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詳細(PDF 380kB) - 群馬県立産業技術センター

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詳細(PDF 380kB) - 群馬県立産業技術センター
群馬県立産業技術センター研究報告書(2004)
生産管理のための支援ツールの開発(第 2 報)
坂本明子*
Development of the Supporting Tool for Production Management and Control System
(2nd Report)
Akiko H. SAKAMOTO
製造作業をスムーズに行い、納期厳守、不適合防止、コスト削減、受注拡大などが期待できる企業づ
くりのための仕組みを導入し、効率的に企業運営することが製造業では求められている。本年度は企業
と共同研究を行い、代表的なデータベースソフトである Access を用いた生産管理システムの開発を行
った。手がけたシステムは、受注・出荷管理システム、進捗把握・工程別負荷把握システム、資材在庫
管理システムなど多岐に渡り、生産活動に関するあらゆる場を対象にしている。
キーワード:生産管理、システム開発、Access
Production Management and Control System, which can be expected the strict observance of
time-for-delivery, the prevention of incongruent, the cost reduction and the situation that
manufacture is performed smoothly, is needed in order to increase the production control ability,
which brought the productivity increase and their competitive power. The supporting tools for
Production Management and Control System were developed by using MS-Access focusing on the
various production situations in manufacturing system as the joint researches with the several
industries.
KEY WORD:Production Management and Control System, System Development, Microsoft Access
1
はじめに
ムの開発とまでは至らないが、ある部分的な
機能を果たすシステムの開発を、企業との共
製造作業をスムーズに行い、納期厳守、不
同研究として行った。Access を用いることで、
適合防止、コスト削減、受注拡大などが期待
導入費用を抑制でき保守人員の確保も容易に
できる企業づくりのための仕組み(システム)
なる。また、システム開発を経験することで、
を導入し、効率的に企業運営することが製造
社内の情報リテラシが向上するという付加価
業では求められている。そのため、受注から
値もある。手がけたシステムは、受注・出荷
出荷までの生産管理や人事・財務管理を行う
管理システム、進捗把握・工程別負荷把握シ
ERP(Enterprise Resource Planning)パッケ
ステム、資材在庫管理システムなど多岐に渡
ージを導入する企業が近年増えている。しか
り、生産活動に関するあらゆる場を対象にし
し、ERP パッケージは高価格であり、自社開
ている。これらは既に企業で試験運用されて
発するにしても適切なシステムに仕上げるの
おり、生産現場での製品管理や作業時間の削
は大変難しい。
減などの効果が期待できる。
そこで、代表的なデータベースソフトであ
る Access
(1)
を用い、総合的な生産管理システ
しかしながら、システムを導入すればそれ
で全ての問題が解決するわけではない。シス
テム導入の結果、作業に余分な負荷をかけ、
システムの構築とまでは至らないが、ある部
通常の手順を逸脱させてしまうケースもあり
分的な機能を果たすシステムの開発が可能で
得る。それを避けるには、事前に業務の流れ
ある。最近のソフト事情を見ると、代表例と
を整理・把握すること、システムの使用目的・
して Microsoft 社の Office ソフトのように、
使用方法を明確にすること、開発後の保守を
ユーザフレンドリーで、相当なデータを処理
明確にすること、などが重要である。
可能なアプリケーションがある。この Office
本報告書では、実際に開発した生産管理シ
アプリケーションを使えば、生産管理業務の
ステム事例およびシステム開発の課題につい
多くをこなせる印象があり、システム開発に
て述べる。
とっては頼もしい味方が現れたと感じられる。
特に Access はデータベース処理が可能であ
2
生産管理システムの開発について
り、生産管理システムの核となるデータベー
スを構築し、データを処理するインターフェ
1.1
システム開発を行う理由
生産企業であれば、すべてがシステム化さ
れていなくとも、何らかの生産管理システム
ース部分を設計することもでき、Microsoft
社製品以外のデータベースソフトとも連携し
たシステム開発も可能である。
が稼動している。日常の生産管理は、そのシ
これらのアプリケーションを用いて生産管
ステムを利用して行われているが、その利便
理システムの開発を行う担当者は、システム
性はどの程度のものであろうか。確かに生産
部門の SE ではなく、パソコンを使いこなす作
管理システムは生産活動に不可欠であり、い
業現場の作業者たちで、生産管理のスタッフ
ろいろな面で利用されており、生産活動に係
やラインの担当者たちが最適であると考える。
わる多くの作業者は活用しているという感覚
工場で働く作業者は、生産管理システムに求
を持っている。システムは運用上、必要なこ
める必要事項を知っており、必要最低限のシ
とはしてくれるが、十分な機能かと問えば、
ステムをスムーズに構築できると考えられる。
決してそうとはいえないのではないか。十分
しかし、データベース処理を行う Access
な機能でないと感じるのは、生産管理の作業
の習得となると、「そう簡単にとはいうわけ
改善をしようとした時に、「システムが修正
にはいかない」と考えられている。ところが、
できないから無理」といった状況があること
マクロやプログラミング処理を用いるような
や、システムの運用において様々な不具合点
高度なシステム化は、必ずしも担当者すべて
があるのに対して、「我慢して使わなければ
が必要というわけではない。この観点で日頃
いけない」といった状況があるからと考えら
の実務で徐々に技術を習得するように心がけ、
れる。このように、生産管理システムは生産
システム開発の作業内容に一工夫を加えれば、
企業において運用されるべき必要なシステム
ある程度のデータ処理方法を習得できると考
ではあるが、もう一方で、生産管理の改善に
えられる。システム開発を体験することによ
おける制約にもなっている。つまり、便宜を
って社内の情報リテラシが向上する可能性が
与えてくれるはずのシステムが制約になって
あると考えられる。
しまっている。そこで、この既存の生産管理
システムを使用し続けながら、作業改善に必
1.3
システム開発する上でのポイント
要な機能を持つシステムは自社で開発し、シ
業務のシステム化は、既存の業務をそのま
ステムの併用利用が行えないだろうか、とい
まシステム化するのではなく、システム化以
った要求が発生する。
前に業務上の問題点を把握し、改善策を立て
た上でシステム化することが大切である。な
1.2
Access 利用のシステム開発の有効性
ぜならば、問題のある業務プロセスをそのま
近年、パソコンの普及を背景にして、パソ
まシステム化しても本質的な改善にはならな
コン版生産管理ソフトの開発が行われている。
いからである。つまり、生産管理システムの
パソコンという制約から、総合的な生産管理
開発では、実際の業務知識が必要になるばか
りか、業務改善を伴ったシステム化が必要に
った各製品の進捗状況が把握できる。上述の
なる。
事項を目的とし、進捗把握・工程別負荷把握
しかし、いざシステム開発を行う時、現状
システムを開発した(図 1)。このシステム
の業務を処理する手順や内容、あるいは効率
の初期画面イメージを図 2 に示す。また、注
化したい箇所の作業内容は、ロジックとして
残ごとの進捗状況を把握する画面イメージを
明確になっていない可能性がある。システム
図 3 に、工程別負荷を把握する画面イメージ
開発を開始する際には、しっかりとした業務
として図 4 に示す。
の現状分析を行った上で、業務の基本的なロ
ジックや手順・内容、例外的な処理などにつ
作業日報システム
進捗管理
工程別負荷把握システム
販売管理システム
アクセス2003
アクセス2003
オラクル
いて把握することが必要である。
2
開発内容
製作指示集計
製作指示集計
ODBC接続
本研究では、県内企業 3 社に共同研究とい
受注伝票明細
受注伝票明細
う形式でシステム開発の協力を得て、下記に
工程情報マスタ
工程情報マスタ
挙げる 3 つのシステム開発を進めた。
図 1:システム環境
① 進捗把握・工程別負荷把握システムの開発
共同研究先:蔵前産業(株)
② 資材在庫管理システムの開発
共同研究先:(株)浦和製作所
③ 受注出荷管理システムの開発
共同研究先:市川鉸工業(株)
①のシステムは、既存のシステムとの連携
を考え開発したシステムである。②・③のシ
ステムは単独で起動するアプリケーションと
して開発した。システム開発には、Access を
図 2:初期画面イメージ
使用した (2)(3)。
2.1
進捗把握・工程別負荷把握システム
の開発
共同研究先企業の実態調査を行ったところ、
協力企業では作業日報システムと販売管理シ
ステムが稼動していた。
販売管理システムから毎日、膨大な作業指
示が出力される。「どの製品を、いつ、どの
機械で、どれだけ処理しなければいけないの
か」の作業負荷を把握できれば、工程および
機械設備の負荷の調整が可能になる。また、
毎日工場から提出される作業日報を入力する
システムの持つデータベースと連携すること
で、注残の製品がどの工程まで処理が終了し
ているのか、を把握できる。製造進捗状況を
把握することができれば、今まで不透明であ
図 3:進捗状況を把握する画面イメージ
開発したシステムは「日々の生産量の実績
値」と「資材納入の実績値」の一覧を表示す
る機能を持つ。生産量実績の一覧表示画面の
イメージを図 6 に示す。また、生産量は常に
変動している。在庫として確保する量として
最適と考えられている量は、『1 週間分の生
産量に耐えられるだけの量』としている。生
図 4:工程別負荷を把握する画面イメージ
産実績値から 1 週間の生産量の平均を求め、
その値を最低在庫量として設定する、という
2.2
資材在庫管理システムの開発
共同研究先の企業では、多くの資材を抱え、
製品を生産する活動を行っているが、その資
材の在庫管理方法に対して頭を悩ませていた。
資材在庫は現場の作業者の熟練知と勘に頼っ
て管理されており、実際の在庫がどれだけあ
るのか数値で把握していなかった。在庫を確
処理を何度も繰り返すことによって、現在庫
量が膨大に増えてしまう、または欠品が発生
してしまうという事態を避けることが可能に
なる。そして、現在庫量の値に即した資材発
注を行うことが可能となる。図 7 に各週の実
績値と現在庫量の値が表示される画面イメー
ジを示す。
保するスペースは限られているため、在庫は
必要なものを生産に必要な量だけ確保したい。
また、得意先メーカからのますます厳しくな
る要求に応えるために、生産要求が増えつつ
ある品目の動向も調査しなければならない。
以上のような状況を踏まえ、下記に示す要
件を満たす資材在庫管理システムの開発を行
った。
日々の資材使用量を入力でき、現在庫量
が確認できる
図 6:実績履歴一覧画面のイメージ
在庫が最低在庫量を下回ったときに発注
指示が出力される
発注書が発行される
倉庫に最低でも確保されていなければいけない量
資材の納入管理を行える
在庫量
開発したシステムの初期画面イメージを図
【発注方式のモデル】
調達期間
発注点
5 に示す。
7日分
安全
在庫
発注
入庫
1週間
図 7:実績値と現在庫量の比較
2.3
受注出荷管理システムの開発
共同研究先の企業では、市販の生産管理ソ
フトウェアの導入を検討したところ、高価格
であるということで購入を断念せざるを得な
図 5:システムイメージ
かった。また、ソフトを導入したところで、
どの程度の作業の効率化が望めるのか、どの
くらい利益が増大するのか、などの「ソフト
がもたらす効果」が不透明であった、という
点も購入まで至らなかった理由の 1 つであっ
た。
注残が確認
できる
導入を考えたシステムに求めていた機能は、
主に製品の受注と出荷を管理する部分であっ
た。共同研究先企業で行っている業務のシス
テム分析を行ったところ、図 8 に示すような
図 10:受注入力の画面イメージ
作業の流れであった。
step1
受注
step2
受注入力
製番、部番
工程1
プレス
作業指示書の作成
工程2
外注
工程3
・・・
作業指示書
step3
納期、数量
step3.1
作業手配書の
発行が可能
外注受注
step3.2
外注受入
step4
製造進捗
step5
出荷確認
発注関係
• 外注
• 仕入
• 材料仕入
• 材料
図 11:作業手配書作成の画面イメージ
図 8:業務の作業フロー
作業日程をカ
レンダー表示で
確認できる
受注した製品を管理する/作業指示書を発
行する/外注へ発注書を発行する/納品書を
発行する/受注した製品の納期・個数を即座
に把握する、などといった作業を支援するシ
ステムの開発を行った。開発したシステムの
図 12:作業日程一覧の画面イメージ
初期画面イメージを図 9 に示す。このシステ
ムの機能を、図 10 から図 12 に示す。
3 システム開発結果
3 章で紹介した 3 事例のシステム開発以前
と以後での、業務の状態と情報の状態の変化
を以下に示す表1から表 3 にまとめた。
表 1:①のシステムの開発結果
システム開発
図 9:システム初期の画面イメージ
システム導入のために
企業が行ったこと
以前
着手後
業務の状態
工程別の負荷状況が
把握できなかった
負荷の把握が可能
各図番の工程情報マス
タを整理
情報の状態
複数の工程名称が
存在していた
工程名称が統一
工程名称の整理、日報
入力時のフォーマットの
徹底
表 2:②のシステムの開発結果
以前
システム開発
着手後
システム導入のために
企業が行ったこと
業務の状態
勘に頼るような発注作業
を行っていた
的確な指示により
発注作業が可能
管理者が作業日報をしっ
かりと管理する仕組みに
改善
情報の状態
実績がデータベース化
されていなかった
実績の蓄積
実績のデータベース化
管理する品物の情報整
理
ら利用して、例外処理は人間が行わざるを得
ない。結果として、システムは例外のない通
常処理だけを担当するに過ぎないという構図
になる。これでは、人間が前もって例外を処
理して、定常的な処理しか行えないシステム
の都合に合わせていることになり、手段であ
表 3:③のシステムの開発結果
システム開発
以前
着手後
システム導入のために
企業が行ったこと
業務の状態
Faxや電話で受けた注文を
紙の書類でまとめていて、
注残の把握が困難であった
注文に関する情報が
即座に把握可能
受注・出荷体制の把握
希望するシステム内容
についての整理
情報の状態
データベース化
されていなかった
実績の蓄積
実績のデータベース化
情報の整理
部品・製品・得意先・下
請け先・工程情報など
るべきはずのシステムが目的となっていると
いう本末転倒が起きている。発注作業の業務
で大切な機能は、むしろ日々変化する例外処
理への対応であり、この対応にコンピュータ
を活用することこそ、道具として、手段とし
てのコンピュータ利用になる。
4
生産管理システムの課題
日々の煩雑さが増してきた生産管理活動を
行っていく上で、煩雑な業務をこなしていく
生産管理システムは生産活動のための道
ためには、生産管理システムの助けが必要と
具・手段であって目的ではない、というのが
なり、その結果として生産管理システムの構
基本である。生産管理システムの目的は、生
築、そして機能範囲の拡大をしていかなけれ
産管理システムを稼動させることではなく、
ばならない。メンテナンスや機能拡張が自社
システムを用いて生産管理の効率を上げるこ
で行うことができる生産管理システムの構築
とである。この観点から現状の生産管理シス
に挑戦することが必要となってきている。
テムを見ると、生産管理業務にとってはなく
5
てはならないものではあるが、その利用によ
まとめ
って生産管理の精度やスピードをあげるとい
った観点での効率面で大きな貢献をしている
本報告書では、実際に開発した生産管理シ
だろうか。むしろそれどころか、生産管理業
ステム事例およびその効果を報告し、システ
務に必要な変更があるにもかかわらず、シス
ム開発の課題について述べた。
テム変更がままならないために、システムを
現在の生産管理の実態や、世界的に生産拠
だましながら使っているといった光景は珍し
点が拡大していく今後の変化の方向性を考え
くない。つまり、コンピュータを利用すると
ると、生産管理に関する多くの改善が今後も
きの基本姿勢であるべき、「コンピュータは
より一層必要になる。単に現在の生産管理方
仕事をする作業者にとっての道具である」が
式をシステム化し、生産活動のための道具で
変容して、いつの間にか逆の、コンピュータ
済ませようとすることは、生産管理の環境や
あるいはシステムが主役になり、作業者がコ
仕組みが変化している中では困難である。生
ンピュータに使われるという構図になってい
産管理の改善のためにシステムメンテナンス
る。この事例として、発注処理において度々
も同時に行っていくことが不可欠である。
発生するような例外処理への対応がある。例
えば、「新規品・特殊品」「特急・火急の製
参考文献と注釈
品」「新規客先」への対応などである。これ
らの例外処理には様々な形態があると同時に、
それらは日々変化する。これらすべての例外
処理への対処をシステム化しようとすると、
システム変更が日々必要になるが、システム
変更作業を随時行うことはできない。そのた
め、例外処理への対応は人手に頼ることにな
る。システムの持つ限定機能をごまかしなが
1) Access は、米国・Microsoft Corporation
の登録商標である
2) 片岡巌著:Access2000 表現百科 500、技術
評論社、2000
3) 津田眞吾著:データベースシステム開発、
毎日コミュニケーションズ、 2004
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