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Kobe University Repository : Thesis 学位論文題目 Title 原子スペクトル分析法による大豆加工食品中のミネラル 成分の研究 氏名 Author 田中, 智子 専攻分野 Degree 博士(学術) 学位授与の日付 Date of Degree 2012-10-19 資源タイプ Resource Type Thesis or Dissertation / 学位論文 報告番号 Report Number 乙3202 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D2003202 ※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。 著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。 Create Date: 2017-03-31 博士学位論文 原子スペクトル分析法による大豆加工食品中の ミネラル成分の研究 平成24年 4 月 田中 智子 目次 序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第1章 実験方法の確立 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1 原子吸光光度法による検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1.1 測定装置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1.2 試薬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1.3 器具の洗浄 1.4 試料の灰化と定量 1.5 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 1.5.1 試料溶液中の酸の影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.5.2 各ミネラルの干渉作用と再現性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 9 2 ICP 発光分光光度法の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 2.1 測定装置 2.2 試薬と溶液の調製 2.3 試料の灰化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 2.4 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 2.4.1 ICP 発光分光光度法による内標準物質の影響 2.4.2 酸によるネプライザーの噴霧効率への影響 2.4.3 ICP 発光分光光度法と原子吸光分析法の比較 3 水素化物発生原子吸光光度法の検討 3.1 測定装置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 3.2 試薬と試料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 3.3 標準溶液および水素化物発生用の溶液の調製 3.4 試料溶液の前処理と試料調製 3.5 結果と考察 3.5.1 水素化物生成および測定試料中の塩酸濃度の検討 3.5.2 試料溶液の還元条件の検討 3.5.3 灰化条件による検討 4 まとめ 第2章 ・・・・・・・・・・・・14 ・・・・・・・・・・・・・15 ・・・・・・・・・・・・19 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 ・・・・・・・・・・・・・ 21 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 ・・・・・・・・・・ 22 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 手作り豆腐調製条件の違いによるミネラル含有量の変化と味覚への影響 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 1 実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 1.1 豆腐の製造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.2 豆腐の調製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 1.3 ミネラルの測定 1.4 硬さの測定 30 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 1.5 水分、灰分およびpH の測定 1.6 官能検査 2 結果と考察 2.1 大豆浸漬条件の違いによるミネラル含有量の変化 2.2 “ご”の加熱温度によるミネラル含有量の変化 ・・・・・・・・・・・・・ 35 2.3 ミキサー磨砕時間によるミネラル含有量の変化 ・・・・・・・・・・・・・ 39 3 まとめ 第3章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 ・・・・・・・・・・・・ 33 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44 調製方法の違いが豆腐のミネラル含有量に及ぼす影響 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 1.1 試料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 1 1.2 豆腐の調製 1.3 試薬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 1.4 ミネラル含有量と水分並びに灰分の測定 2 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・47 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 2.1 手作り豆腐のミネラル含有量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 2.2 調製グループによるミネラル含有量の違い ・・・・・・・・・・・・・・・・50 2.3 手作り豆腐と市販豆腐の諸成分とミネラル含有量の比較 4 第4章 まとめ ・・・・・・・・・・54 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60 誘導結合プラズマ発光分光光度法による豆乳中ミネラル含有量と手作り豆乳ヨー グルトの研究 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 1 実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 1.1 試料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 1.2 手作り豆乳ヨーグルトの調製 1.3 測定装置とミネラル含有量の測定 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・ 1.4 手作り豆乳ヨーグルトの官能検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 2 結果と考察 2.1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 市販豆乳類のミネラル含有量 62 62 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 2.2 手作り豆乳ヨーグルトの官能検査 2.3 手作り豆乳ヨーグルトと市販ヨーグルトのミネラル含有量 2.4 常用量の大豆加工品の違いによるミネラル摂取量の差について・・・・・・・71 3 まとめ 第5章 緒言 1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 ・・・・・・・・69 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72 水素化物発生原子吸光法による豆腐中セレン含有量と大豆原産国の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 実験 1.1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 試料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 1.2 測定装置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 1.3 水分の測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 1.4 豆腐の加熱調理法 2 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 2.1 豆腐保存条件の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 2.2 豆腐中セレン含有量と大豆原産国の関係について 2.3 豆腐セレン含有量と製造方法の検討 2.4 きな粉中セレン含有量 ・・・・・・・・・・・・75 ・・・・・・・・・・・・・・・・・80 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81 2.5 加熱調理によるセレン残存率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 3 まとめ 第6章 結語 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・84 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90 研究業績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94 序 論 無機元素は,一般的にミネラルとも呼ばれ,生体組織に含まれる構成成分であり,微量 ながら生命活動に欠くことのできない生理作用,酵素作用などに密接な関係を持ち,飲食 物から摂取しなければならない 1) 。 代表的な例では鉄や銅 2) が不足すると貧血になり,亜鉛が不足すると皮膚炎 3) や味覚異 常 4) を引き起こす。また最近では,亜鉛の免疫機能における役割から HIV 感染と亜鉛と関 係についても報告されている 5) 。さらに,マグネシウムの不足は心疾患 6) の原因になると 言われ,カルシウムは骨の発育に重要であり,骨粗鬆症はカルシウムの摂取が不十分にな ると高齢になり発症する疾患である。 一方,セレンは1957年に Schwarz らにより体組織内での必須性が示され,グルタチオン ペルオキシダーゼの構成成分として,生体内で生成した過酸化脂質の分解に寄与している。 セレンが生体内で欠乏した場合,克山病やカシン・ベック病のほかガン等を誘発する一方 で,過剰に摂取した場合には,セレン過剰症として食欲不振や脱毛や爪の変化など様々な 症状が出ることが分かっている 7) 。このように,セレンは必須性と毒性を併せ持ち,かつ 生体内における存在許容量の幅が狭い興味深い必須微量元素の一つである 7)8) 。セレンは タンパク質の存在下で,水銀とカドミウムの2種類の有害金属元素と比較的安定な複合体 を形成し,それらの毒性を軽減する他,多くの微量元素と相互作用を持つことが明らかに されている 9) 。また最近では,セレンの健康増進作用や疾病予防,とりわけガンの発生や 転移を抑制する抗酸化剤としての役割,さらには後天性免疫不全症候群(エイズ)の治療 において考慮すべき栄養素のひとつとしても注目を集めている 9) 。 上記のように人間の生命活動に必要なミネラルは,飲食物から摂取しなければならない が,日本人は古くより大豆や大豆加工品を,ミネラル摂取源の重要な食品として食べてき た。そこで,本研究では,豆腐などの大豆加工品中のミネラル含有量について分析化学的 な研究を行なうことにした。また,試料とした大豆加工食品は,植物性タンパク質を30% と良質の脂質を20%含み“畑の肉”とも呼ばれ,その他食物繊維も多い優れた栄養性と経 済性から生活に不可欠な食品である。たとえば,木綿豆腐 100 g 1/3 丁のタンパク質を動 物性タンパク質で摂取すると,豚肉ロース40g,アジ32g,鶏もも肉34g,卵では53g 約 1 個が必要となる。さらに,近年,イソフラボンなど多くの機能性物質を含有している ことが知られて,生活習慣病予防や更年期障害の軽減さらには,乳がんや前立腺ガンの予 1 防に有効な生理的機能が注目されている 10) ~ 16) 古くて新しい食品である。一方,現在の食 生活の問題点として,動物性脂質やタンパク質の取りすぎ等による生活習慣病の問題が挙 げられるが,この生活習慣病を抑制または改善,さらに健康を維持する上からも大豆加工 食品,なかでも豆腐の果たす役割は大きい。豆腐は,現在多くの種類が販売されているが, 豆乳濃度の違いや凝固剤の種類や量など,製造方法は各社によって様々である。また,ミ ネラル含有量は調理の方法によっても異なることが分かっているが 17 ), 実際に手作りで 豆腐を調製すると,同じ工程でも出来上がり量や味は全く異なってくる。豆腐の製造方法 によってもミネラルの含有量にも差がでてくるものと思われ,正確なミネラル含有量を知 ることは,現在の食生活を考える上でも重要である。 一方,豆乳の生産量は2002年には79tであったが,2006年以降には 200 tとなり健康志 向も手伝って多くの種類の豆乳が売り出されるようになった 18 )。 現在は,飽食の時代と 言われているが,加工食品の多様化や食習慣の乱れから,国民栄養調査 19 ) の結果による と,ミネラルではカルシウム,鉄,銅,亜鉛が不足している。また,輸入食材の急増によ り,日本の食文化は変化してきており,ミネラルの摂取量にも変化が生じているものと推 測される。 そこで本研究では,大豆加工食品を対象試料とし,正確なミネラル含有量の測定と加工 方法によるミネラル含有量の相違とおいしさの関係を明らかにするによって,現在の食生 活における,常用量中の大豆加工食品のミネラル摂取量を明らかにすることを目的とした。 試料の前処理では硝酸( HNO3 )と過塩素酸( HClO4 )を用いた湿式灰化法を用い,セレ ン以外のミネラルの測定は原子吸光光度法および誘導結合プラズマ発光分析法 ( ICP-AES ), セレンの測定は水素化物発生原子吸光法( HG-AAS )を用いた。本論文の 第 1 章では実験方法の確立を論述し以下第 2 ~ 5 章では以下の点について考察を行った。 1)豆腐を試料として,原子吸光光度法によるカルシウム( Ca ) , 銅( Cu ), 鉄 (Fe ), カリウム( K ), マグネシウム( Mg ) , マンガン( Mn ), ナトリウム ( Na ), 亜鉛( Zn )の 8 元素について,また,豆乳を試料として ICP 発光分光光度 法により Ca , Cu ,Fe, K , Mg , Mn , Na , Zn ,リン( P )の 9 元素の分析方 法を確立するために実験を行った。さらに水素化物発生原子吸光光度法によるSeの分析 方法を確立後は,標準物質を使用して実験方法の正確さを調べた。 2 2)豆腐調製操作の違いは,製品の良否以外に栄養成分にも影響するのではないかと考 えられる。そこで,豆乳の前工程で出来る“ご”の加熱温度と凝固剤添加時における豆 乳の温度等の調製条件を変えた豆腐について,各工程中のミネラル含量とおいしさにつ いて検討した。 3)手作り豆腐を調製したとき,絹ごし豆腐と木綿豆腐の工程の違いや調製する作業グ ループの相違によるミネラル含有量の違いについて検討した。併せて,市販の絹ごし豆 腐と木綿豆腐を,手作り豆腐中のミネラル含有量と比較考察した。 4)市販豆乳中の Ca , Cu ,Fe, K , Mg , Mn , Na , Zn , P の 9 元素を測定し, さらに手作りの豆乳ヨーグルトと市販豆乳ヨーグルトのミネラル含有量を比較すると共 に,常用量の大豆加工食品の違いによるミネラル摂取量について考察した。 5)豆腐中のSe含有量を分析することによって,その原材料となる大豆原産国とSe含有 量との関係,ならびに絹ごし豆腐,木綿豆腐,充填絹ごし豆腐など豆腐の種類や製造工 程で使用した凝固剤の違いとSe含有量との関係を比較考察した。 3 第 1 章 実 験 方 法 の 確 立 緒言 現在,食品中のミネラル測定における試料の前処理法には,乾式灰化法,湿式灰化 法または希酸抽出法が多く用いられている 20 )。 乾式灰化法は,試料を 400 ~ 600 ℃ の高温で灰化する方法で,電気炉内の温度分布が不均一になるなどの問題点の他,灰 化容器からの汚染に注意を払う必要がある。それに対し,湿式灰化法は硫酸 (H2SO4) — 硝酸( HNO3 ) — 過塩素酸( HClO4 ), H2SO4-HNO3 , HNO3-HClO4 ,などで有 機物を酸化する方法で,乾式灰化法では揮散するおそれのある成分の分析にも応用で きる。食品中の Ca , Mg , K ,Fe, Zn , Mn , Cu 等を測定するための湿式分解 法には HNO3-HClO4 で分解後,希塩酸( HCl )溶液に調製する方法が広く用いられて いる 20)21) 。 食品中のミネラル分析は,一般成分の組成が多種多様であるため,食品ごとに前処理 は異なるが,前処理後酸性溶液とし,原子吸光光度法による測定が一般的であった。し かし近年,誘導結合プラズマ発光分析法( ICP-AES )や誘導結合プラズマ質量分析法 ( ICP-MS )などの原子スペクトル分析法が発達してきた。これらの方法は,多元素同 時分析が可能でさらにダイナミックレンジが広いという利点があり食品分野でも広く利 用されている 22) ~ 24) 。さらに近年では,これらの分析方法を用いて原産国を判別する研 究が行なわれている 25) ~ 30) 。 一方,セレンの定量法では, ppb レベル(ng/gレベル)の微量成分濃度を分析するこ とが必要である。現在用いられているセレンの定量法のうち, ppb レベルの高精度な測 定が可能な測定法には,2,3-ジアミノナフタレン( DAN )を用いた蛍光光度法(検出 限界 0.01-0.2 ppb 31) ), 誘導結合プラズマ質量分析( ICP-MS, 検出限界は 80Se で 0.06 ppb32) ), 水素化物発生原子吸光法( HG-AAS, 検出限界0.02 ppb 33 ) ) が挙げら れ,微量セレン成分の分析法として多くの報告がなされている 34) ~ 43) 。しかしながら, 前者二つの定量法には,いくつかの問題点がある。例えば,蛍光光度法においては灰化 試料に含まれる微量残留有機物と DAN との反応生成物の蛍光が,あるいは ICP-MS 法 では溶液中のマトリックス元素に起因するバックグラウンドピークが,定量値に大きな 影響を及ぼす。その中でも HG-AAS 法は,酸性条件下でSe(IV)の無機成分である亜セレ ン酸( H2SeO3 )と水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4 )との反応により生成する水素化 4 物の気体( H2Se )のセレン量を原子吸光法により定量する方法で,式(1)に示す通 り,試料溶液中に含まれる測定妨害物質やマトリックスなどの影響を受けにくい利点も あり高精度定量法と言える。 3BH4- + 3H+ + 4H2SeO3 → 3H3BO3 + 3H2O + 4H2Se ↑ (1) そこでこの章では,豆腐中のミネラル含有量を原子吸光光度法と炎光分光分析法で, 豆乳中のミネラル含有量を ICP 発光分光光度法で,セレンは水素化物発生原子吸光光度 法で測定するための実験方法の確立を検討した結果について述べる。 5 1 1.1 原子吸光光度法による検討 測定装置 測定に用いた原子吸光分光光度計,炎光分光光度計は日立製作所製ゼーマン偏光原子吸 光度計Z-5310型を用いた。原子吸光分析では Ca:422.7nm , Mg:285.2nm ,Fe:248.3nm, Zn:213.8nm , Mn:279.5nm , Cu:324.8nm の波長での吸光度をフレーム法で測定した。 炎光分析では Na:589.0nm , K:766.5 nm の波長での発光強度を求めた。測定の条件は Table1-1 に示した。 1.2 試薬 Ca , Mg ,Fe, Zn , Mn , Cu , Na および K の各標準液は,和光純薬株式会社製 原子吸光用標準溶液( 1000ppm )を適宜希釈した。 HNO3 , HCl および HClO4 は,和光純 薬株式会社製精密分析用を用いた。 1 %ランタン( La )溶液は,酸化ランタン (La2O3) 5.864 gを HNO3 に溶解し, 1mol/L( 以下Mと略す )-HNO3 溶液 500mL とした。 0.2 %ナ トリウム溶液は,塩化ナトリウム2.542gをイオン交換水に溶解し 500mL とした。 実験に用いた純水(以降水とする)はバーンステッド社製 NANO PURE システムを用い て精製したものを用いた。 1.3 器具の洗浄 実験に使用する全てのガラス器具は水洗後,約4M硝酸槽で12時間以上浸漬し,よくす すいだ後,水で 3 回洗浄し,乾燥させずに直ちに使用した。 6 Table1-1 Measurement conditions of AAS Lamp current Fe 15 mA Zn 6.5 mA Mn , Cu , Mg , Ca Slit Na , K 12 mA Fe 0.2 nm Zn , Cu , Mg , Ca , K 1.3 nm Mn , Na 0.4 nm Burner head Standard burner head Burner height 7.5 mm Flame Air-acetylene Supporting gas pressure 160 kPa Fuel gas flow rate 9 mA Fe , Zn 2.0 L/min Mn , Cu , Mg , Na 2.2 L/min Ca , K 2.4 L/min 7 1.4 試料の灰化と定量 豆腐は水で表面を洗浄し,数分間水切り後均一に混和して,2gずつ取り分け HNO3 5mL を加え,ホットプレート上で約40℃で分解後,約 150 ℃まで上げさらに加熱分解を行った。 褐色のガスの発生が終了した後, HClO4 3mL を加え約 200 ℃で分解を続け,この間 HNO3 を適時追加し,乾固しないようにした。さらに, HClO4 の白煙を生じ分解液がほとんどな くなるまで灰化処理を行い, HNO3 溶液50mLとしたものを試料溶液とした。さらに豆腐を 用いず試料と同様の処理を行ったものを試料ブランク溶液とした。また, Ca の測定では リン酸による負の干渉を受ける。この干渉を除去するために, Ca よりもリン酸と耐火性 化合物を作りやすい La を含む溶液とした。 K の測定では低濃度の Na が干渉をおこすた め Na を高濃度含む溶液とした。すなわち, Ca の場合では1% La 溶液を加えてLaを 1000ppm 含む溶液とし, K の場合には 0.2 % Na 溶液を加えて Na を200ppmとなるように 加え測定溶液とした。 1.5 1.5.1 結果と考察 試料溶液中の酸の影響 通常,原子吸光法による食品中ミネラルの分析では,一般的に希 HCl 溶液とするが,灰 化時には HNO3-HClO4 とするため,溶解する酸の種類が HNO3 溶液の場合と HCl 溶液の場 合について検討した。そこで木綿豆腐を用い前処理後 Ca , K , Na の場合について酸の 種類と濃度を変え測定した。 予備実験として Ca , K , Na の標準液を用い,酸の種類は HCl および HNO3 溶液とし, 酸濃度 0.001M , 0.1M , 0,2M , 0.5M ,1M溶液を作成し検討した結果,酸濃度に関 係なく吸光度は一定していた 42 )。 次に,豆腐試料を用い酸の種類は HCl および HNO3 溶 液とし,酸濃度は 0.1M と1Mとした。各ミネラル含有量の平均値と標準偏差を求め Table 1-2 に示した。 8 Table 1-2 Differences of determined mineral contents by difference of acids and their concentrations (mg/100g)( n=3) Ca Na K AV±SD AV±SD AV±SD 0.1M-HNO3 43.81±1.71 5.30±0.06 170±2.15 1M -HNO3 43.07±4.02 6.24±0.15 172±5.30 0.1M-HCl 41.92±2.51 5.30±0.06 169±3.59 1M -HCl 43.39±3.51 6.27±0.14 176±3.00 AV : Average SD : Standard deviation Ca 含有量は,酸の種類と濃度による差はなかったが, 0.1M-HCl に溶解した場合がや や少なかった。また,標準偏差は0.1M-HNO3 が一番小さかった。 Na 含有量は,酸濃度が 1 M の方が高くなったが,標準偏差は Ca 同様0.1M-HNO3 が小さかった。 K 含有量は,酸 の種類と濃度による違いは認められなかった。この結果より,酸の種類に関係なく 1M よ り 0.1M の濃度の方が標準偏差は小さく, HNO3 を灰化で使用するため0.1M-HNO3 溶液を 用いることにした。 1.5.2 各ミネラルの干渉作用と再現性 食品中のミネラル分析において,分析元素ごとに共存成分による干渉作用が生じる恐れ がある。そこで,ミネラルごとに豆腐分解液を用い標準添加法により干渉の有無を調べた 結果を Table1-3 に示した。この結果,定量元素単独で求めた検量線と標準添加法による検 量線の傾きに差異はなく,干渉作用はほとんど認められなかった。 このことからも灰化後 HNO3 溶液を用いれば,それぞれの元素の干渉もないことが明らか となった。 9 Table 1-3 Examination of interferential action by coexistence component Sample Kinugoshi-tofu Fe Zn Mn y=0.042x+0.00 y=0.134x+0.00 y=0.080x+0.00 method y=0.045x+0.01 y=0.136x+0.01 Calibration curve y=0.041x+0.00 y=0.129x+0.00 y=0.081x+0.00 y=0.026x+0.000 y=0.044x+0.01 y=0.128x+0.02 y=0.082x+0.01 y=0.026x+0.001 Calibration curve Cu y=0.028x+0.000 Standard addition Momen-touf y=0.083+0.01 y=0.029x+0.001 Standard addition method Sample Kinugoshi-tofu Ca Calibration curve Mg Na K y=0.054x+0.00 y=0.682x+0.00 y=0.766x+0.01 y=0.838x+0.02 method y=0.058x+0.01 y=0.662x+0.16 y=0.766x+0.31 y=0.758x+0.75 Calibration curve y=0.054x+0.00 y=0.529x+0.01 y=0.766x+0.01 y=0.830x+0.02 y=0.054x+0.04 y=0.511x+0.05 Standard addition Momen-touf Standard addition method x : Mineral content(ppm) y=0.768+0.29 y=0.795x+0.36 y : Absorbance or emission strength 次に本法の再現性を確認するため,同一試料について同時に 3 試料の灰化と測定を行い, これを繰り返し 3 回行った。この測定値より豆腐100g中のミネラル量を求め,絹ごし豆腐 の平均値と標準偏差を Table1-4 に,木綿豆腐の結果を Table1-5 に示した。絹ごし豆腐と木 綿豆腐の灰化手順による再現性を検討した結果,各ミネラルともに灰化ごとの平均値また は標準偏差に大きな差はなかった。また, 3 試料の平均標準偏差は試料灰化ごとの標準偏 差内にあり再現性も確認できた。 10 Table 1-4 Reproducibility of determined mineral content of kinugoshi-tofu (mg/100g) n=3 Experiment 1 Experiment 2 Experiment 3 Average AV±SD AV±SD AV±SD AV±SD Zn 0.53±0.00 0.60±0.03 0.53±0.01 0.55±0.04 Mn 0.68±0.00 0.65±0.01 0.65±0.00 0.66±0.02 Fe 3.00±0.40 1.10±0.00 1.90±0.60 2.00±1.00 Mg 44.4±2.3 43.3±0.8 45.1±2.5 44.3±0.9 Cu 0.19±0.02 0.19±0.01 0.18±0.02 0.19±0.00 Ca 65.3±7.9 66.2±0.7 62.1±7.90 64.5±2.20 Na 15.5±1.00 16.8±9.40 15.3±1.20 15.9±0.80 K 206±15.1 197±1.9 200±18.7 201±4.2 AV : Average SD : Standard deviation 11 Reproducibility of determined mineral content of momen-tofu Table 1-5 (mg/100g) n=3 Experiment 1 Experiment 2 Experiment 3 Average AV±SD AV±SD AV±SD AV±SD Zn 0.66±0.21 0.67±0.01 0.62±0.04 0.65±0.03 Mn 0.75±0.18 0.71±0.02 0.70±0.03 0.72±0.03 Fe 1.40±0.10 1.50±0.10 1.50±0.90 1.47±0.05 Mg 42.7±3.4 40.7±0.9 41.4±2.1 41.6±1.0 Cu 0.18±0.02 0.16±0.01 0.18±0.01 0.17±0.01 Ca 86.6±14.6 84.6±4.00 80.6±5.8 83.9±3.06 Na 5.60±0.40 5.10±0.30 4.80±0.40 5.20±0.40 K 149±9.30 140±2.00 143±5.40 144±4.10 AV : Average SD : Standard deviation 12 2 2.1 ICP 発光分光光度法の検討 測定装置 ICP 発光分光分析はセイコーインスツルメント製 Vista-MPX 型を使用し,測定条件と測 定波長は Table1-6 に示した。 Table 1-6 Measurement conditions of ICP RF output 1.2kW Observation position Load coil 10mm Argon gas mass flow Plasma gas 1.5L/min Auxiliary gas 1.5L/min Carry gas 220kPa Internal standard element Y Detection wavelength Ca 396.847nm Cu 324.754nm Na 589.529nm Fe 238.204nm P 213.618nm K 766.491nm Zn 213.857nm Y 371.02nm Mg 279.553nm 13 Mn 257.610nm 2.2 試薬と溶液の調製 Ca , Cu ,Fe, K , Mg , Mn , Na , Zn ,及びイットリウム( Y )各標準液は, 和光純薬株式会社製の原子吸光用標準液(1000 ppm)を用いた。リン酸二水素アンモニウ ムは和光純薬株式会社製の試薬特級を用い,器具の洗浄は原子吸光光度法 1.3 節に準じた。 2.3 試料の灰化 試料は,市販の豆乳を均一に混ぜ1gを秤量し, HNO3 3 mL を加えてホットプレートを用 い 120 ~ 150 ℃で分解をした。溶液が黄色透明になった時点で, HClO4 を 1.5mL 加えて, 約 150 ~ 200 ℃で加熱分解し続け,この間 HNO3 を適宜追加し乾固しないようにした。 HClO4 の白煙が少量になり分解液がわずかになるまで灰化処理を行った。灰化後,内標準 物質として Y を1ppm添加し 0.1M- HNO3 溶液25mLとした。豆乳を含まない溶液について同 様の処理をしたものを ICP 発光分光分析のブランクとした。また,原子吸光度法の試料は 1.4 節と同様に調製にした。 2.4 2.4.1 結果と考察 ICP 発光分光分析法による内標準物質の影響 ICP 発光分光分析法では,検量線試料と分析試料のマトリックス組成の違いを補正する 方法として内標準法を用いる。その時,内標準物質として用いられる元素は,測定元素と 分光特性が類似し,かつ分光干渉しないものを使用する。一般的に,イットリウムとカド ミウムなどが用いられるが,環境面から今回は Y を使用した。 Y を添加する際,添加量に より測定値に変化が生じるかどうかを検討するため試料を灰化後 ,Ca 6.4ppm ,Cu 0.04ppm, Fe 0.1ppm , K 2.5ppm , Mg 10ppm , Mn 0.1ppm , Na 1ppm , Mn 20ppm , Zn 0.1ppm の濃度となるように各ミネラルを添加し, Y 量は0 ~5ppmまで 7 段階に変化させ回収率を 求めた。 14 Table 1-7 Standard deviation of determined by additive amount of Y ( n=5 ) The amount of addition (ppm) 0 0.1 0.5 1 2 3 5 Ca 0.7 6.1 1.4 0.7 1.8 1.7 2.6 Cu 6.6 8.9 3.1 5.4 5.1 6.3 8.1 Fe 2.8 5.5 0.2 1.3 3.4 5.1 7.8 K 1.5 7.8 8.3 2.9 3.9 3.7 4.3 Mg 0.7 5.9 1.9 0.8 1.3 1.3 2.3 Mn 0.8 7.7 0.5 1.1 1.8 1.4 3.1 Na 4.6 10.9 1.9 1.0 0.9 1.4 6.1 P 1.5 6.9 2.2 1.0 0.8 1.3 2.6 Zn 4.7 7.5 0.5 0.9 3.0 2.4 4.5 Average 2.7 7.4 2.2 1.7 2.4 2.7 4.6 Recovery percentage was 98 ~102% regardless of the additive amount of Y. その結果, Y 量に関わらず,回収率は98~ 102 %であったため,標準偏差のみを比較し Table 1-7 に示したが, Y の添加量が 1 ppm のときの各ミネラルの標準偏差の平均値は ± 1.7 と最も小さくなった。 Y 添加した場合,Y 1ppmより添加量が多くなってもまた少な くなっても標準偏差は大きくなった。そこで, ICP 発光分光分析法を行うときの内標準物 質 Y 添加量は1ppmが最適であると判断した。 2.4.2 酸によるネブライザーの噴霧効率への影響 ICP 発光分光分析法を用いた食品中のミネラル分析では,共存する有機物を分解するた めに酸による灰化処理を行う。しかし,灰化時に残存する酸の粘性の違いにより,ネブラ イザーの噴霧効率が変化し,発光強度に影響が及ぶ可能性が考えられる。そこで,今回は 灰化時のミネラルの揮散が認められなかった HNO3-HClO444 ) を用いた場合の HClO4 の残 存量の影響について検討を行った。そこで各ミネラル標準液を Ca 20.0ppm , Cu 0.1ppm , 15 Fe 0.2ppm ,K 6.0ppm, Mg 10.0ppm ,Mn 0.1ppm, Na 2.0ppm , P 30.0ppm , Zn 0.2ppmの濃度になるように調製し, HClO4 の濃度が 0M の場合の発光強度を 100 %とし, HClO4 の濃度を 0 ~ 0.05 M と変化させた時の発光強度の影響を検討しFig.1-1に示した。 その結果, HClO4 の残存量が増加するときの発光強度は, Na と K は高く, Zn は低くな る傾向が見られた.しかし,その他のミネラルでは, HClO4 の残存量による大きな違いは 認められず,発光強度は HClO4 が存在しない場合の95.6~ 104.0 %であった.また,灰化 時には HClO4 の白煙が少なくなるまで HNO3 を適宜追加しているため,灰化後の HClO4 残 存量はわずかであるので発光強度に影響はないものと思われる。 次に,灰化後の HNO3 の溶解濃度による影響について,検討を行いFig.1-2に示した。試 料溶液は HClO4 の場合と同様に調製し, HNO3 濃度 0.001 M の発光強度を 100 とし, HNO3 の濃度を 0.001 ~ 0.5 M と変化させた時の発光強度の影響を見た。 HNO3 濃度にか かわらず発光強度は安定しており, 0.1 ~ 0.5M- HNO3 では97.6~ 102.0 %であった。そ こで,灰化処理で硝酸の残存を考慮に入れ,試料溶液の硝酸濃度は 0.1 M とした。この方 法は,原子吸光光度法による灰化条件と同じである。 16 120 Relative emission strength ( % ) 110 100 90 Fig.1-1. 80 Effect ofrelative emission strength by perchloric acid concentration 70 60 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 Perchloric acid concentration(M) Fe Ca Fig.1-1 Zn P Mn Na Cu K Effect of perchloric acid concentration on relative emission strength 17 Mg 120 Relative emission strength(%) 110 100 90 80 70 60 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Nitric acid concentration (M) Fig.1-2 Fe Zn Mn Cu Ca P Na K Effect of nitric acid concentration on relative emission strength 18 Mg 2.4.3 ICP 発光分光分析法と原子吸光分析法の比較 豆乳試料に各ミネラル標準液を Ca 20.0ppm , Cu 0.1ppm , Fe 0.2ppm ,K 6.0ppm, Mg 10.0ppm , Mn 0.1ppm , Na 2.0ppm , P 30.0ppm , Zn 0.2ppm 添加し灰化操作後,豆 乳試料のみを灰化したものをブランクとし,ブランクを差し引いた値を測定値として,回 収率を求めた。また,同様の試料について測定した原子吸光光度法と比較し Table1-8 に示 した。その結果より, ICP 発光分析法による各ミネラルの回収率は97.8~ 105.2 %となり いずれも良好であった。また,原子吸光分析法の回収率は96.6~ 131.9 %となった。両者 を比較しても,今回測定する 9 元素に関しては, ICP 発光分光分析法でも測定が可能であ ることが明らかとなり, Table1-8 に示したようにむしろ ICP 発光分析法の方が優れた回収 率と再現性が得られた。原子吸光光度法の Ca で回収率が高くなったのは, ICP に比べ希 釈倍率が高いためと思われる。 Table 1-8 Element Comparison of recovery rates between ICP –AES and AAS ( n=5 ) ICP AAS Ca 101.6±0.8 131.9±2.2 Cu 102.8±1.8 103.0±3.1 Fe 9 9.9±3.1 97.5±4.9 K 100.1±4.9 104.5±9.7 Mg 97.8±4.5 104.4±2.4 Mn 101.3±1.3 96.6±1.8 Na 102.2±4.9 127.2±4.1 P 105.2±4.6 Zn 104.4±2.5 ― 104.1±5.4 19 3 水素化物発生原子吸光光度法(HG-AAS)の検討 3.1 測定装置 HG-AAS によるセレンの定量測定は,日立製作所製Z-6100型原子吸光光度計に, HFS-3 型加熱石英セル付属水素化物発生装置を接続して行った。 Se(IV) 試料溶液を,塩酸酸性下 でNaBH4 と反応させ,生成した H2Se ガスを,アルゴンをキャリアガスとして石英加熱セ ルに導入した(Fig.1-3 ) 。 なお,測定に用いた各種条件を Table 1-9 にまとめて示した。 凍結乾燥機は東京理科 EYELA FD-1000 型を使用した。 AAS Peristaltic pump Reaction coil H 2Se Sample Separator HCl NaBH 4 Drain Ar Fig. 1-3 Schematic diagram of Se hydride generation (HFS-3). 20 Table 1-9 Instrumental conditions of selenium analysis by HG-AAS AAS (Hitachi, model Z6100) Wavelengh of hollow cathode lamp 196.0 nm Electric current of HCL 12.5 mA Acetylene pressure 15 kPa Air pressure 160 kPa Hydride generation apparatus (Hitachi, model HFS-3) Sampling time 5.0 s Reaction time 10.0s Acid carrier 1.2 M HCl a) Reducing regent 0.75w/v%NaBH4 in 0.1%NaOH Sample solution 3.6 M HCl a) a) 3.2 Optimized in the present study. 試薬と試料 本研究に使用した1000 ppmのセレン (IV) 標準溶液は,和光純薬株式会社製原子吸光用標 準液(1000 ppm)を用いた。また,セレン酸ナトリウムは和光純薬製純度97%を用いた。水 素化ホウ素ナトリウムは和光純薬製原子吸光分析用を, HCl , HNO3 , HClO4 は和光純薬 精密分析用を,水酸化ナトリウムは和光純薬製特級品をそれぞれ用いた。 HG-AAS 測定条件の最適化のために用いた標準試料としては, National Institute Standards and Technology (NIST) のSRM-1568a標準物質である米粉を使用した。 3.3 標準溶液および水素化物生成用の溶液の調製 Se(IV) 溶液は,セレン標準液 (Se 1000 ppm) を適宜希釈して調製した。また, Se(VI) 溶 液は,セレン酸ナトリウム0.2393 gを水に溶解し, HNO3 0.5 mL を加えた後,全容を 100 mLにし1000 ppmの標準溶液を調製し,これを適宜希釈して使用した。 HG-AAS 測定に 21 おける水素化物生成に用いた水素化ホウ素ナトリウム( 0.75 w/v% NaBH4 in 0.1% NaOH )溶液は,水酸化ナトリウム 1 g と水素化ホウ素ナトリウム 7.5 g を水で溶解し, 全容を1Lに調製した。なお,この溶液は測定の直前に調製した。また,塩酸は,精密分析 用のものを適宜希釈して調製した。なお,試料調製用の精製水は, 1.2 節に準じた。 3.4 試料の前処理と試料調製 標準試料の米粉は,前処理として湿式灰化と還元操作を行った後,測定試料溶液とした。 まず,固体試料 0.1 ~ 0.2 g を精秤した後, HNO3 と HClO4 を用いてホットプレート上で 加熱することにより湿式灰化を行った。その後,得られた灰化試料中に含まれる Se(VI) 成 分を Se(IV) に還元するため, HCl を用いて水浴中で加温した。この溶液を一定量に希釈す ることによって, HG-AAS 測定試料とした。 3.5 3.5.1 結果と考察 水素化物生成および測定試料中の塩酸濃度の検討 HG-AAS によるセレン(Se)の測定においては,塩酸酸性条件で Se(IV) 試料溶液と NaBH4 を反応させる。そこで,まず水素化物生成に用いる HCl 濃度の影響を検討した。 Fig.1-4には, Se(IV) 標準溶液(2.5 および 5.0 ppb , 1.2 M- HCl 酸性試料溶液)について, 水素化物生成時の HCl 濃度を変化させた場合の HG-AAS の吸光度を示した。この結果より, HCl 濃度 0.3 ~ 3.6M であれば,吸光度はほとんど変化しないことがわかった。本研究で 用いた塩酸は, 12 M のものを適宜希釈して用いているため,簡便に HCl 溶液を調製でき るよう10倍希釈塩酸溶液( 1.2 M )で水素化物生成を行うこととした。 次に,測定試料中 HCl 濃度の検討を行った。Fig.1-5には, Se(IV) 標準溶液( 2.5ppb お よび 5.0 ppb )について,試料溶液中の HCl 濃度を変化させた場合の HG-AAS の吸光度を 示した。試料溶液中の HCl 濃度が 0.3 ~ 3.6 M の範囲で吸光度に大きな変化は見られなか ったが, 1.2 M 以上で安定した値が得られた。試料の灰化時の酸化剤が残存する可能性を 考慮し,最終的に測定試料中の HCl 濃度は 3.6 M とするのが適当であると判断した。なお, この HCl 濃度は,還元操作後の試料( 12 M HCl 7.5 mL )について,全容を 25 mL に希釈 するのみで調整することができるため,操作が簡便となる点でも有用である。 22 0.08 0.07 0.06 Absorbance 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Concentration of HCl (M) 2.5ppb Fig. 1-4 4 5.0ppb Effect of the carrier HCl concentration (using hydride generation) on the absorbance. 23 0.08 0.07 0.06 Absorbance 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 Concentration of HCl (M) 2.5ppb Fig. 1-5 5.0ppb Effect of the sample HCl concentration on the absorbance. 24 3.5.2 試料溶液の還元条件の検討 食品中のSeは, Se(IV) と Se(VI) の二つの酸化状態が混在している。灰化を行って無機化 した試料中のSe成分は,亜セレン酸イオン SeO32- とセレン酸イオン SeO42- である。 HG-AAS 測定では, Se(VI) から水素化物を生成する途中で Se(IV) の生成を経由するため, Se(IV) 成分の水素化に比べ, Se(VI) からの水素化物生成が遅れることになる 45) 。このため, Se(IV) と Se(VI) の混合物を HG-AAS 測定するのは不適切であり,前処理として, Se(VI) 成 分をすべて Se(IV) に還元する必要がある。本研究では,水素化物生成に塩酸を用いている ことを考慮し, HCl を還元剤として用いる方法を採用した(式 ( 1 ) )。 SeO42- + 2HCl → SeO32- + H2O + Cl2 (1) 還元条件の検討には 5 ppb の Se(VI) 標準溶液を用い,還元剤の HCl 濃度,還元時間およ び温度について検討を行った。 HCl 濃度条件を 6 M および 12 M とし,還元時間と還元温 度が還元率に及ぼす影響を検討しFig.1-6に示した。 HCl 濃度が 6 M の場合には,ほぼ 100 %還元されるまでに80℃では10分程度かかり,還元温度を上げると早く還元されるこ とがわかった。一方, HCl 濃度が 12 M の場合には,80℃で還元しても 1 分程度で定量的 に還元されることが明らかになった。温度が高い場合にSeが揮散する可能性を考慮し,こ れ以後の実験においては, HCl 濃度を 12 M とし,還元温度および時間を80℃および10分 とした。 以上により Se(VI) 標準溶液について還元条件を最適化したので, Se(IV) と Se(VI) の混合 溶液についても Se(VI) を定量的に還元できるか確認したところ, Se(IV) と Se(VI) の各標準 溶液をそれぞれ 2.5 ppb 混合した溶液では,還元操作後の Se(IV) 濃度が 5 ppb となり,決 定した還元条件は Se(IV) と Se(VI) の混合物にも適用できることが示された。 25 120 100 Reduction of Se (VI) (%) 80 60 40 20 0 0 5 10 15 20 25 Heating time(min.) 80℃(6M) 100℃(6M) 120℃(6M) 150℃(6M) minute 80℃(12M) Fig.1-6 3.5.3 Time dependency of the reduction efficiency on the heating time and temperature. 灰化条件の検討 水素化物生成における測定試料中塩酸濃度は 3.6M ,還元時は 12M-HCl を用い80℃10 分間加熱する 33 )。 精秤した 0.1 ~0.2gの標準試料に,まず, HNO3 5mL を加えて 140 ℃ で分解を行い,溶液が透明になった時点で HClO4 1.5mL 加え, 160 ℃でさらに加熱分解を 26 行った。この加熱分解中,液量が1 mL以下にならないように,灰化終了まで HNO3 を適宜 追加することにした。この灰化試料について還元操作を行い, HG-AAS で測定した。その 結果,認証値に比べ 90% 程度の測定値となり, Se(VI) が定量的に還元されていないことが 示唆された。 そこで, Se(VI) 標準溶液( 5 ppb )に, HNO3 あるいは HClO4 を 0 ~ 1.5mL 添加して還 元操作を行い, Se(IV) の HG-AAS 測定を行った結果をFig.1-7に示した。 HNO3 添加量が 0.2mL においてさえ Se(IV) の定量値は理論値( 5 ppb )に比べて減少していることが明ら かになった。このことは,灰化後に残存する HNO3 が,その後の還元操作で酸化剤として 働き, Se(VI) の還元を妨害していることを示すものである。 120 Reduction of Se (VI) (%) 100 80 60 40 20 0 0 0.5 1 1.5 2 amount of acid addition(ml) HClO4 Fig. 1-7 HNO3 Effects of the amount of HNO3 and HClO4 on the reduction efficiency. 27 次に, HNO3 の妨害が明らかになったので,灰化時の HNO3 の初期添加を3 mLに減量し, HClO4 を2 mLに増量して,加熱分解中に液量が1 mL程度となるようにHNO3 と HClO4 を適 宜添加することにより,灰化終了後の残存する HNO3 を極少量とした上で,同様に還元操 作, HG-AAS 測定を行った。その結果,測定値は 382±17 ppb ( 5 回測定)となり,認証 値( 380±40 ppb )をよく再現した。 以上の結果より,湿式灰化における HNO3 添加量は, HG-AAS を用いた食品中のSe定量 に大きく影響し,必要最小限(3 mL)とすることが重要であることが明らかになり,他の 報告と一致した 36) 。 4 まとめ 大豆加工食品中から豆腐の調製条件によるミネラル含有量の変化ならびに市販豆腐中の ミネラル含有量測定するために原子吸光法と炎光光度法により,また,市販豆乳中ミネラ ルの測定には ICP 発光分光分析法による測定条件を検討した。さらに市販豆腐中セレン含 有量を測定するために水素化物発生原子吸光光度法による還元条件を始めとする測定条件 を検討し以下の結果を得た。 1) 市販豆腐のミネラル含有量を原子吸光法と炎光光度法で,分析する際の灰化後の測 定溶液の液性による干渉を検討した結果, HNO3 溶液の方が定量値への影響が小さいこと がわかった。その HNO3 濃度は 1 M より 0.1M の方が標準偏差は少なかった。また,実試 料では他元素への干渉もほとんど生じず再現性も良かった。 2) 豆乳のミネラルを ICP 発光分光分析法により測定するにあたり,灰化時の酸の残存 によるネブライザーの噴霧効率の検討では, HClO4 残存量が少ない方が良く,また, HNO3 濃度にかかわらず安定していた。そこで,灰化処理では HClO4 の白煙が少なくなる まで灰化し, HNO3 の残存を考慮に入れ,試料溶液の HNO3 濃度は 0.1 M が適当と判断し た。この方法は従来の原子吸光分析法で用いた灰化法に準じている。また,内標準物質の Y 添加量は1ppmが最適であった。 以上の条件により,調製した試料を ICP 発光分析法と原子吸光分析法で測定し比較した 結果, ICP 発光分光分析法ではすべてのミネラルで回収率 100 %前後と原子吸光分析法よ り良好な結果が得られた。 3)水素化物発生原子吸光光度法によるSeの測定方法では,試料の湿式灰化においては, 灰化終了後の残存する HNO3 が後の操作である Se(VI) の還元を妨害することが明らかにな 28 った。また, Se(VI) 成分の還元操作では,還元剤として用いる塩酸濃度が高いほうが,穏 やかな温度条件で速やかに還元されることが明らかになった。 Se(VI) 成分の還元操作では, 12M HCl を 7.5mL 用いて80℃で10分間還元することにより, Se(IV) に定量的に Se(IV) に 還元できた。 0.1 ~ 0.3 g の試料の湿式灰化においては,試料に HNO3 を3 mL添加して 140 ℃で分解 し,さらに HClO4 を2 mL添加して 160 ℃で加熱分解した。この間,液量が1 mL以上となる ように HClO4 と HNO3 を適宜添加することにより,灰化終了後の残存する HNO3 量を最小 限にした。上記の条件で標準試料 NIST のSRM-1568aの米粉(認証値 380 ±40 ppb)を測 定したところ, 382 ±17 ppbであり,操作および実験条件の妥当性が示された。 29 第2章 手作り豆腐調製条件の違いによるによるミネラル含有量の変化と味 覚への影響 緒言 豆腐の製造は,大豆を浸漬し水を加えて磨砕後,磨砕液として得られた“ご”を加熱し た後にろ過して,豆乳とおからに分け,得られた豆乳に凝固剤を加え凝固後,水さらしを 行うと豆腐となる。絹ごし豆腐は豆乳濃度を濃くし,豆乳全体を凝固させる。それに対し 木綿豆腐は豆乳濃度を薄くし,重石をかけ余分の水分を“ゆ”として排出させる。豆腐の 製造では,凝固剤添加時の温度や操作が重要で,手作りでは現場でも経験や勘に頼ること が多い。 “ご”の加熱は,沸騰状態を保つことが大切であるが,加工実習ではふきこぼれや 豆乳を焦がさないようにすることに注意するあまり温度が低下している場合がよくある。 これらの操作の違いは,製品の良否以外に栄養成分の含有量にも影響するのではないかと 考えられる。そこで,本研究では栄養成分のなかでもミネラルに着目し,従来行っていた 調製方法と条件を変えた調製方法で,どちらがミネラル含有量の多い豆腐が出来るかどう かに注目して実験を行った。豆腐を製造する場合は,水に浸漬後加工を行う。そこで,大 豆の浸漬温度また“ご”の加熱温度と凝固剤添加時における豆乳の温度等の調製条件を変 えた豆腐について,各工程中のミネラル含有量について検討した。併せて,成分の測定と 官能検査を行い,味覚との関係についても調査した結果について述べる。尚,凝固剤は, 最近消費者の天然物志向と味の良さから,市販豆腐には「にがり」 (塩化マグネシウム)が 多く使用されているが,今回は未経験者でも凝固させやすい硫酸カルシウムを用いた。 1 実験 1.1 豆腐の製造 製造の起源は中国の唐代とされ,わが国へは平安時代,仏教の伝来と共に伝えられたと されている。大豆を浸漬し水を加えて磨砕したものを“ご”という。この“ご”の加水は, 乾燥大豆 1 に対し絹ごしでは 5 倍,木綿では 10 倍,また,浸漬大豆 1 に対しては絹ごし 2 倍,木綿では 4 倍を加える。豆腐の製造は, “ご”を加熱した後にろ過して豆乳とおから に分けるところから始まる。そこで,得られた豆乳に凝固剤を加え凝固後,水さらしを行 うと豆腐となる。絹ごし豆腐は,豆乳濃度を濃くし,豆乳全体を凝固させる。それに対し 木綿豆腐は豆乳濃度を薄くし,重石をかけ余分の水分を”ゆ”として排出させる。豆腐製 30 造では,凝固剤添加時の温度や操作が重要で,現場でも経験や勘に頼ることが多い。そこ で本研究では,経験や勘の部分を実験的に解明することにした。 1.2 豆腐の調製 試料大豆は,市販国産鶴の子大豆を,豆腐を調製した水はイオン交換水(以下水)を用 い木綿豆腐を調製した。凝固剤の硫酸カルシウムは,和光純薬株式会社製の食品添加物用 を用いた。まず,大豆 100gは体積の 3 倍量の水を加え5℃で 17 時間浸漬後,吸水した大 豆を,加水後家庭用ミキサー(ナショナル電気ミキサー MX-915C 型 強度6)で 5 分間 磨砕した。 “ご”は浸漬大豆体積の 2 倍量になるように添加する水の量を調節した。続いて, “ご”は 非加熱,85℃で 5 分,100℃で 5 分の 3 つの加熱条件で処理し,それぞれの豆乳を得た。豆 乳は厚手の木綿袋にいれ,木杓子で上から圧搾した。 次に,豆腐の調製にはビーカーを用い,凝固剤量はあらかじめ予備実験により一番凝固 しやすく豆腐重量が多くなる条件を求めた。すなわち,豆乳 50gに対し凝固剤は豆乳の 0.6%である 0.3g,凝固剤添加温度は豆乳を 85℃に保ちながら添加し,直ちに 5℃の冷蔵 庫で 20 分間冷却後,クリープメーターで硬さを測定した。その後,No2 のろ紙で 10 分間 自然ろ過を行い,ろ紙上に残ったものを豆腐として重量を測定し,pH と水分量と灰分量 を求めた。各ミネラルの測定は,“ご”・豆乳・豆腐それぞれについて行った。 さらに,ミキサーの磨砕時間を3分にし,100℃で 5 分の加熱後得られた豆乳を用いて 凝固剤添加温度を 85℃と 75℃の豆腐 2 種類を調製し同様に試料とした。 豆腐調製の条件の概略を Fig.2-1 に示した。 31 は従来の方法を示している。 Soy bean soak time 17hr Soak temperature Heating temperature of "GO" Grinding time of”GO" 5℃ 28℃ unheated 85℃ 5min. 100℃ 5min. 3min. Coagulation 85℃ temperature 85℃ Fig.2-1 1.3 75℃ 85℃ Scheme of the tofu preparation ミネラルの測定 乾燥大豆は大豆2粒を精秤後, HNO35mL 中に1夜放置後湿式灰化を行い,0.1M- HNO3 溶液で 50mL とした。浸漬大豆は2粒を精秤後,純水 10mL に 17 時間浸漬し,吸水大豆重量 を精秤し,HNO3 に1夜放置後湿式灰化を行い,0.1M- HNO3 溶液 50mL とした。浸漬温度 は 28℃と 5℃とした。豆腐の灰化処理は第 1 章 1.4 節に準じた。 装置の原子吸光分光光度計,炎光分光光度計は日立製作所製ゼーマン偏光原子吸光度計 32 Z-5310 型を用いた。原子吸光分析の波長は Ca:422.7nm,Mg:285.2nm,Fe:248.3nm, Zn:213.8nm,Mn:279.5nm,Cu:324.8nm を用い,炎光分析の波長は Na:589.0nm,K:766.5 nm を用いた。測定条件等は第 1 章 Table1-1 に準じた。 1.4 硬さの測定 山電卓上物性測定器 TPU-2S 型を用い硬さを測定した。条件はプランジャー 3(直径 16mm)を使用し,チャートスピードは 30cm/min.,レコーダー入力感度は 100mV フルス ケールで行い,10mm 押した時の硬さを求めた。測定はビーカーで調製したものをそのま ま試料とした。 1.5 水分,灰分およびpH の測定 豆腐の水分量は,豆腐試料 5gを精秤し 105±3℃での常圧加熱乾燥法で測定した,灰分 量は,同様に試料を 550℃での灰化法で恒量値とし求めた。pH の測定は堀場 H-7LC 型pH メーターを使用した。 1.6 官能検査 “ご” の加熱温度を変えて調製した豆腐は,順位法でクレーマーの簡易検定表 46)によ り,また,磨砕時間と凝固剤添加温度を変えた豆腐はそれぞれ 2 点嗜好検査のための検定 表 47)により,以下の検査項目について得られた結果を統計処理した。検査項目は風味,口 当たり,総合評価の 3 点について,順位法は各項目について好ましいと思う順番に 1 位か らとし同一順位をつけないようにした。また,2 点比較法は,好ましいと思う方に○をつ けた。なお、非加熱の“ご”は凝固剤添加時の温度を 85℃に保ちながら行っているため食 しても問題はない。パネルは神戸女子短期大学食物栄養学科 2 年生11名で行った。 2 2.1 結果と考察 大豆浸漬条件の違いによるミネラル含有量の変化 豆腐製造工程の初めである大豆浸漬中のミネラルの流出について検討した。まず,乾燥 大豆中の各ミネラルを測定した結果,大豆 100g中の Zn 含有量は 3.5mg,Fe 7.3 mg,Cu 1.1mg,Mn 2.7mg,Na 4.0mg,K 2034mg,Ca 138mg および Mg 含有量は 230mg となり, Na は成分表値 48)と比較すると高かったが,その他のミネラルは成分表値に近かった。 33 次に,大豆は 5℃と 28℃で 17 時間浸漬し,浸漬大豆中のミネラル含有量を測定し,乾 燥大豆として換算した。結果は,乾燥大豆中各ミネラル含有量を 100%として,浸漬大豆 のミネラル残存率を求め Fig.2-2 に示した。いずれの温度でもミネラルは流出しているが, 全ミネラルの残存率の平均は 5℃では 86.7%に対して,室温の 28℃では 82.2%であった。5℃ の方がミネラル残存率は高く,ほとんどのミネラルで 85%以上が大豆中に残った。K は 5℃ で 98.5%が大豆中に残ったが,28℃では 83.1%となり温度に左右されることが明らかとな った。Na は 5℃では 67%が,28℃では 78%が大豆中に残り,温度に関係なく水に流出し やすいミネラルといえる。そこで,これまでは室温で浸漬していたが,今後の浸漬温度は 5℃で行うことにした。 Zn 100 Mg 80 Fe 60 40 20 Ca Cu 0 K Mn Na Dried soybean Fig.2-2 5℃ 28℃ Relative mineral contents of soybeans after soaking in water compared with their in dried soybeans (set to 100%) 34 (n=5) 2.2 “ご”の加熱温度によるミネラル含有量の変化 次の工程である豆乳の調製のためミキサーで 5 分磨砕した“ご”について,加熱温度を 非加熱,85℃,100℃として得られた豆乳中ミネラル含有量を Fig.2-3 に示した。通常“ご” の加熱は沸騰状態で行っているが,加熱温度の違いによって豆乳 100g中の Na とK含有量 は加熱温度が高くなると増大した。また,特に Na でこの変化が大きかったことより大豆 中 Na は熱水に溶出し,豆乳中に移行しやすいミネラルということが言える。 Fig.2-3 Mineral contents in soy milk after heating of "GO" at different temperatures for 5 minutes (n=5) 35 その他の豆乳中ミネラル含有量では,加熱温度による大きな差はなく,非加熱より 85℃ で少なくない,もしくは変わらないミネラルに Zn,Fe,Cu,Mn,Mg があった。実習中 の“ご”の沸騰状態から見ていると温度は 85℃前後になっている場合が多いと考えられ, 温度はミネラル含有量にも影響を及ぼすため,ここで温度管理をする必要性があることが わかった。 次に,豆乳 50gから調製した豆腐の特性を Table2-1 に示した。 “ご”の加熱温度が高くな るほど,ろ過後の豆腐重量は多くなり,破断荷重(豆腐の硬さ)は大きくなり,外観から は,市販豆腐に近い豆腐になっていた。豆腐のpH と水分量は,加熱温度の違いによる差 は認められなかった。一方,灰分量は非加熱でやや少なく,ミネラル量も少ないことがわ かる(Fig.2-4)。これらの結果から, “ご”の加熱温度は高いほど,豆腐の重量は多くなり 豆乳全体が凝固していることがわかる。 Table2-1 Tofu properties prepared at different heating temperatures (n=3) Heating temperature of "GO" Unheated 85°C, 5 min 100°C, 5 min Tofu finished weight (g) 31.6 36.2 40.2 Filtrate quantity (g) 15.9 9.3 5.3 Tofu hardness (N) 0.23 0.6 0.78 pH 5.70 5.78 5.74 Water content (%) 85.6 85.2 84.8 Ash (mg/100 g) 10.55 11.63 11.66 Properties tofu prepared from 50g of soy milk 36 また,それぞれ 3 種類の豆乳 50gから得られた豆腐中ミネラル含有量に豆腐重量を乗じ た豆腐ミネラル総量を Fig.2-4に示した。 Fig.2-4 Total mineral contents in tofu prepared from 50 g of soy milk by heating for 5-minute at different temperatures (n=5) Na と K 総量は,加熱温度に比例して多くなっていた。豆乳から豆腐への移行率は,Na では非加熱で 72%,85℃と 100℃で 99%となり,ろ液中の Na 量はわずかで加熱温度によ る差は認められなかった。しかし,Fig.2-4 の Na 総量は 85℃と 100℃で差が出ているので, 出来あがった豆腐重量の違いにより Na 総量に大きな違いが生じることになる。また,K 37 の豆乳から豆腐中への移行率を見ると,それぞれ 53%,61%,80%であり,K は“ご”の 加熱温度が高くなるに従い豆腐中の移行率は高くなった。一方,ろ液(“ゆ”)中の K 総量 は,非加熱で 36mg,85℃で 24mg,100℃で 25mg であった。85℃と 100℃のろ液中 K 総量に 差がなく移行率が異なるのは,豆乳中の K 量が加熱温度が高くなるほど多かった結果であ る。K は“ゆ”中に含まれるため,木綿豆腐中の K 量は低いという報告 49) があり,本研 究の結果も一致した。しかし, “ご”の加熱をしっかり行うことで“ゆ”中への流出を抑え ることができることが実験から得られた。その他のミネラルの豆腐への移行率は,75~90% でミネラルにより差が生じたが,”ご”の加熱温度は高いほうが豆腐中のミネラル総量は多 くなり,中でも Na と K 含有量において顕著であった。一方で,Ca は凝固剤として添加し ているため,豆乳中よりかなり多くなっている唯一のミネラルである。 次に“ご”の加熱温度を変えて調製した豆腐について,風味,口当たり,総合評価の 3 点について順位法による官能検査を行い Table2-2 に示した。結果はクレーマーの簡易検定 表により統計処理を行った。加熱温度が低くなると豆の青臭さが残るため,非加熱では豆 腐の味ではなかった。そのため風味,口当たり,総合評価のいずれにおいても 100℃加熱 が有意水準 5%で好まれ,非加熱は好まれないと評価された。ミネラル含有量だけではな く味覚の面からも“ご”は 100℃の条件で沸騰させるのが良いことがわかった。 38 Table2-2 Sensory evaluation of "GO"at different temperatures for 5 minutes(n=11) Unheated 85℃ 100℃ Flavor 33* 19 10* Texture 33* 18 11* Evaluation 33* 17 12* *P<0.05 n: Panel number of people. The significant difference does not have result 16-28. Following result or less 15 or more than 29 are significant difference . 2.3 ミキサー磨砕時間によるミネラル含有量の変化 磨砕時間を 5 分と 3 分にした加熱前の“ご”100gのミネラル含有量を Table2-3 に示した。 従来,磨砕時間は 5 分で行っていたが,大豆中に含まれるミネラルのほとんどが“ご”に 移行するため,いずれのミネラル含有量も磨砕時間による違いはなかった。 39 Table2-3 Mineral contents of “Go”(before heating)for different grinding time Zn Fe mg/100g (n=5) Cu Mn Grinding time: 3 min 35.4±5.0 0.89±0.1 0.15±0.03 0.50±0.06 Grinding time: 5 min 35.2±6.1 0.75±0.2 0.14±0.01 0.49±0.05 Na K Ca Mg Grinding time: 3 min 0.38±0.01 280±33 24.9±5.3 35.4±5.0 Grinding time: 5 min 0.43±0.19 277±24 23.6±4.1 35.2±6.1 40 次に,磨砕時間 5 分と 3 分の“ご”を用いて,ミネラル総量が多く官能検査結果も一番 良かった,100℃5 分加熱によって得られた豆乳 100g中のミネラル含有量を Fig.2-5 に示 した。 Fig. 2-5 Mineral contents in soy milk heated at 100°C for different grinding times (n=5) 41 ミネラルの中でも Zn,Fe,Mnおよび Na 含有量は 3 分磨砕の方が多くなった。これは, 5 分では豆乳とおからの分離が難しかったことが一因と推察される。3 分磨砕のミネラル含 有量が多いのは,5 分では豆乳として分離できなかったミネラルがおからの方に残り,さ らに,磨砕時間が長い 5 分ではおからの粒子が細かく表面積が大きくなった結果,一度熱 水中に溶出したミネラルがおからの表面に吸着した可能性も考えられる。乾燥大豆 100g からの豆乳量は,5 分磨砕で 210gであったのに対し,3 分では 290gと多かった。また, おからの水分量を測定した結果,3 分磨砕のおからは 78.2%に対して 5 分では 82.2%と多 く,5 分のおから中に多くの豆乳が残っていることが裏付けられた。 次に,磨砕時間 3 分の豆乳について,凝固剤添加温度 85℃と 75℃の 2 種類の豆腐を調製 し,従来行っていた磨砕時間 5 分,凝固剤添加温度 85℃のものと比較した。これら豆乳 50 gから調製した豆腐の状態を Table 2-4 に示した。灰分は 3 分磨砕で凝固剤添加温度 75℃ の方が他に比べ多かったが,その他に違いは認められなかった。 Table 2-4 Tofu properties for different grinding times and coagulation temperatures (n=3) Grinding time 5 min 3 min 3 min Coagulation temperature 85°C 85°C 75°C Weight of tofu (g) 40.2 42.5 39.3 Weight of Filtrate (g) 5.3 3.7 5.9 Hardness (N) 0.78 0.65 0.72 pH 5.74 6.07 5.78 Water content (%) 84.8 85.6 84.9 Ash (mg/100 g) 11.66 10.61 14.74 Properties of tofu prepared from 50 g of soy milk. 42 また,豆乳 50gから調製した豆腐中ミネラル総量を Fig.2-6 に示した。凝固剤添加温度 が 85℃では,磨砕時間は 3 分の方が,5 分よりミネラル総量は多い傾向にあった。Ca の総 量について,豆乳重量に対し 0.6%の硫酸カルシウムを添加しており,豆乳重量が多かっ た事により 3 分が多くなっている。 Fig. 2-6 Total mineral contents in tofu prepared from 50 g of soy milk with different grinding times and coagulation temperature(n=5) 43 一方,凝固剤添加温度は 75℃の方が 85℃と比べて Fe と Na および Ca 総量が明らかに多 かった。豆腐重量は,75℃の方が少なかったので,凝固剤添加温度が低い方が豆腐中にミ ネラルが残ることが判明した。次に,磨砕時間 5 分と 3 分で凝固剤添加温度 85℃の豆腐に ついては,2 点嗜好試験法による官能検査を行ったが,いずれの項目も有意差はなかった。 また,磨砕時間 3 分で凝固剤添加温度が 85℃と 75℃の 2 種類の豆腐について官能検査を行 った結果,凝固剤添加温度 75℃の場合が,パネル 11 名中 10 名がおいしいと答え,有意水 準 5%で風味と総合評価で有意に好まれるという結果となった。好まれる理由を尋ねたと ころ,75℃の方で甘味が強く感じられ,口当たりの有意差はなかったが,85℃では少しね っとりしているという答えが多かった。このねっとり感は 85℃の豆腐は,水分が多かった のが原因とも推定される。 これらの結果から,手作り豆腐調製時の操作で,品質以外にミネラル含有量に違いが生 じることが明確になった。また,凝固剤添加温度は味覚に深く関わっていることが再確認 できた。 3 まとめ “ご”の加熱温度と凝固剤添加時における豆乳の温度等の調製条件を変えた豆腐につい て,各工程中のミネラル含有量について検討した。併せて,成分の測定と官能検査を行い, 味覚との関係についても調査し以下の結果を得た。 1)豆乳中の Na と K 含有量は, “ご”の加熱温度に比例して顕著に多くなり,ミネラル総 量も多くなった。また,加熱温度が高いほど豆腐重量は多くなり,豆乳全体が凝固してい る豆腐となった。さらに味覚の面から“ご”は 100℃で沸騰させる必要がある。 2)磨砕時間を変えた場合の豆乳中のミネラル含有量は,3 分の方が 5 分磨砕より Zn,Fe, Mn および Na 含有量が多かった。また,豆乳量は 3 分の方が,5 分に比べ重量が 1.3 倍と なり,ミネラル総量も多くなった。さらに,凝固剤添加温度は 85℃より 75℃の方が Fe と Na および Ca 総量が明らかに多くなった。 3)凝固剤添加温度 85℃と 75℃の豆腐について,パネル 11 名で 2 点比較法による官能検 査を行ったところ,有意水準 5%で風味と総合評価で 75℃において好まれるという評価を 得た。 4)手作り豆腐調製時の凝固時の温度や操作によって,ミネラル含有量に違いが生じた。 官能検査の結果より好まれた豆腐は,豆腐中にミネラルが多く移行していた。また,凝固 44 剤添加温度は味覚に影響を及ぼしていた。 5)結論としてミネラル含有量が多くおいしい豆腐を調製するためには,今回検討した条 件では以下の操作を用いるのが良いことが判明した。すなわち,大豆の浸漬温度は 5℃, ミキサー磨砕時間は 3 分間,“ご”の加熱温度は 100℃,豆乳の凝固剤添加温度は 75℃で あった。 45 第3章 調製方法の違いが豆腐のミネラル含有量に及ぼす影響 緒言 ミネラルは生命活動に欠くことのできない生理作用や酵素作用の他,食物の第三次機能 である生体調節機能などに密接な関係を持ち,飲食物から摂取する必要がある。しかし近 年,飽食の時代であるにも関わらず,加工食品の多様や食習慣の乱れから,国民栄養調査 の結果 19)によるとミネラルではカルシウム,鉄,銅,亜鉛が不足し、その他のミネラルは 充足している。 第 2 章では,豆腐中のミネラル含有量には調製方法によって異なることを述べた。豆腐 は重要なミネラルの供給源の食品であるが,豆乳の前工程である“ご”の磨砕時間や温度, さらに凝固剤の添加時の温度によっても,豆腐中ミネラル含有量は異なることが明らかと なった。この研究では,調製した木綿豆腐は,調製水のミネラルの影響を受けないように 蒸留水を使用し,“ゆ”の排出は重しを用いずろ過を行い,水さらしも行わなかった。 そこで,本章では,現在までの研究で得られた豆腐を調製する最適条件を用い,大豆 250 gから実際に絹ごし豆腐(以下絹ごし)と木綿豆腐(以下木綿)を調製し,そのミネラル 含有量を測定し,調製方法の違いについて検討した。さらに,調製作業をするグループに よるミネラル含有量の違いを検討するために,3グループで同じ条件で同時に調製した。 また,市販豆腐では,原材料の大豆の種類や豆乳濃度,さらには凝固剤の種類や量などメ ーカーによってかなり異なることが予想される。そこで併せて,神戸市内で購入した絹ご しと木綿のミネラル含有量を,手作り豆腐並びに成分表と比較した結果について述べる。 1. 実験 1.1 試料 豆腐の調製に用いた試料大豆は北海道産鶴の子大豆,豆腐を調製した水は神戸市の上水 道を用いた。凝固剤の硫酸カルシウムは第2章 1.1 節に準じた。 市販品は神戸市内のスーパーマーケットで購入した種類の異なる絹ごしと木綿各 5 品とし た。製品の表示によるとすべての豆腐は,国内産丸大豆を用い,凝固剤として塩化マグネ シウム単独または硫酸カルシウムとの混合を,また消泡剤として炭酸マグネシウムあるい は植物性エステルを用いていることが記載されていた。 46 1.2 豆腐の調製 手作り豆腐(以下手作り品)は,1 グループ 3 人でA,B,Cの3グループで同じ原材 料を用い,絹ごしと木綿をそれぞれ調製した。手作り品は,第 2 章で有意においしいと結 果がでた条件で調製した。すなわち,大豆はそれぞれ 250gを 750gの水道水を用い 5℃で 17 時間浸漬後,吸水した大豆をナショナル電気ミキサーMX-915C 型(強度6)で3分間 磨砕した。“ご”を調製した水道水は,絹ごしの場合 1200g,木綿の場合 2400g用いた。 “ご”の加熱は 100℃で 5 分間行い,その後厚手の木綿袋に入れ,木杓子で圧搾しそれぞ れ豆乳とおからに分けた。 絹ごしは豆乳を 75℃に保ちながら,豆乳に対し 0.4%の凝固剤を加え,直ちにステンレ スの型箱に入れて室温まで冷却後,5℃の冷蔵庫で 20 分間冷却後,30 分間水さらしをした ものを試料とした。 木綿は豆乳を 75℃に保ちながら,豆乳に対し 0.4%の凝固剤を加え,凝固するまで放置 後,穴明きの型箱にさらしを敷き,その中に凝固した豆乳を入れ上から約 300gの木の重 石をのせ,10 分間“ゆ”の排出を行い,30 分間水さらしをしたものを試料とした。試料の 豆腐は重量測定後,ミネラル含有量および水分量と灰分量の測定を行った。ミネラル含有 量の測定を行うための試料は精秤した後,測定まで冷凍保存をした。 1.3 試薬 試薬は,第 1 章 1.2 節に準じた。 1.4 ミネラル含有量と水分並びに灰分の測定 測定に用いた原子吸光分光光度計,炎光分光光度計の測定条件ならびに測定波長は,第 1 章 1.1 節に準じた。ミネラルの測定は第 2 章 1.2 節に準じ,1 試料につきそれぞれ 5 回灰 化後に測定し,平均値と標準偏差を求めた。試料の灰分は 550℃で水分の測定は 105±3℃ で第 2 章 1.4 節に準じた。 47 2. 結果と考察 2.1 手作り豆腐のミネラル含有量 手作り品は同じ原材料を用い,3 グループが絹ごしと木綿を1回ずつ調製した。得られ た豆乳重量は,絹ごし 592±68g,木綿 1648±214gで調製グループによる豆乳重量の誤差 は,豆乳濃度の高い絹ごしは 11%,豆乳濃度の薄い木綿 13%となり,豆乳を調製する作業 性は木綿の方がやり易いが,豆乳濃度の違いによる重量の誤差に大きな違いはなかった。 また,この豆乳を用い豆腐を調製した結果,濃い豆乳をそのまま固める絹ごしの重量は 587±88g,薄い豆乳から水分“ゆ”を除く木綿は 633±58gとなり,誤差は絹ごし 15%, 木綿 9%となり,豆乳をそのまま凝固させる絹ごしで,調製グループによる誤差が,豆乳 重量の誤差より大きくなった。これは豆乳全体が上手く凝固した場合と水さらし中に豆腐 から水分が離水した場合が推定される。木綿では 1648g の豆乳から 633g の豆腐が得られ半 分以上の水分が“ゆ”として流出したことがわかる。 手作りの絹ごしと木綿のミネラル含有量は,1 グループ各試料5回測定を行い3グルー プで繰り返し 15 回の平均値を比較し Fig.3-1 に示した。 48 Fig.3-1 Mineral contents in handmade tofu prepared by different methods *P<0.05 49 Fig.3-1 より,絹ごしに対し木綿が多いミネラルは Zn,Mn で 1.7 倍,Fe で 1.6 倍, Ca で 2.0 倍,Mg で 1.4 倍となり,Zn,Fe,Ca は有意に木綿が多かった(P<0.05)。これは, 使用した水が木綿豆腐の方が絹ごしに比べ 2 倍多いため, “ご”の加熱中に豆から抽出され るミネラルが多くなったことが推察される。また,絹ごしは濃い豆乳をそのまま固めるの に対して,木綿では余分の水分を“ゆ”として排出させるが, “ゆ”中へのこれらのミネラ ルの流出が少ない結果と考えられる。Ca が木綿で多いのは豆乳量の 0.4%の硫酸 Ca を凝 固剤として添加したため,豆乳量の多い木綿で多くなった。一方,木綿の Cu は絹ごしの 0.6 倍となり,有意に少なかった(P<0.05)。また,木綿の K 含有量は 0.6 倍と少なかった が,有意差はなかった。木綿の工程の“ゆ”中には,多く K が排出されるため 49)50)51) , 木綿では K 含有量は少なくなった。 2.2 調製グループによるミネラル含有量の違い 調製グループの違いが,ミネラル含有量に及ぼす影響を検討するにあたり,製造工程が 同じである同一スーパーマーケットで販売される同じメーカーの同一製品で,2004 年 7 月 と 8 月さらに 2005 年 2 月と購入月の異なった豆腐 3 丁についてミネラル含有量を測定し Table3-1 に示した。 その結果より,絹ごしサンプル 1~3 と木綿サンプル 4~6 は,同一製品の豆腐について 測定したが,購入月が異なるとミネラル含有量に違いがみられた。特にサンプル 3 と 6 は 購入月が前に購入してから 6 カ月後のため,これまでの製品より絹ごしは Zn と Na が多く, 木綿では Zn,Fe,Mn,Na,Ca,Mg が少なくなっていた。中でも Na は絹ごしでは平均 25.3m/100g,木綿は平均 9.4mg/100g であり, 2005 年購入の Na 含有量の違いが顕著で あった。これは,製造工程は同じと考えられるためこの違いは原料大豆の違いによるもの と推察される。 また,凝固剤は絹ごしは MgCl2 が単独で使用され,木綿は MgCl2 と CaSO4 の混合が使用 されていた。その結果,絹ごしと木綿の平均を比較すると Ca は木綿が絹ごしの 2.5 倍含 有され,Mg は反対に絹ごしが木綿の 2.1 倍含有されていた。 また,単独で使用される凝固剤の種類によって,豆腐へのミネラルの移行率が異なり, 木綿では凝固剤の種類によるミネラルの移行率の違いは認められないが,絹ごしでは凝固 剤の種類によるミネラルの移行率の違いが認められる 51) という製造方法による違いやま た,Mg 塩を凝固剤として使用すると Mg 以外に Fe,Zn,Mn の移行率が高くなり,Ca 塩 50 では P,Fe,Zn,Mn の移行率が高くなるという報告もあるが 52) ,木綿は混合の凝固剤が 使用されていたため,明確な違いは認められなかった。 Table3-1 Kinugoshi Momen Kinugoshi Momen Mineral contents of commercial kinugoshi and momen tofu mg/100g(n=5) Zn Fe Cu Mn Sample1 0.67±0.03 0.92±0.04 0.20±0.01 0.38±0.01 Sample2 0.67±0.03 1.32±0.23 0.23±0.01 0.44±0.01 Sample3 0.85±0.05 1.37±0.05 0.31±0.03 0.41±0.11 Sample4 0.79±0.00 1.00±0.00 0.19±0.01 0.49±0.02 Sample5 0.75±0.06 1.27±0.07 0.21±0.01 0.55±0.04 Sample6 0.51±0.06 0.89±0.28 0.19±0.02 0.27±0.06 Na K Ca Mg Sample1 21.4±0.7 234±4 26.6±0.9 66.6±1.34 Sample2 24.4±0.8 237±3 24.5±1.8 75.8±1.40 Sample3 30.0±0.7 290±20 26.6±0.3 78.5±0.70 Sample4 10.7±0.5 144±2 82.5±1.7 37.2±0.6 Sample5 14.4±1.5 157±3 69.4±1.3 44.4±1.4 Sample6 3.1±0.2 150±17 46.6±7.1 23.1±3.1 Sample1 and 4were purchased in July 2004 Somple2ane 5were purchase in August 2004 Sample3and 6were purchase in February2005 51 次に,この市販品と 3 グループの手作り品と比較した。購入月の異なる同一メーカーの豆 腐 3 丁と 3 グループで調製した手作り品の各試料のミネラル含有量の平均値と標準偏差を 求めた。絹ごしの結果を Table 3-2 に,木綿の結果を Table3-3 に示した。 Table 3-2 Mineral contents (mean and standard deviation) of handmade and commercial kinugoshi tofu mg/100 g (n=15) Zn Fe Cu Mn Handmade 0.55±0.05 0.90±0.07 0.16±0.01 0.43±0.03 Commercial 0.73±0.1 1.2±0.25 0.25±0.06 0.41±0.03 Na K Ca Mg Handmade 3.75±0.48 228±11 107±12 28.6±1.68 Commercial 25.3±4.37 254±31 25.9±1.21 73.6±6.24 The commercial tofu samples were repeat purchased at the same supermarket three times in a month. All tofu samples which were the same products, but different lot numbers were purchased on each occasion. For handmade, the data are expressed as the mean and standard deviation of the contents of the tofu made by three groups . 52 Table3-3 Mineral contents (mean and standard deviation) of handmade and commercial momen-tofu mg/100 g (n=15) Zn Fe Cu Mn Handmade 0.92±0.04 1.48±0.05 0.09±0.02 074±0.03 Commercial 068±0.15 1.05±0.2 0.20±0.01 0.44±0.15 Na K Ca Mg Handmade 3.2±0.14 138±30 212±42 40.0±11.94 Commercial 9.4±5.76 150±6.51 66.2±18.2 34.9±10.8 The commercial tofu samples were repeat purchased at the same supermarket three times in a month. All tofu samples which were the same products, but different lot numbers were purchased on each occasion. For handmade, the data are expressed as the mean and standard deviation of the contents of the tofu made by three groups . 絹ごしについて,手作り品では 3 グループのミネラル含有量にかなりバラツキがあるも のと想定していたが,市販品に比べ標準偏差は小さく,変動は少なかった。しかし,Ca の標準偏差は大きくなり,調製グループにより異なっていることがわかる。この理由とし て Ca 塩を凝固剤として使用したが,豆乳重量の違いにより凝固剤使用量がグループによ 53 り異なることや,水さらし中に流出したためと考えられる。 市販品では Na と K と Mg で,手作り品より製品間の変動が大きかった。市販品で Mg の製品間の変動が大きかったのは,凝固剤として使用されていた塩化マグネシウムの使用 量や種類が異なることが一因と考えられる。 木綿については,手作り品では絹ごし同様市販品より標準偏差は小さく,グループによ る変動は小さかったが,Ca と K がグループによって顕著な差が見られた。この理由とし て Ca は凝固剤として豆乳重量の 0.4%を使用したが,豆乳重量は絹ごしより木綿の方が多 いため,木綿豆腐の方が絹ごしより標準偏差が大きくなったと考えられる。一方,K がグ ループにより異なるのは K が“ゆ”に流出する 49)50)ためで,調製方法は同じでも調製グ ループによって凝固の工程で“ゆ”中への流出量が異なることが推察される。 市販品では絹ごし同様 Na の変動が大きかった。Na は市販では多いものがあるという報 告もあるが 49), “ご”の加熱や凝固剤添加温度で左右されるミネラルの一つ 50)のため,調製中にミネラ ルの差が生じる可能性がある。 また,豆腐は凝固の工程により製品の歩留まりや品質に影響を及ぼすと言われており, 豆腐重量や味は調製者によって異なる。しかし,同一原料を用い,同一調製方法で作成す れば,100g中のミネラル含有量は 3 グループによる標準偏差は,市販品と比較しても少な かった。一方,調製時に添加される凝固剤や“ゆ”の排出に由来するミネラルの変動は手 作り品,市販品とも大きいことがわかった。 2.3 手作り豆腐と市販豆腐の諸成分とミネラル含有量の比較 手作り品とスーパーマーケットで入手した豆腐の水分量と灰分量を五訂食品成分表 48) と比べ Table3-4 に示した。水分量は手作り品では食品成分表や市販品に比べ,いずれも多 かった。豆腐中の水分量は絹ごしが木綿より多かったがこれは成分表,手作り品ならびに 市販品も同様であった。灰分量は,絹ごしが成分表と比べ手作り品,市販品ともやや高か く,手作り品は市販品より高かった。木綿の灰分量は成分表と比べて,手作り,市販品と も違いはなかった。 54 Table 3-4 Amount of water and ash contents with different tofu preparation methods (n=3) Kinugoshi-tofe Momen-tofu Water(%) Ash(g/100g) Water(%) Ash(g/100g) Stf. 89.4 0.7 86.8 0.8 A 90.6 0.9 86.8 0.8 B 90.3 0.9 88.1 0.8 C 91.2 0.9 85.3 0.7 No.1 85.4 0.9 82.1 0.8 No.2 84.7 0.9 85.2 0.8 No.3 89.4 0.7 85.2 0.8 No.4 88.2 0.8 85.1 0.7 No.5 88.8 0.8 85.2 0.8 Stf.: Standard table of food composition48) A~C :Handmade-tofu No.1~5:Commercial-tofu 市販品は,メーカーにより原料大豆や豆乳濃度または凝固剤の種類や量が異なり,製造 工程は同じでもミネラル含有量にはかなり違いがあると考えられる。そこで,手作り品と 5種類の市販品のミネラル含有量を絹ごしは Fig.3-2 に木綿は Fig.3-3 に示した。 市販品の絹ごしは製品によってミネラル含有量に差が認められる。しかし,手作り品に 多いミネラルは,凝固剤として使用した Ca 含有量が市販品の 4.1~1.6 倍となり,特に市 販品 No.1と No.4 より手作り品は有意に多かった(P<0.05)。さらに,市販品と比較して 手作り品のミネラルの比率は,Cu 2.2~0.6 倍,Na 0.7~0.1 倍となり,Na は No.1と No.5 の市販品より手作り品は有意に少なかった(P<0.05)。また,Mg は 0.6~0.4 倍となり No.1 55 より手作り品は有意に少なかった(P<0.05)。手作り品と差の少なかったミネラルは Zn,Fe,Cu, Mn,K であった。 Fig. 3-2 Mineral contents of kinugoshi-tofu prepared by different methods (n=5) Stf. : Standard table of food composition48) 56 NO.1~5: Commercial-tofu * P<0.05 Fig3-3 Mineral contents of momen-tofu prepared by different methods (n=5) Stf. : Standard table of food composition48) 57 NO.1~5: Commercial-tofu * P<0.05 木綿では,市販品のミネラル含有量を手作り品と比較すると,手作り品で多いミネラル は Ca で 2~4.7 倍となり,市販品 No.1 と No.4 より手作り品は有意に多かった(P<0.05)。 これは凝固剤として加えた Ca 塩の影響によるものである。手作り品のミネラル含有量は Cu では市販品の 0.6~0.4 倍となり市販品 No.1 より有意に少なかった(P<0.05)。Na は 0.6~0.2 倍,K は 0.9~0.6 倍,Mg は 1.0~0.6 倍となり手作り品のミネラルが少ない傾 向にあった。また,手作り品と市販品の絹ごしと木綿とも多くのミネラル含有量が五 訂食品成分表より高かったが,Ca 含有量は五訂食品成分表より多くの市販品で低くこれま での報告と一致した 50)53)54)。 製品中の Ca/Mg 比と凝固剤の表示等を Table 3-5 に示した。市販品の Ca/Mg 比を成分表 と比べるとかなり低いことがわかる。 この原因として,従来凝固剤はカルシウム塩が多かったが,最近では消費者の天然物志 向と味の良さから「にがり」やマグネシウム塩の利用が多くなっていることが凝固剤の種 類からもわかる。また,凝固剤にカルシウム塩を使用している製品では Ca/Mg 比が高かっ たが成分表よりはほとんどの製品で低かった。 Ca は不足しがちなミネラルの一つであり,豆腐はカルシウム補給源として高齢者や幼児 でも利用しやすく手軽な食品である。しかし,市販品の Ca 含有量は五訂食品成分表より 低い製品が多いということを注意する必要がある。また,凝固剤の種類によって Ca,Mg 含有量に顕著な違いが認められるので,Ca の供給を考える場合には購入時に凝固剤の種類 をラベル表示によって確認することも必要と考えられる。 58 Table 3-5 The Ca/Mg contents ratio and kind and coagulating agents for commercial-tofu Ca/Mg concentration Kind Kinugoshi-tofe Sample number ratio Coagulating agent Stf 0.98 Handmade 3.74 CaSO4 No.1 0.35 MgCl2 No.2 1.47 CaSO4 Antifoaming agent glycerin fatty acid ester MgCl2 MgCO3 glycerin fatty acid ester vegetable lecithin Momen-tofu No.3 0.59 MgCl2 No.4 0.36 MgCl2 No.5 0.61 MgCl2 Stf 3.87 Handmade 5.30 CaSO4 No.1 1.90 CaSO4 MgCl2 glycerin fatty acid ester No.2 2.00 CaSO4 MgCl2 MgCO3 glycerin fatty acid ester vegetable lecithin No.3 3.72 CaSO4 No.4 0.80 MgCl2 MgCl2 MgCO3 glycerin fatty acid ester vegetable lecithin No.5 Stf. : Standard table of food composition48) 1.46 MgCl2 No.1~5: Commercial-tofu 59 glycerin fatty acid ester まとめ 手作り豆腐では,調製条件によって豆腐中のミネラル含有量が異なる。絹ごし豆腐と木 綿豆腐を調製し,スーパーマーケットで購入した市販品と比較して次のような結果を得た。 1)手作りの絹ごし豆腐と木綿豆腐のミネラル含有量を比較すると Zn,Fe,Ca 含有量が 木綿のほうが有意に高くなった。 2)豆腐 100g中のミネラル含有量の調製グループによる差は,市販品と比較して少なか った。しかし,凝固剤として加えられたミネラルの変動は大きく,これは市販品も同じ傾 向を示した。 3)Ca/Mg 比は五訂食品成分表に比べ,手作りは高く市販品は低かった。しかし,市販品 でも手作り同様,カルシウム塩を凝固剤として使用している製品の Ca/Mg 比は高かった。 このことから,Ca は不足している時の Ca 供給源の食品として豆腐を考えるときは,凝固 剤の表示を見て購入する必要がある。 60 第4章 誘導結合プラズマ発光分光光度法による豆乳類中ミネラル含有量と 手作り豆乳ヨーグルトの研究 緒言 豆乳中には,大豆の栄養成分やイソフラボンをはじめとする機能成分のほとんどが移行 しており,栄養的にも非常に優れた食品である。以前は豆臭さが残るために,消費はそれ ほど多くなかったが,加工技術の進歩と健康志向により消費が伸びており,近年,日本だ けでなく海外でも消費が伸びている食品の 1 つである 55)。 豆乳は,大豆を脱皮後蒸煮し,酵素を失活させたものに水を加え磨砕し得られる。これ に糖類や食塩の他 Ca や pH 調整剤などが添加されたものが調製豆乳となり,さらに果汁や コーヒーなどの嗜好飲料を加えたものが豆乳飲料となる。JAS 法から豆乳類の区分は,大 豆固形分により 8%以上の豆乳,6%以上の調製豆乳,2~4%の豆乳飲料に分けることがで きる。現在,多くの種類の豆乳類が販売されているにもかかわらず,豆乳類のミネラル含 有量に関する報告は見当たらない。 そこで,本章では,ICP 発光分光分析法による Ca,Cu,Fe,K,Mg,Mn,Na,P,Zn の 9 元素について,市販豆乳類中のミネラル含有量を測定し,大豆固形分との関係につい て考察した。 さらに,豆乳ヨーグルトの機能性についていくつかの報告がある 56)~59)。そこで今回は, 調製豆乳と牛乳の配合割合を変えた手作りの豆乳ヨーグルトの調製を試み,味覚との関係 を調べ,ミネラル含有量を測定し市販豆乳ヨーグルト 3 種類と比較した結果について述べ る。 1 1.1 実験 試料 試料の豆乳類は豆乳 4 種類,調製豆乳 4 種類,豆乳飲料 6 種類を神戸市内のスーパーで, 市販の豆乳ヨーグルト 3 種類は近畿圏内で購入した。 豆乳ヨーグルトの原料は,紀文フードケミファ(株)の調製豆乳,森永乳業(株)の普 通牛乳を用いた。乳酸菌は明治乳業(株)の市販ブルガリアヨーグルトを種菌(以下種菌) として使用した。この種菌はヨーグルト作成の当日に購入した。ヨーグルト中の乳酸菌は Lactobacillus bulgaricus と Streptcoccus thermophihus と表示されていた。 61 1.2 手作り豆乳ヨーグルトの調製 豆乳ヨーグルトの調製は 60),調製豆乳と普通牛乳の割合を変えて,種菌濃度5%,砂糖 5%を加え,40℃の恒温器内に静置6時間まで発酵させ,冷蔵庫内で 24 時間冷蔵したもの を試料とした。 1.3 測定装置とミネラル含有量の測定 ミネラルの測定は,ICP 発光分光分析はセイコーインスツルメント製 Vista-MPX 型を使 用した。測定条件は,第1章 2.1 と 2.2 並びに 2.3 節に,豆乳と豆乳ヨーグルトの試料の 灰化は,第1章 2.3 節に準じた。 1.4 手作り豆乳ヨーグルトの官能検査 官能検査は,発酵時間 5 時間のものについて色調,酸味,甘味,なめらかさ,酸臭,硬 さ,口当たり,総合評価の 8 項目について,順位法による官能検査を行なった。検定はク レーマーの簡易検定表を用い,パネルは神戸女子短期大学食物栄養科2年生女子 17 名とし た。 2 結果と考察 2.1 市販豆乳類のミネラル含有量 市販豆乳類のミネラル含有量は,試料測定値から試料を含まないブランクを差し引いた 値とし,豆乳(無調製)と調製豆乳と豆乳飲料に分け,Table 4-1 と Table 4-2 に示した。豆 乳では Ca と Fe と Na 含有量が試料によって大きく異なっていた。特に Na は,最大値と最 小値で 5 倍,Ca は 1.9 倍,Fe は 1.8 倍の差があった。比較的含有量の多かった Mg は,試 料による差はほとんどなかった。豆乳の原材料は大豆のみであるため,この差は大豆に含 まれている含有量の差と,豆乳に加工する時の条件の違いによるものと推察される。 調製豆乳では豆乳に食塩などで調味がなされており,JAS 法から大豆固形分も豆乳より 少ない。そのため,ほとんどのミネラル含有量が豆乳より少なかった。しかし,原材料表 示から乳酸カルシウムなどが添加してあった調製豆乳試料 No.1 と No.2 の Ca 含有量は添 加のない No.3 と No.4 の 5 倍近く含まれていた。さらに食塩の添加の記載があったすべて の調製豆乳の Na 含有量は平均 64.3mg と高く,豆乳の平均 0.65mg の 100 倍近く含まれて いた。 62 また,豆乳飲料では,調味料の他に果汁や乳製品などの嗜好飲料が加えられているため, 製品によって各ミネラルとも豆乳よりバラツキが見られた。特に抹茶が入っていた豆乳飲 料の試料 No.2 と No.5 は,Mn 含有量が他のものに比べ高かった。五訂食品成分表48)より 茶中の Mn 含有量は,紅茶やコーヒーより高いため,原材料の抹茶が一因と考えられる。 また,豆乳飲料の Ca 含有量は,原材料表示から乳酸 Ca などが添加してあった試料 No.2 と No.4 と No.6 は,Ca の添加していない豆乳飲料より高かった。さらに,食塩の添加の記 載があった豆乳飲料の No.2~No.5 は Na 含有量が高かったが,調製豆乳の Na 含有量より 少なかった。 63 Table 4-1 Sample Mineral contents in soy milk (mg/100g) ( n=5 ) Ca Cu Fe K Soy milk No.1 20.4±0.093 0.19±0.00 0.61±0.011 196. 1±2.2 Soy milk No.2 14.3±0.19 0.16±0.01 0.34±0.019 143.5±2.0 Soy milk No.3 29.5±0.38 0.14±0.01 0.61±0.023 174.9±7.4 Soy milk No.4 10.6±0.14 0.11±0.01 0.50±0.013 174.0±7.4 Prepared soy milk No.1 50.2±0.36 0.08±0.01 0.38±0.026 124.1±1.4 Prepared soy milk No.2 49.0±0.39 0.10±0.01 0.18±0.007 52.6±1.03 Prepared soy milk No.3 6.3±0.14 0.03±0.01 0.30±0.022 107.6±1.7 Prepared soy milk No.4 15.1±0.22 0.10±0.01 0.53±0.015 112.2±0.5 Soy milk beverage No.1 9.0±0.19 0.04±0.00 0.31±0.013 93.4±1.6 Soy milk beverage No.2 28.3±0.14 0.04±0.01 0.30±0.076 91.7±0.93 Soy milk beverage No.3 6.3±0.14 0.03±0.01 0.17±0.070 81.0±0.61 Soy milk beverage No.4 19.9±0.11 0.04±0.00 0.19±0.016 94.4±0.97 Soy milk beverage No.5 8.8±0.30 0.07±0.00 0.35±0.017 72.5±0.63 Soy milk beverage No.6 55.2±2.84 0.10±0.00 0.16±0.074 35.5±2.61 64 Table Sample 4-2 Mineral contents in soy milk (mg/100g) Mg Mn Na ( n=5 ) P Zn Soy milk No.1 27.2±0.53 0 . 3 5 ± 0 . 0 0 3 1 . 5 5 ± 0 . 0 3 7 1 . 1 ± 0 . 2 7 0 . 4 4 ± 0 . 0 0 1 Soy milk No.2 22.4±1.32 0 . 2 1 ± 0 . 0 0 7 0 . 6 3 ± 0 . 2 2 5 9 . 1 ± 0 . 6 4 0 . 4 2 ± 0 . 0 2 1 Soy milk No.3 26.7±0.55 0.32±0. 002 0 . 3 1 ± 0 . 0 1 8 3 . 9 ± 1 . 8 3 0 . 5 3 ± 0 . 0 2 5 Soy milk No.4 23.4±1.16 0 . 2 8 ± 0 . 0 0 6 0 . 7 8 ± 0 . 0 4 6 5 . 4 ± 1 . 3 4 0 . 3 4 ± 0 . 0 0 7 Prepared soy milk 20.5±0.50 0 . 2 0 ± 0 . 0 1 0 7 4 . 9 ± 0 . 9 8 5 5 . 7 ± 0 . 9 2 0 . 2 4 ± 0 . 0 2 0 No.1 Prepared soy milk 15.2±0.40 0 . 1 9 ± 0 . 0 0 2 6 9 . 5 ± 0 . 8 4 4 7 . 3 ± 0 . 5 8 0 . 2 1 ± 0 . 0 0 9 No.2 Prepared soy milk 13.5±0.72 0 . 2 4 ± 0 . 0 0 4 4 5 . 7 ± 0 . 4 4 5 1 . 9 ± 0 . 4 6 0 . 2 9 ± 0 . 0 0 4 No.3 Prepared soy milk 23.9±0.18 0 . 2 3 ± 0 . 0 0 6 6 7 . 0 ± 0 . 5 1 5 1 . 0 ± 0 . 2 9 0 . 3 0 ± 0 . 0 0 5 No.4 Soy milk beverage 14.7±0.74 0 . 2 0 ± 0 . 0 1 1 5 . 3 ± 0 . 2 9 4 1 . 0 ± 0 . 4 3 0 . 2 0 ± 0 . 0 0 9 No.1 Soy milk beverage 16.1±0.12 0 . 8 1 ± 0 . 0 1 3 1 . 8 ± 0 . 3 9 4 1 . 1 ± 0 . 1 4 0 . 1 9 ± 0 . 0 0 3 No.2 Soy milk beverage 13.5±0.72 0 . 2 2 ± 0 . 0 1 3 1 . 3 ± 0 . 5 3 3 1 . 6 ± 0 . 6 3 0 . 1 6 ± 0 . 0 0 3 No.3 Soy milk beverage 14.7±0.15 0 . 1 4 ± 0 . 0 2 3 5 . 0 ± 0 . 3 4 3 6 . 0 ± 0 . 3 0 0 . 1 7 ± 0 . 0 0 1 No.4 Soy milk beverage 14.0±0.56 0 . 4 5 ± 0 . 0 2 5 6 . 5 ± 0 . 8 5 3 6 . 0 ± 0 . 6 5 0 . 2 0 ± 0 . 0 2 0 No.5 Soy milk beverage 6.61±0.62 0 . 0 6 ± 0 . 0 0 9 . 6 5 ± 0 . 5 4 1 5 . 7 ± 1 . 2 2 0 . 0 7 ± 0 . 0 2 No.6 65 次にそれぞれの製品の大豆固形分は表示から,豆乳 9~10%,調製豆乳 7%,豆乳飲料 2 ~4%であったので,大豆固形分すなわち豆乳類の種類ごとの平均値とt検定による結果を Fig.4-1 に再掲した。ただし,Mn 含有量が高かった抹茶豆乳飲料の No.2 と No.5 は平均か らはずした。 結果より,Cu 含有量は大豆固形分量と比例し,それぞれのグループ間で有意差が認めら れた(P<0.001)。このことより,Cu は大豆成分の影響を受けていることがわかる。さらに, Fe,Zn,K,Mg,P 含有量は,有意差はなかったが,大豆固形分と比例していたので,こ れらミネラルも大豆に含まれているものが豆乳類に移行したものと考えられる。また,調 製豆乳の Ca 含有量は,豆乳とは危険率 0.1%,豆乳飲料とは危険率1%で明らかに高かっ た。一方,豆乳飲料も Ca 添加の記載があったが,豆乳と差はなかった。また,調製豆乳 の Na 含有量は,豆乳とは危険率 0.1%,豆乳飲料とは危険率1%で高く差が認められた。 調製豆乳の大豆固形分は,表示から豆乳の 70~78%であったが,調製豆乳のミネラルの 平均的な割合は,豆乳に対して Cu 60.0%,Fe 68.6%,Zn 60.4%,K 57.6%,Mg 70.9%, P 73.7%となり,Mg と P の含有率は計算値通りであったが,その他のミネラルはやや少 なく,Cu は最も少なく,ミネラルの種類によって飲料中への抽出率に差があることがわか った。 豆乳飲料の大豆固形分は豆乳の 20~22%であるが,ミネラルの平均的な割合は豆乳に対 して Cu 33.3%,Fe 49.0%,Zn 39.5%,K 45.4%,Mg 48.3%,P 48.1%となった。ま た Mn は含有量が多かった製品は除いたが,豆乳の 106%の含有量となり,ミネラル含有 量は大豆固形分からの計算値より高くなり,他に加えられている果汁やコーヒーなどの飲 料中のミネラルが大きく影響していることが明らかとなった。 66 Fig. 4-1 Mineral contents in soy milk *P<0.05 **P<0.01 67 ***P<0.001 2.2 手作り豆乳ヨーグルトの官能検査 豆乳ヨーグルトに機能性のあることは分かっているが,市販の豆乳ヨーグルトの種類は 少ない,そこで,豆乳の利用を促進する試みとして豆乳ヨーグルトを調製した。市販の豆 乳 100%ヨーグルトは,原材料として豆乳を用い糖類やレモン果汁や香料,さらには酸味 料などが入れられ食べやすくなっている。しかし,手作りでは無調製豆乳と調製豆乳を用 いて調製した場合,どちらもおいしい製品にはならなかった。しかし,2 点比較法による 官能検査の結果は,調製豆乳の方が全員に好まれた。そこで,調製豆乳と牛乳の配合割合 を変えたヨーグルトの調製を試みた。原料の牛乳の種類は,手作りヨーグルトの官能検査 の結果より 61)甘み,なめらかさ,口当たり,総合評価において危険率 5%でおいしいと評 価された普通牛乳を使用した。すなわち,調製豆乳と普通牛乳の配合を 30:70,50:50, 60:40 と変化させ豆乳ヨーグルトを調製し,官能検査を行った。 官能検査は,順位法を用い酸度の結果から発酵後 5 時間のものを使用した。パネルは 17 人で行い,検定はクレーマーの簡易検定表を用いた。その結果を Tabele 4-3 に示した。 Table 4-3 Sensory evaluation of soymilk and yoghurt prepared by different mixing rates of milk (n=17) Soymilk30% Soymilk50% Soymilk60% Color 17* 31 42* Acidity 21* 31 38 Sweetness 21* 31 38 Acidic odor 26* 33 31 Hardness 25* 32 33 Texture 28 28 34 Synthesis evaluation 22* 32 36 *P<0.05 n: Panel number of people. The significant difference does not have result 27-41. Following result of less 26 or more than 42 are significant difference . 68 その結果,調製豆乳 60%配合では色調が有意に好まれないことが認められた。しかし, 調製豆乳を 30%配合したヨーグルトは色調,酸味,甘み,酸臭,硬さおよび総合評価で好 まれる(P<0.05)という結果が得られ,豆乳の配合は少ない方がおいしいという結果が得 られた。これは,普段食べ慣れている牛乳ヨーグルトの味覚により近いためと考えられる。 2.3 手作り豆乳ヨーグルトと市販豆乳ヨーグルトのミネラル含有量 手作り豆乳ヨーグルトのミネラル含有量を測定するにあたり,原料の普通牛乳と調製 豆乳のミネラル含有量を測定した結果を Table 4-4 に示した。 Table 4-4 Mineral concentration prepared soy milk and cow milk(n=5) Sample Ca Cu Fe K 0.08±0.00 0.56±0.03 170±1.67 103.0±10.7 Tr 0.03±0.01 148±17.5 Mg Mn Na P Zn Prepared soy milk 22.1±0.21 0.26±0.01 85.50±0.92 61.1±1.41 0.35±0.06 Cow milk 9.98±1.379 Tr 37.00±4.21 89.3±10.6 0.37±0.04 Prepared soy milk 57.57±1.19 Cow milk Sample Tr : Trace この結果より,牛乳は Ca 含有量が,豆乳は Fe や Mg や Mn および Na 含有量が多く, ミネラルバランスは調製豆乳の方が牛乳より優れていることがわかる。さらに,両者を 混合することで相互の含有量が少ないミネラルを補うことができる。 次に,手作りヨーグルトのミネラル含有量は,官能検査でおいしいと判定された調製 豆乳 30%牛乳 70%の配合で発酵時間 5 時間のものについて行った。市販の豆乳ヨーグ 69 ルトは豆乳 100%使用のA社,豆乳 35%使用のB社,豆乳 10%使用のC社の計 3 種類 と,手作りのミネラル含有量を測定した結果を Fig.4-2 に示した。図中の配合割合は豆 乳の割合を示している。市販の豆乳ヨーグルトは,豆乳の配合割合が増えるほど Mn と Fe 含有量は増加したが,Ca,P,K 含有量は減少した。ヨーグルトでは,原料乳の違い によってミネラル含有量が異なることが報告されているが 61) ,今回の原料中のミネラ ル含有量(Table 4-4)からも,豆乳には Fe と Mn は多く,Ca と P は少ないことが原 因である。手作りの各ミネラル含有量は,豆乳配合は 30%であったため, B 社の豆乳 35%に傾向が一番近かった。これらの結果から,豆乳と牛乳の混合ヨーグルトは,手作 りと市販品ともに両者のミネラルを補いあえるため,栄養学的にもとても良いことが判 明した。 Fig.4-2 Mineral contents in handmade and commercial soymilk yogurt(n=5) 70 2.4 常用量の大豆加工食品の違いによるミネラル摂取量の差について 大豆加工食品の中から,本研究では,豆腐と豆乳類さらに豆乳ヨーグルトのミネラル含 有量を測定してきたが,これらの製品の常用量を摂取した場合,どの食品からミネラルを 一番多くとることができるか比較してみた。購入した豆腐1丁は木綿,絹ごしとも 330~ 400gのものが多く,食べきりサイズでは 150g3 パックが多かった。豆乳の小紙パックは 200mL 入り,豆乳ヨーグルトは,110gであった。そこで,常用量として豆腐は 150g,豆 乳は 200g,豆乳ヨーグルトは 110gを常用量として計算したものを Fig.4-3 に示した。 Fig.4-3 Difference of mineral intake by soybean processed foods 71 その結果,Ca の摂取源として木綿豆腐が良く,次に調整豆乳と絹ごし豆腐が適している。 豆腐は凝固剤として“にがり”が多く使用されており,第 3 章の結果より,市販品は五訂 食品成分表と比較すると,Ca 含有量はかなり少ないという結果が出ているが,それでも豆 腐は Ca の補給源として重要な位置を占めていることがわかる。K では豆乳,絹ごし豆腐, 木綿豆腐が摂取しやすいと言える。また,Mg では絹ごし,木綿,豆乳の順であった。Na は摂取過剰のミネラルの 1 つであるが,調製豆乳と豆乳飲料が高かった。Cu と Fe と Zn では木綿豆腐,絹ごし豆腐,豆乳の順であった。全体的な傾向として,ミネラルの摂取は 豆腐とくに木綿豆腐から次に絹ごし豆腐から摂取しやすい。豆乳類の中では豆乳から摂取 しやすいことがわかった。 3. まとめ 市販豆乳ならびに手作りヨーグルトと市販豆乳ヨーグルトを試料とし,ICP 発光分光光 度法によりミネラル含有量を測定し,次のような結果を得た。 1)市販豆乳 16 試料のミネラル含有量を測定した結果,Cu 含有量は大豆固形分量と有 意に比例した(P<0.001)。 2)Fe,Zn,K,Mg,P 含有量は,有意差はなかったが大豆固形分と比例し,豆乳,調 製豆乳,豆乳飲料の順で少なくなった。また,調製豆乳の Ca 含有量は,豆乳と豆乳飲 料より有意に高かった(P<0.001)。さらに豆乳の Na 含有量は有意に低かった。このこ とは現在多くの種類の豆乳が販売されているが,ミネラルなどの栄養機能は同一ではな く種類によってかなり異なることがわかった。 3)市販豆乳ヨーグルトは,豆乳の配合割合が増えるほど Mn と Fe 含有量は増加したが, Ca,P,K 含有量は減少した。これは原料中ミネラル含有量の違いによるものである。 また,手作り豆乳ヨーグルトは豆乳 30%であったため,豆乳配合が近かった市販のB社 のものに近かった。 4)大豆加工品の常用量中のミネラル摂取量の比較を行った結果,木綿豆腐から多くの ミネラルが摂取しやすいことが判明した。 72 第5章 水素化物発生原子吸光法による豆腐中セレン含有量と大豆原産国との 関係 緒言 Se は健康増進作用や疾病予防,とりわけガンの発生や転移を抑制する抗酸化剤として の役割が注目され,ヒトに対する Se の所要量は,食品成分表 48) によれば,成人男子 25 ~35μg,成人女子 20~30μg,上限所要量は成人で 200~250μg となっている。Se は魚 類や肉類や穀類などに多く含まれ,生物濃縮によって食品中に含まれるため,魚類や穀類 を主食とする日本では欠乏することはないとされている 9)。しかし,近年急増している輸 入食材や加工食品などにより,日本の食文化は変化してきており,必須微量元素であるセ レンの摂取量にも変化が生じているものと推測される。一方,大豆をはじめ農産物では, 微量元素を測定することにより,産地を判別し国産品と区別できることが報告されている 25)~30)。 そこで研究の目的として,大豆原産国の違い等による Se をはじめ,主要ミネラルや Al, Cr,Rb,Sc,Ba,B などの微量元素含有量との関係について検討することにした。今回の 報告ではまず,第1章 3 節で実験方法を確立した HG-AAS 法により,対象試料として大 豆原産国の異なる豆腐および大豆原産国が単一のきな粉の Se の定量を行い,大豆原産国に より差が認められるのかどうかを検討した。さらに併せて豆腐を加熱調理した場合,Se の 残存率について検討した結果を述べる。 1. 実験 1.1 試料 試料の豆腐は絹ごし豆腐 11 種類,木綿豆腐 19 種類,充填豆腐 11 種類,総計 41 種類で, 主に神戸市内のスーパーマーケットで購入し,凍結乾燥したものを試料とした。 きな粉 4 種類はそれぞれ原産国を確認して購入した。 1.2 測定装置 セレンの定量測定は,日立製作所製 Z-6100 型原子吸光光度計に,HFS-3 型加熱石英セル 付属水素化物発生装置を接続して行った。試料の灰化方法と還元操作は第 1 章 3 節に準じ た。 73 1.3 水分の測定 水分は真空凍結乾燥器(東京理科 EYELA FD-1000 型)で恒量値を求めて計算した。 1.4 豆腐の加熱調理法 豆腐の加熱は,IH 調理器具(象印 E2-C35 型 99 年製),鍋は直径 23cmIH 専用鍋, 豆腐はC社のアメリカとカナダ混合大豆を原料した木綿豆腐 160g2個入りのものを使用 した。出し昆布は(小倉屋居内)黒口浜昆布 1 枚約 7gを使用した。 豆腐は 2cmの厚さに切ったもの(2×4×4.5)の各重量を測定した。IH 調理器具の火 力は強(ダイヤル 6)とし,鍋に 1L のイオン交換水および水道水のみと出し昆布を入れた ものについて行った。沸騰後豆腐 8 切れを入れ 5 分と 30 分加熱後に,4切れずつ取り出し た。加熱中水が吹きこぼれないように蓋をずらすことで調節した。取り出した豆腐は 10 分後に重量を測定し均一にしたものを試料とし,Se 含有量を測定した。 加熱後の豆腐中 Se 含有量は,加熱による水分損失量を考慮して計算で求め,生の豆腐中 Se 含有量より残存率を求めた。 2. 結果と考察 2.1 豆腐保存条件の検討 これまでの豆腐の研究では,試料の保存は冷凍保存を行っていた。しかし,今回の研究 の目的は Se 含有量を測定後,同一試料で Al をはじめとするその他ミネラルを測定するこ とにある。そこで,その他ミネラルの測定のため,試料を保存しておく必要が生じた。し かし,Se 含有量はごく微量であるため,豆腐のように水分を多く含んだ食品や土壌中のご く微量の元素を定量する場合,試料を乾燥させる場合が多い。そこで,真空凍結処理した 試料と,生の試料および冷凍の試料でミネラル含有量の比較を行なった。比較を行なうに あたり,生と冷凍試料は湿重量となるので,凍結乾燥した試料は水分含量から計算で湿重 量に換算した。 その結果,カナダとアメリカ産混合大豆(以下カナダ・アメリカ)の Se 含有量は,生の 豆腐中 7.77±0.19μg/100g,冷凍では 7.43±0.16μg/100g,凍結乾燥は 7.50±0.04μg/100g となり,冷凍と凍結乾燥では差がなく,むしろ凍結乾燥の方が標準偏差は小さく優れてお り,凍結乾燥で問題がないことが分かった。 74 2.2 豆腐中セレン含有量と大豆原産国の関係について これまでに確立した分析条件に基づいて,豆腐に含まれる Se の定量を HG-AAS を用い て行った。豆腐のサンプル 41 種類は,湿重量に換算し 100g中 Se 含有量と水分含有量お よび必要な表示について Fig.5-1 に示した。 水分含有量の平均は絹ごし豆腐 87.8±1.0%,木綿豆腐 85.6±1.7%,充填絹ごし豆腐 87.3±1.4%となり,木綿豆腐の水分含量が少なく,絹ごし豆腐と充填絹ごし豆腐の水分含 量は差がなかった。この結果は,水分の測定方法は異なるが,第 3 章の結果で示した市販 品値絹ごし豆腐 90.7%,木綿豆腐 86.7%に近かった。 凝固剤の種類は,豆腐 41 製品中 MgCl2 使用が 73.2%,MgCl2 と CaSO4 混合が 19.5%で あり,CaSO4 単独は 1 製品で 2.4%であり,消費者の「にがり」志向が強いことを伺わせ た。 75 Table.5- 1-1 Selenium and water contents of tofu and the original country of soybean(n=5) Se Sample μg/100g Water Original country of number wet weight (%) soybean Kind of tofu agent 1 0.21±0.02 87.9 Japan kinugoshi MgCl2 2 0.63±0.04 87.7 Japan Kinugoshi MgCl2 3 0.55±0.06 88.2 Japan Kinugoshi MgCl2, CaSO4 4 0.67±0.03 87.1 Japan Momen MgCl2 5 0.80±0.07 84.5 Japan Momen MgCl2 6 0.18±0.03 87.6 Japan Momen MgCl2 7 0.76±0.07 84.6 Japan Momen MgCl2 8 0.79±0.06 83.0 Japan Momen MgCl2, CaSO4 9 0.32±0.08 85.6 Japan Momen MgCl2, CaSO4 10 0.36±0.01 88.1 Japan Jyutenkinugoshi MgCl2 11 0.62±0.09 87.5 Japan Jyutenkinugoshi MgCl2 12 0.05±0.01 86.3 Japan(Hokkaido) Jyutenkinugoshi MgCl2 13 2.96±0.40 87.6 Canada・America Kinugoshi MgCl2 14 2.00±0.06 88.8 Canada・America Kinugoshi MgCl2 15 2.61±0.01 88.0 Canada・America Kinugoshi MgCl2, CaSO4 16 3.41±0.04 86.0 Canada・America Momen MgCl2 17 5.83±0.08 84.0 Canada・America Momen MgCl2 18 0.05±0.01 86.2 Canada・America Momen MgCl2 19 0.77±0.07 88.2 Canada・America Momen MgCl2 20 1.03±0.19 ― Canada・America Momen MgCl2, CaSO4 76 Coagulating Table.5- 1-2 Selenium and water contents of tofu and the original country of soybean (n=5) Se Sample μg/100g Water Original country of number wet weight (%) soybean Kind of tofu agent 21 7.49±0.04 88.1 Canada・America Jyutenkinugoshi MgCl2 22 1.53±0.11 88.5 Canada・America Jyutenkinugoshi MgCl2 23 6.08±0.06 87.8 Canada・America Jyutenkimugoshi MgCl2 24 8.85±0.15 86.0 Canada・America Jyuenkinugoshi MgCl2 25 1.65±0.10 89.2 Canada・America Jyuenkinugoshi MgCl2 26 0.43±0.01 85.6 China Kinugoshi MgCl2 27 0.14±0.02 84.4 China Momen MgCl2 28 0.72±0.09 83.0 China Momen MgCl2 29 0.38±0.03 87.6 China・America Kinugoshi MgCl2 30 2.11±0.26 84.1 China・America Jyutenkinugoshi MgCl2 31 0.57±0.04 87.2 China・America Jyuenkinugoshi MgCl2 32 0.51±0.02 85.9 ― Kinugoshi MgCl2 33 1.20±0.03 89.2 ― Kinugoshi MgCl2 34 0.66±0.05 88.8 ― Kinugishi MgCl2, CaSO4 35 1.17±0.11 86.5 ― Momen MgCl2 36 0.72±0.12 89.1 ― Momen MgCl2 37 0.62±0.07 84.0 ― Momen MgCl2, CaSO4 38 1.60±0.08 84.9 ― Momem MgCl2, CaSO4 39 1.01±0.07 86.0 ― Momem CaSO4 40 2.42±0.10 86.4 ― Momem CaSO4, GDL 41 0.41±0.08 88.0 ― Jyutenkinugoshi MgCl2, GDL Canada・America : mixed Canada and America, GDL : glucono-δ-lacton 77 Coagulatig China・America : mixed China and America 豆腐の Se 含有量は,大豆原産国の違いで大きな差が見られた。Se 含有量の測定結果は, 国 産 0.05±0.01 ~ 0.80±0.07 μg /100 g, カ ナ ダ と ア メ リ カ 産 混 合 0.05±0.01 ~ 8.85±0.15 μg /100 g, 中国産 0.14±0.02~0.72±0.09 μg / 100g, 中国とアメリカ産 混合(以下中国・アメリカ)0.38±0.03~2.11±0.26 μg /100 g, 記載なし 0.41±0.08 ~2.42±0.10 μg /100 g となり,Se 含有量に差が見られた 62)。それぞれ含有量の平均値 は,国産は 0.54±0.26 μg /100 g,カナダとアメリカ産は 3.05±2.68 μg / 100g,中 国産は 0.43±0.24 μg /100 g,中国とアメリカ産は 1.11 ±0.87μg / 100g,記載なしの 平均値は 1.09±0.62 μg /100 g となった。次にこの結果を用いてt検定を行った結果を Fig.5-1 に示した。 また,Choi ら 43)の報告による豆腐中 Se 含有量は 6.1μg/100g,大豆は 4.1μg/100 gという結果から比べると現在の日本で食べられている豆腐では,カナダとアメリカ産混 合豆腐がこれに近い。 78 7 7 *** 6 6 5 5 Se content(μg/100g) Se content(μg/100g) *** 4 3 3 2 1 1 *** 0 Japan Fig.5-1 ** 4 2 0 *** Canada・ America China China・ Unkoun America Japan Canada・ China America China・ Unkoun America Relationship between selenium contents in tofu and original country of soybean ***P<0.001 **P<0.01 カナダとアメリカ産混合大豆を使用した豆腐は,他の大豆原産国を使用した豆腐と比 べて有意に高い値となった (p < 0.001)62)。このことから,カナダとアメリカ産は今回検討 した中で Se が非常に多く含まれていることがわかった。また,標準偏差が大きいことから カナダとアメリカ産のブレンドの割合によって Se 含有量が異なることが推定される。 一方,国産大豆を使用した豆腐中 Se 含有量は,カナダとアメリカ産混合,中国とアメ リカ産,記載なしの豆腐と比較して有意に低かった (p < 0.001)。さらに中国産大豆を使用 した豆腐は中国とアメリカ産大豆の豆腐より有意に低く(p<0.001),また,記載なしの豆 腐とも有意に低かった(p<0.01)。しかし,国産と中国産大豆を使用した豆腐とでは有意 79 差はなく,中国・アメリカ産と原産国の記載がないものでは Se 含有量に差は見られなかっ た。このことから原産国の記載がないものは,平均値から見て中国とアメリカ産混合を使 用している可能性があることが推定される。 2.3 豆腐セレン含有量と製造方法の検討 豆腐の製造方法の違いにより,絹ごし豆腐や充填絹ごし豆腐あるいは木綿豆腐で差が生 じるか検討した。しかし,大豆原産国が混合の豆腐ではその配合割合によって Se 含有量が 大きく異なるため,国産大豆を使用した豆腐のデータを使用してt検定を行った。その結 果を Fig.5-2 に示した。 その結果,Se 平均値は絹ごし 0.46 μg /100 g, 木綿 0.59 μg /100 g, 充填絹ごし 0.36 μg / 100g となり木綿と充填絹ごしとでは有意差が見られ(p < 0.05),木綿豆腐で Se 含 有量が高くなった。しかし,その他の種類間では有意差は見られなかった。 凝固剤の種類も同様に,国産で検討した結果,MgCl2 使用では 0.48 μg /100 g,MgCl2 と CaSO4 混合使用では 0.58μg /100 g,MgCl2 とグルコノデルタラクトン 混合使用では 0.40μg /100 g となり,有意差は見られなかった。凝固剤の違いは Ca,Mg などの含有量 に影響を与えることが分かっているが 20),Se 含有量では関係が認められなかった。 80 Fig.5-2 Selenium contents by difference of manufacturing process of tofu *P<0.05 2.4 きな粉中のセレン含有量 次に,豆腐の原料である大豆は,国産あるいはアメリカとカナダというように混合で作 られている場合が多く,その混合割合によって豆腐中 Se 含有量は大きく異なることが予想 される。そこで,原産国が単一であるきな粉を用い Se 含有量測定し,大豆原産国との違い による結果を Fig.5-3 に示した。 81 Fig.5-3 Relationship between selenium contents of soybean flour and country of origin(n=5) アメリカ産大豆のきな粉では特に高い値を示した (15.8±2.52μg / 100g)。次にカナダ産, 中国産となり,国産の大豆のきな粉は一番低い値となった (2.51±0.29μg / 100g)。この結 果は,輸入大豆ではアメリカについでカナダが高く国産は低いという報告と一致した 63)。 農産物では無機元素組成により産地判別が可能であるが,豆腐やきな粉もセレンを測定す ることにより,大豆の原産国を判別することが可能であることが示唆された。 82 2.5 加熱調理によるセレン残存率 豆腐は冷奴のように生で食べることもあるが,多くは加熱調理を行う。そこで加熱調理 を行った場合,豆腐中に Se がどの程度残るのか検討した。今回は湯豆腐を想定し,イオン 交換水,水道水,それぞれに出し昆布を入れ,沸騰後 5 分と 30 分後の豆腐中 Se 残存率を 求め Fig.5-4 に示した。 Fig.5-4 Residual rate of selenium in heated and cooked tofu(n=5) 83 豆腐加熱後の Se 含有量を測定した結果,生の豆腐に比べ多くなっていた。そこで加熱後 の豆腐重量を測定すると水分が減っていた。使用した豆腐 1 切れは 40.5±4.1gであった が,5 分加熱ではイオン交換水,水道水では豆腐重量の重量は 20%減少しており,30 分 加熱の豆腐重量は,イオン交換水 20%,水道水 27%の減少となっていた。また出し昆布 を入れたものでは,5 分加熱ではイオン交換水 14%,水道水 11%,30 分加熱ではイオン 交換水 14%,水道水 13%の豆腐重量の減少が見られ,出し昆布を入れた方が豆腐重量の 減少がやや少ないことが分かった。加熱調理での Se 残存率を生の豆腐と比較するために, 加熱後の豆腐中 Se 含有量は,豆腐重量の減少率を計算し,加熱後豆腐 Se 含有量とした。 この結果からイオン交換水と水道水では,5 分では,それぞれ 74.2%,83.5%となり水道 水の方が多く残っていたが,30 分ではともに 77.6%で同じであった。水道水に含まれる Se 含有量は 0.057ng であったが,この影響は無いと考えられる。また,出し昆布を入れた 場合は,入れない場合と比べ,いずれの条件でも豆腐中の Se 残存率は高くなっていた。水 道水に出し昆布をいれた場合では 5 分で 90.3%,30 分では 88.3%が残っており,入れな い場合に比べ約 10%程度多く残っていた。これは出し昆布に含まれる成分によるものと推 察される。さらに,イオン交換水を用い,出し昆布単独で同様の実験を行ったところ,Se の流出は認められなかった。また,加熱時間は 30 分より 5 分加熱の方が豆腐中に残って いる Se 含有量は多かった。木綿豆腐を水に 30 分浸漬するだけで K は約 10%が豆腐から 流出するという報告 64)から考えると,今回の Se は加熱しているにもかかわらず出し昆布 を入れた場合約 90%が残っていたことから,不溶性のミネラルと考えられる。 3. まとめ 豆腐ときな粉の Se 含有量を HG-AAS を用い測定し,さらに,加熱による Se 残存率を 検討したところ,下記の結果を得た。 1)41 種類の豆腐を測定したが,大豆の原産国によって Se 含有量は異なり国産の平均値 は 0.54μg / 100g,カナダとアメリカ産混合は 3.05μg /100 g,中国産は 0.43μg / 100g, 中国とアメリカ産混合は 1.11μg /100 g,記載なしの平均値は 1.09μg /100 g となり,国 産と中国産混合大豆中セレン含有量は有意に低く(p<0.001),カナダとアメリカ産混合大豆 は有意に高かった(p<0.001)。 2)きな粉は,大豆の原産国がアメリカ産では高い値を示し,国産の大豆は低い値となっ た。 84 3)豆腐中の Se 残存率は,生に比べ加熱 5 分では,水道水のみでは 83.5%,出し昆布を 入れた場合 90.3%が,30 分で水道水のみでは 77.6%,出し昆布を入れた場合 88.3%であ り,出し昆布を入れた方が豆腐中に Se が残りやすく,出し昆布の影響が示唆された。 85 第6章 結語 本研究では,大豆加工食品中の正確なミネラル含有量と,加工方法によるミネラル含有 量の相違を明らかにすることを目的とし実験を行った。序論で述べた諸項目に対し得られ た知見を以下に述べる。 ミネラル含有量を測定するにあたり,試料の前処理では硝酸(HNO3)と過塩素酸(HClO4) を用いた湿式灰化法を用い,セレン以外のミネラルの測定は原子吸光光度法および誘導結 合プラズマ発光分析法(ICP-AES),セレンの測定は水素化物発生原子吸光法(HG-AAS) の実験方法を用い,方法の確立を行った。その結果,市販豆腐のミネラルを原子吸光法と 炎光光度法で分析する際の,灰化後の測定溶液の液性による干渉は,HNO3 溶液の方が HCl 溶液より影響が小さく,その濃度は 0.1Mが良く,実試料では他元素への干渉もほとんど 生じず再現性も良かった。 豆乳中のミネラルを ICP 発光分光分析法により測定するには,HClO4 の残存量が少ない方 が良く,HNO3 濃度にかかわらず安定していた。そこで,灰化時の HNO3 の残存を考慮に 入れ,試料溶液の HNO3 濃度は 0.1Mが適当であり,この方法は原子吸光分析法で用いた 灰化法に準じている。また,内標準物質の Y 添加量は 1ppm が最適であった。また,ICP 発光分析法と原子吸光分析法で測定し比較した結果,ICP 発光分光分析法では原子吸光分 析法より良好な結果が得られた。 水素化物発生原子吸光光度法によるセレンの測定方法では,試料の湿式灰化においては, 灰化終了後の残存する HNO3 が後の操作である Se(VI)の還元を妨害することが明らかにな り,凍結乾燥した 0.1~0.3 g の試料の湿式灰化においては, HNO3 量は 3 mL にすること が良いことが明らかになった。また,Se(VI)成分の還元操作では,12M HCl を 7.5 mL 用い て 80℃で 10 分間還元することにより,Se(IV)に定量的に Se(IV)に還元できた。この条件で 標準試料(NIST)の SRM-1568a の米粉を測定したところ,操作および実験条件の妥当性 が示された。 実験方法が確定したので,豆腐調製時の凝固操作が,ミネラル含有量にどのように影響 しているのか検討したところ,豆乳中の Na と K 含有量は, “ご”の加熱温度に比例して 顕著に多くなり,加熱温度が高いほど豆腐重量は多くなり,豆乳全体が凝固している豆腐 となった。大豆の磨砕時間を変えた場合の豆乳中のミネラルは,Zn,Fe,Mn および Na 含有量が 5 分より 3 分磨砕の方が多くなり,豆乳量も 3 分の方が 5 分に比べ重量が 1.3 86 倍となり,作業性も良かった。さらに,凝固剤添加温度は 85℃より 75℃の方が Fe と Na および Ca 総量が明らかに多くなった。官能検査の結果より好まれた豆腐は,豆腐中にミ ネラルが多く移行しており,ミネラル含有量の違いだけではなく味覚に影響を及ぼしてい ることが判明した。この実験結果からミネラル含有量が多く,かつ作業性や味覚の観点か らも,最も優れた豆腐の調製方法が提案できたと考えられる。 これまでの研究で,豆腐調製条件がミネラル含有量と味覚に影響していることがわかっ たので,検討した最適条件を用い,豆乳濃度や加工方法の異なる手作りの絹ごし豆腐と木 綿豆腐を調製し,100gあたりのミネラル含有量を比較すると,Zn,Fe,Mn,Ca,Mg 含 有量が木綿のほうが高くなった。木綿で低くなった K は“ゆ”中に流出することがわか った。 手作り品と市販品を比較すると,手作り品の木綿のミネラル含有量が高い傾向にあり、 市販品のミネラル含有量は,全体的に木綿が高かった。従って,ミネラル摂取を重視する 場合は絹ごし豆腐より木綿豆腐の方が有利であると言える。豆腐は軟らかく高齢者でも食 べやすいため,Ca 供給源の食品と考えられているが,Ca 含有量は五訂食品成分表に比べ, 手作りは高く市販品は低かった。これは現在,凝固剤に Mg 塩の使用が多くなされている ためであり,成分表より Ca は少なく Mg は多く含有されていることが判明した。 次に,ICP 発光分光光度法により, 市販豆乳 16 試料で 9 元素のミネラル含有量を測定 した結果,Cu 含有量は大豆固形分と有意に比例した(P<0.001)。また,Fe,Zn,K,Mg, P 含有量は,有意差はなかったが大豆固形分と比例し,豆乳,調製豆乳,豆乳飲料の順で 少なくなった。また,調製豆乳の Ca 含有量は,豆乳と豆乳飲料より有意に高かった (P<0.001) 。さらに食塩が添加されていない,豆乳の Na 含有量は有意に低かった。この ことは現在多くの種類の豆乳なかでも豆乳飲料が販売されているが,ミネラルなどの栄養 機能は同一ではなく種類によってかなり異なることがわかった。 さらに,豆乳を利用した加工品として手作り豆乳ヨーグルトを調製し,市販豆乳ヨーグ ルトのミネラル含有量と比較した。市販豆乳ヨーグルトは,豆乳と牛乳の配合割合の異な る 3 種類を購入した。結果,豆乳の配合割合が増えるほど Mn と Fe の含有量は増加した が,Ca,P,K の含有量は減少した。これは原料中すなわち豆乳と牛乳のミネラル含有量 の違いによるものである。また,手作り豆乳ヨーグルトは豆乳の配合割合が 30%のものが 好まれ,そのミネラル含有量は豆乳配合が近かった B 社のものに近かった。 また,官能検査のより豆乳割合 30%配合したヨーグルトが,色調,酸味,甘み,酸臭, 87 硬さおよび総合評価で好まれるという結果が得られ,豆乳の配合 30%程度混合しても問題 はないという結果が得られた。 大豆加工品の常用量中,すなわち豆腐では 150g,豆乳 200mL,豆乳ヨーグルト 1 個 110 gのミネラル摂取量の比較を行った結果,木綿豆腐から Ca,Cu,Fe,Zn は摂取しやすい ことが判明した。 41 種類の豆腐の Se 含有量を HG-AAS を用い測定したが,大豆の原産国によって Se 含 有量は異なり国産の平均値は 0.54 μg / 100g,カナダ・アメリカ産混合は 3.05 μg /100 g, 中国産は 0.43 μg / 100g,中国とアメリカ産混合は 1.11 μg /100 g,記載なしの平均値は 1.09μg /100 g となり,国産と中国産大豆中セレン含有量は有意に低く(p<0.001),カナダ とアメリカ産混合大豆は有意に高くなった(p<0.001)。また,きな粉は,大豆の原産国がア メリカ産では有意に高い値を示し,国産の大豆は低い値となり,豆腐の結果と同様の傾向 を示した。この結果より大豆中の Se 含有量から原料大豆の生産国を判断できる可能性があ ることがわかった。さらに,豆腐を加熱調理した結果,豆腐中への Se 残存率は,生に比べ 加熱 5 分では,水道水のみでは 83.5%,出し昆布を入れた場合 90.3%が,30 分で水道水 のみでは 77.6%,出し昆布を入れた場合 88.3%が残っており,出し昆布を入れた方が豆腐 中に Se が残りやすく,出し昆布の影響が示唆された。 さらに,今後の興味ある研究課題として,Se を測定した試料を凍結乾燥して保存してい るが,これら大豆原産国の違いによる主要ミネラルや Al,Cr,Rb,Sc,Ba,B などの微量 元素含有量との関係について検討することによって,大豆原産国を判断できる可能性が広 がることも考えられる。また,植物性食品である豆類や野菜などのミネラルの動向を調べ ることによって,外国産や加工食品の多様化による現在のミネラル摂取量の実情が明らか にされることが期待される。 88 謝 辞 本研究を通じてご指導と暖かく見守って頂きました,神戸大学大学院人間発達環境学 研究科 齊藤惠逸教授,また,きめ細かいご指導を受け賜りました,甲南大学理工学部機 能分子化学科 茶山健二教授に心から深謝いたします。 また,本研究を行なうにあたり,ご協力いただきました甲南大学理工学部機能分子化学 科 岩月聡史博士はじめ研究室の院生ならびに学部学生の皆様に,さらに研究を行なう上 でたえず励まして頂きました神戸女子短期大学名誉教授日色和夫先生に心より感謝いたし ます。そして,研究を行う背後でたえず支援してくれた家族に感謝致します。 89 参考文献 1) 木村修一,小林修平翻訳:Present Knowledge in Nutrition(最新栄養学第9版), pp.429-523,(2007), 建帛社 2) W.M.Dunlap, G.W.James, and D.M. 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