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完全全脳虚血後の脳障害に対する 炭酸 リチウムの効果に関する研究

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完全全脳虚血後の脳障害に対する 炭酸 リチウムの効果に関する研究
岡 山医誌
(1993)
105,
205∼216
完全全脳 虚血後 の脳 障害 に対 す る
炭 酸 リチ ウムの効果 に関す る研 究
岡 山 大 学 医 学 部 麻 酔 ・蘇 生 学 教 室(指
入
井
田
words:完
全 全 脳 虚 血,イ
緒
受 稿)
ノ シ トー ル リ ン脂 質 作 動 系,炭
言
心 停 止 蘇 生 後 の よ う な完 全 全 脳 虚 血 後 の 脳 障
害 は,虚
川 方 久 教 授)
豊
(平成4年11月25日
Key
導:平
酸 リチ ウ ム
そ こ で,イ
ヌ の18分 間 の 完 全 全 脳 虚 血 モ デ ル
を用 い て,炭
酸 リチ ウ ム の 虚 血 性 脳 障 害 に 対 す
る 保 護 効 果 を神 経 学 的,組
血 時 間 に よ っ て 規 定 され る一 次 性 障 害
織 学 的 に 検 討 し,虚
血 中 お よ び 再 灌 流 直 後 のPIサ
イ クルの代 謝 亢
と,血 流 再 開 後 の さ ま ざ ま な 因 子 に よ っ て 規 定
進 が完 全全 脳虚 血後 の脳 障害 に及 ぼす 影響 につ
さ れ る 二 次 性 障 害 に 分 け られ る.1970年,Hoss
い て 検 討 し た.
mamら1)に
よ り,神 経 細 胞 は 従 来 考 え ら れ て
材 料
い た以 上 の 長 時 間 の 虚 血 に 耐 え 得 る こ と が 報 告
さ れ て 以 来,こ
の 二次 性 障害 が重 要視 されて い
る.1982年,Kirino2)お
1.
よ びPulsinelliら3)は,
噛 歯 類 に 一 過 性 の 脳 虚 血 を 負 荷 し,海 馬CA
の 錐 体 細 胞 に お い て,血
流 再 開2∼3日
対 象お よび麻酔 法
体 重5.5∼10kgの
1
と 方 法
雑 種 成 犬36頭 を 用 い,炭 酸 リ
チ ウ ム 投 与 群(L群)24頭,非
後 に突
12頭 の2群
に 分 け た.L群
如 発 生 す る障 害 を 遅 発 性 神 経 細 胞 壊 死 と して 報
与 群(L-Ⅰ
群)12頭,虚
告 した.こ
与 群(L-Ⅱ
群)12頭
の 遅 発 性 神 経 細 胞 壊 死 は,ヒ
トの 心
停 止 蘇 生 後 に お いて もみ られ る こ とが 報 告 され4),
を さ ら に,虚
血 後投
血 前 日投 与+虚
血後 投
の2群
に 分 け,各
群 で急性
実 験 お よ び慢 性 実 験 を行 っ た.
二 次 性 障 害 の 一 つ と して そ の 発 生 機 序 に 関 す る
研 究 が 数 多 く報 告 され て い る.そ
投 与 群(C群)
麻 酔 導 入 は,塩 酸 ケ タ ミン20mg/kg,硫
ロ ピ ン0.05mg/kgの
の 中 で も,虚
酸ア ト
筋 注 で 行 っ た.双 極 誘 導 の 心
血 中お よ び再 灌 流 直 後 の 興 奮 性 ア ミノ酸 の放 出5)
電 図 を装 着 し た 後,左
とそ れ に 伴 う 細 胞 内 カ ル シ ウ ム の 上 昇6)が,虚
し,乳 酸 加 リン ゲ ル 液 を5.0ml/kg/hで
血 後 の 神 経 細 胞 障 害 に 大 き く関 与 して い る と い
パ ン ク ロニ ウ ム0 .2mg/kgで 筋 弛 緩 を得 た 後,気
う説 が 定 着 し つ つ あ る.近
管 内 挿 管 を行 い,人 工 呼 吸 器(ア コ マAR-300)
年,さ
トー ル リン 脂 質 作 動 系(PIサ
常 が,こ
らに,イ
ノシ
イ クル)の 代 謝 異
%で 行 い,虚
血 作 製 あ る い は 各 種 パ ラ メー タ の
虚 血 前 値 測 定 の20分 前 に 中 止 し た.体
温 を持 続 モ ニ ター し,36.5∼37.5℃
神 科領 域 で躁 鬱病 の治 療
薬 と し て 用 い られ て い るが,そ
て,脳
保つ よう
に 調 節 呼 吸 を行 っ た.麻 酔 維 持 は,ハ ロ セ ン1.5
活 性 化 を 引 き起 こす 点
で 注 目 され て い る7).
炭 酸 リチ ウ ム は,精
投 与 した.
に 装 着 して,PaCO2を30∼35mmHgに
の細 胞内 カル シウム の上昇 や プ ロテ イ
ン キ ナ ー ゼC(PKC)の
前 肢 静 脈 に 輸 液 路 を確 保
の作 用機 序 と し
温 は食道
に 維 持 した.
な お,脳 虚 血 作 製 は,上 行 大 動 脈 遮 断 と大 動 脈 ・
内 で リチ ウ ム イ オ ン が イ ノ シ トー ル ー リ
右 房 ・大 腿 静 脈 間 バ イパ ス法9)(図1)で
ン酸 ホ ス フ ァ タ ー ゼ を 阻 害 す る こ とに よ り,PI
虚 血 時 間 は18分 間 と し た.
サ イ ク ル へ の 抑 制 作 用 を 表 す もの と考 え られ て
2.
い る8).
炭 酸 リチ ウ ム 投 与 法
炭 酸 リチ ウ ム は,蒸 留 水 で0.5%溶
205
行 い,
液 と し,L
206
八
図1
井
田
豊
上 行 大動 脈 遮 断 と大動 脈 ・右 房 ・大 腿 静 脈 間バ イパ ス 法(文 献9よ
り引 用)
下 大静 脈,上 大 静 脈,奇 静 脈 の順 に 血流 を遮 断 し,同 時 に 上行 大 動 脈 の遮 断 を行 い,完 全 全 脳 虚 血 を作 製
し た.上 行 大 動脈 遮 断 中は,バ イパ ス 回路 に よ り心 肺 循 環 を行 う こ とで,脳 虚 血 中の 心肺 機 能 を良 好 に保
持 す る こ とが 可 能 とな る.遮 断 解 除 は上 大 静 脈,上 行 大動 脈,下 大 静 脈,奇 静 脈 の順 で行 い,バ イパ ス 回
路 の 遮 断 は上 行 大 動 脈 の遮 断解 除 と同時 に行 っ た.な お,図 中 の 矢 印 は上行 大 動 脈 遮 断 中 のバ イパ ス 内血
流 方 向 を示 す.
-Ⅰ 群 は
,虚 血 解 除 と同 時 に バ イパ ス 回 路 内 よ り
10mg/kg投 与 し た.ま た,L-Ⅱ
100mg/kg経
口投 与 し,さ
群 は,虚 血 前 日に
ら に虚 血 解 除 と 同 時 に
バ イ パ ス 回路 内 よ り10mg/kg投 与 し た.
な おCSFは
大 槽 に硬 膜 外 カ テ ー テ ル を 留 置 し
採 取 した.
2)
慢 性 実 験
虚 血 解 除 後7日
目 ま での 神 経 機 能 を,Safarら
3.
測 定 項 目お よび 測 定 法
の神 経 学 的 評 価 法10)(表1)に
1)
急 性 実 験
脳 組 織 を採 取 し,海 馬,線
虚 血 解 除 後7時
心 拍 出 量(心
間 ま で の 心 拍 数,平 均 動 脈 圧,
係 数),ヘ
マ ト ク リ ッ ト値(Ht),
ヘ モ グ ロ ビ ン値(Hb),血
糖 値 お よ び 食 道 温 を経
従 って 評 価 した後,
条 体 お よ び 小 脳 の組
織 学 的 検 索 を行 っ た.
脳 組 織 灌 流 固 定 法 は,岡 本11)の 方 法 と 同様 に,
上 ・下 大 静 脈 か ら の 自 然 脱 血 と,腹 部 大 動 脈 よ
時 的 に 測 定 し,適 時 動 脈 血 ガ ス分 析 を 行 っ た.
り逆 行 性 に 大 動 脈 弓 部 ま で挿 入 し た18Fの
L群 で は 同 時 に 血 清 お よ び 脳 脊 髄 液(CSF)中
カ ニ ュ ー レに よ る灌 流 に よ り行 っ た.ま ず,上 ・
の リチ ウ ム 濃 度 を測 定 した.動
下 大 静 脈 離 断 と同 時 に 人 工 心 肺 用 ポ ン プ(泉 工
脈 に 挿 入 した7Fの
脈 圧 は左大 腿動
クー ルナ ンカテー テ ル(Cordis
医 科 工 業 社 製MPS-15-K)を
送液
用 い て 生 理 的 食塩
社 製)よ り測 定 し,動 脈 血 ガ ス分 析 はRadiometer
水 を2.0L/minで80秒
社 製ABL-2で
緩 衝 ホル マ リン 溶 液 を 同 様 に2.0L/minで80秒
行 っ た.ま
た,心
拍 出量 は右大
腿 静 脈 よ り挿 入 し た5FのSwan-Ganzカ
テ ル(Goodtec社
Output
製)よ り,日 本 光 電 社製Cardiac
Computerで
血 清 お よ びCSF中
テー
間 灌 流 し,つ い で4%中
灌 流 し脳 組 織 を 固定 した.そ
出 し,ホ ル マ リン 固 定 し た 後,海
よび 小 脳 虫 部 を切 り 出 し た.ア
リチ ウ ム 濃 度 は,原
脱 水 処 理 を行 っ た後,パ
光 度 計(島 津 製 作 所 製AA-640-12)で
測 定 し た.
厚 さ5μmの
間
の 後 脳 組 織 を取 り
測 定 し,心 係 数 を求 め た.
子 吸光
性
馬,線
条体 お
ル コー ル に よ る
ラ フ ィ ン に 包 埋 し た.
切 片 を 作 製 し,ヘ
マ トキ シ リン ・
完全 全脳 虚 血後 の脳 障害 に対す る炭 酸 リチ ウムの効 果
表1
207
神 経 学 的 評 価 法(文 献10よ り引 用)
意 識状 態,反 射 ・運動 機 能,呼 吸 状 態,そ の他 の4項
る.こ の評 価 法 で は正 常 が0,重
TOTAL=100(昏
目で採 点 し,そ れ らの 総 合 点 で神 経 機 能 を評 価 す
度 の 昏 睡 ま た は死 亡 が100と な る.
睡 も し くは 死)
正 常=0
エ オ ジ ン染 色 を行 い,組 織 学 的 変 化 を検 討 し た.
に お い て,L-Ⅰ
4.
意 な 増 加 が み ら れ た が,そ
統 計学 的処理
測 定 値 は 平 均 値 ± 標 準 誤 差 で 示 し た.群
測 定 値 の 比 較 は,Wilcoxon-U
testを 用 い,群
間 の 測 定 値 の 比較 は,Kriscal-Warrisの
行 い,p<0.05を
検定 を
1.
急 性 実 験
1)
心 拍 数,平
心
拍
係 数,Ht,
C群,L-Ⅱ
群 は 虚 血 解 除 後20分 ま で,L-Ⅰ
群,L-Ⅱ
間に
に 対 し有 意
れ以 外 に各群 間 に有 意
(3) 心
係
数
群 は 虚 血 解 除 後10分 ま で,L-Ⅱ
は 虚 血 解 除 後20分 まで,虚
数
群 は 虚 血 解 除 後20分 ま で,L-Ⅱ
群
血 前 値 の 約130∼
有 意 に 増 加 し た状 態 が 持 続 し,そ れ 以 後
は 虚 血 前 値 前 後 で 推 移 し た.虚
血 解 除 後2時
差 は み られ な か っ た.
C群,L-Ⅰ
間 ま で,虚
群
血 前 値 の 約130∼170
群 と もにC群
な低 下 が み ら れ た が,そ
Hb,血
道 温(表2)
は 虚 血 解 除 後1時
160%と
(2) 平 均 動 脈 圧
お い て,L-Ⅰ
を 認 め な か っ た.
C群,L-Ⅰ
れ 以外 に各群 間に有
意 差 は み ら れ な か っ た.
虚 血 前 値 前 後 で 推 移 し た.虚
各 種 パ ラ メー タ の 虚 血 前 値 に 各 群 間 の 有 意 差
(1)
に 対 し有
%と 有 意 に 増 加 し た状 態 が 持 続 し,そ れ 以 後 は
果
均 動 脈 圧,心
群 と もにC群
は 虚 血 解 除 後10分 ま で,虚
も っ て 有 意 と した.
結
糖 値,食
内の
群,L-Ⅱ
血 解 除 後7時
間
群
血 前 値 の 約140∼150
%と 有 意 に 増 加 し た 状 態 が 持 続 し,そ れ 以 後 は
各 群 と も虚 血 前 値 前 後 あ る い は 虚 血 前 値 の 約
60∼80%と
有 意 に 低 下 し た状 態 で 推 移 した が,
各 群 間 に 有 意 差 は み ら れ な か っ た.
208
八
表2
井
*:虚
(4) ヘ マ トク リ ッ ト値(Ht),ヘ
血 前 値 に対 して有 意 差 あ り(p<0.05)
モ グ ロ ビン値(Hb)
各 群 と もに 虚 血 解 除 後 は,虚 血 前 値 の約110∼
有 意 に 増 加 した状 態 あ る いは 虚 血 前 値 前
後 で 推 移 した が,各
っ た.
豊
虚 血解 除後7時 間 まで の心 拍 数,平 均 動 脈圧,心 係 数,Ht,
平 均 値 ±標 準 誤 差(n=6)
120%と
田
群 間 に 有 意 差 は み られ な か
(5) 血
Hb,血
**:C群
糖
C群,L-Ⅰ
糖 値,食 道 温 の 変化
に 対 して有 意 差 あ り(p<0.05)
値
群 は 虚 血 解 除 後20分 ま で,L-Ⅱ
は虚 血 解 除 後40分 ま で,虚
群
血 前 値 の 約140∼190
%と 有 意 に 増 加 し た状 態 が 持 続 し,そ れ 以 後 は
各 群 と も虚 血 前 値 前 後 で推 移 し た が,各
群間に
完 全全 脳 虚血 後 の脳 障害 に対 す る炭 酸 リチ ウムの 効果
有 意 差 は み られ な か っ た.
mEq/l,
(6) 食
で,1.69±0.17mEq/l,
道
温
各 群 と もに 虚 血 解 除 後 は,虚 血 前 値 よ り0.3∼
209
0.29±0.03mEq/l,虚
血 解 除 後10分
0.38±0.04mEq/l,
虚 血 解 除 後6時
間 で,0.77±0.08mEq/l,
1.1℃ 有 意 に 低 下 し た状 態 あ るい は 虚 血 前 値 前 後
0.49±0.04mEq/lと,血
で 推 移 した が,各
前 後 を 通 じ 高 濃 度 を 維 持 で き た.
群 間 に有意 差 は み られなか っ
清,CSFと
もに虚 血
た.
2)
血 清 お よ びCSF中
リチ ウ ム 濃 度(図2)
L-Ⅰ 群 の 血 清 お よ びCSF中
リチ ウム 濃 度 は,
そ れ ぞ れ 虚 血 解 除 後10分 で,0.92±0.03mEq/
l, 0.056±0.004mEq/l,虚
0.18±0.05mEq/l,
血 解 除 後6時
0.14±0.01mEq/lで
間 で,
あっ
た.
L-Ⅱ 群 で は,そ れ ぞれ 虚 血 直 前 が,0.89±0.08
写真
虚 血解 除 後7日
胞
A:C群
目の 海 馬CA
1領 域 の錐 体 細
正 常 な細 胞 と虚 血性 変 化 に陥 った
細 胞 が混 在 して い る.
B:L-Ⅰ
群 虚 血 性 変 化 に陥 った細 胞 を 多数
認 め る.
図2
血 清 お よびCSF中
リチ ウム濃 度 の 変化
C:L-Ⅱ
群
bar=100μm
正 常 な細 胞が 多数 残 ってい る.
210
八
2.
慢 性 実 験
1)
神 経 学 的 検 討(図3,
C群 は,全
井
田
豊
の う ち1例
表3)
は6日
目 に 死 亡 した.
L-Ⅱ 群 は,6例 中4例
例 が 疼痛 刺 激お よび音刺 激 にの み
経 口 摂 取 可 能 で,立
が虚 血 解 除 後2日
目よ り
ち 上 が る 動 作 が み られ,そ
反 応 が み ら れ る典 型 的 な植 物 状 態 で あ り,四 肢
の う ち1例
は 歩 行 可 能 とな る ま で に 改 善 し た.
は 過 緊 張 状 態 で,横
残 りの2例
は 四 肢 の 過 緊 張 は み られ なか っ た が,
た わ っ た ま ま走 る よ う な 動
作 が 頻 回 に み られ,典
型例 で は周期 的 に後 弓反
植 物 状 態 の ま ま で 改 善 は み ら れ ず,そ
張 を呈 し た.ま
例 は6日
口摂 取 不 能 の た め,虚
血
解 除 後2日
目 よ り中 心 静 脈 栄 養 を行 っ た.虚
た,経
血
解 除 後5日
目 に2例,7日
が
目 に1例,計3例
死 亡 し た.
の う ち1
目 に 死 亡 し た.
神 経 学 的 ス コ ア で は,L-Ⅰ
1日 目,2日
目の みC群
群 は,虚 血 解 除 後
に 比 し有 意 に 良 好 で あ
っ た が,3日
目以 降 有 意 差 は み ら れ な か っ た.
目よ
L-Ⅱ 群 は3日
目以 外 す べ てC群
り疼 痛 刺 激 お よ び 音 刺 激 に対 す る反 応 が 良 好 で,
好 で あ っ た.
L-Ⅰ 群 は,6例
中3例
が 虚 血 解 除 後1日
四 肢 の 過 緊 張 は み られ ず,2日
可 能 で あ っ た が,3日
っ た.残
りの3例
目 よ り経 口摂 取
目 以 降 改 善 は み られ な か
はC群
と同 様 植 物 状 態 で,そ
表3
図3
虚血 解 除後7日
虚 血 解 除後1日
虚 血 解 除 後7日
2)
に 比 し有 意 に 良
組 織学 的検 討
(1) 海 馬CA
C群,L-Ⅰ
1錐 体 細 胞(写
真A,
B,
C)
群 で は虚 血性変 化 に 陥 った錐体 細
目ま での神 経 学 的 予 後
目 までの 神 経 学的 予 後
目か ら7日 目 までの各 群 にお け る個 々の イ ヌの経 時 的 な神経 機 能 の変 化 を示 す.表 中の100
は死 亡 例 で あ る.
完 全全 脳虚 血 後 の脳 障害 に対 す る炭酸 リチ ウムの 効果
胞 を 多数 認 め る の に 対 し,L-Ⅱ
群 では正常 な錐
体 細 胞 が 多 数 残 っ て い た.
(2) 線 条 体(写
C群,L-Ⅰ
真D,
E,
(3) 小 脳 プ ル キ ン エ 細 胞(写
C群,L-Ⅰ
F)
真G,
H,
I)
群 で は 多数 の プ ル キ ン エ 細 胞 が 脱
落 消 失 して い た の に 対 し,L-Ⅱ
群 で は 虚 血 性 変 化 に 陥 っ た小-中
型 神 経 細 胞 を 多 数 認 め る の に 対 し,L-Ⅱ
211
群 では正常 なプ
ル キ ン エ 細 胞 が 多数 残 っ て い た .
群 では
考
正 常 な 細 胞 が 多 数 残 っ て い た.
察
近 年,虚 血性 神 経細 胞障 害 の発生 機序 として,
写真
写真
虚 血解 除 後7日 目の 小 脳 のプ ル キ ンエ 細 胞
虚 血 解 除 後7日 目の 線 条体 小-中 型神 経 細 胞
D:C群
虚 血性 変化 に陥 った細 胞 を多数 認
G:C群
虚血 性 変 化 に 陥 った プ ル キ ンエ細
胞 と脱 落消 失 した ものが み られ る.
め る.
E:L-Ⅰ
群
H:L-Ⅰ
虚 血 性変 化 に陥 った細 胞 を 多数
認 め る.
F:L-Ⅱ
群
bar=100μm
正 常 な細 胞 が 多数 残 って い る.
群
プ ル キ ンエ細 胞 はすべ て脱 落 消
失 して い る.
Ⅰ:L-Ⅱ 群 正 常 なプ ルキ ンエ細 胞 が 多数 残
って い る.
bar=100μm
212
八
井
田
豊
虚 血 直 後 の 興 奮 性 ア ミ ノ酸 放 出 に 伴 う一 過 性 の
が 報 告 され て い る21).本研 究 で は,炭 酸 リチ ウ ム
細 胞 内 カ ル シ ウ ム 濃 度 の 上 昇 が 注 目 され,各
10mg/kgを 虚 血 解 除 と同 時 に バ イパ ス 回 路 内 よ り
種
カ ル シ ウ ム 拮 抗 薬12)13)14)やグ ル タ ミン酸 受 容 体
拮 抗 薬(NMDA阻
害 薬15), AMPA阻
投 与 した が,こ
れ は,リ
チ ウ ム イ オ ン が 最 も早
害 薬16))
く脳 内 に 到 達 し得 る虚 血 後 投 与 法 と考 え られ る.
の 脳 保 護 効 果 に つ い て 数 多 く報 告 さ れ て い る.
ま た リチ ウ ム は 脳 内 に 移 行 し難 い と さ れ て い る
しか し,心 停 止 蘇 生 後 の よ う な 完 全 全 脳 虚 血 に
が,本
対 す る これ ら の 有 効 性 は 明 らか で な い.こ れ は,
過 性 が 亢 進 す る22)と い う結 果 が 得 ら れ て お り,
完 全 全 脳 虚 血 の よ う に 虚 血 侵 襲 が 強 い 場 合,細
こ の 投 与 法 で,虚
胞 内 カル シ ウム濃 度上 昇 の機構 が もっ と多岐 に
チ ウ ム 濃 度 が 上 昇 し,血 清 リチ ウ ム 濃 度 を有 効
わ た っ て い る た め と推 察 さ れ る.す
濃 度 の0.1mEq/l以
上 に 維 持 で き る こ とを 急 性
位依 存 性 カ ル シウム チ ャン ネルや受 容体 依 存性
実 験 で確 認 し た.さ
ら に,虚
カ ル シ ウ ム チ ャ ン ネ ル を介 す る細 胞 外 か ら の カ
な リチ ウ ム 濃 度 が 得 ら れ る よ うに,前
ル シ ウ ム の 流 入 だ け で な く,細 胞 内 貯 蔵 部 位 か
リチ ウ ム100mg/kgを
らの カ ル シ ウ ム 動 員17)も 大 き く関 与 して い る可
清 リ チ ウ ム 濃 度 を 躁 鬱 病 の 治 療 濃 度0.4∼1.5
能 性 が あ る.
mEq/lに
1967年,Eichbergら18)に
な わ ち,電
よ り,脳 虚 血 後,
急 速 に イ ノ シ トー ル リン 脂 質 が 減 少 す る こ とが
明 らか と な っ た が,そ
ら な か っ た.し
の持つ 意義 の解 明 に は至
か し,1975年,Michelll9)がPI
レ ス ポ ン ス す な わ ち,外
とagonist-receptor
り,イ
mechanismに
よ
ノ シ トー ル リ ン脂 質 が ホ ス フ ァ チ ジ ル イ
ノ シ トー ル 三 リ ン酸(IP3)お
血 中 に脳 内に 十分
日に 炭 酸
経 口投 与 し,虚 血 直 前 の 血
維 持 し た.こ の 投 与 量 で,循 環 系 そ の
他 各 種 パ ラ メー タ に 及 ぼ す 影 響 は み ら れ な か っ
た.
本 研 究 で用 い た イ ヌ の 完 全 全 脳 虚 血 モ デル は,
た れ,循
環 抑 制 に よ る 二 次 的 な神 経 機 能 障 害 を
最 小 限 に 抑 え る こ とが 可 能 で あ る9)た め,完
全
全 脳 虚 血 後 の 脳 障 害 に 対 す る治 療 効 果 を検 討 す
る上 で最 適 で あ る と考 え ら れ る.本 虚 血 法 を 用
胞 内カ ル シウム
い て18分 間 の 全 脳 虚 血 負 荷 を行 う と,神 経 学 的
セ ロー ル(DG)に
分 解 され,細
活 性 化 を 引 き起 こす とい う概
血 後 の イ ノ シ トー ル リン
脂 質 の 急 激 な減 少 は,こ
リ
よび ジア シル グ リ
の 動 員 やPKCの
念 を提 唱 して 以 来,虚
血 解 除 後10分 か らCSF中
虚 血 中 お よ び 虚 血 解 除 後 の 心 肺 機 能 が 良 好 に保
的 刺 激 が 細 胞 に加 わ る
coupling
実験 系 では再 灌 流早期 に血 液脳 関 門の透
のPIサ
イ クルの亢 進
に は,全 例 が 長 期 生 存 可 能 な 植 物 状 態 を呈 し23),
組 織 学 的 に は,線
て 再 灌 流 後6時
条体 小-中
間 で,海
型神 経 細胞 に おい
馬CA
1錐 体 細 胞,小
を 意 味 す る もの と考 え られ る よ う に な っ た.1988
脳 プ ル キ ンエ 細 胞 に お い て は 再 灌 流1∼2日
年,Chenら20)は,ラ
に虚 血 性 障 害 が完 成 す る こ とが 報 告 され てい る11).
ッ トの 海 馬 お よ び 線 条 体
の ス ラ イ ス 標 本 に お い て,虚
血 ・低 酸 素 負 荷 に
今 回 の 神 経 学 的 検 討 で は,リ
チ ウ ム の虚 血 後
よ っ て イ ノ シ トー ル リ ン脂 質 代 謝 が 亢 進 す る こ
投 与 の み で は再 灌 流3日
と を報 告 し,興 奮 性 ア ミノ酸 とイ ノ シ トー ル リ
られ な か っ た が,虚
ン 脂 質 代 謝 の 関 連 を 示 唆 した.す
の 神 経 学 的 予 後 が 有 意 に 改 善 した.イ
な わ ち興 奮 性
ア ミ ノ酸 受 容 体 が 刺 激 を受 け る と,G蛋
介 し て ホ ス フ ォ リパ ー ゼCが
白質 を
活 性 化 され,PIサ
イ ク ル の 亢 進 が 起 こ る と考 え ら れ て い る.
リチ ウ ム は精 神 科 領 域 で 躁 鬱 病 の 治 療 薬 と し
て 用 い られ て い る が,そ
近,細
の 作 用 機 序 と して,最
胞 内 情 報 伝 達 系,特
に イ ノ シ トー ル リ ン
後
目 以 降 有 意 な 改善 が み
血 前 投 与 を加 え る と虚 血 後
ノ シ トー
ル リ ン脂 質 は虚 血 後 極 め て 早 期 か ら 減 少 し始 め
る こ とが 報 告 さ れ て い るが18),今 回 の 結 果 よ り,
虚 血 中 に す で にPIサ
イ クル の 亢 進 が 起 こ っ て
お り,こ れ が 虚 血 性 脳 障 害 の 発 生 に 関 与 し て い
る こ と が 示 唆 され た.
ま た,組
織 学 的 検 討 で も,リ チ ウ ム の 虚 血 前
脂 質 作 動 系 へ の 抑 制 作 用 が 注 目 され て い る8).リ
投 与 に よ り虚 血 後 神 経 細 胞 障 害 に 対 す る保 護 効
チ ウ ム は 細 胞 外 液 濃 度 が0.1mEq/l以
果 が み ら れ た.佐 藤24)は 本 実 験 系 で,プ ル キ ン
上 で脳 内
の イ ノ シ トー ル ー リ ン酸 ホ ス フ ァ タ ー ゼ を阻 害
エ 細 胞 の シナ プ ス 前 終 末 に お い て ,虚
し,イ
す で に シ ナ プ ス 小 胞 の 数 が 減 少 して い る こ と を
ノ シ トー ル リ ン脂 質 代 謝 を抑 制 す る こ と
血18分 時
完全 全 脳虚 血 後の 脳 障害 に対 す る炭酸 リチ ウムの効 果
電 子 顕 微 鏡 で 観 察 し,虚
血 中の興 奮性 神 経伝達
物 質 の 過 剰 放 出 を 示 唆 し た が,今
回,さ
し た遅 発 性 の 神 経 細 胞 障 害 が 報 告 され て お り11),
らに プ
同 様 な機 序 が 関 与 して い る と考 え ら れ る.
ル キ ン エ 細 胞 に お け る 虚 血 中 の イ ノ シ トー ル リ
ン脂 質 代 謝 の 亢 進 が 推 察 され た.プ
胞 は,グ
ル キ ンエ 細
本 研 究 で,リ
チ ウ ム の 虚 血 前 投 与 に よ り,完
全 全 脳 虚 血 後 の神 経 細 胞 障 害 を軽 減 し得 たの は,
ル タ ミン 酸 レ セ プ タ ー25)と と もにIP3
虚 血 中 お よ び 再 灌 流 早 期 のPIサ
レ セ プ ター26)も 豊 富 に 存 在 す る こ とが 知 られ て
が 抑 制 され,IP3に
お り,虚 血 中 に 放 出 さ れ た 過 剰 の グ ル タ ミン 酸
とDGに
がPIサ
と推 察 さ れ る.
イ クル の 亢 進 を 引 き起 こ し,IP3に
213
よる
イ クル の 亢 進
よ る細 胞 内 カ ル シ ウ ム の 動 員
よ るPKCの
活 性化 が抑 制 され たため
細 胞 内 カ ル シ ウ ム の 動 員 が 起 こ っ て い る こ とが
推 察 さ れ た.ま
た,海
馬CA
お い て も,Chenら20)の
結
1お よ び 線 条 体 に
報 告 と 同 様 に,虚
血中
1.
お よ び 再 灌 流 早 期 に イ ノ シ トー ル リン 脂 質 代 謝
の 亢 進 が 起 こ っ て お り,こ
さ ら に近 年,遅
織 学 的 に 検 討 した.
2.
発性 神 経細 胞壊 死 の発生 機序
そ の 結 果,虚
も,海 馬CA
の段 階 で神 経細 胞 に不 可逆 的
な 修 飾 を起 こ し,細
経 細 胞,小
胞 の 回 復 過 程 が 障 害 され,
1錐 体 細 胞,線
条 体 小-中
型神
脳 プ ル キンエ細 胞 にお いて虚 血性
神 経 細 胞 障 害 の 改 善 傾 向 が 認 め ら れ た.
血後 遅 れ て神経 細 胞壊 死が 発生 す
る とい う説 が 定 着 しつ つ あ る.こ
炭 酸 リチ ウ ム の 虚 血 前 投 与 に よ り,虚 血 後
の 神 経 学 的 予 後 が 有 意 に 改 善 し,組 織 学 的 に
血 直後 の 一過 性 の細 胞 内カル シウム
濃 度 の 上 昇 が,こ
イ ヌ の18分 間 完 全 全 脳 虚 血 後 の 脳 障 害 に 及
ぼ す 炭 酸 リチ ウ ム の効 果 を神 経 学 的 お よ び 組
れが虚 血性 神 経細 胞
障 害 に 関 与 して い る こ とが 示 唆 さ れ た.
と して,虚
論
3.
の不 可逆 的 な
完 全 全 脳 虚 血 に お い て,虚 血 中 お よ び再 灌
流 早 期 の イ ノ シ トー ル リン 脂 質 作 動 系 の代 謝
修 飾 を受 け る 対 象 と し て 最 も注 目 さ れ て い る も
異 常 が,虚
の がPKCで
て 大 き く関 与 し て い る こ とが 示 唆 さ れ た.
あ る.PKCの
活 性 化 を抑 制 す る ガ
血 性脳 障害 の発 生機 序 の一つ と し
ング リオ シ ド27)や蛋 白 リン酸 化 酵 素 を直 接 阻 害28)
す る こ とに よ り虚 血 性 の 神 経 細 胞 壊 死 を 軽 減 し
得 る こ とが 報 告 さ れ て い る.本
稿 を終 え るに 当 た り,ご 指 導,ご 校 閲 を賜 っ た岡
モデ ルに おけ る
山大 学 医学 部 麻 酔 ・蘇生 学 教 室平 川方 久教 授,小 坂
神 経 細 胞 の 経 時 的 組 織 学 的 変 化 に 関 す る研 究 で
二 度 見 名誉 教 授,ま た,実 験 に ご協 力い た だ い た橋
も,海
本 秀 則 講 師 な らび に教 室 員 各位 に心 か ら感 謝 い た し
馬CA
1領 域 の 錐 体 細 胞 お よ び 小 脳 プ ル
キ ン エ 細 胞 に お い て,Pulsinelliら
ます.
の 結 果 と類 似
文
1) Hossmann
KA and Sato K: Recovery
献
of neuronal
function
after prolonged
cerebral
ischemia.
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transient
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fore brain ischemia.
4) Petito CK,
Feldmann
E,
following cardiopulmonary
5) Benveniste
arrest.
and aspartate
microdialysis.
damage
Pulsinelli WA and Plum F: Delayed hippocampal
Neurology
in a model of
damage
in humans
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in isolated
214
7)
八
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216
八
Effects
of
lithium
井
carbonate
田
on
global
brain
brain
injury
ischemia
in
Yutaka
Department
of
36 dogs
in
ischemia
12),
of
700,
L-‡U
in
to
findings
ischemia
brain
cells
might
ischemia.
play
an
important
at
seven
might
to
seven.
improve
the
and
both
in brain
injury
insult
L-‡U
L-‡U
induced
and
during
by
dogs
and
were
In
each
morphological
striatal
group,
(n=
Li (10mg/kg)
(pre-treatment).
turnover
turnover
brain
group
group,
neurons
neurologic
morphological
in
global
L-‡T
ischemia,
neurologic
phosphoinositide
phosphoinositide
the
evaluated
complete
administered
in
after
was
(n=12),
medium-sized
In
group,
of
were
ischemic
days
injury
group
dogs
small
day
18 minutes
Only
the
control
brain
control
groups,
before
for
stimulated
role
to
groups;
cells,
in the
stimulated
ischemic
subjected
L-‡U
day
evaluated
Li
Hirakawa)
(post-treatment).
one
that
of the
the
and
evaluated
with
inhibition
that
L-‡T
pyramidal
were
than
Pre-treatment
suggest
was
M.
three
School,
Japan
preventing
were
ischemia
CA1
better
powerful
the
of
outcome
Purkinje
significantly
dogs
orally
hippocampal
recognized.
due
In
end
in
following
Li (100mg/kg)
neurologic
cerebellar
was
the
(Li)
The
the
(n=12).
after
administered
changes
into
group
immediately
group,
state.
divided
Prof.
carbonate
a vegetative
and
and
lithium
complete
Resuscitology,
Medical
Okayama
efficacy
by
dogs
and
University
(Director:
induced
YAIDA
Anesthesiology
Okayama
The
豊
and
outcome
improvement
morphologic
during
and
18 minutes
ischemia.
immediately
of
complete
was
outcomes
These
after
global
Fly UP