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「フラストレーションから社員を 解放する職場」

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「フラストレーションから社員を 解放する職場」
Seminar
中執セミナー
2013年1月9日(水)開催
「フラストレーションから社員を
解放する職場」
講師
講師
略歴
HayGroup(株式会社ヘイ コンサルティンググループ※)
ヘイ グループ・インサイト ジャパン・ヘッド、プリンシパル
市川 幹人氏
横浜国立大学経済学部卒業、シンガポール国立大学経営大学院修了。住友銀行(現三井住友銀行)、三菱総合研究所などを経て現職。
※ヘイ コンサルティンググループ……世界有数のコンサルティング会社、企業リーダーとともに、戦略を実現していくことに取り組んでいる。48 ヵ国
に84 ヵ所のオフィスを構え、社員数は2,600人を超える。1943年の創設以来、組織・人事分野で多数の企業にサービスを提供、高く評価されている。
社員意識調査の専門チームであるヘイグループ・インサイトは、一人ひとりの社員が能力を最大限発揮できる職場の実現に向け、社員の声から組織
の課題を抽出し、アクションにつなげていくための調査を世界中に実施している。
はじめに
つが重要なテーマとなります。
ヘイ コンサルティンググループは、人事や組織に
社員エンゲージメントは2つに分類されます。ひ
関連した問題を扱っているコンサルティング会社で
とつはコミットメント、「この会社で働いて誇りを感
す。私が所属している社員意識調査の専門チームで
じている、長く働きたいと思っている」などといった、
あるヘイ グループ・インサイトは、社員調査にもと
いわゆる帰属意識です。もうひとつは自発的努力で
づき一人ひとりの社員が能力を最大限発揮できる職
す。求められる職務以上の成果を達成しようとする
場の実現に向け、社員の声から組織の課題を抽出し、
意欲です。
アクションにつなげていくための調査を実施してい
会社や組織は、社員がやる気をもって仕事に取り
ます。本日は社員調査そのものの話ではなく、職場
組むことを期待します。一方的な押しつけであれば、
を良くしていく際にどんな考え方があるのかに重点
軍隊式の組織体制と同じではないかと思います。目
をおいて説明していきたいと思います。
標を何がなんでも達成しろというだけでは駄目で、
「社員エンゲージメント」と「社員を
活かす環境」
われわれが注目しているのは、
「社員エンゲージメント」
です。
「単
なる満足ではなく、会社や仕事に
対する熱意をもって組織の成功に
貢献したいとする社員の取り組み
意欲」という考え方です。これま
での日本企業では、
「頑張れ、必
死にやれば何とかなる」といった
ことが通用してきたかもしれませ
んが、現代では、それだけでは通
用しない世の中ではないかと考え
ます。そこで、
「社員を活かす環境」
の整備が必要です。やる気のある
社員の意欲をアウトプットにつな
げていく職場にするためにはどう
いった考え方が必要なのか、
「社
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員エンゲージメント」と「社員を活かす環境」の2
会社や組織が、どうしたら目標を実現できるのか考
える必要があります。
Seminar
中執セミナー
なぜ、いま「エンゲージメント」が注目されてい
り強く求める傾向にあることから、エンゲージでき
るかというと、背景としてまず、専門知識やノウハ
るような会社になっていないと、「この会社で頑張る
ウをベースとする競争環境があります。ただ社員が
んだ」という思いをもてなくなってしまいます。
多ければよいというわけではなく、一人ひとりの人
すなわち、会社に対してどれだけ熱い思いをもち、
材の質が問われており、一人ひとりの社員が知識・
取り組み意欲を高くもって働こうとする人を確保で
ノウハウを出しあうことができない限り、戦ってい
きるかが競争力を左右する時代であるからこそ、エ
けない世の中になってきています。
ンゲージメントが注目されているのではないかと考
次に、急速に変化し続ける経営環境があります。
組織の目標や企業文化など、社員が一貫性を保ちな
がら行動していかなければ、環境変化に対応できな
い世の中になっているのではないかということです。
また、組織のスリム化や資源の制約があるなか、
限られた人材でより大きい成果を達成することも求
められています。
最後に、終身雇用が緩やかに崩壊してきているな
かで、社員は仕事を通じた自己実現、やりがいをよ
えています。
「社員を活かす環境(Enablement)」
の考え方
しかし、エンゲージメントだけで大きな成果の達
成が可能かというと、そうではありません。高い意
欲をもつ社員の能力を最大限引き出すために必要な
環境の考え方のひとつとして「適材適所」があります。
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自分がやりたいことや得意なことと、実際に与えら
ほとんどの会社には、高いエンゲージメントをも
チはその社員にとっても不幸です。日々何だかよく
ち、働きやすい環境を与えられた社員がおり、もて
わからない不得意なことばかりやっていても全然面
る能力を発揮できています。そういう意味で、
「活躍
白くありません。
社員」と呼んでいます。
もうひとつは、
「働きやすい環境」です。例えば、
問題なのは、「イライラ社員」です。やる気はある
自分の業務をやろうにも、電話がどんどんかかって
のですが、働きやすいとは思っていない社員たちで
きてしまったり、急なミーティング参加を求められ
す。彼らは基本的に帰属意識はあるのです。この会
たりと、自身の業務に集中しようにもできない環境
社は良いと思っており、頑張ろうとも思っています。
においては、いくら頑張ろうとしても空回りしてし
しかし自分に合わない職務や仕事を妨げる職場環境
まいます。
のために、もてる能力を十分に活かせず、組織に貢
いずれよせよ、やる気だけではどうにもならない
献できていません。会社としても機会損失です。し
ような「壁」があるがゆえに、社員が努力している
たがって、こうした活用しきれていない状態になっ
のにうまく成果につながらない、という状況になら
ている社員を活かすためにも、会社として職場環境
ないように改善していきましょうというのが、われ
の改善をどのように行うかが重要な課題となります。
われが常に強調しているメッセージです。
4つのタイプに分けられる社員
「あきらめ社員」は、残念なことに意欲もなく、働
きやすい環境もない社員です。自分のおかれている
環境について文句をいうような人たちです。当然の
ことながら、仕事をうまくこなすことができません。
われわれは、フラストレーションという言葉にこ
最後に、ほとんどの組織において一定の割合を占
だわっています。職場のフラストレーションとは、
「意
める社員が「線引き社員」に分類されます。自分に合っ
欲が高く、真剣に働いているにもかかわらず、会社
た職務が与えられ、全般的に働きやすい環境におか
から適切なサポートを受けられず、自分の思ったと
れているにもかかわらず、エンゲージメントのレベ
おりに仕事が回っていかない」ときにフラストレー
ルが低く、十分に業務を遂行することができない社
ションを感じるという言い方をしています。一生懸
員たちです。
命やろうとしているからこそ、それが実現できなかっ
重要なのは、いかに「活躍社員」を増やしていく
たときに失望感が大きくなります。したがって、こ
かです。アプローチとして、
「社員エンゲージメント」
のフラストレーションを取り除き、一人ひとりの取
のレベルを上げていくか、それとも「社員を活かす
り組み意欲を成果につなげられるようにしていく必
環境」を整備していくか。あるいは両方整備するこ
要があります。
とで、
「イライラ社員」や「線引き社員」を「活躍社員」
これまでの調査から、
「社員エンゲージメント」と
「社員を活かす環境」の2つを軸として、4つのタイ
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プに社員を分類しています。
れた業務がどれだけマッチングしているか。ミスマッ
に移すことが企業全体、組織全体の課題となります。
Seminar
中執セミナー
効果的なアクションプランとは?
Time-dated(期限を明確に)
期限を定めないアクションは意味がありません。
ここでは、職場の課題解決に向けた具体的なアク
3ヵ月後、半年後を見据えてスケジュールを明確に
ションプランについて、
「SMART」というチェック
設定するなどの時間軸がなければ良いアクションと
リストの考え方をご紹介したいと思います。
はいえません。
Specific(具体的に)
具体的でないといけないということです。例えば、
「人を育成しようとする組織風土が弱いから、育成を
この五つの観点をすべてクリアするのは本当に難
しいことですが、効果的なアクションプランとする
強化する」これでは何を強化するのかわかりません。
ためには、こうした観点をひとつでも多く取り入れ
どの層に対して、どんな教育を重点的にやっていく
ることが大切です。
のかといった具体性が必要です。
Measurable(測定できるように)
SMARTのなかで一番ハードルが高い観点かもし
れません。一般的に、測定できないものは改善でき
ないといわれますが、アクションの効果を測定でき
る方法を盛り込むことです。例えば、関連部署との
協力が十分になされていないという課題に対し、
「い
つ、どの分野の協力を強化する」といったプランを
策定しても、協力体制が強化されたかどうかを測る
のは難しいものです。めざしていただきたいのは、
進捗状況がわかるようなアクションになっているか
といった視点です。
Aligned(一貫性を持って)
組織全体の方針に対して出されたアクションが全
然違う方向を向いていないか、例えばコスト削減を
目標にしていながらコストを相当かけないとできな
いアクションになっていないか、こうした一貫性の
有無についてのチェックも重要です。
Results-oriented(結果を重視して)
中長期的だけでなく短期的に効果が見込まれるア
クションを検討する必要があり、アクションするこ
とで何が変わるのかという観点でチェックします。
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「社員を活かす環境」を整えるための
自己診断と検討課題
社員を生かす環境を整備するためには、職場環境
に影響を及ぼす基本要素である「業績管理、権限・
裁量、リソース、教育・研修、協力体制、業務プロ
セス・組織体制」に対して何ができるかを検討する
必要があります。
(1)業績管理
検討課題
⿎⿎社員が何を達成すべきかを明確に示すこと
⿎⿎ハードルが高いが達成可能な業績基準を設
(5)協力体制
検討課題
⿎⿎自分の部署内でしっかりとした協力とチー
ムワークを促進すること
⿎⿎自分の部署と関連部署との間に互いに助け
あう関係を築くこと
⿎⿎組織全体での効果的なリソースと情報の共
有を促進すること
(6)業務プロセス・組織体制
検討課題
⿎⿎最も効率よく仕事ができるように、自分の
けること
⿎⿎目標の進捗状況に関して継続的にフィード
部署内の業務プロセスを整えること
⿎⿎決定責任を明確化し、部署を横断した業務
バックすること
遂行力を強化するために、他の部署との調
整を図ること
(2)権限・裁量
⿎⿎会社全体としての業務遂行力を強化するた
めに、常に新しい技術と創造的なアプロー
検討課題
チを探求すること
⿎⿎自分の仕事を行うのに必要な権限と決定責
任を社員に与えること
⿎⿎仕事のすすめ方について社員が提案できる
ようにすること
⿎⿎新たなより良い実行方法を見つけ出すよう
に社員に奨励すること
適切なアクションを教えてくれる「魔法の杖」は
ありません。まず、課題を認識し、その原因を究明
したうえで実行しない限り会社や職場は変わりませ
ん。
「社員エンゲージメント」「社員を活かす環境」の
考え方や具体的なアクションプランの考え方につい
(3)リソース
検討課題
⿎⿎仕事をするために必要なリソースを社員に
与えること
⿎⿎必要な情報がすぐに得られるようにし、そ
れを最新の状態に保つこと
⿎⿎適正人員数を維持し、組織が変化したとき
には職務要件と業務量の見直しを行うこと
(4)教育・研修
検討課題
⿎⿎新入社員のフル稼働を期待する前に、十分
な研修を行うこと
⿎⿎変化する仕事の要求に合わせて現社員のス
キルを向上させること
⿎⿎自分のスキルを伸ばすチャンスを社員に与
えること
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て理解いただいたうえで、働きやすい環境を整備す
るための取り組みにつなげていただきたいと思いま
す。
Seminar
中執セミナー
質疑応答
■質問者1
■質問者3
Q1.社会や経済環境、職場環境の影響もあるかも
Q3.社員を活かす職場の環境整備をすすめるうえ
しれませんが、4つのタイプに分けられる社員
で、原因を究明し、アクションプランの策定
のなかで、
「線引き社員」が増加している実感
につなげていくことが必要だと思いますが、
があります。
「線引き社員」
に分類される人たが、
人事コンサルティングの観点から、社員にヒ
「なぜ線を引いてしまっているのか」について、
アリングする際に注意されている点があれば
その真因や企業がどのように改善に向けた取
教えてください。
り組みをすすめているか教えてください。
■市川氏
■市川氏
A1.会社や組織全体につながる問題としては、経
営が示す5年後、10年後のビジョンがあまり
A3.ヒアリングするうえでは、ニュートラルに聞
くこと、意見として多く寄せられるキーワー
ドを押さえていくことが重要です。
にも現実とかけ離れたものであると、社員か
また、一面だけの意見ではなく、多面的な見
ら共感を得られず、エンゲージメントが高く
方ができるよう、さまざまな立場の方の意見
ならないといったケースがあります。
を聞くことも重要です。例えば、管理職クラ
個人レベルでいえば、例えばダイバーシティ
スの意見や本音などを聞くと、問題の全体像
の考えが浸透していない組織では、お互いを
認めあい、協力しあうことができず、意欲を
が見えることもあります。
ニュートラルな目で見ること、多面的な見方
失ってしまうようなことが起こります。また、
をすること、そのなかで多数派の意見として
中堅社員などは、年功的な制度体系が薄れ、
はどのようなものがあるか、少数派の意見だ
成長の機会を見いだせないことによって、惰
が意味のありそうな意見をどのように取り上
性で仕事をしていることもあります。
げるのか。そうしたことに注意を傾けながら
こうしたケースに対して、それぞれの会社や
われわれはヒアリングをしていいます。
組織において、お互いに尊重しあう組織に
なっているか、一人ひとりに成長の機会があ
るかといったことに対して原因を究明するこ
とが重要です。
アクションプランとしては、ダイバーシティ
推進室を設置し、ダイバーシティの理解を深
める取り組みや、キャリアパスを明確にした
り、人材育成を強化することなどが取り組み
事例となります。
■質問者2
Q2.社員エンゲージメントの高い社員が多いほど、
会社や組織の業績向上につながるとの説明が
ありましたが、社員エンゲージメントの高い
社員が周りの社員に波及的な効果を与えるこ
とはあるのでしょうか。
■市川氏
A2.少なくとも好業績をあげている企業にエン
ゲージメントのレベルが高い社員が多いのは
明らかなのですが、残念ながら、社員エンゲー
ジメントの高い社員と周囲の社員との関連性
について明確なデータはありません。
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