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マレーシアにおける日系/欧米系電機・ 電子メーカーの投資環境

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マレーシアにおける日系/欧米系電機・ 電子メーカーの投資環境
マレーシアにおける日系/欧米系電機・
電子メーカーの投資環境評価の調査・分析
―「欧米系企業のアジア進出状況とわが国企業の対応
(フェーズÁ)
」調査*1―
開発金融研究所
アビーム コンサルティング株式会社
春日
岡
山口
山田
加藤
剛
俊子
揚平
光重
靖之
要 旨
各国の投資環境というとき、その解釈は様々に分かれる。これまでにも、投資環境を構成する諸要
素についての調査や、企業の投資決定要因に関する研究は多くなされてきた。しかし、事業価値評価
やバリューチェーンといった企業活動の視点から各国の投資環境を整理したレポートはない。そこで
本稿では、この二つの視点から投資環境を整理し、投資環境評価のための新たな視座を提示する。そ
の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。
比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と
して取り上げ、調査対象を電機・電子産業に絞った。現地調査の結果、現地日系企業の投資環境に対
する視野が限定されていること、その原因が日系企業の投資決定プロセスや現地法人の役割の違いに
あることが改めて確認され、さらに、マレーシアの投資環境そのものが日系企業の初期の期待から乖
離していることも明確になった。
本稿ではこうした乖離への解消策として、現地拠点でのバリューチェーン拡大を提言している。こ
の提言は、近年実際にバリューチェーン拡大がマレーシアにおいて発展しつつあることを念頭におい
ている。主な内容は以下の通り。
1.進出国・進出予定国の投資環境を評価する上で、評価のために集められた様々な情報(投資環
境要素)が、売上に影響を与える要因なのか、コスト要因なのか、リスク要因なのかを判断して
再整理することが効果的である。この整理に従って現地調査を行ったところ、現地日系企業は欧
米系企業に比べコスト要因に対して意識が高く、リスク要因に対する意識が低いという結果で
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 本調査は、国際協力銀行がアビーム コンサルティング株式会社に委託した「欧米系企業のアジア進出状況とわが国企業の対
応(フェーズÁ)
」調査を要約したものである。本調査プロジェクトは、20
0
3年9月1
0日から1
1月2
8日までの計1
3週間で実施
し、調査対象としてマレーシアの電機・電子業界を取り上げた。プロジェクト期間中、約2週間にわたり、同国ペナン及びク
アラルンプール近郊の日系企業1
7社、欧米系企業9社のマレーシア現地法人に対するマネージメント・インタビュー実施する
とともに、ペナンの日系企業1
3社、欧米系企業10社へのアンケート調査を行った。日系企業の調査先は、主に総合電気、AV
機器、半導体メーカー等、多岐にわたっている。一方、欧米系企業については、コンピュータ、半導体、デバイス関連企業が
中心となった。
本調査および調査のフィードバックインタビューを通じて、多くの企業の方々や関係者の方々のご協力を頂いた。匿名性の
観点から個々のお名前を記すことはできないが、この場を借りて深く御礼申し上げたい。
なお、
「欧米企業のアジア進出状況とわが国企業の対応」調査のフェーズ¿、フェーズÀについては、それぞれ2
00
0年、
20
02年に調査を実施した。このうち後者については、
「欧米系自動車部品メーカーのタイ進出状況とわが国自動車部品メー
カーの対応」
(
『開発金融研究所報』第1
6号所収、200
3年6月発行)として、モノづくりと経営との関係を日系・欧米系企業の
比較を通じて紹介している。
2004年2月
第18号
77
あった。今後は、投資環境評価においてリスク要因となる要素にも着目し、より広い視点から各
国の評価を行うべきである。
2.進出国・進出予定国の投資環境を評価する上で、R&D・製造・販売・アフターサービスと
いった拠点機能と、投資環境の諸要因との関係を整理することも効果的である。これまで製造部
門中心に投資計画を策定してきた日系企業は、進出先国決定において製造コストを重点的に評価
する傾向があった。調査結果によると、現地日系企業は経営的視点から各国の投資環境を評価す
るという意識が低く、したがって投資先国に対する評価の視野が限られていることがわかった。
今後は、拠点再編によりR&D機能や物流機能が各拠点に備わることに伴い、拠点の多機能化
(バリューチェーン拡大)を支える要因にも着目し、各国の投資環境を再評価する視点が必要に
なる。
3.各国の投資環境は、時間を経るごとに変化する。しかし、変化する投資環境を過去と同じ基準
で評価すると、その国に対する評価を間違えるばかりでなく、現地拠点の事業効率を落とすこと
につながる。事業を続けるには、変化する投資環境をより正確に評価し、評価項目および事業の
重点を変える必要がある。例えば、労賃などのコスト上昇が見込まれる地域については、コスト
重視の評価方法から、別の評価軸による投資環境の再評価が必要となる。その際、上述の財務的
視点、バリューチェーン的視点の双方に立ち戻ることが効果的である。また、欧米系企業の例を
参考に、管理部門や外部専門家を交えて投資環境を検討し、場合によっては投資環境そのものを
改善するよう現地政府等に働きかける活動が必要となる。同時に、現地拠点もまた、製造コスト
追求にとどまらない、より幅広い視点を持った自律的な経営者意識が求められることになろう。
(キー・ワード)投資環境、事業価値評価、日系企業・欧米系企業、バリューチェーン
Abstract
The term“investment climate”has various meanings. A number of surveys on factors pertaining to investment climate and research projects on factors behind investment decisions(site
selection)have taken place. No report, however, has examined investment climates from a business point of view, including the concepts of“valuation”and“value chain.”
In this report, we examine investment climates through valuation and value chain frameworks, thus offering new perspectives in the evaluation of investment climates. Through our
analysis, we determine the characteristics of Japanese companies in their evaluations of investment climates and compare them to Western companies.
In comparing Japanese and Western companies, we set out to make initial conditions as similar as possible. We took Malaysia as a sample for a common investment climate and designated
the electrical equipment and electronics industry as a sample industry to survey. Our study confirmed that Japanese companies in Malaysia evaluate investment climates more narrowly than
Western companies, due to differences in the process of investment decision making and differences in the missions of these companies in Malaysia. Moreover, the study identified that the Malaysian investment climate itself is moving away from the view of Japanese companies in their
evaluation or perception.
Taking into consideration the recent expansion of the value chain by some Japanese companies in Malaysia, we suggest that these companies expand their value chains to cope with this
movement in the investment climate.
Keywords:Value chain, Valuation, Investment climate, Japanese company, Western company
78
開発金融研究所報
系企業が日系企業よりも幅広い視点から投資環境
はじめに
を捉えており、その背景にはより幅広いバリュー
企業の直接投資行動に関する研究や、投資環境
チェーンの構築があることがわかった。
に関する調査は既に多くなされており、海外事業
第1章では、まずマレーシアという共通の投資
計画の作成や現地経営の参考とされることも多
対象国に対する日系企業と欧米系企業のスタンス
い 。ただし、これらの調査・研究において投資
の違いを明らかにする。その上で第2章では、投
環境として考えられている要素はそれぞれ異な
資環境に対する視野の広さの違いについて、日
る。例えば、IDA(2
0
0
2)における調査項目は
系・欧米系両者の、投資決定プロセスの違い、評
「Fiscal Policy」「Financial Stability」「Gender」
価指標*5の違い、に着目して分析する。その後、
のように基礎的な項目に重点がおかれているし、
第3章において、日系企業が重視する投資環境と
貿易・投資円滑化ビジネス協議会(2
0
0
2)が指
現実のマレーシアの投資環境とがミスマッチを起
摘する投資環境とは、
「外資参入規制」
「技術移転
こしている状況を明らかにする。最後に第4章に
要求」
「土地所有制限」のようにかなり実務的な
おいて、ミスマッチを克服する 上 で バ リ ュ ー
内容を指している。
チェーンの拡大が効果的であることを示し、その
*2
このような違いは、投資環境を途上国の経済開
ため方法について具体的に提言する。
発の視点から捉えているのか、進出企業が日々直
面する実務的課題として捉えているのかの違いに
よって生じている。いずれにせよ、各要素が企業
第1章
活動に与える影響を踏まえ、例えば「通関手続き
日系/欧米系のマレーシア
における活動状況
にかかる日数は、キャッシュフロー、ひいては資
本コストに影響を与えるのではないか」といった
1.日系企業と欧米系企業の整理
視点をもって投資環境を評価したレポートは見当
たらない。また、製造拠点・販売拠点・研究開発
まず、マレーシアに進出している日系企業・欧
拠点といった拠点ごとの性格を踏まえ、
「同じ
米系企業について、)進出の経緯、*親企業の分
国・地域であっても拠点の役割に応じて投資環境
類、+現地法人の分類、の三点から整理する。
は異なる」というような観点から投資環境を分類
)進出の経緯
日系・欧米系企業とも当初のマレーシア進出の
しているものも多いとはいえない。
そこで本稿では、企業(事業)価値評価の考え
きっかけは、労働集約的製品における低コスト労
方を援用して、投資環境を構成する要素を売上、
働力の確保であった。しかし、その後の両者のア
製造コスト、リスクの三つのカテゴリに分類する
プローチは異なる。マレーシアの潜在能力を評価
フレームワークに基づくことにした 。その上
して経営の現地化と機能の拡大を進める欧米系企
で、マレーシアで実施したアンケート調査および
業に対し、多くの日系企業は低コストの労働力供
インタビュー で得られたデータをもとに、日系
給国という位置付けを変えていないと考えられる
企業と欧米系企業の投資環境に対する見方がどの
(図表1)
。
*3
*4
ように違うのかを比較検討した。その結果、欧米
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 投資環境に関する代表的な資料については、http://www.fias.net/investment_climate.htmlを参照。さらに、企業の直接投資
の決定に関する研究として、Lee,H.L. and Houde,M.F.
(20
00)
、Caves,R.E.
(1
99
6)
、Dunning,J.
(1
99
7)
、Aggarwal,V.K.
(1
9
8
0)
、
Lizondo, S.
(1
9
9
0)
、Petri, P.A. and Plummer, M.G.
(19
98)などが代表的であるので参照されたい。和文では、貿易・投資円滑
化ビジネス協議会(2
0
0
2)
、ジェトロ海外情報ファイル(http://www.jetro.go.jp/re/j/jetro―file/index.html)
、などが情報量
および実務的観点から代表的である。この他にも、投資環境に関するサーベイとして、日本貿易振興会(20
02b)
、丸上、他
(20
0
4)等が包括的かつ有益であろう。これら既存研究をサーベイしたものとして、JBIC Institute(2
00
2)
(邦訳:国際協力
銀行開発金融研究所(2
0
0
2)
)が参考になる。
*3 本フレームワークを作成するにあたって、Tom Copeland, et al.
(19
94)を参考にした。
*4 20
0
3年1
0月実施。調査対象企業:日系企業1
3社、欧米系企業10社。インタビュー対象企業:日系企業17社、欧米系企業9社。
*5 所謂KPI(Key Performance Indicator)のこと。
2004年2月
第18号
79
殆どが電子製品に特化しており、Intel、TI、In-
*親企業の分類
マレーシアに拠点を有する企業の親会社の位置
fineon、AMDに代表される半導体メーカーと、
付けを整理すると、日系大手電機メーカーは、半
HP、Dellに 代 表 さ れ るPCメ ー カ ー、Jabil、
導体、電子部品、PC、AV機器、家電製品など、
Solectronに代表されるEMS企業が大半を占めて
非常に広範囲の製品を対象に開発、生産、販売を
いる(図表2)
。
行っている。一方、欧米系の大手電機メーカーは
図表1 進出の経緯
日系
欧米系
日系企業の進出動向
50年代は円安と低賃金を武器に日本
国内から民生用機器の輸出を行う
60年代から現地政府の輸入代替政策
への対応として日系企業が進出開始
マレーシア政府の外国投資奨励政策、
日本国内の労働力不足、変動相場制
移行に伴う円高の流れにより、直接
投資が拡大
三洋電機(1964)
松下電器産業(1965)
拡張投資は継続的に行われるが、新
規進出はタイ、フィリピン等他の低
賃金国へシフト
一部企業の撤退も見られる。
一次産品生産国
として発展
1970年代
自由貿易
地域の創設
1990年代
1957年まで英国領であった為、英
語の浸透や英国準拠の法制度の整備
が進んだ
政府による外国投資誘致政策と、手
先の器用な労働力を低賃金で確保す
る為大手半導体メーカーを中心に一
斉に進出を開始
(1971)ナショナル・セミコン
(1972)インテル
(1972)テキサスインスツルメンツ
影 (1972)モトローラ
響 (1972)AMD
(1973)インフィエノン
(1973)ウエスタン・デジタル
(1975)ヒューレット・パッカード
日立製作所(1980)
1980年代
ソニー(1989)
キャノン(1989) プラザ合意による
三菱電機(1989)
円高進行
影
ニチコン(1990)
響
相模無線(1991)
プラザ合意による円高の進展でコス
ト引き下げ圧力が強まり、低賃金を
目的に進出企業が増加する
中国の台頭や他のアジア諸国の発展
により生産基地としてのマレーシア
の魅力は相対的に低下
∼1960年代
松下電子部品(1972)
東芝(1973)
オムロン(1973)
日本電気(1974)
シャープ(1976)
欧米系企業の進出動向
70年代以前はゴム石油
ガスといった天然資源
関連の業界が進出して
いた
労働集約的な生産体制から、資本集
約的生産体制へのシフトを行った
(1988)シーゲート
90年代後半より、中国に対する投資
を積極的に行う一方、マレーシアへ
の投資も継続。開発・設計、販売機
能等を取り込むことにより戦略ポジ
ションを変化
(1993)KOMAG
安川電機(1995)
(1996)デル・コンピューター
エルナー(1995)
富士電機(1997) アジア通貨危機発生 (1997)ゲートウェイ2000
電機・電子メーカー
の新規進出は一巡し
た模様
AFTA発効
中国WTO加盟
進出企業数:約340社
(製造業全体:JETRO資料)
賃金の上昇により、コスト優位性は
低下するが、事業分野の拡大によ
リ、拠点の価値を維持
電子メーカーの新規進
出は一巡した模様
2000年代
進出企業数:約30社
(電子業界:AMCHAM会員ベース)
→ 進出以来、低コスト生産拠点の
位置付けは変わらず
→ マレーシアの持つ潜在能力を
積極的に活用
出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成
図表2 マレーシア現地法人の親企業
マレーシア進出している日系/欧米系電機・電子メーカーの製品カバレッジ
総合型
●松下電器
●日立製作所
●三菱電機
家電まで
→日系は多くの製品を製造し
ている総合電機メーカーが
多い
●村田製作所
●ローム
●TDK
●アルプス電気
●太陽誘電
●信越
●ミツミ
■Fairchild
●ルネサス
■Chippac
■National Semicon
■Vishay
■Infineon
■TI
■ST Micro
AV機器まで
欧米系
情報通信まで
■Intel
■AMD
→欧米系は半導体製品
に特化した電子メー
カーが多い
●富士通
●三洋電機
●東芝
●シャープ
■Philips
■Thomson
日系
●キャノン
■Motorola
●ONKYO
●TEAC
●NEC
●ソニー
●パイオニア
●ヤマハ
■Jabil
■Solectron
■SCI
■Western Digital
■Seagate
■DEll
■HP
■IBM
■Alcatel
特化型
キーデバイス(半導体)
出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成
80
開発金融研究所報
部品
完成品
企業の中にあることが報告されており、この傾向
+現地拠点
最後に、マレーシア現地生産拠点の位置付けに
は平成1
5年度調査においても確認されている*7。
ついて、製品ライフサイクルとの関連で整理する
他方、欧米系企業はその同じ地域・国に対し、近
と、マレーシアに進出している日系電機・電子
年積極的な投資姿勢・事業展開姿勢を示している
メーカーは、相対的にライフサイクルが長く事業
模様である。
資金をそれほど必要としないAV機器・家電製品
マレーシアにおける日系企業の数についてみる
に目立つ。一方、欧米系は在庫圧縮とキャッシュ
と、近年、横這いないし低下傾向にある。マレー
が必要な半導体・PCメーカーに目立つことがわ
シアの日系企業数は、1
9
9
1年から1
9
9
8年までは
。
かる (図表3)
年間平均1
0%増加していたが、1
9
9
8年の1,
4
3
3社
*6
をピークに、その後5年間で約6.
5%減少してい
2.日系企業の企業数の減少と業績満足
度の低下
る(図表4)
。
ま た、国 際 協 力 銀 行 の 調 査 結 果 に よ る と、
20
00年度以降、日系企業のマレーシア事業の業
国際協力銀行開発金融研究所が平成1
4年度に実
績満足度は年々低下している。2
0
0
0年の収益性
施した「わが国製造業企業の海外事業展開調査」
満足度が3.
3
7、売上高満足度が3.
1
1であったの
によると、ASEAN4をはじめとするアジア地域
に対して、20
03年には、そ れ ぞ れ2.
8
7、2.
8
0ま
で、
「コスト削減が困難」等を理由に今後3年程
で落ち込み、3年間で満足度が大きく低下してい
度の計画において事業の拡大を見送る動きが日系
る こ と が わ か る(図 表5)
。同 調 査 に よ る と、
図表3 マレーシア現地拠点の整理
大
事
業
資
金
︵
キ
ャ
ッ
シ
ュ
︶
の
必
要
性
■欧米系(韓国系・台湾系含む)
●日系
AV機器
Assembly & Testing
■AMD
●NECセミコンダクターズ
Wafer Fablication & Processing ■Agilent
■MEMC Electronics Material ■Intel
■S.E.H
■Texas Instruments
■Wackers NSCE
●東芝
■SCG Industries
■National Semicon
■MIMOS
●ルネサス
■Silterra
●富士通
■1st Silicon
■Motorola
■Fairchild
■Infineon Technologies
Passive Components
■STMicroelectronics
●TDK
■ASE Electronics
●太陽誘電
■Philips Semicon
●松下電子部品
●松下電子工業
●村田製作所
●Nichikon
■Thomson
Video
AV
●シャープ
●Onkyo
●ソニーテクノロジ
●ケンウッド
●日立
●三洋電機
●JVC Video
●シャープRoxy
●松下 AV
●ソニーエレクトリニクス
●三菱電機
●パイオニア
Color TV
●JVC Electronics
●Sharp-Roxy Electronic
●松下AV
●ソニテクノロジー
●ヤマハ
●松下TV
Video camera & Video CD
●シャープ
DVD
●JVC Video
●Onkyo
●シャープ
●シャープ
●ソニー
●ソニーテクノロジ
●松下 AV
●パイオニア
Monitor
Display Divices ●ヤマハ
Resister
Motherboard
■Samusung Electron Debices
Printer
■Samusung Electron Devices ●アルプス電気
■Jabil
Telephone
●三菱電機
■Solectron
●松下電器産業
●松下電子部品
■Intel
●九州松下
■BenQ Technologies
■Instruments
●ローム
■Solectron
AirCon
■Sapura Telecommunications
■Jean
Technology
■Flextronics
●日立 AirCon ■Alif Telecommunications
■Motto
■Sanmina
●松下電器産業 ●Pernec
Disk Drives
■Great TV & Computer
●TEAC
●Iwatsu
Computer Peripherals
Radio
PC
●ミツミ
●Inventec
■Jabil
■Motorola
●NEC
■Westrn Digital
■Solectron
■DMC Telecom ■Bellcorp Technology
■Dell
●富士通
■Flextronics
■Ranger Communications
■Sanmina
半導体
日系
中
欧米系
PC
家電
少
12ケ月
6ケ月
3ケ月
製品ライフサイクル
出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*6 そのため、欧米系企業は、マレーシアでバリューチェーンを広げ、効率的なサプライチェーンの確立とキャッシュフローの改
善にコミットする傾向が強い。この点については、後述する。
*7 丸上貴司、他(2
00
3)および(2
0
0
4)参照。
2004年2月
第18号
81
ASEAN諸国の中においてマレーシア事業を拡大
すると回答した企業の割合は減少し、一方で、撤
退・縮小すると回答した企業の数は増加している
3.マレーシアで積極的な展開を図る欧
米系企業
(図表6)*8。加えて、日本貿易振興会経済情報
部(2
0
0
1)に よ る と、日 系 企 業 の2
1.
7%が、中
日系企業がマレーシアにおける事業展開に消極
国市場の拡大に合わせて「日本を含めたアジアの
的な姿勢を示す中、欧米系企業は、マレーシアに
各生産拠点を中国に移転する計画がある」と回答
コミットし積極的な事業展開をしている。 Intel、
している(図表7)
。このように、日系企業のマ
Agilent、Dellなどの代表的な欧米系企業のエグ
レーシアにおける今後の事業展開は、消極的(少
ゼクティブのコメントからは、マレーシア拠点を
なくとも積極的ではない)
姿勢が目立つといえる。
図表6 日系企業のマレーシアにおける今後の
事業展開の方向性
図表4 マレーシアに進出している日系企業数
日系
→1998年をピークに、マレーシアに
おける日系企業の数は減少傾向
(企業数)
1,500
(数字はアンケート回答企業数に対して拡大強化/
現状維持/撤退縮小と回答した企業の割合)
1,433社
1,300
1998年から5年間で、
6.5%減少
1,100
→マレーシア事業の拡大・強化姿勢が弱まり
様子見または縮小傾向が強まっている
回答企業
の割合
(%)
拡大・強化する 現状程度を維持する 撤退・縮小する
63.3% 66.5%
31.1%
900
1998年までは、
平均10%/年増加
700
26.2%
→拡大・強化姿勢
が弱まっている
0
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
(年)
2002 2003
→様子見の姿勢
が強い
→撤退・縮小傾向が
強まってきている
7.3%
5.6%
2002 2003
2002 2003
(年)
出所)ジェトロクアラルンプール提供資料よりアビーム コンサル
ティング作成
出所)国際協力銀行 開発金融研究所「わが国製造業企業の海外事
業展開に関する調査報告」2
0
0
0年∼2
0
0
3年よりアビーム コ
ンサルティング作成
図表5 日系企業のマレーシア事業の業績満足
図表7 日系企業の中国移転の状況
度
→中国へ生産拠点をシフトする傾向
(2001年度から2004年において、中国へ移
管する計画があると回答した企業は650社
中141社21.7%である。)
満足 5.00
3.40
→日系企業のマレーシア事業に
対する満足度は、年々下降
3.20
2.80
650社
2000年
収
益
性
満 どちら 3.00
足 でもない
度
(3.11 3.37)
116社
21.7%
141社
3社
2001年
2003年
1社
(3.06 2.88)
フィリピン
タイ
(2.87 2.80) (2.89 2.77)
3.00
3.20
どちらでもない
3社
5社
マレーシア
2.80
日本
2社
中国移転をする
計画がある
2002年
1.00
不満足
韓国
3.40 5.00
満足
売上高満足度
出所)国際協力銀行 開発金融研究所「わが国製造業企業の海外事
業展開に関する調査報告」2
0
0
0年∼2
0
0
3年
シンガポール
3社
インドネシア
出所)日本貿易振興会(2
0
0
1)
「2
1世紀を迎えた日本企業の海外直
接投資戦略の現状と見通し2
0
0
1年」よりアビーム コンサル
ティング編集
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*8 2
0
03年度調査において、
「縮小・撤退する」と回答した企業の割合が最も多かったのが、マレーシア(7.
3%)であった。
82
開発金融研究所報
技術開発やマーケティング機能、サプライチェー
日系企業
) 日系企業の数は、98年をピークに、その後
ンの中核拠点と位置付け、コミットしている状況
は減少傾向
を読みとれる(図表8)
。
* 日系企業のマレーシア事業の撤退・縮小傾
4.マレーシアに対する両者の考え方の
相違
向は強まっている
+ マレーシアで事業を展開する企業の売上高
および収益性満足度は近年低下傾向
以上から、マレーシアにおける日系と欧米系企
, 中国の台頭や賃金の上昇等、環境の変化を
業の事業展開動向の違いは、以下の通り整理され
見据えて、マレーシア拠点の位置付けの再
る。
検討を行っている段階
図表8 欧米系企業は、マレーシアにコミットし積極的な事業展開
■ Intel Corporation
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
の
コ
メ
ン
ト
ア
ジ
ア
パ
シ
フ
ィ
ッ
ク
拠
点
の
概
要
「マレーシアは、中国、インド、ロシアとい
った他の低コスト国との競争において、今
後も優位性を維持していくと思う」「ペ
ナンは製造拠点だけでなく、技術開発拠点
としてもインテルにとって重要性を増し
ていく」
−インテルCEO, Craig Barrett(2003/8)−
マレーシア
フィリピン
7,790人
5,984人
■ Dell Computer
「アジレント・マレーシアが企業として
世界で戦っていく為には、生産機能だけで
なく研究開発とマーケティング機能を持
つ必要があると思う。アジレントは優れた
事業環境を持つマレーシアに今後もコミ
ットしていく。」
−アジレントCOO, Bill Sullivan(2002/8)−
「マレーシアはアジア・パシフィック・
カスタマー・センターとしてアジア地域
において製造・販売を含めたサプライ・
チェーンの中核を担っている。」 マレーシア
日本
5,000人
●新たに4億ドルを投資してR&Dセンター
を建設予定
マレーシア
シンガポール
中国
1,227人
●マレーシアの拠点はアジアで最大規模
−デルコンピュータ CEO, Michael Dell−
日本
1,900人
シンガポール
シンガポール
中国
■ Agilent Technologies
1,600人
700人
130人
530人
●ペナン島の拠点はR&D拠点として重要
な役割を担っている
●1996年に製造からコールセンターまで
カバーするAPCCをペナンに設立
●アジアにあった複数の製造拠点をマレ
ーシアに集約
●2002年にはAPCCの生産能力を倍増す
るため追加投資
出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成
図表9 インタビュー結果
日系
マレーシアへの進出は、台湾から始まった生産拠点のアジア進出
が、中国やベトナムに展開していった過程での“通過点”。今後
もマレーシアでは製造拠点として事業を継続していくが、将来的
にR&D機能や販売機能の取り込みによるバリューチェーンの拡大
を行う予定は無い。
(大手電子メーカー)
欧米系
マレーシアでも引き続き事業を行っていくが、東アジアへの新規
投資は基本的に中国に対して行っていくという経営トップの基本
方針が出ている。
(大手総合電機メーカー)
欧米的なキャッシュフロー経営の観点からみるとシンガポールや
マレーシアの優位性はここ5年くらいはあるだろう。ただし、5
年後は中国が追いついてくるものと思われる。
(金融機関)
「マレーシアには、現在は、留まっていることにベネフィットが
ある」。確かに中国は人件費が安いなど、マレーシアと比して有
利な点があるが、インフラの整備状況を鑑みると、大きな投資を
伴う中国に完全シフトという意思決定は出来ない。(大手総合電
機メーカー)
R&D機能は、品質不良やクレームへの早い対応を考えると製造拠
点の近くにあるのが理想的だが、現段階では半導体の様なハイテ
ク製品の設計はマレーシアでは考えていない。(大手半導体メー
カー)
今のところ音響製品については大手完成品メーカーであるA社が
マレーシアに生産集約を行い、取引を継続できているが、マレー
シアに進出している電機・電子メーカーが中国などへ移転してい
くと大変厳しいことになる。
(部品メーカー)
(*)PLM:プロダクト・ライフサイクル・マネジメント。企画、開発から設計、
製造、生産、出荷後のサポートやメンテナンス、生産・販売の打ち切りま
で、製品のすべての過程を一貫して包括的に管理することで、開発期間の短
縮、生産の効率化、そして市場の求める製品を適切な時期に市場投入するこ
とを目指す経営手法
当社はマレーシアをチャイナプラス1の対象拠点として相応しいと考え
る。アセアンの人口のトータルは5億人に上り、巨大なマーケットとし
て認識している。現状は中国とペナンでアジア全体と米国市場をカバー
している。
(大手PCメーカー)
マレーシアはもはやローコストセンターではない。今後は、中級もしく
は高付加価値製品を生み出していく。インテルやモトローラといった米
国企業はマレーシアで既に30年程の歴史があり、企業の中で技術的能力
の備わった人材が育っている。今後はこれらの人材を活用することが重
要となる。
(マレーシア米国商工会議所)
以前は製造機能を中心として製造プロセスのR&Dのみを行っていたがそ
の後、製品設計についてもマレーシアが関与する形になった。エンジニ
アの人件費とPLM(*)の観点から、将来的には研究開発もマレーシア
で行いたいと考えている。
(大手ハードディスクメーカー)
マレーシアに進出している米国企業にとって中国は脅威ではない。地域
的な展開の中で、一旦、マレーシアに投資されものが中国に移転する可
能性は否めないが、多くの米国企業はマレーシアと中国では違うマーケ
ットを持っていると捉えている。中国へ進出している米国企業はコスト
の問題ではなく、潜在的な国内のマーケットを狙っている。(マレーシ
ア米国商工会議所)
最近の米国系企業のマレーシアへの動きとして、香港やシンガポールに
あった地域統括本部の移転や、電機・電子産業にける高付加価値商品の
生産が挙げられる。一方、低付加価値製品、労働集約型産業、比較的技
術の低い電気・電子産業についてはマレーシアから流出する動きがあ
る。
マレーシアは優秀な人材に恵まれており、米国企業は特に中間管理職レ
ベルの育成プログラムを充実させ、多くのマレーシア人を海外に駐在員
として派遣している。
(マレーシア米国商工会議所)
出所)インタビュー、各種資料よりアビーム コンサルティング作成
2004年2月
第18号
83
系/欧米系企業の投資判断にはどのような違いが
欧米系企業
) インテル、デル、アジレントといった代表
あるのか、*欧米系企業はマレーシアの潜在性を
的な欧米企業は、マレーシア拠点を技術開
どのように評価し、それをどのように活用しよう
発やマーケティング機能、サプライチェー
としているのか、に焦点をあてる(図表1
0)
。
ンの中核拠点としてコミットする傾向
* 欧米系は中国への投資意欲を示しつつもマ
レーシア拠点に対しても積極的な姿勢を示
第2章
している
日系/欧米系の投資環境評
価の差異分析
これらの状況整理は、マレーシアで事業展開す
る日系/欧米系企業の本社および現地マネジメン
1.調査・分析のフレームワーク
ト層へのインタビューからも読み取れる(図表
9)
。とりわけ、日系企業がマレーシアでの事業
前章では、日系企業が今後のマレーシアでの事
については基本的に現状維持路線を掲げている一
業展開について 様子見 の姿勢を見せており、
方で、欧米系企業は、中国への投資意欲を示しつ
収益性満足度も低下傾向があるのに対し、欧米系
つも、マレーシア拠点に対しても積極的な事業展
は多国籍企業を中心に、マレーシアへの投資に関
開姿勢を示していることが特徴的である。
して積極的な姿勢があることを紹介した。そこで
!
"
では、日系と欧米系企業のマレーシアに対する
本章では、両者の投資姿勢の差異が何に起因する
姿勢の差異は何に起因するのか。以下では、)日
ものであるのか、その背景・理由について分析を
図表1
0 日系・欧米系の投資環境評価に対する差異のまとめ
日系 日系企業はマレーシアに消極的な傾向
欧米系 欧米系企業はマレーシアにコミット
日系企業の数は、98年をピークに、その後
は減少傾向
日系企業のマレーシア事業の撤退・縮小傾
向は強まっている
マレーシアで事業を展開する企業の売上高
および収益性満足度は近年低下傾向
中国の台頭や賃金の上昇等の環境の変化を
見据えて、マレーシア拠点の位置付けの再
検討を行っている段階
インテル、デル、アジレントといった代表
的な欧米企業は、マレーシア拠点を技術開
発やマーケティング機能、サプライチェー
ンの中核拠点としてコミットする傾向
欧米系は中国への投資意欲を示しつつもマ
レーシア拠点に対しても積極的な姿勢を示
している
問題意識: 日系と欧米系企業の投資姿勢の差異は何に起因するのか?
日系/欧米系企業の投資判断にはどのような違いがあるのか?
また、欧米系企業はマレーシアの潜在性をどのように評価し、それをどのように活用しようとして
いるのか?
図表1
1 調査・分析のフレームワーク(概要)
投資価値
投資価値を構成する財務指標
事業収益
(フリー・キャッ
シュフロー)
投資価値
(*)事業が生み出す将来
フリー・キャッシュ
フロー(予測)を、
適切なリスクを織り
込んだ割引率で割り
引いて事業の現在価
値を求める。
÷
リスク
(割引率)
出所)アビーム コンサルティング
84
開発金融研究所報
売上
(生産量)
−
事業コスト
財務指標に影響を与える
投資環境要素(キードライバー)
●経済成長力(GDP)
●競合環境・競合他社
●市場規模・成長性
●外資製品に対する意識
⋮
●賃金(直接労務者)
●組立て人材の質
●設計開発人材の質
●設計開発人材の労賃
⋮
●政治的安定性
●為替・インフレリスク
●知的財産保護法制
●会計制度の整備と透明性
●法制度の整備と透明性
●土地所有に係わる規制
⋮
行う。
きの迅速性」など、輸送環境の整備状況を強く意
一般に、事業投資の現在価値は投資によって得
識するのであれば、その企業は事業コスト(運転
られる「事業収益(将来フリー・キャッシュフ
資金に関するコスト)を重要視する傾向があると
ロー、売上と事業コストで構成される)
」を、投
言えるし、
「知的財産保護法制」に注目するので
資に付随して発生する「リスク(事業収益獲得の
あれば、その企業は「知的財産権侵害によるリス
不確実性)
」を含んだ割引率で割り引くことで求
ク」を意識しているとの意味から「事業リスク」
められる(図表1
1)
。
を重視していると考えることができる。
調査実施に当たっては、マレーシアで事業投資
そこで本調査では、それぞれの財務指標と投資
の判断をする際に日系/欧米系がそれぞれ重視す
環境要素との関係をフレームワークを新たに作成
る 投資環境要素の相違 に着目した。というの
して、日系/欧米系企業の投資姿勢について、違
も、両者が重視する投資環境要素が異なれば、そ
2)
。以下では、売上、事
いを分析した*10(図表1
れぞれの要素に関係の深い財務指標にも影響する
業コスト、事業リスクに対する見方の違いを紹介
と考えられるからである 。例えば投資判断にお
する。
!
"
*9
いて、
「輸送インフラの充実度」や「輸出入手続
コラム:業績評価指標の変遷
日系/欧米系の主に使用する業績評価指標の変遷は図表26のように整理される。最近は、日系企
業の中でもキャッシュフローベースでの経済価値を表すEVA等の指標を採用する企業が増えている
が、現場レベルでの導入はそれほど進んでいない。それは、マレーシア現地法人が生産拠点として
の役割が主であるからであり、こうした経営指標を導入する必要がそもそもないからとも考えられ
る*11。
図表2
6 評価指標の推移
日系
欧米系
日本における評価指標
■金融機関借入による間接金融主体
「経常利益」が評価指標
・債権者のリターンである金融費用を支払った後の
利益である「経常利益」が、資金提供者の期待に
どれだけ応えたかを表す尺度
・資金提供者である金融機関が、十分な経常利益を
稼がなければ融資をしないという直接的な意思表
示を行う
■直接金融が普及
「ROE」が評価指標
・資金の出し手である投資家の期待収益率(インカ
ム ゲ イ ン + キ ャ ピ タ ル ゲ イ ン )、 す な わ ち
「ROE」によって、資本コストを測定していく事
が求められる
・直接金融時代の資金の供給者である投資家は、
十分なROE(期待収益率)が見込めなければ、保
有株式を売却したり、新規保有を見送るといった
間接的な意思表示を行う
日系企業も欧米企業型の評価指標を
採用しつつある
出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成
米国における評価指標
■経営利益/EPS万能時代
1960年代
・規模の拡大による経営利益/EPS(1株利益)の向上が追
求され、コングロマリットが形成された
・本業以外の異業種の合併/買収も盛んに行われ、結果的
にコングロマリットの業績が急速に悪化
■ROE/ROAの導入
1970年代
・コングロマリットによる規模拡大の反省から、資本効率
をより重視したROE/ROAを経営指標として導入
・機関投資家が大企業に効率経営を求め始めた事もあり、
ROE/ROAが経営指標として浸透
■キャッシュフロー時代
1980年代
1990年代
・ROE/ROAは会計上の利益をベースにしており、会計処
理基準の変更、及び、D/Eレシオにより操作可能である
ため、経営者の恣意性が入らないキャッシュフローが脚
光を浴びる
・しかし、キャッシュフローを上げる最も手っ取り早い方
法がM&Aであったため、マネーゲーム的色彩に陥り、米
国経済は弱体化
■EVAの普及
・コカコーラ社、AT&T社、コダック社、CSX社等の米国優
良企業が相次いで新しい経営指標EVAを導入し、米国の
みならず欧州でも普及し始めた
欧米企業が新しい経営指標の
採用では先行
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*9 投資環境要素が財務指標に影響を与えることを指して、
「投資環境要素は財務指標のキー・ドライバーである」という。
2004年2月
第18号
85
86
開発金融研究所報
事業
コスト
−
売上
出所)アビーム コンサルティング
リスク
(割引率)
÷
事業収益
(フリー・
キャッシュフロー)
投資価値
投資コスト
税金
●影響の大きい投資環境要素
(本調査で主に分析)
・その他の投資環境要素
●政治的安定性
●為替・インフレ等
●国家財政事情
●政策変更
●戦争・紛争の勃発
●自然災害の頻度
●知的財産保護法制
●会計制度の整備と透明性
●法制度の整備と透明性
●雇用規則
●外資規制
・行政の介入
●各種投資優遇策
●開発研究に対する
優遇措置
●法人税・事業税
●移転価格税制
・輸入関税
・環境税 等
●輸出入手続きの迅速性
●ジョブホッピング
●不正・背任行為
●ストライキ(労働
争議)の慣行
・専門家(会計士・
弁護士 等)
●従業員教育費用
●優秀な税理士
・在庫管理スキルを
持った人材
●金融システム安定性
・河川などの整備状況
・地価・施設費用
・オフィス事情
・資金調達コスト
●仕入代金の決済慣行
●売上代金の決済慣行
●輸送インフラの充実度
●治安の良さ
●アンダーマネー
●宗教民族意識の強さ
●模倣品に対する意識の高さ
・欠勤に対する意識
・外資への恣意的課税
・追徴の習慣
・約束の履行の可能性
●書類・事務手続きな
どの精度・スピード
●経営管理人材の労賃
●経営管理人材の質
●セールス人材の労賃
・英語能力
●社会保険制度
●年金制度
●損害保険制度
●環境規制
●販促に係わる費用
●通信インフラ整備度
●第三国からの調達可能性
●有望な外注先
●産業の集積度
●部品調達状況
●電気・水道整備状況
●物流業者の質とコスト
●賃金(直接労務者)
●組立て人材の質
●設計開発人材の質
●設計開発人材の労賃
●雇用規則(解雇/退職金/
最低賃金/時間)
・国産化規制
・環境規制
●外資の製品に対する
意識
●広告に対する意識
生活・文化
●競合環境
●市場規模・成長性
事業環境
・セールス、マーケティ
ング顧客サポート人材
確保の可能性
人的資源
・政府による製品購入
・独占禁止法
制度・政策
財務指標に影響を与える投資環境要素(キードライバー)
●製品市場からの
運転資金 距離
管理費
製造原価
●GDP成長率
●国民所得水準
国家状況
図表12 調査・分析のフレームワーク(詳細)
2.売上高に関する認識の差異
3.事業コストに関する認識の差異
現地調査から、相対的に日系企業がマレーシア
(1)調査結果
を含めたアジア市場の規模と成長可能性を重視し
事業コストに関しては、日系企業は、
「直接工
ており、欧米系は相対的にマレーシア市場、アジ
の賃金水準」を相対的に重視する傾向があり、欧
ア市場に対する関心が低いということが明らかに
米系は、製造加工費もさることながら、
「設計・
なった 。一方、欧米系企業は、マレーシアで
開発費」や「輸送費 在庫コスト」
、
「管理費」な
製造した製品をASEAN諸国を含む世界中の市場
ど、幅広い投資環境要素を重視する傾向がある
へ輸出することを想定した事業展開を行っている
(図表1
5)
。
*1
2
ため、マレーシア市場、アジア市場への関心が低
3、図表1
4)
。
いと考えられる*13(図表1
(2)日系/欧米系のコストに対する意識の差異
この調査結果をふまえて、日系と欧米系のコス
図表1
4 欧米系企業の拠点戦略
図表1
3 (アンケート結果)日系と欧米系企業の
売上に関する投資環境要素の重視度と
その理由
マレーシア拠点からの出荷先
1.0
●US/EU向け
2.0
重視
4.0
3.5
3.0
2.0
2.1
●アジア向け
●マレーシア国内向け
日系
欧米系
3.3
2.9
1.9
マレーシア国内市場に関する投資環境要素の重視度
●経済成長力(GDP)
●競合環境・競合他社
●市場規模・成長性
欧米系
→U.Sと欧州向けの出荷
が中心であり、マレー
シア国内市場はそれほ
ど重視していない
3.5
2.0
3.3
2.1
1.9
2.9
日系
→アジア/マレーシア向
けの出荷が中心であ
り、マレーシア国内市
場の状況を強く重視
出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成
→アジアを3分割し、中国/マレーシア拠点はそれ
ぞれ別の位置付けを持たせる
→マレーシアからの出荷先には、US/EU、ASEAN
諸国に加え、イスラム圏も視野に入れている
韓国
China
中国
拠点
Japan
ASEAN
フィリピン
タイ
EU/
US
マレーシア
拠点
インド マレーシア
イスラム圏
シンガポール
インドネシア
オーストラリア・
ニュージーランド
インタビューによる欧米系企業のコメント
アセアンの人口は5億人と巨大なマーケットであると認識。中国と
ペナンでアジア全体と米国市場をカバー
(欧米系大手PCメーカー)
マレーシアと中国では違うマーケットを持っていると認識している
(欧米系大手PCメーカー)
出所)アビーム コンサルティング作成
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1
0 今回、投資環境の大分類について「国家状況」
「制度・政策」
「人的資源」
「事業環境」
「生活・文化」を用いた。この他にも、
Lee and Houde(20
0
0)では「市場規模と経済成長見込」
「天然資源と人的資本の賦存」
「物理的・金融・技術インフラ」
「国
際貿易への開放度と国際市場へのアクセス」
「規制・制度枠組みと政策の一貫性」
「投資保護と促進」の6分類を示している。
(訳:小中、他(2
0
0
2)pp.2
2)
*1
1 インタビュー結果によると、
「現地事業の評価基準としては、利益率やキャッシュフローなどの項目を重視している。数年前
にEVAの導入を検討したこともあったが、当社の現法では不要、という結論に達した。それは、EVAはあくまで事業結果か
ら割り出した『結果指標』であり、各現場で目標とすべき『行動指標』ではないからだ。したがって現場の人間に『EVAを
改善しろ』と言ったところで、現場は何を追及すればよいかわからず、業績は改善しない。それよりも、『コストを下げろ』
『在
庫日数を○○日以下にせよ』と具体的に指導したほうが現場の理解も早く、徹底しやすい。つまり、現地マネジメントの指標
はシンプルなほうが良い、と判断したためEVAは採用しなかった。
」とのコメントがあった(電機・電子メーカー)。ただし、
生産機能に加えて、物流機能やサービス機能、研究開発機能などが付加され、現地拠点の多機能化がすすむと、その事業評価
にあたってはより広い視点が必要になるだろう。
*12 これは、アンケートに回答した日系企業には、マレーシア国内の組立メーカー等を顧客としている日系部品メーカーが多く含
まれていることも影響していると考えられる。
*13 日系・欧米系の進出の経緯については、図表1参照。
2004年2月
第18号
87
図表1
5 (アンケート結果)日系と欧米系のコストに関連する投資環境要素の重視度
日系 →相対的に労賃を
日系
欧米系
重視する傾向が
強い
重視する
4.0
3.3
3.0
投資環境要素
の重視度
影響する
事業コスト
2.0
2.8
3.5
2.9
3.6 3.3
3.0
3.4
3.3
3.0
3.5
3.6
3.4
3.2
3.3
3.3
3.6
3.8 3.5
→各項目の重視度
欧米系 に大きな差は見
られない
3.5
3.0
3.2
3.0
2.5
2.2
1.0
● ●
労設 し開
賃計 た発
開 人技
発 材術
人 に
材 精
の 通
●
成通
熟信
度イ
ン
フ
ラ
の
●
従
業
員
教
育
費
用
設計・開発費
●
達現
環地
境で
の
部
材
調
● ● ● ●
通組 フ電 先有 準直
し立 ラ機 の望 接
たの の・ 有な 工
人技 成水 無製 の
材術 熟道 造 賃
に 度イ 委 金
精 ン 託 水
材料調達費
製造加工費
●
成輸
熟送
度イ
ン
フ
ラ
の
●
産
業
の
集
積
度
● ●
し経 水経
た営 準営
人業
人
材務
材
に
の
精
賃
通
金
輸送費 在庫コスト 管理費
出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成
図表1
6 電機・電子業界における事業コストの構造
日系/欧米系の関心領域
欧米系
税金
その他 輸送費
管理コスト
在庫コスト
減価償却費
総事業
コスト
製造加工費 1∼10%*
材料費
設計・開発費
現地の“直接工の労賃”が大きな
影響を与えるのは
総事業コストの18%* 日系
1∼10%*
50%∼
80%*
5%∼
10%*
人件費
出所)アビーム コンサルティング
*1)数字は電機・電子メーカーにおける事業コスト(トータルコスト)に占める各コストの一般的な割合。インタビュー各種資料、日
系電機メーカーの財務諸表より、アビーム コンサルティング推計
*2)経済産業省 産業関連表より、電気電子機器産業の総費用に占める人件費(直接工以外に間接人件費など含む)の割合は1
8%
図表1
8 インタビューにおけるコメント
図表1
7 日系企業のマレーシアに対する課題
2002年
2003年
政治・社会情勢(*)
28.6%
他社との競争
47.6%
他社との競争
25.0%
労働コストの上昇
23.8%
外資に対する規制緩和
25.0%
外資規制
23.8%
管理職クラスの人材確保 25.0%
労働コストの上昇
21.4%
為替規制・送金規制 19.0%
課税強化
19.0%
出所)国際協力銀行 開発金融研究所「わが国製造業企業の海外事
業展開に関する調査報告」2
0
0
0年∼2
0
0
3年よりアビーム コ
ンサルティング作成
*)2
0
0
2年は同時多発テロおよびマハティール首相引退後の動向な
ど政治・社会情勢に特に関心が高かったために、課題として認
識されたものと思われる。
88
開発金融研究所報
日系企業へのインタビューにおけるコメントから
「労働コスト」に対する意識の高さが伺える
投資判断に際して、考慮する項目は、まず人件費、
それから部材調達コストである。(日系大手総合電
機メーカー)
現在、人件費の占める割合は平均すると6∼7%で
あるが、コストの観点からは引き続き重要な費用項
目であると理解している。
(日系電機メーカー)
進出の第一理由は、顧客であるセットメーカーの進
出が挙げられる。二番目の理由としては、低い労賃
が挙げられる。
(日系大手部品メーカー)
出所)インタビューよりアビーム コンサルティング作成
トに対する視野の広さについて具体的に比較す
賃が重要な位置付けにあることを示している(図
る。まず、一般的な電気・電子産業に占める主な
表1
7)
。
事業コストの構造は、図表1
6の通り分類される。
1
9
7
0年代から1
9
8
0年代後半にかけて安価な労
マレーシアで事業展開を行う日系/欧米系企業
働力と円高の影響回避を目的に進出先を探してい
の主な目的は、海外生産によるコスト競争力の創
た日系企業にとって、当時、両方の条件を満たす
出にあるが、特に日系企業は、現地の労賃の低さ
マレーシアが選択されたことは自然であるといえ
が大きな影響を与える材料調達費や製造加工費
る。しかし、現在においても、引き続き日系企業
(総事業コストの約1
8%に相当)に強く着目し
はマレーシアに「安価な労働力」を求めているこ
た事業展開を行っている。
とがわかる。これは、日系企業が、マレーシア拠
いっぽう、欧米系企業は、労働コストを競争力
点を「製造工場」であると根強く認識しているた
8)
。
めである*14(図表1
の源泉と捉えるのではなく、海外生産により、開
発や在庫/管理コストを含む、総事業コストをど
4.事業リスクに関する認識の差異
れだけ低減できるかを意識した事業展開を行う傾
向があるといえる。
(1)調査結果
(3)労賃を重視する日系企業
調査結果によれば、リスク指標に対する意識
日系企業にとって、現在も依然として労働コス
は、総じて欧米系が日系に比して高い。特に、投
トは重要な評価指標であることがわかる。日系企
資対象国の模倣に対する意識や知的財産の保護に
業に対して国際協力銀行が行った調査結果を見る
対して欧米系は高い反応を示している(図表1
9)
。
と、マレーシア拠点の経営上の課題として、近
これは、欧米系がマレーシアで、開発・設計機能
年、
「労賃の上昇」を挙げるケースが多くなって
を展開しているという背景がある。また、現地マ
おり、現地進出の日系企業においては、現在も労
ネジメント上のリスクに強く結びついている会計
図表1
9 (アンケート結果)日系・欧米系の事業リスクに関連する投資環境要素の重視度
日系
欧米系
重視度
事業リスクに関連する投資環境要素
重視しない
1
重視する
2
●知的財産保護法制
3
2.2
2.3
●模倣品に対する意識の高さ
2.8
●法規制の整備と透明性
●治安の良さ
●政治的安定性
3.1
3.4
●会計制度の整備と透明性
●為替政策・インフレ率等
知的財産に関するリスク要因を欧米
系は特に意識している
3.0
2.5
●宗教・民族意識の強さ
4
3.7
2.2
●土地所有に係わる規制
●アンダーマネー(賄賂)の習慣
3.9
日系
3.1
2.9
3.4
3.1
3.4
→相対的に知的財産
や、規制・制度に関
する関心が高くない
●雇用制度(解雇、労務時間、労組慣行)
3.3
3.3
3.4
3.7
3.7
国家状況に直接関連するリスク要素に
関しては、日系も欧米系も強く重視す
3.7 ることは変わらない
3.8
欧米系
→欧米系はリスクに対す
る意識が総じて高い
出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1
4 この点について、投資先としてのマレーシアのポジションそのものが変化していることを後述する。
2004年2月
第18号
89
図表2
0 投資意思決定プロセスにおけるリスクに対する重視度の差異
投資判断の主体
日系
欧米系
製造事業部
事業部が中心となって経営
企画部と検討することが多
い
専門部隊や
トップマネジメント
トップマネジメントが関与
し、海外投資専門部隊や外
部専門家が評価
現地法人は第三者的な視点
がないので参画しない
候補先の選定
リスクを定性的に認識
リスクは○×などで定性的評価
する場合が多い
投資計画立案
リスク対策・責任は“曖昧” 現地マネジメントの
責任はQCD向上
想定される事象が起きたときの責
任の所在や対処方法があいまい
需要変動に対するリスク管理が弱
い
リスクを定量評価
投資実行/管理
リスク最小化を徹底
政治リスクや外資規制などの致
命的要素を中心に検討
リスクを最小限に抑えるために、
政府交渉を積極的に行う
最終的にはNPVなどを用いた定
量的な投資対効果とリスク分析
を実施
想定しうるリスクをすべて整理し
危機プランを策定、撤退規準も明
確化
工場管理に詳しい人材が工場
のQCD向上のマネジメントの
責任を負う
経営リスク管理の実施
現地法人のトップのリスクマ
ネジメントに対する責任が重
い
社内の監査チームが定期的に
現地の経営内容を厳しくチェ
ック
出所)各種インタビューより作成
制度や法制度などに対しても欧米系の関心は総じ
て高い反応を示した。
スク評価に留まるケースが目立つ。
これに対し欧米系企業では、海外直接投資の専
一方で、
「治安の良さ」や「政治的安定性」と
門チームが投資分析プロセスに関わることが多
いった進出の際にノックアウトファクター(致命
い。また、外部専門家を登用し、投資リスクとリ
的要因)となりうるリスク項目については、当然
ターンに関する客観的/専門的な判断を仰ぐこと
ながら日系/欧米系問わず、共に強く重視する傾
も多く、リスクとリターンの評価に対する厳密な
向がある。
評価姿勢がうかがえる。さらに事業リスクについ
ては、カントリーリスクを定量的に検討し、割引
(2)投資意思決定プロセスにおけるリスク評価
の違い
率という形で投資の現在価値に反映させるケース
が多い。中には、F/S段階において、リスクと
投資意思決定プロセスにおいて、日系/欧米系
なっている規制などについて積極的に政府と交渉
がリスクをどのように評価、対応しているかをま
して対応策を検討し、あらゆるリスク要因につい
とめた(図表20)
。
ての対策方法と、対応者、責任などを明確化して
日系企業における海外直接投資の判断は、事業
いる企業もある*15。また、投資実行後も、欧米
部(製造部門)を中心に行われている。また、候
系の現地法人のトップの主な役割としてリスクマ
補先の選定の際には、○×などによる定性的なリ
ネジメントの重要性が指摘されている。
コラム:投資判断プロセス
日系企業と欧米系企業の投資判断プロセスの違いについて、インタビュー等をもとに整理した(図
表2
1)*16。まず日系企業では、海外直接投資の判断は事業部(製造部門)を中心に検討されるのに
対し、欧米系企業では、海外直接投資の専門チームが投資分析プロセスに関わる。また、外部の専
門家を登用し、投資リスクとリターンに関する客観的な判断を仰ぐこともある。
また審査プロセスにおいては、日系は、同業他社の投資動向を参考に商社等の協力を仰ぎながら
調査を進めることが多い。欧米系は、自社の競争力強化が投資目的であるため、他社と差別化すべ
く、自社の状況に合わせた分析を行う。例えば、ある大手半導体メーカーでは、審査を二段階に分
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1
5 筆者インタビューによる。具体的には、図表2
1参照。
*1
6 「基本的に、投資決定プロセスそのものは日系企業と欧米系企業との間で大きな差はない」とする意見(日系電機メーカー)
もあったが、本稿ではプロセスそのものよりも、むしろその中身について比較している。また、日系と欧米系との優劣を論じ
るものではない。
90
開発金融研究所報
け、最初はノックアウトファクター(それ自体が投資のGo/No goを決めてしまう要因)を中心に、
二次審査ではキャッシュフローモデル等を用いて客観的な分析を行っている。
最後に実行プランニングでは、欧米が検討段階の早期から、投資申請、インセンティブ交渉を
!
"
行っていく 走りながら考えるスタイル であるのに対し、日系は検討に時間をかけ、実行が確定
的になった後に交渉に入るなど比較的慎重なスタイルをとる傾向があることがわかった。今後は、
日系企業も場合によっては投資環境そのものを改善するよう現地政府や投資誘致機関等に働きかけ
る活動が必要になると思われる。
図表2
1 投資意思決定プロセスの違い
実施主体
/期間
候補地
ピック
アップ
二次審査
定性的評価が多い
投資申請をおこなう前に
じっくりと検討を行う
パートナーである商社
などの情報に頼る傾向
「他社」の進出動向調
査(他社が進出してい
るかなどを非常に気に
する)
海外投資専門部隊
政治リスクや外資規制
などの定性面のノック
アウトファクターを中
心に検討
コンサルティング会社
等が作成したベストプ
ラクティスにそってシ
ステマチックに進める
ロジスティクスやマー
ケット環境など幅広い
項目をトータルに検討
3ケ月∼6ケ月程度で
意思決定が行われる
政府交渉
政府には、気をつかいな
がら交渉
検討期間が1∼2年に
わたる場合もある
外部専門家
現地法人は第3者的視
点を失うので評価に参
画しない
実行プランニング
労賃の低さなど目的に
即した項目を検討
一時審査に至るまでの
検討期間が1∼2年に
わたる場合もある
トップマネジメントの参画
欧米系
一次審査
候補地
決定
経営企画部の参画
事業部中心(製造部門)
日系
審査プロセス
「自分が進出したらどん
なインセンティブを受け
られるのか?」を積極的
に交渉する
とりあえず、投資の申請
を行い、実行の検討を行
う
交渉時の要求事項が具体
的かつ論理的(直行便を
週3便を4便など)
キャッシュフローモデ
ルなどによる定量的な
投資対効果分析を実施
最終
決定
リスク回避策
の検討
想定される事象が起きたと
きの責任の所在や対処方法
があいまい
計画が実績の積上に基づく
ため、ドラスティックでは
ない
需要変動に対するリスク管
理が弱い
論理的な検討がトップ
の感情的意思決定によ
ってひっくり返ること
がある
想定しうるリスクをすべて
整理し、危機プランを策定
財務的視点(投資対効
果)に立った意思決定
1年∼3年内の極めて
短期間の回収を要求
小型投資による様子見
の試行はおこなわず、
やると決めれば一気に
実行する
2、3人のトップの承
認にて速やかに意思決
定
ハイテク企業には労働組合
の結成が禁じられているな
ど、政府交渉によりリスク
を最小限に抑える
同時に、撤退規準も制定
戦略、目標を達成するため
にいかなる施策も検討する
承認者が10人以上もい
るので、稟議だけでも
時間がかる
出所)各種インタビューより作成
(3)リスク認識に関する具体的事例
5.まとめ ∼投資環境評価と重視する
財務指標の関係∼
その他の日系/欧米系のリスク評価の認識につ
いて、具体的な事例(インタビューコメント)を
以下にまとめた。一般に、日系企業はリスクがあ
ることを理解しているが、定性的なリスク管理を
売上、事業コスト、事業リスクに対する評価ス
行っており、最終的な投資判断の拠り所になる財
タンスの違いは、重視する財務指標の違いとなっ
務分析にリスクを反映させていないことも多い
てあらわれている。アンケート調査によると、日
(図表2
2) 。
系企業は、営業利益率、製造原価などの労働コス
*1
7
トが極めて大きなインパクトを持つ財務指標を重
図表2
2 リスクに関する日系/欧米系企業のコメント
日系
リスク評価は“曖昧”
“定性的”
需要減少のリスクなどが投資判断時にあまり考慮されて
いないのが、現時点での課題。需要減少のリスクをもう
少し加味していれば、投資額をもう少し抑えておくとい
う判断もありえた。今後は、これらのリスクを明確に定
量的に評価していけるようにならなければならない。
(日系大手総合電機メーカー)
リスクを定量的に判断しなければならないという理論は
わかるが、実際はそこまでできていない。
(日系大手総合電機メーカー)
欧米系
リスク評価は“厳密”
“定量化”
投資の判断時には各種リスクについても極力、定量化を行い、
割引率等に反映させる傾向が強い。将来の追加投資・撤退の
判断に関する(リアル)オプションを価値と評価して投資判
断を行うケースもあり(業界関係者)
投資に対する収益性については、社内のハードルレートを本
社が設定し、現地法人においても厳格な適用を行うことで事
業の収益管理を行っている(欧米系大手PCメーカー)
現地法人のトップマネジメント層に現地人を起用し、人員の
現地化を進める一方、収益・業績管理は定量目標の設定・運
用を徹底することで本社コントロールを強めている
(欧米系メーカー)
当初の期待収益率に満たない状況が改善しないと見込まれる
場合、拠点の閉鎖や事業からの撤退を躊躇しない
(大手電機メーカー)
出所)インタビューおよび各種資料よりアビーム コンサルティング作成
2004年2月
第18号
91
図表2
3 (アンケート結果)日系/欧米系の投資
図表2
4 インタビューにおけるコメント
判断時に重視する財務指標の差異
欧米系
欧米系はNPVなど事業収
益/リスクを包括する評
価指標を重視
日系
欧米系
重視する
4.0
3.0
2.0
3.8
3.4
事業収益
3.6
3.4
3.2
2.8
NPV
製造原価がどれくらい低減できるかで決定され、回収期
間などはあまり厳しく考慮していない。(日系メーカー)
Pay Back 営業利益率 製造原価 *18
売上
事業コスト
投資価値
リスク
投資の判断指標はROAであるが、それらは本社に稟議を
通す場合の数字づくりとなっている。実際は製造原価が
いくら下がるのか、製品ごとの営業利益はどうか、とい
うものを中心に考えている。(日系大手電機メーカー)
最近、EVA的指標を本社が取り入れたが、最終的に投資
を判断する指標は営業利益である。
(日系大手総合電機メーカー)
3.2
2.0
重視しない 1.0
各財務指標のカバー範囲
日系
日系は製造原価等
のコスト中心の指
標を重視
現在価値などの概念を含めた投資判断指標は使用してい
ない(日系メーカー)。
欧米の企業は株主の発言権が強いので、EVAなどの指標
を使用している。(日系大手部品メーカー)
原価
管理費
運転資金
税金
投資コスト
米国企業は1980年代からEVAを使用し始めている。経常
利益のみの事業評価では資本収益性の欠落が生じる。
(SRCレポート)
出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成
図表2
5 日系/欧米系の投資環境評価に対する考え方の差異のまとめ
日系
事業収益
(フリー
キャッシュ
フロー)
投資価値
売上
(生産量)
マレーシアマーケットを重視
・主に、マレーシア・アジア域内のマーケ
ットを重視
現地の労働コストを重視
事業
コスト
リスク
(割引率)
・労賃を重視
・設計開発コスト、経営管理コストについ
ては、それほど重視していない
リスクについては、
“曖昧”な判断
・リスクについては定性的(○×的)な評価
・リスク管理はあいまい
製造原価を重視
業績評価指標
欧米系
グローバルマーケットに対応
・マレーシア国内、アジア域内のマーケット
だけでなくUS/EUマーケットに対応
各項目の重視度に大きな差はない
・設計開発・経営管理コストなどを総合的に評価
・在庫コスト等、キャッシュフローの増大の観点
も重視
リスクを認識・評価し
コントロール
・リスクを定量化し、財務モデルに反映
・リスク管理の徹底化
現在価値(NPV)等を重視
・製造拠点としての価値を端的に表す製造
原価を重視
・総合的な海外投資価値を重要視し、それを
表す現在価値などの包括的価値評価指標を
重視
マレーシアは、事業部直下の
製造拠点との認識が根強い 投資および拠点経営に、
トップがコミットし事業展開
出所)アビーム コンサルティング分析
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1
7 このため、投資実施後もリスク管理が曖昧化する傾向がある。実際、ある日系企業から、海外事業の悪化の原因が、リスクに
対する認識の甘さにあったというコメントが得られた。例えば、ある会社では顧客企業1社との取引のみの収益計画で海外直
接投資が実施され、その顧客企業の需要が悪化するリスクを考慮していなかったために、大きな損失を出したというケースも
発生している。
一方、欧米系企業からは、リスクに対するプランニングを徹底的に行ったにも関わらずリスクが顕在化した場合には、プラ
ンの計画者の責任が問われない(むしろ昇進した)ケースが報告されている。
*18 各指標の概要
NPV…時間とリスクの概念を取り入れた資本コストを用いて割引かれた、将来キャッシュフローの現在価値
Payback…投資金額が何年で回収されるかの期間。リスクや金銭の時間的価値は考慮していない
営業利益率…売上総利益−販管費で計算される利益であり事業でどのくらい儲かったかを示す会計指標
製造原価…製品の製造にかかわる材料費、労務費、物流費、管理費
92
開発金融研究所報
視している。これに対して、欧米系企業は、現在
アの投資環境との相対的な位置付けを検証する。
価値(Net Present Value)やPayback(投資回
そこで、縦軸に、日系企業が重視している「労
収期間)などの、包括的な業績状況をあらわす財
働コスト」をとり、横軸に欧米系企業が重視する
務指標を重視する傾向があることがわかる。日系
リスク(ここでは、事業に様々な角度から影響を
企業と欧米系企業の投資環境に対する視野の広さ
与える「カントリーリスク」とした)をとって、
の違いは、このように追求する指標の違いに大き
アジア各国の生産拠点としての位置付けを評価し
く影響されていると言える(図表2
3、図表2
4、図
た(図表2
7)
。
表2
5)
。
一般的に、国の経済の発展・成熟に伴って、左
第3章
図表2
7 生産拠点としての位置付けの捉え方
マレーシアの変遷と今後
(低い)
生産拠点として有望
(ただし、将来の
労賃上昇に懸念あり)
低廉な労働力が
競争力の源泉
1.生産拠点としてのアジア各国の位置
付け
労
働
コ
ス
ト
(1)分類
第3章において、マレーシアで事業展開を行う
日系企業は、製造原価、とくに「労働コストの低
経済の発展・成熟化
生産拠点としての
有望性は薄い
さ」に着目する一方、欧米系企業は、
「総事業コ
整備された
事業インフラが
競争力の源泉
スト」や「リスク(割引率)の低さ」を重視した
事業展開を行っていることを述べた。ここでは、
(高い)
こうした投資環境の評価方法と、実際のマレーシ
(低い)
カントリーリスク
出所)アビーム コンサルティング
図表2
8 生産拠点としての各国の位置付け*20
0.00
インドネシア
ロシア
(低)
ルーマニア ベトナム
インド
フィリピン
中国*
タイ
2.00
︵製
支造
払業
賃に
金お
とけ
福る
利労
厚働
生者
費の
用労
の働
合コ
計ス
値ト
︶
トルコ
4.00
チリ
ハンガリー
ブラジル
コロンビア
1
時
間
あ
た
り
労
働
コ
ス
ト
︵
米
ド
ル
︶
メキシコ
ポーランド
チェコ
スロバキア
①
ポルトガル
スロベニア
6.00
⑤
マレーシア
香港
南アフリカ
台湾
ギリシャ
8.00
②
シンガ
ポール
韓国
10.00
④
12.00
14.00
4.20
ニュージーランド
スペイン
イスラエル
※円の大きさは一人当た
りGDPを表わす
4.70
5.20
5.70
③
アイスランド アイルランド
6.20
6.70
7.20
7.70
(高)
8.20
8.70
9.20
オースト
ラリア
9.70
カナダ
アメリカ
イギリス
フランス
日本
(低)
カントリーリスク
*)中国は内陸部、沿岸部で大きく労賃、リスクが大きく異なるが、ここでは一国の総合値としてプロットしている。
出所)R&I Country Risk Survey20
0
3、IMD: The World Competitiveness Yearbook2
0
0
3よりアビーム コンサルティング分析
2004年2月
第18号
93
図表2
9 ポジションごとの特徴
■ 各ポジションの状況
● 企業の対応・施策
進出企業から見た各ポジションの特徴
① 低労賃を武器にした製造特化型拠点
■ 専門技術を要しない廉価な労働力を活用した生産プロセスに適したポジション。技術的に安定し
ている成熟製品の最終組立作業等に向いている。
● 当ポジションの位置付けは労働集約的作業が中心になる為、オペレーションにおいては厳格な現
場管理(例えば、作業工程のマニュアル化)が重要となる。また、ポジション①では、低廉な労
働コストの活用に価値があり、進出することで多くの企業が当該メリットを必然的に享受できる
ため、進出に際しては既に同目的で進出している他社事例の活用が可能。
② 総合的競争力を生かした生産拠点
■ 適度に教育された人材と整備された事業環境を活用できるポジション。ポジション①に比べ労働
コストに優位性がなくなる。
● ポジション①では困難であった拠点機能の拡張を行い、製造部門と連携した設計機能や販売と連
動した物流機能など、広範囲の機能を取り込むことで、トータルのコスト競争力の創出が可能。
また、当ポジションでは産業集積が進むことから、社内だけでなく、現地のサポーティング・イ
ンダストリーと協力し、部材調達において効率的なサプライチェーンを組むべき。
③ 成熟した事業インフラを生かした付加価値追求拠点
■ 労働コストが非常に高く、成熟製品の最終組立て等、労働集約的な作業には適さないポジション。
● 事業リスクの低さを活かし、最先端の技術と莫大な設備投資を要する付加価値の高いキーデバイ
ス等の生産を行うことが可能。教育/所得水準の上昇により高い技術力を持ったエンジニアやテ
クニシャンの確保可能性が高くなる為、研究開発や先端製品の設計といった知識集約型事業に適
している。
④ 特別な理由がない限り、進出しない特異拠点
(低い)
①
労
働
コ
ス
ト
⑤
⑤ 短期決戦型拠点
②
④
■ 労賃とカントリーリスクが高い為、通常は製造業の進出に適さないポジション。
● この領域の国を敢えて生産拠点として選択する場合、他国では代替が困難な明確なアドバンテー
ジの存在や自社にとっての戦略的意味合いが必要になる。例えば、インテルがイスラエルで半導
体製造の前工程や主力製品の研究開発を行っている背景には、同国が世界トップクラスの研究者
やエンジニアを多数保有するという事情がある。
③
カントリーリスク(低い)
■ 労賃もカントリーリスクも低い為、生産拠点として短期的には有望なポジション。一般的に労賃
とカントリーリスクは相関があるため、この状態は長くは続かないが、政府による積極的な制度
・事業インフラの整備の結果、一時的にこの領域に入る国がある。例えば、欧米系企業の投資が
活発化しているチリやチェコ、ポルトガルはこのポジションに入る。
● これらの国に進出する際には、将来の労賃上昇に備えた対策を予め打っておく必要がある。
出所)アビーム コンサルティング分析
上から右下へと位置付けがシフトしてゆくと考え
してゆく。右下のポジションにおいては、労働コ
られる。国が未成熟な時期は、左上のポジション
ストだけでなく、事業全体としての競争力を強化
に位置し、その低廉な労働力をベースにした組立
していくことが求められるようになるだろう。
生産等の単純労働等が有効に機能する。経済の発
このフレームワークに基づき、現在の各国の位
展が進み、事業インフラが整備されるにしたがい
置付けを行い、それぞれの位置における生産拠点
カントリーリスクが低下する一方で、労働コスト
としての特質に応じて、)から-までの5つのポ
は上昇し、徐々に右下方向にポジションがシフト
8、図表2
9)
。
ジションに分類した*19(図表2
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1
9 なお、ポジションの切り分けは各国を位置付けるための便宜的なもので、厳密な区分ではない。
*20 労働コスト(縦軸)…IMD(2
0
0
3)のBusiness Efficiency - Compensation Levelsに掲載されている各国の製造業における労
働者の労働コスト(支払賃金と福利厚生費用の合計値を米ドルに換算)に基づいてプロットした。
カントリーリスク(横軸)…海外直接投資を行い、投資先国において生産事業を行う際のリスクを表す指標として、当該国の
総合的な政治・経済状況を反映していると考えられるカントリー・リスク・レーティングを用いた。格付投資情報センター
(2
0
03)に基づいて国毎に算定した総合評価指数に基づいてプロットし、各国の内乱・革命の危険、政権の安定性、産業の
成熟度、財政政策、戦争の危険、対外支払能力、為替政策等、計1
5項目の指標をもとに算定された総合指標を1
0.
0を最高と
して各国のリスク量(指数が大きいほどリスクが小さい)をプロットした。当該調査において日本は評価対象になっていない
為、日本は他の主要先進国と同レベルのリスクという前提をおいた。
ポジショニング対象国…対象国は、アセアン4の構成国、NIES4の構成国、主要先進7ケ国+ロシア、北欧3ケ国、中南米
諸国、東欧諸国、オセアニア諸国、その他地域諸国(アフリカ、中東地域等)から選出した。なお、上記グループの中から、
¸同一時点且つ同一基準の統計データが取得できない国、¹比較分析意味合いの観点から、極端な位置に属する国(1時間あ
たり労働賃金が2
0米ドル以上の国、及びカントリーリスク指標が4.
0以下の国)は対象外とした。
94
開発金融研究所報
図表3
0 各ポジション国の投資動向
ハンガリー
インドネシア
国内紛争前は豊富な人口と人
件費の安さをもとに投資有望
国であったが、政治的なリス
クが増大。
ベトナム
大手電機メーカー等が安価な
労働力と勤勉な人材の確保を
目的に生産拠点の進出が進
む。
フィリピン
電気・電子関連への投資が
94年頃から急増し、新たな
工業団地が次々と開発、輸出
基地としての機能強化が図ら
れている。
0.00
(低)
インド
フィリピン
ロシア
ルーマニア ベトナム
中国*
メキシコ
ポーランド
タイ
2.00
4.00
トルコ
チリ
ハンガリー
ブラジル
コロンビア
1
時
間
あ
た
り
労
働
コ
ス
ト
︵
米
ド
ル
︶
東欧の人件費はドイツなど西欧先進
諸国の五分の一以下。世界の完成車
や自動車部品メーカーの東欧進出ラ
ッシュが起きている。
インドネシア
チェコ
スロバキア
①
香港
南アフリカ
ギリシャ
8.00
日本の製造業(101社、3カ国まで回
答可)の欧州の工場適地として、1
位チェコ(27.7%)、2位ハンガリー
(20.8%)3位ポーランド(16.8%)
*
が選ばれるなど評価が高い。
ポルトガル
スロベニア
6.00
チェコ
⑤
マレーシア
台湾
②
シンガ
ポール
ポルトガル
韓国
10.00
④
12.00
14.00
(高)
スペイン
イスラエル
※円の大きさは一人当た
りGDPを表わす
4.20
イスラエル
4.70
5.20
台湾
中東諸国との紛争が絶えず、
投資対象国としてはリスクが
高いが、世界トップクラスの
研究者や技術者を有するた
め、富士通、モトローラ、イ
ンテルといった日米の大手半
導体メーカーが製造拠点や研
究開発拠点を設置。
5.70
ユーロ導入をきっかけに欧州向けの
自動車の生産拠点として急速に投資
が促進された。一時期は人手が不足
になる事態まで発生。
ニュージーランド
③
アイスランド アイルランド
6.20
6.70
7.20
7.70
8.20
8.70
9.20
オースト
ラリア
9.70
カントリーリスク
カナダ
アメリカ
イギリス
フランス
日本
(低)
1970代に日系企業による投資が増加した。近年では、中国への産業
シフトが起こり、国内空洞化が問題。
韓国
近年、労働集約型の投資誘致から知識集約型の投資誘致へと変更し、外
国人に住みやすい街づくりやマーケティングや経営計画立案など企業の
「頭脳」に照準を合わせ、中国を含めた東北アジアのビジネスの中心と
して「海外企業の地域本部を誘致する」という方針を押し進めている。
メキシコ
94年に発効した北米自由貿易協定
(NAFTA)をきっかけに米国メー
カーの製造拠点として投資が増加。
ポーランド
欧州各国に較べ5∼7割も人件費が
安いポーランドは自動車メーカーの
生産拠点として工場新設数が多い。
スロベニア
2004年にも欧州連合(EU)に加盟
する予定で、安価な労働コストを狙
った日米欧企業の進出が加速中。
出所)日経四誌より
*)日本経済新聞社が日経リサーチと共同で実施したアンケート調査より
図表3
1 各ポジションにおける基本的な方向性
競争力の源泉
有望な事業領域
低廉な労働
①
コスト
労働集約的
な事業
組織体制
事業評価指標
人事
■現場コントロールが必要
■製造コスト中心
■平等性を確保
● 生産現場の厳密なコントロー ● 労働賃金
● QCD
ルが不可欠
● 投資回収期間
● 管理監視体制の徹底
● 結果の平等を確保
● マニュアル化したオペレー
ションによる品質の担保
■総合力発揮の為の自立的組織 ■総コスト/効率性重視 ■生産性を意識した人事
②
(低い)
総合的なコ
スト競争力
資本集約的
な事業
● 総合的な競争力確保のため ● トータルコスト
に、現地へ権限委譲し、現場 ● 営業利益率
主体の自発的な機能領域の発 ● 投資回収率(IRR)
展を促す
● 生産性に応じた評価が有効
● 現地社員のマネージメントへ
の積極登用が生産性に寄与
● 優秀な人材の新規採用・教育
①
労
働
コ
ス
ト
②
③
③ 付加価値
知識集約的
な事業
■付加価値の高い統括/専門 ■付加価値指標を採用 ■成果重視の人事評価
組織中心
● 最終利益
● ルーティンワークの割合が減
少し、業務の質に基づく成果
● 事業本部等の統括機能の充実 ● 投資収益率(ROI)
● 経済付加価値(EVA等)
主義の人事制度が機能する
● 事業部中心のビジネス展開
● 部門毎人事管理
● 開発機能は、専門特化
カントリーリスク
(低い)
出所)アビーム コンサルティング分析
(2)各ポジション国の投資動向
各ポジションに位置するいくつかの国の投資動
向についてまとめた(図表3
0)
。例えばポジショ
遂行上のリスクもそれほど高くないとの評価か
ら、近年、自動車業界や電機・電子業界を中心に
欧米系企業による直接投資が増加している。
ン)に位置するベトナムでは、安価な労働力と勤
勉な人材を有望理由として、日系企業が工場設立
(3))∼+ポジションにおける基本的な方向性
を増加させている。ポジション*に位置する韓国
生産拠点として捉えた場合、各ポジションは異
は、労働集約型の投資誘致から知識集約型の投資
なる競争力の源泉を有している。海外直接投資に
誘致に転換し、統括拠点誘致の基盤づくりを推し
おいては、各ポジションの性質の相違を明確に認
進めている。ポジション-に位置付けられる東欧
識し、その性質を活かせる事業領域、組織体制、
諸国では、労働コストが低いにも関わらず、事業
事業評価指標や人事制度を確立しなければならな
2004年2月
第18号
95
い。例えば、ポジション)では、リスク管理のた
一貫して上昇しており、低労賃を武器としたコス
めの現場統制が欠かせない。また評価指標は製造
ト競争力を得ることは困難になってきている(図
コスト中心で行う。ポジション*では、効率的な
表3
2)
。一方、マレーシアのカントリーリスクは、
バリューチェーンの拡大が鍵になるが、そのため
一時的な上下変動はあるものの、長期的には低下
には、現地法人の評価体系をトータルコストや効
のトレンドにある(図表3
3)
。このことから、最
率性へとシフトさせ、生産性に応じた評価を行う
近のマレーシアは、そのポジションを)から*へ
と共に、現地社員へ権限委譲を行い自立的現地経
とシフトさせているといえる(図表3
4)
。
営を促進する必要がある。例外的なポジションで
ある,、-を除く)、*、+の各ポジションに適
3.まとめ
した事業領域と体制は、以下の通り整理される
(図表3
1)
。
この章では、各国の生産拠点としての位置付け
を労働コストとカントリーリスクの二つの視点で
2.マレーシアの位置付け変化
評価した。その中で、ポジション)では、労働コ
ストがキードライバーとなり、ポジション*で
このフレームワークの中で、他国と同様、マ
は、リスクの低下によって整備された事業インフ
レーシアの位置付けも変化している。その変化を
ラをベースとした機能領域の拡大が競争力を維持
労働コスト、およびリスクの推移から見る。コス
する上で重要であると指摘した。また、マレーシ
トについては、近年、マレーシアの労働コストは
アが、徐々にそのポジション)から*へとシフト
図表3
2 マレーシアのカントリーリスク推移
図表3
3 マレーシアの賃金推移
リスクが
高い
500
ドル
(月給)
400
5.8
6
6.2
→マレーシアのリスクは
減少傾向
300
6.4
200
6.6
6.8
リスクが
低い
7
1999
マレーシアの賃金
マレーシアのリスク
2000
2001
→一方で、労働コストは
上昇
100
2002
0
1995
2003
1996
1997
1998
1999
2000
出所)R&I Country Risk Survey20
0
3
出所)International Labor Organization、ジェトロ資料よりアビー
ム コンサルティング作成
図表3
4 日系・欧米系のマレーシアにおける事業展開の違い
(低い)
①
日系
→日系は、マレーシアで
ポジション①の国に適
した事業展開をしてい
る
●労働コストを重視し
た事業展開
●マレーシアの労賃の
上昇を強く懸念
■マレーシアのポジションは①から②
へとシフトしつつある
欧米系
マレーシア
労
働
コ
ス
ト
③
カントリーリスク
96
開発金融研究所報
→欧米系は、ポジション②
の国に適した事業展開を
している
②
●トータルとしてのコスト競
争力に着目した事業展開
●マレーシアのリスクの低さ
を高く評価
(低い)
させてきていることを述べた。
まず、
「製造機能における生産性の向上」にお
また第2章では、マレーシアで事業を行う日系
いては、大きく3つの施策が考えられる。第1
企業が、製造原価、特に労働コストを重視する傾
に、高付加価値製品の生産にシフトしていくこ
向が強く、一方で、欧米系企業は、コストについ
と、第2に、生産規模を拡大することにより、労
ては全体的な評価を行い、特に進出国のリスクの
賃の上昇をカバーする生産性を確保していくこ
低さを重視していることを明らかにした。
と、第3に、労働コスト自体も、インドネシアの
これらを考え合わせると、ポジション)を前提
とした日系企業の事業展開姿勢や投資環境評価
様な近隣の低賃金国から労働者を雇い入れること
である。
は、ポジション*にシフトしつつあるマレーシア
また、
「バリューチェーン拡大による競争力の
とのミスマッチを起こしているのである。これ
創出」とは、既存の製造機能を中心に設計や販売
が、同国への投資や事業展開に対して様子見の傾
といった機能を同一拠点で有することによって新
向を見せる結果を生んでおり、逆にポジション*
たに競争力を創出する方法である。以降、このバ
で有効に機能する事業展開を取っている欧米系企
リューチェーン拡大の効果、拡大に向けて検討す
業は、マレーシアに対するコミットを強めてい
べき論点を述べる。
る、と言うことができる。
第4章
2.バリューチェーン拡大のために検討
すべき論点
日系企業への提言
(1)検討すべき論点と具体的検討事項
1.競争力創出のための施策
マレーシア拠点のバリューチェーンを拡大する
ためには、まず「バリューチェーン拡大の効果
(実
前章で述べたように、ポジション*にシフトし
施妥当性)
」と「バリューチェーンを拡大できる
つつあるマレーシアにおいて、日系企業が今後と
か(実現可能性)
」という2点について検討する
も競争力を強化させていくためには、これまでの
必要がある(図表3
6)
。実施妥当性の検討におい
低賃金に依存しない競争力創出が必要である。本
ては、設計/開発やサービスといった製造以外の
稿ではそのための施策の方向性として、
「製造機
機能をマレーシアに移転することによる効果、お
能における生産性の向上」と「バリューチェーン
よび体制移行に伴う投資額を定量的に評価する。
拡大による競争力の創出」の2方向を考えたい
(図
また、各企業が固有に持つ制約条件・制約構造を
表3
5) 。
考慮しつつ、人材スキルや事業インフラ整備状況
*2
1
図表3
5 競争力創出のための方向性
基礎
開発設計
技術開発
調達
物流
製造
販売
サービス
Ⅰ. 製造機能における生産性の向上
→高付加価値の製品を生産することによる利益率の向上
→マレーシア拠点における生産規模の拡大よる固定費率
の低減
→低賃金国(インドネシアなど)からの労働者雇い入れ
による労働コスト削減
Ⅰ
現状
Ⅱ. バリューチェーン拡大による競争力の創出
Ⅱ
以降で説明
出所)アビーム コンサルティング
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2
1 本稿では、あくまで製造を中心とするマレーシア事業強化の観点から、売上(販売先の確保)に関する議論は行わない。ただ
し、販売拠点としてのマレーシアの可能性について、
「中東をはじめとするイスラム圏へのGatewayである」と指摘する企業
があったことを紹介しておく。
2004年2月
第18号
97
などのマレーシアの投資環境を把握し、バリュー
あると考える(図表3
7に挙げた2∼5段階)
。
チェーン拡大の実現可能性を検討する。
(3)バリューチェーン拡大効果の算定
(2)バリューチェーン拡大による競争力の創出
バリューチェーン拡大の意思決定においては、
まず「バリューチェーンの拡大」による競争力
その効果を感覚的に認識するのではなく、定量的
の創出は、各工程のコスト削減効果、そして各工
な簡易シミュレーションを実施してみるのが有効
程間のコスト削減効果によって生まれる(図表
である。その効果は、バリューチェーン拡大の5
3
7)
。つまり日系企業は、整備されつつあるマ
つの段階に応じて、
「2.機能ごとの部分コスト
レーシアの事業環境を活かす形で拠点機能を拡充
の削減」
「3.機能間に潜むコストの削減」
「4.
させ、効果的なバリューチェーンを確立すること
キャッシュフローの改善」の3つのコスト削減効
によって全体の生産性を向上させることが可能で
果と、市場(または顧客)の求める製品を適切な
図表3
6 バリューチェーン拡大において検討すべき論点
バリューチェーン拡大において検討すべき論点
具体的検討事項
→コスト削減効果などの“定量的”評価
①部分コスト削減効果
②工程間に潜むコストの削減効果
③付加価値効果
バリューチェーン
拡大の効果は?
バリューチェーン
拡大の検討
→体制移行に伴う投資額の算出
(実施妥当性の検討)
→投資環境の評価
バリューチェーン
を拡大できるか?
マレーシアの
投資環境は十分か?
(実現可能性の検討)
自社の制約条件・
制約構造は
解消可能か?
人材のスキルのレベル 制度政策 事業インフラの整備状況、他
→制約条件の解消
日本国内の雇用の確保
R&D機能移転に伴う技術移転のスキル不足(英語を含む)
知財保護権保護に関するノウハウ不足
→制約構造の解決
R&D/製造/販売の各部門の連携の脆弱性
製造部門(事業部)直下の組織構造
現地法人の自立性の低さ
出所)アビーム コンサルティング
図表3
7 競争力創出のための5段階
競争力創出の
ための5段階 (例)
1.
バリューチェーン
拡大の効果は?
バリューチェーンの拡大
基礎
技術開発
直接労働
コストの削減
開発設計
調達
A . 直接工による労働コストの低減
製造
物流
A
販売
サービス
コスト低減
(実施妥当性の検討)
バリューチェーン
を拡大できるか?
マレーシアの
投資環境は十分か?
2.
機能ごとの
部分コストの削減
(実現可能性の検討)
自社の制約条件・
制約構造は
解消可能か?
3.
4.
5.
出所)アビーム コンサルティング
98
開発金融研究所報
機能間に潜む
コストの削減
キャッシュフロー
の改善
付加価値の創出
B . 設計の現地化によるコスト低減
C. 現地調達率の向上による材料コストの
低減
D. 物流/倉庫費用等の低減
E . 量産化に係る設計⇔製造部門のコミュ
ニケーションコストの削減
F . 調達と製造の連携による業務重複の解
消/フィードバック機能の強化
G. サプライヤーとの協働による部品コス
ト削減
H. 設計から量産化までのスピード短縮
I . 製品トラブルへの早い対応
J . リードタイム短縮による在庫の圧縮
K . マーケットニーズに俊敏に対応した新
製品の早期投入による先行者メリッ
ト(高い利益率)の抄出
L . 顧客との密接なコミュニケーションに
よる満足度向上
B
C
D
E
G
コスト低減
効率化
F
現地サプライヤー
H/I
K
J
短縮化
スピード強化
L
顧客
時期に投入することによる利益率の向上や、顧客
各効果について具体的にみると(図表3
8)
、例
満足度の向上などの「5.付加価値の創出」に
えば「2.機能ごとの部分コストの削減」につ
表れることになる。こうした効果のそれぞれにつ
いては、R&Dや現地法人の経営を行うエンジニ
いて、具体的/定量的/客観的な分析を行う必要
アや管理職クラスの人件費が日本の3
5%∼4
0%
がある 。
であることから、設計や研究部門の移管やマネジ
*2
2
図表3
8 バリューチェーン拡大によるコスト削減効果
バリューチェーン拡大によるコスト削減効果
1.
2.
4.
・材料費
・物流費
・人件費
直接労働
コストの削減
・部門間のコミュニケーション時間
・重複業務の解消
・リードタイム短縮 ?
による在庫の圧縮
機能ごとの部分
コストの削減
3.
機能間に潜む
コストの削減
効果の分析事例
2. 「機能ごとの部分コストの削減」効果の例
現状
コスト
→マレーシアの人件費(エンジニア/管理職)
は日本の35%∼40%であり、周辺機能を日
本からマレーシアに移転することにより大幅
な人件費減が可能
3. 「機能間に潜むコストの削減」効果の例
→製造業の部門間のコミュニケーションに要す
る時間は、年間間接労働量の13%に相当。
マレーシアに設計等の機能を移管すれば本社
⇔マレーシア間のコミュニケーションコスト
は大幅に減少(*)
体制移行に伴う バリューチェーン
拡大後のコスト
コスト増
キャッシュフロー
の改善
5. 「付加価値の創出」効果の例
?
5.
付加価値の創出
*
→バリューチェーン拡大効果を、それぞれの
領域で“定量的”に見積る必要がある
→開発∼製造までの時間を削減し、市場投入ま
での時間を25%削減できれば、収益を6∼
8%向上可能(*)
アビーム コンサルティング分析
図表3
9 日系/欧米系の事例研究
マレーシア拠点における事業の取り組み状況
バリューチェーンの展開
基礎
技術開発 開発・設計
調達
製造
(生産・テスト)
物流
販売
サービス
製造中心の事業展開
日系
A社
マレーシアは製造拠点と位置付け。設計・開発機能は日本、調達機
能は現地化を進めているが、キーコンポーネントは日本から輸入。
B社
マレーシア拠点は製造機能としての役割のみを持つ。半導体のウエ
ハーは日本から100%輸入し、その他の部材は、現地調達を進めて
いる。今後も設計・開発機能を持たせることは考えていない。
C社
ある部品以外のほぼ全ての部品を現地調達しており、現在、設計・
開発機能の強化を図ろうとしている。クレーム対応スピードを短縮
させるため、現地にて24時間カスタマーサービスを実施できる体
24時間のサービス体制を構築
制を構築中。
成熟期にある製品の開発・設計から製造までをマレーシアで行って
おり、世界市場への出荷機能も完備。近年、マレーシアに存在した
複数の拠点を1つにまとめ、現地法人の自立経営を目指す。
成熟製品“X”は設計から全世界への出荷をマレーシア拠点で実施
(電子デバイス)
(半導体)
(半導体)
D社
(AV機器)
バリューチェーンを左右に拡大
E社
半導体後工程の最先端プラントとして、Time-To-Marketのスピー
ド化のため基礎開発研究から販売まで一貫した事業展開を行う。マ
(半導体)
レーシア拠点は、中国、フィリピン、コスタリカにある製造拠点を
統括。
90年代よりマレーシア拠点で開発、設計業務を始め、近年では米
F社
(電子デバイス) 国の開発研究所と対等な立場で当該業務を実施。電子測定機器事業
については西日本の工場の生産ラインをマレーシア拠点に集約予
定。
マレーシア拠点が設計・開発∼製造・品質管理・販売までの全ての
G社
(PC・サーバ機器) 機能を有し、アジア地域におけるBTO(受注生産)の中核を成す。
ベナンにはアジア・パシフィック地域をカバーするコールセンター
も有する。
マレーシアのペナン島にラジオ機器及びデータ通信システムの生産
H社
(情報通信機器) を軸とした基礎研究から開発設計、調達、物流、販売、アフター
サービスまでのバリューチェーンを構築
欧米系
後工程の世界先端の技術開発
開発・設計は米国と対等な立場
アジア・パシフィック地域をカバーするコールセンター
出所)インタビュー、各種資料、アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2
2 また、効果算定時には体制移行に伴うコスト増要因に関しても考慮する必要がある。
2004年2月
第18号
99
100
開発金融研究所報
制約構造は
解消可能か?
自社の制約条件・
マレーシアの
投資環境は十分か?
●輸入関税
●国産化規制
・ I P C( 国 際 調 達
セ ン タ ー )設 置
奨励政策
調達
(IPC)
生活
文化
事業
環境
物流
(RDC)
販売
●セールス、マーケティング、顧客
サポート人材確保の可能性
・外国人生活環境
(学校・病院な
ど)
・主要国との交通
利便性
●コピー・模倣等 ・暗黙のローカル ・宗教民族意識の
に対する意識
コンテント要求
強さ
・欠勤に対する意
識
・外資の製品に対する意識
・広告に対する意識
・約束の履行可能性
・外資への恣意的課税・追徴の習慣
・模倣品に対する意識の高さ
●資金調達コスト ・研究開発施設の ●大学、研究施設 ●第三国からの調 ●電気・水道整備 ●輸送インフラの ●競合環境
充実度
の充実度・集積
●市場規模・成長性
達可能性
立地可能性
状況
●金融システムの
●通信インフラの ●有望な外注先
●裾野産業の充実 ●物流業者の質と ●売上代金の決済
安定性
慣行
コスト
整備度
●産業の集積度
度
●部品調達状況
・外注先パートナー ●通信インフラの ●販促に係わる費
用
整備度
●仕入代金の決済 ・地価・施設費用
・河川等の整備状況
●オフィス事情
慣行
・在庫管理スキル
を持った人材
●輸出入手続きの ・政府による製品 ●消費者保護規制
●雇用規則
購入
迅速性
・国産化規制
・独占禁止法
・移転価格税制
・環境規制
・ 地 域 流 通 拠 点 ・VAT
・移転価格税制
(RDC)奨励政
・環境税
策
・各種投資優遇策
・行政の介入
サービス
●影響の大きい投資環境要素
・その他の投資環境要素
●製品市場からの ●GDP成長率
●政治的安定
距離
●為替・インフレ等
●国民所得水準
●戦争・紛争の勃発
●自然災害の頻度
製造
(生産∼テスト)
●専門家
(会計士・ ●高度な専門知識 ●設計開発人材の ●賃金(直接労務者)
弁護士等)
質
を有する研究者
●組立て人材の質
●経営管理人材の
●設計開発人材の ●優秀な税理士
の集積度
質
労賃
●ストライキ(労働争議)の慣行
●英語能力
●輸送インフラの充実度
開発・設計
人的
資源
基礎
技術開発
制度
政策
・本国や各アジア
拠点からの距離
OHQ
●OHQ(地域統括
拠 点 )設 置 奨 励
政策
●知的財産保護法制の整備度
・各種税制(法人
・研究開発に対する税制上の優遇措置
税・所得税・奢
・ロイヤリティ課税
侈税)
・外資出資比率
国家
状況
注)すべての機能に影響する投資環境要素は一部省略している
出所)アビーム コンサルティング
(実現可能性の検討)
バリューチェーン
を拡大できるか?
(実施妥当性の検討)
バリューチェーン
拡大の効果は?
投資判断
要素分類
進出形態
図表40 各機能において重視すべき投資環境要素
メントの現地化によって大幅なコスト削減が可能
投資環境が整備されつつあると考えられる。特に
である。
マレーシア以外への販売活動において重要な要素
また「3.機能間に潜むコストの削減」につ
となる、多民族性・多言語対応能力や設計・開発
いてみると、製造業の部門間のコミュニケーショ
機能に必要なエンジニア人材、事業インフラ、知
ンに要する時間が、年間間接労働量の1
3%に相
的財産権の法制度については、欧米系を中心に高
*2
3
当するという調査結果 から、マレーシアに設
い 評 価 を 与 え る 企 業 が 多 い。こ の よ う に、バ
計等の機能を移管すれば、本社―マレーシア間の
リューチェーンの拡大とともに、チェックすべき
コミュニケーションコストは大幅に減少すること
投資環境要素も増えることがわかる(図表4
1)
。
が期待できる。
最後に「5.付加価値」効果についてみると、
開発∼製造までの時間を削減し、市場投入までの
4.バリューチェーン拡大を阻害する自
社の制約
時間を2
5%削減できれば、収益を6∼8%向上
可能であるとの試算*24があり、この点からもバ
いっぽうで、バリューチェーン拡大において
リューチェーン拡大によるリードタイム短縮につ
は、自社の制約条件も検討しなければならない。
いて、定量的に示唆できよう。
日系企業のバリューチェーン拡大の障壁となって
いる主な制約条件として、)日本国内の雇用の問
(4)マレーシアの現状把握
題、*R&D機能移転に伴う技術移転スキル不
また、バリューチェーンを拡大するためには、
展開する機能の範囲においてそれぞれ必要とされ
足、+知的財産保護のノウハウ不足が挙げられる
(図表4
2)
。
る投資環境要件が整っているかを把握・分析する
まず)については、派遣技術者を国内で養成す
作業が不可欠である。バリューチェーンの形態と
るなど、海外移転が可能な技術分野に関して、日
投資環境要素の関係についてのフレームワーク
本人技術者の変動費化を推進することで解決でき
を、以下の通り整理した(図表4
0)
。
ないだろうか。また、*については、エンジニア
このフレームワークに基づき、特にマレーシア
の英語教育を充実させ、海外技術者との円滑なコ
の投資環境を見ると、製造機能のみでなく、販
ミュニケーションを促進するなどの対策が考えら
売・サービスや開発設計などの機能に対応しうる
れる。最後に+については、本社レベルの一括管
図表4
1 バリューチェーン拡大の観点から見たマレーシアの状況
OHQ
バリューチェーン
拡大の効果は?
基礎
技術研究
開発・設計
調達
製造
物流
販売
サービス
(実施妥当性の検討)
バリューチェーン
を拡大できるか?
マレーシアの
投資環境は十分か?
(実現可能性の検討)
自社の制約条件・
制約構造は
解消可能か?
◆シンガポー
ルに比較し
て、安価で
英語を話せ
る事務職の
確保が可能
◆エンジニア/研究者の確
保や知的財産権法制に対
する整備状況はASEAN
/中国の中で最も高い評
価を得ている
◆国家プロジェクトとして
マルチメディア・スー
パー・コリドー計画を実
施中。通信インフラも整
備されつつある
◆ローカルサプラ ◆空港/港の整備 ◆マレーシアは英語、中国語
イヤーの質・量
度は全世界の中
マレー語を話し、マレー、
ともグローバル
でも15位にラン
中国、インドといった複数
で高いクラスに
クされる
文化を背景に持つ多民族国
ランキングされ
家であるため、東アジア域
る。
(世界19位)
内諸国を始め、世界の様々
な商圏にアクセス可能
◆ポートクランやペナン港では、物理
的なインフラ整備に加え電子データ ◆一人あたりGDPはUS$3,000
を超えており、NIESを除く
交換システム(EDI)が整備されて
域内諸国においては最高レ
いるため、書類の電送が可能にな
ベルの経済力(消費能力)
り、通関手続きの迅速化が図られて
を持つ
いる
◆マレーシアは5つの国際空港を持ち
クアラルンプール国際空港ペナン国
際空港を始めとする全ての空港にお
いて国際航空貨物を扱う事が可能で
ある
出所)インタビュー、各種資料「World Economic forum等」よりアビーム コンサルティング作成
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2
3 アビーム コンサルティングによる分析結果
*24 アビーム コンサルティングによる分析結果
2004年2月
第18号
101
図表42 日系企業におけるバリューチェーン拡大上の制約条件
バリューチェーン
の拡大を阻害する
制約
バリューチェーン
拡大の効果は?
(実施妥当性の検討)
バリューチェーン
を拡大できるか?
マレーシアの
投資環境は十分か?
日本国内の雇用
の確保
(実現可能性の検討)
自社の制約条件・
制約構造は
解消可能か?
R&D機能移転に
伴う技術移転の
スキル不足
知的財産権保護
に関するノウハ
ウ不足
インタビューに
おけるコメント
設計・開発機能を海外に移転
できないのは、日本国内の雇
用の問題もあるだろう。(大
手電子メーカー)
技術的に、海外でも可能であ
るが日本の技術者の職がなく
な っ て し ま う 。( 大 手 家 電
メーカー)
現地法人の設計・開発機能が
育成されないのは、日本人が
英語が苦手だから。(大手総
合電機メーカー)
結局、英語でコミュニケー
ションをとって設計を行うよ
りも、自分たちでやったほう
が早いということになりがち
で あ る 。( 大 手 部 品 メ ー
カー)
海外生産でコスト競争力はつ
いたが、中核要員として育て
た海外技術者が技術ごとライ
バル企業に簡単に流出してし
まう。
(業界関係者)
今後の課題
1. 海外移転が可能な技術分野に関しては、日本
人技術者の変動費化を推進する
(派遣エンジニアの活用)
1. 文書化/フォーマット化を進めナレッジマネ
ジメント体制を強化する
2. エンジニアの英語教育を充実させ、海外技術
者との円滑なコミュニケーションを促進する
3. 逆に、マレーシアのエンジニアを日本に派遣
し、語学および技術の移転を図っていく
1. 知的財産保護戦略本部を設置し、本社レベル
の一括管理だけでなく、現場レベルまで知的
財産権保護に対するノウハウを浸透させる
2. 優秀な現地弁理士/弁護士との協働体制を確
立する
出所)各種資料、インタビューよりアビーム コンサルティング作成
理だけでなく、現場レベルまで知的財産権保護に
点をコーポレート直轄の自立的経営組織とすると
対するノウハウを浸透させることが重要であると
共 に、業 績 評 価 指 標 をQCDや 製 造 原 価 か ら
考えられる。このような課題を解決することで、
キャッシュフローや利益指標に変え、開発・拡張
バリューチェーン拡大のための制約を少なくする
投資などの権限を現地に委譲していくことが求め
ことができるのではないかと考えられる。
られるのではないだろうか(図表4
4)
。
5.コーポレートが主導権をとる
また日系企業の多くは、コーポレート*25、本
まとめ
―日系企業への提言―
1
9
7
0∼8
0年代の同時期に、同じ目的を持って
社部門、現地法人といった組織上の各階層におい
マレーシアに進出した日系/欧米系企業であるが、
て、バリューチェーン拡大に対して様々な問題を
今日の両拠点の位置付けは異なる様相を呈してい
抱えている。日系企業がマレーシア拠点を持続的
る。日系企業の多くは、低廉な労働コストを活用
に成長・発展させていく為には、各階層におい
した製造拠点としての位置付けを進出当初から変
て、図表に挙げるような障壁を取り除いてゆくこ
えていないが、欧米系の中には、積極的に事業領
とが必要であろう(図表4
3)
。
域を広げている企業も多い。
その背景には、日系企業の現状路線踏襲型の硬
6.現地法人の自立的組織への転換
直的な組織構造があると思われる。例えば、3∼
5年の期間限定の出向者を中心とした現地法人マ
こうした日系企業の構造的問題を解決するため
ネジメントでは、現地の状況変化に合わせて、機
には、コーポレートが全体最適の視座に立ち、海
敏にオペレーション体制を変え、積極的に拠点経
外拠点をコントロールすると同時に、現地法人
営を発展させることは難しい。また、現地法人自
が、自らバリューチェーンを拡張させるようなし
体が、本社スタッフよりも製造部門との密接な関
くみが必要となる。そのためには、マレーシア拠
係を持つため、開発/設計機能の拡充やアジアへ
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2
5 コーポレート:本社の管理統括機能全体を指す。
102
開発金融研究所報
図表4
3 日系企業の一般的な組織構造
日系企業の一般的な組織構造
バリューチェーン
拡大の効果は?
コーポ
レート*
(実施妥当性の検討)
バリューチェーン
を拡大できるか?
バリューチェーン拡大の障壁となる現象
→ マレーシア拠点を製造事業部下の“一工場”と認
識し、鳥瞰的視座から全体最適を追求することが
少ない
コーポレート*
マレーシアの
投資環境は十分か?
(実現可能性の検討)
自社の制約条件・
制約構造は
解消可能か?
本社部門
研究
開発
×
×
製造
販売
→ 投資の意思決定も、投資後のコントロールも製造
部門が主体で、製造以外の機能を持たせる意識が
働かない
→ R&D/製造/販売の各部門の連携が弱い
業績管理
出向日本人
現地法人
現地法人
ローカルスタッフ
製造
→ 現地法人の業績評価指標は製造原価、QCD、本
社で決められた仕切値に基づく擬似的な利益指標
で、トータルコストの視点は根づかない
→ マネジメントは3∼5年の期間限定の出向者が多
く、現状維持の姿勢が踏襲されがち
→ 主要ポジションが日本人で固められているため
ローカルのマネジメントが育たず、更に、現地人
は出世できないため優秀な人材が欧米系企業に流
出
出所)各社インタビュー、各種資料よりアビーム コンサルティング作成
図表44 自立的経営への転換(例)
日系企業に多く見られる組織体系
コーポ
レート
コーポ
レート
バリューチェーン
拡大の効果は?
(実施妥当性の検討)
バリューチェーン
を拡大できるか?
自立的経営組織への転換(例)
研究
開発
マレーシアの
投資環境は十分か?
製造
研究
開発
販売
販売
キャッシュフ
QCD/製造原価 ロー利益指標
(実現可能性の検討)
現地法人
現地法人
自社の
制約は解消可能か?
製造
日本人中心のマ
ネージメント
現地のローカルスタッフ
中心のマネジメント
拠点の位置付け
製造事業部下の低コスト
製造工場
経営陣の立場
期間限定の出向社員
成果を求められる経営者
業績評価指標
QCD/製造原価
キャッシュフロー/利益指標
オペレーションコントロール
日本人中心
権限委譲されたローカルスタッフ
人事制度
「結果の平等」を確保
成果主義人事
主な関心領域
日本本社の内部事情
マレーシア/アジアの市場環境
投資権限
メンテナンス投資中心
開発・拡張投資
コーポレート直下の
自立的経営組織
出所)アビーム コンサルティング作成
の販売拡大が自発的に起こりにくい構造になって
しかし、現在、このようなオペレーションは限
いる。その業績評価もQCDや製造コストを中心
界に達しつつある。拠点をとりまく外部環境、つ
に行われていれば、拠点事業の発展よりも製造部
まり投資先国自身のポジショニングが刻々と変
門独自の部分最適追求が優先される。また販売部
化/発展を遂げており、企業に対して変化に合わ
門は、独自に販社との密接な関係を持ち、結果と
せた構造変化を迫っているからである*27。
して、一企業グループの中でマレーシア一国で製
土壌が変わればそれに合わせたアプローチが必
造会社/販社をあわせて1
0数社もの組織が設立さ
要となるのは言うまでもない。マレーシアにおい
れるという状況も珍しくない 。
ても労働コストのみをキードライバーとした展開
*2
6
2004年2月
第18号
103
が限界に達する日は遠くないだろう。近い将来、
2.欧米系電機・電子製造業のアジア投資戦略
ベトナムに生産拠点としての優位性を奪われる可
欧米系の企業は、全般的に日系のメーカーに比
能性や、急速に発展する中国に資本集約的分野で
べて、企業戦略の要である投資戦略に関する情報
後塵を拝する可能性は否定できない。また、中国
の公開に消極的であり、その情報の質/量ともに
の投資環境についても、日系企業の評価手法との
日系に比べて限られたものとなった。また、地理
ミスマッチを起こす日がくるかもしれない。今、
的な制約等から、今回の調査では欧米系企業の本
日系企業に求められるのは、まずアジア各国の状
社企画部門へのインタビューは見送っている(日
況変化を機敏に捉える目(投資環境を評価する目)
系企業については実施)
。本来、海外直接投資の
を養うことであることは明白である。
意思決定について実質的な判断を行っている欧米
こうした状況下、本稿では投資環境としての
本社へのインタービューが有効と考えられるが、
様々な要素を、財務的視点、バリューチェーンの
欧米系企業については、現地インタビュー、調査
視点、の二種類のフレームワークによって整理し
アンケート、及び二次情報に基づいて分析を行う
た。この整理が、海外拠点を製造手段としての位
に留まっている。
置付けから開放し、拠点自体の発展を促すような
体制を構築しなければならないわが国企業にとっ
て、視野を広げるための海図となることを期待す
る。
3.バリューチェーンにおけるコスト構造分析
日系、欧米企業を問わず、製品毎のコスト構造
は基本的に企業秘密であり、また、製品特性、出
荷先市場、研究開発のタイミング等により、その
補足:今次調査における限界と課題
構造は大きく異なる為、厳密なコスト構造のモデ
ルを洗い出すことは困難であった。そのため、バ
1.電機・電子産業に係わる事業形態の多様性
リューチェーンの構成要素に係わるコスト構造分
マレーシアに進出している日系・欧米系の電
析と、バリューチェーンの拡大によるコストの削
機・電子メーカーは、現地オペレーションの規模
減効果の定量的な把握については見送っている。
が、数十人程度の部品メーカーから数千人規模の
グローバル多国籍企業まで多岐にわたり、また事
4.守秘義務契約による情報開示の制約
業内容も、部品、家電、IT、半導体製品と幅広
日系・欧米系の各企業へのインタビュー行うに
い展開を見せている。事業の規模と分野の違い
あたっては、守秘義務契約を取り交わしている
(事業特性)は、必然的に投資戦略に大きな影響
為、インタビュー先企業が各種媒体にて一般に公
を与える。日系企業と欧米系企業という視点か
表していない情報に関しては、個別企業名や、個
ら、両者の投資行動の差異を普遍的に分析するに
別企業名が特定できる事例についての開示が制限
あたり、両者の事業特性の差異による影響を排除
された。
し切れていない面がある。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2
6 以上のような海外拠点経営の構造的な問題は、日系企業と欧米系企業における株主(所有者)と経営者の関係の違いに、その
原因の一つがあると考える。欧米系企業では、株主に対して最大のリターンを提供すべく、おのずとトップダウンの素早い意
思決定が求められている。海外直接投資は、当然、トップの直轄に置かれる。トップは鳥瞰的視座から海外投資の意思決定を
行い、投資後も海外事業価値を高めるために持続的に事業領域を広げることになる。価値なしと見るや撤退の意思決定も早
く、実際、マレーシアの欧米系企業の過去2
0年間の事業継続率は、約5
0%(日本貿易振興機構提供資料による)とあまりに
低い水準にある。
これに対し、これまでの日系企業は、株主に対する短期的な利益還元よりも長期的な成長が重視され、おのずと事業の基本
方針は、事業の収益性よりも事業の継続そのものに重きを置かれてきた。継続を重視する土壌では、組織の間にも徐々に現状
維持を踏襲する企業文化が培われ、意思決定は現場からのボトムアップ、特に海外投資判断は製造部門中心で検討されること
もあって、拠点の位置付けについて企業価値全体を見据えたラディカルな変化が起こりにくい構造があったといえよう。
*2
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