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電力中央研究所報告 経 営 報告書番号: Y 0 7 0 4 0 国プロはどのように技術の実用化を生み出す のか −熱エネルギー分野における省エネ技術開発プログラムの事例分析− 背 景 今後の大幅な温室効果ガス削減に向けて、省エネ技術の研究開発を促進する政策 措置としての国プロ(公的研究開発プロジェクト)のあり方を検討する必要がある。 このためには、国プロの効果や機能についての十分な理解が不可欠である。 目 的 1980 年代以降の熱エネルギー分野における代表的な省エネ技術開発の国プロで ある「スーパーヒートポンププロジェクト」 (1984∼1992 年、総額 109 億円)と「エ コ・エネ都市プロジェクト」 (1993∼2000 年、総額 91 億円)を題材として、省エネ 技術が基礎研究から市場に普及するまでのプロセスを分析し、国プロがどのような 役割を果たしたかを明らかにする。 主な成果 ① 実用化動向の追跡調査 国プロで実施された要素研究開発テーマの実用化動向について、文献調査および 当該分野専門家・参加企業担当者へのインタビュー調査を行った。その結果、2 プ ロジェクトにおける 34 テーマのうち、7 テーマが何らかの実用化につながっており、 1 テーマが実用化に向けた途上にあった(表)。さらに、既に実用化した 7 テーマの うち 4 テーマは限られた導入量に留まっており、普及が進んでいるのは 1 テーマの みであった。これは、国プロでの研究テーマが技術開発における「死の谷」や「ダ ーウィンの海」を越えて普及にいたるための難しさを示している(図)。 ② 実用化プロセスの事例分析 実用化に成功した 7 テーマのうち、2 テーマ(高効率スクリュチラー、水和物ス ラリ蓄熱空調システム)について、実用化プロセスを分析し以下を明らかにした。 1) 開発企業の自社資源だけでは研究開発の実施が困難なリスクの高い研究であ り、国プロがあったことで初期の研究開発の遂行が可能になった。 2) 最初の国プロの後も、社外に開発費を支援する主体が存在したことによって、 実用化研究を継続することができた。 3) 少数ではあっても当該技術に高い価値を見出すユーザーを見つけ出したこと で、初期市場をつくりそれを広げるきっかけとすることができた。そこでは、 政府による導入促進補助金も重要な役割を果たしていた。 4) 初期市場における限られた導入実績で終わらないためには、量産化のための市 場セグメントの絞込みなど、ニッチからより大きな市場へ展開するための戦略 が必要になる。 ③ 国プロの役割 1) 国プロは、成功確率は低いが、一部では重要な実用化技術を生み出し得る。 2) 国プロの単発的な実施によって実用化・製品化に至る(死の谷を越える)こと は困難であり、実用化に向けた継続的な支援措置を講じる必要がある。 3) 技術が実用化の後に普及に至るには大きなハードル(ダーウィンの海)がある。 これを越える技術を増やすためには、国プロだけでなく市場創出策の強化が求 められる。 4) 国プロの役割は、民間だけでは遂行できないリスクの高い研究開発の推進にあ り、一概に成功確率を向上させるべきとは言えない。国プロのあるべき成功確 率は、国の公的研究開発投資全体のポートフォリオの中で議論する必要がある。 表 2 つの国プロから実用化したテーマ(1.∼7.)および実用化途上のテーマ(8.) 技術開発テーマ 1. 超高性能圧縮式ヒートポ ンプ(温熱専用) 2. 超高性能圧縮式ヒートポ ンプ(冷温兼用) 3. ステンレス鋼製プレート フィン型熱交換器 4. クラスレート蓄冷装置 5. 水素吸蔵合金を用いた長 距離熱輸送システム 6. 高密度潜熱輸送技術の研 究開発 7. 氷温発生・排熱利用吸収式 冷房システム 8. 化学プラントでの排熱改 質・回収システム 実用化の内容 地域冷暖房用の高効率ヒートポンプとして 1 台を導入。 電力各社との共同開発を経て、高効率スクリュチラー「ウルトラハイ エフ」として商品化。後継機種と併せて既に数 100 台を販売。 高温真空ろう付技術を基礎として、燃料電池用熱交換器やガスタービ ン用再生熱交換器等として実用化、今後の導入拡大が期待。 代替冷媒の開発を経て実用化、10 台を納入。 排熱利用型の水素吸蔵合金冷凍システムとして 4 台を納入。 水和物スラリを利用した高効率蓄熱空調システムとして実用化、2007 年までに 9 件を受注。今後の導入拡大が期待。 水―臭化リチウム系混合冷媒を用いた吸収式冷凍機として実用化、14 台を販売。 内部熱交換による省エネ蒸留技術として、後継の NEDO 実用化プロジ ェクトが進行中。今後の実用化が期待。 注)国プロでの開発テーマを主体として製品化がなされ、実用機として導入されたものに限る。 34テーマ 実用化途上のテーマ 1テーマ 実用化した技術 国プロでの 研究開発 7テーマ “死の谷” 製品化 実用化 今後導入普及が 期待される技術 2テーマ 1テーマ 普及 事業成長 “ダーウィン の海” 4テーマ 26テーマ 製品化まで至らず 数台の導入に留まる ※直接の製品化はなくとも、関連製品 へ技術応用された場合がある 図 普及が進展 している技術 技術開発の進展 国プロから実用化・普及にいたるまでの「死の谷」と「ダーウィンの海」 注) 「死の谷」とは研究開発から実用化にいたるまでの難しさを示し、 「ダーウィンの海」は製品化 後に事業成長までの間に厳しい既存技術・他社との競争があることを示す。 研究報告 Y07040 担当者 連 絡 先 [非売品・不許複製] キーワード:国家プロジェクト,技術開発,技術政策,実用化,事例分析 木村 宰(社会経済研究所 エネルギー技術政策領域) (財)電力中央研究所 社会経済研究所 Tel. 03-3480-2111(代) E-mail : [email protected] c財団法人電力中央研究所 平成20年5月 07−029