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小豆島の石の文化

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小豆島の石の文化
①重岩
讃岐ジオサイト(1-2)
②小瀬原丁場
小豆島の石の文化
1.小豆島の石の文化
③池田の桟敷
小豆島は瀬戸内海で淡路島に次いで 2 番目に大きな島で、1923 年に「神懸山(かんかけやま),寒霞渓」として
国の名勝に指定され、1934 年に寒霞渓を中心とした景勝地が瀬戸内海国立公園に指定されました。小豆島は江戸
時代から花崗岩の産地で、大坂城築城の際に切り出された花崗岩の石材の残石が各所に残っています。小豆島の北
西部には地すべり地形を利用した棚田が発達し、農村歌舞伎が江戸時代から続いています。大坂城石垣石切丁場跡
は国の史跡に、中山農村歌舞伎舞台は国の有形民俗文化財に指定されています。
小豆島の山頂部を構成する安山岩類は中山の千枚田の石垣や猪鹿垣などに広く利用されました。また、小豆島西
部の土庄町滝宮周辺には豊島石の文化が残っています。小豆島には石の文化が脈々と受けつがれています。
古期地すべり
④中山の千枚田
2.小豆島の地形・地質と風土
新期地すべり
⑤滝宮八坂神社
肥土山農村
歌舞伎舞台
中山農村
歌舞伎舞台
湯舟の名水
⑥寒霞渓四望頂
小豆島は、基盤を構成する約 8000 万年前(白亜紀後期)の花崗岩類の上に、1300 万年前~1500 万年前(新第三
紀中新世)に噴出した瀬戸内火山岩類が 1000 万年以上にわたる侵食を受けて形づくられました。
小豆島は江戸時代からの花崗岩の産地で、大坂城築城の際に切り出された花崗岩の石材の残石と丁場が各所に残
っています。花崗岩は SiO2 に富むマグマが地下深所でゆっくり冷却した深成岩で、小豆島の花崗岩類は四つの岩
体に区分されています 1)。このうち、小豆島アダメロ岩体が小豆島の中央部から北部にかけて広く分布し、多くの
丁場の石材の母岩となっています 2)。
一方、島の北西部では花崗岩と讃岐層群の間に古第三紀の土庄層群が分布し、その上位の讃岐層群の火山岩類を
キャップロックとする大規模な地すべりによって緩斜面が形成されています。地すべりは現在ほぼ安定し、地すべ
りによって形成された緩斜面が棚田として利用されています。小豆島とその西にある豊島が、瀬戸内海では珍しく
稲作が盛んなのは、大昔の地すべりのおかげなのです。
小豆島の瀬戸内火山岩類(讃岐層群)は小豆島層群とも呼ばれ 5)、寒霞渓や銚子渓などの景勝地をかたちづくっ
ています。瀬戸内火山岩類の絶崖には島八十八ヶ所の札所が設けられています。
⑧天狗岩丁場
⑨吉田の猪鹿垣
⑦寒霞渓裏八景・石門
A-B 断面図
図1 小豆島の地質及び地質断面図(長谷川,斉藤(1989)3)に加筆)
図2 小豆島詳細案内図(基図は国土地理院数値地図 25000「徳島」を使用)
*
この地図は国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図 25000(地図画像)を複製したものである。(承認番号 平 24 四複、第 60 号)
許可なく複製を禁ずる。
参考文献:
1)横山俊治:西南日本内帯の後期中生代岩脈群の地質学的・岩石学的研究 広島大学地研報 No.24,pp.1-63,1984.
2)藤田勝代,横山俊治:香川県小豆島の花崗岩のラミネーションシーティングと小豆島石を訪ねて 地質学雑誌 Vol15,補遺,pp.89-107,2009.
3)長谷川修一,斉藤 実:讃岐平野の生いたち-第一瀬戸内累層群以降を中心に-,アーバンクボタ No.28, pp.52-59,1989.
4)小豆島町ホームページ:http://www.town.shodoshima.lg.jp/kurashi/kyoiku_bunka/geijyutsu_bunka.html#05.
5)巽好幸:小豆島の火山地質―瀬戸内火山岩類の噴出状況―地質学雑誌 No.89,pp.693-706,1983.
3.小豆島-石の文化のジオサイト
①重岩(かさねいわ)
重岩は、土庄町小瀬の斜面にある花崗岩の巨石で、風化花崗
岩のマサ化した部分が侵食され、硬質の花崗岩未風化核(コアス
トーン)が地表に現れたものです。重岩は小豆島のランドマークの
1つです。
②尾瀬原丁場
重岩へ登る登山道沿いには、香川県指定文化財に指定された
大坂城石垣石切小瀬原丁場跡があり、矢穴のあいた種石や残石
が残っています。
④中山の千枚田
小豆島町中山地区には、大規模地すべり地形の緩斜面を利用
した棚田が広がっています。
湯船山(標高 444m)を構成する安山岩質火山角礫岩と板状節
理の発達した安山岩の下部層には、軟質な凝灰岩層と土庄層群
が分布し、土庄層群の泥岩をすべり面とするキャップロック(軟
質な地層の上に硬くて重い地層が載っている地質構造)地すべ
りと推定されます。
棚田の石垣には崩積土中の安山岩の岩塊が利用されていま
す。安山岩の岩塊が取り除かれた崩積土はシルト質なので、保
水性が良く水田に適しています。
中山の千枚田は農林水産省の「日本の棚田百選」に指定され、
棚田の背後にある湯船山山腹から湧出する湯舟の名水は、
「日本
の名水百選」に選定されています。
中山の千枚田に
は、国指定重要有形
民俗文化財の「中山
農村歌舞伎舞台」
(昭和 62 年 3 月指
定)4 があり、毎年
10 月上旬に「小豆
島農村歌舞伎」が上
演されます。
中山農村歌舞伎舞台
⑤寒霞渓表十二景四望頂
⑦天狗岩丁場
寒霞渓の山頂部は、板状節理の発達した安山岩溶岩がテー
ブル状に残ったメサを形成しています。板状節理が発達した
安山岩は縁辺部で崖をつくり、絶好の展望台となっていま
す。星ヶ城から美しの原へ続くメサの南斜面では、溶岩の堆
積以前に水中で噴出した火山角礫岩が約 300mの厚さで堆積
しており、寒霞渓が火山噴火の中心付近にあったことがうか
がえます。
火山角礫岩の侵食によって作り出された寒霞渓では、岩と
紅葉がおりなす見事な渓谷美を楽しむことができます。この
荒々しい侵食地形は、大昔大地震によって形成された大規模
崩壊地が、長期にわたって侵食されて形成された自然の造形
美です。表十二景の松茸岩は火山角礫岩の奇岩です。
小豆島町岩谷の「大坂城石垣石切丁場跡」は、昭和 47 年に
国指定史跡に登録された小豆島最大の丁場です。
天狗岩は花崗岩の巨大な未風化核岩(コアストーン)から
なる種石で(17m×4.7m×10m)、その周辺の残石も花崗岩
のコアストーンで、マサが侵食された傾斜地に数多く分布し
ています。斜面のコアストーンは崩壊によって谷底に集積し、
絶好の玉石採石場となっていました。残石には矢穴と黒田藩
を示す□や○の刻印が残っています。
天狗岩の前にある小さな猪鹿垣は、花崗岩の残石上に安山
岩の礫を積み上げています。
寒霞渓表十二景
松茸岩
中山の千枚田
⑥寒霞渓裏八景・石門
③池田の桟敷
⑤滝宮八坂神社
小豆島町にある池田の桟敷は、亀山八幡宮の秋の例祭の神
輿の渡御や太鼓台の大練りを見物するために設けられたもの
です。石垣づくりの桟敷は自然の地形を巧みに利用した切石積
の傑作で、昭和 51 年に重要有形民俗文化財に指定されていま
す。
石積には段山から供給された暗灰色の安山岩や三都半島に
ある黒色の玄武岩、粗粒の花崗閃緑岩等が用いられています。
石積の様式を見ると、時代を重ねて桟敷ができ上がったことが
分かります。
土庄町滝宮八坂神社は、豊島石の石造物の宝庫です。豊島石
の石灯篭等のほか豊島石製の牛の石造物があり、その説明板に
は「小豆島の官牛放牧の歴史は古く、文武天皇( 西暦 700 年)
からの勅旨をもって開始されたのが始まり」と書かれています。
豊島石は黒色(玄武岩製)の火山礫を多く含む火山礫凝灰岩で、
豊島、男木島、女木島および屋島北嶺から採掘されています。
滝宮八坂神社の南の斜面には穴丁場跡があります。滝宮では、
江戸時代から豊島石が採掘されていたと伝えられています。
寒霞渓裏八景・石門は火山角礫岩層からなるやせ尾根が侵
食によってくりぬかれた天然のトンネルです。石膏の結晶化
による膨張によって、岩の表面が徐々に剥がれ落ちて形成さ
れたと推定されます。このような塩類風化は波打ち際でよく
見られますが、海から離れた山地でも条件がそろえば塩類風
化が発生します。塩類風化による空洞の拡大が進行し、天井
のアーチ部が崩落すると、崖が形成されます。
寒霞渓裏八景
石門
滝宮八坂神社豊島石石造物
⑧吉田の猪鹿垣(ししがき)
吉田ダムは白亜紀後期の花崗岩類を基盤とする堤高 74.5
mの多目的ダムです。吉田ダム左岸の岩盤斜面には、風化に
よって生成されたマサが侵食によって取り除かれた結果、花
崗岩の岩塊(コアストーン)が急斜面に残り、トアを形成し
ています。
吉田ダム下流
の吉田集落を取
り囲むように猪
鹿垣が築造され
ています。猪鹿垣
の石はすべて花
崗岩類で、現場の
岩石を利用して
いることが分か
ります。
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