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月面着陸における着陸機とレゴリスの接触解析
月面着陸における着陸機とレゴリスの接触解析 Contact Dynamics of Lander and Regorith in Lunar Landing 正 ◎ 能見 原田 公博 勇 (香川大) (香川大) Masahiro NOHMI, 吉原 宮原 英喜 啓 (香川大) (JAXA) Kagawa University, [email protected] Hideki YOSHIHARA, Kagawa University Isamu HARATA, Akira MIYARA, Kagawa University JAXA This paper describes contact dynamics of lander and regorith in lunar landing. The simulation model has been designed on Mechanical Dynamics Software “ADAMS.” Body frame consists of rigid bodies, which has four elastic legs. Specific definitions have been applied in order to describe characteristic of honeycomb core, and also in order to express contact dynamics with lunar surface. Simulation parameters are based on results of subscale footpad drag test experiment. Relation between slope declination and traction force clarified from simulation results. Key Words: Lunar Landing,Contact Dynamics,Regorith,Mechanical Dynamics Software. 1. 緒言 将来の月・惑星探査を行う着陸船は,険しい地形に積極的 に着陸していくことが求められる.過去の惑星探査における 究開発機構 (JAXA) で行われていた実験にも使用されたも のである.模擬砂を使用することによって,より実際の月面 の環境に近い状態にすることができる. 着陸衝撃吸収技術としては,米国の Surveyor や Viking に代 月面上で働く 1/6G の重力を,試験装置でどのように扱って 表されるスイングアーム式の着陸脚や,Apollo Lunar Module いるか説明する.土質工学や土木工学では,遠心力を利用し のカンチレバー式の着陸脚等がある.また,記憶に新しいも た高 G 環境で縮小モデルを用いた試験が,一般的に行われて の と し て は , Mars Pathfinder Mission や Mars Exploration いる.例えば、遠心力を用いて 100G 環境を作り出した場合, Mission のようにエアバッグを使用して火星に着陸した例が 100G 下での 1/100 スケールモデルの実験結果から,1G におけ ある[1]. る実際の大きさの対象物の挙動が推定可能になる.これは現 本稿では,着陸機が月面の砂から受ける力,砂へのめりこ 在地球上 1G 下で行っている試験は,月面上から見れば 6 倍の み量について実験装置を用いて確認し,砂から受ける影響を G 環境下で行っている試験とみなすことができる.この相似 把握する.実験には土壌摩擦試験装置を用いる.その後,着 則関係を用いれば地球上で月面での挙動を推定することが可 陸機の月面着陸挙動に関して機構解析ソフトを用い,実験か 能になる. ら得た摩擦係数を反映したシミュレーション解析を行う.シ Weight ミュレーション解析は,汎用機構解析ソフトウエアADAMS (MSC.Software Corporation) を用いる.ADAMS は,剛体系モ デルを視覚的に構築していき,その力学解析を行うソフトウ Position sensor Stepping motor Load cell エアである[2]. このような手順で月面着陸における着陸機 とレゴリスの接触解析を行っていく. Pad 2.土壌摩擦試験装置を 土壌摩擦試験装置を用いた実験 いた実験 2.1 実験の 実験の概要 Simulant Fig.1 Subscale Footpad Drag Test Equipment 砂の解析には, 土壌摩擦試験装置を用いる.土壌摩擦試験 装置では,月面着陸機の脚先についているパッドの 1/6 スケ 2.2 垂直荷重変化による 垂直荷重変化による砂 から受ける水平荷重 ける水平荷重の による砂から受 水平荷重の変化 ールのものを,バスケットの中に入っている砂の上を滑らせ 土壌摩擦試験装置に搭載する錘の数,とパッドが砂の上を ることによって,試験装置のロードセルと変位計から,パッ 移動する速度を変化させ,パッドが砂から受ける垂直荷重と ドの砂から受ける力と砂の深さ方向への変位を計測する(図 砂へのめりこみ量を計測することで砂からパッドへ働く摩擦 1 参照) . を解析する.試験装置に搭載する錘の数は 0~5 個に変化させ 試験装置に使用されている砂は,シミュラントと呼ばれる レゴリスの模擬砂である.今回使用した模擬砂は宇宙航空研 ることによりパッドにかかる垂直荷重を 3.92~8.82[N]まで 6 段階に変化させることができる.この実験では錘の数を 0, 3,5 個で行っている.また,パッドが砂の上を移動する速度 7 については 8.18,16.35,32.7[mm/s]の 3 種類について行っ 6 図 2~4 は特定の変位において,それぞれの速度ごとにパッ ドにかかった水平荷重と錘の荷重の関係を示した.縦軸には パッドにかかった水平荷重 Fr,横軸には錘によってかかる垂 FLoad[N] r[N] た. 直荷重 Fz をとっている.図 5~7 は特定の垂直荷重において 5 4 3 それぞれの速度ごとにパッドにかかった水平荷重とパッドの 2 めり込み量の関係を示している.縦軸にはパッドにかかった 1 水平荷重 Fr,横軸にはパッドのめり込み量 x をとっている. 2 3 図中の線は 8.18nn/s で行ったものを青線,16.35mm/s で行っ たものをピンク線,32.7mm/s で行ったものを緑の点線で表示 4 5 6 x[mm] Displacement[mm] 7 8 Fig. 5 Friction vs. penetration depth at normal force = 3.92N している.橙色の点線は,後で述べる ADAMS シミュレーシ 7 ョン解析で使用したノミナル値から導いた摩擦係数の値であ 6 る. Fr[N] Load[N] 7 Fr[N] Load[N] 6 5 4 5 3 4 2 1 3 2 3 4 5 6 7 N ormal Force[N] Fz[N] 8 9 3 4 5 6 Displacement[mm] x[mm] 7 8 Fig. 6 Friction vs. penetration depth at normal force = 6.86N 7 Fig. 2 Friction vs. normal force at penetration depth = 2mm 6 Fr[N] Load[N] 7 6 Fr[N] Load[N] 2 5 5 4 3 4 2 3 1 2 3 2 3 4 5 6 7 FNormal Force[N] z[N] 8 4 5 6 D isplacem x[mm] e nt[mm ] 7 8 9 Fig. 7 Friction vs. penetration depth at normal force = 8.82N Fig. 3 Friction vs. normal force at penetration depth = 4mm 7 8.18mm/s 32.5mm/s 16.25mm/s Simulation parameter FLoad[N] r[N] 6 5 2.3 砂から受 から受ける荷重 ける荷重の 荷重の検証 パッドにかかった水平荷重と錘の鉛直荷重の関係について, 4 以下にまとめる. 3 2 3 4 5 6 7 N orm al Forc e[N ] 8 Fz[N] Fig. 4 Friction vs. normal force at penetration depth = 6mm 9 ・錘による鉛直荷重が大きいほど,パッドが砂から受ける水 平荷重は大きくなる(図 2~4 参照). ・めり込み量が大きくなるほど,速度によってパッドが砂か ら受ける水平荷重が大きくなるが,あまり差が見られない ものもあった(図 2~4 参照). パッドにかかった水平荷重と,パッドのめり込み量の関係に μ:深さ変動摩擦係数、挙動解析に使用 ついて,以下にまとめる. μ0:摩擦係数 ・パッドのめり込み量が大きくなるほど砂から受ける水平荷 (0.01) (0.5) 主脚先端のパッドが月面にめり込むときに発生する垂直荷 重は大きくなる(図 5~7 参照). 重については,JAXA によってすでに行われている落下試験 実験時の砂の硬さはベーンせん断測定器を使用して測定し 義する.変数の説明にある括弧内の数値は,ノミナル値であ の結果から求められた値を用いる.垂直荷重の式は式(2)に定 ている.今回行った実験時の砂の硬さは 600gf・cm 以上であっ る. た.すでに行われている砂の垂直荷重を計測する実験では, 150~400gf・cm で行われていたので,砂がもっとやわらかい 状態でも実験を行う必要がある. 3. シミュレーションモデル Fz = a e 1 + b × vh f ( e × aa − k p x n p − k d xted − xtec k b x neb + gg ) (2) b:斜面方向速度成分への補正係数(0.1) 3.1 解析の 解析の概要 vh:接地パッドの斜面方向速度 月面着陸機の解析は,SELENE-B[3]において着陸機の耐転倒 ef:接地パッド斜面方向速度の指数の項 (1.0) 性の解析などに使用された着陸機の機構解析モデルと,月面 aa:相似測係数 のモデルを使用する.着陸機の解析モデルは主脚,副脚の弾 kp:月面へのめり込み量に対する係数 性特性,主脚,副脚のハニカムなどがモデル化されている. ep:月面へのめり込み量の指数項 着陸機の脚は 4 本である.着陸機の接地パターンは,脚の開 kd:月面へのめり込み速度に対する係数 き具合が一番大きい時と,一番小さい時に極端に分けると, ed:月面へのめりこみ速度の指数項 一脚接地と二脚接地の 2 パターンに分けることができる.一 ec : 月 面へのめ り込み速 度 (変 位・速度 連成項 )の指 数項 脚接地とは機体が斜面に接触する時,脚が一本だけ接地する 接地パターンである.二脚接地とは機体が斜面に接触する時, (35.6) (81.6666666667) (1.0) (25.0) (2.0) (1.0) kb:変位・速度連成項に対する係数 (1.5432098765×107) 脚が二本同時に接地する接地パターンである。シミュレーシ ョンでは図 8 に示す一脚接地(図左)と二脚接地(図右)のモデ ルを使用した.一脚接地は,接地脚間の間隔が広いので,二 脚接地に比べ接地時の安定性が高いと予測される. 3.2 砂の摩擦係数変化と 摩擦係数変化と接地挙動の 接地挙動の関係 着陸機を平らな斜面に自由落下させる.解析を行う上で変 更するパラメータとしては,接地条件として斜面の摩擦係数, 斜面の深さ変動摩擦係数,接触パラメータとして斜面の傾斜 角,機体の接地脚本数がある.傾斜角θは 30deg,15deg,10deg について行い,必要な箇所は他の数値でも行う.接地脚本数 ついては一脚接地と二脚接地について行う. 4.シミュレーション結果考察 シミュレーション結果考察 4.1 接地挙動分布の 接地挙動分布の考察 一脚接地と二脚接地,それぞれ縦軸に斜面の傾斜角度θ, Fig.8 横軸に摩擦係数μ,深さ変動摩擦係数μ0 を取り,接地挙動の Analysis Model 解析モデルに適用する月面の砂の上を滑るときに発生する 分布を表す.グラフ内の記号を以下の表に示す. 摩擦係数について,今回土壌摩擦試験装置による実験結果か Table.1 Symbols ら予測摩擦係数を適用した(図 2~7 参照).摩擦力の定義式は 式(1)に示す.変数の説明にある括弧内の数値をノミナル値と する. ( ) Fx , Fy = µx e + µ 0 × Fz x:月面へのめり込み量 e:月面へのめり込み量の指数項 (1.0) Fz:月面からの垂直荷重 (1) ○ △ ▲ × 着陸できたもの 斜面を滑り降りたもの 躓いて転倒したもの 転倒したもの 35 これより摩擦係数変化について,以下のようにまとめられる. 30 θ[deg] 25 ・一脚接地よりも二脚接地のほうがμ0 が変化したときの挙動 20 の変化が大きい. 15 ・ハニカムが無効のものは,有効のものに比べて着陸性能が 10 明らかに低下しており,摩擦係数が低くても転倒している. 5 0 0 0.2 0.4 0.6 μ0 0.8 1 1.2 Fig. 9 Landing result in landing with two legs) である.これより深さ摩擦係数変化について以下のようにま とめられる. 35 30 ・二脚接地の場合,摩擦係数が小さいとき傾斜角が小さいに 25 θ[deg] 図 11 および図 12 は縦軸に傾斜角,横軸に深さ摩擦係数を とったものである.また図 11 が二脚接地,図 12 が一脚接地 もかかわらず滑り続けている. 20 ・ハニカム無効の二脚接地のものは,摩擦係数が小さいとき 15 も転倒している. 10 5 5 章.結論 0 0 0.2 0.4 0.6 μ0 0.8 1 1.2 土壌摩擦試験装置を用いた実験より,着陸機が月面の砂か ら受ける力,砂へのめりこみ量のデータを取得した.この結 Fig, 10 Landing result in landing with one 果を反映させた機構解析ソフトウェア ADAMS を利用し,シミ ュレーションを行った.その結果から次のことがわかる. 35 30 ・二脚接地のほうが着陸が成功する傾斜角が低くなる摩擦係 θ[deg] 25 数の値が低い. 20 ・二脚接地の深さ変動摩擦係数変化のものは摩擦係数が小さ 15 くなると摩擦係数が大きいもので着地が成功した角度でも 10 再び斜面を滑っている. 5 0 0.001 0.01 μ 0.1 [1]宮原啓,他 11 名,“着陸衝撃吸収機構の研究”宇宙技術連合講演 Fig.11 Landing result in landing with two legs 会,福井,講演番号 3C01,2004 年 11 月 6 日 [2]能見公博,宮原啓, 35 θ[deg] 文献 1 “面着陸機の機構解析ソフトウエアによる 30 モデリング” 宇宙技術連合講演会,福井,講演番号 3C03,2004 25 年 11 月 6 日 [3] SELENE-B 検討チーム(ISAS/NAL/NASDA),“月軟着陸実験計画 20 (SELENE-B)提案書” SELENE-B 検討チーム発行 15 10 5 0 0.001 0.01 μ 0.1 1 Fig, 12 Landing result in landing with one 4.2 各条件の 各条件のシミュレーション結果 シミュレーション結果に 結果に対する考察 する考察 図 9 および図 10 は,縦軸に傾斜角,横軸に摩擦係数をとっ たものである. また図 9 が二脚接地, 図 10 が一脚接地である. 2002 年 11 月