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平成 25 年度研究チーム概要
平成 25 年度研究チーム概要 ◎研究課題(№125) 「睡眠—覚醒リズム,昼間活動量と学習成績の相関調査」 *研究の目的 我々の記憶は,定着させる上で良質の睡眠が大変重要である。さらには恐怖記憶など忘れた方がよい記憶 は,良質な睡眠により忘却される。一方,現代社会において,睡眠の質の劣化や量の減少が指摘されている。 1960年から2005年までの日本人の睡眠傾向の調査結果では,平日の就床時刻は,小学生で60分,高校生で80 分,40歳代で90分遅くなっている。すなわち,低年齢層を含めた日本人の生活の夜型化が進んでいる。また, 実質の睡眠時間をみても1時間近くも減少している。そのため,現代日本人は、ヒトが本来持っている学習能 力を充分に引き出せなくなっている。そこで,幼児を対象とし,睡眠に関わる生活習慣を網羅的なアンケー ト調査および行動学的観察を行い,学力との相関を分析し,これによって,睡眠に関わる生活習慣のどの因 子が子どもの学力に影響するのかを明らかにすることを目的とする。 *研究の内容及び効果 対象は,幼児教育施設に通う,1歳から6歳児を対象とする予計画である。また,幼児の養育者および保育 者も対象とし,各グループ間の相関も評価する。幼児期は,脳の発達が加速される時期であり,この時期の 睡眠を含む適切な環境は重要であり,不適切な環境は,その後の発達に重篤な悪影響を及ぼすことになる。 先行研究では,幼児期の脳発達に適切な環境は,前頭葉発達に大きく影響するばかりでなく後頭頂葉にも大 きく影響することが報告されている。後頭頂葉は数学や言語,空間認知などと深く関わる脳部位である。そ こで,本研究では,睡眠の質と,日常の運動,特に三次元運動と,算数・数学の学習効率の相関を分析・評 価する。 実験方法は,アンケート調査および行動学的観察を用いる。アンケート調査は,(A)睡眠健康調査票による アンケート,(B)成績評価,(C)相関分析を行う。(A)のアンケート内容は,幼児では,保護者が回答するもの であり,養育者および保育者では,被験者自身が回答する。現在の生活習慣,特に睡眠の質に影響する事項 を調査するものである。養育者および保育者のアンケート調査では,被験者の記憶を元に幼児期・児童期の 生活習慣に関しても併せて調査する計画である。(B)の成績評価方法は, 被験者間の比較で評価するとともに, 全国平均との比較評価も行う予定である。(C)の相関分析方法は,上記(A)と(B)の相関を統計手法により分析 する。行動学的観察では,睡眠—覚醒リズム研究用プログラムを用いて,睡眠リズムおよび24時間の行動量を 計測し,上記アンケート調査結果と比較検討する。 また,上記結果を踏まえ,相関が見出せた場合,当該年度の夏休みもしくは次年度の当初に調査対象の幼 児(その養育者)に対し睡眠指導を行い(強制的ではなく)半年後に再度上記方法(A)〜(C)を行う。これに より学習成績の向上が有意に確認された場合,以降の幼児教育施設入学時のオリエンテーリングなどで睡眠 指導を導入することにより,当該研究の成果を活用する。また,当該研究成果を国内外に公開することによ り社会的な貢献が期待できる。 更には,当該研究は,算数・数学教育を中心とした幼児における学習効率を想定しており,幼児期の算数・ 数学の早期教育のモデル化も期待できる。 *総合研究所として研究することの必要性 当該研究は,実験プロトコル作成および得られたデータの評価において行動学的知見,特に睡眠健康科学 における充分な知見が必要である。また,アンケート調査によって得られた大量のデータを,良質の睡眠の 持つ多くの因子により分析するため,高度な数学的知識が要求される。更には,当該研究は,算数・数学教 育を中心とした幼児における学習効率を想定しており,幼児期の算数・数学の早期教育のモデル化も,当該 研究の目的である。このため,数学教育に関する充分な知識と経験を持つ研究者が必要である。そして,甲 南大学ヒトを対象とした研究に関わる倫理規定に従ったアンケート調査および行動実験を遂行できる研究者 が必要となる。 以上のことから,本研究は,以下⑤の研究員による共同研究が必須となる。 *研究チームメンバーと研究課題 前田多章(研究代表幹事)知能情報学部 学習効率に影響する睡眠要素のモデル化,睡眠要素と 学習効率の相関の行動学的分析 松本茂樹 知能情報学部 乳幼児の学習効率分析・評価,および,乳児期の数学教 育モデルの構築 堀内清光 理工学部 睡眠要素と学習効率の相関の統計的分析,および,乳児 期の数学教育モデルの構築 山ノ内愼一 山ノ内和漢薬研究所 所長 対象ライフステージの観点からの行動分析および睡眠評 価,および,乳幼児における日常活動の活動量分析 綾森素子 ㈲幼児未来教育 代表取締役社長 乳幼児の学習効率分析・評価,および,乳児期の数学教 育モデルの実践研究 ◎研究課題(№126) 「大学教育におけるタブレット端末利用と大学生の意識調査に関する研究」 *研究の目的 加速するデジタル化社会において、iPad に代表されるタブレット端末、スマートフォン等の高性能携帯 型情報端末の利用が一般的となり、電子書籍やデジタル教科書、デジタルコンテンツの積極的な活用が進 んでいるだけでなく、クラウドコンピューティングの利用も増えている。ICT を活用して「大学教育の質」 を高めるためには、その意義を再確認し、学習効果を検証すると同時に、学生への情報教育のあり方を考 える必要がある。デジタル化社会における大学教育を様々な角度から考えるために、欧米圏の実情とも比 較研究する。そして、甲南大学の教育の現場に即してタブレット端末利用の実態や学生の反応を調査研究 し、併せてタブレット端末やスマートフォン利用に関する大学生の意識調査を行うことが本研究の目的で ある。 *研究の内容および効果 まず、本学の授業中に学生が使用するタブレット端末を中心として、タブレット端末利用のメリット とデメリットを学生の視点に立って調査研究する。また、スマートフォン等の情報端末を用いる際の学生自 身の個人情報保護に関する意識、学生個人が取っているセキュリティ対策等について調査を行うことで、本 学学生および本学留学生が、どのような「情報モラル」を持ち、情報漏洩に対しては、どのような危機意識 を持っているのかを探る。そして、日本の大学教育における講義・学習内容のデジタル化の現況、デジタル 教科書・デジタルコンテンツ等の利用状況、クラウドコンピューティング利用に関する具体例などを探り、 その意義と効果についても調査研究する。また、欧米圏の大学教育におけるデジタル化の現況を調査し、日 本との比較も行う。さらに、タブレット端末を利用して具体的な作業ができるようなアプリケーションを開 発して、その効果を確かめることも企図している。 以上のように、タブレット端末利用をめぐる多角的な調査と研究を通じて、甲南大学の教育に「デジタル 化」をより有意義な形で活かすための新たな可能性を提案できると考える。 *総合研究として研究することの必要性 「デジタル化」という角度から大学教育について総合的に考え、学際的研究を行うためには、多様な分 野の研究者の視点が不可欠である。また、タブレット端末、スマートフォン利用に関する本学学生および 本学留学生の意識調査は、本研究の両輪のひとつであり、アンケート実施と分析に関しては、複数学部お よびセンターの教員が連携する必要がある。 *研究チームメンバーと研究課題 中村典子(研究代表幹事)国際言語文化センター 「外国語学習におけるタブレット端末利用とデジ タル情報活用の射程」 国際言語文化センターでは、iPad を活用した iCALL 教室を 2012 年度から試行的に導入した 後、2013 年度から、3つの iCALL 教室で合計 150 台の iPad を利用して先進的な外国語教育 を行う。iPad や iPhone 等のスマートフォンを 活用した外国語学習における具体的な学習効 果(学習時間の増減、自律的学習態度の涵養や 語学運用能力向上の度合い等)を、本学の学生 を対象として調査研究するとともに、 欧米圏の 大学教育におけるデジタル化の実情を探り、 デ ジタル情報・情報機器を活用した大学教育のあ り方について考察する。 井上 明 マネジメント創造学部 「大学におけるタブレット端末の効果的な活用 法の研究」 マネジメント創造学部では 2013 年度よりタブ レットパソコンを推奨パソコンとした。新入生 の約半数近くが推奨パソコンを利用する予定 である。本研究では、タブレットパソコン利用 に関する実態調査を行い、 大学におけるタブレ ット端末の効果的な活用方法を検討する。 林 健太 経済学部 「スマートフォン、タブレット端末利用時の個 人情報保護に関する大学生の意識調査研究」 スマートフォンやタブレット端末を通じての (甲南)大学生のクラウドサービス利用状況を 調査すると同時に、個人情報を第三者に提供す ることに対する意識調査を行い、頻発する情報 漏洩によるトラブルへの有効な対処法につい て考察する。 和田昌浩 知能情報学部 「タブレット端末を利用したロボットの操作と コミュニケーション」 現在、タブレット端末やスマートフォンの OS は幾つか存在しているが、 ユーザは好みに応じ て使い分けているのが現状であり、それぞれの 特徴を活かして、 教育や研究の場で活用する 必要があると考えている。また、これらの端末 に対応した SDK(Software Development Kit)が 存在し、簡単にアプリケーションを開発できる ようになった。そのため、情報通信やロボット 工学などの分野でも、こういったタブレット端 末を利用して、コミュニケーションや遠隔操作 をすることが容易になってきている。そこで、 本研究では、 タブレット端末を利用してロボッ トの遠隔操作や各種データの可視化などのア プリケーションを作成し、 実際の移動ロボット を利用して、それらの効果を確かめる。 ◎研究課題(№127) 「アジア企業における経営理念の生成・伝播・継承に関する研究」 *研究の目的 本研究の目的は、アジア企業(日本、韓国、中国、台湾、インド)の経営理念の生成・伝播・継承の過程 を、学際的視点に立ったインタビューや参与観察などの質的調査によって明らかにすることである。具体的 には、(1)アジア各国の個別企業の経営理念の生成、伝播、継承の状況、(2)アジア各国の個別企業の経営理 念の背景にある文化的、社会的、政治的、歴史的要因と経営理念の関係、(3)研究全体を通じて、経営理念 のアジア的共通性が存在するか否かという点を明らかにする。 *研究の内容及び効果 従来の経営学における経営理念の研究は、歴史研究、組織メンバーの行動に注目した仮説検証型研究、 日本企業を主とする個別のケース研究等がみられるが、本研究のように韓国、インド、中国などアジアの広 い地域にわたる複数企業の質的調査は前例がない。本研究の内容は、以上の点を明らかにすることにある。 第1に、個別企業の経営理念の生成過程、それに対する社会的、文化的、歴史的影響はどのようなもので あったのか。第2に、諸外国に進出しているアジア企業が、独自の経営理念をどのように伝播しようとして きたのか。そのために必要な理念の解釈・再解釈のプロセスは、誰が、どのようにして行ってきたのか。そ のための工夫はどのようなものであったのか。またその成果(失敗)はどのようなものであったのか。第3 に、経営理念は、個別企業の中で、組織メンバーによってどのように解釈・再解釈され、具体的な行動に結 びついているのか。それは、特定の戦略や事業内容などとどのように結びついているのか。その結果、どの ような成果(失敗)を生んだと考えられるのか。第4に、経営理念の生成・伝播・継承プロセスに関して、 各国間でどのような共通性と差異があるのか。第5に、経営理念そのもの、あるいは経営理念の基盤にある 価値観において、アジア的共通性があるのか否か。 *総合研究所として研究することの必要性 本研究の独創性は、学際的研究および経営人類学的アプローチという点にある。本研究が学際的研究であ ることは、構成メンバー達の研究領域が、経営学、経済学、経営史、社会学、人類学、宗教学と多岐にわた っていることからも明らかである。 学際的視点に立つことによって、 対象を多角的にみることが可能となる。 また、各専門分野で研究方法が異なるため、多様な研究アプローチを採用できることも本研究の強みとであ る。多様な研究アプローチの1つとして、本研究が主に採用するのが、経営人類学的アプローチである。こ れまでの経営理念の研究は、経営学を主領域とするミクロ組織論に基づく実証研究、歴史研究、ケース研究 等が主であり、本研究のようなフィールドワークを主とする質的調査はわずかである。この点から、本研究 の意義、必要性は大きいといえる。 *研究チームメンバーと研究課題 奥野 明子(研究代表幹事) 経営学部 韓国製薬企業ユハンの経営理念 廣山 謙介 高 龍秀 経営学部 経済学部 経営文化の日英比較 韓国財閥企業の経営理念 出口 晶子 文学部歴史文化学科 教授 大学組織における組織理念 岩井 洋 帝塚山大学学長 韓国三星グループの経営理念 河口 充勇 帝塚山大学人文学部 准教授 台湾企業の経営理念 住原 則也 天理大学国際文化学部 教授 インドのタタ・グループの経営理念 出口 竜也 和歌山大学観光学部 教授 ホンダの海外進出と経営理念の伝播 藤本 昌代 同志社大学社会学部 教授 中国における島津製作所の経営理念 三井 泉 日本大学経済学部 教授 パナソニックと松下幸之助の経営理 李 仁子 東北大学教育学部 准教授 韓国製薬企業ユハンの創業者と経営 理念