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アジア科学技術協力の戦略的推進 地域共通課題解決型国際共同研究
アジア科学技術協力の戦略的推進 地域共通課題解決型国際共同研究 事後評価 「タイにおける低炭素排出型エネルギー技術戦略シナリオ研究」 機関名:国立大学法人 京都大学 代表者名:石原 慶一 実施期間:平成 21 年度~平成 23 年度 目次 Ⅰ.国際共同研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 Ⅱ.経費 1.所要経費 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 2.使用区分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 Ⅲ. 実施結果・成果の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 (1)ミッションステートメントの達成状況 (2)実施計画に対する達成状況 (3)採択コメントに対する対応 (4)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績 2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 (1)科学的・技術的成果の内容 (2)社会的成果(国内外の各参画機関の共同研究体制・形成された科学技術コミュニティ)の内 容 3.計画・手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 Ⅳ.実施結果・成果の詳細 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 V. 自己評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 3.計画・手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 5.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 Ⅰ.国際共同研究の概要 ■プログラム名:国際共同研究の推進 ■課題名:タイにおける低炭素排出型エネルギー技術戦略シナリオ研究 ■機関名:国立大学法人 京都大学 ■代表者名(役職):石原 慶一 (エネルギー科学研究科 教授) ■共同研究機関名:独立行政法人 産業技術総合研究所 独立行政法人 農業環境技術研究所 エネルギー環境合同大学院大学(キングモンクット工科大学トンブリ校) ラジャマンガラ工科大学タンニャブリ校 チュラロンコン大学 ■共同研究機関代表者名(役職):仁木 栄 (独立行政法人 産業技術総合研究所太陽光発電研究センター 副研究センター長) 八木 一行 (独立行政法人 農業環境技術研究所 研究コーディネータ) Bundit Fungtammasan (エネルギー環境合同大学院大学(キングモンクット工科大学トンブリ 校) Assoc. Prof.) Sommai Pivsa-Art , (ラジャマンガラ工科大学タンニャブリ校 Asst.Prof.) Somkiat Ngamprasertsith (チュラロンコン大学 Assoc. Prof.) ■実施期間:3年間 ■実施経費:81.2 百万円(間接経費、環境改善費込み) 課題概要 1.研究の目的 タイ国において低炭素排出型の新しいエネルギー社会を構築するために、タイ国のエネルギー需給シナ リオ策定研究に対して、エネルギー需給にかかわるデータベースや分析・計画手法の支援を実施するこ とで、低炭素排出型の新エネルギー社会構築にむけたエネルギー需給シナリオを策定する。 2.研究実施体制 タイ国における低炭素型のエネルギー社会構築を達成するために、京都大学が事務局の Japan-SEE フォーラムが Thai-SEE フォーラムのカウンターパートとなり国際共同研究を推進する。特に本研究では 重点課題に対して分科研究グループを構築し、それぞれが有機的に連携を図りつつエネルギー需給 1 シナリオ策定研究を実施する。 3.ネットワーク構築の可能性 京都大学は「持続可能なエネルギーと環境フォーラム(SEE フォーラム)」の議長機関であり、タイ国 JGSEE をはじめ ASEAN 諸国、インドの30大学・研究機関と研究、教育、ネットワーク、財政の面で連携協 力を進めている。同フォーラムには ASEAN University Network (AUN)と AIT も参画しアジアにおける既 存のネットワークと更に発展可能な枠組みである。 4.本制度により取組を支援する必要性 民間ベースや ODA による日本の既存技術移転に重点を置いた技術供与型活動ではなく、先端クリーン エネルギー共同研究を通じて、低炭素排出型のエネルギーシナリオ策定を共同で研究するアカデミック を中心とした活動である。 5.継続性の担保 京都大学では本研究基盤である SEE フォーラムを既に構築しており、それと連携した大学・研究機関組 織間ネットワークである NECSE 設立を全学的に推進しており、エネルギー・環境分野で恒常的な組織間 ネットワーク設立を大学として進めている。 6.我が国を中心としたアジア・アフリカ諸国等との政府レベルでの協力関係の強化・構築への発展性 アジア・アフリカ諸国で使用可能な低炭素排出型の社会に向けた共通のツールが開発されるとともに、我 が国が提案した政府間の枠組みである日-ASEAN ワークショップと連動した研究交流が実施可能で有り、 日-タイのみならず日-ASEAN 多国間の低炭素化社会構築への協力関係の強化に寄与する。さらに、 JGSEE にはアフリカからの環境・エネルギー研究者も多数在籍しており、本事業による研究交流により、ア ジア・アフリカ連携強化も可能である。 2 3 ミッションステートメント (1) 共同研究の概要 タイ国において低炭素排出型のエネルギーシナリオを策定するために、京都大学に事務局 を有する Japan-SEE Forum が Thai-SEE Forum のカウンターパートとなり、国際共同 研究を推進する。特に本研究ではそれぞれの技術についてばらばらに共同研究を行うので はなく、エネルギー需給シナリオ策定研究を統括的に実施しつつ、タイ国における重点課 題に対して文科研究グループネットワークオブエクセレンス(NOE)を構築し、それぞ れが有機的な連携を図りながら共同研究を実施する。 (2) 実施期間終了時における具体的な目標 タイの研究開発技術ロードマップに基づく「低炭素排出型のエネルギーシナリオ」を策定 する。最終的に、我が国の2050年50%CO2 削減の長期シナリオを共有できる連携・ 協力体制を構築する。 (3) 実施期間終了後の取組 京都大学に既に構築済みの SEE Forum を通じて本事業による協力連携体制を持続させる と共に、京都大学が全学で取り組んでいる大学・研究機関組織間ネットワーク NECSE を 整備し、恒常的な協力連携体制を構築する。 (4) 期待される波及効果 本事業の成果は、アジア40大学の研究者が参画する SEE Forum および NECSE(構築 中)推進において重要な共同研究パイロット事業であり、参画する他大学・研究機関間で より一層、協力連携が強化される。このことにより、アジア地域におけるエネルギー・環 境分野での研究・教育協力を目的とした恒常的なネットワーク構築を加速することが期待 できる。 採択時コメント 本提案は、タイ国において低炭素排出型のエネルギーシナリオを策定するために、Japan-SEE Forum がThai-SEE Forum のカウンターパートとなって、国際共同研究を推進するものである。低炭素排出型エ ネルギー社会の構築は重要な課題であり、本提案はいろいろな角度からこの課題を取り上げており、課 題解決に向けた技術戦略としてよくまとめられた計画と評価される。タイの関連機関との連携体制も充実 しており、十分な交流実績が認められることから、具体的に共同研究が進捗するものと思われ、その成果 に期待が持たれる。また、政府間協力への取組も含まれている。 なお本提案は、単に個別のエネルギー技術の開発だけでなく、その導入戦略を立てるための研究ネッ トワーク作りを目的としているが、戦略シナリオ構築のための具体的な方法論、および個々の共同研究の 内容がやや不明確であるので、これらの点を明確にして研究を進めるよう望む。また、タイにとどまらず、 アセアン諸国への更なる展開、共同研究を通した人材育成についても、今後の展開において留意いた だきたい。 4 Ⅱ.経費 1. 所要経費 (間接経費、環境改善費を含む) 研 究 項 目 研 究 担当者 担当機関等 H21 年度 (単位:百万円) 所要経費 H22 H23 合計 年度 年度 1.新エネルギー技術開発 国立大学法人 京都大学 石原 慶一 15.6 19.5 17.3 52.4 2.新エネルギー技術評価 独立行政法人 産業技術総合 研究所 仁木 栄 4.7 5.1 4.6 14.4 3.環境評価 独立行政法人 農業環境技術 研究所 八木 一行 5.2 4.6 4.6 14.4 25.5 29.2 26.5 81.2 所 要 経 費 (合 計) 2.使用区分 (単位:百万円) 1.新エネルギー技 術開発 2.新エネルギー技 術評価 設備備品費 0 0 0.7 0.7 業務実施費 または 事業実施費 26.0 9.0 7.1 42.1 8.6 3.35 3.6 15.55 人件費 17.8 2.05 3.0 22.85 計 52.4 14.4 14.4 81.2 間接経費 または 環境改善費 3.環境評価 計 ※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況を記載ください) 5 Ⅲ.実施結果・成果の概要 1.目標達成度 (1)ミッションステートメントの達成状況 ①実施期間終了時における具体的な目標(様式7-4 (2)) 計画(目標):「タイの研究開発技術ロードマップに基づく「低炭素排出型のエネルギーシナリオ」を 策定する。最終的に、我が国の 2050 年 50%CO2 削減の長期シナリオを共有できる連 携・協力体制を構築する。」 達成状況:タイにおける地球温暖化ガス削減を目標とし、研究開発項目の達成状況と今後の発展 を予測しそれらを反映させた「低炭素排出型のエネルギーシナリオ」を完成し、TGO(タイ 温室効果ガス排出制御機構)を通じてタイ政府に提案した。また、得られた要素技術の 日本への波及についても日本の電力に関して脱原発シナリオの中に反映させ公表し、 内閣府原子力委員会などで説明を行った。さらに、京都大学のエネルギーシナリオ研究 者とタイ環境エネルギー合同研究科との連携を維持し、長期シナリオを共同で策定する 連携・協力体制が整備された。 ②実施期間終了後の取り組み(様式7-4 (3)) 計画(目標):「京都大学に既に構築済みの SEE Forum を通じて本事業による協力連携体制を持 続させると共に、京都大学が全学で取り組んでいる大学・研究機関組織間ネットワーク NECSE を整備し、恒常的な協力連携体制を構築する。」 達成状況:研究期間中、開催された 4 回の SEE Forum において、本プログラムの各テーマの研究 者が報告し、本プログラムの成果を紹介し本事業ならびに他国への普及を促し、協力連 携体制の持続的発展に寄与した。また、ASEAN 諸国との大学連携の強化として、 ASEAN 大学ネットワーク(AUN)との交流協定、ワークショップを二回行った。NECSE を強 化した AUN 参画大学との共同教育研究体制を築き、文部科学省本年度世界展開力強 化事業に提案中である。 ③期待される波及効果(様式7-4 (4)) 計画(目標):「本事業の成果は、アジア 40 大学の研究者が参画する SEE Forum および NECSE (構築中)推進において重要な共同研究パイロット事業であり、参画する他大学・研究機 関間でより一層、協力連携が強化される。このことにより、アジア地域におけるエネルギ ー・環境分野での研究・教育協力を目的とした恒常的なネットワーク構築を加速すること が期待できる。」 6 達成状況:2012 年 2 月に開催された SEE Forum で本プログラムの概要をアジアの他大学の研究 者に紹介し、エネルギー環境分野で研究協力体制を整えた。また、これらの活動が評価 され、JICA が支援する AUN/SEED-Net 事業の第三フェーズにおいて、エネルギー工学 分野の代表幹事校として京都大学が推薦され、アジア地域の研究・教育協力体制をさら に整備する機会を得た。 (2)実施計画に対する達成状況 ①エネルギーシナリオ策定研究 ・計画(目標): タイ国における低炭素排出型エネルギーシナリオ策定のために、先端クリーンエ ネルギー技術導入による化石燃料代替シナリオを検討し、温室効果ガス抑制を定量的 に評価するとともに、二酸化炭素削減シナリオを策定する。 ・達成状況: 温室効果ガスの定量評価に LCA を用い、より精度の高い評価を行い、先端技術の 導入評価を定量的に行った。それらの結果を取り入れた低炭素型エネルギーシナリオの 策定を行い、計画した目標を達成した。さらに、これらの成果をタイ政府ならびにタイ産 業界に公表し、タイ政府のエネルギー計画に影響を与えた。 ②クリーンコール技術研究 ・計画(目標): 本グループは、JGSEE バンディットグループと共同で、タイ国産褐炭の改質技術を 中心とした、褐炭のクリーン利用技術の開発の検討を行う。併せて、両国の特に若手研 究者間の交流・共同研究を通じて、クリーンコール技術開発を担う人材の育成に取り組 む。 ・達成状況: 褐炭のクリーンコール技術開発を行い十分な成果を得た。実施期間中、若手研究 者の相互交流を促進し人材育成に取り組み、計画した目標を達成した。さらに、本研究 成果をもとにして、「地球規模課題対応国際科学技術協力」事業に提案し、FS 研究とし て採択され、協力体制強化と研究促進を図った。 ③バイオ燃料研究 ・計画(目標): タイ協力機関より提供された稲、サトウキビ、ニッパヤシ、アブラヤシなどの残渣を 用いて、超臨界流体技術によるバイオ燃料製造プロセスの構築を推し進める。そのため に、日本側からは定期的に短期間渡航し、試料採取や関連の情報収集を行う。得られた バイオマス試料を用いて超臨界流体技術によるバイオ燃料製造プロセスの検討を行う。 また、その過程で、タイ側若手研究者を日本に招き、バイオ燃料製造技術に関する最先 端の研究および研修の機会を設ける。 7 ・達成状況: バイオ燃料の組成分析からはじめ、超臨界流体技術を応用した最適バイオマス活 用技術を検討した。また、タイ若手研究者や東南アジアの研究者を学生として受け入れ 教育を行ない、最先端研究の機会を与え域内の学術発展に貢献し、計画した目標を達 成した。さらに、バイオマスの材料・ケミカルスへの応用が本研究を通じて可能となること が分かった。 ④次世代太陽電池創生研究 ・計画(目標): 次世代有機太陽電池の開発に関して、(a)デバイス構造の設計、(b)デバイス構 築と評価、(c)セル効率の最適化という研究項目を3年間で行う。とりわけ、(a)デバイス 構造の設計(1年目)については、金属酸化物ナノ構造体からなる電極および有機半導 体活性層の1次元アレイ化、高効率新素子構造の提案と長期作動安定性向上の実証を 世界に先駆けて検討する。 ・達成状況: タイの研究者と協力して次世代有機太陽電池の開発を行い、デバイス構築からセル 効率の最適化までを行い、計画した目標を達成した。さらに、本研究の成果について定 量評価を行い、エネルギーペイバックタイム、地球温暖化ガス排出係数を見積もり太陽 電池の普及シナリオの策定に貢献した。 ⑤太陽電池評価研究 ・計画(目標): 日タイ双方で創製された太陽電池セルに対して、多層構造からなるセルの各々の 材料の物性評価を行うとともに、試作したデバイスの精密な評価を行い、太陽電池プロセ ス技術へのフィードバックを行うことで太陽電池の高性能化を図る。また、太陽電池の高 性能化のための共通の評価システムの構築を目指す。 ・達成状況: 日本、タイ双方において独立してデバイスの評価を行い再現よく評価できていること を確認した。それを踏まえて高性能化のための共通の評価システム構築を行い、計画し た目標を達成した。さらに、今後の共同研究体制について議論を開始し、タイにおける 太陽電池普及促進について調査を行った。 ⑥環境評価研究 ・計画(目標):中央平原西部の天水田試験地において、水稲休閑期に畑作物(トウモロコシまたは 大豆)を導入する輪作体系に関する現地試験を実施し、管理の違いによる GHG 排出量 を評価する。さらに、得られたデータをもとに、改善策を適用した場合の GHG 排出削減 効果を推定する。 8 ・達成状況: 天水田試験地において水稲休閑期に畑作物を導入し GHG 排出量の実測を行った。 得られたデータから最適な作付方法を提案し、計画した目標を達成した。さらに、得られ たデータに基づき数値モデルを開発し、メタンガス排出量の定量評価に反映させた。 ⑦LCA 評価、資源生産性評価研究 ・計画(目標) :最適なエネルギー導入シナリオ作成に向けたツールの開発を行う。バイオ燃料を はじめとする国産エネルギー供給と従来型エネルギーの供給、それに対する地域エネ ルギー需要から、ライフサイクル的視点により、二酸化炭素排出最小システムの導出と、 それに伴う排出削減量の推定を行うツール開発に向けたデータの収集、モデルの作成 を行う。その実施のため、衛星画像等を利用した土地利用データの地理情報化、エネル ギー生産プロセスのライフサイクル評価、エネルギー需要動向の分析、需給モデル作成、 試験的運用を行う。 ・達成状況 : 土地利用データと LCA 手法からエネルギー生産プロセスを評価し、エネルギー作 物栽培によるバイオエネルギー生産の可能性を推定することができる枠組みを作成し、 北タイ地方に適応し、計画した目標を達成した。 (3)採択コメントに対する対応 (採択時コメント) 本提案は、タイ国において低炭素排出型のエネルギーシナリオを策定するために、 Japan-SEE Forum が Thai-SEE Forum のカウンターパートとなって、国際共同研究を推進するものである。低 炭素排出型エネルギー社会の構築は重要な課題であり、本提案はいろいろな角度からこの課題を取り 上げており、課題解決に向けた技術戦略としてよくまとめられた計画と評価される。タイの関連機関との 連携体制も充実しており、十分な交流実績が認められることから、具体的に共同研究が進捗するものと 思われ、その成果に期待が持たれる。また、政府間協力への取組も含まれている。 なお本提案は、単に個別のエネルギー技術の開発だけでなく、その導入戦略を立てるための研究 ネットワーク作りを目的としているが、戦略シナリオ構築のための具体的な方法論、および個々の共同 研究の内容がやや不明確であるので、これらの点を明確にして研究を進めるよう望む。また、タイにとど まらず、アセアン諸国への更なる展開、共同研究を通した人材育成についても、今後の展開において 留意いただきたい。 (対応) 個別の技術開発については、最先端の研究成果および、日本を経験したタイ側の研究者を通じた 過去の共同研究の蓄積に基づき各テーマごとの交流を促進しつつ本事業の特徴であるタイの地域に 密着したエネルギー技術開発に挑戦した。戦略シナリオ構築については、これまで SEE Forum を通じ 9 てエネルギーの現状についてのデータ収集はなされていたが、これを研究として発展させるため、タイ の博士研究員を日本に1ヶ月程度招へいしシナリオ研究の進め方について協議をするとともにエネル ギー計画のフレームワークを作成した。それに基づき、タイの現地調査を行い問題点の把握とタイ政府、 電力公社などにもヒアリング調査を実施した。その成果について、ワークショップで各テーマの担当者 に紹介し、サブテーマの技術がどのような形で将来のタイのエネルギー計画に反映するかについてシ ナリオチームと協議を重ねた。その後、シナリオ研究の担当者が各サブテーマについてヒアリング調査 を実施しながら、ライフサイクルアセスメントに基づく温室効果ガス排出量の見積もりを同時にすすめ、 ベースラインシナリオ、排出削減シナリオという、二つのシナリオの中に技術成果を取り入れた。このよう な方法論は、京都大学において日本のエネルギーシナリオ研究に関して八年以上に及ぶ試行錯誤の 中で生まれたものであり、今回タイの研究者にその成果を紹介しながら進めることにより、計画通りに進 行することができた。タイの研究者もシナリオ研究に注目するようになり、また、東日本大震災に関連し て日本においてもエネルギーシナリオの重要さが注目され、本研究成果がそれに答える形で貢献した。 さらに、タイの研究者がさらに政府機関に働きかけることによりタイのエネルギー政策の一部にも取り入 れられるなど、波及効果もみられた。 シナリオ研究を中核としたエネルギー技術開発を行う本研究手法をアセアン諸国へ展開することに ついては、SEE Forum を更に発展させて継続する予定である。また、今後はサマーセミナー、ダブルデ ィグリープログラムなど ASEAN 地域と共同して人材育成を積極的行う予定である。 (4)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績 該当なし 10 2.成果 (1)科学的・技術的成果の内容 ①地域共通課題の解決につながるどのような成果が得られたか、(その成果が将来的に社会へどの 程度適応できる段階にあるかわかるように)記載下さい。 本研究テーマにおいては低炭素型のエネルギーシステムをタイに導入するために必要な 技術課題において日本の最先端の研究者とタイの研究者が共同して取組むことにより効果 的な研究が実施できた。褐炭の高度利用技術開発においては、タイで多く産出される褐炭を 効率良くまた環境破壊を最小限にとどめながら利用する手法について共同開発を試みた。そ の結果、高圧高温処理を施すことにより環境にやさしい燃料を合成することが可能となった。 さらに、開発した手法では各種バイオマスも燃料化することができるため、電力公社だけで なくタイの多くの工業団体が本技術について興味を持っている。 バイオ燃料研究では、いずれのバイオマスに対しても対応可能な定量分析手法を確立し た。この手法を用いて、分類学上異なる種々のバイオマス資源を対象に、それらの化学成分 組成の定量分析を行ない、分類学的な特徴を明らかにした。次に、超(亜)臨界流体技術によ るバイオマス変換技術に関するものとして、酢酸発酵を用いたバイオエタノール生産やニッパヤシ からの従来法によるバイオエタノール生産について検討した。さらに、メタノール、カルボン酸エス テル及び中性エステルによる油脂資源からの超臨界条件下での新たなバイオディーゼル燃料製 造技術を構築した。加えて、アブラヤシを取り上げ、その特性化と有効利用について検討した。ま た、熱分解によるバイオマスからのバイオ燃料やバイオケミカルス生産への分解機構について基礎 的な研究を行った。これら一連の研究を通して、環境負荷の低減と地球の温暖化の抑制に寄与す るゼロエミッション型バイオマス資源の利用法を提案した。 太陽電池開発においては、最近市場にでた CIGS(銅、インジウム、ゲルマニウム、硫黄) 系の太陽電池の性能評価手法についてチュラロンコン大学で詳細な手ほどきをし、日本とほ ぼ同様の研究手法が整い、将来タイでの利用が望まれる。一方、シリコン材料に変わるもの として期待されている有機太陽電池開発においてはタイにおいて技術開発できる研究基盤 の構築が主な目的であったが、ラジャマンガラ工科大学内で研究開発が出来る環境が整い、 タイ国で産出される酸化チタン含有原料から製造したナノファイバーを用いた水素発生用光触媒を、 ラジャマンガラ大学タンニャブリ校の若手研究者と共同で開発した。 農地の有効利用研究では天水田の効果的な利用法について幾つかの提案と現地での実践 研究を通じて開発した。タイの天水田では非収穫期は耕作されず放置されている例が多い。 そのような場所からはメタンガスが発生して、深刻な地球温暖化現象を起こすことが懸念さ れる。本研究チームではタイの研究者と共同して実験サイトを持ち、各種条件下で実際に発 生ガス量を測定し、それからどのような処理をすればガス発生量を大幅に減尐させることが 可能かの知見を得た。さらに、二期作、二毛作(とうもろこし、またはスウィートソルガム) 11 を検討し実際にこのパターンで耕作した時に発生する気体の量、収穫できるエネルギーなど について実測を行った。結論は二期作を行ったときはメタンガス、二酸化炭素共に排出量が 大幅に増加するが、スウィートソルガムを栽培した場合においては、全く何もしない時に比 べて変化なく、裏作物が収穫出来るだけ有利であることが示唆された。 最後にシナリオ策定グループでは上記の各種要素技術の結果をシナリオに取り組むため の手法を開発した。その後、基準シナリオの策定、新技術導入シナリオの策定をおこない、 地球温暖化ガス排出削減量を具体的に計算し、タイ政府の下部機関である温室効果ガス削減 会合のメンバーにシナリオ提示することができた。特に、タイにおいてはエネルギーシナリ オの研究は殆どなされておらず、各部門がバラバラに計画していただけであるが、我々の活 動が評価されエネルギーシナリオについての理解が深まった。また、LCA 手法を温暖化ガス 排出計算に用いることにより、従来は燃料という一次エネルギーのみによる評価手法と異な り、様々な省エネルギー効果をわかりやすく把握でき、今後のエネルギー政策に重要な示唆 を与えた。 各研究成果の適応段階については、最後のシナリオにすべて反映させており、一部を除き 今後 20 年間で適応できる見通しである。また、今回策定したシナリオについては、一部タ イのエネルギー計画に研究実施期間中に反映されており、また電力会社、企業も関心を寄せ ている。 ②共同研究によって得られた新しい科学技術面での知見があれば、どのようなものか、わかりやすく 記載してください。 1, 褐炭の有効利用法の開発 褐炭の有効利用だけでなく、バイオマスを始めとする各種炭素材料においても適応可能であり、 幅広い利用が望まれる。 2, バイオマス分析手法の開発 草本、木本を網羅する分析手法が確立したことにより、バイオマス利用見積もりが取得できるよう になった。 3, 天水田における気体発生量の測定 天水田および放作地からの気体発生量について直接測定することによりいろいろな温暖化ガス 制御に用いることができる。 4, エネルギーシナリオ策定手法の開発 従来エネルギーシナリオについては関心がなかったが、可能な目標をさだめることにより明確に 研究開発、政策決定を行うのに有効である。今回はトップダウンとボトムアップ手法を組み合わ せることにより技術開発をシナリオに取り込む効果的な手法開発に成功した。 12 ③研究成果の発表状況 【ワークショップ、国際会議の開催】(4 件) ワークショップ 名称:第 1 回現地ワークショップ 開催場所:デュシタニホテル(タイ) 開催日:2009 年 11 月 27 日 参加者数:45 名 主な参加者: 京都大学エネルギー科学研究科 石原慶一教授 京都大学エネルギー理工学研究所 大垣英明教授 京都大学工学研究科 蘆田隆一准教授 産業技術総合研究所 匂坂正幸グループ長 農業環境技術研究所 八木一行研究員 The Joint Graduate School of Energy and Environment(JGSEE) Prof. Bundit Fungtammasan Rajamangala University of Technology Tanyaburi(RMUTT) Dr. Sorapong Pavasupree Chulalongkorn University Assoc. Prof. Somkiat Ngamprasertsith 名称:第 2 回現地ワークショップ 開催場所:シャトードカオヤイ(タイ) 開催日:2010 年 11 月 25−26 日 参加者数:30 名 主な参加者: 京都大学エネルギー科学研究科 石原慶一教授 京都大学エネルギー理工学研究所 佐川尚准教授 京都大学工学研究科 三浦孝一教授 産業技術総合研究所 工藤祐揮研究員 農業環境技術研究所 須藤重人研究員 The Joint Graduate School of Energy and Environment(JGSEE) Prof. Bundit Fungtammasan Rajamangala University of Technology Tanyaburi(RMUTT) Dr. Sorapong Pavasupree 13 名称:第 3 回現地ワークショップ 開催場所:バンコク、ミレニアムスクンビットホテル(タイ) 開催日:2011 年 12 月 13 日 参加者数:40 名 主な参加者: 京都大学エネルギー科学研究科 石原慶一教授 京都大学エネルギー理工学研究所 佐川尚准教授 京都大学工学研究科 三浦孝一教授 産業技術総合研究所 工藤祐揮研究員 農業環境技術研究所 須藤重人研究員 The Joint Graduate School of Energy and Environment(JGSEE) Prof. Bundit Fungtammasan Rajamangala University of Technology Tanyaburi(RMUTT) Dr. Sorapong Pavasupree 国際会議 名称:4th International Conference on Sustainable Energy and Environment (SEE 2011) 開催日:2012 年 2 月 27−9 日 場所:セントラタ グランド (タイ) 参加者数:300 名 主な参加者: 京都大学エネルギー科学研究科 石原慶一教授 京都大学エネルギー理工学研究所 佐川尚准教授 京都大学工学研究科 三浦孝一教授 産業技術総合研究所 工藤祐揮研究員 農業環境技術研究所 須藤重人研究員 Deputy Permanent Secretary, Ministry of Energy Dr. Kurujit Nakornthap, Professor of Sustainable Energy, Director of Center for Energy research Prof. Ralph Sims, The Joint Graduate School of Energy and Environment(JGSEE) Prof. Sirintornthep Towprayoon 14 【研究成果発表等】 1)論文等 原著論文発表 左記以外の誌 (査読付) 面発表 口頭発表 合計 (学会、国際会 議、シンポジウム等) 和文誌 1件 29 件 95 件 125 件 欧文誌 83 件 12 件 135 件 230 件 合 84 件 41 件 230 件 355 件 計 2)特許等出願件数 (3 件) 1) 名称:「嫌気性微生物を用いた酢酸の製造方法及びバイオエタノールの製造方法」 出願日:2010 年 8 月 31 日 出願 No.:2010-193142 出願者:坂 志朗 2) 名称:「脂肪酸アルキルエステルの製造方法および油脂類の処理方法」 出願日:2011 年 1 月 28 日 出願 No.:2011-015869 出願者:坂 志朗、豊田通商㈱ 3) 名称:「Method for producing acetic acid using anaerobic microorganism and method for producing bioethanol」米国 出願 No.:US 13/039563(2011/3/3)、US 2012-0053368-A1(2012/3/1) 【優先権主張番号 特願 2010-193142(2010/8/31)】 出願者:Shiro Saka 3)受賞等 (16件) 1) Jiayu Xin, Oral Award 受賞, Zero-Carbon Energy Kyoto 2009, The 1st GCOE International Symposium, 「 Jiayu Xin, Shiro Saka: “Method for improving oxidation stability of biodiesel”」表彰日:H21.8.22. 2) Jiayu Xin, 平成 21 年度日本エネルギー学会奨励賞受賞 第 18 回日本エネルギー学会 大会発表(Jiayu Xin、Shiro Saka:Effect of lignin addition on biodiesel as prepared by supercritical methanol method(超臨界メタノール法によるバイオディーゼル製造での リグニン添加の効果)). 3) Zul Ilham, The Industrial Oil Products Division Student Excellence Award of The American Oil Chemists’ Society (AOCS) 受賞「Zul Ilham, Shiro Saka: Novel one-step and two-step 15 supercritical dimethyl carbonate process for non-catalytic biodiesel production, The 101st American Oil Chemists’ Society (AOCS) Annual Meeting and Expo, Phoenix, Arizona, USA, May 16-19, 2010」(第 101 回アメリカ油脂化学会). 4) Zul Ilham, Zero-Carbon Energy Kyoto 2010, The 2nd GCOE International Symposium, Best Poster Award 受賞「Zul Ilham, Shiro Saka: New non-catalytic two-step supercritical dimethyl carbonate method without producing glycerol」. 5) Pramila Tamunaidu, 平成 22 年度日本エネルギー学会奨励賞受賞 第 19 回日本エネル ギー学会大会発表(Pramila Tamunaidu、坂 志朗:ニッパ樹液からのバイオエタノー ル生産の可能性(Prospect of nipa sap for bioethanol production)). 6) Zul Ilham, The Processing Division Student Excellence Award of The American Oil Chemists’ Society (AOCS) 受賞「Zul Ilham, Shiro Saka: Biodiesel and value-added glycerol carbonate from supercritical dimethyl carbonate, The 102nd American Oil Chemists' Society (AOCS) Annual Meeting and Expo, Cincinnati, Ohio, USA, May 1-4, 2011」(第 102 回アメリカ油脂化学会). 7) Kodama R, Macaraig L, Ose Y, Zul Ilham, Taniki R, Fadjar Goembira, Koyanagi T, Kim SH, Sonobe T, Best Group Poster Award in the GCOE Annual Report Meeting, January 28, 2011, Uji, Japan 受賞「The best proportion of energy resources utilization: extremely simplified estimation. Abstracts of the GCOE Annual Report Meeting 2010, Uji, Kyoto, January 28, 2011, Uji, Kyoto, p.31. 8) Bunno M, Hilscher P, Aprilia A, Taniki R, Kojima H, Kwon SR, Ruankham P, Fujii T, Zul Ilham, Lee YJ, Sato Y, Kodama R, Kazuchika Yamauchi, Best Group Poster Award in the 3rd GCOE International Symposium, August 19, 2011, Suwon, Korea 受賞「Towards new lifestyle without nuclear and fossil-based energy. Abstracts of the 3rd GCOE International Symposium, August 18-19, 2011, Suwon, Korea, p.107. 9) 坂 志朗、服部 亮、村上 洋司:エネルギー・資源学会第 23 回技術賞受賞、「超臨 界流体技術によるバイオディーゼル燃料の創製」、H22.6.16. 10) 河本 晴雄:第 62 回日本木材学会賞受賞、「木材の熱分解反応機構の解明」、財団 法人日本木材学会、H24.3.15. 11) Surawut Chuangchote :First Place in Science as Art Awards 受賞,Michiyasu Fujita, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa, Poly(3-hexylthiophene) Nanofibers Fabricated by Electrospinning and Their Optical Properties,2010 Materials Research Society Spring Meeting,(05-09 April 2010) San Francisco, U.S.A. 12) Pipat Ruankham :Best Presentation Award 受賞, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa; Surface Modification of ZnO Nanoros with Organic Dye Molecules for Polymer/Inorganic Hybrid Solar Cells 3rd GCOE International Symposium(18-19 August 2011) Suwon, Korea 13) Jae-hyeong Lee :Poster Paper Award, First Prize 受 賞 , Takashi Sagawa, Susumu 16 Yoshikawa,Optimization of Bulk Heterojunction for Highly Efficient Spray Coated Polymer Solar Cells,Taiwan Association for Coatings and Thin Films Technology (TACT 2011) International Thin Films Conference (20-23 November 2011) Kenting, Taiwan 14) Jae-hyeong Lee :Poster Award 受賞, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa; Thickness dependence of photovoltaic performance of additionally spray coated solar cells, 2011 Annual Meeting of GCOE,(30 January 2012) Kihada Hall, Uji, Kyoto, Japan 15) Pipat Ruankham:Presentation Award 受賞, Jae-hyeong Lee, Lea Macaraig, Yueh-Tsung Tsai, Surawut Chuangchote, Takashi Sagawa,Materials Design and Evaluation of Device Structures for Photovoltaic Systems: Polymer based Organic Photovoltaic Cells and Metaloxide based Photocatalysts for Hydrogen Generation,Ajou-KIT-Kyoto University Joint International Symposium,(01 February 2012) Kihada Hall, Uji, Kyoto, Japan 16) Motoko YAMANARI, Kenichi ADACHI, Kiyoshi DOWAKI and Yucho SADAMICHI, The Silver Poster Award: “A System Analysis of Bio-ethanol Produced from Cassava and Sugarcane in Northern Thailand, Oth International Conference on EcoBalance, November 2010, Tokyo, Japan. 4)主な原著論文(査読付き誌掲載の論文、5 件以内) 1) Wannapeera, Janewit; Li, Xian; Worasuwannarak, Nakorn; Ashida, Ryuichi ; Miura, Kouichi:,「Production of High-Grade Carbonaceous Source Materials and Fuel Having Similar Chemical and Physical Properties from various Biomasses by the Degradative Solvent Extraction」, Energy & Fuels, submitted 2) Harifara Rabemanolontsoa, Sumiko Ayada, Shiro Saka: 「Quantitative method applicable for various biomass species to determine their chemical composition 」, Biomass and Bioenergy, 35(11), 4630-4635, (2011) 3) Surawut Chuangchote, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa 「Electrospun TiO2 Nanowires for Hybrid Photovoltaic Cells」 Journal of Materials Research, Vol. 26, No.17, 2316-2321 (2011). Erratum: Vol. 26, No.18, 2458 (2011). 4)Masayuki Itoh, Shigeto Sudo, Shizuka Mori, Hiroshi Saito, Takahiro Yoshida, Yutaka Shiratori, Shinobu Suga, Nanako Yoshikawa, Yasufumi Suzue, Hiroyuki Mizukami, Toshiyuki Mochida, Kazuyuki Yagi (2011) 「Mitigation of methane emissions from paddy fields by prolonging midseason drainage 」 , Agriculture Ecosystems & Environment, 141(’3-4), 359-372 5)Yucho SADAMICHI, Natanee VORAYOS, Yuki KUDOH and Masayuki SAGISAKA, 「Estimation of the Bioenergy Production Potential by Expansion of Energy Crop Plantation in the Northern Thailand」, International Journal for Sustainable Innovations, Vol.2, No.1, 45-55 (2012) 17 ④ 科学的・技術的波及効果 本研究プログラムの活動が認められ、2011 年 7 月にタイのサイアムセメントグループと京都大 学エネルギー科学研究科との間で包括協力協定を締結するに至った。 また、連動して 2011 年 7 月 25 日に開催したタイ温室効果ガス排出制御委員会との合同会議 (タイ政府関係者、企業研究者、80 名参加)において本プログラムで開発したシナリオの考え方 について公開討論を行い、二酸化炭素排出削減の重要性と技術開発の波及効果について議 論した。その過程を通じ、サイアムセメントグループを始めタイの企業が日本の省エネルギー技 術開発に関心をもち、タイ企業が京都大学に技術調査団を派遣し、今後の技術協力体制につ ての対話が開始した。 (2)社会的成果(国内外の各参画機関の共同研究体制・形成された科学技術コミュニティ)の内容 ①研究資源の提供や研究実施における役割について、国内機関と海外機関に分けて記載してくだ さい。 国内機関においては研究資源が比較的潤沢にあるが、本研究プログラムのように広く情報交 換しながら推進するという経験は尐なかったが本プログラムを実施することにより研究資源の相互 利用が促進した。海外機関においても、研究費が直接日本から配分されない問題はあるが、実 験サイトや資源の共同利用などが促進した。 ②研究全体会議(運営委員会)等を開催した場合は、会議(委員会)メンバー・出席者及び開催実績 (時期・議題・会議の成果等)を記載してください。 名称:第一回運営会議 開催日:2009年10月30日 場所:京都大学 参加者数:11名 出席者:石原、大垣、園部、蘆田、佐川、手塚、Nuki、高田、山成、八木 議題: 1. 各研究グループの紹介 2. 研究計画の妥当性についての検討 実績:研究計画の策定、確認をメンバーで行った。 名称:第二回運営会議 開催日:2011 年 11 月 17 日 場所:京都大学東京事務所 18 参加者数:11 名 出席者:石原、佐川、三浦、大垣、Nuki(京都大学)、匂坂、仁木(産総研)、須藤(農環研)、ナタポ ン、アティット(JGSEE) 議題: 1. 各研究グループからの報告 2. シナリオグループにおけるシナリオ状況 3. 研究成果のシナリオへの導入について 実績:各要素技術の開発状況と今後の普及状況の確認とエネルギーシナリオへの組み込み方 法の確認 ③実施期間中の代表機関ならびに国内外各参画機関の組織としての関与(支援)について記載してくださ い。 各参画機関の事務においては経費の管理をサポートしていただいた。特に、現地でのワークショ ップ開催においてはキングモンクト工科大学トンブリ校のスタッフに会場の手配から当日の受付、そ の他のサポートをしてもらった。また、国外実施機関との協定に関しては、大学間あるいは部局間の 協定のもとに個別の協定を結ぶという作業を行った。その際には、各機関の国際交流窓口の支援を 得た。 京都大学においては、タイ・バンコクに事務所を持っており、その機能を一部利用することにより円 滑にプログラムが実施できた。さらに、副学長・理事が本プログラムに注目し今後の研究体制につい て英文の研究紹介への掲載を通じて広く学外に広報する支援を行った。 ④形成された科学技術コミュニティの今後期待される国際連携への政策的波及効果を記載してください。 日本、タイ間の研究者協力はこれまでにも多く行われているが、今回の研究プログラムはタイのエ ネルギー政策に直接影響する研究テーマであり、タイの政府機関との連携が図れるようになった。今 回、タイ政府の機関を通じてタイの企業とも省エネルギー政策などにおいて対話が進んでおり、今後 は産業界も巻き込んだ形での共同研究に発展することが期待される。また、本プログラムで培った研 究スタイルは他の発展途上国にも適応可能であり、東南アジア諸国の研究者も注目している。 本プログラムでの活動などが認められ、JICA のプログラムである AUN/SEED-Net において、エネ ルギー工学分野の幹事校に京都大学が選ばれた。 ⑤今後期待される社会経済の活性化効果を記載してください。 省エネルギーや環境配慮が新たな価値が生むという意識がタイ国内に培われるようにより、サイア ムセメントグループにおいては更に省エネルギーを推進するための方策を検討しており、京都大学 との連携を更に強化し企業活動においても低炭素社会への取り組みが定着しつつある。 19 3.計画・手法(「Ⅱ.経費」とも関連) ①研究項目毎の予算配分方針について記載してください。 京都大学と産総研、農環研の予算配分については、研究が円滑に進むよう研究内容を精査し算 定した。京都大学内においては、年度当初の配分に加えて研究方針の変更や緊急時への対応する ため、全体の 2 割程度の予算を留保し再配分することにより柔軟に対応した。 ワークショップ等全体に関わるものについては一括管理し、予算執行を行い、煩雑な事務作業の 一元化と研究者の計画に従った予算執行を両立させる工夫を行った。 ②課題実施のためのプロジェクトマネジメントについて記載してください。 本研究においては、エネルギーシナリオへ全ての研究成果を取り組むという研究体制をとってお り、シナリオ研究を通じたマネジメントを行った。具体的には、エネルギーシナリオに組み込むために 必要な成果要素(コストと波及効果)を各研究テーマの目標とし、必要データのシナリオチームへの 提供をもって全体の研究進捗状況を確認した。タイの研究者との調整は、研究テーマごとに行った が必要なときは研究代表者が直接打ち合わせることによりプロジェクトを推進した。 このように、タイの温暖化ガス削減に向けての取り組みという大きな目標に対して、全体のシナリ オを研究計画の中心に据えることにより、その成果達成という目標を各研究項目で共有しながら研 究を進めるという手法はこのプログラムにおいては成功したと言える。しかし、研究が初期の計画通り 進展しない、あるいは初期の計画にない成果が出た時の対応には問題を残している。今回のプログ ラムにおいては、クリーンコール技術がバイオマスの高度利用にも有用であることがわかり、大きな成 果につながったが、必ずしも新しい知見が全体の枠組みの中に収まるとは限らないため注意が必要 である。 20 4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ①実施期間終了後、課題実施により培われた研究及びネットワークを継続する体制や仕組みに対 する工夫について記載してください。 これまでは、各分野の研究者がそれぞれにデータを収集分析し、その発展性について自己完 結する必要があり、研究者にとっては負担であった。一方、本プログラムで実施したシナリオ研究 をベースにした技術開発統合プログラムの研究手法は、各技術要素の成果がどのような形で将 来貢献するかについてエネルギーシステムの専門家が情報収集、分析を行い精度の高い予測 が可能となり、要素技術の研究者の負担を減らすだけでなく成果を分かりやすく伝えられる、目 標を定めて計画実施することができるなど、極めて有用な手法といえる。京都大学においては、 現在タイのエネルギーシナリオだけでなく、日本、中国、東南アジア、中東のエネルギーシナリオ 分析および世界モデルの構築を行なっており、本研究手法を国際展開する準備を整えている。 今後、世界各国に働きかけ本研究手法を更に発展させ高度化させる予定である。また、今回の 研究では、産業技術総合研究所、農業環境技術研究所との協力を得たが、これらの国内ネットワ ークについても今後充実をさせ、エネルギーを中心とした研究ネットワークの継続体制を整える。 発展途上国との共同研究推進については現地側の資金獲得についても協力する必要がある。 本プログラムの継続発展として褐炭の有効利用法開発については、今後実現に向けて 2011 年 度に「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」へ応募し FS に採用され 2012 年度に応 募中であり、タイとの共同利用を推進する。その他の部分についても、両国の研究資金援助制度 を活用し共同研究を継続していくための体制を整える。 エネルギーシナリオを中心とした全体研究としては日本タイを中心としてインドネシア、ベトナム などの東南アジア諸国の研究者との研究グループ SEE Forum のなかで継続して共同研究実施 体制を継続し、低炭素社会へのエネルギーシステムに関する教育研究を連携して行ない、東南 アジアの持続的な発展に寄与する。 ②これまでの研究成果を発展させる明確な研究・交流のビジョンがあれば記載してください。 SEE-Forum を通じてこれまでの研究を推進発展させることはもちろんであるが、それ以外に、本 プログラムの研究成果を高度人材育成プログラムへ波及させるために各提携校と以下のようなプ ログラムを計画している。 キングモンクット工科大学トンブリ校(JGSEE)とは 2012 年 5 月に京都大学との合同シンポジウム をバンコクで開催し、約 160 名の教員学生がエネルギーシナリオおよび関連技術開発に関して 研究発表、討論を二日間に渡って行った。さらに、今夏サマースクールの開催を計画しており、 本研究プログラムの成果を踏まえ教育への波及を目指すなど、今後も継続して共同研究、人材 21 育成を図っていく。 ラジャマンガラ工科大学タンニャブリ校とは EMSES(Eco-Energy and Materials Science and Engineering Symposium)の共同開催を 2012 年 12 月に予定し、更に毎年実施していくことについ て合意しており、共同研究体制を今後共推進する。 チュラロンコン大学を含む AUN 加盟大学とは、今後人間の安全保障開発に関連したエネルギ ー開発のための共同カリキュラムを開発しダブルディグリープログラムを推進し共同して本プログ ラム関連の人材育成を目指し、2012 年 5 月合同会議を実施した。 さらに、JICA、AUN/SEED-Net において、エネルギー工学分野の幹事校に京都大学が選ばれ、 この活動を通じてアセアン諸国のエネルギー教育、人材開発に本プログラムで得られた知見を 生かし域内の発展に寄与する予定である。 22 Ⅳ.実施結果・成果の詳細 (1)エネルギーシナリオ策定研究(京都大学エネルギー科学研究科) 研究代表者(エネルギー科学研究科・石原慶一・教授) 日本側:石原慶一(京都大学教授)、手塚哲央(京都大学教授)、Nuki Agya Utama(京都大学特別研究員) タイ側:Dr. Sorapong Pavasupree(ラジャマンガラ大学タンニャブリ校)、Dr. Athikom Bangviwat(キングモ ンクット工科大学トンブリ校)、Assoc. Prof. Shabbir H. Gheewala(キングモンクット工科大学トンブリ 校)、Asst. Prof. Chumnong Sorapipatana(キングモンクット工科大学トンブリ校)、Dr.Nattapong Chayawatto(キングモンクット工科大学トンブリ校) 〈手法の概略〉 タイを含む東南アジア諸国の経済発展過程は、日本やアメリカの経済発展過程とは必ずしも同じとは 限らない 1)。再生可能エネルギーの活用も重要な役割を担う 2)。本研究で対象とするタイにおける将来の エネルギーシナリオにおいては、経済、技術、政策の発展についてそれぞれについて予測する必要があ るが、発展途上国特有の不確実性を伴わざるを得ない。そこで、本研究では発展途上国のエネルギーシ ナリオを策定する際に、トップダウンとボトムアップの2つの手法を使い分けることとした。 ベースラインシナリオは 2010 年を基準年として 2030 年を最終年としている。図 1.1 に示す経済発展に ついてはトップダウン方法を、技術発展については、本プログラムで検討している天水田の高度利用技術 を含むボトムアップ手法を、さらに電力供給についてはタイ電力公社が公表している PDP2010 を参照した。 さらに、いくつかの部門においては LCA 手法を用いて解析したデータを使用した。これらのシミュレーショ ン結果をすべて、LEAP(Long-range Energy Alternatives Planning System)で整理・統合することによりベ ースラインシナリオを推定した。 23 一方、排出削減シナリオにおいては、本研究プログラムで開発している太陽電池(PV)、褐炭のクリーン 利用技術、バイオ燃料技術および省エネルギー技術を含めて検討した。また、電力供給に関しては、コ スト最小化、CO2 排出最小化、エネルギー・セキュリティの 3 つの評価尺度を考慮して、数理計画プログラ ムである GAMS (The General Algebraic Modeling System)を用いて最適化計算を行っている。そして、 LEAP を用いることにより、各種削減シナリオを推定した。そして、得られた結果とベースラインシナリオとを 比較することにより、各種排出削減シナリオの排出削減量を推定した。 〈前提条件〉 温暖化ガス排出量は,各燃料の排出源単位と燃料消費量の積によって求められるが、排出源単位に ついては 1996 年の IPCC 基準値を用いた。将来の燃料消費量については社会経済指標を用いた計量 経済モデルを作成し、社会経済指標の将来想定に基づいて求めた。社会経済指標に関する主要な前提 条件は以下の通りである。 ① GDP 成長率:年率4% ② 人口増加率:年率 0.6% ③ 原油価格上昇率:年率 5% ④ 石炭価格上昇率:年率 2% ⑤ 電力価格上昇率:年率 1% これらの値に加えて、エネルギー需給に関わる将来予測シミュレーションには、タイ政府機関の再生可 能・省エネルギー庁(DEDE)、エネルギー計画庁(EPPO)、国家経済社会開発会議(NESDB)などが公表し ている各種時系列統計を用いた。 全産業の燃料消費量の予測値は,次式により推定する。 ln FCi, j = ai, j + bi, j lnGDP + ci, j ln P + di, j D (1) ここで、FC は燃料消費、P は価格、D はダミー変数、i は燃料の種類、jは排出物の種類を表す。 燃料消費量の各産業への配分については、DEDE により推定された過去の燃料種別産業別燃料消費量 に基づき、燃料種別消費割合を求めて用いた。その結果を表 1.1 に示す。 表 1.1 製造業各部門における各種燃料消費割合 部門名 鉄鋼 非鉄 セメント パルプ 食品 非金属 木製品 繊維 その他 石炭 28.6% 0.0% 27.2% 62.2% 1.9% 61.8% 0.0% 10.3% 8.5% 石油 59.0% 39.8% 25.5% 36.1% 15.3% 12.5% 60.8% 84.6% 84.3% バイオ 0.0% 0.0% 13.2% 0.0% 81.3% 11.2% 38.3% 0.0% 0.0% 24 LPG 12.5% 20.9% 5.5% 1.8% 0.6% 1.5% 0.9% 3.4% 7.2% 天然ガス 0.0% 39.3% 28.6% 0.0% 1.0% 13.0% 0.0% 1.7% 0.0% 輸送業においては、航空輸送、自動車輸送、鉄道輸送、船舶輸送のそれぞれについて、ジェット燃料、 ガソリン、ディーゼル油、LPG, LNG、CNG(圧縮天然ガス)の時系列データから、式(1)を用いて推定した。 また、民生部門、農業部門においては製造業と同様に DEDE の推定結果に基づいて燃料種別エネルギ ー消費量を求めた。表 1.2 にその結果を示す。 また、電力消費量については PDP2010 を元に推定した。そして、その推定結果を、工業(44.7%)、商業 (24.6%)、民生(21.4%)、農業(0.2%)、その他(9.1%)の比率を用いて 5 つのエネルギー最終消費部門に配分 した。 表 1.2 民生、農業部門における各種燃料消費割合 部門名 民生 農業 石炭 20.7% 0.08% 灯油 0.32% 0.02% ガソリン 19.12% ディーゼル油 0.02% 80.44% 燃料油 0.31% 0.33% バイオマス 78.66% - 〈結果〉 目標年を 2030 年に設定して、それぞれの年までに当プログラムで研究開発している革新的エネルギ ー技術が普及する量を推定した。その結果の一例を以下に示す。 検討したシナリオは、(1)技術固定シナリオ、(2)政府計画シナリオ、(3)気候変動防止シナリオの 3 通 りである 3)。 (1) 技術固定シナリオ(Frozen Technology Scenario: FT) 前述のベースラインシナリオに対応するものであり、2010 年から 2030 年までの 20 年間、新たなエネ ルギー関連技術が導入されないとの想定に基づいたシナリオである。 (2) 政府計画シナリオ(Official Plan Scenario: OP) タ イ 政 府 の エ ネ ル ギ ー 計 画 で あ る 、 PDP2010(Power Development Plan (2010-2030)), AEDP(Alternative Energy Development Plan (2012-2021) ) and EEDP(20-Year Energy Efficiency Development Plan (2011-2030)) に基づいたシナリオであり、本プロジェクトのクリーンコール技術の 導入も想定されている。 (3) 気候変動防止シナリオ(Climate Plan Scenario: CP) タイ政府のエネルギー計画の最新の内容を考慮すると共に、本プロジェクトで開発されている、クリー ンコール技術、最新太陽電池技術、バイオマス利用技術、各種省エネルギー技術の導入を想定した シナリオである。 25 図 1.2 温室効果ガス排出量のシナリオ間比較 図 1.3 技術別温室効果ガス排出削減効果 シナリオ別温室効果ガス排出量のシミュレーション結果を図 1.2 および図 1.3 に示す。 2030 年における温室効果ガス排出量は、FT シナリオでは 500MTCO2e を上回り、OP シナリオで284 MTCO2e、CP シナリオで、219MRCO2e となる。また、原子力発電所の導入による排出削減効果は OP シ ナリオで 17MTCO2e、CP シナリオで 12MTCO2e と推定されている。これらのシミュレーション結果より、各 26 種技術の開発の効果を、定量的に認識することが可能となる。 なお、これらの分析に用いた情報の収集とシミュレーションモデルの構築は日本側とタイ側との共同作 業で進められたものであり、今後のタイにおける数理モデル分析に基づいた新しい政策策定手法の導入 に貢献するものと考えられる。また、技術開発するグループとシナリオ策定グループとの連携作業の経験 は、今後のタイにおける大学や研究機関の新しい研究の形態を築くことと期待される。 [成果発表等] 1) N. Agya Utama, N. Chayawato, T. Tezuka and K.N. Ishihara, Energy National Energy Policy; a Least Cost Option, 2011 IEEE First Conference on Clean Energy and Technology (CET) 2) N. Agya Utama, N. Chayawato, T. Tezuka, K.N. Ishihara and Qi Zhang, Power Generation Mixture in South East Asia Region, 4th International Conference on Sustainable Energy and Environment (SEE 2011): A Paradigm Shift to Low Carbon Society 27-29 February 2012, Bangkok, Thailand 3) N. Chayawato, B. Fungtammasan, N. Agya Utama, T. Tezuka and K.N. Ishihara, Energy Sector Scenario for Low Carbon Society in Thailand towards 2050, 2011 IEEE First Conference on Clean Energy and Technology (CET) 27 (2)クリーンコール技術研究 研究代表者(京都大学大学院工学研究科・三浦孝一・教授) 日本側:三浦孝一(京都大学教授)、蘆田隆一(京都大学助教) タイ側:Assoc.Prof.Bundit Fungtammasan(キングモンクット工科大学トンブリ校)、 Asst. Prof.Suneerat Pipatmanomai(キングモンクット工科大学トンブリ校)、 Asst. Prof. Nakorn Worasuwannarak(キングモンクット工科大学トンブリ校) ①炭のクリーン利用技術の開発1) 〈背景と目的〉 タイ国においては、エネルギー安定供給と地球環境対策の観点から、自国で産出する灰分、硫黄分を 大量に含む低品位の褐炭とインドネシア等から輸入する低品位の石炭のクリーンで効率的な利用法の開 発と、大量に産出するバイオマス廃棄物の効率的な利用技術の開発が焦眉の課題となっている。本研究 では、研究担当者らが開発した「溶剤改質法」という新規な技術によって、低品位炭、バイオマス廃棄物 を原料種に依存しない低分子量成分(Soluble)に高収率で変換し、クリーンにかつ効率的に利用する技 術の開発を目的としている。 〈実験方法〉 試料には、表 2.1 に示す試薬のセ CE HE LN RS NP LC EFB PE MM LY AD TH ルロース (CE)、ヘミセルロース (HE)、 Ultimate analysis (wt%, d.a.f.) リグニン (LN)、4 種のバイオマス (RS: Rice straw, NP: Napier grass, LC: Leucaena, EFB: Oil palm empty fruit C 41.2 45.7 60.3 45.7 47.6 49.5 49.8 59.7 66.4 66.7 72.9 80.7 H 6.1 6.8 4.9 5.9 6.8 5.9 6.6 4.4 3.9 4.7 5.1 5.0 N 0.3 0.3 0.3 0.9 1.4 0.8 1.6 2.2 1.9 0.9 1.0 2.0 O+S(diff.) 52.4 47.2 34.5 47.5 44.2 43.9 42.0 33.7 27.8 27.7 21.0 8.2 Proximate Analysis (wt%, d.b.) bunch)、泥炭 (PE)、タイ産褐炭 (MM)、 VM 豪州産褐炭 (LY)、 およびインドネシ ア産亜瀝青炭 (AD, TH) を用いた。 92.4 78.3 66.1 69.5 75.7 85.1 62.7 46.1 50.2 51.5 51.7 41.6 FC 7.6 20.3 20.6 11.4 16.9 14.1 22.0 40.2 24.0 47.0 46.5 50.2 Ash 0.0 1.4 13.3 19.1 7.3 0.8 15.4 13.6 25.8 Moisture (wt%, a.r.) 4.3 5.7 13.0 9.9 3.3 10.9 32.4 12.2 56.3 21.2 10.3 5.5 1.5 1.8 8.2 下部に口径 0.5 μm の SUS 製のフ ィルターを設けた容量 350 cm3 の SUS 製オートクレーブに、水分を含んだままの試料約 13 g-daf を充填し、 1-メチルナフタレンを約 300 cm3 導入した。350℃までオートクレーブを加熱後、1 h 保持し、その温度でフ ィルター下のバルブを開放することで抽出液と抽出されない成分 (Residue) をろ過分離した。取り出した 抽出液を常温まで冷却、ろ過することにより、常温では析出する成分 (Deposit) と常温でも溶剤に可溶な 成分に分離した。後者の成分について、ロータリーエバポレータで 140℃において溶剤を除去した後に 回収される固体成分を Soluble、溶剤とともに蒸発する成分を Liquid とした。 28 〈結果と考察〉 まず、いずれの試料から得 られた固体生成物も水分をほ とんど含んでいなかった。本法 では水の相変化を伴わずに水 を試料から除くことができ、か つ処理後には溶媒と水をデカ ンテーションにより容易に分離 できるため効率のよい脱水が 行えると言える。本法により各試料を処理し た時の炭素収支を図 2.1 に示す。バイオマ ス、泥炭、褐炭の処理に伴い CO2 や CO が 生成しており、含酸素官能基の分解を伴い 脱酸素(改質)が進行したことがわかるが、 CO2 と CO の生成による炭素のロスは多くて も 1 割程度であった。泥炭、褐炭、亜瀝青 炭では、20%~30%の炭素が Soluble に転化 し、50%~60%の炭素が Residue として回収 された。一方、バイオマス試料では、LN を 除き、40%~60%もの炭素が Soluble に転化 めて小さいが、本法においてはバイオマス中 の尐なくとも 7 割以上の炭素を固体の生成 物として回収したことになる。 Soluble の炭素含有率は 80.0~85.0%、水 素含有率は 6.1~7.7% と、いずれの試料に Normalized displacement [-] のタールを放出するため固体炭素収率は極 0.0 1.0 NP -0.2 MM -0.4 HE -0.6 LN Soluble PE AD 0.8 0.6 RS LC 0.4 TH LY -0.8 0.2 EFB CE -1.0 おいても瀝青炭並みに改質された成分とな 0 100 200 300 400 500 0.0 600 Relative weight [kg/kg-sample, d.a.f.] した。通常のバイオマスの熱分解では大量 o Temperature [ C] っていることがわかった。さらに、図 2.2 の原 子比 H/C 値と O/C 値の関係に示すように、 大きく原子比の異なる低品位炭素資源から、ほぼ同じ原子比の Soluble や Deposit が得られることが明ら かとなった。元素組成から原料と生成物の高位発熱量 HHV を見積もったところ、生成物の HHV は原料 の HHV よりも、サンプル基準で著しく向上したことがわかった。さらに、原料基準での生成物の HHV の 合計は、原料の HHV とほぼ変わらないか微増しており、本法が原料の熱量を失わない効率的な方法で 29 あることを示している。Soluble や Deposit に は、いずれの試料から得られたものであって も灰分がほとんど含まれず、非常にクリーン な資源に転換されたと言える。LD-TOFMS によって分子量分布を測定したところ、 Soluble はいずれも分子量 500 以下、Deposit は分子量 800 以下の成分から成っており、 それらの分子量分布は原料によらずほぼ同 じであった。 図 2.3 には Soluble の熱重量分析、熱機械 分析の結果を示す。Soluble の性状が原料 種に依らないという、ここまでの結果を反映し、 熱重量変化曲線、熱機械分析曲線ともに、異なる原料から得られた Soluble のものがすべてほぼ一致した。 Deposit でも両分析結果は、ほとんど原料に依らなかった。 また、Soluble は熱分解の始まる 400℃付近までに単なる揮発により 7 割前後もの重量を消失するほど、 かつ 100℃までに溶融するほど軽質であった。 以上のように比較的均質でクリーンな Soluble や Deposit は、クリーン燃料としてのみならず、化学原料 源や炭素材料の原料などとして利用できる可能性がある。一例として、褐炭やバイオマス廃棄物を改質し て得られた Soluble から炭素繊維の製造を試み、紡糸、不融化、炭素化に成功し、図 2.4 に示すような炭 素繊維が製造できることを示した。 〈まとめ〉 バイオマス、泥炭、褐炭を含む各種低品位炭素資源を 1-メチルナフタレン溶剤中、350℃で脱水・改質 し、瀝青炭並みに改質された、性状が原料種に依らないクリーンな低分子量成分を大量に回収すること に成功した。性状が原料種に依らない成分を回収できたことは、改質した低品位炭を、さらにエネルギー 変換、あるいは化学原料へと転換する際に、プロセス上大きなメリットになると言える。さらに提案法は、い ずれの低品位炭素資源に対しても、熱量を失わない高効率な方法であることが明らかとなった。 ②クリーンコール技術開発を担う人材育成のための研究者交流 3 ヵ年の間の活動を表 2.2 にまとめた。年に 2~3 回、京都大学、あるいは JGSEE にて、研究の打合せ を行った。また、毎年、京都大学側の研究室に、JGSEE の教員あるいは博士学生を受け入れ、共同研究 活動を行った。JGSEE の Mr. Wannapeera は最長 5 ヶ月間、京都大学で研究を行い、論文 1)にまとめられ るような成果を上げた。また、H21 年度(2009 年度)、H23 年度(2011 年度)にタイ褐炭炭鉱調査を実施、 H22 年度(2010 年度)には、京都大学、JGSEE の学生による発表で構成されるクリーンコール技術に関す るセミナーを開催し両国の若手人材の交流の場を設けた(図 2.5)。 30 表 2.2 3年間の各種活動 Activities of 2009 Date Meeting Topics Venue Japanese Attendee Thai Attendee 1 Oct. 20, 2009 -Discussion on Collaborative research - Introduction of coal utilization in Thailand Kyoto University, Katsura Campus K. Miura R. Ashida 26 – 29, 2 Oct. 2009 - Experimental work using apparatuses developed by Kyoto University, Kyoto University, Katsura Campus R. Ashida Bundit Fungtammasan Suneerat Pipatmanomai Nakorn Worasuwannarak Nakorn, W. 3 Jan. 29,2010 - Introduction of coal utilization technologies in Japan - Discussion on clean coal technology King Mongkut’s University Technology Thonburi 4 Feb. 1, 2010 - Field survey of coal mine and power plant in Thailand - Lectures on coal utilization Mae Moh mine, Lampang, Thailand K. Miura (Other coal researchers from both universities and companies in Japan) K. Miura (Other coal researchers from both universities and companies in Japan) 5 March 16, 2010 -Discussion on King research project of 2010 Mongkut’s University Technology Thonburi K. Miura Bundit, F. Suneerat, P. Nakorn, W. Boonrod Sajjakulnukit Bundit, F. Suneerat, P. Nakorn, W. Boonrod, S. (People from EGAT) Bundit, F. Suneerat, P. Nakorn, W. Boonrod, S. 4 people from EGAT Activities of 2010 Date Meeting Topics Venue Japanese Attendee 1 Oct. 24-31, 2010 -Discussion on collaborative research Kyoto University, Katsura Campus K. Miura, R. Ashida, Nakorn, W. and Li Xian 24– Nov. 18, 2 Oct. 2010 - Experimental work using apparatuses developed by Kyoto University - Student seminar on clean coal technology 3 Nov. 21, 2010 4 March 1-10, 2011 Kyoto University, Katsura Campus FuramaXclui sve AsokeSukhumvit Hotel, Bangkok, Thailand -Discussion on Kyoto research project of 2011 University, Katsura Campus Thai Attendee K. Miura, R. Ashida, Nakorn, W. and Li Xian Janewit Wannapeera K. Miura, M. Kawase, R. Ashida, Li Xian, and 9 students Bundit, F. Suneerat, P. Nakorn, W., and 6 students W., and K. Miura, R. Ashida, Nakorn, several members and Li Xian Activities of 2011 Date Venue Japanese Attendee Collaborative research Kyoto University, Katsura Campus 2 Aug. 15, 2011 - Field survey of coal mine and power pl- Discussion on cooperative work - Mae Moh mine, Lampang, Thailand 3 Aug. 16, 2011 - Work shop on clean coal technology King Mongkut’s University Technology Thonburi 4 Aug. 17,2011 pl- Discussion on cooperative work Visit research facility at PTT RTI PTT Research and Technology Institute K. Miura, R. Ashida, Janewit Wannapeera and Li Xian (PhD Candidate at JGSEE) K. Miura Bundit, F. (Other coal Suneerat, P. researchers from Nakorn, W. both universities Boonrod, S. and companies in (People from Japan) EGAT) K. Miura Bundit, F. (Other coal Suneerat, P. researchers from Nakorn, W. both universities Boonrod and companies in Sajjakulnukit Japan) K. Miura Bundit, F. (Other coal Nakorn, W. researchers from Suchada, B. both universities (People from PTT and companies in RTI) Japan) 4 Oct. 18 – Oct. 21, 2011 -Discussion on research project of 2011 -Discussion on the JSTJICA SATREPS program Kyoto University, Katsura Campus 1 March 1-July 31, 2011 Meeting Topics 31 K. Miura, R. Ashida, and Li Xian, and other members Thai Attendee Bundit, F., Suneerat, F. Nakorn, W. Suchada, B. [成果論文] 1) Wannapeera, Janewit; Li, Xian; Worasuwannarak, Nakorn; Ashida, Ryuichi ; Miura, Kouichi : , 「Production of High-Grade Carbonaceous Source Materials and Fuel Having Similar Chemical and Physical Properties from various Biomasses by the Degradative Solvent Extraction」, Energy & Fuels, submitted 32 (3)バイオ燃料研究 研究代表者(京都大学大学院エネルギー科学研究科・坂志朗・教授) 日本側: 坂志朗(京都大学教授)、河本晴雄(京都大学准教授)、 宮藤久士(京都大学助教※平成22年3月まで)、山内一慶(京都大学特定助教) タイ側: Somkiat Ngamprasertsith(チュラルンコン大学理学部准教授) 再生産可能で莫大な資源量を誇るバイオマス資源の効率的な利用システム開発は、低炭素化社会の 実現において重要な課題である。図 3.1 に示すように、本研究グループでは、京大独自の超臨界流体技 術及び熱分解制御技術を用いて、廃バイオマスや種々のバイオマス資源からの、バイオエタノール、バイ オディーゼルなどの高品位液体燃料、バイオプラスチックスなどのバイオ材料及びバイオケミカルスへの 効率的な変換技術について研究開発を進めてきた。まず、バイオマス資源は多種多様であり、それらの 化学組成はそれぞれのバイオマスの特性を反映している。そこで、可能な限り多くのバイオマスを東南ア ジアなどから収集し、それらの化学組成の分析を行った。また、その過程で、どのバイオマス種にも適用 可能な化学組成の定量分析法を検討した。次に、超臨界流体技術によるバイオマス変換技術に関するも のとして酢酸発酵を用いたバイオエタノール生産やニッパヤシからの従来法によるバイオエタノール生産 について検討した。さらに、メタノール、カルボン酸エステル及び中性エステルによる超臨界条件下での バイオディーゼル燃料製造技術について、種々のバイオマスに対して多面的に検討を加えてきた。さら に、東南アジアを代表するバイオマスとしてアブラヤシを取り上げ、その特性化と有効利用について検討 した。また、熱分解制御技術によるバイオ燃料やバイオケミカルス生産についての最近の成果をとりまと めた。これら一連の研究により、環境負荷の低減をはかり、地球の温暖化の抑制に寄与するバイオマスの ゼロエミッション型利用法について鋭意検討を加えた。 Fig. 3.1 Research activities of biofuel research grouop 1). なお、本バイオ燃料研究を進めるにあたり参画したメンバーは、日本側の代表者である坂志朗教授(京 都大学エネルギー科学研究科)及びタイ側の代表者である Somkiat Ngamprasertsith 准教授(チュラルン コン大学理学部)をはじめ以下の通りである。タイからの京都大学における共同研究者として、招聘研究 33 者の Bongotrat Pitiyont 氏(カセサート大学講師)及び Natthanon Phaiboonsilpa 氏(博士研究員)を受け 入れた。また、グローバル COE 国際シンポジウムにおいて、Sumate Chaiprapat 氏(プリンスオブソン クラ大学エネルギーシステム研究所助教授)には基調講演を、Suneerat Pipatmanomai 氏(キン グモンクト大学助教授)及び Navadol Laosiripojana 氏(キングモンクト大学講師)にはバイオ エネルギーセッションでの講演をしていただき、京都大学の研究者との交流を行った。さらに、 Sumate Chaiprapat 氏の所属するプリンスオブソンクラ大学との共同研究を今後さらに進めてい く予定である。 招聘研究者:Bongotrat Pitiyont(カセサート大学講師、ニッパヤシ関係) Natthanon Phaiboonsilpa(京都大学博士研究員、超・亜臨界流体によるバイオ燃料化) 招待講演者:Sumate Chaiprapat(プリンスオブソンクラ大学エネルギーシステム研究所助教授) Suneerat Pipatmanomai(キングモンクト大学助教授) Navadol Laosiripojana(キングモンクト大学講師) 3-1) 種々のバイオマス資源の化学組成 バイオマスは化石資源に替わる有機物資源としてエネルギーや有用ケミカルスへの化学変換が期待さ れているが、バイオマスは多種多様であり、それらの有効利用のためには化学組成を明らかにすることが 極めて重要である。しかしながら、どのバイオマスに対しても分析可能な統一した化学組成の定量法は未 だ提案されていない。そこで、本項では、どのバイオマス種に対しても化学組成の定量分析が可能な手 法を開発し、この手法を用いて分類学上異なる種々のバイオマスの化学組成を明らかにした上で、それ らのバイオマスのバイオリファイナリー原料としてのポテンシャル評価を行った。 まず、バイオマスの王者である木材の化学組成の定量分析法(図 3.2)を用いて種々のバイオマスを分 析した結果、表 3.1 に示すように、バイオマス種によって定量値は大きく異なり、木材の定量法は木材以 外のバイオマスには適用できないことを明らかにした ス及び構成単糖の定量法 2) 。そこで、種々のバイオマスに対するホロセルロー 3, 4) 、さらにリグニンの定量法などを見直すことで、どのバイオマス種に対しても 化学組成の定量評価が可能な分析法(図 3.3)を確立した 2)。この新たな改良分析により得られた結果は 表 3.2 の通りで、独立して行ったそれぞれの分析値の合計がほぼ 1,000g/kg の定量値を示している。 Oven-dried sample 600˚ C, 4 h Ash Acetone extraction Extractives Extractives-free sample 72% H2SO4 NaClO2 Holocellulose Acid-soluble Klason 17.5% NaOH aq Cellulose Fig. 3.2 Hemicellulose Lignin Traditional wood analytical method to quantify its chemical composition. 34 Table 3.1 Chemical composition of various biomass species determined by the traditional wood analytical method (g/kg) 2). Biomass Japanese cedar Japanese beech Bamboo Rice Straw Husk Corn Leaves Cob Oil palm Trunk a Cellulose Lignin AcidKlason soluble 330 3 212 30 333 18 Holocellulose Cellulosea Hemicellulose b 628 732 737 383 439 394 245 293 343 666 707 345 360 321 347 317 362 579 681 341 277 238 404 600 306 294 = α-Cellulose b Hemicellulose Extractives Ash Total 34 19 38 3 6 12 998 999 1138 18 13 45 13 133 168 1179 1263 170 154 20 29 47 27 110 32 926 923 247 39 36 41 963 = Holocellulose – (α- Cellulose) Oven-dried sample 600˚ C, 4 h Ash Acetone extraction Extractives Extractives-free sample 72% H2SO4 NaClO2 HClO4 Ash-1 Protein-1 Holocellulose 98% H2SO4 Acid-soluble Klason Ash-2 Protein-2 17.5% NaOH aq Starch Cellulose Hemicellulose Lignin Protein Fig. 3.3 Proposed new analytical method applicable to various biomass species to quantify their chemical composition 2). 35 Table 3.2 Chemical composition of various biomass species as determined by the proposed new analytical method (g/kg) 2). Biomass Japanese cedar Japanese beech Bamboo Rice Straw Husk Corn Leaves Cob Oil palm Trunk a Cellulose HoloCellulose a cellulose Hemicellulose b Lignin AcidKlason soluble 328 3 210 30 193 18 606 723 705 379 439 394 227 284 311 563 533 345 360 218 173 184 228 513 667 341 277 172 390 590 306 284 = α-Cellulose b Extractives Protein Starch Ash Total 34 19 38 5 6 13 1 5 11 3 6 12 980 999 990 18 13 45 13 47 16 9 2 133 168 999 973 126 151 20 29 47 27 181 56 2 21 110 32 999 983 243 39 36 6 29 41 984 Hemicellulose = Holocellulose - α-Cellulose この定量分析法(図 3.3)を用い、表 3.3 に示す裸子植物の針葉樹、被子植物の多年生双子葉類であ る広葉樹、被子植物の多年生単子葉類であるヤシ科植物や単年生単子葉類である稲わら、サトウキビの 残渣バガス、さらには琵琶湖の大型水生植物及び褐藻、緑藻の藻類など、32 種のバイオマスについて化 学組成を詳細に定量評価した 5)。これら 32 種のバイオマスは、表 3.4 及び図 3.4 に示すように分類学上 異なるもので、多岐に渡っている。これらに対し、得られた化学組成を表 3.5 に示しているが、これによっ て、バイオマスの化学組成は種ごとに異なるものの、分類学上同一のグループでは類似の化学組成を有 することを明らかにした 5)。また、得られた化学組成はそれぞれのグループのバイオリファイナリー原料とし てのポテンシャルを明らかにする上で極めて重要な知見を提供するものである。例えば、琵琶湖の大型 水生植物であるセンニンモ、オオカナダモ、オーフサモ、クロモ、コカナダモを分析し、バイオリファイナリ ー原料としてのポテンシャル評価を行なった結果、表 3.5 の No.20~No.23 に示すように、これら藻類はタ ンパク質や無機成分が多く、炭水化物が尐ないため、エタノール燃料の原料としてはふさわしくなく、その 他の利用が望ましいことを明らかにした 6)。 次に、得られた化学組成をベースに、セルロース、ヘミセルロース、リグニン及びタンパク質などの化学 組成間の相関関係を明らかにし、得られた相関関係から、化学組成を詳細に分析することなくバイオマス の化学組成を予測する新たな方法を提案した。また、それぞれのバイオマス種に対し、バイオ燃料、バイ オケミカルスなどのバイオリファイナリー原料としてのポテンシャルを評価し、それぞれのバイオマスグルー プの最適な利用の方策を明らかにした 5)。 36 Table 3.3 Sampling details of the collected biomass species 5). Sample No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 Biomass samples Scientific name Sampling time Sampling site Japanese cedar Cryptomeria japonica 12/2000 Japan Japanese beech Fagus crenata 11/2000 Japan Ofusa-mo Myriophyllum aquaticum 04/2010 Japan Bamboo Phyllostachys heterocycla 06/2008 Japan Rice straw Oryza sativa 10/2007 Japan Rice husk 10/2007 Japan Wheat straw Triticum aestivum 08/2008 Japan Corn leaves Zea mays 08/2010 Japan Corn cob 08/2010 Japan Erianthus Erianthus arundinaceus 09/2010 Japan Miscanthus Miscanthus sinensis 09/2010 Japan Bagasse Saccharum officinarum 08/2008 Japan Sugarcane leaves Yoshi Phragmites australis 04/2011 Japan Giant reed Arundo donax 05/2011 USA Oil palm trunk Elaeis guineensis 08/2008 Malaysia Nipa frond Nypa fruticans 04/2009 Thailand Sugarpalm frond Borassus flabellifer 02/2010 Thailand Water hyacinth Eichhornia crassipes 10/2011 Japan Sennin-mo Potamogeton maackianus 07/2010 Japan Okanada-mo Egeria densa 07/2010 Japan Kuro-mo Hydrilla verticillata 07/2010 Japan Kokanada-mo Elodea nuttallii 07/2010 Japan Akamoku Sargassum horneri 07/2010 Japan Sargassum Sargassum sp. 01/2011 Japan Sea lettuce Ulva lactuca 08/2010 Japan Chladophora Chladophora sp. 04/2011 Madagascar Caulerpa Caulerpa taxifolia 08/2010 Japan Sea grape Caulerpa lentillifera 08/2010 Japan Chlorella Chlorella vulgaris 08/2010 Japan Euchemia Eucheumia sp. 04/2011 Madagascar Spirulina Spirulina sp. 04/2011 Madagascar 37 Table 3.4 Taxonomy of the biomass species studied 5). Domain Eukaryota Kingdom Plantae Sub-kingdom Division Class Phanerogamae Gymnosperm (Spermatophytes) Angiosperm Dicotyledon Monocotyledon Family Subfamily Taxodioideae Fagaceae (hardwood) Rhododendroideae Fagus crenata Haloragaceae Theoideae Poaceae Bambusoideae Pooideae Panicoideae Arundinoideae Aracaceae (Palmae) Arecoideae Nypoideae Coryphoideae Pontederiaceae - Potamogetonaceae - Hydrocharitaceae - Cryptogamae Heterokontophyta Phaeophyceae Sargassaceae - Chlorophyta Ulvophyceae Ulvaceae - Bryopsidophyceae Caulerpaceae - Prokaryota Eubacteria - Trebouxiophyceae Chlorellaceae - Rhodophyta Rhodophyceae - Cyanophyta Cyanophyceae 38 Cryptomeria japonica Cupressaceae (softwood) Ehrhartoideae Protista Species Pseudanabaenaceae Spirulinoideae Common name Japanese cedar Japanese beech Myriophyllum aquaticum Phyllostachys heterocycla Oryza sativa Triticum aestivum Zea mays Erianthus arundinaceus Miscanthus sinensis Saccharum officinarum Phragmites australis Ofusa-mo, Parrotfeather Arundo donax Elaeis guineensis Nypa fruticans Borassus flabellifer Eichhornia crassipes Potamogeton maackianus Egeria densa Hydrilla verticillata Elodea nuttallii Sargassum horneri Sargassum sp. Ulva lactuca Chladophora sp. Caulerpa taxifolia Caulerpa lentillifera Chlorella vulgaris Eucheumia sp. Spirulina sp. Giant reed Bamboo Rice Wheat Corn Erianthus Miscanthus Sugarcane Yoshi, Common reed Oil palm Nipa Sugarplam Water hyacinth Sennin-mo Okanada-mo Kuro-mo Kokanada-mo Akamoku Sargassum Sea lettuce Chladophora Caulerpa Sea grape Chlorella Eucheumia Spirulina Fig. 3.4 Collected biomass species with their respective sample numbers 5). 39 Table 3.5 Chemical composition of various biomass species (g/kg of the oven-dried biomass basis) 2, 5, 6). Sample No. Biomass 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 Japanese cedar Japanese beech Ofusa-mo Bamboo Rice straw Rice husk Wheat straw Corn leaves Corn cob Erianthus Miscanthus Bagasse Sugarcane leaves Yoshi Giant reed Oil palm trunk Nipa frond Sugarpalm frond Water hyacinth Sennin-mo Okanada-mo Kuro-mo Kokanada-mo Akamoku Sargassum Sea lettuce Chladophora Caulerpa t. Sea grape Chlorella Euchemia Spirulina Cellulosea Hemi-cellulose b 379 439 263 394 345 360 371 268 343 378 337 383 331 344 416 306 324 317 185 347 262 227 436 53 203 80 49 102 56 50 60 86 227 284 194 311 218 173 340 248 328 252 248 309 265 284 242 284 291 313 293 88 181 141 93 266 428 421 339 354 207 424 660 210 Lignin Klason Acid-soluble 328 210 146 193 184 228 180 132 151 234 183 209 179 185 225 243 179 191 84 131 54 64 61 129 60 30 0 29 21 0 11 0 a Cellulose b 3 30 29 13 18 13 20 19 29 20 40 15 18 17 24 39 17 18 17 18 17 15 15 13 13 3 0 8 5 0 7 0 Protein 5 6 162 18 47 16 13 165 58 12 83 17 34 26 11 6 23 30 210 229 226 228 137 180 96 120 108 261 146 423 75 502 Extractives Starch 34 19 53 38 45 13 22 51 28 27 28 35 75 26 33 36 19 45 24 40 26 67 52 96 19 41 2 65 54 9 10 30 1 5 2 11 9 2 5 3 19 4 5 2 12 3 4 29 8 10 12 20 16 18 23 5 1 7 71 8 3 1 10 1 = α-Cellulose Hemicellulose = Holocellulose - α-Cellulose (Holocellulose was ash, lignin and protein-corrected) 40 Ash Total 3 6 112 12 133 168 37 109 35 39 54 20 50 86 32 41 105 50 174 105 201 223 158 229 171 257 402 167 500 76 150 144 980 999 961 990 999 973 988 995 991 966 978 990 964 971 987 984 966 974 999 978 983 983 975 970 991 959 971 994 992 983 983 973 3-2) バイオマス資源の超(亜)臨界流体によるバイオ燃料の創製 a.バイオマス資源の超(亜)臨界水処理によるバイオエタノール生産 現在 、主要なバ イオエタノール製造技術と して、硫酸による酸加水分解と酵母( Saccharomyces cerevisiae)によるアルコール発酵法があり、すでに実用化レベルにある。しかしながら、研究者のほとんど はこのアルコール発酵についての研究を今なお進めており、すでに 190 年の歴史があるが、実用化され ていない。当研究室でも同様の研究を進めてきた 7-9) 。しかしながら、この発酵法は元来、酒造のための 工程であるため、リグノセルロース全体をベースに考えると、その炭素利用効率が悪く、発酵過程で 1 mol のグルコースから 2 mol の二酸化炭素を排出するなどの問題点がある。例えば、エタノール製造工程にお ける炭素利用効率を比較すると、従来法であるアルコール発酵では、スギ材の場合、乾物 1t より理論エタ ノール最大収量 362L に対し、実用レベルでは 229L しか得られていないのが現状である。 これらの問題点を解決するため、図 3.5 に示すような加圧熱水処理法・酢酸発酵法・水素化分解法を 組み合わせた新規のバイオエタノール生産プロセスを提案した。本法は炭素利用効率がより高いエタノ ール生産プロセスを目指しており、乾物 1t あたりの理論最大収量はスギ材で 1,135L に達し、既に 820L のエタノール生産を可能にする要素技術を開発している。 Fig. 3.5 本研究課題提案のリグノセルロースからの高効率エタノール生産プロセス 10) 加圧熱水処理によるリグノセルロースの加水分解法については、分類学上異なる4種の植物から 5 種 類のバイオマスとして、スギ(裸子植物、針葉樹) 11)、ブナ(被子植物、双子葉植物、広葉樹) 12)、ニッパヤ シ(被子植物、単子葉植物、ヤシ科) 13)、稲わら及びもみ殻(被子植物、単子葉植物、イネ科)を対象に、 当研究室で開発された半流通型加圧熱水処理装置を用いて 2 段階加圧熱水処理条件について検討を 行った。その結果、1 段目処理条件(主にヘミセルロースを分解)として 230oC/10MPa/15 分が、2 段目処 理条件(主にセルロースを分解)として 270oC/10MPa/15 分が最適条件に近いことが明らかとなった 11, 12)。 図 3.6 にこれらのバイオマスから 2 段階加圧熱水処理によって得られた分解物収量を示す。すべてのバイ オマス種において 80 重量%以上の加圧熱水可溶部が得られた(絶乾重量ベース)。特に、ブナ、ニッパ ヤシ、稲わら、もみ殻では、2 段階加圧熱水処理により 90%以上が分解・可溶化することが明らかとなった 12, 13) 。これら得られた分解生成物は、ウロン酸を含むセルロース及びヘミセルロース由来糖類、またこれら の脱水化物や過分解物、さらにリグニン由来分解生成物などであった 14-16)。 41 Fig. 3.6 5 種のバイオマスから得られた分解物収量(絶乾重量ベースの wt%) 11-13) また、半流通型 2 段階加圧熱水処理に 1%の酢酸を添加することにより、 1 段目処理条件: 230oC/10MPa が 210oC/10MPa へ、2 段目処理:270oC/10MPa が 260oC/10MPa へと処理温度がそれ ぞれ 10~20oC 低温領域へ移動し、条件の緩和が可能であることが明らかになった 17) 。さらに、図 3.7 に 示すように、ブナにおいては酢酸を添加することによって分解物収量がほとんど変化しなかったが、スギ においては分解物収量が増加することが明らかとなった。これはスギヘミセルロースにはアセチル残基が 尐ないことから、酢酸添加の効果がより有効に認められたためと考えられる 18)。 Fig. 3.7 スギ及びブナを用いた酢酸添加 2 段階加圧熱水処理によって得られた分解物収量 18) 無添加条件:1 段目処理(230oC/10MPa/15 分)、2 段目処理(270oC/10MPa/15 分) 1wt% 酢酸添加:1 段目処理(210oC/10MPa/15 分)、2 段目処理(260oC/10MPa/15 分) 次に、加圧熱水処理分解物 を対象とする酢酸発酵法の開発では、嫌気性微生 物 Clostridium thermoaceticum と C. thermocellum の混合系を用い、各種分解物の発酵性に及ぼす発酵処理時間の 影響を検討した。また、各種分解物の発酵性に及ぼす基質濃度の影響を検討した結果、多糖成分由来 分解物に比べ、糖過分解物、断片化物、リグニン由来分解物の酢酸発酵性が低いが、ほとんど全ての加 圧熱水処理分解物が酢酸へと変換され得ることが明らかになった 19) 。図 3.8 に混合発酵系による主要加 圧熱水処理分解物の酢酸への変換経路を示す。実際のスギ加圧熱水処理液を酢酸発酵処理した結果、 酢酸への炭素変換効率 87%が達成できた。 42 Fig. 3.8 混合発酵系による加圧熱水処理分解物の酢酸への変換経路 19) 得られた酢酸からの水素化分解法によるエタノール生産技術開発において、2 段法によるエタノール 生産法を検討した。酢酸とエタノールのエステル化反応に、水選択透過膜を用い、反応生成物の一つで ある水を反応系外で除去することを検討した。その結果、ほぼ定量的に酢酸エチルが得られることがわか った。さらに、酢酸エチルの水素化分解については、Cu-Zn 系触媒/250oC/2MPa の条件で、水素を過剰 に用いることでほぼ定量的にエタノールへと変換されることがわかった。これらのエステル化及び水素化 分解の条件検討の結果を基に、エステル化/水素化分解統合プロセスを検討した。 b.ニッパヤシからのバイオエタノール生産プロセスの構築 本ニッパヤシの研究は、熱帯から亜熱帯の湿地帯に生育するニッパヤシ( Nypa fruticans)の果茎を切 断した部位から溢泌する樹液を用いた、バイオエタノール生産のためのアルコール発酵性に関するもの である(図 3.9)。まず、タイ、マレーシア、フィリピンで生育するニッパヤシから採取した樹液について、化 学組成及び無機成分の分析を行った結果、樹液はいずれもショ糖、果糖、ブドウ糖などからなる糖液であ り、酵母(Saccharomyces cerevisiae)によって容易にアルコール発酵が可能であることが明らかになった 20, 21) 。また、樹液には無機成分が含まれることが判明した。ニッパ樹液をサトウキビの樹液と比較したところ、 いずれの樹液も同程度の糖分(14-15%)を有し、0.4-0.5%の無機成分を含有していた。しかしニッパ樹 液の無機成分組成は生育地での海水の影響を受けて Na、K 及び Cl が主成分であったが、サトウキビ は肥料の影響を受けて K、Mg、Ca、P 及び S が主成分であり、Na 及び Cl は微量であった。そこで、 樹液中の無機成分のアルコール発酵性の効果を評価した結果、海水から得られる主要無機成分 Na 及 び K がニッパ樹液のアルコール発酵に関わっており、サトウキビ栽培のように肥料を与えなくても、海水 から常に自然供給され、自然の循環系で樹液生産が実現していることが明らかになった 22) 。以上のニッ パ樹液に関する一連の研究結果から、ニッパヤシは、サトウキビのように茎葉を収穫することなく、開花前 の果茎を切断するのみで樹液が得られ、砂糖やバイオエタノールの原料となる生態循環型エネルギー資 源植物であることが明らかになった。 43 Characterization and Chemical Analysis Nipa Palm Biomass Pretreatment Leaf Frond Pentose Fermentation Frond, leaf and fruit Fruit Cellulose Hydrolysis Xylitol Ethanol Fermentation Peduncle Acetic Acid Fermentation Characterization and Chemical Analysis Hydrogenolysis Sap Ethanol Harvest Collection Fig. 3.9 Bioethanol from nipa sap and other parts of nipa palm 22) . c.バイオマス資源の超臨界流体技術によるバイオディーゼル技術 植物油/動物脂及びその廃油脂のバイオディーゼルへの変換研究は、欧州、米国、日本など世界各 地で行われ、すでに実用化されている。動物脂は固体で、植物油は粘度が約 50mm2/s、引火点が 300℃ と高く、このままではディーゼル燃料として用いることはできない。そこで、工業的には常圧下、50~60℃ で油脂のトリグリセリドにメタノールとアルカリ触媒を加えてエステル交換する。それによって粘度と引火点 の低い脂肪酸メチルエステル(FAME)に変換(反応 3.1)して、バイオディーゼルとして用いられる。しかし、 このプロセスはアルカリ触媒として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが用いられるため環境への負荷が大 きい。また、廃食用油に特に多く含まれる遊離脂肪酸は触媒と反応してアルカリ石鹸となり、その分離・精 製も不可欠であり、触媒が必要以上に消費される(反応 3.2)。したがって、数%の脂肪酸を含有するパー ム油や廃油ではアルカリ触媒法は使い難く、多種多様な油脂類への適用が困難であり、アルカリ触媒法 に替わる新規技術の開発が不可欠であった。 CH2-COOR1 │ CH-COOR2 + 3CH3OH │ CH2-COOR3 トリグリセリド R’COOH 遊離脂肪酸 R3COOCH3 CH2-OH │ CH-OH │ CH2-OH 脂肪酸メチルエステル グリセリン KOH R’COOK H2O アルカリ触媒 アルカリ石鹸 メタノール + アルカリ 触媒 R1COOCH3 R2COOCH3 + + (反応3.1) (反応3.2) 水 R1, R2, R3, R’; 炭化水素基 Reactions 3.1, 3.2 Chemistry of oils (triglyceride and free fatty acid) as applied by alkali-catalyzed method. そこで、バイオディーゼル製造の実用化に向けて、種々の油脂資源 23) に対する超臨界流体技術を駆 使した無触媒系でのバイオディーゼル製造法を開発した。その成果を以下に紹介する。 44 c-1.種々の超臨界流体技術によるバイオディーゼル製造 c-1.1 超臨界メタノールによる油脂からのバイオディーゼル アルカリ触媒法における種々の問題を解決するため、超臨界メタノール法による無触媒でのバイオディ ーゼル製造法(一段階超臨界メタノール法(Saka 法))(図 3.10)が著者らの研究によって 10 年余り前に開 発された。すなわち、反応 3.3 で示されるように、原料油脂のトリグリセリドが無触媒で超臨界メタノール (臨界点;Tc=239℃、Pc=8.1MPa)とエステル交換して FAME となる。このとき、同時に遊離脂肪酸からも エステル化反応(反応 3.4)により FAME が生成するため、油脂原料中に遊離脂肪酸が多く含まれていて も高収率で FAME が得られ、アルカリ石鹸などを生成することもない。さらに、無触媒下のプロセス故に反 応後の分離・精製が容易である。アルカリ触媒法と違い、比較的長鎖のアルコールの適用も可能である。 しかしながら、本法では 350℃/43MPa という過酷な反応条件を必要とするため、不飽和脂肪酸の分解や トランス型への異性化が引き起こされ、燃料の低温流動性を悪化させるなどの影響を及ぼす。 (一段階法;Saka Process) (二段階法; Saka-Dadan Process) Fig. 3.10 Biodiesel production processes from oils as applied by one-step supercritical methanol method (Saka Process) and two-step supercritical methanol method (Saka and Dadan Process). CH2-COOR1 │ CH-COOR2 + │ CH2-COOR3 トリグリセリド R’COOH 遊離脂肪酸 3CH3OH R2COOCH3 + R3COOCH3 メタノール + CH2-OH │ CH-OH │ CH2-OH R1COOCH3 CH3OH メタノール 脂肪酸メチルエステル R’COOCH3 脂肪酸メチルエステル (反応3.3) グリセリン + H2O (反応3.4) 水 R1, R2, R3, R’; 炭化水素基 Reactions 3.3, 3.4 Chemistry of oils (triglyceride and fatty acid) as applied by one-step supercritical methanol method (Saka Process). 45 そこで、より穏やかな反応条件でのバイオディーゼル製造法として、二段階超臨界メタノール法 (Saka-Dadan 法)(図 3.10)を数年前に開発した。この二段階法において、水(臨界点;Tc=374℃、Pc= 22.1MPa)はプロトン供与性が強く、亜臨界状態で高いイオン積を有している。そのため一段階目の反応 (反応 3.5)で亜臨界水(270℃/7MPa)は油脂類(トリグリセリド)を無触媒で効果的に加水分解して、脂肪 酸とグリセリンに変換するが、これら二成分は高温、高圧状態で相分離して容易に分別できる。二段階目 の反応(反応 3.6)では、得られた脂肪酸はプロトン供与性の強い亜臨界メタノール(270℃/7MPa)により 無触媒でエステル化され、FAME となる。またグリセリンは、一段階目で反応系から除去されるため、二段 階目で生成したバイオディーゼルとの逆反応が起こらず、高品位のバイオディーゼルが得られる。結果と して、従来法ではアルカリ触媒の存在のため純度よく回収できなかったグリセリンが、本法では高純度で 容易に分離される。 加水分解(第一段階) R1COOH CH2- COOR1 │ CH - COOR2 │ CH2- COOR3 + 3H2O R2COOH + R3COOH トリグリセリド 水 脂肪酸 CH2-OH │ CH - OH │ CH2-OH (反応3.5) グリセリン エステル化反応(第二段階) R’COOH 脂肪酸 + CH3OH メタノール R’COOCH3 + 脂肪酸メチルエステル H2O (反応3.6) 水 R1, R2, R3, R’; 炭化水素基 Reactions 3.5, 3.6 Chemistry of oils for the 1st stage (hydrolysis) and 2nd stage (esterification) as applied by the two-step supercritical methanol method (Saka and Dadan Process). さらに、本法では反応条件が 270℃/7MPa と比較的温和であるため、不飽和脂肪酸の分解等もほとん ど起こらない。したがって、二段階法は一段階法に比して、より実用化に適したプロセスであると言えよう。 原料の廃油脂には、図 3.11 に示すようにトリグリセリドの他に脂肪酸や水が含まれる。アルカリ触媒法 では前者はアルカリ石鹸となり、後者の水は触媒活性を低下させるため、水や脂肪酸含量が数%以下の 高品位な廃油脂しか利用できなかった。また酸触媒法では、10%程度までの脂肪酸しかバイオディーゼ ルへの変換が可能でない。さらに、リパーゼ酵素法やイオン交換樹脂法ではわずかな水の存在で触媒 機能が低下し、バイオディーゼル収率が著しく減尐する。しかし本法では、一段階目で水を、二段階目で 脂肪酸を用いるため、水や脂肪酸を多く含む低品位の廃油脂でも利用が可能で、図 3.11 のようにわが国 で利用可能なすべての多種多様な廃油脂をバイオディーゼルに変換して利用できる。また、バイオディ ーゼルの酸化安定性についても種々検討を加え、高品質な燃料が得られることを明らかにした 24-26)。 46 遊離脂肪酸(%) Fatty acids (wt%) 100 100 リパーゼ法 イオン交換樹脂法 二段階超臨界 メタノール法 ダーク油 廃油 10 10 廃パーム油 酸触媒法 廃てんぷら油 新油 11 1 1 アルカリ 触媒法 10 10 水分(%) Water (wt%) 100 100 Fig. 3.11 Applicable range of biodiesel production methods for various oils as a function of free fatty acid and water contents. c-1.2 超臨界カルボン酸エステルによる油脂からのバイオディーゼル これまで述べてきたようなメタノールを用いたバイオディーゼルの製造プロセスでは、グリセリンの副生 は避けられない。したがって、近年のバイオディーゼル生産量の拡大に伴ってグリセリンの生産量も急増 している。しかしアルカリ触媒法では、グリセリンはメタノールや水、アルカリ触媒等との混合物として排出 される。このような粗グリセリンの売却価格は、精製グリセリンの約$1.3~2.0/kg と比較して約$0.1/kg と 極めて安く、運搬コストを考慮した場合には売却が経済的に見合わないとされている。したがって、今後 グリセリンの有効な利用法が確立されない限り、このことが大きな問題になると考えられる。 このような問題に対し、エステル交換反応の一種であるエステル相互反応に着目し、カルボン酸エステ ルの一種、酢酸メチル(臨界点;Tc=233℃、Pc=4.7MPa)を超臨界状態で用いて油脂からバイオディー ゼルを得る新規な製造法を提案した。その結果、350℃/20MPa の超臨界状態では酢酸メチルとトリグリセ リドのエステル相互反応が無触媒で進行し、FAME とトリアセチンが生成することを見出した(反応 3.7) 27-29) 。 得られたトリアセチンが燃料特性に及ぼす影響について検討するため、トリアセチンをオレイン酸メチ ルに混合して種々の燃料特性を評価した結果、油脂と酢酸メチルのエステル相互反応から理論上得られ るモル比 1:3 での混合では、主要な燃料特性に悪影響を及ぼさないのみならず、トリアセチン混合はバイ オディーゼルの酸化安定性を向上させ、流動点にも好影響を及ぼすことが判明した。また、FAME とトリア セチンを合わせてバイオディーゼルとして定義すると、油脂の超臨界酢酸メチル処理によって従来の製 造法をはるかに上回る 125%の理論収率でバイオディーゼルが得られることが明らかとなった 27-29)。 しかし、反応 3.8 で見られるように、遊離の脂肪酸が油脂中に存在する場合、酢酸が副産し反応管の 腐食を招く可能性があり、そのための対策が必要である。 47 CH2-OCOR1 │ CH-OCOR2 + │ CH2-OCOR3 トリグリセリド R1COOCH3 + R2COOCH3 3CH3COOCH3 R3COOCH3 酢酸メチル 脂肪酸メチルエステル CH2-OCOCH3 │ CH- OCOCH3 (反応3.7) │ CH2- OCOCH3 トリアセチン R1, R2, R3; 炭化水素基 Reaction 3.7 Chemistry of oils (triglyceride) for biodiesel production as applied by non-catalytic supercritical methyl acetate for its interesterification (Saka and Isayama Process) RCOOH 脂肪酸 + + CH3COOCH3 RCOOCH3 酢酸メチル 脂肪酸メチルエステル 3CH3COOH 27) . (反応3.8) 酢酸 R; 炭化水素基 Reaction 3.8 Chemistry of fatty acid as applied by non-catalytic supercritical methyl acetate for its esterification 27) . c-1.3 超臨界中性エステルによる油脂からのバイオディーゼル 上述の対策として、カルボン酸エステルに代わる“中性エステル”に着目し、反応管の腐食を招かない、 より温和な条件での超臨界法によるバイオディーゼルの製造法を検討した 30, 31)。中性エステルとして超臨 界炭酸ジメチル(臨界点;Tc=275℃、Pc=4.6MPa)を用いた一段階無触媒バイオディーゼル製造プロセ ス(反応 3.9)30)について検討した結果、350℃/20MPa の反応条件で、原料油脂のトリグリセリド及び遊離 脂肪酸が FAME に変換され、反応時間 12 分でその収率は 94%に達した。この時、副生成物としてグリセ ロールカーボネート及びシトラマル酸も得られることが明らかとなった。 CH2-OCOR1 │ CH-OCOR2 + 3CH3OCOOCH3 │ CH2-OCOR3 トリグリセリド 炭酸ジメチル R1COOCH3 R2COOCH3 R3COOCH3 CH2-O │ C=O + CH- O + C5H8O5 (反応3.9) │ CH2- OH 脂肪酸メチルエステル グリセロール カーボネイト シトラマル酸 R1, R2, R3; 炭化水素基 Reaction 3.9 Chemistry of oils (triglyceride) for biodiesel production as applied by one-step supercritical dimethyl carbonate methanol (Saka and Zul Process) 30) . しかしながら、この一段階超臨界炭酸ジメチルプロセス(反応 3.9)には 350℃/20MPa の高温・高圧条 件が不可欠であり、不飽和脂肪酸の熱分解を招くことになる。したがって、より低温での反応によるバイオ ディーゼル製造を実現するため、超臨界炭酸ジメチルを用いた、二段階無触媒バイオディーゼル製造プ ロセス(反応 3.10 から 3.12)に関する検討を行った 31) 。一段階目では、270℃/27MPa/25 分の反応条件 で油脂を亜臨界水処理して脂肪酸を得(反応 3.10)、ついで二段階目において 300℃/9MPa/15 分の反 48 応条件で脂肪酸を超臨界炭酸ジメチル処理(反応 3.11)した結果、バイオディーゼルが 97%の収率で得 られることが明らかになった。また、得られたバイオディーゼルの燃料特性についても問題はないことも判 明した。一段階目で得られたグリセリンは別途超臨界炭酸ジメチルと反応させ、付加価値の高いグリセロ ールカーボネートへと変換されることも見い出した(反応 3.12) 32, 33) 。 加水分解(第一段階) CH2-OCOR1 │ CH-OCOR2 + │ CH2-OCOR3 トリグリセリド R1COOH R3COOH CH2OH │ CHOH │ CH2OH 脂肪酸 グリセリン + R2COOH 3H2O 水 (反応3.10) エステル化反応(第二段階) R’COOH + CH3OCOOCH3 脂肪酸 (反応3.11) R’COOCH3 + OCHCHO + H2O 炭酸ジメチル 脂肪酸 メチルエステル グリオキザル、水 第2段階下部 CH2OH │ CHOH + │ CH2OH グリセリン CH2-O │ CH- O │ CH2OH CH3OCOOCH3 炭酸ジメチル C=O + 2CH3OH グリセロール カーボネート (反応3.12) メタノール R1, R2, R3, R’; 炭化水素基 Reactions 3.10 through 3.12 Chemistry of oils (triglyceride and fatty acid) for biodiesel production as applied by two-step supercritical dimethyl carbonate method (Saka and Ilham Process) 31). この無触媒系での一段階超臨界炭酸ジメチル法(Saka and Ilham Process)を図 3.12 に示したが、この プロセスでは、たとえ原料油脂に不飽和脂肪酸が含まれていても高収率で FAME が得られ、さらに高付 加価値のグリセロールカーボネートを温和な反応条件で得ることが可能なバイオディーゼルの製造プロセ スである 34)。 第一段階 第二段階 上層 DMC回収 Tc=274.9oC Pc=4.6MPa DMC 脂肪酸 Tc=374oC Pc=22MPa 超臨界炭酸ジメチル(DMC) (300oC/9MPa) 分離 水 油脂 亜臨界水 (270oC/27MPa) 水除去 FAME (バイ オディーゼル) 水+グリオ キザール メタノール グリセリン 超臨界炭酸ジメチル(DMC) (280-300oC/9-12MPa) グリセロール カーボネート 下層 Fig. 3.12 Non-catalytic two-step supercritical dimethyl carbonate method (Saka and Ilham Process) 49 34) . c-1.4 バイオディーゼルの副産物 メタノールを溶媒として用いた近年のバイオディーゼル製造では、その生産量の拡大に伴って副産物 であるグリセリン(グリセロール)の生産量も急増し、現在世界的に過剰な状況にある。これに対し、表 3.6 の通り、メタノールの替わりにカルボン酸エステルの一種、酢酸メチルを超臨界状態で用い、無触媒での エステル相互反応により油脂から FAME とトリアセチンが得られることを明らかにした 27, 28)。 Table 3.6 Biodiesel and its by-products from oils as applied by various non-catalytic supercritical fluid technologies. 溶媒(流体) バイオディーゼル 副産物 備考 メタノール FAME(>97%) 純品グリセリン 副産物をケミカルとして使用可、しか し世界的に過剰 酢酸メチル FAME(>97%) トリアセチン FAME・トリアシン混合体をバイオ ディーゼルとして利用可(収率125%) 炭酸ジメチル FAME(>97%) グリセロールカー 副産物は高付加価値ケミカルス ボネート など 文献 27, 28) 30, 31, 34) 得られたトリアセチンは、すでに述べたように、バイオディーゼルの酸化安定性を向上させ、流動点にも 好影響を及ぼすことが判明し、FAME・トリアセチン混合物をバイオディーゼルとして利用できることが明ら かになった。その結果、従来の製造法をはるかに上回る最大 125%の収率でバイオディーゼルが得られ ることが判明した。さらに“中性エステル”の一つ炭酸ジメチルをメタノールの替わりに用いることで、反応 管の腐食を招かない、より温和な条件での超臨界法によるバイオディーゼルの製造が可能となる。同時 に、副産物としてグリセロールカーボネートやシトラマル酸などの付加価値の高い有用ケミカルスが得られ る 30, 31)。 グリセロールカーボネートは無色の液体で、その誘導体とともに、塗料、染料、接着剤、その他高分子 材料等の溶剤として注目されている。またシトラマル酸についても、高純度に精製することにより医薬品の 原料等としての利用が期待でき、グリセリンよりも付加価値の高い化学物質として回収できる 32, 33) 。このよ うに超臨界炭酸ジメチルを用いたバイオディーゼル製造プロセスでは、本来の目的であるバイオディーゼ ルを製造すると同時に、有用なケミカルスも生産可能であることが明かとなった。 c-2.バイオディーゼルの燃料特性、生産量と政策 得られたバイオディーゼルは、酸性雤の原因となる硫黄酸化物(SOx)や黒煙が軽油に比べて尐なく、 浮遊粒子状物質が減尐するため、排ガスのクリーン化効果がある。さらにバイオマス起源であるため、地 球上の炭素バランスを崩さないが、炭素、水素以外に酸素が含まれ、軽油と比較して発熱量が低下する。 しかし、黒煙が尐なく、軽油に比べより完全燃焼し走行にはそれ程の性能低下は見られず、環境・安全の 観点から法律的にも軽油の強制規格基準を満足している。 50 バイオディーゼルに対し、EU-27 では 2008 年において 881 万トンの生産量に達しているが、わが国で は京都市を中心に 0.4~0.5 万トン程度の利用にとどまっている。日本での年間の廃油量は 42~56 万ト ンで現実にはこのうち数万トン程度の廃油しか回収が見込めず、わが国で利用されている軽油約 4,100 万 kℓ(2003 年度)の 0.1~0.2%程度しかまかなうことができない。今後、休耕田を有効に利用して菜種栽 培を推進するか、東南アジアに目を向け、アブラヤシのパーム油やナンヨウアブラギリ( Jatropha curcas) からのクルカス油を利用するなど原料の確保が課題である。 さらに、地球温暖化と連動して、バイオディーゼルは、EU を中心に税の優遇措置のもと実用化がかなり 進んでいる。またドイツでは非課税であったバイオディーゼルに対し、2006 年 8 月より 9%の課税に踏み 切り、段階的に 2012 年までに 45%の税が課せられるところまで進んでいるが、わが国においてはようやく 品質規格が定められたところで、B100(100%バイオディーゼル)でない限り依然として地方税法による課 税の対象となっている。一日も早く、わが国においても税の優遇措置によりバイオディーゼルに市民権が 与えられることを強く希望する。 d. アブラヤシの特性化とその有効利用 パーム油の採取を目的に、アブラヤシの植樹がマレーシアやインドネシアなどの東南アジアを中心に 急速に広がっており、これに伴い、大量の副産物が排出されている(図 3.13)。これら副産物は、幹、茎葉、 生鮮果房(中果皮、果実殻)、パーム核粕、さらに生鮮果房から得られる空果房であり、本研究ではこれら アブラヤシの様々な部位の化学組成について検討してきた。その結果、パーム核粕を除くすべてに対し、 セルロース、ヘミセルロース及びリグニンが主要な構成成分であることが明らかとなった。一方、パーム核 粕では、リグニンが含有されないことが明らかになった。それぞれの部位について超臨界水による分解処 理を行い、得られた分解生成物を同定した結果、水可溶部中の分解物は有機酸製造の原料となる可能 性が示唆され、メタノール可溶部と不溶残渣中に含まれる分解物は、フェノール性試薬の製造の原料と なる可能性が示唆された 35) 。さらに、化学組成の観点から、アブラヤシの幹は広葉樹のそれと類似してい たが、灰分量とフェノール性水酸基量が比較的多いことが明らかとなった 36, 37)。 51 Oil Palm Plantation FFB 58.3Mt Trunk 5Mt Frond 46.6Mt+1.1Mt Left over in farm or Burning Left over in farm Palm Oil and Kernel Oil Factory Palm Oil Kernel Oil EFB Mesocarp Shell Kernel Cake POME 14Mt 1.6Mt 13.4Mt 7Mt 4.1Mt 1.9Mt 39.1Mt All Used All Used Unutilized, Fodder in part Fodder Abondon treatment Boiler fuel in mill Activated carbon POME* : Palm Oil Mill Effluent Fig. 3.13 Present situation of oil palm utilization for its various parts in palm oil industry in Malaysia. 3-3) バイオマス資源の熱分解によるバイオ燃料の創製 a. バイオ燃料への変換 木質バイオマスをガス化することで得られる合成ガス(水素+一酸化炭素)から、既に天然ガスベース で実用化済みである触媒変換技術を用い、石油及び種々のケミカルスを製造することが可能である。ま た、効率的な発電も可能になる。したがって、これらを木質バイオマスベースで実現できるかどうかは、木 質バイオマスからの効率的な合成ガス製造技術にかかっている。水蒸気ガス化による木材からの合成ガ ス製造が検討されているが、クリーンなガスを如何に得るかが重要な課題である。木質バイオマスのガス 化では、ガス成分とともにタール(液体)成分が副生し、様々なタールトラブルを引き起こすことが知られて いる。例えば、タール分によるガス化炉配管の閉塞、ガスエンジンを用いた発電におけるエンジンの焦付 き、合成ガスからの燃料、ケミカルス合成における触媒の失活などである。触媒の失活の主な要因は、タ ールによる触媒上でのコーキングである。このような背景から、フィルター、水洗などの物理的処理、ター ルの二次分解及びその触媒開発、高温ガス化、ガス化炉の工夫(二段階ガス化、チャーベッドを用いた ガス化など)などによるタール除去法について、精力的に研究が進められているが、まだ解決されていな いのが実情である。 タールを含まないクリーンな木質バイオマスのガス化プロセスを開発することが重要であるが、木質バイ オマスの分子レベルでのガス化機構が明らかになれば、この目的において重要な示唆を与えると思われ る。例えば、木質バイオマスは、石炭と比べて、より低温でガス化される、タールを多く生成するなど、石炭 とは異なるガス化特性を示すが、木質バイオマスの化学組成が石炭のものとは異なることが要因であり、 分子レベルでの機構が明らかになれば、木質バイオマスの特性を最大限に活かした効率的なガス化プロ セスの提案が可能になるものと思われる。しかしながら、木質バイオマスの分子レベルでのガス化機構に ついては、驚くほどわかっていない。このような背景から、当研究グループでは、生成物制御を目的に、 主要構成成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)の化学構造に着目して、木質バイオマスのガス化 52 機構を分子レベルで検討している。 温度分布を持つ反応管の底に木材あるいはその構成成分を入れて熱分解を行った際の挙動を図 3.14 に示すように、木材多糖であるセルロース、ヘミセルロースと芳香族化合物であるリグニンでは異なっ た二次炭化物(コーク)の生成挙動を示すことがわかった。木材多糖では、揮発性生成物が凝集する反 応管上部に二次炭化物が認められたが、リグニンからの二次炭化物は反応管の底から連続的に生成し た。木質バイオマスのガス化では、まず、一次熱分解により揮発性生成物とチャー(炭)が生成した後に、 それらが二次分解することで最終的なガス化生成物を与えるが、このような挙動の相違は、一次熱分解に より生成する揮発性生成物の化学構造が異なることに起因する反応性の相違により説明されることが明ら かになった。 Secondary char Temperature 10 5 0 200 400 600 800 Temperaure (oC) Volatiles Volatiles Vapor-phase gasification High MWL (cedar) Xylan Low 15 0 Primary char Lignin (softwood) Lignin Cellulose Xylan GlucoGlucomannan mannan CelluloseCellulose Wood Wood cedar) (Japanese(cedar) Distance from the bottom (cm) 20 Fig. 3.14 Secondary decomposition behaviors of the proimary pyrolysis products from wood and its constituent polymers 38-42) . 木材多糖については、一次熱分解において多量に生成する揮発性熱分解物であるレボグルコサン (1,6-anhydro-β-D-glucose)の熱分解機構を詳細に検討した結果、その反応経路が、気相と液相で大 きく異なることが判明し、これにより図 3.14 の挙動が説明され得ることがわかった。すなわち、レボグルコサ ンは、液相では、セルロースからの生成温度(>300℃)よりもはるかに低温の 250℃以上の温度域におい て熱重合、脱水反応などの反応を受け、重合物(多糖)、炭化物とその他の低分子成分(低分子アルデヒ ド・ケトン類、フラン類、有機酸類)を与える一方、気相ではこれらの反応は全く起こらず、より高温 (>400℃)で選択的に一酸化炭素と二酸化炭素へとガス化されることが明らかになった(図 3.15)。本結果 は、反応管上部では、温度は低下するものの、凝集し、液相になることでレボグルコサンなどの揮発性生 成物の反応性が向上し、重合、脱水などの反応を受けて炭化することを示唆する 39) 。また、この現象はガ ス化炉から離れたより低温の配管の目詰まりなどのタールトラブルの一つの原因であることが示唆された。 53 O Gas (CO) OH O OH OH Levoglucosan Polysaccharides Char Low MW products (acids, furans, aldehyde etc.) Fig. 3.15 Different pyrolysis pathways of levoglucosan as an important intermediate of cellulose pyrolysis in vapor- and liquid-phases 39). “なぜ液相でレボグルコサンの反応性が向上するのか”という疑問に対しては、プロトンドナーとはなり 得ない芳香族化合物及びポリエーテル中で糖類が熱に対して安定化されたことなどから、液相で形成さ れる分子内及び分子間水素結合が酸性及び塩基性触媒として作用する機構が新たに提案された 43) 。レ ボグルコサンの凝集後に認められた重合、脱水反応は、分子内及び分子間水素結合でレボグルコサン 分子にプロトン供与されることによる酸性触媒作用により説明され得る。また、気相で熱安定化することに ついては、気相では分子間水素結合が重要ではないことから説明される。これらの成果は、木材多糖の クリーンガス化に対して極めて有用な示唆を与える。 一方、リグニンの熱分解については、一次熱分解におけるラジカル連鎖機構が提案され 44) 、揮発性一 次熱分解生成物のガス、炭化物(コーク)及び多環式芳香族化合物(タール)への変換機構が明らかにな った。二次分解過程における揮発性生成物からのコーク生成については、芳香核に置換しているメトキシ ル基が重要な役割を果たしていることがわかり、フェニルメチルエーテルの転位により生成するオルトキノ ンメチド中間体を経た気相でのコーク生成機構が提案された(図 3.16)。また、セルロース由来の熱分解 生成物が共存する系では、これらがリグニンからのラジカル種に対して水素ドナーとして作用することで、 リグニン由来のコーク生成が抑制されるとともにセルロース由来の熱分解物のガス化が促進されることも 明らかになった 38)。 リグニンの芳香核構造には、それぞれメトキシル基を 0、1 及び 2 個持つ p-ヒドロキシフェニル核(P 核)、 グアイアシル核(G 核)及びシリンギル核(S 核)が存在し、針葉樹は主に G 核を、広葉樹は G 核とともに S 核を含み、これらの芳香核構造の相違が熱分解挙動に影響することが考えられる。そこで、G 核リグニン と S 核リグニンの反応性について詳細に検討した。 G 核、S 核のモデルとして、グアヤコール(2-methoxyphenol)とシリンゴール(2,6-dimethoxyphenol)をそ れぞれ選定し、これらの熱分解機構について比較・検討した結果、2 種の反応経路、すなわちカテコール 類/ピロガロール類を生成するメトキシル基(O-CH3)のラジカル開裂による経路(O-CH3 ホモリシス経路) と、クレゾール類/キシレノール類を生成するフェノキシラジカル経由で進行するメトキシル基のメチル基 への転位反応(メトキシル基転位経路)が重要な役割を果たしていることがわかった(図 3.16) 42, 45, 46) 。ま た、昇温とともに、400-450℃の温度域で進行するメトキシル基のラジカル開裂により熱分解反応が開始さ 54 れ、順次、ラジカルカップリング反応(縮合物の生成)→コーキング(炭化物生成、>450℃)→ガス生成反 応(>550-600℃)の順に進行すること、メトキシル基を 2 個持つシリンゴールはグアヤコールと比べて、コー キングとガス(特にメタン、CO2)生成において高い反応性を示すことが明らかになった。 また、G 核、S 核からの熱分解中間体として認められたカテコール類/ピロガロール類とクレゾール類/キ シレノール類のガス化に対する反応性について詳細に検討した結果、OH 基の置換したカテコール類/ピ ロガロール類は CH3 基の置換したクレゾール類/キシレノール類と比べて高い反応性を示すこと、置換基 (OH 及び CH3)の数が増大するとともに反応性は増大し、より多くの置換基を含む S 核由来の中間体が 40) G 核由来のものと比べて高い反応性を示すことなどが明らかになり、これらの分子機構が提案された 。 また、広葉樹リグニンのモデルとして、S 核と G 核の共存が熱分解に及ぼす影響を明らかにした。さらに、 これらのモデル化合物の成果を用いて、スギ及びブナより単離した磨砕リグニン(MWL)の熱分解挙動を 分子レベルで検討した。その結果、気相での熱分解反応については、モデル化合物に対して得られた機 構を用いて説明されること、プロパン側鎖のネットワークを持つリグニンでは、固/液相での熱分解が気相 に対して優先することなどが明らかになった 42, 47) 。この理由については、芳香核構造の変化が始まる 400 ~450℃よりも低温の 300~350℃の温度域でリグニン側鎖-芳香核間のエーテル構造が開裂することで 揮発性生成物を与えるが、これらの生成物は側鎖に不飽和構造(>C=C<など)を有していることから、芳 香核構造の変化が始まる前に重合し、不揮発性の高分子生成物を優先して与えるためと考えられた。 R O-CH3 Homolysis R R + OCH3 O OH CH3 OH OH + CH4 OH (H-acceptors) Catechols R R Radical rearrangement R OH Guaiacols Other phenols o-Cresols OCH3 O O Secondary char:extensive Secondary char:very small o-quinone methide (H-acceptor) Secondary char Fig. 3.16 Coke formation behavior of some model compounds and secondary decomposition pathways of lignin-derived primary pyrolysis products 42, 45, 46) . b. バイオ材料・バイオケミカルスへの変換 セルロースは不均質な物質であるが、その不均質性が熱分解反応に及ぼす影響について検討した。 微結晶内部のセルロース分子は熱的に安定であり、表層の分子よりセルロースの熱分解が開始されるこ とが示された。この性質はセルロースの熱分解反応を制御する上でむしろ有利である。また、セルロース 分子の一端に存在する還元性末端の役割について検討した結果、還元性末端は、その他の構造と比べ て 150-200℃程度低温の 160℃以上の温度域でグリコシル化 48)、着色物質の生成 49)などの反応を受ける ことがわかった 50) 。さらに、結晶領域に存在する還元性末端の反応性は相対的に低く、結晶の熱膨張が 55 顕著になり始めることが報告されている 200-240℃の温度域で反応を開始するようになることも明らかにな った 48) 。これら還元性末端に起因する熱分解反応は、NaBH4 還元、グリコシドへの変換、ポリエーテルの 添加などにより、効果的に抑制されることも判明し、これらの成果の一部は、繊維素材としてのセルロース に耐熱着色性を付与する方法として特許申請するに至った。 分子内及び分子間水素結合が糖の熱分解反応において重要な役割を果たすことを前述したが、この ような水素結合を制御することで、熱分解生成物組成を劇的に変化させることができることが明らかになっ た。例えば、非プロトン性のポリエーテル中で還元糖を 250℃以上の温度域で加熱処理することで、通常 の熱分解ではマイナーな生成物であった C2 及び C3 のヒドロキシアルデヒド及びケトン類が選択的に生 成するようになり、これらの収量は 74.9wt%に達することが判明した 43)。これらは、熱分解によりバイオケミカ ルの高効率生産につながる成果である。 [成果論文] 1) 坂 志朗: 「超(亜)臨界水技術によるセルロース系バイオマス変換(Cellulosic biomass conversion by supercritical/subcritical water technology)」, 日本エネルギー学会誌, 90(1), 17-23, (2011) 2) Harifara Rabemanolontsoa, Sumiko Ayada, Shiro Saka: 「Quantitative method applicable for various biomass species to determine their chemical composition 」 , Biomass and Bioenergy, 35(11), 4630-4635, (2011) 3) Harifara Rabemanolontsoa, Sumiko Ayada, Shiro Saka: 「 Evaluation of different methods to determine monosaccharides in biomass」, “Zero-Carbon Energy Kyoto 2010: Proceedings of the Second International Symposium of Global COE Program “Energy Science in the Age of Global Warming -Toward CO2 Zero-emission Energy System” Green Energy and Technology”, Takeshi Yao ed., Springer Japan, Tokyo, 123-128, (2011) 4) Harifara Rabemanolontsoa, Shiro Saka: 「Holocellulose determination in biomass」, “Zero-Carbon Energy Kyoto 2011: Special Edition of Jointed Symposium of Kyoto 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Prof.Dr. Sommai Pivsa-Art (ラジャマンガラ大学タンニャブリ校)、Dr. Sorapong Pavasupree (ラジャマンガラ大学タンニャブリ校)、Asst. Prof. Thammanoon Sreethawong (チュラロンコン大学) 次世代有機太陽電池の開発に関して、(a)デバイス構造の設計、(b)デバイス構築と評価、(c)セル効 率の最適化という研究項目を 3 年間で行った。とりわけ、(a)デバイス構造の設計については、金属酸化 物ナノ構造体からなる電極および有機半導体活性層の 1 次元アレイ化[図4.1]、高効率新素子構造の 提案[図4.2]と、長期作動安定性向上を検討した。 図4.1 金属酸化物ナノ構造体からなる電極および有機半導体活性層の 1 次元アレイ化1) 図4.2 1次元ナノアレイを用いた新しい素子構造2) ZnO ナノロッドアレイ表面へのスクアリリウム色素修飾による電流密度の4倍増大とインドリン色素修飾によ る開放電圧の倍増に成功した。 新規材料開発として、電界紡糸法による酸化チタンナノファイバー3)、ITO ナノファイバー4)、ポリ(3-ヘ キシルチオフェン)ナノファイバー5)を開発し、新素子構造としてナノファイバーマットをキャリア輸送層とす る有機薄膜太陽電池を開発するとともに、高効率化、安定性向上を図った 6)。図4.3に、電界紡糸法で 作製した酸化チタンナノファイバー、ITO ナノファイバー、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)ナノファイバーの SEM 写真を示し、図4.4に、電界紡糸酸化チタンナノファイバーを用いた有機-無機ハイブリッドセルの 構造を示した。 61 酸化チタンナノファイバー ITO ナノファイバー P3HT ナノファイバー 図4.3 電界紡糸法で作製した酸化チタンナノファイバー3)、ITO ナノファイバー4)、ポリ(3-ヘキシルチオ フェン) (P3HT) ナノファイバー5)の SEM 写真 図4.4 電界紡糸酸化チタンナノファイバーを用いた有機-無機ハイブリッドセル 電界紡糸法でインジウム酸化スズ(ITO)ガラス基板表面に直接 TiO2 前駆体のファイバーを塗布した後、 450 度で焼成して TiO2 ナノファイバー/ITO ガラスを得た。この表面にポリ(3-ヘキシルチオフェン)P3HT と(6,6)-フェニル C61 ブタン酸メチルエステル PCBM の混合液をスピンコート法で塗布成膜し、熱処理を経 て金電極を真空蒸着させた。TiO2 ナノファイバーを含む有機—無機ハイブリッド太陽電池は、参照となる 平坦なフィルム状 TiO2 を用いたセルよりも、光電流密度と開放電圧に関して優れており、最大の変換効 率 1.27%が得られた。 また、モジュール化に向けた大面積化のための新しい成膜方法を提案した7-8)。図4.5に、付加的溶 媒スプレー塗布法の概要を示す。 図4.5 付加的溶媒スプレー塗布法の概要 62 活性層溶液として P3HT-PCBM 混合溶液をスプレー塗布した後に、溶媒 o-ジクロロベンゼン(DCB)のみ を噴霧する操作(付加的溶媒スプレー塗布)を施すと、局所的な再溶解によりいったん形成していた上述 の液滴痕や空隙が効果的に消滅し、デバイス特性においてもスピンコート法に匹敵するセル特性が得ら れた。 さらに、FS に関しては、文献調査を中心に予備検討を進めた。その結果、材料調達における ITO への 投入エネルギー消費量が全体の 87%にも及ぶことがわかり、効率3%の有機薄膜太陽電池モジュールを 作製した場合、エネルギーペイバックタイムは 1.35 年、炭酸ガス排出指数は 37.77 g-CO2/kWh という試 算が可能であることがわかった。 一方、若手研究者の定期的な交流・情報交換も継続しており、例えば、タイ国で産出される酸化チタン 含有原料から製造したナノファイバーを用いた水素発生用光触媒を、ラジャマンガラ大学タンニャブリ校 の若手研究者と共同で開発したり9)、酸化チタン光触媒の活性増強のためのドープ剤を共同で開発する ために、チュラロンコン大学の若手研究者を京都大学に招へいしたりした。図4.6に、Leucoxene 鉱石か ら作製したナノファイバー状光触媒の SEM 写真を示す。 図4.6 Leucoxene 鉱石(左)から作製したナノファイバー状光触媒(右) 以上のように、次世代有機太陽電池の開発に関して、(a)デバイス構造の設計のために、金属酸化物 および導電性ポリマーからなる一次元ナノ材料を新たに作製し、(b)それら一次元ナノ材料を用いたハイ ブリッドデバイスの構築と評価を行い、(c)セル効率の最適化に関して、無次元のナノ微粒子などと対比し ながら、一次元ナノ材料を利用する優位性を明らかにした。 [成果論文] 1) One-Dimensional Nanostructured Semiconducting Materials for Organic Photovoltaic Cell Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa, Hiroshi Imahori The Journal of Physical Chemistry Letters (Perspective), Vol. 1, Issue 7, pp. 1020-1025 (2010). 2) Surface Modification of ZnO Nanorods with Small Organic Molecular Dyes for Polymer–Inorganic Hybrid Solar Cells Pipat Ruankham, Lea Macaraig, Takashi Sagawa, Hiroyuki Nakazumi, Susumu Yoshikawa The Journal of Physical Chemistry C, Vol. 115 (48), pp. 23809-23816 (2011). 63 3) Photocatalytic Activity for Hydrogen Evolution of Electrospun TiO2 Nanofibers Surawut Chuangchote, Jaturong Jitputti, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa ACS Applied Materials & Interfaces, Vol. 1, No. 5, pp. 1140-1143 (2009). 4) Indium Tin Oxide Nanofibers and Their Applications for Dye-Sensitized Solar Cells Surawut Chuangchote, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa ECS Transactions, Vol. 41, No. 6, pp. 223-229 (2011). 5) Control of Self Organization of Conjugated Polymer Fibers Surawut Chuangchote, Michiyasu Fujita, Takashi Sagawa, Hiroshi Sakaguchi, Susumu Yoshikawa ACS Applied Materials & Interfaces, Vol. 2, No. 11, pp. 2995-2997 (2010). 6) Electrospun TiO2 Nanowires for Hybrid Photovoltaic Cells Surawut Chuangchote, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa Journal of Materials Research, Vol. 26, No.17, 2316-2321 (2011). 7) Improvement of Power Conversion Efficiency in Organic Photovoltaics by Slow Cooling in Annealing Treatment Surawut Chuangchote, Pipat Ruankham, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa Applied Physics Express, Vol. 3, 122302/1-3 (2010). 8) Morphological and Topographical Characterizations in Spray Coated Organic Solar Cells Using an Additional Solvent Spray Deposition Jae-hyeong Lee, Takashi Sagawa, Susumu Yoshikawa Organic Electronics, Vol. 12 (12), pp. 2165-2173 (2011). 9) Fabrication and Utilizations of Titania Nanofibers from Natural Leucoxene Mineral for Photovoltaic Applications Sorapong Pavasupree, Navadol Laosiripojana, Surawut Chuangchote, Takashi Sagawa Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 50, 01BJ16/1-4 (2011). 64 (5)太陽電池評価研究 研究代表者(産業技術総合研究所・仁木栄・グループ長) 日本側: 仁木 栄(産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 副研究センター長)、 柴田 肇 (産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率 化チーム長) タイ側: カジョーンヨッド・ヨーディー准教授(チュラロンコン大学物理学科)、 ソジポン・チャトラフォン准教授(チュラロンコン大学物理学科) <概要> 太陽電池特性評価技術の評価においては、平成 21 年度は、太陽電池性能の測定装置を評価する ために、比較測定を行った。同一の CIGS 太陽電池試料を Chulalongkorn 大学と産総研でそれぞれ 評価して性能を比較することで双方の測定装置間に大きな問題がないことを確認した。平成 22 年度は太陽電池プロセスの評価に着手し、ガラス基板、Mo 裏面電極の相互評価を完了した。 平成 23 年度は、CIGS 光吸収層と窓層の評価を行い、全太陽電池プロセスの評価を完了する 予定であった。ところが、各工程の評価を行っていくなかで、Chulalongkorn 大学で太陽電池 の性能測定を行うと曲線因子が系統的に異なることが明らかになった。そこで、平成 21 年度 に行った測定装置の評価についてさらに詳細な検討を行った。Chulalongkorn 大学で I-V 測定に 利用されている電気回路の詳しい検討を産総研において行い、測定データに測定装置の内部抵抗 が重畳される欠点が存在する事を見出した。その後は、その欠点を克服する新しい電気回路を産 総研で考案し、Chulalongkorn 大学において測定装置に改良が施された結果、欠点が克服されて以 前よりも正確な測定を行う事が可能となった。この結果は、Chulalongkorn 大学における太陽電池 の基礎特性の測定精度を向上させるものであり、Chulalongkorn 大学において高性能な太電池を開 発する上で重要な進展があった。 この 3 年間の成果によって、今後タイ国の気候に適した太陽電池の設計やさらなる高性能化に 共同で取り組む基礎が固まったと考えている。今後さらに研究協力を加速することを計画してい る。 <方法と結果> 平成 21 年度は、産総研・Chulalongkorn 大学それぞれが有する疑似太陽光を用いた太陽電池の 測定装置を用いて、同一の太陽電池の相互測定を行うことで、太陽電池性能の測定装置の評価を 行った。Chulalongkorn 大学側で測定した性能は約 5-10%程度変換効率が低かったが、根本的な 問題はないと判断した。 平成22年度は太陽電池プロセスの評価に着手した。Chulalongkorn大学から研究者を招聘して 産総研において共同実験を行った。2研究機関で作製したMo裏面電極付きガラス基板の上に、 産総研のプロセスを用いてCIGS太陽電池を作製し、性能比較を行った(図 5.1参照)。 65 Chulalongkorn大学で作製したガラス基板/Mo裏面電極上の太陽電池では、効率の最高値は産総 研のものと差がなかったが、素子間のばらつきが大きいことがわかった。 平成 23 年度には、バッファ層と ZnO 窓槽の評価を行った。 Chulalongkorn 大学で CdS/ZnO 窓層 を積層した試料においては、産総 研の CdS 作製時に観測された Cd/S 比が低いときに観測されるのと同 様の J-V 特性が観察された。この情 報をもとに Chulalongkorn 大学の CdS バッファ層の堆積工程を改良 した。平成 23 年度には、再度 Chulalongkorn 大学で I-V 測定に利 図 5.1 プロセス評価の模式図 用されている装置の電気回路まで 踏み込んで詳細な検討を行った。 太陽電池特性評価技術の評価においては、タイの Chulalongkorn 大学で I-V 測定に利用されている 電気回路の詳しい検討を産総研において行い、測定データに測定装置の内部抵抗が重畳される欠 点が存在する事を見出した。その後は、その欠点を克服する新しい電気回路を産総研で考案し、 Chulalongkorn 大学において測定装置に改良が施された結果、欠点が克服されて以前よりも正確な 測定を行う事が可能となった。この結果は、Chulalongkorn 大学における太陽電池の基礎特性の測 定精度を向上させるものであり、Chulalongkorn 大学において高性能な太電池を開発する上で重要 な進展があった。 <方法と結果> タイの Chulalongkorn 大学で作製され NW413 と命名された CIGS 太陽電池の I-V 特性を、 Chulalongkorn 大学と産総研の両方で測定し、その結果を相互に比較検討した。実際には、I-V 特 性測定結果を解析し、Rsh および Rser と呼ばれるパラメータを抽出した。但しここで、Rsh および Rser は、それぞれ短絡抵抗値および直列抵抗値と呼ばれる物理量である。Rsh および Rser は、太陽 電池の特性を評価する上で非常に重要な物理量であるため、それらの値を正確に評価する技術を 保有する事は、高性能な太電池を開発する上で不可欠である。 NW413 と命名された CIGS 太陽電池について、最初に Chulalongkorn 大学および産総研で決定 された Rsh および Rser の値を表 5.1 に示す。表 5.1 を見ると、Rsh の値は Chulalongkorn 大学と産総 研でほぼ同程度であるが、Rser の値は Chulalongkorn 大学の値が産総研の値よりも約 1.62 Ω 程度高 い事が分かる。すなわち、産総研および Chulalongkorn 大学で決定された Rsh および Rser の値を、 66 それぞれ RshAIST および RshCU、および RserAIST および RserCU と呼ぶならば、RshCU≒RshAIST であるが、 RserCU = RserAIST + 1.62 Ω である。 表 5.1 研究所 Rsh Rser Chulalongkorn 大学 3420 Ω 2.15 Ω 産総研 3492 Ω 0.53 Ω 測定された太陽電池が同一のものであった事を考えると、この結果は尐し奇妙であった。これ らの結果は、Chulalongkorn 大学における I-V 特性測定装置が何らかの問題を内在している事を示 唆していた。そこで Chulalongkorn 大学と産総研の間で綿密な検討を行い、問題の原因と解決方法 の検討を行った。その結果として、我々は問題の原因を解明し、解決を行う事ができたので、そ の結果を以下に述べる。 図 5.2 まず、産総研における I-V 特性測定装置の等価回路を図 5.2 に示す。但しここで、Rx は測定対 象の太陽電池が持つ抵抗値である。図 5.2 においては、Rx の値は Rx + Rcont = V/I0 で与えられる。但 しここで、I0 は定電流電源装置が発生する電流値であり、V は測定対象の両端に発生する電圧降 下である。また、Rcont は太陽電池と測定プローブの間の接触抵抗値であり、通常は Rx と比較して 無視できる程に小さい値であると考えられている。図 5.2 に示された測定原理の長所は、Rser の決 定に誤差を与える要因が Rcont 以外には無いという事である。 それに対して、Chulalongkorn 大学における I-V 特性測定装置の等価回路を図 5.3 に示す。図 5.3 においては、Rx の値は Rx + Rcont + Rint = V/A で与えられる。但しここで、A は測定対象に流れ込む 67 電流値であり、V は(電流計を含む)測定対象の両端に発生する電圧降下である。また、Rint は電 流計の内部抵抗値である。従って、図 5.3 の測定回路においては、Rser の決定に誤差を与える要因 が Rcont 以外にも1つあり、それは Rint である事が分かる。これは図 5.2 の測定回路が持っている致 命的な欠点であり、従って前述の RserCU = RserAIST + 1.62 Ω という不可解な結果が得られた理由は、 図 5.3 において Rint = 1.62 Ω であったと考える事によって 理解できる。従って、我々の問題を解 決するためには、図 5.3 において Rint の影響を取り除けば良いという事が分かった。 . 図 5.3 そのような基本方針に従って、図 5.3 における Rint の影響を取り除いた結果の測定原理として、 図 5.4 で与えられる測定回路を産総研において考察し、Chulalongkorn 大学に提案した。図 5.4 で 与えられる測定回路においては、Rx の値は Rx + Rcont = V/A で与えられ、従って Rx の測定値に及ぼ す Rint の影響は注意深く取り除かれている。更に加えて、図 5.4 の回路は図 5.3 の回路に対してご く僅かな修正を加えるだけで実現が可能であり、その点も図 5.4 の回路の大きな長所となってい る。 図 5.4 68 Chulalongkorn 大学においては、産総研の提案に従って図 5.3 の測定回路を図 5.4 の測定回路に 変更し、NW413 と命名された CIGS 太陽電池の I-V 特性を再測定した。そして測定結果を解析し て Rsh および Rser の値を決定した結果、それぞれ表 5.1 に示した RshAIST および RserAIST とほぼ同一の 値を得る事ができた。 <結論> 表 5.1 において RserCU = RserAIST + 1.62 Ω という不可解な結果が得られた原因は、図 5.3 に示し た Chulalongkorn 大学における I-V 特性測定装置の等価回路に致命的な欠点があったためであり、 その欠点とは電流計の内部抵抗値である Rint が Rser の決定に大きな誤差を与える事であった事実を 解明した。 そして、 その問題を解決する方法として、 図 5.4 に示した測定原理を考案し Chulalongkorn 大学に提案した。Chulalongkorn 大学においては、産総研の提案に従って図 5.2 の測定回路を図 5.4 の測定回路に変更し、NW413 と命名された CIGS 太陽電池の I-V 特性を再測定した。そして測定 結果を解析して Rsh および Rser の値を決定した結果、それぞれ表 5.1 に示した RshAIST および RserAIST とほぼ同一の値を得る事ができた。この結果は、Chulalongkorn 大学における太陽電池の基礎特性 の測定精度を向上させるものであり、Chulalongkorn 大学において高性能な太電池を開発する上で 重要な進展があった。本共同研究において、性能評価装置と太陽電池プロセスの評価がほぼ終了 した。次のレベルの共同研究にむけて議論を開始した。 69 (6)環境評価研究 研究代表者(農業環境技術研究所・八木一行・研究コーディネータ) 日本側:八木一行(農業環境技術研究所研究コーディネータ)、 須藤重人(農業環境技術研究所主任研究員) タイ側:シリントンテップ トウプレヨーン教授(キングモンクット工科大学トンブリ校)、 アムナット チッタイソン准教授(キングモンクット工科大学トンブリ校) タイの水稲作付面積の多くを占めるの天水田であり、コメの収量や農業生産収入は当該年度の降水量 に極めて依存する。また、タイは乾季・雤季の差が大きいため水稲作は基本的に雤季に限られる。農家 の収入を安定化し、あるいは増加させるには、天水田の非耕作期間中の土地活用が重要な課題となって いる。乾季における灌漑水稲作やトウモロコシ、ソルガム等の畑作による営農は一つの解決策として提案 されているところであり、またこれらはバイオ燃料に転換しうるエネルギー作物としての役割も期待される 付加価値の高い畑作であるといえる。一方でこうした、従来であれば非耕作期間に相当する時期の土地 活用は、集約性は高めるものの土壌炭素等の土地肥沃度の維持の観点では、リスクも有している。また、 輪作による土壌由来の温室効果ガスの増減についても未だ知見は不十分である。 本研究では、中央平原西部の天水田試験地において、水稲休閑期に畑作物( トウモロコシ、ソルガム、 または裸地) または水稲二期作を導入する輪作体系に関する現地試験を実施した。試験地はJGSEEの 構成母体の一つであるモンク王工科大学トンブリ校のラチャブリキャンパス周辺の農地を使用した。当地 はタイの西部にあたり乾季は極めて降水量の尐ない地域である。クローズドチャンバー法により温室効果 ガスを定期的に採取し、現地に設置したガスクロマトグラフにより二酸化炭素(CO2), メタン(CH4,) およ び一酸化二窒素(N2O)フラックスを計測し、また、栽培期間中の土壌炭素量の変動を測定した(図6.1)。 このことから、水稲単作と水稲-畑作物の輪作体系など、管理の違いによる耕地からの温室効果ガス排 出量の違いを評価した。3年間の試験期間中に、水稲-畑作の輪作について、2周りの試験を実施し、水 稲-水稲の組み合わせが、土壌炭素蓄積には最も効果があるが、メタンの発生量も最大となることが実 測値と数値モデルシミュレーションによって示された(表6.1)。また、このメタンの発生量は水稲作時にお ける水管理により制御できる可能性についても示唆された(引用文献1、4,5)。これら、得られたデータを もとに、輪作体系などの改善策を適用した場合の温室効果ガス排出削減効果(炭素吸収源機能の増加と CH4・N2O排出削減)を推定した。主たる結論は以下のとおりである。 (1)土壌炭素量は乾季にも作付をおこなう「輪作」によって根、残さ由来の有機物により増大することが 示された。 (2)水田の二期作は、通年で33%のSOC(土壌有機炭素)の増加がみられた。 (3)土壌由来CO2排出については、乾季に非耕作(裸地)の区において(1,123.32gCO2m-2 crop-1) 排出量が最も大きかった。 (4)CH4 の排出量は水田の二期作体系において最大の排出量(71.05g・m-2 ・crop-1)を示した。 70 したがって、裸地であるより水稲作付の方が、土壌炭素蓄積に効果があるが、すなわちCO2を吸収す るが、メタンの排出量は増大する。他の畑作では土壌炭素蓄積量は水田二期作には及ばないが、メタン の排出は非常に尐ない。結果、乾季における畑作は、持続的な営農であることが示唆され、水稲二期作 もまた炭素貯留の観点からは有望であることが示された。水田メタンの発生を抑制するためには、今後中 干し等の水管理手法の改良も考慮する必要がある。また、今回十分に観測値を得ることができなかった 一酸化二窒素(N2O)の排出量についても、今後検討する必要がある。 本研究課題における研究協力のなかで、日本側も温室効果ガス計測手法のブラッシュアップをはかり、 最新の環境計測手法と影響評価手法(引用文献2、3)を提供するとともに、タイ側若手研究者の人材育 成を積極的に行い、アジア稲作地域全体を対象とした環境影響評価研究を推進できる連携・協力体制を 構築した。研究期間内に4名のタイ・モンク王工科大学大学院生(22年度はニタヤ・チャウン、タサネ・ジャ パスアナンの2名、23年度はカラヤネ・フスワンカヤ、アパポン・ブルサタポンの2名)の短期研修を農業環 境研究所に受入れた。また、のべ2名の同大学教員を招へいし、研究体制の構築に努めた。特に、学生 の指導においては栽培体系の違いによる温室効果ガス排出量の推定を行うための数値モデル(DNDC) の習得に主眼をおき、本課題における輪作体系でのメタン排出量の評価に反映させた。一方、日本側研 究者が渡航してタイ側研究者とともに候補地を毎年訪問し、試験圃場の選定からガス採取方法、分析方 法の指導を行った。 表6.1 タイの天水田における栽培体系別のCH4排出量の比較と数値モデル計算推定 栽培処理 トウモロコシ-水稲 トウモロコシ 天水田水稲 裸地-水稲 裸地 天水田水稲 水稲-水稲 灌漑水稲 天水田水稲 ソルガム-水稲 ソルガム 天水田水稲 CH4排出量 (kg C ha-1) 実測値 DNDC数値モデル計算 実測とモデルの差 -7.06 152.94 3.49 198.62 -10.55 -45.68 -1.1 141.28 26.1 212.58 -27.2 -71.3 137.21 532.91 225.13 343.77 -87.92 189.14 22.58 109.93 2.06 228.54 20.52 -118.61 71 図 6.1 乾季栽培期間中の試験圃場の外観 (左上:トウモロコシ、右上:灌漑水稲、左下:ソルガム、右 下:裸地(無作付) [成果論文等] 査読あり 1)Masayuki Itoh, Shigeto Sudo, Shizuka Mori, Hiroshi Saito, Takahiro Yoshida, Yutaka Shiratori, Shinobu Suga, Nanako Yoshikawa, Yasufumi Suzue, Hiroyuki Mizukami, Toshiyuki Mochida, Kazuyuki Yagi (2011) 「Mitigation of methane emissions from paddy fields by prolonging midseason drainage」, Agriculture Ecosystems & Environment, 141(’3-4), 359-372 査読なし 2)須藤重人 (2012) 環境にやさしい農業~農業と地球の温暖化~, 土づくりとエコ農業, (財)日本土壌 協会, 44(506), 2-8 3)須藤重人 (2011) 農林水産分野における温室効果ガスの発生状況とモニタリングの実際, 月刊資源 環境対策, (株)環境コミュニケーションズ, 47 国際学会口頭発表 4) Shigeto Sudo, Masayuki Itoh, 八木一行 (2010) Mitigation of greenhouse gas emission by controlling water management from rice paddy field in Japan and Asia, Nitrogen Conference 2010 5) S Sudo, M Itoh (2010) Reducing CH4 emission from rice paddy fields by altering water management, Abstract for AGU Fall Meeting 2010, B11C-0368 72 (7)LCA評価、資源生産性評価研究 研究代表者(産業技術総合研究所・匂坂正幸・グループ長) 日本側:匂坂正幸(産業技術総合研究所グループ長)、定道有頂(産業技術総合研究所研究員)、 工藤祐揮(産業技術総合研究所研究員) タイ側:Assoc. Prof. Shabbir H. Gheewala(キングモンクット工科大学トンブリ校) <概要> エネルギープランテーションによるバイオエネルギーの生産は、石油輸入に伴う支出を削減す ると共に、国内での新産業を創出し、エネルギー・セキュリティを高めるだけでなく、地球温暖 化の主因である温室効果ガス(GHG)排出量を削減につながるとして、タイ政府の重要なエネル ギー政策の1つとなっている 1-4)。今後のバイオエネルギーの生産の拡大とそれに伴う温室効果ガ ス排出削減量を予測するため、本研究では地理・気象・土壌など地域固有の条件を考慮し、バイ オエネルギー生産可能量とそれに伴う GHG 排出削減ポテンシャルを推定するモデルを構築し、北 タイにおいてケーススタディを行った 5-9)。 <方法と結果> 図 7.1 推計モデル 7-9) 推計モデル 図 7.1 に示されるようにバイオエネルギー生産可能量とそれに伴う GHG 排出削減ポテン シャルを推定するモデルを構築した。位置情報とデータを併せ持つ各 GIS(地理情報シス テム)のレイヤーから構成される。推計の手順として、まず、利用可能な土地・気象・土 壌などの地域情報により、各作物の栽培可能な面積が算出され、次に、単収データや変換 効率、ライフサイクル・インベントリデータを用いて、バイオマス生産可能量、バイオエ ネルギー生産可能量、GHG 排出削減量ポテンシャルが推計される。 ケーススタディ 推計モデルを用いてデータが入手できた北タイ地域(17 県)を対象としてケーススタディ を行った。 73 o o 対象エネルギー作物と生産されるバイオエネルギー サトウキビ(モラセスからのエタノール) キャッサバ(エタノール) ジャトロファ(バイオディーゼル) アカシア(直接燃焼によるバイオマス発電) 利用可能な土地の定義 食料との競合や、土地利用変化による炭素ストックの喪失を考慮して、エネルギ ー作物が栽培されるのは現在利用されておらず、かつ森林等の炭素ストック量が 大きい自然植生ではない土地と定義した。 o データ収集 推計モデルに必要な各種データ(北タイ地域の土壌、気象(雨量・気温)、土地利 用地図、各作物の単収、各作物栽培・輸送・エネルギー変換プロセスのライフサ イクルインベントリデータ)を収集または作成した。 o 推計結果 図 7.2 は、利用可能かつ各作物栽培に適した場所とその面積(括弧内は北タイ全 土に対する割合)を示している。利用可能かつ各作物栽培に適した土地はサトウ キビとキャッサバで北タイ全土の面積 0.04%と小さい。 図 7.2 各作物の栽培が可能な場所とその面積 8-9) サトウキビ キャッサバ ジャトロファ/アカシア 8001 ha (0.04%) 7884 ha (0.04%) 28266 ha (0.16%) 図 7.3(左)に示されるように生産される燃料や電力をすべて熱量として換算した バイオエネルギー生産可能量では、サトウキビとアカシアがジャトロファとキャ ッサバと比べて大きい。しかし、北タイの各種エネルギー需要と比較するとサト ウキビで約 5%と小さい。また、GHG 排出量削減ポテンシャル(図 7.3 右)では、 サトウキビが最も削減ポテンシャルが高い。 74 図 7.3 バイオエネルギー生産可能量と GHG 排出量削減ポテンシャル <成果> バイオエネルギー生産可能量とそれに伴う GHG 排出削減ポテンシャルを推定するモデルを構 築したことにより、収集されるデータに基づいて、エネルギー作物栽培によるバイオエネルギー 生産の可能性を推定することができる枠組みが完成した。このモデルを実際に用いて実施した北 タイ地域でのケーススタディにおいては、異なるエネルギー作物のエネルギー生産可能量と GHG 排出削減量ポテンシャルを示すことができた。また、推計結果より、北タイにおいては各作物の 栽培が可能な場所が限られており、生産できるバイオエネルギーの量も最大 5%程度と小さいこと が示された。 [成果発表等] 1)Cuifen Yang, Motoko YAMANARI and Masayuki SAGISAKA, 「Design and evaluation of bioethanol production system from lignocellulosic biomass」, 6th Biomass Asia Workshop, November 2009, Hiroshima, Japan. 2)Thu Lan T. Nguyen, John E. Hermansen, Masayuki Sagisaka, Fossil energy savings potential of sugar cane bio-energy systems, APPLIED ENERGY, vol.86, No.S1, pp170-177, 2009.11 3)Motoko YAMANARI Kiyoshi DOWAKI, Yucho Sadamichi and Masayuki SAGISAKA, 「Design and evaluation of bioethanol production system from lignocellulosic biomass 」 , 6th Biomass Asia Workshop, November 2009, Hiroshima, Japan. 4)Thu Lan T. Nguyen, Shabbir H. Gheewala, Masayuki Sagisaka, Greenhouse gas savings potential of sugar cane as a bio-energy systems, JOURNAL OF CLEANER PRODUCTION, vol.18, No.5, pp412-418, 2010.2 5)山成 素子、堂脇 清志、定道 有頂、匂坂 正幸、「タイ北部におけるバイオマス利活用モデルの構 築」、第 5 回 日本 LCA 学会 研究発表会、2010 年 3 月、横浜 75 6)Motoko YAMANARI, Kenichi ADACHI, Kiyoshi DOWAKI and Yucho SADAMICHI, 「A System Analysis of Bio-ethanol Produced from Cassava and Sugarcane in Northern Thailand 」 , Oth International Conference on EcoBalance, November 2010, Tokyo, Japan. 7)定道有頂、Natanee Vorayos、匂坂正幸、「北タイ地域におけるエネルギー作物栽培による温室効果 ガス削減可能量の推計」、第 6 回日本 LCA 学会研究発表会、2011 年 3 月、仙台 8)Yucho SADAMICHI, Natanee VORAYOS, Yuki KUDOH and Masayuki SAGISAKA, 「Bioenergy Production Potential by Expansion of Energy Crop Plantation in the Northern Thailand」, International Symposium on a Sustainable Future, January 2012, Mumbai, India 9)Yucho SADAMICHI, Natanee VORAYOS, Yuki KUDOH and Masayuki SAGISAKA, 「Estimation of the Bioenergy Production Potential by Expansion of Energy Crop Plantation in the Northern Thailand」, International Journal for Sustainable Innovations, Vol.2, No.1, 45-55 (2012) 76 Ⅴ. 自己評価 1.目標達成度 本プログラムはタイ政府に影響をあたえるようなタイの低炭素社会システム構築のためのエネルギーシ ナリオを技術開発に立脚し科学的見地から策定するということにある。本プログラムでは、石炭利用、バイ オマス利用、太陽電池利用の各要素技術の開発、および土地利用の最適化ならびに LCA を用いた温室 効果ガス排出の総合評価とエネルギーシナリオモデルの構築を統合し2030年までのエネルギーシナリ オの策定ができ、当初の目標を達成した。さらに、これらの成果は実施期間中にタイ政府機関の TGO や 主なタイ企業に政策提言することができ、一部タイ政府のエネルギー計画に取り入れられ初期の目標を 上回って達成した。 2.成果 褐炭の有効利用、バイオマスの包括的な評価、タイにおける太陽電池研究の発展、天水田の効果的利 用法の開発、およびそれらを踏まえた 2030 年までの低炭素社会にむけたエネルギーシナリオ構築法の 開発を通じて、タイのエネルギーシナリオを策定した。これらのいずれにおいても、本共同研究でなけれ ば達成できないものであり、どの研究項目においても優れた研究成果を得ている。本成果については、 すでに多くの成果物として公表されているが、今後“Journal of Sustainable Energy & Environment”の特別 号としてまとめて公表する予定である。 3.計画・手法の妥当性 シナリオ研究を中心とした研究計画、研究手法はタイムラインが明確に設定でき、要求する結果が明確で あるなど多くのメリットが明らかになり、特に国際共同研究という地理的に離れた研究をまとめるに当たり、 シナリオ策定を中心とした枠組みに基づく本課題の研究計画、手法として極めて妥当であった。 4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 各要素技術開発においてそれぞれのカウンターパートとの共同研究が発展することが期待される。特に SATREPS への提案、SEE Forum を通じたアセアン諸国への波及、アセアン大学連合との共同教育プロ グラム、JICA SEED-Net プログラムとの連携、サイアムセメントグループとの共同研究など多くの体制を実 施期間中に整えることができ、高いレベルでの継続性・発展性が期待できる。 5.その他 (1.~4.の項目以外の内容で、自己評価としてもし何か示されたい点がありましたら、簡潔にお示しくだ さい) 該当なし 77