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ルワンダの歴史から未来を考えよう

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ルワンダの歴史から未来を考えよう
鳥谷部 絵美
ルワンダの歴史から未来を考えよう
鳥谷部 絵美
青森明の星中学・高等学校 教諭/地理歴史・公民
教 科
Ⅰ
世界史 B ( 2 時間)
対 象
高等学校 3 年 11名
実践の目的
本校は、全校をあげてグローバル教育に取り組んでいる。
「地球の日」と題し、グローバル社
会についてワークショップなどを通して、世界の状況・異文化について学び、共生・協働の力を
養う。また、高校生は 7 つの学問系統にわけたゼミナールに所属している。ゼミは、縦割り活動
で行われ、それぞれのテーマについて、自ら課題を設定し、情報を収集・分析し、問題解決に向
けた能力育成の取り組みを行っている。また、カトリックミッションスクールであるというとこ
ろから、日頃から聖書やボランティア活動を通して「平和とは」
「人のために何ができるか」と
いうことについて考えるきっかけが与えられている。
本実践を通して育みたい生徒像は次の二つである。一つは、
「平和な未来について主体的に考
える生徒を育成すること」
、二つ目は平和な未来を考える手段として「ルワンダのジェノサイド
を事例とし歴史的観点から考察する能力を育成すること」
、である。そのために、私自身がルワ
ンダで経験した事や調査・研究したことをもとに授業では、生徒自らが「ツチ族とフツ族の対立
からなぜジェノサイドが起こったのか」
、そして「どのようにしてその悲劇を乗り越え、ツチ・
フツ族がまとまったルワンダ人としての国家へと成長することができたのか」などについて、ル
ワンダの歴史的背景を理解し、資料の読み取りなどから考察・発表する授業展開が理想的で
ある。
世界史 B の授業では各国の歴史、文化について学習をしてきた。その中にも戦争・虐殺、弾
圧などの出来事が多くある。それぞれ異なる要因でおこっているが、これらを含め、各国の歴史
を学んだうえで、自らが平和を作る担い手であることを自覚し、これからの世界の平和な社会の
形成のためにどのような姿勢・態度で臨まなければならないのかを考え、実行に移すことができ
る人材を育てることが最終的な生徒の理想像である。
Ⅱ
授業の構成
時数
テーマ
内容
1 時間目 「ルワンダの歴史か
ルワンダの歴史的背景を略年表・資料から読み取り、なぜルワン
らジェノサイドを考
ダでジェノサイドがおこったのかについて、その理由を考察
えよう」
する。
― 80 ―
鳥谷部 絵美
時数
テーマ
2 時間目 「平和な未来を構築
するために」
内容
ジェノサイドの被害者・加害者が現在同じ国で一緒に生活してい
ることを踏まえ、ジェノサイド時の各立場からそこに至る過程で
どのような状況・思いがあったのかを考察する。なぜルワンダは
一つにまとまることができたのか。この事例を踏まえ、世界では
いまだに紛争や戦争が続いていることに着目し、平和な社会を構
Ⅲ
授業の詳細
……………………………………………………………………………………………………………………
(1)ルワンダの歴史からジェノサイドを考えよう ────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
ねらい:①ルワンダのジェノサイドを事例とし、歴史的観点から資料や略年表を活用し、考察し、
それをまとめて表現する能力を育成する。
教師の働きかけ
導入
生徒の反応
評価・留意点
1 .動画・写真をみて考え
よう。
・グループ活動
(1)動画をみて気付いたこ
[関心・意欲、技能・表現]
とをあげてみよう。
動画・写真からみたイメー
(動画:約 5 分)
・ポイント
①登場人物
②状況
③周辺の様子
・フツ族、ツチ族といってい
ジ・様子について考え、発
表することができる。
た
・一つの家にたくさんの人が
いた
・銃や刀を持った人がたくさ
これは「ホテルルワンダ」
という映画のワンシーンで
す。1994年に起きたジェノ
んうろうろしていた
・大統領が暗殺されたとラジ
オでながれた。
サイドという出来事を映画
・道端で人が倒れていた
にしたものです。
・襲われている人がいた
ここ ま で で 何 か 不 思 議 に
・なんでツチ・フツ族が対立 ・ワークシート配布
思った事・考えたことはあ
りませんか。
したのか。
・今も一緒の国に住んでいる
のか。
課題:なぜ一つの国に住む人々がお互いを殺しあってしまったのだろうか。
― 81 ―
中高一貫校
築するために、どのような姿勢・行動が必要なのかを提言する。
鳥谷部 絵美
教師の働きかけ
展開
生徒の反応
評価・留意点
2 .1994年にルワンダで起
きた出来事について確認
しましょう。
(1)ジェノサイドについて
説明
・ツチ族、フツ族が共存→
ドイツ・ベルギーによる
植民地支配
・独立後、フツ族が政権を
握ると、ツチ族を押さえ
つけるように
・1994年フツ族の大統領が
暗殺
・フツ族の過激派、政府軍
がツチ族を次々に殺害→
フツ族の一般市民もツチ
族を襲う
資料 1 ルワンダの歴史
(2)ルワンダの略年表・資
資料 2 ルワンダの略年表
料から、なぜジェノサイ
ドがおきたのかについ
て、そのきっかけや要因
となる歴史的背景・事象
をあげてみよう。
・グループ活動
・ポイント
①歴史的背景
②ツチ族とフツ族の待遇
③ルワンダでのツチ族と
フツ族の人口割合
④政権の変化
①ベルギー、ドイツの植民地 [思考・判断、技能・表現]
ジェノサイドについて、年
支配
①ベルリン会議でアフリカの
表や資料から、その要因や
文化・社会が無視される形
歴史的背景を理解し、発表
でヨーロッパによって分断
することができる。
されることが定められた。
②第二次世界大戦前、ツチ族
がフツ族を支配
②第二次世界大戦前、教育な
どでツチ族が優遇されてい
る
― 82 ―
鳥谷部 絵美
教師の働きかけ
生徒の反応
評価・留意点
②第二次世界大戦後、フツ族
の政権が成立して、ツチ族
が国外へ亡命
③ツチ14%、フツ85%、トゥ
ワ1%
中高一貫校
④ツチ族の政権から独立を境
にフツ族の政権へ移り変
わった
まとめ
3 .ジェノサイドの要因とは
[知識・理解、表現]
略 年 表・ 資 料 から読 み
本時の活動から、ジェノサ
取ったことをまとめよう。
イドの要因について自分の
考えをまとめ、発表するこ
とができる。
まとめ:ジェノサイドという悲劇は、①ドイツ・ベルギーによる植民地支配での統治システムから完全な人
種分断がおこってしまったこと、第二次世界大戦後、②民主主義の観点から政権が少数派のツチ族
から多数派のフツ族に移行したことによって支配者・被支配者の立場が逆転したこと、③1994年の
大統領暗殺からツチ族への不満が爆発してしまったこと、などが考えられる。
……………………………………………………………………………………………………………………
(2)平和な未来を構築するために ────────────────────────────────────────────
……………………………………………………………………………………………………………………
ねらい:①平和な未来について主体的に考える生徒を育成する。
②ジェノサイドの様子を資料から読み取り、平和を構築するためになにができるのかに
ついて考えることができる。
教師の働きかけ
導入
生徒の反応
評価・留意点
1 .写真をみて考えよう。
(1)この写真に写っている
二人の関係は?
・兄弟、親戚
・近所の人
・グループ活動
・ツチ族(被害者)とフツ族 [関心・意欲、技能・表現]
(加害者)
写真からみたイメージ・様
ジェノサイドで加害者と被
子について考え、発表する
害者になった人が隣り合わ
ことができる。
せで座っています。現在、
同じ地域で一緒に働き、暮
らしています。
― 83 ―
鳥谷部 絵美
教師の働きかけ
生徒の反応
評価・留意点
課題:ジェノサイド後のルワンダの事例から、平和を構築するために私たちが出来ること・身に付
けなければならないことはなんだろうか。
展開
2 .ジェノサイド後のルワ
ンダについて
(1)ジェノサイドは1994年
4 月から起こり、 7 月に
終わりました。この後、
ルワンダ人は被害者・加
害者が同じ国の中に混在
することになります。加
害者・被害者はそれぞれ
どのような気持ちだった
のでしょうか。
資料 3 ジェノサイド時の被
資料を読み、それぞれの立
害者・加害者の証言
場になって、その状況や感
じたこと・考えたことをグ
ループで話し合おう。
・被害者の立場
・殺した人を許せないと思う [技能・表現]
・「なんで私たちが…」と思
いそう
・加害者の立場
それぞれの立場の置かれた
状況から、ジェノサイドの
・何も考えられない
要因、その後の社会展望を
・フツ族を憎む
考えることができる。
・人を殺してしまったことは
後悔していると思う。
・ラジオからツチ族を殺せと
放送されていた。
・学校や会社で、ツチはゴキ
ブリだときかされてきた。
・やらないと、自分が殺され
ると思ったから殺したんだ
と思う
このような状況からお互い
が共存できる平和なルワン
ダを作るためにみんなは何
ができると思いますか。
― 84 ―
鳥谷部 絵美
教師の働きかけ
生徒の反応
・話し合う場を設ける
・ツチ族、フツ族が別々に暮
らす
・教育などで人種差別をなく
する
評価・留意点
[思考・表現]
自分の考えを理由をつけて
発表することができる。発
表することができる。
・REACH の活動
・ウムチョ・ムィーザ学園
まとめ
3 .平和構築にむけて
[知識・理解、表現]
今の世界は、宗教対立、各
本時の活動から、今の世界
国の思惑によって、テロや
の現状を踏まえ、これから
戦争 が 各 地 で お き て い ま
の未来にむけて平和な社会
す。被害をうけ苦しむのは、
を築くためになにができる
それまで普通に暮らしてい
のかを考え、文でまとめる
た人々です。お互いが対立
ことができる。
し、ジェノサイドが起きた
ルワンダでは、共存し子ど
もたちの未来のために平和
な社会を作ろうと努力して
います。平和な世界をつく
るためには、私たちはどの
ような姿勢・考えを持つべ
きでしょうか。
・色紙に漢字 1 字や単語で
書いてみよう。そしてそ ・発表する
の理由について発表しま
しょう。
まとめ:ルワンダではジェノサイドという悲劇を乗り越え、現在はジェノサイドの被害者と加害者が共存し、
平和な社会を作り上げる努力を続けている。世界の人々が協調し共存する持続可能な社会を構築す
るために、わたしたちはお互いの文化や社会、宗教を尊重し、認め合う姿勢を身に付け、協調関係
を築いていかなければならない。
・資料 1 後藤健二著、
『ルワンダの祈り-内戦を生きのびた家族の物語-』
、汐文社、P17~20
・資料 2 ルワンダの略年表
・資料 3 ジェノサイドの被害者・加害者の証言
― 85 ―
中高一貫校
・写真、スライド
(2)平和への取り組み
鳥谷部 絵美
〇授業の様子
動画を真剣に見ています。
資料・略年表を使って歴史的背景を考察中。
平和のために持つべき考え、すべき行動とは??
Ⅳ
実践の成果
生徒の感想(抜粋)
・この授業をうけて平和という基準や考えが難しいと思った。日本での平和の基準を他の国に
照らし合わせると、違った見方ができるのかなと思った。
・ジェノサイドという事実を受けとめ、私たちはどうしたら平和になれるかという一人一人の
思いを周囲へ発信していくことが大切だと感じました。
・一つの国のことから考え、それを現代の平和について考えるという総合的な思考力をもとめ
る授業を自分も将来教師になったらやってみたい。
・平和について考え、自分だけでなく、周りや過去、未来まで見ることでより平和な社会の必
要性や難しさを感じました。
本実践を通して、ルワンダで見聞してきたものを通して生徒に「平和な未来を作るために」
自らがどのような姿勢を持っていなければならないのか、について考えるきっかけを与えるこ
とができた。ルワンダを教えるのではなく、ルワンダの例から世界や自分の身近な生活へ焦点
を落としていくことで、ジェノサイドのような出来事は大きい・小さいはあるが、身近なとこ
ろでも起こりうることであるということを認識させたかった。そのときに、ルワンダの人たち
は和解→協働というプロセスで、一つの国民としてまとまって平和を構築するための様々な努
力を行っていることから、自分たちの生活に置き換えて、世界の平和、そして自分たちのより
良い未来のために何ができるのか、ということを考えることはとても大切なことだと考える。
― 86 ―
鳥谷部 絵美
Ⅴ
課 題
この授業を行うにあたっては、担当教科の強みもあり、教科の中で無理なく授業に取り入れ
ることができた。この授業の対象クラスは、少人数だったことから、グループ活動でも意見交
換がしやすかった。今後は、人数が多いクラスで実施するにあたって、よりスムーズに授業が
行えるように教師側のアプローチの仕方を考える必要がある。また、この授業案は、世界史
今回は、ジェノサイドに焦点をおいた授業だったが、ルワンダでは青年海外協力隊の活動や
日本の ODA の活用、ルワンダの環境・衣食住など、様々なことを見聞してきた。これらを無
理なく教科活動のなかに取り入れるために、自分自身がもっと成長していかなければならない
と感じた。また、ルワンダという国を取り上げるのではなく、ルワンダの事例から、より普遍
的な内容や自分たちの生活に目を向けられる授業をこれからも作り上げていきたい。今回の実
践が、これで終わるのではなく、より発展し長期的なものになるよう日々努力していきたい。
関連する学習指導要領の内容と文言
世界史 B
目標
世界の歴史の大きな枠踏みと展開を諸資料に基づき地理的条件や日本の歴史と関連付けながら
理解させ、文化の多様性・複合性と現代世界の特質を広い視野から考察させることによって、歴
史的思考力を培い、国際社会に主体的に生きる日本国民としての自覚と資質を養う。
(5)地球世界の到来
科学技術の発達や生産力の著しい発展を背景に、世界は地球規模で一体化し、二度の世界大戦
や冷戦を経て相互依存を一層強めたことを理解させる。また、今日の人類が直面する課題を歴史
的観点から考察させ、21世紀の世界について展望させる。
オ.資料を活用して探究する地球世界の課題
地球世界の課題に関する適切な主題を設定させ、歴史的観点から資料を活用して探究し、そ
の成果を論述したり討論したりするなどの活動を通して、資料を活用し表現する技能を習得さ
せるとともに、これからの世界と日本の在り方や世界の人々が協調し共存できる持続可能な社
会の実現について展望させる。
●出典・参考図書
(PHP 文庫)
・イマキュレー・イリバギザ、スティーヴ・アーウィン著、堤江美 訳『生かされて』
・後藤健二 著、
『ルワンダの祈り-内戦を生き延びた家族の物語-』
(汐文社)
・フィリップ・ゴーレイヴィッチ著、柳下毅一郎 訳『ジェノサイドの丘-ルワンダ虐殺の隠
された真実-』
(WAVE 出版)
・日本国外務省 HP ルワンダ共和国基礎データ(平成27年10月22日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/rwanda/index.html
― 87 ―
中高一貫校
A のなかでも取り扱うことが可能なので、世界史 A の授業でも実践していきたい。
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