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特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での 利用を実現する「RealGreen」システム技術 “RealGreen” System Technology that Allows for “ZeroWaiting-Time Experience” even in Sleep Mode 要 旨 富士ゼロックスでは、省エネなどに代表される地球 環境負荷低減と、これと相反する快適性や利便性など とを高い次元で両立するコンセプト「RealGreen」の 実現を加速させている。 我々は、富士ゼロックスが保有する環境要素技術の ポテンシャルを最大限に活かしながら、省エネ性と利 便性とを高い次元で追求した新たな「RealGreen」シ ステム技術を開発し、カラー複合機 ApeosPort-IV/ DocuCentre-IV の新シリーズに導入した。本複合機 では、省エネ性の優れたスリープ状態から利用する場 合においても実質的に『体感待ち時間ゼロ』を実現し た。これによりお客様には、常にスリープ状態でご使 用いただいてもストレスなくお使いいただくことが 可能になった。 本稿では、この「RealGreen」を実現するシステム 技術について紹介する。 Abstract 執筆者 小野 馬場 三木 尾形 山科 本田 木下 真史(Masafumi Ono)*1 基文(Motofumi Baba)*2 清史(Kiyoshi Miki)*3 健太(Kenta Ogata)*4 晋(Susumu Yamashina)*5 誠司(Seiji Honda)*5 晋一(Shinichi Kinoshita)*6 *1 コントローラ開発本部 コントローラプラットフォーム第二開発部 (Controller Platform Development II, Controller Development Group) *2 商品開発本部 第三商品開発部 ( Product Development & Program Management III, Product Development Group) *3 商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部 (Human Interface Design Development, Product Development Group) *4 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部 (Imaging Platform Development, Device Development Group) *5 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部 (Device System Platform Development, Device Development Group) *6 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社 デバイス制御開発部統括部 デバイスコントローラ Integ 開発部 (Device Controller Integration Development, Device Controller Development Unit Fuji Xerox Advanced Technology Co., Ltd) 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 Fuji Xerox is accelerating efforts toward realizing its “RealGreen” concept that combines lower global environmental impact, typically by conserving energy, with comfort and convenience at a high level. By making the most of Fuji Xerox’s potential in its environmental technologies, we have developed new “RealGreen” system technology that provides high energy efficiency and convenience, and applied it to new models of the ApeosPort-IV series and Docu-Centre-IV series. The technology allows for a virtually “zero-waiting-time experience” even in highly energy-efficient sleep mode. End users can thus use the models without any stress, even when they remain constantly in sleep mode. This report introduces the system technology that realizes the “RealGreen” concept. 45 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 らの利用であっても待ち時間のない使用感でお 1. 緒言 使いいただける商品を提供しようというコンセ 昨今、環境問題は全世界的な問題として取り プトである。 上げられ、地球環境保全への取り組みが加速し ている。我が国においても、東日本大震災後の 電力供給不足問題を契機に、節電の必要性がよ り一層求められるようになってきている。 2. 「RealGreen」システム技術概要 この『体感待ち時間ゼロ』を実現するためは、 富士ゼロックスでは、お客様が使用する電力 複合機を構成する機能モジュールすべてが、ス や排出 CO2 の削減を、快適な環境で提供するこ リープ状態から数秒で高速立上げできなければ とを目指した「RealGreen」というコンセプト 実現できない。カラー複合機においては、定着 を掲げ、地球環境負荷低減を快適に進めていた 器のスリープ復帰時間が遅いことが課題になっ だける製品やサービスの開発を進めている。今 ていた。定着器に大きな熱エネルギーを使用す 回その取り組みの 1 つの成果として複合機がス るため、スリープ状態から使用可能な状態に復 リープ状態からでも『体感待ち時間ゼロ』でお 帰するまでに数十秒を要してしまうためである。 使いいただける新しいシステム技術を開発して 富士ゼロックスではこの課題を解決するため にスリープ状態から世界最速の3秒で復帰でき 商品化した。 今回我々が開発した「RealGreen」システム る独自の IH 定着技術を開発した。この技術を搭 技術は、 「Smart WelcomEyes」技術、 「スマー 載 し た カ ラ ー 複 合 機 ApeosPort-IV/ ト節電」技術、 「スリープ高速復帰」技術の3つ DocuCentre-IV C2270/C3370 は、スリー を統合したシステム技術である(図 1) 。 「Smart プ復帰時間を 10 秒まで短縮化した 1) 2)。 WelcomEyes」は、自動センシングによるお客 しかし、お客様の使用実態調査結果では、従来 様検知技術、 「スマート節電」は、複合機の使用 機から大幅にスリープ復帰時間を短縮したにも サービスに対して必要な機能モジュールだけに 係わらず、10 秒でも省エネ性の高いスリープ状 電気エネルギーを供給する技術、 「スリープ高速 態でお使いいただけないケースが多くあった。 復帰」は、スリープ状態から出力装置を高速に 立上げる制御技術である。 そこで我々は、あるべき姿の実現のためには、 人がストレスを感じる待ち時間の調査が必要と 『体感待ち時間ゼロ』とは、お客様にスリー 考え、モニター評価による調査を実施したとこ プ状態という複合機の最も優れた省エネ状態で ろ、一連の操作において2秒を超えて次の操作 常にお使いいただけるように、スリープ状態か ができない、もしくは、動作開始が確認されな いと、ストレスを感じるという結果を得た。こ スリープ状態からでも お客様を検知して自動復帰 Smart WelcomEyes 『 体 感 待 ち 時 間 ゼロ 』 スマー ト 節電 スリ ー プ 高 速復帰 の結果を基にスリープ状態からジョブを実行す るまでのお客様の操作を分析し、以下に示す 3 つの操作ステップに分割した。 z ステップ 1: 複合機の前に立ち、節電ボタ ンを押してスリープ復帰受付までの操作 (「Smart WelcomEyes」技術)。 z ステップ 2: スリープ復帰受付から「操作 パネル」表示、サービス選択、ジョブ設定 し、スタートするまでの操作(「スマート節 電」技術)。 必要部だけに通電 静音な省エネで すばやく操作可能 操作している間に 準備完了 図 1. 「RealGreen」システム技術のコンセプト Three technologies to realize “RealGreen” 46 z ステップ 3: 実行したジョブを確認できる までのステップ 2 からの応答( 「スリープ 高速復帰」技術)。 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 従来システム 節電ボタン スリープ 復帰待ち コピー パラメータ スタート サービス 設定 メニュー 表示 原稿読み取り装置 原稿読み取り装置 操作パネル 操作パネル 操作パネル コントローラー コントローラー コントローラー 出力装置 出力装置 出力装置 ステップ1 動作開始 原稿読み取り装置 ステップ2 ステップ3 本システム 自動復帰 すぐに操作 エコに操作 コピー パラメータ スタート サービス 設定 原稿読み取り装置 原稿読み取り装置 原稿読み取り装置 操作パネル 操作パネル 操作パネル コントローラー コントローラー コントローラー 出力装置 出力装置 出力装置 ステップ1 すぐに 動作開始 原稿読み取り装置 操作中に 準備 操作パネル …待機/稼働状態 コントローラー …スリープ復帰中 出力装置 ステップ2 …スリープ状態 ステップ3 図 2. 従来システムと本システムのスリープ復帰操作ステップの比較 Comparison of the sleep mode operation steps この操作ステップ間の時間が 2 秒以下になる と こ ろ が 、 2009 年 に 発 売 し た ことを目標に、各ステップに対応した技術開発 ApeosPort-IV C2270/C33702)は、この IH を実施することにより、お客様に待ち時間のス 定着器を搭載したにも係わらずスリープ復帰時 トレスを感じさない利便性の追求を進めた。 間に 10 秒を要した。そこでスリープ復帰の 図 2 に、従来システムと本システムとのス シーケンスを分析したところ、出力装置が制御 リープ復帰の操作ステップの比較図を示す。コ 部の立上げに約 7 秒の時間を要していた。この ピーをとる場合の各操作ステップが従来よりも ことから、出力装置制御部をスリープ状態から 短縮され、スリープ状態からスタートボタンを 高速復帰させる技術の開発が必要になった。 押せるようになるまでの一連の動作が、省エネ スリープ状態からの立上げに必要となる初期 な状態でありながらストレスなく流れるような 化処理を定着器の立上げと並行して実施すると 操作を実現できていることがわかる。 しても出力装置全体、および、定着器の立上げ 以下では、これを実現する「RealGreen」シ 準備の時間も必要となる。そのことから IH 定着 ステム技術を構成する3つの技術について、 「ス 器の立上げに要する 3 秒から 1 秒以上待たせな リープ高速復帰」技術、 「スマート節電」技術の い 3.9 秒を目標値に設定した。この時間は、 『体 順に紹介し、最後に当社の新規技術である 感待ち時間ゼロ』を実現するためのスリープ高 「Smart WelcomEyes」技術について述べる。 速復帰の目標値である。 出力装置制御部におけるスリープ復帰に時間 を要する要因は、次の3つである。 3. スリープ高速復帰技術 3.1 z メモリーからのデータ読出し時間 目標値設定と課題 z オプションとの初期化通信時間 概要に示した通り、複合機のスリープ復帰時 間は、定着器のスリープ復帰時間が遅いことが 課題であったが、IH 定着技術の開発により定着 z IH ドライバー起動時間 以下にこの3つの課題と対策について説明す る。 1) 器の立上げ時間は 3 秒となった 。 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 47 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 3.2 メモリーからのデータ読出し時間 化にも貢献している。 出力装置の制御プログラムや制御に用いるパ ラメーターを格納しているメモリー(記憶デバ 3.4 IH ドライバー起動時間 イス)からのデータ読出し時間の課題である。 IH ドライバーとは、IH 定着器の定着温度を制 出力装置の制御部では、制御プログラム・デー 御するための IH に供給する電力を制御する IH タを格納するフラッシュメモリーと制御パラ 電源制御部のことで、この起動時間に時間を要 *1 メーターを格納する EEPROM 、消耗品管理 することが課題である。 データを格納する IC タグの 3 種類のメモリー 安全性を設計上確認して、シリアル・バスの を使用しており、通信でデータ読み出しを行う 初期化終了と同時に IH リレーを起動し、制御ソ ハードウェア構成のため、データの読み出しに フトの立上げと並行して IH ドライバーの CPU 時間がかかる。そこで、以下の2つの施策によ の立上げを実施するようにした。さらに、IH ド りデータ読出し時間の短縮を図った。 ライバーの CPU 起動をモニターし、起動直後 ① プログラム/消耗品データ読出し時間 から IH 電力制御を開始するようにした。従来は、 フラッシュメモリーに格納しているプログラ IH ドライバーの起動のばらつきを考慮した ム、および、IC タグに格納している消耗品 マージン時間を確保していたが、起動をモニ *2 データを DRAM に読出し、セルフリフレッ ターして同期することで、マージン時間を削除 シュ電力によりスリープ中も DRAM のデー した。並列処理とマージン時間の削除により立 タを維持することで、スリープ復帰時に再読 上げ時間を短縮化した。 出しを不要にした。 ② 制御パラメーターの読出し時間 3.5 スリープ高速復帰の実現 EEPROM からの制御パラメーター読出し処 上記の3つの課題に対する対策を導入するこ 理を I/O のシリアル・バス初期化処理と並列 とで、 「出力装置」の目標値である 3.9 秒での に実施することで、実質ゼロになるように設 スリープ高速復帰を達成した。 計した。 図 3 は、「出力装置」制御部の改善効果を従 来システムと比較した図である。無駄な処理を 3.3 オプションとの初期化通信時間 排除し、並列で初期化処理することによりス 出力装置に装着される拡張トレイモジュール リープ復帰時間が 60%短縮できた。また、後 や後処理装置(フィニッシャー)などのオプショ 述するスマート節電の効果によりスリープ復帰 ン装置との初期化通信時間の課題である。 中も操作パネルの操作できるようになった。 出力装置は、スリープ状態中は電源オフ状態 であることから、従来は電源オン時と同じ初期 化シーケンスを実施していた。 しかし、スリープ状態からの復帰時には、通 常はオプション構成など変更されない。これを 前提として、コンフィグレーション情報の通信 処理の優先順位を見直し、スリープ状態移行前 のコンフィグレーション情報を使用して初期化 処理するようにスリープ復帰に最適化した。こ 図 3. 「出力装置」制御部の改善効果 Comparison of recovery time from sleep のスリープ復帰に最適化したインターフェース 設計により、後述する操作パネル表示の高速化、 コピー時の原稿スキャン開始タイミングの早期 4. スマート節電技術 4.1 *1 *2 48 Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory Dynamic Random Access Memory スマート節電技術の狙い 従来の複合機では、スリープ状態からの復帰 時に、使用する機能に関わらず複合機全体に通 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 電し、全ての機能が操作できるようにしていた。 お客様が節電ボタンを押下すると「コント スマート節電技術とは、これを根本的に改善し ローラー」だけに通電しているスリープ状態が た技術のことで、お客様が利用する機能に対応 解除され、 「操作パネル」に通電してメニュー画 する部分にのみ通電し、利用しない部分には通 面を表示する。そのメニュー画面からお客様が 電しないように最適化した省エネ・システム技 利用されるサービスを選択した際に、対応する 術の富士ゼロックスにおける呼称である。 機能モジュールの電源を各々通電するように制 このスマート節電技術は、スリープ状態から 御する。 復帰時の通電部分を最適化することにより、複 このようなハード構成に変えることにより、 合機内の節電による省エネ性の向上と、不要な リモートからのジョブ実行に関しても同様に制 起動音抑止による静粛性の向上を狙った。また、 御することができる。リモートからお客様が利 スリープ復帰から「操作パネル」がすぐに使え 用するジョブを受付、利用するサービスを判別 るという利便性の向上にも貢献している。 し、必要な機能モジュールの電源を通電制御す る。この際、操作パネルには通電するが、バッ 4.2 システム通電制御 複合機は、 「原稿読み取り装置」 「操作パネル」 クライトは消灯する節電設計としている。リ モートからのジョブ実行中に操作パネルの表示 「コントローラー」 「出力装置」の4つの機能モ は必要ないが、異常発生時には瞬時に操作パネ ジュールから構成されている。図 4 にこれら 4 ルを表示させ、ジョブ完了や警告時の通知音を つの機能モジュールを電源制御する構成を示す。 鳴動させるためである。 スマート節電を実現するために、これら機能モ ジュールを単独でオン・オフできる電源制御機 4.3 操作性課題 能を搭載した。これにより「コントローラー」 単に機能モジュールを単独でオン・オフでき において、お客様が使用するサービスに応じて る電源制御機能を搭載するだけのことであれば、 使う部分だけ通電させるきめ細かい通電制御を 簡単に実現できていた。課題は、お客様の操作 実現可能にした。 性、利便性を低下させずにサービスを提供しな 図 4. スマート節電技術による通電制御 Smart Energy Management Technology for Power Control 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 49 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 4.4 操作性課題への対応 「原稿読み取り装置」と「出力装置」をスリー プ復帰させずに「操作パネル」を表示するため に、 「コントローラー」でスリープ状態に移行す る前の情報をすべて記憶し、この記憶した情報 を元に表示するようにした。 しかし、 「原稿読み取り装置」 、 「出力装置」共 図 5. 環境要素技術(左:IH 定着器, 右 LED 光源) IH Fusing Unit and LED Light Source にジョブが実行可能になるまでには、前述の数 秒間の時間が必要となるため、スリープ移行前 ければならないことにあった。 の記憶情報で「操作パネル」に表示しても、確 従来は、お客様の利便性を損なわないために 実に操作可能になるまでには数秒の時間を必要 「出力装置」はなるべく通電状態を保ち、定着 とする。そこでお客様の操作時間を 2 秒以下と 器の温度を下げないようにしていた。ところが、 想定して、サービスが実行可能になるまでの時 3 秒で立ち上がる IH 定着技術を開発したこと 間を 2 秒以下に押さえ込むことで、サービス画 で、複合機の利便性に対する考え方に変革が起 面を切り替えて直ちにスタートボタンを押下し こった。これまで立上げに 8.5 秒必要としてい ても実行を受付けられるように改善した。 た「原稿読み取り装置」も、白色 LED 光源採 特にコピーサービス提供時においては、 「原稿 用により 2.5 秒に改善した。このようにスリー 読み取り装置」で原稿の読み取り開始時に「出 プ復帰に関して一番大きな技術課題であった 力装置」の出力用紙のサイズが必要となるため、 「原稿読み取り装置」と「出力装置」の立上げ 「出力装置」の用紙トレイに格納されている出 時間が、環境要素技術により大幅に短縮できた 力用紙のサイズ情報の通知があるまでは、原稿 (図 5)。 のスキャンを開始しないように制御している。 しかし、スマート節電の場合、図 6 に示すよ この出力用紙のサイズ確定までの時間は、従来 うに、節電ボタンを押下して「操作パネル」に は「出力装置」の初期化完了を待たなければな メニューが表示された状態でも、 「原稿読み取り らなかったが、先行してサイズ情報を通知する 装置」と「出力装置」は通電状態になく、コピー ことで、すぐにスキャン開始できるようにした。 などのサービスを選択した時点で必要な機能モ ジュールに通電する。そのためお客様は、サー 4.5 ビスを選択した後に数秒間待たされることとな 4.5.1 スマート節電技術の効果 省エネ性向上 り、 「操作パネルが表示されているのにすぐに使 スマート節電技術の導入によりカタログ値と えない」ため、これまで以上にストレスを感じ して比較される TEC 値の低減にも貢献してい ることになる。 るが、本技術の狙いはお客様の実使用環境にお いて確実に省エネ利用して頂けることにある。 すべて準備完了 「原稿読み取り装置」 と「出力装置」は、 サービスが選択されて からスリープ復帰 最近は、コピーサービス利用よりもスキャン サービスやソリューション連携などの利用が多 くなっている。本技術により、このようなお客 様の複合機の利用形態の変化に合わせて確実に 原稿読み取り装置 原稿読み取り装置 操作パネル 操作パネル コントローラー コントローラー 出力装置 出力装置 従来システム 消費電力を削減し、お客様の TCO 削減、CO2 …待機/稼働状態 図 7 にサービスごとのスマート節電有効時と …スリープ状態 スマート節電 図 6. 従来システムとスマート節電の違い The conventional system and Smart Energy Management Technology 50 排出量の削減に貢献することができる。 無効時の電力量比較を示す*3。 *3 エネルギースターに準拠した評価において、プリントの 代わりにスキャンを実施。 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 :スマート節電 OFF :スマート節電 ON スマート節電あり 60 スマート節電なし 電力量比較 100% 原稿読み取り装置 原稿読み取り装置 原稿読み取り装置 操作パネル 操作パネル コントローラー コントローラー 出力装置 出力装置 出力装置 出力装置 94% 原稿読み取り装置 原稿読み取り装置 音圧レベル [dB] 約 6%低減 50 40 約 52%低減 約 36%低減 30 操作パネル コントローラー 出力装置 プリント 100% 64% スキャン/ファクス 100% 48% 0 静粛性向上 2 4 6 時間 [s] 親展ボックス 文書取りし 図 7. スマート節電の節電効果 Energy Saving Performance 4.5.2 20 -2 図 8. スリープ復帰時の音圧レベルの時間変化比較 Quiet Performance また、お客様が、コピーやスキャンを実行す 前述した通り複合機の利用形態にも変化があ る際には、最初に「原稿読み取り装置」を操作 り、静音性能が求められるようになってきた。 することが考えられる。スマート節電では、 「操 特に FAX 着信をそのままサーバーへ転送する 作パネル」が表示されていても「原稿読み取り ような所謂 FAX ペーパーレス・ソリューショ 装置」が通電されていないことがあるため、原 ンやプライベートプリント時のプリント蓄積の 稿圧着板の開閉や原稿読み取り部への原稿セッ ようなサービスにおいては、お客様が複合機の トでもスリープ復帰できるようにした。 前に立っていない状態で突然複合機が稼動音を このようにスリープ状態からであっても待機 伴って起動するが、紙の出力もないまま再び待 状態での利用と変わらない待ち時間の操作感覚 機状態、もしくは、スリープ状態となっていた。 を実現することによってお客様の利便性の向上 何も動作しないのに騒音だけすることになるた を図っている。 め、改善の声が多くあった。 スマート節電技術を導入することで、スリー プ状態から復帰する際の複合機の起動音を最小 限にし、お客様のオフィス環境の静粛性を向上 することが実現できる。図 8 にスマート節電適 用の有無での音圧レベルの比較を示す*4。 4.5.3 利便性向上 スマート節電技術導入により、「コントロー ラー」、「操作パネル」のスリープ復帰時の「原 稿読み取り装置」と「出力装置」のデータの同 期を分離したことで、スリープ状態から 2 秒以 内で「操作パネル」を復帰させ、お客様の操作 が開始できるようになった。図9に従来システ ムとスマート節電を導入した本システムの「操 作パネル」復帰時間とシステムの違いの比較図 を示す。 *4 図 9. スリープ復帰時のメニュー画面表示時間比較 Comparison of Screen Time 騒音値は JIS X 7779 によるバイスタンダ位置(正面) での A 特性放射音圧レベル。表示したグラフは、節電状 態を解除し、機械が待機状態となるまでの騒音の時間変化。 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 51 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 上がり、節電利用したい。 5. Smart WelcomEyes 技術 5.1 z ステップ3:節電利用していても待たされる 省エネ利用のための利便性の追求 ことなく動きだしてほしい。 複合機がスリープ状態になっているとスリー ステップ2とステップ3を実現する技術は プ状態から復帰させるために節電ボタンを押下 「スマート節電技術」と「スリープ高速復帰技 して、複合機が使用可能な状態になるまで待つ 術」で説明してきた。ステップ1を実現するた 必要がある。そのため複合機を使用する際の“待 めに開発した技術が、「Smart WelcomEyes」 たされ感”によるストレスが大きいため、業務 技術である。 の効率を重視するオフィスではスリープ状態に 最近では、フロア照明やトイレにも採用され 入る時間を伸ばして使用することが多くなって ているような人を検知して連動するシステムが いた。富士ゼロックスの複合機は、工場出荷状 多く登場してきており、券売機やテレビへの採 態では最も省エネ利用可能な設定となっており、 用事例もある。そこで我々は、この市販の技術 お客様の使用後1分でスリープ状態に移行する。 を複合機に応用することで開発を加速させるこ しかし、お客様の使用実態調査の結果、約 64% とにした。 のお客様がこのスリープ状態の移行時間を延長 されているという事実があった(2011 国内営業アンケート実施結果) (図 年 7 月、 10)。 スリープ状態中でもお客様が複合機使用の意 図に基づいて近づいたら、お客様を迎え入れる ように自動的にスリープ状態から「スマート節 これは、3 秒でスリープ復帰する当社の速熱 電」で復帰させ、 「操作パネル」がすぐに使える IH 定着技術を搭載し、スリープ状態から 10 秒 ようすることで待たされ感のストレスフリー化 以 下 で 復 帰 す る ApeosPort-IV C2270/ を目指した。 C3370 であっても同様であった。このままで は、カタログや販売時に省エネ性をお客様に訴 えて購入して頂いたとしても、実際にはお客様 は省エネ性を享受できていないことになる。 5.2 Smart WelcomEyes のコンセプト 本技術は、人感センサーによる自動センシン グ技術により、節電ボタン押下によるスリープ そこで我々は、お客様に省エネ性の最も優れ 復帰操作の“煩わしさ”と、 「操作パネル」が使 た設定である工場出荷設定のまま利用して頂く えるようになるまでの“待たされ感”をなくす ためにはどうしたらいいのか、概要に示したお ことをコンセプトにお客様に新しい利便性を提 客様の複合機の各使用ステップに対する要求を 供しようと考えた。 以下のように分析して考えた。 z ステップ 1:スリープ状態を意識することな く操作パネルをすぐに利用したい。 z ステップ2:必要な機能デバイスだけが立ち 使用する前に節電ボタンを押して節電解除す る操作に対しては、 「煩わしさを感じる」、 「面倒 である」、「操作にとまどう」などのお客様の声 が上がっている。お客様のストレスフリーの使 用感とは、スリープ状態を意識すること無く待 機状態と同じ使用感で複合機を利用できること 延長 していない 36% である。複合機の前に立ち、操作パネルに触れ ようとしたときにはメニュー画面が表示されて 延長 している 64% おり、お客様の思考を中断することなく次の操 作にスムーズに移れるようにしていくことは、 『体感待ち時間ゼロ』の基本コンセプト実現に は欠かせない。 図 10. スリープ移行時間を延長している割合 Percentage of our customers who have extended sleep mode shift time setting 52 5.3 人感センサーの課題 人感センサーを使った Smart WelcomEyes のコンセプトを実現するにあたっては、機能設 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 計を進める上で2つの課題を設定して開発を進 めた。省エネ性追求と誤検知の抑制である。 我々は、それぞれ特徴を持つどちらか 1 つの センサーで複合機の利用形態をカバーするのは 利便性向上のために人感センサーを搭載した 困難と考え、焦電センサーと反射センサーの 2 ことで、省エネ性能が悪化することは許されな 種類のセンサーを組み合わせて使用する独自構 い。人感センサーを搭載しても省エネ性能を維 成にすることにより、双方のセンサーのメリッ 持する省エネ設計が必要である。 トを活かしながら、デメリットは打ち消すとい また、人感センサーは、人を検知するが、利 う設計思想で開発を進めた。 用者を認識するわけではないため、通りすがり の人を誤検知することがある。この誤検知が頻 5.5 繁に発生するようでは、頻繁にスリープ状態か 5.5.1 ら復帰するため省エネ利用にならない。そのた め誤検知を極力抑える設計が必要である。 5 つの設計技術 省エネ設計 消費電力の大きな反射センサーを常時通電し ておくと複合機全体の消費電力が大きくなって 我々は、省エネでありながら、誤検知の少な しまうため、消費電力が極めて小さい焦電セン い自動センシグシステム設計を進めるべく、セ サーを常時通電させ、反射センサーは初期から ンサー構成の基本設計に取り組んだ。 通電させないという省エネ設計を導入している。 焦電センサーが、複合機近傍の人の動きを検 5.4 Smart WelcomEyes のセンサー構成 開発工期やコストの関係から市販品、または、 知すると反射センサーを起動させ、お客様の接 近の有無を反射センサーで確認してから機器の 市販直前品のセンサーを探索した。表 1 に 2 種 スリープ復帰判断を行っている。反射センサー 類のセンサーの比較を示す。 の通電期間は、焦電センサーが人の動きを検知 しなくなってから数十秒とした。複合機は、お 表 1. 人感センサー比較 Comparison of two sensors 説明 省エネ性 検知領域 応答性 維持性 起動時間 備考 焦電センサー 受動型の赤外線人体検知セ ンサー。周囲の温度差のある 人が動く際に発生する赤外 線量の変化で人を検知する。 電力小 広い 良い 悪い(人の動き検知) 30 秒 環境依存性あり (温度差が必要) 客様の利用が終了してから 1 分でスリープ状態 反射センサー 投光部からの赤外線光が、検 出体表面より反射し受光部に 入る位置が異なることから距 離を算出し人を検知する。 電力大 狭い 良い 良い(人の存在検知) 1 秒以下 検知素材限定 (光沢物など検知不可) に移行することから、複合機から立ち去る際の お客様の動きで焦電センサーが人を検知する時 間も考慮し、複合機がスリープ移行するまでに 反射センサーをオフできるように設計している。 図 11 に、上記2つのセンサーと人の動きの 関係を示す。お客様が複合機に意図して近づき、 操作し、使用後に機器から離れていく動きを 図 11. 焦電センサーと反射センサーの省エネ設計 Two Types of Sensors Combination 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 53 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 オフィス空間内で分析し、以下で説明する設計 範囲からのアクセスに対応する必要がある。ま 項目を誤検知抑制に配慮しながら決定した。 た、誤検知の観点からは、前述の一般的なオフィ スでは、複合機の前方に十分な空間が確保され 5.5.2 検知距離設計 z 焦電センサー ないことから、複合機の前方空間の半分以上の 距離を検知範囲にすると、通行する人すべてを 焦電センサーの検知範囲は、放射線方向に広 検知してしまうため、それよりも短い距離、か いため、不要に反射センサーが通電されない様 つ、操作感を損なわない距離にする必要がある。 に検知範囲を制限すると同時に、焦電センサー ユーザビリティーの検証から、何らかの操作 は反射センサーの検知領域を十分にカバーする に対するフィードバックが得られるまでに 2 秒 検知範囲を確保しなければならない。 以上経過すると「待たされる」という感覚が生 中速機を利用されているオフィスの一般的な じることがわかっている。Smart WelcomEyes レイアウトは、居室の出入り口付近やキャビ の開発においては、 「複合機に近づいて、操作開 ネットの横などの壁際に設置されているケース 始するまでの時間をゼロに感じられるように画 やコピーコーナーなど複数の複合機がまとまっ 面を表示する」ことを目標にセンサーの検知距 て設置されているケースが多く見られる。これ 離や範囲の検討を行った。 らのオフィスでは、複合機の前面のデスクや 我々は、これらを踏まえて実機による実験検 パーティションまでの距離は、およそ 800~ 証を繰返し、反射センサーの角度と距離の設計 1,000mm 程度である。このことから複合機の を進めた。スリープ状態において節電ボタンを 前方のデスクで執務するケースを考慮し、複合 押下し、 “カチッ”という音と画面の点灯により 機正面のピラーカバーの下部に開口を設けて配 スリープ状態が解除されたと認識するまでの時 置し、センサーの上面部を覆う事で検知範囲を 間が、約 500msec である。このことから複合 水平面に対し斜め下方向 800~1,000mm 程 機に正面から近づいた際にお客様操作位置であ 度の距離に限定した。また、センサー開口部を る複合機前面に到達する時間が 500msec とな 小さくすることでセンサーの正面左右扇状の範 る適切な距離を反射センサーの操作者検知距離 囲に制限した(図 12)。この範囲は、後述する とした(図 13)。 反射センサーの検知範囲を確保するためである。 z 反射センサー また、ピラー部から本体正面に向かって角度 をつけて反射センサーを配置した。この角度は、 複合機には、縦型「操作パネル」、IC カード 前述の前方検知距離において、一般的な体型の リーダー、フィニッシング・ユニットなど様々 人の体全体(肘間幅)が、複合機の幅内に入っ なオプションが取り付けられるため、操作位置 ていれば、検知可能となるように設計した。 (図 が横方向に広くなるという特徴を持つため、広 14)。これにより複合機正面において確実に操 図 12. 焦電センサー検知範囲設計 Pyroelectric sensor detection range 54 図 13. 反射センサーの検知距離設計 Reflection sensor detects the distance 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 図 16. 検知領域と非検知領域 Non-detection region 図 14. 反射センサーの水平角度 Reflection sensor detection angle 作者を検知可能としている。 近づいてきてもスリープ復帰しないために複合 機の用紙排出の開口部側からのアクセスでは、 さらに、立位姿勢と車椅子使用者を想定した 焦電センサーが検知できない領域を確保した。 座位姿勢のどちらの場合においても検知可能な この領域からアクセスすることで、反射セン 最適な高さにする必要があることから、複合機 サーをオフ、複合機をスリープ状態にしたまま 正面のピラーカバーの上部に配置した。図 15 プリント出力紙を取り出すことを可能にした。 に Smart WelcomEyes のセンサーの取り付け また、操作パネルを使用して操作するケース 高さを示す。 については操作性設計でも述べるが、操作者を 確実に検知するために図 14 に示すように、複 合機の機器幅の内側に人体幅が入る場合に検知 する設計とした。 5.5.4 応答性設計 前述の通り一般的なオフィスでは、複合機の 前に十分な空間を確保されることは少なく、複 合機の正面を通路として人が往来されることが 多いことが想定される。そのため複合機を使用 するために近づいて来た人と、単に前方を通行 する人(室内移動者)とを区別して制御する必 図 15. Smart WelcomEyes のセンサー取り付け高さ Mounting height of Smart WelcomEyes 5.5.3 検知領域設計 複合機に意図してアクセスするケースは主に 要がある。 屋外空間での自由歩行速度は、周囲の状況に もよるが、およそ 66~80m/分であるとされ ている 4) 。オフィスなどの屋内においては、若 2つあり、操作パネルを使用して操作を行う 干遅く歩行すると考え、複合機の前を歩行して ケースとプリント出力紙を取りに来るケースが 通り過ぎる人の歩行速度を約 60m/分と想定し ある。意図しないアクセスは、主に複合機の前 た。この歩行者の速度を基に、人体幅を を単に通過するケースである。前者のプリント 450mm 程度と想定し、反射センサーの検知範 出力紙を取りに来るケースと後者の通過する 囲を横切る際に必要となる時間を計算した。こ ケースでは、複合機をスリープ復帰させないよ の歩行者の通過時間と反射センサーが利用者を うに設計することが望ましい。 検知してからスリープ復帰でストレスを感じな そこで、図 16 に示すように焦電センサーに い時間とのバランスをとって設計し、数百 検知領域と非検知領域を設けた。まず、非検知 msec 以上人を検知しない場合は、通り過ぎる 領域については、プリント出力紙を取るために 歩行者であると判断する応答性設計を導入した。 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 55 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 これにより単に複合機の前方を通行する人を 誤検知してスリープ復帰する回数の抑制を可能 にしている。 5.5.5 反射センサーと検知ランプ 操作性設計 z 検知距離 複合機への近づき方や立ち位置によっては、 検知領域から外れることが想定される。また、 車いすなどの座位姿勢で使用する場合は、複合 機に対して直角方向に体が向き合う形となるた め、操作パネルを使用する際にセンサーの検知 領域から外れやすくなる。 そこで、より広範囲で検知し、座位姿勢でも 図 18. 検知状態の視覚化と検知領域の立体模式図 Detection Lamp and 3D schematic diagram 検知しやすくなるように、反射センサーの検知 距離を長くする拡大設定を用意した(図17)。 z 自動リセット機能抑制とスリープ移行抑制 この拡大設定は、特にコピーコーナーなど複合 複合機には、一定時間操作が無いと設定され 機の前に広い空間が確保できる設置場所におい ている機能をリセットする「自動リセット」と ては、復帰タイミングが早まることで応答性が 呼ばれる機能がある。直前に操作していた人の 良く感じられることになる。 設定が残っていたことによるミスコピーを防止 初期設定 拡大設定 する効果がある反面、操作途中で気づかないう ちに機能がリセットされてしまい、設定をやり 直すことになるという煩わしさに対する不満の 声も聞かれた。 そこで、反射センサーを利用することで、複 合機の前に立ち続けている間は原稿交換やプリ 図 17. 反射センサーの距離設定 Extended setting of the detection distance ント状態の確認などの操作途中であるとみなし、 自動リセット機能を働かせない仕様とした。同 様に、一定時間操作がないとスリープ状態へ移 z 検知状態の可視化 センサーの検知範囲が見えないため、お客様 行する機能に対しても、反射センサーが検知し ている間はスリープ状態移行しない仕様とした。 が自らを検知しているとイメージしていても、 非検知領域内(前述)にいて実際には検知して z 節電ボタン いないという操作者の意思に反した状況が起こ 節電からの復帰や移行をセンサー制御により ることが想定される。そのため、反射センサー すべて自動化してしまうのではなく、お客様ご が検知状態であるか否かを確認できるように、 自身によるコントロール感(節電移行/解除操 反射センサー上部に検知ランプを設けることで 作できること)も重視し、節電ボタンの操作は 検知状態の視覚化を図った(図 18)。 いつでも有効となるようにした。但し、スリー プ移行後、お客様が操作パネルの消灯を確認し て立ち去るまでの間に再びスリープ復帰するこ とのないように、節電ボタン押下後の数秒間は スリープ復帰しない期間を設けた。 このように、複合機にアクセスするお客様の さまざまな利用シーンに配慮した操作性設計を 導入している。 56 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 5.5.6 Smart WelcomEyes 技術の実現 z ステップ 2:「スマート節電」技術 Smart WelcomEyes は、人感センサーを利 ステップ 1 でお客様を検知すると、省エネ性 用した当社独自の技術であり、上述した5つの や静粛性に細かく配慮して必要な機能モ 設計思想により構成されている。省エネと誤検 ジュールだけを高速に立上げる(図 21)。 知抑制にこだわった 2 つのセンサー(Eyes)で、 お客様の機器アクセスを迎え入れるように (Welcome)、自動的にスリープ状態から復帰 してすばやく操作できる(Smart)という3つ の特徴に、お客様への「おもてなし」の心を込 めて、当社固有の名称を付けている(図 19)。 図 21. ステップ 2:スマート節電技術 Step2: Smart Energy Management Technology z ステップ 3:「スリープ高速復帰」技術 ステップ 2 のお客様操作中に必要な機能モ 図 19. Smart WelcomEyes の名称背景 Background the name of Smart WelcomEyes ジュールが高速復帰し、実質的にお待たせし ない使用感を提供する(図 22)。 6. まとめ 概要に示したお客様の操作ステップに対応し て、 『体感待ち時間ゼロ』を実現する3つの技術 を以下にまとめる。 z ステップ 1:「Smart WelcomEyes」技術 お客様が複合機の前に立つと、お客様を迎い 入れるようにスリープ状態から復帰すること で、お待たせすることなく操作パネルの利用 が可能な新しい利便性を提供する(図 20)。 図 22. ステップ 3:スリープ高速復帰技術 Step3: Speedy Recovery from Sleep Mode Technology 以上示してきたように、3つの技術を効果的 に組み合わせてシステム技術化することで、ス リープ状態からでも『体感待ち時間ゼロ』でお 使いいただける複合機を実現することができた。 これは、当社が保有する環境要素技術の持つ価 値を最大限に活かしながら、待ち時間を感じさ せない利便性を高い次元で両立し、「Smart WelcomEyes」技術により新しい快適操作性を 図 20. ステップ 1:Smart WelcomEyes 技術 Step1: Smart WelcomEyes Technology 提供した「RealGreen」システム技術である。 「RealGreen」の実現に向けた『体感待ち時 間ゼロ』を実現する3つの技術と環境要素技術 群のイメージを図 23 に示す。 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 57 特集 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術 図 23. 「RealGreen」の実現イメージ図 Image of “RealGreen” 今後、さらなる高みを目指して技術開発に邁 進する当社の次の「RealGreen」技術にご期待 いただきたい。 7. 商標について z RealGreen は、富士ゼロックス株式会社の登 録商標です。 z Smart WelcomEyes は、富士ゼロックス株 式会社で商標登録申請中です。 z その他、掲載されている会社名、製品名は、 各社の登録商標または商標です。 筆者紹介 小野 真史 コントローラ開発本部 コントローラプラットフォーム第二開発部に所属 専門分野:システム制御ソフトウェア設計 馬場 基文 商品開発本部 第三商品開発部に所属 専門分野:電磁気、加熱システム設計、定着技術、 商品システム設計 8. 参考文献 1) 上原 康博、馬場 基文、他,省エネ性と 利便性を両立した「RealGreen」な IH 定 着技術,富士ゼロックステクニカルレポー ト,No.20(2011) 2) 安藤 良、他, 商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部に所属 専門分野:ユーザビリティーデザイン、UI デザイン 尾形 健太 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属 専門分野:センサー設計 ApeosPort/DocuCentre-IV C2270/ 山科 晋 C3370/C4470/C5570 省エネ大賞受 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部に所属 専門分野:システムレイアウト設計 賞,富士ゼロックステクニカルレポート, No.20(2011) 3) 富士ゼロックス株式会社,Sustainability Report 2011,p13, 14 4) 建築設計資料集成 人間 p59、歩行の科学 58 三木 清史 本田 誠司 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部に所属 専門分野:電力システム設計 木下 晋一 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社 デバイス制御開発部統括部 デバイスコントローラ Integ 開発部に所属 専門分野:デバイス制御ソフトウェア設計 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012