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第1章
PSpice による OP アンプ回路設計 第1 章 PSpice によるOP アンプ回路設計の基礎 ∼シミュレーションを使いこなすためには自分でモデルを作成する∼ OP アンプ回路に限りませんが,回路シミュレーションの技を身につけておくと,実験 などに手間をかけず回路の細かい挙動を体感することができ,回路設計の効率を著しく向 上させることができます.しかし,シミュレーションをする前に知っておくべき重要なこ とは少なくありません. 1.1 ―理想 OP アンプと現実の OP アンプの違いを確認しておこう PSpice Lite CQ 版では,TORAGI ライブラリの中に理想 OP アンプ IDOPA が,EVAL ラ イブラリの中に汎用 OP アンプのμA741 *1 モデルが収録されています.はじめに,この 二つの OP アンプ・モデルを使い,理想 OP アンプと現実の OP アンプの違いを考察します. ● DC 解析でオフセット電圧と利得を調べる PSpice における DC 解析とは,直流電圧や直流電流を変化させて,そのときの出力変化 のようすを調べる解析です. 図 1 − 1(a)に示したのは,IDOPA と μA741 の二つの OP アンプ・モデルに負帰還 (NFB :ネガティブ・フィードバック)をかけないで,それぞれの出力変化を調べるため の回路です.図(b)が DC 解析結果です.入力信号を− 100 μV から+ 100 μV にスイープ したときの出力電圧の変化をシミュレーションしています. * 1 :最近の技術者にμA741 と言っても「?」という感じかもしれないが,シニア・エンジニアにはすぐ に汎用 OP アンプということがわかる.1960 年代後半に出現したフェアチャイルドセミコンダクター社のこ の IC は,位相補償回路を内蔵しており発振しにくいので,誰でも使える OP アンプとして一世を風靡した. OP アンプを汎用 IC にしてしまった有名な IC である. ふ う び このPDFは,CQ出版社発売の「PSpiceによるOPアンプ回路設計」の一部分の見本です. 内容・購入方法などにつきましては以下のホームページをご覧下さい. <http://shop.cqpub.co.jp/hanbai/books/36/36331.htm> 1.1 ― 理想 OP アンプと現実の OP アンプの違いを確認しておこう 31 IDOPA では,入力 0 V のとき出力も 0 V になっています.これに対してμA741 モデル では,入力 0 V のとき出力が 3.7858 V,出力 0 V のとき入力電圧が− 19.252 μV とずれて います.入力 0 V のときは出力も 0 V になるのが理想なのですが,現実の OP アンプはこ のようにずれています.出力が 0 V になるときの入力電圧のずれのことを入力オフセット 電圧と呼んでいます. μA741 の入力オフセット電圧の標準値は 1 m ∼ 2 mV 程度です.つまり,ここでの入力 オフセット電圧− 19.252 μV は良すぎる値にモデリングされています.一般に,OP アンプ の Spice モデルでは,入力オフセット電圧が標準値よりも良い値でモデリングされている ことが多いようです.これから出てくる他のパラメータも同様ですが,シミュレーション の際には,各パラメータがどのようにモデリングされているか確かめておくことが肝心で す. さて,図 1 − 1(b)のグラフの傾きを見ると,IDOPA では 10 μV の入力変化に対し,出力 が 10 V 変化していることがわかります.これより直流利得が 1,000,000 倍であることがわ かります.対してμA741 モデルでは,3.7858 V ÷ 19.252 μV ≒ 200,000 倍になっています. OP アンプの利得は無限大であることが理想なのですが,この IDOPA では無限大にはなっ ていません.じつは Spice で解析する場合,利得が大きすぎると内部演算で桁が不足して しまいエラーが発生してしまうのです.このため IDOPA は理想 OP アンプと言いながらも, Spice 解析に都合が良いようにほどほどの利得に設定してあるのです. IDOPA μA741 モデル 出力(1V/div) 理想OPアンプ μA741モデル IDOPA uA741 入力(10μV/div) (a)シミュレーション回路[simu_opamp] (b)DC 特性 〈図 1− 1〉理想 OP アンプ IDOPA と汎用 OP アンプμA741 モデルの開ループでの DC 特性 32 第 1 章 ― PSpice による OP アンプ回路設計の基礎