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オゾン層保護・気候変動防止政策を素材に

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オゾン層保護・気候変動防止政策を素材に
The Murata Science Foundation
国際環境政策の国内的実現に関する事例分析―
オゾン層保護・気候変動防止政策を素材に
International Environmental Policy and Domestic Implementation
A41206
代表研究者
共同研究者
島 村 健
神戸大学 大学院法学研究科 助教授
Takeshi Shimamura
Associate Professor, Graduate School of Law, Kobe University
久 保 は る か
神戸大学大学院法学研究科「市場化社会の法動態学」研究センター
研究員(COE研究員)
Haruka Kubo
Research Associate, Center for legal Dynamics of Advanced Market Societies,
Graduate school of Law, Kobe University
Environmental Policy does not consist of a single measure but uses several policy measures. For example 'command and control' measures are usually accompanied by subsidies
or other financial aids from the government. Besides this in some cases a direct regulation
and several economic measures are combined directly in order to achieve environmental
goals more efficiently. In climate change policy such "policy mix" has been adopted both on
international level and domestic level. European countries including Netherlands, Germany,
England and Denmark adopt some economic measures like carbon tax and emission trading
(EU level and domestic level).
This report focuses mainly on the comparative analysis of US's and Japan's policy for protecting ozone layer, although our research project itself covers also legal and political analysis of policy mix in climate change policy. There is a difference between both countries' policies. Japanese government has resorted chiefly to direct regulations and subordinately used
financial support measures, while US has adopted widely economic instruments like emission trading and tax. Generally speaking policy mix, which includes economic incentive systems, is more flexible and enables to achieve environmental goals more efficiently. But our
study shows that even if we adopt a policy combination without economic incentives, the
cooperation between enterprises or between public and private, and the initiative of industrial organization on technological innovation enable flexible and effective implementation of
domestic environmental goals.
Nevertheless some policy measures US have adopted for protecting ozone layer are
remarkable. Firstly emission trading system has been a familiar tool for the US environmental policy. We can learn from US's experience, in order to discuss whether or how we should
found domestic carbon emission trading system. Secondly tax on ozone depleting substances was accompanied border tax adjustment because of concern for global competitiveness. This combination deserves our attention if we would discuss a design of carbon tax
from now on.
─ 421 ─
Annual Report No.19 2005
置(主としてCDM)に関する研究も合わせて
研究目的
行い、今後の、わが国の気候変動防止の制度
気候変動枠組み条約に基づく京都議定書が
設計に係る議論に貢献することを目的とする。
発効し、わが国は気候変動ガス削減に関する
概 要
厳しい目標値の達成を法的にも迫られている。
他方、気候変動問題と同様に、地球規模での
研究成果は予定字数を大幅に上回るため、
被害が確実に予想され、また地球規模での対
本文において、文献の引用・脚注は、基本的
応が要請されるオゾン層保護問題は、国際的
に省略している。また、研究成果のうち、現
な取り組み・国内措置双方の点で先行してい
時点での評価を行うことがある程度可能なオ
る。以上のような問題状況を踏まえ、本研究
ゾン層保護政策のポリシーミックスの比較分
では、第一に、オゾン層保護問題をめぐる国
析を中心に報告している。気候変動政策につ
際交渉を回顧し、また、わが国における立法
いては、わが国は、今まさに炭素税・国内排
に基づく対策措置、民間ベースでのオゾン層
出権取引等の導入の是非が検討されている段
破壊物質削減の取組みを分析し、政策措置の
階であるという事情にも鑑みて、報告書にお
有効性の条件を析出する。その際、必ずしも
いて、付随的に言及するにとどめている。
フォーマルな立法に基づかない行政上の措置、
あるいは、業界団体と行政の相互的な働きか
1 現実の環境政策は単一の政策手段により成
けによるオゾン層破壊物質削減のための取組
り立っているよりも複数の手段によるポリシ
みに注目する。今後の国内措置の比較の対象
ー・ミックスにより成り立っている。例えば、
としては、アメリカ合衆国等をとりあげる。
直接規制には補助金・税制優遇措置などの財
政的支援があわせて行われることが多い。こ
気候変動防止の国内的措置については、欧
のように直接規制の実効性を補完するための
州諸国で注目すべき政策の展開が見られる。
支援措置を用意する他に、環境目標をより費
オランダ、イギリス、ドイツそれぞれ後述す
用効率的に実現するために意識的に直接規制
るような政策手段を投入しており、また、EC
と複数の経済的手段を組み合わせる場合があ
レベルでの排出権取引の制度設計も現在進ん
る。気候変動防止政策においては、京都議定
でいる。国境をまたぐ政策手段である、排出
書という国際的な取り決めにおいて様々な政
権取引、CDM の事例も積み重ねられつつあ
策措置の組み合わせによる目標達成が想定さ
る。EC レベルでの排出権市場の設定は、海外
れていることのほか、各国内政策においても
における企業の取組みと国内の気候変動ガス
京都議定書以上に多様なポリシー・ミックス
削減の取組みをダイレクトに接合するもので
による対応が実施・検討されている。
ある。他方、わが国の政策手段は目下乏しい
ものといわざるを得ず、今後、税、排出権取
オゾン層保護のためのウィーン条約・モン
引、協定など新たな制度の導入が予想される。
トリオール議定書と、気候変動防止のための
本研究は、EC 諸国における政策手段のこれま
枠組み条約・京都議定書の、国際的合意枠組
での取組みをレビューし、引き続き注視する
みとしての性格を比較すると、前者が(先進)
と共に、海外での京都メカニズムに基づく措
各国共通の目標を設定し、オゾン層破壊防止
─ 422 ─
The Murata Science Foundation
のための対策として規制物質の製造量と消費
硫黄酸化物に関する先例があり、また、北東
量をコントロールするというシンプルな方法
部の諸州においてCO2 に関する排出権取引の
がとられたのに対し、後者では(先進)各国
導入が検討されているところであり、(わが国
ごとの目標が設定され(目標設定に際して相
と異なり)同国の慣れ親しんだ手法であると
当政治的な交渉がなされた)、気候変動防止
いうことができよう。その制度設計のあり方、
のための対策として、「京都メカニズム」など
導入のメリット・デメリットについてなされ
の様々な手法=ポリシー・ミックスが国際的
た比較衡量は、わが国において、気候変動政
な枠組みとして合意された。この違いは、問
策に関しこの手法の導入の是非を検討する際
題の性質と対策の難易度等に起因するものと
に参考になるであろう。
いえる。
また、フロン税に関しては、この種の税の
制度趣旨としては、税収目的と規制目的が挙
2 オゾン層保護対策について、比較分析の対
げられることが多いが、排出権割当に伴う既
象とした日米両国とも対策の実効性を確保す
得権者の超過利潤の再分配が動機の1つとさ
るために様々な手段を組み合わせた対応が見
れたことが興味深い。また、それほどわが国
られたが、両国の違いは、日本において直接
では注目されていないようであるが、国境税
規制を主たる手段に添えそれを補完する支援
調整が行われており、このような手法は、例
措置が中心であったのに対して、アメリカに
えば気候変動防止のための比較的高額の炭素
おいては費用効率的な各種手段が意識的に取
税を各国がそれぞれ導入してゆく場合に、こ
り入れられたことが特徴である。アメリカで
れと組み合わせることによって国際競争力上
は、取引可能な割当量や税などの経済的な手
の懸念を緩和することができるというポテン
法によって、事業側での柔軟な対応が可能と
シャルを有 しており、 当 時 の議 論 や実 務 、
なったとされているが、経済的手法を取り入
GATT/WTO 法との関係等をより深く調査・
れていない日本の場合であっても、その実施
検討することも有益であろう。
過程を見れば、必ずしもAllowance や税など
の経済的な手法をとらなくとも、産業構造の
特性に応じた柔軟な支援体制の構築とインセ
ンティブ付与によって柔軟な対応を可能にし
たといえる。目標達成に効果的なポリシー・
ミックスをとることができるか否かは、必ず
しも経済効率性などの技術的な判断によるの
ではなく、各国の制度や社会状況に適切な選
択がなされれば効果を挙げることが可能であ
ることを示しているといえよう。
3 アメリカにおける政策手段として注目に値
するのは上記の排出権取引と税である。排出
権取引という政策手段は、アメリカにおいて
─ 423 ─
− 以 下 省 略 −
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