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中国プラスチック産業の現状と将来のリスク対策

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中国プラスチック産業の現状と将来のリスク対策
中国プラスチック産業の現状と将来のリスク対策
長谷川国際技術士事務所
長谷川 正(Tadashi Hasegawa)
「ポリマーダイジェスト」Web 版、2007 年 11 月
(1) はじめに
中国のプラスチック産業は、過去 15 年、毎年 10%以上の順調な成長を続けており、現在
では年間プラスチックの消費量も、4,300 万トンと、日本の国内消費量の 4 倍強の値を示し
ている。
プラスチック原料は、包装資材、建築資材だけでなく、家電、事務機器、自動車部品、機
械部品など広範囲の用途に使用されているため、現在日本の製造業をリードするグローバ
ル企業が製造拠点を中国へ移転するにしたがって、プラスチックの成形加工業、金型メー
カー、加工機械メーカー、コンパウンドメーカー、カラリングメーカー、ポリマーメーカ
ーなども、市場性の高く、高度成長が期待できる中国への進出が積極的に進められてきた。
現在、日本国内で生産されているポリマー原料(特にエンプラ原料)や、射出成形機など
も、中国への輸出が重要な役割をなしている。
そこで、今回のレポートは、現在中国に進出しているプラスチック関連企業の現状を現地
調査した結果も含めて、現地駐在責任者の意見も参考にして、中国での現地経営の実態と、
将来のリスク対策についても考察することにした。
日中友好条約が結ばれた 30 年ほど前に、プラスチックの日中技術交流会が、北京、上海
を中心に数年間毎年開催された際、筆者は熱可塑性エラストマーの講師として、各地での
講演や、現地のプラスチック加工工場、研究所などを視察してきた経験もあり、その後最
近 20 年間も、毎年中国各地の企業訪問や、チャイナプラスチック展への視察団を企画し、
毎回、同展の視察を通じて、中国プラスチック加工技術の進歩をプラスチック展のスター
ト時より現在まで経験して、視察してきた。その結果、2006 年の上海でのチャイナプラス
や、2007 年の広州での第 21 回チャイナプラスでの中国企業の出展を評価する。
これまで、価格の安さだけを PR してきた段階から、品質的、デザイン的にも国際技術レ
ベルに並ぶ水準にまで向上したことが明白となっている。現在では、射出成形機、押出成
形機だけでなく金型も、欧米を中心に、中近東、アフリカ、南米諸国へ、積極的な輸出活
動を進めている。
このレポートでは、まず中国全体へ対する外資の進出状況と、日本の投資現状を示し、
中国進出するメリットと留意点をまとめることにする。次に、北京、天津地域、上海を中
心とする長江デルタ地域、広州を中心とする珠江デルタ地域におけるプラスチック関連企
業の現状を解説することにした。
最後に、将来における中国の予想と、リスク対策などについても考えることにする。
1
(2) 中国の現状と各国の中国への直接投資状況
2-1.中国政府は 2006 年 3 月、2006~2010 の第 11 次 5 ヵ年計画を採択した。その主な目
標数値は表 1 に示すが、主要なポイントの要点は、
(ⅰ)新農村の建設と所得格差の是正、地域間のバランスのとれた発展を目標としてい
る。(日本の民主党の主張と似ている。)
(ⅱ)刷新型国家として、質の高い外貨のみ導入し、独自技術を持つ、国際的に競争力
の高い国内企業へ変化させる。
(ⅲ)循環型経済の実現で、資源の有効利用を目標。
表 1 第 11 次 5 カ年計画の主な目標数値
図 1 中国への海外直接投資の推移(実行ベース)
2
2-2.中国への海外直接投資
図1に中国への海外からの直接投資額の推移を示す。92 年の鄧小平の南巡講話を契機に
投資が急増し,2001 年の WTO 加盟を機に、再度増加に転じている。投資国の動向を見ると、
香港・マカオが 50~60%を占めてきたが、実態は日系、台湾系、欧米系企業が、香港を経
由して迂回投資してきた。
表 2 日本の対中投資の推移
図 2 日本からの対中業種別投資(1989~2004 年度累計)
最近は欧米企業を中心にバージン諸島経由での投資が増加している。
日本からの投資は表 2 に示すように、2001 年以降も順調に増加している。対中業種別投
資を見ると、図 2 のごとく、電機、輸送機、機械、金属などの業種が目立つ。
表 3 では、日本からの進出地域別の主な日系企業を示す。
プラスチック産業は、これら日系進出企業の部品製造には、重要な役割を演じており、
大手企業の進出に伴って、現地への進出が進んでいる。表4では中国でのプラスチック市
場を示す。図 3 に中国に進出している日系自動車および部品工業の分布を示すが、特にト
ヨタが進出した天津市、ホンダの広東省などが拡大している。
図 4 に中国における自動車産業の生産量推移を示す。
次に中国における乗用車メーカー各社生産動向を表 5 に示す。海外メーカーの中ではフ
ォルクスワーゲンが現在 No.1 であるが、日系のシェアーが拡大してきている。
中国における自動車部品に使用されているプラスチック加工の現状を次に示す。中国で
の自動車部品用プラスチック加工メーカーについて中国自動車工業協会のデータを紹介す
3
る。
表 3 日本からの進出地域別の主な日系企業(除く物流、商社、証券、生損保)
キヤノン
キヤノン
キヤノン
ブリヂストン
ブリヂストンサイクル
4
表 4 中国でのプラスチック市場
1.中国樹脂市場における 5 大汎用樹脂の実績と予想
2.中国樹脂市場における 5 大エンプラ樹脂の実績と予想
※ 長春君子蘭集団(有):傘下に 17 社、合弁会社が 10 社、総資産が 12 億元。ここでは、
ドイツより導入した JETTA、A2、A4、のカラープラスチックバンパーの生産ライ
ン、Audi C5 ライン、その他の生産ラインを有する。
※ 江陰模塑集団(有):自動車プラスチック部品メーカーで、2002 年にはプラスチック
5
塗装ラインも完成し、カラーバンパー60 万セット、外飾部品 100 万セットを生産し
ている。
※ 大連聚塑胶(有):VW のバンパー、内装パネルなど成形し、エラストマー、ポリマー
アロイ、なども使用している。
※
柳州五菱汽車聯合発展(有):傘下に専業工場 6 社を有する。小型自動車部品 25 万セ
ット、バンパー、メーター、マフラーなどを生産。
※
華徳塑料制品(有):ドイツとの合弁企業で、主な製品は自動車、家電、IT など多くの
プラスチック部品を生産している。
※
寧波四維爾汽車装飾件(有):各種プラスチック部品、自動社内外装飾部品の年間生産
図 3 中国・主な日系自動車および部品工業の分布
図 4 中国の自動車産業の生産量推移
6
500万セットを生産している。
※
湖北通達汽車零部件(有):各種プラスチック燃料タンクなどを生産している。
表 5 中国における乗用車メーカー各社生産動向
表 6 プラスチックバンパーの生産台数推移、予測
表 6 に中国におけるプラスチックバンパーの生産台数を示す。
2-3.中国投資のメリットと留意点
これまで中国への進出のメリットは、安い労働力が最大のメリットであったが、最近の
最大の魅力は、沿海部を中心とする、大消費市場への期待であり、現地労働力のレベルも
向上し、技術的にも、充分に国際競争力のベースとして活動できる環境になった。工業団
地も整備され、ハイテク産業の基地としても充分に期待できる。一方、留意点としては、
工業化が急スピードで進められたため、電力不足、水不足、および優秀な中間管理用人材
不足が生じるようになった。人件費も上昇傾向が続き、製造コストが、他の発展途上国と
比較してメリットが少なくなった点であろう。
その他、社会面、知的財産権などの問題もあり、将来に対する対策も必要になってきて
いる。
このようにプラスの面と将来のマイナスの面も充分に検討したうえで、中国への進出、
及び今後の、さらなる拡大について考慮しなければならない。
7
(3) 北京、天津、河北地域のプラスチック産業
筆者が北京を最初に訪問したのは、1970 年代のころであった。その後、数 10 回中国各
地を訪問しているが、今回 2008 年 8 月 8 日に
開催される北京オリンピックまで、1 年を切っ
た北京の現状を観察する目的で北京、天津など
を 2 年ぶりに訪問した。
写真 1 は、オリンピック開催まで 342 日と
の電光掲示時計を示す。写真 2 は現在建設中の
オリンピック向けデパート、ショッピングセン
ター、写真 3 は王府井商店の改造中の様子を示
写真 1 北京オリンピック開催までの電光掲示時計
す。
写真 2 建設中のデパート(北京)
写真 3 王府井は日本の銀座
2008 年 8 月の北京オリンピック開催までは、高速道路、ホテル、観光地、デパートなど
建設工事はフル回転が続くことであろう。
北京市は政治の中心だけでなく、大型国有企業が多く存在し、石油化学グループや、北
京自動車グループなど、大手企業が多い。
北京公園のある郊外の中関村サイエンスパークには、北京大学、清華大学など大学研究
機関だけでも 60 以上の研究機関、及び入居企業約 1 万社以上、外資企業約 150 社など、最
先端企業が集まっている。中国の大学は、国内外企業との合弁企業や、大学自体がベンチ
表 7 北京の国家級等主要な開発区の状況
8
ャー企業を数多く設立しており、活性化されている。
表 7 に北京にある、主要な開発区の状況を示す。表 8 では日系の主な進出企業を示す。
北京地域におけるプラスチック関連企業の進出状況については、三菱化学が北京市で、
自動車向け PP のコンパウンド製造を 1998 年から、現地と合弁で進めており、ニチメンも
1997 年より、プラスチックコンパウンドの製造販売を行なっている。三井化学は天津市で
ポリウレタン原料の製造販売をしている。このほか、川崎三興化成がエンプラコンパウン
ドなど、多くの日本企業が北京にも進出している。
表 8 主な進出日系企業
表 9 北京東名化学工業の主要取引先
◎天津愛信汽車零部件有限公司
◎天津大和電器実業有限公司
◎天津豊田汽車技術中心(中国)有限公司
◎天津豊田汽車有限公司
◎天津華豊汽車装飾有限公司
◎天津富士光機有限公司
◎天津富士通天電子有限公司
◎天津佳能有限公司
◎天津梅蘭日蘭有限公司
◎天津三美電機有限公司
◎天津統一工業有限公司
◎天津電装電子有限公司
◎天津東海理化汽車部件有限公司
◎天津藍天三洋電源有限公司
◎天津斯垣雷電気有限公司
◎アルプス電器株式会社
◎北京長城松下精工空調設備有限公司
◎北京 JVC 電子産業有限公司
◎北京四通松下電工有限公司
◎北京松下電子部品有限公司
◎北京松下通信設備有限公司
◎北京索鴻電子有限公司
◎北京松下控制装置有限公司
◎大和電器株式会社
◎東海ゴム(天津)有限公司
◎青島松下電子部品有限公司
◎日本ビクター株式会社
◎三洋能源北京有限公司
◎松下電器産業株式会社
◎松下電子部品株式会社
◎天津 ALPS 電子有限公司
表 9 には、北京及び天津地区に進出している日系企業に対し、プラスチック成形、金型
製造、塗装、組立加工を行なっている北京東名化学工業について紹介する。筆者は、この
9
北京工場と天津工場を見学したが、従業員は約 1,000 人で、金型の製造装置も日本のオー
クマ、ソディック、アメリカの HASS、AIGE など最新装置がそろっていた。加工も JSW、
住友、日精、東芝など日本の射出成形機が多く見られた。さらに印刷ライン、UV 塗装、ホ
ットスタンプ、真空蒸着など、後加工ラインもそろっていた。
写真 4 に、北京東名化学の正門前、写真 5 には成形工場の一部を示す。
写真 4 北京東名化学
写真 5 成形工場
表 10 天津市の主な開発区の状況
表 11 天津市の主な開発区への進出日系企業
10
天津地域でのプラスチック関連の日系企業としては、
○ 天津京栄模具は、日本独資の金型専門企業で、1996 年より進出している。
○ 東葛樹脂(天津)では、各種精密プラスチック成形、金型製造、組立加工を行なってい
る。1995 年設立された。
○ 日宝天津塑料はプラスチック射出成形加工、金型二次加工などを行なっている。1993
年に進出している。現在は需要が増加し、事業拡大されている。
○ 天津吉田では化粧品容器や、家電部品を製造する 300 人くらいの成形加工、印刷、組
立加工を行なっている。
○ 天津大三易得力工業では、プラスチックフィルムの製造、印刷、接着、製袋加工など
がメイン業種。
○ 天津陽光プラスチックでは㈱トクヤマと日商岩井との合弁企業で、プラスチックフィ
ルムの製造販売を行なっている。
北京、天津地域には多くの日系プラスチック企業が活躍している。天津開発区にはト
ヨタが進出したことから、日本からの部品加工メーカーの進出が積極的である。表 10 に
天津の主な開発の状況と、表 11 に進出日系企業の代表例を示す。
※
河北省保定市は北京から高速道路で約 2 時間行ったところにあり農村人口も多く、
労働人件費も安い地域である。筆者は中国各地のプラスチック加工企業を訪問して
いるが、中国で最大の加工企業のひとつと思われる企業を紹介する。会社名は河北
宝碩集団(有)で、董事長の周山先生に会見し(写真 6)、同集団の説明と、写真 7 の
写真 6 河北宝碩集団の周山董事長
写真 7 同工場外観
広い工場見学を受けることができた。董事長の説明では、同社は、1957 年設立の国
有企業としてスタートし、現在は株式上場企業となっている。PVC パイプ部門では
直径 20mm から、大口径の 800mm までのパイプを製造しており、この保定工場だ
けで 10 万トン、天津、常州、杭州、珠海などで合計 50 万トン/年の PVC パイプ、
継手を生産している。その他、水道水用、ガス用の PE パイプを 20mm~1200mm
まで 2 万トン、温水パイプ用の PP パイプ、熱融着継手などを生産していた。最初の
技術はドイツから導入したとのことで、工場ではバッテンフェルト社の押出装置も
並んでいた。表 12 に同社の PVC 製品を示す。同社の包装材料事業部においては、
BOPP フィルム 1.4 万トン、PE フィルム 5 万トン、その他フィルム 2 万トンなど多
11
表 12 河北宝碩集団の PVC 製品
写真 8 河北宝碩集団のフィルム製造ライン
種類のフィルムを生産していた。写真
8 に同社フィルム製造ラインを示す。
これほどの大型プラスチック成形加工
工場は、日本では存在しないスケール
の大きさであった。PVC パイプの直径
が 800mm の大口径パイプを押出量産
している工場は、世界的にも存在しな
いと思う。
※ 天津龍巳模塑(有):この会社は 2003 年
11 月に設立された。愛知県大府市に本
社のあるタツミ化成㈱の天津会社で、
主にプラスチック用金型製造、成形加
工、塗装加工などを行なっている。スタートから 3 年で、現在 200 人の従業員でフ
写真 9 天津龍巳模塑の天津工場
写真 10 天津龍巳模塑の金型工場
ル回転している。
天津地域には、トヨタ自動車が進出したことから、自動車部品向けの金型、成形加
工が主な業務である。
2004 年の第1期金型工場から、2004 年 12 月、2006 年の第3期工場も完成し、現
在では天津地域 No.1 のプラスチック用金型メーカーへと成長している。
写真 9 は天津工場の正面を示す。写真 10 は同社金型工場の一部を示す。表 13 では、
主要取引先を示すが、トヨタ自動車、トヨタ合成、東海理化など、日系進出企業名
が並んでいる。
今回の北京訪問に際し、この天津龍巳模塑(有)を立ち上げたときから、技術指導して
12
表 13 主要客戸(主要取引先)
きた同社副総経理の竹腰氏と、章工場長と面会してきた。竹腰氏とは、4 年前に天津
の東明化学の金型工場で会っているが、彼は 12 年前に 57 歳で北京、天津に家族 2
人で移転し、「金型工場請負人」として 10 年間で4金型工場を立ち上げた実績を有し
ている。現在 70 歳であるが、まだ現役の技術者として、現場で働いているとのこと
であった。一方、彼は天津で、2002 年 9 月より技術職業学校に金型科を増設し、金
型分野の人材の育成に着手した。金型の教科書もすべて自ら編集し、1 年間は工場で
実習も行なっている。2005 年 7 月に卒業した第 1 期生 33 名のうち、8 人の優秀な
学生を自分の工場で雇用している。これからは金型学科を卒業した若手人材を日本
の金型企業にも送りたいとの計画を持っているようだ。これからは日本で定年退職
した技術者が、中国で再活躍するチャンスも充分に考えられる。一緒に会った章工
場長も、日本語はまったく日本人と変わらないほど上手なもので、日中技術者との
共同、信頼関係の良好さが、同金型工場を天津 No.1 の金型会社にまでに、3 年間で
成長させたのであろう。
(4) 長江デルタ工業地帯(上海、蘇州、浙江省)
上海地区にてプラスチック加工に携わる企業は 1,300 社以上と言われている。
上海地域においては、すでに PE、PP、PS、ABS、PVC などの汎用プラスチック原料だ
けでなく、PI、PC、PTEF などのエンプラ原料の製造や、PC/ABS、PBT/ABS、PA/
ABS、PC/AES などのポリマーアロイの生産も行なわれている。
コンパウンドの分野でも、三井物産㈱が 1994 年より上海三井複合塑料(有)で、すでに約
3 万トンのコンパウンドを生産し、自動車部品用、家電用を中心に全国的販売網を確立して
いた。三菱化学では蘇州で愛普科精細化工(有)を 2002 年に設立し、コンパウンドの製造販
売を行なっている。旭化成も蘇州と上海で、やはり 2002 年よりコンパウンド事業をスター
トしている。
日本企業だけでなく、アメリカの GEP、GLS、RTP、など世界トップクラスのコンパウ
ンドメーカーが現地生産をスタートしている。
長江デルタ工業地帯に進出している日本企業は、上海 2,700 社、江蘇省 2,600 社、浙江
省 1,200 社と報告されている。上海に進出している日系企業については、21 世紀中国総研
編「中国進出企業一覧(2005~2006 年版)によると、5,178 社が中国に進出し、その中で上海
13
表 14 上海・浦東地区における開発区概要
には 1,263 法人(全体の 30.7%)が立地している。製造業では化学、機械、繊維、電機、輸送
機器が中心である。外資全体では約 4 万社が上海に進出している。
表 14 に上海浦東地区における開発区の概要を示す。江蘇省に進出している日系企業とし
14
表 15 江蘇省の主要国家級開発区:概要
開発区名称
設立
時期
面積
特
徴
外資企業
ては、プラスチック関連では、旭化成が張家港および、蘇州に、大日本インキが蘇州、無
錫及び常州に、クレハ、三洋化成、三菱レーヨン、ポリプラスチックスが南通に、大日精
化が昆山に、それぞれ進出している。
表 15 に江蘇省に対する世界の直接投資の内訳を示す。
15
浙江省におけるプラスチック関連企業としては、中国最大の射出機械メーカーの海天(ハ
イテン)が寧波(ニンボー)にあることから、射出機械、押出機械メーカーだけでなく、金
型メーカーが非常に多い。
浙江省のプラスチック生産量は 500 万トンを超えていると予想される。特に温州市は大
手フィルムメーカーが多い。台州市には金型メーカーが多い。余姚市の「プラスチック城」
は最大の原料集散地、ここで海外及び国内大手より 650 万トンが流通している。
筆者が 2006 年に訪問した日系プラスチック関連企業の現状を簡単に紹介することにする。
※ 上海三井複合塑料(有):このコンパウンド会社には筆者は 4~5 回訪問しているが、三
井グループの三井化学、東レ、電気化学工業と、コンパウンドメーカーの大日精化と
を三井物産のマネージメントと販
売網がマッチして、順調な成長が
続いている。現在では 3 万トン以
上のコンパウンドを中国全土のカ
ストマーに対して販売するジャス
トインタイムの対応が好評だと、
石川前総経理は力説していた。家
写真 11 上海三井複合塑料の工場内
電メーカーに対しては以前より実
績が築かれていたが、現在は急成長している自動車メーカーに対して全国的な販売シ
ステムを強化していた。写真 11 に同社の工場内を示す。
※ 上海昭和塑料(有):テレビ、エアコン、ファックスなど家電、事務機器用のハウジン
グ、部品の射出成形加工を行なっている。従業員は300人で、社長 1 人だけが日本
人で経営していた。社長の説明では、中国人は品質管理も充分行ない、定着率も非常
によく、よく日本でいわれているような問題は発生していないとのことであった。射
出成形機はガスインジェクションも含めて約 30 台が運転されていた。成形不良率
0.2%以内に抑えられていた。
※ 旭日塑料製品(有):2002 年より昆山に進出した旭化学は、愛知県に本社のある電動工
具のマキタ関連のプラスチック部品を金型作成から、射出成形加工までを行なってい
たが、マキタの中国進出に従って、昆山で金型および成形加工を行なっていた。筆者
は、この工場のスタート時と、2 年ほど経過しての工場を見学したが、今では製造ラ
インも大拡張し、順調な経営体制が確立されていた。一方、マキタ(中国)では第 4 工
場まで完成し、約 2,000 人の中国人を採用していた。
※ DADU 上海(有):ここはプラスチックのリサイクル工場で、日本の㈱大都商会の上海
工場、日本で集められた使用済みプラスチック製品をここで再ペレット化し、中国市
場へ原料として販売している。押出ラインは4~5 台運転されていたので、2 万トン
/年ぐらいの生産量と思われる。DADU ではこの上海工場だけでなく、深圳に 2 工場
があって、2007 年 6 月に、同工場も見学している。プラスチックのリサイクル加工
16
は、もはや日本で行なうのは、コスト的、作業環境的にも競争不可能と実感された。
DADU は中国全体で 10 万トン/年のリサイクルプラスチックを再加工している。(写
真 12、13)
写真 12 DADU の上海工場
写真 13
DADU 視察記念写真
※ 上海中央化学(有):食品プラスチック容器メーカーとして日本のリーダーである中央
化学では、中国においても、上海、海城、北京、重慶、無錫、香港、東莞、天津と8
ヶ所に工場を設立し、プラスチック容器を、シートの押出加工、真空成形加工、印刷
を中心に行なっている。中央化学のプラスチッ
ク容器に使用する材料としては、PP、PS、HPS、
PET、タルク補強 PP などが主体である。写真
14 に上海中央化学(有)の工場と、写真 15 にそ
の製品を示す。
写真 14 上海中央化学(有)の工場
写真 15 上海中央化学の製品
※ 上海浦東 MEILING PLASTICS:この会社は中
国の会社であるが、日本から上海地域に進出したソニー、松下、シャープ、日立、富
士通ゼネラル、ダイキンなどの家電メーカーに対するプラスチック製品用金型、成形
加工、印刷などを行なっている大手加工メーカーである。この会社ではプラスチック
成形加工だけでなく、発泡スチロール製品の製造や、銅パイプの押出加工、包装資材
の製造、など幅広い事業を行なっていた。射出成形機はひとつの工場では日本製の射
出成形機械が並んでいたが、別の工場ではドイツの機械が多く使用されており、中国
製の海天の機械も数多く並んでいた。写真 16 に同社の射出機例と写真 17 に同社の取
引先の例を示す。
17
写真 16 上海浦東 MEILING PLASTICS の射出機
写真 17 取引先
上
日本から進出している家電メーカーにとって、コストの安い、技術力のある加工メー
カーの存在は日系だけに限らず競争の時代に入っていると言えよう。
※ NINGBO YUEFEI 金型(有):この会社は上海、ニンボーに工場がある大手金型メー
カーで、日本のアルファテック社との中国企業で、特にトヨタ、ホンダ、ニッサンな
どの自動車部品用の金型や、家電メーカー用の金型を製造している。中国で作られる
金型でここで紹介するような大手企業の技術レベルは世界水準に達していると言え
よう。写真 18、写真 19 に同社の工場、金型から作られた製品例の一部を示す。
写真 18
NINGBO YUEFEI 金型の工場
写真 19
金型製品例
※ 加藤徳像塑製品(有):中山でも訪問した名古屋本社のカテックス社のプラスチック成
形加工会社を訪問した。ここでは射出成形加工がメインで、自動車部品、家電部品、
情報機器関連部品などを生産していた。(写真 20、21)
写真 20 加藤徳像塑製品の工場正面
写真 21
18
100~160ton 成形機
無錫では㈱長津製作所が、深圳での金型製作、成形加工の成功実績(4 年ほどで 1,000
人スケールにまで拡大)の元に、金型成形加工を 2006 年よりスタートした。長津製
作所の精密金型は中国でも非常に高く評価されている。
※ 蘇州共和工業㈱の合弁企業である蘇州 HUIZHONG 金型(有):この会社は江蘇
WANDA グループにあって、日本最大の金型メーカーである共和工業の技術によって、
特に大型の金型を製造する進出日本企業の代表例の一つであろう。
筆者はこれまで 1996 年の設立
以来 5~6 回、同社を訪問して
きたが、訪問するたびに、事業
規模が 2 倍、4 倍、10 倍とスケ
ールアップされ、単に金型の製
造だけでなく、大型の自動車バ
ンパー、インパネ、大型テレビ、
写真 22 蘇州 HUIZHONG 金型の正面
空調ハウジングなど、射出成形
加工、塗装が行なわれていた。金型の試作テスト用として、1,600 トンの射出成形機
も設置されていた。生産機械では、3,200 トンも設置されている。写真 22 では正面外
観を示す。写真 23 では同社の金型で製造しているバンパーの例、写真 24 は NC 装置
を示す。第 7 プラスチック工場では日系進出企業のソニー、日立、三菱電機や韓国の
三星電子などの成形加工も行なっていた。自動車部品では欧米メーカーの金型、成形
加工も行なっていた。
写真 23 バンパーの例
写真 24
NC 装置
(5) 広州を中心とする珠江デルタ工業地域
広東地区に進出している日系企業で、株式上場している会社だけで 614 社があり、上海
の 1,263 社、江蘇省の 629 に次ぐ第 3 位である。日本の代表的電気電子企業、自動車メー
カー、事務機器、カメラメーカーなどは、ほとんど広東省に進出している。図 5 に広東省
進出日系企業現地法人の業種別内訳を示す。表 16 には代表的日系進出企業を示す。広州に
おいては、2005 年、2007 年にチャイナプラスが開催されたので、同省のプラスチック産業
19
表 16 中国外資企業ランキング―広東省進出日系企業(2004-2005年版)
20
図 6 都市別管理職・ワーカーの年間平均賃金(2004 年)
については、筆者のレポート(ウェブマガジン
「ポリマーダイジェスト」)を参照してもらうこ
とにする。
ここでは次に、2007 年 6 月に訪問した日系プ
図 5 広東省進出日系企業現地法人の業種別内訳
ラスチック関連進出企業の概要を示す。図 6 で
は広東各地での管理職ワーカーの年間平均賃金
を示す。同じ広東地域の中でも、広州、深圳、東莞の賃金は非常に高く、汕頭、佛山、恵
州、江門などの地域では比較的に賃金は安いようだ。
(i)東莞の大同機械集団
COSMOS 機械は COSMOS 機械グループの系列企業の射出成形機メーカーである
Weltec 機械を改名したもので、東南中国地域での射出成形、ゴム射出成形機械、ドイツ企
業との合弁でのブロー成形機、押出成形機械などを製造していた。
順徳の東華機械(型締力 4,000 トンま
で の 大 型 射 出 機 種 生 産 )、 無 錫 の
COSMOS、UBE との合弁の UBE・
COSMOS 社などとのグループ企業で
ある。大同グループはこれら機械メーカ
ーだけでなく、貿易、食品、工作機械、
プラスチック容器など 30 くらいの総合
写真 25 宇部興産とコスモス機械の合弁式
企業である。
2007 年 3 月に日本の宇部興産とコスモス機械との合弁が成立した。(写真 25)これによ
り自動車部品などの大型射出成形分野の強化を確立した。
写真 26 ブロー成形機
写真 27 ゴムインジェクション
21
写真 28 大同機械の Mr.PETER、Mr.FOSTER と
プラスチック加工研究会メンバー
工場を見学したが、ドイツとの合弁で生産するようになった REP-DEKUMA でのゴム
射出機は 200 トン型締タイプや、ブロー成形機はヨーロッパを中心に輸出も活発とのこと
であった。(写真 26、27、28)
(ⅱ)番禺のレンシン金型
1995 年にホンコン資本により設立され
た最大大手金型企業、従業員 3,000 人、
工場面積も 50 万㎡(写真 29)、玩具金型
も含めて年間 8,000 型を生産している。
3D のデザインエンジニアだけでも 350
人が働いており、工作機械も日本、ヨー
ロッパからの輸入品で、オークマの NC
だけでも 50 台、その他三井精機、ソディ
写真 29 レンシン本社
ック、AGIE などが目立った。CAD ソフ
ト は Pro ENGINEER 、 UNIGRAPHICS 、 CATIA 、 AUTODESK INVENTOR 8 、
SOLIDWORKS などを採用しており、CAN ソフトは SPACEE、CIMATRON、MASTER
CAM、PROWERMILL など最新タイプを採用していた。金型は国内だけでなく、輸出分野
ではアメリカへ 40%、ヨーロッパ 30%
など 30 カ国へ輸出している。アジアには
国内向けも含めて、13%と非常に少ない。
米国、カナダのトヨタやホンダ、三菱、
東芝などとも実績があるようだ。これか
ら日本への輸出も積極的に行ないたい意
向であった。
写真 30 にレンシンにて LEE 女性取締
写真 30 レンシンにて(中央が LEE 取締役と筆者)
役、王部長とともに記念写真をとった。
(ⅲ)TOPCO
レンシンと社長は同じであるが、ここは射出成形加工、塗装、組立を行なう会社。従業
員 5,000 人、射出成形機 250 台、小-中型機種主体であるが、東芝の 1,350 トン、東華の
1,500 トンも設置されていた。OEM 生産の中心はアメリカのラバーメイト社、ヨーロッパ
のコーヒーメーカーなどの製品や、玩具類が多かった。日本向けは少ないとのことで、欧
米が中心。
(ⅳ)佛山の飯田産業
2 年前に佛山市の工業団地に工場建設し、現在 24 名で EPDM の押出 2 層成形を行なっ
ていた。この技術は独自のもので、1 層には発泡剤が入っており、裏面層は粘着層で、2 層
で押出されたシートを切断し、自動車のビラーなどの空間を充てんし、後加熱発泡するこ
とにより防音材として使用されている。ルーフへツターなどの制振、吸音効果をもたせる
22
ことができる。
この団地には日本企業も 9 社が入居している。ワーカーの貸金は 1.5 万円、エンジニアは
5~10 万円で安定している。
(ⅴ)中山の加藤徳精密橡塑制品(KATECS)
中山市三郷鎮平埔工業区内に 2003 年 10 月より創業をスタートした。事業内容としては
プラスチック成形加工、ガスインジェクション、印刷、組立、金型などを行なっている。
従業員 240 人。射出成形機 14 台、金型作成用工作機械、測定設備として三次元測定器、レ
ーザー測定器などを有していた。
KATECS 社は中国において中山、深圳、上海に工場を有し、ベトナムにもホーチミン、
ハノイに工場を有している。特に事務機器用部品の製造、ゴム部品の製造、金型作成など
に強みの企業である。
(ⅵ)中山市三郷鎮委員会書記
中山市三郷鎮経済貿易分室主任
中山市三郷鎮委員会委員
三郷地区に工業進出する場合の申請手続きを行なう役所で、日本での区役所に相当する
所であるが、実に立派でデラックスな建物で高級ホテルのような建物であった。
会議の内容は、Liang Xin 共産党書記より三郷鎮の工業立地環境のメリットと、過去の発
展状況の説明があった。次に筆者より日本と中国とのプラスチック産業の比較を行ない、
今後の両国の共存共栄の方策について説明した。
(ⅶ)深圳の長津金安精密注塑
長津製作所は川崎市で 1956 年に設立
した精密金型メーカーとして、特にカメ
ラ部品、IT 部品、携帯電話などの精密金
型メーカーである。
中国深圳では 2000 年 12 月より金型の
生産とカメラ部品の成形加工をスタート
させた。筆者もこれまで 2 回訪問してき
たが、4 年前と比較すると、当時 200 人
だった従業員も今回は 1000 人まで増加
しており、日系カメラメーカーにはすべ
て納入している。携帯電話ではノキア用
金型だけでも毎月 30 型を製造し欧米を
中心に納入している。型作成納期は 20
日間とのこと。成形加工機は住友の電動
式射出成形機が 40 台、
ファナック 20 台、
その他 25 台。金型も毎月 100 型作成。
図 7 長津金安精密注塑の塗装ライン
23
今回 3 億円を投資した 265m 塗装ラインを見学する
ことができた。図 7 に同社の塗装ライン。写真 31 に
カメラ、携帯電話製品を示す。写真 32 に成形加工ライ
ンを示す。
写真 32 長津金安精密注塑の成形加工ライン
写真 31 カメラ、携帯電話製品
(ⅷ))亜洲機械金型
1992 年に深圳に工場を設立した精密金型、成形加
工メーカー。従業員は 1200 人で、金型部門 500 人、
設計、成形加工で 700 人の大手金型メーカーで、日系
企業との取引もソニー、キヤノン、ニコン、オリンパ
スなど亜洲全体の 50%は日系ビジネスで、その他フ
ィリップス、トムソンなどの金型を作成している。輸
出比率は約 20%で欧米中心だが、ブラジル、南アフ
リカにも輸出開始しているとのことであった。
射出成形機は 43 台でホンコン製が多いが、東芝 3
台、川口 1 台も含まれていた。工作機は日本製、スイ
スの AGIE が多い。
写真 33 に同社の金型で作成した製品を示す。
(ⅸ)深圳大都五金(dadu)
深圳大都はリサイクルプラスチック原料を日本か
ら 10 万トン/年輸入して深圳で分別ペレット化して、
中国市場へ販売するだけでなく、自社でも食品容器
(弁当箱)、玩具、PET ボトルからは再生繊維化して
輸出用の繊維、玩具、および輸出用縫い包みなどに再
24
写真 33 亜洲機械金型の製品
生利用している。
大都では中国で、深圳で 3 工場、上海、青島にも工場を有している。さらに現在、深圳
で 5 万坪の新工場を建設中で、新しく大規模なリサイクルビジネスを進め、中、日での株
式上場を計画しているとのことであった。
写真 34 に同社の工場外観。写真 35 は食品加工工場の見学の様子。写真 36 は再生原料を
使用しての輸出用玩具。
写真 35 工場見学の様子
写真 34 深圳大都五金の工場
写真 36 輸出用玩具
(6) 中国の 5 大問題点と、将来のリスク対策
中国への企業進出は、これまで解説してきたように、日本と比較しての人件費の安さ、
若い労働者の確保、プラスチック成形に必要な金型の入手、技術能力の基盤がある、プラ
スチック原料入手が容易である、進出日系企業が多く、中国国内で成長が続いているため、
仕事量が確保できる。中国国内市場が期待できるので、生産基地だけでなく、販売市場と
して充分期待できる。このような企業進出メリットが認められてきた。
一方、高度急成長を続けてきた結果、問題点も多く発生するようになった。今後の企業
進出に当たって、大きな問題になるであろう。そこで中国に発生している 5 項目の問題点
について考えることにした。①電力不足、②水不足、③ワーカー・中間管理職員不足、④
モラル不足、⑤情報公開不足、などの 5 点が最も重要な問題点と思われる。そこで、これ
ら問題点の現状について考え、今後 5~10 年後に発生する可能性のあるリスクについて、
その対策を提案することにする。
6-1.
①電力不足問題:今回の広東地域を企業訪問した際も、週に 2 回は停電になるので、経
営者は非常に困っていた。その対策として、進出している日系プラスチック成形加工メー
カーや、金型メーカーでは、自家発電装置を有していた。ただ連絡もなく突然停電するこ
25
とがあるので困っているとのことであった。中国の電力不足の対策として、これまで閉山
していた石炭鉱山を再開していることは明らかであるが、そのためCO2の発生増加や、大気
汚染の増加で問題が発生している。
一方、水力発電についても、世界最大の三峡ダムも完成が近いが、現在電力不足で困っ
ている上海や広州までの送電網には、送電ロスなど問題点が多い。中国政府は原子発電を
本格的なエネルギー源として検討している。現在の中国の電力不足量は 3,500 万~4,000 万
kw と言われ、2008 年の北京オリンピックの需要に応えるべく、発電所の建設が急ピッチ
で進められている。2005 年から 3 年間で、約 2 億 3,000 万 kw 分の発電所を増設する計画
である。ただ、中国の発電では石炭による火力発電がメインであるため、石炭価格の高騰
により、石炭の入手が困難な発電所もあり、また輸送手段の鉄道インフラの未発達、送電
用の全国ネットワークにも問題があり、当分の間は、電力不足は続くものと思われる。し
かし長期的対策としては政府の総合エネルギー対策として計画的に電力不足は解消される
であろう。
②水不足問題:中国の水不足問題は 600 都市中、400 都市で水不足が発生している。一
方、広東省や、吉林省の河川では水質汚染の問題も発生している。
最近の工業団地では土地廃水規制も非常に厳しくなっており、廃水のリサイクル使用も
求められている。水処理装置メーカーにとっては、大きなビジネスチャンスとなっている。
現在、全国的な水の給水インフラが大規模な工事で進められている。
③ワーカー・中間管理職員不足:中国の総人口のうち、約 9 億人が農村戸籍であり、こ
の農民が都市部の出稼ぎで数年間働き、また農村部に戻るため、労働人口は不足しないと
考えられてきたが、最近、特に広東地域で出稼ぎ労働者不足が発生してきている。労働力
不足によって、労働賃金が上昇し、ここ数年、名目賃金は 15~25%上昇した。
この労働人口不足の原因を考えると、胡錦涛政権のポリシーとして、都市と農村の所得
格差の是正に力を入れ、農村部の所得水準も向上し、出稼ぎの必要性が、やや減少したこ
とが都市部の労働人口不足へ、つながったと思われる。この農村所得の上昇政策は政府の
最重要ポリシーなので、この低賃金労働力不足は、今後も続くであろう。一方沿海地域に
は、世界のトップ企業の進出によって、中国の一流大学を卒業した、中間管理職の確保に
各社が競争するため、経験のあるエンジニアや中間管理職者の賃金は急ピッチに上昇する
だけでなく、日系の進出企業にとっては、優秀な人材確保が困難になってきている。
上海、広東地区のプラスチック加工
表 17 中国各都市における求人倍率一覧(2005 年第 44 半期)
企業や、金型企業を訪問し、実際に支
払っている賃金を聞くと、経験のある
エンジニアに対しては 5~6 万円/月、
マネージャークラスでは 10~15 万円
/月と賃金上昇が進んでいることが
わかる。3~4 年前までは、深圳など
26
の若手女子ワーカーの賃金は 8,000~1 万円/月であったが、現在では 20~30%アップし
ている。特に広東省では出稼ぎ労働者は、約 2,000 万人に達しているが、珠江デルタ地域
だけでも、約 200 万人の労働人口不足が発生している。表 17 に中国各都市における求人倍
率を示す。この表からも明らか
なように、福建省、広東省にお
表 18 深圳市における業種別求人状況
ける人手不足が大きい。
表 18 では深圳市における業
種別求人状況を示すが、業種に
より求人倍率が非常に変化が大
きいことがわかる。この原因は
出稼ぎ労働者不足が原因である
ことは明白である。図 6(前述)
では広東省の中で、都市別労働
賃金を示すが、特に外資投資が
多い、深圳、広州、東莞地域で
の賃金が高くなっている。
④モラル不足:中国人のモラル不足については、最近、日本の TV を含むマスコミが連日
報道している。一般日常生活におけるマナーの悪さ、地方役人の態度の悪さ、汚職犯罪の
日常化、食品に対する安全性、品質規格の信用性、不良債権、代金回収の困難性、コピー
商品、不正表示商品、ニセ物商品の多発、工場内資材・技術ノウハウ・商品などの持ち出
しなど、進出日系企業の経営者から聞かされることが多い。しかし、中国政府も 2008 年の
北京オリンピック開催を前にして、これら中国人のモラル向上について、本格的な対策を
実施しており、以前の状態と比較すれば、大幅に改善されてきており、今後数年の間には、
少なくとも都市地域の水準は高まることが期待できる。今回の北京、天津視察でも、市内
や観光地での掃除も行き届いていた。しかし、中国で最大の力を有している共産党の幹部
のモラル向上が最も重要であり、国家プロジェクトの確実な実行と、国有企業の改革が求
められている。
⑤情報公開不足:中国における TV 放送においても、政府による厳しいコントロールが実
施されている。2005 年 4 月に発生した反日デモについても、中国のテレビ放映がなされな
かったことは当然としても、駐在日系人が日本のテレビを衛星放送で毎日見ているが、こ
のデモのニュースになると、見えなくなってしまった。インターネットの情報スクリーン
も実施されており、共産党政権にとって、不利な情報は公開されないシステムは確立され
ている。日系進出企業でたいへん困った事例として、新しく工場を完成させ、生産が軌道
に乗ったところで、役所より、工場位置を新しい高速道路が通ることになったので、工場
を移動してもらいたいとの連絡が突然に知らされ、無理に移転させられたと不平を言って
いた。各地方の税制の変更や、手続きの変更、規制の強化など、一方的に通知され、実行
27
させられるので、中国での役所の行動になれるまでは当惑するケースが多い。
環境問題で、中国は世界の公害天国の悪玉のように日本では報道されているが、上海や
広東地域における電子産業や、プラスチックのメッキ工場、塗装ライン、廃水処理、など
における規制は、非常に厳しいものであって、日本と変わらない基準である。
中国においては、中国全体の統計資料が、どれが正確なのか判断が難しい。プラスチッ
クに関しても、業界専門雑誌が 50 種類以上出版されており、各地方での出版が多い。全国
的製造メーカーリストや、企業規模、生産品種、数量の正確な情報入手が困難である。プ
ラスチック用の金型メーカーも数千社あると言われるが、その実態は明らかでない。
これまで現在の中国が関わる 5 大不足問題点について考えてきたが、これ以外で中国に
発生するかもしれないリスクとしては次のような 10 項目をあげることができる。心配の 10
項目。
ⅰ)2008 年に開催される北京オリンピック、2010 年の上海万博の後に発生するかもしれ
ないバブル経済の崩壊。
ⅱ)上海地区を中心とする、不動産価格の下落。
ⅲ)上海市場を中心とする株式市場の急落。
ⅳ)人民元の切り上げによる輸出競争力の低下。
ⅴ)外資優遇策の撤廃政策や、輸出増加税の還付率の引き下げなどによる外貨保有高の
減少策
ⅵ)国有企業の不採算性が明白になり、その処理損失
ⅶ)金融不良資産の発生によるパニックの発生
ⅷ)政府に対する抗議運動が各地で発生する
ⅸ)鳥インフルエンザや、サーズの発生のような予想のできない事態の発生で、工場が
ストップし、輸出基地としての不安が発生
ⅹ)2012 年の第 18 回党大会を前にして、国民の不満、抗議デモが活発化し、経済の急
速な成長は鈍化し、米国を中心とする輸出市場でのボイコット運動が発生する可能性
6-2.中国リスク回避戦略
中国は現在、世界の工場だけでなく、世界の市場として急速な発展を遂げてきている。
しかし、最近中国は 2008 年の北京オリンピックや、2010 年の上海万博が終わったあとは、
現在のバブル的土地価格の上昇や、株価の急速な上昇のバブルが破れ、中国経済は大混乱
に至ると言われている。その他、欧米の圧力により人民元の大幅な切り上げ要求が強まり、
中国での生産コストの上昇と、輸出競争力の低下が予想される。
これ以外にもサーズや鳥インフルエンザなどの突然の発生により、生産活動が突然長期
的にストップしたり、反日運動の急速な高まりなど、先項で説明した中国の 5 大問題点以
外にも予想できないリスクの発生に対する対策も検討しておかねばいけない。
そのような不安はあっても、労働力、市場、技術、ベース産業、インフラ整備などを総
合的に比較すると、中国プラスワンとして注目されているベトナム、インド、タイ、イン
28
ドネシアなどと比較しても、中国の
表 19 中期的(今後 3 年程度)有望事業展開先国・地域
魅力は捨てにくい。
05 年度調査
国際協力銀行が行なったアンケー
ト調査で、今後 3 年程度の間に、海
外へ進出する場合、もっとも有望な
事業展開先国はどの国かをまとめた
結果を表 19 に示す。2004 年、2005
年の調査結果でも、中国が圧倒的に
トップであり、次にインド、タイ、
ベトナムと続いている。ここで、ア
ンケート調査の結果で、各国の有望
理由を表 20 に示す。中国がもっとも
有望である理由は、①市場の成長性、
②安価な労働力、③組み立てメーカ
筆者が、最近 2~3 年の間で訪問して
表 20 有望先上位 10 カ国・地域の主な有望理由
80.2%
76 2%
46.2%
43.4%
61.5%
43.8%
38.5%
91 4%
12 1%
51.0%
43.1%
23.5%
53.3%
66 7%
27.8%
58.1%
54.8%
19.4%
調査した結果、プラスチック成形加工、金型工場などの可能性では、インド、タイ、ベト
ナム、ロシア、インドネシア、ブラジル、台湾、韓国、米国の中で、人件費、ワーカー、
エンジニアの技術レベル、技術力、工業団地内のインフラ競争力などを考慮し、中国に続
き、安価な生産工場としては、ベトナムが No.1 と考えている。
図 8 に各有望先の有望理由を示すが、ベトナムは生産面では 10 カ国中で、No.1 である。
ベトナムのハノイと中国の広西チワン自治区とを結ぶ陸上での物流ルートも完成し、ハ
ノイ―南寧(360km)では、5 時間でトラック輸送が可能である。今後、中国とベトナム間
の組立分業加工が進むものと予想される。ベトナム東側のダナンから、第2メコン橋を通
って、タイのバンコックまでトラックで輸送できるルートも完成したので、ベトナム、ラ
29
オス、ミャンマー、カンボジア、
タイを含む、メコン河流域に立
地する国、地域を含む、大メコ
ン圏(GMS)地域協力プログラ
ムが今後大きな生産地域へ変
化するものと予想される。この
地域全体では、約2億人の人口
を有しており、アジア地域でも
もっとも安価な労働力と言え
る。
表 21 に、アセアン各都市の
図 8 各有望先の種類別有望理由
労働力コスト比較を示すが、ハ
表 21 ASEAN の都市別労働コスト(ドル/月)
ノイ、ヤンゴン、ホーチミンが最も安い労働力を得ることができる。これまで、チャイナ
プラスワンとして、インド、ベトナム、インドネシアなどが現在最も注目されているが、
中国へ進出している日系企業の経営者たちの意見を聞いていると、まだまだ中国での仕事
は今後とも発達を続けると確信していた。国際協力銀行がアンケート調査した結果でも、
すでに海外進出経験のある企業経営者に対して、次に海外工場を設立するとすれば、どの
国が最も有望と考えているかの質問に対しても、中国がずば抜けて No.1 を維持している。
確かに、広東地域、長江デルタ地域、北京、天津地域においては、人件費の上昇、安価
な労働者の確保困難などの問題点はあるが、中国には約 10 億人の農村地域があり、同じ中
国でもワーカーの賃金は 10~50%の安い賃金で確保できる。チャイナプラスアナザチャイ
ナ戦略が最も効率的な戦略かもしれない。注目される地域としては、山西省、内蒙古自治
区、四川省、陜西省、重慶市、河北省などが期待できるのではなかろうか。
(7) 終わりに
プラスチック成形加工、金型メーカーの中国進出企業の現状について、実際に中国各地
を訪問し経営者の意見をまとめてみた。いずれの企業も、中国進出してから 2~3 年の間に、
30
事業基盤を確立させ、その後は順調な高度成長を続けている。
現在、国内で中国の将来に対し不安を報道されているが、実際、中国に進出している企
業経営者からは、今後とも成長は続くものと確信している意見を多く聞かされている。確
かに現在の中国には多くの問題点はあるが、日本国内で事業を細々と継続するよりは、将
来の成長と事業拡大を中国に求める方が、可能性は高い。将来に対する希望が持てるとい
えよう。
中国政府のトップは、日本の政治家と比較すると国際感覚も広く、スピーディーな政策
実行力を有しているように思われる。農村対策や、格差是正の対策も明らかにその効果が
見られるようになった。そこで、将来のリスクに対する対策としての、チャイナプラスワ
ンとしては、安価な労働力、優秀でまじめな人材、現地市場の成長性、現地大学の技術レ
ベルと卒業人数、投資にかかる優遇政策などを比較すると、ベトナムが最適と思われる。
しかし、中国国内にも、プラスワンが各地方に存在することを検討しなければいけない
と思う。すでに上海地域や、広東地域に進出して、中国事情をマスターしている企業にと
っては、地方のより安い賃金の農村部や電力、水などの問題の少ない地方へ、リスクヘッ
ジするのがベターではなかろうか。いずれにしても、海外進出にとって、最も大切なポイ
ントは、実際に現地で働き、フレキシブルな経営ができる責任者の選定と、中国で一緒に
働く、中国人のパートナーの選定であろう。若い行動力のある人材の選定が求められてい
る。
【参考文献】
ウェブマガジン「ポリマーダイジェスト」:
「中国プラスチック産業の最新情報とチャイナプラス 2005」(論文・レポート)
「チャイナプラス 2006 視察と最新中国プラスチック産業」(海外見本市レポート)
「チャイナプラス 2007 と華南プラスチック状況」(海外見本市レポート)
〈本稿に関する問合せ先〉
長谷川国際技術士事務所
〒468-0042 名古屋市天白区海老山町 2603
TEL&FAX
052-802-5629
E-mail:[email protected]
本稿の無断転載を禁じます。
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Copyrightⓒ2007.Polymer Digest
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