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第1106回 千 葉 医 学 会 例 会 第 22 回 千 葉 精 神 科 集 談 会
〔千葉医学 81:339 ∼ 342,2005〕 〔 学会 〕 第1106回 千 葉 医 学 会 例 会 第 22 回 千 葉 精 神 科 集 談 会 日 時:平成17年 1 月29日(土)9 : 50 ∼ 18 : 00 場 所:ほてい家 1 .精神病性うつ病に対して非定型抗精神病薬が有 効であった症例 4 .精神科入院中身体拘束を契機に発症した,急性 肺血栓塞栓症の 1 例 谷渕由布子,小林圭介,須山 章 藤﨑美久,伊豫雅臣 (千大) 杉浦寿彦,渡邉博幸,深見悟郎 伊豫雅臣 (千大) 杉浦寿彦,清水秀文,安井山広 田邉信宏,栗山喬之 (同・呼吸器内科) 精神病性うつ病に対しそれぞれ,①抗うつ薬と非定 型性抗精神病薬,②非定型抗精神病薬単剤,が有効で あった 2 症例を報告した。精神病性うつ病の薬物療法 アリゴリムズでは SSRI 単剤,もしくは SSRI と非定型 抗精神病薬の併用が第一選択となっているが,今後, 非定型抗精神病薬単剤療法が有効な可能性が示唆され た。 2 .当院において入院認知行動療法を行った強迫性 障害の 1 例 小松英樹,野間利昌,三森真実 小林圭介,深見悟郎,藤﨑美久 伊豫雅臣 (千大) 19歳女性の強迫性障害患者の入院治療を経験した。 暴露反応妨害法に基づき認知行動療法を行い,症状を 客観的に把握することにより,指示内容の有効性を評 価しながら適宜変更した。本症例では制限時間の設定 は有効であったが,報酬と促しの強化では悪化を防げ ず,生活のスケジュール化は有効性がみられた。 3 .妊娠期初発緊張病に mECT を施工した 1 例 症例は42歳男性。躁うつ病(双極性障害Ⅰ型)にて 36歳時より,当院精神科受診していた。2004年 5 月う つ状態が悪化したため,当院精神科入院し加療されて いた。入院中 9 月 1 日躁状態になったため,保護室入 室の上,胴及び上下肢身体拘束を行った。9 月 5 日精 神状態沈静化したため,拘束解除し,保護室内トイレ 使用した直後に呼吸苦を訴えた。肺血栓塞栓症疑われ, 精神科にコンサルトされた。肺動脈 Dynamic CT 施行 したところ,肺動脈内に血栓多数認められ,急性肺血 栓塞栓症と診断された。ヘパリン静注にて軽快し,9 月22日 CT 再検したが血栓認められなかった。現在ワー ファリンにて経過を見ている。本症例は,身体拘束を 契機に発症した急性肺血栓塞栓症であると考えられる が,両者の関連について文献的考察を加え,かつ本症 例を契機として精神科において作成した肺血栓塞栓症 予防マニュアルについても報告する。 5 .コタール症候群患者にオランザピンが著効した 1例 高橋 陽,杉浦寿彦,阿部哲也 平野恵子,秋元武之,吉村政之 小澤公良,渡邉博幸,中里道子 伊豫雅臣 (千大) 鈴木智崇,山田 愛,古池織恵 古田多真美,池野浩行,高瀬美咲 渡辺基樹,関根 博,古関啓二郎 飛澤 彰 (木更津病院) 妊娠中に緊張状態,幻覚妄想状態となり,risperidone 開始するも副作用著明な上に効果なく,olanzapine に切り替え20㎎まで増量したが改善せず,胎児への 悪影響考慮し mECT 施行。症例報告に加え,妊婦に対 する mECT について考察をする。 コタール症候群を伴う,老年期うつ病の 1 例を紹介 した。上記患者に対し,オランザピンが著効した。 340 第1106回千葉医学会例会・第22回千葉精神科集談会 6 .慢性統合失調症の患者で原因不明の嘔吐を来た し olanzapine が奏効した 1 例 吉澤雅弘,小松英樹,深見悟郎 渡邉博幸,清水栄司,伊豫雅臣 (千大) 症例は数十年間に亘る精神科加療歴のある70歳代統 合失調症患者。原因不明,難治の悪心,嘔吐症状を呈 した。抗精神病薬を長期間に渡って投与された患者に 高 頻 度 に N/V 症 状 が 出 現 す る。Neuroleptic-lndeuced Emesis と 考 え ら れ た。5HT3 受 容 体 拮 抗 作 用 を も つ MARTA. OLANZAPINE 変更後に速やかに症状消失し た 1 例を経験した。 7 .覚醒剤精神病と Glutathione S-transferase P1 機 能的遺伝子多型の関連について 橋本 佐,橋本謙二,松澤大輔 清水栄司,伊豫雅臣 (千大) 伊豫雅臣 (Japanese Genetics Initiative for Drug Abuse) 覚醒剤乱用の発症に GSTP1(Ile 105 Val)遺伝子多型 が関与しており,精神病発症へのリスクファクターに なり得ることが示唆された。 8 .PICK1 遺伝子多型と覚せい剤乱用者の関連につ いて 10.摂食障害における脳由来神経栄養因子(BDNF) 遺伝子多型解析 小泉裕紀,橋本謙二,中里道子 清水栄司,伊豫雅臣 (千大) 真下陽一,鈴木洋一,羽田 明 (同・公衆衛生医学) 松下幸生,鈴木健二,樋口 進 (国療久里浜・臨床研究部) 3 つの SNP と 3 つのリピート多型でハプロタイプを 組み,患者と健常者で比較したが,有意差は認められ なかった。 11.Schizophrenia の聴覚誘発電位 P50に対するトロ ピセトロンの効果 小池 香,橋本謙二,清水栄司 小松尚也,中里道子,渡邉博幸 岡村斉恵,伊豫雅臣 (千大) α7 nicotinic acetylcholine receptor agonist 作用を 有するトロピセトロン10㎎を Schizophrenia 患者に投 与し,聴覚誘発電位 P50に対する効果を調べたところ, P50の抑制障害が有意に改善した。 12.君津中央病院精神科新規患者の変化−2003年新 棟開設前後を比較して 井貫正彦,遠藤博久(君津中央) 松澤大輔,橋本謙二,清水栄司 伊豫雅臣 (千大) ドパミントランスポーターと相互作用をする PICK1 (protein interacting with C-kinase 1)のエキソン周囲 を解析し,2 つの SNP(rs713729,rs2076369)で覚せ い剤依存症者のフラッシュバックを伴う群で健常者と の間に頻度に差が見られた 。 9 .NQO 遺伝子型と覚醒剤乱用との関連研究 大掛真太郎,橋本謙二,清水栄司 小泉裕紀,岡村斉恵,小池 香 松澤大輔,伊豫雅臣 (千大) 覚醒剤乱用者において酸化還元酵素 NQO1 遺伝子多 型(PRO187Ser)および NQO2 プロモーター領域遺伝 子多型を調べた。覚醒剤乱用者の中で精神病症状が 1 ヶ 月以上遷延した群で健常者群と有意に異なる NQO2 プ ロモーター領域遺伝子多型を認めた。 2003年新病院開設後は,アクセスの向上により新規 患者は1.5倍に増加した。最大の要因は直接受診患者が 倍増したことであるが,院内外からの紹介患者も増加 した。次に自殺企図による入院患者について,原因, 方法,患者背景,退院後の転帰を含めて報告した。 13.痴呆の問題行動・精神症状に対する当科での治療 秋元武之,大上俊彦,鶴岡義明 岡本英輝,池田政俊,竹内龍雄 (帝京大市原) 痴呆患者の問題行動・精神症状に対する薬物治療の 実際を調査した。当科では非定形抗精神病薬を中心と した治療が行われており,60%程度の症例で有効であっ た。症状の種類により薬物治療の効果に差があるか, また特異的に効果のある薬物があるかについては今後 の検討課題とした。 341 第1106回千葉医学会例会・第22回千葉精神科集談会 14.摂食障害の臨床特徴を有した身体疾患症例につ いて−鑑別とチーム医療 18.亀田メディカルセンターにおけるコンサルテー ション・リエゾンの実際 菊池周一(袖ケ浦さつき台) 長谷川直,佐藤理穂,小石川比良来 (亀田メディカルセンター) 精神科専門治療を目的として受診し,ストレス要因, 摂食障害の心理的特徴を有した患者において,胃癌が 原因疾患と診断された 2 例を報告した。摂食障害やう つ病等の精神疾患の診断には,身体疾患を鑑別できる 他科とのチーム医療システムが不可欠と考えられた。 15.緩和ケア : 最近の動向 大上俊彦,岡本英輝,秋元武之 鶴岡義明,池田政俊,竹内龍雄 (帝京大市原) 我々は,2002年 6 月より緩和ケアチームに参加し, 精神的苦痛のケアにあたっている。その経験を基に, 緩和ケアの最近の話題について,精神科領域を中心に 紹介した。緩和医療の臨床において,精神科医の果た す役割は大きく,今後のさらなる貢献が期待されてい る。 16.精神科コンサルテーションの院内システムにつ いて 鳥居亜希子,松田美江,石毛 稔 細井尚人,鈴木 均,茂木伸一 菊池周一,末吉貫爾,矢田洋三 (袖ケ浦さつき台) 精神科コンサルテーション・リエゾンを取り巻く環 境は複雑であり,他科とのスムーズな連携が必要であ る。当院では精神科コンサルテーション係を設け,院 内外からの要請に対して,相談窓口を統一して安定し た対応を取っており,他科スタッフからも好評を得て いる。 17.当科におけるリエゾン回診の試み 加藤正子,浅香琢也,武田直己 (松戸市立) 松戸市立病院診療精神科では,2004年 4 月からは, 常勤医師が増員されたことから,試験的に,積極的な リエゾン回診を週三回行うようになった。以前の,コ ンサルトを待ってから往診に赴くスタイルのリエゾン 診療に比べ,連携する身体科の幅,精神症状,疾患が 多彩になり,病棟スタッフとの役割分担なども変化し て来ている。2004年 4 月から2004年12月までの 9 ヶ月 間の活動について,中間的な報告を行う。 近年,精神科医療分野でのコンサルテーション・リ エゾン精神医学の重要性が注目されている。プライマ リー・ターミナルケアでの精神科的対応の必要性,初 期研修の精神科必修化に伴いその重要性はますます高 まっていくであろう。しかし病院の運営方針に伴いリ エゾン活動の重点も変化せざるを得ない。従って随時 コンサルテーション・リエゾンの実態を把握する事を 必須とする。今回当院における実態を紹介し,参考に 供したい。 19.当院における措置入院対応の現状 赤田弘一,斎賀孝久,竹田修志 今井逸雄,佐藤茂樹 (成田赤十字) 当院(720床)精神科(閉鎖50床)は印旛保健所管内 の精神科基幹病院であり,精神科救急・急性期,身体 合併症治療を中心に運営されている。措置診察・入院 を含め保健所の依頼にも積極的に応じている。この10 年当院に措置入院となった症例は65例で,本年度11件 と増加傾向にある。 当院のような小規模の精神病棟でも措置入院の対応 は充分に可能であり,地域精神医療において総合病院 精神科が果たし得る重要な機能といえる。 20.心神喪失者等医療観察法について 椎名明大(厚生労働省 社会・援護局) 心神喪失者等医療観察法は,心神喪失等の状態で重 大な他害行為を行った者に適切な医療の実施を確保す るとともに,そのために必要な観察等を行うことによ り,その社会復帰を促進することを目的としている。 本法の円滑な施行の為には,医療機関,裁判所,保護 観察所等の関係機関が適切に連携することはもとより, 指定医療機関の確保や地域処遇体制の整備といった 様々な課題を達成することが必要である。 21.MDMA(エクスタシー)乱用の実態と臨床 福井 進(同和会千葉) MDMA は1980年代後半より欧米の若年者の間で乱用 が急激に浸透し深刻な社会問題となっている。わが国 では平成 4 年に MDMA を麻薬に指定し,取り締まりを 強化したが,平成10年より検挙者,押収量は増加して 342 第1106回千葉医学会例会・第22回千葉精神科集談会 いき,若年者に確実に乱用が浸透していることを示唆 している。依存性薬物情報研究班の資料と臨床例より MDMA 乱用の実態と臨床を報告した。 特別講演Ⅰ 千葉大学精神医学教室における精神疾患の生物学的 研究について 大学院修了者研究報告Ⅰ 橋本謙二,伊豫雅臣(千大院) 妊娠マウスにおける免疫活性化が仔の神経発達に与 える影響 小澤公良(千大院) 疫学的に母体妊娠中のウイルス感染と統合失調症発 症リスク増大が示唆されている。そこで母体の抗ウイ ルス免疫反応活性化を賦活する poly I: C を妊娠マウス に投与して得た仔を動物モデルとして作成したところ, 認知機能障害,覚せい剤への反応亢進を発達依存性に 示し,線条体におけるドーパミン代謝亢進を示唆する 結果が得られた。 千葉大学大学院医学研究院精神医学で進めている生 物学的研究の平成16年度の研究成果について発表した。 特に,統合失調症のグルタミン酸仮説に基づいた D 型 セリンの役割,聴覚誘発電位 P50の異常におけるα7 ニ コチン受容体の役割,統合失調症の病態におけるグリ ア・ニューロン間相互作用の異常仮設等について考察 した。 特別講演Ⅱ 肉中の哲学 : 新しい精神生理学へ・・・ 計見一雄(千葉県精神科医療) 大学院修了者研究報告Ⅱ N[11C]メチルピペリジル - 4 - プロピオネート /PET を 用いた脳内アセチルコリンエステラーゼ活性測定に おける内部標準参照解析法の評価 佐藤康一(千大院) [11C]MP4P を用いた脳内 AChE 活性の定量測定にお いて,動脈採血を必要としない簡便で非侵襲的な解析 法(最も活性の高い線条体を内部標準とする方法)を 開発・評価し,同法の信頼性・臨床応用への可能性が 示された。 大学院修了者研究報告Ⅲ [11C]MP4A/PET を用いたサル脳におけるドネペジ ルのアセチルコリンエステラーゼ阻害作用 Plasma IC50の評価 白石哲也(千大院) 5 頭のサルにドネペジルを100,250µg/ ㎏投与し,血 中ドネペジル濃度及び脳内アセチルコリンエステラー ゼ AChE 阻害作用を[11C]MP4A/PET で測定した。脳内 AChE 活性を50%阻害する血漿ドネペジル濃度 plasma IC50値(ng/ )は37±4.1(estimate ± SE)であり,同 値より推定した 脳内 IC50値(534・712nM)は, IC50(6.7nM)の約100倍と有意な乖離が認めら れた。以上より,約 1 %の脳内遊離型薬物濃度が実際 に脳内において薬効を示すことが示唆された。 何が統合失調症するのか ? 「統合失調症」という名称に精神分裂病が変更され た。では何が統合されないのか ? 一般には「知・情・ 意」のまとまりを欠くということであろう。しかし, 心(精神)を知情意から成るとする概念化は「社会と してのマインド(気ままな人 : 感情,冷静な人 : 理性, 冷静な人の判断に気ままな人を従わせる力 : 意志)」と いう古くからの西欧に普遍的な民衆メタファーに旧来 する。そういう概念化をそのまま踏襲して,脳外と適 合するか疑問だ。