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秋田県有機農業推進計画 平成24年3月 秋 田 県

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秋田県有機農業推進計画 平成24年3月 秋 田 県
秋田県有機農業推進計画
平成24年3月
秋
田
県
第1
計画策定の趣旨及び目的
農業は、食料の供給のほか、環境や生物多様性の保全など様々な機能を持っているが、
近年、化学肥料や農薬へ過度に依存した生産活動の増大等により環境への影響が懸念され、
環境と調和のとれた持続的な農業生産の確保が重要となってきている。
一方、食に対する消費者ニーズは、「安全・安心」が最も重要な要素となっているほか、
地球温暖化や生物多様性など環境に対する関心の高まりから、化学肥料や農薬の使用量を
極力抑えた農産物の提供が求められている。
本県では、古くから果樹の防除回数が全国でも最低レベルにあるなど、恵まれた自然条
件を生かし、環境にやさしい農業が推進されてきており、平成12年には「秋田県特別栽
培農産物認証制度」を創設・運用するとともに、平成20年には、農業団体等と一体で
「あきたecoらいすプロジェクト」を開始し、農薬の使用成分回数を慣行レベルの50%
以下に抑えた減農薬栽培米を全県に普及させるべく取り組んでいる。
とりわけ有機農業については、1970年代に旧仁賀保町農協が有機農業運動と自給運動を
呼びかけるなど長い歴史を有している。最近では、大潟村において多くの生産者がその立
地を生かして水稲や大豆の有機栽培に取り組み、県別有機JASほ場の面積も北海道に次
いで多く、全国有数の有機農業実践地域となっているが、県全体に波及しているとは言い
難い。
こうした中、国は平成18年に「有機農業の推進に関する法律(以下「有機農業推進
法」という。)」を制定、翌年には「有機農業の推進に関する基本的な方針」を公表し、有
機農業の全国的な推進が図られることとなった。
本県では、平成22年に策定した県政運営の指針「ふるさと秋田元気創造プラン」、及び
平成23年に策定した「ふるさと秋田農林水産ビジョン」において、安全・安心な県産農
産物の供給体制の確立をめざし、有機農業をはじめとする環境にやさしい農業の推進を主
要な施策の一つとして取り組むこととしている。
東日本大震災以降、食の安全・安心が改めて重要視されている中、特に、化学肥料や農
薬を使用せず、農業が本来持っている自然循環機能を最大限生かした生産活動である有機
農業は、単に環境にやさしい農業の一形態に止まらず、中山間地域の振興やグリーン・ツ
ーリズムとの連携による農村の活性化、地産地消や食育を通じた消費者との連携・交流な
ど、今後の本県農業の発展に新たな可能性をもたらすものと期待される。
このたび、秋田県有機農業推進計画(以下「本推進計画」という。)を策定し、有機農業
に取り組む農業者等の自主性を尊重しながら有機農業を推進するとともに、消費者や実需
者に対し有機農業について周知を図ることとする。さらに、本推進計画の推進により、本
県における環境保全型農業の一層の発展を期するものである。
1
第2
有機農業の定義
本推進計画における「有機農業」とは、有機農業推進法第二条の定義に基づき、化学的
に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを
基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した生産方法を用いて行
われる農業とする。
したがって、本推進計画における「有機農業」は、「農林物資の規格化及び品質表示の適
正化に関する法律(以下、JAS法)」に基づく、有機農産物の日本農林規格(以下、有機JA
S)で規定する生産の方法に限定しないこととする。
また、本推進計画における「有機農業者」とは、「有機農業」を行う農業者のこととする。
第3
計画期間
本推進計画の期間は、平成28年度までとする。
ただし、有機農業を取り巻く情勢の変化等により、必要に応じて見直しを行うこととす
る。
第4
本推進計画の位置付け
本推進計画を、県政運営の長期的な指針である「ふるさと秋田元気創造プラン」におけ
る「あきたの環境にやさしい農業の推進」の取組に位置づけるとともに、他の関係計画等
と連携して推進することとする。
ふるさと秋田元気創造プラン
有機農業推進法
県
国
ふるさと秋田農林水産ビジョン
有機農業推進基本方針
秋田県有機農業推進計画
2
また、本県では、従来から環境保全型農業の推進に努めているが、下図のとおり、有機農
業は、こうした環境保全型農業の各取組の該当範囲に含まれている。
このため、本推進計画では、他の環境保全型農業の取組と連携して有機農業の推進を図る
こととする。
化学合成農薬(節減対象農薬)
成分回数の削減割合
農薬不使用・
化学肥料節減栽培
農薬・化学肥料
不使用栽培
100%
農薬・化学肥料
節減栽培
農薬節減・
化学肥料不使用栽培
50%
20%
0%
0%
20%
50%
100%
化学肥料(窒素成分)の削減割合
環境保全型農業の各取組の該当範囲のイメージ
3
第5
1
有機農業推進に関する施策の方針
有機農業者等への支援
(1)現状と課題
・ 有機農業が安定的に営まれるまでには一定の年数が掛かる。生産基盤が確立されるまで
の間に経営・技術両面の支援が必要となる。
・ たい肥化施設やたい肥散布機等の整備・導入に対する支援、物理的な除草や生物的な病
害虫防除等に対する支援など、有機農業に取り組むための条件整備を一層進めることが
必要である。
・ 有機JAS認証を受けていない有機農業者は、農産物に「有機」等の表示ができない。こ
うした有機農業者が有機農業の取組を流通販売業者や消費者等に伝える方法を検討する
必要がある。
・ JAS法に基づく表示ルールについて、有機農業者や消費者等に対する啓発をより強化す
る必要がある。
・ 有機農業の取組に興味を示す新規就農者が存在する。
・ 有機農業で生産される農作物は流通量が少なく、流通販売業者等への安定的な供給が困
難な面がある。
・ 生産者と消費者等が小規模に直接取引するケースが多い。
(2)施策の方針と内容
① 有機農業の取組に対する支援
施策の方針
具体的内容
ア 取組拡大に向けた条件整備 ○ 国庫事業を活用した共同利用施設の整備等の支援
の推進
(畜産環境総合整備事業、強い農業づくり交付金等)
○ あきたを元気に!農業夢プラン実現事業など県単独
事業を活用した営農環境の整備等の支援
○ 農業改良資金(無利子)の貸付
○ 環境保全型農業直接支払交付金による営農支援
(8千円/10a等)
○ 新たに創設される青年就農給付金制度(経営開始型)
○ 有機種苗の確保等に対する支援
イ 環境保全型農業の推進に係 ○ 有機JAS認証を取得していない有機農業者に対する
る制度の活用
秋田県特別栽培農産物認証制度の活用の働きかけ
○ 有機農業者のエコファーマーへの認定促進による特
例措置の適用(農業改良資金の償還期間優遇)。
4
② 新たに有機農業を行おうとする者に対する支援
施策の方針
ア 就農相談窓口の活用
具体的内容
○ 秋田県新規就農相談センター((社)秋田県農業公社)
等を活用した就農相談の実施
イ 各種研修制度の活用
○ 県が行っている総合的な就農研修制度の活用
(新規就農総合対策事業)
○ 新たに創設される国の青年就農給付金制度(準備型)
ウ 先進有機農業者による研修 ○ 研修受け入れ可能な先進有機農業者の情報提供
の受け入れ
エ 融資制度の活用
○ 研修を受け入れる先進有機農業者に対する助成
○ 就農支援資金(無利子)の貸付による施設整備や準
備資金の支援
③ 有機農業により生産される農産物の流通・販売面の支援
施策の方針
具体的内容
ア 有機農産物等の表示ルール ○ パンフレットや県HPを利用した消費者に対する周
の啓発
知・PR活動の強化
イ 生産・出荷情報のネットカ ○ 有機農業者、流通販売業者及び消費者に対する秋田
タログ利用の働きかけ
県農林水産物マーケット情報等のネットカタログ利
用の働きかけ
ウ 流通販売業者や消費者との ○ 県内外における流通販売業者との商談の場を活用し
意見交換や商談の場の設定
た販売促進活動の支援
○ 一般消費者を対象とする宣伝イベントにおける有機
農産物の販売促進の支援
2
技術開発や技術普及の促進
(1)現状と課題
・ 有機農業により生産される農産物の収量と品質については、一般的に、慣行栽培と比較
して減収傾向にあり、品質の変動も大きい。
・ 有機農業の栽培技術や経営手法が農業者間で共有化されておらず、その実態の把握と情
報の共有化が必要である。
・ 有機農業の技術開発と技術普及の取組が進んでおらず、有機農業者個々の経験に基づく
創意工夫に寄るところが大きい。誰もが活用できる普遍的な技術としての確立に向け、
5
研究開発を促進することが必要である。
(2)施策の方針と内容
施策の方針
具体的内容
ア 有機農業技術の評価 ○ 有機農業ほ場の現地見学会の開催等を通じた有機農業技術
と情報の共有
の評価と情報の共有・提供
○ 有機農業者、普及指導員及び試験研究員等の交流の場の設
置、意見交換の実施
(環境にやさしい安全安心農業体制確立推進事業)
○ 全国的レベルの交流会やコンクールへの積極的な参加によ
る情報の収集・普及
イ 研究開発・技術開発 ○ 有機農業を含む減農薬・減化学肥料栽培など、環境や人に
の推進
配慮した農産物生産技術の確立に向けた試験研究の推進
(研究課題事例)
・地域内有機質資源の肥料成分のフル活用による持続的
農業生産技術の推進
・人と環境に優しい新しいあきた米生産技術体系の確立
・閉鎖水系水田地帯における畜産由来有機性資源を利用
した環境調和型水稲作技術の実証と改良
ウ 普及指導員等の資質 ○ 国等が開催する有機農業研修への普及指導員の参加
向上と技術普及
○ 国の有機農業参入促進施策に基づき技術指導を行っている
各種団体と連携した技術普及
○ 技術指導が可能な先進有機農業者の把握やその実践技術に
関する情報の収集・提供
3
有機農業者と消費者の相互理解の増進
(1)現状と課題
・ 食育、地産地消、グリーン・ツーリズム等の活動は従来から行われているが、有機農業
の啓発を含めた活動は少ない。
・ 有機農業は、化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した農業であり、生
物多様性の保全にも寄与することから、生き物調査等の活動を通じて、消費者に有機農
業の理解を促す必要がある。
6
(2)施策の方針と内容
施策の方針
具体的内容
ア 有機農業で生産される農産 ○ 県HPやパンフレット等を活用した有機農業により
物に関する情報提供
生産される農産物に関する情報の提供
イ 食育、地産地消、グリーン・ ○ 収穫体験等の農業体験交流を通じた食育の推進
ツーリズム等の活動と連携 ○ 地産地消の取組である「あきた産デー」での地場農
した消費者の理解促進
産物フェア等を利用した有機農業者による消費者へ
の啓発
○ 農山村での体験交流による消費者と農業者の相互理
解の推進
ウ 有機農業の有する環境保全 ○ 消費者が参加する生き物調査等を通じた、自然循環
機能の啓発
機能の増進、環境負荷低減、生物多様性の保全など
有機農業の有する環境保全機能の啓発
4
有機農業推進体制の整備
(1)現状と課題
・ 有機農業は、個々の農業者や一定の地域内で個別に取り組まれており、全県における取
組規模や有機農産物の流通量等は正確に把握されていない。
■ 秋田県における有機JASほ場面積(平成23年4月1日現在)
田
51,515
畑
普通畑
29,452
樹園地
29,452
その他
牧草地
0
(単位:a)
0
計
0
80,967
資料:農林水産省HP
■ 秋田県特別栽培農産物認証制度の認証状況(平成23年4月1日現在) (単位:ha)
年 度
H22
認 証
件 数
265
生 産
者 数
1,286
(比率)
無農薬
無肥料
無農薬
減肥料
減農薬
無肥料
91.5
12.0
284.0
(1.9%)
(0.3%)
(6.0%)
減農薬
減肥料
計
4,326.9
4,714.4
(91.8%)
(100.0%)
資料:(社)秋田県農業公社
・ 有機農業の広がりは、これまで有機農業者や消費者等が大きな役割を果たしてきており、
今後の有機農業推進施策の策定と実践に当たっては、引き続き有機農業者及び消費者等
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の参画が必要である。
・ 平成23年4月現在で、有機農業の推進体制を整備している市町村は4市町村で、今後
整備する予定のある市町村は3市町村とまだ少なく、市町村とより連携した推進体制を
整備していく必要がある。
(2)施策の方針と内容
① 県における推進体制の整備
施策の方針
具体的内容
ア 有機農業の動向の把握 ○ 県内における有機農業に関する生産・流通販売及び消費
の動向等の把握
イ 推進母体の設置
○ 今後の有機農業の推進母体として、有機農業者、消費者、
学識経験者、流通業者、JA、庁内各課、試験研究機関
等で構成される(仮称)秋田県有機農業推進会議(以下
「県会議」という。)の設置(事務局:水田総合利用課)
○ 既存の有機農業関連団体との連携
② 市町村における推進体制の整備
施策の方針
具体的内容
ア 市町村協議会の設置促進等
○ 市町村協議会の設置と有機農業推進計画
の策定支援
イ 有機農業の推進支援
○ 各種補助制度の活用や県会議で検討され
た施策事業による支援
8
〔用語解説〕
環境保全型農業
農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて
化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業のこと。
本県で行われている取組としては、有機農業、特別栽培農産物、エコファーマー、あきたe
coらいすの取組などが挙げられる。
特別栽培農産物
本県慣行レベルに比べて、化学農薬(節減対象農薬)の使用回数が50%以下及び化学肥料
(窒素成分量)が50%以下で栽培された農産物である。本県では、秋田県特別栽培農産物認証
要綱等に基づき、県の認可を受けた認証機関が認証業務を行っている。
国のガイドラインや県の規定で特別栽培農産物に添付する表示内容は規定されており、栽培
方法に基づく4つの認証区分により表示内容が異なる。(農薬・化学肥料節減栽培、農薬不使
用・化学肥料節減栽培、農薬節減・化学肥料不使用栽培、農薬・化学肥料不使用栽培)。
エコファーマー
持続農業法に基づき、持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画を都道府県知事に提出
して、当該導入計画が適当である旨の認定を受けた農業者の愛称名のこと。
本県では、秋田県持続性の高い農業生産方式の導入に関する指針に基づいて県が認定を行っ
ており、化学肥料(窒素成分量)と化学農薬(節減対象農薬)の成分回数を慣行レベルの約20%
以上削減することを基礎的要件としている。
あきたecoらいす
有機JAS米や特別栽培米等、化学農薬(成分回数)を慣行レベルの50%以上削減した環境
にやさしい秋田米づくりの総称。
県や農業団体等が一体となり、「あきたecoらいす」の作付け70%以上を目指した取組を行
うことにより、環境保全に配慮した新たな「秋田米ブランド」を構築することとしている。
有機JAS
農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(以下、JAS法)に基づく、有機農産
物やその加工食品の日本農林規格のこと。
本規格に適合した生産が行われていることを登録認定機関が検査し、その結果、認定された
事業者のみが有機JASマークを貼ることができる。
有機農産物の主な基準は、堆肥等による土作りを行い、播種・植付け前2年以上(多年生作
物の場合は収穫前3年以上)及び栽培中に原則として化学的肥料及び農薬を使用しないこと、
及び遺伝子組換え種苗を使用しないことである。
9
なお、有機JASマークがない農産物と農産物加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名
称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことはJAS法で禁止されている。
有機JASマーク
GAP
農業生産工程管理(GAP:Good Agricultural Practice)。
農業生産活動を行う上で必要な関係法令等の内容に則して定められる点検項目に沿って、農業
生産活動の各工程の正確な実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動のこ
と。
農業者や産地がGAPを取り入れることにより、食品の安全性向上、環境の保全、労働安全の
確保、競争力の強化、品質の向上、農業経営の改善や効率化に資するとともに、消費者や実需
者の信頼の確保が期待される。
本県では、日本GAP協会が作成し、認証制度があるJGAP、秋田県版GAP及び農業団
体で作成した独自のGAP等が取り組まれている。
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