方向性
・基本的視点
環境保全が保障されずには畜産業は成立しない。またその中の草地である以上,優先順位は①環境保
全 ②生産 ③景観となる。これを踏まえて景観評価・改善を図る必要がある。経営として成立すれば,
畜産業だけで生活していかなくてもよい。農地が荒廃して放棄林(雑木林)にならないように,草地と
して一定レベルの生産量を維持することが大切である。そのためには過去の生産追求型では無理がある。
放牧には草地管理を兼ねるメリットがある。
牧場来訪者の来訪目的が多様化・高度化してきている。畜産をとりまくさまざまな問題への対応とし
て,消費者主導の国民に畜産現場を公開・説明し,理解してもらう必要がある。同じことをしていても,
その場の雰囲気がいいか悪いかで,来訪者のとらえ方は大きく異なる。印象の悪い物については,きち
んと説明する必要がある。
・今後の方向
牧場のふれあい機能を積極的に提供する牧場として,
「ふれあい牧場協議会」の会員約 50 牧場,
「地
域交流牧場全国連絡会」の会員約 200 牧場があり,さまざまなサービスを提供している。一方,近年「体
験」に対する需要が高まっている(中央畜産会 2005)。表1は体験を提供する牧場に,その目的を回答し
てもらった結果で,
「家畜や自然とのふれあい」が最も多い。
表1.牧場側からみた体験活動の目的(中央畜産会 2005).
家畜や
生産者
生産現場 いのちの
自然との
食の学習
との
の学習
学習
ふれあい
ふれあい
件数
114
85
52
88
57
割合(%)
66
49
30
51
33
その他
11
6
計
407
有効回答数 173 牧場,複数回答可
ところが現実には,体験項目の多くは,乳搾りやバター作りなど,牛舎や室内での体験となっている。
ふれあい機能を提供している牧場すべてが放牧を行っているわけではないが,放牧地での体験項目とい
ってもなかなか思いつかない。放牧地が提供するふれあい機能として,単に牧場で散策したりのんびり
するだけではなく,最近需要の高まっている「体験」に対して何らかの対応が必要であると思われる。
また,放牧とは関係ない,観光だけを目的とする牧場との差別化も図っていく必要がある。
これまでのふれあい牧場では,駐車場があり,駐車場を中心として歩ける範囲に施設が集中していた。
そのため,放牧家畜を見たくても近くに放牧されていないか,いても見せ物として数頭いるだけの場合
が多い。シバ草地の定置放牧なら可能だが,それでも放牧頭数が少なくなってしまう。まず始めに「牛
を見に来たのにどこにどうやって行けばいいのかわからない」という来訪者の希望をかなえることを考
える。これまでは遊歩道の設置が考えられたが,放牧しているところまで駐車場からどれだけ遠いかわ
からない(日によって違う)ため,有効利用されているとはいえない。
以上のことから,徒歩だけでなく,自転車,自動車,マイクロバス等による巡回体験コースの設定に
ついて,検討する余地がある。業務上支障の出ない範囲でこれを実現するにはどうするか。来訪者を放
牧地に導いてから,何をどのように体験してもらうかについても検討課題である。
引用文献
堀 繁・斎藤 馨・下村彰男・香川隆英(1997)フォレストスケープ.全国林業改良普及協会, p 1-191
菅野 勉・福山正隆・奥 俊樹・長町三生・千枝健一(1998)樹林帯で囲まれた草地の大きさと広がり
感との関係.日草誌 44: 177-178
加納春平・前野休明・鈴木慎二郎(1988)保養機能向上のための牧場の設計と配置.国土資源報告書(第
4集): 63-66
佐々木寛幸・柴田昇平・吉田信威(1998)草地における展望施設の配置計画決定支援システムの開発 1.
被視頻度を用いた景観評価サブシステムの開発とその適用性の検討.日草誌 44: 142-147
佐々木寛幸・小路 敦(1999)草地における展望施設の配置計画決定支援システムの開発 3.景観多様
性評価のための機能の追加と市販ソフトウェアの同時利用による Windows95 版システムの高度化.日
草誌 45: 82-87
佐々木寛幸(2000)景観評価に基づく草地計画法.関草研 24(1): 17-20
山本由紀代・須山哲男・小路 敦(1996)地理情報システムを用いた地形解析による景観評価 1.景観
解折のための地図データベースの構築とその適用.日草誌 42: 260-266
(社)中央畜産会(2005)畜産ふれあい体験交流施設の生産加工体験実態調査報告書.p1-41.
(財)日本草地畜産協会 (1997) ふれあい牧場整備の手引. p 1-127
(財)日本草地畜産協会 (1999) ふれあい牧場と地域活性化効果. p 1-80
(佐々木寛幸)
2)生物多様性保全機能(獣害防止含む)
(1) 生物多様性の重要性
生物多様性とは,遺伝子,種,群集,生態系のそれぞれの階層において多様な生き物が存在している
ことを表し,人間を含むすべての生き物が現状を維持する上で無視できない重要な概念と位置づけられ
る。わが国は地球サミットで採択された「生物多様性条約」を 1993 年に批准し,1995 年に国内法とし
て「生物多様性国家戦略」を策定後,2002 年には「新・生物多様性国家戦略」へと改訂している。そこ
では,1)地域固有の生物多様性の保全,2)絶滅の回避,3)持続的な利用が,主たる目標として掲
げられている(環境省自然環境局 2002)
。農林水産省でも「食料・農業・農村基本法」の下で環境保全
型農業を推進し,農業と生物多様性との調和に向けた取り組みが行われている。したがって,放牧が生
物多様性に及ぼす影響について研究を進める必要がある。
(2) 放牧と生物多様性との係わり
わが国は温暖湿潤な気候から森林が極相群落となり,一部の地域を除いて自然草原が成立しない。そ
のため,わが国の草地の大半は放牧,採草,火入れといった人為的要因によって維持されてきた。一般
に非平衡状態にある生物群集では,中程度の攪乱により種の多様性が高まると理論的に予測されており
(中規模攪乱説:Connell 1978),適度な放牧は実際に採食,踏みつけ,排糞などを通じ,草地の生物多
様性に正の効果をもたらす(Collins et al. 1998; Takahashi and Naito 2001)
。ただし,過度の放牧は多くの生
物相や環境に負の効果を生むため(Fleischner 1994; White et al. 2000; 山本 2001b)
,放牧圧のバランスは生
物多様性を維持する上で重要である。
(3) 放牧地(草地)における生物多様性の現状
長期に渡って維持されてきた草原環境は様々な動植物の生息地となり(口絵 11 参照)
,わが国の生物
多様性を形成する上で重要な役割を果たしてきた。半自然草地の代表的な植生として,ススキ,ササ,
ネザサ,シバ型草地が挙げられる(西村ら 2001)
。これらの植生には,地域や利用法によって異なる多
様な随伴種が出現する。また,放牧により保全できる稀少植物種もいくつか報告されている(内藤・高
橋 2002)
。
近年,これらの草原性植物の存続が危ぶまれつつある。近畿地域,神奈川県,愛知県の地域ごとのレ
ッドデータを草地,森林や海浜などの生息環境毎に比較した研究では,13-15%を草地性の植物が占めて
おり,草地において絶滅の高危険度種の割合が生息環境別の平均よりも高いことが示された(藤井 1999)
。
草地性植物の減少に関わる原因としては,生息環境の住宅地への改変,中山間地での耕作放棄に伴う草
地の減少などが考えられている。
動物については,チョウ,鳥,などで草地性の種における生息状況の悪化が指摘されている。わが国
原産のチョウ類 236 種のうち 97 種(41.4%)が草原や草地的環境を利用する草原性の種に分類されるが,
これらの種の中には絶滅が危ぶまれているものもあり,環境省のレッドリストに掲載されたチョウの内,
草原性の種は 62.9%を占める(井村・時 2004)
。チョウ類の減少を招いた要因には,既存草地の改廃と
不十分な管理や放棄,野草地(半自然草地)の人工草地化などが挙げられる。わが国の草地には 13 目
26 科 86 種の鳥類が生息するが,これはわが国全土に生息する鳥の 22%を占め,このうち 7 目 14 科 37
種については草地で繁殖する(時・井村 2004)
。さらに,主な草原性鳥類 10 種のうち,6 種が国および
25 都道府県のレッドデータにリストアップされ,とくにオオセッカとシマアオジは分布が限られている
ためにその存続が危ぶまれている(時・井村 2004)
。一方,わが国原産の哺乳類の中で草原に適応した
と考えられる種はカヤネズミやハタネズミなど少数だが,草地を生息地の一部に含む種は全体の半数程
度を占める(塚田 2004)
。カヤネズミについては,16 都府県でレッドデータの記載種にリストアップさ
れ,主要な生息環境の悪化が指摘されている(全国カヤネズミ・ネットワーク 2002)
。
(4) 草地の荒廃・林地化,獣害の増加
わが国における社会・経済構造の急激な変化は,わが国の景観にも大きな変化を及ぼし,戦前には国
土の約 10%を占めていたと考えられる草原的景観(荒れ地として分類される)が,今日では約 3%程度
にまで大きく減少した(小路 1999)
。明治期の古地図を解析した研究から,その当時,平野部の農業地
帯の 21%を草地が占めており(スプレイグ 2003)
,草地は林地とともに自給肥料の供給地として利用さ
れていたと考えられる(スプレイグら 2000)
。ところが,1950 年代を境に里地のランドスケープ構造が
大きく変化し,採草等によって維持・管理されてきた草地が管理放棄による遷移の進行や植林によって
林地化し,その面積が大きく減少した(山本 2001a)
。同様の傾向は,東北地域(氷見山・本松 1994)
,
島根県三瓶山地域(小路ら 1995)
,埼玉県内の丘陵地や低山地域(田村 1994)
,大阪平野南部地域(山戸
ら 2001)などのよりミクロな地域レベルでも認められる。
さらに近年では,上述した里山管理の変化(自然林の人工林化,里山利用の減少,耕作放棄地の発生
など)を背景に,野生動物の生息域と人の生活圏とを分かつ緩衝地帯として里山の機能が弱まり,耕作
放棄地を中心としてサルやイノシシなどによる利用が進み,
獣害発生の温床と化している
(寺本 1994; 千
田ら 2002)
。環境省による分布調査では,主たる加害種であるサル,イノシシ,シカのいずれの動物に
おいても 20 年前と比較して分布域が拡大している(自然環境研究センター2004)
。
(5) 生物多様性保全に向けての課題
① 問題の抽出
草地の生物多様性の現状を考えると,実態把握と保全対策の策定をできるだけ速やかに行う必要があ
る。わが国は多様な環境から成るため,環境毎に実態把握が必要であり,そのためのモニタリングには
多大な労力を要する。このことから,特定の種や分類群で全体を代表させる,特定の環境要素の組み合
わせで代表させるなど,より簡便な多様性モニタリングの手法開発が必要である(Duelli and Obrist 2003)
。
多様性の評価には様々な方法があり,これらと併せて草地性の各生物群に適した方法の開発が望まれる。
一方,草地の利用法と多様性との関係についてはいくつかの研究が行われているが,それらの多くは短
期的な観測によるものであり,長期的な変化には不明な点も多い(坂上 2001;内藤・高橋 2002)
。したが
って,多様性の長期観測の継続および体制の強化が望まれる。
② 具体的保全手法に関わる研究
放牧を用いた半自然草地の保全について,研究あるいは実際の取り組みが行われつつあり(内藤・高
橋 2002),さらなる継続および発展が望まれる。また,放牧圧やその時期,畜種あるいは家畜の大きさ
などを含む草地管理法が,生物多様性に及ぼす影響については不明な点が多く(福田 2001; 山本 2001b;
Rook et al. 2004),解明されるべき課題と考えられる。一方,放牧のみによる草地管理では樹木の侵入を
制御することが困難であり(坂上 2001),長期的に半自然草地の維持するためには伐採や火入れなどを
行う必要がある(山内・高橋 2002)。したがって,半自然草地保全を目指した技術開発は,必ずしも放牧
だけでなく,採草や火入れおよびそれらと放牧の組み合わせを用いた手法の研究も必要である(大窪
2002; 津田ら 2002; 高橋 2004)。
中山間地の耕作放棄地で放牧する事により,獣害の回避,景観の改善,地域振興などに役立てる事が
できる(千田ら 2002; 上田 2003; 宮崎 2004)
。放牧導入の際に必要な放牧管理技術の基本要素は小規模移
動放牧用に開発されたものが応用可能と考えられる(山地畜産研究部山地畜産研究チーム 2002)。今後の
課題としては,放牧による獣害回避効果を対象種,実施場所等の条件を変えて検証し,普遍的獣害回避
技術として推奨をできるかをチェックすることが必要だろう。
草地の生物多様性は,草地以外の周辺環境との相互作用を通じて維持されている(Benton et al. 2003; 夏
原 2003)
。そのため,草地の生物多様性を良好に維持する上さらに広域の地理的スケールでの土地管理
システムを構築する必要がある。どの程度の地理的スケールが多様性の保全に重要か,どのような環境
要素を組み合わせるべきか,その配置や大きさどのようにデザインすべきか,保全生物学分野で研究さ
れてきた知見を応用し(鷲谷・矢原 1996; Pullin 2002)
,実地で検証していく必要がある。その際,GIS
を活用したモデル化やシミュレーションが有効であろう。
③ 生物多様性の社会・経済学的評価
生物多様性を保全する上で,行政からの制度的・資金的援助や NGO 等の社会的活動,さらには消費
者による賛助制度の利用などは重要な役割を果たす。これらの社会的・経済的活動を活性化する上で,
生物多様性自体の社会的・経済的価値を評価・提示することは重要である。例えば森林では野生鳥獣の
保護機能が代替法によって推定され,3 兆 7800 億円の評価額が提示されている(長崎屋 2001)
。また,
小路ら(1999)は仮想評価法(CVM)を用いて草地景観の経済評価を行っている。さらに寺脇(2002)
は,農業の生物多様性保全機能をアメニティ機能(景観形成機能とレクリエーション機会提供機能)
,
情操教育環境提供機能,生物資源保存機能に整理し,CVM 法の適用可能性を検討している。草地の生
物多様性に対しても同様の手法が適用できる。今後,それぞれの機能に対する実際の効果を評価するこ
とも視野に入れる必要がある。さらに,中山間地域生物多様性保全を直接支払い制度の対象とすること
を想定し,基準の根拠となるデータ収集に取り込む必要がある。
(Ⅳ-5.も参照のこと。
)
引用文献
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(塚田英晴・堤 道生)
3)水質浄化機能
放牧の有無にかかわらず草地の持つ水質浄化機能について述べる。
一般に植物が生育する土壌系に栄養塩類を含む汚水が施用されると,1)植物による吸収,2)土層での
物理的吸着,3)土層での生物的保持により汚水が土壌表面から地下方向へ浸透する過程や,表面を水平
方向に流去する間に,汚水の栄養塩類濃度は低下する。窒素についてはこのほかに 4)土層における脱
窒・土壌表面における揮散により,さらに低下する。
草地土壌のもつ窒素浄化機能についての実験例を紹介する。コンクリート製ライシメータ(面積 9m2,
試験開始1年目
1797mm
2年目
1663mm
3年目
1382mm
N250 区
N500 区
N1000 区
9/15
7/15
5/15
3/15
1/15
11/15
9/15
7/15
5/15
3/15
1/15
11/15
9/15
7/15
5/15
3/15
1/15
N1000 無植生
11/15
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
9/15
NO3 --N濃度(mgN・L-1 )
深さ 240cm)に黒ボク土を充填し,オーチャードグラスを栽培した(一部に
図1 浸透水の硝酸態窒素濃度と降水量
無植生区を併設)
。これに 250,500,1000kg/ha の窒素を重窒素で施用し,2年目以降は普通窒素で同量
の窒素施肥を繰り返しながら3年間の重窒素の追跡を行った。
地表から 240cm深に排出された浸透水の硝酸態窒素濃度は 1000kg区でのみ,窒素施用1年後から明ら
かな上昇がみられ,1000kg無植生区ではさらに著しく(図1)
,250 および 500kg区では2年目以降も
10mgL-1以下を維持した。
標識窒素の割合 (%)
50
試験開始1年目
2年目
3年目
40
N250区
30
N500区
N1000区
20
9/15
7/15
5/15
3/15
1/15
11/15
9/15
7/15
5/15
3/15
1/15
11/15
9/15
7/15
5/15
3/15
1/15
11/15
0
9/15
10
図2 浸透水の窒素に占める標識窒素の割合
単年施用した重窒素が浸透水中に溶出する割合は 1000kg 区で施用1年後から急激に上昇したが,500kg
区および 250kg 区では3年以内には上昇しなかった(図2)
。土壌中の硝酸態窒素量は 1000kg 区で全層
標識窒素量(gN m -2 )
にわたって高いが,500kg 区はそれに比べると非常に小さく,
0
5
10
15
250kg 区ではごくわずかしか検出されなかった。重窒
0-20
素はその多くが有機態となり,3年後においても表層
20-40
土壌に多く存在した(図3,表1)
。3年間で溶脱する
重窒素は 1000kg 区で 220kg を越えるが,500kg では
40-60
試験開始3年後(2004年)
0.15kg,250kg 区では 0.01kg である。施用量 500kg 以下
60-80
N250 区
では施用窒素の 8∼10%が土壌で除去されたと推察され
以上から牧草収奪,土壌吸着,土壌での窒素除去に
よる溶脱防止機能が有効にはたらくため,500kg/ha
以下では3年以内に浸透水に溶出することはないと
言える。しかし 1000kg/ha 条件では施用窒素の多く
土壌深 (cm)
る(表1)
。
80-100
N500 区
N1000 区
100-120
120-140
140-160
160-180
が下層に向けて溶脱する。
180-200
200-230
図3 重窒素の土層内分布(3年後)
この実験結果から言えることは,草地土壌においては植生の存在により浸透水の窒素濃度が確実に抑
制されていることである。その仕組みは植生の存在により植物吸収,土壌吸着とともに窒素の有機化と
脱窒による窒素除去が効果的に発揮されることである。ただし,上記実験の 500kg 施用区においてもす
でにオーチャードグラス植生自体が抑制されており,長期的な視点からみれば 500kg であっても浸透水
の窒素濃度を 10mgL-1 以下に保つことは困難と推定される。また,放牧地では不均一で不定期の窒素投
入が,しかも液体で行われるため,局所的に高い窒素圧条件が成立し,上記のような溶脱水窒素濃度低
減効果が発揮されにくいこともありうる。今後の検討課題である。
(寳示戸雅之)
4)土壌保全機能
「土壌保全」という用語は、厳密には土壌侵食などの物理的劣化、塩類集積などの化学
的劣化および生物学的劣化現象などの防止・抑制・修復を意味する。しかし一般的には、
土壌侵食の軽減・防止の意味で用いられることが多い。土壌侵食は、その動因によって雨
などの水により発現する水食、風による風食などに分けられるが、本項ではもっぱら「土
壌保全」の対象を水食すなわち水による土壌侵食に限定する。また、土壌保全に関わりの
深い水保全に関する内容も盛り込みながら論ずる。
累加保留量 F (mm)
(1)草地の土壌保全機能に関するこれまでの知見
200
①草地の水保全機能
カラマツ林
昭和 55 年から平成 2 年に実施された
牧草主体流域
150
F=R
ナシ主体流域
農地造成基礎諸元調査データ(日本農
タバコ・飼料畑流域
業土木総研 1991)をもとに、土地利用
100
形態と流域の雨水保留特性をまとめる
50
と、林地や牧草主体流域の雨水保留量
は、果樹園や普通畑流域のそれに比べ
0
極めて大きい。草地の雨水保留量は、
0
50
100
150
200
累加雨量 R
(mm)
林地における値とほぼ同様の傾向を示
図1 地 目 別 の 雨 水 保 留 量
し、草地は林地に匹敵するほどの雨水
(日本農業土木総研,1991より作成)
250
流出高 (mm/h)
50
貯留機能を有している(図1)。
降雨強度
裸地(無耕作)
59 mm/h
また、森脇(1983)は 15×4m のライシメータ
40
裸地(耕 作)
草地
(傾斜度 5 ゚、関東ローム)を用いて、人
73 mm/h
30
工降雨条件下での裸地と草地状態(スゲ、
66 mm/h
20
ヨモギ類;草高 0.7m)における降雨流出の
10
違いを検討した。その結果、不耕起裸地
0
の場合は降雨開始後急激に流出高が上昇
0
50
100
150
するのに対して、草地条件では表面流の
時 間 (min)
発生が遅く、流出高の上昇も緩やかであ
図2 各地表条件のハイドログラフ(森脇,1983)
ることが示された(図2)。このことは、
植物が繁茂した草地が降雨流出の遅延機能とピーク緩和機能を有することを示唆している。
②草地の土壌保全機能
草地における土壌侵食・流亡は降雨や雨水流の作用によって生じるため、草地の持つ土
壌保全機能は前述した水保全機能と密接に関係する。Mahmoudzadeh et al.(2002)および
Erskine et al.(2003)は、シドニー周辺の花崗岩および頁岩流域を対象に、林地から都市域ま
での各種土地利用形態と流域からの年平均流出土砂量の関係を示した。これらをまとめる
と、林地は土砂流出抑制機能が最も高い。牧草地と林内放牧地の機能はほぼ同等で、林地
に比べるとやや劣るが、普通畑や都市流域に比べると格段に高い(図3)。また、造成し
た農耕地を対象とした地目別の土砂流出量を見ると(藤田ら 1987)、牧草畑は、他の地目に
比べ土砂流出量が少なく、大規模な降雨においても土砂の流出が抑制されており、農耕地
の中では最も土壌保全機能が高い地目であることが明らかにされている(図4)。
これら以外にも、草地の持つ水・土保全機能の評価に関係する知見は多くある。それら
については山本(2004)が、また、山地傾斜草地の保全的管理については、加納ら(2004)が体
系的に整理しているので参照されたい。
100
8
7
6
5
4
3
2
1
0
土砂流出量 (m3/ha)
Mean anual sediment yield
(t/(ha・year))
牧草畑
ブドウ畑
Forest
Forest(grazing)
Pasture
Crop
Urban
Land use
図3 土地利用が花崗岩・頁岩流域の土砂流出に及ぼす影響
(Mahmoudzadeh et al. (2002),Erskine et al. (2003)をもとに作成)
タバコ畑
裸地
10
1
0.1
0
100
200
300
期間降雨量 (mm)
400
図4 期間降雨量と土砂流出量
の関係 (藤田ら,1987より作成)
(2)傾斜放牧草地における土壌保全機能低下の要因
放牧草地における土壌保全機能低下の要因としては、草地管理や家畜管理の不良などが
挙げられるが、大きな要因の一つとして家畜による草地面の踏圧現象が考えられる。家畜
踏圧は、表層土壌の緻密化、土壌硬度の増大および植生剥離による裸地化などを引き起こ
す原因となる。土壌の緻密化・硬度増加は、雨水の地中浸入能を低下させ、結果的に表面
流の発生を促進し、土壌侵食へのリスクを増加させる。これらの現象が放牧草地内で生起
するとすれば、放牧によって草地の土壌保全機能は、少なからず低下することとなる。牧
区において家畜を入退牧させる箇所の周辺部、牧柵沿いおよび飲水・休息場付近では、裸
地化が進行し、土壌侵食を誘発する大きな原因となる。また、牧区内に形成される牛道網
は、草地地形によっては雨水の集中化を招き、土壌保全機能を大幅に低下させる危険性を
有する。
(3)土壌保全機能の評価・維持・向上に関する今後の課題と研究の方向性
①草地における降雨流出量および土壌侵食・流亡量の評価技術
草地の土壌保全機能の評価ならびに機能の維持・向上技術を開発するためには、草地か
らの降雨流出量や土壌侵食・流亡量を的確に把握・評価する技術の確立が不可欠である。
前述のように、草地における降雨流出や土壌侵食に関する研究は国内外で多く行われ、
特に国外では、それらの定量的評価に関する研究蓄積が多い。草地からの降雨流出量につ
いては、これまで水文学的な検討が数多く行われてきたが、現状では現象を的確に予測・
評価するに至っていない。草地における土壌侵食量および土壌流亡量については、国内で
はその予測手法として従来 USLE(Universal Soil Loss Equation; Wischmeier et al. 1978)式が広
く用いられてきた。しかし USLE 式は、対象草地内での侵食土壌の堆積過程などが考慮さ
れていないため、中・大規模草地や草地流域からの土壌流亡量予測に利用することは不適
当である。
近 年 、 米 国 や 英 国 を 中 心 に 、 概 念 的 モ デ ル (conceptual model) や 物 理 的 モ デ ル
(physically-based model)と呼ば
表1 土壌侵食・流亡量予測のための概念的・
れるモデルが数多く開発されて
物理的モデルの一例(Jetten et al ., 2003より抜粋)
モ デ ル 名
開発者
いる。その一例を表 1 に示す。
Beasley et al . (1980)
ANSWERS Areal non-point source watershed
environmental response simulation
中でも WEPP モデルは代表的な
Chemicals, runoff and erosion from
CREAMS
Knisel (1991)
agricultural management systems
physically-based model である。こ
EROSION3D 3D erosion model
Schmidt et al . (1999)
EUROSEM European soil erosion model
Morgan et al . (1998)
のモデルは現在、世界的にその
KINEROS2 Kinematic runoff and erosion model
Smith et al . (1995)
WEPP
Water erosion prediction project
Flanagan et al . (2001)
適用性などが検討されている
が、データベースの使用限界や
予測精度の問題などが指摘されている。国内では最近、このモデル適用研究が始まったば
かりで、草地に対する適用事例はない。今後、これら既存モデルの放牧草地への適用性に
ついての検討が必要となろう。
physically-based model の利点は、降雨流出や土壌流亡過程を圃場内だけでなく流域レベル
でも追跡可能なことである。また、土壌保全策の物理モデルを開発し、モデルに組み込む
ことにより、単に対象領域の土壌流亡量などの評価だけでなく、最適な保全策を模索する
ための保全計画ツールを構築することも可能である。放牧草地の場合は、牧柵等各種施設
の配置、家畜の行動やそれに伴う植生・土壌への影響、またそれらが降雨・土壌流出に及
ぼす影響などをモデル化することにより、汎用性のある草地保全評価法が開発されると考
えられる。また、放牧草地からの降雨流出や土壌流亡は、家畜ふん尿由来の負荷流出と連
動する現象であり、いわゆる面源負荷の評価は、流域の環境保全上極めて重要な課題であ
る。現状では、まず負荷流出の実態・メカニズムの解明研究に取り組むことが重要である。
草地からの負荷流出の評価手法を開発し、それらを上記のモデルと組み合わせることによ
り、
草地流域における環境保全全般に渡る幅広いモデルへと進化させることも可能である。
今後、このような評価モデルの開発に向けての枠組みを早期に構築し、既存のモデルの適
用性等も検討しつつ、モデル要素となる個別現象の解明と評価手法の開発に関する研究を
進める必要がある。
②土壌保全機能の維持・向上技術
降雨流出・土壌侵食抑制技術については、主として普通畑を対象に、様々な農法的・工
学的保全技術が開発されている。これらは国外で開発されたものが大半で、国内ではこれ
らの内ほんの一部が導入されているにすぎない。工学的手法は土木的な対策であるため、
地目を問わず適用可能であるが、コストや導入に伴う営農障害などを勘案すると、草地に
導入できる技術には限界がある。農法的手法も一般に普通畑で用いられるものが多く、す
べてがそのまま草地に適用できるわけではない。したがって、放牧草地への各種保全技術
の適用性や放牧草地に適した新たな保全技術についての検討が必要である。
また、前述したように、放牧草地では家畜行動による土壌への影響が土壌保全上大きな
問題である。Greenwood et al.(2001)は、放牧が土壌特性や植生に与える影響に関する従来
の研究をレビューし、放牧に伴う悪影響を最小にする家畜管理に対する実用的指針開発の
重要性を示した。とくに土壌泥ねい化防止技術の開発が注目されており、今後の放牧地管
理技術に関する有益な情報である。また、Elliot et al.(2002)は家畜踏圧が草地面の土壌侵食
に及ぼす影響について、図 5 のような概念図によって現象の相互関係を示した。国内では、
放牧に伴う家畜踏圧が土壌や植生に与える影響の
解明や草地劣化対策に関連した研究が極めて少な
い。傾斜地を放牧利用する場面が多い我が国にと
って、
これらの研究を積極的に進める必要がある。
以上、いくつかの視点から土壌保全機能に関係
する今後の研究的課題を述べたが、ここに記述し
きれなかった研究問題も多く存在し、それらの解
決に向けた研究も不可欠である。
ここで述べた土壌保全機能に関わる単独・個別
踏圧の期間,時期,密度
傾斜,
地形
植生,裸地,
根群
土壌の剥離と堆積
土壌の受食性,排水
特性,粗度,輸送性
降
雨
流出
インタリル侵食に対する
踏圧の影響
の技術開発はむろん重要である。しかし、土壌保 図5 家畜踏圧がインタリル(リル間地)侵食
に及ぼす影響の概念図(Elliot et al. , 2002)
全機能の維持・向上技術の開発は、単に降雨流出
や土壌侵食を制御することで達成できるものではなく、草地管理、家畜飼養などの放牧管
理技術と土壌保全機能以外の環境保全機能との調和の中で総合的・システム的に検討され
る必要がある。
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(中尾誠司)
5)温暖化防止機能
(1)草地生態系におけるCO2のシンク・ソース機能
① CO2シンクとしての草地生態系の重要性
二酸化炭素(CO2)は,その地球温暖化への直接的な寄与度が産業革命以降の全世界における累積で
60%以上を占めており(環境省 2004),最も重要な温室効果ガスであると言える。1999 年現在の大気中CO2
濃度は 367ppmで,
産業革命以前の濃度(約 280ppm)の約 1.3 倍に増加した。
そして,
その濃度は年間 1.5ppm,
量にして 3.2Pg/yrの勢いで増加を続けていると推定されている。陸域生態系は現在のところCO2のシンク
となっており,その吸収量は 1.4Pg/yrと推定されている。しかし,森林伐採等の土地利用の変化がどの
程度CO2の吸収量に影響を及ぼすかについては不明な部分が多い(Prentice 2001)。
植物は大気から体内に取り込んだCO2を炭水化物に同化し,リターや根組織の脱落,あるいは根から
の滲出物を通じて土壌に炭素を蓄積している。草地においては,攪乱が小さいこと,植物残渣の還元量
が多いこと,根のバイオマス量が多いこと等の要因のために,土壌への炭素蓄積量が多いと言われてい
る。また,放牧地では,これらの要因に加えて放牧期間に糞尿の還元があることも土壌炭素量の増加に
貢献している(Rees et al. 2004)。
草地生態系は陸域生態系面積の 23∼36%を占めており,陸域生態系の炭素の 26∼40%が存在する
(Prentice 2001; White et al. 2000)と言われる重要な生態系である。しかし,草地生態系におけるCO2のシン
ク・ソースバランスに影響を及ぼす要因は様々であり,今後の土地利用や気候条件の変化がこのバラン
スにどのような影響を与えるかについては十分な知見が得られていない。
② 草地生態系におけるCO2フラックスおよび土壌炭素量に関する既往研究
草地生態系のCO2フラックスを渦相関法やボーエン比法等によって測定し,その結果を基に草地生態
系のCO2シンク・ソース機能を推定する試みが世界的に数多くなされている。これらの研究結果を見る
と,草地生態系はCO2のシンクとなっているという報告が多い(e.g. Smis and Bradford 2001)。しかし,草地
生態系はCO2のシンクにもソースにもなり得るという報告もあり,このシンク・ソースバランスは,降
雨の頻度(Hunt et al. 2002)やタイミング(Hunt et al. 2002; Xu et al. 2004),昼夜の気温較差(Gu et al. 2003)等に
左右されることが指摘されている。地表付近の地温や土壌水分量(Frank et al. 2002),降雨パターン(Knapp
et al. 2002)は草地の土壌呼吸量に影響を与えることが示されており,土壌呼吸量が草地のシンク・ソース
バランスに大きく影響を与えていると考えられる。
草地生態系のCO2シンク・ソース機能には人的な要因も大きく影響を及ぼしており,その要因として
は,施肥処理・機械による土壌の圧密・放牧等が挙げられる。
窒素(N)の不足している草地においては,N施肥を行うことによって牧草の生産量や水利用効率が向上
し,リター量の増加などによって土壌中への炭素蓄積量が増大することが示されている(Schuman et al.
2002)。また,N施肥によって土壌微生物の呼吸量が小さくなるという報告もある(Bardgett et al. 1999)。一
方で,化学肥料や堆肥の施用によって草地の土壌呼吸量が無施肥の場合の 1.6∼1.7 倍に増大するという
研究結果もある。しかし,この観測結果では草地のCO2フラックスは年次によって大きく異なっており,
この変動は土壌温度や降水量の影響によると述べられている(Jones et al. in press)。
Jensenら(1996)は,トラクタによる土壌の圧密によって永年草地における土壌からのCO2フラックスが
57∼69%減少することを示した。この原因は,土壌表層の通気性が減少するためと考えられている。
放牧を行うことで草地の土壌炭素量が増加するという結果が多数報告されている(e.g. Derner et al.
1997)。この要因としては,放牧による草地の生産性の増大と,それに伴う土壌への炭素蓄積能力の向上
が指摘されている(Conant et al. 2001)。Reeder ら(2002)は,長期にわたる放牧によって草地の土壌炭素量が
多くなること,さらに,放牧圧の高い草地で土壌炭素量が多くなることを示した。これは,放牧による
草種構成の変化(ルート・シュート比の高い草種の増加)と,それによって引き起こされる植物−土壌系
内の炭素分布の変化が原因であると述べられている。一方で,過放牧によって地上部および地下部バイ
オマス量の減少・土壌浸食・土壌炭素量の減少が引き起こされ,放牧を止めることで植生は急速に回復
するものの土壌炭素量の回復は遅いということが示されている(Yong-Zhong et al. 2005)。
図 1 草地造成後の土壌炭素量の変化 図 2 芝原分場の草地における深さ 50 ㎝
(桐田ら 1984)
までの土壌炭素貯留量(中神ら 2004)
図 3 地目別炭素含量の変動(中井 2003)
我が国の草地土壌中の炭素蓄積については,桐田らが家畜改良センター芝原分場において造成後の経
過年数の異なる草地の土壌中炭素含量を調べ,草地造成後数年を経て,炭素含量が増加に向かう傾向が
あることを示した(図1)
。しかし,その後 2002 年に同一草地の土壌中炭素含量を調査したが,同じ増
加傾向はみられなかった(図2)
。
一方,1979 年から 97 年にかけて農林水産省の補助事業として行われた,土壌環境基礎調査では,さ
まざまな地目の土壌について5年ごとの定点調査が実施された(中井 2003)
。この調査データについて,
地目ごとに土壌中の炭素含量を比較すると,草地では他の地目に比べ炭素含量が多く,かつ,調査年次
が進むにつれて増加する傾向が見られた(図3)
。本調査で草地とされた所は,調査時点の地目が草地
であったということであり,調査期間中草地として維持されてきたとは限らない。また,草地は腐植を
多く含む黒ボク土壌のところに多いという事情も考慮してこの結果を見る必要がある。
畜産草地研究所で家畜改良センター十勝牧場の草地土壌中の炭素含量を調査した結果では,隔離圃場
の枕地として頻繁に耕起されている部分では炭素含量が低く,牧草地では隣接する林地土壌と同様の炭
素含量があることがわかった(図4)
。耕起は土壌中の炭素含量を減らすが,永年草地として維持した
場合には草地土壌中に炭素が蓄積していくとみられるが,土壌中の炭素含量は土壌タイプによって大き
く異なること,同一圃場でも採取地点で土壌の様相が異なることから,さらに詳しい調査が必要である。
③ 今後の研究の必要性
世界的に見て草地生態系はCO2のシンクになっているという報告が多いものの,そのシンク・ソース
バランスは草地の管理法や気候条件に複雑に左右されている。我が国のように温暖湿潤な気候条件下の
草地におけるCO2のシンク・ソースバランスやその要因についてはまだ解明されていない部分が多く,
今後明らかにしていく必要がある。
Conant ら(2001)は,草地管理の改善が土壌炭素量に及ぼす影響についての温暖・湿潤な気候条件下の
データを含む 115 点の研究例のうち 76%で土壌炭素量が増加したことを示し,草地は管理法を改善する
ことでCO2のシンクになりうると述べている。我が国の草地生態系においても,放牧を含めた草地管理
がどのような物理的・化学的・生物的プロセスを経てCO2のシンク・ソースバランスに影響を及ぼすか
を明らかにすることで,より環境への負の影響が小さい放牧管理技術の構築が可能であると考えられる。
12,000
C g/m2/25cm
10,000
8,000
6,000
図 4 十勝牧場土壌炭素含量
4,000
2,000
0
T-1(攪 T-2(草
乱)
地)
T-3(草
地)
0-25cm
25-50cm
T-4(林
地)
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(松浦庄司・加納春平)
(2) 草地生態系におけるメタンのシンク・ソース機能
① 草地生態系におけるメタンフラックスの重要性
メタンは,二酸化炭素に次いで重要な温室効果ガスであり,現在の温暖化の 20%は,メタンに起因す
る。現在の大気メタン濃度は,約 1.8ppm であり,産業革命前の約 2 倍にまで上昇している(口絵 12 参
照)。メタンの発生量から吸収量を差し引いた大気への年間蓄積量は,22 Tg/yr と推定されている
(Ehhalt and Prather 2001)。一方,陸域生態系による大気メタンの年間吸収量は,38 Tg/yr と推定され
(Ridgwell et al. 1999),対流圏のヒドロキシラジカルによるメタン消去反応に次いで重要なメタンの
シンクである。草地生態系は,全陸域面積の 27%を占める重要な植生であるが,草地生態系において,
メタンの吸収を制御する要因に対する知見は十分に得られておらず,将来起こりうる土地利用や気候の
変化が,メタンの吸収に及ぼす影響も明らかにされていない。放牧の導入が,草地生態系によるメタン
の吸収に及ぼす影響も未解明である。
② 草地生態系におけるメタンフラックスに関する既往研究
トラクタによる土壌の圧密は,草地土壌のメタン吸収を低下させることが示された(Hansen et al.
1992)。この原因は,表層土壌の通気性が減少することにより,土壌中におけるメタンや酸素の拡散速
度が低下するためと考えられる。
土壌水分は,草地土壌のメタン吸収を変動させることが示された(Van den Pol-van Dasselaar et al.
1998)。この原因は,土壌水分の高まりとともに,土壌中のメタンや酸素の拡散速度が減少するためと
考えられる。また,極めて低い土壌水分条件では,土壌中のメタン酸化菌が低水分ストレスを受けるた
め,メタン吸収が低下する。
窒素施肥は,草地土壌のメタン吸収を低下させることが示された(Mosier et al. 1991; Ojima et al.
1993)。この原因は,メタンと分子の形状が類似するアンモニウムによるメタン酸化の阻害,アンモニ
ウムの硝化による亜硝酸生成や土壌酸性化によるメタン酸化菌の活性低下など複合的な要因に起因す
。
ると考えられている(Hütsch 2001)
堆肥施用やスラリー施用は,草地土壌のメタンフラックスに影響を及ぼさないことが示された
(Hütsch 1998, Glatzel and Stahr 2001)。この原因は,堆肥中のメタン酸化菌が草地土壌に接種され
たり,ルートマットによってスラリー由来の無機態窒素が迅速に吸収されたりすることにより,窒素添
加の影響を相殺したことによるのではないかと推定されているが,未解明の部分が多い。
草地土壌は,耕地土壌と比較して,メタン酸化菌数が多いとの報告もあるが,草地土壌中でメタン吸
収に実際に関与している土壌微生物は必ずしも明らかにされていない(Willison et al. 1997)。
③ 今後の研究の必要性
Schimel et al. (1993) は,土壌中のメタン酸化を制御する要因を図1,2のように提案している。
放牧は,踏圧による土壌物理性の変化,排泄物の還元様式の変化,草地植生の変化を介し,土壌の物理・
化学・生物性を変化させ,草地生態系における炭素や窒素の動態に大きな影響を及ぼす。草地生態系は,
好気的土壌と嫌気的土壌の境界領域に立地することが多いため,研究を進める上で,メタン生成とメタ
ン酸化の両者を考慮することも重要である。草地生態系におけるメタン吸収機能を放牧導入に伴う物質
フローや土壌の物理・化学・生物性の変化との関係から明らかにすることは,環境に配慮した放牧管理
技術を構築する上で重要な意義を持つ。
図 1 好気的土壌でメタン酸化を直接的,間接的に制御する要因の関係(Schimel et al.1993 より引用)
図 2 嫌気的土壌でメタン酸化を直接的,間接的に制御する要因の関係(Schimel et al.1993 より引用)
引用文献
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(森 昭憲)
5.放牧の多面的機能の経済的評価
農業が農産物生産機能以外に,国土保全機能や保健休養機能など,多くの多面的機能注 1)を有するこ
とは広く知られるようになっている。また,耕作放棄地の増加に代表されるように,農業生産の衰退に
伴い,この様な多面的機能が同時に失われていくことが危惧されている。この様な状況の中で,わが国
においても多面的機能の維持・保全を目的として様々な施策,事業が実施されるようになってきている。
この様な施策,事業を実施しようとする場合,施策,事業の実施に要する費用を上回る便益を得ること
が出来るかという点が注目され,費用便益分析などにより実施の意義・有効性が問われる注2)。また,
農業の衰退に伴い,多面的機能も同時に失われていくのであれば,市場開放が必ずしも経済厚生を高め
ない可能性があり,国際的な農業交渉の観点からも多面的機能の便益額が注目されるのである注3)。し
かしながら,多面的機能は,外部経済効果として発揮され,市場で取引されない非市場財であるため,
直接的に市場価格でその便益を評価することは困難であり,何らかの方法で多面的機能の持つ便益を貨
幣額で現すことが求められる。この様な状況と評価手法の発展により,近年,多くの多面的機能の経済
的評価が行われるようになってきている。
多面的機能の経済的評価手法には,代替法,トラベルコスト法,ヘドニック法,CVM(仮想市場評価法),
コンジョイント分析などがある(藤本 1998;浅野 1998;吉田 1996;吉田ら 1997;吉田 2003)。このう
ち,CVM,コンジョイント分析は,評価を行う際に費用,地価などの市場データを必用とせず,理論上
ほぼあらゆる財の評価が可能な点,オプション価値や存在価値などの非利用価値の評価が可能である点
など(藤本 1998;吉田 1996)により,多面的機能の経済的評価に多く用いられている。しかしながら,
アンケート調査などに基づいて評価を行うため様々なバイアスの影響も指摘(藤本 1998;浅野 1998;吉
田;1999;矢部ら 1999)されており,現状でも様々な試行錯誤が試みられている。
一般に農業生産は,その生産に伴い外部経済を発揮するとともに,外部不経済の発生源となる可能性
もある。この点に関連して,放牧のもたらす外部経済と外部不経済について整理しておく。一概に放牧
と言ってもその規模・方式は様々であり,もたらされる外部経済や外部不経済の効果の大きさも異なっ
てくると考えられる。まず,放牧のもたらす外部経済効果として最も理解しやすいのが,放牧を行うこ
とで維持される草地景観である。わが国の気候下においては,放牧の中止は,草地から林地への植生の
変化をもたらし,この植生の変化は草地景観の消滅につながる。また草地の消滅は,草地独自の生物多
様性を失うことにも繋がる。しかしながら,この様な草地としてイメージされるのは,阿蘇に代表され
るような広大な草地であり,水田放牧のような小規模な放牧では,草地景観や生物多様性によりもたら
される外部経済効果は小さなものになると考えられる。また,放牧地に家畜が存在することに由来する
家畜とのふれあいによる保健休養機能や教育機能なども放牧がもたらす主な外部経済効果としてあげ
られる。家畜との触れあいによりもたらされる効果は,大規模な放牧より水田放牧のような小規模な放
牧の方が,より身近に触れあえることもあり,同等の便益をもたらしている可能性も考えられる。
一方,外部不経済として考えられるのは,家畜糞尿による水質汚染や鳴き声,臭い,害虫の発生など
である。水質汚染については,水源や河川の近辺など地理的な条件も大きく影響すると考えられるが,
家畜飼養密度などに配慮することが求められる。鳴き声や臭い,害虫の発生への懸念は,大規模な放牧
地では,非常に小さなものと考えられるが,人の居住地に近い場所で行われる水田放牧などでは,負の
効果として顕在化する可能性も考えられ,多面的機能によってもたらされる便益を相殺しないような配
慮が必用である。
この様に,様々な環境の便益と損失の可能性が考えられる放牧であるが,これらの点に関連して幾つ
かの経済的評価が行われている。小路ら(1999)は,放牧により維持される島根県三瓶山の野草地景観
の評価を三瓶山への来訪者を対象に CVM を用いて行い,
年間1人当たり WTP(支払意志額)3673 円(中央値),
年額 23 億5百万円(中央値)と評価している。矢部(2001b)は,阿蘇草原の評価を東京都民を対象に CVM
を用いて行い,年間1世帯当たり WTP,1673 円(中位値)という評価結果を得ている。また,大橋ら(2002)
は,岩手県安比牧野の景観の評価を安比牧野への来訪者を対象に CVM を用いて行い,年間1人当たり WTP
を 1070 円(中央値)と評価している。
一方,出村ら(1998)により外部不経済の評価も行われている。放牧に直接的に関連するものではな
いが,酪農からの家畜糞尿の直接・間接的な影響と考えられている北海道東部の湖の水質汚染について,
汚染者と考えられる酪農家と被害者である漁家,一般住民について CVM を用いた評価を行い費用負担の
問題について検討している。結果は,最大の被害者である魚家の WTP(環境改善への費用負担支払意志額)
が一般住民の WTP を大きく上回っており,汚染者負担のみで考えるのではなく,受益者負担考慮の可能
性を示唆する結果となっている。
放牧の多面的機能などの経済的評価を試みた例は少なく,発展途上であると考えられるが,今後,事
例が蓄積されていくことで,放牧の多面的機能によりもたらされる便益が,より詳細に明らかにされて
いくことが期待される。
以上が,放牧の多面的機能の経済的評価の現状であるが,これまで無償で享受してきたこれらの機能
をより積極的に維持・発揮させるためには,何らかの費用負担が求められる。費用負担は,公的負担,
受益者負担,双方の併用の3つの方法が考えられる。具体的には,公的負担としては,環境維持助成金
注4)
,受益者負担としては,利用料,基金,農産物価格への上乗せなどがあげられる注5)。これらの負
担方法は,既に,わが国においても実施されている。環境維持助成金は,中山間地直接支払制度として
実施されているし,基金は,棚田基金(合田 2001)やサポーター制度(箱石 2002)として実施されており,
農産物価格への上乗せは,産直牛肉の購入(大滝 2002)などとして実施されている。しかしながら,こ
の様な取り組みが行われている事例は,まだ少数であり,費用負担システムの構築が望まれる。そのた
めには,放牧によりもたらされる多面的機能を,具体的に,よりわかりやすく,量的に示すことが求め
られている。
また,放牧を用いた大家畜畜産は,明らかに大きな生産コストの増加を伴う棚田などでの水稲生産と
は異なり,何れの方式においても放牧を用いない飼養方式より,大きな所得を得られる可能性を持つも
のである。従って,施策などによるに費用負担システムの構築とともに,主機能である家畜飼養面での
改善も期待され,この双方により放牧を用いた大家畜畜産が,維持・拡大されていくものと考えられる。
注1)多面的機能は,経済学的には,結合生産,外部性,公共財の3つの概念によって定義づけられる。
つまり,多面的機能は,農業生産に結合してもたらされ,市場で取引されないため価格がなく,非競合
性と非排除性のため,同時多数に,費用負担していない人も便益を消費出来るという特徴を持つ。
注2)吉田ら(1996)
;吉田(2004)参照。
注3)矢部(2000)
;坪田ら(1996)
;中嶋(2003)参照。
注4)矢部 (2001a) は,わが国の中山間地直接支払制度は,生産削減を要件としていない点で,欧米発
祥の環境支払いとは区別し,環境維持助成金と名付けている。
注5)費用負担の考え方については,矢部(2001a)参照。
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吉田謙太郎・木下順子・合田素行(1997) CVM による全国農林地の公益的機能評価.農業総合研究 51(1):
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(宮路広武)
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