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ここは北海道の山間部の ある小学校。 町の面積の %以上が森林で、 基幹産業も林業という、 文字通り森に守られながら 発展してきた地域です。 90 もちろん、小学校に 通う生徒の父兄にも 林業関係者が たくさんいます。 4年1組の3時間目は 図画工作の授業。 今日はみんなで 木版画づくりです。 ﹁オレの父ちゃんは悪者じゃない!﹂ 拓也が急に大声で叫びました。 ﹁おいおい2人とも どうしたんだい? ﹂ 言い争いを続ける2人に 先生が話しかけました。 ﹁とりあえず、 2人の言い分を聞こうじゃないか﹂ ﹁だってさ先生、版画って木を使うよね? 環境問題のことを考えたら 木は使わないほうがいいんじゃないですか? ﹂ ﹁今、地球のあちこちで木が伐られて 大変だってテレビで言ってました。 版画だって別に木を使わなくたって プラスチックや銅板を使えばいい。 とにかく木は使うべきじゃない、 って僕は思うんです ﹂ 純は熱っぽくそう語りました。 ﹁ふーんなるほどな。うん、純の言い分はわかった。 で、拓也はどう思うんだい? ﹂ ﹁純はそう言うけど、 ウチの父ちゃんは 毎日山に入って木を伐ったり、 伐ったあとに植樹したりする仕事をしてる。 伐った木は家を建てる 材料なんかに使われてるし、 ちゃんと役にたっている。 木を伐る人は次のことも 考えてるんだから、 使うことは 悪いことなんかじゃない!﹂ 拓也はさっき ﹃家の材料にも使われてる﹄ って言ったけど、 その他にも木は いろんなところでみんなの 役に立っているはずだ。 そんな大切な木や森を 守っていくというのは どういうことなのか、 みんなはどう思うかな ?﹂ 環境を守っていくことは もちろん大事なことだよね。 でも、 だからといって 木を使わないで、 森をそのままの状態で ほうっておくのは 良いことなのかな ? ﹁じゃあ、 せっかくだから みんなで考えてみよう。 ﹁私は紙も鉛筆も ムダにしないように 気を付けているわ。 だってどちらも木から できているものだから ﹂ 伐るだけじゃなく、 ちゃんと次の木も育てられて いるんだってよくわかった﹂ ﹁僕は父ちゃんと山登りに行ったとき、 ものすごい急斜面に マツの木が植えられていて 驚いたよ。 ﹁私は割り箸を使ったほうが いいのかどうか 悩んじゃうことがあるわ。 父さんは使ったほうが いいって言うけど、 母さんは使うなって言うの ﹂ ﹁ふーん。 みんな木や森について、 いろいろなことを考えたり 感じているんだね。 それじゃあ今度の 総合学習は⋮﹂ ﹁ここに、 みんながいつも 給食で使っている 木の皿があります。 この皿にまつわることを、 みんなで調べて みることにしよう ﹂ 次の週、拓也と純のクラスは、 いくつかのグループに分かれ、 給食の木の皿に関係している、 さまざまな現場を見に行きました。 そして研究を発表する日になりました。 木を植えるところに行ったグループは、 ﹁森にはとてもたくさんの働きがあり、 木がよく成長している森は、 いろいろな役割を はたしているそうです。 地球温暖化の原因となる 二酸化炭素を吸収してたくわえる働き きちんと植えて 育てていく作業が 大切だと いうことが わかりました﹂ 山くずれが起きないように 地面をおさえる働き 木を伐る現場を訪れた拓也たちのグループは、 ﹁良い木を育てるためにはダイコンの間引きのように か ん ばつ ﹃間伐﹄ が必要だということがわかりました。 そうしないと太陽の光が木々の間に入らず、 木の成長が悪くなってしまうからです﹂ と発表しました。 水をたくわえ、 きれいにする働き 木を加工する作業場を見たグループは、 ﹁間伐で伐られた木から、 いろいろなものが作られていました。 そして、間伐材を使うことも 大事だということを知りました。 私たちが間伐の木で できたモノを使っていけば、 林業の人たちの ﹃採算﹄ がとれるようになって 作業にかかる費用をまかなうことが できるようになるそうです ﹂ 森を調べに行った純たちのグループは、 ﹁ぼくたちは、 木のやさしさを感じてみようと 山に登ってみました。 木々におおわれた森は、 昼間も涼しく、 空気もおいしく感じました。 フィトンチッドって成分の せいかもしれません。 そして、森の中には、 動物や昆虫など、 たくさんの生き物がいました。 人間にも、生き物にとっても、 木や森は大切なものであることを 強く感じました﹂ ※フィトンチッドとは⋮植物が発生する成分で、血圧を低くしてくれたり、 ストレスをやわらげる効果もある、と言われています。 な弾力を持っているんだ。 だから衝撃の 吸収力に優れていて、 床の材料などに使 用すると、足や腰への負担も軽くなるん だよ。だから転んだときにケガをする危 険性も低くなるというわけだね。 木材は、 実は熱を伝えにくいという性質 を持っているんだ。 だから木造の建物は 真夏でも室内に暑さがこもらず、 過ごし やすい温度に保ってくれる。 逆に気温の 下がる冬は、 外の寒さを伝えにくいから、 暖房の熱を外に逃がさず、室内もポカ ポカなんだよ。 ﹁みんな、 よく調べたね。 ところで、 この学校の校舎を見てみると、 いろんなところに木が使われているよね。 なぜ学校にたくさん木が使われているのか 先生もちょっと調べてみました ﹂ 木はコンクリートや大理石と違って適度 木の家はいいにおいがするよね。 木から出て くる成分にはいいにおいがするものもある けれど、 ダニを殺すものもあるんだ。 ダニは アレルギーやぜんそくの原因になるので、 カ ーペットを木の床に変えれば、 それらの症状 も出にくくなるんだよ。 さっきのみんなの発表にもあったけど、木 は光合成で空気中の二酸化炭素を、 炭素に 変えて木の中にたくわえているんだ。 だから、 そんな木を使った建物や家具は森が町や 家に引っ越してきたようなもので、 二酸化炭 素の貯蔵庫とも言えるんだよ。 森 林 の は たらき 間伐 高齢な森林 植林 育林 若い森林 ﹁森や木の働きを考えていくと、 大切に守っていかなきゃならないと思うよね。 でも、利用することが保護につながる、 ということは意外だったんじゃないかな? 資源としての森や木は人が手入れしていくことで ちゃんと働き続けていけるんだ﹂ 私たちの暮らしをささえる ﹁間伐が大切だということも わかったと思うけど、 この間伐材を利用した製品も 身のまわりにたくさんある。 これらをもっと利用すれば、 それだけ森も大事にされていくんだね ﹂ ※間伐によって伐り出される木の多くは針葉樹です。北海道では、 トドマツ、 カラマツ、エゾマツなどの間伐材が代表的です。 ﹁そしていちばん大切なこと。 それは、 木と森は ﹃伐ったら植える﹄ ﹃植えたら育てる﹄ というルールさえ守れば、 ※ 未来もずっと利用していける 資源だっていうことなんだ﹂ ※日本では法律により、森林の伐採後 再び森林に戻すことが義務づけられています。 ﹁さあ、仲直りの握手だ﹂ と先生が言いました。 ﹁いきなりどなったりして ごめんな ﹂ ﹁ぼくも、悪かったよ。 これからも一緒に 木や森のことを 考えてみようぜ﹂ クラス中に、拍手がわきおこりました。 写真提供/置戸町 森林工芸館 上/道北のサロベツ原野には、野生の動植物が生息する 大湿原が広がっています。国立公園内に建てられたサロ ベツ湿原センター(豊富町) では、建物の内側にも道産材 がふんだんに使われ、 自然との調和がはかられています。 下/道産の木材が床(フローリング) と壁の一部(腰壁)に 使われている部屋の一例。暖房には、木材として利用でき ない木のくずや、建築廃材を細かくくだいて固めた燃料 「ペレット」 を燃やす、 ペレットストーブが使われています。 写真提供/株式会社ヨシダ 北海道の木は、 木材に生まれ変わってからも、 大切に使われています。 北海道の東部に位置する置戸町は 林業と農業の町です。 この置戸町の 小学校と中学校では、給食の食器 に、地元で作られている木の食器 「オケクラフト」 を使っています。 厳冬期には-30℃を下回る 「日本一 しばれるまち」陸別町。 この陸別町 小学校が地元の木をたくさん使っ て建替えられました。 デザイン性に 優れ、親しみやすく暖かい校舎は、 数々の賞を受賞しています。 建設主/陸別町 設 計/(株)北海道日建設計 構 造/鉄筋コンクリート造、一部木造 竣 工/2011年3月 受 賞/北海道木材利用施設コンクール北海道知事賞、 北海道建築奨励賞、JIA環境建築賞優秀賞 他 撮 影/酒井広司