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新宮殿の設計について

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新宮殿の設計について
新宮殿の設計について
吉 村 順 三
新宮殿の敷地は、けっきょく戦災で失われた、明治宮殿の跡に決まった。明治以来、わ
れわれに親しまれてきた二重橋をそのまま新宮殿の入口にすることはなんとしても望まし
いことである。また宮殿を現在の位置よりももっと奥にもって行くという考え方もあるが、
将来祝田橋の交通が地下に整備されれば、現在の皇居前広場がビル街から十分の距離を保
ち、宮殿へのよいアプローチになると思われる。またこの位置は吹上によって麹町のビル
街と隔てられ、皇居のほぼ中心となる。
この敷地は、歴史的な古い石垣と、大きな美しい樹木に囲まれた皇居内でももっとも建
築的な条件に恵まれた場所でもある。この敷地はおよそ 2 万坪で、宮殿の床面積はおよそ 7
千坪になる。従来の敷地に対する建物の比例として 2 万坪の敷地は広いとはいえないが、
この場合とくに建物を敷地から別個のものとして離しては考えなかった。いいかえれば、
建物と庭とを同時にひとつのものとして設計した。建物全体を平屋としたひとつの理由も
このためである。敷地の周囲は数多くの樹木に囲まれ、地形も変化が多いので、建物もこ
れを生かしてその配置はまったくのシンメトリーからは自由に扱われている。
建物の設計に当たってまず第一に考えたことは、外部からの車の出入りおよび参賀の群
集の処理についてである。重要な行事に集まる人びとの膨大な数の自動車の出入りをどう
さばくか、またパーキングのスペースをどうするかという点である。まず広い前庭をとり、
その地下をパーキングおよび立体交通の場所としてスムーズな車の処理を考えた。またこ
の前庭は参賀の 2 万人以上の人びとを迎えることができるばかりでなく、打球、ほろ引き
など昔より宮廷に伝わる古式の馬術を披露する場所ともなる。建物の平面は正殿を中心と
して、それぞれ独立した建物が、中庭を隔て、廊下によって連絡されている。正殿は宮殿
中においてもっとも重要な儀式の行われる場所である。前庭に面して南車寄せがあり、こ
の反対側に東車寄せがある。このふたつが主要な宮殿の出入り口であるが、ほかにもうひ
とつ多人数の集会用の玄関として、地下に大きな車寄せを設けた。玄関ホールはとくに広
びろととった。これは単なる出入口としてばかりでなく、他の多くの用途に使用できるた
めである。大広間は夜会、映画。音楽その他の目的のために使用される。大小の食堂の中
間に厨房が設けられている。小食堂はもっとも使用率の多い食堂であるので、いちばん眺
望のよい場所に置かれてある。第 3、第 4 休所はおもに国賓のために使用される。正殿と大
広間に接して、それぞれ報道室が設けられている。これは宮殿における行事をさまたげな
いで、テレビ、ラジオ、写真撮影などの報道が自由に取材できるようになっている。この
ことは従来の宮殿にはなかったことで、新宮殿のひとつの特色ともいえるであろう。
中庭では、雅楽、園遊会なども行われる。また中庭を囲む室々を同時に使用して数千人
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の宴を催すことも可能である。
以上のように新宮殿は国家的行事に使われる公の場所として設計されたもので、従来の
宮殿とは異なって、住宅の部分を含んでいない。建物の外壁は大部分ガラスである。この
ために建物の内部と庭とは互いに交流する。間仕切りは明り障子と、襖が多く用いられて
いる。その開閉によって、室内の雰囲気を変化させることができる。
建物の構造は、鉄骨鉄筋コンクリートの柱、梁架構、そして屋外、屋内とも構造の部分
をそのまま現わしている。表面は化粧金属板によって仕上げられる。天井はすべて木材仕
上げで、屋内の壁は独立して木造の枠によって構造体に取りつけてある。床は、玄関ホー
ルを除いてはすべて木造仕上げである。そのために室内は木材が仕上げの基調となって、
全体の調子を柔らかくしている。またおもな大きな壁面には、壁画を考えている。屋根は
特殊な方法を用いている。すなわち鉄骨の置屋根構造で、棟から軒先まで 1 枚の銅板を葺
き並べて仕上げる。軒の出は深い。
新宮殿はもっとも近代的な建物としなければならない。それでできるだけ能率的で現代
的な設備を用いることを積極的に行った。まず東京の現在の汚れた空気と、騒音を避ける
ために室内は四方を通じて全部エヤーコンディションすることになっている。暖房は主と
して床暖房とし、空調は冷暖房併用となっている。照明は各室とも明暗の調節が自由にで
きるようになっている。とくに庭園の照明を室内と同じくらい重要に設備し、新しい夜の
庭園効果を考えている。また庭園は今度の宮殿の設計にあたって非常に重要な部分となっ
ており、今までのスケールの小さな日本庭園の手法から一歩進んで、スケールの大きな現
代の庭園を考えなくてはならない。そして建物との関係においてそれぞれ変化に富んだも
のでなくてはならない。だとえば前庭は石を敷きつめた庭であり、中庭は砂の庭、その他
苔の庭、水草の庭、芝生、灌木の庭、それぞれの庭が周囲の広大な樹木と溶け合って大き
な空間を与え、おのおのその特徴をもつことになろう。
最後に、新宮殿は品格ある国家の象徴としてばかりでなく、どこまでも現代の技術によ
る新しい設計の近代建築でなければならないと思う。そしてここで行われる行事は、もっ
とも新しい日本の様式をそなえ、また将来もなおこれを生み出すことであろう。
(初出:「新建築」1964 年 1 月号)
*無断転載禁止
新建築社許諾済
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