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1998年12月(Vol.8)
パレットの上でさまざまな色を 調和させていくように 薬剤師さんにとっての理想の姿、 求めている色をつくりだすための お手伝いができたら… そんな願いをこめてお届けします。 ●病気と薬 ー臨床栄養シリーズ ①ー 輸液と薬剤師の役割 ●フェイス&フェイス 日本医科大学付属病院薬剤部 ●仕事のくすり ●Otsuka Information ●情報キャンバス DI-OTSUKA 薬剤部・薬局訪問 ● 第8回 日本医科大学付属病院・薬剤部 救急医療の現場で、 薬剤師が活動する意義は大きい 薬剤部長:平野公晟 先生 救命救急センターの先駆け的存在である日本医科大学付属病院では、薬剤師も救急医療チー ムの一員として活動しています。薬剤部長の平野公晟先生から、救急医療に薬剤師さんがど うかかわっているかなどをお聞きするとともに、一般病棟も含めた薬剤師業務の標準化につ いてもうかがいました。 ICUとHCUでの感染防止を中心に活動している 療が行われた後、ICUとHCU(High Care Unit)で ss 救命救急センターに専任の薬剤師さんがスタッ の感染防止が専任の薬剤師の大きな仕事になります。 フとして配置されている病院はまだ少ないようです ね。 診に参加し、注射薬、内服薬のセットを行うなど一般 平野 平成7年に調査をしたところ、救命救急センタ 病棟での業務と基本的には変わりません。ただ、重篤 ーが設置されている施設のうち、専任の薬剤師が配置 な患者さんが多く、病態が変わりやすいため、TDM されているのは28.1%でした。まだ少ないのは、救 業務がとくに重要です。血中濃度の測定結果と病態の 命救急センターの施設基準に専任の薬剤師を置くこと 変化をみて、薬剤師が値の変化をどう読んで、どうコ が明記されていないこともありますが、薬剤師が救急 メントするかが問われています。実際、医師から薬剤 医療に参加する必要性が十分認識されていないことが 投与の計画に関する依頼が非常に多い。とくに熱傷患 大きな理由になっていると思います。昭和61年から 者さんは、薬物分布容積が大きく、抗生物質などの血 2名の薬剤師を常駐させて活動している当院としては、 中濃度が上がりにくい場合が多いので、TDMは患者 平野公晟 先生 1 ルーチンワークとしては、医局カンファレンスと回 救急医学会など さんの救命という面からも重要です。 で、なぜ薬剤師 ss 重要な業務として、他にどんなことがあげられ の活動が救急医 ますか? 療に必要なのか 平野 情報提供業務が最も重要と考えています。救急 を発表してきて 医療の現場では輸液や抗生物質などの注射薬の治療が います。 中心になることから、これらに関する質問に迅速に答 ss 救急医療 えることが求めれています。また、一般病棟に比べて の現場で、具体 病棟薬品在庫量が多くなる傾向にあるため、薬品管理 的にはどんな活 業務も重要です。当センターでは、専任の薬剤師が常 動をされている 駐するようになってから、薬品在庫金額が約20%減 のでしょうか? 少しました。 平野 患者さん その他重症喘息発作患者の例で、救急医療チームに がセンターに搬 薬剤師が参加しなかったケースと比較すると、薬剤師 送されて救命医 が参加した場合は入院期間が短縮され、入院費も削減 〔日本医科大学付属病院 〕東京都文京区千駄木1丁目1番5号 ●病 床 数:1164床 ●外来患者数:1日平均約2200名 ●外来患者への処方箋発行率:約66%(うち院外処方箋発行率:約76%) ●薬 剤 師:37名 ●救命救急センターsセンター病床数:35床(ICU 17床、HCU 18床)、スタッフ:121名 *昭和52年に厚生省認定第1号救命救急センターとして発足、その後平成6年に第1号の高度救命救 急センターに認定された。 できることがわかりました。その最も大きな要因は、 師しかできない仕事を考え直し、標準化した上で新し やはりTDM業務にあると思われます。 く求められていることに取り組んでいけばよいと思っ ています。 病棟業務を標準化することによって、 薬剤師の仕事が広く評価されるようになる ss 病棟業務の標準化のために、薬剤部で進めてい ss 先生は、日本病院薬剤師会の副会長などの役職 平野 仮の名称ですが“ドラッグ・チェックシート”と も務めておられますが、病院薬剤師業務の課題につい いったものを検討中です。薬剤の有効性・安全性・使用 てお考えをお聞かせください。 性などを評価し、その結果を医師にフィードバックし、 平野 薬剤師が病棟で何をすべきかという標準化がで 医師の処方支援を行うという病棟薬剤業務の目的を明 きていないことが課題ですね。薬剤師によって病棟の 確にし、標準化するために、各薬剤について患者さん 患者さんに深く入って対応しているケースもあれば、 の状態や検査値などのチェックするポイントを示した 浅くしか対応していないこともあります。特定の患者 ものです。そのシートによって、薬剤の投与を継続す さんだけに偏って服薬指導する傾向もみられます。そ べきか、中止すべきかを薬剤師自身が判断して、カル の結果、患者さんからみても、医師をはじめとした医 テなどにフィードバックしていくことを考えています。 療スタッフからみても、薬剤師は何をしているのかわ 現在、当院では一人の患者さんに対して薬歴の作成 かりにくく、薬剤師の仕事が十分に評価されていない やカンファレンスへの参加も含めて1時間前後の時間 のが現状でしょう。 を要しているのですが、標準化することにより半分の ることがありますか? そこで、薬剤師の病棟業務について、ミニマム・ス 30分になれば、2倍の患者さんに対応することが期 タンダードとしての標準化をすすめていく必要があり 待できます。より多くの患者さんに薬剤師の仕事をわ ます。薬剤師の仕事は多岐に渡っており、それを限ら かってもらうことが、今、病院薬剤師に求められてい れた人数で全てこなすのは難しい。したがって、薬剤 ます。 救急医療の現場で 薬剤師に求められる 役割は大きい 宮田広樹 先生 今年の6月から救命救急センターに配属されたばかりですが、TDM業務 や処方箋監査、薬品管理などでの薬剤師の役割の大切さを実感しています。 一般病棟と違うのは、対処しなければならない範囲が幅広いことと、情報 の迅速性が要求されることですね。重篤な患者さんが多いですから、ドク ターからの質問に対して直ぐに調べて即答していかなければなりません。 救命処置段階で積極的に行う業務としては、医薬品中毒の患者さんへの 対応があげられます。とくにドクターがよく知らないOTCの薬については、 成分を調べて対処法を示しています。 常にそういう知識も含めて幅広く押さえておかなければならない職場だ と思います。(談) 2 病気と薬 臨床栄養シリーズ① <輸液と薬剤師の役割> 輸液と薬剤師の役割 日本医科大学内科第2 教授 飯野 靖彦 先生 日本医科大学付属病院薬剤部 村田 和也 先生 「輸液」は病棟で日常的に実施されてい ますが、その基礎・臨床上の理解は、医師 の側も、医療スタッフの側も、十分とは いえません。しかし、ベッド上で相当な時 間を拘束される患者さんからは、「この 点滴はなぜ必要なのか」と、 説明を求め られる場合がしばしばあります。 今回は、この輸液を巡って、電解質輸液を 中心に、日本医科大学教授飯野靖彦先生 と、同大学付属病院薬剤部村田和也先生 の対談をお送りします。 村田 和也先生 「輸液」をどう患者さんに説明するか 飯野 そこが難しいですね。説明の仕方として 飯野 今日は「輸液」についての対談ということ は、どんな工夫をしていますか。 です。はじめに、経口薬などでは、患者さんに 村田 対して薬局でいろいろ薬剤師の先生が指導され ら飲んだり食べたりできないのだから、電解質 ていると思います。病棟ではどうなのでしょうか。 や水、カロリーを入れなければいけないという 村田 意味で、「食事や飲み水の代わりです」というよ 薬剤管理指導という業務の一環として、 そうですね。手術の後などですと、口か 患者さんと対面でお話しすることが増えています。 うな言い方が一番納得を得やすいでしょうか。 飯野 飯野 外来と違って、入院患者さんは輸液をし なるほど。でも、今までは医者が来て点 ている方が多いですね。輸液について患者さん 滴してさっと帰ってしまっていたのに較べれば、 から質問が出ることはありますか。 それだけでも非常にいいことですね。 村田 はい、結構あります。要するに「この輸 液は何ですか?」ということですね。 われわれとしては「電解質です」とか、ブド ウ糖だったら「栄養の液です」というように答 えますが、もう少し詳しくとなると、結構難し 3 飯野 靖彦先生 患者さんとのコンタクトで困ったことはあり ますか。 村田 栄養はともかく、電解質をうまく説明す るのは、意外に難しいですね。 NaとかKとか、具体的に説明しようとすると、 いです。答え方によっては患者さんに不安感を なかなか大変ですし、さらには、今のあなたに 与えてしまう場合もありますので。 何故それが要るのか、となると、患者さんの病 病気と薬 臨床栄養シリーズ① <輸液と薬剤師の役割> 態生理まで触れなければなり っていますから、少ないな、 ません。患者さんの理解度も 多いな、というのはわかりま 関係してきます。 すが、では、適正値はどのく 飯野 らいなのか、というのがなか 最近の患者さんの中に は、よく勉強している方もいら っしゃるし、できるだけ患者さんの理解度に応じ て説明するのは、非常にいいことだと思いますね。 なかわからないのです。 例えば、血清K値が3.2mEq/Lぐらいだった ら、Kをどのくらい入れていいのか、もし腎不全 だったらどうなのか。 薬剤師と医師の関係 飯野 もう一つ問題点は、薬剤師さんと医者の 関係ですね。 日本の医学教育というのは電解質とか輸液と これは血清値だけでなく、尿の量にも関わって くると思いますし、その患者さんの臨床データを 知っていないと、なかなかチェックできません。 飯野 単純にいうと、インとアウトですから、 かをあまり教えないことが多い。そこで卒業し 入ってくる量と出る量を調節すれば、その電解 て現場に出てから自己流に習う人が少なくない。 質濃度というのは決まってくるわけです。 ですから、輸液のオーダーが問題になるところ ただ、Kは細胞内液に多いですから、それが細 も出てくるわけですね。それを薬剤師さんがチェ 胞外液で下がってくれば、これはもう明らかに ックするということは非常に重要だと思います 欠乏があると思うんですね。よく成書に書いて が、その点はどうですか。 ありますが、血清のKが1mEq/L下がると、全 村田 身的には200mEq足りないというわけです。 普通の手術の後などですと、電解質と糖 であまり問題は無いのですが、特殊な病態にな 薬剤師さんに、そういう基本的な知識がある りますと、特に腎機能が悪い人などですと、輸 と医者の処方をチェックできるかもしれない。 液の量がかなりクリティカルになります。また、 患者さんへのインフォームドコンセントと、医者 Kはどうかなど、結構気になりますね。 の処方のチェックという点が、これから薬剤師 飯野 さんの役割として重要になってくると思います。 今のご指摘は非常に重要だと思います。 僕は腎臓が専門ですが、結局、輸液の量を規定 する一番の因子は腎機能でしょう。 腎機能がある程度保たれていれば、輸液の許容 配合変化・配合禁忌のチェック 飯野 もう一つ、輸液混合の問題があります。 量には相当の幅があって、まあ、輸液のオーダー 配合変化あるいは配合禁忌について薬剤師さん があまり正確でなくても大丈夫ですが、腎機能が からのチェックはいかがですか? 落ちてきた場合、Kの排泄も悪くなる、これを考 村田 慮せずにKを入れ過ぎると、高K血症で不整脈が りますが、輸液同士で絶対混合してはいけない 起こり、悪くすると心停止ということもあります。 というのはあまりないと思います。しかし、輸 ですから、そこを薬剤師さんがチェックする 液の中に他の医薬品(注射薬)を溶かすとなると、 輸液同士を混合するということはよくあ ようにならなければいけないわけですが、その いろいろ問題が出てきます。 点はいかがですか? 飯野 どんなものがあるんでしょうか。 村田 村田 確かにそれは我々も一番望んでいるとこ ろですが‥‥。検査値を見ますね。正常値は知 沈殿を起こすとか、力価が低下してしま う、ということがあります。沈殿が起これば目 4 に見えますが、力価が低下するというのは目に Kや水の入れ方はだいぶ違ってきます。それから 見えませんから、注意が必要です。 輸液の種類によっても大分違います。 飯野 力価が低下するとか、沈殿するとかは、基 輸液を大きく分けると、水分を補給する輸液、 本的に配合液の何が関係しているんですかね? 細胞外液を補給する輸液それに細胞内液を補給 村田 する輸液になります。 大体、pHの変化でしょうか。その他にも いろいろあります。 飯野 ブドウ糖は代謝されますから、5%程度のブド それから、輸液というのは通常、医者が ウ糖輸液は水分補給が目的となり、細胞外液・ オーダーして、あとは看護婦さんに任せてしま 内液の両方に均等に分布します。発熱等で水分 うわけですから、医師と薬剤師だけでなく、看 が失われた患者さんに投与されます。 護婦と薬剤師の相互チェックも大切ですね。 村田 生理食塩液や乳酸リンゲル液は電解質濃度が そうですね。配合変化には、単に処方の 細胞外液とほぼ同じなので細胞外液に分布しま 問題だけでなく、混ぜ方もありますからね。二 す。下痢とか出血といった細胞外液が減少した つの薬剤を直接小さな注射筒の中で混ぜると問 病態の患者さんに投与されます。 題が生じるけれど、大量の輸液の中なら大丈夫 また、生理食塩液を5%ブドウ糖液で2∼5倍 ということが、いくらもあります。(資料参照) に希釈された輸液を維持液類と呼び、1∼4号液 だから、どの順序でどう混ぜる、という指示も があります。これらは、細胞外液と細胞内液に 大切になります。これらの点は、看護婦さんに その濃度によって分布が変わります。3号液は維 指示しています。 持液と呼ばれています。 こういった面を医者もよく理解して使っておら 電解質輸液の種類と病態 村田 れるのかを、見ていく必要もあるでしょうね。 それから、点滴の速度ということがあり ますね。 尿中排泄量のチェックが必須 飯野 村田 そうですね、そこがすごく重要です。時 実際には、製品として生理食塩液や乳酸 には、点滴速度の指示がなくて看護婦さんが自 リンゲル液など、また、日本独特といわれる、 分たちの判断でやってしまうことがあります。 開始液、細胞内液修復用、維持液、術後用など 村田 標準的には、5%のブドウ糖500mLだと、 に分けられている一連の低張輸液など、いろい 1時間から2時間ぐらいですか。(表1) ろあるわけですが、病態との関連から、大きく 飯野 は、どう見ていけばいいのでしょう。(表2) そうですね。ただ、患者さんの病態の違 いで、手加減する必要がでてくる。 心不全の患者さん、腎不全の患者さんなどで、 表 1:最 大 投 与 速 度(実際はこれよりも遅くする) 飯野 前にもいいましたように、腎機能がちゃ んとしていれば、輸液には大きな許容範囲があ ります。低張性の輸液などは、安全で使いやす い輸液といえます。 しかし、腎機能が不十分だと、そうばかりは いっていられません。 維持液といっても、尿のNa、Kの排泄量を見な いで、1/3液とか1/2液を投与していると、電 解質異常が起こってくる可能性があります。です (越川昭三:輸液,1985より引用) 5 表2:主な輸液の種類 電解質輸液剤 等張性 生理食塩液 リンゲル液 乳酸リンゲル液 (ハルトマン液) 水分輸液剤 低張性 高張性 1号液 (開始液) 2号液 (細胞内修復液) 3号液 (維持液) 4号液 (術後回復液) (補正用) (1mEq /mL) NaCl KCl CaCl2 MgCl2 Na lactate K2HPO4 5%ブドウ糖液 栄養輸液剤 血漿増量剤 ビタミン剤 微量元素 糖質輸液剤 ブドウ糖液 キシリトール液 ソルビトール液 マルトース液 脂質輸液剤 アミノ酸輸液剤 グリセリン マンニトール 低分子デキストラン HES ゼラチン 血漿製剤 輸血 (飯野晴彦:一目でわかる輸液,1998) から、そこをチェックしているかどうかを、やは の致命的なトラブルを起こしてしまうことだっ り薬剤師さんが医者にフィードバックするべき てあるわけですから。 だと思います。 村田 一般に、血清電解質の値はよく見ますが、 肝不全、腎不全の電解質輸液 尿中の排泄量はあまり見ませんね。 村田 腹水がたまっている患者さんへの輸液は、 飯野 それは大きな間違いです。基本的に血清 よく経験します。この場合、Naを付加する先生 のNa濃度というのは、Naが足りなくても、オー もいらっしゃいますが、この辺は、どう考えれ バーでも、あまり変らないことが多いんです。 ばいいのでしょう。 水電解質のホメオスターシスは、生物が海か ら地上に這い上がってきて以来維持されてきた 飯野 そこが難しいんですね。腹水の原因が、 肝臓が悪い場合と、腎臓が悪い場合がある。 非常に基本的な働きです。その調節の中心が腎 肝臓が悪くて腹水が溜まったり浮腫になるの 臓であり、主にNaの調節と、抗利尿ホルモンに は、末梢の血管が開くためではないかと最近言 よる水の調節で機能しています。ほとんどの場 われています。そういう意味では、中心静脈の 合、Naが多ければ、細胞外液量を増やして、Na 有効な血漿量がある程度少なくなっている可能性 濃度を保ちます。こうして、細胞外液の浸透圧 があります。それを補整しようとして輸液を入 を一定に維持しています。 れるのはいいのかもしれませんが、入れるとま ですから、細胞外液、その一つである血液の血 たむくみになり、腹水や浮腫になってしまうと 清Naだけをみていても、体が無理矢理に安定化 いう悪循環が起こる。ですから、肝硬変などの輸 してしまった値を見るわけですから、本当の過 液は非常に難しいんです。 不足は分からないということになります。 村田 そうしますと、尿中の排泄量を見ないと 基本はやはり水とNaの制限が中心ですね。水 の制限プラス、Naをどの程度入れるか。それは いけないということですか。 尿中のNa排泄量と、それから腹水の状態によっ 飯野 て変わってくると思います。 そうです。電解質輸液には、大別して欠 乏輸液と維持輸液があるわけですが、何がどの 腎臓が悪くてくるむくみは、ほとんどがNaオ くらい欠乏しているのか、維持すべき状態がど ーバーですね。ですから、電解質を多くしてし うなっているのかを知るためには、尿中の排泄 まうような輸液には注意を払う必要があります。 量をみなければいけないわけです。血清電解質 が正常だからといって、たとえば維持輸液をど 経口摂取可能な患者さんへの輸液 んどん行う、それがもし、腎からの水や電解質 飯野 の排泄がうまくいっていない患者さんだと、浮 る人にしばしば維持輸液をやりますね。これは、 腫や心不全を起こす、電解質異常で不整脈など 患者さんにどう説明しますか? 病棟で、食事を食べられる人、水を飲め 6 村田 一応、食事または水分 のですが。 が少し足りないから補うため 飯野 だ、という言い方になる場合 なのは、Nをきちんと代謝する が多いですね。 にはカロリーが絶対に必要だ 飯野 ということですね。カロリー 患者さんにはそういう カロリー/N比が重要 説明でいいのかもしれません。ただ、輸液によっ が十分でない状態だと、体の中のNが壊れてくる。 て、例えば、1/3液(3号液:維持液)などでは、 そうすると、経口摂取ができない、栄養輸液だけ 糖分はごく微量で、カロリー数はとても少ない。 でやっている患者さんだと、やはり異化が進んで ご飯の補助になるとまでは言い兼ねる場合もあ 体力を低下させてしまう。 りますね。本当は輸液そのものは絶対的に必要 そこはやはりフィードバックして、医者に注意し ではない、むしろ、静脈のライン確保とか、ほ ていただきたい。薬剤師さんと医者の間で、これ かの注射剤、例えば抗生物質を入れるときに便 から必要なことだと思いますね。 利だという輸液もありえます。 村田 そういうケースを説明するのは、患者さ これからの薬剤師と医師の関係 んの理解の程度などと関連して、なかなか難し 飯野 い面がありますね。 てしまうわけで、薬に対して細かい指導はでき この場合の輸液は、やはり普通の維持液がい 僕らも今、外来だと1時間に10人以上診 ません。そこを薬剤師さんにカバーしていただ いんでしょうか。 く、さらには、医者を補うだけでなく、医薬や 飯野 輸液のプロとして患者さんを指導し医療に目を 腎臓が正常ならば何でもいいと思いま す 。 ただ、生理食塩液などですと、 やはり負担 光らせていてほしい。 になることがありますから、安全なのは、おっ 実際、外来で診ていても、薬局でいろいろ薬 しゃるように1 / 3 液( 3 号 液 : 維 持 液 )な ど の指導がなされるようになってから、非常に良 でしょう。 くなったと思うことが少なくありません。 また、病棟業務でいえば、例えば輸液に関し カロリー/N比のこと ては、配合変化とか点滴スピードとか、時に現 飯野 中心静脈栄養輸液に関係することですが、 場では違ったことが行われてしまう、そういう カロリー/N比というのがあります。これに、 ことをいろいろチェックしていただきたいなあ、 脂質を計算に入れるか入れないか。これは、どう という希望がありますね。 見ておられますか。 村田 村田 わけですが、まだまだ完全に患者さんの個々の 脂肪は100%ノンプロテインのカロリー として計算にいれてしまっています。カロリ データを把握するところまではいっていません。 ー/N比がもともとそれほど厳密なものではな 処方のチェックとなれば、個々のデータ、つま いので、実務上構わないと考えていますが。 り患者さん一人一人のカルテを読みとった上で ただ、カロリー/N比は普通、150から200 7 我々は現在病棟へ行くようになってきた なければやれないわけですが、まだ、なかなか と言われていますが、時に、この比がものすご そこまではいっていないのが現状です。 く低い処方が来ることもあるのです。これだと、 飯野 どうしても、蛋白の異化が進んでしまうと思う まで踏み込んでくるべきだと思います。 薬剤師さんもカルテを見たりするところ 病気と薬 臨床栄養シリーズ① <輸液と薬剤師の役割> これからはお医者さんと薬剤師さんは対等に、 お互いにプロとプロで刺激し合いながら、一番 いい治療を患者さんにしてあげるというのが重 要ではないかなと思っております。 <資料> 主な注射薬と配合変化を起こす薬剤の組み合わせ ラシックス との配合禁忌薬 メイロン ソルダクトン プリンペラン カイトリル ポララミン セファランチン との配合禁忌薬 イノシー エフオーワイ との配合禁忌薬 ロイコン 強力ネオミノファーゲンシー ニコリン ソルダクトン ビソルボン プレマリン アタラックスP セファランチン アナフラニール ウインタミン(コントミン) フサン との配合禁忌薬 ミノマイシン ミネラリン との配合禁忌薬 ペルサンチン ラシックス ミネラリン タガメット セレネース ザンタック ルシドリール ガスター ソル・コーテフ アルタット プロスタルモンF ネオフィリン アタラックスP プレマリン ラシックス ホスミシンS ルシドリール ブスコパン 5-FU ソルメドロール セファランチン アミノ酸製剤 ビスコリン アデラビン9号 ビソルボン メイロン ネオフィリン ラシックス ガスター ジゴシン ヘパリン ケーワン プレドニン 強力ネオミノファーゲンシー ミノマイシン プレドニン ビスコン 水溶性ハイドロコートン 高カロリー輸液 ネオラミンスリービー ニコリン アドナ ホリゾン 維持液 ペルサンチン アリナミンF プレマリン リンデロン アスパラK ペンタジン ガスター ソル・コーテフ メイロン アドナ アドナ ソセゴン タガメット ラシックス ソル・コーテフ 強力ネオミノファーゲンシー アリナミンF ウインタミン コスメゲン メイロン カルチコール セレネース ケイツー セファランチン ルシドリール アタラックスP ビソルボン ニコリン コントミン ペルサンチン テラプチク ミノマイシン ウインタミン コントミン ピレチア ネオラミンスリービー との配合禁忌薬 レスタミンカルシウム ゾビラックス ミネラリン ソル・コーテフ ラシックス ビソルボン との配合禁忌薬 ラシックス トランサミン チオクタン ラステット プレドニン プレドニン との配合禁忌薬 アデラピン9号 プリンペラン ソルメドロール との配合禁忌薬 ハイカリック ウインタミン ネオラミンスリービー 強力ネオミノファーゲンシー プレドニン ピレチア ピレチア ザンタック ルネトロン ポララミン コントミン ビスコリン ソル・メドロール ネオフィリン ガスター ルシドリール フサン アスパラK ガスター アタラックスP との配合禁忌薬 ネオラミンスリービー アギフトールS デカドロン ソル・コーテフ トブラシン チオクタン ラシックス ゲンタシン 水溶性ハイドロコートン ネオフィリン ペルサンチン との配合禁忌薬 (1時間後沈殿) マニトンS セフォビッド との配合禁忌薬 ガスター pH4以下で結晶析出 pH5で12時間後 pH6で72時間後 結晶析出 プレドニン フィジオゾール プリンペラン ネオフィリン プリンペラン ヴィーンD アデホス ネオラミンスリービー ポララミン ソル・コーテフ アタラックスP アレビアチン ピレチア ヌトラーゼ パントシン 5 -FU ヌトラーゼ ガスター (1時間後沈殿) プレドニン ヌトラーゼ ホスミシン S ソルコセリル アリナミンF アスパラK ソル・コーテフ タチオン ネオフィリン ドプラム ソルコセリル アミノ酸製剤 ガスター ホリゾン ホリゾン チオクタン ラシックス セファランチン ダイアモックス プレマリン 強力ネオミノファーゲンシー ラクテック ビソルポン (6時間後沈殿) ソル・コーテフの 注意と配合禁忌薬 結晶析出 ルシドリール との配合禁忌薬 ケイツー フトラフール アタラックスP ソルダクトン ホスミシンS アタラックスP ソル・コーテフ ザンタック との配合禁忌薬 ドルミカム ビソルボン ラシックス ホリゾン との配合禁忌薬 ソルコセリル フィジオゾール・3号 ニコリン ガストロゼピン ケイツー との配合禁忌薬 ソセゴン ネオフィリン プレドニン 強力ネオミノファーゲンシー との配合禁忌薬 ペルサンチン ATP 強力ネオミノファーゲンシー セファメジン フェノバール トランサミンS アギフトールS 水溶性ハイドロコートン との配合禁忌薬 カルチコール ホスミシンS との配合禁忌薬 ロイコン セレネース ガスター PGE1 プリンペラン との配合禁忌薬 ピレチア との配合禁忌薬 ソルダクトン との配合禁忌薬 ネオフィリン との配合禁忌薬 ゾフラン との配合禁忌薬 ホスミシンS ヘルベッサー の注意 pH6.5以上注意 ガスター との配合禁忌薬 メイロン 強力ネオミノファーゲンシー ミネラリン ソル・コーテフ フサン との配合禁忌薬 強力ネオミノファーゲンシー メイロンプロスタンディン の注意 使用直前に混注す ロイコン との配合禁忌薬 ること. フェノバール ドプラム 日本医科大学付属病院薬剤部 村田和也 8 薬剤師がすぐに使える ポイントカウンセリング セッション 2 新医療教育企画 代表 井手口 直子 どういうスタンスで 患者カウンセリングに臨んでいますか? ■カウンセリングは目的を持ったコミュニケ−ション 【解 説】患者の自己イメ−ジは“自分は具合が悪い” 薬剤師にとって、カウンセリング技術を使う目的を大 であり、治りたい気持ちはあるのだが、良くなった症 きく分けると次の2点でしょう。 状ではなく、常に具合の悪いところに意識がいってい ステップ 1s患者に信頼され、気軽に相談してもらえ る。 る関係になる 【対応の基本】症状への訴えが多いが、あまり症状へ焦 ─コミュニケーションとしてのカウンセリング技術─ 点あわせをせず、しかし気持ちを受容しつつ、なすべ ステップ 2s患者の問題の本質を患者とともに把握し きことへ意識をむけて応答する。 解決への支援をする ─ 問題解決としてのカウンセリング技術 ─ C タイプ ■薬剤師がどのような態度で患者に接するかがキ− 医師から「薬をのみなさい」と言われたので という意識の患者 【解説と対応】Cタイプのなかでも医師への依存の強い まずは自分が上のどのステップに立っているかを自覚 タイプは、薬剤師が「先生もそうおっしゃってますよ…」 しつつ、患者の服薬意欲やパーソナリティ、バックグ と依存心を満足させつつ勇気付ける応対も有効。医師 ラウンドに応じた柔軟な態度で接することが大切です。 への依存も低く、「いわれるがまま」の患者には、客観 その際、その態度をとることで患者に何を期待するか、 的なフィードバック「お薬のせいか先週よりお元気そ また、二人の関係はどうか、というところまで薬剤師 うですね」や症状への焦点あてが有効。 自身が自覚しておくことが、患者と良い関係を築き問 題を共に考える大切な要素となります。 D タイプ ■ヒント・患者の服薬意欲に応じた対応例 A タイプ 薬によって自分の健康を築こうという目標 意欲のある患者 薬はきらいだが、仕方なく… という患者 【解説と対応】まずは患者のなかの矛盾する二つの感情、 「薬はこわい」「飲まないと悪くなるのがこわい」の 両 方に別々に共感し、矛盾を受け止めて患者に心理的安 【解 説】治療方針に納得すれば意欲的に取り組むが、 全を確保する。患者がのびのびしてきたら、「Aさんの すべて自分でコントロールしていたい気持ちから自己 なかに相反する気持ちがあるんですね…でもこのまま 判断で服薬しなかったり、民間療法などを持ちこむこ ではしんどいですよね、これからどうしていきましょ ともある。薬の知識も学習し、新聞などから様々な情 う…?」と自己決定の支援をする。 報を得ている。 【対応の基本】解決志向型アプロ−チが有効。患者のも ■まとめ っている目標のイメ−ジを聴き、そこへ向かうための 患者のなかでは必ず“つじつま”は合っている。それを 行動として、現在の服薬を納得できる形で位置づけて 知ろうとする姿勢が「カウンセリングマインド」 いく。 患者の訴えを聞いて、 「何でこんなこと思うのかしら?」 具体的対応として、感謝、感動の言葉かけが原則。「い と感じる機会は少なくないでしょう。でもすべての患 やあ、よくお薬のことご存知ですね」と患者の思いや 者のなかでは訴えのなかで“つじつま”は合っているの 努力、熱意を認め、励ましていく。 です。 先入観をすてて患者なりの“ 私の健康物語 ”を聴こう B タイプ 自分は悪い所がある、病気である、治すた とする態度こそ、 「カウンセリングマインド」なのです。 めには薬が必要、と考える患者 その上で、適切な処置を考えていきましょう。 井手口直子 略歴●1987年、帝京大学薬学部薬学科卒業後、株式会社望星薬局入社。92年、同社退職後、「新医療教育企画」代表として、薬剤師教育へのカウ ンセリングの導入と教育プログラム開発・研究などに取り組む。著書には「わかりやすい、薬剤師のためのカウンセリング講座 」 (薬業時報社)がある。 9 見落としがちだけど役立ちそうな ちょっと気になるニュースや、 話題の本をピック・アップ 高齢者がかかりつけ医を決めた理由とは?t この11月に報告された「高齢者の医療と薬に関す る実態調査」 (全国老人クラブ連合会が実施)によると、 高齢者の約87%が、かかりつけ医を持っていること がわかりました。 調査は全国の老人クラブ会員を対象に実施、約1万 アメリカ女性の半数が不眠症 !? ttttt 米国には現在、約6000万人の睡眠障害者がおり、 その半数以上が慢性睡眠不足に悩まされているといい 4000人から回答を受けてまとめたもの。かかりつけ 医を決めた理由のうち、最も多かったのが「親切であ る・話しやすいから」で約60%。以下、「症状をよく ます。しかも、睡眠不足は男性より女性に多く、米国 説明してくれる」、「近くだから」と続きます。また、 女性の半数以上が不眠症の特徴的症状を抱えている かかりつけ医を と、米国の非営利団体「ナショナル・スリープ・ファウ 「持っている人」 ンデーション」 (NSF)がこの10月末に発表しました。 の方が「持ってい 親切・話しやすい 59.8% この調査の対象になったのは、30歳から60歳まで ない人」より健康 症状などをよく説明してくれる 40.4% の女性約1000人。深刻な睡眠不足によって日常生活 診断の受診率も 近所 33.3% 高いことがこの 昔からかかっている 31.8% 間、強い眠気に襲われると回答。また、5人に1人が 調査で判明。同 医師としての腕がいい 28.6% 市販の睡眠薬に頼っていることもわかりました。 連 合 会 で は 、今 専門医を紹介してくれる 25.6% に支障をきたしているケースも多く、4人に1人は昼 かかりつけ医を決めた理由 どのような病気でも診てくれる 22.3% 後、より多くの人 必要以上の薬は出さない 21.3% ポート』誌では、「睡眠障害専門の医療センターが全 がかかりつけ医 休日・時間外に診てくれる 12.4% 米で300以上もあるのに、睡眠障害者の95%を放置 を持つよう働き 往診してくれる 12.3% かけていく必要 地域にその医師しかいない 3.3 % があるだろうと 薬をたくさん出してくれる 1.6 % その他 0.9 % この報告を掲載した『USニュース&ワールド・リ ? ZZ している」と指摘しています。 Z Z 報告しています。 Z 祝うべきは2000年か2001年か? ttttttttttttttttt 21世紀まで残すところあとわずか。1000年に一度の出来事だけあって、世界中で大イ ベントが予定されているようです。ところが問題なのは、それが2000年の正月に行われる べきか、2001年なのかという点です。 著者のグールドは、『ワンダフル・ライフ』という科学エッセイ集でも知られる古生物 学者。新世紀の始まりがいつかについては、何と著者が8歳のときから50年にわたって、 胸に温めてきた問題だと言います。では、そのグールドが考える結論とは? 「暦と数の話」 スティーヴン・ジェイ・グールド著/ 渡辺正隆訳/早川書房 1,800円(税別) 西暦が1年から始まったのだから、21世紀の始まりは2001年だなどという、当た り前の話には落とさないところが、名エッセイストとしてのグールドの真骨頂。現在 使われている暦(グレゴリオ暦)にまつわる話や、何千年先の日付と曜日をピタリと 言い当てる知的障害者の話など、盛り沢山の内容に満足すること請け合いです。 「Pallette Vol.8」1998年 12月20日発行 発行:大塚製薬株式会社 東京都千代田区神田司町2ー9 企画制作:株式会社協和企画 企画協力:BBプロモーション CZ11098L01 (3483)KK