...

重回帰モデルによるブラジャー着装シミュレーションとその評価

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

重回帰モデルによるブラジャー着装シミュレーションとその評価
重回帰モデルによる
ブラジャー着装シミュレーションとその評価
崔
童殷
中村
顕輔
黒川
隆夫
京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科*
Simulation of Brassiere-Wearing Figures
Using Multi-Regression Model and Its Evaluation
Choi Dong-Eun, Nakamura Kensuke and Kurokawa Takao
Graduate School of Science and Technology, Kyoto Institute of Technology*
Abstract:
This paper proposes a method of simulating breast shape modification according to wearing a brassiere.
For this purpose a three-dimensional (3D) human body shape model developed by one of the authors is used. The
model is made of a bi-cubic B-spline surface and its control points can describe a woman’s trunk shape by fitting it
to plenty of her body surface points. Corresponding control points among models have the same meaning in the
sense that they form the same region on the different women’s body surfaces. This feature enables us to compare
and analyze a local body shape using a subset of control points appropriately selected. 49 control points were
determined to analyze breast shape of any woman. 142 Japanese women aged 20s to 50s (brassiere size ranged
from A70 to E70) were measured by means of a 3D optical range finder before and after putting on a brassiere. And
we categorized the softness of their breast into three classes, “soft”, “medium”, “stiff”. The multiple regression
analysis established the relationship between the position of the control points before wearing a brassiere and that
while wearing it with a parameter of the softness. The best regression function among 15 ones was chosen for each
coordinate of every control points and was applied to simulation of breast shape wearing a brassiere based on the
position of the control points before putting on it. The results showed that it is possible to estimate the body shape
when wearing a brassiere. The same was confirmed based on average errors between actual breast shape and
simulated one.
Keywords: 3D body shape model, simulation of wearing a brassiere, multiple regression model.
1.緒言
衣服の着用形態は,素材,型紙及び着用する人体
の形状などにより種々のシルエットを形成する.体
形のシルエットや顔のような外的な因子は,心の内
面的な因子とともに「人の美しさ」を表すものとし
て評価される.特に,女性は美しい体形のシルエッ
トを表現する手段としてブラジャーやガードルなど
の補整下着を身に着けるが,これらの下着には,運
動機能性や着用時の快適性はもちろんのこと,フィ
ット性,そして「体形を美しく整える」,
「きれいに
見せる」という体形補整機能への要求が強く求めら
れている[1].以上の特性を満たすために消費者ひと
りひとりの好み,体形にあうデザインやその評価に
高精度の人体計測値が必要であり,人の体形に関す
る幅広い知識や情報も求められる.ブラジャーは購
入時に試着できることになっているが,商品の性格
上,短時間で多くの商品を試着することができず,
*
また,商品間の比較も難しいため,満足のいく購買
のできる消費者はあまり多くない.そのため,消費
者の好みや体形に柔軟に対応でき,自分の体形と対
象とするブラジャーの情報を入力すれば,試着しな
くてもシルエットや 3 次元形状を予測でき,また,
デザイン過程においては補整効果の確認や反復スタ
イリングに利用できるシステムの要求が高まってい
る.このような機能を実現するのが本稿で言うブラ
ジャーの着装シミュレーションである.
近年,上着に関しての着装シミュレーションは,
仮 想 空間 での 衣 服着 装モ デ ルの 構築 や アパ レル
CAD への応用を目的とした様々な手法が提案され
ている[2].しかし,上述のような支援システムの必
要性は高まっているものの,成人女性の乳房は,そ
の複雑な構造や様々な要因から乳房形状の挙動の予
測がつきにくく,現在のところ,ブラジャーの着装
シミュレーションやその評価に関する研究は非常に
少なく,しかも実用化には遠い[3][4].一方,筆者ら
606-8585 京都市左京区松ヶ崎御所海道町,Matsugasaki, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8585 Japan
E-mail: [email protected],Tell:+81-75-724-7472
は,衣服 CAD 用の高精度の 3 次元人体形状モデル
の構築やその応用法に関する研究を積み重ねてきた
[5].
本研究では,この 3 次元人体形状モデルを用いて,
ブラジャー着用前後の体形変化を分析するとともに,
その結果を利用して精度の高い着装シミュレーショ
ンを実現する方法を提案する.
2. 3次元人体モデル
2.1
3次元人体形状モデル
黒川らの人体 3 次元モデルは,円筒状の双3次 B
スプライン曲面を体幹部の体表データにフィッティ
ングすることで得られ,曲面の形状パラメータであ
る制御点を人体形状の記述に利用できる.モデリン
グ過程では,まず,体表データを図1に示すような
uv 平面にマッピングする[6].(u,v)は, B スプライン
であり,頚前点や腸棘点といった衣服工学的に重要
な人体の基準点 17 個と基準点から求まる個の補助
基準点 u,v に,どの女性についても一定値が与えら
れている.
0
曲面の周方向,高さ方向の制御点の数であり,人体
を平均 2time 以下の精度で記述できる値として本研
究では m=30, n=25 を用いる.式(1)は,周期スプラ
イイン(Vi1 = Vi,m+1 , Vi2 = Vi,m+2 ,Vi3 = Vi,m+3 )であるため,
750 の制御点によって任意の体幹部体形を表現でき
ることになる.また,B スプライン曲面は,局所性
を持ち,一部の制御点を変化させることによって影
響を受ける曲面形状は局所にとどまる.さらに,制
御点は,異なる被験者に対して同じ意味を持つ(例
えば,Vkl があるモデルで乳頭点に対応していれば,
他のモデルでも乳頭点に対応する.これら 2 つの性
質より,人体モデルを用いれば体幹部全体だけでは
なく,局所的な人体形状の分析が可能となる.本研
究では,この 3 次元人体形状モデルを用いて,ブラ
ジャー着装前後の乳房部制御点座標値の変化を分析
し,その結果を利用して着装シミュレーションを行
う.
1
0
v
(a)
(b)
Fig. 2 A set of control points (a) and reconstruction of a
3D body surface (b) using them.
1
0
Fig. 1
u
2.2
1
Normalized B-spline surface coordinate system
以上のように体表データと曲面座標(u,v)が対応づ
けられた周期的な(u=0 と u=1 で C2 連続性を持つ)双
3 次 B スプライン曲面
m+3 n
P (u , v) = ∑∑ N i,3 (u ) N j,3 (v )Vij
(1)
i =1 j =1
を被計測者の体表データに最小二乗フィッティング
することにより 3 次元形状モデルが得られる.ここ
で Np,3 は,台(定義域)が p によって規定される 3 次
の B スプライン基底関数である.Vij は,3次元の
位置ベクトルであり,これが前述の制御点に当たる.
制御点は,曲面形状を決定するパラメータであり,
図 2(a)の制御点集合を用いることによって体表形状
を図 2(b)のように再現できる.m と n は,それぞれ
人体形状モデルの姿勢補正
本研究では,人体体表座標を光学的非接触 3 次元
計測装置により,約 1.54 time ピッチで計測している.
この座標値の集合が体表データになる.ブラジャー
着用前後のように時間をおいて 2 回の計測を行う場
合には、両計測間で姿勢が異なり,ブラジャー着用
に伴う乳房形状の正確な変化を得ることが困難であ
る.そこで,モデルを 3 次元空間における回転によ
って以下のように補正した.
まず,図 3 に示すように,モデルの xyz 座標軸の
方向を設定した.そして 3 次元人体形状モデルの姿
勢補正を行うために、計測時に得られる体表上の基
準点の中から姿勢補正指標になる点として左右肩峰
点 PL1 ,PR1 左右腸棘点 PL2,PR2 と第七頚椎点
P3 の 5 個を選んだ.次に,3 種類の回転補整を施
した.
〃
〃
4
時とブラジャー着用時のいずれに対しても適用し,
各モデルについて 3 次元空間における原点 O を求め
た(図 3).
3. ブラジャー着装による乳房形状変化の
分析
6
〃
Fig. 3
〃
Posture calibration of a 3D body shape model.
(a) 平面内の回転補正
左右肩峰点 PL1 ,PR1 を結んだ直線が x 軸に平
行になるように,つまり,PL1 ,PR1 およびそれら
の中点 O1 の z 値が同じ値となるようにモデルを回
転させる.
(b) 側方への傾斜補正
人体が左右いずれかに傾いている場合は,左右肩
峰点の中点 O1 と 左右腸棘点の中点 O2 を結ぶ線分
O1O2 が正面から見て垂直,すなわち,y 軸と平行に
なるように xy 平面内でモデルを回転させる.
(c) 前後方向の傾斜補正
前後の姿勢の傾きは,基準がないために補正は難
しい.本研究では,直線 O1O2 に注目し,yz 面におけ
るブラジャー着用時の O1O2 の傾斜角がブラジャー
着用前(裸体)の角度に一致するように着用時のモ
デルを回転させる.
2.3
座標原点の再定義
計測時に決定される人体形状モデルの原点は,必
ずしも体軸上にはない.また,身長の高低によって
乳房部の y 座標には大きい差が生じる.従って,乳
房部形状のみに限定して分析を行う場合には,正中
面内かつ乳房の近傍に座標原点を配置することが望
ましい.本研究では,左右肩峰点の中点が正中面に
あるものと仮定し、その点を xz 座標の原点に定めた.
一方,y 座標の原点には決め手となる基準点が存在
しないので基準点を利用して 2 次元に y 軸の原点を
定めることにした.
(財)人間生活工学研究センター
が 1992 年から 1993 年の間に計測した多数の日
本人の統計的データによれば[6],乳頭点の高さは,
第七頚椎点高から腸棘点高に至る垂直線分を上から
4:6 に内分した位置の付近にある.そこで,本研究
では,第七頚椎点 P3 と左右腸棘点の中点 O2 を結ぶ
線分を上から 4:6 に内分する点の高さを y 軸の原点
に採用することにした.xyz 座標系の再定義を,裸体
ブラジャー着用により形状が変化する領域は, 体
表全体に及ぶのではなく,乳房部を中心とする比較
的狭い範囲に限定される.3 次元体形モデル上のこ
の領域は少数個の制御点の組によって形状が記述で
きると期待される.この限定された範囲の制御点を
用いてブラジャー着用前後の乳房部の形状の変化を
分析する.
3.1
乳房部の制御点の抽出
式(1)の 3 次基底関数 Nk,3 は 4 個のセグメントから
なっており,
連続する基底関数 Nl,3 (l=k, k+1, k+2, k+3)
は,1 セグメントの定義域を共有する.このため,3
次元 B スプラインは,1 個の制御点座標が変化する
と,曲面形状への影響は,u,v 各方向の 4 セグメン
トに及ぶが,それより遠方の曲面には影響をしない
という局所性質をもつことは 2.1 で触れたとおりで
ある.双 3 次 B スプラインの場合は縦横に基底関数
が配列しているので,特定の制御点の変化は 16 セグ
メントに及ぶことになる.従って乳房の形状を決定
する制御点は乳房部だけではなく,その周辺にまで
分布する.
被計測者の 3 次元人体形状モデルを画面上に表示
し,乳房部とその周辺の制御点を順に 1 個ずつ選ん
で,その座標値を大きく変化させ,乳房形状が影響
を受けるか否かを視覚的に判定した.この方法を多
数の被計測者のモデルに適応して,右側の乳房部の
形状を決める制御点を探索した結果,図 4 に示す 7
×7=49 点が得られた.
Fig. 4 An example of distribution of the 49 breast
control points.
よって,体幹部の 750 の制御点から,これらの制
御点を抽出すれば,ブラジャー未着用の乳房形状か
ら着用時の形状への変化を分析することが可能であ
る[7][8].
以下では,得られた 49 の制御点の位置を右上から
左下にかけて順に i (i=1,…,49)と付番して表現する.
そして,着用前のモデルの乳房部制御点の位置を V'i
(xi, yi, zi),また,着用時の制御点位置を V'i (x'i , y'i,, z'i )
で表すことにする.
3.2
分析対象および計測法
本研究では,分析の対象として,正面から見てアン
ダーバスト点が乳房に隠されない,いわゆる下垂し
ていない乳房を選んだ.まず,20 代から 50 代まで
の日本人女性 142 名に市販用の同一タイプのワコー
ル製フルカップブラジャーを着用させた.その際,
フィッターがマルチン計測法によりブラジャーのカ
ップサイズ(A70∼E70)を判定し,ブラジャーを
正しい位置にフィットさせた.図 5 に,被験者らに
着用させたフルカップブラジャーを示す.また,乳
房の柔らかさについての情報を得るために、専門家
の触察により 3 段階の評価(1:柔らかい,2:普通,
3:固い)を 5 回行い,その平均値 S を求めて,被験
者の乳房の柔らかさ指標とした.
て左右合計 284 個の乳房を「Ⅰ:柔らかい(1≦S≦
1+2/3)
」
,
「Ⅱ:普通(1+2/3<S≦1+4/3)
」
,「Ⅲ:かた
い(1+2/3<S≦3)」の 3 つのクラスに分類し,このう
ち分析にはランダムに選んだ 258 個の乳房を用い,
残りの 26 個は,シミュレーション結果の評価に利用
した(表 1).
Table 1
Number of breasts for analysis and simulation
Softness of Breasts
Ⅰ:Soft
Ⅱ:Medium
Ⅲ:Stiff
114(10)
116(12)
28(4)
Summation
258 (26)
Numbers in the parentheses those of breasts used for simulation
3.3
着装に伴う体形変化の重回帰モデル
ブラジャーの着装シミュレーションを行うために,
ブラジャー着用前後の乳房部制御点の座標値変化を
重回帰モデルで記述する.ある制御点 Vi の着用前の
座標値の一つを( ci ∈ {xi , yi , zi },i =1, …,49),ci
の集合を c , 着用後の同じ制御点の座標値を c'i とす
る場合,回帰モデルを一般に,
c'i =f1(c)
ci ⊂{x1,…, x49, y1,…, y49, z1,…, z49 }
(2)
で表す.式(2)で説明変数が多いのは,着用時のモデ
ルの制御点は,着用前のモデルの同じ制御点座標と
その周辺の制御点座標により決定されると考えられ
るからである.k は,回帰関数の型を示し,本研究
では,f1 から f15 の 15 種類の回帰関数を導入する.
f1 から f15 は,項の数が増える順に並べたもので,こ
れらには,線形関数及び非線形関数が含まれる.非
すべて ci と
線形回帰式は,
二乗と平方根の項をもつ.
同じ着用前の制御点座標とその周辺の制御点座標を
説明変数として持つ関数である.f1 は,最も単純な
回帰関数で,
c'i =f1(c) = a0+a1ci
Fig. 5
(3)
A full-cup brassiere used for measurement.
で与えられる.また,
筆者らの着装シミュレーションの手法は、まず,
着用前の制御点位置と着用時の制御点位置の関係を
重回帰分析し,相関係数の大きい非線形回帰式を探
索して,その結果をシミュレーションに用いるとい
うものである.これまでの結果により,たとえ乳房
サイズが同程度であっても,よい回帰関数が得にく
かった[7][8].この理由が乳房ごとの柔らかさの差に
あると考え,分析とシミュレーションに乳房の柔ら
かさに関する情報を導入する必要があることを示唆
[8]した.
そこで,筆者らは,乳房の柔らかさ指標に基づい
1/2
1/2
1/2
f15=a0+a1xci +a2xci1 +a3xci2
1/2
1/2
1/2
+ a4xci3 + a5xci4 +…+ a15zci4
(4)
これらの回帰関数を用いて乳房部分の制御点の計
49×3 の(x, y, z)座標値を分析し,得られた式の中
で,相関係数が 0.90 を超え,しかも項の数が少ない
関数を各制御点ごとに探索する.なお,相関係数が
0.90 に達しない場合は項数が一番多い式,すなわち,
相関係数が最大の式を採用することにした.
3.4
重回帰分析の結果
表 1 の「乳房の柔らかさ」のクラスタごとに 3.3
で述べた回帰分析を f1,f2,…,f15 順に行い,相関係数が
0.90 となった回帰関数を着用前の体形と着用後の体
形の関係を表すものとして採用した.図 6 は,49 制
御点について相関係数の分布を上から(a)柔らかい,
(b)普通,(c)固い順で,また,右から x,y,z 座標の
順に図化したものである.
その結果,3 つのクラスについて高い相関係数を
もつ回帰式が得られたが,座標間で比較すると x 座
標値が y と z 座標値に比べ,相関係数がやや低いこ
とが分かる.また,全体の傾向として乳房が固くな
るにつれて相関係数が高くなることが分かった.
法を評価するために,表 1 の各クラスについてラン
ダムに選んだ.分析およびシミュレーションのため
の人体モデルの組み合わせを 5 種類用いて,重回帰
分析による最良回帰式の選択とそれによるシミュレ
ーションを反復した.得られたシミュレーション結
果から 3 例を図 7 に示す.
Ⅰ:Soft
i=1 2 3 4 5 6 7
(a)Soft
N=114
49
(b)Medium
N=116
(c)Stiff
N=28
x
0.601~0.700
y
0.701~0.800
Ⅱ:Medium
z
0.801~0.900
0.901~1.000
Fig. 6 Maximal correlation coefficients for x,y and z
coordinates at the 49 control points
4. ブラジャー着装シミュレーション
4.1
シミュレーション手法と結果
3.3 で述べた回帰分析によって求められた最良な
回帰式を, シミュレーション用に取っておいた 26 個
の乳房に適用し,乳房の裸体時の制御点がブラジャ
ー着用によってどのように変化するかを予測する着
装シミュレーションを行った.手法としては,被計
測者の裸体時の右側と左側(座標変換により右側と
して取り扱い)の乳房を個々にシミュレーションし、
得られた乳房の(左側乳房は座標変換で左側に戻し
た後)制御点座標を裸体時のものと交換することに
より,体幹部全体を表示できるようにした.分析と
シミュレーションに用いるモデルは,乱数に基づい
てランダムに選択した.以上のシミュレーション手
Ⅲ:Stiff
Naked
Simulated
Wearing
Fig. 7 Results of simulation of wearing a brassiere
上から順に「柔らかい」
,
「普通」
,および「固い」
クラスのもので,また左側から順に裸体時のモデル,
着装シミュレーションの結果モデル,そして同じ被
験者がブラジャーを着用した時のモデルである.
着用後のモデルと着装シミュレーションの結果の違
いが小さいほど良いシミュレーションであると評価
できる.図 7 に示した被験者らの場合は,着用後の
モデルとシミュレーションの結果が見た目に非常に
よく似ている.特に,ブラジャーを着用した時のバ
ストアップ効果と前方向の乳房突出の効果がシミュ
レーション結果に再現されていることが見て取れる.
これらの結果を含め,すべての乳房を一括して扱っ
た場合[7][8]に比べて,乳房の柔らかさにより分類し
て最良の回帰式を求めると,実際にブラジャーを着
用した形状をかなりの程度,推定可能なことが判明
した.
4.2
着装シミュレーション結果の評価
[0.1time]
0
-2000
-1000
-500
500
-1000
0
-1500
-1000
-500
-1500
500
-1000
1000
-1500
-2000
-500
0
-2000
-1000
0
1000
-500
500
-1000
0
1000
2000
-1500
0
-500
(a)Side silhouette
Side
silhouette
Horizontal
silhouette
50
60
20
5.121
6.055
6.600
4.674
5.339
5.805
分析に用いた乳房個数の少なかった「固い」乳房で
誤差が最大となった.サンプル数が増えれば,この
値は少なくなると期待できる.なお,図 8 で分かる
ように,誤差が大きく現れている箇所は z 座標値が
急激に変化している部分にあり,シルエット間の差
は数値程には目立たない.乳房の形状,位置,サイ
ズは多様であり,同じ回帰関数で平均 6time 程度の
誤差でブラジャー着装形状が推定できたことは,乳
房の柔らかさに応じて異なる回帰関数を探索したこ
との効果の現れと考えられる.
2000
0
-500
N
Ⅱ:“Medium” Ⅲ:“Stiff”
5.結言
0
-500
1500
-1000
measured
0
-1000
0
-1500
I:“Soft”
simulated
1000
-500
2000
-2000
-2000
-1000
1000
0
-500
1500
-1500
0
1000
Table 2 Average estimation error E for the three classes
of breast softness
E [㎜]
シミュレーション手法の評価を定量的に行うため
に,ブラジャー着用時の実測値とシミュレーション
結果より乳頭点を通る垂直断面と水平断面,すなわ
ち胸部の側面および水平面シルエットを求め,両者
の誤差を算出した.
1500
図 8 は, 柔らかさの 3 クラスから 1 例ずつを選び,
シルエット上の誤差評価点(●:実測値,×:シミ
ュレーション)を示したもので,上から順に「柔ら
かい」,「普通」,「固い」クラスに対応する.側面お
よび水平面の評価点数はそれぞれ 15 点と 30 である.
各点で z 座標の差を求め,別に平均した値を誤差と
定義した.そして, 4.1 で述べたランダム選択ごとに
誤差を求め,クラス別の平均誤差 E を求めた.その
結果を表 2 に示す.
-2000
(b)Harizontal silhouette
Fig. 8 Comparison of breast silhouettes between brassiere
wearing bodies ( ● ) and simulated brassiere-wearing ( × )
bodies.
人体 3 次元形状モデルによって体形を表現し,そ
のうち乳房部形状を決定する 49 の制御点を利用し
てブラジャー着用によって乳房部の形状がどのよう
に変化するかを予測する方法を提案した.このため
に,乳房の「柔らかさ」情報によって乳房を「柔らか
い」,
「普通」
,
「固い」の 3 つのクラスに分類して着
用前後の体形の変化を回帰分析し,相関係数の大き
い回帰関数を得た.この手法を分析に使用していな
い任意の乳房に適用してブラジャー着装シミュレー
ションを行ったところ,視覚的判断及び数値的な評
価において非常によいシミュレーション結果が得ら
れた.これらの手法は,ガードルなどの補正下着に
も適用可能であると考えている.
本法の利点は,シミュレーション結果がすでにブ
ラジャー形態や厚みを織り込み済みであることであ
る.従って,シミュレーション結果の体表にブラジ
ャーの画像をマッピングすれば,デザイン過程で,
あるいは店頭で顧客に提示可能な状態になる.画像
マッピング手法は現在開発中である.
本研究は,(株)ワコール人間科学研究所と共同で
行われたものである.本報告の計測は,すべてワコ
ールにおいて実施した.
参考文献
[1] Choi, D.-E., Kurokawa, Takao; A study on kansei of
Japanese and South Korean women regarding
brassieres, Proc. 6th Asian Design International
Conference, G-20, CD-ROM(2003)
[2] 平松治也;三次元着装シミュレーションシステ
ムの開発及び活用の現状, 繊維機械学会誌,Vol.
54, No. 12,pp. 23-26 (2001)
[3] 黒川隆夫,篠崎彰大,身体形状の記述とシミュレ
ーション,シミュレーション Vol. 13, pp. 10-19
(1994)
[4] 山田英司,岡本史生,黒川隆夫,岸本泰蔵,篠
崎彰大;バネを用いた人体軟組織のモデリングと
外力による変形のシミュレーション,京都工芸繊
維大学地域共同研究センター研究成果報告書,No.
6,pp. 23-26(1997)
[5] 黒川隆夫;身体形状の計測・記述とその応用,
計測と制御 Vol. 32, No. 2, pp. 77-83(1997)
[6] 人間生活工学研究センター;日本人の人体計測
データ(1997)
[7] 姜 治麗,崔 童殷,黒川隆夫;着用前後の人体
形状パラメータの回帰分析に基づくブラジャーの
着装シミュレーション,ヒューマンインタフェー
ス学会第6回ノンバーバルインタフェース研究会
論文集,pp. 25-32 (2002)
[8] Choi,Dong-Eun., Jiang Z., Kurokawa, Takao; A
method of simulating brassiere-wearing figures
using shape variability of a three-dimensional human
body model, Proc. 15th Triennial Congress of the
International Ergonomics Association, PD-06-4,
CD-ROM (2003)
Fly UP