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通信サービス利用時における繋がりにくさの原因帰属とメンタルモ デルと
2011年度日本認知科学会第28回大会 通信サービス利用時における繋がりにくさの原因帰属とメンタルモ デルとの関係 A study on the relation between one’s mental model to communication service and the causal attribution 上村 郷志†,新井田 統†,中村 元† Satoshi Uemura, Sumaru Niida, Hajime Nakamura KDDI研究所 † ネットワーク設計グループ KDDI R&D Laboratories Inc. {uemura, niida, nakamura}@kddilabs.jp Abstract いという可能性もあるため,ユーザの原因帰属の With the rapid growth of Internet services, we enjoy a variety of services everywhere whenever we want. We can enjoy those services without stress, while we sometimes experience that it is hard to access the Internet. This article presents an investigation on how users recognize the reason why it is hard to access the Internet when they are about to use some communication services. The relation between one’s mental model to communication services and the causal attribution was also investigated. 現状を知り,それに対し,どのように対応をして いくことが全体としてのサービス向上につながる かを検討する必要があるためである. そこで我々は,その初期的検討として,ユーザ の繋がりにくさの原因帰属の状況を知ると共にそ の要因として考えられるユーザの持つメンタルモ デルとの関連性についての検討行った[1].その結 Keywords ― mental model, communication service 果,通信サービスに対する個々のメンタルモデル と繋がりにくい原因として挙げる要因には関連性 1. はじめに があることが確認された.本稿では,通信サービ 現在日本では,多様な情報通信インフラが整備 スを提供する仕組みに関する知識を多く有してい されており PC や携帯電話を利用して様々な通信 ると考えられる情報学科の大学生と一般ユーザの サービスを利用することが可能である.通信のブ 原因帰属およびメンタルモデルの相違を比較した ロードバンド化に伴い,通信サービスをストレス 結果を示す. 無く利用することが可能となった一方で,繋がり 2. 方法 にくい状況を経験することがある.現在の通信サ ービスを提供するシステムは非常に複雑であるこ 通信サービスに対してどのようなメンタルモデ とから,繋がりにくい状況の原因として常に複数 ルを有しているのか,および繋がりにくい原因を の要因が考えられる.サービス提供者としては, どのように把握しているかを検証するために,一 繋がりやすい環境整備を目指すことが必要である 般ユーザ 715 名(A 群)および情報学科に所属する が,それと同時に,一般ユーザが通信サービス利 大学生 148 名(B 群)を対象とした評価実験を実施 用時に繋がりにくい状況を経験した際,その原因 した.実験では,PC を用いたインターネット接 をどのように捉え,また,その結果どのような行 続および携帯電話を用いたインターネット接続に 動を行うのかについて知ることは重要と考える. 対するメンタルモデルを把握するため,それぞれ, なぜならば,実際に繋がりにくい状況が発生した 目的の Web ページが PC または携帯電話の画面上 際に,ユーザに適切なフィードバック情報を与え に表示されるまでの様子を図示させる作図課題を ることによりサービスに対する満足度を維持・向 行わせた.作図課題終了後,表 1 に示す項目から, 上できる可能性があると同時に,ユーザ行動によ PC および携帯電話を用いたインターネット接続 っては繋がりにくい状況をさらに悪化させかねな において繋がりにくい原因として考えられるもの 122 O5-4 を,それぞれ順に 3 つ選択させた.A 群の実験参 て携帯電話を用いたサービス利用の割合が高いこ 加者は,ネット広告で集められた自発的参加者で とが確認できる.経験ありと回答した質問項目の あり,実験への参加に対し,規定の謝金が支払わ 個数を合算することによって,図 3 に示すように れた.また,課題への回答は全て自身の所有する IT リテラシー度を得点化した.さらに,A 群の平 PC を用いて行った.メンタルモデルの作図にあ 均得点(11.4)±1SD(3.35)を基準として,参加者を たり,PC や携帯電話,サーバ,鉄塔など約 40 の 4 群(かなり高い HH,高い H,低い L,かなり低 アイコン(図 1)を自由に組み合わせて作図するよ い LL)に群分けした.尚,A 群,B 群の IT リテラ う教示した.一方,B 群の実験参加者は,大学の シー得点の平均値について,t 検定を行った結果, 授業時間内に配付した質問紙に全て手書きで回答 有 意 な 差 は 確 認 さ れ な か っ た (t(281.67)=0.94, した. n.s.). 実験参加者には,上記課題の実施に先だって, 次に,PC または携帯電話を用いたインターネ PC および携帯電話の利用傾向に関する 20 の項目 ット接続において,繋がりにくい原因として挙げ について実施経験の有無を回答させた. た項目の得点化を行った.原因として挙げた順に 得点を与え(1 番目…3 点,2 番目…2 点,3 番目… 表 1 1 点),平均得点を算出した結果を図 4 に示す.尚, 繋がりにくい原因 項番 原因 図 4 では,各原因の得点について t 検定を行った 1 自身の利用する PC/携帯電話の性能不足 結果,群間で有意な差が認められたものについて 2 自身の利用する PC/携帯電話の不調・故障 は,「*」を付した.図 4 から,PC によるインタ 3 通信事業者 ーネット接続の場合は,A 群,B 群共に Web サー 4 ISP/ネットワーク バや一斉利用が繋がりにくい原因であると考えて 5 コンテンツプロバイダ いることがわかる.B 群は,上記に加えて PC の 6 Web サーバ 不調・故障が繋がりにくい原因と考えていること 7 一斉利用 が分かる.一方,携帯電話によるインターネット 8 その他 接続の場合,A 群は通信事業者が繋がりにくい原 因であると考えているのに対して,B 群では,一 斉利用が繋がりにくい原因であると捉えており, 両群の原因帰属に大きな差異が見られる.図 5 は, 繋がらない原因を得点化した結果(図 4)を IT リ テラシー度別に集計したものである.図 5 におい て,各原因について IT リテラシー度を変数とする T インターネット 通信会社 携帯電話 パソコン 1 要因分散分析を行い,有意な差が認められたも サービスプロバイダ のには「*」を付した.PC によるインターネット 図 1 メンタルモデル作画に利用したアイコン 接続に関して,繋がりにくい原因として挙げられ た Web サーバや一斉利用については,A 群,B 群 共に IT リテラシー度による差が確認できる.一方, 3. 結果と考察 PC/携帯電話の利用傾向に関する各質問項目に 携帯電話によるインターネット接続に関しては, ついて,経験ありと回答した参加者の割合を図 2 A 群は IT リテラシー度に関わらず主な原因とし に示す.図 2 は,A 群の実験参加者が経験ありと て通信会社を挙げていることが確認できる.また, 回答した割合が高い項目順に並べてある.図 2 か B 群は,IT リテラシー度に関わらず繋がりにくい ら,B 群の実験参加者は A 群の実験参加者に比べ 場合の主要な原因として一斉利用を挙げているこ 123 2011年度日本認知科学会第28回大会 経験ありと回答した参加者の割合 [%] とが分かる. 0 10 20 30 40 50 60 70 80 PCを用いた情報検索 PCを用いたEメールの送受信 PCを用いた文書作成 PCを用いたネットショッピング 携帯電話を用いたEメールの送受信 PCへのソフトウェアのインストール 携帯電話を用いた情報検索 PCを用いた住所録等の作成 PCを用いた掲示板の利用 インターネット接続の設定 PCへのメモリの取り付け PCを用いたWebページ作成 LANの構築 携帯電話を用いた掲示板の利用 携帯電話を用いたネットショッピング PC向けソフトウェアの作成 Webサーバの構築 携帯電話を用いたWebページ作成 DNSサーバの構築 携帯電話向けソフトウェアの作成 このような原因帰属の差異は,メンタルモデル に現れている可能性がある.そこで,B 群の実験 参加者が描いたメンタルモデル図を観察してみた ところ,図 6 に示すように携帯電話と中継装置 (基地局など)との間が電波で接続されている様子 を描いたものが多く,全実験参加者の内,52.6% がこのようなメンタルモデル図を描いていた.一 方,A 群については,携帯電話と中継装置が電波 で接続されている様子を表すメンタルモデル図を 図 2 描いた実験参加者は 32.6%であった.電波は,通 90 100 A群 B群 PC/携帯電話の利用傾向 信サービスを利用するユーザで共有しており,利 25 用ユーザ数が増えた場合には繋がりにくくなると L LL いう事実を理解しているため,繋がりにくさの原 20 HH H A群(平均11.4,標準偏差3.35) 因帰属として一斉利用を挙げた実験参加者が多か B群(平均11.6,標準偏差2.39) ったのではないかと推測される. 割合 [%] 15 今後,繋がりにくい原因として挙げられた項目 とメンタルモデルとの関連性についてより詳細な 分析を行う予定である. 10 5 0 謝辞 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 ITリテラシー度 日頃ご指導頂く,筑波大学大学院人間総合科学研 図 3 究科原田悦子教授に深く感謝致します. 参考文献 1.8 [1] 上村ら,”繋がりにくさの原因帰属:通信サー 1.6 IT リテラシー度 A群(PC) 1.4 ビスのメンタルモデルとの関係, ” 日本認知 B群(携帯) 1.2 科学会第 27 回大会,2010. * B群(PC) A群(携帯) * * 得点 1.0 0.8 * * * 0.6 0.4 0.2 0.0 PC/携帯電話の PC/携帯電話が 性能不足 不調・故障 図 4 124 通信事業者 ISP/ネットワーク コンテンツ Webサーバ プロバイダ 繋がらない原因帰属 一斉利用 その他 O5-4 2.0 2.0 LL 1.8 1.6 1.4 L H HH * * 1.8 * 0.8 得点 * HH * 1.0 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 0.0 0.0 PCの PCが 性能不足 不調・故障 通信事業者 ISP コンテンツ Webサーバ 一斉利用 その他 プロバイダ PCの PCが 性能不足 不調・故障 通信事業者 (a) A 群(PC) ISP コンテンツ Webサーバ 一斉利用 その他 一斉利用 その他 プロバイダ (b) B 群(PC) 2.0 2.0 1.8 LL L H LL 1.8 HH 1.6 L H HH 1.6 1.4 1.4 * 1.2 * 0.8 0.6 * 1.2 得点 得点 H 1.2 1.0 1.0 L 1.4 * 1.2 得点 LL 1.6 1.0 0.8 0.6 * 0.4 0.4 * 0.2 0.2 0.0 0.0 携帯電話の 携帯電話が 性能不足 不調・故障 通信事業者 ネットワーク コンテンツ Webサーバ 一斉利用 その他 プロバイダ (c) A 群(携帯電話) 図 5 携帯電話の 携帯電話が 性能不足 不調・故障 通信事業者 コンテンツ Webサーバ プロバイダ (d) B 群(携帯電話) 繋がらない原因帰属(IT リテラシー度別) (a) (b) 図 6 ネットワーク 電波を描いたメンタルモデル図の例 125 (c)