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地域安全政策報告書日本語版②(PDF:1748KB)

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地域安全政策報告書日本語版②(PDF:1748KB)
II.
日中関係の課題と沖縄
「奉使琉球図巻」沖縄県立博物館・美術館所蔵
※ 本章に掲載の論文などの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、
沖縄県の公式的な見解を示すものではありません。
日中関係の課題と沖縄
中国との交流の歴史
・ 沖縄はかつて琉球王国として、アジア諸国と交易を重ね、東アジアの一大貿易拠点と
して発展してきました。
・ この諸外国との交易関係を支えたのが、琉球と
中国との進貢・冊封体制であり、1372 年、中国
の洪武帝による入貢の求めに、琉球国中山王
察度が応じたのが始まりです。
・ 中 国は 、琉 球 から多 く の留 学 生 を受 け 入れ 、
琉球の人材育成において大きな役割を果たし
ました。また中国から多くの人々が琉球に帰化
し、その後の沖縄の歴史や文化の形成に大き
な影響を与えました。
・ 以来、両国の親密な関係は約五百年の長きに
「進貢船の図」沖縄県立博物館・美術館所蔵
わたりました。
<現在の沖縄の生活文化に反映される
中国との歴史的交流>
74
日中関係の課題と沖縄
中国との交流の現状
姉妹提携
・ 福建省と沖縄県(1997 年より)
(参考)福建省福州市と那覇市(1981 年)、福建省
泉州市と浦添市(1988 年)、福建省廈門市と宜野湾市
人材交流
・ 県内高校生・大学生の中国への派遣
・ 中国の高校生の沖縄への招聘
・ 福建師範大学と、沖縄県、県立芸術大学、琉球大
学、沖縄国際大学との人材交流
文化交流
・ 琉中歴史関係学術交流(資料「歴代宝案」の提供・
研究者招聘・シンポジウム開催)
・ 福建省に所在する、琉球人墓及び石碑類の調査
・ 中国・日本・奄美・沖縄文化友好祭等 各種文化
イベント
経済交流
・ 北京・上海・香港・台北事務所を設置し、観光誘客、
航空路線拡充、県産品販路拡大、県内企業海外展
開支援、企業誘致等を実施
・ 輸出額(平成 24 年 飲食料品) 対中国本土 1 億
589 万円、対香港 5 億 6,960 万円、対台湾 1 億
9,547 万円
観光交流
・ 平成 24 年における中国本土からの入域観光客数
は 6 万 9,500 人(H23:3 万 3,000 人)ただし、一連
の日中摩擦が高まった平成 24 年 9 月以降は大幅
に減少
・ 平成 24 年において香港から 5 万 8,000 人(H23:5
万 1,200 人)、台湾から 14 万 600 人(H23:11 万
3,000 人)
75
日中関係の課題と沖縄
「沖縄県民の中国に対する意識調査 60」
調査結果について
東京大学教授
高原 明生
1. 尖閣を巡る対立の影響について
調査全体を通して、尖閣を巡る一連の出来事に対する、沖縄県民の非常
に強い衝撃が明確に現れている。
問 1 の中国に対する印象については、3 割程度の沖縄県民が中国に対し
て「良くない印象をもっている」とはっきりとした回答をしており、「どちらかとい
えば良くない印象をもっている」割合を合わせると、9 割近くに達している。
また良くない印象を持っている理由として、「中国人の愛国的な行動や考え
方が理解できないから」や「国際的なルールと異なる行動をするから」が、また
問 3 の日中関係の発展を妨げる問題としても、「中国国民のナショナリズムや
反日感情」や「中国の反日教育」といった回答が、全国と比較して高い割合と
なっている。問 7 の歴史問題で解決すべきことの回答も合わせて、尖閣を巡
る対立の影響が調査結果に現れていると言える。
さらに中国に対して良い印象を持っている理由として「中国経済の発展は
日本経済に不可欠な存在になったから」が最も高い割合となっている。すると
逆に、尖閣を巡る日中の対立が中国人観光客の激減につながったことが、沖
縄の人々が中国に良くない印象を抱く原因にもなっていると推測出来る。(図
表 1、図表 2 参照)
60
第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」調査結果については、資料編(145 ペ
ージ~)をご参照ください。
76
日中関係の課題と沖縄
2. 歴史や文化への関心について
中国に対して良い印象を持っている理由として、「中国料理や中国の歴史
など中国の文化に関心があるから」との回答が、尖閣を巡る問題があるにも関
わらず高い割合となっており、全国と比較しても特徴的である。 またさらに、
「その他」自由記入欄においても歴史や文化への関心の高さを裏付ける記述
が、多くみられた。
中国の歴史や文化への関心が高いという特徴があるとすれば、本来、沖縄
県民の中国に対する印象はもっと良いはずである。
3. 台湾に対する好印象について
尖閣を巡る軋轢は、台湾との間にもあるにもかかわらず、沖縄県民の台湾
に対する印象は良好である。
問 2 の台湾に対する印象については、沖縄県民の 8 割近くが台湾に対し
て良い印象を持っていると回答した。その理由として「長い交流の歴史」や
「文化面での共通性」、「地理的な近さ」といった理由を多く挙げており、沖縄
県民は台湾に対する身近さを感じていることが分かる。また東日本大震災に
対する支援についても、きちんと認識されている。
良くない印象を持っている理由としては、尖閣を巡る対立が最も高い割合と
なっているが、仮にこの問題が発生していなかったとすると、良くない印象は
もっと少なかったことと思われる。
問 6 の中国と台湾でどちらに親近感を覚えるかという質問についても、7割
近くが台湾により親近感を感じると回答しており、大陸と比べた際の台湾に対
する好印象の強さが目立っている。
77
日中関係の課題と沖縄
4. 経済的関係について
問 1 の中国に対して良い印象を持っている理由や、問 3 の日中関係の発
展を妨げる問題は何かという問いに対して、経済に関わる理由や問題を挙げ
た回答の割合が比較的低かった。また問 4 の日中関係は重要かという問いに
ついても、重要であるとの回答が全国に比べて少なくなっていることからも、
中国との経済的関係に対する認識が相対的に希薄であることが窺える。
企業の対中進出が活発で経済的相互依存関係の強い全国に比べ、沖縄
企業の中国進出の規模が限られており、また増加傾向にあるとはいえ中国人
観光客についても、まだその割合が低いことが背景にあろう。(図表 3 参照)
5. その他の特徴について
問 5 の中国と米国でどちらに親近感を覚えるかという質問に対し、「どちら
にも親近感を感じない」との回答が全国と比べて多くなっており、米軍基地問
題を抱える沖縄の特徴が窺える。
問1及び問 2 の中国・台湾に対する良くない印象の理由における自由記入
欄にて、観光客として沖縄を訪れた際のマナーの悪さに関するコメントが目立
った。今後の友好関係を築いていくためにも、改善すべき課題として指摘でき
よう。
問 8 の東アジアの海洋で軍事紛争は起きるかという質問に対し、宮古・八
重山地域における「起こると思う」という割合が他の地域に比べて高く、また問
9 の領土問題はあるかとの質問でも「存在していない」という割合が当該地域
において高いなど、地域的特徴がみられた。
問 10 の中国訪問の経験、及び問 12 の知り合いの有無については、沖縄
の特徴は現れず、全国と概ね同様の結果となった。問 11 及び問 13 の台湾と
の関係についても、特別密接な関係があるとまでは確認できなかった。
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日中関係の課題と沖縄
6. まとめと課題
調査全体を通して、尖閣を巡る一連の出来事に対する、沖縄県民の非常
に強い衝撃が明確に現れている。中国側の対日感情も課題だが、中国側の
動きが沖縄を含めた日本に与えた影響を、どう改善していくかも課題となる。
一方、尖閣を巡る軋轢は台湾との間にもあるにもかかわらず、沖縄県民の
台湾に対する印象は良好である。しかし現在の関係が特段深いわけでもなく、
今後の伸びしろは大きいと言えよう。
沖縄は、中国を始めアジア諸国との交流や交易を通じ、多くの文化を吸収
し調和させてきた歴史を持つ。だが、沖縄と中国との現在の関係が、特別に
深く、濃いといった傾向はみられず、歴史的、文化的特性を必ずしも活かしき
れていないことが窺われた。
しかしながら、中国の歴史や文化そのものへの関心は高い。地理的特性に
加え歴史的、文化的特性を十分に活用し、経済を含め、関係を幅広く発展さ
せる余地は十分にある。どうやって多くの分野における交流を活性化してい
けばよいのか。今回の調査結果により、沖縄にとっての今後の検討課題が明
らかにされたと評価できるだろう。
図表 1: 中国本土からの入域観光客の推移(沖縄県)
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日中関係の課題と沖縄
図表 2: 台湾からの入域観光客の推移(沖縄県)
図表 3: 沖縄県における入域観光客の状況(平成 24 年 沖縄県)
人数
入域観光客総数
うち外国人
中国本土
香港
台湾
韓国
5,835,800
376,700
69,500
58,000
140,600
34,200
外国人観光
客構成割合
100%
18%
15%
37%
9%
入域観光客
構成割合
100%
6.5%
1.2%
1.0%
2.4%
0.6%
80
日中関係の課題と沖縄
沖縄の歴史から見た尖閣列島問題
琉球大学教授
高良 倉吉
1. 主張の要点
この論文において、私が主張したい要点は以下の通りである。
(1)前近代の東アジア地域において、尖閣 Senkaku 列島は、航海者たちにと
って重要な海上の標識であった。そのなかで、尖閣列島とその周辺海域を最
もよく通過したのは琉球王国の船乗りたちであり、彼らはその島々の存在を熟
知していた。しかし、そうだからと言って、尖閣列島は琉球のものだったので
はなく、彼らにとって単なる地理上の知識でしかなかった。同時にまた、琉球
を含む前近代の東アジアの国々やそこで暮らす人びとにおいても、無人の尖
閣列島を領有しようとする意識や動機も存在していなかった。
(2)1879 年春に琉球王国が崩壊し沖縄県が誕生して以後、沖縄県は、無人
の島嶼に対する注目すべき施策を推進した。大東 Daitou 諸島や尖閣列島の
開発とその有人島化を目指したのである。実際の開発事業は沖縄県庁が直
接行ったものではなく、民間の事業者によって推進された。その結果、沖縄島
の東方=太平洋側(大東諸島)および南西=東シナ海(東海)側(尖閣列島)
に新しいフロンティアが形成された。この事業により、二つの無人の島々は沖
縄県の行政体制の一環に組み込まれたのである。
(3)尖閣列島問題を議論する際には、その重要な論点を構成する歴史的な
事実認識について、客観的かつ冷徹な態度を保持しつつ検討すべきである。
(4)尖閣列島問題をめぐって日中両国が対立することは、両国の国益にとっ
てマイナスであるばかりでなく、沖縄およびアジア太平洋地域の安定や発展
にとってもマイナスである。日中両国は偏狭なナショナリズムに傾斜するので
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日中関係の課題と沖縄
はなく、冷静な態度で、両国の将来を展望したうえで、この問題の解決を図る
べきである。
(5)尖閣列島問題の解決に向けて、沖縄というポジションからどのような積極
的貢献が可能なのか、そのことについて沖縄県庁と沖縄県民は真剣に検討
すべき時機を迎えている。
2. 沖縄と中国・日本の歴史的関係
2-1 前近代の状況
沖縄の文化は、古い日本文化を源流とする。その最も象徴的な事実は、琉
球語(沖縄の方言)と日本語(日本本土の方言)が、「日本祖語」と呼ばれる共
通の言語から分離したことである。しかし、時代が下 るに し たがい、沖縄の
島々に居住する人びとは独自の歴史を歩むようになった。その象徴的な出来
事が、「琉球王国」の台頭である。
琉球王国は、1429 年から 1879 年までの 450 年間、沖縄の島々を統治し
た独自の国家であった。琉球王国は、孤立して存在していたのではなく、東
アジア地域における国際関係を背景に存続していた。
その最も基軸となる国際関係が中国(明朝、後に清朝)との関係であり、琉
球王国そのものの展開を強く規定した。琉球の国王の地位は中国皇帝によっ
て認知された。そのために、中国皇帝は、琉球で新しい国王が即位するたび
ごとに外交使節団を直接派遣し、その者が琉球の国王であることを認めたの
である。皇帝の権威によって認知された琉球の国王は、皇帝のもとに使節団
を定期的に派遣し、忠誠を誓った。このような従属的な外交関係を前提に、
琉球は、他のアジア諸国同様に、中国との貿易を推進できたのである。
中国との関係で特筆されるのは、琉球の人事や内政に対して、中国皇帝が
直接口出しすることは基本的になかった、という点である。琉球は、その土地
82
日中関係の課題と沖縄
に君臨する国王が統治する国土であり、その者が中国皇帝の権威に従うだけ
で十分だったのである。
だが、1609 年に起こった日本の薩摩軍による琉球に対する軍事侵攻は、
琉球の置かれた国際関係を大きく変化させた。戦争に敗れた琉球はそれ以
後、従来の中国との外交関係を保持しつつ、同時にまた、徳川将軍を頂点と
する日本国家の強い影響下にも置かれるようになった。琉球王国の指導者た
ちは、中国および日本という東アジアの大国に従属しながらも、しかし、その
どちらにも吸収されない独自性を保持しようと努力した。中国と日本もまた、お
互いが直接対峙するような事態を用心深く避けており、両国にとってのクッシ
ョンボードのような役割を琉球に期待していた。
言い換えると、中国と日本はそれぞれの思惑で琉球王国に関与したのだが、
さらに歩を進めて、琉球を中国のものにする、あるいは日本のものにする、と
いう行動はとらなかった。そして琉球側は、両大国のスタンスから生じた間隙
を巧みに利用して、自国を存続させていたのである。
2-2 近代初期の状況
だが、1868 年に誕生した日本の近代国家は、日中間のクッションボードと
して存続してきた琉球という存在に終止符を打つことを目指した。中国との関
係を断ち切り、近代日本の一部となるよう琉球に強く迫ったのである。琉球側
はこれに反対したが、しかし、1879 年春、日本政府は軍隊と警察を動員し、
強引なかたちで琉球王国を廃し沖縄県を設置することを強行した。
日本側の強引なやり方に対し、1870~80 年代において、日中両国は琉球
の帰属をめぐって激しく対立することになった。沖縄県を設置して実質的な統
治権を行使し始めた日本に対し、琉球に対する宗主権をタテに中国側が猛
烈に抗議したからである。琉球の指導層の多くも沖縄県設置に反対しており、
王国の復活を求めて様々な活動を展開した。その詳細な歴史プロセスについ
てはここでは割愛するが、結果として言えば、日本と中国の戦争( 1894~95
83
日中関係の課題と沖縄
年、日清戦争)で日本が勝利した結果、沖縄住民の側も、沖縄が日本の一部
であるという現実をしだいに受け入れるようになった。
日本による琉球王国の併合という出来事をどのように評価すべきかについ
ては、歴史家のあいだで様々な意見がある。ここではその問題については割
愛することとし、以下の点のみを確認しておきたい。
沖縄県設置後の 19 世紀に入ると、沖縄出身の知識人たちのあいだから、
日本の一部としての沖縄を受け入れるという言説が積極的に提起され始めた。
その主張は三つの重要な論点から構成されていた。一つは、目前の現実で
ある沖縄県体制は、日本の侵略による植民地状態ではなく、日本社会の一員
としての沖縄の正当な状態のことである、という認識である。その論拠として、
二つ目の論点が強調された。沖縄文化のルーツは日本文化であり、沖縄は
日本という文化的共同体に属すべき運命だった、と強調された。つまり、日本
という近代国民国家に沖縄が属することは必然的な事態だ、という認識である。
そして三つ目の論点としては、沖縄の独自性が強調された。日本の一員で
あることを前提にするとしても、沖縄は日本の他の諸地域に比べて強い歴史
的・文化的な個性を内包しており、そのことを担保しながら歩み続けることが
大事だ、という認識である。
以上の認識を主張した代表的な知識人が伊波普猷 Fuyuu Iha(1876~
1947 年)であり、彼の言説はその後の沖縄社会に大きな影響を及ぼした。
3. 歴史から見た尖閣列島
これまで述べた歴史的概観をふまえたうえで、日中両国の懸案事項として
急速に焦点化しつつある尖閣列島問題について、若干の歴史的な事実認識
を指摘しておきたい。
84
日中関係の課題と沖縄
3-1 琉球船の航海の標識
前近代を通じて尖閣列島は無人の島々であり、その島々に琉球人や中国
人、日本人、朝鮮人等が集団で定住し社会を形成するということはなかった。
当然のことながら、その島々は琉球王国の版図の外にあった。琉球国王の統
治が及んでいたのは、尖閣列島に最も近い島々で言えば、久米 Kume 島や
石垣 Ishigaki 島の有人島までであった。
しかし、尖閣列島は、琉球王国の船が中国とのあいだを行き来する航海ル
ートに位置しており、いわば海上の標識ともいうべき重要な存在だった。琉球
船は約 500 年間、少なくとも隔年ごとに尖閣列島とその周辺海域を航海しな
がら、中国との外交や貿易を展開していたのである。
中国政府は、琉球船の入域港を福建 Fujian 省の福州 Fuzhou に指定して
いた。そのために、那覇港を出た琉球船は慶良間 Kerama 諸島や久米島の
近海を通り、尖閣列島周辺の海域を通過して福州港に向かった。用務を終え
て帰還する際には、行きとほぼ同様のルートをたどって那覇港に帰帆した。し
たがって、無人の島々だったとはいえ、尖閣列島は琉球船にとって航海上の
重要な標識の役割を果たしていたのである。そのことを物語る象徴的な資料
は沖縄県立博物館・美術館が所蔵する絵巻である。那覇と福州のあいだに横
たわる島々や海域を詳細に描いており、その中に尖閣列島の島々が明確に
描写されている。
注目して欲しい点は、尖閣列島とその周辺海域を最も良く知る人びとが琉
球の船乗りたちだったことであろう。なぜならば、琉球の船乗りたちは約 500
年間にわたり、中国との外交や貿易を推進するために那覇―福州間を航海し
たからである。彼らの目的は福州とのあいだを無事に行き来することであった
が、その途上に航海の標識としての尖閣列島が位置した。したがって、尖閣
列島は彼らにとって不可欠な航海知識であり、地理的認識だった。東アジア
地域に居住する人民の中で、尖閣列島を最も良く知るのは琉球人だったので
ある。
85
日中関係の課題と沖縄
それに比べると、中国の船乗りたちが尖閣列島周辺の海域を通過する機
会はきわめて限られていた。たしかに、新しい琉球国王の地位を認知する目
的で、中国皇帝の使節団が琉球に派遣されていた。彼らを乗せた船もまた尖
閣列島付近を通過し、福州―那覇間を往来した。しかしながら、彼らの航海
は琉球国王の代替わりごとに発生するのであり、せいぜい 20 年に1度の頻度
にすぎなかった。その象徴的な事例は、皇帝の使節団を乗せて福州 ―那覇
間を航海しなければならない中国の船乗りたちのために、琉球側が航海知識
を伝授したり、あるいは水先案内人を派遣したりしている。つまり、中国使節団
の琉球往来は、琉球側の支援なしには困難だったのである。
以上のことを確認したうえで、あえて指摘したい。尖閣列島とその周辺海域
を最も熟知する存在が琉球の船乗りたちだったとしても、だからと言っ て、尖
閣列島が琉球のものだったと主張することは、荒唐無稽の議論にすぎない。
その島々は誰のものでもなく、周辺海域を通過する航海者たちにとってのみ、
不可欠な存在だった。
3-2 近代沖縄における無人島の開発
1879 年の沖縄県設置以後の状況についても触れておく必要がある。ここ
では、無人島の開発の問題を取り上げておきたい。
沖縄島の東、約 370 キロメートル離れた太平洋上に位置する大東諸島(南
大東島、北大東島、沖大東島=ラサ島)は無人の島々であった。その島々の
存在はスペイン船やロシア艦隊、あるいはアメリカ艦隊などによって確認され
てはいたが、しかし、その島々に上陸して何らかの権益を設定しようという具
体的な行動はとっていない。
沖縄県誕生から数えて 6 年後の 1885 年、日本政府は沖縄県知事に対し
て無人の大東諸島の調査を命じている。県知事は県庁のスタッフ 6 名を派遣
して実情を調査するとともに、沖縄県管轄の島々であることを明示する標柱を
建立させた。その後、大東諸島を開発したいという民間の事業者の申請が県
や政府に相次いで出されたが、実際に開発事業に着手したのは玉置半右衛
86
日中関係の課題と沖縄
門 Hanuemon Tamaoki(1838~1910 年)という人物だった。開発に必要な諸
準備を整えたうえで、1900 年に玉置は開発のための要員を南大東島に上陸
させた。それ以後も後続の要員を次々と島に送り、こうして大東諸島の有人島
としての歴史がスタートすることになった。南大東島から始まった開発事業は
やがて北大東島や沖大東島(ラサ島)にまで拡大し、沖縄島の東方海上に新
しいフロンティアが形成された。当然のことながら、これらの島々は沖縄県の
範囲に位置づけられた。
無人島開発のもう一つの事例が、実は尖閣列島なのである。
日本政府の指示により沖縄県庁が大東諸島の調査を行ったのと同じ年、
つまり 1885 年に、県庁は尖閣列島の主要な島嶼である久場島や魚釣島、久
米赤島 3 島に調査チーム 6 名を派遣している。調査団は島の地形や動植物、
港湾立地の可能性などの情報を収集して、その成果を報告書にまとめている。
だが、このとき南大東島同様の、沖縄県管轄であることを示す標柱の建立は
見送られた。
1895 年に日本政府は尖閣列島が日本領であることを閣議決定したが、そ
れを承けて開発事業に着手したのは古賀辰四郎
Tatsushirou
Koga(1856~
1918 年)という民間の事業者だった。古賀は、1897 年に開発のための最初の
要員とともに渡島し、ここに尖閣列島の有人島としての歴史がスタートしたのであ
る。その後、尖閣列島における事業が不振となったために、島々は再び無人島と
なるのであるが、そこに人びとが定住し社会を形成した歴史が存在するという事
実を看過してはならない。
要するに、沖縄県設置後の近代において無人の島々が開発され、新しい
フロンティアが形成されたという事実に着目すべきである。沖縄の歴史から見
たとき、尖閣列島の領有権にいきなり問題を限定するのではなく、新生沖縄
県が、資源の開発を目的に行った無人島政策とその成果に注目する必要が
ある。
87
日中関係の課題と沖縄
このことをあえて強調するのは、領土や領海の範囲をめぐる二国間の対立
が惹起した場合、主張し合う当事者はそれぞれの中央政府に限られることが
ほとんどであり、問題となっている地域 ――この場合は沖縄のことであるが
――の事情が軽視されがちだからだ。沖縄にとって尖閣列島とは何であるの
かという問いを立てたとき、明らかにそれは、近代における無人島開発の歴史
という性格を帯びているのだ、と言いたいのである。
4. 今後の課題を検討する際の論点
4-1 沖縄の多数意思
このことに関連して触れておきたいのは、中国の研究者の一部において、
そもそも沖縄(琉球)が日本に帰属していること自体に疑問を呈する言説が見
られることである。その論拠はおそらく二つあり、一つは、琉球王国に対する
中国の宗主権を持ち出すことである。もう一つは、中国政府の意向や意見を
全く無視して、日本政府が一方的に琉球の帰属を決したことである。つまり、
中国の立場や意向を度外視するかたちで、「琉球の日本化プロセス」が推し
進められたことが、中国にとって問題視すべき出来事だった。
日本政府による一方的な処断という問題で言えば、当然のことながら当事
者である琉球の側にも言い分があった。中国・日本という両大国に従属する
存在だったとはいえ、そのどちらにも吸収されない独自の小国であり続けたい
と琉球側は願ったのであり、一方的に日本に吸収・併合されることには反対だ
ったからだ。
だが、 先 にも触れ たよ う に、沖 縄の住 民たち は、かつ て琉球 王国だ った
島々が、現在は日本の一部であるという現実を受け入れた。そして、太平洋
戦争に敗れた日本が、沖縄を分離してアメリカ統治下に差し出す、という態度
をとったにもかかわらず、日本という「祖国」への復帰を求めて運動した。また、
現在の各種の世論調査の結果を見ても、沖縄住民の圧倒的多数は、沖縄が
日本に属することに同意し続けている。
88
日中関係の課題と沖縄
日本の一部であることを前提に、独自性を持つ地域としての沖縄を保持し
たい、というのが沖縄の多数意思である。その意志は、誰かの誘導や強制に
よってもたらされたものではなく、沖縄住民が主体的に選び取ったものである。
沖縄住民のこの意思を十分に尊重しながら、過去の歴史の検証や評価を
行う必要があると思う。
4-2 東アジア地域の安定
尖閣列島をめぐって日中間の対立がエスカレートし、偏狭なナショナリズム
が横行することによって、東アジア地域が不安定になることだけは避けなけれ
ばならない。過去の歴史を振り返ると、東アジア地域の不安定が沖縄に対し
て強いインパクトを及ぼしたことを重視するからである。
17 世紀初期~中期、中国における政権交代の動乱で不安定となった東ア
ジア地域において、徳川日本が琉球に軍事侵攻し、琉球に対する影響力を
決定的なものとした。19 世紀後期、欧米列強の東アジア進出により不安定と
なった状況のなかで、近代日本による琉球の併合が行われた。その二つの事
件は、ともに琉球の命運を左右する大きな出来事だった。
逆に、東アジアが安定していた二つの時期、すなわち、 15 世紀は海洋貿
易国家としての琉球の繁栄があり、17 世紀後期~18 世紀は文化国家として
の琉球の伝統が築かれた。
その教訓は、過去の時間に封印されているのではなく、現在に対してもな
お有効なメッセージだと考える。
4-3 求められる日中の対話
沖縄県は「21 世紀ビジョン」を掲げ、その実現に向けた取り組みを加速させ
ている。例えば、沖縄の特性を活かしアジアや世界に開かれた共生の島を目
89
日中関係の課題と沖縄
指す、という沖縄のビジョンにとって、最も身近な地域である東アジア地域の
相互理解と安定は絶対的な前提条件となる。
周知のように、沖縄は、日米同盟の課題や矛盾が集中する地域である。 日
米同盟の維持・強化を図ると同時に、在日アメリカ軍基地について、沖縄の
みに背負わされている過重な負担を軽減することが求められている。県民の
多数意思が納得できる水準にまで基地負担を軽減し、日米同盟の運用を揺
るがすような基地問題が惹起しないよう努力することが強く求められているの
である。
尖閣列島問題が日中間の対立をエスカレートさせ、沖縄周辺に新たな脅
威が顕在化するということになると、それは沖縄の将来にとって確実な阻害要
因となる。基地問題に加え、尖閣列島問題という新たな懸念や不安が沖縄と
いう地域に重層する、いわば最悪なシナリオとなるからである。
そうならないために、どうすべきだろうか。答えは一つである。
平和的な解決を目指して、日中両国が冷静な対話を積み重ねることである。
その場合、両国のそれぞれの言い分を一方的に主張し合うような場とするの
ではなく、相手の言い分を冷静に理解し、そのうえで批判・反批判を合理的
に展開できる場とする必要がある。例えば、領有権を主張する際の根拠の一
つである歴史的な事実認識についても、それぞれの資料を公開・提示し、客
観的な判断や検討を行うことができるようにしなければならない。
そこで言いたいのは、日本政府は自己の原則的立場を保持しつつも、中
国側の主張やその根拠に対して、真摯に聴く耳を持つことである。中国側が
異議申し立てを行い、監視船団を尖閣列島とその周辺海域に展開しデモン
ストレーションを日常化させている現今の事態を見るとき、今まさに日本政府
に求められているのは中国との対話である、との感を深くする。
日中それぞれの言い分を保持したうえで、相互の主張とその根拠をめぐっ
て対話できるラウンドテーブルを早急に準備する必要があると思う。対話を積
90
日中関係の課題と沖縄
み重ねる過程において、第三者の判断が必要となる場合には 、例えば国際
司法裁判所に提訴することがあっても良いのではないか。
5. むすびにかえて
では、沖縄はどう行動すべきだろうか。
概括的に言うならば、沖縄県民にとって、中国は最も親しみを感じる外国の
一つである。それは、沖縄の歴史や文化に関する書物をひもとけば自明のこ
とだと言える。だが、軍事力の増強や尖閣列島とその周辺海域における監視
船団のデモンストレーションなど、現代中国のダイナミックな動きを目の当たり
にして、沖縄県民の対中国観に変化が起きていると思われる。そうだとしても、
沖縄県民の根底には中国に対する親近感が依然として担保されている、と見
て間違いないだろう。
沖縄としては、尖閣列島問題をめぐる日中間の対話を促進させるために、
何らかの役割を積極的に果たすべきだろう。日中対話フォーラムを東京と北
京のみで開催させるのではなく、沖縄と福建で開催するよう働きかけることも
大事だと思う。なぜならば、沖縄と福建こそが、尖閣列島を含む東シナ海(東
海)交流ルートの立役者だったからである。そして、沖縄と福建で開催される
日中対話フォーラムを一過性に終わらせるのではなく、恒常的な対話の場と
して活用することが望まれる。
いずれにせよ、沖縄が不幸とならないために、日中の「戦略的互恵関係」を
促進し、東アジア地域の安定化をもたらすために、沖縄自身はどう努力すべ
きか。そのことが問われている、と思う。
91
日中関係の課題と沖縄
[参考文献]
南大東村誌編集委員会編『南大東村誌・改訂版』、1990 年、南大東村役場
粟 国 恭 子 Kyouko Aguni 「 1880 年 代 の 近 代 沖 縄 と 石 澤 兵 吾 Hyougo
Ishizawa」、『沖縄芸術の科学』24 号、2012 年、沖縄県立芸術大学
西里喜行 Kikou Nishizato「『尖閣問題』の歴史的前提」、琉球新報 2012 年
11 月 5 日~12 月 13 日(9 回連載)
三田剛史 Takeshi Mita「現代中国の琉球・沖縄観」、西川潤 Jun Nishikawa・
松島泰勝 Yasukatsu Matsushima・本浜秀彦 Hidehiko Motohama 編
『島嶼沖縄の内発的発展』、2010 年、藤原書店
92
III.
ワシントン D.C.シンポジウム
概要
シンポジウム概要
・ タイトル
「REBALANCE TO ASIA, REFORCUS ON OKINAWA」
・ 主催
沖縄県
・ 日時
平成 24 年 10 月 23 日(火)
9:00~13:00(米国東部時間)
・ 会場
ウィラード・インターコンチネンタルホテル(米国ワシントン D.C.)
・ プログラム
(1) パネルディスカッション
パネリスト:
-
仲井眞 弘多(沖縄県知事)
マイケル・オハンロン(ブルッキングス研究所上級研究員)
パトリック・クローニン(新アメリカ安全保障センター上級顧問)
高原 明生(東京大学教授)
道下 徳成(政策研究大学院大学准教授)
司会:
- マイク・モチヅキ(ジョージ・ワシントン大学教授)
(2) 基調演説
- ジム・ウェッブ(米上院議員)
議事進行:
- ビル・ブルックス(ジョンズ・ホプキンス大学教授)
ワシントン D.C.シンポジウム概要
ワシントン D.C. シンポジウム議事概要
2012 年 10 月
1. 冒頭の挨拶
ビル・ブルックス氏
今年は、米国から日本に沖縄が返還されて 40 年目にあたる。そういった意
味では、今回の会議は、沖縄が多くの問題に対処しながらも、経済の自立を
確立することができたことを記念する、一つの行事であると言える。現在がもし
理想的な状況であったならば、今回の仲井眞沖縄県知事の訪米は、沖縄県
の観光や経済の振興を目的としたであろうが、現実はそうではない。沖縄は
地政学的に、東シナ海をめぐって緊張感が高まっている中国と比較的近い場
所に位置しており、また日本に存在する米軍基地の 74%が存在しているため、
県民に対して過重な負担となっている。今回の会議の目的は、(1)沖縄県が
抱える不安について話し合い、(2)現在の状況を改善するための実行可能な
解決策を出し合うことにある。この会議によって、沖縄県の問題に対して関心
を喚起するだけでなく、16 年前に約束された沖縄の基地問題の大部分を解
決するために、関係者間の議論が再度活性化されることを期待する。
仲井眞知事
40 年前に日本に復帰して以降、沖縄は米国と文化交流、学術交流、留学
生交流などを通して、良好な関係を構築してきた。特に 10 年前からは、沖縄
と米国が協力し、沖縄県における科学技術振興を推進してきた。現在も交流
は継続し、沖縄経済はまずまず良い方向に向かっていると言える。しかし、米
軍施設が沖縄に集中していることには不満があり、解決すべき安全保障面の
問題がいくつかある。本日の会議では、米海兵隊普天間基地の移転につい
てなど、取り上げるべき事項が多くあるが、県知事として、私はこの問題の早
期解決を望んでいる。皆さんのご清聴に感謝する。
95
ワシントン D.C.シンポジウム概要
ワシントン D.C.でのシンポジウムの様子
撮影: 沖縄県
2. 各パネリストの見解
仲井眞知事
まず、普天間基地と日米同盟の現状について説明したい。十数年前に日
米両政府の間で移設しようと決まった普天間基地移転だが、現在計画は全く
進んでいない。沖縄はすでに米軍基地の過剰な負担を強いられており、普天
間基地を県内移設するということは、沖縄の抱える問題の解決にはならない。
また、移転候補地に名護市辺野古が挙げられているが、自然環境などへの
影響が軽視できず、また地元の市町村長からも反対の声が上がっている。普
天間基地は町の真ん中にあり大変危険で、また最近飛び始めたオスプレイの
騒音問題もあり、できるだけ早く普天間基地を移転する必要がある。
96
ワシントン D.C.シンポジウム概要
一方で、個人的には日米同盟は重要であると考えている。しかし、沖縄県
民の中にもさまざまな考えが存在しているため、県民の総意があるとは言えな
い状況である。ただし、今日の東アジア・太平洋地域の安全保障状況に鑑み、
日米同盟の重要性がこれまで以上に高まっていると考える沖縄県民が多いよ
うに思われる。
マイケル・オハンロン氏
普天間基地移設の妥当な代替策
沖縄は、日米同盟の枠組みの中で、過度な負担を強いられており、沖縄県
民にとって深刻な問題である。一方、米国はアジア太平洋地域の安定を維持
するため、同地域での全体的なパワーバランスの維持に尽力してきた。こうい
った試みには、一定の機能が必要となる。本日は、マイク・モチヅキ氏と私が
考案した、こういった問題の一部を解決するための選択肢を提示したい。
(1) まず、モチヅキ氏と私は、現在沖縄に駐留している米海兵隊のおよそ半
分を、カリフォルニアに戻すことを提案したい。この案は、米国の経費節
減につながり、沖縄の商業開発と人間開発を助長するはずである。この
案では、海兵隊のおよそ半分をカリフォルニアもしくはハワイに戻すこと
になるが、グアムでの施設建設に比べて、複雑でも割高でもないはずで
ある。
(2) 次に、米国政府が日本政府と共同で大型船舶(大型中速 RO-RO 船
〔LMSR〕 またはその他の輸送船)を 1~2 隻購入し、米海兵隊の大隊ま
たは旅団に必要な軍需品を日本の領海に配備し、停泊させる方法があ
る。日本周辺で危機が発生した場合には、直ちにこの船舶を危機の現場
に航行させ、カリフォルニアから空輸した海兵隊を合流させることができ
る。米国はすでに、この様な方法を世界各地で実施しており、ノウハウを
持っている。船舶の購入費と、装備の調達費である程度の費用が掛かる
が、辺野古とグアムへの海兵隊移転計画の費用を上回るものではない。
(3) 三点目として、日本の政治的実情と沖縄県民の強い意志に配慮し、米軍
による速やかな普天間の返還、また辺野古計画の取り消しを提案したい。
普天間基地を返還する代わりに、海兵隊がヘリコプター戦力を維持でき
97
ワシントン D.C.シンポジウム概要
るよう、沖縄県北部の訓練エリアまたはキャンプ・シュワブに小規模の飛
行場を整備するよう提案する。
(4) 沖縄から離着陸する必要のある残りの海兵隊固定翼航空機については、
嘉手納基地を使用する。ただし、おそらくは、嘉手納基地所属の空軍航
空機の一部を、日本の他地域(おそらくは九州)に配備替えして、日々の
演習を行わせることになろう。
(5) 最後に、那覇空港に第二の滑走路を建設することを提案する。これは、
平時には民需用として沖縄の経済発展を支え、危機発生時には米軍お
よび日本の自衛隊が使用するものとする。
オスプレイの運用について
オスプレイは安全な航空機になってきたと私は信じているが、だからと言っ
て、沖縄の人々が普天間基地に対して抱いている懸念を軽視するものではな
い。しかし、普天間基地が街に隣接しているのは、米海兵隊の責任ではない。
沖縄は小さな島であるため、基地の周りに街が発展していった。米国内でも
過去に同様のことが起こり、場合によっては大都市に近い米軍基地を閉鎖し
たが、沖縄ではそうはいかなかった。したがって、基地やオスプレイの安全性
に疑問を抱く沖縄の人々の気持ちも理解できる。
一方で、オスプレイの安全性についても主張したい。オスプレイは過去に
悲惨な墜落事故を何件か起こし、いくつかは死亡事故にも発展し、大きな注
目を集めた。当時は航空力学的な問題が十分に理解されていなかったため、
オスプレイのパイロットが操縦に苦労していた事実がある。しかしその後、海
兵隊は経験を重ね、オスプレイに搭乗する人間と、オスプレイを使用する飛行
場の周辺に住む人たちの安全を非常に真剣に考えてきた。最新の統計によ
れば、オスプレイの重大事故率は 10 万飛行時間当たり 1.94 件である。これ
は、海兵隊の全航空機の事故率の平均よりも低い数字である。一方で、オス
プレイの事故率は、CH-46 ヘリコプターの事故率よりも若干高めであり、今後
事故率が上昇する可能性もある。現状ではオスプレイは比較的安全な飛行
機であると言えるが、完全に安全な飛行機というものは存在せず、街中にある
飛行場が必ずしも運航に最適であるとは言えない。軍事基地を人口の密集
地から遠ざけることが理想で、普天間基地を使用し続けることは理想的では
98
ワシントン D.C.シンポジウム概要
ない。しかし、だからと言って基地問題が比較的安全な飛行機であるオスプレ
イの批判に繋がるわけではない。
パトリック・クローニン氏
沖縄県民の負担を軽減するために今すぐできること
日米同盟は、アジア・太平洋地域の安全保障上、最も重要な同盟である。
ただし、沖縄の安全保障に対する見方は、国防総省の見方とは大きく異なる
ことを理解する必要がある。国防総省は、米軍兵士を守り、即応力のある有能
な部隊を確保し、さらに米軍部隊の自衛隊との統合を推進しなくてはならない。
個人的には、あれこれと移転の方策を事細かに検討する前に、国家安全保
障上の利害というものをちゃんと理解しておく必要があると思う。
普天間基地移設に関しては、これまで日米両国で多くの議論がなされてき
ており、その努力に敬意を表する。日米同盟の運営上の多くの問題が、再編
によって解決されたが、普天間が過度に密集した地域であり、また沖縄が過
重に米軍基地負担を被っているという問題は、大きな問題として残っている。
辺野古移転計画の最も有利な点は、二国間交渉が難しいにもかかわらず、
日米両国政府がすでに計画を承諾したということである。ただし、以下の 4 点
を考慮する必要がある。
(1) 操業上、普天間よりも辺野古のほうが効率的だとは断言できない。
(2) 辺野古計画は、経費がきわめて高くなる可能性がある。
(3) 辺野古計画は環境に恒久的な打撃を与える。
(4) 理想的な普天間代替施設には、あらゆる不測事態に対応するための、よ
り長い滑走路が必要である。
辺野古が解決策とは思えないが、辺野古計画の取り止めまたは採用を宣
言する前に、米国の大統領選の終了を待ち、今後 4 年間で確実に普天間問
題に携わることのできる、米政府高官の人事が決まるのを見守る必要がある。
99
ワシントン D.C.シンポジウム概要
オハンロン氏とモチヅキ氏から様々な具体的な提案が出たが、お二人の計
画を検討する前に、刻々と変化する中国の軍事力の拡大や近代化が、米国
と日本の軍事力を押し返しているという状況を考慮しなくてはならない。有事
の際には、同地域における米軍の性質や日本の役割も変化していく。このた
め、恒久的な対策を採る前に、対策が適切なものであるかを確認すべきであ
る。
日本に存在する既存の滑走路を軍民共用にすることについて
普天間基地の代替施設に長い滑走路を新しく建設するのではなく、自衛
隊基地の滑走路を軍民共用することには賛成だ。新アメリカ安全保障センタ
ー(CNAS) は間もなく、横田基地の軍民共用に関する報告書を発表する予
定である。横田基地の軍民共用化の構想は、有事や災害の際に日本の民間
空港を使用する選択肢の幅を広げるものだ。東京都の羽田空港ではすでに、
災害救助訓練の一環として、米軍機の着陸訓練が行われた。一つの飛行場
しか使用できない場合、その飛行場で事故が発生すると大きな障害となり得
る。複数の飛行場を使う方が、柔軟性が高まるため戦略的に道理にかなって
いる。
オスプレイについて
オスプレイはヘリコプターと異なり、連日の飛行が不可能といった制約がな
い。このため、オスプレイを使用して日本の各地で数週間単位の訓練をすれ
ば、普天間の負担を大きく軽減できると予想され、また訓練の質も上がると考
えられる。ただし、軍備は相互に連携して作戦行動できる状態に保つ必要が
あり、これらを広く分散して配備することはできない。
道下 徳成氏
冷静時代と現在のアジア情勢比較
冷戦時代のアジアの状況と現在の状況では、次のような類似点がある。
100
ワシントン D.C.シンポジウム概要

ソ連は 1970 年代、海軍力の増強を中心とした、大規模な軍備増強に着
手した。これと同じ様に中国は現在、航空母艦を建設するなどして、軍事
力の増強を図っている。

ソ連はオホーツク海を聖域化しようと、二つの防衛線を引いた。現在、中
国は南シナ海、東シナ海、黄海を聖域化しようとしており、第一列島線、
第二列島線を引こうとしている。

1970 年代、ソ連は潜水艦や爆撃機、駆逐艦などの多くの水上艦を展開
させて自国の防衛線を防衛しようと試みたが、現在の中国も同様に潜水
艦や爆撃機、駆逐艦を展開している。

ソ連の台頭に対処するため、米国は 1970 年代に海事戦略と呼ばれた戦
略を策定したが、現在は中国に対処するため、空海戦闘(Air-Sea Battle)
と呼ばれる戦略を構築している。
しかし、冷戦時代との相違点もあり、相違点のいくつかは、現在の日本にと
って良い話とも言える。

冷戦中は、戦略的防壁となっていた千島列島をソ連が支配していたが、
現在の戦略的防壁となっている、沖縄を含む南西諸島は、日本の支配
下ある。

中国の軍事力は、冷戦当時のソ連の軍事力より劣っており、現在の米国
や日本の軍事力にも劣っている。中国はソ連が持っていたような戦略的
核戦力も保持していない。

米国とソ連は、冷戦と呼ばれた深刻な対立を抱えていたが、米中間には
冷戦のような対立は存在しない。
逆に、冷戦と現在のアジア情勢の相違点の中で、日本にとって都合の悪い
点もある。

ソ連は西太平洋に抜ける戦略的出口を 3 箇所しか持っていなかったが、
中国は同様の出口を 9~11 箇所保有している。このため、中国の海軍活
動を封鎖することは難しい。
101
ワシントン D.C.シンポジウム概要

冷戦時代の戦闘の舞台は空・海・陸のみであったが、現在はこの 3 つに
加え、サイバー空間や宇宙空間が戦闘の舞台となり得る。競争の状況と
性質がより複雑になったと言える。

冷戦中は、欧州とアジアが連携してソ連と競争していたが、現在の欧州
は中国の台頭をあまり憂慮しておらず、欧州の一部の国は、進んで中国
に武器を販売している。

米国とソ連は、キューバ危機や第四次中東戦争などを通して教訓を得、
戦いのルールを心得ていたが、中国は戦いのルールを知らない。

冷戦中のソ連のものに比べると、現在の中国の経済状況は非常に良い。
経済状況が良いため、中国の軍事費は過去 10 年間で 170% 増加した。
一方、日本の軍事費は減少しており、米国の軍事費も将来的には減少し
ていくとみて間違いない。
日米同盟と中国の競争の今後の展望
中国と日米同盟の将来的な競争には次の二つのシナリオがある。
(1) ローエンドのシナリオ: 中国が海上におけるゲリラ戦を展開し続け、日米
と中国軍との間で小さないざこざが繰り返される。これは起こり得る可能
性が高いシナリオで、この場合、前方展開した米軍や自衛隊の継続的な
駐留や、沖縄の役割が非常に重要になってくる。
(2) ハイエンドのシナリオ: きわめて緊迫した状況で中国と対峙するシナリオ。
こ の 場 合 は 、 米 国 が 提 案 し て い る 空 海 戦 闘 構 想 ( Air-Sea Battle
Concept)が有用となると予想される。
高原 明生氏
尖閣諸島問題について
沖縄の人々は、経済・文化の交流を通して、また血縁的にも中国および中
国人と密接に関わってきた。このため、沖縄の人々の間には、中国および中
国人に対する親近感があるが、最近の中国国内における日本や日本人に対
する暴力的な抗議運動は非常に衝撃的な出来事であり、沖縄の人々の友好
的な感情を揺さぶるものである。中国政府は経済および文化の領域にまで対
102
ワシントン D.C.シンポジウム概要
抗手段を広げており、これにより観光産業に依存している沖縄は、経済的な
ダメージを被っている。9 月 26 日までの時点で、沖縄の観光業界が被った経
済的な損失は 4 億円に上る。
この様な最近の日中関係の状況を背景に、一般的な日本人の在日米軍基
地再編や移転に対する意見は、再編が同盟の軍事力を強化するかどうかと
いう事実に影響されるように思われる。
仲井眞知事
他のパネリストの見解を受けて
オハンロン氏はオスプレイについて言及されたが、住宅地の中にある普天
間基地でオスプレイを運用するのは無理があると考える。私は知事として、す
でに日本政府や米国大使館、米国務省にもそう申し上げてきた。普天間基地
が一日も早く、街の真ん中から移転することが非常に重要で、事件や事故が
起こった場合、日米間そして沖縄と米国の間で大きな問題になると予想され
る。
オスプレイの技術的な安全性に対しては、沖縄県民の中にはいまだいろい
ろな疑問が残っており、不安は払拭されていない。日本政府によれば、オス
プレイの安全性は確認されたというが、本当に安全ならば、普天間飛行場を
日本本土に移し、オスプレイを日本中に配備してもらいたい。オスプレイは長
い航続距離とスピードを持っているのだから、沖縄ではなく、本土の飛行場へ
配備するべきである。
中国に関しては、いろいろな意見があるが、特に尖閣について、沖縄県庁
は基本的に日本政府の立場に同意している。沖縄の人々は、中国と歴史的、
個人的な関係を持っているが、尖閣問題は別の次元で考えなければいけな
い。しかし、領土問題的な問題は県が対応すべき範囲を超えていると感じる。
沖縄としては、長い間培っていた学術、文化、芸能、貿易などを通した中国と
の関係を維持するために努力していきたい。
103
ワシントン D.C.シンポジウム概要
3. 質疑応答とパネルディスカッション
【質問】 アンドリュー・オロス氏(ワシントン・カレッジ教授): 琉球諸島は古くか
ら中国に属しており、日本はいわば違法にこの島々を占領した、という中国の
主張について、沖縄の人々はどう思っているのか?また、中国は尖閣諸島だ
けではなく、沖縄の領有権までも主張したと報道されているが、これについて
はどう思うか?
【回答】 仲井眞知事: 沖縄の人は、中国に対して非常に親近感を持ち、
歴史的に長い付き合いをしてきた。しかし、中国は全く違う国で、我々は
日本人以外の何者でもなく、中国の中に入ろうとは一切考えていない。
沖縄は中国の一部である、という中国側の主張には無理があり、脅威を
感じる以前の常識の問題であると考える。
【回答】 高原氏: 沖縄が中国の一部である、という主張は、中国政府の
公式見解ではないが、中国政府がこのような巷の主張を放置しているの
は意外なことである。個人的には、中国政府がこのような主張を放置し
ておく狙いに興味がある。ご存知の通り、中国では強硬派と穏健派の間
で激しい闘争があり、今回の尖閣問題では、この様な闘争が中国の態
度の変化に反映されている。中国の朱成虎将軍は、「現在の中国には、
ロサンゼルスまで核ミサイルを飛ばすことができる能力がある 」と発言し
たことで知られているが、2012 年 9 月 5 日付の人民網は、日本政府の
尖閣諸島 3 島購入に対する同将軍の発言を載せた。同将軍によれば、
中国では次の二つの解釈がある。
(1) 日本政府による 3 島購入は、中国に対するあからさまな挑発行為で
ある。
(2) 日本政府による 3 島購入は、石原東京都知事による購入を阻止し、
事態を安定させるためのものである。
朱成虎将軍は、後者の意見に賛成だと主張した。この様な発言から、
9 月 5 日時点では北京にもかなり穏健的な見方があったことがわかる。
104
ワシントン D.C.シンポジウム概要
一方で、2011 年初夏頃から、強硬派は激しい反日運動を仕掛けていた。
この様な強硬派主導の反日運動は、非常に広範囲にわたって一般中
国人の日本に対する見方に影響を及ぼし、結果的に強硬派が優勢とな
った。中国共産党大会も目前に控えており、最近の反日運動が、進行
中の権力闘争に密接に関連しているというのが、日本での一般的な見
方である。中国の政権の権力基盤が弱まるたびに対日政策が厳しくな
る傾向にあると言えるため、次期主導者の習近平氏が盤石な権力基盤
を保持することに、期待がかかっている。
中国の強硬派が政権を掌握した場合、尖閣諸島近海における日本と
中国の緊張感がさらに高まる可能性がある。もし何か事故があった場合、
事態は容易にエスカレートすると予想される。しかし、中国による日本の
領海侵入などの圧力や力の誇示に日本が譲歩しようものなら、結果的
に大変誤ったメッセージを中国に伝えてしまい、南シナ海で起こってい
る領土問題にも直接的な影響を与えることとなる。日本は弱みを見せる
べきではなく、日本の立場を堅持しなければならない。
【回答】道下氏: 先ごろ日本政府は、尖閣諸島 5 島のうちの 3 島の所有
権を購入することを決定したが、それ以前から尖閣諸島の一部は日本
政府が所有していたため、3 島の所有権購入は、実際は追加購入という
位置づけであり、特に目新しいことではなかった。それにもかかわらず、
日本のメディアは 3 島の国有化という言葉を使い、日本政府が 3 島を没
収したかのようなネガティブな含みを持たせた。日本は言葉の選び方や
表現方法、行動に気を配る必要があり、主張や行動の説明にもっと洗練
された表現を使わなければならない。
【質問】ヤマグチ氏: 沖縄では、米軍兵士らによる暴行事件が発生した。クロ
ーニン博士が提案されたような飛行場の軍民共同利用や滑走路の延長につ
いての議論を行うより、沖縄の人々の社会的権利、人権配慮するための議論
を行う方が重要であると考える。
105
ワシントン D.C.シンポジウム概要
【回答】クローニン氏: 質問をされた男性には、私の発言の意図を理解
いただけなかったように思う。私は辺野古で提案されている滑走路の長
さを批判したのであって、沖縄における滑走路の延長を提案したわけで
はない。人権問題について、暴行などの凶悪な犯罪は厳しく罰するべき
である。日米地位協定(SOFA)ができたことで、米兵が日本で犯す犯罪
を日本の法律によって起訴できるようになり、それが正しいことだと考え
る。法の秩序と国の安全保障は両方共に重要な事項であり、犯罪に対
しては司法制度が、安全保障に対しては軍が必要である。米軍と自衛
隊は、日本国民と米国民の保護、地域の平和と繁栄という共通の目的
を掲げなければならない。知事が仰られているように、政治的に持続可
能な提案が必要であり、これが普天間問題の核心であると考える。
【質問】シーラ・スミス氏(米外交問題評議会上級研究員): 米軍が日本に長
期的に駐留するためには、自衛隊と米軍が基地を共同使用するなど現実的
な方法が必要となると思うが、沖縄の人々は自衛隊に対し、どのような見方を
しているのだろうか?
【回答】仲井眞知事: 個人的な見解だが、日米同盟が日本と沖縄にとっ
て、ますます重要になっていくと考える。沖縄は、米軍の過重な負担を
強いられてきたが、もしかすると基地問題の大部分は、日本全 体でどう
負担するか、という日本の国内問題として解決できるかもしれない。自衛
隊と米軍との基地の共同使用については、私見ではあるが、そういう方
向が模索されている気はする。安定性と安全性、基地管理権限という点
から見た場合、沖縄が米軍とやり取りするよりは、沖縄が自衛隊や政府
とやり取りする方が自然であるという感じもする。米軍基地の問題は、日
本全体で考えるべきことのように思う。
【質問】聴講者: 中国の現在の態度というのは、軍事的脅威を使って自分た
ちの見解を押し付けるというものであるが、日米同盟の一環として、この様な
広範囲にわたる問題に対処する方法はないのか?中国が日本の海峡を通過
するのを防ぐため、中国に対し、航行規則のようなものを設定することはでき
るか?
106
ワシントン D.C.シンポジウム概要
【回答】高原氏: 日米がは、安全保障のジレンマを回避しなければなら
ない。個人的には、中国の軍事的台頭を抑止することはできないと考え
るため、それと共存するために、日本、米国、中国の三者による三カ国
協議が不可欠だと思う。
【回答】クローニン氏: 中国の経済的、軍事的台頭がアジア太平洋地域
の一番の変化である。米国は、中国の中産階級の台頭や貿易の増大に
対して、支援する姿勢を持っている。昨晩行われた米大統領候補討論
会でも、両候補とも、中国に対する警戒は怠らないものの、実行可能な
協力関係を築きたいと主張していた。一方で、いかなるシナリオでも、中
国の言いなりになることはありえない。したがって、航行規則を管理する
必要はあるし、日米中間の議題として、貿易やエネルギーの問題も取り
上げなければならない。我々は中国経済に依存しているため、中国の
重要資源へのアクセスを保証することも可能である。結論として、安全保
障上のジレンマを回避する努力をしながらも、責任ある態度で警戒し、
危機を防ぐ必要もあるということだ。
【回答】オハンロン氏: もし日本が中国に尖閣諸島を譲渡し、それで中
国がこれ以降 10 年間は沖縄やその他の島について議論を持ち出さな
いと合意したならば、中国に尖閣諸島を譲ることを検討することは価値
のあることではないだろうか。尖閣諸島には象徴的な意味合い以外、特
に重要性はないということは認識されている。私は日本人を尊敬してい
るからこそ、こういう発言をしている。日本はこういったことを理論的に検
討することが可能な、世界でも稀な国の一つではないかと思っている。
私は米国人として、米国が自国の領土を譲渡するといった処置を取ると
は思えないが、私は日本のことを心から素晴らしい国だと思 い、また日
本がこれまで行ってきた近隣諸国との平和維持に対する努力を知るか
らこそ、この様な提案をしている。
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ワシントン D.C.シンポジウム概要
【回答】クローニン氏: 我々はこのワシントン D.C.にいて、他国の主権
の話をしているということを意識しなければならない。オハンロン氏はそ
れを理解していながら挑発的なことを言ったのだと思うが。
一方で、東シナ海の領土紛争の経済的影響を見ると、領土紛争によ
って発生しているビジネスの損失は、日中両方で何十億ドル単位に上
っていると思う。損失が利益を上回っているのが現状であるから、日中
間で協調体制を作るのが現実的と考える。その最終的な形についての
提案は、慎重に行わなければならないと考える。
【質問】聴講者: 私の子供も普天間基地のすぐ横にある小学校に通っていた
が、なぜ日本は普天間基地の一部あるいは基地全部を日本の他の地域に移
転することに反対しているのだろうか?中国の台頭を受けて日米同盟に対す
る関心が高まっている昨今、そういった話が米国と沖縄との交渉に全く出てこ
ないような気がする。米軍駐留受け入れについて、沖縄県以外の日本、特に
本土の態度はどうなっているのか?
【回答】仲井眞知事: なぜ日本のほかの地域の人が、米軍を迎え入れ
ないかは、恐らく日本人にとっては難しい哲学的問題のようなものだ。そ
のため、あなた自身が直接いろんな人に聞いてみる必要があるように思
う。これは私が答える話ではない。
【回答】道下氏: 他の都府県の知事や市長の立場からすれば、米軍基
地を誘致して米軍を駐留させるのは非常に難しい。経済難や高齢化問
題を抱える地方自治体にとっては、米軍基地誘致は経済的に良い考え
かもしれないが、事故などのリスクが存在しているため、本当に緊迫した
必要性が無い限り、自治体のリーダーが地域から合意をもらうのは大変
なことのように思う。
【回答】高原氏: 常識の範囲で説明するしかないのだが、日本では、米
軍基地や、自衛隊基地、原子力発電所は「自分の裏庭には来ないで」
108
ワシントン D.C.シンポジウム概要
という傾向が非常に強くて、安全保障についての脅威よりも、人的な安
全が優先されているのだと思う。
【回答】クローニン氏: 沖縄の負担は確かに不公平ではあるが、本土に
基地を移転するのが難しい理由は、「自分の裏庭には来ないで」という
心理現象だけではなく、沖縄が戦略的土地であるからだ。米軍部隊の
体裁を整えるために、海兵隊が海軍や空軍と別々に行動することはでき
ない。また、海兵隊は、陸上自衛隊と訓練を行うことで、日本の南西諸
島群の領土防衛を支援しており、そういう意味で沖縄は特殊な状況にあ
る。このように沖縄が特殊なのは、沖縄の歴史や地理、軍事上の必要性、
費用、政治などが絡んでいるためである。
【質問】聴講者: ご存知の通り、馬英九台湾総統が東シナ海の領土紛争につ
いて、勇気ある発言をされている。また在外中国人の間でも、あちこちで抗議
活動が行われている。ワシントン D.C.では先月、日本大使館の外で抗議活動
があったが、他にもカリフォルニアや中西部で発生した。南海地域、東南アジ
アでも発生した。領土紛争は在外中国人にとって問題であり、人類学的な調
査をするべきだと思う。
【回答】高原氏: 馬総統の東シナ海平和イニシアチブと呼ばれる提案は、
非常に建設的なものだと思う。その内容については我々も注目している。
状況は中国本土の態度に大きく左右されるが、同提案には、日本と中
国、台湾は合意すべきだと考える。主権問題については議論が難しくな
ることが予想されるが、その他の問題については議論ができると思う。台
湾にとっては漁業権が一番の問題で、日本との間で長期にわたって交
渉は続いているが、まだ結論には至っていない。また日中台の 3 か国
は、1972 年から 40 年間続いた(比較的安定した)状況を維持するという
点で合意できるだろう。
【質問】テレビ東京関係者: 仲井眞知事や沖縄の人々は、日本国憲法第 9
条を再解釈して、常備軍を持てるようにすることについて、どう考えているの
109
ワシントン D.C.シンポジウム概要
か?憲法の再解釈は、沖縄の負担軽減や米軍の再編計画において有効で
あるだろうか、それとも障害となるだろうか?
【回答】仲井眞知事: 憲法第 9 条の話については返答に窮する。ご質
問の主旨は、東京で行われている議論以外の議論が沖縄で行われて
いるか、という意味だろうか?それとも、私または沖縄が、9 条に対してど
ういう立場であるかという質問だろうか?個人的に 9 条の議論について
は、日本全体ですべき議論以上のものでも以下のものでもないと考えて
いる。
【質問】真栄城美枝子氏(ワシントン D.C.沖縄会): 日本の一般市民は、沖縄
の状況をどのように理解しているのだろうか?(沖縄県民以外の)日本国民に
対し、基地負担を分かち合うように訴えるには、どうしたら良いだろうか?
【回答】道下氏: 日本人は負担については理解していると思うし、だから
こそ日本政府や多くの人が代替案を考えていると思う。ただし、代替案
を実現する段階には至っていない。今後やるべきことは、実現可能な策
を打ち出して、協力して実現させることだ。
【回答】モチヅキ氏: 日本の討論を観察していて気付いたのは、米国側
からどう状況を変えるかという案がいろいろ出ているのに、日本の安全
保障関係者からは何も案が出てきていないということだ。高原教授が仰
ったように、日本は緊迫した安全保障問題というものを感じていないの
かもしれない。日本の安全保障コミュニティーは、このことについて、真
剣に考える義務があると思う。
【質問】シホ・ケンカシア氏(ウッドロー・ウィルソンセンター): まもなく、米国、
日本、韓国でリーダーの交代が起きるが、これらは今後の沖縄の基地問題の
交渉にどういう影響を及ぼすだろうか?また、どんな(日本の)リーダーが沖縄
の立場に立ち、基地問題についてより良い交渉を行ってくれると思うか?
110
ワシントン D.C.シンポジウム概要
【回答】仲井眞知事: 権力の移行が及ぼす、沖縄の防衛問題に対する
影響は、どの政党が勝ってもあまり違いはないように思う。日本人全体の
防衛理論の中では、常識をなかなか超えられないだろう。
【回答】クローニン氏: 日本では、在任期間の短い首相が続いており、
現状はほとんど国民投票が行われているようなものだ。政治的な継続性
が無いため、(政治家は)自らの政治基盤を守ることに一生懸命になり
がちで、本当に困難なことを実施するという政治的な意思がない。韓国
の選挙に対する私の一番の懸念は、次の韓国政権が北朝鮮との太陽
政策を模索するのではないかということだ。東京、ソウル、ワシントン D.C.
間に存在する政策上の利害の間隙を、北朝鮮が突いてくる可能性があ
り、これは新たな危機を引き起こす原因になるかもしれない。一方で、日
米間三カ国の政権が変わることで、二国間または三国間のロードマップ
や、中国との新しい合意を模索する新たな機会が生まれるとも言える。
【質問】ビクター・オキム氏(US ジャパン・リサーチ): 沖縄の基地問題では、
沖縄と東京とワシントン D.C.の三者が非常に緊密に関わっている。これまで、
日本の自衛隊を米軍と統合させる多くの提案を聞いてきたが、基本的にこの
問題は、那覇と東京とワシントン D.C.の間で同時に話し合わなければ、堂々
巡りをするだけだと思う。この三者関係を改善するために、何か戦略的な解決
策はないだろうか?また沖縄の基地問題について、日本で国民投票を行い、
国全体の結論を出すべきではないだろうか?
【回答】仲井眞知事: もしよりよい対話が持てるならそれが一番いいだろ
うが、防衛問題に関しては、中央政府で決定され、我々に伝えられると
いう形が取られている。地方自治体がこれらの決定事項に参加するとい
うのは非常に難しい。だが、これまでの意思決定のパターンを変えるた
めにも、この三者は調整すべきである。
【回答】オハンロン氏: 尖閣諸島について、私は尖閣諸島に対する米国
の安全保障の義務について不安を感じている。米国は新たな戦争、特
に中国を相手にした戦争をするつもりはなく、海兵隊を用いて日本のた
111
ワシントン D.C.シンポジウム概要
めに尖閣諸島を解放しようとするとは考えにくい。もし中国が空挺隊を派
遣して尖閣諸島を占領するような馬鹿げた行動をとった場合、経済制裁
や補給妨害で応酬するだろうが、軍事力で尖閣諸島を取り戻すことは、
割に合わないため、あり得ない。条約では、米軍の具体的な対応は要
求されていないため、中国に対処する選択肢としては様々な方法が考
えられ、米国と日本は慎重に検討する必要がある。 しかし、もし中国が
何か行動を起こせば、米国は対応をしなければならず、それは強い対
応、おそらく過度とも言える対応になるかもしれないが、それが軍事的な
対応であるとは限らない、ということだ。
【質問】ジェームズ・ショフ氏(カーネギー国際平和基金): 一番中心的な問題
は、どうやって普天間をいち早く閉鎖できるかということのように思える。知事
の仰る通り、スピードが最も重要であれば、日本の自民・民主両党も支持して
いる方法(沖縄の海兵隊員を 9,000 人削減し、中長期的な用地返還を実現さ
せ、人口の少ない遠隔地に基地を移転する)を採用すれば良いように思う。こ
のような計画を実行に移すために、沖縄の意見を取り入れつつ、政治的議論
をする余地はあるだろうか?
【回答】仲井眞知事: この計画は日米両政府が作ったもので、計画その
ものが現実的で実行可能なものかどうか、というのが疑問だ。我々から
見ると、計画には長い歳月を要するように見え、20 年かかるかもしれな
い。机上では実行可能と言われているが、沖縄の意見を聞けば、難しい
ということがわかるはずだ。
【質問】ベン・セルフ氏(戦略国際問題研究所): 道下氏の分析を興味深く拝
聴した。道下氏は、尖閣諸島周辺海域の安定を保つには、在沖米軍の軍事
力を保持して軍事抑止力にする必要があると主張していたが、モチヅキ 氏や
オハンロン氏は、沖縄から海兵隊員を本土に戻すことを提案している。抑止
力を維持しつつ、沖縄から海兵隊員を移転させることは可能だろうか?
【回答】道下氏: モチヅキ氏とオハンロン氏の計画では、第 31 海兵隊
遠征隊を沖縄に残すことになっており、小規模ないざこざに対応するこ
112
ワシントン D.C.シンポジウム概要
とは可能であると考える。私はモチヅキ 氏とオハンロン氏の見解を、信
ぴょう性があり、現実的なものであるとみている。
【質問】カツコ・クダカ・リー氏(オキナワ・アメリカ・リュウキュウ・カルチャー・ア
ソシエーション): 尖閣諸島をめぐる対立を解決するためのロードマップ(工
程表)は存在するのだろうか?
【回答】道下氏: 問題は、日本の防衛政策はどうあるべきか、また日米
がどう協力して日本を防衛し、地域の平和を維持するかということだ。基
地問題についての議論も含め、正解というものはなく、確かな抑止力の
維持および緊張度の低い紛争から高い紛争までを含む様々な不確実
性に対応できる防衛力と、沖縄の負荷の削減との間の適正なバランスを
模索し続けることが必要だ。
【回答】クローニン氏: 具体的な計画については定かでないが、石原東
京都知事を含む日本の政治家たちも、様々な手段を考えている。一方
で、交渉を通して中国との問題を解決するのは難しく、すでに存在する
漁業協定などを執行する体制も整っていない。この解決には、日 中双
方のリーダーシップが必要で、両国の高い軍事力に支えられた日米同
盟が必要だと思う。中国と経済協力を行うことも必要になってくるように
思われる。
領土への固執によって人々の生活に支障が出ているが、オハンロン
氏が言ったように、領土への固執はこの地域の平和と繁栄を実現させる
ための核心ではない。しかし、米国の軍事力が果たしている役割もよく
考えなければならない。歴史的に日米同盟には、日本が基地を提供す
る代わりにアメリカが日本の領土を防衛するという取引が存在している。
(米国が)日本の国民を守ることは、日米同盟の一部であり、ワシントン
D.C.でも尖閣諸島の防衛に対し、軍事的なシナリオを検討しなければ
ならない。中国に弱みを見せれば、安全保障上のジレンマに陥る恐れ
がある。
113
ワシントン D.C.シンポジウム概要
【回答】高原氏: 問題の一部は、日本の国民と中国の国民が同じ世論を
共有しないことにある。中国では政府が情報をコントロールし、両国内で、
扇情主義で大衆主義のメディアはこの問題をさらに悪化させ、事実を歪
曲する結果となっている。沖縄は政治から離れた話し合いを主催しよう
と提案しており、私は日本、中国、台湾、米国の学識経験者がこれらの
問題について話し合い、論点を整理するべきであると思う。政府レベル
では、早急に合意を確立するべきであるが、将来、同意にこぎつけるた
めには、今着手しなければならない。
【回答】オハンロン氏: 日米同盟の両国側で、この問題の解決について
長いこと取り組んでいる非常に忍耐強い人たちが多くいる。その方たち
に敬意と賞賛を示すと共に、かなり良い条件も提示されているので、再
度そういった条件を見直してみる価値はある。基地問題のせいで、日米
同盟が弱体化したように見え始めており、永久にそこにしがみつく価値
のある問題ではないと思う。率直に言えば、こんなレベルの話に、この世
界市場最高の二国間同盟がもたついている場合ではない。問題を解決
するためにもう一度話し合いの機会を持ち、(それがうまくいかなければ)
沖縄に膨大な建設を必要としない別の計画に移るべきだと思う。たとえ
初期の段階から三者協議を進めたとしても、現在の日本国憲法や日本
の政治体制では、そういう計画を最後までやりとおせるとは思えないから
だ。
最後に、沖縄県は美しいところで、気候が温暖な地域であるため、そ
ういった風土を好む多くの人たちを引き付けており、現在日本で唯一成
長している、あるいは成長している数少ない県のうちの 1 つである。あの
小さな土地に米軍基地がありすぎると認識すべきであり、多くの人を引
き付ける沖縄に、従来のように多くの軍事施設を持っておこうというのは
持続可能なことではないと思う。考案された計画は、現状維持よりはよい
という点で私も賛同するが、多分もう一度地元住民や地元の自治体の
支持を取り付けるように説得してみたらよいと思う。在沖米軍基地の面積
の縮小を試みる必要がある。
114
ワシントン D.C.シンポジウム概要
仲井眞知事
パネルディスカッションの閉会の辞
皆さんのご意見に感謝する。最後の質問で、尖閣などに関するロードマッ
プはあるのかという質問があったが、これは私も欲しいくらいで、工程表ができ
るのを待っている状況である。工程表は政府間で作られるものであり、沖縄の
役割はまだはっきりしていないが、沖縄としても何か役に立ちたいと考えてい
る。
今日は普天間基地の議論が半分くらいを占めた。この問題は小さいように
見えて、実際には非常に大きな問題で、政治的な処置が必要なのだ。しかし
この 16 年間、日本の総理大臣も政権も次々代わり、世の中の情勢も変化し
ていったにもかかわらず、普天間基地問題は技術的・事務的な処理しか行わ
れてこなかったため、結局、今のような状況となっている。この問題を小さい問
題と思って処理しようとすれば、問題解決が技術論になってしまう。沖縄の社
会的な安定や日米関係の安定、そして今後の変化を考慮する必要があり、あ
る程度柔軟な変更も必要になってくる。決めたことは少しも変更しないと考え
れば、問題は解決できないと思う。我々は技術的な解決策を求める傾向にあ
るが、政治的に解決しようとすれば、すぐ解決出来るはずだ。
4. 基調演説と質疑応答
ジム・ウェッブ上院議員
沖縄で先日発生した事件について、個人的な遺憾の意を表明したい。私
は 1969 年、米海兵隊員として、ベトナムに向かう途上に沖縄に駐在し、それ
以来、日本や沖縄の人々と繋がりを持ってきた。以降、政府の役人、ジャーナ
リスト、小説家、または公賓として、沖縄を訪れた。海軍長官を務めていた折
には、マシュー・ペリー総督が 1853 年に沖縄を初めて訪れた際に寄贈され
たか、または持ち帰ったという、護国寺の鐘を沖縄の人々に返還するために
沖縄を訪れた。
115
ワシントン D.C.シンポジウム概要
ウェッブ上院議員によるスピーチ
撮影: 沖縄県
沖縄の人々は、第二次世界大戦中、大きな苦難を受けた。 沖縄は恐らく、
米軍がかかわった軍事行動の中でも最も悲惨な戦場となった土地であり、沖
縄の一般市民から非常に多くの犠牲者が出た。それにもかかわらず、沖縄の
人々は、米軍に大変親切で寛大に対応してくれた。本日は、日本と米国、そ
して沖縄の人々の関係維持をめざし、アジア・太平洋地域で米軍の駐留が重
要な理由、そして沖縄の位置づけ、問題解決に向け対処するべき課題を説
明したいと思う。
中国、ロシア、日本の利害が交差する地域である朝鮮半島が、北東アジア
地域の安定のために極めて重要な場所であるということは歴史を見れば明ら
かだ。第二次世界大戦以来、米国は当地域の安定維持においては不可欠か
つ、かけがえのない保証人としての役割を果たしてきた。また、日米の安全保
障関係、経済関係および両国の持つ政治的類似性もまた、当地域の安定性
を支えてきた重要な鍵でもあったわけだ。
116
ワシントン D.C.シンポジウム概要
そして米軍基地は、当地域の安全保障における重要な要素としての役割
を果たしてきた。日本のほとんどの方々の見解でもあると思うが、在沖米軍基
地は日米共同安全保障関係の重要な構成要素であり、尖閣諸島、並びに南
シナ海の統治権問題など、ここ数年の間にこの地域がますます重要になって
きたことで、沖縄の基地の重要性が確認されている。私は 15 年ほど前から尖
閣諸島について発言し始め、長年にわたり、強硬姿勢を持って行動しなけれ
ば、当地域の安定は崩れ、非常に深刻な問題が何度も何度も発生する可能
性があると主張してきた。
米軍の駐留によって、沖縄県は 60 年以上もの間、負担を背負ってきた。こ
の沖縄と米軍との関係には、利益も存在するが、代償も伴う。そこで、私たち
は、この関係を維持しながら、沖縄県民の福利にも配慮できるかを検討し続
けていく必要がある。日米両政府はこれらの負担を軽減するべく、沖縄県内
外、グアムのような場所に米軍基地を移転するなどの可能性について、過去
16 年にわたって、熱心に取り組んできた。私自身も 1974 年、軍事計画立案
者であった折に、グアム準州知事に提出した報告書の中で、沖縄の基地を部
分的にグアムに移転することを提案した。
本日の会議で行われたような沖縄の基地問題についての議論は、過去 15
年にわたって行われてきた。この討議を完結させるべき時は、今だと強く信じ
ている。迅速で、コスト効率がよく、かつ沖縄の人々の要求にも配慮した解決
策を見出し、前進する必要がある。沖縄の米軍基地再編が適切に行われれ
ば、米軍基地は、今後も沖縄に経済利益をもたらし、日米同盟にも利益をも
たらすだろう。また、東アジアの安定と経済成長、政治的発展にも貢献するだ
ろう。
ここで、我々が検討しなければならない 4 つの事項を説明する。
(1) グアムの基地使用について:
個人的には、基地は部分的にグアムに移転する必要があると考え、私が上
院議員に就任してからも、この計画の実行に懸命に取り組んできた。しかし、
米国防総省の中には、基地問題に関して様々な意見があり、1 つの解決策に
117
ワシントン D.C.シンポジウム概要
対して 20 もの提案事項が提出され、それぞれのシナリオについて検討する
必要がある。また、米環境保護庁も詳細な環境影響評価報告書を要求してお
り、計画の実行が遅れている。この環境影響評価報告に、あと 3 年か 5 年か
かるという話もある。米国政府関係者は、問題が長期化していることに対し、
日本や沖縄が不満を募らせていることを理解しなければならない。
(2) 普天間基地問題解決について:
本日も様々な議論がされたと思うが、私も 2010 年に普天間基地問題に対
する提言書を提出した。私の提案はいくつかあるうちの一つであり、いずれの
提案を採用するにしても、沖縄県民にとって一番負担のかからない案を選ぶ
必要がある。
(3) 在沖米軍の犯罪について:
長期的に、米軍の沖縄における犯罪の問題について、沖縄の人々の懸念
を尊重し、それを軽減するように取り組む必要がある。犯罪を抑止する方法の
一つとして、兵士たちに日本の刑務所に拘置されればどうなるかということを
具体的に説明する方法が挙げられる。
(4) 在沖米軍の外出禁止令について:
在沖米軍は、兵士に外出禁止令を出し、午後 11 時から午前 5 時までの間
は、基地から出ないように命じた。しかし、この様な方法は誤った対処方法だ
と思う。米軍兵士と沖縄の人々との間にもっと交流があれば、敬意の度合いも
高まり、お互いがもっと理解し合えるのではないか。私は 2001 年に、沖縄を
訪問し、現地の思想家や学識者、ビジネス界のリーダーたちに会い、沖縄の
米国との関係についてインタビューしたが、その際にわかったことは、沖縄の
人々は歴史的に、他の土地から来た人々を快く歓迎してきたということだ。現
在の沖縄にもこのような文化があると思う。
基地問題の解決に取り組むにあたり、我々は、沖縄が日米間の戦略的関
係において極めて重要な役割を担っており、また日米関係が東アジアや東南
アジアの安定性にどれほど重要であるかを理解できると思う。我々には残され
118
ワシントン D.C.シンポジウム概要
た課題があることは承知しているが、更に一歩進み、私達の活動の重要性 が
理解しやすくなる方法を選択しながら問題解決に当たることが重要である。
ジム・ウェッブ上院議員への質問と議員の回答
【質問】マイケル・オハンロン氏: 今後予想されている米国防費削減が及ぼす、
在沖縄海兵隊のグアム移転に対する影響についてどう思うか?予算によって、
移転計画を再検討する必要性は出てくるだろうか?
【回答】ウェッブ議員: 以前の予算サイクル中には、様相がはっきりしな
いことを理由に予算組み入れを延期する方向への圧力が大いにあった。
しかし、当地域での戦略的妥当性を考えると、沖縄からグアムへの移転
を取りやめるのは、大きな間違いというものである。グアムは大きな島で
あり、島の 3 分の一にあたる部分は軍の保有地になっているが、現在は
活用されていない。ベトナム戦争中にフル活用されていたアンダーソン
基地も、現在の稼働率は 25%にも及ばないことから、個人的に、基地の
経費についての予想のほとんどは、誇張されていると思う。また、日本政
府も移転にかかる費用を提供すると言っており、この事実も忘れてはな
らない。結論として、予算を削減しようとしている人々がいることは事実で
あるが、計画が長期化していることも予算に対する圧力に影響している
と考えられる。
【質問】ピーター・エニス氏 (ディスパッチ・ジャパン): オスプレイと普天間基
地をめぐる、長期化してきた官僚的な行き詰まりを打破する方法があるとすれ
ば、それは何だろうか?
【回答】ウェッブ議員: 沖縄県民の懸念については知っているが、オス
プレイは(CH-46)ヘリコプターに比べて安全で、騒音の少ない航空機
であると思う。嘉手納基地についての個人的な提案は、空軍のオペレー
ションの多くを日本の他の基地に分散し、一部をアンダーソン空軍基地
に移転、そして普天間基地のオペレーションを嘉手納基地に移転すると
いうものだ。嘉手納基地における米軍の活動規模を縮小することを検討
119
ワシントン D.C.シンポジウム概要
することもできるだろう。オスプレイに対する沖縄の人々の緊張はいずれ
ほぐれると思うが、普天間基地については懸念を持っている。普天間基
地の施設を後 10 年使用し続けるという概算要求も存在するため、早急
な基地閉鎖が望まれている状況であるにもかかわらず、普天間基地の
施設が反恒久的に存在することにもなりかねない。
【質問】ショーン・タンドン氏 (AFP): 強姦事件防止のために、在沖米軍にで
きることは何か?
【回答】ウェッブ議員: どんな制度も、絶対に確実というわけにはいかな
いし、事件の発生件数は昔と比べて大きく減ってきている。しかし、事件
が起こってしまうと、弁明の余地はない。米軍は多くの措置を講じてきた
が、私自身が事件の概要について推測することは避けたい。ただ、事件
は非常に残念であり、もう二度と発生すべきではないということだ。
【質問】ビクター・オキム氏(US ジャパン・リサーチ): どのような日米交流が望
ましいだろうか?
【回答】ウェッブ議員: 軍と軍の交流、商業や貿易を通した交流、教育や
文化を通した交流のすべてが健全である。しかし現在、沖縄の米軍基
地が沖縄県民の日常生活からかけ離れていることに、懸念を持っている。
米軍と現地住民の間にもっと交流があるほうが健全であると考える。
【質問】テレビ東京関係者: 日米地位協定(SOFA)の改定について、どう思う
か。
【回答】ウェッブ議員: 地位協定は各国ベースで結ばれている。日本の
刑事司法制度は、たとえばイラクの制度よりもはるかに公正だ。米国防
総省と日本政府の間の地位協定の再交渉について、私が推測するの
は不適切だ。しかし米国側は、米国兵士が米軍基地の外で 罪を犯し、
告訴された場合に、その兵士を日本の司法制度に委ねることを躊躇し
120
ワシントン D.C.シンポジウム概要
ないだろう。その点については、日本の刑事司法制度を全面的に尊重
している。
【質問】真栄城美枝子氏(ワシントン D.C.沖縄会): 沖縄における、未報告の
強姦事件があると聞いたが、本当だろうか?また、グアムの住民は、グアム移
転に本当に賛成しているのか?
【回答】ウェッブ議員: 沖縄における未報告の強姦事件があるかどうか
はわからないが、米軍に回答を求めることは可能であると思う。グアムに
ついては、グアム住民は軍事基地を希望していると思う。地元住民は史
跡などに対する影響を心配しており、こういった基地の移転には交換条
件が伴ってくるという事実はある。しかし、グアムは米国の領土で、 グア
ム住民の間には米軍に対する誇りもある。懸念を持つグアム住民とは討
議を重ねている所だが、グアムの住民も沖縄県民も、なぜグアム移転に
これほど時間がかかるのか不思議に思っているように見える。
121
IV.
研究活動報告
沖縄県知事公室地域安全政策課においては、沖縄に関連する安全保障
上の問題、国際情勢等を調査・分析し、さらに危機管理を含む多様な観点か
ら、沖縄県における総合的な安全保障のあり方について研究を進めていくこ
ととしております。
なお、掲載された研究活動報告は、研究者の立場から独自の視点で記述
したものであり、沖縄県の見解を直接示すものではありません。
研究活動報告
沖縄から見た地域安全保障のあり方(試論)
沖縄県知事公室地域安全政策課主任研究員
中林 啓修
1. はじめに
従来、安全保障政策は国家が主導的に進めるべき政策として考えられてき
た。国家の下位に位置する自治体や社会、個人は政策の一部に組み入れら
れたり、協力を求められたりすることはあっても、独自の安全保障観を獲得し
発展させることが期待されることはなかった。
しかし、1980 年代以降、安全保障概念の多様化が進む中で、自治体や個
人など、従来は安全保障政策の中心的なアクターとは考えられてこなかった
主体が積極的に安全保障あるいは具体的な危機管理に関与する余地が生ま
れている。
沖縄が置かれている地理的、社会的環境では、特に安全保障や危機管理
について県が積極的に自身の考え方を磨くことが重要となっている。
国内で唯一、陸路で他県と接していない沖縄県は、他県による速やかな支
援が期待できないことや、規模の小さい離島地域を多数抱えていることなど、
災害や大規模事故などの不測の事態に対して島嶼県ゆえの脆弱性を抱えて
いる。
また、県内に目を向ければ、日本国内に所在する米軍基地の 74%が沖縄
に集中しており、日米同盟において重要な役割を担う一方、こうした基地の存
在に由来する様々な課題が山積している。
加えて、近年では、尖閣諸島とその海域を巡る日中台の緊張関係のいわ
ば「最前線」として、アジア地域の国際関係のフォーカルポイントの一つに直
面する自治体でもある。
島嶼県としての脆弱性、米軍基地を巡る国家安全保障と住民の安全との
相克、そして、その克服が早急に必要とされるような国際環境。
こうした状況下で、沖縄が日本国の存続と繁栄に貢献し、同時に県民や滞
在者らの安心・安全を確実なものにするためには、必要な諸政策を通底する
明確な指針を確立する必要がある。
123
研究活動報告
この点について、沖縄県では、東アジアの安定に果たす日米同盟の役 割
を認めつつ、将来的にはアジアの多国間協力を中心とした安全保障環境の
実現の重要性を認めている 61。
更に、沖縄をとりまく安全保障環境や自然災害を含む多様な危機を念頭に
おいた調査・研究環境の充実の必要性も指摘している 62。
こうした沖縄県の考え方を踏まえ、本稿では、現在の安全保障論の中に沖
縄が占めるべき立場として、地域安全保障という考え方がありうることを示して
いきたい。
「地域安全保障」(Regional Security)という言葉は、国家安全保障の延長
としてその国が位置する、あるいは関係の深い地域での国際安全保障を指し
て用いられることが多い 63。
これに対して、本稿の考える地域安全保障は、国家の下位に位置する自
治体が、その地域的な独自性を生かしながら、国家の安全に貢献し、そこに
生活する人々の安心・安全を確保するための取り組み全体を指している。
ところで、「地域安全保障」という言葉には、「地域」と「安全保障」というそれ
ぞれに多義的な言葉が含まれている。
本稿ではまず、「地域」と「安全保障」それぞれの言葉が意味する概念を検
討し、そうした検討を踏まえた上で沖縄県がよって立つべき「沖縄県地域安全
保障」がいかなるものかを考えてみたい。
61
例えば、平成 20 年第 2 回沖縄県議会(定例会)における以下の知事発言に県の考
え方が示されているように思われる。
「県としましては、日米安全保障体制は我が国及び東アジアにおける国際の平和と安
定の維持に寄与し、我が国に所在する米軍基地が重要な役割を果たしていると理解い
たしておりますが、将来的には日米関係を含む中国や朝鮮半島などにまたがる多極的
な平和的関係を構築し、新たな国際秩序が形成されることが理想ではないかと考えて
おります。」
62
例えば、平成 23 年第 5 回沖縄県議会(定例会)及び平成 24 年第 1 回沖縄県議会
(定例会)における知事発言の中で、県庁内における安全保障や危機管理、米軍問題
等に関する調査・研究の重要性が指摘されている。
63
まさしく国家安全保障の観点から地域安全保障を論じた最新の研究として、神保謙
『アジア太平洋の安全保障アーキテクチャー 地域安全保障の三層構造』、日本評論
社、2011 年 12 月。
124
研究活動報告
2. 地域
2-1 概念としての「地域」
渡辺尚は地域を「個体性をそなえる歴史空間一般」と定義し、地域概念が
持つ属性として次の 4 点を指摘した 64 。すなわち、①重層性、②地域性、③
三面性、そして④歴史性である。
つまり、地域は、内部により小さな地域を包摂したり、あるいは逆により大き
な地域に包摂されたりしつつ、同時に近隣地域と空間的に重なりあいながら
存在している(重層性)。そして、ある地域は、地理や気候などによって規定さ
れる自然空間としての側面と、そこに住まう人々の営みによって規定される社
会空間としての側面を通じて「地域」として認識され(地域性)、このうち社会
空間としての側面は政治空間、経済空間、生活空間という 3 つの性質を持っ
ている(三面性)。こうして規定される個々の地域は、しかし、決して普遍的な
ものではなく、歴史的変化を通じて育まれまた変容していく(歴史性)。
渡辺によるこの地域概念の整理はヨーロッパを念頭に置いたものと考えら
れるが、ここに挙げられた 4 つの属性等は沖縄を含む東アジアにも当てはま
るものであり、本稿が地域安全保障を考えていく上での土台として、これらの
地域概念は十分妥当なものと思われる。
2-2 「地域」としての沖縄
さて、それでは沖縄とはいかなる地域として理解されるべきなのであろうか。
以下、渡辺の示す地域の 4 つの属性(重層性、地域性、三面性、歴史性)
のうち、特に重層性と地域性に着目して沖縄の地域特性を整理しておく。な
お、地域性を考えるにあたっては、政治空間、経済空間としての沖縄に注目
する。
64
渡辺尚「「地域」とは何か」、渡辺尚編著『ヨーロッパの発見』有斐閣、2000 年 11 月、
342 頁、347-349 頁。
125
研究活動報告
地理的空間としての沖縄県は、日本の南西に位置する南西諸島の一部を
なし、東西約 1,000km、南北 400km の広大な海域にうかぶ大小 160 以上の
島々から構成される島嶼県となっている 65。
政治空間としての沖縄県は第一義的には日本国の一部を構成する自治体
である。同時に、日本国の最西端に位置する自治体として、国境を隔てた外
部のアジア地域と否応なく交流していく性質を持つ。また、国内に存在する米
軍基地の 74%は沖縄に所在しており、日本国の外交・安全保障の根幹を支
える空間と考える事もできる。
こうした政治空間としての沖縄県の性質は経済空間とも連関している。
例えば、図表 1 が示す通り、沖縄地区税関における 2011 年度の輸出額に
占めるアジア(中国、韓国、台湾および ASEAN 諸国)の割合は 76%で、各
地区税関の中で最も高い比率を示している。これは、日本からのアジア地域
向け輸出品の多くが沖縄を経由することに由来する割合であり、実際の貿易
総額や輸入額に占める割合としては平均的であるものの、日本とアジア諸国
との結節点としての沖縄県の姿を示すものとなっている 66。
65
沖縄県、『沖縄県の概要』、2008 年、3 頁。
なお、2010 年度の沖縄地区税関の輸出額 82,118,538,000 円のうち、アジア向け輸
出は 73,541,860,000 円で、全体の約 89.5%を占めている。
66
126
研究活動報告
図表1:各地区税関でのアジア貿易の割合
輸出額(百万円)
全体
アジア
輸入額(百万円)
比率
全体
アジア
貿易額(百万円)
比率
全体
アジア
比率
函館
540,713
303,501
56%
1,829,829
359,947
20%
2,370,542
663,448
28%
東京
14,263,482
8,144,539
57%
18,457,012
10,081,120
55%
32,720,494
18,225,659
56%
横浜
10,732,054
6,158,156
57%
13,200,209
4,187,087
32%
23,932,263
10,345,243
43%
名古屋
14,002,094
5,805,748
41%
8,572,126
3,932,916
46%
22,574,220
9,738,664
43%
大阪
8,879,298
6,295,086
71%
10,083,790
6,055,537
60%
18,963,088
12,350,623
65%
神戸
10,209,023
5,951,475
58%
8,466,910
3,170,352
37%
18,675,933
9,121,827
49%
門司
6,317,987
3,790,051
60%
5,415,699
2,158,531
40%
11,733,686
5,948,582
51%
長崎
544,285
193,816
36%
1,815,882
336,118
19%
2,360,167
529,934
22%
沖縄
57,538
43,502
76%
269,730
109,728
41%
327,268
153,230
47%
出典: 各地区税関の平成 23 年度貿易年表等をもとに作成。資料は財務省貿易統計のホームページより入手。
(http://www.customs.go.jp/toukei/index.htm 最終確認:2013 年 1 月 11 日)
127
研究活動報告
現在の沖縄県のこうした姿は、当然、歴史的連続性の上にある。歴史的に
見れば、琉球王国時代の沖縄は日本と大陸、あるいは日本と東南アジアとを
つなぐ交易・交流の中継点として発展しており、近代化を経て日本国の一部
となったあとも本州とアジアの諸地域をつなぐ役割を担ってきた。
つまり、沖縄は東アジアと東南アジアの結節点であり、両地域をつなぐサブ
リージョンとしての東シナ海地域の中心を構成していると考えられる 67。
これらを総合すると、沖縄は、日本の一行政区として、いわば「日本として
の沖縄」(地方としての沖縄)としての地域像をもちつつ、同時に、歴史的に
育まれてきた「アジアとしての沖縄」(地域としての沖縄)としての側面をもった
重層的な地域像を形成している。
沖縄県の持つこうした重層性は、それ自体が沖縄県の重要な財産であり、
沖縄県が地域安全保障を考える上でポイントの一つとなる。この点は後述す
る。
3. 安全保障
3-1 安全保障概念の変化
中西寛によれば、近代の安全保障概念では、個人と国家とが分かちがたく
結びついていたという。中西は、ホッブス的な現実主義であれ、ルソー的な自
由主義であれ、「個人の安全の増大を善とし、そのための手段として国家の存
在を肯定」していると指摘している 68。
安全を巡る個人と国家とのこうした関係は、近代以降の安全保障概念の基
礎を構成していた。この関係性故に、国家の存続は時に個人の自由の制限
を伴ってでも肯定されてきた。また、長年にわたって国家間の戦争が安全保
67
ヨーロッパや東アジアなどの一般的な地域に内包された、複数の国家にまたがって
存在するより小さな地域を指すサブリージョン(下位地域)については、以下の文献に
詳しい。百瀬宏『下位地域協力と転換期国際関係』有信堂高文社、1996 年2月。
68
中西寛、「安全保障概念の歴史的再検討」、赤根谷達雄、落合浩太郎編著、『増補
改訂版 新しい安全保障論の視座』、第 1 章、亜紀書房、2007 年 2 月、33 頁。
128
研究活動報告
障における第一義的な課題と見なされてきたのも、戦争こそが国家の安定と
存続を脅かす最大の脅威と見なされていたからに他ならない。
しかし、1980 年代後半以降、安全保障研究が取り扱うべき問題やアクター
は大幅に拡大してきた。ブザン(Buzan, Barry)らによれば、近年の安全保障
概念の多様化の背景には、2 つの批判があったという。その 2 つとは、地域に
より異なった「安全」の概念がありえるというポストコロニアリズムからの批判と、
一般的な個人にとっては、国家間の戦争よりも環境や食料を含む日常生活
上の安全のほうが切実な問題であり、そうした問題の改善において、国家は
必ずしも信頼に足る安全の提供者ではないのではないか、という批判的安全
保障論(Critical Security Studies)の指摘である 69。
現代の安全保障論では、テロや犯罪、環境問題などの諸課題が「非伝統
的安全保障」として概念化され、安全保障上の問題として認識されている 70 。
同時に、社会や個人など、一般的には国家の内側に位置づけられている存
在に対する直接的な安全保障が国家安全保障と並行して論じられている。
このような安全保障概念の多様化には 2 つの視点がある。第 1 の視点は
国家を中心とする従来の安全保障概念を前提に、経済の相互依存の深まり
や地球環境問題等の越境問題の深刻化に伴い、国家の安定を脅かす問題
や脅威が多様化したという発想である。
第 2 の視点は、脅威の多様化を指摘している点では第 1 の視点と共通し
ているが、そうした脅威が認識されるに至った理由を、安全保障概念の中心
が国家から社会や個人などにシフトしたことに求めている。これは、第 1 の視
点では肯定された国家・個人関係を再検討し、より根本的なところから安全保
障概念を問い直そうとするものである。こうした立場では、安全保障を巡る国
家と個人との関係は必ずしも自明かつ肯定的なものではな く、個人の安全を
増大させる上で国家が十分にその役割を果たしていないか、場合によっては
69
Buzan, Barry and Hansen, Lene, The Evolution of International Security Studies,
2009, Cambridge, pp.187-188, 205-208.
70
現実においても、1990 年代以降の米軍や NATO のドクトリンで MOOTW(Military
Operation Other Than War:戦争以外の軍事作戦)という用語が導入され、テロや組織
犯罪撲滅、平和維持、災害救助などへの軍事力の投入が概念化されている。
129
研究活動報告
その阻害要因となりうる可能性をも視野に入れている。それ故、こうした立場
からは、伝統的な国家安全保障とは異なった新しい安全保障概念の構築が
追求されるところとなり、安全保障の対象や脅威の多様化もそうした追求の過
程あるいは結果として主張される。「人間の安全保障」論などはこうした立場に
もとづく新しい安全保障論の代表的なものといえる。
図表 2 は、以上の議論を踏まえて今日の安全保障概念を整理したもので
ある。ここからは、安全保障概念に含まれる問題領域が、表左上の「伝統的安
全保障」すなわち国家間の衝突から、右下に向かって放射状に拡大している
ことがわかる。
図表 2:今日の安全保障概念と事例の整理
脅威を与えるもの(脅威の主体)
非国家主体
国家
脅
威
を
受
け
る
も
の
(
脅
威
の
客
体
)
国内
事物
国際
伝統的安全
保障
エネルギー
反乱
内戦
非国家
行為体
民族抑圧
内戦
Communal - 海賊行為
conflict
不法移民
個人
政治的弾圧
犯罪
暗殺
誘拐
疾病
など
国家テロリズ
ム
国内の安全
保障
国際問題
環境安全
保障
国家
テロ
密輸
災害
環境破壊
など
国家安全
保障
社会の安全
保障(市民の
安全保障)
人間の安全
保障
出典: 山本吉宣編『アジア太平洋の安全保障とアメリカ』、彩流社、2005 年 4 月、25
頁をもとに執筆者作成
3-2 国家安全保障と「人間の安全保障」
上記の通り、現在の安全保障論は多様な視点・アプローチを内包している。
これを踏まえて沖縄県地域安全保障を考えるにあたり、本稿では「人間の安
全保障」を起点としていきたい。
130
研究活動報告
なぜなら、今日の安全保障概念の多様性は、大まかには安全保障の主体
と客体を共に「国家以外」(社会・個人)にも求める非伝統的安全保障論の登
場によるところが大きいが、「人間の安全保障」論の登場とその発展はこうした
多様性を決定づけるものだったからである。
1970 年 代 に 日 本 政 府 が 提 起 し た 総 合 的 安 全 保 障 ( Comprehensive
Security)をはじめ、戦争や紛争以外の様々な現象を安全保障の文脈で捉え
る発想はこれまでも存在していたが、福島安紀子は、「人間の安全保障」を
「これまでの安全保障概念の焼き直しではなく、従来の安全保障の概念の空
隙から生まれたもの」だと指摘している 71 。福島はその理由として、安全保障
の客体が人間におかれ、また、国家に加えて国際機関や NGO なども安全保
障の主体となっている点を挙げている。
「 人 間 の 安 全 保 障 」 と い う 概 念 は 1994 年 に 公 表 さ れ た 国 連 開 発 計 画
(United Nations Development Programme :UNDP)の人間開発報告書『人
間の安全保障』で一般的になった 72。
報告書では、冷戦期の安全保障概念が領土保全を中心とした国家の安全
保障であったことを指摘した上で、冷戦終結後の様々な危機に対応するため
には、病気や飢饉、失業、犯罪、社会の軋轢、政治的弾圧、環境災害などの
脅威から直接個人を守る「人間の安全保障」の必要性が唱えられた 73。
この報告書の中で、「人間の安全保障」は、「恐怖からの自由」と「欠乏から
の自由」で構成された個人の自立を重視し、人々の能力開発を促すことで地
域社会、国家、そして世界平和を目指す包括的な安全保障概念として描き出
されている 74。
この「人間の安全保障」は、①富裕国・貧困国の別のない世界共通の問題
であること、②貧困がテロを生むという指摘に見られるように構成要素が相互
依存関係にあること、③早期予防が有効な問題群を対象としていること、そし
て④人間中心の概念であることの 4 点によって特徴づけられている 75。
71
福島安紀子、『人間の安全保障—グローバル化する多様な脅威と政策フレームワー
ク』、千倉書房、2010 年 9 月、31 頁。
72
ただし、人間の単位で安全保障を考える発想は 18 世紀より存在していたとされる。
同上 8-9 頁。
73
UNDP 編、人間開発報告書『人間の安全保障』、1994 年、22 頁。
74
同上 24-25 頁。
75
同上 22-23 頁。
131
研究活動報告
その後、「人間の安全保障」は国連機関の文書で幾度か取り上げられ、概
念の精緻化が図られたが、日本もまた早くから「人間の安全保障」を提起し、
その発展に貢献してきた。
現在、日本政府は「人間の安全保障」を「人間の生存・生活・尊厳に対する
広範かつ深刻な脅威から人々を守り、人々の豊かな可能性を実現できるよう、
人間中心の視点に立った取組を実践する考え方」と位置づけている 76。
「人間の安全保障」が登場して以来、この概念が伝統的安全保障の中核た
る国家安全保障とどのような関係にあるのか、について様々な議論が戦わさ
れてきた。しかし、2001 年の米国同時多発テロ事件に象徴されるようなテロの
活発化や感染症の拡大など、国家や社会の安定を脅かし、かつ世界的な対
応が求められるような課題が顕在化している中で、今日では、国家安全保障
と「人間の安全保障」とは一方が他方を否定するような排他的な関係にはなく、
むしろ相互補完的に存在していると考えられてきている 77。
3-3 「人間の安全保障」の課題
メアリー・カルドー(Kaldor, Mary)は「人間の安全保障」は「人間開発と人
権の中核的要素を組み込んだものとして概念化される」と指摘している 78。「人
間の安全保障」が人間開発の要素を色濃く含んでいるという認識は、「人間の
安全保障」の有力な論者であるアマルティア・セン(Sen, Amartya)や緒方貞
子の議論では更に鮮明となっている 79。
その結果、「人間の安全保障」を巡る近年までの議論では、途上国の状況
が中心的な話題となり、UNDP が指摘した「人間の安全保障」を先進国・途上
国とで区別しない世界共通の問題とみなす普遍的な問題認識は後退してし
まっていたように思われる。
76
外務省『人間の安全保障 人々の豊かな可能性を実現するために』、2011 年 10 月、
2 頁。(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hs/pdfs/hs_pamph.pdf 最終確認 2013 年
1月 15 日)
77
福島安紀子、前掲書 52-53 頁。
78
メアリー・カルドー『「人間の安全保障」論 グローバル化と介入に関する考察』、山本
武彦、宮脇昇、野崎孝弘 訳、法政大学出版局、2011 年 3 月、268 頁。
79
例えば、アマルティア・セン、『貧困の克服』、集英社、2002 年 1 月、緒方貞子「国家
の安全保障から人間の安全保障へ」(公演原稿)、緒方貞子『私の仕事』草思社、2002
年 11 月など
132
研究活動報告
これは日本政府においても例外ではなく、「人間の安全保障」は外務省が
主導する外交政策の一環として位置づけられており、国内政策として「人間の
安全保障」が論じられることはこれまでほとんどなかった。
しかし今日、先進国の国内における「人間の安全保障」を充実させる必要
性がたびたび指摘されている 80。
先進国国内での「人間の安全保障」の課題として移民問題などが取り上げ
られることが多いが、沖縄県もまた「人間の安全保障」をめぐる独特の課題を
抱えている。それは、在沖米軍を巡る国家安全保障と「人間の安全保障」との
ジレンマである 81。
これは、国家安全保障に資する沖縄の米軍が、他方では軍の活動や関係
者による犯罪あるいは問題行動などを通じて地域住民の安全を脅かし、「人
間の安全保障」を阻害しているという問題である。本稿冒頭で指摘した「米軍
基地を巡る国家安全保障と住民の安全との相克」とはまさにこのジレンマを指
している。
国内問題としての「人間の安全保障」の課題解決には、政府だけでなく、自
治体や民間企業や大学等研究機関、その他様々な団体の連携と協力が不
可欠とされている。
そうであるならば、沖縄県もまた、国家安全保障と「人間の安全保障」との
ジレンマを解決するために力を尽くす必要がある。
「沖縄県地域安全保障」とはそうした努力の道筋を示す指針となるべきもの
である。次節では、この「沖縄県地域安全保障」とはいかなるものなのかにつ
いて説明していきたい。
80
例えば、福島安紀子、前掲書 245 頁。また、こうした国内での「人間の安全保障」の
不在を厳しく批判したものとして野崎孝弘「人間の安全保障と政治−日本の選択的受
容の意味−」、佐藤誠、安藤次郎編『人間の安全保障:世界危機への挑戦』、東信堂、
2004 年 11 月、183-202 頁などがある。
81
佐々木寛「新しい安全保障研究に向けて―現代「安全保障」概念の位相」、五十嵐
暁郎、佐々木寛、高原明生編『東アジア安全保障の新展開』、明石書店、2005 年 4 月、
22-28 頁。
133
研究活動報告
4. 沖縄県地域安全保障
4−1 「人間の安全保障」を巡るジレンマと沖縄県
上記の通り、国家安全保障と「人間の安全保障」との間には時にジレンマ
が認められる。そして、沖縄県における基地問題はそうしたジレンマの典型と
考えられている。
だが、国家安全保障と「人間の安全保障」とは本来的に相互補完を通して
実現されるものであり、両者の間のジレンマを解消していく事は沖縄県のみな
らず日本国全体にとって重要な営みだと考えられる。
何故なら、基地問題による地域住民の「人間の安全保障」の阻害を解決す
ることは、日米同盟を基軸とした日本の国家安全保障の正当性を高めるもの
であり、そうした「人間の安全保障」の確保を前提とした国家安全保障の充実
は、沖縄をとりまく国際環境の安定などを通じて結果的に「人間の安全保障」
の向上にも資するものだからである。
これはただ「人間の安全保障」の諸原則を唱道することではない。まして、
国家安全保障の観点を排除することではない。
つまり、沖縄県が国家安全保障と「人間の安全保障」のジレンマの解消に
取り組むということは、国内での「人間の安全保障」の充実という、現在の「人
間の安全保障」政策の足らざる面を補いつつ、国家安全保障との両立を図る
ために、独自の指針を獲得し、政策として実現していくことを意味している。
4−2 沖縄県地域安全保障
図表 3 は考えられる沖縄県地域安全保障像を国家安全保障および「人間
の安全保障」との関係で図示したものである。この図が示す通り、地域安全保
障とは国家安全保障と「人間の安全保障」とが併存している事を所与とし、こ
の 2 つの概念の間に重層的に確立されることで、国家安全保障と「人間の安
全保障」との相互補完を具現化する概念である。
134
研究活動報告
図表 3: 沖縄県地域安全保障と国家安全保障及び「人間の安全保障」
A: 地域特性の活用(地域間対話など)
B: 危機管理能力の向上
C: アクセシビリティの確保/エンパワーメント
出典:執筆者作成
地域安全保障を中心に国家安全保障や「人間の安全保障」との関係を考
えた場合、そこには便宜上 3 つの領域を考えることができる。
つまり、「A:国家安全保障と地域安全保障とが重なる領域」、「B:地域安全
保障独自の領域」そして「C:地域安全保障と「人間の安全保障」とが重なる領
域」である。
領域 A における沖縄県の主要な課題は県域に影響を及ぼすような国際環
境の安定化である。尖閣諸島とその海域を巡る日中台の緊張関係などがこの
領域における問題の具体例と言えよう。
日本政府による尖閣諸島の国有化が宣言されて以降、日中台の関係悪化、
特に日中間での関係の悪化はそれまで良好であった両国の経済関係にも影
響を及ぼしている。
沖 縄 県 も ま た 例 外 で は な く 、 2012 年 11 月 に は 、 外 国 人 観 光 客 数 が
14,300 人で+2.9%の増加だったのに対して、中国人観光客数は 700 人(75.9%)、香港は 2,000 人(-44.4%)という大幅な減少となった。この他、中国
系航空会社の運休や乗り入れ延期、各種交流事業の停止など、影響は多岐
に渡っている。
このような状況が続く事は、両国の疎遠な関係を長期化させ、問題の平和
的な解決を更に難しくする。そればかりか、小規模な企業や事業者にとって
135
研究活動報告
は、事業継続に関わる死活問題としてまさに「人間の安全保障」にかかわりか
ねない事態となる。
領域 A における地域安全保障の実現とは、こうした事態を打開することで
あり、そのために活用すべきは本稿「2.地域」で述べたような、東アジアと東
南アジアの結節点として地域交流の中心を担ってきたという、歴史に裏付けら
れた沖縄県の地域性である。
具体的には、こうした地域性を最大限に利用し、地域の緊張関係の緩和や、
相互協力の可能性を追求していくことで地域安全保障を実現していくことが
期待される。
ところで、2013 年 1 月末に公表された沖縄県津波被害想定検討委員会が
行った沖縄近海で東日本大地震と同程度にあたるマグニチュード 9.0 の巨大
地震が発生した際の津波浸水地域の予測では、最大遡上高が 20m を越える
地点が 32 か所にのぼったほか、離島部では全域が浸水する島もあるなど、こ
れまでにない規模の被害が予測される結果となった 82。
これまでにない災害状況が想定されるようになった今日、領域 B における
主要な課題は沖縄県自体の危機管理能力の向上が指摘できる。
ある事象が危機と呼べるか否かはその事象と社会との関係や当事者の認
識に多くを依存している。こうしたことから、危機には人がそれを危機と認識す
るいくつかの要素が含まれていると考えられている。一般には、脅威認識、緊
急性、不確実性という 3 つの要素が考えられており、例えば、スウェーデン国
防大学危機管理研究・教育センターのラーソン(Larsson, Sara.)らは先行研
究を踏まえた上で、危機を「限られた時間と不確実な状況の下で重大な意思
決定を余儀なくされるような、社会システムの基本的な価値や規範に対する
深刻な脅威」と定義している 83。
この定義に基づけば、危機管理は「危機の被害や影響を極小化すると共
に、危機に関わる不確実性や時間的制約を低減するために行われる、事前、
事後の対応を含む危機への対応」と考えることができる。
82
沖縄タイムス、2013 年 2 月 3 日 6 面特集記事、「最大溯上高」20 メートル超 32 地
点」。
83
Larssin, Sara, Olsson, Eva-Karin. and Ramberg, Britta, Crisis Decision Making in
the European Union, 2005, CRISMART, p.12.
136
研究活動報告
災害対策基本法および国民保護法に基づき、沖縄県には県域で発生する
様々な危機に対応し、県民や滞在者の安全確保に務める責任がある。
他県と陸路での接点を持たない島嶼県である沖縄県には、自律的な危機
管理能力の獲得が不可欠といえる。
他方、領域 C における主要な課題としては、既に指摘した通り、在沖米軍
を巡る様々な問題の解決が挙げられる。
わけても「人間の安全保障」の観点から早急に解決を要するものとして、米
軍に関連する事故や事件被害者の救済が重要となる。
沖縄における米軍による事故の発生件数は近年減少傾向にあるものの、
提供区域外における発生件数は増加傾向にあり、近年では提供区域外での
発生件数が提供区域内での発生件数を上回る状況となっている( 図表 4 参
照)。
また、米軍関係者の犯罪検挙数は、1995 年の少女暴行事件直後こそ激減
したものの、2003 年には 112 件にまで増加し、その後も増減をくり返している
(図表 5 参照)。
日米地位協定のもとで、米軍構成員等による犯罪については、その取扱い
の多くが米側の裁量に委ねられる等、特殊なものとなりやすい状況がある。
この点について、日本政府は日米地位協定の運用改善を通じて問題の是
正を図るという立場をとっている 84 。例えば、米軍構成員等の起訴前引渡しに
ついて殺人や強姦等の凶悪犯だけでなく、いかなる犯罪も排除しないことが
確認される等一定の成果はある。しかし、そもそも、こうした弾力的な運用の
対象となる犯罪は日本政府が重大な関心を有するものに限定されており、か
つ米側の対応はあくまで好意的配慮にもとづくものであるなど、一般的な犯
罪の場合と比べて被疑者側に有利な対応や手続きがとられやすい状況にか
わりはなく、沖縄県民は常に大きな不安にさらされている。
84
外務省ホームページ「日米関係 3.日米安保関係 (2)在日米軍の中流に関する諸
問題」(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/kaneki_200612.html#3 最終確認:
2013 年 2 月 8 日)
137
研究活動報告
図表 4:沖縄における米軍による事故件数の推移(2011 年 12 月まで)
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
64
76
41
58
53
34
18
提供区域内
13
17
17
17
19
25
35
提供区域外
77
93
59
75
72
59
53
合計
出典: 『沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料)』104 頁をもとに執筆者作成
2011
27
35
62
図表 5:米軍構成員等による犯罪検挙状況(2011 年 12 月まで)
年次
凶悪犯
粗暴犯
窃盗犯
知能犯
風俗犯
その他
1985
13
32
91
3
2
19
1995
2
6
44
1
3
14
1996
3
6
24
0
2
4
1997
3
8
27
0
2
4
1998
3
8
17
2
2
6
1999
3
7
22
2
1
13
2000
4
6
26
0
3
14
2001
4
6
37
5
2
16
2002
2
11
41
4
2
21
2003
7
11
48
11
4
31
2004
1
12
23
3
4
16
2005
2
7
28
7
1
21
2006
3
10
21
9
0
14
2007
6
2
27
14
0
14
2008
7
5
14
20
1
23
2009
3
13
17
1
0
16
2010
2
11
32
4
2
20
2011
4
2
13
0
0
23
出典: 『沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料)』108 頁をもとに執筆者作成
合計
160
70
39
44
38
48
53
70
81
112
59
66
57
63
70
50
71
42
このように地域住民に特殊な不安が生じている中で、「人間の安全保障」の
重要な構成要素となっている「恐怖からの自由」に改めて目を向ける必要があ
る。
本稿ではここまであまり触れる余地がなかったが、「人間の安全保障」を最
も厳密に解釈する立場の人々にあっても、必ず対象としているのが「恐怖から
の自由」だからである 85。
この「恐怖からの自由」が主に問題としているのは、犯罪等の暴力を通じた
心身や尊厳への危険である。こうした犯罪や暴力一般からの自由を考える際、
85
福島安紀子、前掲書 38-40 頁。
138
研究活動報告
抑止と被害者救済を目的とした制度や司法手続の整備とその履行の徹底は
重要な要素となる。
この点について、既述のように運用改善が図られているとはいえ、現在の
日米地位協定は事故や犯罪の当事者による救済や補償へのアクセ スという
面では、未だ大きな阻害要因となっていると言わざるを得ず、早急な改善が
求められる。
このように、ABC の各領域にはそれぞれに主要な課題があり、なすべき対
策があるが、今一度、強調しておきたい点として、これらはあくまで便宜上の
分類であり、実際には相互に連関しているという点である。
例えば、カルドーは「『人間の安全保障』は危機管理に関わる。それは民間
の要素と軍事的な要素を含む。それは行動の道筋を提示し、危機管理をおこ
なうにあたっての一連の原則を提供する」と指摘している 86。
地域安全保障が国家安全保障と共に、「人間の安全保障」にも足場をおく
以上、上記のような意味での危機管理能力の向上は地域安全保障実現の核
といえる。
事実、「人間の安全保障」においても、災害や事故などは重大な課題と考
えられており、沖縄県がそうした危機への対処能力を向上させる事は、県内
の「人間の安全保障」実現に大きな意味をもつ。
同様に、尖閣諸島を巡る緊張の高まりを緩和するために地域間対話を促
進していく中で、大規模事故や災害、感染症等への備えを地域レベルで共
有していくことができれば、沖縄県の危機管理能力は格段に向上する。
「人間の安全保障」と国家安全保障との相互補完については既に述べたが、
ここまでの議論に即して改めて述べれば、米軍関係者による事故や犯罪に対
する適切な対応や保障、救済が約束されることは、常々指摘されている在日
米軍基地に関する沖縄県の過重負担の軽減とあわせて、沖縄県の社会的安
定を確実にすると共に日米同盟の正当性を高め、同盟の維持や運用にかか
る様々なコストを低減させる。また、そうして実現される安定的な日米同盟は
沖縄県を取り巻く国際環境を安定させ「人間の安全保障」を更に向上させるこ
とが期待できる。
86
メアリー・カルドー、前掲書、268 頁。
139
研究活動報告
5. おわりに
ここまで、本稿では、「地域」概念の検討および近年の安全保障理論の変
遷を踏まえながら、具体的な政策の指針としての沖縄県地域安全保障を検討
してきた。
まとめると、沖縄県地域安全保障とは、
①
国家安全保障と「人間の安全保障」の両立を規範とし、
②
沖縄県の地域特性と、自身の能力を最大限活用して、
③
国家安全保障や「人間の安全保障」が想定するあらゆる脅威から県民や
滞在者の生命、財産、尊厳を守ること。
だと考えられる。
今日の安全保障上の脅威は多岐に渡っており、各種の脅威への取り組み
は一見すると相互に無関係にも見える。事実、沖縄県がこれまでに進めてき
た地域間交流や、在沖米軍を巡る諸課題への対応、あるいは、危機管理能
力の充実にむけた各種の取り組み等は、概ね地域安全保障の向上に資する
取り組みといえるが、それらを有機的に関連づける議論は十分なされていな
いように思われる。
本稿が試論と題して検討してきた沖縄県地域安全保障とは、多様な政策を
有機的に関連づけることで、個々の政策の目標を、地域の安全というより大き
な成果・目標の達成につなげていくための概念装置である。
同時に、政策の質的・量的充実を通じて、地域安全保障概念という理念自
体がより精緻なものになっていくことも期待される。
政策と理念とのシナジー効果を最大にすべく、今後は、地域安全保障の実
現に資するような諸政策の充実と、それを踏まえた更なる概念の精緻化が求
められる。
140
(資料編)
第 1 回「沖縄県民の中国に
対する意識調査」
本調査は、沖縄県が平成 24 年 11 月 21 日~12 月 12 日の間で実施した
第 1 回の調査結果をまとめたものです。
調査時点が、尖閣諸島を巡り日中関係が悪化した時期と重なり、県民の
中国観にもらたした影響を否定できません。
沖縄県は次年度以降も引き続き同様の県民意識調査を行うこととしており
ます。
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
~日中関係の課題と沖縄:意識調査に関連して~沖縄県
(調査の実施・調査の目的)
沖縄県では、平成 24 年 11 月 21 日から 12 月 12 日の間、「沖縄県民の中
国に対する意識調査」を実施しました。
この調査は、県民の中国及び台湾に対する意識について把握し、今後実
施する様々な施策の基礎資料にすることを目的としております。
(意識調査の結果と今後の調査の必要性)
今回の調査は、中国に対する印象を問う設問が中心となったこともあり、調
査時点の、尖閣を巡る一連の出来事の影響が窺われております。
全国と沖縄の比較においては、調査時点の違いに注意が必要ですが、沖
縄にとって最も重要な国の一つである中国との関係を冷静に分析、調査・研
究し、新たな施策形成に結びつけるためには、追跡調査を含めた多面的な
調査を継続的に行う必要があります。
(調査の分析)
調査の結果については、東京大学の高原明生教授によって的確な分析・
論評がなされております。また、その理解の基礎となる日中関係と沖縄に係わ
る視点を琉球大学高良倉吉教授に執筆していただきました。
両論を併せてお読みいただくことで、沖縄県民の描く中国・台湾の姿の一
面が明らかとなると考えています。
(これまでの沖縄と中国との関係)
沖縄県と中国との関わりは、海洋国家「琉球王国」として朝貢を行っていた
時代から、近代の明治維新を経て、沖縄が日本国家の一県となった後も、隣
接する地域ならではの関係を維持してきました。
また、大戦後、国際関係が激動する中においても県民は東シナ海を隔てた
大陸及び台湾に対して強い関心を持ち続けており、沖縄県は、最も中国の有
り様と活動に影響を受けている地域であるとの認識が一般的だと思います。
142
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
(沖縄からの働きかけ)
沖縄県はこれまで、福建省との姉妹提携や、県内高校生の人材交流、琉
球王国の外交文書である「歴代宝案」の提供を受けるなどの文化交流を進め
るとともに、北京、上海、香港、台北事務所を設置し、観光誘客、航空路線の
拡充、県産品販路拡大などの経済交流、観光交流を活発に行ってきたと自
負しております。
また、去る 2 月の文化イベント 87に合わせて実施された来場者アンケートで
は、約 9 割が中国との友好関係が必要であり、8 割以上が沖縄にその役割を
担ってほしいとの回答がなされ、沖縄県による交流促進の重要性と期待が改
めて確認されました。
(これからの沖縄の役割)
沖縄県は、平成 22 年 3 月に策定した「沖縄 21 世紀ビジョン」で、「我が国
の平和の創造に貢献するため、アジア・太平洋諸国等との信頼関係の醸成の
場として、文化、環境対策など多様な安全保障を創造していく場として、地域
特性を発揮していく」との決意を示しました。
ビジョンを実現していくためには、東アジア地域の平和と安定が不可欠で
あり、今回の調査及び報告書の公表を、沖縄県が、これから、この地域の対
話と相互理解のために果たすべき役割を考えるスタートにしたいと思っており
ます。
平成 25 年 3 月
沖縄県
87
文化イベント 中国・日本・奄美・沖縄文化友好祭「あけもどろ」 詳細は次頁
143
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
中国・日本・奄美・沖縄文化友好祭 「あけもどろ」
Dynamic Asia Symphony ~共演・そして響演~
日時:
会場:
概要:
2013 年 2 月 17 日(日) 14:00 開演
沖縄コンベンションセンター
沖縄本土復帰 40 周年、日中国交正常化 40 周年、そして沖
縄福建友好県省締結 15 周年を記念し、沖縄と日本、そして中
国との結びつきを見直す機会として開催した、中国・日本・奄
美・沖縄で活躍するアーティストによる文化友好祭。
「世界に開かれた交流と共生の島」を実現するため、沖縄が
アジア、中国との新たな交流の門出を切り拓く「あけもどろ(出
発の夜明け)」として、沖縄と文化を共有する奄美とともに「交
流」、「共生」、「平和」、「文化」の4つのキーワードで中国と結
びつき、そして「自立」した沖縄がアジアの良心~ちむぐくる~
となることを願い開催された。
<アンケートについて>
来場者に対してアンケート(計 10 問)を実施し 1,479 名が回答。
以下は回答結果の抜粋
Q:日本・沖縄にとって中国との友好関係が必要だと思いますか。
Q:日本と中国の友好関係に沖縄の 果たす 役割はどうあるべきだと思います
か。
144
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
「沖縄県民の中国に対する意識調査」結果について
調査: 沖縄県知事公室地域安全政策課
1. 調査の概要
(1) 調査名
(2) 調査目的
(3) 調査対象
(4) 調査方法
(5) 調査期間
(6) 回収結果
(7) その他
「沖縄県民の中国に対する意識調査」
県民の中国(台湾)に対する意識について把握し、施策に活
かして行くための基礎資料とする。
① 母集団
県内に居住する満 15 歳以上 75 歳未満
の男女
② 標本数
3,000 人
③ 抽出方法
層化二段無作為抽出法
郵送法(調査対象全数に、はがきによるお礼状兼督促状を1
回送付)
平成 24 年 11 月 21 日~12 月 12 日
有効回収数(率) 1,187 人(39.6%)
県内を①北部、A.中部、B.那覇市、C.南部、D.宮古、E.八重
山の 6 地域に分類した。中部、那覇市、南部地域に比して人
口数の少ない宮古・八重山地域に4倍、北部地域に 2 倍の標
本数を割り当てる、ウエイト付きのサンプリングを行っている。
比較に用いる全国調査について
調査結果の図表においては、沖縄県民の意識を相対的に把握するた
め、全国を対象とした下記の調査結果を、比較可能な設問について参
考として示した。
認定 NPO 法人 言論 NPO:
調査対象:
調査方法:
調査期間:
有効回収標本数:
「第 8 回日中共同世論調査」
日本全国の 18 歳以上の男女(高校生を除く)
訪問留置法
平成 24 年 4 月 26 日~5 月 14 日
1,000
145
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
(注)全国調査の実施から当該調査実施までの間に、中国国内における大規
模な反日デモなどが発生しており、調査結果の比較においては注意が
必要である。
「日中共同世論調査」
言論NPO 調査期間
4月
5月
「沖縄県民の中国に対する意識調査」
沖縄県 調査期間
6月
7月
8月
石原都知事購入発表
9月
10月
11月
12月
国有化正式決定
保釣連盟船が巡視船と接触
領海侵犯等の頻発
大規模反日デモ
香港活動家上陸・逮捕
146
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
2. 集計表
(1) 中国に対する印象
問 1.あなたは、中国に対してどのような印象を持っていますか。(○は 1 つ)
良い印象を持っている
どちらかといえば良い印象を持っている
どちらかといえば良くない印象を持っている
良くない印象を持っている
無回答
沖縄
1.4%
7.7%
57.9%
31.1%
1.9%
全国
2.3%
13.3%
66.7%
17.6%
0.1%
【問 1 で「良い印象を持っている」「どちらかといえば良い印象を持っている」と
お答えの方に】
問 1SQ1.良い印象を持っている理由は何ですか。(○はいくつでも)
中国経済の発展は日本経済に不可欠な存在だから
留学生の交流など民間の交流で前進がみられるから
首脳会議などが頻繁に行われ、政府関係が安定したから
中国社会の発展に将来、期待できるから
東日本大震災に対して支援を行ってくれたから
中国の歴史問題での発言が少なくなったから
中国の政治が日中関係を大事にする方向に変わってい
るから
中国料理や中国の歴史など中国文化に関心があるから
中国人はまじめで努力家で積極的に働くから
中国人の言動にスケールの大きさを感じるから
中国の製品は安くて魅力的だから
中国は国際政治のルールを大事にし始めたから
その他
特に理由はない
無回答
沖縄
47.4%
43.7%
2.4%
22.9%
21.4%
1.2%
全国
52.6%
35.3%
5.8%
33.3%
20.5%
5.1%
6.4%
10.9%
46.8%
18.0%
2.4%
23.2%
6.1%
19.6%
3.1%
1.5%
31.4%
15.4%
5.8%
23.7%
5.1%
7.7%
9.0%
0.0%
147
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
【問 1 で「どちらかといえば良くない印象を持っている」「良くない印象を持っ
ている」とお答えの方に】
問 1SQ2.良くない印象を持っている理由は何ですか。(○はいくつでも)
政治体制が異なるから
過去に戦争をしたことがあるから
歴史問題などで日本を批判するから
中国人の愛国的な行動や考え方が理解できないから
資源やエネルギーの確保で自己中心的に見えるから
軍事力の増強や、不透明さが目につくから
中国の大国的な行動が気に入らないから
中国の行動が覇権的に見えるから
尖閣諸島を巡り対立が続いているから
国際的なルールと異なる行動をするから
その他
特に理由はない
無回答
沖縄
20.0%
3.0%
43.6%
50.5%
60.1%
38.0%
21.5%
36.4%
56.0%
58.4%
14.3%
0.1%
2.9%
全国
26.5%
4.9%
44.0%
28.4%
54.4%
34.8%
17.2%
23.0%
48.4%
48.3%
9.6%
4.9%
0.4%
(2) 台湾に対する印象
問 2.あなたは、台湾に対してどのような印象を持っていますか。(○は 1 つ)
沖縄
15.1%
63.1%
17.2%
2.0%
2.7%
良い印象を持っている
どちらかといえば良い印象を持っている
どちらかといえば良くない印象を持っている
良くない印象を持っている
無回答
【問 2 で「良い印象を持っている」「どちらかといえば良い印象を持っている」と
お答えの方に】
問 2SQ1.良い印象を持っている理由は何ですか。(○はいくつでも)
沖縄
文化面での共通性
経済的結びつき
長い交流の歴史
地理的な近さ
東日本大震災に対して支援を行ったから
台湾人から良い印象を持たれていると思うから
その他
特に理由はない
無回答
41.3%
34.3%
57.4%
39.3%
31.9%
33.5%
7.3%
9.0%
0.5%
148
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
【問 2 で「どちらかといえば良くない印象を持っている」「良くない印象を持っ
ている」とお答えの方に】
問 2SQ2.良くない印象を持っている理由は何ですか。(○はいくつでも)
沖縄
40.1%
14.6%
14.3%
69.4%
17.0%
10.0%
8.7%
2.2%
歴史問題などで日本を批判することがあるから
経済面、技術面での競争関係
文化面での警戒心
尖閣諸島を巡り、対立が続いているから
台湾人からよくない印象を持たれていると思うから
その他
特に理由はない
無回答
(3) 日中関係の発展を妨げるもの
問 3.日中関係の発展を阻害する主な問題とは何だと思いますか。(○は 3
つまで)
日中両国民に信頼関係がない
海洋資源などをめぐる紛争
領土問題
経済摩擦
日本への安全保障政策への懸念
中国の軍事力増強
日本国民のナショリズムや反中感情
中国国民のナショリズムや反日感情
日本の歴史認識問題
日本の戦争時の未解決問題
中国の反日教育
日米同盟の存在
台湾問題
在日中国人の犯罪
日中両国の政治体制の違い
中国の人種問題
中国産品の安全性の問題
教科書問題や右翼などの宣伝活動
その他
無回答
沖縄
24.0%
34.9%
58.0%
4.2%
4.7%
12.3%
4.2%
40.2%
11.4%
11.0%
54.3%
2.5%
1.1%
5.4%
10.0%
6.9%
20.0%
5.5%
2.0%
0.3%
全国
27.6%
34.1%
69.6%
16.5%
3.2%
12.6%
2.7%
19.6%
7.7%
12.0%
28.6%
1.4%
1.6%
5.5%
8.1%
3.9%
15.7%
3.7%
1.6%
1.1%
149
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
(4) 日中関係は現在重要か
問 4.日中関係は、現在の日本にとって重要だと思いますか。(○は 1 つ)
重要である
どちらかといえば重要である
どちらともいえない
どちらかといえば重要ではない
重要ではない
無回答
沖縄
34.3%
34.7%
20.6%
5.2%
4.2%
0.9%
全国
44.4%
35.9%
16.3%
1.4%
1.9%
0.1%
(5) 中国と米国でどちらに親近感を覚えるか
問 5.あなたは、中国と米国でどちらに対してより親近感を覚えますか。(○は
1 つ)
中国により親近感を感じる
米国により親近感を感じる
どちらにも同じくらい親近感を感じる
どちらにも親近感を感じない
わからない
無回答
沖縄
4.2%
53.9%
9.2%
25.8%
6.2%
0.8%
全国
6.6%
51.9%
12.7%
18.0%
10.8%
0.0%
(6) 中国と台湾でどちらに親近感を覚えるか
問 6.では、中国と台湾では、どちらに対してより親近感を覚えますか。(○は
1 つ)
沖縄
中国により親近感を感じる
台湾により親近感を感じる
どちらにも同じくらい親近感を感じる
どちらにも親近感を感じない
わかない
無回答
4.7%
68.0%
6.3%
15.0%
5.4%
0.5%
150
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
(7) 歴史問題で解決すべきこと
問 7.日本と中国の歴史問題について、どの問題を解決していくことが重要だ
と思いますか。(○はいくつでも)
沖縄
29.0%
30.3%
11.1%
24.1%
14.1%
11.4%
14.5%
69.8%
35.7%
48.6%
0.6%
3.4%
6.9%
1.1%
戦略戦争に対する日本の認識
日本の歴史教科書問題
日本の戦争賠償などの問題
日本の南京大虐殺に対する認識
日本の政治家の中国に対する発言
日本メディアの中国についての報道
日本人の歴史に対する謝罪の不足
中国の反日教育や教科書の内容
中国の政治家の日本に対する発言
中国メディアの日本についての報道
もう解決すべき問題はない
その他
わからない
無回答
全国
26.7%
23.1%
25.4%
21.9%
13.9%
14.8%
13.3%
53.2%
23.7%
34.7%
2.0%
2.2%
16.3%
0.1%
(8) 東アジア海洋で軍事紛争は起きるか
問 8.あなたは、東アジアの海洋において、日本、中国などの間で軍事紛争
が起こると思いますか。(○は1つ)
沖縄
4.3%
39.3%
30.0%
25.2%
1.2%
数年以内に起こると思う
将来的には起こると思う
起こらないと思う
わからない
無回答
総数
数年以内に
起こると思う
将来的には
起こると思う
北部
中部
地域
那覇市
南部
宮古
全国
2.9%
24.3%
37.9%
34.6%
0.3%
八重山
4.3%
5.5%
4.3%
5.1%
2.4%
2.5%
7.2%
39.3%
37.9%
37.0%
37.8%
42.5%
49.6%
49.4%
起こらないと思う
30.0%
34.5%
30.6%
30.0%
30.5%
21.0%
22.3%
わからない
25.2%
20.0%
26.8%
26.3%
24.0%
24.4%
19.3%
1.2%
2.1%
1.3%
0.9%
0.6%
2.5%
1.8%
無回答
151
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
(9) 領土問題はあるか
問 9.あなたは、日中間に領土問題は存在していると思いますか。(○は1つ)
沖縄
62.0%
23.0%
13.2%
0.6%
1.2%
存在している
存在していない
わからない
関心がない
無回答
総数
存在している
存在していない
わからない
関心がない
無回答
62.0%
23.0%
13.2%
0.6%
1.2%
北部
60.7%
22.1%
17.2%
0.0%
0.0%
中部
62.2%
22.3%
13.9%
0.8%
0.8%
地域
那覇市
南部
63.1%
64.7%
24.4%
19.8%
10.6%
13.2%
0.0%
0.6%
1.8%
1.8%
宮古
48.7%
31.1%
16.8%
1.7%
1.7%
全国
62.7%
16.1%
16.8%
4.3%
0.1%
八重山
55.4%
31.3%
10.2%
1.2%
1.8%
【問 9 で「存在している」とお答えの方に)】
問 9SQ.あなたはどのようにしてこの問題を解決していくべきだと思いますか。
(○は 1 つ)
両国間ですみやに交渉し解決すべき
解決を急がずに、当面は棚上げし、対立の激化を防ぐべき
長期的に棚上げして、当面は、共同開発を目指すべき
国際司法裁判所に提訴すべき
わからない
無回答
沖縄
27.8%
12.0%
10.8%
44.8%
4.4%
0.2%
全国
40.7%
11.0%
10.0%
29.0%
9.3%
0.0%
(10) 中国・台湾に行ったことがあるか
問 10.あなたは、これまでに中国(台湾を除く)に行ったことがありますか。
(○は 1 つ)
ある
ない
無回答
沖縄
17.9%
80.7%
1.4%
全国
16.5%
83.5%
0.0%
152
(資料編) 第 1 回「沖縄県民の中国に対する意識調査」
問 11.では、台湾に行ったことはありますか。(○は 1 つ)
沖縄
27.8%
70.9%
1.3%
ある
ない
無回答
(11) 中国人・台湾人の知り合いがいるか
問 12.あなたには、中国人(台湾人を除く)の知り合いがいますか。(○は 1
つ)
親しい知人・友人がいる
多少話をする知人・友人がいる程度
知り合いはいない(いたことはない)
無回答
沖縄
3.7%
16.7%
78.1%
1.5%
全国
4.1%
15.6%
80.1%
0.2%
問 13.では、台湾人の知り合いについてはいかがですか。(○は 1 つ)
沖縄
親しい知人・友人がいる
多少話をする知人・友人がいる程度
知り合いはいない(いたことはない)
無回答
5.3%
15.1%
77.7%
2.0%
153
変化する日米同盟と沖縄の役割
~アジア時代の到来と沖縄~
発 行
編 集
印 刷
平成 25 年 3 月
沖縄県知事公室
地域安全政策課調査・研究班
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