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新潟大学国際戦略本部構想-現在までの経緯と
新潟大学国際戦略本部構想 2005.1 新潟大学国際戦略本部構想-現在までの経緯とこれからの展望 新潟大学国際戦略本部・国際学術サポートオフィス [U1][U2] 戦略本部の理念とその設置の経緯 新潟大学の国際交流の理念は「研究・教育の向上とレシプロシティー」である。それは、世界に学び、世 界に貢献するということで、国際的水準に適うだけではなく、自らの新しい国際水準を創り出すことを理 念としている。この理念を基に、平成16年 4 月の国立大学法人化を機に新潟大学は今まで留学生支援を 中心に国際交流を担ってきた「留学生センター」を改組し、「国際センター」を学長・理事直属の組織と して新設して、従来の留学生支援の事業を引継ぐ一方、これまで研究者個人が行っていた国際的学術交流 をも大学によって組織的に支援する体制を整えた。とはいえ実情はその能力の大半が留学生関連業務に注 がれていた。そのような状況に即し、国際センターの国際学術交流支援の発展的延長として国際戦略本部 が構想され、その構想は、平成17年4月、文部科学省の公募審査で全国68件の応募の中から「20件 の採択機関」の一つとして選ばれ、国際戦略本部強化事業として新組織設置の財政的根拠を得ることにな った。 本格始動に向かって 平成17年6月に発足した新潟大学国際戦略本部は、その初期構想に従う形で迅速に組織を整えることが 出来た(下図「新潟大学国際戦略本部構想フローチャート」を参照)。研究・国際交流担当理事(医歯学 総合研究科板東武彦教授)をその本部長とし、国際センター長(東京三菱銀行パリ支店長を務めた阿波村 稔教授)を副本部長として、国際戦略本部は学長理事直属の組織として設置された。そして国際戦略構想 を実現するためのタスクフォースである国際学術サポートオフィスには、国際学術渉外マネージャー(ヤ ンマーブラジル社長を務めた田中亨教授)と国際研究支援推進員一名を新規に採用した。 国際学術交流事業には、従来の大学事務のノウハウにはない技能が必要となる。このような人事配置によ って、プロジェクト・マネージメントにおける民間的手法を取り入れるにはこれ以上にないパーソネルを 揃えたと言え、実際、彼らのリーダーシップのもとで国際戦略本部および国際学術サポートオフィスを支 える事務スタッフの育成も進んでいる。9月には、国際学術サポートオフィスが物理的に国際センターの 一角を占める形で作られ、田中教授の10月1日の着任を機に、イベントの企画、HPによる活動の公開、 学内研究者のニーズのヒアリング調査など本格的な活動が始まった。 新潟大学国際戦略本部構想 2005.2 新潟大学国際戦略本部構想フローチャート 学長直属の組織として全学的な 国際学術推進策を迅速に策定 学長 学長 研究担当理事 研究担当理事 タスクフォースとして国際戦略本部 構想を実現する手足として活躍 国際戦略本部 国際戦略本部 学内研究機関への全学的 な国際学術推進策の提案 国際学術サポートオフィス 国際学術サポートオフィス 選択と集中によるプロジェクトマネージメント 超域研究機構 自然科学系 国際学術活動の支援活動 学内国際学術環境の整備 全学共通基盤 脳研究所 人文科学系 医歯学系 医歯学総合研究所 具体的な活動:支援プロジェクトについて 設置以来この間、国際戦略本部はパイロット・プロジェクトを立ち上げ、民間の営業センスを導入して学 内の研究者たちのニーズのヒアリングを進め、学内の国際的評価を期待できる中堅研究者たちを支援し、 以下に述べるように戦略的学術支援の有効性を目に見えるものとするよう努力している。パイロット・プ ロジェクトとしては、多分野に渉る広がりのある学際的な、また国際的に有望な研究プロジェクトを対象 として選定した。現在、「GIS 医療新分野への応用研究」、「教養教育の再構築」、「腎たんぱくデータ ベース・プロジェクト」の3つがパイロット・プロジェクトとして既に選定されている。 「腎たんぱくデータベース・プロジェクト」は、本学医学部山本格教授の腎臓糸球体たんぱくデータベー ス・プロジェクトが国際的な認知を得たのを機に、同氏より国際戦略本部へ支援依頼があり、それを受け てパイロット・プロジェクトとして選定された。その後、山本教授が、世界的たんぱくデータベース・プ ロジェクトである「HUPO (Human Proteome Organization)」の一機関である「HKUPP (Human Kidney and Urine Proteome Project)」によってアジア地区のデータベース統括管理者に任命されたことを受け、国際 戦略本部は、その支援活動を本格化させている。このプロジェクトにおいては、研究活動環境の国際化の 観点から、ウエブ上でのデータベース構築のためのポータルサイトの管理および世界中の研究者たちから 新潟大学国際戦略本部構想 2005.3 Eメールで寄せられる腎たんぱくデータのプロセスの一部を支援する。また支援活動の一部として同氏の プロジェクトへの幅広い認知と支援を獲得するための広報活動をウエブ上で展開している。 「教養教育の再構築プロジェクト」は、日本学術振興会(JSPS)の『人文・社会科学振興プロジェク ト研究事業』に端を発したものである。この事業は、人文・社会科学の新しい学問分野の創出を目的とし て平成15年度から実施されているが、その一つの研究領域に『これからの教養教育』と題されたプロジ ェクトが設定されており、新潟大学から三人の研究者が、研究員、グループリーダー、そしてプロジェク トリーダーとして参加している。国際戦略本部は、この『人文・社会科学振興プロジェクト』をベースと し、新潟大学独自の理科系に対象を絞ったプロジェクト、『教養教育の再構築(エンジニアのための教養 教育)』の育成と立ち上げを検討しており、現在関係研究者のヒアリングを進めている。 「医療GISプロジェクト」 「医療GISプロジェクト」は、前期3年間の国際戦略本部の最重要支援プロジェクトである。GISと は「地理情報システム」の略語であり、実質的にはデジタル化された地理空間情報の多層構造化されたデ ータベースに関する諸問題を扱う学問領域を指す。本プロジェクトの目標は、総合大学の利点を生かし、 新潟大学を分野横断的なGIS研究の国際拠点、とりわけ医療分野でのアウトプットに重点を置いたアジ アのGIS拠点とすることである。このプロジェクト・マネージメントを新潟大学の国際戦略本部構想の 理念を具現化する試みとして捉えている。つまり、単純な学術支援プロジェクトではなく、最終的には新 しい大学統治形態、つまり地域社会との新たな関係、新しい産官学のモデルの提案までを含む取り組みと なることを目指している。 このプロジェクトへの短期的支援活動のタイムラインとしては、 平成17年度後期、「にいがたGIS協議会」へ国立大学法人として参加 平成17年度後期、海外(アメリカ合衆国とベトナム)、国内のGIS研究拠点視察ならびに連携可 能性の打診。結果として、既にいくつかの研究機関より来年シンポジウムへの参加が決定。 平成17年度後期、GISコア・カリキュラム原案に関する情報収集と策定 平成17年度末、『GISの医療新分野への応用に関する国際シンポジウム』の開催、地域企業、自 治体福祉保健関係者の参加を呼びかけ地域医療GISコミュニティー作りの契機とする 平成18年度前期、一般教養科目として「GISリテラシー入門」と題する授業を立ち上げ、GIS の多彩な応用例をオムニバス形式で学生に提供 中長期的には、現在申請中で認可されれば2年後に設置が予定されている社会人教育を中心課題とし たMOT大学院において「GIS資格プログラム」の設置を企画。このGIS資格プログラムを中心 として国際水準の研究・教育を元に自治体・地元企業との新しい関係の創出を狙う。 研究のみならず、教育・人材育成への反映を視野に入れて、総合大学ならではの多彩な分野に渉る学内G IS研究者たちの交流をヒアリング調査や、ワーキング・グループの組織化などを通して支援し、その一 新潟大学国際戦略本部構想 2005.4 方で、自治体、地域企業、国際的研究機関との交流および戦略的連携から「新しい産官学」のパラダイム の創出を目指す。私たちは、新潟大学が国際的に魅力あるGIS研究拠点へと発展するには、そのような 新しい社会関係の構築を基礎においてGISの可能性を探ることによってのみ可能だと確信している。 新しい産官学パラダイムの創出に向けて 優れた研究は常にグローバルに普遍的な価値を持ち得るが、そのような普遍性を獲得するには、まず足下 のローカルな特殊性に働きかけなければならない。GIS(地理情報システム・科学)には、特にそのよ うな一般公理が当てはまる。 従 来 の ピ ラ ミッ ド型 産 官 学 パ ラ ダ イ ム GISが対象とするのは、地 理空間情報であり、それはす 知識形成 ー こ の モ デ ル の 難 しさー 官 科 研 費 ・助 成 金 1. 産 ・ 官 ・ 学 ・ 市 民 社 会、それぞれが有機的 に交わらない。 申請 2.それ故に、産業と 市民社会のニーズと大 学のシーズとのすり合 わせがなく、大学の特 許が「売れる」とは限 らない。 学 TLO の 設 置 、特 許 の 取 得 ? スピンオフ企 業 ベンチャー企 業 資本形成 産 商 品 ・サ ー ビ ス の 提 供 代価の支払い 市民社会 3.商品生産に大学が 貢献できたとしても、 大学は市民社会、とり わけ地域社会とは生産 的な関係を作れない。 なわち社会空間の情報なので あり、GISの目的は社会空 間のより良い理解である。そ のように定義するときに、G ISとは、単なるデータプロ セスのためのコンピューター ソフトウエアではなく、むし ろ「社会が自らを理解する一 つの様式」として理解される べきものである。そこにはデ ータ(情報)そのもの生産の 問題、GISによって情報処 4. 市 民 社 会 と 充 実 し た 関係を作れぬが故に、 商品生産に貢献できた としても、公的資金を 使った私的蓄財という 構造矛盾と見なされる 懸念がある。 理され生産される「知」を如 5.この一方方向の流 れのみでは、地方大学 の 自 立 /自 律 が 生 ま れ て くる契機が存在しない。 の困難さである。これは自治 何に有効に使うかという問題 までもが含まれる。実際GI S研究者たちの悩みの種は、 GISに適切なデータの入手 体・政府機関との関係を人的 交流や制度改革によって新た に創り、ニーズの交換を可能 にすることによってしか克服 出来ない問題である。また大学のGIS研究によって生産された「知」を如何に社会的利便性に還元する かという問題も、単に特許を取るといった技術移転の従来型パラダイムのみでは解消できない(左図参照)。 ここに商品としての知的財産を媒介とした従来のピラミッド型産官学パラダイムに対するオルタナティブ 新潟大学国際戦略本部構想 2005.5 として、関係性のマネージメントに基礎を置く「産官学の新しいネットワーク型パラダイム」の必然性が 生まれてくる。 GIS国際戦略本部構想におけるネットワーク型産官学パラダイム 教育・人材提供による自治体との交流 防災・感染症対策・街作りなどの政策提案 空間データ・地理情報の無償提供 官 科研費・助成金 東アジアなど海 外研究拠点との 戦略的連携 空間デー タ・地理情 報の無償 提供 1.市民の空間自己決定権 を支える基礎リテラシーと してのGIS教育の提供 学 2. 地域に根ざしたGISコミュ ニティーの創出 地域社会 GIS研究拠点とし てグローバル化す る感染症や災害復 興事業で協働 3.大学の財政的自立への足 がかりとしての地域経済との 新たな関係づくり ソフトウエ ア、プロ セスされ た空間地 理データ 商品 ソフトウエア、プロセスされ た空間地理データ商品 教育と研究活動による人的交流および委託・共同研究費の提供 アカデミックな知識の生産、新しいモデルやコンセプトの提案 産 ソフトウエアやビジネスモデルに対する特許 この新しいネットワーク型の産官学のパラダイムは、新潟大学国際戦略本部が「GIS医療新分野への応 用」をテーマとしてプロジェクト・マネージメントをする際の重要な指針である。その一つの実績として、 今年8月に創設された新潟のGIS関連企業連合による「にいがたGIS協議会」へ学長が特別顧問とな り、大学としては特別法人会員として参加することとなった。同協議会は、GISの普及とデータの共有 を目標とする地元企業を中心とした連帯であり、新しいネットワーク型の産官学パラダイムの創出のため の一つの有効なエイジェントとなっている。また、そのような指針に沿って、前述のように、17年度末 の国際シンポジウムには同協議会、自治体からのパネルディスカッションへの参加を計画している。 この間、医療GIS研究者たちを組織したワーキング・グループをコアとして、支援活動を展開してきて いるが、来年度に企画されている「GISリテラシー入門」と題した一般科目の設置や、将来的なGIS 大学院資格制度デザインのマネージメントを機に、今年新設された「復興科学センター」関連のGIS研 究者たちなど学内のGISを利用している医療関係以外の多彩な研究者との「GISコミュニティー」作 りを進めている。国際学術サポートオフィスでは、更に全学的なアンケート調査やメーリングリストなど を通して、GISに対する全学的な気運を盛り上げることを計画している。しかし一方「学内GISコミ 新潟大学国際戦略本部構想 2005.6 ュニティー」が成熟してゆくに従って、本来的な意味での全学的な支援体制の構築の難しさも現れてくる。 例えば、全学共有で使えるGISソフトおよびハードウエアを、すなわちコミュニティーを支える基盤を どのように創出すべきなのかという問題である。まず、大きな課題としてソフトウエアを全学的に導入す る際のサイトライセンスのための費用の問題があり、また一方で、GISに関心はあるがまだ触ったこと がないという研究者や市民社会に対するコンサルタント的なワークショップの開催のノウハウの蓄積など である。 今後の展開 文部科学省の国際戦略本部強化事業は5年間の時限プロジェクトであり、3年後には中間評価があり、プ ロジェクトの終了する5年後には、その成果が厳密に問われることになる。今年度、1年目には学内のニ ーズのヒアリングを中心におこなっている。いわば情報収集のための「ご用聞き」である。来年度、2年 目には、そうした情報を集約し少しの勇気で「今出来ること」を進め、再来年度、3年目には、そのよう な活動の成果をもとに私たちの理念の具体化のために大きな決断力を必要とする制度改革を実行する計画 である。たとえば「資格認定大学院プログラム」の設置、自治体と地域経済との新たな関係性の創出を基 礎づける制度改革、そうした取り組みを基礎として、研究と教育を通した国際的拠点(GIS研究の国際 拠点などが一例)の構築を目指す。このような、「収集」「集約」「具体化」の3年間で3段階を経た後、 私たち国際戦略本部は、3年後の中間評価および厳密な自己評価に従って、更なる全学的な国際交流支援 サービスの高度化を目指す。最終年度の平成 21 年度には、国際教育・研究の分野でアジアの拠点となるい くつかの分野での研究拠点が本学に出来上がっていることが本プロジェクトの目的である。その時「医療 GISプロジェクト」をとおして我々が蓄積するプロジェクト・マネージメントのノウハウは、一つのモ デルとして中間評価以降の活動をしっかりと支えることになるだろう。活動報告は随時、大学のホームペ ージおいて公表しているので、詳しい事業展開については、下記のHPを参照されたい。 http://www.isc.niigata-u.ac.jp/~globalstrategy/index.html 以上