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わが社の新製品、新技術の紹介/シリーズ4:コマツ産機

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わが社の新製品、新技術の紹介/シリーズ4:コマツ産機
2014 年 11 月
「わが社の新製品、新技術の紹介/シリーズ4:コマツ産機」
わが社の新技術・新製品 紹介
プラズマ切断における磁気吹きの抑制
㈱コマツ産機
山口義博
1. はじめに
コマツ産機は、1989 年に高精度プラズマ
切断機:ファインプラズマシリーズを商品化
して以来、現在まで 25 年間、一貫してプラズ
マ切断の高精度化に取り組んできました。
2000 年にファインプラズマをフルモデルチ
ェンジしたツイスターシリーズの販売を開始
し、全国厚板シヤリング工業会の会員の皆様
図1
※
の事業所でも、多数のツイスター加工機をお
ツイスター大型機:TFPL
機械工業デザイン賞受賞機(2010 年
日刊工業新聞)
使いいただいております。今回は、コマツ産機がプラズマ切断機改良のために行ってきた
研究のうち、厚板鋼板のプラズマ切断における技術課題の一つ磁気吹きに関し、その発生
メカニズムや抑制方法を明らかにするための研究について紹介いたします。
貴重な紙面を頂きましたので、現場でも使える磁気吹き対策の知見を得て頂けるように、
少し技術的な説明で小難しいところはご容赦いただき、ご一読頂ければ幸いです。
2. プラズマ切断における『磁気吹き』とは
全国厚板シヤリング工業組合と溶接協会との共催で、毎年の熱切断(ガス切断・プラズ
マ切断・レーザ切断)に関する講習会を行っています。その際にプラズマ切断の講習会で、
受講者の方から『プラズマ切断で磁気吹きが起きて困っているので対策方法を教えてほし
い』との質問がよく出てきます。ま
た、溶接協会の熱切断に関する専門
部会:溶断小委員会で、熱切断の課
題に関してアンケートをとると、そ
こでもプラズマ切断の磁気吹き抑制
が、複数のプラズマ切断機保有ユー
ザから切断機メーカへの要望事項と
して出てきます。
磁気をおびた鋼板をプラズマ切断
すると、図2に示すように、切断面
の湾曲や傾き(ベベル角)が大きく
図2
磁気吹きによる切断面の不良
1
全国厚板シヤリング工業組合
2014 年 11 月
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なったり、ピット(溝)の発生により切断面の粗さが劣化する不良が発生します。また、
トーチ消耗部品であるノズルや電極が早期に損耗する不具合が発生することもあります。
状況によっては、これまで切断出来ていたものが、溶融金属が切断溝後方から吹き上がり
切断できなくなることもあります。これらの現象を磁気吹き(magnetic arc brow)と呼ん
でいます。磁気吹きは、軟鋼よりもニッケルやコバルトを合金元素として含む高張力鋼等
の高級鋼で起き易く、原板から、比較的 大物部材を切り出す際に起き易く、小物切断では
めったに起きないこと、および原板の端部ではなく中央部、切断線の途中ではなくコーナ
部や終端で起きやすいことが知られています。
これまでは、「鋼板がなぜ磁化するのか」、「磁気吹きがなぜ起きるのか」、磁気吹きのメ
カニズムが良く分かっておらず、磁気吹きを事前に予見することは出来ていません。現状、
磁気吹きの発生は、切断不良が起きて始めて分かる状況です。また、磁気吹きの現場対応
として、プラズマ切断の切断速度を遅くしたり切断電流を減少させたりすることで、磁気
吹きが起きにくくなることが知られています。しかし、これらの方法では生産性や切断性
能の低下が避けられません。磁気吹きによる切断面不良は、後工程の溶接で肉盛りしてグ
ラインダで切断面を補修します。また、溶接補修が認められていない切断で、磁気吹きの
発生が懸念される場合、生産性を犠牲にしてガス切断で対応することもあるようです。
磁気吹きが起きると、上述のように生産性の低下や修復のための切断後のエキストラコ
ストが発生する等、プラズマ切断の大きな課題となっています。コマツ産機では、その磁
気吹きによる切断トラブルを解消するための研究に取り組んできました。
3. 『磁気吹き』のメカニズム
3.1 アーク溶接における磁気吹き
プラズマ切断での磁気吹きについて説明する前に、ア
ーク溶接での磁気吹きについて説明します。鋼板の端部
を溶接する際に、磁気吹きが起きると図3に示したよう
に溶接アークが風に吹かれたように偏向し、溶接ビード
の不良やアーク切れが発生したりして溶接作業が妨げら
れます。磁気吹きは、電流と磁界の相互作用:ローレン
ツ力によって起きることが分かっています。ローレンツ
図3
アーク溶接の磁気吹き
力とは図4に示すように磁場を横切るように
導体を配置して、それに電流が流れると、導
体に電流と磁界のそれぞれに直角方向に働く
力です。
『フレミング左手の法則』として、モ
ータが動く原理として中学や高校の理科で習
われたものです。
アークには導体と同じように溶接電流が流れ
図4
導体に作用する力:フレミング左手の法則
2
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ており、溶接アークは炎のようなガス体ですから、わずかな力で動きます。それが磁気吹
きの原因です。
溶接における磁気吹きを抑制する方法としては、図5に示すように、溶接電流の経路が
左右対称になるように母材の電流経路を変更し、溶接アークに作用する磁界が左右で打ち
消すようにすることで、磁気吹きを抑制することが可能です。
図5
アーク溶接の磁気吹き抑制方法:母材電流経路の変更
3.2 プラズマ切断における磁気吹き
プラズマ切断における磁気吹きも、アーク溶接と同じような電流と磁界の相互作用によ
り発生する力:ローレンツ力による現象です。ただし、溶接アークの場合は、電流が母材
(被溶接材)を流れることで発生する磁界の影響ですが、プラズマ切断では図6に示すよ
うに、磁気を帯びたワーク(被切断材)を切断する場合に、その残留磁気による磁力線が
切断の進行とともに切断前面に集中することで、切断前面で磁力線の密度(磁束密度)が
高まり、それが鋼板表面に漏出して漏れ磁束となります。その漏れ磁束がトーチ先端から
噴出するアークプラズマに作用して、アークを偏向させたり、ダブルアークと呼ばれる異
常放電を起こしてノズルや電極にダメージを与えます。
図6プラズマ切断における磁気吹き:磁力線の集中による
3
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鋼板が磁気をおびる(磁化と呼びます)理由は、よく分かっていませんが、鋼板を搬送
するためのマグネットリフタによる磁化、あるいはプラズマ切断を実施した際に鋼板中を
流れる母材電流による誘導磁界による磁化が要因として考えられます。磁気吹きが、軟鋼
では起き難くニッケルやコバルトを含む高級鋼で起易い理由は、これらの合金元素は永久
磁石を作る材料であり、これらの元素が鋼に含まれると磁化し易くなるためです。
磁気吹きは、鋼板中の磁力線によって起きるわけではなく、切断溝から表面に出てきた
漏れ磁束によって起きます。磁力線は電流と同じように、空気中よりも数千倍、金属内を
流れやすいため、通常は鋼板表面には出てきませんが、切断の進行とともに磁力線は切断
溝を迂回するように切断前面に集中し、磁束密度が高まると漏れ磁束となり磁気吹きを誘
発します。磁気吹きが原板の中央部や大物切断の際に起き易く、そのコーナや切断終端部
で起きるのは、それらの箇所では切断溝
がより多くの磁力線を横切り、切断前面
の磁束密度が高くなり易いためです。
また、磁化の程度が小さく鋼板内の磁
力線が少なければ磁気吹きが起きないわ
けではなく、原板が大きく大物切断の場
合には、切断溝は、やはり多くの磁力線
磁界無し:正常放電
磁界有り:異常放電(ダブルアーク)
を遮ることになり磁気吹きが起きること
図7a
があります。
ダブルアーク発生の状況
磁気吹きによりプラズマアークが曲が
ることで、切断面が湾曲したり、ベベル
角が大きくなる切断面不良だけでなく、
トーチ消耗品(ノズル、電極)がダメー
ジを受けて、高価な消耗品を頻繁に交換
しなければならなくなります。プラズマ
アークは通常、ノズル内壁面に直接触れ
磁界無し:正常放電
図7b
磁界有り:異常放電(ダブルアーク)
ダブルアーク発生のメカニズム
ていません。プラズマアークとノズル内
壁面の間には冷たいガス流の層(ガス絶縁層)があり、アークからノズルへの電気と熱を
遮っています。図7に示すように、漏れ磁束はノズル内部のプラズマアークに到達すると、
ローレンツ力によりアークが横に押されガス絶縁層が破れノズルに直接接触することで、
メインアーク(主アーク)とは別にノズルからもアークが発生します。この異常放電はア
ークが2経路に分かれることからダブルアークと呼ばれており、ノズルや電極が短時間で
ダメージを受けて使用できない状況になります。
4. 『磁気吹き』の抑制方法
4.1 切断条件(切断諸元)の変更による磁気吹きの抑制
4
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2014 年 11 月
切断条件を変更することで、プラズマ切断での磁気吹きを抑制することができます。
図8は、コマツ産機が販売するプラズマ切断機:ツイスター(機種名:TFP3051、最大電流:
150A、ノズル径:φ1.6 ㎜)において、磁気吹きが発生する漏れ磁束と切断電流値とメイン
ガス流量の関係を調べた結果です。
図8より、標準条件である切断電流 150 A、ガス流量 15 ℓ/min では 50 mT(500 ガウス)で
磁気吹きが発生します。標準条件から切断電流を 100 A に低減するか、ガス流量を 25 ℓ/min
に増加すると磁気吹きがおきる磁束密度は 100 mT(1000 ガウス)まで増大します。つまり、
磁気吹きが起き難くなります。以上より、切断電流の減少あるいはガス流量の増加が、磁
気吹き抑制に有効であることが分かります。
切断電流低減とガス流量増加が、磁気吹き抑制に有効な理由は、電流が小さくなるとプ
ラズマアークを曲げようとするローレンツ力が小さくなり、ガス流量増加はプラズマアー
クがノズル内壁面に直接触れない様にしているガス絶縁層が強化されダブルアークが起き
難くなるためであると考えられます。ただし、この方法では最良の切断性能が得られる標
準条件から外れるため磁気吹き抑制のトレードオフとして、電流低下による切断速度の低
下やガス流量増大による切断品質低下が起き、生産性や切断品質が犠牲になります。
4.2 磁気シールドキャップによる磁気吹きの抑制
コマツ産機では、切断性能を犠牲にする電流低減やガス流量増加に依る磁気吹き抑制方
法ではなく、プラズマトーチの先端を強磁性
体の磁気シールドキャップで覆うこと(特許
出願中)により、切断性能を維持して、磁気
吹きを抑制することに成功しました。
強磁性体とは、磁力線を通しやすい性質を
持つ材料のことで、簡単に述べると磁石に吸
着されるもので、通常の鉄やコバルト、ニッ
図9
磁気シールドキャップ(特許出願中)
5
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ケルやそれらの合金やフェライトが強磁性体となります。図9に示すように強磁性体製の
キャップは、鋼板表面から漏れ出た磁力線を優先的に取り込むことで、キャップの内側、
ノズルやプラズマアークの近傍へ到達する磁力線を遮蔽し低減することが出来ます。
図10
磁気シールドキャップによる磁気吹きの抑制効果
図10に示すように、磁気シールドキャップを装着することで、磁気吹きによるダブル
アークは完全に防止できており、ダブルアークによるピット:面粗さの劣化は防止できま
す。切断面の湾曲についても、切断品質として許容できる出来る程度まで改善できます。
5. 高性能プラズマ切断機:ツイスターBlade
これまで述べてきたように、プラズマ切断の技術課題の一つであった磁気吹きについて、
コマツ産機が進めてきたプラズマの研究開発の成果により、磁気シールドキャップを考案
し、磁気吹きによる切断不良を心配することなく切断作業を行えるようになりました。
磁気シールドキャップを装備可能な、厚板高速切断用の酸素プラズマ切断機:ツイスター
Blade について紹介いたします。
主要仕様
3 0 kW シリーズ
1 0 0 kW シリーズ
ツイス ター電源定格出力
ツイス ター電源定格使用率
kW
TFP L1 0 8 * TFP L1 0 1 * TFP L3 0 8 * TFP L3 0 1 *
30
100
%
100
最大切断板厚 ( 軟鋼 SS)
mm
50
25
( ス テンレ ス SU S)
mm
30
20
( アルミ A L)
mm
15
15
最大ピアシング板厚( 軟鋼)
mm
50
25
最大加工寸法 X 軸
mm
Y 軸
mm
ス ト ローク X 軸
mm
Y 軸
mm
6 2 0 0 ,1 2 3 0 0 ,1 5 0 0 0 ,2 0 0 0 0 ,2 7 0 0 0
2500
3100
2500
2600
3200
2600
Z軸
mm
240
早送り速度 X 軸
m/ min
20
Y 軸
m/ min
40
Z軸
m/ min
20
駆動方式 X ,Y 軸
3100
6 2 0 0 ,1 2 3 0 0 ,1 5 0 0 0 ,2 0 0 0 0 ,2 7 0 0 0
3200
ラッ ク・ ピニオ ン+ リニアガ イド
Z 軸
ホ ゙ ール ス クリュ + リニアガ イド
位置決め精度
mm
±0 .1
繰返し精度
mm
±0 .0 5
最少設定単位
mm
0 .0 0 1
図11 ツイスターBlade : 厚板高速切断用の世界最高出力の酸素プラズマ
6
全国厚板シヤリング工業組合
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5.1
2014 年 11 月
消耗品長寿命化技術により世界最高出力の酸素プラズマ切断を実現
コマツ産機のプラズマ研究において、最も力をいれてきたのは消耗品の長寿命化です。
プラズマ切断ではトーチ内部の電極とノズルが消耗品であり、切断条件によって数百回か
ら2千回程度の切断で交換が必要となります。出力電流が大きくなるに従って消耗品寿命
は極端に短くなります。消耗品の交換コストは、ランニングコストの半分程度を占めるだ
けでなく、消耗品寿命が実用的な切断電流の最大値を制限することになるので、消耗品長
寿命化は切断コスト削減と高出
力化の必須条件であり、プラズ
マ切断における“キー技術”で
す。ツイスターBlade では、コ
マツのこれまでの研究成果によ
る消耗品長寿命化技術を結集し、
酸素プラズマとしては世界最高
図12 軟鋼50mm 切断サンプル 切断速度 1000 ㎜/分
出力となる 525A での安定切断を達成しました。
ツイスターBlade は、最高切断可能板厚は 50 ㎜で、その切断速度は 1000 ㎜/分でガス切
断の 4 倍程度になります。6 ㎜から 50 ㎜までの中厚板から厚板にかけて、高能率で低コス
トのプラズマ切断が可能となり、溶断業における収益改善の戦力となります。
5.2
TFPL:コマツオリジナル
高剛性片持ち構造
ツイスターTFPL シリーズは、コマツオリジナルの片持ち構造となっています。TFPL をご
覧になられたユーザ様から、よく『片持ち構造で、すぐにガタがきて切断精度が悪くなる
のでは?』とご質問(ご心配?)のコメントを頂きます。この片持ち構造は、機械設計と
して理にかなったものになっています。つまり、加工機全体の重心位置に高トルクのモー
タを配置することで、高速で安定したマシンモーションを実現できます。X軸方向には工
作機械で使用するリニアガイドを用いることで、長期間(5 年程度)、駆動系の調整や交換
なしで高精度の切断品質を維持します。
また、片持ち構造のためガントリー機のような両側に軌条レールを配置する必要がない
ため、切断テーブルへの3方向からのアクセスが可能となっています。3方向アクセスに
よる作業性向上により、鋼板および切り板、残材の搬入出の作業性改善だけでなく、生産
性向上にも寄与します。
図13 TFPL シリーズの特徴: コマツオリジナル 高剛性片持ち構造
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5.3
TFG:ガントリータイプ
2014 年 11 月
ツイスター
ツイスターの標準機としては、片持ち構造のTFPLですが、
『既設のレールや切断定盤
を・集塵システムを利用して、設備投資を抑えてツイスター加工機を導入したい』とのユ
ーザ様のご要望も多く、コマツ産機でもガントリータイプの切断機も受注対応機として、
ご用意いたしました。
図14 ガントリータイプ ツイスター : TFG シリーズ
6. おわりに
コマツ産機では、これからもプラズマ切断における技術課題に挑戦し、プラズマ切断の
高品質化(Quality)、低コスト化(Cost)、高能率化(Delivery)を目指した研究開発を継
続していきます。
切断工程のQCDに優れたプラズマ切断機に、更にツイスターを進化させ、皆様の溶断
事業の収益性改善や事業拡大に、少しでもコマツ産機のツイスターが貢献できることを最
大の目標として、今後もプラズマ切断の改良改善を行っていく所存ですので、ツイスター
加工機の末永くのご愛顧を宜しくお願い致します。
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